説明

ハイドライド気相成長装置

【課題】反応管の下流から流入した残留空気、水分により結晶の成長が阻害されることがないハイドライド気相成長装置を提供する。
【解決手段】中空の反応管110の内部で基板122が下流側から基板回転機構120により軸支されて回転駆動される。この基板122の表面に上流からGaClガスと(NH+H)ガスを供給する。これにより基板122の表面に結晶が成長される。ただし、基板122の表面を通過したガスを排出する構造のため、必然的に加熱されたガスと下流部の冷却されたガスとの間で対流が生じる。基板122の下流で反応管110の内部の少なくとも外側を対流防止部材150が遮蔽している。このため、上述のように反応管110の下流から流入した残留空気や水分が対流により基板122の表面に到達することが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも第一反応ガスと第二反応ガスとを上流から下流の基板の表面に供給して結晶を成長させるハイドライド気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は広いバンドギャップをもつこと、また、直接遷移型半導体であることから短波長発光デバイスとして応用されている。このような素子構造を作製するには基板上にエピタキシャル成長させる必要がある。
【0003】
しかしながら、窒化ガリウム(GaN)においては格子整合する基板がなく、サファイア等の異種基板上に有機金属気相成長法(MOVPE)やハイドライド気相成長法(HVPE)等の気相成長法であらかじめ数μm〜数百μmのGaN膜を成長させた基板上に素子構造を作製する場合がある。
【0004】
こうした成長方法の中でも特にハイドライド気相成長法は成長速度が速く、GaN層を厚く成長させたり、自立GaN基板を作製したりするのに用いられる。
【0005】
現在、上述のような層膜を基板上に形成するハイドライド気相成長装置として各種の提案がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−181097号公報
【特許文献2】特開2007−039271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、HVPE法によりGaNを成長すると酸素が不純物として取り込まれてしまい、結果として意図していない結晶中のキャリア濃度の増加、高濃度の酸素による結晶性の悪化、表面モフォロジーの悪化、結晶中への歪の発生などが起こる。特にm(M面)−GaNにおいては顕著に取り込まれる傾向にありデバイス作製の際には大きな問題になる。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、反応管の下流から流入した外気により結晶の成長が阻害されることがないハイドライド気相成長装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のハイドライド気相成長装置は、少なくとも第一反応ガスと第二反応ガスとを上流から下流の基板の表面に供給して結晶を成長させるハイドライド気相成長装置であって、中空の反応管と、反応管の内部で基板を下流側からサセプタ回転軸により軸支して回転駆動する基板回転機構と、回転駆動される基板の表面に第一反応ガスを上流から供給する第一供給機構と、回転駆動される基板の表面に第二反応ガスを上流から供給する第二供給機構と、表面に第一反応ガスと第二反応ガスとが供給される基板の下流で反応管の内部の少なくとも外側を遮蔽する対流防止部材と、を有する。
【0010】
従って、本発明のハイドライド気相成長装置では、中空の反応管の内部で基板が下流側から基板回転機構のサセプタ回転軸により軸支されて回転駆動される。このように回転駆動される基板の表面に第一供給機構が第一反応ガスを上流から供給する。さらに、回転駆動される基板の表面に第二供給機構が第二反応ガスを上流から供給する。そこで、これら第一反応ガスと第二反応ガスにより基板の表面に結晶が成長される。ただし、基板を通過し、十分に加熱されるが第一反応ガスと第二反応ガスを排出する際に下流部の冷却されているガスと加熱されているガスとが対流を起こす。このため、下流部に残留していた空気や水分が基板の表面に到達して結晶の成長を阻害する懸念がある。しかし、本発明のハイドライド気相成長装置では、表面に第一反応ガスと第二反応ガスとが供給される基板の下流で反応管の内部の少なくとも外側を対流防止部材が遮蔽している。このため、上述のように反応管の下流から流入した残留空気、水分が対流により基板の表面に到達することが防止される。
【0011】
また、上述のようなハイドライド気相成長装置において、対流防止部材は、中心に貫通孔が形成されていて反応管の内周面を遮蔽する円筒状に形成されており、対流防止部材の貫通孔を基板回転機構のサセプタ回転軸が貫通していてもよい。
【0012】
また、上述のようなハイドライド気相成長装置において、対流防止部材は、基板の表面を通過した第一反応ガスと第二反応ガスとを貫通孔とサセプタ回転軸との間隙から所定の流速で下流に流動させる形状に形成されていてもよい。
【0013】
また、上述のようなハイドライド気相成長装置において、反応管の外側から基板を加熱する基板加熱機構と、基板加熱機構より下流で反応管を断熱する反応管断熱材とを、さらに有し、対流防止部材が反応管断熱材より下流に位置していてもよい。
【0014】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイドライド気相成長装置では、中空の反応管の内部で基板が下流側から基板回転機構のサセプタ回転軸により軸支されて回転駆動される。このように回転駆動される基板の表面に第一供給機構が第一反応ガスを上流から供給する。さらに、回転駆動される基板の表面に第二供給機構が第二反応ガスを上流から供給する。そこで、これら第一反応ガスと第二反応ガスにより基板の表面に結晶が成長される。ただし、基板を通過し、十分に加熱されるが第一反応ガスと第二反応ガスを排出する際に下流部の冷却されているガスと加熱されているガスとが対流を起こす。このため、下流部に残留していた空気や水分が基板の表面に到達して結晶の成長を阻害する懸念がある。しかし、本発明のハイドライド気相成長装置では、表面に第一反応ガスと第二反応ガスとが供給される基板の下流で反応管の内部の少なくとも外側を対流防止部材が遮蔽している。このため、上述のように反応管の下流から流入した残留空気、水分が対流により基板の表面に到達することが防止される。従って、流入した残留空気、水分により結晶の成長が阻害されることがなく、良質な結晶を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態のハイドライド気相成長装置の要部構造を示す模式的な縦断側面図である。
【図2】対流防止部材の構造を示す図1のA−A断面図である。
【図3】対流防止部材の作用を示す模式図である。
【図4】試作品のハイドライド気相成長装置による実験結果を示す特性図である。
【図5】一の変形例の対流防止部材の作用および構造を示す模式的な縦断側面図である。
【図6】他の変形例の対流防止部材の作用および構造を示す模式的な縦断側面図である。
【図7】さらに他の変形例の対流防止部材の作用および構造を示す模式的な縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の一形態を図面を参照して以下に説明する。本実施の形態のハイドライド気相成長装置100は、少なくとも第一反応ガスであるGaClガスと第二反応ガスである(NH+H)ガスとを上流から下流の基板122の表面に供給して結晶を成長させる。なお、ここでは第二反応ガスとして(NH+H)ガスを例示しているが、そのHガスはN、He、Arなどの不活性ガス、またはそれらの混合ガスなどに変更することができる。
【0018】
このため、本実施の形態のハイドライド気相成長装置100は、図1に示すように、中空の反応管110と、反応管110の内部で基板122を下流側からサセプタ回転軸121により軸支して回転駆動する基板回転機構120と、回転駆動される基板122の表面にGaClガスを上流から供給する第一供給機構であるGaソースボート130と、回転駆動される基板122の表面に(NH+H)ガスを上流から供給する第二供給機構140と、表面にGaClガスと(NH+H)ガスとが供給される基板122の下流で反応管110の内部の少なくとも外側を遮蔽する対流防止部材150と、を有する。
【0019】
対流防止部材150は、図2に示すように、中心に貫通孔151が形成されていて反応管110の内周面を遮蔽する円筒状に形成されており、対流防止部材150の貫通孔151を基板回転機構120のサセプタ回転軸121が貫通している。
【0020】
このため、対流防止部材150は、基板122の表面を通過したGaClガスと(NH+H)ガスとを貫通孔151とサセプタ回転軸121との間隙から所定の流速で下流に流動させる形状に形成されている。
【0021】
反応管110は、第一反応ガスや第二反応ガスと反応せず、後述する加熱が可能な耐熱ガラスで中空の円筒形に形成されている。Gaソースボート130は、反応管110の中央で基板122と対向する細管からなり、内部にIII族原料であるGa結晶が配置される。
【0022】
このGa結晶の位置でGaソースボート130は反応管110の外周面に配置されている第一ヒータ機構132により、例えば、850℃に加熱される。このような状態でGaソースボート130は上流からHClガスを供給するので、加熱されるGaが反応することでGaClガスを基板122の表面に供給する。
【0023】
第二供給機構140は反応管110の内周面とGaソースボート130の外周面との間隙からなり、(NH+H)ガスを上流から供給する。このようにGaClガスと(NH+H)ガスとが供給される基板122の位置は、反応管110の外周面に配置されている基板加熱機構である第二ヒータ機構142により、例えば、1050℃に加熱される。
【0024】
なお、第一ヒータ機構132と第二ヒータ機構142との間隙の位置は、反応管110の外周面に反応管断熱材である第一断熱材133が配置されており、第二ヒータ機構142より下流の位置にも反応管断熱材である第二断熱材143が配置されている。そして、本実施の形態のハイドライド気相成長装置100では、対流防止部材150が第二断熱材143より下流に位置している。
【0025】
上述のような構成において、本実施の形態のハイドライド気相成長装置100では、中空の反応管110の内部で基板122が下流側から基板回転機構120のサセプタ回転軸121により軸支されて回転駆動される。
【0026】
このように回転駆動される基板122の表面にGaソースボート130がGaClガスを上流から供給する。さらに、回転駆動される基板122の表面に第二供給機構140が(NH+H)ガスを上流から供給する。そこで、これらGaClガスと(NH+H)ガスにより基板122の表面に結晶が成長される。
基板122の材料は特に限定されず、サファイア(Al)基板、GaN基板(自立基板)、SiC基板などを用いることができる。特に、C面、M面、A面またはR面のGaN自立基板を好適に用いることができる。
【0027】
ただし、基板122の表面を通過したGaClガスと(NH+H)ガスとを排出する際に、温度差による対流が生じる。このため反応管110の下流部に残留していた空気や水分が基板122の表面に到達して結晶の成長を阻害する懸念がある。
【0028】
しかし、本実施の形態のハイドライド気相成長装置100では、図3に示すように、表面にGaClガスと(NH+H)ガスとが供給される基板122の下流で反応管110の内部の少なくとも外側を対流防止部材150が遮蔽している。
【0029】
このため、上述のように反応管110の下流から流入した残留空気、水分が対流により基板122の表面に到達することが防止される。従って、流入した残留空気、水分により結晶の成長が阻害されることがなく、良質な結晶を形成することができる。
【0030】
ここで、本発明者が実施した試作品のハイドライド気相成長装置100での実験結果を以下に説明する。試作品のハイドライド気相成長装置100では、対流防止部材150は、反応管110の内径(φ90mm)に接する程度の外径(φ89.5mm)に形成した。
【0031】
ただし、サセプタ回転軸121(φ12mm)の回転を妨げず、ガス流路を塞がない程度の貫通孔151を中心部に形成した(φ21mm)。このため、対流防止部材150で第一反応ガスと第二反応ガスとの流路が狭められ、局所的に流速が上がった(試験では220cm/sec)。
【0032】
試作品のハイドライド気相成長装置100では、対流防止部材150を石英で形成した。ただし、その他の材質での形成も可能と考えられる(カーボン、SiC、PBN、BN、アルミナ、AlN)。
【0033】
上述のようなハイドライド気相成長装置100において、実験では、図1に示した構造のIII族窒化物半導体基板をHVPE法により製造した。まず、高純度ガリウム(Ga)をハイドライド気相成長装置100の石英製のGaソースボート130の中に充填し、水平型石英製のリアクタ内の所定配置にそれぞれ配置した。
【0034】
以下の説明において、ガスの供給量の単位としては、標準状態に換算した単位であるSCCMを使用する。基板122としては、m−GaN基板を使用し、ハイドライド気相成長装置100内のサセプタ回転軸121の先端のホルダーに設置して回転させた。
【0035】
窒素(N)ガスをリアクタ内に供給して、リアクタ内の空気を置換した後、Nガスの供給を止め、水素(H)ガスに切り替え、Hガスを10000SCCMで供給した。
【0036】
そして、第一ヒータ機構132によってリアクタ内を加熱した。ここでの加熱方法は、リアクタの外壁を第一ヒータ機構132により加熱する、いわゆるホットウオール法である。このとき基板のGaNの分解を抑制するために2000SCCMでアンモニア(NH)を同時に供給した。
【0037】
Gaソースボート130および基板122の位置の温度が、それぞれ850℃、1050℃になっていることを確認し、GaNの成長を開始した。
【0038】
GaN基板上に1000SCCMでNHガスを供給し、Gaソースボート130上にHClガスを100SCCMで供給して、GaClを基板122上に供給した。
【0039】
成長開始から60分後に基板122上に約80μmのGaN膜が得られた。成長完了後、成長したGaNの分解を抑制するためにリアクタの温度が400℃になるまでNHガスを2000SCCMで供給した。
【0040】
成長したGaN結晶を二次イオン質量分析(SIMS)により不純物分析を行った結果(図4)、図1のハイドライド気相成長装置100を用いない場合と比べて1桁程度の酸素濃度の低減が確認された。
【0041】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では対流防止部材150が単純な円筒形に形成されていることを例示した。
【0042】
しかし、図5に示すように、対流防止部材210の貫通孔が下流に先鋭な円錐形に形成されていてもよい。この場合、基板122の位置を通過した第一反応ガスおよび第二反応ガスの流速を効果的に上昇させることが期待できる。
【0043】
また、図6に示すように、対流防止部材211の後面が下流に先鋭な円錐形に形成されていてもよい。この場合、外部から基板122への外気の侵入を効果的に防止することが期待できる。
【0044】
さらに、図7に示すように、対流防止部材150を二重や三重(図示せず)に形成してもよい。この場合、外部から基板122への外気の侵入を段階的に防止することが期待できる。
【0045】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 ハイドライド気相成長装置
110 反応管
120 基板回転機構
121 サセプタ回転軸
122 基板
130 ソースボート
132 第一ヒータ機構
133 第一断熱材
140 第二供給機構
142 第二ヒータ機構
143 第二断熱材
150 対流防止部材
151 貫通孔
210 対流防止部材
211 対流防止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一反応ガスと第二反応ガスとを上流から下流の基板の表面に供給して結晶を成長させるハイドライド気相成長装置であって、
中空の反応管と、
前記反応管の内部で前記基板を下流側からサセプタ回転軸により軸支して回転駆動する基板回転機構と、
回転駆動される前記基板の表面に前記第一反応ガスを上流から供給する第一供給機構と、
回転駆動される前記基板の表面に前記第二反応ガスを上流から供給する第二供給機構と、
表面に前記第一反応ガスと前記第二反応ガスとが供給される前記基板の下流で前記反応管の内部の少なくとも外側を遮蔽する対流防止部材と、
を有するハイドライド気相成長装置。
【請求項2】
前記対流防止部材は、中心に貫通孔が形成されていて前記反応管の内周面を遮蔽する円筒状に形成されており、
前記対流防止部材の前記貫通孔を前記基板回転機構の前記サセプタ回転軸が貫通している請求項1に記載のハイドライド気相成長装置。
【請求項3】
前記対流防止部材は、前記基板の表面を通過した前記第一反応ガスと前記第二反応ガスとを前記貫通孔と前記サセプタ回転軸との間隙から所定の流速で下流に流動させる形状に形成されている請求項2に記載のハイドライド気相成長装置。
【請求項4】
前記反応管の外側から前記基板を加熱する基板加熱機構と、
前記基板加熱機構より下流で前記反応管を断熱する反応管断熱材とを、さらに有し、
前記対流防止部材が前記反応管断熱材より下流に位置している請求項1ないし3の何れか一項に記載のハイドライド気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−96801(P2011−96801A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248447(P2009−248447)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】