ハイドロタルサイト系化合物及びその製造方法並びに赤外線吸収剤及び農業用フィルム
【課題】 赤外線の吸収能が大きく、農業用フィルムに有効な赤外線吸収剤を提供する。
【解決手段】 表面が0.1〜10重量%のアニオン系界面活性剤で被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている式(Mg及び/又はZn)a Al2 (縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオン)m-2/n ・nH2 O(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、nはn≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSi及び/又はPが2モル以上である。)で表されるハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする。層間にケイ酸成分及び/又はリン酸成分を多く導入した構造のため、5〜30μmの波長領域の赤外線を高効率で吸収する。
【解決手段】 表面が0.1〜10重量%のアニオン系界面活性剤で被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている式(Mg及び/又はZn)a Al2 (縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオン)m-2/n ・nH2 O(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、nはn≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSi及び/又はPが2モル以上である。)で表されるハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする。層間にケイ酸成分及び/又はリン酸成分を多く導入した構造のため、5〜30μmの波長領域の赤外線を高効率で吸収する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、5〜30μmの波長領域、特に10μm近傍の波長域における赤外線吸収能が高い新規なハイドロタルサイト系化合物及びその製造方法並びにハイドロタルサイト系化合物を含有する赤外線吸収剤さらにはハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする農業用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、合成樹脂製の農業用フィルムを使ったハウス栽培やトンネル栽培等が盛んとなっている。この場合、ハウス内やトンネル内は保温性が高い程、経済的に有利である。そのため、これらに用いられる農業用フィルムは昼間は太陽光線をハウス内やトンネル内に高い透過率で通過させる一方、夜間には地面や植物より放射される赤外線を吸収や反射等により、ハウス外やトンネル外に放出させない特性が要求される。この場合、地面及び植物等から放射される赤外線スペクトルのエネルギー分布は波長5〜30μmの範囲内にある。又、地面及び植物等から放射される赤外線のエネルギー分布は、同じ温度の黒体から放射される分布と近似しており、プランクの黒体放射式によって近似的に表されることが判明している。この黒体の放射エネルギーに関するプランクの法則によると、波長が5〜30μmの範囲の赤外線を放射し、特に、10μmの波長で最大の放射率となる。以上のことから、農業用フィルムの赤外線吸収能を改良させるために、5〜30μmの波長の赤外線領域に吸収能を有した各種無機粉体が使用されている。
【0003】ところで、農業用フィルムに配合し得る赤外線吸収剤として、具体的には、以下の特性が要求されている。
■5〜30μmの波長範囲での赤外線を吸収し、特に放射エネルギーの高い波長10μm近辺の赤外線の吸収率が高いこと。
【0004】■農業用フィルムの昼間の太陽光線の透過性を高く保つため、屈折率が樹脂の屈折率1.45〜1.55前後に近いこと。
【0005】■農業用フィルムに配合した際に、微粒子状で、分散性が良く、機械的強度及び外観透光性を損わないこと。
【0006】以上のような赤外線を吸収する農業用フィルムを製造する従来技術として、炭酸マグネシウム、マグネシウムケイ酸塩、二酸化珪素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、リン酸塩、ケイ酸塩等の無機粉体をフィルムに添加する方法が公知である。
【0007】しかしながら、これらの無機粉体にはそれぞれ一長一短があり、上記諸物性を充分に満足するものは存在しない。例えば、二酸化珪素、マグネシウムケイ酸塩等は前述の特性の一つである赤外線吸収能は優れているものの、屈折率、分散性等に問題があり、結果としてフィルムの透光性が損われるため、農業用フィルムとしては不適切なものであった。
【0008】一方、これらの欠点を補う組成物としてハイドロタルサイト化合物を用いた農業用フィルムに関する技術が特開昭60−104141号公報に開示されている。この従来のハイドロタルサイト系化合物は屈折率が樹脂の屈折率に近いため、農業用フィルムに配合した場合の透明性という点については、優れている。
【0009】しかしながら、ここで用いられているハイドロタルサイト系化合物はケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンの含有量が少なく、しかもこれらがSiO32- 、HPO42- 等の単分子イオンのため、充分な赤外線吸収能を有していない。又、これらのイオンはハイドロタルサイトの骨格構造を形成するM2+1-x M3+(OH)2 のM2+及び/又はM3+と反応してケイ酸塩及び/又はリン酸塩を生成して、強い凝集性を発生させ、樹脂中での分散性を悪くするという問題を有している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の点を考慮してなされたものであり、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンによるハイドロタルサイトの骨格構造の破壊を保護しながら、多くのケイ酸成分やリン酸成分を層間に導入した新規なハイドロタルサイト系化合物を創出した。これにより本発明は、赤外線吸収能に優れたハイドロタルサイト系化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は上記ハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする赤外線吸収能、透明性及び分散性に優れた赤外線吸収剤を提供すること、並びにこの赤外線吸収剤を用いた機械的強度に優れた農業用フィルムを提供することを目的とする。尚、ケイ酸成分やリン酸成分は、10μm附近の赤外線吸収が大きく、農業用フィルムの保温性を高めるためには、必要不可欠の成分である。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らが鋭意研究を行った結果、塩素イオン等のようなハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸等のモノカルボン酸イオンから選択される一種以上の一価の陰イオンを原料として用いた場合に、骨格を破壊せずに、これらのイオンと縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンとのイオン交換ができ、これによりケイ酸成分及び/又はリン酸成分を高い含有率で層間に導入できることを可能としたものである。
【0012】この他に本発明では、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンを含有しない微粒子のハイドロタルサイト類の結晶面を、予めアニオン界面活性剤で被覆することでケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンによる骨格構造の破壊から保護し、次に、縮合したケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンをイオン交換することにより、ケイ酸成分及び/又はリン酸成分を高い含有率で層間に導入することができ、この方が骨格構造の保護の観点から、さらに良好である。
【0013】本発明で提供されるハイドロタルサイト系化合物は、0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている式 (Mg及び/又はZn)a Al2 (縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオン)m-2/m ・bH2 O(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、bはb≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSi及び/又はPが2モル以上である。)で表される。
【0014】本発明のハイドロタルサイト系化合物は、樹脂に練り込んだ際の分散性を考慮すれば、BET比表面積が1〜30m2 /g、平均2次粒子径が0.05〜2μmであることが好ましい。これらの化合物を被覆する好適なアニオン界面活性剤はリン酸エステルである。上述した化学式において、縮合ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンは各種の形態が存在し、しかも分析しても、その形態が明確に判らない部分を有している。本発明においては、これらの縮合イオンはSi及び/又はPとして、Al2 O3 1モルに対して2モル以上導入されていれば良い。
【0015】本発明における縮合ケイ酸イオンとしては、(SiO3 2-)n (nは2以上の数)で表される無限鎖ケイ酸イオン、2号水ガラス、3号水ガラス等を選択することができる。縮合リン酸イオンとしては、(Pn O3n)n-(nは3以上の数)で表される環状ポリリン酸イオン、P3 O93- 等のような〔(PO3 )n 〕n-で表される無限鎖メタリン酸イオン等を選択することができる。これらのイオンはそれぞれ単独に或いは共存していてもかまわない。この場合、縮合ケイ酸を層間に有する本発明のハイドロタルサイト系化合物は粉末X線回折でも、他のハイドロタルサイトと区別され、最大面間隔も10Å以上の値を示している(図11参照)。
【0016】BET比表面積の測定は常法により液体窒素温度の窒素ガスでの吸着より求めることができる。二次粒子の大きさは、粉末試料をエタノール或いはn−ヘキサン等の有機溶媒に加え、超音波で分散後、例えば、電子顕微鏡の試料台の上に、この溶媒を滴下乾燥して顕微鏡観察することにより測定したものである。この場合、電子顕微鏡、光学顕微鏡のいずれの顕微鏡を用いることができる。
【0017】本発明のハイドロタルサイト系化合物は、好ましくは層間にハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸等のモノカルボン酸イオンから選択される少なくとも一種以上の陰イオンを含むハイドロタルサイト系化合物と縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンとをイオン交換反応させることにより製造できる。
【0018】より具体的には、層間のイオンが塩素イオン等のハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸等のモノカルボン酸イオンからなるハイドロタルサイト系化合物は、出発原料を適宜に組み合わせ、選択することにより得ることができる。又、炭酸型ハイドロタルサイト類を所望の酸で処理することによっても得ることができる。
【0019】即ち、ハイドロタルサイト系化合物は水溶性アルミニウム化合物、水溶性マグネシウム化合物を8〜10程度のpHに維持しながら水溶液中で反応させることにより得られる。水溶性アルミニウムとしては、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等が使用できる。水溶性マグネシウム化合物としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム等を使用できる。この場合、1価の陰イオンを含有する水溶液を使用することにより、層間のイオンが1価の陰イオンであるハイドロタルサイト系化合物が直接に得られ、これ以外の場合は、後で酸処理して所望のハイドロタルサイト系化合物を得ることができる。
【0020】尚、上記反応においては、必要に応じてアルカリ、例えば水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等をpH調整剤として使用することができる。
【0021】本発明の新規なハイドロタルサイト系化合物は、上述した1価の陰イオンを有するハイドロタルサイト系化合物を含む液に、水溶性縮合ケイ酸塩及び/又は水溶性縮合リン酸塩等を添加して反応させ、常法により濾過、乾燥させることにより、製造することができる。縮合ケイ酸塩としては、好ましくは1号水ガラス、2号水ガラス、3号水ガラス等の水ガラス等が使用できる。縮合リン酸塩としては、好ましくはトリポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸或いはそれらのアルカリ金属又はアンモニウム塩類等が使用できる。
【0022】これらの反応においては、必要に応じてオートクレーブ等を用いて水熱処理を行なうことで、BET比表面積や二次粒子径を調整することができる。水熱処理温度は105℃から200℃の適宜な温度範囲が選択される。このようにして得られた本発明のハイドロタルサイト系化合物はAl2 O3 1モルに対して、ケイ酸(SiO2 )及び/又はリン酸(HPO3 )を少なくとも2モル以上含有しており、優れた赤外線吸収剤として利用できる。
【0023】以上の本発明のハイドロタルサイト系化合物は単独で、或いは他の添加剤と併用することで、有効な赤外線吸収剤として使用することができる。この場合における他の添加剤は本発明のハイドロタルサイト系化合物の赤外線吸収能に影響しないものであれば、どの添加剤であっても良い。
【0024】本発明の赤外線吸収剤は、樹脂に練り込むことで使用される。この樹脂への練り込みの際には、分散性を向上させるため、アニオン界面活性剤系の表面処理剤と共に用いられる。表面処理剤に用いるアニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル酸ナトリウム、ラウリル酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ステリアン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、リノール酸カリウム等の高級脂肪酸のアルカリ金属塩類、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、リノール酸等の高級脂肪酸類及びそのリン酸エステル類を使用できる。より好ましくは、それ自身が5〜30μmの範囲で赤外線を吸収し、特に10μm付近での吸収が大きく、且つ縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンのハイドロタルサイト骨格構造への導入に際して、反応阻害を行わないリン酸エステルが良好である。
【0025】表面処理剤の添加量は0.1から10重量%の適宜の範囲が選択されるが、好ましくは0.5〜6%の範囲が選択される。0.1%以下ではハイドロタルサイトの骨格構造の保護効果と、樹脂との相溶性を高める効果が不十分であり、10%以上では保護効果が充分であるが、経済的に有利でない。表面処理方法は、常法に従って湿式でも乾式でも容易に行なうことができる。
【0026】本発明の農業用フィルムは以上のハイドロタルサイト系化合物を熱可塑性樹脂に練り込むことにより構成される。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の内のいずれかを選択することができる。この場合、結晶の表面がアニオン界面活性剤で被覆されたハイドロタルサイト系化合物は樹脂への練り込みの際に分散性が向上する。特に、アニオン界面活性剤としてリン酸エステルを用いた場合には、リン酸エステルが自体が効率良く赤外線を吸収するところから、農業用フィルムとしての赤外線吸収能がさらに向上するメリットがある。
【0027】農業用フィルムに対するハイドロタルサイト系化合物の配合比は1〜20重量%である。1重量%未満では、充分に赤外線を吸収することができず、20重量%を越える範囲では、農業用フィルムとしての透光性及び機械的強度が低下するためである。
【0028】本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル及びポリ塩化ビニルと塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸、メタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸樹脂等の他の樹脂との重合体或いは共重合体、さらにエチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1等のオレフィン類の重合体あるいは共重合体、さらにはこれらの樹脂と酢酸ビニル、アクリル等の樹脂との共重合体を選択することができる。
【0029】本発明の農業用フィルムは、必要に応じて各種プラスチック用添加剤、例えば可塑剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、紫外線吸収剤、防曇剤又は染料等を適宜配合しても良い。
【0030】可塑剤は本発明に用いる熱可塑性樹脂の可塑化に使用するものであり、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ソルビトール等の低分子量の多価アルコールが良好である。これらの多価アルコールは又、フィルムの防曇作用を有している。滑剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸及びこれらの脂肪酸の脂肪酸アミド、流動パラフィン等を選択できる。
【0031】熱安定剤としては、ステアリン酸、カプロン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の脂肪酸或いは有機酸及びリン酸系、硫酸系等の無機酸とCa、Ba、Pb、Sn、Zn等の金属との金属塩を使用できる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物、クレゾール類、メラミン、安息香酸等があり、酸化防止剤は、フェノール系、リン系、硫黄系のいずれであっても良い。帯電防止剤としては、ポリオキシエチレン・アルキルアミン、ポリグリコール・エーテル等を使用できる。顔料及び染料は高い光透過性を有するものが良好であるが、特に制限はない。
【0032】紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系或いはサルチル酸エステル系等の公知の紫外線吸収剤を使用できる。防曇剤としては、非イオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤、例えば、ソルビタン、グリセリン等の多価アルコールの脂肪酸エステル及びこれらのアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシアルキレンエーテル等を使用できる。これらのプラスチック用添加剤は1種または2種以上を適宜、選択して配合することができる。その配合量はフィルムの性質を劣化させない範囲であれば、特に制限はない。
【0033】上述したハイドロタルサイト系化合物及びプラスチック用添加剤の樹脂への配合は、これらと熱可塑性樹脂とを秤量してリボンブレンダー、バンバリーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサーその他の混合機に投入し、混合することで行う。そして、この組成物をインフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ加工等の従来より公知の加工を行って、フィルム化することにより、本発明の農業用フィルムとすることができる。
【0034】又、本発明の農業用フィルムはその片面又は両面に他の樹脂層を設けた多層フィルムをしても良い。この多層フィルムは、例えば、ドライラミネーション、ヒートラミネーション等のラミネート法或いはTダイ共押出し、インフレーション共押出し等の適宜の積層手段を用いることで作成することができる。以上のようにして製造される農業用フィルムの厚さは、太陽光を透過する一方、通気性がなく、強度を有し、しかも取扱い性等の観点から10〜300μmの範囲で適宜に選択される。
【0035】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)硫酸アルミニウム(Al2 O3 として18.35重量%)132gを含む水溶液0.8リットル、塩化マグネシウム(MgOとして19.4重量%)184gを含む水溶液1リットル、炭酸ナトリウム21.3gを含む水溶液0.2リットルを撹拌下に0.3リットルの水溶液に添加して反応させた。この時、水酸化ナトリウムを用いて、pH9〜10に調整しながら反応させた。
【0036】さらに、この反応液2リットルをオートクレーブ処理し、5重量%硝酸(モル比 HNO3 /Al2 O3 =2)で酸処理後、ケイ酸ナトリウム(SiO2 として29.2重量%)61gとポリリン酸ナトリウム(Na5 P3 O10として58重量%)125gを含む水溶液1リットルをこの反応液に添加し、30分撹拌することにより、これらの陰イオンを層間に導入し、その後、濾過、洗浄、乾燥して白色の粉末115gを得た。
【0037】上記粉体の組成は、Mg4.4 ・Al2 (Si3 O7 )0.5 (P6 O16)0.5 (OH)12.8・0.3H2 Oであった。得られた粉末100gを水2リットルに懸濁し、リン酸エステル4.2gを加え、撹拌、洗浄、ろ渦、乾燥することにより、表面処理品102gを得た。
【0038】この表面処理品の被覆率は4%、BET比表面積は15.3m2 /gであり、二次粒子径は1.1μであった。XRDによる層間距離は図7に示すように、10.4Åであった。また、この表面処理を行った粉末赤外線吸収スペクトルを日本分光(社)製FT/IR8900で測定した。結果を図1に示す。
【0039】(実施の形態2)硝酸アルミニウム(Al2 O3 として13.3重量%)151gを含む水溶液0.8リットル、硝酸マグネシウム(MgOとして15.6重量%)229gを含む水溶液1リットルを撹拌下に、0.2リットルの水溶液中に添加して反応させた。このとき水酸化ナトリウムを用いて、pH9〜10に調整しながら反応させた。更に、この反応液2リットルをオートクレーブ処理した後、ケイ酸ナトリウム(SiO2 として29.2重量%)122gを含む水溶液1リットルを添加して、30分撹拌することにより、この陰イオンを層間に導入し、その後、ろ過、洗浄、乾燥して白色の粉末101gを得た。
【0040】上記粉体の組成は、Mg4 ・Al2 (Si3 O7 )1.0 (OH)12.8・2H2 Oであった。得られた粉末100gを水2リットルに懸濁し、リン酸エステル2.5gを加え、撹拌、洗浄、ろ渦、乾燥することにより、表面処理品101.8gを得た。
【0041】この表面処理品の被覆率は2.5%、BET比表面積は13.9m2 /gであり、二次粒子径は1.5μであった。XRDによる層間距離は図7に示すように、11.74Åであった。図2はこの実施の形態の粉末赤外線吸収スペクトルである。
【0042】(実施の形態3〜9)表1、表2に示す原料を用い、実施の形態1と同様の処理を行なって、実施の形態3〜9を合成した。この実施の形態3〜9の結果を同表に併記してある。下記の化学式は各実施の形態における表面処理を行う前の粉体の組成である。
Mg4.4 ・Al2 (P6 O16)1.0 (OH)12.8・0.3H2 O…実施の形態3Mg4.3 ・Al2 (Si3 O7 )0.5 (P6 O16)0.5 (OH)12.6・0.4H2 O …実施の形態4Mg4.3 ・Al2 (Si3 O7 )1.0 (OH)12.6・0.5H2 O…実施の形態5Mg4.3 ・Al2 (Si3 O7 )0.33(P6 O16)0.67(OH)12.6・0.3H2 O …実施の形態6Mg4.4 ・Al2 (P12O31)1.0 (OH)12.8・0.5H2 O…実施の形態7Mg4.3 ・Al2 (Si6 O13)0.5 (P12O31)0.5 (OH)12.6・0.8H2 O …実施の形態8Mg4.3 ・Al2 (Si6 O13)1.0 (OH)12.6・0.4H2 O…実施の形態9
【0043】図3は実施の形態3、図4は実施の形態4、図5は実施の形態5、図6は実施の形態6、図7は実施の形態7、図8は実施の形態8、図9は実施の形態9のそれぞれの粉末赤外線吸収スペクトルを示す。又、図11における特性曲線J1〜J6は上述した実施の形態1〜6の粉末X線回折スペクトルを示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】(実施の形態10)硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸亜鉛及び炭酸ナトリウムを水に溶解して得たAl=0.2mol/リットル、Zn=0.2mol/リットル、Mg=0.24mol/リットル、CO3 =0.1mol/リットルの濃度の混合溶液1.5リットルを水酸化ナトリウムでpH9〜10に調整しながら反応させた。
【0047】この反応液1.5リットルをオートクレーブ処理した後、ケイ酸ナトリウム(Si02 として29.2重量%)122gを含む水溶液1リットルを添加して、30分攪拌することにより、ケイ酸イオンを層間に導入し、その後、ろ過、洗浄、乾燥して白色の粉末110gを得た。この粉体の組成は、Mg2.4 Zn2.0 Al2 (Si3 O7 )(0H)12.8・0.2H2 0であった。
【0048】得られた粉末100gを水2リットルに懸濁し、リン酸エステル4.5gを加え、攪拌、洗浄、ろ過、乾燥することにより、表面処理品100.5gを得た。この表面処理品の被覆率は3.2%、BET比表面積は16.4m2 /gであり、二次粒子径は11.5Åであった。この表面処理を行った粉末赤外線吸収スペクトルを図10に示す。
【0049】(実施の形態11)この実施の形態では、ハイドロタルサイト系化合物を用いてフィルムを作成し、その透明性及び保温性を観察した。先ず、ポリエチレン100重量部に上述した実施の形態1で得られたハイドロタルサイト系化合物を5重量部加え、180℃で、Tダイから押出したものを引き延ばして厚さ200μmのフィルムとした。透明性の評価は目視により行なった。その結果、異物もなく透明であった。保温性は赤外線の吸収率より評価した。即ち、得られたフィルムの赤外線吸収を2000cm-1(5μm)から400cm-1(25μm)の波長範囲で測定し、この測定値における20cm-1毎の吸収に黒体の相対放射エネルギーを乗じ、その積の平均値を保温率として評価した。保温効果は保温率が大きいほど高い。測定結果における保温率は57.73%であった。
【0050】次に、実施の形態2、3で得られたハイドロタルサイト系化合物を用い、上述と同様の方法でフィルムを作成し、透明性、保温性を評価した。一方、比較例として特開昭60−104141号公報の実施例1に記載されたハイドロタルサイト類を用い、上述と同様の方法でフィルムを作成し、透明性、保温性を評価した。又、ハイドロタルサイト類を混入しないフィルムについても同様にして評価した。以上の結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】(実施の形態12〜14)平均重合度1050のPVC(ポリ塩化ビニル)100重量部、ジオクチルフタレート50重量部、バリウム亜鉛ステアレート(商品名「M−179」、大日本インキ(株)製)3重量部、ソルビタンモノステアレート0.2重量部からなる樹脂組成物に対して、表4に示すハイドロタルサイト系化合物をそれぞれ5重量%投入し、ヘンシェルミキサで均一に混合した後、ブラベンダーにより170°Cで混練した。この混合物をTダイを用いて、厚さ0.1mmのフィルムとし、保温性テストに供した。
【0053】表4において、樹脂に混合したハイドロタルサイト系化合物を「○」で示してある。同表におけるAはリン酸エステル4重量%の被覆率で表面が被覆された式Mg4.4 ・Al2 (Si3 O7 )0.5 (P6 O16)0.5 (OH)12.8・0.3H2 Oからなるハイドロタルサイト系化合物であり、BET表面積は15.3m2 /g、二次粒子径は1.1μmである。Bはリン酸エステル2.5重量%の被覆率で表面が被覆された式 Mg4 ・Al2 (Si3 O7 )1.0 (OH)12.8・2H2 Oからなるハイドロタルサイト系化合物であり、BET表面積は13.9m2 /g、二次粒子径は1.5μmである。Cはリン酸エステル5重量%の被覆率で表面が被覆された式 Mg4.4 ・Al2 (P6 O16)1.0 (OH)12.8・0.3H2 Oからなるハイドロタルサイト系化合物であり、BET表面積は20.8m2 /g、二次粒子径は1.8μmである。
【0054】保温性テストは以下のようにして行った。直径1.5m,長さ2mのアーチ状トンネルを作製し、それぞれのフィルムで被覆して密封状態とし、内部の気温を測定した。設置場所は富山県上市町であり、トンネル内の中央部、地上50cmの位置で気温を測定した。1994年11月14日〜20日にかけて午後6時から翌朝6時まで1時間毎に測定し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。表4の比較例2はハイドロタルサイト系化合物を使用することなく、上述した樹脂組成物だけでフィルムとしたものである。
【0055】
【表4】
【0056】(実施の形態15〜17)低密度ポリエチレン(商品名「LD−F531」、三菱化成ビニル(社)製)100重量部に表5に示すハイドロタルサイト系化合物をそれぞれ5重量部投入し、ヘンシェルミキサで均一に混合した後、ブラベンダーにより180°Cで混練した。この混合物をTダイを用いて、厚さ0.1mmのフィルムとし、保温性テストに供した。
【0057】保温性テストは上述した実施の形態12〜14と同様の条件で行い、テスト期間も同時期に行った。結果を表5に示す。表5におけるA、B、Cはそれぞれ表4のA、B、Cに対応するハイドロタルサイト系化合物である。比較例3は実施の形態11〜13と同様にハイドロタルサイト系化合物を用いることなく、樹脂だけでフィルムとしたものである。
【0058】
【表5】
【0059】(実施の形態18〜20)酢酸ビニルの含有量が14重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に表6に示すハイドロタルサイト系化合物をそれぞれ5重量部投入し、ヘンシェルミキサーで均一に混合した後、ブラベンダーにより180°Cで混練した。この混合物をTダイを用いて、厚さ0.1mmのフィルムとし、保温性テストに供した。
【0060】保温性テストは上述した実施の形態12〜14と同様の条件で行い、テスト期間も同時期に行った。結果を表6に示す。表6におけるA、B、Cはそれぞれ表4のA、B、Cに対応するハイドロタルサイト系化合物である。比較例4は実施の形態11〜13と同様にハイドロタルサイト系化合物を用いることなく、樹脂だけでフィルムとしたものである。
【0061】
【表6】
【0062】以上の実施の形態12〜20では保温性テストに加えて、フィルムの透明性を目視により検査したところ、いずれのフィルムも透明であり、太陽光が充分透過した。また、実施の形態11〜19の耐候性を富山県上市町で検査した。この耐候性は枠状の試験台に各フィルムを貼り付け、12ケ月太陽光に暴露することにより行った。検査終了後においては、実施の形態12〜20のいずれのフィルムも外観が良好で、伸びも充分であり、透明性も変化がなかった。
【0063】
【発明の効果】本発明のハイドロタルサイト系化合物は、ハイドロタルサイト類の骨格が破壊されることなく、Alに対して2モル以上の縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンを層間に導入した新規な構造とすることができる。又、本発明の製造方法は、このハイドロタルサイト系化合物を良好に製造できる。
【0064】本発明の赤外線吸収剤は上述したケイ酸やリン酸を多く含有するハイドロタルサイト系化合物を有効成分とするものであり、5〜30μmの波長領域で赤外線を吸収し、特に10μm近傍の赤外線を大きく吸収することができる。
【0065】本発明の農業用フィルムは上述した赤外線吸収剤を熱可塑性樹脂に練り込んだものであり、これにより赤外線の吸収能が大きいと共に、透明性を有し、保温性と透光性に優れ、地面や植物から放射される赤外線を効率的に吸収する。このためハウス栽培、トンネル栽培等の温室栽培に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】実施の形態2の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】実施の形態3の赤外線吸収スペクトルである。
【図4】実施の形態4の赤外線吸収スペクトルである。
【図5】実施の形態5の赤外線吸収スペクトルである。
【図6】実施の形態6の赤外線吸収スペクトルである。
【図7】実施の形態7の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施の形態8の赤外線吸収スペクトルである。
【図9】実施の形態9の赤外線吸収スペクトルである。
【図10】実施の形態10の赤外線吸収スペクトルである。
【図11】実施の形態1〜6の粉末X線回折スペクトルである。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、5〜30μmの波長領域、特に10μm近傍の波長域における赤外線吸収能が高い新規なハイドロタルサイト系化合物及びその製造方法並びにハイドロタルサイト系化合物を含有する赤外線吸収剤さらにはハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする農業用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、合成樹脂製の農業用フィルムを使ったハウス栽培やトンネル栽培等が盛んとなっている。この場合、ハウス内やトンネル内は保温性が高い程、経済的に有利である。そのため、これらに用いられる農業用フィルムは昼間は太陽光線をハウス内やトンネル内に高い透過率で通過させる一方、夜間には地面や植物より放射される赤外線を吸収や反射等により、ハウス外やトンネル外に放出させない特性が要求される。この場合、地面及び植物等から放射される赤外線スペクトルのエネルギー分布は波長5〜30μmの範囲内にある。又、地面及び植物等から放射される赤外線のエネルギー分布は、同じ温度の黒体から放射される分布と近似しており、プランクの黒体放射式によって近似的に表されることが判明している。この黒体の放射エネルギーに関するプランクの法則によると、波長が5〜30μmの範囲の赤外線を放射し、特に、10μmの波長で最大の放射率となる。以上のことから、農業用フィルムの赤外線吸収能を改良させるために、5〜30μmの波長の赤外線領域に吸収能を有した各種無機粉体が使用されている。
【0003】ところで、農業用フィルムに配合し得る赤外線吸収剤として、具体的には、以下の特性が要求されている。
【0004】
【0005】
【0006】以上のような赤外線を吸収する農業用フィルムを製造する従来技術として、炭酸マグネシウム、マグネシウムケイ酸塩、二酸化珪素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、リン酸塩、ケイ酸塩等の無機粉体をフィルムに添加する方法が公知である。
【0007】しかしながら、これらの無機粉体にはそれぞれ一長一短があり、上記諸物性を充分に満足するものは存在しない。例えば、二酸化珪素、マグネシウムケイ酸塩等は前述の特性の一つである赤外線吸収能は優れているものの、屈折率、分散性等に問題があり、結果としてフィルムの透光性が損われるため、農業用フィルムとしては不適切なものであった。
【0008】一方、これらの欠点を補う組成物としてハイドロタルサイト化合物を用いた農業用フィルムに関する技術が特開昭60−104141号公報に開示されている。この従来のハイドロタルサイト系化合物は屈折率が樹脂の屈折率に近いため、農業用フィルムに配合した場合の透明性という点については、優れている。
【0009】しかしながら、ここで用いられているハイドロタルサイト系化合物はケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンの含有量が少なく、しかもこれらがSiO32- 、HPO42- 等の単分子イオンのため、充分な赤外線吸収能を有していない。又、これらのイオンはハイドロタルサイトの骨格構造を形成するM2+1-x M3+(OH)2 のM2+及び/又はM3+と反応してケイ酸塩及び/又はリン酸塩を生成して、強い凝集性を発生させ、樹脂中での分散性を悪くするという問題を有している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の点を考慮してなされたものであり、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンによるハイドロタルサイトの骨格構造の破壊を保護しながら、多くのケイ酸成分やリン酸成分を層間に導入した新規なハイドロタルサイト系化合物を創出した。これにより本発明は、赤外線吸収能に優れたハイドロタルサイト系化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は上記ハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする赤外線吸収能、透明性及び分散性に優れた赤外線吸収剤を提供すること、並びにこの赤外線吸収剤を用いた機械的強度に優れた農業用フィルムを提供することを目的とする。尚、ケイ酸成分やリン酸成分は、10μm附近の赤外線吸収が大きく、農業用フィルムの保温性を高めるためには、必要不可欠の成分である。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らが鋭意研究を行った結果、塩素イオン等のようなハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸等のモノカルボン酸イオンから選択される一種以上の一価の陰イオンを原料として用いた場合に、骨格を破壊せずに、これらのイオンと縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンとのイオン交換ができ、これによりケイ酸成分及び/又はリン酸成分を高い含有率で層間に導入できることを可能としたものである。
【0012】この他に本発明では、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンを含有しない微粒子のハイドロタルサイト類の結晶面を、予めアニオン界面活性剤で被覆することでケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンによる骨格構造の破壊から保護し、次に、縮合したケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンをイオン交換することにより、ケイ酸成分及び/又はリン酸成分を高い含有率で層間に導入することができ、この方が骨格構造の保護の観点から、さらに良好である。
【0013】本発明で提供されるハイドロタルサイト系化合物は、0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている式 (Mg及び/又はZn)a Al2 (縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオン)m-2/m ・bH2 O(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、bはb≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSi及び/又はPが2モル以上である。)で表される。
【0014】本発明のハイドロタルサイト系化合物は、樹脂に練り込んだ際の分散性を考慮すれば、BET比表面積が1〜30m2 /g、平均2次粒子径が0.05〜2μmであることが好ましい。これらの化合物を被覆する好適なアニオン界面活性剤はリン酸エステルである。上述した化学式において、縮合ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンは各種の形態が存在し、しかも分析しても、その形態が明確に判らない部分を有している。本発明においては、これらの縮合イオンはSi及び/又はPとして、Al2 O3 1モルに対して2モル以上導入されていれば良い。
【0015】本発明における縮合ケイ酸イオンとしては、(SiO3 2-)n (nは2以上の数)で表される無限鎖ケイ酸イオン、2号水ガラス、3号水ガラス等を選択することができる。縮合リン酸イオンとしては、(Pn O3n)n-(nは3以上の数)で表される環状ポリリン酸イオン、P3 O93- 等のような〔(PO3 )n 〕n-で表される無限鎖メタリン酸イオン等を選択することができる。これらのイオンはそれぞれ単独に或いは共存していてもかまわない。この場合、縮合ケイ酸を層間に有する本発明のハイドロタルサイト系化合物は粉末X線回折でも、他のハイドロタルサイトと区別され、最大面間隔も10Å以上の値を示している(図11参照)。
【0016】BET比表面積の測定は常法により液体窒素温度の窒素ガスでの吸着より求めることができる。二次粒子の大きさは、粉末試料をエタノール或いはn−ヘキサン等の有機溶媒に加え、超音波で分散後、例えば、電子顕微鏡の試料台の上に、この溶媒を滴下乾燥して顕微鏡観察することにより測定したものである。この場合、電子顕微鏡、光学顕微鏡のいずれの顕微鏡を用いることができる。
【0017】本発明のハイドロタルサイト系化合物は、好ましくは層間にハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸等のモノカルボン酸イオンから選択される少なくとも一種以上の陰イオンを含むハイドロタルサイト系化合物と縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンとをイオン交換反応させることにより製造できる。
【0018】より具体的には、層間のイオンが塩素イオン等のハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸等のモノカルボン酸イオンからなるハイドロタルサイト系化合物は、出発原料を適宜に組み合わせ、選択することにより得ることができる。又、炭酸型ハイドロタルサイト類を所望の酸で処理することによっても得ることができる。
【0019】即ち、ハイドロタルサイト系化合物は水溶性アルミニウム化合物、水溶性マグネシウム化合物を8〜10程度のpHに維持しながら水溶液中で反応させることにより得られる。水溶性アルミニウムとしては、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等が使用できる。水溶性マグネシウム化合物としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム等を使用できる。この場合、1価の陰イオンを含有する水溶液を使用することにより、層間のイオンが1価の陰イオンであるハイドロタルサイト系化合物が直接に得られ、これ以外の場合は、後で酸処理して所望のハイドロタルサイト系化合物を得ることができる。
【0020】尚、上記反応においては、必要に応じてアルカリ、例えば水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等をpH調整剤として使用することができる。
【0021】本発明の新規なハイドロタルサイト系化合物は、上述した1価の陰イオンを有するハイドロタルサイト系化合物を含む液に、水溶性縮合ケイ酸塩及び/又は水溶性縮合リン酸塩等を添加して反応させ、常法により濾過、乾燥させることにより、製造することができる。縮合ケイ酸塩としては、好ましくは1号水ガラス、2号水ガラス、3号水ガラス等の水ガラス等が使用できる。縮合リン酸塩としては、好ましくはトリポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸或いはそれらのアルカリ金属又はアンモニウム塩類等が使用できる。
【0022】これらの反応においては、必要に応じてオートクレーブ等を用いて水熱処理を行なうことで、BET比表面積や二次粒子径を調整することができる。水熱処理温度は105℃から200℃の適宜な温度範囲が選択される。このようにして得られた本発明のハイドロタルサイト系化合物はAl2 O3 1モルに対して、ケイ酸(SiO2 )及び/又はリン酸(HPO3 )を少なくとも2モル以上含有しており、優れた赤外線吸収剤として利用できる。
【0023】以上の本発明のハイドロタルサイト系化合物は単独で、或いは他の添加剤と併用することで、有効な赤外線吸収剤として使用することができる。この場合における他の添加剤は本発明のハイドロタルサイト系化合物の赤外線吸収能に影響しないものであれば、どの添加剤であっても良い。
【0024】本発明の赤外線吸収剤は、樹脂に練り込むことで使用される。この樹脂への練り込みの際には、分散性を向上させるため、アニオン界面活性剤系の表面処理剤と共に用いられる。表面処理剤に用いるアニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル酸ナトリウム、ラウリル酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ステリアン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、リノール酸カリウム等の高級脂肪酸のアルカリ金属塩類、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、リノール酸等の高級脂肪酸類及びそのリン酸エステル類を使用できる。より好ましくは、それ自身が5〜30μmの範囲で赤外線を吸収し、特に10μm付近での吸収が大きく、且つ縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンのハイドロタルサイト骨格構造への導入に際して、反応阻害を行わないリン酸エステルが良好である。
【0025】表面処理剤の添加量は0.1から10重量%の適宜の範囲が選択されるが、好ましくは0.5〜6%の範囲が選択される。0.1%以下ではハイドロタルサイトの骨格構造の保護効果と、樹脂との相溶性を高める効果が不十分であり、10%以上では保護効果が充分であるが、経済的に有利でない。表面処理方法は、常法に従って湿式でも乾式でも容易に行なうことができる。
【0026】本発明の農業用フィルムは以上のハイドロタルサイト系化合物を熱可塑性樹脂に練り込むことにより構成される。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の内のいずれかを選択することができる。この場合、結晶の表面がアニオン界面活性剤で被覆されたハイドロタルサイト系化合物は樹脂への練り込みの際に分散性が向上する。特に、アニオン界面活性剤としてリン酸エステルを用いた場合には、リン酸エステルが自体が効率良く赤外線を吸収するところから、農業用フィルムとしての赤外線吸収能がさらに向上するメリットがある。
【0027】農業用フィルムに対するハイドロタルサイト系化合物の配合比は1〜20重量%である。1重量%未満では、充分に赤外線を吸収することができず、20重量%を越える範囲では、農業用フィルムとしての透光性及び機械的強度が低下するためである。
【0028】本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル及びポリ塩化ビニルと塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸、メタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸樹脂等の他の樹脂との重合体或いは共重合体、さらにエチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1等のオレフィン類の重合体あるいは共重合体、さらにはこれらの樹脂と酢酸ビニル、アクリル等の樹脂との共重合体を選択することができる。
【0029】本発明の農業用フィルムは、必要に応じて各種プラスチック用添加剤、例えば可塑剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、紫外線吸収剤、防曇剤又は染料等を適宜配合しても良い。
【0030】可塑剤は本発明に用いる熱可塑性樹脂の可塑化に使用するものであり、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ソルビトール等の低分子量の多価アルコールが良好である。これらの多価アルコールは又、フィルムの防曇作用を有している。滑剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸及びこれらの脂肪酸の脂肪酸アミド、流動パラフィン等を選択できる。
【0031】熱安定剤としては、ステアリン酸、カプロン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の脂肪酸或いは有機酸及びリン酸系、硫酸系等の無機酸とCa、Ba、Pb、Sn、Zn等の金属との金属塩を使用できる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物、クレゾール類、メラミン、安息香酸等があり、酸化防止剤は、フェノール系、リン系、硫黄系のいずれであっても良い。帯電防止剤としては、ポリオキシエチレン・アルキルアミン、ポリグリコール・エーテル等を使用できる。顔料及び染料は高い光透過性を有するものが良好であるが、特に制限はない。
【0032】紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系或いはサルチル酸エステル系等の公知の紫外線吸収剤を使用できる。防曇剤としては、非イオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤、例えば、ソルビタン、グリセリン等の多価アルコールの脂肪酸エステル及びこれらのアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシアルキレンエーテル等を使用できる。これらのプラスチック用添加剤は1種または2種以上を適宜、選択して配合することができる。その配合量はフィルムの性質を劣化させない範囲であれば、特に制限はない。
【0033】上述したハイドロタルサイト系化合物及びプラスチック用添加剤の樹脂への配合は、これらと熱可塑性樹脂とを秤量してリボンブレンダー、バンバリーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサーその他の混合機に投入し、混合することで行う。そして、この組成物をインフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ加工等の従来より公知の加工を行って、フィルム化することにより、本発明の農業用フィルムとすることができる。
【0034】又、本発明の農業用フィルムはその片面又は両面に他の樹脂層を設けた多層フィルムをしても良い。この多層フィルムは、例えば、ドライラミネーション、ヒートラミネーション等のラミネート法或いはTダイ共押出し、インフレーション共押出し等の適宜の積層手段を用いることで作成することができる。以上のようにして製造される農業用フィルムの厚さは、太陽光を透過する一方、通気性がなく、強度を有し、しかも取扱い性等の観点から10〜300μmの範囲で適宜に選択される。
【0035】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)硫酸アルミニウム(Al2 O3 として18.35重量%)132gを含む水溶液0.8リットル、塩化マグネシウム(MgOとして19.4重量%)184gを含む水溶液1リットル、炭酸ナトリウム21.3gを含む水溶液0.2リットルを撹拌下に0.3リットルの水溶液に添加して反応させた。この時、水酸化ナトリウムを用いて、pH9〜10に調整しながら反応させた。
【0036】さらに、この反応液2リットルをオートクレーブ処理し、5重量%硝酸(モル比 HNO3 /Al2 O3 =2)で酸処理後、ケイ酸ナトリウム(SiO2 として29.2重量%)61gとポリリン酸ナトリウム(Na5 P3 O10として58重量%)125gを含む水溶液1リットルをこの反応液に添加し、30分撹拌することにより、これらの陰イオンを層間に導入し、その後、濾過、洗浄、乾燥して白色の粉末115gを得た。
【0037】上記粉体の組成は、Mg4.4 ・Al2 (Si3 O7 )0.5 (P6 O16)0.5 (OH)12.8・0.3H2 Oであった。得られた粉末100gを水2リットルに懸濁し、リン酸エステル4.2gを加え、撹拌、洗浄、ろ渦、乾燥することにより、表面処理品102gを得た。
【0038】この表面処理品の被覆率は4%、BET比表面積は15.3m2 /gであり、二次粒子径は1.1μであった。XRDによる層間距離は図7に示すように、10.4Åであった。また、この表面処理を行った粉末赤外線吸収スペクトルを日本分光(社)製FT/IR8900で測定した。結果を図1に示す。
【0039】(実施の形態2)硝酸アルミニウム(Al2 O3 として13.3重量%)151gを含む水溶液0.8リットル、硝酸マグネシウム(MgOとして15.6重量%)229gを含む水溶液1リットルを撹拌下に、0.2リットルの水溶液中に添加して反応させた。このとき水酸化ナトリウムを用いて、pH9〜10に調整しながら反応させた。更に、この反応液2リットルをオートクレーブ処理した後、ケイ酸ナトリウム(SiO2 として29.2重量%)122gを含む水溶液1リットルを添加して、30分撹拌することにより、この陰イオンを層間に導入し、その後、ろ過、洗浄、乾燥して白色の粉末101gを得た。
【0040】上記粉体の組成は、Mg4 ・Al2 (Si3 O7 )1.0 (OH)12.8・2H2 Oであった。得られた粉末100gを水2リットルに懸濁し、リン酸エステル2.5gを加え、撹拌、洗浄、ろ渦、乾燥することにより、表面処理品101.8gを得た。
【0041】この表面処理品の被覆率は2.5%、BET比表面積は13.9m2 /gであり、二次粒子径は1.5μであった。XRDによる層間距離は図7に示すように、11.74Åであった。図2はこの実施の形態の粉末赤外線吸収スペクトルである。
【0042】(実施の形態3〜9)表1、表2に示す原料を用い、実施の形態1と同様の処理を行なって、実施の形態3〜9を合成した。この実施の形態3〜9の結果を同表に併記してある。下記の化学式は各実施の形態における表面処理を行う前の粉体の組成である。
Mg4.4 ・Al2 (P6 O16)1.0 (OH)12.8・0.3H2 O…実施の形態3Mg4.3 ・Al2 (Si3 O7 )0.5 (P6 O16)0.5 (OH)12.6・0.4H2 O …実施の形態4Mg4.3 ・Al2 (Si3 O7 )1.0 (OH)12.6・0.5H2 O…実施の形態5Mg4.3 ・Al2 (Si3 O7 )0.33(P6 O16)0.67(OH)12.6・0.3H2 O …実施の形態6Mg4.4 ・Al2 (P12O31)1.0 (OH)12.8・0.5H2 O…実施の形態7Mg4.3 ・Al2 (Si6 O13)0.5 (P12O31)0.5 (OH)12.6・0.8H2 O …実施の形態8Mg4.3 ・Al2 (Si6 O13)1.0 (OH)12.6・0.4H2 O…実施の形態9
【0043】図3は実施の形態3、図4は実施の形態4、図5は実施の形態5、図6は実施の形態6、図7は実施の形態7、図8は実施の形態8、図9は実施の形態9のそれぞれの粉末赤外線吸収スペクトルを示す。又、図11における特性曲線J1〜J6は上述した実施の形態1〜6の粉末X線回折スペクトルを示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】(実施の形態10)硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸亜鉛及び炭酸ナトリウムを水に溶解して得たAl=0.2mol/リットル、Zn=0.2mol/リットル、Mg=0.24mol/リットル、CO3 =0.1mol/リットルの濃度の混合溶液1.5リットルを水酸化ナトリウムでpH9〜10に調整しながら反応させた。
【0047】この反応液1.5リットルをオートクレーブ処理した後、ケイ酸ナトリウム(Si02 として29.2重量%)122gを含む水溶液1リットルを添加して、30分攪拌することにより、ケイ酸イオンを層間に導入し、その後、ろ過、洗浄、乾燥して白色の粉末110gを得た。この粉体の組成は、Mg2.4 Zn2.0 Al2 (Si3 O7 )(0H)12.8・0.2H2 0であった。
【0048】得られた粉末100gを水2リットルに懸濁し、リン酸エステル4.5gを加え、攪拌、洗浄、ろ過、乾燥することにより、表面処理品100.5gを得た。この表面処理品の被覆率は3.2%、BET比表面積は16.4m2 /gであり、二次粒子径は11.5Åであった。この表面処理を行った粉末赤外線吸収スペクトルを図10に示す。
【0049】(実施の形態11)この実施の形態では、ハイドロタルサイト系化合物を用いてフィルムを作成し、その透明性及び保温性を観察した。先ず、ポリエチレン100重量部に上述した実施の形態1で得られたハイドロタルサイト系化合物を5重量部加え、180℃で、Tダイから押出したものを引き延ばして厚さ200μmのフィルムとした。透明性の評価は目視により行なった。その結果、異物もなく透明であった。保温性は赤外線の吸収率より評価した。即ち、得られたフィルムの赤外線吸収を2000cm-1(5μm)から400cm-1(25μm)の波長範囲で測定し、この測定値における20cm-1毎の吸収に黒体の相対放射エネルギーを乗じ、その積の平均値を保温率として評価した。保温効果は保温率が大きいほど高い。測定結果における保温率は57.73%であった。
【0050】次に、実施の形態2、3で得られたハイドロタルサイト系化合物を用い、上述と同様の方法でフィルムを作成し、透明性、保温性を評価した。一方、比較例として特開昭60−104141号公報の実施例1に記載されたハイドロタルサイト類を用い、上述と同様の方法でフィルムを作成し、透明性、保温性を評価した。又、ハイドロタルサイト類を混入しないフィルムについても同様にして評価した。以上の結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】(実施の形態12〜14)平均重合度1050のPVC(ポリ塩化ビニル)100重量部、ジオクチルフタレート50重量部、バリウム亜鉛ステアレート(商品名「M−179」、大日本インキ(株)製)3重量部、ソルビタンモノステアレート0.2重量部からなる樹脂組成物に対して、表4に示すハイドロタルサイト系化合物をそれぞれ5重量%投入し、ヘンシェルミキサで均一に混合した後、ブラベンダーにより170°Cで混練した。この混合物をTダイを用いて、厚さ0.1mmのフィルムとし、保温性テストに供した。
【0053】表4において、樹脂に混合したハイドロタルサイト系化合物を「○」で示してある。同表におけるAはリン酸エステル4重量%の被覆率で表面が被覆された式Mg4.4 ・Al2 (Si3 O7 )0.5 (P6 O16)0.5 (OH)12.8・0.3H2 Oからなるハイドロタルサイト系化合物であり、BET表面積は15.3m2 /g、二次粒子径は1.1μmである。Bはリン酸エステル2.5重量%の被覆率で表面が被覆された式 Mg4 ・Al2 (Si3 O7 )1.0 (OH)12.8・2H2 Oからなるハイドロタルサイト系化合物であり、BET表面積は13.9m2 /g、二次粒子径は1.5μmである。Cはリン酸エステル5重量%の被覆率で表面が被覆された式 Mg4.4 ・Al2 (P6 O16)1.0 (OH)12.8・0.3H2 Oからなるハイドロタルサイト系化合物であり、BET表面積は20.8m2 /g、二次粒子径は1.8μmである。
【0054】保温性テストは以下のようにして行った。直径1.5m,長さ2mのアーチ状トンネルを作製し、それぞれのフィルムで被覆して密封状態とし、内部の気温を測定した。設置場所は富山県上市町であり、トンネル内の中央部、地上50cmの位置で気温を測定した。1994年11月14日〜20日にかけて午後6時から翌朝6時まで1時間毎に測定し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。表4の比較例2はハイドロタルサイト系化合物を使用することなく、上述した樹脂組成物だけでフィルムとしたものである。
【0055】
【表4】
【0056】(実施の形態15〜17)低密度ポリエチレン(商品名「LD−F531」、三菱化成ビニル(社)製)100重量部に表5に示すハイドロタルサイト系化合物をそれぞれ5重量部投入し、ヘンシェルミキサで均一に混合した後、ブラベンダーにより180°Cで混練した。この混合物をTダイを用いて、厚さ0.1mmのフィルムとし、保温性テストに供した。
【0057】保温性テストは上述した実施の形態12〜14と同様の条件で行い、テスト期間も同時期に行った。結果を表5に示す。表5におけるA、B、Cはそれぞれ表4のA、B、Cに対応するハイドロタルサイト系化合物である。比較例3は実施の形態11〜13と同様にハイドロタルサイト系化合物を用いることなく、樹脂だけでフィルムとしたものである。
【0058】
【表5】
【0059】(実施の形態18〜20)酢酸ビニルの含有量が14重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に表6に示すハイドロタルサイト系化合物をそれぞれ5重量部投入し、ヘンシェルミキサーで均一に混合した後、ブラベンダーにより180°Cで混練した。この混合物をTダイを用いて、厚さ0.1mmのフィルムとし、保温性テストに供した。
【0060】保温性テストは上述した実施の形態12〜14と同様の条件で行い、テスト期間も同時期に行った。結果を表6に示す。表6におけるA、B、Cはそれぞれ表4のA、B、Cに対応するハイドロタルサイト系化合物である。比較例4は実施の形態11〜13と同様にハイドロタルサイト系化合物を用いることなく、樹脂だけでフィルムとしたものである。
【0061】
【表6】
【0062】以上の実施の形態12〜20では保温性テストに加えて、フィルムの透明性を目視により検査したところ、いずれのフィルムも透明であり、太陽光が充分透過した。また、実施の形態11〜19の耐候性を富山県上市町で検査した。この耐候性は枠状の試験台に各フィルムを貼り付け、12ケ月太陽光に暴露することにより行った。検査終了後においては、実施の形態12〜20のいずれのフィルムも外観が良好で、伸びも充分であり、透明性も変化がなかった。
【0063】
【発明の効果】本発明のハイドロタルサイト系化合物は、ハイドロタルサイト類の骨格が破壊されることなく、Alに対して2モル以上の縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンを層間に導入した新規な構造とすることができる。又、本発明の製造方法は、このハイドロタルサイト系化合物を良好に製造できる。
【0064】本発明の赤外線吸収剤は上述したケイ酸やリン酸を多く含有するハイドロタルサイト系化合物を有効成分とするものであり、5〜30μmの波長領域で赤外線を吸収し、特に10μm近傍の赤外線を大きく吸収することができる。
【0065】本発明の農業用フィルムは上述した赤外線吸収剤を熱可塑性樹脂に練り込んだものであり、これにより赤外線の吸収能が大きいと共に、透明性を有し、保温性と透光性に優れ、地面や植物から放射される赤外線を効率的に吸収する。このためハウス栽培、トンネル栽培等の温室栽培に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】実施の形態2の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】実施の形態3の赤外線吸収スペクトルである。
【図4】実施の形態4の赤外線吸収スペクトルである。
【図5】実施の形態5の赤外線吸収スペクトルである。
【図6】実施の形態6の赤外線吸収スペクトルである。
【図7】実施の形態7の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施の形態8の赤外線吸収スペクトルである。
【図9】実施の形態9の赤外線吸収スペクトルである。
【図10】実施の形態10の赤外線吸収スペクトルである。
【図11】実施の形態1〜6の粉末X線回折スペクトルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている式(1)で表されるハイドロタルサイト系化合物。
(Mg及び/又はZn)a Al2 (縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオン)m-2/m ・bH2 O …式(1)
(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、bはb≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSi及び/又はPが2モル以上である。)
【請求項2】 式(1)において、aは3≦a≦6の範囲であり、粉末X線回折パターンの最大面間隔が10Å以上である請求項1記載のハイドロタルサイト系化合物。
【請求項3】 BET比表面積が1〜30m2 /g,平均2次粒子径が0.05〜2μmである請求項1記載のハイドロタルサイト系化合物。
【請求項4】 アニオン界面活性剤がリン酸エステルである請求項1記載のハイドロタルサイト系化合物。
【請求項5】 層間にハロゲンイオン、硝酸イオン、モノカルボン酸イオンから選択される少なくとも一種以上の陰イオンを含むハイドロタルサイト系化合物と、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンとを反応させることを特徴とするハイドロタルサイト系化合物の製造方法。
【請求項6】 0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている請求項1記載の式(1)で表わされるハイドロタルサイト系化合物を有効成分として含有することを特徴とする赤外線吸収剤。
【請求項7】 0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている請求項1記載の式(1)で表されるハイドロタルサイト系化合物1〜20重量%が熱可塑性樹脂99〜80重量%に配合されていることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項8】 前記熱可塑性樹脂が塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とする請求項7記載の農業用フィルム。
【請求項1】 0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている式(1)で表されるハイドロタルサイト系化合物。
(Mg及び/又はZn)a Al2 (縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオン)m-2/m ・bH2 O …式(1)
(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、bはb≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSi及び/又はPが2モル以上である。)
【請求項2】 式(1)において、aは3≦a≦6の範囲であり、粉末X線回折パターンの最大面間隔が10Å以上である請求項1記載のハイドロタルサイト系化合物。
【請求項3】 BET比表面積が1〜30m2 /g,平均2次粒子径が0.05〜2μmである請求項1記載のハイドロタルサイト系化合物。
【請求項4】 アニオン界面活性剤がリン酸エステルである請求項1記載のハイドロタルサイト系化合物。
【請求項5】 層間にハロゲンイオン、硝酸イオン、モノカルボン酸イオンから選択される少なくとも一種以上の陰イオンを含むハイドロタルサイト系化合物と、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンとを反応させることを特徴とするハイドロタルサイト系化合物の製造方法。
【請求項6】 0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている請求項1記載の式(1)で表わされるハイドロタルサイト系化合物を有効成分として含有することを特徴とする赤外線吸収剤。
【請求項7】 0.1〜10重量%のアニオン界面活性剤により結晶の表面が被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンで主として占められている請求項1記載の式(1)で表されるハイドロタルサイト系化合物1〜20重量%が熱可塑性樹脂99〜80重量%に配合されていることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項8】 前記熱可塑性樹脂が塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とする請求項7記載の農業用フィルム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開平8−217912
【公開日】平成8年(1996)8月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−266236
【出願日】平成7年(1995)9月20日
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【公開日】平成8年(1996)8月27日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)9月20日
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
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