説明

ノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノートブック型電子機器、即ち、パーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ等に組込まれている発熱素子の熱を、ヒートパイプを介してディスプレイ又はキーボードの裏面に設けられた放熱体(ノイズ遮蔽板等)に伝達し放散させる、優れた放熱性能を実現させたノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ノートブック型電子機器、例えばパーソナルコンピュータ内の発熱素子は、発熱素子近傍に小型ファンを設置して冷却していた。
しかしこの方法では、ファンを駆動するのに電力を消費し、携帯使用時には電池を電源とするため電池寿命を縮め、ファンの風切り音は聴感上不快感をもたらし、ファンの耐久度がコンピュータのそれより低い、等の問題があった。
【0003】
このようなことから、発熱素子の熱をヒートパイプにより、電子機器本体側のノイズ遮蔽板(放熱体)に逃がす自然空冷法が考案された。
しかし、この方法では、ノイズ遮蔽板が電子機器本体側にあり小型で、しかも本体側にあるため熱放散性が十分でなく、増加の一途を辿っている発熱素子の熱を将来にわたって抑えるには困難が予想された。
【0004】
そこで、ヒートパイプを2本使用し、一方のヒートパイプAの一端側を発熱素子に熱的に接続し、他方のヒートパイプBの一端側を前記本体に回動自在に取付けられたディスプレイ(液晶ディスプレイ等)又は開閉キーボード(以下キーボードと略記する)のノイズ遮蔽板に熱的に接続し、前記ヒートパイプA、Bの他端側同士を熱的に接続して、前記発熱素子の熱を前記ノイズ遮蔽板に伝達し放散させる方法が提案された(特開平8−87354 号公報)。
この方法での前記ヒートパイプA、B間の熱の授受は、図6に示すように、前記本体10とディスプレイ又はキーボードとを回動可能に連結する回動軸部13に設けられた銅管34内に、両ヒートパイプA、Bの他端側を嵌入する方法によりなされていた。
この他、一方のヒートパイプの他端側を環状とし、その中に他方のヒートパイプの棒状の他端側を嵌入させる方法も考えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記の回動軸部で熱を授受する方法では、ディスプレイ又はキーボード11を開閉する度に、ヒートパイプA、Bは銅管34内面と擦れ合うため、ヒートパイプA、Bが損傷してその熱伝導性が低下したり、さらにはヒートパイプA、B内部の作動液が漏洩してコンピュータ自体が破損する場合があった。又回動させるにはヒートパイプA、Bと銅管34との間にクリアランスが必要で、その為ヒートパイプA、B間での熱伝達が十分に行えないという問題があった。
これらの問題は、ヒートパイプの環状他端側に他のヒートパイプの棒状他端側を嵌入して熱的に接続する場合にも起きる。
本発明は、ヒートパイプを用いディスプレイ又はキーボードに放熱するようにしたノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造で、ディスプレイやキーボードを開閉してもヒートパイプが損傷する等して放熱特性が低下したりしない冷却構造の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、ノートブック型電子機器の本体側の発熱素子と熱的な接続をする熱伝導性シートと、前記本体に対し、回転自在のディスプレイ側または開閉キーボード側に取付けられた放熱体と、前記放熱体に熱的に接続されたヒートパイプとを備え、前記ヒートパイプと前記熱伝導性シートとは回転自在に熱的な接続をすることを特徴とするノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造である。
【0007】
請求項2記載の発明は、ノートブック型電子機器の本体側の発熱素子と熱伝導性シートとが直接接続されていることを特徴とする請求項1記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造である。
【0008】
請求項3記載の発明は、ノートブック型電子機器の本体側の発熱素子と熱伝導性シートとがヒートパイプを介して熱的に接続されていることを特徴とする請求項1記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造である。
【0009】
請求項4記載の発明は、熱伝導性シートの、ヒートパイプA、Bとの接触箇所以外の所要箇所が高分子フィルムで被覆されていることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造である。
【0010】
請求項5記載の発明は、熱伝導性シートがカーボングラファイトシートであることを特徴とする請求項1、2、3、4のいずれかに記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造である。
特徴とするノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図1を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明をノートブック型パーソナルコンピュータ(以下パソコンと称する)に組込んだ実施態様で、プラスチック等により形成された比較的厚みの薄い矩形容器からなるパソコン本体10の上部には、キーボード11とディスプレイ12とが、パソコン本体10側に設けられた回動軸部13,14 を軸中心として自在に回動するように取付けられている。キーボード11とディスプレイ12の裏面には、各々ほぼ等しい寸法のアルミ薄板がノイズ遮蔽板15,16 として装着されている。なお、キーボード11は、パソコン本体10側のハードディスクドライブやバッテリー(ともに図示せず)の交換時に開閉される。
パソコン本体10側には発熱素子であるCPU18が設置され、さらにその上方に複数枚のプリント基板19が設置されている。
CPU18にはアルミブロック20を介してヒートパイプAの一端側が、キーボード11のノイズ遮蔽板15にはヒートパイプBの一端側がそれぞれ熱的に接続されている。ヒートパイプA、Bの他端側同士はパソコン本体10側で柔軟性を有する熱伝導性シート17を介して熱的に接続されている。
【0012】
図2は前記ヒートパイプA、Bの他端側同士の熱的接続部の説明図である。
柔軟性を有する熱伝導性シート17は巾広リング状に形成されており、この巾広リングの片側内にヒートパイプBの他端側が挿入され、巾広リングの他の片側内にヒートパイプAの他端側が挿入され、それぞれ巾広リングの上からリン青銅製の板バネ22で強固に押さえ付けられている。前記巾広リングはヒートパイプA、B間で若干の撓みが持たされている。
【0013】
この実施態様では、キーボードの開閉に伴いヒートパイプBが上下に往復移動し、それに応じて巾広リングは撓んだり、引延ばされたりして追随する。前記巾広リングを形成する熱伝導性シート17は柔軟性を有するためキーボード11の開閉動作を阻害したりしない。また前記シート17は熱伝導性なのでヒートパイプA、B間の熱の授受が良好になされる。前記シート17は、状況に応じて複数枚重ね合わせて用いられる。
【0014】
熱伝導性シート17は、実際にパソコンに組込まれた場合、撓みと引延ばしの繰返しに際し、他部品と干渉して損傷する可能性がある。そこで前記シート17の熱授受箇所以外の所要箇所を高分子製フィルム或いはコーティングにより補強しておくと、開閉動作が多数回繰返されても、或いは開閉動作が高速で行われても前記シート17の損傷が抑制され、その耐久性が向上する。
【0015】
本発明において、熱伝導性シートには、柔軟性を有する任意の熱伝導シートが用いられる。特に熱伝導性カーボングラファイトシートが好適である。
この熱伝導性カーボングラファイトシートは、紙のように柔軟なので、キーボードやディスプレイの開閉動作を殆ど阻害しない。しかも前記シートは純アルミニウムの2倍以上の熱伝導率を有するためヒートパイプA、B間の熱の授受も極めて良好になされる。
【0016】
【実施例】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)
図3に示すように、キーボードの裏面にJISA1050製のアルミ板をノイズ遮蔽板15として設け、これに直径 3.0mm、長さ 400mmのヒートパイプBの一端側を密接させ、このヒートパイプBの他端側に、ヒートパイプBを軸にして幅60mm、長さ80mm、厚さ0.1mm のカーボングラファイトシートの2枚重ねを折返し、この折返し部のヒートパイプBと前記熱伝導性シート17とをリン青銅製の板バネ22で強固に押さえて熱的、機械的に接続した。次にこの熱伝導性シート17の他端側を発熱するCPU(図示せず)上に配し、前記熱伝導性シート17の他端側(4枚)を密着させ、この部分をCPUと熱的に接続した。次に前記CPUに通電し、CPUの発熱状況を観察した。
【0017】
(実施例2)
図4に示すように、キーボードの裏面にJISA1050製のアルミ板をノイズ遮蔽板15として設け、これに直径 3.0mm、長さ 400mmのヒートパイプBの一端側を密接させ、このヒートパイプBの他端側を幅60mm、長さ80mm、厚さ0.1mm のカーボングラファイトシートを2枚重ねて巾広リング状に形成した熱伝導シート17の片側内に挿入し、このヒートパイプBと前記巾広リングの熱伝導性シート17とをリン青銅製の板バネ22で強固に押さえて熱的、機械的に接続した。又ヒートパイプAの一端側に発熱するCPU24を設置した40×40mm、厚さ1.0mm のアルミ板(JISA1050)33を熱的に接続し、他端側を巾広リングの熱伝導性シート17の他の片側内に挿入し、ヒートパイプAと前記巾広リングの熱伝導性シート17とをリン青銅製の板バネ22で強固に押さえ熱的、機械的に接続した。次にCPU24に通電し、CPU24の発熱状況を観察した。
【0018】
(比較例1)
実施例2において、ヒートパイプA、Bの熱的接続を、図6に示すように、パソコン本体10の回動軸部13上に配置された肉厚1mm、長さ120mm の銅管34内に、ヒートパイプA、Bの他端側を長さ60mmづつ挿入して行った他は、実施例2と同じ方法でCPU24の発熱状況を観察した。なお、銅管34には、内径が 3.1mmと 3.2mmの2種類のものを使用した。
【0019】
実施例および比較例で観察したCPUの温度の経時変化を図5に示す。
図5より明らかなように、本発明の実施例1、2(No.1,2)ではCPUの温度は低温で安定し、熱が良好に放散されていることが分かる。
これに対して、比較例のNo.3,4は銅管とヒートパイプ間に回動に必要なクリアランスが設けてあるため熱伝達性に劣りCPUの温度が高くなった。特に内径 3.2mmの銅管ではCPUの温度が極めて高くなった。
【0020】
(実施例3)
次に、パソコンを作業状態として、キーボードを開閉角度 120度、開閉速度毎分 200回の条件で開閉動作を10回行った後、CPUの温度を測定した。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】



【0022】
表1より明らかなように、本発明例(No.1,2)は 10回開閉後もヒートパイプ及び熱的接続部材(カーボングラファイトシート)は損傷せず、CPUの温度も低く、良好な熱放散性が得られた。
これに対して、比較例のNo.3は銅管の内径が小さくヒートパイプとの間のクリアランスが少ないため、ヒートパイプは 10回開閉後に捩じれを生じ、 10回開閉後には亀裂を生じた。No.4は銅管の内径が 3.2mmと大きいため、ヒートパイプA、Bと銅管との間での熱伝達性が悪くCPUは高温となった。又ヒートパイプに損傷はなかったが、銅管とヒートパイプとの間にガタツキが生じていた。
上記比較例に見られたヒートパイプの損傷又は熱放散性の不良は、回動軸部で熱を授受する構造では不可避と考えられる。
【0023】
前記実施例では柔軟性を有する熱伝導性シートにカーボングラファイトシートを使用し、又キーボードのノイズ遮蔽板に放熱する場合について説明したが、本発明では、熱伝導性及び柔軟性に優れた任意のシートが適用でき、又ディスプレイのノイズ遮蔽板に放熱しても同様の効果が得られる。又ディスプレイとキーボードの各々のノイズ遮蔽板、本体側のノイズ遮蔽板等の2以上に放熱することにより熱放散性を飛躍的に向上できる。
なお、カーボングラファイトシートは純アルミの2倍以上の熱伝導率を有するので、このシートをヒートパイプを熱的に接続したノイズ遮蔽板等に貼付けておくと、ノイズ遮蔽板が均熱化され、放熱効果の一層の向上が期待される。
【0024】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明はノートブック型電子機器の発熱素子の熱を、熱放散性の良いディスプレイやキーボードのノイズ遮蔽板にヒートパイプを介して伝達し放散するので、熱放散性に優れ、且つ冷却のための電力が一切不要である。しかも発熱素子の熱を伝導するヒートパイプAと、前記熱をキーボード等に伝導するヒートパイプBとの間の熱の授受を柔軟性を有する熱伝導性シートを介して行うので、キーボード等の開閉によりヒートパイプの機能が低下したりしない。依って、工業上顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の冷却構造の実施例を示す全体説明図である。
【図2】本発明の冷却構造におけるヒートパイプA、Bを熱的に接続する例を示す斜視図である。
【図3】本発明の冷却構造の実施例を示す要部説明図である。
【図4】本発明の冷却構造の他の実施例を示す要部説明図である。
【図5】放熱性の試験結果を示すCPUの温度の経時変化図である。
【図6】従来の冷却構造におけるヒートパイプA、Bを熱的に接続する方法を示す概念図である。
【符号の説明】
10 パソコン本体
11 キーボード
12 ディスプレイ
13,14 回動軸部
15,16 ノイズ遮蔽板
17 柔軟性を有する熱伝導性シート
18 CPU
19 プリント基板
20 アルミブロック
22 リン青銅製の板バネ
24 CPU
33 アルミ板
34 銅管
A、B ヒートパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノートブック型電子機器の本体側の発熱素子と熱的な接続をする熱伝導性シートと、前記本体に対し、回転自在のディスプレイ側または開閉キーボード側に取付けられた放熱体と、前記放熱体に熱的に接続されたヒートパイプとを備え、前記ヒートパイプと前記熱伝導性シートとは回転自在に熱的な接続をすることを特徴とするノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造。
【請求項2】
ノートブック型電子機器の本体側の発熱素子と熱伝導性シートとが直接接続されていることを特徴とする請求項1記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造。
【請求項3】
ノートブック型電子機器の本体側の発熱素子と熱伝導性シートとがヒートパイプを介して熱的に接続されていることを特徴とする請求項1記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造。
【請求項4】
熱伝導性シートの、ヒートパイプA、Bとの接触箇所以外の所要箇所が高分子フィルムで被覆されていることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造。
【請求項5】
熱伝導性シートがカーボングラファイトシートであることを特徴とする請求項1、2、3、4のいずれかに記載のノートブック型電子機器の発熱素子の冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第3599490号(P3599490)
【登録日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【発行日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−208987
【出願日】平成8年7月19日(1996.7.19)
【公開番号】特開平10−39955
【公開日】平成10年2月13日(1998.2.13)
【審査請求日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【参考文献】
【文献】特開平08−087354(JP,A)
【文献】特開平08−042983(JP,A)
【文献】特開平03−124007(JP,A)
【文献】特開平04−206555(JP,A)
【文献】特開平01−181550(JP,A)
【文献】特開平8−162576(JP,A)
【文献】特開平4−354010(JP,A)