説明

ノンハロゲン難燃樹脂組成物及びそれを用いたケーブル

【課題】環境負荷が少なく,優れた可とう性および低摩擦性を持つノンハロゲン難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)酢酸ビニル量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂とからなり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋されてなるベースポリマに、(C)金属水酸化物を含有してなる樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に、(D)アクリル系加工助剤および(E)脂肪酸アミド系滑剤を添加したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷が少なく、優れた可とう性や低摩擦性を有するノンハロゲン難燃樹
脂組成物及びそれを用いた配線作業性などの取扱性に優れたケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の到来に伴い、コンピュータシステムを中心としたネットワークの果た
す役割がますます重要性を帯びてきている。LAN(Local Area Network)構築に用いら
れるLANケーブルは、パソコンとブロードバンド回線の普及によって、一般家庭から企
業のオフィスまで広く使用されている。
【0003】
LANケーブルのシース材料には、従来からハロゲン含有材料であるポリ塩化ビニルが
使用されてきた。しかし、近年の環境保全に対する活動の世界的な高まりから、燃焼時に
有毒なガスを発生せず、廃棄処分時の環境汚染が少ない材料の普及が急速に進んできてい
る。
【0004】
このような材料として一般的なものは、ハロゲン含有材料を含まず、結晶性ポリオレフ
ィン系樹脂などのベースポリマーに金属水酸化物をはじめとするノンハロゲン難燃剤を混
和した組成物であり、ハロゲン含有材料と比べかなり硬いという特徴をもつ。
【0005】
しかしネットワーク環境の整備されたオフィス等においては、ケーブルラックなどの限
られたスペース内に大量のLANケーブルを敷設する必要がある。その際に、ノンハロゲ
ン難燃樹脂組成物を被覆したLANケーブルはシース材料が硬いため、出荷時や使用時の
巻き癖がついてしまい配線がしづらく、作業効率が低下してしまうという問題があった。
また、敷設後は、新たなケーブルの追加配線するときや、異常・点検などで特定のケーブ
ルを引き抜く必要があるときに、ケーブルシースの滑り性が劣り、新たなケーブルが通線
できない、または引き抜けないというトラブルがあった。
【0006】
そこで、特許文献1では、結晶性ポリオレフィン系樹脂に、シラン架橋させたエチレン
−酢酸ビニル共重合体を加えてノンハロゲン難燃性樹脂組成物とすることが提案されてい
る。
【0007】
このケーブルの組成物は、ポリマー成分に、結晶性を有さず柔らかいエチレン−酢酸ビ
ニル共重合体を多量に含むため、結晶性ポリオレフィン系樹脂を主成分としたノンハロゲ
ン難燃性樹脂組成物と比べて可とう性に優れたものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4270237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、粘着性が高く、これをケーブルのシ
ースとして押出成型したときに、外観不良を発生したり、摩擦係数が高くなりケーブルの
滑り性が悪く、またケーブルに巻き癖が残ってしまうという課題があることがわかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、環境負荷が少なく、優れた可とう性および低摩擦性を有し、
ケーブルの巻き癖による作業効率の低下が少なく、通線や引き抜き作業がスムーズに行え
、取扱性に優れたノンハロゲン難燃樹脂組成物及びそれを用いたケーブルを提供すること
にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1の本発明は、(A)酢酸ビニル量が30mass%
以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂とからなり
、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋されてなるベースポリマに、(C)金属水酸
化物、(D)アクリル系加工助剤および(E)脂肪酸アミド系滑剤を添加したことを特徴
とするノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0012】
請求項2の発明は、(A)酢酸ビニル量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル
共重合体を40〜80質量部と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂を60〜20質量部
と、これら(A)と(B)の合計100質量部に対して、(C)金属水酸化物を30〜1
50質量部、(D)アクリル系加工助剤を1〜10質量部、(E)脂肪酸アミド系滑剤を
0.1〜2質量部含有する請求項1記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0013】
請求項3の発明は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体が、シラン架橋されている請求
項1または2記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0014】
請求項4の発明は、JIS K7171に準拠した曲げ弾性率が45MPa以下である
請求項1〜3いずれかに記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載したノンハロゲン難燃樹脂組成物を
押出被覆によりシースとして用いたケーブルである。
【0016】
請求項6の発明は、JIS K7125に準拠した同一ケーブル同士の動摩擦係数が0
.7以下である請求項5記載のケーブルである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環境負荷が少なく、優れた可とう性及び低摩擦性を有するノンハロゲ
ン難燃樹脂組成物を得ることができる。この組成物をシースとして押出被覆することによ
り、巻き癖による作業効率の低下がなく、通線や引き抜き作業がスムーズに行え取扱性に
優れたケーブルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な実施形態を示すLANケーブルの横断面図である。
【図2】本発明の別の好適な実施形態を示すLANケーブルの横断面図である。
【図3】本発明のさらに別の好適な実施形態を示すLANケーブルの横断面図である。
【図4】図1に示したLANケーブルを複数本束ねたLANケーブルの横断面図である。
【図5】本実施形態に係るLANケーブルの引き出し性の試験方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
まず、本発明のノンハロゲン難燃樹脂組成物(樹脂組成物)が適用されるLANケーブ
ルについて図1〜図4により説明する。
【0021】
図1は、銅導体1に絶縁体2を被覆した電線を2本撚り合わせたものをさらに4対撚り
合わせたコアにノンハロゲン難燃樹脂組成物からなるシース3を被覆したLANケーブル
10を示している。
【0022】
図2は、銅導体1に絶縁体2を被覆した電線を2本撚り合わせたものを4対、十字型の
介在4によってそれぞれ独立させたコアにノンハロゲン難燃樹脂組成物からなるシース3
を被覆したLANケーブル20を示している。
【0023】
図3は、銅導体1に絶縁体2を被覆した電線を2本撚り合わせたものをさらに4対撚り
合わせたコアに、押さえテープ5を巻くと共に、接地線61を施し、さらにシールドを設
けたコアに、ノンハロゲン難燃樹脂組成物からなるシース3被覆したLANケーブル30
を示している。
【0024】
図4は、図1に示したLANケーブル10を複数本(図では6本)、介在4とともに撚
り合わせ、押さえテープ5を施してコアを形成し、その外周にノンハロゲン難燃樹脂組成
物からなるシース3を被覆したLANケーブル40を示している。
【0025】
図1〜図4に示したノンハロゲン難燃樹脂組成物からなるシース3は押出成形により被
覆される。
【0026】
本発明者等は、上記の目的を達成するため、従来のノンハロゲン難燃樹脂組成物の機械
的強度や難燃性などの諸物性を保持しながら、優れた可とう性および低摩擦性を実現する
ためのポリマー組成や架橋方式、添加剤の種類や量を鋭意検討した。
【0027】
その結果、(A)酢酸ビニル量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体
と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂とからなり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体
が架橋されてなるベースポリマに、(C)金属水酸化物、(D)アクリル系加工助剤およ
び(E)脂肪酸アミド系滑剤を添加することで、上記の目的を達成するノンハロゲン難燃
樹脂組成物を得ることができた。
【0028】
この樹脂組成物は、結晶性ポリオレフィン系樹脂に、軟らかいエチレン−酢酸ビニル共
重合体を加え、難燃剤として金属水酸化物を加えて可とう性のある樹脂組成物とする際に
、アクリル系加工助剤と脂肪酸アミド系滑剤を加えることで、外観を良好にし、しかも動
摩擦係数が低く、巻き癖のないケーブルとすることが可能となる。
【0029】
上述したように、ポリマー成分に結晶性を有さず、軟らかいエチレン−酢酸ビニル共重
合体を多量に含ませた樹脂組成物は、結晶性ポリオレフィン系樹脂を主成分とした従来の
ノンハロゲン難燃樹脂組成物と比べ、可とう性に優れるという性質を持つ。しかし、結晶
性を有さないエチレン−酢酸ビニル共重合体は、未架橋の状態では粘着性が高く、樹脂組
成物の滑り性を低下させる要因となるおそれがある。そこで、エチレン−酢酸ビニル共重
合体のみを選択的にシラン架橋させて、粘着性を低く抑えることが好ましいが、本発明に
おいては、適量のアクリル系加工助剤と脂肪酸アミド系滑剤を添加することで、その平滑
な表面に低摩擦性の膜が形成されることにより低摩擦性の材料を得ることが可能となった

【0030】
すなわち、この材料は優れた可とう性および低摩擦性を有することから、LANケーブ
ルのシース材料として適用したときに、巻き癖による作業効率の低下がなく、通線や引き
抜き作業がスムーズに行え、取扱性に優れてるとの知見を得て本発明を完成するに至った

【0031】
本発明で規定する(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が30m
ass%以上のものである。これは酢酸ビニル含有量が30mass%より少ない場合、
結晶性が高くなり、材料が硬くなってしまいLANケーブルのシース材料として適用した
ときに、ケーブルも硬くなり巻き癖が残ってしまうからである。分子量、溶融粘度等は特
に限定はなく任意のものが使用できる。
【0032】
また、上記(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重
合体には、シラン架橋するためにシラン化合物がグラフト共重合されるとよい。
【0033】
シラン化合物には、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するア
ルコキシ基をともに有していることが要求される。具体的には、ビニルメトキシシラン、
ビニルトリエトキシシラン、ビニリトリス、(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニル
シラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキ
シシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(ア
ミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプ
ロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシ
ル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グ
リシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロ
キシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシ
シリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラ
スルフィドなどのポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシ
ラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン化合物等を挙
げることができる。
【0034】
シラン化合物をグラフト重合させるには既知の一般的手法、すなわちベースのエチレン
−酢酸ビニル共重合体に所定量のシラン化合物、遊離ラジカル発生剤を混合し、80〜2
00℃の温度で溶融混練する方法を用いることができる。遊離ラジカル発生剤としては、
ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が主として使用できる。
【0035】
シラン化合物の添加量は特に規定しないが、良好な物性を得るためにはエチレン−酢酸
ビニル共重合体100質量部に対して0.5〜10質量部が好適である。0.5質量部よ
り少ないと十分な架橋効果が得られず、組成物の強度、耐熱性が劣るとともに、粘着性が
増してしまい、滑り性を低下させるおそれがある。10.0質量部を超えると加工性が著
しく低下する。
【0036】
また、遊離ラジカル発生剤である有機過酸化物の最適な量は、エチレン−酢酸ビニル共
重合体100質量部に対して0.001〜3.0質量部であることが好ましい。0.00
1質量部より少ないとシラン化合物が十分にグラフト共重合せず十分な架橋効果が得られ
ない。3.0質量部を超えるとエチレン−酢酸ビニル共重合体のスコーチが起きやすくな
る。
【0037】
また、本発明において、シラン化合物がグラフト共重合されたエチレン−酢酸ビニル共
重合体を架橋させるために、シラノール縮合触媒を添加することができる。このようなシ
ラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチ
ル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、
ナフテン酸コバルト等が挙げられ、その添加量は触媒の種類によるがエチレン−酢酸ビニ
ル共重合体100質量部当たり0.001〜0.5質量部に設定される。
【0038】
添加方法としては、そのまま添加する方法以外に、エチレン−酢酸ビニル共重合体や結
晶性ポリオレフィン系樹脂に予め混ぜたマスターバッチを使用する方法などがある。
【0039】
(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂としては既知のものが使用でき、ポリプロピレン、
高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエ
チレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−
オクテン−1共重合体、ポリブテン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、エチレン−ブテ
ン−ヘキセン三元共重合体、結晶性のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチル
アクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタ
クリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体の中から選ばれる少
なくとも1種を含み、単独もしくは2種以上をブレンドして用いるのが望ましい。
【0040】
上記ポリプロピレンとしては、ホモポリマーのほかにエチレンに代表されるα−オレフ
ィンを共重合したブロック共重合体やランダム共重合体およびエチレンプロピレンゴムに
代表されるゴム成分を重合段階で導入したポリプロピレンを含むものとする。上記結晶性
のエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル含有量が30mass%より少な
いものを用いることができる。
【0041】
また(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の一部に不飽和カルボン酸またはその誘導体を
共重合させた結晶性ポリオレフィン系樹脂を用いることも可能である。これにより(C)
水酸化マグネシウムと不飽和カルボン酸またはその誘導体の間で反応が起き、密着性が高
まることによって樹脂組成物の機械的強度が向上する。ここでの結晶性ポリオレフィンに
は、前述したものがそのまま使用できる。不飽和カルボン酸またはその誘導体については
特に限定しないが、無水マレイン酸が好適である。また、置き換える量は任意であるが、
0.5〜10質量部が望ましい。0.5質量部より少ないと強度向上の効果は得られず、
10質量部を超えると加工性が著しく低下する。
【0042】
本発明において上記(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビ
ニル共重合体と(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の配合割合は、両者の合計100質量
部に対し(A)が40〜80質量部、(B)が60〜20質量部であることが好ましい。
(A)成分が80質量部を超えると、押出外観が著しく悪化するおそれがある。(A)成
分が40質量部より少ないと、良好な可とう性が得られないおそれがある。
【0043】
本発明で用いる(C)金属水酸化物は、樹脂組成物に難燃性を付与するものである。
【0044】
このような(C)金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、
水酸化カルシウム等が挙げられ、中でも難燃効果の最も高い水酸化マグネシウムが好適で
ある。金属水酸化物は分散性の観点から表面処理剤で表面処理されていることが望ましい

【0045】
表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸
または脂肪酸金属塩等が使用でき、中でも樹脂と金属水酸化物の密着性を高める点でシラ
ン系カップリング剤が望ましい。
【0046】
使用できるシラン系カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリ
エトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物
、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N
−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、β−(アミノエチル)
γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエ
トキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルト
リメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプ
ロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピル
トリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロ
ピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドな
どのポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メ
ルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン化合物が挙げられる。
【0047】
これらの表面処理剤を金属水酸化物に処理させる方法としては湿式法、乾式法、直接混
練法などの既知のものを用いてよい。
【0048】
処理量は特に限定しないが、金属水酸化物100質量部に対して0.1〜5mass%
の範囲であることが望ましく、処理量が0.1mass%より少ないと樹脂組成物の強度
が低下し、5mass%より多いと加工性が悪くなる。
【0049】
また、金属水酸化物の平均粒子径は、機械的特性、分散性、難燃性の点から4μm以下
のものがより好適である。
【0050】
(C)金属水酸化物の添加量は(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレ
ン−酢酸ビニル共重合体と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂との合計100質量部に
対して30〜150質量部が好ましい。30質量部より少ないと優れた難燃効果が得られ
ず、150質量部を超えると可とう性や機械的強度が著しく低下する。
【0051】
本発明で用いる(D)アクリル系加工助剤としては、メチルアクリレート、メチルメタ
アクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート
、イソプロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレー
ト、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、n
−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレー
ト、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリ
レートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを1種または2種以上を共重合させた
ものが使用できる。また、上記以外にも、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシ基を含有した
(メタ)アクリル酸アルキルエステルも使用することができる。
【0052】
上記のようなアクリル系加工助剤の市販品としては、例えば、三菱レイヨン製のメタブ
レンP−531A、メタブレンP−530A、メタブレンP−700、メタブレンP−1
050、メタブレンL−1000、カネカ製のカネエースPA−20、カネエースPA−
60、カネエースPA−100等が挙げられる。
【0053】
(D)アクリル系加工助剤の添加量は(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上の
エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量
部に対して、1〜10質量部が好ましい。1質量部より少ないと押出成形において平滑な
表面が得られず動摩擦係数が高くなり、10質量部を超えると難燃性が著しく低下するお
それがある。
【0054】
本発明で用いる(E)脂肪酸アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、パルチミン
酸アミド、オレイン酸アミド、モンタン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、ラ
ウリン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−ステアリル
ステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド
、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパル
チミン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、
エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレン
ビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸ア
ミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド
、N,N−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N−ジオレイルセバシン酸アミド等が挙げ
られる。
【0055】
(E)脂肪酸アミド系滑剤の添加量は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上
のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質
量部に対して、0.1〜2質量部が好ましい。0.1質量部より少ないと材料の動摩擦係
数が高くなり、2質量部を超えると滑剤が材料表面に析出するため成形物の外観が著しく
損なわれるおそれがある。
【0056】
上記以外にも必要に応じてプロセス油、加工助剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化
防止剤、滑剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも
可能である。
【0057】
本発明の樹脂組成物を製造する装置に限定はないが、ニーダー、バンバリーミキサー、
ロール、二軸押出機などの汎用のものが使用できる。製造には、(1)エチレン−酢酸ビ
ニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させる工程、(2)エチレン−酢酸ビニル
共重合体、結晶性ポリオレフィン系樹脂、金属水酸化物、アクリル系加工助剤、脂肪酸ア
ミド系滑剤およびシラノール縮合触媒等の配合剤を混練しながらエチレン−酢酸ビニル共
重合体をシラン架橋させる工程の2つがあり、これらを別々に分けて行う手法や、例えば
、二軸押出機などで両工程を一度の押出で行う手法などがあり、特に限定はしない。
【0058】
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体、結晶性ポリオレフィン系樹脂および金属水酸化
物、アクリル系加工助剤、脂肪酸アミド系滑剤の各成分を混練する時の順序は任意であり
、1)エチレン−酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物、アクリル系加工助剤、脂肪酸アミ
ド系滑剤を先に混練し、結晶性ポリオレフィン系樹脂を後に加える方法、2)エチレン−
酢酸ビニル共重合体と結晶性ポリオレフィン系樹脂を先に混練し、金属水酸化物、アクリ
ル系加工助剤、脂肪酸アミド系滑剤を後に加える方法、3)全てを一括して混練する方法
などがある。
【0059】
上述した各工程において、シラノール縮合触媒は最後に加えるのが最適である。その他
、酸化防止剤や着色剤などの配合剤はどのタイミングで加えてもよい。
【0060】
本発明に係るノンハロゲン難燃樹脂組成物によれば、環境負荷が少なく、優れた可とう
性及び低摩擦性を有するノンハロゲン難燃樹脂組成物を得ることができる。この樹脂組成
物を、既知の押出機による電線被覆方法と同様に、シースとして押出被覆することにより
、巻き癖による作業効率の低下がなく、通線や引き抜き作業がスムーズに行え取扱性に優
れたケーブルを提供することが可能となる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の実施例1〜10と比較例1〜12を説明する。
【0062】
【表1】

【0063】
まず、実施例1〜10と、比較例6を除いた比較例1〜5,7〜12は、シラン化合物
をグラフト共重合させたシラングラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた。
【0064】
このエチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させる工程では、
原料のエチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量25,30,42mass%)、
ビニルトリメトキシシラン、ジクミルパーオキサイドを100/3/0.01質量部、ま
たは100/5/0.02質量部の比率で含浸混合したものを準備し、これらを200℃
の40mm押出機(L/D=24)で滞留時間が約5分となるように押出し、グラフト反
応させた。
【0065】
次に、表1の各例に示した配合の各成分を37mm二軸押出機(L/D=60)に一括
して投入することで混練し、混練中にシラン化合物がグラフト共重合されたエチレン−酢
酸ビニル共重合体を架橋させることで混練物を作製した。
【0066】
温度は180℃とし、スクリュー回転数は150rpmとした。これをペレット化し、
シートおよびケーブル作製用の材料とした。
【0067】
評価用シートは140℃に予熱した二本ロール(6インチ)にペレットを投入し、シー
ト状に取り出した後、180℃の加圧プレス機を用いて成形した。
【0068】
評価用ケーブルは180℃に予熱した40mm押出機(L/D=24)を用い、ケーブ
ルコアに厚さ0.5mm、外径が5.5mmとなるようにチューブ状に押出被覆して作製
した。ケーブルコアとして、外径0.5mmの銅導体にポリエチレンを厚さ0.2mmで
被覆したものを2本撚り合わせ、さらにこれを4対撚り合わせたものを使用した。押し出
したケーブルは胴径300mmのケーブルドラムに巻き取った。ケーブルの全長は50m
とした。
【0069】
上記手順で作製したシートおよびケーブルを次に示す方法で評価した。
【0070】
シートはJIS K7171に準拠した曲げ弾性率により評価した。曲げ弾性率が45
MPa以下である材料を合格とした。
【0071】
ケーブルの機械的強度、難燃性をJIS C 3005に準拠して評価した。ケーブル
シースの引張強度は8MPa以上、破断伸びは200%以上を合格とした。
【0072】
難燃性評価には60度傾斜燃焼試験を行い、炎を取り去った後の延焼時間を測定し、6
0秒以内に自然消火したものを合格とした。
【0073】
ケーブル外観および巻き癖の評価方法として、押出時にケーブルドラムに巻き取ったケ
ーブルを1週間放置した後、引き出したときの外観(表面の平滑さ、ブルームの有無)お
よび巻き癖(ドラムに巻いたケーブルを引き出した時まっすぐにならない状態)の有無を
目視により確認した。
【0074】
また、同一材料を用いたケーブル同士の滑り性(引き出し性)はJIS K7125に
準拠した動摩擦係数測定により評価した。すなわち、図5に示したように、上下2本ずつ
固定されたケーブル51の間に試験ケーブル10をセットし、上から荷重(19.6N)
をかけ、試験ケーブル10を引き抜くときの引き抜き力から動摩擦係数を計算した。動摩
擦係数は、f(引き抜き力)/N(荷重)により計算した。この動摩擦係数は、ポリ塩化
ビニルを被覆したケーブルと同等である0.7以下のものを合格とした。
【0075】
表1に示すように、実施例1〜10においては、可とう性、機械的強さ、難燃性、押出
外観に優れ、巻き癖がなく、引き出し性にも優れたケーブルが得られている。
【0076】
これに対して、比較例1は、アクリル系加工助剤を添加していないため、動摩擦係数及
び押出外観が不合格であった、また比較例2は、脂肪酸アミド系滑剤を添加していないた
め、動摩擦係数が不合格であった。比較例3は、シラングラフトエチレン−酢酸ビニル共
重合体の結晶性ポリオレフィン系樹脂との配合比率が、実施例1の80質量部より多い8
5質量部であり、押出外観が凸凹となった。
【0077】
また比較例4は、シラングラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体の結晶性ポリオレフィ
ン系樹脂との配合比率が、実施例2の40質量部より少ない35質量部であり、曲げ弾性
率が高く、巻き癖が不合格であった。
【0078】
次に、比較例5は、酢酸ビニル含有量が25mass%と、規定より少ないエチレン−
酢酸ビニル共重合体を用いたため、十分な可とう性が得られず、ケーブルに巻き癖が残っ
てしまった。よって、酢酸ビニル含有量は30mass%以上がよい。
【0079】
比較例6は、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、実施例1と同様の酢酸ビニル含有量が
42mass%を用いているが、シラン架橋させていないため、引張強さが小さく、また
材料表面の粘着力も高くなり動摩擦係数も高くなる。
【0080】
比較例7は、金属水酸化物の添加量が25質量部と実施例3の30質量部より少ないた
め難燃性が低く、比較例8は、添加量が155質量部と実施例5の150質量部より上回
るためは可とう性、機械的特性が目標値を満足することができない。
【0081】
比較例9は、アクリル系加工助剤の添加量が、0.5質量部と、実施例7〜10の1質
量部より少ない0.5質量部であり、押出外観が平滑でなく、動摩擦係数が高くなる。ま
た比較例10は、アクリル系加工助剤の添加量が実施例3,4の10質量部より多い11
質量部であり難燃性が不十分となる。
【0082】
比較例11は、脂肪酸アミド系滑剤の添加量が実施例3,4の0.1質量部より少ない
0.05質量部であり、材料の滑り性が劣り、動摩擦係数が高くなり、比較例12は、実
施例5の1質量部を上回る2.5質量部であり、滑剤が多いために、ブルームによりケー
ブル表面が白化する現象が見られ外観が劣ってしまう。
【0083】
以上見てきたように、本実施形態に係るノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いたLANケ
ーブルは、巻き癖が残らず、滑り性に優れるため、配線作業性が従来のLANケーブルに
比べ大幅に改善されており、その工業的有用性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酢酸ビニル量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)
結晶性ポリオレフィン系樹脂とからなり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋され
てなるベースポリマに、(C)金属水酸化物、(D)アクリル系加工助剤および(E)脂
肪酸アミド系滑剤を添加したことを特徴とするノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項2】
(A)酢酸ビニル量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を40〜8
0質量部と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂を60〜20質量部と、これら(A)と
(B)の合計100質量部に対して、(C)金属水酸化物を30〜150質量部、(D)
アクリル系加工助剤を1〜10質量部、(E)脂肪酸アミド系滑剤を0.1〜2質量部含
有する請求項1記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体が、シラン架橋されている請求項1または2記載の
ノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項4】
JIS K7171に準拠した曲げ弾性率が45MPa以下である請求項1〜3いずれ
かに記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載したノンハロゲン難燃樹脂組成物を押出被覆によりシー
スとして用いたケーブル。
【請求項6】
JIS K7125に準拠した同一ケーブル同士の動摩擦係数が0.7以下である請求
項5記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−195831(P2011−195831A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38301(P2011−38301)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(597126332)東日京三電線株式会社 (6)
【Fターム(参考)】