説明

ノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物、及び該ポリウレタン樹脂組成物を含有する水系ノンクロム処理金属材用塗料

【課題】ノンクロム処理金属材用塗料に好適な、耐食性に優れた水系ポリウレタン組成物、及び該ポリウレタン組成物を用いた水系ノンクロム処理金属材用塗料を提供すること。
【解決手段】少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、及び少なくとも2つの基が、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、−(A)−Xで表される基又は炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルコキシ基である(但し、Aはオキシエチレン又はオキシプロピレン基であり、Xはアクリレート基又はグリシジルエーテル基であり、nは0〜3の整数である。)フルオレン化合物を反応させた反応物を含有することを特徴とする水系ポリウレタン樹脂組成物、及び該樹脂組成物を含有する水系塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品や建材等に使用されるノンクロム処理金属材塗料に用いられる水系ポリウレタン組成物に関し、特に、クロム処理を施さない金属材のプレコート塗料、プレコートプライマー塗料、潤滑塗料等の塗料に適したフルオレン単位を含有するウレタン樹脂組成物、及び該ウレタン樹脂組成物を含有する水系ノンクロム金属材用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などに用いられる鋼板等の金属材には耐食性が要求されるため、プライマーにクロム系の防錆顔料を含有させたり、プライマーの下地処理としてクロメート処理被膜を施すクロム処理がなされたりしている。特に亜鉛系メッキ鋼板の防錆用途では、耐食性付与被膜としてクロメート処理被膜が使用されている。
【0003】
しかしながら、クロメート処理被膜及びクロム系防錆顔料を含む有機被膜からは6価のクロムが溶出するおそれがあるため、環境汚染、労働衛生、安全性の観点から、最近ではノンクロム防錆処理、ノンクロム有機被膜に対する要望が高まっている。
【0004】
一方、金属のコーティングに用いられている金属材用塗料の場合も同様であり、環境汚染、労働衛生及び安全性の観点から、水系塗料が用いられている。これらの樹脂成分としては、ポリウレタン、エポキシ等の各種樹脂材料が用いられているが、延び、強度等の物性のバランスがよいために、水分散性ポリウレタン組成物が適している(特許文献1〜4)。
【特許文献1】特開平7−331160号公報
【特許文献2】特開平9−221629号公報
【特許文献3】特開平2000−73179号公報
【特許文献4】特開平2000−107686号公報
【0005】
しかしながら、クロメート処理は、コーティング層の下地金属材への密着性を高める効果を有しているのに対し、上記の水分散性ポリウレタン樹脂組成物をノンクロム金属材用塗料として用いた場合には、下地金属材への密着性が不十分であるために、耐食性が不十分になる等、金属材料に適用するためには満足できるものではなかった。
【0006】
また、フルオレン化合物を含有するウレタン樹脂が、耐熱性、衝撃性、並びに光学特性等を向上させることは知られているが、耐食性に関する記載は一切なく示唆すらされていない(特許文献5〜7)。
【特許文献5】特開平11−209454号公報
【特許文献6】特開2000−178438号公報
【特許文献7】特開2003−277616公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、ノンクロム処理金属材用塗料に好適な、耐食性に優れた水系ポリウレタン組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、該ポリウレタン組成物を用いた水系ノンクロム処理金属材用塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の諸目的を達成すべく検討を重ねた結果、特定のフルオレン化合物をウレタン樹脂構造中に含有せしめた水系ポリウレタン組成物が、上記課題を解決しうることを知見し、本発明に到達した。
【0009】
即ち本発明は、少なくとも、(a)ポリイソシアネート化合物、(b)ポリオール化合物、及び(c)下記一般式(1)で表されるフルオレン化合物を反応させた反応物を含有することを特徴とするノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物、及び、少なくとも該水系ポリウレタン樹脂組成物と水からなることを特徴とする水系ノンクロム処理金属材用塗料である。

式中のR及びRは、各々独立に水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、下記式(2)で表される基、並びに炭素原子数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基及びヒドロキシアルコキシ基から選択された基であると共に、全てのR及びRのうち、少なくとも2つの基は、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、下記式(2)で表される基、並びに炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基及びヒドロキシアルコキシ基から選択された基である。
−(A)−X (2)
式中のAはオキシエチレン又はオキシプロピレン基であり、Xはアクリレート基又はグリシジルエーテル基であり、nは0〜3の整数である。
【0010】
前記(a)〜(c)各成分の使用量は、(a)成分33〜60質量%、(b)成分65〜15質量%、(c)成分2〜25質量%であることが好ましく、(a)成分は、脂環式ポリイソシアネートを必須成分とすることが好ましい。
また、前記水系ポリウレタン樹脂組成物は、更に(d)成分としてメラミン系化合物を反応させて得られるものであってもよい。
【0011】
更に、前記(c)成分は、一般式(1)におけるRが水素原子であり、Rがヒドロキシエトキシ基(−O−CHCH−OH)、2−ヒドロキシプロポキシ基(−O−CHCH(−OH)CH)又は、2−ヒドロキシ−1−メチルエトキシ基(−O−CH(CH)CH−OH)の何れかの基であることが好ましく、前記Rは、ヒドロキシエトキシ基(−O−CHCH−OH)であることが特に好ましい。
【0012】
また、前記水系ポリウレタン樹脂組成物は、更に(e)成分として鎖延長剤成分を反応させて得られるものであってもよく、前記鎖延長剤成分はジカルボン酸ジヒドラジド化合物を必須成分とし、ジアミン化合物を任意成分として含有してなることが好ましい。
【0013】
前記水系ポリウレタン樹脂組成物は、水分散物とするために、分子中に、アニオン性基、カチオン性基又はノニオン性基を有することが好ましい。
【0014】
前記水系ポリウレタン樹脂組成物の形状は、水溶液、エマルション、サスペンション、又はコロイダル分散液の何れかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水系金属材用塗料は、金属材料との密着性が良好であるので、金属材料に直接塗布して該金属材料に耐食性を付与することができ、従来必要とされていた、有害なクロメート処理を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物(以下「水系ポリウレタン樹脂組成物」という。)に用いられる(a)成分のポリイソシアネート化合物は、適宜公知のものの中から選択して用いることができるが、特に、脂環式ポリイソシアネート化合物を必須成分とし、必要に応じてポリイソシアネート化合物を適宜併用することが好ましい。上記脂環式ポリイソシアネート及び必要に応じて用いられる他のポリイソシアネート化合物の配合等は任意であり特に制限されるものではない。
【0017】
脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トランス−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられる。これらは、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変成、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。これらの脂環式ポリイソシアネートの(a)成分中の含有量は、50〜100質量%であることが好ましく、特に70〜100質量%であることが好ましい。50質量%より小さいと耐水性が悪化するおそれがある。
【0018】
また、上記のポリイソシアネート(a)において、必要に応じて用いられる他のポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4及び/又は(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート等脂肪族ジイソシアネート化合物、トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等の三官能以上のイソシアネート化合物等が挙げられる。これらのイソシアネート化合物はカルボジイミド変性、イソシアヌレート変成、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
【0019】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物に用いられるポリオール化合物(b)とは、分子中に上記のポリイソシアネート(a)のイソシアネート基と反応してウレタン結合を形成せしめるヒドロキシル基を2個以上有するポリヒドロキシル脂肪族化合物又はポリヒドロキシル芳香族化合物を意味する。
【0020】
前記ポリオール化合物としては、低分子ポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエステルポリカーボネートポリオール類、ポリカーボネートポリオール類等が挙げられる。
【0021】
前記低分子ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール化合物、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等脂環式ジオール化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のアルコール化合物等が挙げられる。
【0022】
ポリエーテルポリオール類としては、例えば、上記の低分子ジオールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0023】
ポリエステルポリオール類としては、上記した低分子ポリオール等のポリオールの化学量論的量より少ない量の多価カルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性誘導体との直接エステル化反応及び/又はエステル交換反応により得られるものが挙げられる。多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類、トリメリト酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸等の三量体からなるトリカルボン酸類などの多価カルボン酸、これらの多価カルボン酸の酸無水物、該多価カルボン酸のクロライド、ブロマイド等のハライド、該多価カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級エステルや、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、ジメチル−ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。
【0024】
前記ポリヒドロキシル芳香族化合物としては、例えば、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、3−メチルレゾルシン、3−エチルレゾルシン、3−プロピルレゾルシン、3−ブチルレゾルシン、3−第三ブチルレゾルシン、3−フェニルレゾルシン、3−クミルレゾルシン、3−メチルハイドロキノン、3−エチルハイドロキノン、3−プロピルハイドロキノン、3−ブチルハイドロキノン、3−第三ブチルハイドロキノン、3−フェニルハイドロキノン、3−クミルハイドロキノン4,4’−ジヒドロキシジフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,4,4−トリメチルシクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンゼン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(別名ビスフェノールF)、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別名ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メトキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ)ブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル2−メチル)ブタン、及びこれらポリヒドロキシル芳香族化合物のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0025】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物に用いられるフルオレン化合物(c)とは、下記一般式(1)で表されるフルオレン化合物である。

式(1)中のR及びRは各々独立に水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、下記式(2)で表される基、並びに炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、及びヒドロキシアルコキシ基から選択された基である。
−(A)−X (2)
式(2)中のAはオキシエチレン又はオキシプロピレン基であり、Xはアクリレート基又はグリシジルエーテル基であり、nは0〜3の整数である。
また、全てのR又はRのうち少なくとも2つの基が、ウレタン樹脂の原料となりうるイソシアネート化合物、ポリオール化合物、アミノ基含有化合物又はカルボキシル基含有化合物と反応しうる官能基、即ち、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、上記式(2)で表される基、又は炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルコキシ基である。
【0026】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物No.1〜No.8の化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらの化合物により何ら制限されることはない。
化合物No.1

化合物No.2

化合物No.3

化合物No.4

化合物No.5

化合物No.6

化合物No.7

化合物No.8

前記一般式(1)の化合物の中では、化合物No.1〜No.3がヒドロキシアルコキシ基を有し、イソシアネート基と容易に反応するため、ウレタン樹脂構造中への導入が最も容易であり、特に好ましい。
【0027】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、更にメラミン系化合物(d)を反応させて得られる水系ポリウレタン樹脂組成物であってもよい。該メラミン系化合物(d)としては、ポリウレタンに用いられる周知のメラミン化合物を用いることができる。このようなメラミン化合物としては、メラミン、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン、ブチル化メチロールメラミン、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、メラミンが水分散性ポリウレタン組成物の分散性と塗装の基材密着性に優れるので特に好ましい。
【0028】
また、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、更に鎖延長剤(e)を反応させて得られる水系ポリウレタン樹脂組成物であってもよい。鎖延長剤(e)としては、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物を必須成分としジアミン化合物を任意成分として含有してなる鎖延長剤(e)を用いることが特に好ましい。このような鎖延長剤(e)において、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物とジアミン化合物との配合等について、特に制限されることはない。上記必須成分とするジカルボン酸ジヒドラジドとしては、上記のポリエステルポリオールに用いられる多価カルボン酸で例示したジカルボン酸とヒドラジンの化合物が挙げられる。中でも脂肪族ジカルボン酸ジヒドラジドは、得られる塗装が、熱による劣化が少ないだけでなく、水分散性ポリウレタン組成物の分散安定性を保つことができるので好ましく、特に、アジピン酸ジヒドラジドを用いることがより好ましい。
【0029】
前記必要に応じて用いられるジアミン化合物としては、前述した低分子ジオールのアルコール性水酸基をアミノ基に置換した低分子ジアミン類、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類、m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類等が挙げられる。中でも低分子ジアミン類が安価であるので好ましく、特にエチレンジアミン及び/又はプロピレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0030】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物の製造は、周知の方法によって製造することができる。製造方法としては、反応に不活性で且つ水との親和性の大きい溶媒を用い、成分(a)〜(c)、必要に応じて更に成分(d)及び/又は(e)を反応させてプレポリマーを合成し、これを水に加えて分散させるプレポリマー法が好ましい。
【0031】
上記のプレポリマー法としては、例えば以下の1〜4の方法が挙げられる。
1.ポリイソシアネート化合物(a)、ポリオール化合物(b)、フルオレン化合物(c)及びメラミン化合物(d)からプレポリマーを合成して、これを水中で鎖延長剤(e)と反応させる方法。
2.ポリイソシアネート化合物(a)、ポリヒドロキシル化合物(b)、フルオレン化合物(c)、メラミン化合物(d)及び鎖延長剤(e)からプレポリマーを合成して、これを水中にフィードして分散させる方法。
3.ポリイソシアネート化合物(a)、ポリオール化合物(b)及びメラミン化合物(d)からプレポリマーを合成して、これを水中でフルオレン化合物(c)及び鎖延長剤(e)と反応させる方法。
4.ポリイソシアネート化合物(a)、ポリオール化合物(b)、メラミン化合物(d)及び鎖延長剤(e)からプレポリマーを合成して、これを水中でフルオレン化合物(c)と反応させる方法。
【0032】
上記の製造方法に使用される溶媒は、反応に不活性で水との親和性の大きいものが好適であり、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。これらの溶媒は、通常、プレポリマーを製造するために用いられる上記原料の合計量に対して、3〜100質量%が用いられる。これら溶媒のなかで、沸点100℃以下の溶媒は、プレポリマー合成後に減圧留去することが好ましい。
【0033】
上記の製造方法における各成分の配合比は特に制限されるものではないが、反応させる段階におけるイソシアネート基1モルに対して、イソシアネートとの反応性基が0.3〜2モルであることが好ましく、特に0.5〜1.5モルであることが好ましい。また、ポリオール(b)、フルオレン化合物(c)、メラミン化合物(d)及び鎖延長剤(e)の配合比については、ポリオール化合物1モルに対して、フルオレン化合物(c)が0.3〜5.0モル、メラミン化合物(d)が0.05〜0.5モル、鎖延長剤(e)が0.01〜1.0モルとなる範囲が好ましい。
【0034】
また、本発明の水分散ポリウレタン組成物における固形分濃度は特に制限されず、任意の値を選択することができる。分散性と塗装性の観点から、該固形分濃度は1〜60質量%であることが好ましく、特に5〜40質量%であることが好ましい。
【0035】
また、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物にける各成分の使用量は、(a)成分33〜60質量%、(b)成分65〜15質量%であることが好ましい。フルオレン化合物(c)の使用量は、原料の配合を変えることによって任意の値を選択することができるが、2.0〜25.0質量%であることが好ましく、5.0〜20.0質量%であることがより好ましい。2.0質量%より少ないと充分な導入効果が得られず、耐食性が向上しない場合があり、25.0質量%より大きいと組成物の分散安定性が損なわれる場合がある。
【0036】
本発明の水系ポリウレタン組成物の状態としては、エマルション、サスペンション、コロイダル分散液、水溶液等がある。これらの水系ポリウレタン組成物を得る方法としては、ポリウレタン分子中にアニオン性基又はカチオン性基のイオン性基を導入するイオン法、ポリウレタン分子中にノニオン性基を導入するノニオン法、界面活性剤等の乳化剤を使用する方法等が挙げられる。また、これらの2種類以上を併用してもよい。
【0037】
上記のイオン法としては、例えば、ポリイソシアネート化合物(a)中にイオン基導入ポリオールを用いてイオン性基を導入し、これを、中和剤により中和する方法が容易である上、低コストでもあるので好ましい。イオン性基を導入する場合に用いるポリオールの使用量には特に制限はなく、適宜選択することができる。該イオン性基導入ポリオール化合物の使用量は、モル比で、全ポリオール化合物100に対して、1〜90であることが好ましく、特に5〜75であることがより好ましい。1より小さいと分散安定性が低下し、90より大きいと水分散性ポリウレタン組成物から得られる塗膜等の耐水性が悪化する場合がある。
【0038】
上記のイオン性基導入ポリオールについては、アニオン性基を導入するものとして、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基を含有するポリオール類、1,4−ブタンジオール−2−スルホン酸等のスルホン酸基を含有するポリオール類が挙げられる。また、カチオン性基を導入するものとしては、例えば、N,N−ジアルキルアルカノールアミン類、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−ブチル−N,N−ジエタノールアミン等のN−アルキル−N,N−ジアルカノールアミン類、トリアルカノールアミン類が挙げられる。
【0039】
上記のイオン法に用いられるアニオン性基の中和剤としては、例えばトリメチルアミンやトリエチルアミン等のトリアルキルアミン類、N,N−ジアルキルアルカノールアミン類、N−アルキル−N,N−ジアルカノールアミン類、トリアルカノールアミン類等の3級アミン、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等塩基性化合物が挙げられ、カチオン性基の中和剤としては、蟻酸、酢酸、乳酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸等の有機カルボン酸、パラトルエンスルホン酸、スルホン酸アルキル等の有機スルホン酸、塩酸、リン酸、硝酸、スルホン酸等の無機酸、エピハロヒドリン等エポキシ化合物の他、ジアルキル硫酸、ハロゲン化アルキル等の4級化剤が挙げられる。これらの中和剤の使用量は、通常、イオン性基1モルに対して過不足が大きいと水系ポリウレタン組成物から得られる塗膜等の耐水性、強度、延び等の物性が低下するおそれがあるので、イオン性基1モルに対して0.5〜2.0モルであることが好ましく、特に0.8〜1.5モルであることがより好ましい。
【0040】
前記ノニオン法は、ポリウレタン分子の主鎖や側鎖にオキシエチレン鎖等のノニオン性親水基を導入して、水分散性を与える方法である。親水性基の導入には、ウレタンプレポリマーの側鎖及び又は主鎖に必要量のオキシエチレン鎖を組み込む方法が挙げられる。
【0041】
また、前記乳化剤としては、水分散性ポリウレタンに使用される一般のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系面活性剤、反応性界面活性剤等を使用することができる。中でも、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤が安価である上、良好な乳化が得られるので好ましい。
【0042】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等アンモニウムドデシルサルフェート等のアルキルサルフェート類;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノート;スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレート、トルエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ナトリウムベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ジアルキルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩などが挙げられる。
【0043】
前記ノニオン性界面活性剤としては、炭素数1〜18のアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0044】
前記ノニオン性界面活性剤を構成する炭素数1〜18のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、第三ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第三アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノール、デカンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられ、アルキルフェノールとしては、フェノール、メチルフェノール、2,4−ジ第三ブチルフェノール、2,5−ジ第三ブチルフェノール、3,5−ジ第三ブチルフェノール、4−(1,3−テトラメチルブチル)フェノール、4−イソオクチルフェノール、4−ノニルフェノール、4−第三オクチルフェノール、4−ドデシルフェノール、2−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール、4−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール、ナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられ、アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられ、アルキレンジアミンとしては、これらのアルキレングリコールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものが挙げられる。また、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物とは、ランダム付加物でもブロック付加物でもよい。
【0045】
前記カチオン性界面活性剤としては、1級〜3級アミン塩;ピリジニウム塩、4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0046】
これらの乳化剤を使用する場合の使用量は特に制限されることはなく、任意の量を使用することができるが、ポリウレタン化合物1に対する質量比で、0.01〜0.3であることが好ましく、0.05〜0.2であることがより好ましい。0.01より小さいと充分な分散性が得られない場合があり、0.3を超えると水分散性ポリウレタン組成物から得られる塗膜等の耐水性、強度、延び等の物性が低下するおそれがある。
【0047】
前述した水系ポリウレタン樹脂組成物を得る分散方法は、本発明のノンクロム処理金属材用塗料に添加される防錆剤等の他の成分により適宜選択される。通常用いられているノンクロム防錆剤との相性の観点から、ポリウレタン分子中にアニオン性基を導入するアニオン法が好ましい。
【0048】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、一般に用いられる各種添加剤を用いてもよい。該添加剤としては、例えば、顔料、染料、造膜助剤、硬化剤、カップリング剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機及び有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、補強剤、触媒、揺変剤、抗菌剤、防カビ剤、防腐触剤、加水分解性シリル基安定剤等が挙げられる。また、基材に対して特に強固な密着性が必要な場合は、コロイダルシリカ、テトラアルコキシシラン及びその縮重合物を用いてもよい。
【0049】
本発明の水系ノンクロム処理金属材用塗料は、少なくとも本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物と水を含有し、クロム処理を施さないノンクロム金属材の塗料として使用される。ノンクロム金属材の塗料には、フッ化亜鉛、ヘキサフルオロ珪酸亜鉛、これらの水和物等のエッチング系フッ化物や防錆剤を含有することが好ましい。防錆剤としては、例えば、リン酸系化合物、バナジウム系化合物、これらを網目修飾イオン源とガラス状物質の一方又は両方を含有する混合物を焼成し粉砕することにより得られるもの、表面がメッキ処理されたMgSi合金粉末、モリブデン酸塩系化合物、メタ硼酸バリウム等の硼酸系化合物等が挙げられる。
【0050】
前記リン酸系化合物としては、オルトリン酸、縮合リン、種々の金属のオルトリン酸塩又は縮合リン酸塩、五酸化リン、リン酸塩鉱物、市販の複合リン酸塩顔料、リン酸アンモニウム又はこれらの混合物が挙げられる。なお、ここで言うオルトリン酸塩の中には、その一水素塩(HPO42-の塩)、二水素塩(H2PO4-の塩)も含む。また縮合リン酸塩の中には、水素塩、メタリン酸塩の他、通常のポリリン酸塩、ポリメタリン酸塩も含む。
【0051】
リン化合物の具体例としてはリン酸塩鉱物、例えばモネタイト、トルフィル石、ウィトロック石、ゼノタイム、スターコライト、ストルーブ石、ラン鉄鉱等や、市販の複合リン酸塩顔料、例えばポリリン酸シリカ等や、複合リン酸、例えばピロリン酸、メタリン酸や、複合リン酸塩、例えばメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩や、あるいはこれらの混合物が挙げられる。リン酸塩を形成する金属種は特に限定されるものではなく、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他の典型元素の金属種及び遷移金属が挙げられる。好ましい金属種の例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉛、スズ等が挙げられる。この他にバナジル、チタニル、ジルコニル等、オキソカチオンも含まれ、特に好ましいのはカルシウム及びマグネシウムである。
【0052】
また前記バナジウム系化合物としては、バナジウムの原子価が0、2、3、4又は5のいずれか又は2種以上を有する化合物であり、これらの酸化物、水酸化物、種々の金属の酸素酸塩、バナジル化合物、ハロゲン化物、硫酸塩、金属粉などが挙げられる。5価のバナジウム化合物を1つの成分として含むものが好ましい。バナジウム化合物の具体例としては、酸化バナジウム(II)、水酸化バナジウム(II)、酸化バナシウム(III)、酸化バナジウム(IV)、ハロゲン化バナジル、酸化バナジウム(V)、種々の金属のオルトバナジン酸塩、メタバナジン酸塩又はピロバナジン酸塩、ハロゲン化バナジル、バナジン化アンモニウム、又はこれらの混合物が挙げられる。バナジン酸塩の金属種としては、リン酸塩で示したものと同じものが挙げられる。
【0053】
本発明の水系ノンクロム処理金属材用塗料の使用に適した金属材としては、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、銅メッキ鋼板、亜鉛ニッケルメッキ鋼板、亜鉛アルミメッキ鋼板、亜鉛鉄メッキ鋼板、スズメッキ鋼板などのメッキ鋼板や、ステンレス鋼板、アルミ板、銅板、アルミ合金板等が挙げられる。
【0054】
以下、実施例、評価例等をもって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例、評価例等によって何ら制限を受けるものではない。尚、特に断りのない限り「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【実施例1】
【0055】
N−メチル−2−ピロリドンを132部に、(a)成分としてジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネートを139部、(b)成分としてネオペンチルグリコールとアジピン酸から得られた数平均分子量1000のポリエステルポリオールを100部、(c)成分としてビスフェノキシエタノールフルオレン(大阪ガスケミカル(株)製:製品名BPEF)を16部、(d)成分としてメラミンを6部混合し、120℃で3時間反応させた。次いで、50℃まで冷却した後、ジメチロールプロピオン酸20部とトリエチルアミン21部を添加して60℃で2時間反応させ、ウレタンプレポリマーを製造した。得られたプレポリマーをシリコーン系消泡剤SE−21(ワッカーシリコン社製)1部を溶解した水に滴下し、分散させた後に鎖延長剤(e)成分としてエチレンジアミン7部及びアジピン酸ジヒドラジド3部を添加し、イソシアネート基が消失するまで反応させて固形分31%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【実施例2】
【0056】
N−メチル−2−ピロリドン171部に、(a)成分としてジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネートを180部、(b)成分としてネオペンチルグリコールとアジピン酸から得られた数平均分子量1000のポリエステルポリオールを100部、(c)成分としてビスフェノキシエタノールフルオレンを41部、(d)成分としてメラミンを7部混合し、120℃で3時間反応させた。次いで、50℃まで冷却した後、ジメチロールプロピオン酸を26部、トリエチルアミンを28部添加して60℃で2時間反応させ、ウレタンプレポリマーを製造した。得られたプレポリマーを、シリコーン系消泡剤SE−21(ワッカーシリコン社製)1部を溶解した水に滴下し、分散させた後に鎖延長剤(e)成分としてエチレンジアミン8部及びアジピン酸ジヒドラジド4部をイソシアネート基が消失するまで反応させて固形分31%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【実施例3】
【0057】
N−メチル−2−ピロリドン134部に、(a)成分としてジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネートを122部、(b)成分として1,6−ヘキサンジオールとイソフタル酸/アジピン酸(モル比1/1)から得られた数平均分子量1750のポリエステルポリオールを100部、(c)成分としてビスフェノキシエタノールフルオレンを29部、(d)成分としてメラミンを5部混合し120℃で3時間反応させた。次いで、50℃まで冷却した後、ジメチロールプロピオン酸15部とトリエチルアミン14部を添加して60℃で2時間反応させ、ウレタンプレポリマーを製造した。得られたプレポリマーを、シリコーン系消泡剤SE−21(ワッカーシリコン社製)1部を溶解した水に滴下し、分散させた後に鎖延長剤(e)成分としてエチレンジアミン6部及びアジピン酸ジヒドラジド5部をイソシアネート基が消失するまで反応させて固形分30%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【実施例4】
【0058】
N−メチル−2−ピロリドン252部に、(a)成分としてジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート266部、(b)成分として1,6−ヘキサンジオールとイソフタル酸/アジピン酸(モル比1/1)から得られた数平均分子量1750のポリエステルポリオールを100部、(c)成分としてビスフェノキシエタノールフルオレンを105部、(d)成分としてメラミンを11部混合し、120℃で3時間反応させた。次いで、50℃まで冷却した後、ジメチロールプロピオン酸30部とトリエチルアミン27部を添加して60℃で2時間反応させ、ウレタンプレポリマーを製造した。得られたプレポリマーを、シリコーン系消泡剤SE−21(ワッカーシリコン社製)1部を溶解した水に滴下し、分散させた後に鎖延長剤(e)成分としてエチレンジアミン14部及びアジピン酸ジヒドラジド11部をイソシアネート基が消失するまで反応させて固形分25%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0059】
[比較例1]
N−メチル−2−ピロリドン97部に、ネオペンチルグリコールとアジピン酸から得られた数平均分子量1000のポリエステルポリオールを100部、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネートを102部、メラミンを4部混合し、120℃で3時間反応させた。次いで、50℃まで冷却した後、ジメチロールプロピオン酸15部とトリエチルアミン15部を添加して60℃で2時間反応させ、ウレタンプレポリマーを製造した。得られたプレポリマーを、シリコーン系消泡剤SE−21(ワッカーシリコン社製)1部を溶解した水に滴下し、分散させた後に鎖延長剤としてエチレンジアミン5部及びアジピン酸ジヒドラジド3部をイソシアネート基が消失するまで反応させ、固形分31%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0060】
[比較例2]
N−メチル−2−ピロリドン102部に、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネートを122部、1,6−ヘキサンジオールとイソフタル酸/アジピン酸(モル比1/1)から得られた数平均分子量1750のポリエステルポリオールを100部、数平均分子量360のビスフェノールA骨格含有ジオール((株)ADEKA製:製品名BPX−11)を24部、メラミンを5部混合し、120℃で3時間反応させた。次いで、50℃まで冷却した後にジメチロールプロピオン酸15部とトリエチルアミン14部を添加して60℃で2時間反応させ、ウレタンプレポリマーを製造した。得られたプレポリマーを、シリコーン系消泡剤SE−21(ワッカーシリコン社製)1部を溶解した水に滴下し、分散させた後に鎖延長剤としてエチレンジアミン6部及びアジピン酸ジヒドラジド5部をイソシアネート基が消失するまで反応させて固形分32%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0061】
表面処理を施していない亜鉛メッキ鋼板に実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた水系ウレタン樹脂組成物を、樹脂単独及びシリカ10%配合樹脂において、乾燥膜が1μmとなるように塗布して塗膜を形成させた後、下記の通り耐食性試験を行った。それらの結果を下記〔表1〕及び〔表2〕に示す。
【0062】
[耐食性試験]
JIS Z 2371による塩水噴霧試験を行い、錆の発生状況を観察した。
評価基準 ◎:錆発生が全面積の10%未満
○:錆発生が全面積の10%〜40%未満
△:錆発生が全面積の40%〜70%未満
×:錆発生が全面積の70%以上
(耐食性試験1:樹脂単独での評価、耐食性試験2:シリカ10%配合での評価)
【0063】
【表1】

*1;ネオペンチルグリコール/アジピン酸系ポリエステルポリオール(Mw1000)
*2;ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート
*3;ビスフェノキシエタノールフルオレンのウレタン樹脂に対する含有量
*4;耐食性試験1:樹脂単独での塩水噴霧試験
*5;耐食性試験2:シリカ10%配合系での塩水噴霧試験
【0064】
【表2】

*1;1,6ヘキサンジオール/イソフタル酸/アジピン酸系ポリエステルポリオール(MW1750)
*2;ビスフェノールAのプロピレンオシド付加物(MW360)
*3;ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート
*4;ビスフェノキシエタノールフルオレンのウレタン樹脂に対する含有量
*5;耐食性試験1:樹脂単独での塩水噴霧試験
*6;耐食性試験2:シリカ10%配合系での塩水噴霧試験
【0065】
表1の結果から、フルオレン化合物を添加していない比較例1に比べ、フルオレン化合物の添加量を増すごとに、樹脂単独及びシリカ配合系において耐食性が向上していることが確認できる。また、表2の結果から、耐食性に効果を示す、従来のビスフェノールA骨格含有ジオール配合の場合と比較しても、フルオレン化合物配合の効果が顕著であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水系ノンクロム処理金属材用塗料は、クロム処理を施さない金属材のプレコート塗料、プレコートプライマー塗料、潤滑塗料等の塗料として有用であり、家電製品や建材等の塗装に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(a)ポリイソシアネート化合物、(b)ポリオール化合物、及び(c)下記一般式(1)で表されるフルオレン化合物を反応させた反応物を含有することを特徴とするノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物;

式中のR及びRは、各々独立に水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、下記式(2)で表される基、並びに炭素原子数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基及びヒドロキシアルコキシ基から選択された基であると共に、全てのR及びRのうち、少なくとも2つの基は、ヒドロキシ基、アミノ基、アリル基、下記式(2)で表される基、並びに炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基及びヒドロキシアルコキシ基から選択された基である。
−(A)−X (2)
式中のAはオキシエチレン又はオキシプロピレン基であり、Xはアクリレート基又はグリシジルエーテル基であり、nは0〜3の整数である。
【請求項2】
前記(a)〜(c)各成分の使用量が、(a)成分33〜60質量%、(b)成分65〜15質量%、(c)成分2〜25質量%である、請求項1に記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(a)成分が脂環式ポリイソシアネートを必須成分とする、請求項1又は2に記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
更に(d)成分としてメラミン系化合物を反応させて得られる、請求項1〜3の何れかに記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)成分が、一般式(1)において、Rが水素原子であると共に、Rがヒドロキシエトキシ基(−O−CHCH−OH)、2−ヒドロキシプロポキシ基(−O−CHCH(−OH)CH)又は、2−ヒドロキシ−1−メチルエトキシ基(−O−CH(CH)CH−OH)の何れかの基である、請求項1〜4の何れかに記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記Rがヒドロキシエトキシ基(−O−CHCH−OH)である、請求項5に記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
更に鎖延長剤(e)を反応させて得られる、請求項1〜6の何れかに記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
前記鎖延長剤(e)が、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物を必須成分とすると共に、ジアミン化合物を任意成分として含有する、請求項7に記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項9】
分子中に、アニオン性基、カチオン性基又はノニオン性基を有する、請求項1〜8の何れかに記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】
前記水系ポリウレタン樹脂組成物の形状が、水溶液、エマルション、サスペンション、又はコロイダル分散液の何れかである、請求項7に記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項11】
少なくとも、請求項1〜10の何れかに記載されたノンクロム処理金属材塗料用水系ポリウレタン樹脂組成物と水からなることを特徴とする水系ノンクロム処理金属材用塗料。

【公開番号】特開2008−201877(P2008−201877A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38343(P2007−38343)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】