説明

ハイスループット合成システム及び該システムを自動で行うための合成装置

タンパク質やRNAなどの生体高分子のハイスループットな試験管内合成反応法のシステム技術を開発する。詳しくは、鋳型物質を原料にする合成系であって、以下の手段、その制御手段、又はその組合せを含むことを特徴とする無細胞系合成システム及び該システムを用いた自動合成機;1)鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応系に導く。2)合成速度の略低下前後又は合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応系を合成反応系外におき溶液の希釈処理をする。3)希釈処理に続いて、濃縮処理を行う。4)反応系を合成反応系に戻す。又は1)鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応に導く。2)合成速度の略低下前後、合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応系を合成反応系外におき溶液を濃縮処理する。3)濃縮処理に続いて希釈処理を行う。4)希釈された反応系を合成反応系に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願番号2003−122930,2003−281500からの優先権を請求する。
[技術分野]
本発明は、鋳型物質からの無細胞系合成システムに関する。さらに詳しくは、鋳型物質を原料にして物質を合成するに際して、合成反応の最大効率化のためのシステムに関する。また、該システムを自動で行うための合成装置に関する。
【背景技術】
タンパク質やRNAなどの生体高分子を生体外で合成する手段として、それらの反応に必要な基質、イオン類、緩衝液、細胞抽出液、及び合成酵素を試験管内に調製し反応をおこなう、いわゆるバッチ方式が古くから利用されてきた。しかしこのバッチ反応法は、その反応原理に起因するものとして、反応の進行に伴う基質濃度の低下と、合成阻害作用を有する副生成物の濃度上昇などのため、合成反応が短時間のうちに停止し、その結果、目的の生成産物量が低いという大きな限界があった。旧ソ連のA.Spirinらは、限外ろ過膜、透析膜、又は樹脂に翻訳鋳型を固定化したカラムクロマトグラフィー法等を利用することによって、アミノ酸やATP、GTPなどのエネルギー源及び基質の連続的な供給と同時に連続的な目的生成物および副生成物の反応系からの除去を可能とさせる連続式無細胞タンパク質合成法を発表している(非特許文献1)。しかし、これらの半透膜や限外ろ過カラムを用いる連続法は、複雑な装置の組立が必要とされ、さらに処理が煩雑なことから充分な経験も必要とされた。そして、この方式は同時に反応システムの自動化においても大きな難点となっていた。
遠藤らは、これらの問題を解決する方法として、半透膜を用いることなく基質の供給と副産物の除去を連続的におこなうことが可能な、接触界面拡散法を発明している(特許文献1)。この方法により、特別な反応装置を用いることなく大量のタンパク質を合成することが可能となった。しかし、該方法は、分子の拡散原理にもとづいているために、必要量のタンパク質を合成するために長時間を要するという欠点があり、その解決がまたれていた。
さらに、試験管内におけるRNA合成法、とりわけ、無細胞タンパク質合成反応に必須な翻訳鋳型であるmRNAのハイスループット合成法においてもタンパク質の無細胞合成法に見られる問題点が課題として残されていた。遠藤等はRNAの合成法の研究として、透析膜を利用する連続合成法を開発し、この方式がバッチ法の性能を大幅にうわまわる極めて合成収量の高いRNA合成法であることを見出している(特許文献2)。しかし、この半透膜等を用いるRNA連続合成法は、複雑な装置の組立が必要であり、そして処理が煩雑なことから充分な作業経験も必要とされた。さらに、この方式は反応システムの自動化においても大きな難点となっていた。
ポストゲノム時代の今日のタンパク質やRNAなどの生体高分子のハイスループット合成法に要求される要件としては、以下が考えられる。1)短時間内に大量合成が可能であること、2)短時間内に多種類の分子が合成可能であること、及び3)単純原理にもとづき、反応装置の自動化に向けた要素技術となり得ること、などである。特に、1)及び2)の要件は、単に合成の低価格化の観点からのみならず、比較的不安定な物性を持つタンパク質の活性を保有した状態で調製するために極めて重要である。
【特許文献1】WO02/24939
【特許文献2】WO01/27260
【非特許文献1】Spirin,A.et al.(1993)Meth.in Enzymol.,217,123−142
【発明の開示】
本発明の課題は、半透膜などの複雑な装置を利用する連続式合成法の原理とは完全に異なった、タンパク質やRNAなどの生体高分子のハイスループットな試験管内合成反応法のシステム技術及び該システムを用いた自動合成装置を提供することである。このことによって、遺伝子産物であるRNAやタンパク質などの構造・機能の解析のための網羅的調製や大量生産を簡便且つ効率的に行うことが可能になる。
本発明は、上記課題を解決するために、鋳型物質を原料にする合成系において、その高い反応速度の長時間維持を目的として種々検討を行った結果、以下の手段、その制御手段、又はその組み合わせを含む無細胞系システム及び該システムを用いた自動合成装置の完成により課題の解決を達成した。
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.鋳型物質を原料にする合成系であって、以下の手段、その制御手段、又はその組合せを含むことを特徴とする無細胞系合成システム;
1)鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応に導く。
2)合成速度の略低下前後、合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応溶液を希釈処理する。
3)希釈処理に続いて濃縮処理を行う。
4)濃縮された反応系によって合成反応をおこなう。
又は
1)鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応に導く。
2)合成速度の略低下前後、合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応溶液を濃縮処理する。
3)濃縮処理に続いて希釈処理を行う。
4)希釈された反応系によって合成反応をおこなう。
2.濃縮処理で、副産物を反応系外に除去する前項1のシステム。
3.希釈処理で、基質、エネルギー源及び/又は鋳型物質の反応系内への補充が行われる前項1又は2のシステム。
4.1)〜4)の手段を複数回繰返すことを特徴とする前項1のシステム。
5.鋳型物質が、転写鋳型である前項1〜4の何れか一に記載のシステム。
6.鋳型物質が、翻訳鋳型である前項1〜4の何れか一に記載のシステム。
7.反応溶液が、細胞抽出物を含む前項6のシステム。
8.前項5のシステムで得られる転写産物産生系と前項6又は7のシステムで得られる翻訳産物産生系を組み合わせる無細胞系合成システム。
9.前項1〜8の何れか一に記載のシステムを利用する鋳型物質からの無細胞系合成方法に用いる試薬の少なくとも1を含む合成キット。
10.前項1〜8の何れか一に記載のシステムを利用する鋳型物質からの無細胞系合成方法。
11.前項1〜8の何れか一に記載のシステムを利用する鋳型物質からの無細胞系合成装置。
12.前項1〜8の何れか一に記載のシステムを自動で実施するための装置であって、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回実施するために以下の制御手段を少なくとも備える無細胞系合成装置;
(1)合成を開始する手段;
(2)反応液を濃縮する手段;
(3)反応液を希釈する手段;
(4)合成反応の再活性化手段;
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段;
又は
(1)合成を開始する手段;
(2)反応液を希釈する手段;
(3)反応液を濃縮する手段;
(4)合成反応の再活性化手段;
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段。
13.反応液を濃縮する手段が、限外ろ過膜を用いるものであって反応液を限外ろ過膜を通して反応系外に除去する際に、反応液中の限外ろ過膜を通過不能な物質が、反応系内に濃縮されるものである前項12に記載の合成装置。
14.反応液を濃縮する手段において、反応液の反応系外への除去に、遠心分離機及び/または吸引ポンプが用いられる前項13に記載の合成装置。
15.反応液を希釈する手段が、反応液に希釈溶液又は基質溶液を添加することである前項12に記載の合成装置。
16.無細胞タンパク質合成工程において、転写鋳型から翻訳鋳型にコードされるタンパク質を生成するまでの工程を自動で実施するために、以下の制御手段の1を少なくとも備える前項11〜15に記載の合成装置;
(1)反応容器内の温度を可変制御する手段;
(2)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段;
(3)反応容器を搬送する手段;
(4)沈殿及び濃縮ろ過手段
17.前項1〜8の何れか一に記載のシステムを実施するためのプログラムであって、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回実施するために、以下の情報処理手段を含むプログラム。
(1)反応容器の容積と反応液濃度の情報を基に、単位時間当たりの合成量が減少傾向になる途上前の合成反応初期相範囲内の合成時間を設定する情報処理手段、
(2)(1)の合成反応初期相範囲内の合成時間に達すると、反応容器に希釈溶液を添加し、反応液を実質的に合成反応可能な濃度範囲外に設定する情報処理手段、
(3)(2)の後に、反応容器中の反応液を濃縮し、希釈液の添加によって増量された反応液の液量を元の液量に戻すように設定する情報処理手段、
(4)(3)の後に、合成反応を再開させるために反応至適温度に設定する情報処理手段、
(5)(1)〜(4)を複数回繰り返すための情報処理手段、
又は、
(1)反応容器の容積と反応液濃度の情報を基に、単位時間当たりの合成量が減少傾向になる途上前の合成反応初期相範囲内の合成時間を設定する情報処理手段、
(2)(1)の合成反応初期相範囲内の合成時間に達すると、反応容器中の反応液を濃縮し、反応液を実質的に合成反応可能な濃度範囲外に設定する情報処理手段、
(3)(2)の後に、反応容器に希釈溶液を添加し、濃縮によって減少された反応液の液量を元の液量に戻すように設定する情報処理手段、
(4)(3)の後に、合成反応を再開させるために反応至適温度に設定する情報処理手段、
(5)(1)〜(4)を複数回繰り返すための情報処理手段。
18.前項17に記載のプログラムが組みこまれた無細胞系合成装置であり、該プログラムの情報処理が該装置と協働して行われることにより、合成開始、反応液の希釈・濃縮、合成反応の再活性化手段が実行され、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回繰り返し実行できることを特徴とする無細胞系合成装置。
19.前項11〜16、18に記載の合成装置によって合成されたタンパク質。
【図面の簡単な説明】
図1:本発明の無細胞タンパク質合成方法とバッチ法による従来の無細胞タンパク質方法との実験結果の違いを示すグラフである。
図2:コムギ胚芽抽出液の濃度を変えた以外は実施例1と同様にして無細胞タンパク質合成を行った実験結果を示すグラフである。
図3A:コムギ胚芽抽出液の濃度を80OD、GFPmRNAの濃度を640μg/mlとし、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行う間隔を変化させた以外は実施例1と同様にして無細胞タンパク質合成を行った実験結果を示すグラフである。
図3B:希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行う間隔の違いによる合成されたGFPの量的差異を示すポリアクリルアミドゲル電気泳動結果である。
図4:ろ過膜を有する濃縮器と、送液ポンプとを組み合わせて本発明の無細胞タンパク質合成方法における副生成物の除去を実施し得るようにした構成の一例を模式的に示す図である。
図5:図4に示したろ過膜と送液ポンプとを副生成物の除去に用いる構成を用いて、本発明の無細胞タンパク質合成方法にてタンパク質合成を行った実験結果を示すグラフである。
図6:Aは、60ODのコムギ胚芽抽出液、450μg/mlのdihydrofolatereductase(DHFR)のmRNAを翻訳鋳型として用いた以外は実施例1と同様の翻訳反応液を用い、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を1時間間隔で2回繰り返した以外は実施例1と同様にして無細胞タンパク質合成を行った場合の実験結果を示す図である。
Bは、本発明の方法にてN末端にストレプトアビジンを融合したGFP融合タンパク質を合成し、GFP融合タンパク質を系外に単離する実験結果を示す電気泳動図である。
図7:本発明のRNA合成方法と、バッチ法による従来のインビトロでRNAを合成する方法との実験結果の違いを示す図である。
図8:エタノール沈殿により純化したmRNA、純化していないmRNAをそれぞれ翻訳鋳型として用いて、本発明の無細胞タンパク質合成方法を行った実験結果を示すグラフである。
図9:実験例7の転写反応後の転写反応液をそのまま用いて調製した翻訳反応液にて本発明の無細胞タンパク質合成方法を行った実験結果を示すグラフである。
図10:自動合成装置の概略図である。
図11:装置の実施例の結果を示すSDS−PAGEの図である。
【符号の説明】
1:ろ(濾)過濃縮器
2:送液ポンプ
3:反応槽
4:(RNA)基質溶液を収容した容器
5:送液切換バルブ
6:容器
T1:チューブT1
T2:チューブT2
T3:チューブT3
T4:チューブT4
T5:チューブT5
▲1▼:鋳型用プレート
▲2▼:試薬槽1(転写反応用溶液)
▲3▼:試薬槽2(翻訳反応用溶液)
▲4▼:試薬槽3(希釈溶液)
▲5▼:300μlチップ
▲6▼:20μlチップ
▲7▼:ロボットアーム
▲8▼:分注機1
▲9▼:分注機2
▲10▼:転写・ろ液受け用プレート
▲11▼:チップ廃棄口
▲12▼:恒温槽1
▲13▼:MTP(multi titer plate)ステージ
▲14▼:翻訳用プレート
▲15▼:昇降台
▲16▼:遠心機
▲17▼:廃液口
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、鋳型物質を原料にする一般的なバッチ式もしくは拡散連続バッチ式の、反応速度の高い合成反応初期相の特性を最大限に利用することを特徴とする合成法である。また該特性を最大に利用した合成法を自動可能化することを特徴とした合成装置である。
その手段は、合成速度の略低下前後又は合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応溶液の希釈処理又は濃縮処理を行う。この希釈処理又は濃縮処理で、鋳型物質を原料とする合成に必要とされる基質、エネルギー源、イオン類、緩衝液及び鋳型物質などの成分が補充又は濃縮される。
この希釈又は濃縮された反応溶液は、ついで、希釈された場合は濃縮処理、濃縮処理された場合は希釈処理をする。この処理で、反応溶液は元の反応至適濃度にもどされる。該濃縮処理で、反応溶液中成分が除去もしくは分離され、反応産物及び/又は反応副産物は、回収及び/又は除去がなされる。該濃縮又は希釈によって合成反応の各要素は再び至適濃度に調製される。そして、この希釈及び濃縮処理は、不連続に繰り返しおこなうことで、大量のタンパク質を合成可能とする。
本発明は、鋳型物質による合成反応を、希釈及び濃縮を不連続に繰り返し行う合成法を原理とするものである。
また、本発明の自動合成装置は、不連続に繰り返し行う合成法を自動化することを原理とするものである。
本発明において、鋳型物質を原料にする合成系の一は、mRNAを鋳型とするタンパク質の翻訳合成系、特に細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を細胞から取り出し利用するタンパク質合成用細胞抽出液を使う無細胞タンパク質合成系である。その他の一は、RNAポリメラーゼを酵素として用いる転写鋳型による試験管内転写反応によるRNA合成系を意味する。
(無細胞タンパク質合成系)
無細胞タンパク質合成系のなかでも、コムギ胚芽抽出物を利用したものは、大腸菌抽出物を用いた無細胞タンパク質合成系に比べて特に核酸分解酵素活性が低く、さらに、翻訳活性が安定で且つ高い特性を持っている(Madin K.et al.,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,559−564)ため、プラスミドを鋳型とした転写・翻訳系で高効率のタンパク質合成が可能である(PCT/JP99/04088)。以下、本発明においては、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系及び該合成系において機能し得る転写鋳型の合成法を例として説明するが、本発明の基本原理は他の微生物や動物細胞由来の細胞抽出物を用いた無細胞タンパク質合成系及びそれに用いる転写鋳型の合成系にも応用できる。
(細胞抽出物)
細胞抽出物の市販品としては、大腸菌由来のE.coli S30 extract system(Promega)、RTS 500 Rapid translation System(Roche)、ウサギ網状赤血球由来のRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega)、小麦胚芽由来のProteios(TM)(TOYOBO)等がある。このうち特に植物種子由来の胚芽抽出物を用いることが好ましく、小麦、大麦、稲、コーン、ほうれん草の種子等が例示され、小麦胚芽抽出液を用いる系が最適である。
(翻訳産物産出系)
ここで、翻訳産物産出系とは、細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液に翻訳鋳型、基質となる核酸、アミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、及びその他の有効因子を加えて試験管内で行う方法である。
(無細胞タンパク質合成系)
ここで、無細胞タンパク質合成系とは、細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液に転写、または翻訳鋳型、基質となる核酸、アミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、及びその他の有効因子を加えて試験管内で行う方法である。
(コムギ胚芽抽出液)
本発明の細胞抽出物含有液としては、このうちコムギ胚芽抽出液を用いたものが好適である。
コムギ胚芽抽出液の調製法としては、コムギ胚芽の単離方法として、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature,179,160−161(1957)に記載の方法等が用いられ、また単離した胚芽からの細胞抽出物含有液の抽出方法としては、例えば、Erickson,A.H.et al.,(1996)Meth.In Enzymol.,96,38−50等に記載の方法を用いることができる。その他、特願2002−23139、特願2002−231340の方法が例示される。
本発明で好適に利用される胚芽抽出物は、原料であるコムギ自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳タンパク質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)がほぼ完全に取り除かれている。すなわち、これらの阻害物質が局在する胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。胚乳の除去の程度は、コムギ胚芽抽出物中に夾雑するトリチンの活性、すなわちリボソームを脱アデニン化する活性をモニターリングすることにより評価できる。リボソームが実質的にアデニン化されていなければ、胚芽抽出物中に夾雑する胚乳由来成分がない、すなわち胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されていると判断される。リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
上記胚芽抽出物は、細胞抽出物含有液由来および必要に応じて別途添加されるタンパク質を含有する。その含有量は、特に限定されないが、凍結乾燥状態での保存安定性、使い易さ等の点から、凍結乾燥前の組成物おいて、当該組成物全体の好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2.5〜5重量%であり、また、凍結乾燥後の凍結乾燥組成物において、当該凍結乾燥組成物全体の好ましくは10〜90重量%、より好ましくは25〜70重量%である。なお、ここでいうタンパク質含有量は、吸光度(260,280,320nm)を測定することにより算出される。
(微生物の除去)
細胞抽出物含有液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を除去しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の除去手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入する可能性のある微生物が除去可能なサイズであれば特に限定されないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。
さらに、細胞抽出物含有液の調製工程の何れかの段階において低分子合成阻害物質の除去工程、および/または還元剤濃度の低減工程を加えることにより特定の効果を有する無細胞タンパク質合成を行うための細胞抽出物含有液とすることができる。
(細胞抽出物含有液から低分子合成阻害物質の除去方法)
細胞抽出物含有液は、タンパク質合成阻害活性を有する低分子の合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含んでおり、これらを取り除くことにより、タンパク質合成活性の高い細胞抽出物含有液を取得することができる。具体的には、細胞抽出物含有液の構成成分から、低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画除去する。低分子合成阻害物質は、細胞抽出物含有液中に含まれるタンパク質合成に必要な因子のうち最も小さいもの以下の分子量を有する分子として分画することができる。具体的には、分子量50,000〜14,000以下、好ましくは14,000以下のものとして分画、除去し得る。
低分子合成阻害物質の細胞抽出物含有液からの除去方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には、透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。
透析による低分子合成阻害物質の除去操作に用いる透析膜としては、50,000〜12,000の除去分子量を有するものが挙げられる、具体的には除去分子量12,000〜14,000の再生セルロース膜(Viskase Sales,Chicago製)や、除去分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量の細胞抽出物含有液等を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
(細胞抽出物含有液の安定化)
低分子合成阻害物質の除去を行う際、細胞抽出物含有液に不溶性成分が生成される場合には、この生成を阻害する(以下、これを「細胞抽出物含有液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られる細胞抽出物含有液あるいは翻訳反応用溶液のタンパク質合成活性を高めることができる。細胞抽出物含有液あるいは翻訳反応用溶液の安定化の具体的な方法としては、上述した低分子合成阻害物質の除去を行う際に、細胞抽出物含有液あるいは翻訳反応用溶液を、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液として行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATPとGTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
これらの成分は、予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子阻害物質の除去工程に供してもよいし、低分子合成阻害物質の除去に透析法を用いる場合には、透析外液にも安定化成分を添加して透析を行って低分子合成阻害物質の除去を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体を安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含む細胞抽出物含有液あるいは翻訳反応用溶液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、細胞抽出物含有液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分を細胞抽出物含有液に添加し、適当な時間の後に低分子阻害物質の除去工程を行い、取得された処理後細胞抽出物含有液を遠心分離等の方法で可溶化成分と不溶化成分に分離し、そのうちの不溶性成分が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後細胞抽出物含有液を用いて無細胞タンパク質合成を行い、タンパク質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上述の選択方法において、細胞抽出物含有液と透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られた細胞抽出物含有液中の不溶性成分量や、得られた細胞抽出物含有液のタンパク質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
このようにして選択された細胞抽出物含有液の安定化条件の例として、具体的には、透析法により低分子合成阻害物質の除去工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出物含有液、及び透析外液中に,ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、細胞抽出物含有液のタンパク質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
また、低分子合成阻害物質の除去を細胞抽出物含有液として調製した後に行えば、上記安定化成分を細胞抽出物含有液にさらに添加する必要はない。
(mRNAの調製)
鋳型物質としてのmRNAは、目的タンパク質をコードするものであれば、その調製法を制限されるものではなく、自体公知の如何なる方法も用いることができる。無論、本発明の手段によって鋳型物質としてのDNAから調製されたもの、さらには、これを一連の系の中で連続的に使用することが特に好ましい。
(翻訳反応用溶液の調製)
mRNAからタンパク質の合成は、リボゾームを含むタンパク質合成用細胞抽出液に、基質となるアミノ酸(20種の必須アミノ酸又は目的に応じたアナログもしくは変異体アミノ酸を用いる)、エネルギー源(ATP及び/又はGTP)、必要に応じて各種イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン等)、緩衝液(HEPES−KOH、Tris−酢酸等)、ATP再生系(ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼの組合せ、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼの組合せ等)、核酸分解酵素阻害剤(リボヌクレアーゼインヒビター、ヌクレアーゼインヒビター等)、tRNA、還元剤(ジチオスレイトール等)、ポリエチレングリコール、3’,5’−cAMP、葉酸、抗菌剤(アジ化ナトリウム、アンピシリン等)等の翻訳反応に好適な成分を含有する溶液(翻訳反応溶液)を無細胞タンパク質合成手段に適した濃度に添加し、これに翻訳鋳型のmRNAを添加して、翻訳反応用液を調製する。この翻訳反応用溶液を翻訳反応に適した温度に調製して、翻訳反応をおこない、目的とするタンパク質を合成する。
(転写反応)
転写鋳型は、本発明者が既に報告する汎用性ある鋳型分子の構築法(WO01/27260、02/18586)に準じて調製すればよく、例えばプラスミドベクターpEUに所望の構造遺伝子を導入し、SP6RNAポリメラーゼ処理で転写を行う方法等が好適に例示されるが、無論mRNAの調製法はこれに限定されない。転写鋳型を、転写鋳型中のプロモーターに適合するRNAポリメラーゼやRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド三リン酸)等の転写反応に必要な成分を含む溶液(転写反応溶液ともいう)と混合し、これを約20〜約60℃、好ましくは約30〜約42℃で、約30分〜約16時間、より好ましくは約2〜5時間インキュベートして転写反応をおこなう。
(合成反応)
本発明の無細胞系合成システムにおいては、以下の手段、手段の制御、又はこれらの組合せを含むシステムが遂行される。
必須の手段の1は、鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応系に導くことである。前記記載の鋳型物質、基質、及び反応溶液(転写反応溶液又は翻訳反応用溶液)を至適濃度及び至適温度に調製し、最適な合成反応を行う。合成反応は、通常、約10分〜2時間、より好ましくは20分〜1時間行う。この時間は、各系に応じて変更可能であり、実験的繰り返しにより最適時間は調製可能である。本発明の、不連続繰り返し合成法にあっては、特にこのワンクールの処理時間は比較的短持間であることが好ましい。
(希釈又は濃縮)
必須の手段の2は、上記反応時間として、合成速度の略低下前後又は合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応系に対して希釈又は濃縮することである。合成速度の略低下前後とは、経時的にmRNA又はタンパク質の時間当たり合成量が、最大量から減少傾向がみえるタイミングを意味し、一般には点ではなく線として理解される。また、合成反応の略停止前後とは、合成量が実質的に検出できない程度に落ちたレベルをいうが、この場合も一般には点ではなく線として理解される。それらの途上とは、合成速度が低下をはじめ、合成反応が停止するまでの間をいう。なお、より好ましい合成効率を得るためには、合成速度の略低下前後に反応系に対して希釈又は濃縮処理をおこなうことである。この時間としては、最適には10分〜1時間である。
反応系に対する希釈又は濃縮は以下のように行われる。
希釈は、反応系に約1〜20倍、好ましくは約2〜10倍容量の水溶液を添加して行う。水溶液には、鋳型物質、基質、反応溶液を所望により含有させる。特に好適には、鋳型物質、基質、エネルギー源等を含む溶液が用いられる。各成分の添加濃度は、次の処理の濃縮後に合成至適濃度に調製されるべく選択される。この希釈によって、反応系は著しくその合成能力は低下された状態となる。この状態をもって、本発明は不連続と呼ぶ。
濃縮は、反応液を反応系外に除去する際に、反応液中の通過不能な物質(例えば、合成タンパク質、リボソーム等)が反応系内に濃縮されうる、自体公知のあらゆる濃縮手段を利用可能である。好適には、限外ろ過膜を使ったろ過処理、遠心分離機による処理、ゲルろ過処理、吸引ポンプ、液相もしくは気相に圧力差を発生させる方法等が例示される。この処理にあっては、膜の通過口径を調節することで、遠心分離操作、或は分子篩によって、反応産物、反応副産物を分離・除去する。膜の分子量カットサイズ、遠心速度、ゲルろ過条件は、自体公知の処理目的産物の物性によって最適調製可能である。本発明では、好適には10,000〜100,000Daの分子量カットの膜が好適に利用される。
この濃縮処理で、反応溶液は、元の容量の1/5〜2/3容量にまで濃縮され、その結果、各合成因子の合成至適濃度が大きくずれることとなる。この濃縮によって、反応系は著しくその合成能力は低下された状態となる。この状態をもって、本発明は不連続と呼ぶ。
(合成反応の再活性化)
必須の手段の3は、合成反応の再活性化である。前段階で希釈処理されたものは濃縮され、濃縮処理されたものは希釈処理が施される。
前者の場合、希釈処理に続いて、濃縮処理を行う。ここで濃縮とは、希釈によって増量された反応系の液量を、元の液量に戻すことを意味する。濃縮手段は、特に限定されるものではなく、自体公知のあらゆる濃縮手段を利用可能である。好適には、限外ろ過膜を使ったろ過処理、遠心分離機による処理、ゲルろ過処理、液相もしくは気相に圧力差を発生させる方法等が例示される。この処理にあっては、膜の通過口径を調節することで、遠心分離操作、或は分子篩によって、反応産物、反応副産物を分離・除去する。膜の分子量カットサイズ、遠心速度、ゲルろ過条件は、自体公知の処理目的産物の物性によって最適調製可能である。本発明では、好適には10,000〜100,000Daの分子量カットの膜が好適に利用される。
後者の場合、濃縮処理に続いて、希釈処理を行う。ここで希釈とは、濃縮によって減量された反応系の液量を、元の液量に戻すことを意味する。希釈溶液には、鋳型物質、基質、反応溶液を所望により含有させる。特に好適には、鋳型物質、基質、エネルギー源等を含む溶液が用いられる。各成分の添加濃度は、希釈後に合成至適濃度に調製されるべく選択される。
かくして、反応系の至適濃度に復活した反応系は、再び温度を反応至適温度に調製され、反応系が再活性化される。至適温度は、15〜25℃である。
なお、反応産物及び/又は反応副産物の分離・回収・除去等のためには、処理対象物との親和性に基づく処理も好適に実施可能である。親和性に基づくとは、親和性物質を固定化しておき、これと目的物質を接触させて結合させ、その後目的物質を溶離・回収する方法が例示される。親和性物質とは、例えば回収物質がタンパク質であれば、タンパク質に対する抗体、受容体に対するリガンド、転写因子に対する核酸等が例示される。なお、目的産物を適当なタグ・マーカーで修飾し(例えば、ストレプトアビジン、ヒスチジンタグ、GST、マルトース結合タンパク質等)、この修飾物質と特異的に結合しうる物質(例えば、ビオチン、2価金属イオン、グルタチオン、マルトース等)を使って精製することも可能である。
本発明では、希釈及び濃縮の処理を不連続に複数回繰返すことが可能であり、この繰り返しによって、無細胞合成系の再生を複数回達成する。この再生により、タンパク質の大量合成が達成されるのである。
本発明では、希釈及び濃縮の処理を、一連の工程として制御手段と組み合わせて遂行可能である。この制御のためには、駆動源(モータ、空圧・油圧機器、その他の動作制御可能なアクチュエータ等)及びコンピュータ制御による制御回路、シーケンス制御回路等により、動作のオン・オフ、動作の程度、動作スピード、動作間隔が調節される。また、信号転送用ドライバー、動作確認用センサー、動作制御用スイッチ、タイマー等は適宜所望により装備可能である。
本発明は上記説明のように、希釈と濃縮を不連続に複数回繰返すことによって、無細胞合成系の再生を達成するものであるが、より具体的にその効果を説明すると以下となる。
(希釈濃縮バッチ式無細胞タンパク質合成法)
本合成法では、合成反応容器は、従来使用されてきた限外ろ過膜や透析膜を装着した濃縮を可能とする容器をバッチ反応容器として合成反応を開始することが可能である。無細胞タンパク質合成手段を使い至適条件下タンパク質の合成反応後、例えば合成反応停止の前後に、反応系を再活性化するために、基質やエネルギー源となるアミノ酸、ATP,GTPの他緩衝液やイオン類などタンパク質合成に必要とされる成分(Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−556に記載した透析外液のことで以下基質溶液と略す)及び鋳型物質のmRNAを含む溶液を、反応液の1から20倍容量に一度に添加し、希釈する(希釈処理)。その後、反応容器を例えば遠心機にかけ遠心することによってろ過膜をとおして容器内の増加した溶液を排出させてもとの反応液容量に戻す(濃縮処理)。この濃縮処理は、遠心力によらず液相もしくは気相に圧力差を発生させることによっても可能である。この希釈及び濃縮処理によって、新鮮な基質溶液を反応系に供給すると同時に、合成反応で生じた翻訳反応を阻害する副生成物質を排除することができる。このように例えば合成反応の停止前後におこなう基質等を含む溶液による反応液の希釈と濃縮を不連続に繰り返すことによって、反応系の再活性化が達成され、長時間にわたってタンパク質の合成が可能となる。この方法はSpirinらの開発した半透膜を使い連続的に基質、エネルギー源の補給と代謝産物の廃棄をおこなう、いわゆる連続法とはその原理を異にし、その合成の効果は、数十から数千倍に達する(本発明の方法では、半透膜をつかった方法で約30時間かけて得られる生産量を約2〜3時間で得られる)もので質において大きな差異をもつ。なお、本原理を用いるタンパク質合成手段において、使用するろ過膜の分画分子量サイズを選択することによって、副生成物の排除と同時に合成タンパク質を選択的に反応系から分画単離することを可能となる。すなわち、本原理を利用することによって、タンパク質の合成と合成産物の精製が同時に可能となる。なお、同様の効果は、濃縮を行った後に希釈を行う順序を変えた場合にも達成可能である。
(希釈濃縮バッチ試験管内RNA合成法:転写産物産出系)
ファージRNA合成酵素を用いる一般的なRNA合成反応液組成、反応方法および合成RNAの分析方法は、WO01/27260及びWO02/18586に記載した方法に準じた。本発明合成法では従来の限外ろ過膜や透析膜を装着した濃縮を可能とする容器をバッチ反応容器として合成反応を開始することが可能である。使用する限外ろ過膜の分画分子量はRNAが通過しないサイズを選ぶ。合成反応停止の前後に、基質となる4種類のリボヌクレオチド三リン酸、イオン類や緩衝液などのRNA合成に必要とされる成分を含む溶液(WO01/27260及びWO02/18586に記載した方法に準じて調製した透析外液のことで以下RNA基質溶液と略す)を、反応液の1から20倍容量を添加し希釈する。反応容器を遠心機にかけ遠心することによってろ過膜をとおして容器内の増加した溶液を排出させ、もとの反応液容量に濃縮する。この過程の処理は遠心力によらず液相もしくは気相に圧力差を発生させることによっても可能である。これら処理によって、新鮮な基質溶液を反応系に供給すると同時に、バッチRNA合成反応で生じたモノヌクレオチドとピロリン酸を系から排除することによって、化学平衡の原理によって事実上停止していたRNA合成反応を、平衡をずらすことによって再開せしめる。この反応停止前後におこなう基質による反応液の希釈とろ過濃縮を繰り返すことによって、長時間にわたるRNA合成が可能となる。この方法は先に遠藤らが発明した透析法によるRNA連続合成法(WO00/68412)とはその原理を異にする。本原理を用いるタンパク質合成手段において、合成後の反応液を水(あるいは所望する溶液)による希釈とろ過膜等を介した濃縮を繰り返すことによって、ヌクレオチド類、緩衝液成分やイオン類を含まないRNAを水(又は目的とする成分を含む溶液)として回収することができる。すなわち、この方法においては、鋳型となるDNA分子種を選択することによって、高速に、高収量且つ低価格(高価であるRNA合成酵素の使用量は通常のバッチ系で必要とされる量しか用いないので)で所望するmRNAを溶液として調製することが可能となる。
なお、同様の効果は、濃縮を行った後に希釈を行う順序を変えた場合にも達成可能である。
(自動合成装置)
本発明の自動合成装置は、少なくとも翻訳鋳型による合成反応(タンパク質合成)を、希釈及び濃縮を不連続に繰り返し行う合成法の一連の反応操作を自動で行わせる方法を提供する。さらには、転写産物産出系で合成した転写鋳型から該鋳型にコードされるタンパク質を生成するまでの反応操作を自動で行わせる方法を提供する。ここで「操作を自動で行わせる」とは、一連の工程中に、実験者が反応系(反応容器)に直接的に手動の操作を加えないことを意味する。従って、各工程を実行させるに際し、用いられる本発明の自動合成装置に設けられた所定の操作ボタンやスイッチなどの操作を実験者が手動で行うことは、本発明における「自動」の要件を損なうものではない。
本発明においては、転写産物産出系で合成した転写鋳型から該鋳型にコードされるタンパク質を生成するまでの反応操作を自動で行わせる装置は、以下の(1)〜(5)の手段を少なくとも有することをその特徴とするものである。
以下、各工程について具体的な実施態様を挙げて詳述するが、本発明の方法は、翻訳鋳型の精製工程の特徴を有する限り、それらに制限されるものではない。
(1)転写鋳型の作製工程
本発明の自動合成装置において、本工程は必ずしも自動で行う必要はなく、手動により得られた転写鋳型を以下の自動化工程に用いることもできるが、本工程を含めて、転写鋳型の作製から該鋳型にコードされる蛋白質の生成までの一連の工程を自動で行わせることがより好ましい。
本明細書において「転写鋳型」とは、インビトロ転写反応の鋳型分子として使用し得るDNAをいい、適当なプロモーター配列の下流に目的蛋白質をコードする塩基配列を少なくとも有する。適当なプロモーター配列とは、転写反応において使用されるRNAポリメラーゼが認識し得るプロモーター配列をいい、例えば、SP6プロモーター、T7プロモーター等が挙げられる。目的蛋白質をコードするDNAはいかなるものであってもよい。
転写鋳型は、プロモーター配列と目的蛋白質をコードする塩基配列との間に翻訳効率を制御する活性を有する塩基配列を有することが好ましく、例えば、タバコモザイクウイルス由来のΩ配列などのRNAウイルス由来である5’非翻訳領域、及び/又はコザック配列等を用いることができる。さらに、転写鋳型は、目的蛋白質をコードする塩基配列の下流に転写ターミネーション領域等を含む3’非翻訳領域を含むことが好ましい。3’非翻訳領域としては、終止コドンより下流の約1.0〜約3.0キロベース程度が好ましく用いられる。これらの3’非翻訳領域は必ずしも目的蛋白質をコードする遺伝子本来のそれである必要はない。
転写鋳型の作製は、自体公知の手法により実施することができる。例えば、所望の転写鋳型と同一の塩基配列を含むDNAが挿入されたプラスミドを有する大腸菌などの宿主細胞を培養し、周知の精製方法を用いて該プラスミドを大量調製した後、適当な制限酵素を用いて該プラスミドから転写鋳型DNAを切り出し、フェノール処理及びクロロホルム処理により制限酵素を除去し、さらにエタノールやイソプロパノールによるアルコール沈殿(必要に応じて、適当量の酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等の塩を添加する)などにより転写鋳型を精製する方法が挙げられる。得られたDNAの沈殿は、超純水や後述の転写反応用溶液に溶解して以下の転写反応に供することができる。
かかる一連の操作を自動もしくは半自動(工程の一部に実験者が反応系に直接的に手動の操作を加える態様をいうものとする)で実施するための装置は知られており、これを本発明の自動合成装置に組み込むことにより、転写鋳型の作製から目的蛋白質の生成までを自動で行わせることが可能である。しかし、ハイスループット解析のための本発明に係るハイスループット合成システムの提供という本発明の目的と、装置の単純化、所要時間の短縮化等を考慮すれば、以下のポリメラーゼ・チェイン反応(PCR)法により転写鋳型を作製する方法を利用することがより好ましい。
本発明の合成装置の好ましい実施態様においては、目的蛋白質をコードするDNAがクローン化された宿主(例えば、該DNAを含むプラスミドを有する大腸菌など)を直接PCRにかけて転写鋳型を増幅する方法が用いられる。例えば、適当なプロモーター配列、翻訳効率を制御する活性を有する5’非翻訳配列及び目的蛋白質をコードするDNAの5’端領域の一部を含むオリゴヌクレオチドを、DNA自動合成機を用いて公知の手法により合成し、これをセンスプライマー、また3’非翻訳配列の3’端領域の配列を有するオリゴヌクレオチドをアンチセンスプライマーとし、鋳型として目的蛋白質をコードするDNAおよびその下流に該3’非翻訳配列を含むプラスミドを有する大腸菌などの宿主を直接PCR反応液に加えて、通常の条件で増幅反応を行わせることにより所望の転写鋳型を得ることができる。尚、非特異的増幅により生じる短鎖DNA(結果として目的産物の収量低下及び低分子翻訳産物ノイズを生じる)の生成を防ぐために、国際公開第02/18586号パンフレットに記載のプロモーター分断型プライマーを用いることもできる。
増幅反応は、市販のPCR用サーマルサイクラーを用いて市販のPCR用96穴プレート中で行うこともできるし、同様の温度可変制御装置を本発明の合成装置と連動させるか、あるいは本発明の合成装置の転写・翻訳反応を行わせるための各手段をそのままPCRに適用させることもできる。
上記のようにして得られる転写鋳型DNAはクロロホルム抽出やアルコール沈殿により精製した後に転写反応に供してもよいが、装置の単純化、所要時間の短縮化のためにはPCR反応液をそのまま転写鋳型溶液として使用することが好ましい。転写鋳型の作製において、上記した宿主からの直接PCRを用いることにより、一旦プラスミドを大量調製して、これを制限酵素処理して転写鋳型を得る方法と比較して、工程を格段に省略でき、少ない工程数で短時間での転写鋳型の大量合成が可能となる。すなわち、目的遺伝子を組み込んだプラスミドを有する大腸菌を培養してプラスミドを大最調製する工程を必要としないので、培養やプラスミド精製のための超遠心に要する時間を短縮することができる。また、プラスミドから転写鋳型を切り出すための制限酵素処理、及び制限酵素等を除去するためのフェノール処理、クロロホルム処理、転写鋳型の精製のためのアルコール沈殿、転写鋳型であるDNAの沈殿を溶解する工程を省略することができるので、フェノール/クロロホルムの残存による転写反応の阻害や、多工程の精製操作による転写鋳型のロスがない。また、反応に要するステップ数を少なくすることができるので使用するチップ数なども少なくて済むというさらなる利点を有する。
(2)転写反応工程
本発明の合成装置は、自体公知の方法を用いて調製された目的蛋白質をコードする転写鋳型DNAから、インビトロ転写反応により翻訳鋳型であるmRNAを生成させる工程を含む。当該工程は、反応系(例えば、96穴タイタープレートなどの市販の反応容器)に提供された転写鋳型を含む溶液、好ましくは上記PCR反応液と、転写鋳型中のプロモーターに適合するRNAポリメラーゼ(例えば、SP6 RNAポリメラーゼなど)やRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド3リン酸)等の転写反応に必要な成分を含む溶液(「転写反応用溶液」ともいう)とを混合した後、約20℃〜約60℃、好ましくは約30℃〜約42℃で約30分間〜約16時間、好ましくは約2時間〜約5時間該混合液をインキュベートすることにより行われる。転写鋳型溶液、転写反応用溶液の反応容器への分注、混合等の操作は後述の自動合成装置の分注手段(例えば、ピペッター(反応容器として市販の96穴タイタープレートを用いる場合には、ウェル間隔に適合した8連もしくは12連の分注チップを有するものが好ましく用いられる)など)を用いて行うことができる。また転写反応のためのインキュベーションは、後述の合成装置の温度制御手段により一定温度に制御しながら行うことができる。
(3)翻訳鋳型の精製工程
上記のようにして生成する転写産物(すなわち「翻訳鋳型」)は、所望により転写鋳型中に挿入された翻訳効率を制御する活性を有する5’非翻訳配列及び/又は3’非翻訳配列を含む、目的蛋白質をコードする塩基配列を有するRNA分子である。転写反応後の反応液中には、翻訳鋳型RNAの他に未反応のリボヌクレオシド3リン酸や反応副生物であるピロリン酸、その他転写反応用溶液に含有された塩などが混入しているが、これらの物質は後の翻訳反応を阻害することが知られているので、反応溶液を交換することによりこれらの物質を除く。かかる溶液交換手段としては、例えばフィルター付き容器に反応溶液を入れ、遠心により翻訳反応を阻害する物質を含む溶液を除き、新たに適当な緩衝液などの溶液を加え、これを繰り返す方法が例示されるが、これに限定されない。新たに加える溶液を翻訳反応用溶液とすれば、鋳型を精製することなく次の翻訳反応へ進むことができる。また、これらの物質を除去する手段として翻訳鋳型を選択的に沈殿させて未反応基質などを分離除去する方法が挙げられる。かかる沈殿手段としては、例えば塩析などが挙げられ、好ましくはアルコール沈殿法が例示されるが、それらに限定されない。アルコール沈殿法を用いる場合、使用するアルコールはRNAを選択的に沈殿させ得るものであれば特に制限はないが、例えばエタノール、イソプロパノールなどが好ましく、エタノールがより好ましい。エタノールの場合、転写反応液の約2倍量〜約3倍量、イソプロパノールの場合、転写反応液の約0.6倍量〜約1倍量を使用することが好ましい。また、適当な塩を共存させることにより沈殿の収量を増大させることができる。このような塩としては、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどが挙げられる。例えば、酢酸アンモニウムを用いる場合、終濃度が約0.5M〜約3Mとなるように添加することが望ましい。また、アルコール沈殿は室温で行えばよい。
(4)翻訳反応工程
上記のようにして得られる翻訳鋳型を含む翻訳反応用溶液を翻訳反応に適した温度で適当な時間インキュベートすることにより翻訳反応を行うことができる。翻訳反応は、通常、約10分〜2時間、より好ましくは20分〜1時間行う。この時間は、各系に応じて変更可能であり、実験的繰り返しにより最適時間は調製可能である。本発明の、不連続繰り返し合成法にあっては、特にこのワンクールの処理時間は比較的短持間であることが好ましい。
前述したように上記反応において、合成速度の略低下前後又は合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応系の希釈又は濃縮を行う。合成速度の略低下前後とは、経時的にタンパク質の時間当たり合成量が、最大量から減少傾向がみえるタイミングを意味し、一般には点ではなく線として理解される。また、合成反応の略停止前後とは、合成量が実質的に検出できない程度に落ちたレベルをいうが、この場合も一般には点ではなく線として理解される。それらの途上とは、合成速度が低下をはじめ、合成反応が停止するまでの間をいう。なお、より好ましい合成効率を得るためには、合成速度の略低下前後に反応系に対して希釈又は濃縮処理をおこなうことである。この時間としては、最適には10分〜1時間である。
反応系に対する希釈又は濃縮は以下のように行われる。
希釈は、反応系に約1〜20倍、好ましくは約2〜10倍容量の水溶液を添加して行う。水溶液には、鋳型物質、基質、反応溶液を所望により含有させる。特に好適には、鋳型物質、基質、エネルギー源等を含む溶液が用いられる。各成分の添加濃度は、次の処理の濃縮後に合成至適濃度に調製されるべく選択される。この希釈によって、反応系は著しくその合成能力は低下された状態となる。この状態をもって、本発明は不連続と呼ぶ。
濃縮は、反応液を反応系外に除去する際に、反応液中の通過不能な物質(例えば、合成タンパク質、リボソーム等)が反応系内に濃縮されうる、自体公知のあらゆる濃縮手段を利用可能である。好適には、限外ろ過膜を使ったろ過処理、遠心分離機による処理、ゲルろ過処理、吸引ポンプ、液相もしくは気相に圧力差を発生させる方法等が例示される。この処理にあっては、膜の通過口径を調節することで、遠心分離操作、或は分子篩によって、反応産物、反応副産物を分離・除去する。膜の分子量カットサイズ、遠心速度、ゲルろ過条件は、自体公知の処理目的産物の物性によって最適調製可能である。本発明では、好適には10,000〜100,000Daの分子量カットの膜が好適に利用される。
この濃縮処理で、反応溶液は、元の容量の1/5〜2/3容量にまで濃縮され、その結果、各合成因子の合成至適濃度が大きくずれることとなる。この濃縮によって、反応系は著しくその合成能力は低下された状態となる。この状態をもって、本発明は不連続と呼ぶ。
続いて合成反応の再活性化を行う。前段階で希釈処理されたものは濃縮され、濃縮処理されたものは希釈処理が施される。
前者の場合、希釈処理に続いて、濃縮処理を行う。ここで濃縮とは、希釈によって増量された反応系の液量を、元の液量に戻すことを意味する。濃縮手段は、特に限定されるものではなく、自体公知のあらゆる濃縮手段を利用可能である。好適には、限外ろ過膜を使ったろ過処理、遠心分離機による処理、ゲルろ過処理、液相もしくは気相に圧力差を発生させる方法等が例示される。この処理にあっては、膜の通過口径を調節することで、遠心分離操作、或は分子篩によって、反応産物、反応副産物を分離・除去する。膜の分子量カットサイズ、遠心速度、ゲルろ過条件は、自体公知の処理目的産物の物性によって最適調製可能である。本発明では、好適には10,000〜100,000Daの分子量カットの膜が好適に利用される。
後者の場合、濃縮処理に続いて、希釈処理を行う。ここで希釈とは、濃縮によって減量された反応系の液量を、元の液量に戻すことを意味する。希釈溶液には、鋳型物質、基質、反応溶液を所望により含有させる。特に好適には、鋳型物質、基質、エネルギー源等を含む溶液が用いられる。各成分の添加濃度は、希釈後に合成至適濃度に調製されるべく選択される。
かくして、反応系の至適濃度に復活した反応系は、再び温度を反応至適温度に調製され、反応系が再活性化される。至適温度は、15〜25℃である。
本発明では、希釈及び濃縮の処理を不連続に複数回繰り返すことが可能であり、この繰り返しによって、無細胞合成系の再生を複数回達成する。繰り返し回数は2回から20回、好ましくは5回から10回である。この再生により、タンパク質の大量合成が達成されるのである。
その他の工程については、自動化のために適用し得る従来公知の任意の手順や条件等に従って行えばよく、特に制限されるものではない。
本発明においては、上記操作を行うための装置は、以下の(a)〜(e)の手段を少なくとも有することをその特徴とするものである。
(a)反応容器内の温度を可変制御する手段;
(b)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段;
(c)反応容器を搬送する手段;
(d)沈殿及び濃縮ろ過手段;
及び
(e)上記(a)〜(d)の手段を上述してきた本発明の方法に沿って動作させるように制御する制御手段。
かかる(a)〜(e)の構成を少なくとも有する装置を用いることで、上述してきた本発明の転写産物産出系で合成した転写鋳型から該鋳型にコードされるタンパク質を生成するまでの反応操作を自動で行うことを可能とできる。以下、各構成について具体的に詳述する。
(a)反応容器内の温度を可変制御する手段
反応容器内の温度を可変制御する手段とは、転写反応、翻訳反応のインキュベーション及び翻訳反応の停止、翻訳鋳型の沈殿、または本発明の自動合成装置を用いてPCR法による転写鋳型の作製工程を自動で実施する場合には該PCR法の増幅反応などにおいて、反応容器内の液温を適当な温度条件に調整するための手段である。可変制御する温度範囲は、特に制限はないが、転写鋳型の作製を含む無細胞蛋白質合成の一連の反応操作において通常必要とされる温度範囲(例えば、約4℃〜約100℃、好ましくは約15℃〜約60℃)内で反応容器内の液温を可変制御し得る手段であれば、これを実現し得る手段としては特に制限されるものではない。たとえば、従来公知のタカラPCRサーマルサイクラーMP(タカラバイオ株式会社製)、Gene Amp PCR System 9700(Applied Biosystems Inc.,製)などが挙げられる。具体的には、ピペッティングなどを行う場所であって反応容器を載置するための作業ステージとは別に、装置内に反応容器を載置するステージを複数設け、ステージ上の空間全体の温度を可変制御し、結果的に反応容器内の温度を可変制御するように実現される。
(b)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段
反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段とは、反応容器内で転写反応、翻訳反応、PCRなどの一連の無細胞蛋白質合成反応を行わしめるために、反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段である。ここで「サンプル」は転写鋳型、翻訳鋳型、PCR用鋳型プラスミド(又は該プラスミドを有する宿主(例、大腸菌))等を指し、「試薬」は、転写反応用溶液、翻訳反応用溶液、翻訳反応溶液、希釈溶液、アルコール、塩溶液、PCR反応用溶液などを指す。かかる分注手段としては、工程に応じてサンプル、試薬の分量を調整して分注し得るものであれば、従来公知の適宜の自動で分注し得るピペットアーム(分注機)などを特に制限なく使用して実現することができる。また、ピペットアームは、使用済みチップを合成機のチップ廃棄口に廃棄する機能及び吸引したろ液等を廃液口に吐出する機能を備えることができる。
また、当該分注手段は、上記機能に加えて2種以上の溶液の均一化や沈殿溶解のための混合機能(例、ピペッティング、撹拌など)を備えていることがより好ましい。
さらに、ピペットアームにより、反応容器の各セル中に基質溶液又は希釈溶液を添加することにより、反応液の希釈処理が実行可能となる。
(c)反応容器を搬送する手段
反応容器を搬送する手段とは、反応容器を、各ステージ、遠心機、昇降台、恒温槽に移動させる手段である。かかる反応容器を搬送する手段は、反応容器を目的の場所に搬送可能であれば、特に制限されることなく従来公知の適宜の手段にて実現することができる。たとえば、従来の合成装置に使用されているロボットアームを用いて実現できる。
(d)沈殿及び濃縮ろ過手段
沈殿及び濃縮ろ過手段とは、転写反応中に生じた白濁物を沈殿させる操作または繰り返し翻訳反応時の反応液を濃縮ろ過する手段である。かかる手段は、反応中に生じた白濁物を沈殿させ得、固液分離可能とするものであり、また、繰り返し翻訳反応時の反応液の濃縮を可能とするものであれば、特に制限されることなく、従来公知の適宜の手段にて実現することができる。たとえば、従来公知の遠心分離機、その他、ろ過や凍結乾燥に従来から使用されている適宜の装置を用いて、該手段を実現できる。
(e)制御手段
制御手段には、上記(a)〜(d)の手段が動作するために各手段に用いられる駆動源(モータ、空圧・油圧機器、その他の動作制御可能なアクチュエータなど)の動作の入切、動作の程度及び状態などを制御する制御装置が含まれる。その制御の構成は、上記(a)〜(d)の手段の動作を、転写産物産出系で合成した転写鋳型から該鋳型にコードされるタンパク質を生成するまでの反応操作を自動で行わせる目的が達成できるものである。
前記制御装置は、例えば、制御プログラムを有するコンピュータを含んだ制御回路、シーケンス制御回路など、上記各手段の動作の制御に必要な制御機器を組み合わせて構成してもよく、目的に沿った順番で上記各手段が動作するよう、各手段に対して信号や必要に応じて電力、空圧、油圧等を供給し得る制御構成とする。また、上記各手段の駆動源に直接駆動信号を送るために必要なドライバー、上記各手段の駆動源の動作状態を検出するために必要な各種センサー、スイッチなどは適宜加えてよい。
なお本発明の合成装置に適用できる反応容器には特に制限はなく、無細胞蛋白質合成反応に使用されてきた従来公知の種々の反応容器を使用することが可能であり、例えば96穴PCR用プレート、96穴タイタープレート、8連チューブやチューブ(1.5mL、15mL、50mLなど)等が挙げられるが、例えば翻訳反応系としてバッチ法や重層法を用いる場合、96穴プレートなどの小さな反応系で翻訳反応を行うことができ、また、本発明の合成装置によれば転写反応も小さな反応系で行うことができるので、転写反応・翻訳鋳型の精製、翻訳反応、所望によりさらに転写反応に供する転写鋳型作製のためのPCRを含む一連の無細胞蛋白質合成法の反応操作を、複数の反応系で複数種の蛋白質について同時に行うことができ、短時間に多数の蛋白質を合成することができる。
さらに、翻訳鋳型による合成反応を、希釈及び濃縮を不連続に繰り返し行う合成法を行うための装置を提供する。本発明の装置は、以下の(1)〜(5)の手段を少なくとも有することをその特徴とするものである。
(1)合成を開始する手段;
(2)反応液を濃縮する手段;
(3)反応液を希釈する手段;
(4)合成反応の再活性化手段;
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段;
又は
(1)合成を開始する手段;
(2)反応液を希釈する手段;
(3)反応液を濃縮する手段;
(4)合成反応の再活性化手段;
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段;
かかる(1)〜(5)の構成を少なくとも有する装置を用いることで、上述してきた本発明のハイスループット合成システムを、自動で行うことを可能とできる。以下、各手段について具体的に詳述べる。
(1)合成を開始する手段;
▲1▼分注機を翻訳反応液が入った試薬槽に移動し、翻訳反応液を吸引する。
▲2▼分注機を翻訳用プレート(セルの底がフィルターになっている)上に移動し、転写産物の入った翻訳用プレートの各セル中に、翻訳反応液を吐出する。
▲3▼▲2▼に続いて、分注機が各セルのピペッテシングを行う。
▲4▼ロボットアームが、翻訳用プレートの蓋をし、該プレートを恒温槽に搬送及び恒温槽にセットする。
▲5▼翻訳プレートを保温して、合成を開始させる。
▲6▼設定された合成時間終了後に、ロボットアームが翻訳用プレートをMTPステージに搬送する。
(2)反応液を希釈する手段;
▲1▼分注機を希釈溶液が入った試薬槽に移動し、希釈溶液を吸引する。
▲2▼分注機を翻訳用プレート上に移動し、翻訳産物の入った翻訳用プレートの各セル中に、希釈溶液を吐出する。
(3)反応液を濃縮する手段
▲1▼ロボットアームが、翻訳用プレートを転写・ろ液受け用プレート上に重ねる。
▲2▼ロボットアームが、重ねた翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートを昇降台に搬送する。
▲3▼重ねた翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートを載置した昇降台を遠心機の高さに合うように、降下させる。
▲4▼ロボットアームが、重ねた翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートを遠心機にセットする。この時に翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートが一組の場合には、対角線上にダミープレートをセットする。また、2組の場合には、互いのプレートを対角線上にセットする。
▲5▼遠心機による遠心を開始する。この時に、翻訳用プレートの底は、フィルターになっているので、ろ液が転写・ろ液受け用プレートのセル中に除去され、翻訳用プレート中の各セルは濃縮される。
▲6▼ロボットアームが、重ねた翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートを遠心機から昇降台に搬送する。
▲7▼重ねた翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートを載置した昇降台を上昇させる。
▲8▼ロボットアームが、重ねた翻訳プレート及び転写・ろ液受け用プレートをMTPステージに搬送し、翻訳プレートと転写・ろ液受け用プレートを分離してセットする。
(4)合成反応の再活性化手段
前段で先に希釈処理された場合には続いて濃縮処理され、先に濃縮処理された場合には続いて希釈処理される。
▲1▼ロボットアームが、濃縮処理後の翻訳用プレート又は希釈後の翻訳用プレートを恒温槽に搬送及び恒温槽にセットする。
▲2▼翻訳プレートを保温して、合成を開始させる。
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段
▲1▼設定時間が終了した後に、恒温槽の温度を低下させて、実質的な合成を停止させる。
▲2▼ロボットアームが、翻訳用プレートをMTPステージに搬送する。
▲3▼(2)〜(4)に記載された手段を複数回繰り返す。
また、上記記載した合成装置の手段は、ハイスループット合成システムを、自動で行うための装置の一例であり、さらに濃縮処理による廃液処理手段、分注機のチップ廃棄処理手段等を含んでよい。
また、ハイスループット合成システムを実施するためのタンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回実施するために、以下の情報処理手段を含むプログラムも本発明の対象である。
(1)反応容器の容積と反応液濃度の情報を基に、単位時間当たりの合成量が減少傾向になる途上前の合成反応初期相範囲内の合成時間を設定する情報処理手段、
(2)(1)の合成反応初期相範囲内の合成時間に達すると、反応容器に希釈溶液を添加し、反応液を実質的に合成反応可能な濃度範囲外に設定する情報処理手段、
(3)(2)の後に、反応容器中の反応液を濃縮し、希釈溶液の添加によって増量された反応液の液量を元の液量に戻すように設定する情報処理手段、
(4)(3)の後に、合成反応を再開させるために反応至適温度に設定する情報処理手段、
(5)(1)〜(4)を複数回繰り返すための情報処理手段、
又は、
(1)反応容器の容積と反応液濃度の情報を基に、単位時間当たりの合成量が減少傾向になる途上前の合成反応初期相範囲内の合成時間を設定する情報処理手段、
(2)(1)の合成反応初期相範囲内の合成時間に達すると、反応容器中の反応液を濃縮し、反応液を実質的に合成反応可能な濃度範囲外に設定する情報処理手段、
(3)(2)の後に、反応容器に希釈溶液を添加し、濃縮によって減少された反応液の液量を元の液量に戻すように設定する情報処理手段、
(4)(3)の後に、合成反応を再開させるために反応至適温度に設定する情報処理手段、
(5)(1)〜(4)を複数回繰り返すための情報処理手段。
さらに、上記プログラムが組み込まれた従来公知の合成用装置において、該プログラムの情報処理が該合成装置と協働して行われることにより、合成開始、反応液の希釈・濃縮、合成反応の再活性化手段が実行され、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回繰り返し実行できることを特徴とする合成装置も本発明の対象である。
また、転写反応、翻訳反応を行わしめる際には、反応容器を密閉した中で行うことが好ましく、かかる観点からは蓋付きの反応容器を用い、さらに装置がこの反応容器の蓋の開閉を行う手段を有することが好ましい。上記蓋は、反応容器としてたとえば96穴プレートを用いる場合には、1個1個の穴をそれぞれ密封できるようなゴム製の蓋が例示される。閉じた状態で蓋を反応容器に密着させ得ることが好ましいことから、ある程度の重量(たとえば、500g程度)を有する蓋を用いるか、あるいは、クリップのようなもので蓋と反応容器とを挟んで蓋を閉じることが考えられる。また、反応容器の蓋の開閉を行う手段は、たとえば、従来公知のチャッキング機構・吸引機構と、ロボットアームとを組み合わせた機構などを用いて実現することができる。
本発明の合成装置は、上述した各手段以外に、反応試薬をストックする手段などを、必要に応じて有していてもよい。
上述のように、本発明のハイスループットシステム及び該システムを自動で行う装置は、同時に複数種の蛋白質を簡便に自動で合成することが可能である。たとえば、種々の変異体の蛋白質をコードする転写鋳型、翻訳鋳型を複数取り揃え、複数の変異体の蛋白質を同時に複数合成して、変異体の詳細な設計を要することなく解析等に供することができ、有用である。
また本発明のハイスループットシステム及び該システムを自動で行う装置は、様々な蛋白質のハイスループットな機能解析の用途に好適に供することができる。例えば、ホモロジー検索の結果、保存された共通のドメイン(例えば、キナーゼドメインなど)を含む蛋白質をコードする遺伝子群を鋳型とし、本発明の装置を用いて本発明の方法により該蛋白質を同時に合成し、一方でリン酸化の標的となり得る蛋白質群(例えば、転写因子など)を同様に合成し、両者を種々の組み合わせで混合し、例えば、32P標識したATPの取り込みを指標として、どの蛋白質キナーゼがどの蛋白質をリン酸化するかを同定することができる。
あるいは、転写因子に特有のモチーフ(例えばZnフィンガー、ロイシンジッパー等)を含む蛋白質をコードする遺伝子群を鋳型とし、本発明の装置を用いて本発明の方法により該蛋白質を同時に合成し、既知のシスエレメント配列との結合、他の転写制御因子とのヘテロダイマー形成能、さらに特定遺伝子プロモーターの転写制御領域との結合能等を調べることにより、転写因子の織りなすクロストークの解明のための情報を得ることができる。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(無細胞タンパク質合成法)
1)DNAからmRNAの反応(転写反応)
転写反応溶液〔最終濃度、80mM HEPES−KOH pH7.8、16mM 酢酸マグネシウム、10mM ジチオトレイトール、2mM スペルミジン、2.5mM 4NTPs(4種類のヌクレオチド三リン酸)、0.8U/μl RNase阻害剤、0.1μg/μl DNA〔プラスミドGFP(Green fluorescent protein)〕、1.6U/μl SP6 RNAポリメラーゼ〕を調製し、37℃で3時間反応させた。反応後4℃にて12,000rpm1時間遠心を行い、遠心後上清を集め、これにエタノール終濃度約70%、酢酸アンモニウムを終濃度約0.27Mになるように加え、4℃10分氷上で静置後3、000rpm30分間遠心した(エタノール沈殿)。このエタノール沈殿を3回行った後、適量の透析バッファー(最終濃度、35mM HEPES−KOH pH7.8、3.1mM 酢酸マグネシウム、103mM 酢酸カリウム、16mM クレアチン、1.2mM ATP、0.26mM GTP、2.5mM DTT、0.43mM スペルミジン、0.3mMの各種アミノ酸)でRNA濃度が約5〜10mg/mlになるように調製した。
また、本発明による、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作によるmRNA合成は実験例7にしたがって行った。
2)翻訳反応用溶液の調製
胚芽抽出液を、翻訳反応溶液〔最終濃度35mM HEPES−KOH pH7.8、103mM 酢酸カリウム(KOAc)、3.1mM 酢酸マグネシウム(Mg(OAc)2)、16mMクレアチンフォスフェート、1.2mM ATP、0.26mM GTP、2.5mM ジチオトレイトール(DTT)、0.43mM スペルミジン、0.3mM AAs(20種類のL型アミノ酸の混合物)、1.03mg/ml クレアチンキナーゼ〕を用い、翻訳反応時における胚芽抽出液の濃度(O.D.260nm)が40から120になるように調製して使用した。
3)翻訳反応
上記胚芽抽出液を含む翻訳反応溶液に上記調製したmRNA溶液を、胚芽抽出液の翻訳反応時における濃度に応じて添加して反応を行った。すなわち、胚芽抽出液の翻訳反応時におけるO.D.260nmが100の場合の添加するmRNA量を0.8mg/mlとし、比例計算にて加えるmRNA量を調製した。
上記調製した反応溶液を20℃で反応させた。反応開始から一定経過後(10分〜3時間)に2〜3倍容量の上記翻訳反応液を用い反応溶液を希釈し、次いで分子量カット30,000Daの限外ろ過膜で濃縮して、反応溶液を希釈前と同量に戻した。この操作を複数回繰返した。或は、先に約1/2〜1/3容量に濃縮し、その後上記翻訳反応液を用い元の容量に希釈した。
mRNAをバッチ操作で翻訳反応溶液に追加添加する場合は、1)で調製した転写反応液(エタノール沈殿前のもの)、もしくはエタノール沈殿操作を経て調製したmRNA溶液を、上記小麦胚芽液の濃度に応じて加えて行った。
4)タンパク質合成効果の確認
合成タンパク質量の測定は、Madin K et alらの報告(Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−556,)、に記載した方法に準じて行った。
5)コムギ胚芽抽出液の形態
なお、本検討で用いたコムギ胚芽抽出液、無細胞タンパク質合成反応液組成、mRNAの調製法、バッチ式無細胞タンパク質合成法は、Madin K et al.らの報告(Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−556,)、特許第3255784号、特開平2000−236896号、WO00/68412号、Sawasaki T.et al.らの報告(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2002),99,14652−14657)に記載した方法に準じて調製した。
(装置例)
本発明の希釈及び濃縮操作を複数回可能にし、また合成反応を不連続に行うための系の模式図を図4に示した。希釈及び濃縮操作をろ過膜と送液ポンプとを有するような構成で実現される場合、たとえば、図4に模式的に示すような機構の利用が例示される。ろ過膜を有するろ過濃縮器1と、送液ポンプ2とを組み合わせた機構を利用することで、反応槽3内での翻訳反応の終了の前後に(RNA)基質溶液で(転写または)翻訳反応液を稀釈した後に、ろ過濃縮器1によって副生成物をろ過し、容器6に排出する。一方、濃縮された(転写または)翻訳反応液を再び反応槽3に戻し、反応を再開せしめることが可能となる。
図4に示す系では、(RNA)基質溶液を収容した容器4と反応槽3とがチューブT1、送液切換バルブ5およびチューブT2を介して連結され、この送液切換バルブ5に、チューブT3、送液ポンプ2、チューブT4、ろ過濃縮器1、チューブT5を介して反応槽3が連結される。このようにして、送液切換バルブ5が、(a)反応槽3内へ送液しない状態(バルブが閉じた状態)、(b)送液ポンプ2の作動により、(RNA)基質溶液を収容した容器4から、(RNA)基質溶液を汲み上げて、直接反応槽3内へ送液し得る状態、(c)送液ポンプ2の作動により、反応槽3内の(転写または)翻訳反応液を汲み上げ、ろ過濃縮器1を通過させた後に反応容器3内に戻すように(転写または)翻訳反応液を循環させ得る状態、(d)送液ポンプ2の作動により、基質溶液を収容した容器4から、(RNA)基質溶液を汲み上げてろ過濃縮器1を通過させて反応槽3内へ送液し得る状態、の各状態を適宜切換え得るようにした構成とする。
かかる構成を用いて、以下の手順にて操作を行う。
1.反応槽3内で、バッチ反応による(転写または)翻訳反応を行う。この間は、送液切換バルブ5を閉じ〔上記(a)の状態〕、送液ポンプ3も停止し、反応槽3内への送液を停止状態とする。
2.(転写または)翻訳反応が停止する前後にいずれかの時点で送液切換バルブ5を切換え〔上記(b)の状態〕、送液ポンプ2を作動させて、(RNA)基質溶液を反応槽3内に供給し混合する。
3.送液切換バルブ5を切換え〔上記(c)の状態〕、送液ポンプ2を作動させて反応槽3内の(転写または)翻訳反応液を汲み上げて、ろ過濃縮器1を通過させ、副生成物を容器6に排出するとともに、濃縮された反応液を反応槽3内に戻すように循環させる。
4.送液切換バルブ5を切換え〔上記(d)の状態〕、送液ポンプ2を作動させて容器4内の(RNA)基質溶液を汲み上げて、ろ過濃縮器1を通して反応槽3内へと送液し、ろ過濃縮器1内に一部残った(転写または)翻訳反応液を反応槽3内へ洗い流し出す。
5.送液切換バルブ5を切換え〔上記(b)の状態〕、送液ポンプ2を作動させて容器4内の(RNA)基質溶液を汲み上げて、反応槽3内へと送液して、反応槽3内の(転写または)翻訳反応液量を元の容量にまで調製した後、送液切換バルブ5を切換えて〔上記(a)の状態〕送液を停止する。
6.1に戻り、上述した操作を繰り返す。
かかる系を利用した装置を実現する場合、用いる送液ポンプとしては、従来公知の適宜の送液ポンプを特に制限なく使用することができ、たとえばペリスタルチック式ポンプ〔たとえば、LKB−Pump−p1(Pharmacia社製)など〕などが例示される。また、ろ過濃縮器としても従来公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、クロスフローろ過装置、VF05C2型(分子量3万カット、Sartorius社製)などが例示される。
上記希釈及び濃縮手段をろ過膜と送液ポンプとを有するような構成で実現したシステムによれば、遠心分離機を利用する場合と比較してタンパク質の合成収量が向上され(実験例4を参照。)、また、大規模容量の無細胞タンパク質合成が可能な装置を構築できる。さらに、小型の反応容器とろ過濃縮器とを組み合わせることで小容量型の装置の構築が可能であり、上述した副生成物除去手段としてろ過膜と遠心分離機とを有するような構成とは異なり、必ず装置が大掛かりなものとなるということがない。また、かかるろ過膜と送液ポンプとを有するような構成では、稀釈・濃縮過程の精密な制御が容易であり、種々の目的に合わせた一般的な無細胞タンパク質合成技術の自動化に向けた極めて重要な基幹技術となることが期待できる。
実験例1
図1に本発明の希釈及び濃縮処理を不連続に繰り返すバッチ式無細胞タンパク質合成法の一例(実施例1)として、コムギ胚芽抽出液を用いた実験結果を示した。比較例は、バッチ法による従来の無細胞タンパク質合成法による結果である。縦軸は、合成タンパク質量(mg/ml)、横軸は、反応時間(時間)を示す。図1において、黒丸を結んだ線(●−●)が本発明の方法、白丸を結んだ線(○−〇)が従来のバッチ法の結果である。合成反応には、40A260nm/ml(小麦胚芽抽出液の波長260nmでの吸光度)の濃度の小麦胚芽抽出液と320μg/mlのGreen fluorescent protein(GFP)をコードするmRNA(翻訳鋳型)を混合し、20℃で無細胞タンパク質合成をおこなった。
比較実験の合成反応は分画分子量3万の限外ろ過膜付き濃縮容器(カット分子量30,000kDa)を用いておこなった。従来法のバッチ反応方式においては、蛍光活性を指標としたタンパク質生成量の時間変化は典型的なハイパボリック型を示す。すなわち、反応開始初期における最大速度相を経て反応速度は低下し、反応が停止にちかづく3時間以降においては長時間の保温によっても合成タンパク質量の増加は見られない(○−○)。この結果はこれまでの報告とよく一致している(Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−556)。この反応停止の原因については完全に解明されているわけではないが、主にエネルギー源であるATPやGTP濃度の低下(エネルギーの枯渇)と、再生できない副生物であるAMPとGMPの蓄積が何らかの機作によってタンパク質合成を抑制しているものと考えられている。
本発明の合成反応は、限外ろ過膜を装着した容器内でおこない、反応速度が高く反応停止前にあたる反応開始2時間後に反応液量の3倍容量のタンパク質合成基質溶液(基質及びエネルギー源を含む)を添加し撹拌する(希釈処理)。次に遠心機によって遠心し、稀釈前の反応溶液容量にまでこの基質溶液で稀釈された溶液を濃縮した(矢じりの示す時点)(濃縮処理)。この希釈及び濃縮の一連の処理を不連続に複数回繰り返すことよって、副生成物を含む低分子物質は限外ろ過膜を介して排除され低濃度化され、一方合成反応で消費されたATP、GTP、アミノ酸は反応開始時のそれぞれの濃度近くにまで回復させた。この濃縮処理によって同時に、コムギ胚芽由来のリボソーム、tRNAやその他のすべての翻訳因子が反応開始時のもとの濃度に濃縮される。このような処理によって、いったん低下していたタンパク質合成反応が再開し、もとの高い初期速度を持つに至った後に、その後再び反応が低下することが確認できる(●−●)。このような不連続的な稀釈・濃縮処理を繰り返すことによって、初期反応速度の高い時間領域の特性を利用することが可能となり、高能率な無細胞タンパク質合成を達成した。図1に示したように、4回の稀釈・濃縮処理の繰り返しによって、GFPのバッチ方式での1mlの反応容量当たり0.072mgであった合成量が、0.41mgにまで上昇させることができた。なお、合成タンパク質量は、GFPの蛍光強度測定手技(蛍光極大波長508nm)に従い、1μg/mlのGFPは蛍光強度は2.0であるとして計算した。
本処理によって十分な合成効率の達成がなされたが、稀釈及び濃縮処理の繰り返しに伴って、系のタンパク質合成速度が徐々に低下する現象が見られた。この原因として、胚芽由来の翻訳因子(群)のろ液への漏出あるいは限外ろ過膜への吸着等に起因する反応系内からの損失や、mRNAの分解或いは、限外ろ過膜への吸着等による濃度低下、などが推定された。
実験例2
図2は、コムギ胚芽抽出液の濃度を変えた以外は実施例1と同様にして無細胞タンパク質合成を行った実験結果を示すグラフであり、縦軸は合成されたタンパク質量(mg/ml)、横軸は反応時間(時間)を示す。図2において、小さな黒丸を結んだ線(・−・)は、コムギ胚芽抽出液の濃度を60A260nm/ml、GFPmRNA濃度を480μg/mlとした場合(実施例2)の実験結果を示し、大きな黒丸を結んだ線(●−●)は、コムギ胚芽抽出液の濃度を80A260nm/ml、GFPmRNA濃度を640μg/mlとした場合(実施例3)の実験結果を示す。また図2において、矢尻は上記操作を行った時点を示す。
図2に示すように、実施例2において4回の希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作により無細胞系で合成されたタンパク質は反応液1mlあたり0.62mg、実施例3において4回の希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作により無細胞系で合成されたタンパク質は反応液1mlあたり1.13mgであった。このように、本発明の無細胞タンパク質合成方法によるタンパク質合成量は、反応系の翻訳因子の濃度が高いほど多く、図1に示した従来のバッチ法の実験結果と比較すると著しく向上された。
実験例3
通常のバッチ法における合成速度の低下する時間は反応溶液中の基質濃度の減少および副生成物の蓄積濃度に依存することから、系の翻訳因子濃度と反比例の関係になる。すなわち、系の翻訳因子濃度(コムギ胚芽抽出液濃度)が高いほど反応停止に至る時間が短くなる(Madin Kら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,556−559)。そこで、翻訳因子を高濃度で用いる場合には、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行う時間の間隔を短くすることによって、高い合成速度を維持させることが可能であると考えられ、これによりタンパク質の単位時間内における生産効率を上昇させることが期待できる。
図3Aは、コムギ胚芽抽出液の濃度を80A260nm/ml、GFPmRNAの濃度を640μg/mlとし、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行う間隔を変化させた以外は実施例1と同様にして無細胞タンパク質合成を行った実験結果を示すグラフであり、図3Bは、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行う間隔の違いによる合成されたGFPの量的差異を示すポリアクリルアミドゲル電気泳動結果である。
図3Aのグラフにおいて、縦軸は合成されたタンパク質量(mg/ml)、横軸は反応時間(時間)、矢尻は希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った時点を示す。また図3Aにおいて、黒丸を結んだ線(●−●)は上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を反応開始より0.5時間間隔で行った場合(実施例4)の実験結果を示し、白丸を結んだ線(○−○)は上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を反応開始より1時間間隔で行った場合(実施例5)の実験結果を示している。図3Aにおいて、矢尻は上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った時点を示す。
図3Bは、0.5時間の間隔で上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った実施例4と、2時間の間隔で上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った以外は実施例4と同様に行った場合(実施例6)とを比較して示している。なお図3Bにおける矢尻は、GFPの染色バンドを示している。ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、各反応時間(実施例4では、反応開始より0、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5時間経過時点、実施例6では、反応開始より0、2、4、6、8、10、12、14時間経過時点)における反応液1μlをポリアクリルアミド未変性ゲル電気泳動で分離後、タンパク質をクマシーブリリアントブルーにより染色した。
図3A、Bに示すように、0.5時間の間隔で上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った実施例4は、1時間間隔で上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った実施例5、2時間間隔で上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った実施例6よりも単位時間あたりの収量が高い。実施例4では、2.5時間の反応で1mlあたり1.12mgの合成量を得るが、これは同一濃度の反応液で、2時間間隔で上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行い10時間反応させて得られた収量を上回る。この結果は、反応系の翻訳因子濃度(コムギ胚芽抽出液濃度)が高いほど短時間のうちにエネルギー源などの消費に伴う濃度低下と、同時に副生成物の蓄積濃度が高くなり、反応速度の低下と反応停止に至る時間が短くなることを直接的に示している。したがって、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作の時間設定にあたっては、反応系に含まれるコムギ胚芽抽出液濃度に依存した至適のタイミングを選ぶことによって、最大の合成収量を達成できる。
タンパク質は、その一般的な物性として不安定性(高い反応性)が挙げられる。したがって、高い品質のタンパク質を得るためには短時間で合成収量を高める技術を構築することが必須条件の一つとなり、図3に証明した本発明の原理は極めて有効なものといえる。
実験例4
図5は、図4に示したろ過膜と送液ポンプとを副生成物の除去に用いる構成を用いて、本発明の無細胞タンパク質合成方法にてタンパク質合成を行った(実施例7)実験結果を示すグラフである。縦軸は合成されたタンパク質量(mg/ml)、横軸は反応時間(時間)を示す。図5において、黒丸を結んだ線(●−●)が実施例7の実験結果を示し、白丸を結んだ線(○−○)が従来のバッチ法による方法の実験結果を示している。また図5において、矢尻は上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った時点を示す。
実施例7では、ろ過濃縮器としてクロスフローろ過装置(VF05C2型、Sartorius社製、分子量3万カット)を、また送液ポンプとしてはLKB−Pump−P1(Pharmacia社)を用いた。また80A260nm/mlの濃度のコムギ胚芽抽出液、640μg/mlの濃度のGFPmRNAを含有する以外は実施例1と同様の翻訳反応液を使用し、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を0.5時間間隔で行った。反応容器としては、目盛り付きプラスチック製チューブ(ファルコンチューブ)を用い、反応容量は15mlとし、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作における稀釈は45mlの容量の翻訳反応用溶液を用いて行った。
図5に示されるように、副生成物を除去するための手段としてろ過膜と送液ポンプとを有する構成を用いた場合には、実験例1〜3での限外ろ過膜と遠心分離機を利用した装置と同様に、本発明の無細胞タンパク質合成方法に好適に利用できることが確認された。実施例7では、4時間の反応によって反応容量1mlあたり2.1mgと、上記遠心機と限外ろ過膜を利用した装置を用いた場合よりも2倍程度高い合成収量でタンパク質が合成された。
実験例5
図6Aは、60A260nm/mlのコムギ胚芽抽出液、450μg/mlのdihydrofolate reductase(DHFR)のmRNAを翻訳鋳型として用いた以外は実施例1と同様の翻訳反応液を用い、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を1時間間隔で2回繰り返した以外は実施例1と同様にして無細胞タンパク質合成を行った場合(実施例8)の実験結果を示す図である。比較実験として、従来のバッチ法である(希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行わない)以外は同様の条件にて無細胞タンパク質合成を行った。実施例8では、分子量約20,000KDaのDHFRの無細胞系での合成に際し、カット分子量30,000Da(ミリポア社製)の限外ろ過膜を装着した反応容器を用いたものである。
図6Aにおいて、レーン1,2,3はそれぞれ、実施例8の0、1、2回の希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作による反応後の排出溶液(ろ液)、上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作と同様の時点における従来のバッチ法での反応液の各1μlをドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかけ、クマシーブリリアントブルー染色した結果を示す(図中における矢尻は、合成産物であるDHFRを示す。)。図6A中の矢尻が示すDHFRのバンドの染色強度から判るように、従来のバッチ法による実験結果(各レーンの左側の「反応液」)では、反応1時間後に微量のDHFRの合成が確認されるのみであったが、実施例8の実験結果(各レーンの右側の「ろ液」)では、1回、2回の希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作によって、反応系で生成したDHFRがろ液に効率よく取り出せたことが確認できた。
実験例6
図6Bは、本発明の無細胞タンパク質合成方法にてN末端にストレプトアビジンを融合したGFP融合タンパク質を合成し(実施例9)、GFP融合タンパク質を系外に単離する実験の結果を示す電気泳動図である。
本実験における無細胞タンパク質合成自体は、GFP融合タンパク質をコードするmRNAを翻訳鋳型として用い、希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を1時間間隔で4回行った以外は、実施例1と同様にして行った。GFP融合タンパク質を系外に単離する操作は、まず、1ビオチンを固定化した磁性ビーズを反応溶液に添加し、生成した融合体産物をビオチンとストレプトアビジン間の親和性を利用して磁気ビーズに選択的に捕集する、2融合タンパク質を結合したビーズを磁石によって反応容器外へ選択的に取り出す、という手順にて行った。また、電気泳動および染色は、実験例5と同様に行った。
図6Bに示されるように、単離操作前の反応液中に検出される産物が本操作によって反応液中から消失し(単離後反応液レーンの矢尻)、磁気ビーズを介して効率よく系外に単離されることがわかる(単離産物レーンに示す合成産物)。
実験例7
図7は、本発明のRNA合成方法(実施例10)と、バッチ法による従来のインビトロでRNAを合成する方法との実験結果の違いを示す図である。図7において、図7左はバッチ法による従来の方法の結果を、図7右は本発明のRNA合成方法の結果を示し、矢印はGFPをコードするmRNA産物を示している。
それぞれ、クラゲのGFP遺伝子を、それぞれ小麦胚芽無細胞系専用プラスミドベクターpEUに挿入したものを転写鋳型として、転写反応溶液〔最終濃度、80mM HEPES−KOH pH7.8、16mM 酢酸マグネシウム、10mM ジチオトレイトール、2mM スペルミジン、2.5mM 4NTPs(4種類のヌクレオチド三リン酸)、0.8U/μl RNase阻害剤、0.1μg/μl DNA〔プラスミドGFP(Green Fluorescent protein)〕、1.6U/μl SP6 RNAポリメラーゼ〕を調製し、37℃で3時間反応させた。
実施例10でのRNA合成反応は、反応開始3時間後に転写反応液に3倍量の上記転写反応用溶液を添加して稀釈した後、遠心分離機を用いて低分子をろ過膜を介して反応液系外に排除することによって、転写反応液をもとの濃度にまで濃縮した。その後、3時間の間隔で希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行い、合成反応を進行させた。各希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作時に、転写反応液を分取し、アガロースゲル電気泳動によって分離した転写産物(mRNA)をエチジウムブロマイド染色によって可視化した。
図7に示すように、従来のバッチ法によるインビトロでRNAを合成する方法では、RNA合成反応が3時間程度で停止するが、合成速度の高い3時間の反応の後に上記希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行っている実施例10では、従来の方法の2.4倍の収量でmRNAを合成することができた。
実験例8
図8は、エタノール沈殿により純化したmRNA、純化していないmRNAをそれぞれ翻訳鋳型として用いて、本発明の無細胞タンパク質合成方法を行った実験結果を示すグラフであり、縦軸は合成されたタンパク質量(mg/ml)、横軸は反応時間(時間)を示す。純化したmRNAは、実施例(無細胞タンパク質合成法)1)DNAからmRNAの反応(転写反応)に記載の方法に準じて調製した。純化していないmRNAは、実施例10に記載の方法で調製後12,000rpmにて1時間遠心後、上清を回収し調製した。図8において、黒丸を結んだ線(●−●)は、実施例10で合成したmRNAを含有する転写反応液を翻訳反応液に1:2の比率で加え、混合後、混合液と同量の透析緩衝液[35mM HEPES−KOH pH7.8、103mM 酢酸カリウム(KOAc)、3.1mM 酢酸マグネシウム(Mg(OAc)2)、16mM クレアチンフォスフェート、1.2mM ATP、0.26mM GTP、2.5mM ジチオトレイトール(DTT)、0.43mM スペルミジン、0.3mM AAs(20種類のL型アミノ酸の混合物)]を加え希釈後、元の混合液の容量になるまで濃縮し、再び同量の透析緩衝液を加え、同じ操作をもう一度くりかえし、濃縮後クレアチンキナーゼを終濃度約1mg/mlになるように加えタンパク質合成反応を行った場合(実施例11)の実験結果を示し、白丸を結んだ線(○−○)は、実験例7で合成したmRNAをエタノール沈殿して純化したものを用いて調製した翻訳反応液でタンパク質合成反応を行った場合(実施例12)の実験結果を示す。実施例11、12では、上記のようなmRNAをそれぞれ480μg/mlの濃度で用い、また60A260nm/mlの濃度のコムギ胚芽抽出液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして行った。
図8に示すように、実施例11,12についてタンパク質合成速度を比較したところ、有意な差異は認められなかった。この結果より、本発明の無細胞タンパク質合成方法によれば、mRNAを純化することなく転写後の転写反応液を用いて調製した翻訳反応液を用いて行う、簡便な無細胞タンパク質合成方法が実現可能となることが判った。
実験例9
図9は、実験例7の転写反応後の転写反応液を用いて調製した翻訳反応液にて本発明の無細胞タンパク質合成方法を行った実験結果を示すグラフであり、縦軸は合成されたタンパク質量(mg/ml)、横軸は反応時間(時間)を示す。図9において、上向きの矢尻は希釈及び濃縮の不連続繰り返し操作を行った時点を示す。下向きの矢印は、転写反応後の転写反応液(mRNAを含む)の添加した時点を示す。
翻訳反応液は、80A260nm/mlのコムギ胚芽抽出液、転写反応後の転写反応液(GFPmRNA9.6mgを含む)を、実施例1と同様の翻訳反応用溶液15mlに添加し(GFPmRNAの最終濃度640μg/ml)、これを液量8mlにまで濃縮した後に、上記翻訳反応用溶液による稀釈とこれに続く濃縮操作を行って翻訳反応液を調製し、翻訳反応を開始した。副生成物を除去する手段としては、図4に示したのと同様にろ過膜と送液ポンプとを有する構成を使用し、反応開始より4時間経過するごとにGFPmRNA(翻訳鋳型)の添加、そして30分間隔で基質及びエネルギー源を含む溶液による稀釈・濃縮を、不連続繰り返し操作で行った。
実験結果が示すように、mRNAの追加によって、殆ど停止状態にあった翻訳反応が再開始することが確認できる。さらに、この稀釈・濃縮法とmRNAの追加を組み合わせることによって、長時間に亘ってタンパク質合成を持続させることが可能となることが判る。
装置の実施例
以下に、本発明に係る自動合成装置の実施例を説明する。しかし、本発明に係る自動合成装置は、ハイスループット合成システムを自動で実施可能であれば下記の実施例の装置に制限されるものではない。
本発明の自動合成装置を実施するため、それぞれ以下のものを自動合成装置内にセットし、該合成装置を用いてGFPタンパク質合成を行った。
転写鋳型
GFPが組み込まれたpEUプラスミドベクターをセンスプライマーとアンチセンスプライマーをもちい、30μl系でPCRを行って得られたDNAを転写鋳型とした。このDNAは96ウェルPCRプレート(鋳型用プレート:▲1▼)内に収容した。
転写反応用溶液
終濃度80mM HEPES−KOH、16mM 酢酸マグネシウム、2mM スペルミジン、10mM DTT、3mM NTPs、1U/μl SP6 RNAポリメラーゼ、1U/μl RNasinを含有する溶液4.95mlを作成し装置内の試薬槽1(▲2▼)に入れた。
翻訳反応用溶液
それぞれ終濃度として30mM HEPES−KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM ホスホクレアチン、2mM ジチオスレイトール、0.3mM スペルミジン、0.3mM 20種類アミノ酸、2.7mM 酢酸マグネシウム、100mM 酢酸カリウム、0.005% アジ化ナトリウム、40ng/μl クレアチンキナーゼ、260nmにおける光学密度(OD)が80又は40ユニットのコムギ胚芽抽出液を含有する溶液5.5mlを作成し、装置内の試薬槽2(▲3▼)に入れた。なお、80ユニットと40ユニットのコムギ胚芽抽出液を含有する翻訳反応用溶液を用いたタンパク質合成は別々に行った。
希釈溶液
それぞれ終濃度として30mM HEPES−KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM ホスホクレアチン、2mM ジチオスレイトール、0.3mM スペルミジン、0.3mM 20種類アミノ酸、2.7mM 酢酸マグネシウム、100mM 酢酸カリウム、0.005% アジ化ナトリウムを含有する溶液100mlを作成し、装置内の試薬槽3(▲4▼)に入れた。
合成容器
鋳型用プレート(蓋付きPCR96穴(縦8×横12)プレート(鋳型DNAを入れたもの):▲1▼)、転写・ろ液受け用プレート(蓋付き96穴(縦8×横12)タイタープレート:▲10▼)、翻訳用プレート(蓋付きPCR96穴(縦8×横12)プレート(セルの底がフィルター):▲14▼)、ダミープレート(遠心時にバランスをとる)
チップ
300μlチップ(転写反応用溶液用、翻訳反応用溶液用、希釈溶液用:▲5▼)(280本)、20μlチップ(鋳型産物用:▲6▼)(96本)
分注機1:ピペッターの本数8本(300μlチップ装着用:▲8▼)
分注機2:ピペッターの本数8本(20μlチップ装着用:▲9▼)
GFPタンパク質合成は、以下の工程で本発明に係る合成装置を用いて行った。
<工程1:転写>
(1)ロボットアーム(▲7▼)が転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の蓋をはずした。
(2)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着し、転写反応液を入れた試薬槽1(▲2▼)まで移動した。
(3)分注機1(▲8▼)が、試薬槽1(▲2▼)から転写反応液を95μl(45μlx2回+5μl)吸引した。
(4)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の位置まで移動し、該プレートの縦の各セル(8個)に転写反応液を45μlずつ2回、吐出した。
(5)(2)−(4)の工程をさらに、転写反応液をまだ入れていない縦7列の各セルに行った。
(6)分注機1(▲8▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(7)ロボットアーム(▲7▼)が、鋳型用プレート(▲1▼)の蓋をはずした。
(8)分注機2(▲9▼)が、20μlチップ(▲6▼)を装着した。
(9)分注機2(▲9▼)の各チップが、エアを5μl吸引した(吸引の効率を上げるために行った)。
(10)分注機2(▲9▼)を鋳型用プレート(▲1▼)位置まで移動し、鋳型用プレート(▲1▼)の縦の各セル(8個)中の鋳型サンプル5μlを吸引した。
(11)分注機2(▲9▼)を転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)位置まで移動し、該プレートの縦の各セル(8個)に鋳型サンプル全量を吐出した。
(12)分注機2(▲9▼)の各チップにより、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の縦の各セル(8個)をピペッティングにより混和した。
(13)分注機2(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(14)(8)−(13)の工程をさらに、鋳型サンプルをまだ入れていない縦7列の各セルに行った。
(15)ロボットアーム(▲7▼)が、鋳型用プレート(▲1▼)及び転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の蓋をした。
(16)ロボットアーム(▲7▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)を、あらかじめ37℃に設定しておいた恒温槽1(▲12▼)に搬送し、セットした。
(17)恒温槽1(▲12▼)で、37℃で4時間、転写反応を行った。
<工程2:転写後沈殿除去>
(1)ロボットアーム(▲7▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)を恒温槽1(▲12▼)からMTPステージ(▲13▼)に搬送した。
(2)ロボットアーム(▲7▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の蓋をはずした。
(3)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着した。
(4)分注機1(▲8▼)の各チップが、エアを5μl吸引した。
(5)分注機1(▲8▼)を希釈溶液が入った試薬槽3(▲4▼)に移動させ、希釈溶液を吸引した(吸引量はプレート上の列によって濃縮遠心後の液量が変化するため、列ごとに80μl〜120μlの間で微調整した。)。
(6)分注機1(▲8▼)を転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)位置まで移動し、該プレートの縦の各セル(8個)に希釈溶液全量を吐出した。
(7)(4)〜(6)の工程をさらに、希釈溶液を入れていない縦7列の各セルに行った。
(8)分注機1(▲8▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(9)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳用プレート(▲5▼)に蓋をして、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)上に重ねた(遠心時にダミープレートとバランスを取るため)。
(10)ロボットアーム(▲7▼)が、重ねた翻訳プレート(▲14▼)及び転写・ろ液受け用プレートプレート(▲10▼)を昇降台(▲15▼)に搬送した。
(11)重ねた翻訳プレート(▲14▼)及び転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)を載置した昇降台を遠心機(▲16▼)の高さに合うように、下降させた。
(12)ロボットアーム(▲7▼)が、遠心機(▲16▼)の扉を開けた。
(13)遠心機(▲16▼)が、プレートをセットできるように遠心機のプレート設置部位の位置合わせを行った。
(14)ロボットアーム(▲7▼)が、重ねた翻訳プレート(▲14▼)及び転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)を遠心機に搬送し、セットした。
(15)(13)同様に位置合わせを行い、ダミープレートをバランスとして、遠心機にセットした。
(16)遠心機(▲16▼)で、3100g、15分間、遠心を行った。
<工程3:転写液バッファー交換1回目>
(1)遠心機(▲16▼)が停止した後、ロボットアームが遠心機の扉を開け、続いて、遠心機が位置合わせを行った(ロボットアームと遠心機のプレート設置部位の位置合わせ)。
(2)ロボットアーム(▲7▼)が、重ねた翻訳プレート(▲14▼)及び転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)を遠心機(▲16▼)から昇降台に搬送した。
(3)(1)同様に位置合わせを行い、ロボットアーム(▲7▼)がダミープレートを昇降台に搬送した。
(4)ロボットアーム(▲7▼)が、重ねた翻訳プレート(▲14▼)及び転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)をMTPステージ(▲13▼)に搬送し、翻訳プレート(▲14▼)と転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)を分離してセットした。
(5)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳プレート(▲14▼)の蓋をはずした。
(6)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着した。
(7)分注機1(▲8▼)の各チップが、エアを5μl吸引した。
(8)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)位置まで移動し、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の縦の各セル(8個)中の全量を吸引した。
(9)分注機1(▲8▼)が、翻訳プレート(▲14▼)位置まで移動し、翻訳プレート(▲14▼)の縦の各セル(8個)に全量を吐出した。
(10)(6)〜(9)の工程をさらに、他の縦7列の各セルに行った。
(11)分注機1(▲8▼)が、翻訳プレート(▲14▼)に蓋をした。
(12)分注機1(▲8▼)が、翻訳プレート(▲14▼)を転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)に重ねた(上:翻訳プレート、下:転写・ろ液受け用プレート)。
(13)工程2(10)〜(16)と同様に遠心を行った。
<工程4:転写液バッファー交換2回目>
(1)工程3(1)〜(5)と同様に、遠心機から転写・ろ液受け用プレート、翻訳プレートを取り出し、MTPステージにセットして、翻訳プレートの蓋をはずした。
(2)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着した。
(3)分注機1(▲8▼)の各チップが、エアを5μl吸引した。
(4)分注機1(▲8▼)が、希釈溶液を入れた試薬槽3(▲4▼)まで移動した。
(5)分注機1(▲8▼)の各セルが、希釈溶液を吸引した(吸引量は列ごとに80μl〜120μlの間で微調整した)。
(6)分注機1(▲8▼)が、翻訳プレート(▲14▼)位置まで移動し、翻訳プレート(▲14▼)の縦の各セル(8個)に全量を吐出した。
(7)(3)〜(6)の工程をさらに、他の縦7列の各セルに行った。
(8)分注機1(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(9)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着した。
(10)分注機1(▲8▼)の各チップが、エアを5μl吸引した。
(11)分注機1(▲8▼)が、翻訳プレート(▲14▼)位置まで移動した。
(12)分注機1(▲8▼)の各チップにより、翻訳プレート(▲14▼)の縦の各セル(8個)をピペッティングにより混和した。
(13)(8)〜(12)の工程を、さらに他の縦7列の各セルに行った(各セルでチップを交換する場合がある)。
(14)分注機1(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(15)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳プレート(▲14▼)の蓋をした。
(16)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着した。
(17)分注機1(▲8▼)の各チップが、エアを5μl吸引した。
(18)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)位置まで移動した。
(19)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の縦の各セル(8個)中の全量を吸引した。
(20)分注機1(▲8▼)が、廃液口(▲17▼)位置まで移動した。
(21)分注機1(▲8▼)が、全量を廃液口(▲17▼)に吐出した。
(22)(17)〜(21)の工程を、さらに他の縦7列の各セルに行った。
(23)分注機1(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(24)翻訳プレート(▲14▼)を、工程2(9)〜(16)同様に遠心を行った。
<工程5:翻訳反応用溶液分注>
(1)工程3(1)〜(5)と同様に、遠心機から転写・ろ液受け用プレート、翻訳用プレートを取り出し、MTPステージにセットし、翻訳用プレート(▲14▼)の蓋をはずした。
(2)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着し、各チップがエアを5μl吸引した。
(3)分注機1(▲8▼)が、翻訳反応用溶液を入れた試薬槽2(▲3▼)まで移動した。
(4)分注機1(▲8▼)が、試薬槽2(▲3▼)から翻訳反応液50μlを吸引した。
(5)分注機1(▲8▼)が、翻訳用プレート(▲14▼)位置まで移動し、翻訳用プレート(▲14▼)の縦の各セル(8個)中の全量を吐出した。
(6)分注機1(▲8▼)の各チップにより、翻訳用プレート(▲14▼)の縦の各セル(8個)をピペッティングにより混和した。
(7)(2)〜(6)の工程を、さらに他の縦7列の各セルに行った。
(8)分注機1(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
(9)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳プレート(▲14▼)の蓋をした。
(10)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳プレート(▲14▼)を恒温槽1(▲12▼)に搬送した。
(11)翻訳プレート(▲14▼)を、26℃で1時間、保温した。
(12)(11)の保温工程の間に(以後は、ろ液を廃棄する工程)、分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着し、各チップがエアを5μl吸引した。
(13)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)位置まで移動した。
(14)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の縦の各セル(8個)中の全量を吸引した。
(15)分注機1(▲8▼)が、廃液口(▲17▼)位置まで移動し、全量を吐出した。
(16)(12)〜(15)の工程を、さらに他の縦7列の各セルに行った。
(17)分注機1(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した。
<工程6:翻訳繰り返し>
以下の工程を6回繰り返した。
(1)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳用プレート(▲14▼)を恒温槽1(▲12▼)からMTPステージ(▲13▼)に搬送した。
(2)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳用プレート(▲14▼)の蓋をはずした。
(3)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着した。
(4)分注機1(▲8▼)の各チップが、エアを5μl吸引した。
(5)分注機1(▲8▼)を希釈溶液が入った試薬槽3(▲4▼)に移動させ、希釈溶液を吸引した(吸引量はプレート上の列によって遠心後の液量が変化するため、列ごとに80μl〜120μlの間で微調整した)。
(6)分注機1(▲8▼)を翻訳用プレート(▲14▼)位置まで移動し、該プレートの縦の各セル(8個)に希釈溶液全量を吐出した。
(7)(4)〜(6)の工程をさらに、希釈溶液を入れていない縦7列の各セルに行った。
(8)工程2(9)〜(16)同様に遠心を行った(遠心時間は18分)。
(9)工程3(1)〜(5)と同様に、遠心機から転写・ろ液受け用プレート、翻訳プレートを取り出し、MTPステージにセットして、翻訳プレートの蓋をはずした。
(10)分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着し、各チップがエアを5μl吸引した。
(11)分注機1(▲8▼)が、翻訳用プレート(▲14▼)位置まで移動した。
(12)分注機1(▲8▼)の各チップにより、翻訳用プレート(▲14▼)の縦の各セル(8個)をピペッティングにより混和した。
(13)分注機1(▲9▼)が、チップ廃棄口(▲11▼)位置まで移動し、チップを破棄した(チップを取り替えない場合もある)。
(14)(10)〜(13)の工程を、さらに他の縦7列の各セルに行った。
(15)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳プレート(▲14▼)の蓋をした。
(16)ロボットアーム(▲7▼)が、翻訳プレート(▲14▼)を恒温槽1(▲12▼)に搬送した。
(17)翻訳プレート(▲14▼)を、26℃で1時間、保温した。
(18)(17)の保温工程の間に(以後は、ろ液を廃棄する工程)、分注機1(▲8▼)が、300μlチップ(▲5▼)を装着し、エアを5μl吸引した。
(19)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)位置まで移動した。
(20)分注機1(▲8▼)が、転写・ろ液受け用プレート(▲10▼)の縦の各セル(8個)中の全量を吸引した。
(21)分注機1(▲8▼)が、廃液口(▲17▼)位置まで移動した。
(22)分注機1(▲8▼)が、全量を吐出した。
(23)(18)〜(22)の工程を、さらに他の縦7列の各セルに行った。
<工程7:終了(工程6を6回繰り返した後)>
(1)工程6(18)の保温終了後、恒温槽の温度を4℃にした。
(2)翻訳プレートを合成機から取り出した。
以上の工程により合成されたGFPを合成タンパク質量の測定は、Madin K et alらの報告(Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−556)に記載した方法に準じて行い、SDS−PAGEで解析した(図11)。
図11では、40ユニットの1−8レーン及び80ユニットの1−4レーンすべてにおいて、GFPのバンドの位置にタンパク質が合成されていた。さらに、BSA(125,250,500ng)のバンド濃度と各レーンでのGFPのバンド濃度を比較すると、すべてのレーンで少なくとも250ngのGFPが合成されていると推測できる。
以上の説明で明らかなように、反応速度の高い反応初期時間を選択し、希釈と濃縮の不連続繰り返し操作からなる本発明のハイスループット合成システム及び該システムを自動で行う装置が、高品質のタンパク質を短時間に効率よく合成することが可能であること、ならびに、目的タンパク質の単離にも極めて有効であることが判る。また、この原理がインビトロでのRNAの効率的な合成にも有用であることが判る。
さらに、この原理を応用するタンパク質やRNA合成法が、Spirinらの連続法にみられる種々の欠点、すなわち、装置としての複雑性、膜の低強度性、運転時における膜の目詰まり、操作の煩雑性などに起因する反応装置を解決できることを示した。加えて特に長時間の合成反応時間を要するという連続法の欠点は、単に時間の浪費だけに留まらず、生産されるタンパク質の品質確保の側面からも解決されなければならない大きな問題点として残されていたが、この欠点については重層法においても未解決の課題であった。
【産業上の利用可能性】
ここに発明した技術は、ポストゲノム時代のタンパク質研究に向けた基盤要素技術を提供することとなろう。特にRNAやタンパク質などの構造・機能の解析のための網羅的調製や大量生産を簡便且つ効率的に可能とする要素技術として不可欠であるといえる。
【図1】

【図2】


【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型物質を原料にする合成系であって、以下の手段、その制御手段、又はその組合せを含むことを特徴とする無細胞系合成システム;
1)鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応に導く。
2)合成速度の略低下前後、合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応溶液を希釈処理する。
3)希釈処理に続いて濃縮処理を行う。
4)濃縮された反応系によって合成反応をおこなう。
又は
1)鋳型物質、基質、及び反応溶液を接触させて合成反応に導く。
2)合成速度の略低下前後、合成反応の略停止前後、又はそれらの途上に、反応溶液を濃縮処理する。
3)濃縮処理に続いて希釈処理を行う。
4)希釈された反応系によって合成反応をおこなう。
【請求項2】
濃縮処理で、副産物を反応系外に除去する請求の範囲1のシステム。
【請求項3】
希釈処理で、基質、エネルギー源及び/又は鋳型物質の反応系内への補充が行われる請求の範囲1又は2のシステム。
【請求項4】
1)〜4)の手段を複数回繰り返すことを特徴とする請求の範囲1のシステム。
【請求項5】
鋳型物質が、転写鋳型である請求の範囲1〜4の何れか一に記載のシステム。
【請求項6】
鋳型物質が、翻訳鋳型である請求の範囲1〜4の何れか一に記載のシステム。
【請求項7】
反応溶液が、細胞抽出物を含む請求の範囲6のシステム。
【請求項8】
請求の範囲5のシステムで得られる転写産物産生系と請求の範囲6又は7のシステムで得られる翻訳産物産生系を組み合わせる無細胞系合成システム。
【請求項9】
請求の範囲1〜8の何れか一に記載のシステムを利用する鋳型物質からの無細胞系合成方法に用いる試薬の少なくとも1を含む合成キット。
【請求項10】
請求の範囲1〜8の何れか一に記載のシステムを利用する鋳型物質からの無細胞系合成方法。
【請求項11】
請求の範囲1〜8の何れか一に記載のシステムを利用する鋳型物質からの無細胞系合成装置。
【請求項12】
請求の範囲1〜8の何れか一に記載のシステムを自動で実施するための装置であって、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回実施するために以下の制御手段を少なくとも備える無細胞系合成装置;
(1)合成を開始する手段;
(2)反応液を濃縮する手段;
(3)反応液を希釈する手段;
(4)合成反応の再活性化手段;
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段;
又は、
(1)合成を開始する手段;
(2)反応液を希釈する手段;
(3)反応液を濃縮する手段;
(4)合成反応の再活性化手段;
(5)上記(2)〜(4)の手段を繰り返す手段。
【請求項13】
反応液を濃縮する手段が、限外ろ過膜を用いるものであって反応液を限外ろ過膜を通して反応系外に除去する際に、反応液中の限外ろ過膜を通過不能な物質が、反応系内に濃縮されるものである請求の範囲12に記載の合成装置。
【請求項14】
反応液を濃縮する手段において、反応液の反応系外への除去に、遠心分離機及び/または吸引ポンプが用いられる請求の範囲13に記載の合成装置。
【請求項15】
反応液を希釈する手段が、反応液に希釈溶液又は基質溶液を添加することである請求の範囲12に記載の合成装置。
【請求項16】
無細胞タンパク質合成工程において、転写鋳型から翻訳鋳型にコードされるタンパク質を生成するまでの工程を自動で実施するために、以下の制御手段の1を少なくとも備える請求の範囲11〜15に記載の合成装置;
(1)反応容器内の温度を可変制御する手段;
(2)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段;
(3)反応容器を搬送する手段;
(4)沈殿及び濃縮ろ過手段。
【請求項17】
請求の範囲1〜8の何れか一に記載のシステムを実施するためのプログラムであって、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回実施するために、以下の情報処理手段を含むプログラム。
(1)反応容器の容積と反応液濃度の情報を基に、単位時間当たりの合成量が減少傾向になる途上前の合成反応初期相範囲内の合成時間を設定する情報処理手段、
(2)(1)の合成反応初期相範囲内の合成時間に達すると、反応容器に希釈溶液を添加し、反応液を実質的に合成反応可能な濃度範囲外に設定する情報処理手段、
(3)(2)の後に、反応容器中の反応液を濃縮し、希釈溶液の添加によって増量された反応液の液量を元の液量に戻すように設定する情報処理手段、
(4)(3)の後に、合成反応を再開させるために反応至適温度に設定する情報処理手段、
(5)(1)〜(4)を複数回繰り返すための情報処理手段、
又は、
(1)反応容器の容積と反応液濃度の情報を基に、単位時間当たりの合成量が減少傾向になる途上前の合成反応初期相範囲内の合成時間を設定する情報処理手段、
(2)(1)の合成反応初期相範囲内の合成時間に達すると、反応容器中の反応液を濃縮し、反応液を実質的に合成反応可能な濃度範囲外に設定する情報処理手段、
(3)(2)の後に、反応容器に希釈溶液を添加し、濃縮によって減少された反応液の液量を元の液量に戻すように設定する情報処理手段、
(4)(3)の後に、合成反応を再開させるために反応至適温度に設定する情報処理手段、
(5)(1)〜(4)を複数回繰り返すための情報処理手段。
【請求項18】
請求の範囲17に記載のプログラムが組みこまれた無細胞系合成装置であり、該プログラムの情報処理が該装置と協働して行われることにより、合成開始、反応液の希釈・濃縮、合成反応の再活性化手段が実行され、タンパク質合成反応速度の高い合成反応初期相を利用した合成系を複数回繰り返し実行できることを特徴とする無細胞系合成装置。
【請求項19】
請求の範囲11〜16、18に記載の合成装置によって合成されたタンパク質。

【国際公開番号】WO2004/097014
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505885(P2005−505885)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005912
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(503094117)株式会社セルフリーサイエンス (19)
【Fターム(参考)】