説明

ハイパイル布帛およびその製造方法

【課題】ハイパイル布帛の柔軟性を保持しつつ、風合いを損なわずにパイル繊維の毛抜けを防止したハイパイル布帛およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維と、を含むハイパイル布帛であって、前記パイル繊維は、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維であり、前記地糸を構成する繊維よりも軟化点が低く、前記地糸に絡んだパイル繊維のうち、前記地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着されておらず、前記地組織の裏面で地糸より外側に配された少なくとも一部のパイル繊維は熱圧着されており、前記地組織の裏面において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を有することを特徴とするハイパイル布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル布帛およびその製造方法に関し、特にハイパイル布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からパイル布帛は、イミテーションファー又はフェイクファー、ボア等の名称で毛皮に似せた外観の布帛として知られている。これらはパイル編物、パイル織物から作られる。編みパイルの場合は、主としてシールフライス機、スライバーニット機(丸編機)で編み立てられ、いずれもカットパイルされている。たて編機のダブルラッシェル機で編み立てる場合は、地組織をダブルで形成すると同時に地組織間に接結糸を絡ませて、接結糸の中間をカットすることにより編成される。製織法の場合は、ベルベット織機、モケット織機を使用して上下2枚の地組織とこの間に接結糸を絡ませ、上下の基布の間をナイフでカットすることにより、2枚の織物を同時に織り上げる(非特許文献1)。しかし、これらの織編物は共通して抜け毛が多いという問題がある。抜け毛が多いと、中着に付着したり、床に脱落して見映えが悪く、衛生的にも問題がある。
特にパイル布帛のなかでもハイパイル布帛は、パイル繊維がメリヤスの地組織の地糸のループに沿って編み込まれており、地糸とパイル繊維との摩擦抵抗が小さいため、ほんの小さな力でパイル繊維の一端を引っ張るだけで容易にパイル繊維を構成する単繊維の脱落が起こりやすいという問題がある。
【0003】
この改善策として、パイル繊維に低融点繊維を混合する提案(特許文献1)、地組織を構成する地糸に低融点繊維を混合する提案(特許文献2〜3)等がある。しかし、これらの提案はいずれも布帛全体を上記低融点繊維の融点以上の温度にて加熱するため、地組織全体又はパイル繊維も融着してしまい、粗硬な風合いになってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−081248号公報
【特許文献2】特開2000−314048号公報
【特許文献3】特開平7−048765号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】繊維学会編「第3版繊維便覧」、丸善、平成16年12月15日発行、341−342頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは上記の問題点を解決すべく検討を行ったところ、特定の繊維を用いたパイル布帛において、その特定部分のみを熱圧着することにより、風合いを損なわずにパイル繊維の毛抜けを防止したパイル布帛が提供できることを見出し、当該パイル布帛に係る発明について既に特許出願している。しかし、このようなパイル布帛のなかでも、ハイパイル布帛は、その特定部分のみを熱圧着した後、ハイパイルとしての風合いは保持されるものの、ハイパイル布帛の柔軟性が低下する場合があるという知見を得た。
【0007】
そこで、本発明は、ハイパイル布帛の柔軟性を保持しつつ、風合いを損なわずにパイル繊維の毛抜けを防止したハイパイル布帛およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ハイパイル布帛(地組織)の裏面を特定の構成にすることで、前述の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0009】
(1)メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維と、を含むハイパイル布帛であって、
前記パイル繊維は、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維であり、前記地糸を構成する繊維よりも軟化点が低く、
前記地糸に絡んだパイル繊維のうち、前記地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着されておらず、前記地組織の裏面で地糸より外側に配された少なくとも一部のパイル繊維は熱圧着されており、
前記地組織の裏面において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を有することを特徴とするハイパイル布帛。
(2)前記地組織のメリヤスを構成する各ループの全てにパイル繊維が絡んでいる前記(1)記載のハイパイル布帛。
(3)前記地組織のメリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有する前記(1)記載のハイパイル布帛。
(4)前記パイル繊維の少なくとも一部に、接合抑制剤が付着された前記(1)〜(3)のいずれかに記載のハイパイル布帛。
(5)メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維とを含むハイパイル布帛の製造方法であって、
前記パイル繊維は、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維であり、前記地糸を構成する繊維よりも軟化点が低く、
前記地組織の裏面から前記パイル繊維の軟化点以上かつ前記地糸を構成する繊維の軟化点未満の温度で接触加熱加圧して、前記地糸に絡んだパイル繊維のうち、前記地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着させず、前記地組織の裏面で地糸より外側に配された少なくとも一部のパイル繊維を熱圧着した後、前記メリヤスの地組織のウェール方向に延伸処理を施して、前記地組織の裏面において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を形成することを特徴とするハイパイル布帛の製造方法。
(6)前記地組織のメリヤスを構成する各ループの全てにパイル繊維が絡んでいる前記(5)記載のハイパイル布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハイパイル布帛によれば、地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着していないことにより、風合いを損なわずにパイル繊維の毛抜けを防止することができるとともに、地組織の裏面において、地組織のメリヤスを構成する各ループのうちウェール方向に近接する異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を有することにより、パイル布帛の柔軟性を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るハイパイル布帛の一実施形態における、地糸と地糸に絡むパイル繊維との位置関係を説明するための模式図である。
【図2】本発明に係るハイパイル布帛の実施形態の一例を裏面から見た編み立て図である。
【図3】本発明に係るハイパイル布帛の実施形態の他の例を裏面から見た編み立て図である。
【図4】本発明に係るハイパイル布帛の製造方法の実施形態の一例を示す製造工程図である。
【図5】本発明に係るハイパイル布帛の製造方法の他の実施形態における延伸処理する工程を示す製造工程図である。
【図6】接触加圧加熱処理し、延伸処理した後のハイパイル布帛の裏面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のハイパイル布帛は、メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維と、を含むハイパイル布帛である。
【0013】
本発明において使用する地組織は、メリヤスであり、伸縮性に優れる組織を構成することができる。メリヤスは、一般に、1本または2本以上の糸がループをつくり、そのループに引っかけて、次の新しいループをつくることを継続し、順次ループを平面状に連続して布地を形成したものである。そして、糸がループをつくりながら左右に往復して平面状の布地を形成するか、らせん状に進行して筒状の布地を形成するか等により横方向に進行していくものを横編みメリヤス、整然と配列した多数の各経(たて)糸がループをつくりながら、隣接する左右の経糸とループで連結されて布地を形成するものを経編みメリヤスという。また、横編みメリヤスには、平編み、ゴム編み、パール編みなどの編み方があり、経編みメリヤスには、デンビー編み、コード編み、アトラス編み、鎖編みなどの編み方がある。ハイパイル布帛の地組織を構成する編み方としては、商品性、生産性の観点から、横編みメリヤスが好ましい。
【0014】
本発明では、パイル繊維のメリヤスに対する配置としては、地組織のメリヤスを構成する各ループの全てにパイル繊維が絡むように配置しても良いし、メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有するように配置しても良い。
但し、本発明では、ハイパイル布帛の柔軟性を確保する観点から、ハイパイル布帛(地組織)の裏面において、地組織のメリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を有するように構成する。そのため、後述するように、製造方法などを考慮して、パイル繊維のメリヤスに対する配置を適宜選択することができる。
また、メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有するような配置としては、特に限定はなく、地組織を構成するメリヤスのループのうち、地糸により形成されるループのウェール方向およびコース方向のそれぞれの方向で一つおきになるように(千鳥状に)パイル繊維が配されているもの(例えば図3参照)、地組織を構成するメリヤスのループのうち、ウェール方向には一つおきに、コース方向には全てのループにパイル繊維が配されているもの、などが挙げられる。もっとも、これら以外の構成を採用してもよい。
【0015】
前記地糸を構成する繊維としては、後述するパイル繊維より軟化点が高ければ、特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂からなる合成繊維、コットン等が挙げられる。
【0016】
上記パイル繊維は、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維(以下、アクリル(系)繊維と略記する場合がある。)である。これにより、風合いに優れたハイパイル布帛が得られる。一般的には、熱可塑性繊維をパイル繊維として用い、当該熱可塑性繊維の融点以上の温度でポリッシング加工を行うと、ハイパイル布帛表面のパイル繊維は溶融してしまい良好な外観、風合いを有するハイパイル布帛が得られない。また、熱可塑性繊維の融点以下の温度でポリッシング加工を行うと、ハイパイル布帛表面のパイル繊維の捲縮が伸びないため良好な外観、風合いを有するハイパイル布帛が得られない。これに対して、アクリル(系)繊維の捲縮は、軟化点以下の温度でも伸びるため、パイル繊維にアクリル(系)繊維を用いる場合、軟化点以下の温度、例えば150〜160℃でポリッシング加工を行うことができる。それゆえ、パイル繊維にアクリル(系)繊維を用いる場合、ポリッシング加工でパイル布帛表面のパイル繊維が溶融することがなく、良好な外観、風合いを有するハイパイル布帛が得られる。そして、パイル繊維がアクリル(系)繊維以外に、軟化点が160℃以下の熱可塑性繊維、例えば軟化点が160℃以下の低融点ポリエステル繊維等を含むと、150〜160℃でのポリッシング加工時に、ハイパイル布帛表面の低融点ポリエステル繊維が溶融してしまい、良好な外観、風合いを有するハイパイル布帛を得られにくい。
【0017】
上記パイル繊維は、地組織を構成する地糸であって、当該地糸を構成する繊維よりも軟化点が低ければよく特に限定されないが、地糸を構成する繊維と上記パイル繊維の軟化点の差は、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上である。10℃以上の差があると、上記地組織の裏面で地糸より外側に配された少なくとも一部のパイル繊維のみを熱圧着させ、上記地組織の表面に立毛するパイル繊維を熱圧着させないことがより容易となる。
【0018】
上記パイル繊維は全量所定の温度で軟化する繊維であっても良く、異なる温度で軟化する繊維の混合繊維であってもよい。そして、パイル繊維が異なる温度で軟化する繊維の混合繊維である場合は、相対的に低い温度で軟化する繊維を20重量%(wt%)以上混合し、相対的に低い温度で軟化する繊維を熱圧着させることが好ましい。
【0019】
本発明において、軟化点とは、融解又は分解する前の軟化温度である。例えばアクリル繊維の軟化点は190〜232℃、アクリル系繊維の軟化点は150〜220℃である(「化学大辞典」、共立出版、727〜729頁、1993年6月1日発行。以下「文献値」という。)。アクリル繊維とは、アクリロニトリルを85重量%以上含む繊維をいう。また、アクリル系繊維とは、アクリロニトリルを35重量%以上85重量%未満と、その他の共重合可能なモノマーを15重量%より多く65重量%以下含む重合体から構成される繊維をいう。ここで、その他の共重合可能なモノマーとは、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に代表されるスルホン酸含有モノマー並びにこれらの金属塩類及びアミン塩類、アクリル酸及びメタクリル酸並びにそれらの低級アルキルエステル、NまたはN,N−アルキル置換したアミノアルキルエステル及びゲリシジルエステル、アクリルアミド及びメタクリルアミド並びにそれらのN又はN,N−アルキル置換体、アクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸等に代表されるカルボキシル基含有ビニル単量体及びそれらのナトリウム、カリウム又はアンモニウム塩等のアニオン性ビニル単量体、アクリル酸及びメタクリル酸の4級化アミノアルキルエステルをはじめとするカチオン性ビニル単量体、或いはビニル基含有低級アルキルエーテル、酢酸ビニルに代表されるビニル基含有低級カルボン酸エステル、スチレン等を挙げることができる。これらのモノマーを単独又は2種以上混合して用いることができる。この中でも、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン及びスルホン酸含有モノマーの金属塩類からなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることが好ましく、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びスチレンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることがより好ましい。また、アクリル系繊維としては、モダアクリル繊維を用いることが好ましい。モダアクリル繊維とは、アクリロニトリルを35重量%以上85重量%未満含み、塩化ビニル及び塩化ビニリデンからなる群から選ばれる1種以上のモノマーと、その他の共重合可能なモノマーを合計で15重量%より多く65重量%以下含む重合体から構成される繊維をいう。
【0020】
本発明における、地糸を構成する繊維とパイル繊維との種類の組み合わせは、上記の条件を満足すれば、特に限定はないが、以下にその具体例を示す。
【0021】
地糸を構成する繊維として、例えばポリエチレンテレフタレート(PET、軟化点約253℃)繊維を用いる場合、パイル繊維としては、アクリル系繊維、又は、アクリル系繊維とアクリル繊維の混合繊維を用いることが好ましい。また、アクリル系繊維としては、好ましくは以下の繊維を用いることができる。
(1)塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維(例えば、株式会社カネカ製、商品名「カネカロン」、軟化点150〜220℃、文献値)
(2)塩化ビニリデン−アクリロニトリル系繊維(軟化点150〜220℃、文献値)
【0022】
地糸を構成する繊維として、例えばコットン(木綿)(軟化点なし)繊維を用いる場合、パイル繊維としては、アクリル繊維を用いることが好ましい。また、アクリル繊維としては、例えば、株式会社エクスラン製、商品名「エクスランK691」(軟化点190〜232℃、文献値)を例示できる。
【0023】
本発明では、パイル繊維に接合抑制剤が付着されたものを用いても良い。これにより、メリヤスの地組織の裏面(ハイパイル布帛の裏面)において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分をより形成し易くすることが可能となる。
【0024】
接合抑制剤としては、特に限定はなく、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、フッ素系樹脂、パラフィンなどが挙げられるが、これらに限定されない。シリコーン樹脂としては、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。また、接合抑制剤には、例示した上記の各成分以外に、溶剤などの他の成分を添加しても良い。
また、パイル繊維への接合抑制剤の付着方法は、特に限定はなく、従来公知の方法を適宜採用することができ、液状の接合抑制剤にパイル繊維を浸漬したり、噴霧塗布したりすることにより行うことができる。この際の接合抑制剤の付着量としては、ハイパイル布帛の各種の使用に際して差し障りが無く、本発明の毛抜け防止効果を妨げない程度であれば特に限定はないが、パイル繊維100重量部に対して、概ね0.1〜5重量部である。
さらに、パイル繊維として、接合抑制剤が付着されたものを用いる場合は、パイル繊維の全てを接合抑制剤が付着されたものとしても良いし、接合抑制剤が付着されたパイル繊維とそれが付着されていないパイル繊維を混合して用いてもよい。この場合、全パイル繊維に対する、接合抑制剤が付着されたパイル繊維の比率は特に限定はないが、ハイパイル布帛の柔軟性をより確保しやすくする観点からは、10〜100重量%が好ましい。
【0025】
本発明では、前記パイル繊維は、上記のように地糸を構成する繊維よりも軟化点が低く、地糸に絡んだパイル繊維のうち、地組織の裏面で地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維は熱圧着され、上記地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着していない。この手段としては、地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維を熱圧着できれば、特に限定されないが、地組織の裏面側、即ちハイパイル布帛の裏面側からパイル繊維の軟化点以上、かつ地糸を構成する繊維の軟化点未満の温度で接触加熱加圧することが好ましい。
【0026】
本発明において、地組織の裏面で地糸より外側とは、ハイパイル布帛のパイル繊維が立毛している面を表面としたときの裏面側であって、地糸より外側のことである。また、地糸に絡むパイル繊維は、一部の繊維が地糸に食い込んでいる場合もあるが、残りの部分が地糸より外側に存在していれば、これを含む。
【0027】
また本発明では、上記のように地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維は熱圧着されている。パイル繊維が熱圧着されている態様としては、例えば後述する接触加熱加圧処理した後、隣接するパイル繊維の1本1本がおのおの連結して塊を形成している態様や、パイル繊維のうちの地糸に対して最も外側近傍のパイル繊維の1本1本がおのおの連結するとともに、それより内側のパイル繊維を地糸との間に圧接して纏まって塊を形成している態様、パイル繊維のうちの軟化していない繊維が軟化した繊維を介して連結して纏まって塊を形成している態様などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、熱圧着されている態様の何れの場合も、圧着される結果、ある地糸より外側のパイル繊維の嵩高さは、圧着される前の状態に比して小さくなっているとともに、ハイパイル布帛の裏面は平滑な外観(パイル繊維の地組織裏面における毛羽立ちが顕著に低減された状態)を呈する。
【0028】
また、本発明のハイパイル布帛においては、上記のように地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維が熱圧着されていればよいが、より優れた毛抜け防止効果を得る観点からは、地糸より外側の全てのパイル繊維が熱圧着されていることが好ましい。
【0029】
本発明では、上記のように前記地組織の裏面において、地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維は熱圧着されつつ、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を有する。これにより、ハイパイル布帛の毛抜けを防止しつつ、柔軟性を確保することが可能となる。この手段としては、上記のように、地組織のメリヤスを構成する各ループに対するパイル繊維の配置を調整する方法、パイル繊維を構成する繊維の少なくとも1種として接合抑制剤を付着した繊維を使用する方法、例えば、地組織の裏面側からパイル繊維の軟化点以上、かつ地糸を構成する繊維の軟化点未満の温度で接触加熱加圧を行った後、メリヤスの地組織のウェール方向に延伸処理を施す方法などが挙げられる。
【0030】
本発明では、ハイパイル布帛の裏面に、バッキング樹脂を含浸してもよい。バッキング樹脂を含浸することで、地組織の裏面側、即ちハイパイル布帛の裏面側から接触加熱加圧する工程より前に、パイル繊維の立毛を整える処理が可能となる。
【0031】
上記バッキング樹脂としては、アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等のラテックス、エマルジョン、ディスパージョン等を使用することができる。バッキング樹脂の含浸量は、特に限定はないが、概ね樹脂固形分濃度で17〜25g/m2程度でよい。この含浸量は、一般的な量の1/2〜1/3程度である。パイル繊維の特定箇所の熱圧着前にパイル繊維のポリッシング加工を行うが、このときにパイル繊維が脱落しないようにバッキング樹脂を使用して仮固定することができる。したがって、バッキング樹脂含浸量は少なくてよい。最終製品としてのハイパイル布帛における毛抜け防止作用は、パイル繊維の熱圧着により奏されるからである。
【0032】
以下に、図面を用いて、本発明のハイパイル布帛を説明する。
図1は、本発明のハイパイル布帛の一実施形態における、地糸と地糸に絡むパイル繊維との位置関係を説明するための模式図である。図1に示すように、ハイパイル布帛5は、メリヤスのループ6を構成する地糸1と、地糸1のループ6に絡み地組織(ハイパイル布帛5)の表面7で開繊され立毛パイル3を形成しているパイル繊維2で構成される。また、地組織(ハイパイル布帛5)の裏面8において、地糸1の外側でパイル繊維2の少なくとも一部は熱圧着されて熱圧着部4を構成し、地糸1に熱圧着されている。尚、図1は、概ね、地糸1の下側にパイル繊維2を重ねるような位置関係を模式的に示しているが、本図において地糸1の外側とは、概ね地糸1の下側の部分を意味する。
【0033】
図2は、本発明に係るハイパイル布帛の実施形態の一例を裏面から見た編み立て図である。図2に示すように、本例のハイパイル布帛15は、メリヤスのループ16を構成する地糸11と、地糸11のループ16に絡み地組織の表面で開繊され立毛パイル13を形成しているパイル繊維12で構成される。本図の例では、矢印17で示すウェール方向(図2中の左右方向)には4つのループ16が形成され、矢印18で示すコース方向(図2中の上下方向)には、5つのループ16が形成された平編みの地組織において、全てのループ16にパイル繊維12が絡んで配されている。また、本例の各ループ16における、地糸11とパイル繊維12の配置(位置関係)は、図1と同様の位置関係にあり、図2の例においても図1における熱圧着部4と同様の熱圧着部14を有する。尚、図2では、便宜上、パイル繊維12は1束として示し、また、熱圧着部14における地糸11とパイル繊維12の位置関係は、本発明の構成とは必ずしも一致していない。
また、本図の例では、地組織の裏面(ハイパイル布帛15の裏面)において、メリヤスを構成する各ループ16のうち、コース方向の5つのループ16からなる各列は、ウェール方向に隣接するループ16の列とは、連結されていない。この例の状態は、例えば、所定のパイル繊維を用いて後述する接触加熱加圧処理および延伸処理を行うことにより、実現される。また、パイル繊維として接合抑制剤が付着したパイル繊維を少なくとも一部に含むものを用いると、柔軟性のより良好なハイパイル布帛となる。
【0034】
図3は、本発明に係るハイパイル布帛の実施形態の他の例を裏面から見た編み立て図である。図3に示すように、本例のハイパイル布帛25は、メリヤスのループ26を構成する地糸21と、地糸21のループ26に絡み地組織の表面(ハイパイル布帛の表面)で開繊され立毛パイル23を形成しているパイル繊維22で構成される。本図の例では、矢印27で示すウェール方向(図3中の左右方向)には4つのループ26が形成され、矢印28で示すコース方向(図3中の上下方向)には、5つのループ26が形成された平編みの地組織において、パイル繊維22の配置が地糸26により形成されるループ26のウェール方向およびコース方向のそれぞれの方向で一つおきになるように(千鳥状に)配されている。また、本例の各ループ26における、地糸21とパイル繊維22の配置(位置関係)は、図1と同様の位置関係にあり、図3の例においても図1における熱圧着部4と同様の熱圧着部24を有する。また、図2の場合と同様に、図3でも、便宜上、パイル繊維22は1束として示し、また、熱圧着部24における地糸21とパイル繊維22の位置関係は、本発明の構成とは必ずしも一致していない。
本図の例では、パイル繊維22が地組織のメリヤスを構成する全てのループ26に対して千鳥状に配されていることから、後述する接触加熱加圧処理によるウェール方向に近接するパイル繊維同士が連結する可能性が低減される。
【0035】
上述したように、本発明のハイパイル布帛は、パイル繊維の毛抜けが防止されつつ、ハイパイルとしての風合いや柔軟性が保持されていることから、服飾用、敷物用など各種用途の生地として好適に使用することができる。具体的には、イミテーションファー又はフェイクファー、カーシート、カーペットなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のハイパイル布帛は、地組織のメリヤスを構成する各ループへのパイル繊維の配置に応じて、異なる製造方法を採用することができる。以下にその実施形態の例を2つ説明する。
【0037】
第1の例として、地組織のメリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有する場合(例えば、図3参照)は、本発明のハイパイル布帛は以下の製造方法により製造することができる。
【0038】
まず、地組織のメリヤスの各ループの所望の位置にパイル繊維を配置しないようにハイパイル布帛を編み立てる。次に編み上がったハイパイル布帛の裏面側から上記パイル繊維の軟化点以上、かつ地糸を構成する繊維の軟化点未満の温度で接触加熱加圧する。これにより、上記地糸に絡んだパイル繊維のうち、上記地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維が熱圧着される。上記接触加熱加圧は、例えば加熱ロール又はホットプレートにより行うことができる。加熱ロール又はホットプレートを用いる場合、短時間の接触加熱加圧処理を行うことができ、地組織の裏面において地糸より外側の少なくとも一部のパイル繊維のみを熱圧着することができる。そして、ハイパイル布帛の表面のパイル繊維が溶融するほどの加熱はしないため、地組織の表面に立毛するパイル繊維は溶融しない。
【0039】
また、パイル繊維として、異なる軟化点を有する繊維の混合繊維を用いる場合は、地組織の裏面側から相対的に低い温度で軟化するパイル繊維の軟化点以上、かつ相対的に高い温度で軟化するパイル繊維の軟化点未満の温度で接触加熱加圧処理をし、相対的に低い温度で軟化するパイル繊維を軟化させ、当該軟化したパイル繊維を介して軟化していないパイル繊維を連結することが好ましい。パイル繊維の毛抜けを防止できるうえ、風合いに優れたハイパイル布帛が得られやすい。尚、異なる軟化点を有する繊維を3種以上用いた混合繊維の場合は、最も低い軟化点以上、最も高い軟化点未満、より好ましくは2番目に高い軟化点未満の温度で接触加熱加圧処理するとよい。
【0040】
上記地組織の裏面側から接触加熱加圧する際及び/又は接触加熱加圧した後、ハイパイル布帛の表面の立毛するパイル繊維側は冷却することが好ましい。また、上記地組織の裏面側から接触加熱加圧した後、上記地組織の裏面側から冷却することが好ましい。上記冷却手段は、ハイパイル布帛の立毛面は水温30℃以下の水を通水させた冷却ロールで冷却することが好ましい。このような冷却をすると、寸法安定性が保持でき、かつパイル繊維への熱ダメージも軽減させることができる。
【0041】
第1の例の製造方法の実施形態の一例を、図を用いてさらに詳細に説明する。
図4は、編み上がったハイパイル布帛の裏面側から所定温度で接触加熱加圧する工程を模式的に示した製造工程図である。この方法に使用する加工装置30は、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂をコーティングした加熱ロール31と、加熱ロール31に加圧し、内部に30℃の冷却水が通水する冷却ゴムロール32と、冷却ゴムロール32に加圧し、内部に30℃の冷却水が通水する金属冷却ロール33、34と、ガイドロール35を含む。ハイパイル布帛原反38は容器36から導き出され、裏面38bが加熱ロールに接触し、表面(立毛パイル側)38aが冷却ゴムロール32に接触するように供給する。加工の終了したハイパイル布帛39は、容器37に収納される。なお、接触加熱加圧処理は、図4に示した加工装置に限定されず、図4に示した加工装置の一部の構成を変更した装置、ホットプレート、及びその他の装置を用いて行ってもよい。接触加熱加圧処理において、加熱温度は例えばパイル繊維の軟化点以上かつ地糸を構成する繊維の軟化点未満であればよく、加圧力は線圧で0.01〜100kgf/cm2(0.98kPa〜9.8MPa)、原反の供給速度は0.1〜20m/分、ヒーター接触時間は1〜60秒間であることが好ましい。また、パイル布帛の表面のダメージを軽減するという観点から、加圧力は線圧で0.05〜7kgf/cm2(4.9〜69kPa)、ヒーター接触時間は2〜10秒間であることがより好ましい。
【0042】
第2の例として、地組織のメリヤスを構成する各ループの全てにパイル繊維が絡んでいる場合は、本発明のハイパイル布帛は以下の製造方法により製造することができる。もっとも、地組織のメリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有する場合において、以下の方法を採用してもよい。
【0043】
まず、地組織のメリヤスの各ループの全てにパイル繊維を配置するようにハイパイル布帛を編み立てる。次に、第1の例の場合と同様にして、編み上がったハイパイル繊維を接触加熱加圧する。これにより、ハイパイル布帛の裏面即ち地組織の裏面において、地組織のメリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループに絡んだパイル繊維同士が連結される場合がある。その結果、地組織の裏面において各ループのパイル繊維の全てが連結され、いわば、パイル繊維からなる一定の硬さを有した一枚のシートがハイパイル布帛の裏面全体に積層された状態になり、ハイパイル布帛の柔軟性が低下する場合が生じることとなる。
そして、接触加熱加圧処理を行った後のハイパイル布帛を、メリヤスの地組織のウェール方向に延伸処理を施す。これにより、地組織の裏面において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分が形成される。その結果、上記の1枚のシートがウェール方向において切断された部分が生じ、ハイパイル布帛の柔軟性が保持されることとなる。
また、延伸処理は、ハイパイル布帛を加熱しながら行っても良いし、加熱せずに行っても良い。加熱する場合は、パイル布帛が熱セットされることにより、ウェール方向の長さが固定されるという利点がある。
【0044】
延伸処理の方法、条件としては、ハイパイル布帛の柔軟性が確保されれば、特に限定はないが、ハイパイル布帛のウェール方向の両側端部(布耳部)を把持して、ウェール方向長さの延伸率(=[(延伸後のウェール方向長さ)−(延伸前のウェール方向長さ)]/(延伸前のウェール方向長さ)×100)が5〜20%程度になるようにウェール方向に引張ることが好ましく、より好ましくは7〜15%程度、さらに好ましくは8〜12%程度である。
また、延伸処理の際に加熱する場合は、90〜150℃で処理するのが好ましく、100〜130℃がより好ましく、105℃〜120℃がさらに好ましい。
【0045】
このような延伸処理は、例えばテンターなどの公知の装置を用いて行うことができる。このテンターは、一般的には、所定の温度で加熱しながら、布帛の両布耳部を保持して布帛を所定の幅に拡幅して熱セットするのに用いられるが、本発明では、上記のように、加熱してもしなくても良い。また、テンターでは、布帛の布耳部を保持する方式としてクリップ式とピン式があり、何れを採用しても良いが、工程の安定性及び/又は生産性の観点から、ピン式を採用するのが好ましい。
【0046】
また、(i)上記地組織の裏面側から接触加熱加圧する際、(ii)接触加熱加圧処理の後延伸処理の前、(iii)延伸処理の際、(iv)延伸処理の後、の各段階において、必要に応じて、第1の例と同様にして、ハイパイル布帛の表面の立毛するパイル繊維側を冷却することが好ましい。
また、(ii)接触加熱加圧処理の後延伸処理の前、(iii)延伸処理の際、(iv)延伸処理後の各段階において、必要に応じて、第1の例と同様にして、地組織の裏面側から冷却することが好ましい。
延伸処理を、ハイパイル布帛を加熱しながら行う場合は、ハイパイル布帛の表面にダメージを与えないよう、最小限の低温度、低風量で行うことが好ましい。
【0047】
第2の例の製造方法の実施形態の一例を、図を用いて説明する。
本例は、先ず、図4に示した加工装置30を用いて、原反38を接触加熱加圧処理したハイパイル布帛39を作製し、次に、図5に示した加工装置40を用いて、ハイパイル布帛39を延伸処理するものである。本例では、接触加熱加圧処理と、その後の延伸処理は、別個に行う例を示しているが、両処理を連続して行っても良い。
図5をもとに、延伸処理について説明する。図5は、図4に示す加工装置30を用いて接触加熱加圧処理されたハイパイル布帛39を、テンター41を用いて延伸処理する工程を模式的に示した製造工程図である。延伸処理工程において使用する加工装置40は、テンター41とガイドロール45を含む。接触加熱加圧処理されたハイパイル布帛39は容器37から導き出され、テンター41によりそのウェール方向に引っ張られる。この時、接触加熱加圧処理されたハイパイル布帛39はその両布耳部をピンシート42により保持され、ウェール方向に引っ張られて、延伸状態が保持される。
また、必要により、加熱装置43により加熱処理を施し、延伸した状態でウェール方向長さ(布帛の幅)が熱セットされる。本例では、加熱装置43の配置位置は、延伸処理する全長に亘り配しているが、延伸状態を保持する部分だけに配置してもよい。その後冷却ロール(図示せず)により冷却してもよい。
延伸処理の終了したハイパイル布帛44は、容器46に収納される。尚、延伸処理時に加熱を行わなかった場合は、延伸処理後のハイパイル布帛の幅(ウェール方向長さ)は、概ね延伸処理前の幅に戻る。一方、加熱を行った場合は、延伸処理時の加熱により熱セットされるため、概ね延伸処理時に保持された時の幅が保持される。
【0048】
図6は、地組織のメリヤス(平編み)を構成する各ループの全てにパイル繊維が絡んだハイパイル布帛の一例を接触加圧加熱処理して、延伸処理を行った後の、ハイパイル布帛の裏面を示す図である。本図に示すように、延伸処理により、図の左右方向(ウェール方向)で近接するパイル繊維同士は連結されていない状態にある(図の縦方向(コース方向)に黒色の線が見受けられる。この線は、延伸処理により形成された、ウェール方向に隣接するループに絡んだパイル繊維間に生じた隙間である。本ハイパイル布帛の例では、接触加圧加熱処理直後のハイパイル布帛の裏面には、このような縦方向に連続する隙間は殆ど観察されなかった。)。
【実施例】
【0049】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<測定方法および評価基準>
1.毛抜け量
ハイパイル布帛の表面をゴム製の刷毛(商品名“プレスケールマット”5mm(粒の直径)、縦4cm、横10.5cm、富士フィルム社製)を使用し、600g荷重(14.3kg/cm2)の一定荷重をかけながら、ストローク幅30cm、毛並の順方向に10回、逆方向に10回こすり、粘着テープで抜け毛を回収し、その重量を1m2あたりに換算して毛抜け量とした。
【0051】
2.毛抜け評価
毛抜け量に基いて、以下のように4段階のランクで毛抜け評価を行った。
A:0.3g/m2以下(非常に良好なレベル)
B:0.3g/m2を超え0.6g/m2以下(良好なレベル)
C:0.6g/m2を超え1.0g/m2以下(やや不良レベル)
D:1.0g/m2を超える(不良レベル)
【0052】
3.ハイパイル布帛の裏面の硬さ測定
硬度測定器(Teclock社製、GS−754G、ASTM D 2240準拠)の本体に更に200gの重りを付加した測定器を用いて、ハイパイル布帛(150mm×150mm)の裏面5箇所を測定し、その算術平均値をハイパイル布帛の裏面の硬さの測定値とした。
【0053】
4.ハイパイル布帛の裏面の硬さ評価
下記のように4段階のランクでハイパイル布帛の裏面硬さを評価した。
A:ハイパイル布帛の裏面の硬さ測定値が25以下
一般的なハイパイル布帛の裏面の硬さと同程度であり、ドレープ性の必要な衣料用途などでも、問題なく使用可能。
B:ハイパイル布帛の裏面の硬さ測定値が25を超え30以下
一般的なハイパイル布帛の裏面の硬さよりやや硬いが、ドレープ性の必要な衣料用途などでも問題なく使用可能。
C:ハイパイル布帛の裏面の硬さ測定値が30を超え40以下
一般的なハイパイル布帛の裏面の硬さより硬く、ドレープ性の必要な衣料用途などでは使用困難。
D:ハイパイル布帛の裏面の硬さ測定値が40を超える
一般的なハイパイル布帛の裏面の硬さより非常に硬く、ドレープ性の必要な衣料用途などでは使用不可能。
【0054】
<製造例で使用した繊維>
1.パイル繊維
(1)商品名“カネカロンAH”(以下、単にAHと略記する。)、株式会社カネカ製、アクリル系繊維(塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維)、軟化点180〜190℃、繊度3.3deci tex(以下、dtexと略す。)
AHはオルガノポリシロキサンが繊維100重量部に対して0.1〜5重量部付着されたものである。
(2)商品名“カネカロンRCL”(以下、単にRCLと略記する。)、株式会社カネカ製、アクリル系繊維(塩化ビニル−アクリロニトリル系繊維)、軟化点180〜190℃、繊度3.3dtex
【0055】
2.地糸
ポリエステル繊維糸
トータル繊度334dtexのマルチフィラメント(50本のポリエステル単繊維からなる繊度167dtexのフィラメントを2本引き揃えた繊維糸)を使用した。軟化点は258℃である。
【0056】
<ハイパイル布帛の製造>
(製造例1〜6)
(1)ハイパイル布帛の編み立て
フェイクファーを作製するためのスライバーニット機(丸編機)を使用して、地糸として上記のポリエステル繊維糸を使い、それぞれ、下記表1に示すアクリル系繊維からなるパイル繊維スライバー(10〜14g/m)を供給し、ハイパイル布帛を編み立てた。地組織のウェール方向のループ数は16〜17個/インチ、コース方向のループ数は22〜33個/インチとし、その他は下記表1に示した条件とした。尚、地組織のメリヤスを構成するループとパイル繊維の配置自体は、図2に示されるものと同様である。
次に、上記ハイパイル布帛の表面にバッキング樹脂を含浸させた。バッキング樹脂はアクリル酸エステルを主成分とする乳化共重合体ラテックスを使用し、ラテックス濃度が40wt%の水溶液(乳化物)とし、樹脂固形分濃度で25g/m2含浸付着させ、その後乾燥させた。
次に、ハイパイル布帛の表面のパイル繊維をポリッシング、ブラッシング及びシャーリングにより整えた。具体的には、先ず155℃でポリッシングを2回行い、次にブラッシングを2回行い、次いで順次150℃、145℃、130℃及び120℃でそれぞれ1回ずつポリッシングを行い、その後シャーリングを2回行い、最後に100℃でポリッシングを2回行った。
以上のようにして、接触加熱加圧処理等を行うための原反を作製した。
【0057】
(2)接触加熱加圧処理と延伸処理
上記(1)において得られたハイパイル布帛(原反)の裏面を図4に示した加工装置を用いて加熱ロールの温度を220℃、加熱ロールとハイパイル布帛の接触時間を6秒、加熱ロールと冷却ゴムロールのニップ圧を50kgf/cm2(4.9MPa)の条件で接触加熱加圧処理を行った後、図5に示した加工装置のテンターにおいて、ピンシートでハイパイル布帛(原反)の左右の両端部(布耳部)を保持し、徐々にハイパイル布帛のウェール方向(幅方向)に引っ張って延伸処理を行った。また、延伸処理時に加熱を行う場合は、110℃で5分間加熟しながら引っ張って延伸処理を行った。尚、延伸処理の他の条件は表1に示す。
その後、130℃及び120℃で、それぞれ1回ずつポリッシングを行い、最後に100℃でポリッシングを2回行った。
【0058】
(製造例7〜12)
(1)ハイパイル布帛の編み立て
製造例1と同様にして、表1の条件にて接触加熱加圧処理を行うための原反を作製した。尚、表1中の製造例7、9、11は、この原反の状態のものである。
(2)接触加熱加圧処理
上記(1)において得られたハイパイル布帛(原反)の裏面を図4に示した加工装置を用いて加熱ロールの温度を220℃、加熱ロールとハイパイル布帛の接触時間を6秒、加熱ロールと冷却ゴムロールのニップ圧を50kgf/cm2(4.9MPa)の条件で接触加熱加圧処理を行った。
その後、130℃及び120℃で、それぞれ1回ずつポリッシングを行い、最後に100℃でポリッシングを2回行った。
【0059】
(製造例13)
(1)ハイパイル布帛の編み立て
フェイクファーを作製するためのスライバーニット機(丸編機)を使用して、地糸として上記のポリエステル繊維糸を使い、それぞれ、下記表1に示すアクリル系繊維からなるパイル繊維スライバー(10〜14g/m)を供給し、ハイパイル布帛を編み立てた。地組織のウェール方向のループ数は16〜17個/インチ、コース方向のループ数は22〜33個/インチとし、その他は下記表1に示した条件とした。但し、地組織のメリヤスを構成するループとパイル繊維の配置自体は、図3に示されるものと同様、千鳥状の飛び編みである。
次に、上記ハイパイル布帛の表面にバッキング樹脂を含浸させた。バッキング樹脂はアクリル酸エステルを主成分とする乳化共重合体ラテックスを使用し、ラテックス濃度が40wt%の水溶液(乳化物)とし、樹脂固形分濃度で25g/m2含浸付着させ、その後乾燥させた。
次に、ハイパイル布帛の表面のパイル繊維をポリッシング、ブラッシング及びシャーリングにより整えた。具体的には、先ず155℃でポリッシングを2回行い、次にブラッシングを2回行い、次いで順次150℃、145℃、130℃及び120℃でそれぞれ1回ずつポリッシングを行い、その後シャーリングを2回行い、最後に100℃でポリッシングを2回行った。
以上のようにして、接触加熱加圧処理と延伸処理を行うための原反を作製した。
(2)接触加熱加圧処理と延伸処理
製造例2と同様にして、接触加熱加圧処理および延伸処理、その後のポリッシング、ブラッシング及びシャーリングを行った。
【0060】
(製造例14)
(1)ハイパイル布帛の編み立て
製造例13と同様にして、接触加熱加圧処理を行うための原反を作製した。
(2)接触加熱加圧処理
製造例8と同様にして、接触加熱加圧処理、その後のポリッシング、ブラッシング及びシャーリングを行った。
【0061】
(製造例15)
(1)ハイパイル布帛の編み立て
フェイクファーを作製するためのスライバーニット機(丸編機)を使用して、地糸として上記のポリエステル繊維糸を使い、それぞれ、下記表1に示すアクリル系繊維からなるパイル繊維スライバー(10〜14g/m)を供給し、ハイパイル布帛を編み立てた。地組織のウェール方向のループ数は16〜17個/インチ、コース方向のループ数は22〜33個/インチとし、その他は下記表1に示した条件とした。但し、地組織のメリヤスを構成するループとパイル繊維の配置自体は、地組織を構成する平編みのメリヤスのループのうち、ウェール方向には一つおきに、コース方向には全てのループにパイル繊維を絡めた配置の飛び編みとした。
次に、上記ハイパイル布帛の表面にバッキング樹脂を含浸させた。バッキング樹脂はアクリル酸エステルを主成分とする乳化共重合体ラテックスを使用し、ラテックス濃度が40wt%の水溶液(乳化物)とし、樹脂固形分濃度で25g/m2含浸付着させ、その後乾燥させた。
次に、ハイパイル布帛の表面のパイル繊維をポリッシング、ブラッシング及びシャーリングにより整えた。具体的には、先ず155℃でポリッシングを2回行い、次にブラッシングを2回行い、次いで順次150℃、145℃、130℃及び120℃でそれぞれ1回ずつポリッシングを行い、その後シャーリングを2回行い、最後に100℃でポリッシングを2回行った。
以上のようにして、接触加熱加圧処理と延伸処理を行うための原反を作製した。
(2)接触加熱加圧処理と延伸処理
製造例2と同様にして、接触加熱加圧処理および延伸処理、その後のポリッシング、ブラッシング及びシャーリングを行った。
【0062】
(製造例16)
(1)ハイパイル布帛の編み立て
製造例15と同様にして、接触加熱加圧処理を行うための原反を作製した。
(2)接触加熱加圧処理
製造例8と同様にして、接触加熱加圧処理、その後のポリッシング、ブラッシング及びシャーリングを行った。
【0063】
<評価>
上記の製造例1〜16で得られたハイパイル布帛を上記の方法で、毛抜け量および裏面の硬さを測定し、評価した。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【符号の説明】
【0065】
1、11、21 地糸
2、12、22 パイル繊維
3、13、23 立毛パイル
4、14、24 熱圧着部
5、15、25 ハイパイル布帛
6、16、26 ループ
7 表面
8 裏面
17、27 矢印(ウェール方向)
18、28 矢印(コース方向)
30 加工装置
31 加熱ロール
32 冷却ゴムロール
33、34 金属冷却ロール
35 ガイドロール
36、37 容器
38 原反
38a 表面
38b 裏面
39 ハイパイル布帛
40 加工装置
41 テンター
42 ピンシート
43 加熱装置
44 ハイパイル布帛
45 ガイドロール
46 容器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維と、を含むハイパイル布帛であって、
前記パイル繊維は、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維であり、前記地糸を構成する繊維よりも軟化点が低く、
前記地糸に絡んだパイル繊維のうち、前記地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着されておらず、前記地組織の裏面で地糸より外側に配された少なくとも一部のパイル繊維は熱圧着されており、
前記地組織の裏面において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を有する
ことを特徴とするハイパイル布帛。
【請求項2】
前記地組織のメリヤスを構成する各ループの全てにパイル繊維が絡んでいる請求項1記載のハイパイル布帛。
【請求項3】
前記地組織のメリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向及び/又はコース方向においてパイル繊維の絡んでいない部分を有する請求項1記載のハイパイル布帛。
【請求項4】
前記パイル繊維の少なくとも一部に、接合抑制剤が付着された請求項1〜3のいずれかに記載のハイパイル布帛。
【請求項5】
メリヤスの地組織と、該地組織を構成する地糸に絡みつつ前記地組織の表面に立毛するパイル繊維とを含むハイパイル布帛の製造方法であって、
前記パイル繊維は、アクリル繊維及びアクリル系繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維であり、前記地糸を構成する繊維よりも軟化点が低く、
前記地組織の裏面から前記パイル繊維の軟化点以上かつ前記地糸を構成する繊維の軟化点未満の温度で接触加熱加圧して、前記地糸に絡んだパイル繊維のうち、前記地組織の表面に立毛するパイル繊維は熱圧着させず、前記地組織の裏面で地糸より外側に配された少なくとも一部のパイル繊維を熱圧着した後、前記メリヤスの地組織のウェール方向に延伸処理を施して、前記地組織の裏面において、前記メリヤスを構成する各ループのうち、ウェール方向に近接する複数のループについて、異なるループに絡んだパイル繊維同士が連結されていない部分を形成する
ことを特徴とするハイパイル布帛の製造方法。
【請求項6】
前記地組織のメリヤスを構成する各ループの全てにパイル繊維が絡んでいる請求項5記載のハイパイル布帛の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−233284(P2012−233284A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103682(P2011−103682)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】