説明

ハイドロゲル組成物

【課題】 経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有するハイドロゲル組成物であって、離液が十分に低減され、皮膚又は粘膜に対する十分に高い接着性を有し、更に、十分に高い薬物放出性を有するハイドロゲル組成物を提供すること。
【解決手段】 経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有するハイドロゲル組成物であって、
ケン化度90〜96mol%のポリビニルアルコール、水溶性高分子及び水を含有し、
ハイドロゲル組成物の全質量を基準として、水溶性高分子の含有量が25質量%以下であり、水の含有量が60質量%以上であるハイドロゲル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を経皮的に、又は経粘膜的に吸収させる製剤として、ハイドロゲル組成物が利用されている。しかしながら、従来、ハイドロゲル組成物は、保存中に徐々に離液(シネレシス)が進行して不透明なゲルとなり、皮膚又は粘膜に対する高い接着性を保つことができなかった。
【0003】
そのような離液を低減させるハイドロゲル組成物として、下記特許文献1には、水を含有し、且つ、所定の加水分解度を有するポリビニルアルコールを所定量含有する組成物が開示されている。また、下記特許文献2には、分子量100000〜600000のポリビニルピロリドン、分子量150000〜300000のポリビニルアルコール、極性可塑剤(湿潤剤)及び水を含有し、その含有量がそれぞれ、25〜50質量%、2〜5質量%、5〜40質量%、及び3〜50質量%である組成物が開示されている。
【特許文献1】特表2001−525377号公報
【特許文献2】特公平5−80514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の組成物は、離液の低減を目的としたものであり、それ自体では、必ずしも皮膚又は粘膜に対する十分に高い接着性を有するものではなかった。また、上記特許文献2に記載の組成物は、水の含有量が少ないため、含有される薬物の放出性が不十分であり、特にイオントフォレシスで用いるのに十分な薬物放出性が得られるものではなかった。
【0005】
そこで、本発明は、経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有するハイドロゲル組成物であって、離液が十分に低減され、皮膚又は粘膜に対する十分に高い接着性を有し、更に、十分に高い薬物放出性を有するハイドロゲル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、
経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有するハイドロゲル組成物であって、
ケン化度90〜96mol%のポリビニルアルコール(以下、場合により「PVA」という)、水溶性高分子及び水を含有し、
ハイドロゲル組成物の全質量を基準として、水溶性高分子の含有量が25質量%以下であり、水の含有量が60質量%以上であるハイドロゲル組成物を提供する。
【0007】
本発明において、PVAの「ケン化度」とは、ポリ酢酸ビニルにおいてケン化されて水酸基に変化したアセチル基の比率を意味し、PVAの水酸基及びアセチル基のモル数をそれぞれp及びqとすると、{p/(p+q)}×100(mol%)で表される。
【0008】
上記ハイドロゲル組成物は、従来一般に使用されてきたケン化度が96mol%より大きいPVAではなく、ケン化度の比較的低いPVA、すなわちケン化度90〜96mol%のPVAを含有する。ケン化度90〜96mol%のPVAを含有することにより、水を多量に(例えば60質量%以上)含有する場合にも、離液が十分に低減されている。これは、PVAのケン化度が低いと、PVAによって形成されるネットワークが緩やかになり、それだけ水分子がネットワーク内に取り込まれてPVAに結合しやすくなり、自由水が減少するためと考えられる。
【0009】
また、ケン化度90〜96mol%のPVAを含有することにより、形成されるゲルの均一性が高くなっている。これは、PVAのケン化度が低いと、ゲルの調製の際に、それだけ低い温度でPVAを溶解することが可能になるためと考えられる。
【0010】
上記ハイドロゲル組成物におけるケン化度90〜96mol%のPVAの含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として5〜25質量%である。5質量%より少ないと、ゲルの強度が低下する傾向がある。他方、25質量%より多いと、ゲルが硬くなり、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が低下する傾向がある。
【0011】
上記ハイドロゲル組成物は、ケン化度78〜90mol%のPVAを更に含有するのが好ましい。このようなPVAを更に含有することにより、離液がより確実に低減される。
【0012】
ケン化度78〜90mol%のPVAの含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として5質量%以下である。5質量%より多いと、ゲルが硬くなり、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が低下する傾向がある。
【0013】
上記ハイドロゲル組成物は水溶性高分子を含有する。水溶性高分子を含有することにより、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が十分に高くなっている。また、水溶性高分子は、水和された状態でPVAによるネットワークの形成を阻害し、その隙間に入り込むので、ネットワーク内に取り込まれる水分子を増加させ、自由水を減少させる。そのため、水溶性高分子を含有することにより、離液が更に低減されている。
【0014】
水溶性高分子の含有量は、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として25質量%以下である。25質量%より多いと、水溶性高分子とPVAとの間で相分離が起き、離液が生じやすくなる。
【0015】
水溶性高分子としては、PVAとの相溶性が高いポリビニルピロリドンが好ましい。
【0016】
上記ハイドロゲル組成物は水を含有する。水はPVA及び水溶性高分子に結合して、PVAのネットワークに分布し、薬物等を拡散させる。そのため、水を含有することにより、含有される薬物等がゲル中で拡散し、ゲルから放出されやすくなっている。
【0017】
水の含有量は、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として60質量%以上である。水を60質量%以上含有することにより、含有される薬物がゲル中で十分に拡散し、薬物放出性が十分に高くなっている。
【0018】
上記ハイドロゲル組成物は、湿潤剤を更に含有するのが好ましい。湿潤剤を含有すると、皮膚又は粘膜に貼付した場合に、貼付部位が保湿される。また、ゲルの調製の際に原料の混合物の表面に皮膜が形成されるのが抑制されるので、調製されるゲルの均一性が高くなる。
【0019】
湿潤剤の好適な例としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール又は尿素が挙げられる。これらの湿潤剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
上記ハイドロゲル組成物は、電解質を更に含有するのが好ましい。電解質を含有すると、薬物等によるゲルのpHの変動が抑制され、また、イオントフォレシスの際の皮膚への刺激が低減される。
【0021】
上記ハイドロゲル組成物は、界面活性剤を更に含有するのが好ましい。界面活性剤を含有すると、ゲルがより柔軟になり、皮膚又は粘膜との接触面積が増大するので、薬物放出性、及び皮膚又は粘膜への薬物移行性がより高くなる。また、界面活性剤を含有すると、ゲル及び皮膚の境界におけるインピーダンスが低下するので、ゲルと皮膚との間で電流が流れやすくなり、イオントフォレシスの際の皮膚への薬物移行性がより高くなる。更に、PVA溶解時に生じる泡はゲルのインピーダンスを高め、また、ゲル中の薬物等の拡散性を低下させるが、界面活性剤を含有すると、PVA溶解時の泡の発生が顕著に抑制され、薬物放出性、及び皮膚又は粘膜への薬物移行性がそれだけ高くなる。更に、ゲルの調製の際に原料の混合物の表面に皮膜が形成されるのが抑制されるので、調製されるゲルの均一性が高くなる。
【0022】
上記ハイドロゲル組成物は、経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有する。このような薬物の好適な例としては、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸デキサメタゾンナトリウム、メタスルホ安息香酸デキサメタゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム又はリン酸ベタメタゾンナトリウムが挙げられる。これらの薬物は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
ケン化度の比較的低いPVA(96mol%以下のPVA)を含有する溶液をゲル化するには、通常、複数回の凍結−解凍処理を行う必要があるが、本発明のハイドロゲル組成物は、凍結−解凍処理の条件(冷却速度、昇温速度等)を調節することによって、1回の凍結−解凍処理で調製することができる。
【0024】
なお、特表昭58−501034号公報には、極性可塑剤、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンを含有し、その含有量がそれぞれ、約1〜約60質量%、約6〜約30質量%、及び約2〜約30質量%である組成物が開示されている。また、特開昭62−158744号公報には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び水を含有し、それらの含有量が一定の条件を満たし、且つpHが4.5以下である組成物が開示されている。しかしながら、これらの組成物は、必ずしも皮膚又は粘膜に対する高い接着性を有するものではない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有するハイドロゲル組成物であって、離液が十分に低減され、皮膚又は粘膜に対する十分に高い接着性を有し、更に、十分に高い薬物放出性を有するハイドロゲル組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明のハイドロゲル組成物の好適な実施形態を説明する。
【0027】
本発明のハイドロゲル組成物は、ケン化度90〜96mol%のPVA、水溶性高分子及び水を含有する。
【0028】
ケン化度90〜96mol%のPVAを含有することにより、水を多量に(例えば60質量%以上)含有する場合にも、離液が十分に低減されている。これは、PVAのケン化度が低いと、PVAによって形成されるネットワークが緩やかになり、それだけ水分子がネットワーク内に取り込まれてPVAに結合しやすくなり、自由水が減少するためと考えられる。
【0029】
また、ケン化度90〜96mol%のPVAを含有することにより、ゲルの均一性が高くなっている。これは、PVAのケン化度が低いと、ゲルの調製の際に、それだけ低い温度でPVAを溶解することが可能になるためと考えられる。
【0030】
ケン化度90〜96mol%のPVAの含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として5〜25質量%である。5質量%より少ないと、ゲルの強度が低下する傾向がある。他方、25質量%より多いと、ゲルが硬くなり、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が低下する傾向がある。
【0031】
上記ハイドロゲル組成物は、ケン化度78〜90mol%のPVAを更に含有するのが好ましい。このようなPVAを更に含有することにより、離液がより確実に低減される。
【0032】
ケン化度78〜90mol%のPVAの含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として5質量%以下である。5質量%より多いと、ゲルが硬くなり、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が低下する傾向がある。
【0033】
ケン化度90〜96mol%及びケン化度78〜90mol%のPVAのいずれについても、重合度としては1700〜2500が好ましい。重合度が1700より小さいと、ゲルの強度が低下する傾向があり、また、ゲル化に要する時間が長くなる。他方、重合度が2500より大きいと、ゲルが硬くなり、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が低下する傾向がある。
【0034】
本発明のハイドロゲル組成物では、水溶性高分子を含有することにより、粘着性、及び皮膚又は粘膜への接着性が十分に高くなっている。また、水溶性高分子は、水和された状態でPVAによるネットワークの形成を阻害し、その隙間に入り込むので、ネットワーク内に取り込まれる水分子を増加させ、自由水を減少させる。そのため、水溶性高分子を含有することにより、離液が更に低減されている。
【0035】
水溶性高分子の含有量は、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として25質量%以下である。25質量%より多いと、水溶性高分子とPVAとの間で相分離が起き、離液が生じやすくなる。水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.01質量%以上である。0.01質量%より少ないと、ゲルの保型性や、皮膚又は粘膜への接着性が低下する傾向がある。
【0036】
水溶性高分子としては、イオン性化合物では、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸中和物、メトキシエチレン−無水マレイン酸共重合体、メトキシエチレン−マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−マレイン酸共重合体、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド誘導体、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルアセトアミドとアクリル酸又はアクリル酸塩との共重合体、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。また、非イオン性化合物では、ポリビニルホルマール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメタアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等が挙げられる。これらのうち、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイドが好ましく、ポリビニルアルコールとの相溶性が高いポリビニルピロリドンが特に好ましい。
【0037】
本発明のハイドロゲル組成物は水を含有する。水はPVA及び水溶性高分子に結合して、PVAのネットワークに分布し、薬物等を拡散させる。そのため、水を含有することにより、含有される薬物等がゲル中で拡散し、ゲルから放出されやすくなっている。
【0038】
水としては、精製水が好ましい。
【0039】
水の含有量は、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として60質量%以上である。水を60質量%以上含有することにより、含有される薬物がゲル中で十分に拡散し、薬物放出性が十分に高くなっている。また、水の含有量は、好ましくは90質量%以下である。90質量%より多いと、ゲルの保型性が低下する傾向がある。
【0040】
上記ハイドロゲル組成物は、湿潤剤を含有するのが好ましい。湿潤剤を含有すると、皮膚又は粘膜に貼付した場合に、貼付部位が保湿される。また、ゲルの調製の際に原料の混合物の表面に皮膜が形成されるのが抑制されるので、調製されるゲルの均一性が高くなる。
【0041】
湿潤剤の含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として0.1〜15質量%である。0.1質量%より少ないと、ハイドロゲル組成物を皮膚又は粘膜に適用した後、ゲルが水分を消失する傾向がある。他方、15質量%より多いと、離液が増加する傾向がある。
【0042】
湿潤剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、D−ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール等の糖アルコール類、及び尿素が挙げられる。これらのうち、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール又は尿素が好ましい。これらの湿潤剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
上記ハイドロゲル組成物は、電解質(但し、有効成分として含有される薬物に当たる電解質を除く。)を更に含有するのが好ましい。電解質を含有すると、薬物等によるゲルのpHの変動が抑制され、また、イオントフォレシスの際の皮膚への刺激が低減される。
【0044】
電解質としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。
【0045】
電解質の含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として0.001〜1質量%である。0.001質量%より少ないと、薬物の保存安定性が低下する傾向があり、また、ゲルのpHの調整が困難になる。他方、1質量%より多いと、PVAの水酸基との相互作用により、離液が増加する傾向がある。電解質の含有量は、より好ましくは0.01〜0.3質量%である。
【0046】
上記ハイドロゲル組成物は、界面活性剤を更に含有するのが好ましい。界面活性剤を含有すると、ゲルがより柔軟になり、皮膚又は粘膜との接触面積が増大するので、薬物放出性、及び皮膚又は粘膜への薬物移行性がより高くなる。また、界面活性剤を含有すると、ゲル及び皮膚の境界におけるインピーダンスが低下するので、ゲルと皮膚との間で電流が流れやすくなり、イオントフォレシスの際の皮膚への薬物移行性がより高くなる。更に、PVA溶解時に生じる泡はゲルのインピーダンスを高め、また、ゲル中の薬物等の拡散性を低下させるが、界面活性剤を含有すると、PVA溶解時の泡の発生が顕著に抑制され、薬物放出性、及び皮膚又は粘膜への薬物移行性がそれだけ高くなる。更に、ゲルの調製の際に原料の混合物の表面に皮膜が形成されるのが抑制されるので、調製されるゲルの均一性が高くなる。
【0047】
界面活性剤のHLB(Hydrophile-lipophile balance)値は、好ましくは6以上である。HLB値が6未満であると、界面活性剤がゲル中の水に溶解せず、ゲルが白濁する傾向がある。また、イオン性界面活性剤はゲル内の電荷バランスに影響を与えるので、上記ハイドロゲル組成物をイオントフォレシスで用いる場合は、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0048】
界面活性剤の含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として2質量%以下である。2質量%より多いと、離液が増加する傾向がある。
【0049】
上記ハイドロゲル組成物は、更にキレート剤を含有してもよい。
【0050】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、又はそのナトリウム塩(エデト酸二ナトリウム等)、カリウム塩、カルシウム二ナトリウム塩、ジアンモニウム塩若しくはトリエタノールアミン塩、或いはヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA)又はその三ナトリウム塩が好ましい。
【0051】
キレート剤の含有量は、好ましくは、ハイドロゲル組成物の全質量を基準として0.001〜1質量%である。0.001質量%より少ないと、金属イオンを補足する作用が不十分であり、1質量%より多いと、キレート剤が薬物の競合イオンとなり、調製されるハイドロゲル組成物をイオントフォレシスで用いるのが困難になる傾向がある。キレート剤の含有量は、より好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0052】
本発明のハイドロゲル組成物はまた、経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有する。
【0053】
含有される薬物は、経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じるものであれば、抗アレルギー薬、麻酔薬、鎮痛薬、抗喘息薬、抗痙攣薬、抗腫瘍薬、解熱薬、抗不整脈薬、降圧薬、利尿薬、血管拡張薬、制吐薬、中枢神経系興奮薬、診断薬、ホルモン剤、抗炎症薬、抗うつ薬、抗精神病薬、免疫抑制薬、筋弛緩薬、抗ウイルス薬、抗生物質、抗血栓形成薬、骨吸収抑制薬、骨形成促進薬等のいずれであってもよい。
【0054】
陽イオンに解離する薬物としては、例えば、バカンピシリン、スルタミシリン、セフポドキシムプロキセチル、セフテラムピボキシル、セフメノキシム、セフォチアム、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサクリン、エリスロマイシン、ロキタマイシン、アミカシン、アルベカシン、アストロマイシン、ジベカシン、ゲンタマイシン、イセパマイシン、カナマイシン、ミクロノマシイン、シソマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、エタンブトール、イソニアジド、フルコナゾール、フルシトシン、ミコナゾール、アシクロビル、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、ホスホマイシン、バンコマイシン、アクラルビシン、ブレオマイシン、シタラビン、ダカルバジン、ニムスチン、ペプロマイシン、プロカルバジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、カルシトニン類、副甲状腺ホルモン(PTH)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、メカセルミン、アリメマジン、クロルフェニラミン、クレマスチン、メキタジン、アゼラスチン、ケトチフェン、オキサトミド、メチルメチオニンスルホニウムクロライド、コルヒチン、カモスタット、ガベキサート、ナファモスタット、ミゾリビン、ピロキシカム、プログルメタシン、エモルファゾン、チアラミド、ブプレノルフィン、エルゴタミン、フェナセチン、リルマザホン、トリアゾラム、ゾピクロン、ニトラゼパム、クロナゼパム、アマンタジン、ブロモクリプチン、クロルプロマジン、スルトプリド、クロルジアゼポキシド、クロキサゾラム、ジアゼパム、エチゾラム、オキサゾラム、アミトリプチリン、イミプラミン、ノルトリプチリン、セチプチリン、チクロピジン、アトロピン、臭化パンクロニウム、チザニジン、臭化ピリドスチグミン、ドブタミン、ドパミン、ベニジピン、ジルチアゼム、ニカルジピン、ベラパミル、アセブトロール、アテノロール、カルテオロール、メトプロロール、ニプラジロール、ピンドロール、プロプラノロール、ジピリダモール、ニコランジル、トラピジル、アジマリン、アプリンジン、ジベンゾリン、ジソピラミド、フレカイニド、イソプレナリン、リドカイン、メキシレチン、プロカイン、プロカインアミド、テトラカイン、ジブカイン、プロパフェノン、キニジン、ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド、トリパミド、アゾセミド、アモスラロール、ブドララジン、ブナゾシン、カドララジン、クロニジン、デラプリル、エナラプリル、グアネチジン、ヒドララジン、ラベタロール、プラゾシン、レセルピン、テラゾシン、ウラピジル、ニコモール、エピネフリン、エチレフリン、ミドドリン、パパベリン、クレンブテロール、フェノテロール、マブテロール、プロカテロール、サルブタモール、テルブタリン、ツロブテロール、チペピジン、アンブロキソール、ブロムヘキシン、シメチジン、ファモチジン、ラニチジン、ロキサチジンアセタート、ベネキサート、オメプラゾール、ピレンゼピン、スルピリド、シサプリド、ドンペリドン、メトクロプラミド、トリメブチン、コデイン、モルヒネ、フェンタニル、ペチジン、オキシブチニン、リトドリン、テロジリン、及びそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0055】
また、陰イオンに解離する薬物としては、例えば、アモキシシリン、アンピシリン、アスポキシシリン、ベンジルペニシリン、メチシリン、ピペラシリン、スルベニシリン、チカルシリン、セファクロル、セファドロキシル、セファレキシン、セファトリジン、セフィキシム、セフラジン、セフロキサジン、セファマンドール、セファゾリン、セフメタゾール、セフミノクス、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフォテタン、セフォキシチン、セフピラミド、セフスロジン、セフタジジム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフゾナム、アズトレオナム、カルモナム、フロモキセフ、イミペネム、ラタモキセフ、シプロフロキサシン、エノキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ビダラビン、フルオロウラシル、メトトレキサート、レボチロキシン、リオチロニン、アンレキサノクス、クロモグリク酸、トラニラスト、グリクラジド、インスリン類、プロスタグランジン類、ベンズブロマロン、カルバゾクロム、トラネキサム酸、アルクロフェナク、アスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メフェナム酸、スリンダク、チアプロフェン酸、トルメチン、スルピリン、ロベンザリット、ペニシラミン、アモバルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、チオペンタール、フェニトイン、バルプロ酸、ドロキシドパ、アセタゾラミド、ブメタニド、カンレノ酸、エタクリン酸、アラセプリル、カプトプリル、リシノプリル、メチルドパ、クロフィブラート、プラバスタチン、プロブコール、アルプロスタジル、アミノフィリン、テオフィリン、カルボシステイン、リン酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、メタスルホ安息香酸デキサメタゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾン、コハク酸プレドニゾロン、リン酸ベタメタゾン、及びそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0056】
これらの薬物のうち、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸デキサメタゾンナトリウム、メタスルホ安息香酸デキサメタゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム又はリン酸ベタメタゾンナトリウムが好適である。
【0057】
本発明のハイドロゲル組成物には、1種の薬物を単独で含有させてもよいが、生体に有害な薬物相互作用を生じない限り、2種以上の薬物を組み合わせて含有させてもよい。薬物の含有量は、各薬物の特性に応じて適宜決定することができる。
【0058】
含有される薬物が水溶性の低い薬物である場合は、溶解剤を更に含有するのが好ましい。溶解剤を含有すると、薬物がゲル中で拡散しやすくなり、薬物放出性、及び皮膚又は粘膜への薬物移行性がそれだけ高くなる。
【0059】
溶解剤としては、非アルコール性溶媒が好ましく、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、オレイン酸オレイル等の脂肪酸エステル類、ユーカリ油、スクワラン、スクワレン等の動植物系油脂、パラフィン油、シリコン油、N−メチル−2−ピロリドン、クロタミトンが挙げられる。アルコール性溶媒は離液を促進することがある。
【0060】
溶解剤の種類及び含有量は、含有される薬物に応じて適宜決定することができる。
【0061】
上記ハイドロゲル組成物は、更に安定化剤(トリエタノールアミン等)、防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル等)等を含有してもよい。
【0062】
本発明のハイドロゲル組成物は、上記成分を混合し、この混合物を冷却して凍結させた後、徐々に昇温して解凍する凍結−解凍処理を1回又は複数回行うことにより、調製することができる。
【0063】
凍結−解凍処理では、混合物を0.3℃/分以上の冷却速度で−20℃以下まで冷却し、その温度で30分以上放置した後、0.3℃/分以下の昇温速度で昇温して解凍するのが好ましい。このような処理を行えば、十分に高い確率で、1回の凍結−解凍処理でハイドロゲル組成物を調製することができる。冷却速度は、より好ましくは0.6℃/分以上である。冷却速度が0.6℃/分以上であれば、調製されるハイドロゲル組成物の保型性がより高くなる。なお、ここで冷却速度とは室温から−20℃まで冷却する際の平均冷却速度であり、昇温速度とは−10℃から0℃まで昇温させる際の平均昇温速度である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
表1に示される組成のハイドロゲル組成物を調製した。なお、表1において、各成分の量は質量部で示している。
【0066】
まず、ケン化度95mol%のPVA(クラレ社製)16.0質量部、ケン化度89mol%のPVA(クラレ社製)1.5質量部、ポリビニルピロリドン K-90(ISP社製)1.5質量部、パラオキシ安息香酸メチル0.18質量部、パラオキシ安息香酸プロピル0.02質量部、モノオレイン酸PEO(20)ソルビタン0.15質量部及び精製水60.45質量部を、加熱しながら混合した。
【0067】
他方、リン酸デキサメタゾンナトリウム3.0質量部、尿素1.0質量部、D−ソルビトール2.5質量部、亜硫酸ナトリウム0.05質量部、エデト酸二ナトリウム0.1質量部、塩化ナトリウム0.05質量部、D−ソルビトール2.5質量部、トリエタノールアミン0.5質量部及び精製水13.0質量部を混合した。
【0068】
これらの混合物を混合し、得られた混合物の粘度を、40℃の温度下で、ビスコテスター VT-04(RION 社製)を用いて測定した。
【0069】
次に、得られた混合物を、内面がシリコン処理されたポリエチレンテレフタレート製の容器(直径30mm,深さ1.5mm)に1.0g充填し、この容器に、シリコン処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた。この容器を温度調整可能な冷蔵庫に入れ、冷却速度2.25℃/分で−20℃まで冷却し、その温度で180分間放置した後、昇温速度0.33℃/分で0℃まで昇温させ、更に室温まで昇温させて、ハイドロゲル組成物を得た。
【0070】
得られたハイドロゲル組成物について、表面pHを測定した。表面pHの測定は、表面接触型ガラス電極を用いて、pHメーター F-15(堀場製作所社製)で行った。1サンプルにつき3回測定を行い、その平均値を求めた。
【0071】
また、室温下で14日放置した後、官能試験を行った。官能試験では、皮膚又は粘膜への接着性、柔軟性、保型性、容器からの離型性、及び離液を評価した。離液の評価は更に、25℃で放置し、3ヶ月、6ヶ月及び9ヶ月経過した後にも行った。
【0072】
(実施例2〜8、及び比較例1〜4)
表1、2又は3に示される組成のハイドロゲル組成物を実施例1に準じて調製した。また、実施例1と同様に、粘度の測定、表面pHの測定、及び官能試験を行った。なお、表1〜3において、各成分の量は質量部で示している。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
実施例1〜8、及び比較例1〜4の結果は、表4〜6に示すとおりである。なお、官能試験の結果は、下記のA〜Dで示す。
〔接着性〕
A:接着性が非常に強い B:接着性が強い C:接着性が弱い D:接着性がない
〔柔軟性〕
A:柔軟性が非常に高い B:柔軟性が高い C:柔軟性が低い D:柔軟性がない
〔保型性〕
A:保型性が高い B:指で押すと変形するが、形状を維持し、ゲルが崩れない C:比較的容易にゲルが崩れる D:極めて弱い力でも変形し、ゲルがばらばらに崩れる
〔離型性〕
A:ゲルが容器に残らない B:極微量のゲルが容器に残る C:少量のゲルが容器に残る D:ゲルを容器から剥離できないか、剥離時にゲルが崩れる
〔離液〕
A:離液がないか、極めて少ない B:指で触ると、少し湿った感触がある C:少量の離液が観察される D:多量の離液が観察される
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
(実施例9〜13、及び比較例5〜8)
表7に示される条件(冷却速度、昇温速度、最低温度、凍結保持時間)で凍結−解凍処理を行った他は、実施例1と同様の操作を行って、実施例1と同様の組成のゲルの調製を試みた。なお、ここで凍結保持時間とは、凍結した混合物を−20℃以下の温度に保持する時間である。
【0081】
【表7】

【0082】
比較例5〜8ではゲルが形成されなかったのに対して、実施例9〜13では良好なゲルが得られた。但し、実施例11で得られたゲルは、実施例9、10、12及び13で得られたゲルに比べて、ゲルの保型性が若干低かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のハイドロゲル組成物は、新規の経皮/経粘膜投与製剤の開発に利用することできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮的に、又は経粘膜的に吸収されて薬効を生じる薬物を有効成分として含有するハイドロゲル組成物であって、
ケン化度90〜96mol%のポリビニルアルコール、水溶性高分子及び水を含有し、
ハイドロゲル組成物の全質量を基準として、水溶性高分子の含有量が25質量%以下であり、水の含有量が60質量%以上であるハイドロゲル組成物。
【請求項2】
ハイドロゲル組成物の全質量を基準として、ケン化度90〜96mol%のポリビニルアルコールの含有量が5〜25質量%である、請求項1記載のハイドロゲル組成物。
【請求項3】
ケン化度78〜90mol%のポリビニルアルコールを更に含有する、請求項1又は2に記載のハイドロゲル組成物。
【請求項4】
ハイドロゲル組成物の全質量を基準として、ケン化度78〜90mol%のポリビニルアルコールの含有量が5質量%以下である、請求項3記載のハイドロゲル組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子がポリビニルピロリドンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のハイドロゲル組成物。
【請求項6】
湿潤剤を更に含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のハイドロゲル組成物。
【請求項7】
前記湿潤剤が、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール及び尿素からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項6記載のハイドロゲル組成物。
【請求項8】
電解質を更に含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のハイドロゲル組成物。
【請求項9】
界面活性剤を更に含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のハイドロゲル組成物。
【請求項10】
前記薬物が、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸デキサメタゾンナトリウム、メタスルホ安息香酸デキサメタゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム及びリン酸ベタメタゾンナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のハイドロゲル組成物。

【公開番号】特開2007−31296(P2007−31296A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213152(P2005−213152)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】