説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブル

【課題】酸化防止剤による変色を抑制したノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線及びケーブルを提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、ポリオレフィン系樹脂と、フェノール系酸化防止剤と、金属水酸化物と、二酸化チタン、モノアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド、及びペリレンレッドのうちの少なくとも1つからなる顔料と、アミド結合を有する添加剤と、を含むノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供される。このノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部の前記アミド結合を有する添加剤が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブルに関する。特に、本発明は、酸化防止剤による変色を抑制したノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線、及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲン化合物を含まないノンハロゲン難燃性樹脂組成物として、ポリオレフィン系樹脂に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を添加した組成物が用いられている。これらの組成物には、成形加工時及び使用時の劣化を抑制する目的で酸化防止剤が添加されている。
【0003】
この酸化防止剤としては、ラジカル生成によるポリマ分子鎖の開裂を抑制するフェノール系酸化防止剤もしくはアミン系酸化防止剤が一般的に使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。このうち、アミン系酸化防止剤はそれ自身が黄色や茶色等の色相を有し、また使用時に変色しやすいため、白色や薄い色が望まれる組成物においては、比較的変色が発生しにくいフェノール系酸化防止剤が多く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−199783号公報
【特許文献2】特開昭63−56544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物はポリ塩化ビニル(PVC)と比較して成形加工に要される温度が比較的高いため、フェノール系酸化防止剤を用いる場合であっても酸化防止剤に変色が発生しやすい。また、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物に難燃剤として水酸化マグネシウムを多量に添加した等の場合、変色が発生しやすい。
【0006】
これらの変色の発生は、組成物が黒色等の濃い色相を有する場合は問題とならないが、白色や黄色等の薄い色相を有する場合は変色の影響が顕著に現れるため、問題となる。例えば、絶縁層の色によりケーブルを識別する機器電線の被覆膜の材料としてノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いる場合、所望の色相が得られずケーブルの識別が困難になるおそれがある。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、酸化防止剤による変色を抑制したノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線及びケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、ポリオレフィン系樹脂と、フェノール系酸化防止剤と、金属水酸化物と、二酸化チタン、モノアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド、及びペリレンレッドのうちの少なくとも1つからなる顔料と、アミド結合を有する添加剤と、を含むノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供される。このノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部の前記アミド結合を有する添加剤が含まれる。
【0009】
(2)上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1.0〜3.0重量部の前記フェノール系酸化防止剤が含まれることが好ましい。
【0010】
(3)上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して150〜300重量部の前記金属水酸化物が含まれることが好ましい。
【0011】
(4)上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して5〜40重量部の1,3,5−トリアジン誘導体が含まれることが好ましい。
【0012】
(5)また、本発明の他の一態様によれば、導体と、前記導体の周りに形成され、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成される絶縁層と、を有する電線が提供される。
【0013】
(6)また、本発明の他の一態様によれば、導体が絶縁体で被覆された線心と、前記線心の周りに形成され、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成されるシースと、を含むケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、酸化防止剤による変色を抑制したノンハロゲン難燃性樹脂組成物、電線及びケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第2の実施の形態に係る電線の断面図である。
【図2】本発明の第3の実施の形態に係るケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態の要約)
本発明の実施の形態によれば、ポリオレフィン系樹脂に、難燃剤としての金属水酸化物、酸化防止剤としてのフェノール系酸化防止剤及び薄い色相を有する顔料を添加し、さらにアミド結合を有する添加剤を適量添加することにより、変色が抑制された白色、黄色等の薄い色相を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0017】
すなわち、本発明の実施の形態によれば、ポリオレフィン系樹脂に変色の原因である酸化防止剤を従来と同程度の量で添加する場合であっても、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の変色を抑制することができる。
【0018】
また、このノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、導体を被覆する絶縁体又はシースを形成することにより、変色が抑制された薄い色相を有する電線及びケーブルを得ることができる。
【0019】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂にフェノール系酸化防止剤、難燃剤としての金属水酸化物、顔料、及びアミド結合を有する添加剤を添加することにより形成される。さらに、難燃剤として1,3,5−トリアジン誘導体をポリオレフィン系樹脂に添加してもよい。
【0020】
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂として、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−スチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(H−SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4〜20のαオレフィンとの共重合体、エチレン−スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体、ブテン−1を主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体などを用いることができ、特に、EVAをもちいることが好ましい。これらのうちの1つ又は2つ以上をポリオレフィン系樹脂として用いることができる。
【0021】
(金属水酸化物)
金属水酸化物として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。これらのうちの1つ又は2つ以上を金属水酸化物として用いることができる。また、これらの金属水酸化物として、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸又は、脂肪酸金属塩等によって表面処理されているものを用いてもよい。
【0022】
本実施の形態においては、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して150〜300重量部の金属水酸化物をポリオレフィン系樹脂に添加することにより、優れた難燃性をノンハロゲン難燃性樹脂組成物に付与することが可能である。添加量が150重量部より少ない場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物に十分な難燃性を付与することができない。添加量が300重量部より多い場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の伸び特性が著しく低下する。
【0023】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤は、分子骨格にフェノール基が含まれた分子であり、特に限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル)−S−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジーtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等を用いることができる。これらのうちの1つ又は2つ以上をフェノール系酸化防止剤として用いることができる。
【0024】
本実施の形態においては、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1.0〜3.0重量部のフェノール系酸化防止剤をポリオレフィン系樹脂に添加することにより、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の酸化を効果的に抑えることができる。添加量が1.0重量部より少ない場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の酸化を十分に抑えることができない。添加量が300重量部より多い場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物に変色が発生する可能性が高くなる。
【0025】
(アミド結合を有する添加剤)
アミド結合を有する添加剤は特に限定されないが、例えば、1,3−ベンゼンジカルボン酸ビス[2−(1−オキソ−2−フェノキシプロピル)ヒドラジド、2−,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、ドデカン二酸ビス[N2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]などを用いることができ、特に、ドデカン二酸ビス[N2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]を用いることが好ましい。これらのうちの1つ又は2つ以上をアミド結合を有する添加剤として用いることができる。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01重量部以上のアミド結合を有する添加剤をポリオレフィン系樹脂に添加することにより、フェノール系酸化防止剤の変色を抑制する効果が得られる。また、アミド結合を有する添加剤は一般に高価であり、また、多量に添加すると架橋度等の他の物性に影響を与える場合があるため、添加量は0.01〜2重量部であることが好ましい。
【0027】
(顔料)
顔料として、二酸化チタン、モノアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド、ペリレンレッド等を用いることができる。これらの顔料は白色、黄色等の薄い色相の組成物を形成するために用いられる顔料である。これらのうちの1つ又は2つ以上を顔料として用いることができる。また、これらの顔料を他の顔料と併用してもよい。二酸化チタンは、酸化チタン(IV)や、単に酸化チタン、およびチタニアとも呼ばれ、その構造によってルチル型、アナターゼ型に分類できる。これらのどちらを用いてもよいが、ルチル型二酸化チタンを用いることがより好ましい。
【0028】
顔料の添加量は、顔料として用いる範囲であれば特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1重量部〜20重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では着色効果が低く、また20重量部より多い場合は伸び特性等が低下する。顔料は直接添加してもよいし、顔料の分散性を向上するため分散剤等と混合したカラーマスターバッチ等の形状で添加してもよい。
【0029】
(1,3,5−トリアジン誘導体)
1,3,5−トリアジン誘導体は、燃焼時300℃以上で分解、昇華し、不燃性ガスを発生するため、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の難燃性に寄与するものと考えられる。1,3,5−トリアジン誘導体として、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン等を用いることができ、特に、メラミンシアヌレートを用いることが好ましい。これらは、非イオン性表面活性剤や各種カップリング剤により表面処理されていてもよい。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して5〜40重量部の1,3,5−トリアジン誘導体を添加することが好ましい。添加量が5重量部より少ない場合はノンハロゲン難燃性樹脂組成物に十分な難燃性が付与されず、50重量部より多い場合はノンハロゲン難燃性樹脂組成物の機械的強度が低下する。
【0031】
(他の添加剤)
上記の添加剤以外にも、必要に応じてフェノール系以外の酸化防止剤、金属不活性剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加剤を加えることが可能である。更に、有機過酸化物の使用、電子線などの放射線の照射によりポリマーを架橋させてもよい。
【0032】
フェノール系以外の酸化防止剤は、特に限定されないが、例えば、硫黄系酸化防止剤等を用いることができる。硫黄系酸化防止剤は、特に限定されないが、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンを用いることが好ましい。1つ又は2つ以上の防止剤をフェノール系以外の酸化防止剤として用いることができる。
【0033】
金属水酸化物以外の難燃剤は、特に限定されないが、例えば、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム等のホウ酸化合物、スルファミン酸グアニジン、硫酸メラミン、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、リン系難燃剤または、燃焼時に発泡する成分と固化する成分の混合物からなる難燃剤であるインテュメッセント系難燃剤を用いることができる。
【0034】
架橋助剤は、特に限定しないが、例えばトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)や、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)を用いることが好ましい。
【0035】
(ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の製造)
まず、ポリオレフィン系樹脂に金属水酸化物、フェノール系酸化防止剤、顔料、アミド結合を有する添加剤、及び上記のその他の化合物を添加し、加圧ニーダを用いて加熱しながら混練することによりノンハロゲン難燃性樹脂組成物を得る。
【0036】
ここで、混練の際の最高温度は、例えば、160℃〜240℃である。最高温度が160℃よりも低い場合は、品質のよいノンハロゲン難燃性樹脂組成物が得られない。最高温度が240℃よりも高い場合は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物に変色が発生する可能性が高くなる。
【0037】
[第2の実施の形態]
図1は、本発明の第2の実施の形態に係る電線の断面を概略的に表す。
【0038】
第2の実施の形態に係る電線1は、導体10と、導体10を被覆する絶縁体11とを有する。ここで、絶縁体11は、第1の実施の形態において説明されたノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主に構成される。
【0039】
[第3の実施の形態]
図2は、本発明の第3の実施の形態に係るケーブルの断面を概略的に表す。
【0040】
第3の実施の形態に係るケーブル2は、導体20を絶縁体21で被覆した3本の線心22と、3本の線心22と共に撚り合わせられる紙介在23と、3本の線心22及び紙介在23に巻かれた押え巻きテープ24と、ケーブル2の最外層に押出し被覆により設けられたシース25を有する。ここで、シース25は、第1の実施の形態において説明されたノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主に構成される。
【0041】
(実施の形態の効果)
第1の実施の形態によれば、ポリオレフィン系樹脂に、難燃剤としての金属水酸化物、酸化防止剤としてのフェノール系酸化防止剤及び薄い色相を有する顔料を添加し、さらにアミド結合を有する添加剤を適量添加することにより、変色が抑制された白色、黄色等の薄い色相を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
また、第2及び第3の実施の形態によれば、製造時及び使用時における変色が抑制された薄い色相を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて形成された電線及びケーブルを得ることができる。
【0043】
なお、実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物を、農業用フイルム、ストレッチフィルム、チューブ、包装材の他、家電用、自動車用、医療用プラスチック部品等の製造に用いてもよい。
【0044】
アミド結合を有する添加剤を加えることにより変色が抑制されるメカニズムについては以下のように考えられる。
【0045】
一般に、樹脂組成物の成形加工時に、熱やせん断力によりポリマ分子がラジカル開裂を起こし易くなる。これにより発生したラジカルによりポリマの主鎖が次々と切断され、ポリマの劣化が進行する。フェノール系の酸化防止剤は、ポリマに発生したラジカルに自身のフェノール部位から水素ラジカルを供与することにより、ポリマの劣化を抑制する効果がある。
【0046】
しかし、水素ラジカルを供与したフェノール系酸化防止剤も成形加工時の熱やせん断力を受け、それによってフェノール系酸化防止剤のフェノール骨格が炭素−酸素間に二重結合を有するキノン骨格に変化する。キノン骨格を持つ分子は黄色や茶色等の色相を持つため、樹脂組成物全体に変色を発生させる。ここで、フェノール骨格及びキノン骨格は、それぞれ下記の構造式I、IIで表される。
【0047】
【化1】

【0048】
【化2】

【0049】
そこで、アミド結合を有する添加剤を添加することにより、そのアミド基からフェノール系酸化防止剤に水素ラジカルを供与し、キノン骨格への変化を抑制することができる。
【0050】
水素ラジカルを供与する添加剤としては、フェノール系酸化防止剤や、アミン系酸化防止剤が一般的に用いられるが、発明者等らの検討結果では、フェノール系酸化防止剤や、アミン系酸化防止剤の添加では変色を抑制する効果は見られなかった。
【0051】
アミド結合を有する添加剤においては、電子吸引性のカルボニル基がアミノ基に隣り合うことで、アミノ基からの水素ラジカルの供与性が向上していると考えられる。
【実施例】
【0052】
実施例およびその比較例として、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシート及び導体をノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体で被覆した電線を作製し、特性の評価を実施した。
【0053】
表1は、実施例1〜14に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合剤及び配合比、並びに評価結果を示す。実施例1〜14に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合剤の配合比は、各々第1の実施の形態で規定された範囲内にある。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示される実施例1〜14において、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及び低密度ポリエチレン(LDPE)を用いた。ここで、EVAとして、33重量%の酢酸ビニルを含有するものと28重量%の酢酸ビニルを含有するものを用いた。これらのいずれも、50ppmのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含み、メルトフローレート(MFR)が1.0である。
【0056】
LDPEの密度及びMFRは、それぞれ924kg/m、0.4である。
【0057】
アミド結合を有する添加剤として、ドデカン二酸ビス[N2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]及び1,3−ベンゼンジカルボン酸ビス[2−(1−オキソ−2−フェノキシプロピル)ヒドラジドを用いた。
【0058】
金属水酸化物として、水酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製のマグシーズS4)を用いた。
【0059】
1,3,5−トリアジン誘導体として、メラミンシアヌレート(堺化学工業(株)製のMC−5S)を用いた。
【0060】
フェノール系酸化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(精工化学(株)製のスワノックスBHT)、及びペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン(株)製のイルガノックス1010)を用いた。
【0061】
フェノール系以外の酸化防止剤として、硫黄系酸化防止剤(シプロ化成(株)製のシーノックス412S)を用いた。
【0062】
顔料として、二酸化チタン(石原産業(株)製のR−680)及びモノアゾイエロー(大日精化(株)製のA−3エロー)を用いた。
【0063】
例えば、実施例1、2においては、アミド結合を有する添加剤の添加量を第1の実施の形態で規定された好適な範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部)内で異ならせた。
【0064】
実施例3においては、他の実施例と異なるアミド結合を有する添加剤を用いた。実施例4においては、異なる2つのアミド結合を有する添加剤を併用した。
【0065】
実施例5においては、フェノール系酸化防止剤としてのBHTの添加量を第1の実施の形態で規定された好適な範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1.0〜3.0重量部)内で他の実施例よりも多くした。実施例6においては、他の実施例と異なるフェノール系酸化防止剤を用いた。
【0066】
実施例8においては、ポリオレフィン系樹脂として、他の実施例と異なる量の酢酸ビニルを含むEVAを用いた。
【0067】
実施例9においては、酢酸ビニルの含有量が異なるEVAを併用した。実施例10においては、他の実施例と異なるポリオレフィン系樹脂を用いた。
【0068】
実施例11においては、金属水酸化物としての水酸化マグネシウムの添加量を第1の実施の形態で規定された好適な範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して150〜300重量部)内で他の実施例よりも少なくした。実施例12においては、それを他の実施例よりも多くした。
【0069】
実施例13においては、1,3,5−トリアジン誘導体としてのメラミンシアヌレートの添加量を第1の実施の形態で規定された好適な範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.1重量部〜20重量部)内で他の実施例よりも少なくした。実施例14においては、それを他の実施例よりも多くした。
【0070】
表2は、比較例1〜10に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物の配合剤及び配合比、並びに評価結果を示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示される比較例1〜10において、ポリオレフィン系樹脂としてEVAを用いた。このEVAは、33重量%の酢酸ビニル及び50ppmのBHTを含み、MFRが1.0である。
【0073】
アミド結合を有する添加剤として、ドデカン二酸ビス[N2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]及び1,3−ベンゼンジカルボン酸ビス[2−(1−オキソ−2−フェノキシプロピル)ヒドラジドを用いた。
【0074】
金属水酸化物として、水酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製のマグシーズS4)を用いた。
【0075】
1,3,5−トリアジン誘導体として、メラミンシアヌレート(堺化学工業(株)製のMC−5S)を用いた。
【0076】
フェノール系酸化防止剤として、BHT(精工化学(株)製のスワノックスBHT)を用いた。
【0077】
アミノ系酸化防止剤として、4,4'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業(株)製のノクラックCD)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業(株)製のノクラックWHITE)を用いた。
【0078】
フェノール系及びアミノ系以外の酸化防止剤として、硫黄系酸化防止剤(シプロ化成(株)製のシーノックス412S)を用いた。
【0079】
顔料として、二酸化チタン(石原産業(株)製のR−680)を用いた。
【0080】
例えば、比較例1〜3においては、アミド結合を有する添加剤の添加量が第1の実施の形態で規定された範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部)よりも少ない。比較例4、5においては、アミド結合を有する添加剤の代わりに、アミン系酸化防止剤を添加した。比較例6においては、アミド結合を有する添加剤の添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも多い。
【0081】
比較例7においては、難燃剤としての水酸化マグネシウムの添加量が第1の実施の形態で規定された範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して150〜300重量部)よりも少ない。比較例8においては、難燃剤としての水酸化マグネシウムの添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも多い。
【0082】
比較例9においては、難燃剤としてのメラミンシアヌレートの添加量が第1の実施の形態で規定された範囲(ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して5〜40重量部)よりも少ない。比較例10においては、難燃剤としてのメラミンシアヌレートの添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも多い。
【0083】
まず、表1、2に示す配合割合で各種の化合物等を配合し、加圧ニーダを用いて加熱しながら混練することにより混練物を得た。ここで、開始温度40℃、終了温度150℃の温度条件下で混練した低温混練物、開始温度40℃、終了温度190℃の温度条件下で混練した中温混練物、及び開始温度40℃、終了温度240℃の温度条件下で混練した高温混練物を形成した。
【0084】
次に、低温混練物および高温混練物をペレット状に成形し、それを8インチオープンロールで加工し、さらに180℃の圧力条件下でプレスし規定の厚さのノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシートを得た。
【0085】
また、中温混練物を用いて設定温度200℃で被覆厚さが0.81mmになるように導体の外周に混練物を押出し被覆し、導体をノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体で被覆した電線を形成した。その後、電線に照射量30kGyの電子線を照射した。
【0086】
シート及び電線の評価を以下の方法により実施した。
【0087】
(変色試験)
変色の有無は、低温混練物から形成されたシートと、高温混練物から形成されたシートを目視により比較し、変色が発生したものを×(不合格)、変色が発生しないものを○(合格)と判定した。
【0088】
(引張試験)
JIS C 3005に準拠した引張試験を電線に実施した。電線の引張強さの評価においては、引張強さが10MPa未満のものを×(不合格)、10〜13MPaのものを○(合格)、それ以上のものを◎(裕度を持って合格)と判定した。電線の伸びの評価においては、伸びが150%未満のものを×(不合格)、150〜300%のものを○(合格)、それ以上のものを◎(裕度を持って合格)と判定した。
【0089】
(難燃性試験)
垂直燃焼試験(VW−1)を電線に実施した。VW−1試験は、UL subject758に準拠した難燃性試験である。電線の難燃性の評価においては、燃焼時間が30秒未満のものを◎(裕度を持って合格)、1分未満のものを○(合格)、1分以上のものを×(不合格)と判定した。
【0090】
(実施例の評価結果)
実施例1〜14に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物によれば、シートの変色試験、電線の引張試験(引張強さ試験及び伸び試験)及び難燃性試験の全てが合格であった。
【0091】
また、実施例11〜14の結果を比較することにより、難燃剤としての水酸化マグネシウム及びメラミンシアヌレートの添加量の増加に伴って難燃性が向上することが分かった。
【0092】
(比較例の評価結果)
比較例1〜5及び7〜10に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、シートの変色試験の結果が不合格と判定された。例えば、比較例1〜5においては、アミド結合を有する添加剤の添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも少なかったために変色が発生したと考えられる。
【0093】
一方、比較例6においては、アミド結合を有する添加剤の添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも多かったためにシートの変色試験の結果は合格と判定されたが、引張強さ試験の結果は不合格と判定された。これは、電子線の照射時に過剰なアミド結合を有する添加剤が架橋阻害を起こしたことによると考えられる。
【0094】
また、比較例7、9に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、難燃性試験の結果が不合格と判定された。これは、難燃剤である水酸化マグネシウム又はメラミンシアヌレートの添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも少ないことによると考えられる。
【0095】
また、比較例8、10に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、伸び試験の結果が不合格と判定された。これは、難燃剤である水酸化マグネシウム又はメラミンシアヌレートの添加量が第1の実施の形態で規定された範囲よりも多いことによると考えられる。
【0096】
また、本発明の実施例では、フェノール系酸化防止剤を樹脂組成物の製造時に添加する場合について説明したが、ポリマーの酸化防止のためにポリマー重合時に添加し、樹脂組成物の製造時にフェノール系酸化防止剤を添加しない場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0098】
1 電線
2 ケーブル
10、20 導体
11、21 絶縁体
25 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と、
フェノール系酸化防止剤と、
金属水酸化物と、
二酸化チタン、モノアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド、及びペリレンレッドのうちの少なくとも1つからなる顔料と、
アミド結合を有する添加剤と、
を含み、
前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部の前記アミド結合を有する添加剤が含まれる、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1.0〜3.0重量部の前記フェノール系酸化防止剤が含まれる、
請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して150〜300重量部の前記金属水酸化物が含まれる、
請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して5〜40重量部の1,3,5−トリアジン誘導体が含まれる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
導体と、
前記導体の周りに形成され、請求項1〜4のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成される絶縁層と、
を有する電線。
【請求項6】
導体が絶縁体で被覆された線心と、
前記線心の周りに形成され、請求項1〜4のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から主として構成されるシースと、
を含むケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−241103(P2012−241103A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112446(P2011−112446)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】