説明

ノンコートエアバッグ用織物

【課題】エアバッグ用織物に求められる優れた低通気性と、環境老化試験後も低通気性が維持できるノンコートエアバッグ用織物を提供することにある。
【解決手段】総繊度が200〜700dtex、単糸繊度が1〜2dtexである合成繊維フィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、該織物の初期通気度は試験差圧19.6kPaで測定した時に0.50L/cm2/min以下であり、かつ該織物を120℃の環境下で400時間熱老化処理を施した後の通気度が初期通気度に対して150%以下となることを特徴とするノンコートエアバッグ用織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンコートエアバッグ用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全意識の向上に伴い、自動車の事故が発生した際に乗員の安全を確保するために、種々のエアバッグが開発されるに伴いその有効性が認識され、急速に実装化が進んでいる。
【0003】
エアバッグは、車両が衝突してから極めて短時間に車内で膨張展開することで、衝突の反動で移動する乗員を受け止め、その衝撃を吸収して乗員を保護するものである。この作用上、エアバッグを構成する織物の通気量は小さいこと(低通気性)が求められている。また、エアバッグを構成する織物は自動車内で自動車が使用される長期の間、常に低通気性を維持することが求められており、日本の夏場などの高温雰囲気下で曝された後でも環境に左右されることなく、低通気性を維持する必要がある。
【0004】
従来、織物の通気量を小さくする手段として、織物に樹脂を塗布したり、フィルムを貼り付けた、コート布が提案されている。
【0005】
しかし、樹脂を塗布したり、フィルムを貼り付けたりすると、織物の厚みが増し、収納時のコンパクト性が悪化し、エアバッグ用織物としては不適当な点があった。また、このような樹脂塗布工程やフィルムの貼り付け工程が増えることによって、製造コストが上がるという問題があった。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、近年、樹脂加工を施さず、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成フィラメント糸を高密度に製織することで織物の通気量を小さくするノンコート布が提案されており、例えば、低通気性を実現したノンコート布として、乾燥仕上工程を多段階で行った低通気性に優れたノンコートエアバッグ用織物が開示されている(例えば特許文献1参照)。該文献では初期ならびに環境老化試験後において低通気度化が可能であると記載されているものの、実施例で記載されている織物のうち、最も低い通気度は試験差圧125Pa下で測定したときに0.10cc/cm2/secであり、これは試験差圧19.6kPa下で測定した値では約0.7L/cm2/minに相当し、決して低い通気度であるとは言えなかった。また、環境老化試験後の通気度は初期通気度に対して約180%高くなっており、環境老化試験後にも低通気性が得られているとは言い難かった。
【0007】
また、自動車内で長期間装備されるエアバッグ用基布に求められる耐熱老化性を解決する方法として、銅化合物を含有するポリカプラミド繊維からなるエアバッグ用基布が開示されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、該文献では最も低い通気度の織物として6cc/cm2/sec(=0.36L/cm2/min)があるものの、強制耐熱処理後の通気度は10cc/cm2/sec(=0.60L/cm2/min)であり、その変化率は167%と決して環境に左右されない低通気性を有しているとは言い難かった。
【0008】
このように、従来技術では、初期および環境老化試験後も低通気性が得られるノンコートエアバッグ用織物は実現されていない。
【特許文献1】特開2002−146646号公報(表1)
【特許文献2】特開2006−183205号公報(表1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、環境老化試験後も低通気性が維持できるノンコートエアバッグ用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、総繊度が200〜700dtex、単繊維繊度が1〜2dtexである合成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、該織物の初期通気度は試験差圧19.6kPaで測定した時に0.5L/cm2/min以下であり、かつ該織物を120℃の環境下で400時間熱老化処理を施した後の通気度が初期通気度に対して150%以下となることを特徴とするノンコートエアバッグ用織物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エアバッグが優れた低通気性を有し、かつ長期間自動車内に装備された後でも優れた低通気性を維持するノンコートエアバッグ用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のノンコートエアバック用織物は合成繊維マルチフィラメント糸からなる。マルチフィラメント糸を構成する合成繊維の素材としては例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、超高分子量ポリエチレン系繊維等を用いることができる。なかでも、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維が好ましく、耐熱性や毛羽品の観点から、ポリアミド系繊維がさらに好ましい。
【0013】
ポリアミド系繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維を挙げることができる。なかでも、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は耐衝撃性に特に優れており、好ましい。
【0014】
また、ポリエステル系繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0015】
また、合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0016】
また、合成繊維の単繊維の断面形状としては、特に限定されるものではなく、円形の他、Y型、V型、扁平型等の非円形、さらには中空部を有するものも用いることができる。
【0017】
本発明のノンコートエアバッグ用織物を構成する合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度は200〜700dtexであることが必要である。総繊度が200dtex未満の場合、織物の強力面が低下するとともに、低通気性が得られにくくなる。また、高強度の繊維を安定して得ることが困難となるため、織物の品位も悪化し、原糸・織物ともに生産性が悪化する。一方、700dtexを越えると、単繊維繊度1〜2dtexの合成繊維で構成するには単繊維糸数が多くなりすぎ、一度に紡糸することが極めて困難であるため、2〜3本のマルチフィラメント糸を合糸して形成する必要が生じ、生産性を損なうことになるとともに、エアバッグをコンパクトに収納できにくくなる。好ましい総繊度の範囲は230〜500dtexであり、より好ましくは、280〜470dtexである。この範囲内の総繊度とすることで、基布の強力、低通気性、バッグ収納コンパクト性をバランスよく向上させることができる。
【0018】
本発明に用いられる合成繊維マルチフィラメント糸の単繊維繊度は1〜2dtexであることが必要であり、1.2〜1.8dtexとすることが好ましい。単繊維繊度をこの範囲内にすることで、織物を構成するマルチフィラメント糸が細密充填構造をとり、初期の低通気性が得られるばかりでなく、耐環境老化試験後も細密充填構造が維持されることで、低通気性が維持できる。単繊維繊度が1dtex未満の場合、低通気性の面では好ましいが、紡糸性が極端に低下し、単繊維繊度1dtex未満の糸を安定して生産することが難しい。一方、単繊維繊度が2dtexより大きくなると、織物を構成するマルチフィラメント糸が細密充填構造をとりにくくなり、低通気性が得られにくくなるばかりでなく、耐環境老化試験を行うと、織物構造の変化により、通気度上昇が大きくなる。また、単繊維繊度をこの範囲にすることにより、マルチフィラメント糸の剛性を低下させる効果が得られるため、エアバッグの収納性も向上させることができる。
【0019】
エアバッグ用織物を構成するマルチフィラメント糸に関しては、総繊度、単繊維繊度をともに小さくすることが長年に渡り検討され続けてきたが、本発明のように総繊度200〜700dtexの範囲で2dtex未満の単繊維繊度を有するポリアミド繊維が実際に作製された例はなく、このようなポリアミド繊維を用いてエアバッグ用の布帛を構成した場合に具備される特性についても当然開示された例はない。これは、従来の検討では、基布の特性向上が3〜4dtex程度まで単繊維繊度を小さくすると飽和する傾向にあったことに加え、単繊維数が100本以上で2dtex以下の単繊維繊度を有する産業用のポリアミド繊維を直接紡糸延伸法にて安定して製造することが極めて困難であったことによる。本発明者らは、後述の方法にて単繊維数が100本以上で2dtex以下のポリアミド繊維を得る方法、および該ポリアミド繊維から構成されたエアバッグ用基布が有する特性について鋭意検討した。その結果、単繊維繊度のみ異なるポリアミド繊維を同じ方法によって基布とした場合、単繊維繊度を2dtex以下とすることで初期の低通気性、耐環境劣化試験後の低通気性、収納時のコンパクト性、滑脱抵抗力が全て向上することを究明したものである。特に1.8dtex以下の単繊維繊度とすることによる耐環境劣化試験後の低通気性維持については、従来の検討結果から推測される値を大きく上回ることを究明したものである。なお単繊維繊度が1dtex未満のエアバッグ用に適したポリアミド繊維は、本発明の方法を用いても得ることは困難である。
【0020】
本発明のノンコートエアバッグ用織物の初期通気度は、試験差圧19.6kPaで測定した時に0.50L/cm2/min以下を有することが必要であり、よし好ましくは0.40L/cm2/min以下である。通気量を上記範囲に調整することで、衝突時にインフレーターから発せられる膨張用ガスを漏れなく有効に使用することができ、エアバッグの展開性能が向上し、乗員を確実に受け止めることができる。該通気度が0.50L/cm2/minを超えると、乗員の衝突によりエアバッグの膨張状態を維持できず、乗員拘束性が劣る。なお、試験差圧19.6kPaで測定した時の初期通気度は、後述する実施例の欄の測定方法「(14)初期通気度」に記載された方法で測定した値をいう。
【0021】
また、本発明のノンコートエアバッグ用織物の耐環境老化試験後の通気度は、初期通気度に対して150%より大きくならないことが重要である。エアバッグは自動車内に10〜20年といった長期間装備され、その間、夏季、冬季などの高温、低温、さらには高湿度、低湿度といったあらゆる環境下に曝される。本発明者らはどの環境下が織物の通気度にどのように影響するかを鋭意検討した結果、耐熱老化が最も通気度を悪化させ、耐熱老化試験後の通気度が初期通気度対比150%より大きくならないことが、あらゆる環境下で低通気性を維持できることを見出した。耐熱老化試験とは120℃の温度雰囲気下で400時間、織物を緊張させずに処理する試験方法であり、該試験後、織物を20℃、65%RH下で24時間放置した後、試験差圧19.6kPaで通気度を測定する。具体的には、後述する実施例の欄の測定方法「(15)耐熱老化試験後の通気度」に記載された方法で測定した値をいう。通常、エアバッグは初期通気度を基にバッグ展開性能を設定するために、該耐熱老化試験後の通気度が初期通気度対比で150%より大きくなると、自動車内に長期装備した後はエアバッグを構成する織物からのガス漏れが大きくなり、乗員を確実に受け止めることができなくなる。また、該耐熱老化試験度の通気度が初期通気度対比で150%より大きい場合、逆に長期装備後の大きくなる通気度を想定してエアバッグ展開性能を設定する(例えば、ベントホールを小さくする)必要が生じ、その場合、自動車の使用直後、つまり長期装備前ではエアバッグからのガス漏れが少なくなりすぎ、逆に乗員へのダメージが大きくなってしまう。従って、あらゆる環境下で通気度が変化しない織物が必要である。該耐熱老化試験度の通気度が初期通気度に対して140%以下であることが好ましく、130%以下であることがさらに好ましい。また、該耐熱老化試験後の通気度は0.50L/cm2/min以下であることが、乗員を受け止めた後しばらくの間エアバッグの膨張状態を維持する上で好ましい。
【0022】
本発明のエアバッグ用織物を構成するマルチフィラメント糸の引張強度としては、エアバッグ用織物として要求される機械的特性を満足するためと製糸操業面から、タテ糸およびヨコ糸ともに8.0〜9.0cN/dtexが好ましく、より好ましくは8.3〜8.7cN/dtexである。同時にマルチフィラメント糸の伸度が20〜25%であることが、エアバッグ用基布のタフネス性、破断仕事量を増大させるためと製糸性および製織性向上の面から好ましく、21〜24%であることがより好ましい。
【0023】
また、織物のカバーファクター(CF)は、1800〜2300とすることが好ましい。カバーファクターをこの範囲に調整することで、必要な織物のコンパクト収納性と低通気性を両立することができる。該カバーファクターを1800以上とすることで、通気度を小さくすることができる。また、該カバーファクターを2300以下とすることで、コンパクト収納性を向上させることができる。
【0024】
ここで、織物のカバーファクター(CF)とは、タテ糸あるいはヨコ糸に用いられる糸の総繊度と織密度から計算される値であり、タテ糸総繊度をDw(dtex)、ヨコ糸総繊度をDf(dtex)、タテ糸の織密度をNw(本/2.54cm)、ヨコ糸の織密度をNf(本/2.54cm)としたとき次の式で表される。
CF1=(Dw×0.9)1/2×Nw+(Df×0.9)1/2×Nf
次に、本発明のエアバッグ用基布を構成する好ましい形態であるポリアミドマルチフィラメント糸の製造方法と、エアバッグ用基布を製造する方法について説明する。
【0025】
ポリアミドマルチフィラメント糸は公知の溶融紡糸をベースに以下の方法で製造することが好ましい。
【0026】
まず、前記したポリアミドチップをエクストルーダー型紡糸機へ供給し、計量ポンプにより紡糸口金へ配し、適切な温度(例えば、ナイロン66なら290〜300℃)で溶融紡糸する。この際、紡糸口金の孔スペックは、単繊維繊度のバラツキを小さくして製織中の毛羽の発生を抑制するために、適切な背面圧(例えば、ナイロン66なら少なくとも60kg/cm以上であり、好ましくは80〜120kg/cm)に設計することが好ましい。また、同心円上に吐出孔を配列させ、その列数は好ましくは2〜8列、より好ましくは3〜6列である。列数が少なすぎると単繊維間距離が小さくなりすぎ、紡糸中に単繊維同士が衝突し、悪い場合は融着するし、多すぎると冷却斑による単繊維間の物性斑が大きくなるため好ましくない。また、最外周に配列した各吐出孔を同心円として結んだときの直径は、加熱筒や環状冷却装置の内径より小さくするが、好ましくは8〜25mm、より好ましくは10〜20mm小さくすればよい。最外周の孔の位置が加熱筒や環状冷却装置に近すぎると、固化前のマルチフィラメント糸が装置と接触しやすくなり紡糸が不安定になるし、遠すぎる場合はマルチフィラメント糸の冷却が不十分になり、高強度・高伸度のポリアミドマルチフィラメント糸を得難くなる。
【0027】
口金より吐出された紡出マルチフィラメント糸は、円筒状の加熱筒と円筒状の環状冷却装置を順次通過させることで冷却固化を完了させる。単繊維繊度が1.5dtex以上であれば加熱筒を使用してもしなくてもよいが、使用する場合は筒内径を環状冷却装置と同じにすることで筒内の加熱筒と冷却装置の接触箇所での空気流の乱れを防止することが好ましく、50〜100mmの長さで筒内の雰囲気温度が250〜350℃となるように加熱した後、環状冷却装置を用いて冷却することが好ましい。加熱筒長が長すぎるとポリアミドマルチフィラメント糸の長手方向の太さ斑が大きく悪化するので好ましくない。一方、単繊維繊度が1.5dtex未満の場合は、加熱筒を使用せずに環状冷却装置を設置して、紡出糸条をより早く冷却させ始めることで糸長手方向の太さ斑が極端に悪化するのを防ぐことが好ましいが、その際、口金面を冷やして口金面温度が低下すると、高強度・高伸度のポリアミドマルチフィラメント糸を得難くなるため、環状冷却装置の最上部から100mm以内の一定の長さで、100〜250℃の熱風を吹き出すようにすることが好ましい。環状冷却装置によるマルチフィラメント糸の冷却においては、ポリアミドをガラス転移点まで十分に冷却できるように10〜50℃の冷却風を用いることが好ましい。環状冷却装置の基本構成は公知のものを用いればよい。例えば、多数の毛細管状の孔を有する多孔質の部材から筒体を構成し、冷却筒内部に送られた冷却風が冷却風の吹出箇所からマルチフィラメント糸の長手方向へ整流されつつ吹き出されるようにすればよい。また、冷却風速を調節するために、例えば、冷却筒エレメントのエア導入部にパンチング状のプレートやメッシュなど多孔質部材を設置することが好ましい。本発明のエアバッグ用基布を構成する高強度・高伸度な単繊維細繊度のポリアミドマルチフィラメント糸、特にナイロン66マルチフィラメント糸を得るには、以下の特徴を有する構成とすることが好ましい。
【0028】
冷却風は吐出孔群の外周側から中心側へ吹き出すようにする。この構成とすることで、ポリエステル系に比べ、冷却難度の高いポリアミドマルチフィラメント糸を充分に冷却するだけの冷却風を供給することができる。中心側から外周側へ吹き出す構成とした場合、本発明のポリアミドマルチフィラメント糸を得るには単繊維が必要以上に外側へ張り出すため、あるいは過度に長い冷却設備が必要となるため、設備の大型化を招くことになり好ましくない。
【0029】
冷却筒の長さは、従来提案されている環状冷却設備より相当に長く、冷却風の吹出し長さが600〜1200mmの範囲にすることが好ましく、より好ましくは800〜1000mmである。600mm以上であれば本発明のポリアミドマルチフィラメント糸を充分に冷却することができ、良好な機械的特性および毛羽品位等を得ることができる。1200mm以下であれば、設備自体が長くなりすぎず好ましい。
【0030】
冷却筒内と大気圧との差圧は、好ましくは500〜1200Paであり、より好ましくは600〜1100Pa、さらに好ましくは800〜1000Paとなるように加圧して冷却風を送風することが好ましい。従来の横吹出し冷却装置を用いた場合、冷却風を弱めてマルチフィラメント糸の機械的特性が低下すると毛羽品位も悪化する傾向にあった。ところが環状冷却装置を用いた場合、該差圧が本発明のポリアミドマルチフィラメントの物性に与える影響は小さく、例えば200Pa程度でも延伸倍率の調整のみで機械的特性を調節することができるが、意外にも500Pa以上とすることで毛羽の発生が著しく抑えられることがわかった。また、1200Pa以下とすると、風速が大きくなりすぎず、糸同士の接触を防ぎやすくなるため好ましい。
【0031】
また、該装置長手方向に対する冷却風の風速は不均一で、上部側風速Vを10〜30m/分、下部側風速Vを40〜80m/分とし、VがVより小さく、V/Vが2〜3であることが好ましい。より好ましいVとVの範囲はそれぞれ15〜25m/分、50〜70m/分である。装置長手方向で少なくとも2段階の大きな風速比率変更を行い、前記風速範囲とすることで、マルチフィラメント糸長手方向の太さ斑が悪化することなく繊維物性を向上させることができる。特に上部側で徐冷効果を生み出すことによって、マルチフィラメント糸のタフネス性が向上し、同一強度とした場合の伸度が2〜5%程度変化する。このような風速比率の変更に関しては、冷却風吹出し部の最上部から全長の10〜50%程度の位置で変更させることが好ましく、より好ましくは15〜45%である。その手段としては、冷却筒の外筒と多孔質部材からなる整流筒の間で、比率を変更したい位置にドーナツ状の多孔質部材を設置することで、該位置を境界に筒中の上下間にさらに差圧を与え、上下の風速を変更する手段や、冷却装置自体を2段構成としてそれぞれの筒内と大気圧との差圧を調節する手段などが考えられるが、いずれの方法を用いても問題はない。
従来の横吹出し冷却設備を用いて総繊度200〜700dtex、単繊維繊度1〜2dtexのポリアミドマルチフィラメント糸を製造しようとした場合は、紡出部での糸揺れが激しくなりすぎ、単繊維同士の接触を抑えることができなかったのに対し、前記した方法では、マルチフィラメント糸固化前の冷却風の風速を小さくしても冷却風と紡出マルチフィラメント糸との距離が近いため、冷却不足とはならず、かつエアがぶつかりあって下降気流を形成し、冷却風の水平方向速度成分を大きく低下させることができるため、糸揺れを抑えながら製糸可能になるものと推察される。
【0032】
その後、得られた冷却マルチフィラメント糸は公知の方法で油剤を付与し、引き取りロールで引き取り、延伸した後巻き取ることができる。油剤は公知の油剤を用いることができるが、引き取りロール上での単糸巻き付きを抑制するために、その付着量は0.3〜1.5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.0重量%である。
【0033】
また、引き取りロールの回転速度で定義される紡糸速度が500〜1000m/分であることが好ましく、より好ましくは700〜900m/分である。紡糸速度が500m/分以上であると、最終的な生産速度も充分となり、安価にポリアミドマルチフィラメント糸を製造できる。1000m/分以下とすると、糸切れや毛羽の多発を防ぐことができ好ましい。
【0034】
これら前記した方法で得られた紡出マルチフィラメント糸は、公知の方法を用いて延伸や弛緩熱処理、および巻取り等を行うことができ、例えば、2〜3段で100〜250℃の多段延伸熱処理を施した後、1〜10%で50〜200℃の弛緩熱処理を施すこと等が可能である。
【0035】
また、マルチフィラメント糸に付与する交絡は織機の種類や製織速度にあわせ適宜選択することができるが、本発明による方法であれば過度に交絡を施す必要はなく、15〜30個/mの交絡数が得られるように、交絡付与装置の種類や付与条件を変更すればよい。15個/mを大きく下回っても30個/mを上回っても、高次工程通過性は悪化する傾向となる。同様に交絡の強度も公知の範囲のものを用いればよい。
【0036】
こうして、従来提案された方法では製糸できなかった総繊度200〜700dtexで単繊維繊度が1〜2dtexのエアバッグ用に適したポリアミドマルチフィラメント糸を、好ましくは強度8〜9cN/dtex、伸度20〜25%、沸騰水収縮率4〜10%で糸斑なく、安価にかつ優れた製糸性や毛羽品位で得ることが可能となる。すなわち、直接紡糸延伸法により、製糸速度3000m/分以上で、より好ましくは3500m/分以上で、かつ8糸条以上の多糸条同時延伸法を用いて効率良く生産することができる。
【0037】
本発明のエアバッグ用織物は、まず、前述した素材および繊度のタテ糸を整経して織機にかけ、同様にヨコ糸の準備をする。かかる織機としては例えば、ウォータージェットルーム、エアージェットルームおよびレピアルームなどが使用可能である。中でも生産性を高めるためには、高速製織が比較的容易なウォータージェットルームを用いるのが好ましい。
【0038】
次に、製織においてタテ糸張力を50〜200cN/本に調整して行うことが好ましく、より好ましくは80〜150cN/本である。該張力をこの範囲内にすることで、織物を構成するタテ糸のマルチフィラメント糸の糸束がヨコ糸のマルチフィラメント糸を押し付けマルチフィラメント糸の糸束が広がり、楕円状の糸束になるので、通気度を低減させるには効果的ではある。タテ糸張力が50cN/本よりも小さいと、織物を構成するマルチフィラメント糸の糸束中の単繊維間空隙を減少させることができず、通気度を低減させにくくなる。また、200cN/本よりも大きいと、製織時に毛羽などが発生し、生産性の面でよくない。
【0039】
該タテ糸張力を上記範囲内に調整する具体的方法としては、織機のタテ糸送り出し速度を調整する他、ヨコ糸の打ち込み速度を調整する方法が挙げられる。タテ糸張力が製織中に実際に上記範囲内となっているかどうかは、例えば織機稼動中に経糸ビームとバックローラーとの中間において、タテ糸一本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、確認することができる。
【0040】
また、タテ糸開口における上糸の張力と下糸の張力とに10〜90%の差をつけることが好ましい。そうすることで、前述のタテ糸の曲がり構造が助長され、タテ糸とヨコ糸とが互いに強く押さえつけられてマルチフィラメント糸の糸束が広がり、楕円状の糸束になるので、通気度を低減させるには効果的ではある。
【0041】
タテ糸開口における上糸の張力と下糸の張力とに差をつける方法としては例えば、バックローラーを高めの位置に設置するなどして、上糸の走行線長と下糸の走行線長とに差をつける方法がある。例えば、バックローラーと綜絖との間にガイドロールを配し、このガイドロールにより開口支点をワープラインから上または下にずらすことで、開口時に片方の糸の走行線長が他方に比べ長くなる分、張力が上がり、上糸の張力と下糸の張力とに差をつけることが可能になる。ガイドロールの設置位置としては、バックローラーと綜絞との間隔に対しバックローラー側から20〜50%の位置に配置することが好ましい。また、開口支点の位置はワープラインから5cm以上離すことが好ましい。
【0042】
また、上糸の張力と下糸の張力とに差をつける他の方法としては例えば、開口装置にカム駆動方式を採用し、上糸・下糸の片側のドエル角を他方よりも100度以上大きく取る方法もある。ドエル角を大きくした方の張力が高くなる。
【0043】
織機のテンプルとしては、バーテンプルを用いることが好ましい。バーテンプルを用いると、織前全体を把持しながら筬打ちすることができるため、合成繊維フィラメント同士の空隙を小さくすることができ、その結果低通気性が向上するからである。
【0044】
次に製織工程が終わると、必要に応じて、精練、熱セット等の加工を施す。熱セット温度については120℃以上180℃以下とすることが好ましい。120℃未満であると耐熱老化試験時に織物が収縮し、織物構造が変化するため、タテ糸とヨコ糸が交錯する部分に隙間が発生し、耐熱老化試験後の通気度悪化を引き起こす。一方、180℃より大きいと、熱セット加工時に織物中の糸が収縮し、タテ糸とヨコ糸が交錯する部分に隙間が発生し、初期通気度自身の悪化を引き起こす。
【0045】
本発明のエアバッグ用織物は、袋状に縫製し、インフレーターなどの付属機器を取り付けてエアバッグとし、運転席用、助手席用および後部座席用、側面用エアバッグなどに使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
[測定方法]
(1)総繊度:JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0047】
(2)単繊維数(フィラメント数):JIS L1013(1999) 8.4の方法で算出した。
【0048】
(3)単繊維繊度:総繊度を、上記(2)で求めた単繊維数で除することで算出した。
【0049】
(4)強度及び伸度:JIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0050】
(5)沸騰水収縮率:原糸をカセ状にサンプリングして、20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さLを測定した。次に、この試料を無緊張状態で沸騰水中に30分間浸漬した後、上記温湿度調整室で4時間風乾し、再び試料に0.045cN/dtex相当の荷重をかけて長さLを測定した。それぞれの長さLおよびLから次式により沸騰水収縮率を求めた。
沸騰水収縮率=[(L−L)/L]×100(%)
(6)毛羽評価:得られた繊維パッケージを500m/分の速度で巻き返し、巻き返し中のマルチフィラメント糸から2mm離れた箇所にヘバーライン社製レーザー式毛羽検知機“フライテックV”を設置し、検知された毛羽総数を10万mあたりの個数に換算して表示した。
【0051】
(7)風速:カノマックス(KANOMAX)社製アネモマスターを各測定点で冷却風吹出部に密着させ測定した。測定点は冷却風吹出部を構成する筒体の上端部より0、50、100mmの位置と100mm以上は100mm毎に筒体の下端部まで、それぞれ円周方向に90度ずつ角度を変え4点測定し、この4点の風速平均を冷却風吹出部上端部からの各距離での風速とした。次いで、上下風速を設備的対応で変更した場合は、該変更位置で上部側と下部側に線引きし、意図的な風速比率変更を行わない場合は、上端部より300mmの位置で上部側と下部側に線引きし、区間風速積分を各有効冷却長で除することによってVとVをそれぞれ求めた。
【0052】
例えば、筒体上端部よりa(mm)の位置の風速をVa(m/分)、冷却風吹出し長さをL(mm)とすると、350mmの位置で意図的に風速比率を変更させた場合の算出法は下記のとおりとなる。
=[50(V+2V50+V100)+100(V100+V200)+150(V200+V300)]/2/350
=[150(V400+V500)+100(V500+V600)+・・・]/2/(L−350)
なお、・・・は600mm以降で最大測定点まで同様に計算して足しあわせることを意味する。
【0053】
(8)織物厚さ
JIS L 1096:1999 8.5に則り、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0054】
(9)タテ糸・ヨコ糸の織密度
JIS L 1096:1999 8.6.1に基づき測定した。
試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5か所について2.54cmの区間のタテ糸およびヨコ糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
【0055】
(10)織物目付け
JIS L 1096:1999 8.4.2に則り、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0056】
(11)織物の引張強力
JIS K 6404−3 6.試験方法B(ストリップ法)に則り、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を5枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るまでの最大荷重を測定し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
【0057】
(12)織物の破断伸度
JIS K 6404−3 6.試験方法B(ストリップ法)に則り、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を5枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、これら試験片の中央部に100mm間隔の標線を付け、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るときの標線間の距離を読み取り、下記式によって、破断伸度を算出し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
E=[(L−100)/100]×100
ここに、E:破断伸度(%)、
L:切断時の標線間の距離(mm)。
【0058】
(13)引裂強力
JIS K 6404−4 6.試験方法B(シングルタング法)に準じ、長辺200mm、短辺76mmの試験片をタテ、ヨコ、両方にそれぞれ5個の試験片を採取し、試験片の短辺の中央に辺と直角に75mmの切込みを入れ、定速緊張型の試験機にてつかみ間隔75mm、引張速度200mm/minで試験片が引ききるまで引裂き、その時の引裂き荷重を測定した。得られた引裂き荷重のチャート記録線より、最初のピークを除いた極大点の中から大きい順に3点選び、その平均値をとった。最後にタテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、平均値を算出した。
【0059】
(14)初期通気度
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて、試験差圧19.6kPaで試験したときの通気量を測定した。試料の異なる5か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、口径100mmの円筒の一端に試験片を取り付け、取り付け箇所から空気の漏れが無いように固定し、レギュレーターを用いて試験差圧19.6kPaに調整し、そのときに試験片を通過する空気量を流量計で計測し、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0060】
(15)耐熱老化試験後の通気度
資料の異なる5か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、120±2℃に温度調節した乾燥機中に、該試験片に張力がかからないようにして、400時間熱処理を施した。その後、該試験片を乾燥機から取り出し、20±2℃、65±5%RH雰囲気下で24時間放置後、初期通気度と同じ方法で通気度を測定し、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0061】
(16)タテ糸張力
金井工機(株)製チェックマスター(登録商標)(形式:CM−200FR)を用い、織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分において、タテ糸一本当たりに加わる張力を測定した。
【0062】
(17)タテ糸開口における上糸の張力・下糸の張力
タテ糸が開口した状態で織機を停止させ、バックローラーと綜絞との間(バックローラーと綜絖との間にガイドロールを配している場合には、ガイドロールと綜絞との間)において、上側にあるタテ糸一本あたりに加わる張力を上記(9)で用いたのと同様の張力測定機にて、上糸の張力として測定した。また同様にして、下側にあるタテ糸一本あたりに加わる張力を下糸の張力として測定した。
【0063】
[実施例1]
(タテ糸・ヨコ糸)
液相重合で得られたナイロン66チップに酸化防止剤として酢酸銅の5重量%水溶液を添加して混合し、ポリマ重量に対し、銅として68ppm添加吸着させた。次に沃化カリウムの50重量%水溶液および臭化カリウムの20重量%水溶液をポリマチップ100重量部に対してそれぞれカリウムとして0.1重量部となるよう添加吸着させ、バッチ式固相重合装置を用いて固相重合させて硫酸相対粘度が3.8のナイロン66ペレットを得た。得られたナイロン66ペレットをエクストルーダへ供給し、計量ポンプにより総繊度が表1のマルチフィラメント糸を2本得るように吐出量を調節して紡糸口金に配し、295℃で溶融紡糸した。ここで、硫酸相対粘度は試料2.5gを96%濃硫酸25ccに溶解し、25℃恒温槽の一定温度下において、オストワルド粘度計を用いて測定した値である。各紡糸口金は、表1に示す単繊維数のマルチフィラメント糸を2糸条得ることのできる数、即ち表1に示す単繊維数の2倍の吐出孔が直径0.22mmで4つの同心円上に配置され、最外周の吐出孔群を同心円状に結んだときの直径は、加熱筒および冷却筒の内径より14mm小さいものを用いた。口金直下には300℃に加熱した100mmの加熱筒を設け、表1の冷却風吹出し長さを有する円筒状の環状冷却装置を用いて、20℃の冷却風を冷却筒内と大気圧との差圧が表1の値となるように加圧して送風し、紡出マルチフィラメント糸を冷却固化せしめた。冷却筒の冷却風吹出部を構成する筒体としては、厚さ4.6mmで濾過精度40μmの孔を有するフェノール樹脂含浸セルロースリボンを螺旋状に巻き付け筒状に成形した富士フィルター製“フジボン”を用いた。また、冷却筒の冷却風吹出部の上端から350mmの位置に、筒内上下での冷却風の速度を変更させるようにドーナツ状で開口率22.7%のパンチングプレートを配置した。冷却固化されたマルチフィラメント糸には、次に平滑剤等を有する非水系油剤を付与し、紡糸引き取りローラに捲回し、紡出マルチフィラメント糸を引き取った。引き続き、連続してマルチフィラメント糸を延伸・熱処理ゾーンに供給し、直接紡糸延伸法によりナイロン66マルチフィラメント糸を製造した。この際、最も回転速度の大きい延伸ローラの回転速度(以下、延伸速度)を3600m/分の一定速度とし、引取速度と延伸速度比で表される総合延伸倍率が表1に示される値となるように引き取りローラの回転速度を調節した。
【0064】
引き取られたマルチフィラメント糸は、引き取りローラと給糸ローラの間で5%のストレッチをかけ、次いで給糸ローラと第1延伸ローラの間で該ローラ間の回転速度比が2となるように1段目の延伸、第1延伸ローラと第2延伸ローラの間で2段目の延伸を行った。引き続き、第2延伸ローラと弛緩ローラとの間で6%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にてマルチフィラメント糸を交絡処理した後、巻き取り機にて巻き取った。各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラが40℃、第1延伸ローラが140℃、第2延伸ローラは230℃、弛緩ローラが150℃となるように設定した。また、原糸付着油分量が1.0重量%となるように非水系油剤の付与量を調整した。交絡処理は、交絡付与装置内で走行マルチフィラメント糸に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行マルチフィラメント糸を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.35MPaで一定とした。
冷却筒内の上部側および下部側平均風速測定値を含む繊維製造条件と得られたナイロン66マルチフィラメント糸の特性を表1に示す。
【0065】
上記方法を用いて製糸したナイロン66マルチフィラメント糸の内50kgを500m/分の速度で巻き返し、レーザー式毛羽検知器を用いて繊維パッケージ内に存在する毛羽を調べた結果も同様に表1に示す。
【0066】
得られたナイロン66マルチフィラメント糸は、十分な機械的特性を有し、毛羽の少ないポリアミドマルチフィラメント糸を得ることができた。
【0067】
【表1】

【0068】
得られたナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度1.8dtex、フィラメント数192、総繊度350dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0069】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度が56本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が63本/2.54cmの織物を製織した。
【0070】
織機としてはウォータージェットルームを用い、筬打ち部とフリクションローラーとの間にはバーテンプルを設置して織物を把持し、バックローラーと綜絞との間に、バックローラから40cmの位置で、ワープラインから7cmタテ糸を持ち上げるようにガイドロールを取り付けた構成とした。
【0071】
製織条件としては、製織時のタテ糸張力を147cN/本、織機停止時の上糸の張力を118cN/本、下糸の張力を167cN/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
【0072】
(熱セット工程)
次いでこの織物に、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で160℃にて1分間の熱セット加工を施した。
【0073】
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示した。得られたエアバッグ用織物は初期の低通気性に優れ、かつ耐熱老化試験後の通気度変化も少ないものであった。
【0074】
【表2】

【0075】
[比較例1]
(タテ糸・ヨコ糸)
1500mmの長さを有する横吹出し冷却装置から30m/分の冷却風を均一に吹き出させることによって、総繊度350dtexで単繊維数が136本のマルチフィラメント糸を延伸速度が3200m/分で2糸条得ることができるようにした。紡糸口金は、吐出孔間隔の最小値が7.5mmとなるように配列したものを用いて、表1の条件でナイロン66マルチフィラメント糸の製造をした以外は実施例1と同様にして行った。
【0076】
得られたナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度2.6dtex、フィラメント数136、総繊度350dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0077】
(製織工程および熱セット工程)
実施例1と同様の製織および熱セット加工を施した。
【0078】
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示した。得られたエアバッグ用織物は、初期通気度が高く、かつ耐熱老化試験後の通気度変化も大きいものであった。
【0079】
[比較例2]
(タテ糸・ヨコ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0080】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、実施例1と同様の製織条件で、タテ糸の織密度が56本/2.54cm、ヨコ糸の織密度が63本/2.54cmの織物を製織した。
【0081】
(熱セット工程)
次いでこの織物に、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で100℃にて1分間の熱セット加工を施した。
【0082】
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示した。得られたエアバッグ用織物は、初期通気度は問題ないが、耐熱老化試験後の通気度変化が大きいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によるエアバッグ用織物は、エアバッグ用織物に求められる優れた低通気性を有し、かつ長期間自動車内に装備された後でも優れた低通気性を維持する。そのため、本発明のエアバッグ用織物は、特に運転席用、助手席用、側面衝突用サイドエアバッグなどに好適に用いることができるが、その適用範囲がこれらに限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が200〜700dtex、単繊維繊度が1〜2dtexである合成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、該織物の初期通気度は試験差圧19.6kPaで測定した時に0.50L/cm2/min以下であり、かつ該織物を120℃の環境下で400時間熱老化処理を施した後の通気度が該初期通気度に対して150%以下であることを特徴とするノンコートエアバッグ用織物。
【請求項2】
前記熱老化処理を施した後の通気度が0.50L/cm2/min以下であることを特徴とする請求項1記載のノンコートエアバッグ用織物。

【公開番号】特開2010−111958(P2010−111958A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284046(P2008−284046)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】