説明

ノロウイルスRNAの検出方法および検出試薬

【課題】 ノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず一度に検出すること。
【解決手段】 ノロウイルスRNA中の相同あるいは相補的な核酸配列に対して、ハイブリダイゼーション効率の高い第一のプライマーおよび第二のプライマー(該プライマーのいずれか一方はその5’末端にプロモーター配列が付加されている)からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせを用い、逆転写酵素により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成し、該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼによりRNA転写産物を生成し、該RNA転写産物が引き続き前記逆転写酵素によるDNA合成の鋳型となって前記2本鎖DNAを生成する工程からなるRNA増幅工程において、増幅されたRNA産物量を、増幅されたRNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計された核酸プローブにて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速、かつ高感度にノロウイルスRNAを検出する方法、および該方法を用いた検出試薬に関する。本発明は、臨床検査、公衆衛生、食品検査、食中毒検査の分野に有用である。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスはヒトカリシウイルス科に属するウイルスで、約7000塩基の1本鎖RNAをゲノムにもつ。ノロウイルスは、小型球形ウイルス(Small Round Structured Virus、SRSV)とも呼ばれている。
【0003】
我が国で届け出されている食中毒の約20%はウイルスが原因と推定されている。これらのウイルス性食中毒例の約80%以上からノロウイルスが検出される。おもな感染源は食品で、しばしば生カキが問題となっている。また、乳幼児の(散発性の)急性胃腸炎からもノロウイルスが検出され、ヒトからヒトへ伝播する可能性も示唆されている。ノロウイルスの流行を阻止するためにはできる限り迅速に対応することが必要である。以上から、ノロウイルスの迅速検査は、公衆衛生上および食品の品質管理上大きな課題となっており、遺伝子増幅法を用いた、高感度、かつ迅速でしかもあらゆる遺伝子型の検出が可能もしくは検出率の高い検査法の開発が望まれている。これに対し、現在、ノロウイルスの検出は、電子顕微鏡による観察が基本である。この方法では、あらゆる遺伝子型の検出か可能であるが、検出するには10個/mL以上のウイルス量が必要で感度が低いために、検体は患者糞便に限られている。また、ウイルスを観察できても同定することはできなかった。
【0004】
また、ヒトカリシウイルスのウイルス様中空粒子を用いた、特異抗体検出ELISAの試薬も開発されている(特許文献1)。しかし、検出感度は電子顕微鏡と同程度で決して高感度とはいえない。
【0005】
ノロウイルスを高感度に測定する手段としてノロウイルスRNAをRT−PCRで増幅し、増幅産物量を測定する方法があげられる(特許文献2)が、該方法の場合、一般的には逆転写(RT)工程およびPCR工程の二段階の工程が必要である。このことは操作を煩雑にして再現性を悪化させる要因となるだけでなく、二次汚染の危険性をも増加させることになる。前記RT工程およびPCR工程を合わせると通例2時間以上の時間を要し、多数検体処理や検査コストの低減には不向きであった。
【0006】
標的RNAの定量法としては、RT工程に引き続いて実施されるPCR工程をインターカレーター性蛍光色素存在下で実施して蛍光増加を測定するReal−time RT−PCR法が汎用されている(非特許文献1)が、該方法ではプライマーダイマーなどの非特異増幅産物も検出してしまうという問題もあった。
【0007】
また、非特異増幅産物を検出しない標的RNAの定量法としては、RT工程に引き続いて実施されるPCR工程をTaqManプローブといったハイブリダイゼーションプローブを用いたReal−time RT−PCR法(非特許文献2)があげられるが、前述したようにRT工程およびPCR工程を合わせると通例2時間以上の時間を要し、迅速とはいえない。さらに、PCRは急激に反応温度を昇降させる必要があり、自動化の際の反応装置の省力化や低コスト化のための障壁となっていた。
【0008】
一方、一定温度でRNAのみを増幅する方法としては、NASBA法(特許文献3および4参照)、およびTMA法(特許文献5参照)などが報告されている。該RNA増幅方法は、標的となるRNAに対してプロモーター配列を含むプライマー、逆転写酵素および必要に応じてリボヌクレアーゼH(RNase H)により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、RNAポリメラーゼによって標的となるRNAの特定塩基配列を含むRNAを合成し、該RNAが引き続きプロモーター配列を含む2本鎖DNA合成の鋳型となる連鎖反応を行なうものである。そして、RNA増幅後、電気泳動または検出可能な標識を結合させた核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法などにより増幅されたRNAを検出する。
【0009】
以上のように前記RNA増幅方法は一定温度、一段階でRNAのみを増幅することから簡便なRNA測定に適しているが、ハイブリダイゼーション法などによる検出は煩雑な操作を必要とし、再現性良く定量できないという課題がある。
【0010】
簡便にRNAを増幅および測定する方法としては,Ishiguroら(特許文献6および非特許文献3参照)の方法があげられる。該方法は、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブで、かつ標的核酸と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計された核酸プローブの存在下、前記RNA増幅方法を実施し、蛍光特性の変化を測定するもので、簡便、一定温度、一段階、かつ密閉容器内でRNA増幅および測定を同時に実施することが可能である。
【0011】
前記の各核酸増幅方法は、いずれもセンスプライマー(第一のプライマー)およびアンチセンスプライマー(第二のプライマー)からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせにより標的RNAを増幅する方法であり、該組み合わせが前記核酸増幅の効率および特異性に重要な意義を持つことは周知である。しかし、ノロウイルスはきわめて多様な遺伝子型を有するため、全ての遺伝子型を一様かつ高効率に増幅するプライマーセットの構築はきわめて困難であった。
【0012】
【特許文献1】WO2000/079280号
【特許文献2】特許3752102号公報
【特許文献3】特許2650159号公報
【特許文献4】特許3152927号公報
【特許文献5】特許3241717号公報
【特許文献6】特開2000−14400号公報
【特許文献7】特開平8−211050号公報
【特許文献8】特開2001−13147号公報
【非特許文献1】Kageyama T. et al.,Journal of Clinical Microbiology,41,1548−1557(2003)
【非特許文献2】食安監発第1105001号、2003年11月5日
【非特許文献3】Ishiguro T. et al,Anal.Biochem.,314,77−86(2003)
【非特許文献4】感染症発生動向調査週報、6(11)、14−19(2004)
【非特許文献5】Ishiguro T. et al,Nucleic Acids Res.,24,4992−4997(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ノロウイルスは遺伝子型によりジェノグループI(GI)とジェノグループII(GII)の2種の遺伝子群に大別される。さらに各遺伝子群についても、現時点でGIは1から14の遺伝子型に、GIIは1から17の遺伝子型に区別される(非特許文献4参照)。GIに属する遺伝子型間、およびGIIに属する遺伝子型間の塩基配列の相同性は約70%である。また、GIとGIIの塩基配列の相同性は40から50%である。
【0014】
前記遺伝子増幅法を用いたノロウイルス検出試薬で高い検出率をあげるためには、プライマー結合領域として、各種遺伝子型間で塩基配列が高度に保存された20塩基以上の領域が、少なくとも2箇所は必要である。しかしながら、GenBank上のノロウイルスの配列として、6配列(Chiba(No.AB042808)、Norwalk(No.NC_001959)、Southampton(No.L07418)、Camberwell(No.AF145896)、Hawaii(No.U07611)、HuCV(No.AY032605))の相同性を調べただけでも、遺伝子型間で塩基配列が同じである20塩基以上の領域は存在しない。
【0015】
このような背景のもと、以前発明者らは、GIに属するノロウイルスRNA(以下、ノロウイルス GI RNAと表記)、あるいはGIIに属するノロウイルスRNA(以下、ノロウイルス GII RNAと表記)の広範囲な遺伝子型に対して迅速、かつ高感度に検出する方法を見出している(特願2007−164921号および特願2007−182904号)。しかしながら前記方法では、ノロウイルス GI RNAの検出とノロウイルス GII RNAの検出とを個別に行なう必要があるため、試料中にノロウイルスRNAが存在しているかを判断するには、同じ試料をノロウイルス GI RNA検出系とノロウイルス GII RNA検出系で測定する必要があった。ノロウイルスの遺伝子群/遺伝子型の違いによる臨床的症状の違いはないため、臨床現場では遺伝子群や遺伝子型を問わずノロウイルスRNAを一度に検出できる方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、一度の測定でノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず迅速、かつ高感度に検出することが可能となった。
【0017】
第一の発明は、試料中のノロウイルスRNAを検出する方法であって、
(1)ノロウイルスRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、いずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加した第一のプライマーおよび第二のプライマー、さらにRNA依存性DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼH(RNase H)、およびDNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(2)該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼにより、前記特定塩基配列あるいはその相補配列よりなるRNA転写産物を生成する工程、
(3)該RNA転写産物が引き続き前記2本鎖DNA合成の鋳型となることで、連鎖的に該RNA転写産物を増幅する工程、
(4)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなり、前記第一のプライマーが、配列番号1に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号2に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドの混合物からなり、前記第二のプライマーが、配列番号3に記載の配列に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、ノロウイルスRNAの検出方法である。
【0018】
第二の発明は、前記ノロウイルスRNAの検出方法において、第一のプライマーが、配列番号4または5に記載の配列の少なくともいずれか一つに対してそれぞれ十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、および配列番号6に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドの混合物からなり、前記第二のプライマーが、配列番号7から9に記載の配列に対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、第一の発明に記載の検出方法である。
【0019】
第三の発明は、前記ノロウイルスRNAの検出方法において、第一のプライマーが配列番号4から6に記載の配列からなる三種のオリゴヌクレオチドの混合物からなり、第二のプライマーが配列番号18から20に記載の配列からなる三種のオリゴヌクレオチドの混合物からなることを特徴とする、第二の発明に記載の検出方法である。
【0020】
第四の発明は、前記ノロウイルスRNAの検出方法において、前記特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複して該部位から5’方向に隣接する領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドとRNase Hにより前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する工程を、5’末端にプロモーター配列を付加した前記第一のプライマー、前記第二のプライマー、さらにRNA依存性DNAポリメラーゼ、RNase H、およびDNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程の前に行なうことを特徴とし、
前記切断用オリゴヌクレオチドが、配列番号10から12の少なくともいずれか一つに対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、および配列番号13から15の少なくともいずれか一つに対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、第一から第三の発明に記載の検出方法である。
【0021】
第五の発明は、前記ノロウイルスRNAの検出方法において、前記RNA転写産物量を測定する工程(4)が、標的RNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計された核酸プローブ共存下で該シグナル変化を測定することによってなされ、前記核酸プローブが、配列番号16に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号17に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、第四の発明に記載の検出方法である。
【0022】
第六の発明は、試料中のノロウイルスRNAを検出する試薬であって、
(1)ノロウイルスRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、いずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加した第一のプライマーおよび第二のプライマー、さらに、RNA依存性DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼH(RNase H)、DNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(2)該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼにより、前記特定塩基配列あるいはその相補配列よりなるRNA転写産物を生成する工程、
(3)該RNA転写産物が引き続き前記2本鎖DNA合成の鋳型となることで、連鎖的に該RNA転写産物を増幅する工程、
(4)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなる検出方法を実施するための試薬で、少なくとも、前記第一のプライマーが配列番号1に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号2に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドの混合物を含み、前記第二のプライマーが配列番号3に記載の配列に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、ノロウイルスRNAの検出試薬である。
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明中の特定塩基配列とは、ノロウイルスRNA上で、第一のプライマーと相同領域の5’末端から第二のプライマーと相補領域の3’末端までの塩基配列に相同なRNAまたはDNAの塩基配列を示す。すなわち、本発明では前記特定塩基配列あるいはその相補配列に由来するRNA転写産物が増幅されることになる。該RNA転写産物を転写するための鋳型となる2本鎖DNAは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列下流のセンス鎖あるいはアンチセンス鎖に特定塩基配列を有する。本発明中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位とは、特定塩基配列内で該相同領域の5’末端を含む部分配列からなり、該部位は後述する切断用オリゴヌクレオチドとの相補領域と第一のプライマーとの相同領域が重複する部位である。本発明中のプロモーターとは、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始する部位で種々のRNAポリメラーゼに特異的なプロモーター配列が既知であり、本発明の使用において特に限定するものではないが、分子生物学的実験などで汎用されているT7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーターなどが好ましい。また前記プロモーター配列には、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域が付加されていても良い。
【0025】
本発明中の十分に相補的な配列とは、最適化された核酸増幅反応条件(塩濃度、オリゴヌクレオチド濃度、反応温度など)において、特定塩基配列に対して特異的に、かつ高効率にハイブリダイゼーション可能な配列をいう。また、本発明中の十分に相同な配列とは、最適化された核酸増幅反応条件において、特定塩基配列の完全相補配列に対して特異的に、かつ高効率にハイブリダイゼーション可能な配列をいう。したがって、本発明でいう十分に相補的あるいは十分に相同な配列は、ハイブリダイゼーションの特異性および効率に影響を与えない範囲内であれば長さなどを任意に設定することが可能である。
【0026】
前述したように、現時点でノロウイルス GI RNAには14種の遺伝子型、ノロウイルス GII RNAには17種の遺伝子型が、それぞれ存在し、さらに、塩基配列が高度に保存された領域は十分に長くない。そのため、第一のプライマー、第二のプライマーをそれぞれ一種類ずつ用いたオリゴヌクレオチドの組み合わせにより、ノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず迅速、かつ高感度に検出することは困難であった。
【0027】
そこで以前発明者らは、第一のプライマー、第二のプライマーをそれぞれ二種類以上用いたオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いることで、ノロウイルス GI RNAの広範囲な遺伝子型に対して迅速、かつ高感度に測定することを見出した(特願2007−164921号)。また、切断用オリゴヌクレオチドを二種類以上用いることで、ノロウイルス GII RNAの広範囲な遺伝子型に対して迅速、かつ高感度に検出することを見出した(特願2007−182904号)
しかし、前述したように、ノロウイルス GI RNAとノロウイルス GII RNAとの塩基配列の相同性は40から50%と低いため、ノロウイルス GI RNAとノロウイルス GII RNA、それぞれに最適化されたオリゴヌクレオチドの組み合わせでは、ノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず一度の測定で迅速、かつ高感度に検出するのは困難である。
【0028】
また、ノロウイルス GI RNAとノロウイルス GII RNA、それぞれに最適化されたオリゴヌクレオチドの組み合わせを単純に混合すれば、ノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず一度に検出する系が構築できると考えられるが、前記組み合わせを用いてノロウイルスRNAの検出を行なうと、プライマーの本数が増加するため、プライマーダイマーといった非特異増幅産物が形成しやすくなり、結果としてノロウイルスRNAに対する検出感度が低下する懸念があった。
【0029】
そのため、今回発明者らが鋭意検討の結果、ノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず一度の測定で迅速、かつ高感度に検出する方法を見出した。
【0030】
すなわち、本発明において第一のプライマーはノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号1に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチド、およびノロウイルス GII RNAの一部に相同な配列番号2に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドからなり、かつ第二のプライマーはノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号3に記載の配列に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなる。
【0031】
本発明において、より好ましくは、第一のプライマーがノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号4または5に記載の配列に対してそれぞれ十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、およびノロウイルス GII RNAの一部に相同な配列番号6に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドからなり、かつ第二のプライマーがノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号7から9に記載の配列に対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなる。
【0032】
本発明の好ましい一態様は、第一のプライマーが配列番号4から6に記載の配列からなる三種のオリゴヌクレオチドからなり、かつ第二のプライマーが配列番号18から20に記載の配列からなる三種のオリゴヌクレオチドからなる。
【0033】
さらに本発明の一態様としては、ノロウイルスRNAはcDNA合成の鋳型となる前に該RNA内の特定塩基配列の前記5’末端部位で切断される。特定塩基配列の5’末端部位で切断されることで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、前記cDNAの3’末端を伸長することにより効率的に合成することができ、結果として機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成する。このような切断方法として、ノロウイルスRNA内の特定塩基配列の5’末端部位(該特定塩基配列内で5’末端を含む部分配列)に重複して5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、切断用オリゴヌクレオチドとする)を添加することによって形成されたRNA−DNAハイブリッドのRNA部分をリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素などにより切断する方法があげられる。該切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は伸長反応を防止するために適当な修飾を施されたもの、例えばアミノ化などされているものを使用するのが好ましい。
【0034】
本発明の好ましい一態様では、切断用オリゴヌクレオチドとして、ノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号10から12に記載の配列に対してそれぞれ十分に相補的な配列から選ばれた少なくとも一種類の切断用オリゴヌクレオチド、およびノロウイルス GII RNAの一部に相同な配列番号13から15に記載の配列に対してそれぞれ十分に相補的な配列から選ばれた少なくとも一種類の切断用オリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0035】
なお、本発明中の配列番号4および10はSouthampton(GI/2)(GenBank No.L07418)の部分配列、配列番号5はDesert Shield(GI/3)(GenBank No.U04469)の部分配列、配列番号7および11はChiba(GI/4)(GenBank No.AB042808)の部分配列、配列番号8および12はWUG1(GI/8)(GenBank No.AB081723)の部分配列、配列番号9はSaitama T25G1(GI/14)(GenBank No.AB112100)の部分配列、配列番号6および13はLorsdale(GII/4)(GenBank No.X86557)の部分配列、配列番号15はSaitama U3(GII/6)(GenBank No.AB039776)の部分配列である。
【0036】
本発明中の標的RNAとは、RNA転写産物上の特定塩基配列のうち、前記プライマーとの相同あるいは相補領域以外の配列を示し、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブとの相補的結合が可能である配列を有する。よって、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブは、本発明中の特定塩基配列の一部と相補的な配列となる。本発明の一態様として、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブが、ノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号16に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチド、およびノロウイルス GII RNAの一部に相同な配列番号17に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0037】
本発明の一態様として、切断用オリゴヌクレオチドは、配列番号10から12に対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、および配列番号13から15に対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなる。また、第一のプライマーは、その5’末端にプロモーター配列を有しており、配列番号4または5に記載の配列に対してそれぞれ十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、および配列番号6に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドからなる。そして、第二のプライマーは配列番号7から9に対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなる。さらに、インターカレーター性蛍光色素標識核酸プローブは、配列番号16に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号17に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
【0038】
より好ましくは、前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号21から26に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、前記第一のプライマーが配列番号4から6に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、前記第二のプライマーが配列番号18から20に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、前記インターカレーター性蛍光色素標識核酸プローブが配列番号27および28に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、からなる。
【0039】
本発明のノロウイルスRNAの検出方法において、各酵素(1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、RNase H活性を有する酵素、1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、およびRNAポリメラーゼ活性を有する酵素))が必要となる。各酵素は、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用してもよいし、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用してもよい。また、1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存性DNAポリメラーゼ活性、RNase H活性、および1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を合わせ持つ逆転写酵素に、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素を添加するだけでなく、必要に応じてRNase H活性を有する酵素をさらに添加して補足することなども可能である。前記逆転写酵素は、分子生物学的実験で汎用されているAMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素、あるいはこれらの誘導体が好ましく、AMV逆転写酵素とその誘導体が最も好ましい。また、前記RNAポリメラーゼ活性を有する酵素としては、分子生物学的実験などで汎用されているバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ、およびこれらの誘導体が使用可能である。
【0040】
本発明の一態様では、試料中のノロウイルスRNAに前記切断用オリゴヌクレオチドを添加し、前記逆転写酵素のRNase H活性により前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する。切断された前記RNAを鋳型として前記第一のプライマーおよび第二のプライマーの存在下で前記逆転写酵素による逆転写反応を実施すると、第二のプライマーがノロウイルスRNA内の特定塩基配列に結合し、前記逆転写酵素のRNA依存性DNAポリメラーゼ活性によりcDNA合成が行われる。得られたRNA−DNAハイブリッドは前記逆転写酵素のRNase H活性によってRNA部分が分解され、解離することによって第一のプライマーが前記cDNAに結合する。引き続いて、前記逆転写酵素のDNA依存性DNAポリメラーゼ活性により特定塩基配列由来で5’末端にプロモーター配列を有する2本鎖DNAが生成される。該2本鎖DNAは、プロモーター配列下流に特定塩基配列を含み、前記RNAポリメラーゼにより特定塩基配列に由来するRNA転写産物を生産する。該RNA転写産物は、前記第一および第二のプライマーによる前記2本鎖DNA合成のための鋳型となって、一連の反応が連鎖的に進行し、前記RNA転写産物が増幅されていく。
【0041】
このような連鎖反応を進行させるために、前記各酵素に必須な既知の要素として、少なくとも、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸を含むことはいうまでもない。また、反応効率を調節するための添加剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖などを添加することも可能である。
【0042】
たとえば、AMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼを用いる場合は35から65℃の範囲で反応温度を設定することが好ましく、40から50℃の範囲で設定することが特に好ましい。前記RNA増幅工程は一定温度で進行し、逆転写酵素およびRNAポリメラーゼが活性を示す任意の温度に反応温度を設定することが可能である。
【0043】
増幅されたRNA転写産物量は、既知の核酸測定法により測定することが可能である。このような測定法としては、電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、検出可能な標識で標識された核酸プローブによるハイブリダイゼーション法などが利用できる。しかし、これらは操作が多工程であり、また増幅産物を系外に取り出して分析するため二次汚染の原因となる増幅産物の環境への飛散の危険性が大きい。これらの課題を克服するためには標的核酸と相補結合することによって蛍光特性が変化するように設計された核酸プローブを用いることが好ましい。さらに好ましい方法として、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブで、かつ標的核酸と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計された核酸プローブの存在下、前記核酸増幅工程を実施し、蛍光特性の変化を測定する方法があげられる(特許文献6および非特許文献3参照)。
【0044】
前記インターカレーター性蛍光色素としては特に限定されないが汎用されているオキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、およびこれらの誘導体などが利用できる。前記蛍光特性の変化としては蛍光強度の変化があげられる。たとえばオキサゾールイエローの場合、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長490nm)が顕著に増加することが既知である。前記インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブは、前記RNA転写産物上の標的RNAに対して十分に相補的なオリゴヌクレオチドで、末端あるいはリン酸ジエステル部あるいは塩基部分に適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素が結合され、さらに、3’末端の水酸基からの伸長を防止する目的で該3’末端の水酸基が適当な修飾をなされている構造を有する(特許文献7および非特許文献5参照)。
【0045】
オリゴヌクレオチドへのインターカレーター性蛍光色素の標識は、既知の方法でオリゴヌクレオチドに官能基を導入し、インターカレーター性蛍光色素を結合させることが可能である(特許文献8および非特許文献5参照)。また、前記官能基の導入方法としては、汎用されているLabel−ON Reagents(Clontech製)などを用いることも可能である。
【0046】
本発明の一態様として、試料に少なくとも、5’末端にT7プロモーター配列を有する第一のプライマー(配列番号4に記載の配列の5’末端にT7プロモーター配列(配列番号40)を付加した配列、配列番号5に記載の配列の5’末端にT7プロモーター配列(配列番号40)を付加した配列、および配列番号6に記載の配列の5’末端にT7プロモーター配列(配列番号40)を付加した配列)、第二のプライマー(配列番号18から20に示す配列)、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブ(配列番号27および28に示す配列)、切断用オリゴヌクレオチド(配列番号21から26に示す配列)、AMV逆転写酵素、T7 RNAポリメラーゼ、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む増幅試薬を添加し、反応温度35から65℃(好ましくは40から50℃)の一定温度で反応させると同時に反応液の蛍光強度を経時的に測定する方法を提供する。
【0047】
前記態様においては、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例30分以内で終了することが可能である。
【0048】
また、前記測定試薬に含まれる全ての試料を単一の容器に封入可能な点は特筆すべきである。即ち、一定量の試料をかかる単一の容器に分注するという操作さえ実施すれば、その後は自動的にノロウイルスRNAを増幅し検出することができる。この容器は、例えば蛍光色素が発する信号を外部から測定可能なように、少なくともその一部分が透明な材料で構成されてさえいれば良く、試料を分注した後に密閉することが可能なものはコンタミネーションの防止のうえで特に好ましい。
【0049】
前記態様のRNA増幅・測定方法は、一段階、一定温度で実施可能であるため、RT−PCRに比べて簡便で自動化に適した方法であるといえる。本発明によりノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず高特異性、高感度、迅速、簡便、一定温度、かつ一段階の同時測定が可能となった。
【発明の効果】
【0050】
本発明は、
(1)ノロウイルスRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、いずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加した第一のプライマー及び第二のプライマー、さらにRNA依存性DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼH(RNase H)、およびDNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(2)該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼにより、前記特定塩基配列あるいはその相補配列よりなるRNA転写産物を生成する工程、
(3)該RNA転写産物が引き続き前記2本鎖DNA合成の鋳型となることで、連鎖的に該RNA転写産物を増幅する工程、
(4)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなるノロウイルスRNAの検出方法において、前記第一のプライマーがノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号1に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチド、およびノロウイルス GII RNAの一部に相同な配列番号2に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドからなり、かつ第二のプライマーがノロウイルス GI RNAの一部に相同な配列番号3に記載の配列に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなることを特徴としている。本発明により、試料中に含まれる微量なノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず迅速に、かつ一定温度で増幅、検出することが可能となる。
【0051】
さらに、前記RNA転写産物量を測定する工程(4)において、標的RNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計された核酸プローブを共存させ、増幅されたノロウイルスRNAの特定核酸に由来する蛍光強度の増加を経時的に測定することにより、ノロウイルスRNAの検出を簡便、迅速、かつ高感度に行なうことができる。
【0052】
本発明の検出方法を用いたノロウイルスRNAの検出試薬は、一度の測定でノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず迅速、かつ高感度に検出することができる。そのため、臨床現場において、糞便や吐瀉物といった臨床検体中にノロウイルスが存在するかを迅速、かつ簡便に判定することができ、その後のノロウイルス感染の予防、およびノロウイルス感染経路の調査などに有用である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0054】
実施例1 標準RNAの調製
後述の実施例で使用したノロウイルスRNA(以降、標準RNAと表記)は(1)から(2)に示す方法で調製した。
(1)GenBankに登録されているノロウイルスcDNA配列のうち、表1に示す遺伝子型、および塩基配列領域の2本鎖DNAを調製した(なお、該DNAの5’末端側にはSP6プロモーターを付加している)。
(2)(1)で調整したDNAを鋳型として、SP6 RNAポリメラーゼを用いてインビトロ転写を実施し、引き続きDNase I処理により前記2本鎖DNAを完全消化した後、RNAを精製して調製した。該RNAは260nmにおける吸光度を測定して定量した。
【0055】
【表1】

なお、標準RNAの全長は533塩基(該RNAの5’末端にはSP6プロモーターに由来する8塩基が付加されている)と、ノロウイルスRNAの全長(約7000塩基)の一部ではあるが、本発明の測定対象であるノロウイルスRNAの測定には十分適用可能である。また、今回標準RNAを調製した遺伝子型はノロウイルス GI RNAの遺伝子型全14種のうちの8種、ノロウイルス GII RNAの遺伝子型全17種のうちの7種と、それぞれ一部ではあるが、
(A)GI/1、GI/6、およびGI/8との間
(B)GI/4、GI/5、およびGI/9との間
(C)GI/3、GI/10、GI/11、GI/12、GI/13、およびGI/14との間
(D)GII/7、GII/8、GII/9およびGII/13との間
(E)GII/11、GII/14、およびGII/16との間
(F)GII/1、GII/12、およびGII/15との間
(G)GII/2、GII/5、およびGII/10との間
はそれぞれ相同性が高い(非特許文献4)ことから、今回調製した遺伝子型の標準RNAを全て検出できれば、特殊な遺伝子型であるGII/17以外の全ての遺伝子型に属するノロウイルスRNAを検出可能であることが予想される。
【0056】
実施例2 インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブの調製
インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブを調製した。非特許文献5に記載の方法で、配列番号27に記載の配列の5’末端から12番目のCと13番目のAの間、配列番号28に記載の配列の5’末端から12番目のCと13番目のAの間、配列番号36に記載の配列の5’末端側から12番目のCと13番目のAとの間のリン酸ジエステル部分に、それぞれリンカーを介してオキサゾールイエローを結合させたオキサゾールイエロー標識核酸プローブを調製した(図1)。
【0057】
実施例3 ノロウイルスRNAの検出
表2に示す組み合わせの第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素で標識された核酸プローブ(以降、INAFプローブと表記)、切断用オリゴヌクレオチドを用いて、(1)から(4)に示す方法で、標準RNAの測定を行なった。なお、表2の組み合わせのうち、組み合わせAおよびBに記載の第一のプライマー、第二のプライマー、INAFプローブ、切断用オリゴヌクレオチドは、以前発明者らの検討により見出した、ノロウイルス GI RNA(組み合わせA、特願2007−164921号)またはノロウイルス GII RNA(組み合わせB、特願2007−182904号)の広範囲な遺伝子型を迅速、かつ高感度に検出するオリゴヌクレオチドの組み合わせである。組み合わせCは、組み合わせAで使用のオリゴヌクレオチドと組み合わせBで使用のオリゴヌクレオチドを単純に混合した系である。組み合わせDからFは本発明の系である。また、組み合わせDからFに記載のオリゴヌクレオチドのうち、配列番号4および5は配列番号1に含まれ、配列番号6は配列番号2に含まれ、配列番号18から20は配列番号3の相補鎖に含まれる。
【0058】
【表2】

(1)前記標準RNAをRNA希釈液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTT)を用いて、GI 標準RNAは300コピー/5μLまたは10コピー/5μLに、GII 標準RNAは10コピー/5μLまたは10コピー/5μLに、それぞれなるよう希釈し、これらをRNA試料として用いた。
(2)以下の組成の反応液20μLを0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。
【0059】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.6)
18mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1mM DTT
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
各0.75μM 第一のプライマー:該プライマーは、各配列番号記載の塩基配列の5’末端にT7プロモータ配列(配列番号40)が付加されている
各1μM 第二のプライマー
20nM INAFプローブ(組み合わせCからFでは各10nM使用):該プローブは実施例2で調製したもの
各0.16μM 切断用オリゴヌクレオチド:該オリゴヌクレオチドの3’末端の水酸基はアミノ基で修飾されている
6U リボヌクレアーゼインヒビター(タカラバイオ製)
13% DMSO
(3)上記の反応液を、43℃で5分間保温後、以下の組成で、予め43℃で2分間保温した酵素液5μLを添加した。
【0060】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
2.0% ソルビトール
6.4U AMV逆転写酵素 (ライフサイエンス製)
142U T7 RNAポリメラーゼ (インビトロジェン製)
3.6μg 牛血清アルブミン
(4)引き続きPCRチューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、43℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長520nm)を経時的に30分間測定した。
【0061】
酵素添加時を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表3および4に示した。なお、表3は、表2の組み合わせAからDに示すオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて10コピーのGIおよび/またはGII 標準RNAを測定したときの結果を、表4は、表2の組み合わせDからFに示すオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて300コピーのGI 標準RNAおよび10コピーのGII 標準RNAを測定したときの結果を、それぞれ示している。また、表3および4において−とは測定未実施の試料を、N.D.とは酵素を添加して30分後の蛍光強度比が1.2未満(陰性判定)であった試料をそれぞれ意味する。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

以前発明者らの検討で、10コピーのGIまたはGII 標準RNAを遺伝子型を問わず、30分以内に検出する系を見出している(特願2007−164921号、特願2007−182904号)。そこで、当該検出系(組み合わせAおよびB)で用いたオリゴヌクレオチドを単純に混合した系(組み合わせC)で10コピーの標準RNAを測定した。その結果、表3に示すように、GI 標準RNAを測定したときは、組み合わせAを用いた系では測定した8遺伝子型全てを30分以内に検出した一方、組み合わせCを用いた系では検出した遺伝子型が2つに激減した。また、GII 標準RNAを測定したときは、組み合わせBを用いた系、組み合わせCを用いた系、ともに、測定した8遺伝子型全てを30分以内に検出していたものの、検出時間は全ての遺伝子型で組み合わせCを用いた系の方が遅れていた。試料中のRNA量が等しい場合、検出時間が早いほど増幅効率が高いため、組み合わせCを用いた系は、組み合わせBを用いた系と比較し、増幅効率が低下しているといえる。よって、ノロウイルス GIまたはGII 標準RNAの広範囲な遺伝子型に対して迅速、高感度に検出する系が見出されたとしても、それらの系で使用しているオリゴヌクレオチドを単純に混合するだけでは、一度の測定でノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず検出する系を構築するのは困難であることがわかる。
【0064】
前記結果を受けて、新たにプライマーダイマーといった非特異的な増幅が起こりにくいオリゴヌクレオチドの組み合わせを鋭意検討を行ない得られた本発明の系(組み合わせD)にて、前記10コピーの標準RNAを測定したところ、測定した標準RNA(GI 8遺伝子型、GII 7遺伝子型)全てを20分以内に検出した。
【0065】
さらに、本発明の系(組み合わせDからF)にて、300コピーのGI 標準RNA、および10コピーのGII 標準RNAを測定した。その結果、表4に示したように、使用したRNA量が表3のとき(10コピー)よりも少ないにも関わらず、本発明の系はいずれも、組み合わせCを用いた系と比較し、検出した遺伝子型の数(GIとGIIの合計)は増加した(組み合わせC:9遺伝子型、組み合わせD:15遺伝子型、組み合わせE:13遺伝子型、組み合わせF:12遺伝子型)。中でも、組み合わせDを用いた系は、測定した標準RNA(GI 8遺伝子型、GII 7遺伝子型)全てを30分以内に検出しており、最も好ましい系といえる。
【0066】
以上から、本発明に記載の第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素標識核酸プローブ、切断用オリゴヌクレオチドを用いることにより、一度の測定でノロウイルスRNAを遺伝子群/遺伝子型を問わず迅速、かつ高感度に検出可能であることが示された。

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例2で作製したインターカレーター性蛍光色素標識核酸プローブの構造。B1、B2、B3、B4は塩基を示す。Ishiguroら(非特許文献5)の方法に従いリン酸ジエステル部分にリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素(オキサゾールイエロー)を結合させたプローブ。なお、3’末端の水酸基からの伸長反応を防止するために3’末端の水酸基はグリコール酸修飾がなされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のノロウイルスRNAを検出する方法であって、
(1)ノロウイルスRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、いずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加した第一のプライマーおよび第二のプライマー、さらにRNA依存性DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼH(RNase H)、およびDNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(2)該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼにより、前記特定塩基配列あるいはその相補配列よりなるRNA転写産物を生成する工程、
(3)該RNA転写産物が引き続き前記2本鎖DNA合成の鋳型となることで、連鎖的に該RNA転写産物を増幅する工程、
(4)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなり、前記第一のプライマーが、配列番号1に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号2に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドの混合物からなり、前記第二のプライマーが、配列番号3に記載の配列に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、ノロウイルスRNAの検出方法。
【請求項2】
前記ノロウイルスRNAの検出方法において、第一のプライマーが、配列番号4または5に記載の配列の少なくともいずれか一つに対してそれぞれ十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、および配列番号6に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドの混合物からなり、前記第二のプライマーが、配列番号7から9に記載の配列に対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記ノロウイルスRNAの検出方法において、第一のプライマーが配列番号4から6に記載の配列からなる三種のオリゴヌクレオチドの混合物からなり、第二のプライマーが配列番号18から20に記載の配列からなる三種のオリゴヌクレオチドの混合物からなることを特徴とする、請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記ノロウイルスRNAの検出方法において、前記特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複して該部位から5’方向に隣接する領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドとRNase Hにより前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する工程を、5’末端にプロモーター配列を付加した前記第一のプライマー、前記第二のプライマー、さらにRNA依存性DNAポリメラーゼ、RNase H、およびDNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程の前に行なうことを特徴とし、
前記切断用オリゴヌクレオチドが、配列番号10から12の少なくともいずれか一つに対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチド、および配列番号13から15の少なくともいずれか一つに対してそれぞれ十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドから選ばれた少なくとも一種のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記ノロウイルスRNAの検出方法において、前記RNA転写産物量を測定する工程(4)が、標的RNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計された核酸プローブ共存下で該シグナル変化を測定することによってなされ、前記核酸プローブが、配列番号16に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号17に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
試料中のノロウイルスRNAを検出する試薬であって、
(1)ノロウイルスRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、いずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加した第一のプライマーおよび第二のプライマー、さらに、RNA依存性DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼH(RNase H)、DNA依存性DNAポリメラーゼにより、プロモーター配列と該プロモーター配列下流に前記特定塩基配列を含む2本鎖DNAを生成する工程、
(2)該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼにより、前記特定塩基配列あるいはその相補配列よりなるRNA転写産物を生成する工程、
(3)該RNA転写産物が引き続き前記2本鎖DNA合成の鋳型となることで、連鎖的に該RNA転写産物を増幅する工程、
(4)前記RNA転写産物量を測定する工程、
からなる検出方法を実施するための試薬で、少なくとも、前記第一のプライマーが配列番号1に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチド、および配列番号2に記載の配列に対して十分に相同な配列のオリゴヌクレオチドの混合物を含み、前記第二のプライマーが配列番号3に記載の配列に対して十分に相補的な配列のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、ノロウイルスRNAの検出試薬。

【図1】
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【公開番号】特開2010−4793(P2010−4793A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167257(P2008−167257)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】