説明

ノンクロム型アルミニウム合金板化成処理材及びその塗装材

【課題】 下地処理としてノンクロム化成処理を実施したアルミニウム塗装材は従来より用いられているりん酸クロメート処理を実施した塗装材に比較して塗装後の耐食性、密着性が劣る。この傾向は特にMgを含有するアルミニウム合金板材を用いた場合に顕著である。
【解決手段】 アルミニウム合金板化成処理材において、化成皮膜が5〜200mg/平方m形成され、該化成皮膜中に有機樹脂を含み、さらに金属化合物成分としてZr化合物、Ti化合物、V化合物の少なくとも1種類を含み、該化成皮膜中のいずれの深さにおいてもMg濃度が20質量%以下であることを特徴とするアルミニウム合金板化成処理材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材、電気電子製品部品等に用いられるアルミニウム合金塗装材において、該アルミニウム合金塗装材に使用されるアルミニウム合金化成処理材に対して、ノンクロム化成処理を行なった場合でも、従来のリン酸クロメート処理と同等の耐食性、密着性を有するアルミニウム合金塗装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板塗装材は、一般に化成処理したアルミニウム合金材に塗装して製造されている。この化成処理として、リン酸クロメート処理が実施される場合が多いが、このリン酸クロメート皮膜には三価Crが含まれている。昨今、環境汚染問題に対応するため、工業製品に対してノンクロム化の要求があり、Crを含まないノンクロム化成処理が検討されている。
【0003】
しかしながら、各種ノンクロム化成処理剤にて化成処理を行い、各種樹脂系の塗料を塗装して、密着性、耐食性を評価すると、必ずしも従来のリン酸クロメート処理のような性能は得られず、特にMgが添加されたアルミニウム合金化成処理材を用いる場合、密着性や耐食性の低下が著しい。このような現象に対処するため、特開2004−35988(特許文献1)、特開2004−18992(特許文献2)には、ZrまたはTiを主要化成金属成分とするノンクロム型アルミニウム合金板化成処理材において、最表面のC濃度、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さにおけるMg濃度を規定して、この問題を回避する技術が開示されている。

【特許文献1】特開2004−35988号公報
【特許文献2】特開2004−18992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの特許文献に開示される技術は飲料缶蓋材に関するものであり、上記技術を建材、電気電子製品部品等に用いられる、アルミニウム合金板塗装材に実施しても、密着性、耐食性が必ずしも十分ではなく、特に屋根材、サイディング材等の外装建材は紫外線、酸性雨等に曝され、非常に過酷な環境で使用されることから、上記技術では不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は鋭意検討を重ねた結果、以下のようなノンクロム型化成処理を行なった、アルミニウム合金板化成処理材を使用することで、過酷な環境にも耐えうる十分な密着性、耐食性を有し、建材、電気電子製品部品等に適用可能なアルミニウム合金板塗装材が得られることを見出した。
【0006】
(1)アルミニウム合金板化成処理材において、化成皮膜が5〜200mg/平方m形成され、該化成皮膜中に有機樹脂を含み、さらに金属化合物成分としてZr化合物、Ti化合物、V化合物の少なくとも1種類を含み、該化成皮膜中のいずれの深さにおいてもMg濃度が20質量%以下であることを特徴とするアルミニウム合金板化成処理材。
【0007】
(2)アルミニウム合金板に対し、pHが4以下の水溶液を用い、40〜80℃にて1〜30秒酸洗し、その後、有機樹脂を含み、さらに金属化合物成分としてZr化合物、Ti化合物、V化合物の少なくとも1種類を含む処理液中で化成皮膜付着量が5〜200mg/平方mとなるように化成処理を施すことを特徴とする、アルミニウム合金板の化成処理方法。
【0008】
(3)(1)のアルミニウム合金板化成処理材に、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂の少なくとも1種類よりなる厚さ0.5〜30μmの樹脂層を1層または2層形成したことを特徴とするアルミニウム合金板塗装材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化成皮膜にクロム化合物を含有せず、塗装後の耐食性、密着性に優れるアルミニウム合金塗装板材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるアルミニウム合金板化成処理材の化成皮膜は、有機樹脂を含み、さらに金属化合物成分としてZr化合物、Ti化合物、V化合物の少なくとも1種類を含んでいなければならない。化成処理にはリン酸クロメートのように無機物のみで形成されるもの、他に有機樹脂のみで形成されるもの、有機樹脂と無機物が混合しているものがあるが、各種ノンクロム皮膜を比較検討した結果、本発明の用途においては有機樹脂と金属化合物が混合しているものが最も優れていたからである。
【0011】
化成皮膜の付着量は5mg/平方m以上、200mg/平方m以下でなければならない。5mg/平方m未満では、十分な耐食性が得られず、200mg/平方mを超えると皮膜が凝集破壊しやすく、密着性が低下するからである。好ましくは20mg/平方m以上100mg/平方m以下である。付着量の測定は金属化合物に含まれるZr、Ti、Vを蛍光X線分析装置にて分析して、皮膜中のZr、Ti、Vの濃度から計算する方法が好ましい。
【0012】
化成皮膜に含まれる金属化合物としてはZr化合物、Ti化合物、V化合物のいずれかでなければならない。他の金属化合物を用いたものより耐食性が優れるからである。金属化合物は有機樹脂と相溶性がよいものが好ましい。具体的には、Zr化合物としては、炭酸ジルコニウムナトリウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムフッ化水素酸ナトリウム、ジルコニウムフッ化水素酸アンモニウム、ジルコニウムフッ化アンモニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル等があり、Ti化合物しては、硫酸チタニル、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン、チタンラウレート、フルオロチタン酸等がある。V化合物としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、三酸化バナジウム、バナジウムアセチルアセテート等を用いることができる。添加量としては皮膜中に10質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0013】
化成皮膜に含まれる有機樹脂として、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂としては、多価アルコール類と多塩基酸の脱水縮合物を用いることができる。多価アルコール類としてはエチレングリコール、プロピレングリコール等があり、多塩基酸としては、無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸等がある。ポリウレタン系樹脂としては、例えば、多価アルコール類とイソシアネート化合物の反応物を用いることができ、イソシアネート化合物としてはトリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等がある。エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾンシル型エポキシ樹脂等及びそれらのアクリル樹脂との反応物を用いることができる。アクリル系樹脂としてはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アミド等の重合物を用いることができる。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレンと不飽和カルボン酸等の重合物があり、不総和カルボン酸としては、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等がある。有機樹脂の種類としては特にアクリル樹脂が好ましい。添加量としては皮膜中に50質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0014】
Mgを含有するアルミニウム合金材に化成皮膜を形成する場合、特にアルカリ性脱脂液にて脱脂するとMg化合物が溶解しないことから、アルミニウム等アルカリに溶解する元素のみが溶解し、Mg化合物が濃縮する。この濃縮したMg化合物が存在する状態でノンクロム化成処理を実施すると、皮膜にMg化合物が取り込まれ、皮膜の結合を阻害して、密着性、耐食性が悪化する。
【0015】
化成皮膜の形成には脱脂後、酸洗によってMg化合物を除去する必要があるが、特許文献1、特許文献2に開示されるように除去したのでは不十分であった。上記特許文献では主要化成金属成分が最大濃度を示す深さにおけるMg濃度を15質量%以下と規定しているが、他の深さでは濃度が高い場合があり、この高濃度なMg化合物が性能を低下させると考えれられる。発明者が種々の酸洗を実施して、ノンクロム化成皮膜を形成して塗装後耐食性を調査した結果、皮膜のすべての深さにおいて、20質量%以下であれば、本発明の用途に使用されるアルミニウム合金板塗装材としても十分な性能を有することがわかった。
【0016】
化成皮膜中のMg濃度はGDOES(グロー放電発光分析)あるいはAES(オージェ電子分光分析)にて皮膜表面からアルミニウム合金内部まで深さ方向の元素分析を行い、そのプロファイル(縦軸を各元素の質量濃度、横軸を深さ方向分析時間(あるいは深さ)とした、各元素の深さ方向の分布を示すグラフ)より決めることができる。質量濃度は標準試料を分析して各元素の信号強度と質量濃度の検量線を作成することによって求めることができる。好ましくは15質量%以下である。
【0017】
化成皮膜中のMg濃度を制御するには、pHが4以下の水溶液を用い、40〜80℃にて1〜30秒酸洗することが好ましい。具体的には硫酸、硝酸、あるいはそれらの混酸等を用いることができる。特に硫酸は安価であるとともに比較的廃水処理がしやすい。また、硫酸を用いる場合、濃度は0.5〜15重量%が好ましい。0.5重量%未満ではアルミニウム合金によってはMgを十分除去することが難しい場合がある。上限としては、硫酸濃度は15重量%で十分であり、それを超える濃度にしても不経済なだけである。処理温度は40〜80℃が好ましい。40℃未満では反応が遅く、処理に時間がかかる。上限としては80℃で十分な反応速度であり、それを超えると一般的なステンレスの処理装置の劣化が激しいからである。処理時間は1〜30秒が好ましい。1秒未満では温度を高くしても十分な処理ができず、上限としては30秒で十分であり、それを超えて処理しても生産性が低下するだけである。
【0018】
アルミニウム合金板化成処理材上に形成される塗装膜は、本発明の用途、建材、電気電子製品部品等に用いられる場合は、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂の少なくとも1種類よりなる厚さ0.5〜30μmの樹脂層を1層または2層形成することが好ましい。いずれの樹脂系を用いるかは、個々の用途とコストから決めればよい。内装建材の場合はエポキシ系プライマにエポキシ系またはポリエステル系トップコートを用いるのがよい。外装建材の場合は、エポキシ系プライマにポリエステル系トップコートを用い、特に過酷な環境にて使用する場合はフッ素系トップコートを塗装するとよい。
【実施例1】
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
JIS A5182板材(厚さ0.5mm)を用いて、市販のアルカリ性脱脂液(例えば日本ペイント製SC−420N−2)をスプレーして脱脂し、酸洗として表1に示す条件にて薬剤をスプレーして処理した。なお硫酸、硝酸はいずれも5重量%のものを使用した。さらに表1に示すノンクロム処理剤をバーコーターにて塗布後80℃にて乾燥して化成処理材とした。この化成処理材に表2に示す塗料をバーコーターにて塗布、焼き付けして塗装板とした。
【0022】
化成皮膜のポリエステル樹脂としてはエチレングリコールと無水フタル酸の脱水縮合物、ポリウレタン樹脂としてはプロピレングリコールとトリレンジイソシアネートの重合物、アクリル樹脂としてはメタクリル酸の重合物、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂としてはエチレンとマレイン酸の重合物を用いた。Zr化合物としてはジルコニウムフッ化アンモニウム、Ti化合物としては硫酸チタニル、V化合物としてはメタバナジン酸アンモニウム、Nb化合物としては酸化ニオブをいずれも皮膜中に20重量%になるように添加した。
【0023】
化成皮膜の付着量は蛍光X線分析装置にて各金属化合物に含まれる金属元素を定量分析して算出した。皮膜中のMg質量濃度は、Mgの検量線を有するGDOESにて深さ方向分析を実施し、そのプロファイルから最大Mg質量濃度を読み取った。塗装後性能評価としては、耐食性と密着性を評価した。耐食性は幅70×長さ150(mm)のサンプルにクロスカットをいれ、JIS Z2371に準拠した塩水噴霧試験を表2に示す時間を実施したあとの腐食状態を目視観察した。

◎:腐食発生なし
○:クロスカット部が若干腐食(クロスカット部より1mm未満)
△:クロスカット部が腐食(クロスカット部より1mm以上)
×:クロスカット部及び一般部が腐食

○以上であれば、建材、電気電子製品部品等に用いられるアルミニウム合金板塗装材として問題なく使用できる。

密着性は碁盤目試験にて実施した。1mm角の碁盤目(升目100個)をけがき、一次(塗装したそのまま)及び二次(沸騰水浸漬2時間後)の、テープ剥離した後の塗膜残存升目数を測定した。

◎:剥離なし(残存升目が100/100)
○:残存升目が95/100以上残存
△:残存升目が75/100以上95/100未満
×:残存升目が75/100未満

○以上であれば、建材、電気電子製品部品等に用いられるアルミニウム合金板塗装材として問題なく使用できる。

【0024】
本発明例はいずれも良好な耐食性及び密着性を有し、建材、電気電子製品部品等に用いられるアルミニウム合金板塗装材として有用である。一方、比較例は耐食性または密着性が劣り、建材、電気電子製品部品等に用いられるアルミニウム合金板塗装材としては不適当である。表1中、番号1は化成皮膜の付着量が少なすぎるので耐食性が劣った。表1中、番号8は化成皮膜の付着量が多すぎるので、密着性が劣った。
表1中、番号13は化成皮膜中のMg濃度が20質量%を超えた部分があるので、耐食性が劣った。表1中、番号23は酸洗液のpHが高すぎたため十分Mgが除去できず、化成皮膜中のMg濃度が20質量%を超えた部分が発生し、耐食性が劣った。表1中、番号24は酸洗時間が短めであることから化成皮膜中のMg濃度が20質量%を超えた部分が発生し、耐食性が劣った。表1中、番号25は化成皮膜に有機樹脂が含まれないことから耐食性が劣った。表1中、番号26は化成皮膜に金属化合物が含まれていないので、耐食性が劣る。表1中、比較例27は金属化合物がZr化合物、Ti化合物、V化合物のいずれでもないので、耐食性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板化成処理材において、化成皮膜が5〜200mg/平方m形成され、該化成皮膜中に有機樹脂を含み、さらに金属化合物成分としてZr化合物、Ti化合物、V化合物の少なくとも1種類を含み、該化成皮膜中のいずれの深さにおいてもMg濃度が20質量%以下であることを特徴とするアルミニウム合金板化成処理材。
【請求項2】
アルミニウム合金板に対し、pHが4以下の水溶液を用い、40〜80℃にて1〜30秒酸洗し、その後、有機樹脂を含み、さらに金属化合物成分としてZr化合物、Ti化合物、V化合物の少なくとも1種類を含む処理液中で化成皮膜付着量が5〜200mg/平方mとなるように化成処理を施すことを特徴とする、アルミニウム合金板の化成処理方法。
【請求項3】
請求項1のアルミニウム合金板化成処理材上に、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂の少なくとも1種類よりなる厚さ0.5〜30μmの樹脂層を1層または2層に形成したことを特徴とするアルミニウム合金板塗装材。

【公開番号】特開2009−79252(P2009−79252A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248937(P2007−248937)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】