説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブル

【課題】引張強さ、耐寒性等の機械的特性を損なわず、有毒ガスを発生させずに、トリアジン系難燃助剤に相当する難燃効果を有することでUIC規格を満たす難燃性を備える電線用のノンハロゲン難燃性樹脂組成物、及び当該ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線、並びにケーブルを提供する。
【解決手段】本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上250重量部以下の金属水酸化物と、1重量部以上50重量部以下のホウ酸カルシウムと、1重量部以上50重量部以下のすず酸亜鉛とを含み、UIC規格 CODE895 OR 3rd edition appendix6に準拠した垂直燃焼試験において炎を取り去った後の燃焼時間が30秒未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブルに関する。特に、本発明は、電線被覆用ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道は、輸送量に対するエネルギー消費量、及び二酸化炭素の排出量が少なく、地球環境に優しい輸送手段として注目されている。特に、鉄道車両網が発達している欧州では、EN規格(欧州規格)と呼ばれる地域統一規格の採用が広がっている。また、鉄道に関しては、団体規格として、UIC規格(国際鉄道連合規格)があり、日本国内の規格に比べると難燃特性の基準が高い。
【0003】
ここで、ハロゲン化合物を含まない難燃性樹脂組成物として、ポリオレフィン系樹脂に水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した組成物が存在する。当該組成物は、燃焼時に塩化水素、ダイオキシン等の有毒ガスが発生しないので、火災時における毒性ガスの発生、及び二次災害等を防止することができ、かつ、廃棄時に焼却処理できる。
【0004】
欧州の鉄道車両用電線に求められるUIC規格を満たす難燃性の高い難燃性樹脂組成物を当該組成物で実現しようとするには難点がある。すなわち、EN規格において要求される電線の引張特性等を考慮すると、金属水酸化物の添加量だけを増加させた場合、添加量の増加に伴い、電線の伸び、引張強さ、耐寒性等の機械的特性が著しく低下する場合があり、所望の難燃特性が得られない。そこで、金属水酸化物の添加量を減少させることができる難燃助剤の検討が続けられている。
【0005】
従来、金属水和物と難燃助剤としてのメラミンシアヌレート等の1,3,5−トリアジン系難燃助剤とを併用する樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の樹脂組成物は、チャー形成作用が高く、難燃効果に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−095638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
火災安全性を重視したEN規格においては、ケーブル燃焼時の人体への影響を少なくすることが要求されており、低毒性についても判断基準にされている。特許文献1に係る樹脂組成物においては1,3,5−トリアジン系難燃助剤を用いるので、許容し得るレベルではあるものの、燃焼時に極微量のシアン系ガスを発生させる場合がある。低毒性の面を考慮すると、燃焼時における毒性を更に低下させるべく、工夫の余地がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、引張強さ、耐寒性等の機械的特性を損なわず、有毒ガスを発生させずに、トリアジン系難燃助剤に相当する難燃効果を有することでUIC規格を満たす難燃性を備える電線用のノンハロゲン難燃性樹脂組成物、及び当該ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線、並びにケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上250重量部以下の金属水酸化物と、1重量部以上50重量部以下のホウ酸カルシウムと、1重量部以上50重量部以下のすず酸亜鉛とを含み、UIC規格 CODE895 OR 3rd edition appendix6に準拠した垂直燃焼試験において炎を取り去った後の燃焼時間が30秒未満であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供される。
【0010】
(2)また、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、ポリオレフィン系樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)であることが好ましい。
【0011】
(3)また、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、金属水酸化物が、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0012】
(4)また、本発明は、上記目的を達成するため、(1)〜(3)のいずれか1つに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成される絶縁層と、絶縁層により被覆される導体とを備える電線が提供される。
【0013】
(5)また、上記電線において、−40℃において、引張速度25mm/minにおける引張試験を実施したときに30%以上の伸びを有することが好ましい。
【0014】
(6)また、本発明は、上記目的を達成するため、(1)〜(3)のいずれか1つに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成されるシースと、絶縁層により被覆される導体とを備え、絶縁層の外側をシースが被覆するケーブルが提供される。
【0015】
(7)また、上記ケーブルにおいて、−40℃において、引張速度25mm/minにおける引張試験を実施したときに30%以上の伸びを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブルによれば、引張強さ、耐寒性等の機械的特性を損なわず、有毒ガスを発生させずに、トリアジン系難燃助剤に相当する難燃効果を有することでUIC規格を満たす難燃性を備える電線用のノンハロゲン難燃性樹脂組成物、及び当該ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線、並びにケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第2の実施の形態に係る電線の断面図である。
【図2】本発明の第3の実施の形態に係るケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、本発明者が、数種類の難燃剤と難燃助剤とを組合せ、EN規格の引張特性、耐寒性、及びUIC規格の高い難燃性の全てを兼ね備え、低毒性の要件を満たすノンハロゲン難燃性樹脂組成物を見出したことにより実現された。
【0019】
具体的に、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマに、金属水酸化物と、ホウ酸カルシウムと、すず酸亜鉛とが添加されて構成される。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−スチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(H−SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4〜20のαオレフィンとの共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体、ブテン−1を主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体等を用いることができる。なお、これらのポリオレフィン系樹脂は、単独又は2種類以上を混合して用いることができる。本実施の形態においては、ポリオレフィン系樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いることが好ましい。
【0021】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、又はこれらにニッケルを固溶させた物質を用いることができる。また、これらの金属水酸化物に、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ステアリン酸塩若しくはステアリン酸カルシウム等の脂肪酸、又は脂肪酸金属塩等により表面処理を施すこともできる。金属水酸化物は、十分な難燃性を確保することを目的として、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上添加される。また、金属水酸化物は、機械的特性、耐寒性を確保することを目的として、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、250重量部以下添加される。
【0022】
ホウ酸カルシウムは、十分な難燃性を確保することを目的として、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、1重量部以上添加される。また、ホウ酸カルシウムは、機械的特性、耐寒性を確保することを目的として、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以下添加される。また、すず酸亜鉛は、十分な難燃性を確保することを目的として、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、1重量部以上添加される。更に、すず酸亜鉛は、機械的特性、耐寒性を確保することを目的として、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以下添加される。
【0023】
なお、ベースポリマにホウ酸カルシウムのみを添加した場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を燃焼させると十分な硬さの炭化層が形成されにくく、すず酸亜鉛のみを添加した場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を燃焼させると十分な速さで断熱層が形成されない可能性がある。したがって、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物においては、十分な難燃性を確保することを目的として、金属水酸化物とホウ酸カルシウムとすず酸亜鉛とを併用する。
【0024】
更に、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物には、架橋剤、架橋助剤、滑剤、軟化剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加剤を適宜、添加することもできる。また、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物に対し、有機過酸化物を用いた化学架橋、電子線等の放射線の照射による照射架橋を実施することもできる。更に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の特性を向上させることを目的として、予め定められた量の難燃助剤を添加することもできる。
【0025】
(第1の実施の形態の効果)
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上250重量部以下の金属水酸化物と、1重量部以上50重量部以下のホウ酸カルシウムと、1重量部以上50重量部以下のすず酸亜鉛とが添加されて構成される。したがって、燃焼時にハロゲン系ガス、ホスフィンガス、及びシアンガス等の有毒ガスを発生せず、機械特性、耐熱性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を提供することができる。
【0026】
[第2の実施の形態]
図1は、本発明の第2の実施の形態に係る電線の断面の概要を示す。
【0027】
第2の実施の形態に係る電線1は、導体10と、第1の実施の形態において説明したノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成され、導体10を被覆する絶縁層20とを備える。電線1は、−40℃において、引張速度25mm/minにおける引張試験を実施したときに30%以上の伸びを有する。
【0028】
[第3の実施の形態]
図2は、本発明の第3の実施の形態に係るケーブルの断面の概要を示す。
【0029】
第3の実施の形態に係るケーブル2は、導体10と、導体10を被覆する絶縁層25と、第1の実施の形態において説明したノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成され、絶縁層25の外側を被覆するシース30とを備える。ケーブル2は、−40℃において、引張速度25mm/minにおける引張試験を実施したときに30%以上の伸びを有する。
【実施例】
【0030】
実施例においては、電線被覆用のノンハロゲン難燃性樹脂組成物、及び当該ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線を作製した。具体的には、表1に示す配合割合で各種の化合物等を配合し、加圧ニーダを用いて開始温度40℃、終了温度180℃で混練することにより混練物を得た。次に、混練物をペレット状に成形し、設定温度110℃で被覆厚さが0.7mmになるように導体の外周にペレットを連続加硫押出し、電線を作製した。電線の評価は以下の方法により実施した。
【0031】
(引張試験)
作製した電線について、EN60811−1−1に準拠して引張試験を実施した。引張強さは、10MPa未満の電線を「×」(不合格)、10MPa以上の電線を「○」(合格)とした。伸びは、150%未満の電線を「×」(不合格)、150%以上の電線を「○」(合格)とした。
【0032】
(難燃性試験)
作製した電線について、UIC規格 CODE895 OR 3rd edition appendix6に準拠して垂直燃焼試験を実施した。判定は、炎を取り去った後の燃焼時間が30秒以上の電線を「×」(不合格)、30秒未満の電線を「○」(合格)とした。
【0033】
(低温引張試験)
作製した電線について、EN60811−1−4に準拠して−40℃にて引張試験を実施した。伸びが30%未満の電線を「×」(不合格)、30%以上の電線を「○」(合格)とした。
【0034】
表1には、実施例1〜13に係る電線に用いたノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合剤及び配合比、並びに電線の特性を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
また、表2には、比較例1〜8に係る電線に用いたノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合剤及び配合比、並びに電線の特性を示す。比較例1〜8に係る電線についても、実施例と同様にして作製した。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例1〜9に係る電線においては、引張強さ、伸び、垂直燃焼試験の全てが合格であり、低温引張特性も目標を満たし、良好な特性を示した。また、実施例1〜9に係る電線においては、トリアジン系難燃助剤を含有していないので、低毒性を確保することができた。
【0039】
比較例1に係る電線は、水酸化マグネシウムの添加量が48重量部であり、50重量部以上の範囲外であることから、難燃性が不十分であった。また、比較例2に係る電線は、水酸化マグネシウムの添加量が255重量部であり、250重量部以下の範囲外であることから、引張特性及び低温引張特性が不十分であった。
【0040】
比較例3に係る電線は、すず酸亜鉛の添加量が0.9重量部であり、1重量部以上の範囲外であることから、難燃性が不十分であった。また、比較例4に係る電線は、すず酸亜鉛の添加量が51重量部であり、50重量部以下の範囲外であることから、引張特性及び低温引張特性が不十分であった。
【0041】
比較例5に係る電線は、ホウ酸カルシウムの添加量が0.9重量部であり、1重量部以上の範囲外であることから、難燃性が不十分であった。また、比較例6に係る電線は、ホウ酸カルシウムの添加量が51重量部であり、50重量部以下の範囲外であることから、引張特性及び低温引張特性が不十分であった。更に、比較例7に係る電線は、すず酸亜鉛の添加量が10重量部、ホウ酸カルシウムの添加量が10重量部であるが、ホウ酸カルシウムが添加されていないことから、難燃性が不十分であった。比較例8に係る電線は、ホウ酸カルシウムの添加量が10重量部であるが、すず酸亜鉛が添加されていないことから、難燃性が不十分であった。
【0042】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0043】
1 電線
2 ケーブル
10 導体
20 絶縁層
25 絶縁層
30 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂のベースポリマ100重量部に対し、50重量部以上250重量部以下の金属水酸化物と、1重量部以上50重量部以下のホウ酸カルシウムと、1重量部以上50重量部以下のすず酸亜鉛とを含み、UIC規格 CODE895 OR 3rd edition appendix6に準拠した垂直燃焼試験において炎を取り去った後の燃焼時間が30秒未満であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)である請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムである請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成される絶縁層と、
前記絶縁層により被覆される導体と
を備える電線。
【請求項5】
−40℃において、引張速度25mm/minにおける引張試験を実施したときに30%以上の伸びを有する請求項4に記載の電線。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成されるシースと、
絶縁層により被覆される導体と
を備え、
前記絶縁層の外側を前記シースが被覆するケーブル。
【請求項7】
−40℃において、引張速度25mm/minにおける引張試験を実施したときに30%以上の伸びを有する請求項6に記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12547(P2012−12547A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152760(P2010−152760)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】