説明

ハイバリア性フィルム

【課題】 積層物を特別に複数種類の物質を特定比で混合したり、用いる基材フィルムを神経質に選択する必要のない、単純に積層していくだけで得られるハイバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】 基材となるプラスチックフィルムの表面に、ポリエステル系の高分子樹脂による第1層と、第2高分子樹脂による第2層と、ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第3層と、第3高分子樹脂による第4層と、をこの記載順に積層し、第2高分子樹脂又は第3高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、また第3層を構成する金属又は金属酸化物が珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、の何れか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物の何れか1つ、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかである構成を有するハイバリア性フィルムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイバリア性フィルムに関するものであって、具体的には、酸素や水蒸気に対してより一層バリア性を高めたハイバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より食品や医薬品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制・防止する性質を有してなることが強く求められている。特に最近の医薬品や食品の中には酸素や水蒸気などにより容易に変質してしまうほど繊細で取扱にも慎重さを要求される物が急増していることより、酸素や水蒸気による変質から内容物を保護することが容易に可能となる包装材料が必要とされている。
【0003】
そこで従来、ガスバリア性フィルムとしてポリ塩化ビニリデンやポリアクリロニトリル等によるプラスチックフィルムを用いていたが、これらのフィルムは廃棄の際に環境有害物を排出してしまうため、環境問題の観点から利用が出来なくなってきている。また、環境問題の観点から言えばポリビニルアルコールによるプラスチックフィルムを用いることが好適であるかのように思われるが、このフィルムであればガスバリア性の湿度依存性が高く、即ち高湿度下ではガスバリア性、特に水蒸気バリア性が著しく、かつ容易に低下してしまうため、利用しにくい物となっていた。
【0004】
一方プラスチックフィルムの表面に酸化珪素や酸化アルミニウム等の無機物を物理的蒸着法又は化学的蒸着法により設けたバリア性フィルムをガスバリア性を有した包装材料として用いており、特に水蒸気バリア性に関して0.1cc/0.1g以下のハイバリア性が要求される物に関してはアルミニウムをその表面に積層してなるフィルムを用いていたが、このようなフィルムは屈曲に対する耐久性に乏しく、蒸着層にクラックが容易に生じるため、バリア性が容易に低下してしまう問題があった。またその他にもプラスチックフィルムとその表面に蒸着した無機物との間の層間密着力が小さいので、容易にこれらが剥離してしまい、やはり実用面で問題があった。またレトルト殺菌などにおける熱水処理時にバリア層にクラックが生じやすく、その結果バリア性は不十分であると言わざるを得なかった。
【0005】
そこで、このような問題に対処すべく様々な提案がなされるようになってきた。例えば特許文献1では、フィルム/SiとMgとZr、Sn、Tiから選ばれた酸化物とによる薄膜、という構成を有する透明バリアー性フィルムに関する発明が、また特許文献2では熱可塑性樹脂基材フィルム/水溶性高分子および無機系層条化合物を主たる構成物としたと膜、という構成を有するガスバリアフィルムに関する発明が、それぞれ開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−120316号公報
【特許文献2】特開平09−111017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたフィルムであれば確かに従来の欠点を解消することが可能かもしれないが、フィルムに積層する薄膜について全く異なる3種類以上の金属および金属酸化物を混合した原材料を用いる必要があり、またその混合比についても効果的な比率が定められていることより、換言すれば単純に任意の物質を積層することもできず、また製造工程も複雑でかつ煩雑なものであるので、実用に供するにはまだ問題点があると言える。
【0008】
また特許文献2では、基材フィルムの塗膜層側表面の窒素と炭素との原子数比が一定でなければならない、とされているが、かようなフィルムを用意するだけでもやはり煩わしい作業が発生してしまうと言わざるを得ず、即ち、特許文献2に記載された発明を実施するためには、その製造工程も複雑でかつ煩雑なものとならざるを得ず、結果として実用に供するにはまだまだ問題点があると言わざるを得ない。
【0009】
さらにこれらの特許文献に記載された発明を検討のために実施してみたところ、透明性を有したものが得られたものの、蒸着により積層したことによると思われる黄色みが目立ってしまい、それ故に印刷を施してもその印刷色が鮮明に得られない、また製造時に熱水処理を施すと基材フィルムと積層物との間で生じる歪みにより、得られた積層フィルムのガスバリア性低下が発生しやすい、という問題も生じてしまっていた。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、積層物を特別に複数種類の物質を特定比で混合したり、用いる基材フィルムを神経質に選択しなければならない、といった煩雑かつ複雑な工程を全く必要としない、単純に積層していくだけで得ることが出来るハイバリア性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、基材となるプラスチックフィルムの表面に、第1高分子樹脂による第1層と、第2高分子樹脂による第2層と、ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第3層と、第3高分子樹脂による第4層と、をこの記載順に積層してなり、前記第2高分子樹脂又は前記第3高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、前記第3層を構成する金属又は金属酸化物が、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミ、インジウム、のいずれか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記第2層又は前記第4層のどちらか一方若しくは双方を硬化させるための硬化触媒を添加すること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記硬化触媒が、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、アルミニウムアセトナート、四塩化錫、ジイソプロポキシビスアセチルアセトナトチタン、ジヒドロキシビスラクタトチタン、のいずれか1つ又は複数であること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、酸素ガスバリア性が0.1cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.2g/m/d以下であること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記第4層の更に表面にプラスチックフィルムをラミネートすることにより第5層を設けてなること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記第5層を構成するプラスチックフィルムが、低密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、のいずれか若しくは複数であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項5又は請求項6に記載のハイバリア性フィルムにおいて、酸素ガスバリア性が0.1cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.1g/m/d以下であること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記ハイバリア性フィルムの光線透過率が80%以上であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記第2層が珪素と酸化珪素の混合物であって、かつSiOxで示される酸化珪素のxが1.2≦x≦1.9であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、従来は酸素ガスバリア性を良好にすることは容易であっても水蒸気バリア性を同時に向上させること、または水蒸気ガスバリア性を良好にすることは容易であっても酸素ガスバリア性を同時に向上させること、は困難であったところ、本願発明に係るハイバリア性フィルムであれば、酸素ガスバリア性と同時に水蒸気ガスバリア性をも向上させることが可能となり、例えば酸素ガスバリア性と同時に水蒸気ガスバリア性も高いレベルで要求される食品や医薬品等の包装材料として好適な素材とすることが出来るようになる。
【0021】
しかも従来の物で同様の目的を達するためには、積層物を構成する物質を慎重に一定比率で混合した後でなければ積層できなかったり、積層体の基材フィルムの選択が複雑であったところ、本願発明にかかるハイバリア性フィルムであれば、単に基材フィルムの表面に積層を行うだけで、酸素ガスバリア性と同時に水蒸気ガスバリア性をも向上させることができるハイバリア性フィルムを得ることが出来るのである。
【0022】
また素材を混合する必要がある場合であっても、同一由来の金属などの材料を混合するだけであり、またその比率についても単純であることより、やはり作業性という観点から見ても格段に利便性の高まった物である、といえるのである。
【0023】
さらにハイバリア性フィルムを構成する物質を選択することによって透明な物とした場合、従来であれば黄色みが出てしまい印刷色が鮮明に出せなかったのに対し、本願発明に係るハイバリア性フィルムであれば、高度な透明性が確保されているので、これに印刷をしても印刷色を鮮明に呈出することが出来るのである。
【0024】
そして基材となるプラスチックフィルムの表面に第1層としてポリエステル系の高分子樹脂を積層することにより、本願発明により得られるハイバリア性フィルムであれば、水がフィルム断面から内部に新入することによる層間密着力の低下、およびそれに伴うガスバリア性の低下、という現象が発生することをよりよく抑制出来るようになるので、本願発明により得られるハイバリア性フィルムを液状の食品や医薬品、その他内容物に液体が存在する場合であっても、十分に高度なガスバリア性を備えたフィルムを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0026】
(実施の形態1)
本願発明に係るハイバリア性フィルムについて、第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係るハイバリア性フィルムは、基材となるプラスチックフィルムの表面に、第1高分子樹脂による第1層と、第2高分子樹脂による第2層と、ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第3層と、第3高分子樹脂による第4層と、をこの記載順に積層した構成を有している。そして第1高分子樹脂がポリエステル系の高分子樹脂であり、第2高分子樹脂又は第3高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、また第3層を構成する金属又は金属酸化物が珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、の何れか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物の何れか1つ、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであることとするが、必ずしもこれらに限定されるものではないことを予め断っておく。
【0027】
以下、順次説明をしていく。
まず基材となるプラスチックフィルムであるが、これは通常ガスバリアフィルムの基材として用いられるフィルムであってよく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ナイロンフィルム、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム、直鎖状低密度ポリエチレン(LLPDE)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、等である。
【0028】
また用いられるフィルムの厚みは5μm以上200μm以下であることが好ましいが、これは5μm以下であると後述する積層工程を施す際に行われる種々の処理に耐えられずに破損する可能性が高いからであり、200μm以上であると実際に得られるフィルムの可撓性が乏しいものとなってしまい、ひいては包装材料として不適なものとなってしまうからである。尚、本実施の形態では12μmの厚みを有するPETフィルムであるものとするが、必ずしもこれに限定されるものではないことを断っておく。
【0029】
次にこのPETフィルムの表面に第1高分子樹脂による第1層を積層し、さらにその表面に第2高分子樹脂による第2層を積層する。個々では説明の都合上、先に第2層について説明する。
【0030】
この第2層については上述の通り特段限定されるものではないが、最も好適であるのは、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂である。
【0031】
この第2層を設ける理由は以下の通りである。
従来のガスバリアフィルムでは基材フィルム表面に直接金属又は金属酸化物による層を積層していたところ、得られたものを実際に使用するに際して、また積層後さらに加工処理を施している最中に、基材フィルムと金属層との層間密着力が小さいためにこれが容易に剥離してしまい、その結果好適なガスバリアフィルムが製造できない、また使用中にガスバリア性が低下してしまう、といった問題が生じていたのであるが、この第2層を設けることにより後述の第3層を積層する場合、その積層を緻密なものとすることが可能となり、また第2層がいわゆる接着剤のような働きをして基材フィルムと第3層とが容易に剥離することを防止することが出来るようになるので、この第2層を設けるのである。さらにこの第2層自身にもガスバリア性が備わっておれば、より一層全体としてのガスバリア性向上に寄与することが可能となり、ガスバリア性を備えた第2層および第3層を積層することでハイバリア性を実現することが可能となるのである。さらに後述の第4層をも積層すれば、より一層のハイバリア性を実現することが容易に可能となるのである。
【0032】
そしてこのような目的に適した素材とするべく、高分子樹脂にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合したものを用いるのであり、以下の本実施の形態においてはこれを用いたものとして説明を続ける。尚、この第2層を積層する手法は従来公知の手法であって構わないが、本実施の形態においてはコーティング法を用いるものとし、またその積層厚みは0.2μmであることとする。ちなみにこの第2層の厚みは0.03μm以上1μm以下であることが好ましいが、これは0.03μm以下であると上述した効果が得られにくくなり、また1μm以上とすると、本実施の形態により得られるハイバリア性フィルム全体の厚みが増えてしまい、可撓性が欠けた物となり、その結果包装材料としては好適ではなくなるからである。
【0033】
このようにしてPETフィルム表面にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂による第1層を積層したら、これを硬化させるのであるが、その手法は従来公知のものであって構わない。しかしここで硬化触媒を添加することによりその硬化を促進させることも考えられる。
【0034】
ここで用いられる硬化触媒も従来公知のものであって構わないが、用いる硬化触媒を例えば、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、アルミニウムアセトナート、四塩化錫、ジイソプロポキシビスアセチルアセトナトチタン、ジヒドロキシビスラクタトチタン、のいずれか1つ又は複数であること、とすれば、効果的にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂が硬化することとなり、後述する目的に応じて大変好適なものとすることが出来る。なお、添加量に関しては効果的な量を適宜選択、決定すればよい。
【0035】
さて、このようにして第1層の表面に第2層が積層、硬化されるわけであるが、本来であれば、基材となるPETフィルムの表面に直接第2層を積層することも考えられる。このように積層しても、十分に、本来の本願発明の目的であるハイバリア性を実現することは可能ではあるが、PETフィルムの表面に直接第2層、本実施の形態であればエポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂を積層した場合、例えば内容物が電子部品や十分に乾燥した食品、医薬品等であれば、それらを酸素や水蒸気による劣化を防止するために用いても問題はないが、内容物が液体である物、例えばスープなどの液体食品、液体状の医薬品、又は液体につけ込まれた食品、等を酸素や水蒸気による劣化から防止するためにはこれだけでは十分に本来の目的を達することができない可能性がある。
【0036】
これは、積層フィルムの断面部分から水分が積層フィルムを構成してなる各層の隙間に侵入することがあり、その場合、侵入した水分が層間密着力を弱めてしまうのである。そしてこのような状態になった場合、層間剥離が容易に生じてしまうのである。
【0037】
本実施の形態の場合、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂による層と後述の第3層との間であれば水分が侵入する余地はなく、また侵入したとしても両者の間に存在する層間密着力を弱めるには至らないので、この部分に関して層間剥離が生じる可能性はほぼ無いが、PETフィルムの表面にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂による層を直接積層した場合、これらの隙間に水分が侵入してしまう可能性は十分にあり、そして水分が侵入してしまうとこの部分において層間剥離が生じ、ひいては当初有していたハイバリア性が失われてしまうのである。
【0038】
そこでこのような現象が生じることを抑制するために、PETフィルムの表面に第2層を積層する前に、第1高分子樹脂による第1層を積層してしまうのである。この第1層に用いる第1高分子樹脂としては上記目的を達することが出来る物であればよいが、広くその物性、特性が知られ、また扱いやすいポリエステル系樹脂を用いると、例え液体状の物質を包装するための包装材料として本実施の形態に係るハイバリア性フィルムを用いても、内容物の水分に由来する層間剥離が生じることがなく、即ちハイバリア性を維持することが出来るのである。
【0039】
このポリエステル系高分子樹脂による第1層は、PETフィルムの表面に従来公知の手法で積層されればよい。また第1層の厚みとしては0.01μm以上2μm以下であることが好ましいが、これは0.01μm以下であると上述した第1層を積層する目的を達することが出来ず、また2μm以上であると得られるハイバリア性フィルム全体の可撓性が不適なものとなってしまうからである。
【0040】
以上のようにして、PETフィルム表面に、第1層としてポリエステル系高分子樹脂を、第1層の表面にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂による第2層を積層、硬化したら、その表面にはガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第3層を積層する。
【0041】
ここで用いる金属又は金属化合物としては前述の通り、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、の何れか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物の何れか1つ、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであることが好適であるが、ここでは珪素と酸化珪素とを組み合わせた混合物を用いることとする。珪素と酸化珪素を組み合わせて用いるということは、従来広く行われていたことであるが、それ故にこれによる層をどのように設けるとどのようにガスバリア性を効果的に付与することができるかが公知な物質であると言え、即ち広い意味で利用しやすいからであると言えるのである。
【0042】
また後述するが、珪素と酸化珪素との混合物により得られる層は基本的には透明であり、そして本実施の形態に係るハイバリア性フィルムに用いる物質を全て基本的に透明なものを用いれば、本実施の形態により得られるハイバリア性フィルム全体も透明なものとなり、かようなハイバリア性フィルムを包装材料として用いれば内容物も容易に視認可能となるので、単にガスから内容物を保護するだけではなく、内容物の状態も視認できる、という利点が生じるので、珪素と酸化珪素との混合物を用いることはこの点において有利であると言える。
【0043】
尚、ここで用いる酸化珪素はSiOxで示した場合、酸化珪素のxが1.2≦x≦1.9であることが好ましい。
【0044】
珪素と酸化珪素との混合物を積層する場合、その積層手法は従来公知のものであってよいが、本実施の形態ではスパッタリング法によるものであることとするが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0045】
またこの第3層の厚みについては、0.03μm以上2μm以下であることが好ましい。これは、0.03μm以下であると第3層自身が発揮すべきガスバリア性が不十分なものとなってしまい、また2μm以上であると得られるハイバリア性フィルム全体の可撓性が乏しくなってしまうからである。尚、本実施の形態においてはこの厚みは200Åであるものとする。
【0046】
このようにして第3層を積層すると、次にその表面に第4層を積層する。
この第4層については、第2層と同様に高分子樹脂によるものであってよく、さらにはガスバリア性を有した高分子樹脂であればより好ましい。そしてこのような目的を達する高分子樹脂は種々考えられるが、第2層と同一の材料により第4層を積層することとすれば、製造過程においても同一物質を利用することでその作業が容易な物とすることができ、さらに得られたハイバリア性フィルムの物性を安定させるためにも、出来るだけ構成する物質の種類は少ない方が好ましいといえるので、本実施の形態においては、第1層と同一の材料である、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂を用いたものとする。そしてこの第4層を積層することにより、より一層ガスバリア性を向上させることが出来るのである。
【0047】
なお、この第4層に対しても、第2層に関する箇所で説明したように、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂の硬化を促進するために、同様の硬化触媒を添加することが考えられる。詳細については先述と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0048】
そしてこの第4層の厚みは0.03μm以上2μm以下であることが好ましいが、これは0.03μm以下であるとガスバリア性向上という目的を達することが出来ず、また2μm以上とするとフィルム全体の可撓性が乏しくなるからである。尚、本実施の形態においてはこの厚みは200Åであるものとする。
【0049】
このようにして本実施の形態に係るハイバリア性フィルムを得ることが出来るんどえあるが、得られたハイバリア性フィルムであれば、従来のものに比して、単純な積層工程を経るだけで酸素ガスバリア性と水蒸気ガスバリア性とを同時に好適なものとすることが出来るようになる。そして前述したようにして得られるハイバリア性フィルムの目標とすべきガスバリア性に関する物性値としては、酸素ガスバリア性が0.1cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.2g/m/d以下であるが、これらの数値を満足させることが出来れば、それは即ち従来品に比べて高いガスバリア性を有したハイバリア性フィルムであると言える。
【0050】
また上記説明でもふれたが、基材フィルム、第1層、第2層、第3層、第4層の全てが透明性を有していれば、全体としても透明なハイバリア性フィルムとすることが出来るが、その際の光線透過率が80%以上となれば、いわゆる透明性の高い、かつ包装材料として利用可能なハイバリア性フィルムとすることが出来る。そして本実施の形態のように、PETフィルム/エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂/珪素+酸化珪素(又は酸化珪素)/エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂、という構成であって、なおかつ各層の厚みが前述した一定範囲内のものとすれば、この光線透過率に関する条件もクリアしやすくなることを加えておく。
【0051】
(実施の形態2)
次に第2の実施の形態として、第1の実施の形態に比べてさらに酸素バリア性と水蒸気バリア性とを向上させたハイバリア性フィルムに関して説明をする。尚、第1の実施の形態と同様の物に関してはその説明を省略する。
【0052】
この第2の実施の形態に係るハイバリア性フィルムは、第1の実施の形態に係るハイバリア性フィルムの構成において、第4層の更に表面に第5層としてプラスチックフィルムをラミネートすることにより得られるものである。
【0053】
このプラスチックフィルムとして利用可能なものは種々考えられるが、例えば低密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、等が考えられる。そして本実施の形態においては、低密度ポリエチレンフィルムを用いることとする。
【0054】
低密度ポリエチレンフィルムが好適な理由は、このフィルムであると、比較的広範囲な目的に応じて効果を発揮するからである。尚、その厚みとしては特段制限されるものではなく、やはり目的に応じて選択すればよいが、その際に得られるハイバリア性フィルムの可撓性が不十分なものとなってしまい好適な包装材料とすることが出来なくなることのないように、またフィルム自体のガスバリア性が不十分となってしまうため、これをラミネートすることによりさらに酸素バリア性と水蒸気ガスバリア性とを同時に向上させる、という目的に不適なものとなってしまうことのないように注意をする必要がある。
【0055】
ラミネートの手法についてはドライラミネート法、押出しラミネート法等のような従来公知のものであってよいが、本実施の形態においては、ドライラミネート法であることとする。
【0056】
このようにして得られる本実施の形態に係るハイバリア性フィルムの目標とすべきガスバリア性に関する物性値としては、酸素ガスバリア性が0.1cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.1g/m/d以下であるが、これらの数値を満足させることが出来れば、低密度ポリエチレンフィルムの利用に限定されるものではなく、これ以外のフィルムをラミネートしても構わない。尚、本実施の形態にかかる構成、即ちPETフィルム/エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂/珪素+酸化珪素(又は酸化珪素)/エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂/低密度ポリエチレンフィルム、という構成にした場合でも上記物性値を満足しているが、さらにこれを125℃で30分間の熱水処理を施した後の酸素ガスバリア性は、酸素ガスバリア性が0.5cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.5g/m/d以下となる。即ち、いわゆる熱水処理を施した後であっても一定レベルのガスバリア性を維持可能である、と言える。
【0057】
また得られた本実施の形態に係るハイバリア性フィルムの光線透過率についても第1の実施の形態と同様であってよいことを加えておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となるプラスチックフィルムの表面に、
第1高分子樹脂による第1層と、
第2高分子樹脂による第2層と、
ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第3層と、
第3高分子樹脂による第4層と、
をこの記載順に積層してなり、
前記第2高分子樹脂又は前記第3高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、
前記第3層を構成する金属又は金属酸化物が、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミ、インジウム、のいずれか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記第2層又は前記第4層のどちらか一方若しくは双方を硬化させるための硬化触媒を添加すること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項3】
請求項2に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記硬化触媒が、
鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、アルミニウムアセトナート、四塩化錫、ジイソプロポキシビスアセチルアセトナトチタン、ジヒドロキシビスラクタトチタン、のいずれか1つ又は複数であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
酸素ガスバリア性が0.1cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.2g/m/d以下であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記第4層の更に表面にプラスチックフィルムをラミネートすることにより第5層を設けてなること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記第5層を構成するプラスチックフィルムが、低密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、のいずれか若しくは複数であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
酸素ガスバリア性が0.1cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.1g/m/d以下であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記ハイバリア性フィルムの光線透過率が80%以上であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記第2層が珪素と酸化珪素の混合物であって、かつSiOxで示される酸化珪素のxが1.2≦x≦1.9であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。

【公開番号】特開2006−321087(P2006−321087A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145187(P2005−145187)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】