説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びノンハロゲン難燃電線

【課題】伸び、引張強さ等の機械的特性の低下を抑えつつ、高い難燃性と絶縁性を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いたノンハロゲン難燃電線を提供する。
【解決手段】酢酸ビニル含有量が40wt%以上、かつ、190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を60〜80重量部と、エチルアクリレート含有量が10〜20wt%、かつ、MFRが0.5g/10min以上のエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)を40〜20重量部とを含み、前記EVAと前記EEAのMFR比が0.5以下であるベースポリマ100重量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を添加し、架橋してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びノンハロゲン難燃電線に関するものであり、特に、導体上にノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体及び/又はシースを被覆したノンハロゲン難燃電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ノンハロゲン難燃電線には、絶縁体としてハロゲン化合物を含まない難燃性樹脂組成物が用いられている。ハロゲン化合物を含まない上記難燃性樹脂組成物として、ポリオレフィン系樹脂に水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した組成物が用いられている。
これらの組成物には、燃焼時に塩化水素やダイオキシン等の有毒なガスが発生しないという特徴がある。そのため、火災時の毒性ガスの発生や、二次災害等を防止することができ、かつ廃却時に焼却処分を行っても問題とならない。
【0003】
ただし、金属水酸化物を単独で添加しただけでは、目的の難燃性を得られない場合が多い。そのため、難燃性向上のための難燃助剤として、赤リン等のリン含有難燃剤を添加することが従来から行われている。
【0004】
しかしながら、赤リン等のリン含有難燃剤を添加した樹脂組成物を電線被覆に用いた場合、赤リンの発色のため、電線表面を任意の色に着色できないという問題がある。また、リン含有難燃剤は、高温多湿環境下、例えば使用時又は廃棄時に、ホスフィンガスを発生するという問題もある。
【0005】
上記赤リン等のリン含有難燃剤を添加する代わりに、難燃性向上のために金属水酸化物の添加量を増やすと、それに伴い、樹脂組成物の伸び、引張強さ等の機械的特性が著しく低下してしまうという問題点がある。
【0006】
なお、関連技術として、金属水酸化物の添加量を増やすことにより問題となる樹脂組成物の熱老化性を抑えるために、上記樹脂組成物のベース樹脂をエチレン・酢酸ビニル共重合体で構成するという技術がある(例えば、特許文献1参照)。また、同じく関連技術として、赤リン等のリン含有難燃剤を用いることなく難燃性を向上させるために、1,3,5トリアジン誘導体と特定の金属を上記樹脂組成物に添加する技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−42574号公報
【特許文献2】特開2003−113276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、難燃性を改善する目的で、ベースポリマの内、エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル量の割合を多くした樹脂組成物では、体積抵抗率が低くなり、電線被覆として必要な絶縁性が不十分となるおそれがある。
【0009】
つまり、従来のように上記樹脂組成物の熱老化性を抑え(特許文献1)、または従来のように難燃性を向上させたとしても(特許文献2)、上記樹脂組成物を電線被覆として用いたときに体積抵抗率が低くなり、絶縁性が不十分となる問題が生じるおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、伸び、引張強さ等の機械的特性の低下を抑えつつ、高い難燃性と絶縁性を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いたノンハロゲン難燃電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、酢酸ビニル含有量が40wt%以上、かつ、190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を60〜80重量部と、エチルアクリレート含有量が10〜20wt%、かつ、MFRが0.5g/10min以上のエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)を40〜20重量部とを含み、前記EVAと前記EEAのMFR比が0.5以下であるベースポリマ100重量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を添加し、架橋してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の態様は、酢酸ビニル含有量が40wt%以上、かつ、190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を60〜80重量部と、エチルアクリレート含有量が10〜20wt%、かつ、MFRが0.5g/10min以上のエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)を40〜20重量部とを含み、前記EVAが分散相、前記EEAが連続相を形成してなるベースポリマ100重量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を添加し、架橋してなることを特徴とする。
【0013】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載の発明において、前記ノンハロゲン難燃剤が、金属水酸化物及び1,3,5トリアジン誘導体からなり、前記ベースポリマ100重量部に対して、前記金属水酸化物を50〜250重量部、及び前記1,3,5トリアジン誘導体を5〜20重量部添加することを特徴とする。
【0014】
本発明の第四の態様は、第一乃至第三の態様のいずれかに記載の発明において、前記ベースポリマ100重量部に対して、有機過酸化物を0.5〜5重量部添加することを特徴とする。
【0015】
本発明の第五の態様は、第一乃至第四の態様のいずれかに記載の発明において、前記ベースポリマ100重量部に対して、マレイン酸またはその誘導体で変性したエチレン系共重合体1〜10重量部を前記ベースポリマに加えたことを特徴とする。
【0016】
本発明の第六の態様は、第一乃至第五の態様のいずれかに記載の発明において、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第七の態様は、第一乃至第六の態様のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いたノンハロゲン難燃電線である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、伸び、引張強さ等の機械的特性の低下を抑えつつ、高い難燃性と絶縁性を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いたノンハロゲン難燃電線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明者らは、伸び、引張強さ等の機械的特性を著しく損なうことなく、高い難燃性と絶縁性を有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物について種々検討した。
その結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体とを混練してベースポリマとし、エチレン−エチルアクリレート共重合体のメルティングフ
ローレートを、エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルティングフローレートよりも高くするという知見を得た。
すなわち、図1に示すように、上記ベースポリマ中において、難燃性を担うエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が分散相(島相)となり、絶縁性を担うエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)が連続相(海相)となる相構造(海島構造)とすることにより、機械的特性の低下を抑えつつ、難燃性と絶縁性を両立することが可能になることを見出した。
この知見を基に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
図2(a)に、本発明が適用される、ノンハロゲン難燃電線の一実施形態の断面構造を示す。
図2(a)に示すように、上記電線は、断面が丸形状で長尺な金属導体1を寄り合わせたものの外周を、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体2で被覆したものである。金属導体1には、例えば銅合金が挙げられる。金属導体1は、例えば、銅線を単線で用いても複数からなる撚り線や編み線として用いても良く、銅線に溶融メッキや電解による錫メッキが施されていても良い。
なお、上記電線の断面形状は丸形状に限らない。すなわち、上記電線は、板状の銅板を基にスリット加工したり、丸線を圧延したりして得た平角状の金属導体に絶縁体を被覆したものでもよい。
【0021】
図2(b)に、本発明が適用される、ノンハロゲン難燃電線の別の一実施形態の断面構造を示す。
図2(b)に示すように、上記電線は、導体1の外周を、本実施形態におけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体2で被覆し、更にその外周をノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシース3で被覆したものである。
【0022】
以下、上記絶縁体2及び/又はシース3を構成するノンハロゲン難燃性樹脂組成物について詳述する。
上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以降、EVAともいう)とエチレン−エチルアクリレート共重合体(以降、EEAともいう)とを含むベースポリマに対して、ノンハロゲン難燃剤を添加し、架橋してなるものである。
【0023】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、酢酸ビニル含有量(以降、VA量、VAともいう)が40wt%以上、かつ190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのものを用いる。
【0024】
ここで、EVAを用いるのは、難燃性を向上させるためである。
EVAのVA量を40wt%以上に制限したのは、40wt%未満の含有量では、十分な難燃効果が得られないためである。
また、MFRを0.1〜1.0g/10minとしたのは、1.0g/10minより大きいと、引張強さ等の特性低下が顕著になるからである。
【0025】
上記エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)は、エチルアクリレート含有量(以降、EA量、EAともいう)が10〜20wt%で、MFRが0.5g/10min以上のものを用い、これを上記EVAと混練させる。
【0026】
ここでEEAを用いるのは難燃性の低下を抑えつつも、絶縁性を向上させるためである。
EEAのEA量を10〜20wt%に制限したのは、10wt%未満の含有量ではEVAとの相溶性が低下し、分散が悪くなり十分な機械特性が得られないためであり、一方、
20wt%より大きいと十分な絶縁効果が得られないためである。
また、MFRを0.5g/10min以上としたのは、MFRが0.5未満のEEAでは、十分な絶縁特性が得られないためである。
【0027】
また、ベースポリマ100重量部における、EVAの含有量は60〜80重量部が好ましく、EEAの含有量は40〜20重量部が好ましい。EVAとEEAの含有量が上記範囲になければ、十分な難燃性及び絶縁特性が得られないためである。
【0028】
ここで、本実施形態においては、EVAとEEAのMFRの比について、以下のように設定する。
すなわち(EVAのMFR)/(EEAのMFR)の値を0.5以下とする。
【0029】
EVAとEEAのMFRの比を上記範囲に設定することにより、上記樹脂組成物は、機械的特性を著しく損なうことなく、難燃性と絶縁性を両立することが可能となる。
【0030】
具体的に言うと、本実施形態によれば、図1に示すように、EVAとEEAを混練した樹脂組成物の構造を、EVAを分散相(島相)、EEAを連続相(海相)とする相構造(海島構造)とすることができる。上記のような相構造を達成することにより、分散相であり難燃性を担うEVAの分散性が向上する。EVAの分散性が向上することにより、機械的特性の低下を抑えつつも難燃性を向上させることができる。さらに、連続相であり絶縁性を担うEEAも十分に絶縁性を発揮することができる。
【0031】
なお、上記EVAと上記EEAに、他のエチレン系共重合体やポリオレフィン系樹脂を混合して用いてもよい。
上記エチレン系共重合体やポリオレフィン系樹脂としては、具体的には以下のものが挙げられる。低密度、中密度、及び高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−スチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体およびこれらと無水マレイン酸とのグラフトポリマを1種、又は2種以上混合して使用しても良い。
【0032】
上記エチレン系共重合体においては、特に、マレイン酸またはその誘導体で変性したエチレン系共重合体であることが好ましい。これは、マレイン酸で変性された部分が、金属水酸化物との密着力を高めることにより、分散性、機械的特性が向上するためである。
上記マレイン酸またはその誘導体で変性したエチレン系共重合体としては、具体的には、マレイン酸変性EEA、マレイン酸変性EVA及びマレイン酸変性SEBS等が挙げられる。
マレイン酸またはその誘導体で変性したエチレン系共重合体の添加量としては、上記ベースポリマ100重量部中、1〜10重量部であることが好ましい。1重量部未満では引張強さ特性は改善せず、10重量部より多く用いると樹脂組成物全体の伸び特性が低下するためである。
【0033】
次に、上記ベースポリマに対して添加するノンハロゲン難燃剤について説明する。
【0034】
上記ベースポリマに添加するノンハロゲン難燃剤としては、金属水酸化物及び1,3,5−トリアジン誘導体が好ましい。
【0035】
上記金属水酸化物としては、具体的には、水酸化カルシウム及び、ニッケルが固溶したこれらの金属水酸化物が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を併用しても良い。また、これらの金属水酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ス
テアリン酸塩やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸又は、脂肪酸金属塩等によって表面処理されているものを用いても差し支えない。また、他の金属水酸化物を適量加えても良い。
【0036】
本実施形態において、上記金属水酸化物の添加量は、上記ベースポリマ100重量部に対して、50〜250重量部であることが好ましい。添加量が50重量部より少ないと十分な難燃性が得られず、250重量部より多いと機械特性が著しく低下するためである。
【0037】
一方、上記ベースポリマに添加する上記1,3,5−トリアジン誘導体としては、具体的には、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン等が挙げられる。より好適には、メラミンシアヌレートである。これらは、非イオン性表面活性剤や各種カップリング剤により表面処理されていても良い。
【0038】
本実施形態において、1,3,5−トリアジン誘導体の添加量は、ベースポリマ100重量部に対し、5〜20重量部であることが好ましい。添加量が5重量部より少ないと十分な難燃効果が得られず、20重量部より多いと機械的強度が著しく低下するためである。
【0039】
次に、上記ベースポリマに上記ノンハロゲン難燃剤を添加した樹脂組成物に対し、架橋を行う際に使用する架橋方法及び架橋剤について説明する。
【0040】
上記架橋方法としては、パーオキサイド架橋が好ましい。パーオキサイド架橋は、シラン架橋、照射架橋と比較して架橋度が高くなり、引張強さが向上するためである。
また、上記架橋剤としては、有機過酸化物が好ましい。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルm−メチルベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ヘキシルp−オキシベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、コハク酸パーオキサイド、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等が挙げられるが、より好適には1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンである。
【0041】
本実施形態において、上記有機過酸化物の添加量は、ベースポリマ100重量部に対し、0.5〜5重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜3重量部である。配合量が0.5重量部未満では、架橋を十分達成できず、5重量部を越えると架橋が進み過ぎて伸びが低下するためである。
【0042】
なお、本実施形態の樹脂組成物には、必要に応じて、架橋剤である上記有機過酸化物に加えて架橋助剤を用いることができる。これにより、均一且つ効率的な架橋反応を行うことができる。
上記架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタ
クリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールの繰り返し単位数が9〜14のポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレートのような多官能性メタクリレート化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレートのような多官能性アクリレート化合物、ビニルブチラート又はビニルステアレート等が挙げられる。
【0043】
また、上記添加剤以外にも必要に応じて酸化防止剤、滑剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加剤を加えることが可能である。
【0044】
上記実施形態のノンハロゲン難燃電線の製造は、例えば、通常の押出成形ラインを用い、上記樹脂組成物を溶融混練し、単数又は複数からなる金属導体にノンハロゲン難燃性樹脂組成物を押し出して作製できる。溶融混練には、例えばバッチ式混練機や二軸スクリュー押出機などが用いられる。また、押出成形ラインには、例えば二軸押出機が用いられる。この二軸押出機によって、溶融混練した樹脂組成物を押し出し、この樹脂組成物で金属導体を被覆して被覆層を形成する。
このように作製されたノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることが好ましい。ノンハロゲン難燃電線を実用する際に、十分な絶縁性が必要となるためである。
【0045】
結果、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁体又はシースに使用することにより、使用時に有害なガスを発生せず、機械的強度を著しく損なうことなく、高い難燃性、高い絶縁性を有するノンハロゲン難燃電線を得ることができる。
上記電線は、例えば機器内配線用、自動車用、ロボット用、車輌用に好適である。
【実施例】
【0046】
実施例1〜12および比較例1〜13においては、上記図2(a)に示す構造のノンハロゲン難燃電線を適用した。上記電線と、上記電線に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物は以下のように作製した。
【0047】
表1の実施例1〜12および表2の比較例1〜13に示した配合割合で、樹脂組成物の原料となる各種成分を配合した。上記配合物を25L加圧ニーダによって開始温度40℃、終了温度190℃で混練した後、上記混練物をペレットにした。上記ペレットを、金属導体1上に、セパレータを介して厚さ1.0mmで連続加硫押出し、金属導体1に被覆された絶縁体2を成形した。上記押出直後に、金属導体1に被覆された絶縁体2を、190℃で3分間スチームに暴露した。このようにして、実施例1〜12および比較例1〜13で用いられる試料となる電線を得た。
【0048】
<実施例1〜12>
ここで、表1記載の実施例1〜12について詳述する。
【0049】
実施例1〜4においては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)には、酢酸ビニル含有量(VA)が40wt%以上、かつ、190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのものを用いた。
エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)には、エチルアクリレート含有量(
EA)が10〜20wt%、かつ、MFRが0.5g/10min以上のものを用いた。
そして、上記EVAを60〜80重量部の範囲内、上記EEAを20〜40重量部の範囲内で変化させて配合し、ベースポリマ100重量部とした。
上記ベースポリマ100重量部に対して、ノンハロゲン難燃剤として金属水酸化物である水酸化マグネシウムを150重量部と1,3,5トリアジン誘導体であるメラミンシアヌレートを10量部添加し、架橋剤として有機過酸化物であるパーオキサイドを1.5重量部添加した樹脂組成物を用いた。
なお、実施例1〜4を含む以下全ての実施例において、ベースポリマ100重量部に対して、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリアクリレートを1重量部、酸化防止剤(AO−18 アデカ製)を1重量部、同じく酸化防止剤(イルガノックス1010 チバガイギー製)を1重量部、滑剤としてステアリン酸亜鉛を1重量部添加した。
【0050】
実施例5〜12においては、VAが42wt%、かつ、MFRが0.2g/10minのEVA70重量部と、EAが10%、かつMFRが0.5g/10minのEEA30重量部とを配合し、ベースポリマ100重量部とした。
【0051】
ここで、実施例5,6においては、上記ベースポリマ100重量部に対して、水酸化マグネシウムを50重量部〜250重量部の範囲で添加し、メラミンシアヌレートを10量部添加し、パーオキサイドを1.5重量部添加した樹脂組成物を用いた。
【0052】
また、実施例7,8においては、上記ベースポリマ100重量部に対して、水酸化マグネシウムを150量部添加し、メラミンシアヌレートを5重量部〜20重量部の範囲で添加し、パーオキサイドを1.5重量部添加した樹脂組成物を用いた。
【0053】
また、実施例9,10においては、上記ベースポリマ100重量部に対して、マレイン酸変性EEAを1〜10重量部の範囲で上記ベースポリマに加えたポリマに、水酸化マグネシウムを150量部添加し、メラミンシアヌレートを10重量部添加し、パーオキサイドを1.5重量部添加した樹脂組成物を用いた。
【0054】
また、実施例11,12においては、上記ベースポリマ100重量部に対して、マレイン酸で変性したエチレン系共重合体としてマレイン酸変性EEA10重量部を上記ベースポリマに加えたポリマに、水酸化マグネシウムを150量部添加し、メラミンシアヌレートを10重量部添加し、パーオキサイドを0.5〜5重量部の範囲で添加した樹脂組成物を用いた。
【0055】
<比較例1〜13>
比較例1〜13については、表2記載の通り配合したポリマに、表2記載の分量の難燃剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤を添加した樹脂組成物を用いた。
【0056】
実施例1〜12および比較例1〜13における電線の評価は、以下に示す方法により判定した。
(1)引張試験
上記のように作製した電線を、EN60811に準拠して引張試験を行った。引張強さは、10MPa未満のものを不合格(×)、それ以上を合格(○)とした。伸びは、150%未満のものを不合格(×)、それ以上を合格(○)とした。
(2)難燃性試験
作製した電線を、UIC規格 CODE 895 OR 3rd edition 5.3.43に準拠して垂直燃焼試験を行った。判定は炎を取り去った後の燃焼時間30秒以上のものを不合格(×)とし、それ未満のものを合格(○)とした。
(3)絶縁性試験
上記のように作製した上記ペレットをロールで混練し、120℃でプレス成型した後190℃で3分間加圧して架橋し、1mm厚のシートを作製し、常温DC500Vにおける体積抵抗率を体積抵抗計により測定した。体積抵抗率は1.0×1013Ω・cm以上のものを合格とした。
上記試験により得られた結果を実施例1〜12については表1に、比較例1〜13については表2に記載した。なお、EVAとEEAのMFR比、すなわち(EVAのMFR)/(EEAのMFR)の値についても表1及び表2に記載した。
【表1】

【表2】

【0057】
表1記載の実施例1〜12では、引張強さ・伸び、垂直燃焼試験も全て合格し、体積抵抗率も目標を満足しており、良好な特性を示していた。
【0058】
一方、表2記載の比較例1〜13では、上記(1)〜(3)の試験のうちの1つ以上で、評価が悪かった。
【0059】
比較例1では、EVAのVAが33wt%であり、40wt%以上の範囲よりも少なく
、難燃性が不十分であった。
比較例2では、EVAのMFRが1.2g/10minであり、0.1〜1.0g/10minの範囲よりも高く、引張特性、絶縁性が不十分であった。
【0060】
比較例3では、ベースポリマ100重量部中、EVAは90重量部であり、60〜80重量部の範囲よりも多く、また、EEAは10重量部であり、40〜20重量部の範囲よりも少なく、絶縁性が不十分であった。
比較例4では、ベースポリマ100重量部中、EVAは50重量部であり、60〜80重量部の範囲よりも少なく、また、EEAは50重量部であり、40〜20重量部の範囲よりも多く、難燃性が不十分であった。
【0061】
比較例5では、EEAのEAが8wt%であり、10〜20wt%の範囲よりも少なく、引張特性が不十分であった。
比較例6では、EEAのMFRが0.4g/10minであり、0.5g/10min以上の範囲よりも小さく、絶縁性が不十分であった
【0062】
比較例7では、EVAとEEAのMFR比、すなわち(EVAのMFR)/(EEAのMFR)の値が0.625であり、0.5以下の範囲よりも大きく、絶縁性が不十分であった。
【0063】
比較例8では、難燃剤としての水酸化マグネシウムが45重量部であり、50〜250重量部の範囲よりも少なく、難燃性が不十分であった。
逆に、比較例9では、難燃剤としての水酸化マグネシウムが275重量部であり、50〜250重量部の範囲よりも多く、引張特性が不十分であった。
【0064】
比較例10では、難燃剤としての1,3,5トリアジン誘導体であるメラミンシアヌレートが4重量部であり、5〜20重量部の範囲よりも少なく、難燃性が不十分であった。
逆に、比較例11では、難燃剤としての1,3,5トリアジン誘導体であるメラミンシアヌレートが21重量部であり、5〜20重量部の範囲よりも多く、引張特性が不十分であった。
【0065】
比較例12では、架橋剤としてのパーオキサイドが0.4重量部であり、0.5〜5重量部の範囲よりも少なく、引張特性のうち引張強さが不十分であった。
逆に、比較例13では、架橋剤としてのパーオキサイドが6重量部であり、0.5〜5重量部の範囲よりも多く、引張特性のうち伸びが不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態における、ベースポリマ中でEVAが分散相(島相)、前記EEAが連続相(海相)となる相構造(海島構造)を形成している様子を示す説明図である。
【図2】(a)本実施形態における、金属導体を絶縁体で被覆した電線の一実施形態の断面構造を示す図である。(b)本実施形態における、金属導体を絶縁体で被覆し、その上にシースで被覆した電線の一実施形態の断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 金属導体
2 絶縁体
3 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル含有量が40wt%以上、かつ、190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を60〜80重量部と、
エチルアクリレート含有量が10〜20wt%、かつ、MFRが0.5g/10min以上のエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)を40〜20重量部とを含み、
前記EVAと前記EEAのMFR比が0.5以下であるベースポリマ100重量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を添加し、架橋してなることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
酢酸ビニル含有量が40wt%以上、かつ、190℃及び2.16kgの加えられる荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜1.0g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を60〜80重量部と、
エチルアクリレート含有量が10〜20wt%、かつ、MFRが0.5g/10min以上のエチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)を40〜20重量部と
を含み、
前記EVAが分散相、前記EEAが連続相を形成してなるベースポリマ100重量部に対して、ノンハロゲン難燃剤を添加し、架橋してなることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ノンハロゲン難燃剤が、金属水酸化物及び1,3,5トリアジン誘導体からなり、
前記ベースポリマ100重量部に対して、
前記金属水酸化物を50〜250重量部、及び前記1,3,5トリアジン誘導体を5〜20重量部添加する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ベースポリマ100重量部に対して、
有機過酸化物を0.5〜5重量部添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ベースポリマ100重量部に対して、
マレイン酸またはその誘導体で変性したエチレン系共重合体1〜10重量部を前記ベースポリマに加えた
ことを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
体積抵抗率が1013Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いたことを特徴とするノンハロゲン難燃電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95638(P2010−95638A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268151(P2008−268151)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】