説明

ノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブル

【課題】熱可塑性エラストマー組成物の耐熱変形性を高めながらも柔軟性を損なわない方法を適用することにより、ハロゲン系材料と同等の柔軟性とを持つノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂、(B)シラン化合物が共重合された非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)ポリオレフィン系樹脂、(D)金属水酸化物を含有し、(A)及び(B)がシラン架橋されてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性及び難燃性に優れ、しかも同時に高い機械的強度、耐熱性、耐油性、リサイクル性を有するノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物に係り、特に、不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂及びシラン化合物が共重合された非晶性ポリオレフィン系樹脂の両方を混練中にシラン架橋させることによって得られるノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保全に対する活動は世界的な高まりを見せており、電線被覆材料においても燃焼時に有害なガスを発生せず、廃棄処分時の環境汚染が少なく、マテリアルリサイクルが可能な材料の普及が急速に進んできている。
【0003】
このような材料として一般的なものは、ポリオレフィン系樹脂や熱可塑性エラストマーなどのベースポリマーに金属水酸化物をはじめとするノンハロゲン難燃剤を混和した組成物である。特に柔らかい材料が必要とされる用途には、ゴムと樹脂の中間の弾性率を持つ熱可塑性エラストマーと難燃剤の組成物を使用するケースが多くなっている。
【0004】
このような熱可塑性エラストマーとして、例えば混練しながら特定成分を架橋させる動的架橋技術を用いて、流動成分であるポリオレフィン系樹脂のマトリックス中に架橋ゴム成分を分散させた組成物などが知られている。
【0005】
電源コードやキャブタイヤケーブルなどの電線・ケーブルには取り扱いのしやすさが求められる。これら電線・ケーブルの取扱性には被覆材料の柔軟性が大きく寄与するため、被覆材料としては、前記のような熱可塑性エラストマー組成物の中でも柔軟性の高いものが適していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−336225号公報
【特許文献2】特開平11−213769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような熱可塑性エラストマー組成物の中でも柔軟性が高いものは、耐熱変形性が十分でなく、これを向上させるには、流動成分のポリオレフィン系樹脂の組成比を高める方法があるが、組成物の柔軟性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、熱可塑性エラストマー組成物の耐熱変形性を高めながらも柔軟性を損なわない方法を適用することにより、ハロゲン系材料と同等の柔軟性を持つノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、(A)不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂、(B)シラン化合物が共重合された非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)ポリオレフィン系樹脂、(D)金属水酸化物を含有し、前記(A)及び前記(B)がシラン架橋されてなるノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物である。
【0010】
請求項2の発明は、前記(A)及び前記(B)の合計60〜80質量部、前記(C)20〜40質量部、前記(D)を含有し、前記(A)及び前記(B)がシラン架橋されてなる請求項1に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物である。
【0011】
請求項3の発明は、前記(B)が、酢酸ビニル含有量30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物である。
【0012】
請求項4の発明は、前記(A)及び前記(B)からなるシラン架橋された相が、前記(C)の相中に分散している請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物である。
【0013】
請求項5の発明は、前記(A)が、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して5〜25質量部である請求項1〜4のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物である。
【0014】
請求項6の発明は、前記(D)が、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して、40〜120質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物である。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、前記(A)、前記(B)、前記(C)、前記(D)を混練しながら、前記(A)及び前記(B)をシラン架橋させるノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0016】
請求項8の発明は、不飽和カルボン酸又はその誘導体が共重合されたポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン系樹脂の混練物にシラン化合物をグラフト共重合させ、前記(A)、(B)を生成した後、これらに前記(C)及び前記(D)を加え、混練しながら前記(A)及び前記(B)をシラン架橋させる請求項7に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0017】
請求項9の発明は、前記(A)及び前記(B)の合計60〜80質量部、前記(C)20〜40質量部、前記(D)を含有させ、前記(A)及び前記(B)をシラン架橋させる請求項7又は8に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0018】
請求項10の発明は、前記(B)として、酢酸ビニル含有量30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いる請求項7〜9のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0019】
請求項11の発明は、前記(A)及び前記(B)からなるシラン架橋された相を、前記(C)の相中に分散させる請求項7〜10のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0020】
請求項12の発明は、前記(A)が、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して5〜25質量部である請求項7〜11のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0021】
請求項13の発明は、前記(D)を、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して、40〜120質量部含有させる請求項7〜12のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
【0022】
請求項14の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を絶縁体又はシースとして用いたことを特徴とする電線である。
【0023】
請求項15の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を絶縁体又はシースとして用いたことを特徴とするケーブルである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱可塑性エラストマー組成物の耐熱変形性を高めながらも柔軟性を損なわない方法を適用することにより、ハロゲン系材料と同等の柔軟性を持つノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明が適用される電線の詳細断面図である。
【図2】本発明が適用されるケーブルの詳細断面図である。
【図3】本発明が適用されるケーブルの詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0027】
先ず、本発明のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物が適用される電線・ケーブルについて、図1〜3により説明する。
【0028】
図1は、銅導体1に、ノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物からなる絶縁体2を被覆した電線10を示している。
【0029】
図2は、図1に示した電線10を3本撚り合わせ、その外周に、ノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物からなるシース3を被覆したケーブル20を示している。
【0030】
図3は、図1に示した電線10を複数本(図では4本)撚り合わせ、介在4を介して押さえ巻きテープ5を施してコア6を形成し、そのコア6の外周に、ノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物からなるシース7を被覆したケーブル30を示している。
【0031】
図1〜3に示したノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物からなる絶縁体2、シース3,7は押出成形により被覆される。
【0032】
本発明のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物は、(A)不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂、(B)シラン化合物が共重合された非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)ポリオレフィン系樹脂、(D)金属水酸化物を含有し、(A)及び(B)がシラン架橋されていることを特徴とする。
【0033】
(A)の不飽和カルボン酸又はその誘導体については特に限定しないが、無水マレイン酸が好適である。
【0034】
本発明においては、熱可塑性エラストマー組成物中において、(A)の不飽和カルボン酸又はその誘導体が共重合され、シラン架橋されたポリオレフィンと(B)のシラン架橋された非晶性ポリオレフィンとが適度な割合で含まれることにより、優れた耐熱変形性を得ることができる。
【0035】
(A)及び(B)のシラン化合物には、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基を共に有していることが要求され、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フエニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物などを挙げることができる。
【0036】
不飽和カルボン酸又はその誘導体若しくはシラン化合物を共重合させるには、既知の一般的手法、例えばベースポリマー、すなわち(A)のポリオレフィン系樹脂又は(B)の非晶性ポリオレフィン系樹脂に所定量の不飽和カルボン酸又はその誘導体若しくはシラン化合物と遊離ラジカル発生剤を混合し、80〜200℃の温度で溶融混練する方法を用いることができる。
【0037】
遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が主として使用できる。
【0038】
尚、不飽和カルボン酸又はその誘導体の添加量は、特に規定しないがより良好な物性を得るためには非晶性ポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.5〜2.0質量部が好適である。0.5質量部より少ないと物性は満足するものの組成物の耐熱変形性を向上させる効果が小さく、2.0質量部を超えると組成物の押出加工性が低下するおそれがある。
【0039】
シラン化合物の添加量は、特に規定しないが良好な物性を得るためにはポリオレフィン系樹脂又は非晶性ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.5〜10.0質量部が好適である。0.5質量部より少ないと十分な架橋効果が得られないおそれがあり、組成物の強度、耐熱性が劣るおそれがある。10.0質量部を超えると押出加工性が著しく低下するおそれがある。
【0040】
また、遊離ラジカル発生剤である有機過酸化物の最適な量は、ポリオレフィン系樹脂又は非晶性ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.001〜3.0質量部が好適である。0.001質量部より少ないとシラン化合物が十分に共重合せず十分な効果が得られないおそれがある。3.0質量部を超えるとベースポリマーのスコーチが起きやすくなるおそれがある。
【0041】
(A)のポリオレフィン系樹脂としては既知のものが使用でき、特に柔軟性に優れたものが望ましい。例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体又はその水素添加物、スチレン−イソプレン共重合体又はその水素添加物の中から選ばれる少なくとも1種を含み、単独若しくは2種以上をブレンドして用いるのが望ましい。
【0042】
(B)の非晶性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を挙げることができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が30mass%以上のものである。これは酢酸ビニル含有量が30mass%より少ない場合、樹脂が結晶性となり組成物が硬くなりハロゲン系材料と同等の柔軟性が得られなくなるからである。分子量、溶融粘度などに特に限定はなく任意のものが使用できる。
【0043】
(C)のポリオレフィン系樹脂としては既知のものが使用でき、特に機械的強度に優れたものが望ましい。(C)のポリオレフィン系樹脂は、シラン架橋されずに熱可塑性エラストマー中で連続相となり、材料の流動性すなわち熱可塑性を担うものである。例えば、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体の中から選ばれる少なくとも1種を含み、単独若しくは2種以上をブレンドして用いるのが望ましい。
【0044】
前記ポリプロピレンとしては、ホモポリマーの他にエチレンに代表されるα−オレフィンを共重合したブロック共重合体やランダム共重合体及びエチレンプロピレンゴムに代表されるゴム成分を重合段階で導入したポリプロピレンを含むものとする。前記エチレンと他の成分の共重合体としては結晶性を有したものを用いることが望ましい。
【0045】
本発明において、(A)のポリオレフィン系樹脂、(B)の非晶性ポリオレフィン系樹脂及び(C)のポリオレフィン系樹脂の配合割合は、3者の合計100質量部に対し、(A)と(B)の合計が60〜80質量部、(C)が20〜40質量部である。(A)と(B)の合計が80質量部を超えると、押出成形性の低下がみられる。また、(A)と(B)の合計が60質量部より少ないと、物性は満足するもののより優れた柔軟性が得られない。
【0046】
また、(A)の配合割合は、(A)、(B)及び(C)の合計100質量部に対し、5〜25質量部である。5質量部より少ないと物性は満足するものの、より優れた耐熱変形性が得られず、25質量部を超えると組成物の押出加工性が低下する。
【0047】
本発明の(D)の金属水酸化物は、組成物に難燃性を付与するものであるとともに、シラン化合物を共重合させたベースポリマーの架橋をシラノール縮合触媒とともに促進させ、混練中の架橋を可能にするものである。
【0048】
架橋を促進させる機構としては、詳細は不明であるが、金属水酸化物の持つ水分がアルコキシ基の加水分解を促進させ、シラノール縮合触媒がシラノール基の脱水縮合を促進するものと推測している。
【0049】
このような金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどが挙げられ、中でも難燃効果の最も高い水酸化マグネシウムが好適である。金属水酸化物は分散性の観点から表面処理されていることが望ましい。
【0050】
表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸又は脂肪酸金属塩などが使用でき、中でも樹脂と金属水酸化物の密着性を高める点でシラン系カップリング剤が望ましい。
【0051】
使用できるシラン系カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フエニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物が挙げられる。
【0052】
これらの表面処理剤を金属水酸化物に処理させる方法としては湿式法、乾式法、直接混練法などの既知のものを用いてよい。
【0053】
処理量は特に規定しないが金属水酸化物に対して、0.1〜5mass%の範囲であることが望ましく、処理量が0.1mass%より少ないと樹脂組成物の強度が低下し、5mass%より多いと押出加工性が悪くなる。
【0054】
また金属水酸化物の平均粒子径は、機械的特性、分散性、難燃性の点から4μm以下のものがより好適である。
【0055】
(D)の金属水酸化物の添加量は、(A)の不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂、(B)の非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)のポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、40〜120質量部が好適である。40質量部より少ないと優れた難燃効果が得られず、120質量部を超えると柔軟性が低下するおそれがある。
【0056】
本発明において用いることのできるシラノール縮合触媒は、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸塩、ナフテン酸コバルトなどがあり、その添加量は触媒の種類によるが、不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂と非晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部当たり0.001〜0.1質量部に設定される。
【0057】
添加方法としては、そのまま添加する方法以外にエチレン−酢酸ビニル共重合体や結晶性ポリオレフィン系樹脂に予め混ぜたマスターバッチを使用する方法などがある。
【0058】
前記以外にも必要に応じてプロセス油、加工助剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも可能である。
【0059】
本発明の組成物を製造する装置に限定はないが、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、二軸押出機などの汎用のものが使用できる。製造には、(1)(A)のポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を共重合させる工程、(2)(A)のポリオレフィン系樹脂にシラン化合物を共重合させる工程、(3)(B)の非晶性ポリオレフィン系樹脂にシラン化合物を共重合させる工程、(4)(A)の不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物を共重合させたポリオレフィン系樹脂、(B)のシラン化合物を共重合させた非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)のポリオレフィン系樹脂、(D)の金属水酸化物及びシラノール縮合触媒などの配合剤を混練しながら、(A)及び(B)をシラン架橋させる工程があり、これらを別々に分けて行う手法や複数の工程を同時に或いは例えば二軸押出機での一度の押出で行うなどして連続的に行う手法がある。
【0060】
(1)の工程では、ポリオレフィン系樹脂の重合時に不飽和カルボン酸又はその誘導体を共重合させてもよいし、ポリオレフィン系樹脂の重合とは別に不飽和カルボン酸又はその誘導体をグラフト共重合させてもよい。
【0061】
(2)の工程は(1)の工程と同時に行うこともできる。例えば(A)のポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体とシラン化合物と遊離ラジカル発生剤を混合し、80〜200℃の温度で溶融混練し、不飽和カルボン酸又はその誘導体とシラン化合物を同時にグラフト重合させることができる。
【0062】
(3)の工程は(2)の工程と同時に行うこともできる。例えば不飽和カルボン酸又はその誘導体を共重合させた(A)のポリオレフィン系樹脂と(B)の非晶性ポリオレフィン系樹脂を混合した後にシラン化合物と遊離ラジカル発生剤を混合し、80〜200℃の温度で溶融混練することができる。
【0063】
(4)の工程では、(A)の不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂、(B)のシラン化合物が共重合された非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)のポリオレフィン系樹脂及び(D)の金属水酸化物の4成分を混練する時の順序は任意である。一方、シラノール縮合触媒は最後に加えるのが最適である。また、酸化防止剤や着色剤などの配合剤はどのタイミングで加えてもよい。
【0064】
前記ノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物は絶縁体、シースとして電線・ケーブルに適用できる。特に電源コードやキャブタイヤケーブルなどの優れた柔軟性が望まれるものに使用できる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を具体的に説明する。
【0066】
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては無水マレイン酸を選択した。
【0067】
ノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の作製は、(1)無水マレイン酸が共重合されたポリオレフィン系樹脂と酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体のポリマー混合物にシラン化合物をグラフト共重合させる工程と、(2)前工程で得られた混合物、ポリオレフィン系樹脂、金属水酸化物並びにシラノール縮合触媒などの配合剤を混練し、シラン化合物を共重合させた(A)及び(B)のポリマーをシラン架橋させる工程によって行った。
【0068】
(1)の工程では、ポリマー混合物、ビニルトリメトキシシラン、ジクミルパーオキサイドを質量比100:3:0.01で含浸混合したものを準備し、これらを200℃に予熱した40mm押出機(L/D=24)で滞留時間約5分となるように押出し、グラフト反応させた。
【0069】
(2)の工程では、表1の各例に示す組成の各成分を180℃に予熱した37mm二軸押出機(L/D=60)に一括して投入して混練し、シラン化合物がグラフト共重合されたポリマー混合物を混練中に架橋させることでノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を作製し、これをペレット化し、ケーブル作製用の材料とした。
【0070】
材料の耐熱変形性と柔軟性を評価するため、作製したペレットを2本ロールで予備成形した後、厚さ2mmのシート状にプレス成形した。耐熱変形性はJIS C 3005の加熱変形試験で温度75℃、荷重25Nにて評価し、厚さ減少率((加熱前の厚さ−加熱後の厚さ/加熱前の厚さ)×100)が10%以下となるものを合格とした。柔軟性はJIS K 7171の3点曲げ試験で曲げ弾性率を気温20℃の室内で測定し、ビニルキャブタイヤケーブルのシースに使われるポリ塩化ビニル組成物の測定値に対する比で評価し、1.00以下であればポリ塩化ビニル組成物と同等以上の柔軟性があるとした。ここで、ポリ塩化ビニル組成物は、平均重合度1300のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、フタル酸ジイソノニル55質量部、Ca−Zn系安定剤4質量部、重質炭酸カルシウム20質量部の組成のものである。
【0071】
また、材料の難燃性と押出成形性を評価するため、ケーブルを作製した。ケーブルは180℃に予熱した80mm押出機(L/D=24)を用い、ケーブルコアに厚さ1.8mmで押出被覆して作製した。ケーブルコアとして、外径1.8mmの銅導体にポリエチレンを厚さ0.8mmで被覆したもの3本を介在と共に撚り合わせ、クラフト紙テープにより押さえ巻きを施したものを使用した。難燃性はJIS C 3005の60度傾斜燃焼試験で、炎を取り去った後の延焼時間を測定し、60秒以内に自然消火したものを合格とした。押出成形性は押出被覆の外観で判断した。
【0072】
また、シラン架橋の有無を確認するため、110℃の熱キシレン中で24時間材料の抽出を行った。残存不溶ポリマーがあれば架橋が導入されたと判定した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
表1に示すように、本発明における実施例1〜6においては、いずれもポリ塩化ビニルと同等の柔軟性と十分な耐熱変形性を有し、難燃性、押出成形性にも優れている。
【0076】
実施例1,2と表2に示す比較例1を比較すると、無水マレイン酸とシラン化合物を共重合させたポリオレフィン系樹脂を適用することにより、組成物の柔軟性を損なわずに耐熱変形性を向上させる効果があることが分かる。また、比較例2より、無水マレイン酸とシラン化合物を共重合させたポリオレフィン系樹脂の量が25質量部を超えると押出成形性が悪いことが分かるが、柔軟性と耐熱変形性は十分な値を有する。
【0077】
実施例1,2と比較例3,4を比較すると、ポリオレフィン系樹脂に無水マレイン酸とシラン化合物の両方を共重合させることが耐熱変形性を向上させるのに重要であることが分かる。
【0078】
実施例1,2と比較例5,6を比較すると、無水マレイン酸とシラン化合物を共重合させたポリオレフィン系樹脂とシラン化合物を共重合させた非晶性ポリオレフィン系樹脂(酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体)の合計が60質量部より少ないと実用上問題ない範囲であるが柔軟性が劣り、80質量部を超えると押出成形性と耐熱変形性が悪いことが分かる。
【0079】
実施例1,4と比較例7を比較すると、シラン化合物を共重合させる樹脂が非晶性ではない(エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が30mass%より小さい)と柔軟性が十分でないことが分かる。
【0080】
比較例8は組成のうち50質量部を占めるエチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物が共重合されていないため、この成分がシラン架橋せず、耐熱変形性が非常に悪い。
【0081】
比較例11はシラノール縮合触媒が添加されていないため、シラン化合物が共重合された成分が架橋せず、耐熱変形性が非常に悪い。
【0082】
実施例1,6と比較例9,10を比較すると金属水酸化物が40質量部より少ないと難燃性が不十分で、120質量部より多いと実用上問題ない範囲であるが柔軟性が劣ることが分かる。
【0083】
また、微細組織の観察を材料の薄膜切片を染色後、透過型電子顕微鏡によって行った。実施例1〜6及び比較例1〜7,9,10において、シラン化合物が共重合された樹脂とされていない樹脂との結晶性の差から、シラン架橋された相がシラン架橋されていないポリオレフィン系樹脂の相中に分散した微細組織を有することを確認した。
【0084】
このような微細組織構造は、ポリマーの一部が架橋されているにも関わらず当該熱可塑性エラストマーが良好な押出成形性を有することに寄与している。
【0085】
以上見てきたように、本発明によれば、柔軟性及び耐熱変形性に優れたノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を提供することが可能である。また、シラン架橋した相がポリオレフィン系樹脂の相中に分散していることで、架橋後も熱によって溶融し、成形可能であるため、組成物はリサイクル性を有する。
【符号の説明】
【0086】
1 銅導体
2 絶縁体
3,7 シース
4 介在
5 押さえ巻きテープ
6 コア
10 電線
20,30 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和カルボン酸又はその誘導体並びにシラン化合物が共重合されたポリオレフィン系樹脂、(B)シラン化合物が共重合された非晶性ポリオレフィン系樹脂、(C)ポリオレフィン系樹脂、(D)金属水酸化物を含有し、前記(A)及び前記(B)がシラン架橋されてなることを特徴とするノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記(A)及び前記(B)の合計60〜80質量部、前記(C)20〜40質量部、前記(D)を含有し、前記(A)及び前記(B)がシラン架橋されてなる請求項1に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記(B)が、酢酸ビニル含有量30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記(A)及び前記(B)からなるシラン架橋された相が、前記(C)の相中に分散している請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記(A)が、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して5〜25質量部である請求項1〜4のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記(D)が、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して、40〜120質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、前記(A)、前記(B)、前記(C)、前記(D)を混練しながら、前記(A)及び前記(B)をシラン架橋させることを特徴とするノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項8】
不飽和カルボン酸又はその誘導体が共重合されたポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン系樹脂の混練物にシラン化合物をグラフト共重合させ、前記(A)、(B)を生成した後、これらに前記(C)及び前記(D)を加え、混練しながら前記(A)及び前記(B)をシラン架橋させる請求項7に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項9】
前記(A)及び前記(B)の合計60〜80質量部、前記(C)20〜40質量部、前記(D)を含有させ、前記(A)及び前記(B)をシラン架橋させる請求項7又は8に記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項10】
前記(B)として、酢酸ビニル含有量30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いる請求項7〜9のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(A)及び前記(B)からなるシラン架橋された相を、前記(C)の相中に分散させる請求項7〜10のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項12】
前記(A)が、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して5〜25質量部である請求項7〜11のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項13】
前記(D)を、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計100質量部に対して、40〜120質量部含有させる請求項7〜12のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を絶縁体又はシースとして用いたことを特徴とする電線。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性熱可塑性エラストマー組成物を絶縁体又はシースとして用いたことを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−241327(P2011−241327A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115549(P2010−115549)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】