説明

ハイソリッド型防汚塗料組成物、該組成物からなる塗膜、該塗膜で被覆された基材および防汚方法

【課題】揮発性有機化合物含有量が従来の防汚塗料組成物よりも低減され、かつ防汚性能および機械的強度に優れた防汚塗膜を形成することができるハイソリッド型防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】原料である不飽和カルボン酸単量体(a1)および不飽和化合物単量体(a2)の総量100重量部に対してラジカル重合開始剤を10重量部以上使用した溶媒中でのラジカル重合により得られ、GPCで測定した重量平均分子量が500〜6,000であるカルボキシル基含有共重合体(A)を使用することにより、その側鎖に金属および一塩基酸の有機酸残基からなる構造が少なくとも1つ導入された金属塩結合含有共重合体(S)を含有し、かつ揮発性有機化合物含有量が400g/l以下である、上記課題を解決しうるハイソリッド型防汚塗料組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイソリッド型防汚塗料組成物に関する。より詳細には、有機溶剤含有量を抑えて環境への負荷や人体への影響を少なくしつつ、水中構造物、船舶外板、漁網、漁具などの基材表面に優れた防汚性等を発揮する防汚塗膜を形成することのできる、ハイソリッド型防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船底、漁網、海水の給排水管、水中構造物などが水中に長期間さらされることにより、その表面に、カキ、イガイ、フジツボ等の動物類、ノリ(海苔)等の植物類、あるいはバクテリア類などの各種水棲生物が付着・繁殖すると、外観が損ねられたり、その機能が害されたりすることがある。
【0003】
たとえば、船底にこのような水棲生物が付着・繁殖すると、船底の表面粗度が増加し、船速の低下、燃費の拡大などを招くことがあり、このような水棲生物を船底から取り除くには、多大な労力、作業時間が必要となる。また、養殖網や定置網等の魚網に水棲生物が付着、繁殖すると、網目の閉塞による漁獲生物の酸欠致死等重大な問題を生じることがあり、火力、原子力発電所等の海水の給排水管に水棲生物が付着、繁殖すると、冷却水の給配水循環に支障をきたすことがある。
【0004】
従来、このような被害を防止すべく、たとえば、トリブチル錫メタクリレートとメチルメタクリレート等との共重合体および亜酸化銅(Cu2O)を含有する、防汚性に優れた
防汚塗料が船底などに塗布されてきた。この防汚塗料からは、海水中で上記共重合体が加水分解されることによりビストリブチル錫オキサイド(トリブチル錫エーテル,Bu3
n-O-SnBu3:Buはブチル基)またはトリブチル錫ハロゲン化物(Bu3SnX:Xはハロゲン原子)等の有機錫化合物を放出し防汚効果を発揮するとともに、加水分解された共重合体自身も水溶性化して海水中に溶解していくという性質をもつ「加水分解性自己研磨型」の防汚塗膜が形成されるため、船底塗装表面は、樹脂残渣が残らず、常に活性な表面を保つことができる。
【0005】
ところで、塗料として一般的に使用されてきた溶剤型塗料は、多量の有機溶剤を大気中に揮散させることから環境を汚染するとして、世界的に規制されるようになってきており、防汚塗料についても、環境対応型の塗料として、ハイソリッド型塗料、水性型塗料、粉体塗料等が開発されている。しかしながら、有機溶剤の含有量を減少させ、かつ、防汚性と塗膜性能とを高度に両立させた防汚塗料は存在しなかった。
【0006】
特開昭52−32928号公報(特許文献1)の実施例1〜3には、(メタ)アクリル酸とメタクリル酸メチル等との共重合体および酢酸亜鉛等を含有する防汚塗料組成物が、特開平2−196869号公報(特許文献2)の実施例49〜54には、メタクリル酸・エチルメタクリレート・メトキシエチルアクリレート共重合体と銅ナフテネートまたは亜鉛ロジネートとを含有する防汚塗料組成物が開示されているが、いずれの場合も得られる塗膜の防汚性能は充分ではなかった。
【0007】
特許3040094号公報(特許文献3)には、アクリル樹脂等のカルボキシル基含有樹脂と、金属含有防汚剤とから形成される金属含有樹脂を含有する防汚塗料組成物が開示され、特表昭62-501293号公報(特許文献4)には、アクリル酸またはメタクリ
ル酸モノマーを一般に約10〜35重量%含有したカルボン酸基含有ポリマーを用いた防
汚塗料組成物が開示されているが、いずれの防汚塗料組成物も、経時での貯蔵安定性に問題があり、揮発性有機化合物(VOC)の含有量を低く抑えることも困難であった。
【0008】
また、特開2002−241676号公報(特許文献5)には、ハイソリッド型防汚塗料として、アクリル樹脂側鎖に、下記式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xは、
【0011】
【化2】

【0012】
で表される基、nは0又は1、Yは炭化水素、Mは金属、mは金属Mの価数−1で表される整数、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。)で表される基を少なくとも1つ有する金属含有アクリル樹脂のワニスを含み、不揮発分が40重量%以上であり、粘度(25℃)が18ポイズ以下であり、VOCが400g/l以下である防汚塗料が開示されている。
【0013】
しかしながら、この防汚塗料は、粘度が高過ぎるために塗装作業性が著しく不良であり、それゆえ塗膜形成が困難であり、形成された塗膜においても、静置防汚性が低い、塗膜消耗度が小さいなどの問題があった。
【特許文献1】特開昭52−32928号公報
【特許文献2】特開平2−196869号公報
【特許文献3】特許3040094号公報
【特許文献4】特表昭62-501293号公報
【特許文献5】特開2002−241676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、防汚性およびその持続性ならびに機械的強度に優れた防汚塗膜が形成可能であり、かつ、使用する有機溶剤量の一定量以下への低減を実現しうるハイソリッド型の防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、防汚塗料組成物に含有される重合体の基体樹脂を調製する際に、ラジカル重合開始剤を所定の量で使用することにより、得られる重合体の重量平均分子量および粘度がハイソリッド型防汚塗料組成物を製造する上で好適なものとなること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位と、当該不飽和カルボン酸単量体(a1)と共重合可能な他の不飽和化合物単量体(a2)に由来する構造単位とからなるカルボキシル基含有共重合体(A)の側鎖に、一般式(1):
X−COO−M−(Y)n ……(1)
(式中、Xはカルボキシル基含有共重合体(A)の基体、Mは金属、nは金属Mの価数−1で表される正の整数、Yは一塩基酸の有機酸残基を表す。)
で表される構造が少なくとも1つ導入された共重合体である金属塩結合含有共重合体(S)を含有する防汚塗料組成物であって、上記カルボキシル基含有共重合体(A)は、原料である不飽和カルボン酸単量体(a1)および不飽和化合物単量体(a2)の総量100重量部に対してラジカル重合開始剤を10重量部以上使用した溶媒中でのラジカル重合により得られ、GPCで測定した重量平均分子量が500〜6,000であり、かつ、当該防汚塗料組成物の揮発性有機化合物含有量(VOC)は400g/l以下であることを特徴とする。
【0017】
このような本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、カルボキシル基含有共重合体(A)が、当該カルボキシル基含有共重合体(A)100重量部中に不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位を5〜50重量部含有し、かつ、GPCで測定した重量平均分子量が750〜3,000であることを、好ましい態様の一つとする。
【0018】
また、カルボキシル基含有共重合体(A)が、原料である不飽和カルボン酸単量体(a1)および不飽和化合物単量体(a2)の総量100重量部に対してラジカル重合開始剤を20重量部以上を使用した溶媒中でのラジカル重合により得られ、当該カルボキシル基含有共重合体(A)100重量部中に不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位を10〜40重量部含有し、かつ、GPCで測定した重量平均分子量が1,000〜2,500以下であることも、より好ましい態様の一つである。
【0019】
さらに、カルボキシル基含有共重合体(A)の不揮発分70重量%溶液としたときの25℃における粘度は、20,000mPa・s以下とすることが望ましい。
上記カルボキシル基含有共重合体(A)は、不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位として、少なくとも(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0020】
また、上記金属塩結合含有共重合体(S)は、前記一般式(1)中のMで表される金属として、亜鉛、銅、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を有すること、あるいは、前記一般式(1)中のYで表される一塩基酸の有機酸残基として、分子量が3,000以下であるモノカルボン酸化合物の残基を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物によれば、従来の防汚塗料組成物よりもVOC含量を低減することで環境への負荷や人体への影響を抑制しつつ、防汚性およびその持続性ならびに機械的強度に優れた防汚塗膜を形成することができる。そして、かかる防汚塗膜を水中構造物、船舶外板、漁網、漁具等の表面に形成することにより、これらの基材の水棲生物による汚損を長期間にわたって抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物の成分、性状、製造方法、用途等について、より詳細に説明する。
ハイソリッド型防汚塗料組成物の成分および性状
<金属塩結合含有共重合体(S)>
本発明における金属塩結合含有共重合体(S)は、上述のようなカルボキシル基含有共重合体(A)の側鎖に、下記一般式(1)で表される構造(金属カルボキシレート)が少なくとも1つ導入されたものである。
【0023】
X−COO−M−(Y)n ……(1)
式(1)中、Xはカルボキシル基含有共重合体(A)の基体、Mは金属、nは金属Mの価数−1で表される正の整数、Yは一塩基酸の有機酸残基を表す。
【0024】
(カルボキシル基含有共重合体(A))
本発明で用いるカルボキシル基含有共重合体(A)(以下「共重合体(A)」ということもある。)は、不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位と、該不飽和カルボン酸単量体(a1)と共重合可能な他の不飽和化合物単量体(a2)に由来する構造単位とからなる。
【0025】
不飽和カルボン酸単量体(a1)としては、カルボキシル基と重合性二重結合とを有する化合物であれば、一塩基酸、多塩基酸を問わず、公知の各種の単量体を使用することができる。具体的には、一塩基酸(モノカルボン酸)としては、(メタ)アクリル酸;2−(メタ)アクロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート等の、酸無水物と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応生成物;イタコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピル等の、二塩基酸無水物のモノエステル;などが挙げられる。なお、本発明の不飽和カルボン酸単量体(a1)には、(メタ)アクリル酸同士がマイケル付加して生成した(メタ)アクリル酸ダイマー、トリマー、オリゴマーも含まれる。また、多塩基酸としてはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などが挙げられる。
【0026】
本発明では、上記の各種の不飽和カルボン酸単量体の中でも特に(メタ)アクリル酸が好ましい。すなわち、カルボキシル基含有共重合体(A)は、少なくとも、アクリル酸またはメタクリル酸に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0027】
一方、上述のような不飽和カルボン酸単量体(a1)と共重合可能な「他の不飽和化合物単量体(a2)」は、公知の不飽和単量体より広く選択することができる。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸アルキルポリオキシアルキレン、(メタ)アクリル酸ハイドロジェンポリオキシアルキレン等の(メタ)アクリル酸アルキル誘導体;スチレンおよびスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;ならびに(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0028】
本発明において、カルボキシル基含有共重合体(A)中の不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位の含量は、塗料組成物から形成される塗膜の耐水性および長期防汚性の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは15〜35重量%である。なお、他の不飽和化合物単量体(a2)に由来する構造単位の含量は、その残量部、すなわち好ましくは95〜50重量%、より好ましくは90〜60重量%、特に好ましくは85〜65重量%となる。
【0029】
また、カルボキシル基含有共重合体(A)のGPCで測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算値)は、好ましくは500〜6,000であり、より好ましくは750〜3,000であり、特に好ましくは1,000〜2,500である。この重量平均分子量が上記範囲にあると、有機溶剤を低減した環境適応型の優れた防汚塗料を得ることができる。なお、本発明におけるGPCの測定条件は、後述の実施例に記載した通りである。
【0030】
さらに、カルボキシル基含有共重合体(A)の、不揮発分70重量%溶液としたときの25℃における粘度は、20,000mPa・s以下であることが好ましく、10,000mPa・s以下であることがより好ましい。この粘度が20,000mPa・sよりも大きいと、揮発性有機化合物含有量(VOC)を400g/l以下としつつ塗布可能な防汚塗料組成物を調製することが困難であり、またそのような防汚塗料組成物から得られる塗膜の防汚性も劣る傾向にある。
【0031】
(金属(M))
式(1)中に含まれる金属(M)は、多価(2価以上)の金属であり、たとえば、亜鉛、銅、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、コバルト、アルミニウムといった金属が好ましく、このうち銅および亜鉛が特に好ましい。金属塩結合含有共重合体(S)中のMは、すべて同一種であっても、複数種が混在していてもよい。
【0032】
(有機酸残基(Y))
式(1)中に含まれる一塩基酸の有機酸残基(Y)としては、嵩高い一塩基酸の残基が好ましく、特に分子量3000以下のモノカルボン酸化合物の有機酸残基が好ましい。このような分子量3000以下のモノカルボン酸化合物としては、たとえば、ロジンおよびその誘導体、ナフテン酸、バーサチック酸、イソノナン酸などの公知のモノカルボン酸や、特開2005−179345号公報に記載のシクロアルケニルカルボン酸、ビシクロアルケニルカルボン酸およびそれらの誘導体などが挙げられる。金属塩結合含有共重合体(S)中のYは、すべて同一種であっても、複数種が混在していてもよい。
【0033】
<その他の成分>
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、必要に応じてその他の成分、たとえば、防汚剤、タレ止め剤、可塑剤、体質顔料、着色顔料、溶剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0034】
(防汚剤)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、上述のような金属塩結合含有共重合体(S)単独によっても一定の防汚性能が発揮されるため、必ずしも防汚剤が含有されていなくてもよいが、さらに防汚性を高めるために防汚剤を配合することが好ましい。
【0035】
本発明で用いることのできる防汚剤は、特に限定されるものではなく、有機系、無機系のいずれの防汚剤であってもよい。たとえば、亜酸化銅、銅粉、チオシアン化第1銅(ロダン銅)、金属ピリチオン類(銅ピリチオン、ジンクピリチオン等)、テトラメチルチウラムジサルフィド、カーバメート系防汚剤(ジンクジメチルジチオカーバメート等)、2,4,5,6‐テトラクロロイソフタロニトリル、N,N‐ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5‐ジクロロ‐2‐n‐オクチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オン、2,4,6‐トリクロロフェニルマレイミド、N,N‐ジメチル‐N‐フェニル‐(N‐フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N,N‐ジメチル‐N‐トリル‐(N‐フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、アミン−ボラン錯体(ピリジン‐トリフェニルボラン、4‐イソプロピルピリジン‐ジフェニルメチルボラン等)、などが挙げられ、このうち、特に亜酸化銅、銅ピリチオン、アミン−ボラン錯体、および4,5‐ジクロロ‐2‐n‐オクチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オンが好ましく用いられる。
【0036】
これらの防汚剤は、防汚性の効果を考慮して、1種単独でまたは2種以上組み合わせてもちいることができる。たとえば、亜酸化銅を含まない防汚剤を組み合わせることにより、環境に対する負荷を低減し、また、船舶の水際において、亜酸化銅が塩基性炭酸銅へと変質して防汚塗膜の変色を引き起こすといったことが無いため美観が保たれるなどの効果が発揮される。また、亜酸化銅を含む組み合わせであれば、亜酸化銅の安定した防汚性能により多様な海域で防汚塗膜の防汚性が発現される、などの効果が発揮される。
【0037】
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物に防汚剤を配合する場合は、金属塩結合含有共重合体(S)100重量部に対して、1〜500重量部、好ましくは5〜400重量部の割合で使用することが望ましい。
【0038】
(その他の樹脂類)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物には、金属塩結合含有共重合体(S)以外の樹脂を、塗膜の物性や塗料の消耗速度を調整するためのバインダー樹脂として配合してもよい。このような樹脂類としては、下記のようなものが挙げられる。
【0039】
石炭系樹脂:クマロン樹脂など;
石油樹脂:C5系、C9系、スチレン系、ジシクロペンタジエン系の樹脂およびそれらの水素添加物、ケトン樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル樹脂、アルデヒド樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアルキルビニルエーテル樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂など;
テルペン樹脂:ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂など;
ビニルエーテル(共)重合体:ポリビニルアルキルエーテル(市販品であれば、BASFジャパン(株)製「ルトナール」など);
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体:ポリエチルアクリレート、オクチルメタアクリレート・メチルアクリレート共重合体など。
【0040】
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物に、上記のような「その他の樹脂類」を配合する場合は、ハイソリッド型防汚塗料組成物(但し、揮発性溶剤を除く。)100重量%中に、0.01〜60重量%、好ましくは0.1〜40重量%の割合で使用することが望ましい。
【0041】
(タレ止め剤)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物にタレ止め剤を配合することは、溶剤不溶物の沈殿を防止し、塗膜の強度や塗装時のタレ止め性等を調整することができる点で好ましい。
【0042】
タレ止め剤としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、ポリアマイドワックス、水添ヒマシ油ワックスおよびポリアマイドワックスの混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等、従来公知のものを使用できるが、なかでもポリアマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスおよび有機粘土系ワックスが好ましい。商品としては、たとえば、楠本化成(株)製「ディスパロン305」、「ディスパロン4200−20」、「ディスパロン6650」、伊藤精油(株)製「ASAT−250F」などが挙げられる。
【0043】
本発明においてタレ止め剤を使用する場合は、ハイソリッド型防汚塗料組成物(但し、揮発性溶剤を除く。)100重量%中、0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜10重量%の割合で含有させることが望ましい。
【0044】
(可塑剤)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物に可塑剤を配合することは、この防汚塗料組成物から形成される塗膜(防汚塗膜)の耐クラック性を向上させ、塗膜の剥がれを少なくすることができる点で好ましい。
【0045】
可塑剤としては、TCP(トリクレジルフォスフェート)、塩素化パラフィン、ポリビ
ニルエチルエーテル、ジアルキルフタレート等が挙げられ、なかでも塩素化パラフィンおよびジアルキルフタレートが好ましい。これらの可塑剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
たとえば、塩素化パラフィン(塩化パラフィン)は、直鎖状でもよく分岐を有していてもよく、室温で液状でも固体(粉体)でもよいが、平均炭素数は通常8〜30、好ましくは10〜26であり、数平均分子量は通常200〜1200、好ましくは300〜1100であり、粘度は通常1以上(ポイズ/25℃)、好ましくは1.2以上(ポイズ/25℃)であり、比重は1.05〜1.80/25℃、好ましくは1.10〜1.70/25℃であり、また塩素化率(塩素含有量)は、通常35〜75%、好ましくは35〜65%である。このような塩素化パラフィンの商品としては、東ソー(株)製の「トヨパラックス150」、「トヨパラックスA−70」などが挙げられる。なお、塩素化パラフィンの平均炭素数が8未満ではクラックを抑制する効果が不足することがあり、また30を越えると得られる塗膜表面の消耗性(更新性)が劣り防汚性が不十分になるおそれがある。
【0047】
本発明において可塑剤を使用する場合は、ハイソリッド型防汚塗料組成物(但し、揮発性溶剤を除く。)100重量%中に、0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜10重量%の割合で含有させることが望ましい。
【0048】
(体質顔料)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物に体質顔料を配合することは、塗料のコスト低減の観点から、あるいは、塗料のタレ止め性の向上、防汚塗膜の強度の向上、さらに体質顔料の種類によっては塗膜の消耗速度が調整可能となるなどの点から好ましい。
【0049】
体質顔料としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカなどが挙げられる。
本発明において体質顔料を使用する場合は、ハイソリッド型防汚塗料組成物(但し、揮発性溶剤を除く。)100重量%中に、0.01〜80重量%、好ましくは0.1〜60重量%の割合で含有させることが望ましい。
【0050】
(着色顔料)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物には、この塗料組成物から形成される防汚塗膜の色相を調節するため、目的の色相に応じた着色顔料を配合することができる。
【0051】
着色顔料としては、ベンガラ、チタン白、有機系の着色顔料などが挙げられる。
本発明において着色顔料を使用する場合は、ハイソリッド型防汚塗料組成物(但し、揮発性溶剤を除く。)100重量%中に、0.01〜80重量%、好ましくは0.1〜60重量%の割合で含有させることが望ましい。
【0052】
(脱水剤)
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物に脱水剤を配合することは、防汚塗膜の物性や基板への付着性を向上させることができるなどの点で好ましい。
【0053】
脱水剤としては、無水石膏、焼石膏、合成ゼオライト、オルソギ酸メチル等のオルソエステル類などが挙げられる。
本発明において脱水剤を使用する場合は、ハイソリッド型防汚塗料組成物(但し、揮発性溶剤を除く。)100重量%中に、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の割合で使用することが望ましい。
【0054】
(溶剤)
本発明で用いるカルボキシル基含有共重合体(A)や金属塩結合含有共重合体(S)は溶媒中で調製され、これらの調製により得られた共重合体と溶媒との混合溶液が、最終的な塗料組成物の製造の際に使用されることが一般的である。このようにして製造される本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は当初から一定量の溶剤を含有するものであるが、塗料組成物の粘度の調整等のために、必要に応じてさらに溶剤を添加してもよい。
【0055】
追加される溶剤としては、後述するカルボキシル基含有共重合体(A)の調製方法において示すような溶剤と、基本的には同じもの用いることができる。
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物に含有される溶剤の量は、重合体の調製に用いられた溶剤および追加された溶剤の合計として、ハイソリッド型防汚塗料組成物(溶剤自体を含む。)中に、1〜45重量%、好ましくは5〜35重量%の割合であることが望ましい。
【0056】
ハイソリッド型防汚塗料組成物の製造方法
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、たとえば以下に述べるように、カルボキシル基含有共重合体(A)を調製した後に、この共重合体(A)と金属Mの化合物および分子量3000以下のモノカルボン酸化合物とを反応させることにより金属塩結合含有共重合体(S)を調製し、必要に応じてさらに防汚剤その他の添加剤を配合して製造することができる。
【0057】
<カルボキシル基含有共重合体(A)の調製>
カルボキシル基含有共重合体(A)は、不飽和カルボン酸単量体(a1)および不飽和化合物単量体(a2)を、好ましくはこれらに由来する構造単位の含量が前述のような所定の範囲となるような量で共重合することにより調製できる。カルボキシル基含有共重合体(A)の調製方法としては、重合反応の容易さ、塗料組成物に使用する際の簡便さなどの観点から、溶媒中でラジカル重合を行う溶液重合法を用いることが望ましい。
【0058】
本発明では、カルボキシル基含有共重合体(A)の重量平均分子量および粘度を前述のような所定の範囲に調整するため、溶液重合の際にラジカル重合開始剤を所定の量で使用する。かかるラジカル重合開始剤の使用量は、原料である単量体の総量100重量部(不飽和カルボン酸単量体(a1)および他の不飽和化合物単量体(a2)の合計であり、ラジカル重合開始剤自体の重量は含まない。)に対して、好ましくは10重量部以上であり、より好ましくは20重量部である。
【0059】
ラジカル重合開始剤としては、従来公知のアゾ化合物、過酸化物などを用いることができる。たとえば、アゾ化合物としては2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニト
リル)などが挙げられ、過酸化物としては過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーオキ
シアセテート、tert−ブチルパーオキシオクトエート、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸塩(カリウム塩、アンモニウム塩)などが挙げられる。
【0060】
このようなラジカル重合開始剤は、製造開始時に単量体混合物中にあらかじめ均一に分散させておくか、あるいは単量体混合物とは分離しておき反応容器中への添加により混合すればよく、また、必要に応じて、溶液やスラリーの形態で用いることもできる。
【0061】
一方、溶液重合に用いる溶媒としては、カルボキシル基含有共重合体(A)を溶解あるいは分散させることができる溶媒を適宜用いることができ、有機溶媒や水のいずれも使用
可能であるが、塗料組成物の乾燥性を考えると、汎用の塗料用有機溶剤を用いることが望ましい。
【0062】
汎用の塗料用溶剤としては、ターペンなどの脂肪族系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤;イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル系またはエーテルエステル系などの溶剤を使用することができる。
【0063】
このような溶媒は1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、溶媒は単量体混合物に対して任意の割合で使用することができ、反応時あるいは反応終了後に適宜加えてもよい。なお、カルボキシル基含有共重合体(A)の分子量を比較的小さくするためには、多量の溶媒中で重合反応を行った後に、必要に応じて不要の溶媒を蒸留により留去してもよい。
【0064】
さらに、溶液重合の際には、アルキルメルカプタンなどの連鎖移動剤や、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー(2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン)などの重合調整剤といった、公知の分子量調整剤を必要に応じて用いてもよい。
【0065】
ラジカル溶液重合の反応温度は、50℃〜250℃が好ましく、80℃〜200℃が更に好ましい。なお、カルボキシル基含有共重合体(A)の分子量を比較的小さくするためには、加圧下で反応を行ってもよい。
【0066】
<金属塩結合含有共重合体(S)の調製>
金属塩結合含有共重合体(S)は、上述のような方法により調製したカルボキシル基含有共重合体(A)と、式(1)中のMに対応する金属の化合物(以下「多価金属化合物」という。)およびYに対応する分子量3000以下のモノカルボン酸化合物とを反応させ、式(1)中で表される構造を側鎖に導入することにより、調製することができる。これらの反応により、カルボキシル基含有共重合体(A)のカルボキシル基およびモノカルボン酸化合物のカルボキシル基のそれぞれから水素イオンが脱離した残基である−COO-基と、多価金属のイオンであるMx+(xは金属元素Mの価数)との結合(たとえば、−COO-・・M2+・・O-CO−)が形成されるものと考えられる。
【0067】
金属塩結合含有共重合体(S)の調製に用いる多価金属化合物は、金属Mの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩などの無機酸塩;および酢酸塩、サリチル酸塩などの有機酸塩より広く選択することができる。なかでも、金属Mの酸化物、水酸化物、炭酸塩または有機酸塩が好ましく、特に酸化物または水酸化物が好ましい。たとえば、酸化亜鉛は特に好ましい化合物の一つである。
【0068】
これらの多価金属化合物は、カルボキシル基含有共重合体(A)のカルボキシル基1モルに対して、0.5モル以上となるような量で、共重合体(A)に添加して混合すればよい。また、有機酸残基(Y)を提供する前述のような一塩基酸(たとえば分子量が3000以下であるナフテン酸など)についても、上記多価金属化合物と同様の0.5モル以上となるような量で添加すればよい。
【0069】
なお、多価金属化合物と共重合体(A)との反応による、式(1)で表される金属カルボキシレートの形成は、たとえば、共重合体(A)の溶液に多価金属化合物を混合した前後にわたる溶液の色相の変化、混合前後の共重合体(A)のIRスペクトルを比較したと
きの、混合後の3000〜3500cm-1のカルボキシル基のO-H伸縮振動に起因する吸
収帯の減少、混合後の1700cm-1付近のカルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸
収帯の減少、または混合後の1600cm-1付近のカルボン酸金属塩のC=O伸縮振動に起
因する吸収帯の増加、あるいは、混合後の前記共重合体(A)溶液の経時的な粘度増加などにより確認することができる。
【0070】
<ハイソリッド型防汚塗料組成物の製造>
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、最終的に、上述のような方法により得られた金属塩結合含有共重合体(S)の溶液に、必要に応じて前述のような各種の添加剤(防汚剤、溶剤など)を添加し攪拌・混合等することにより、製造することができる。攪拌・混合のためには、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロール、ロスミキサー、プラネタリーミキサー、万能品川攪拌機など、従来公知の混合・攪拌装置を適宜用いることができる。
【0071】
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、前述のような所定の性状(重量平均分子量等)を有するカルボキシル基含有共重合体(A)を使用して製造されるため、作業性等を損なうことなく揮発性有機化合物(VOC)の含量を少なくすることができる。すなわち、本発明のハイソリッド型防汚塗料組成のVOC含量は、好ましくは400g/l以下であり、さらに好ましくは100〜350g/lである。なお、本発明におけるVOC含量は、後述する実施例の欄で説明する測定条件により測定した値である。
【0072】
ハイソリッド型防汚塗料組成物の用途
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物を硬化させることにより、優れた防汚性能を有する防汚塗膜を形成することができる。たとえば、基材の表面(海水または真水と接触するなど)に、本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物を塗布し、あるいは含浸させ、ついで塗料組成物を硬化させることにより、防汚塗膜で被覆された防汚性基材が得られる。換言すれば、本発明は、基材の表面にこのような防汚塗膜を形成することによる、基材の防汚方法をも提供する。
【0073】
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物を塗布する対象である基材としては、水中構造物(火力・原子力発電所の給排水口等)、船舶外板、漁業資材(ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ等)、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等のような各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜などが好適である。
【0074】
本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物は、たとえば、FRP、鋼鉄、木、アルミニウム合金などを素材とする船舶外板等の基材にも良好に付着する。鋼船、アルミ船などの船舶外板には、通常プライマー、防食塗料、および必要に応じてバインダー塗料を塗装した後に、ハイソリッド型防汚塗料組成物が塗布される。なお、ハイソリッド型防汚塗料組成物は、補修用として既存の防汚塗膜(ハイソリッド型防汚塗料組成物自身であってもよい)の表面に上塗してもよい。
【0075】
防汚塗膜を形成するためには、上記のような各種の基材の表面に、本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物を、常法に従って1回〜複数回塗布すればよい。防汚塗膜の厚さは特に限定されないが、例えば、30〜250μm/回程度である。このようにして得られる塗膜は、表面が一定の速度で均一に消耗(更新)し、また防汚剤成分が長期間に亘って徐放可能であるため防汚性に優れており、また、厚塗りしても適度の可撓性を有し耐クラック性に優れており、しかも環境への負荷が少ない。
【0076】
そして、基材をこのような防汚塗膜で被覆することにより、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水棲生物の基材への付着を長期間継続的に防止す
ることができる。たとえば、本発明のハイソリッド型防汚塗料組成物を海中構造物の表面に塗布すれば、海中生物の付着を抑制してその構造物の機能を長期間維持することができるようになり、また、漁網に塗布すれば、漁網の網目の閉塞を防止することができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明について実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
実施例および比較例における共重合体、塗料組成物の性状、および塗料組成物から形成された塗膜の性能等の測定方法は、下記の通りである。
【0078】
共重合体の性状(表1〜4参照)
(1)重量平均分子量
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記の条件によるGPCで測定した。
(GPC測定条件)
装置:東ソー社製 HLC−8120GPC
カラム:東ソー社製 Super H2000+H4000
6mmI.D.,15cm
溶解液:THF
流速 :0.500ml/min
検出器:IR
カラム恒温槽温度:40℃
(IR測定条件)
装置:Perkin Elmer製
FT−IR形 型式:Spectrum ONE(B)
測定方法:KBrセル、塗布法。
【0079】
(2)加熱残分(重量NV)
共重合体溶液1gを平底皿にはかり取り、質量既知の針金を使って均一に広げ、125℃で1時間乾燥後、残渣および針金の質量を量り、加熱残分(重量%)を算出した。なお、「加熱残分」は「不揮発分」と同義である。
【0080】
(3)粘度
共重合体溶液の粘度は、EM型粘度計((株)トキメック製)により測定した。
防汚塗料組成物の性状(表5参照)
(1)塗料比重
各種成分を混合して製造した直後の防汚塗料組成物を、25℃において、内容積が100mlの比重カップに充満させ、その質量を量ることにより、防汚塗料組成物の比重(g/cm3)を算出した。
【0081】
(2)加熱残分(重量NV)
各種成分を混合して製造した直後の防汚塗料組成物1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、125℃で1時間乾燥後、残渣および針金の質量を量り、加熱残分(重量%)を算出した。
【0082】
(3)揮発性有機化合物(VOC)含量
上記の塗料比重および重量NVの値を用いて下式から算出した;
VOC(g/l)=塗料比重×1000×(100−重量NV)/100。
【0083】
(4)防汚塗料組成物の粘度測定(Ku)
各種成分を混合して製造した直後、および所定時間経過後に、ストーマー粘度計を用い
て、防汚塗料組成物の粘度(Ku値/25℃)を測定した。
【0084】
防汚塗膜の性能(表5参照)
(1)防汚塗膜の静置防汚性試験
100×300×2mmのサンドブラスト鋼板に、エポキシ系ジンクリッチプライマー(中国塗料(株)製「エピコンジンクリッチプライマーB−2」、塗料中の亜鉛末含有量80重量%)、エポキシ系防食塗料(中国塗料(株)製「バンノー500」)、エポキシ系防食塗料(中国塗料(株)製「バンノー500N」)を、それぞれ乾燥膜厚で20μm、150μm、100μmとなるように、この順序で1日毎に塗装(すなわち、1日目:プライマー、2日目:防食塗料、3日目:防食塗料)した。このようにして形成されたエポキシ系バインダーコートの表面に、実施例等で製造した防汚塗料組成物を、その乾燥膜厚が150μmとなるように塗装し、試験板を作成した。
【0085】
宮島沖に設置した試験筏から水深1mの位置にこの試験板を浸漬し、12ヶ月後、試験板へのマクロ生物(フジツボ・セルプラ等)の付着面積を評価した。評価基準は以下の通りである;
5点:マクロ生物の付着面積が0%
4点:マクロ生物の付着面積が0%を超え5%以下
3点:マクロ生物の付着面積が5%を超え15%以下
2点:マクロ生物の付着面積が15%を超え40%以下
1点:マクロ生物の付着面積が40%を超える。
【0086】
(2)防汚塗膜の消耗度試験
50×50×3mmの塩化ビニル板をサンドペーパーにより面粗しした後、この表面にスキマ500μmのアプリケーターを用いて実施例等で製造した防汚塗料組成物を塗装し、これを室内で室温(約20℃)にて7日間乾燥させ、試験板を作成した。
【0087】
25℃の海水を入れた恒温槽に設置した回転ドラムの側面にこの試験板を取り付け、周速15ノットで2ヵ月間回転させ、防汚塗膜の消耗度(減少した膜厚)を測定した。
カルボキシル基含有共重合体の調製
[調製例1−1]
攪拌機、コンデンサー、温度計、2つの滴下装置、窒素導入管、加熱ジャケットおよび冷却ジャケットを備えた反応容器に、溶媒としてキシレン52.5重量部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル52.5重量部を仕込み、これらを窒素雰囲気下で、還流温度(120℃付近)となるまで加熱しながら攪拌した。
【0088】
この還流状態を保持しながら、一方の滴下装置からメチルメタクリレート45重量部、メタクリル酸10重量部、アクリル酸10重量部、エチルアクリレート35重量部および2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン1重量部からなるモノマー溶液を、もう一方の滴下装置からt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(ラジカル重合開始剤)30重量部を、同時にそれぞれ3時間かけて、上記溶媒中に滴下した。
【0089】
その後、この還流温度でさらに1時間攪拌を行った後、攪拌を続けながら1時間おきに3回t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.1gを加え、さらに30分間攪拌した。その後、昇温しながら溶剤を66.9重量部回収し、冷却後153.8重量部、ワニス(カルボキシル基含有共重合体(A−1)溶液)を得た。
【0090】
得られたカルボキシル基含有共重合体(A−1)溶液の加熱残分は69.3重量%であり、25℃における粘度は4,100mPa・sであった。また、カルボキシル基含有共重合体(A−1)の、GPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は2,360であり
、酸価は79.6mgKOH/gであった。このカルボキシル基含有共重合体(A−1)の原料、性状等は表1に示す通りである。
【0091】
[調製例1−2]
モノマー溶液の成分をメチルメタクリレート15重量部、メタクリル酸30重量部、エチルアクリレート55重量部および2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン1重量部に変更した以外は調製例1−1と同様にして、カルボキシル基含有共重合体(A−2)溶液を得た。このカルボキシル基含有共重合体(A−2)の原料、性状等は表1に示す通りである。
【0092】
[調製例1−3]
仕込み量を表1に記載されたように変更した以外は調製例1−1と同様にして、カルボキシル基含有共重合体(A−3)溶液を得た。これらのカルボキシル基含有共重合体(A−3)の原料、性状等は表1に示す通りである。
[比較調製例1]
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(ラジカル重合開始剤)の滴下量を5重量部に変更した以外は調製例1−1と同様にして、カルボキシル基含有共重合体(B−1)溶液を得た。このカルボキシル基含有共重合体(B−1)の原料、性状等は表3に示す通りである。
【0093】
金属塩結合含有共重合体の調製
[調製例2−1]
攪拌機、窒素導入管、デカンターおよび冷却管を備えたセパラブルフラスコに、調製例1−1で得られたカルボキシル基含有共重合体(A−1)溶液376.3重量部、ナフテン酸166.8重量部、酸化亜鉛44.8重量部、水9.9重量部、キシレン83.4重量部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル83.4重量部を仕込み、撹拌しながら昇温し90℃で2時間熟成した。その後さらに昇温し還流温度を保持しデカンター内の水を系外に抜き取った。仕込み水(9.9重量部)および理論生成水(9.9重量部)を抜き取ったところで反応を終了、冷却し金属塩結合含有共重合体(S−1)溶液を得た。
【0094】
得られた金属塩結合含有共重合体(S−1)溶液の加熱残分は60.6重量%であり、25℃における粘度は2,290mPa・sであった。金属塩結合含有共重合体(S−1)の原料、性状等を表2に示す。
【0095】
[調製例2−2]
攪拌機、窒素導入管、デカンターおよび冷却管を備えたセパラブルフラスコに、調製例1−1で得られたカルボキシル基含有共重合体(A−1)溶液388.2重量部、ナフテン酸166.8重量部、酢酸銅164.8重量部、キシレン77.4重量部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル77.4重量部を仕込み、撹拌しながら昇温し還流温度を保持しデカンター内の酢酸を系外に抜き取った。理論生成酢酸(109.0重量部)を抜き取ったところで反応を終了、冷却し金属塩結合含有共重合体(S−2)溶液を得た。
【0096】
[調製例2−3〜5]
仕込み量を表2に記載されたように変更した以外は調製例2−1と同様にして、金属塩結合含有共重合体(S−3)〜(S−5)を製造した。これらの金属塩結合含有共重合体(S−3)〜(S−5)の原料、性状等は表2に示す通りである。
【0097】
[比較調製例2−1・2−2]
仕込み量を表4に記載されたように変更した以外は製造例2−1と同様にして、金属塩
結合含有共重合体(H−1)および(H−2)を製造した。金属塩結合含有共重合体(H−1)および(H−2)の原料、性状等は表4に示す通りである。
【0098】
防汚塗料組成物の製造
[実施例1]
上記調製例[2−1]により得られた金属塩結合含有共重合体(S−1)溶液20.1重量部、可塑剤である塩素化パラフィン「トヨパラックス150」2重量部、有機赤顔料「ナフトールレッド」0.5重量部、酸化チタン「R−5N」1.5重量部、酸化亜鉛1.5重量部、防汚剤である「Cuprous Oxide GG」50重量部および「銅ピリチオン」3重量部、タレ止め剤「ディスパロン4200−20」1重量部および「ディスパロン630−20X」1重量部、溶剤である1−ブタノール3重量部およびキシレン3重量部を、攪拌機を用いて均一に混合し、防汚塗料組成物を製造した。
【0099】
この実施例1の防汚塗料組成物の原料、性状等は、表5に示すとおりである。また、原料として使用された商品の一覧を表6に示す。
[実施例2〜10]
調製例[2−2]〜[2−5]により得られた金属塩結合含有共重合体(S−2)〜(S−5)の溶液およびその他の成分の配合組成を表5に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして、防汚塗料組成物を製造した。実施例2〜10の防汚塗料組成物の配合組成、性状等は、表5に示す通りである。
【0100】
[比較例1〜4]
比較調製例[2−1]または[2−2]により得られた金属塩結合含有共重合体(H−2)または(H−2)の溶液およびその他の成分の配合組成を表5に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして、防汚塗料組成物を製造した。比較例1〜4の防汚塗料組成物の配合組成、性状等は、表5に示す通りである。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位と、当該不飽和カルボン酸単量体(a1)と共重合可能な他の不飽和化合物単量体(a2)に由来する構造単位とからなるカルボキシル基含有共重合体(A)の側鎖に、一般式(1):
X−COO−M−(Y)n ……(1)
(式中、Xはカルボキシル基含有共重合体(A)の基体、Mは金属、nは金属Mの価数−1で表される正の整数、Yは一塩基酸の有機酸残基を表す。)
で表される構造が少なくとも1つ導入された共重合体である金属塩結合含有共重合体(S)を含有する防汚塗料組成物であって、
上記カルボキシル基含有共重合体(A)は、原料である不飽和カルボン酸単量体(a1)および不飽和化合物単量体(a2)の総量100重量部に対してラジカル重合開始剤を10重量部以上使用した溶媒中でのラジカル重合により得られ、GPCで測定した重量平均分子量が500〜6,000であり、かつ、
当該防汚塗料組成物の揮発性有機化合物含有量は400g/l以下であることを特徴とする、ハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項2】
カルボキシル基含有共重合体(A)が、当該カルボキシル基含有共重合体(A)100重量部中に不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位を5〜50重量部含有し、かつ、GPCで測定した重量平均分子量が750〜3,000あることを特徴とする、請求項1に記載のハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項3】
カルボキシル基含有共重合体(A)が、原料である不飽和カルボン酸単量体(a1)および不飽和化合物単量体(a2)の総量100重量部に対してラジカル重合開始剤を20重量部以上を使用した溶媒中でのラジカル重合により得られ、当該カルボキシル基含有共重合体(A)100重量部中に不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位を10〜40重量部含有し、かつ、GPCで測定した重量平均分子量が1,000〜2,500であることを特徴とする、請求項1に記載のハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項4】
カルボキシル基含有共重合体(A)の不揮発分70重量%溶液としたときの25℃における粘度が20,000mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項5】
カルボキシル基含有共重合体(A)が、不飽和カルボン酸単量体(a1)に由来する構造単位として、少なくとも(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項6】
金属塩結合含有共重合体(S)が、前記一般式(1)中のMで表される金属として、亜鉛、銅、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項7】
金属塩結合含有共重合体(S)が、前記一般式(1)中のYで表される一塩基酸の有機酸残基として、分子量が3,000以下であるモノカルボン酸化合物の残基を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のハイソリッド型防汚塗料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成されてなることを特徴とする防汚塗膜。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜で表面を被覆
された船舶、水中構造物または漁具・漁網。
【請求項10】
船舶、水中構造物または漁具・漁網の基材表面に、請求項1〜7の何れかに記載の防汚塗料組成物を塗布し乾燥させて得られた塗膜で、上記基材表面を被覆する船舶、水中構造物または漁具・漁網の防汚方法。

【公開番号】特開2008−291141(P2008−291141A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139080(P2007−139080)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】