説明

ハイバリア性フィルム

【課題】積層物を複数種類の物質を特定比で混合したり、用いる基材フィルムを神経質に選択する必要のない、単純に積層していくだけで得られるハイバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】基材の表面に、第1高分子樹脂による第1層と、ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第2層と、第2高分子樹脂による第3層と、を積層してなり、基材が剥離可能に積層された2枚以上のプラスチックフィルムよりなり、第1高分子樹脂又は第2高分子樹脂の何れか一方若しくは双方がエポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、第2層を構成する金属又は金属酸化物が珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミ、インジウム、のいずれか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかである、という構成を有するハイバリア性フィルムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイバリア性フィルムに関するものであって、具体的には、酸素や水蒸気に対してより一層バリア性を高めたハイバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より精密機械器具の一部には、外部からの湿気や酸素に晒されないように処理されている箇所があるが、そのような場所に対していわゆるガスバリア性を備えた部材を用いて湿気や酸素から保護することが行われている。例えば液晶表示装置における基板などに関してはガスバリア性が求められることがあり、その箇所にいわゆるガスバリアフィルムを用いる事でガスバリア性を付与することが行われている。
【0003】
そこで従来、ガスバリア性フィルムとしてポリ塩化ビニリデンやポリアクリロニトリル等によるプラスチックフィルムを用いていたが、これらのフィルムは廃棄の際に環境有害物を排出してしまうため、環境問題の観点から利用が出来なくなってきている。また、環境問題の観点から言えばポリビニルアルコールによるプラスチックフィルムを用いることが好適であるかのように思われるが、このフィルムであればガスバリア性の湿度依存性が高く、即ち高湿度下ではガスバリア性、特に水蒸気バリア性が著しく、かつ容易に低下してしまうため、利用しにくい物となっていた。
【0004】
一方プラスチックフィルムの表面に酸化珪素や酸化アルミニウム等の無機物を物理的蒸着法又は化学的蒸着法により設けたバリア性フィルムをガスバリア性を有した包装材料として用いていたが、このようなフィルムは屈曲に対する耐久性に乏しく、蒸着層にクラックが容易に生じるため、バリア性が容易に低下してしまう問題があった。またその他にもプラスチックフィルムとその表面に蒸着した無機物との間の層間密着力が小さいので、容易にこれらが剥離してしまい、やはり実用面で問題があった。そしてこれらのようなフィルムでは、前述した精密機械器具の軽薄短小化に関する要求にともない、ガスバリアフィルム自体が極薄であることが望まれるようになってきているが、従来のものであればガスバリアフィルムを薄くするのにも限界があった。
【0005】
そこで、このような問題に対処すべく様々な提案がなされるようになってきた。例えば特許文献1では、フィルム/SiとMgとZr、Sn、Tiから選ばれた酸化物とによる薄膜、という構成を有する透明バリアー性フィルムに関する発明が、また特許文献2では熱可塑性樹脂基材フィルム/水溶性高分子および無機系層条化合物を主たる構成物としたと膜、という構成を有するガスバリアフィルムに関する発明が、それぞれ開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−120316号公報
【特許文献2】特開平09−111017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたフィルムであれば確かに従来の欠点を解消することが可能かもしれないが、フィルムに積層する薄膜について全く異なる3種類以上の金属および金属酸化物を混合した原材料を用いる必要があり、またその混合比についても効果的な比率が定められていることより、換言すれば単純に任意の物質を積層することもできず、また製造工程も複雑でかつ煩雑なものであり、実用に供するにはまだ問題点があると言える。
【0008】
また特許文献2では、基材フィルムの塗膜層側表面の窒素と炭素との原子数比が一定でなければならない、とされているが、かようなフィルムを用意するだけでもやはり煩わしい作業が発生してしまうと言わざるを得ず、即ち、特許文献2に記載された発明を実施するためには、その製造工程も複雑でかつ煩雑なものとならざるを得ず、結果として実用に供するにはまだまだ問題点があると言わざるを得ない。
【0009】
これらの特許文献に記載された発明を検討のために実施してみたところ、とにかく所望の薄さまで極薄化するのにも限界があった。即ちこれら特許文献に記載されたものであれば、昨今の精密機械器具に用いることが困難であった。
尚、ここまで精密機械器具に用いることを中心に説明をしたが、これ以外の場合、即ちガスバリアフィルムを貼付することにより所望の箇所にガスバリア性を付与しようとした場合であっても、そのガスバリアフィルムの厚さが極薄であることが望まれるような場所に関しては従来のものでは用いることが困難であった。
【0010】
つまり、これら特許文献に記載されたものや、従来からあるガスバリア性を高めたフィルムの厚みを薄くしようとしてもある一定の薄さにまでしか出来ず、極薄のフィルムを得られずに問題であった。これは基材に一定の厚みがないと、製造過程において発生する負荷に基材が耐えられることが出来ず、つまり、例えば製造過程において加熱処理を施そうにも基材が薄すぎると容易にこれが破断、破損してしまい、またガスバリア性を高めようとすると、普通のガスバリア性フィルムを製造する場合に比すると、より種々の処理を施されるものであり、それらの数多い処理に耐えられるだけの厚みが基材フィルムに必要であり、それが故に、薄いガスバリア性フィルムを得ようとしても薄くするのには限界があったのである。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、積層物を特別に複数種類の物質を特定比で混合したり、用いる基材フィルムを神経質に選択しなければならない、といった煩雑かつ複雑な工程を全く必要としない、単純に積層していくだけで得ることが出来るハイバリア性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、基材の表面に、第1高分子樹脂による第1層と、ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第2層と、第2高分子樹脂による第3層と、をこの記載順に積層してなり、前記基材が2枚以上のプラスチックフィルムよりなるものであり、なおかつ前記複数のプラスチックフィルムが剥離可能な状態で積層されたものであり、前記第1高分子樹脂又は前記第2高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、前記第2層を構成する金属又は金属酸化物が、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミ、インジウム、のいずれか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記複数のプラスチックフィルムの合計厚みが50μm以下であり、なおかつ前記複数のプラスチックフィルムの中の1枚の厚みが3μm以上であること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記基材と前記第1層との間に、ポリエステル系高分子樹脂による第4層が積層されてなること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、酸素ガスバリア性が0.4cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.4g/m/d以下であること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記第3層の更に表面にプラスチックフィルムをラミネートすることにより第5層を設けてなること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記ハイバリア性フィルムの光線透過率が80%以上であること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、前記第2層が珪素と酸化珪素の混合物であって、かつSiOxで示される酸化珪素のxが1.2≦x≦1.9であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、従来は酸素ガスバリア性を良好にすることは容易であっても水蒸気バリア性を同時に向上させること、または水蒸気ガスバリア性を良好にすることは容易であっても酸素ガスバリア性を同時に向上させること、は困難であったところ、本願発明に係るハイバリア性フィルムであれば、酸素ガスバリア性と同時に水蒸気ガスバリア性をも向上させることが可能となり、例えば酸素ガスバリア性と同時に水蒸気ガスバリア性も高いレベルで要求される食品や医薬品、電子部材等の包装材料として好適な素材とすることが出来るようになる。
【0020】
しかも従来の物で同様の目的を達するためには、積層物を構成する物質を慎重に一定比率で混合した後でなければ積層できなかったり、積層体の基材フィルムの選択が複雑であったところ、本願発明にかかるハイバリア性フィルムであれば、単に基材フィルムの表面に積層を行うだけで、酸素ガスバリア性と同時に水蒸気ガスバリア性をも向上させることができるハイバリア性フィルムを得ることが出来るのである。
【0021】
また素材を混合する必要がある場合であっても、同一由来の金属などの材料を混合するだけであり、またその比率についても単純であることより、やはり作業性という観点から見ても格段に利便性の高まった物である、といえるのである。
【0022】
さらにハイバリア性フィルムを構成する物質を選択することによって透明な物とした場合、従来であれば黄色みが出てしまい印刷色が鮮明に出せなかったのに対し、本願発明に係るハイバリア性フィルムであれば、高度な透明性が確保されているので、これに印刷をしても印刷色を鮮明に呈出することが出来るのである。
【0023】
そして基材となるプラスチックフィルムが複数枚からなり、かつこれらが剥離可能であるものとしたことにより、例えばこれら複数のプラスチックフィルムを積層した状態のままでその表面に種々の物質を積層してハイバリア性フィルムを製造し、その製造過程が全て完了した後に基材となる複数のプラスチックフィルムを剥離してしまうことで、結果として極薄の基材の表面に種々の物質が積層された構成を有する極薄のハイバリア性フィルムを得ることが可能となる。この場合、基材を剥離するのは積層工程完了直後であってもよいし、積層工程完了後も剥離せずに実際に利用する場所まで運んだ後、実際に利用する直前にこれを剥離する、即ちあたかも保護フィルムが貼付されているかのような利用の仕方も考えられるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
本願発明に係るハイバリア性フィルムについて、第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係るハイバリア性フィルムは、基材の表面に、第1高分子樹脂による第1層と、ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第2層と、第2高分子樹脂による第3層と、をこの記載順に積層してなり、基材が2枚以上のプラスチックフィルムよりなるものであり、なおかつ前記複数のプラスチックフィルムが剥離可能な状態で積層されたものであり、第1高分子樹脂又は第2高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、第2層を構成する金属又は金属酸化物が、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミ、インジウム、のいずれか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかである、という構成を有するものであるとするが、構成部材については必ずしもこれらに限定されるものではないことを予め断っておく。
【0026】
以下、順次説明をしていく。
まず基材としては、複数のプラスチックフィルムを積層したものを用いるのであるが、これは通常ガスバリアフィルムの基材として用いられているフィルムであればよく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等である。
【0027】
そして本実施の形態においては、プラスチックフィルムを複数枚積層し、なおかつこれらが剥離可能である物としているが、その理由は以下の通りである。
【0028】
通常プラスチックフィルムの表面に種々の物質を種々の手法により積層する場合、その工程に耐えられるだけの厚みが必要であり、一般的には12μm程度以上の厚みが必要であるとされている。換言するならば、12μm未満、たとえば3μm程度のプラスチックフィルム表面に対して蒸着法により金属酸化物を積層しようとしても、蒸着工程で生じる電圧等の物理的な外圧にプラスチックフィルムが耐えられず破損してしまい、その結果、この厚みのプラスチックフィルムを基材とした積層フィルムを製造できなかった。
【0029】
しかし別な見方をすれば、積層工程を実施する場合に、見かけ上であっても一定以上の厚みを基材が有していれば積層することが可能であることがわかったので、本実施の形態においては複数のプラスチックフィルムを後に剥離することが可能な状態で積層しておき、この複数枚が積層された状態のプラスチックフィルムの表面に対して、後述する種々の処理を施すこととしたのである。
【0030】
そして最終的には複数枚が積層された状態のプラスチックフィルムの最表面に位置するプラスチックフィルムの表面に種々の物質が積層された後に、積層物を有する最表面のプラスチックフィルムから他のプラスチックフィルムを剥離することにより、結果として極薄の、つまりは従来は直接積層することが不可能であるとされていた薄さのプラスチックフィルムであっても、そこにガスバリア性を有する物質を積層することにより、極薄のガスバリア性フィルムを得ることが出来るのである。そして後述する本実施の形態のようにして積層工程を実行すれば、極薄であるにもかかわらず高度なバリア性を発揮しうる極薄のハイバリア性フィルムを得ることが出来るのである。
【0031】
尚ここでは基材としてプラスチックフィルムを剥離可能に積層する、としたが、たとえば複数のプラスチックフィルムの合計厚みが50μm以下であり、なおかつ複数のプラスチックフィルムのうち最表面に位置する、即ち種々の物質が積層されるプラスチックフィルムの厚みが3μm以上ある、とすることが考えられる。
【0032】
例えば、1枚が3μmの厚みを有するPETフィルム、もう1枚が25μmの厚みを有するPETフィルムであり、これらが剥離可能に積層されてなり、3μmの厚みのPETフィルムの表面に種々積層をしていき、最終的に積層工程が完了した後に25μmの厚みのPETフィルムを剥離すれば、結果として、3μmの厚みのPETフィルムを基材としたハイバリア性フィルムとすることが出来るのである。
【0033】
尚、本実施の形態では、このように用いる複数のプラスチックフィルムとして上述のようにPETフィルムを用いることとするが、これはその物性や特性が広く用いられていること、即ち扱いやすく、また入手しやすい、ということによるものであり、必ずしもこれに限定されるものではない。ちなみに、積層する複数のプラスチックフィルムを全て異なる種類のものとすることも考えられ、また極薄のプラスチックフィルムを例えば一定の厚いを有するガラス板等に積層したものを基材として積層工程を実施し、最後にガラスからフィルムを剥離することにより極薄のものを得る、という手法も考えられるが、作業の容易性を考えた場合、同種のプラスチックフィルムを積層していくことが好ましいのである。
【0034】
さて、このように基材を用意すると、その表面に第1高分子樹脂による第1層を積層する。この第1層については上述の通り特段限定されるものではないが、最も好適であるのは、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂である。
【0035】
この第1層を設ける理由は以下の通りである。
従来のガスバリアフィルムでは基材フィルム表面に直接金属又は金属酸化物による層を積層していたところ、得られたものを実際に使用するに際して、また積層後さらに加工処理を施している最中に、基材フィルムと金属層との層間密着力が小さいためにこれが容易に剥離してしまい、その結果好適なガスバリアフィルムが製造できない、また使用中にガスバリア性が低下してしまう、といった問題が生じていたのであるが、この第1層を設けることにより後述の第2層を積層する場合、その積層を緻密なものとすることが可能となり、また第1層がいわゆる接着剤のような働きをして基材フィルムと第2層とが容易に剥離することを防止することが出来るようになるので、この第1層を設けるのである。さらにこの第1層自身にもガスバリア性が備わっておれば、より一層全体としてのガスバリア性向上に寄与することが可能となり、ガスバリア性を備えた第1層および第2層を積層することでハイバリア性を実現することが可能となるのである。さらに後述の第3層をも積層すれば、より一層のハイバリア性を実現することが容易に可能となるのである。
【0036】
そしてこのような目的に適した素材とするべく、高分子樹脂にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合したものを用いるのであり、以下の本実施の形態においてはこれを用いたものとして説明を続ける。尚、この第1層を積層する手法は従来公知の手法であって構わないが、本実施の形態においてはコーティング法を用いるものとし、またその積層厚みは0.2μmであることとする。ちなみにこの第1層の厚みは0.03μm以上1μm以下であることが好ましいが、これは0.03μm以下であると上述した効果が得られにくくなり、また1μm以上とすると、本実施の形態により得られるハイバリア性フィルム全体の厚みが増えてしまい、可撓性が欠けた物となり、その結果包装材料としては好適ではなくなるからである。
【0037】
このようにしてPETフィルム表面にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂による第1層を積層したら、その表面にはガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第2層を積層する。
【0038】
ここで用いる金属又は金属化合物としては前述の通り、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、の何れか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物の何れか1つ、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであることが好適であるが、ここでは珪素と酸化珪素とを組み合わせた混合物を用いることとする。珪素と酸化珪素を組み合わせて用いるということは、従来広く行われていたことであるが、それ故にこれによる層をどのように設けるとどのようにガスバリア性を効果的に付与することができるかが公知な物質であると言え、即ち広い意味で利用しやすいからであると言えるのである。
【0039】
また後述するが、珪素と酸化珪素との混合物により得られる層は基本的には透明であり、そして本実施の形態に係るハイバリア性フィルムに用いる物質を全て基本的に透明なものを用いれば、本実施の形態により得られるハイバリア性フィルム全体も透明なものとなり、かようなハイバリア性フィルムを包装材料として用いれば内容物も容易に視認可能となるので、単にガスから内容物を保護するだけではなく、内容物の状態も視認できる、という利点が生じるので、珪素と酸化珪素との混合物を用いることはこの点において有利であると言える。
【0040】
尚、ここで用いる酸化珪素はSiOxで示した場合、酸化珪素のxが1.2≦x≦1.8であることが好ましい。
【0041】
珪素と酸化珪素との混合物を積層する場合、その積層手法は従来公知のものであってよいが、本実施の形態ではスパッタリング法によるものであることとするが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0042】
またこの第2層の厚みについては、100Å以上1000Å以下であることが好ましい。これは、100Å以下であると第2層自身が発揮すべきガスバリア性が不十分なものとなってしまい、また1000Å以上であると得られるハイバリア性フィルム全体の可撓性が乏しくなってしまうからである。尚、本実施の形態においてはこの厚みは200Åであるものとする。
【0043】
このようにして第2層を積層すると、次にその表面に第3層を積層する。
この第3層については、第1層と同様に高分子樹脂によるものであってよく、さらにはガスバリア性を有した高分子樹脂であればより好ましい。そしてこのような目的を達する高分子樹脂は種々考えられるが、第1層と同一の材料により第3層を積層することとすれば、製造過程においても同一物質を利用することでその作業が容易な物とすることができ、さらに得られたハイバリア性フィルムの物性を安定させるためにも、出来るだけ構成する物質の種類は少ない方が好ましいといえるので、本実施の形態においては、第1層と同一の材料である、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂を用いたものとする。そしてこの第3層を積層することにより、より一層ガスバリア性を向上させることが出来るのである。
【0044】
そしてこの第3層の厚みは0.03μm以上2μm以下であることが好ましいが、これは0.03μm以下であるとガスバリア性向上という目的を達することが出来ず、また2μm以上とするとフィルム全体の可撓性が乏しくなるからである。
【0045】
このようにして本実施の形態に係るハイバリア性フィルムを得ることが出来るのであるが、得られたハイバリア性フィルムであれば、従来のものに比して、単純な積層工程を経るだけで酸素ガスバリア性と水蒸気ガスバリア性とを同時に好適なものとすることが出来るようになる。そして前述したようにして得られるハイバリア性フィルムの目標とすべきガスバリア性に関する物性値としては、酸素ガスバリア性が0.4cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.4g/m/d以下であるが、これらの数値を満足させることが出来れば、それは即ち従来品に比べて高いガスバリア性を有したハイバリア性フィルムであると言える。
【0046】
また上記説明でもふれたが、基材フィルム、第1層、第2層、第3層、の全てが透明性を有していれば、全体としても透明なハイバリア性フィルムとすることが出来るが、その際の光線透過率が85%以上となれば、いわゆる透明性の高い、かつ包装材料として利用可能なハイバリア性フィルムとすることが出来る。そして本実施の形態のように、PETフィルム/エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂/珪素+酸化珪素(又は酸化珪素)/エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂、という構成であって、なおかつ各層の厚みが前述した一定範囲内のものとすれば、この光線透過率に関する条件もクリアしやすくなることを加えておく。
【0047】
そして繰り返しになるが、上述した積層工程が完了した後に、基材を構成している複数のプラスチックフィルムを剥離することにより、極薄のハイバリア性フィルムを得ることが出来る。
【0048】
(実施の形態2)
さらに別の構成を有するハイバリア性フィルムに関して第2の実施の形態として説明する。
【0049】
この第2の実施の形態では、基材と第1層との間に、ポリエステル系高分子樹脂による第4層が積層されてなるものとしたことに特徴がある。この第4層に関して以下説明をするが、それ以外のものについてはすでに説明した実施の形態同様であるので、ここでは詳述を省略する。
【0050】
さて、基材の表面に第1層が積層されるわけであるが、本来であれば、基材となるPETフィルムの表面に直接第1層を積層することも考えられる。このように積層しても、十分に、本来の本願発明の目的であるハイバリア性を実現することは可能ではあるが、PETフィルムの表面に直接第1層、本実施の形態であればエポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂を積層した場合、使用条件によってはこの部分で剥離しやすくなってしまう可能性がある。
【0051】
これは、積層フィルムの断面部分から水蒸気等の水分が積層フィルムを構成してなる各層の隙間に侵入することがあり、その場合、侵入した水分が層間密着力を弱めてしまうのである。そしてこのような状態になった場合、層間剥離が容易に生じてしまうのである。
【0052】
本実施の形態の場合、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂による層と第3層との間であれば水分が侵入する余地はなく、また侵入したとしても両者の間に存在する層間密着力を弱めるには至らないので、この部分に関して層間剥離が生じる可能性はほぼ無いが、PETフィルムの表面にエポキシ系シランカップリング剤を主に配合した高分子樹脂による層を直接積層した場合、これらの隙間に水分が侵入してしまう可能性は十分にあり、そして水分が侵入してしまうとこの部分において層間剥離が生じ、ひいては当初有していたハイバリア性が失われてしまうのである。
【0053】
そこでこのような現象が生じることを抑制するために、PETフィルムの表面に第1層を積層する前に、ポリエステル系高分子樹脂による第4層を積層してしまうのである。これを用いるのは、広くその物性、特性が知られ、また扱いやすいからであり、そしてポリエステル系樹脂を用いると、例え液体状の物質を包装するための包装材料として本実施の形態に係るハイバリア性フィルムを用いても、内容物の水分に由来する層間剥離が生じることがなく、即ちハイバリア性を維持することが出来るのである。尚、このポリエステル系高分子樹脂による第4層は、PETフィルムの表面に従来公知の手法で積層されればよいことを付言しておく。
【0054】
このようにして得られる本実施の形態に係るハイバリア性フィルムであれば、液体状のものに対しての包装材料としても十分にハイバリア性を発揮することができるものとすることができる。尚、当然、詳述はこれを省略するが、全体の積層工程が完了した後に、基材を剥離して極薄のハイバリア性フィルムを得るのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、
第1高分子樹脂による第1層と、
ガスバリア性を有する金属又は金属酸化物による第2層と、
第2高分子樹脂による第3層と、
をこの記載順に積層してなり、
前記基材が2枚以上のプラスチックフィルムよりなるものであり、なおかつ前記複数のプラスチックフィルムが剥離可能な状態で積層されたものであり、
前記第1高分子樹脂又は前記第2高分子樹脂の何れか一方若しくは双方が、エポキシ系シランカップリング剤を主に配合してなる高分子樹脂であり、
前記第2層を構成する金属又は金属酸化物が、珪素、チタン、スズ、亜鉛、アルミ、インジウム、のいずれか1つ若しくは複数の金属、又はこれらの金属の酸化物のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの金属とこれらの金属の酸化物との組み合わせ、のいずれかであること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記複数のプラスチックフィルムの合計厚みが50μm以下であり、なおかつ前記複数のプラスチックフィルムの中の1枚の厚みが3μm以上であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記基材と前記第1層との間に、ポリエステル系高分子樹脂による第4層が積層されてなること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
酸素ガスバリア性が0.4cc/m/atm/d以下であり、かつ水蒸気ガスバリア性が0.4g/m/d以下であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記第3層の更に表面にプラスチックフィルムをラミネートすることにより第5層を設けてなること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記ハイバリア性フィルムの光線透過率が80%以上であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のハイバリア性フィルムにおいて、
前記第2層が珪素と酸化珪素の混合物であって、かつSiOxで示される酸化珪素のxが1.2≦x≦1.9であること、
を特徴とする、ハイバリア性フィルム。

【公開番号】特開2006−321088(P2006−321088A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145189(P2005−145189)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】