説明

ハイパーブランチポリマー、顔料マスターバッチおよびそれを用いたトナー

【課題】 強度、ハンドリング性に良好で、さらに環境依存性の少ないハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチを提供する。
【解決手段】 少なくとも顔料とハイパーブランチポリマーを含む顔料マスターバッチに関する。または、ハイパーブランチポリマーが、コア部分にエステル結合を有し、さらにロジン類によって変性されていることを特徴とする上記に記載の顔料マスターバッチに関する。または、ハイパーブランチポリマーが、コア部分にエステル結合を有し、さらにアビエチン酸および/または水素添加アビエチン酸によって変性されていることを特徴とする上記に記載の顔料マスターバッチに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイパーブランチポリマー、ハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチ、およびそれを用いたトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
顔料マスターバッチとは、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレンーブタジエン共重合体、ポリスチレン等の樹脂を着色する為、予め顔料を高濃度で樹脂に分散させたものである。顔料マスターバッチは、顔料の入っていない樹脂や別の成分のマスターバッチとブレンドして目的物を得るために用いる。マスターバッチは、汎用性、コスト、取り扱い性、分散性等の改良のために成形、コーティング、接着、トナー等幅広い用途で用いられている。
【0003】
例えば、トナーに用いられる顔料マスターバッチとしては、特許文献1にて報告されている。特許文献1においては、特に3官能以上の架橋成分から成る幅広い分子量分布を持つ飽和ポリエステルを主なバインダー樹脂として用いており、顔料マスターバッチに用いる樹脂は、バインダー樹脂と同一の組成を持ち、より低分子の飽和ポリエステルを主体としたものが好ましいと述べられている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術を用いた顔料マスターバッチは、バインダー樹脂と同一の組成で、しかも低分子量の樹脂を用いることを特徴としているだけであり、飛躍的に顔料分散性を向上させているとは言い難い。また、バインダー樹脂として、顔料マスターバッチに用いる樹脂と異なる樹脂を用いた場合、特に脂肪族ポリエステル樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、およびポリ乳酸樹脂等を用いた際に、色ムラや光沢不良を起こすという問題も散見された。つまり、特許文献1の技術においては、顔料マスターバッチに用いる樹脂が、バインダー樹脂と同様の組成に限られるため汎用性に乏しい上、飛躍的な顔料分散性の向上は実現できていない。このため、バインダー樹脂の組成に因らず、顔料分散性に富んだ樹脂が望まれている。
【0005】
ハイパーブランチポリマーとは高度に分岐したポリマーとして重合中に枝分かれを繰り返しながら生長していくポリマーであり、従来から幅広く利用されている線状ポリマー(低濃度で多官能成分が共重合されたポリマーも含む、以下同様。)とは異なる。このハイパーブランチポリマーは末端基を樹脂の外側に高濃度で有するが、ゲル化は起こしておらず、熱可塑性を示す。ハイパーブランチポリマーはAB(xは2以上の整数)型の分子の重合により合成できる事が知られている(非特許文献1、2)。ここでA、Bは互いに異なる官能基a、bを有する有機基であり、官能基a、bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こす事が可能であるものである。ABの重合時にAB型分子(1分子中にAとBの有機基を各1つ有する化合物)を共重合させることも知られている。
【0006】
ハイパーブランチポリマーは線状ポリマーと比較して、分子間の相互作用が弱く、低粘度であることが知られている。またハイパーブランチポリマーはその特異的な構造により極めて顔料分散性が良好であるという特徴を有している(特許文献2)。すなわちハイパーブランチポリマーは低粘度かつ顔料分散性が良好であるため、ハイパーブランチポリマーを顔料マスターバッチ用樹脂として用いることで、顔料濃度を極めて高めることができる他、生産効率を格段に向上させることが期待される。しかしながら、特許文献2で用いられているハイパーブランチポリマーや特許文献3、4で示されているようなハイパーブランチポリマーは分子量が低いために強度に懸念がある上、ガラス転移温度が低く、ハンドリング性に問題がある。さらには末端に多数の水酸基を有するため、高湿度下においては樹脂そのものの物性が変化する恐れがある。このため特許文献2〜4に示されているようなハイパーブランチポリマーは顔料マスターバッチ用の樹脂としては不適であると言わざるを得ない。
【0007】
一方、ロジン類は、樹木から得られる低揮発性の樹脂酸の総称であり、主成分は3環性ジテルペン類の一種であるアビエチン酸とその異性体類を含む天然物由来の物質である。天然物由来で入手し易く、かつ比較的安価であることから、紙の表面処理剤・インキ・塗料・顔料分散剤用樹脂等工業的にも広範に利用されている(特許文献5)。近年では顔料分散性に着目し、トナー用途として用いられた例(特許文献6、7)も見られるが、耐久性と流動性の問題から添加量に制限があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.J.フローリ(岡 小天、金丸 競 共著)、「高分子化学」第9章 丸善(株)、(1956)
【非特許文献2】石津 浩二、「分岐ポリマーのナノテクノロジー」第6章、(株)アイピーシー(2000)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−268573号公報
【特許文献2】特開2005−276401号公報
【特許文献3】米国特許公報第3,669,939号
【特許文献4】特許第2574201号公報
【特許文献5】特開特開平10−307419号公報
【特許文献6】特開2003−322997号公報
【特許文献7】特開2006−292820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は強度、ハンドリング性に良好で、さらに環境依存性の少ないハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意、研究検討した結果、ハイパーブランチポリマーを顔料マスターバッチの成分として用いることで、極めて顔料分散性が良好であり、さらには、環境依存性が少なく、樹脂強度、ハンドリング性に優れた顔料マスターバッチを作製するに至った。すなわち本発明は、少なくとも顔料とハイパーブランチポリマーを含む顔料マスターバッチとこれを用いて製造したトナーに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の顔料マスターバッチは、樹脂としてハイパーブランチポリマーを用いることで、極めて顔料分散性に優れる。さらには分子間相互作用が少ないといったハイパーブランチポリマー骨格由来の特徴から、粘度が低く、顔料濃度を高めることができる上、低シェア、短時間での混練りが可能となり、生産効率を格段に向上させることができる。また低シェア、短時間での混練りが可能となることから混練り中に樹脂の分子鎖が切断されるといった懸念点も低減できる。また、ハイパーブランチポリマーとして、末端官能基をロジン類やアビエチン酸等で変性したものの場合、樹脂強度、ハンドリング性に優れている上、官能基を低減していることから環境依存性が少なく、特にトナー用途として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で言うハイパーブランチポリマーはその構造において特に限定されないがAB型化合物の重縮合反応或いは重付加反応により得られるものを主骨格とすることが好ましい。ここでAとBは異なる官能基を有する有機基を示し、AB型化合物とは一分子中に2種の異なる官能基a、bを併せ持った化合物を意味するものである。これら化合物は分子内縮合、分子内付加はしないが官能基aと官能基bは互いに化学的に縮合反応、付加反応を起こさせる事が可能な官能基である。本発明は特にコア部分にエステル結合を有したものが好ましく、官能基aと官能基bはカルボキシル基或いはその誘導体と水酸基或いはその誘導体の組み合わせが好ましい。
【0014】
AB型化合物の具体的な例としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、ジフェノール酸、5−(2−ヒドロキシエトキシ)イソフタル酸、5−アセトキシイソフタル酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、3,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸メチルエステル、4,4−(4’−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、5−ヒドロキシシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−ジヒドロキシ−5−カルボキシシクロヘキサン、5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、1,3−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−カルボキシシクロヘキサン等が挙げられるが、これら原料化合物としての汎用性及び重合反応工程の簡便さからは、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0015】
これらの内、反応によりエステル結合が生成するタイプは得られたハイパーブランチポリマーの耐熱性、他樹脂成分や添加物成分との相溶性の観点から特に好ましい。
【0016】
上記反応は、AB型の化合物を単独で縮合反応触媒の存在下に反応させても良いし、多価ヒドロキシ化合物や多価カルボン酸化合物、或いはそれらを合わせ持つ化合物をハイパーブランチポリマー分子の分岐点として用いても良い。上記多価ヒドロキシ化合物としてはポリエステル樹脂原料として汎用の種々グリコール化合物やトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上の水酸基含有化合物が挙げられる。また、多価カルボン酸化合物としては同様にポリエステル樹脂原料として汎用の種々二塩基酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の3官能以上のカルボン酸化合物が挙げられる。更には水酸基とカルボン酸基を合わせ持った化合物の例として、グリコール酸、ヒドロキシピバリン酸、3−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。
【0017】
本発明のハイパーブランチポリマー分子の分岐点として上記以外に、二塩基酸成分とグリコール成分の縮合反応で得られる線状のポリエステルオリゴマーやこれらに3官能以上の多価カルボン酸や多価ヒドロキシ化合物を共重合した分岐型ポリエステルオリゴマーを用いても良い。
【0018】
上記分岐点となりうる線状、或いは分岐型ポリエステルオリゴマーの構成原料としては汎用の種々二塩基酸やグリコール化合物、或いは3官能以上の多価カルボン酸や多価アルコール化合物を用いる事ができる。二塩基酸化合物としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族系二塩基酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族系ニ塩基酸、或いは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸が挙げられるが、耐熱特性から、好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸であり、特に好ましくはテレフタル酸、1,2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0019】
また、グリコール成分としてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−nブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族系ジオール類や1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族系グリコール類、或いはビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物等の芳香族系グリコール類が挙げられるがこれらのうち、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、およびビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物が得られるポリエステル樹脂の耐熱特性と原料としての汎用性から好ましい。
【0020】
更に上記3官能以上の多価カルボン酸や多価アルコール化合物としては、トリメリット酸やピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0021】
上記反応は、縮合反応で生成する縮合水をトルエンやキシレンにより共沸脱水させる方法、反応系内に不活性ガスを吹き込み不活性ガスと共に縮合反応で生成した水やモノアルコールを反応系外に吹き出す方法または減圧下に溜去する方法等で進められる。反応に用いられる触媒としては通常のポリエステル樹脂重合触媒同様、チタン系、錫系、アンチモン系、亜鉛系、ゲルマニウム系等の種々金属化合物やp−トルエンスルホン酸や硫酸等の強酸化合物を用いる事が出来る。
【0022】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーは数平均分子量が1000〜60000であり、ガラス転移温度は30℃以上が望ましい。本発明においては、ハイパーブランチポリマーの分子量、ガラス転移温度を高めるために、ハイパーブランチポリマーとロジン類を反応させることが望ましい。ロジン類を反応させる方法としてはAB型の化合物の縮合により形成されたハイパーブランチ構造のコア部末端の官能基とロジン類を反応させる方法が望ましいが、AB型の化合物の縮合過程にロジン類を反応させても何ら問題はない。
【0023】
上記ハイパーブランチポリマーの変性に用いるロジン類の具体的な成分としては、アビエチン酸、レボピマール酸、パルストリン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸などがあり、これらのうち1種以上含まれるものを用いることが好ましい。本発明で用いるロジンはこれらの混合物もしくはそれらを精製したものであってもよく、それらを変性したものでも良い。もちろん、ロジンの構成成分であるアビエチン酸、レボピマール酸、パルストリン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸等そのものやそれらの水素添加物を使用しても何ら問題はない。特にアビエチン酸または水素添加アビエチン酸を用いるものも好ましい。ロジンは化学構造としてはモノカルボン酸に属し、反応する基としてはカルボキシル基が代表的なものである。本発明で用いるロジン類としては、着色を低減する目的から、超淡色ロジンを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーの水酸基価は1〜510mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が1mgKOH/g未満では後述する酸付加変性反応を行うことが困難となり、顔料分散性を確保できないことがある。一方水酸基価が510mgKOH/gを超えると吸湿性が高くなり、環境依存性が極めて高くなるおそれがある。水酸基価として、より好ましくは2〜350mgKOH/g、さらに好ましくは3〜250mgKOH/gである。
【0025】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーには必要に応じて分子末端にカルボキシル基を有していても良い。カルボキシル基が適度に分子内に導入されていることにより、顔料分散性をさらに向上させることができ、さらには他材料との親和性が良好になる。樹脂にカルボキシル基を導入する方法としては限定されず、一般に知られた方法を用いることができるが、特にハイパーブランチポリマー末端水酸基に酸無水物化合物を付加反応させる方法が望ましい。酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水マロン酸、無水コハク酸、無水プロピオン酸、無水メチルハイミック酸、無水ハイミック酸、オクテニル無水コハク酸、ペンタドデセニル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、スチルエンドスチレンテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、スチルエンドスチレンテトラヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸等の脂環式または芳香族二塩基酸無水物等が挙げられる。好ましくは無水トリメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸が望ましい。またベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物、ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物、等の多官能無水物も用いることができる。これらの酸無水物は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーの酸価は1〜70mgKOH/gであることが好ましく、1〜50mgKOH/gであることがさらに好ましい。上記酸価が1mgKOH/g未満では顔料分散性が低下するおそれがある。一方酸価が70mgKOH/gを超えると、高温・高湿度下での樹脂物性に影響を及ぼす他、樹脂同士の凝集が顕著となり、顔料分散性が低下するおそれがある。
【0027】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーにはスルホン酸金属塩基を分子内に導入することで顔料分散性を飛躍的に向上することが出来る。その際スルホン酸金属塩基量は500eq/ton以下が望ましく、400eq/ton以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、スルホン酸金属塩基量が500eq/tonを超えると樹脂溶融粘度が上昇し、ハイパーブランチポリマーの特性が損なわれるため好ましくない。
【0028】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーにスルホン酸金属塩を導入させる方法としては、ハイパーブランチ末端官能基と共重合可能なスルホン酸金属塩基を持った化合物を共重合させる方法が好ましい。ハイパーブランチ末端官能基と共重合可能なスルホン酸金属塩基を持った化合物としては2−ナトリウムスルホ−1,4−ブタンジオール、2−ナトリウムスルホ−1,6−ヘキサンジオール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸のエチレングリコールジエステル、5−ナトリウムイソフタル酸ジメチルエステルなどが挙げられる。
【0029】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーを作製するにあたり、ロジン類や酸無水物との反応、スルホン酸金属塩基を持った化合物との反応には触媒を用いても良い。触媒としては、例えば、チタン系、錫系、アンチモン系、亜鉛系、ゲルマニウム系等の種々金属化合物やp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、キシレンスルホン酸等の有機スルホン酸化合物を用いる事が出来る。上記重合触媒は1種又は2種以上使用してもよい。
【0030】
上記の反応温度は100〜300℃、さらには150℃〜250℃が好ましい。100℃より低いと反応に時間を要し、経済的ではない。また300℃を超えるとハイパーブランチポリマーならびに反応性基を有する化合物の分解が起こる可能性がある。
【0031】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーは数平均分子量で1000以上が望ましい。数平均分子量が1000より低いと樹脂が脆くなることがある。一方、数平均分子量が60000を超えると他樹脂との相溶性が悪くなるおそれがあり、さらには溶融流動特性が悪くなる結果、ハイパーブランチポリマーとしての特性が失われるおそれがある。数平均分子量として好ましい範囲は1000〜60000であり、より好ましくは1500〜40000の範囲である。
【0032】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は2〜15であることが望ましい。この比が15を超えるとハイパーブランチポリマーに固有の溶融流動特性が悪化することがある。また、製造中にゲル化のおそれがあり、安定に生産できない可能性がある。一方Mw/Mnが2よりも小さいとポリマーとしての脆さが顕著となることがある。Mw/Mnとして好ましい範囲は4〜12である。
【0033】
本発明の顔料マスターバッチに用いるハイパーブランチポリマーのガラス転移温度は30℃以上であることが好ましい。より好ましくは、ガラス転移温度が40℃以上である。30℃未満であるとハンドリング性が悪く、ポリマー保管時にポリマー同士が融着するおそれがある。上限は特に限定されないがハイパーブランチポリマーの流動特性を考慮した場合、120℃未満であることがトナーとして使用した場合に定着性の観点から好ましい。
【0034】
本発明の顔料マスターバッチはハイパーブランチポリマーと顔料を必須成分として含むが、ハイパーブランチポリマーの特性を損なわない程度に他の線状ポリマーや他のハイパーブランチポリマーとブレンド使用されても問題何らはない。他の線状ポリマーとしてはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリスチレン等を挙げることができる。ハイパーブランチポリマーを他の線状ポリマーとブレンドして用いる場合、線状ポリマーを全樹脂中に70重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下で含有することが望ましい。70重量%よりも多く線状ポリマーを含有すると、ハイパーブランチポリマーの特性が発現しないことがある。
【0035】
本発明の顔料マスターバッチは、例えばトナー用途として用いることができる。特にカラートナーでは特に発色性が重視される。この発色性はカラー顔料の種類にもよるが、トナー中の顔料分散状態に大きく影響される。すなわち、顔料が良好に分散したトナーの画像は発色性が良好で明るい色調になるのに対し、顔料の分散が不良のトナーでの画像は発色性が不良となり暗めの色調となってしまう。また、カラー顔料自体も摩擦帯電性を有していることから、顔料分散が不良のトナーでは個々のトナーの帯電性が不均一になってしまい、地カブリなどの画像不良が発生しやすくなる。本発明の顔料マスターバッチは、極めて顔料分散性に優れるハイパーブランチポリマー含むため、本発明の顔料マスターバッチを用いることで、極めて顔料分散が良好で、帯電性が均一なトナーを作製することができる。
【0036】
本発明の顔料マスターバッチを用いて作製したトナーはガラス転移温度を超えると樹脂の流動が容易に起こるハイパーブランチポリマーを含むため、トナーの低温定着性の向上にも寄与することができる。
【0037】
本発明の顔料マスターバッチは、ハイパーブランチポリマーと顔料を必須成分とし、必要により他の無機粒子、有機粒子、ワックス類、溶剤を配合しても良い。この場合の顔料濃度は顔料の種類によって異なるが、顔料マスターバッチ中通常10〜60質量%である。
【0038】
有機顔料としては公知のものが使用される。例えば、アニリンブルー,カルコオイルブルー,フタロシアニンブルー,ウルトラマリンブルー,紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、キナクリドン、クロムイエロー,キノリンイエロー,メチレンブルークロライド,マラカイトグリーンオクサレート,ローズベンガル,デュポンオイルレッド,パーマネントレッド4R、レーキレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、ブリリアントカーミン3B、ファーストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、キナクリドン、ローダミンB、ローダミンレーキ、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG等が挙げられる。これら有機顔料類は単独または混合して使用できる。
【0039】
また、有機粒子としては、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、シリコン樹脂、メタクリレート樹脂、アクリレート樹脂、テルペン樹脂などのポリマー粒子、或いはセルロースパウダー、ニトロセルロースパウダー、木粉、古紙粉、籾殻粉、でんぷんなどが挙げられる。ポリマー粒子は乳化重合、懸濁重合、分散重合、ソープフリー重合、マイクロサスペンジョン重合などの重合法により得られた有機粒子を用いて分散してもよい。粒子の形状は粉末状、粒状、顆粒状、平板状、針状など、どのような形でも良く限定されない。これら有機粒子類は単独または混合して使用できる。
【0040】
無機顔料としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、鉄、ジルコニウム、モリブデン、珪素、アンチモン、チタン等の金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、珪酸塩などを含有する無機系粒子、カーボンブラックなどが挙げられる。これら無機顔料類は単独または混合して使用できる。
【0041】
ワックス類の具体例としては流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、ポリエチレンワックスなどの炭化水素系ワックス類、ステアリン酸などの脂肪酸系ワックス類、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミドなどの脂肪酸系アミドワックス、脂肪酸の低級アルコールエステル、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステルなどのエステル系ワックス、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどのアルコール系ワックス、オレフィン系ワックス、カスターワックス、カルナバワックスなどの天然物ワックス、炭素数12〜30の脂肪酸から誘導される金属石けん類などが挙げられる。これらワックス類は単独または混合して使用できる。
【0042】
有機溶剤としては例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソなどの芳香族系炭化水素溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤、更にはこれらをアセチルエステル化した、グリコールエーテルエステル系溶剤、乳酸エチル、乳酸メチルなどの乳酸エステル系溶剤などが挙げられる。前記溶剤は1種、又は2種以上でも用いることができる。
【0043】
本発明の顔料マスターバッチには必要に応じ、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、香料、抗菌剤、分散剤、重合禁止剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加できる。
【0044】
本発明の顔料マスターバッチの製造方法としては、ハイパーブランチポリマーと無機顔料、有機顔料等を通常の分散機、例えば、ペイントシェーカー、加圧ニーダ、バンバリミキサ、二本ロール混練機、三本ロール混練機、ロールミル分散機、サンドグラインドミル分散機、プラネタリーミキサー、ハイスピードディスパー分散機、一軸混練機、二軸混練機等を用いて、樹脂特性に応じた温度条件等を設定し混合分散することができる。
【0045】
本発明の顔料マスターバッチを用いてトナーを作製する方法としては、マスターバッチに主樹脂及び各種添加剤と混合して溶融混練、粉砕分級を行ってトナー化するいわゆる粉砕法が挙げられる。一方、本発明の顔料マスターバッチは非常に高濃度の顔料を効率よく分散することが出来るため、溶剤溶解型や水分散型のポリエステル樹脂の着色にも応用が期待できる。このため、いわゆる重合法によってトナーを作製してもよい。重合法の例としては、ビニル系のモノマーに開始剤や着色剤等を混在させ、いわゆるラジカル重合法により粒子を成長させていく方法、水に分散した「微粒子樹脂」や有機溶剤に樹脂を溶解した「樹脂溶液」を出発物質とし、顔料マスターバッチやワックス分散液等と凝集、混合することなどによって粒子を作成した後、必要に応じて脱溶剤を行い、その後、加熱することによって粒子を融合、合一する方法などが挙げられる。本発明の顔料マスターバッチを用いてトナーを作製する場合、粉砕法でも重合法でもどちらを用いてもよい。
【0046】
以上のような工程にて製造されたトナー粒子に外添処理を施す際、用いられる外添剤としては、静電荷像現像用トナーの分野で流動性調整剤として使用されている公知の無機微粒子が使用可能であり、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブテン、炭化カルシウム、ダイヤモンドカーボンラクタム等の各種炭化物、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム等の各種窒化物、ホウ化ジルコニウム等の各種ホウ化物、酸化チタン(チタニア)、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム、シリカ、コロイダルシリカ等の各種酸化物、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム等の各種チタン酸化合物、二硫化モリブデン等の硫化物、フッ化マグネシウム、フッ化炭素等の各種フッ化物、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の各種金属石鹸、滑石、ベントナイト等の各種非磁性無機微粒子を単独あるいは組み合わせて用いることができる。無機微粒子、特にシリカ、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛等は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、シリコーンオイル、シリコーンワニス等の従来から使用されている疎水化処理剤、さらにはフッ素系シランカップリング剤、またはフッ素系シリコーンオイル、さらにアミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するカップリング剤、変性シリコーンオイル等の処理剤を用いて公知の方法で表面処理されていることが好ましい。
【0047】
外添剤として使用される無機微粒子の平均1次粒径は5〜100nm、好ましくは10〜50nm、より好ましくは20〜40nmである。
【0048】
ハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチを用いたトナーはそのまま一成分現像剤として、あるいはキャリアとトナーからなる二成分現像剤におけるトナーとして使用することができる。二成分現像剤に使用できるキャリアとしては芯材表面にポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂からなる被覆層を有する樹脂コートキャリアを挙げる事ができる。また、マトリックス樹脂に金、銅等の金属やカ−ボンブラックを分散した樹脂分散型キャリアであっても良い。キャリアの芯材としては鉄、ニッケル等の磁性金属、フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0049】
本発明のハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチを用いて作製したトナーはフルカラー画像形成装置において使用されるフルカラートナーとして使用されても、またはモノクロ画像形成装置において使用されるモノクロトナーとして使用されてもよい。
【0050】
本発明のハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチを用いて作製したトナーは、いかなるタイプの定着装置を有する画像形成装置に使用されてもよいが、ローラ等の定着部材に塗布される離型用オイルの量が低減されたタイプの定着装置、すなわち離型用オイルの塗布量が4mg/m以下の定着装置、特に離型用オイルを塗布しないタイプの定着装置を有する画像形成装置に使用されることが好ましい。
【0051】
本発明のハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチを用いてトナーを作製することで、極めて顔料分散が良好で、帯電性が均一なトナーを作製することができる。また、分散樹脂として分子間相互作用の少ないハイパーブランチポリマーを用いているために、トナーの低温定着性にも寄与することができる。
【実施例】
【0052】
次に本発明を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、樹脂、樹脂粒子分散体、顔料分散体、ワックス分散体の特性は以下のように測定した。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。
【0053】
(1)数平均分子量、重量平均分子量:テトラヒドロフランを溶離液としたウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)150cを用いて、カラム温度30℃、流量1ml/分にてGPC測定を行った結果から計算して、ポリスチレン換算の測定値を得た。ただしカラムは昭和電工(株)shodex KF−802、804、806を用いた。
【0054】
(2)酸価:試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した。ついで、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレインを用いた。
【0055】
(3)水酸基価:無水酢酸のピリジン溶液でエステル化し、過剰の無水酢酸を水酸化カリウム溶液で、フェノールフタレインを指示薬として滴定した。
【0056】
(4)スルホン酸金属塩基濃度:金属成分であるNa濃度より求めた。Na濃度試料0.1gを炭化し、酸に溶解した後、原子吸光分析により求め、その価をスルホン酸金属塩の含有量として換算した。単位をeq/tonとして表した。
【0057】
(5)ガラス転移温度:サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0058】
樹脂の製造例(1)
ハイパーブランチポリマーA1の合成
パーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜にペンタエリスリトール136部、ジメチロールブタン酸1776部、パラトルエンスルホン酸(以下PTSと略す)21部を仕込み100℃下に攪拌し、均一な液状混合溶融物とした。次いでトルエン100部を注入後140℃に昇温し、トルエンを還流しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。同条件で5時間反応を継続した後、系外へトルエンを留去し、(コアとなる)ハイパーブランチポリマーA1を得た。得られた重縮合物の数平均分子量は1500、重量平均分子量は2100、水酸基価は502.0mgKOH/g、酸価は0.6mgKOH/g、ガラス転移温度は32℃であった。
【0059】
次いで、このハイパーブランチポリマー(A1)1000部にパインクリスタルKR−85(荒川化学工業社製、超淡色ロジン)を1450部、PTSを30部添加し、230℃、水を溜去しながら窒素雰囲気下で24時間反応させ、ハイパーブランチポリマーB1を得た。得られハイパーブランチポリマーB1の数平均分子量は2200、重量平均分子量は18200、水酸基価は48.0mgKOH/g、酸価は1.8mgKOH/g、ガラス転移温度は58℃であった。
【0060】
樹脂の製造例(2)
ハイパーブランチポリマー(A1)1000部にアビエチン酸を2010部、PTSを30部添加し、230℃、窒素雰囲気下で24時間反応させ、ハイパーブランチポリマーB2を得た。得られたハイパーブランチポリマーB2の数平均分子量は2800、重量平均分子量は10100、水酸基価は25.0mgKOH/g、酸価は1.4mgKOH/g、ガラス転移温度は65℃であった。
【0061】
樹脂の製造例(3)
ハイパーブランチポリマー(A1)1000部にパインクリスタルKR−85を2102部、PTSを30部添加し、230℃、窒素雰囲気下で24時間反応させた。その後、窒素気流下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を90部投入し、30分間反応を行い、ハイパーブランチポリマーB3を得た。得られたハイパーブランチポリマーB3の数平均分子量は3100、重量平均分子量は14300、水酸基価は21.0mgKOH/g、酸価は11.2mgKOH/g、ガラス転移温度は64℃であった。
【0062】
樹脂の製造例(4)
ハイパーブランチポリマーA2の合成
パーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜にペンタエリスリトール136部、ジメチロールブタン酸4144部、PTS21部を仕込み100℃下に攪拌し、均一な液状混合溶融物とした。次いでトルエン100部を注入後140℃に昇温し、トルエンを還流しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。同条件で5時間反応を継続した後、系外へトルエンを留去し、(コアとなる)ハイパーブランチポリマーA2を得た。得られた重縮合物の数平均分子量は2300、重量平均分子量は3500、水酸基価は494.0mgKOH/g、酸価は0.7mgKOH/g、ガラス転移温度は40℃であった。
【0063】
次いで、このハイパーブランチポリマー(A2)1000部に白菊ロジン(荒川化学工業社製)を1390部、パラトルエンスルホン酸を30部添加し、230℃、水を溜去しながら窒素雰囲気下で24時間反応させた。その後、170℃まで冷却し、5−ナトリウムイソフタル酸ジメチルエステルを100部投入し、220℃にて6時間反応を行い、ハイパーブランチポリマーB4を得た。得られたハイパーブランチポリマーB4の数平均分子量は4200、重量平均分子量は59000、水酸基価は25.0mgKOH/g、酸価は1.7mgKOH/g、スルホン酸金属塩基濃度は140eq/ton、ガラス転移温度は66℃であった。
【0064】
樹脂の製造例(5)
ハイパーブランチポリマーA3の合成
パーシャルコンデンサー、温度計、攪拌棒を具備した反応釜にペンタエリスリトール136部、ジメチロールブタン酸8880部、PTS21部を仕込み100℃下に攪拌し、均一な液状混合溶融物とした。次いでトルエン100部を注入後140℃に昇温し、トルエンを還流しつつ発生する水を共沸により系外に溜去した。同条件で5時間反応を継続した後、系外へトルエンを留去し、(コアとなる)ハイパーブランチポリマーA3を得た。得られた重縮合物の数平均分子量は2800、重量平均分子量は5100、水酸基価は484.0mgKOH/g、酸価は0.7mgKOH/g、ガラス転移温度は43℃であった。
【0065】
次いで、ハイパーブランチポリマー(A3)1000部にアビエチン酸を2300部、パラトルエンスルホン酸を30部添加し、230℃、窒素雰囲気下で24時間反応させ、ハイパーブランチポリマーB5を得た。得られたハイパーブランチポリマーB5の数平均分子量は2500、重量平均分子量は8600、水酸基価は15.2mgKOH/g、酸価は1.1mgKOH/g、ガラス転移温度は78℃であった。
【0066】
樹脂の製造例(6)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にテレフタル酸318部、イソフタル酸318部、無水トリメリット酸7.7部、エチレングリコール447部、2−メチル−1、3−プロパンジオール70部を入れて、窒素雰囲気下、160℃から230℃まで3時間かけてエステル化反応を行った。放圧後、テトラブチルチタネート0.42部を仕込み、次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素気流下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を4部投入し、30分間反応を行った。得られたポリエステル樹脂B6の数平均分子量は9000、重量平均分子量は21000、水酸基価は10.5mgKOH/g、酸価18.0mgKOH/g、ガラス転移温度は55℃であった。
【0067】
樹脂の製造例(7)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にテレフタル酸330部、イソフタル酸330部、無水トリメリット酸7.7部、エチレングリコール322部、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物1300部を入れて、窒素雰囲気下、160℃から230℃まで3時間かけてエステル化反応を行った。放圧後、テトラブチルチタネート0.42部を仕込み、次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂B7の数平均分子量は3100、重量平均分子量は9900、水酸基価は18.5mgKOH/g、酸価は12.0mgKOH/g、ガラス転移温度は56℃であった。
【0068】
樹脂の製造例(8)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にテレフタル酸325部、イソフタル酸325部、無水トリメリット酸15.4部、エチレングリコール322部、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物1300部を入れて、窒素雰囲気下、160℃から230℃まで3時間かけてエステル化反応を行った。放圧後、テトラブチルチタネート0.2部を仕込み、次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂C1の数平均分子量は4400、重量平均分子量は14900、水酸基価は17.5mgKOH/g、酸価は15.0mgKOH/g、ガラス転移温度は58℃であった。
【0069】
[実施例1]
前述の樹脂B1の100重量部に、着色剤として顔料TonerMagenta6B(クラリアント社製)を20重量部加えてヘンシェルミキサーで十分に混合した後、連続式2本ロール混練機(三井鉱山(株)製)で混練した。この混練物を粉砕機(ホソカワミクロン(株)製)で直径2mm程度に粗粉砕しマスターバッチBM1とした。得られたマスターバッチの30重量部に、前述のポリエステル樹脂C1を76重量部、CCAとしてBontronE−81(オリヱント化学工業(株)製)を1重量部、および離型剤としてカルナウバワックス(日本ワックス社製)を1重量部それぞれ添加し、ヘンシェルミキサーで十分に混合した後、二軸押出機(東芝機械(株)製)で溶融混練し、常温(25℃)に冷却後、粉砕・分級機(ホソカワミクロン(株)製)で粉砕・分級し、重量D50が8μmの母粒子を作製した。この母粒子の100重量部に対して、シリカRX200(日本アエロジル(株)製)を1.0重量部添加して、ヘンシェルミキサーで混合し、実施例1のトナーBMT1を得た。
【0070】
[実施例2〜5]
実施例1において、ハイパーブランチポリマーB1を用いる代わりにそれぞれハイパーブランチポリマーB2〜B5を用いて、同様の操作により顔料マスターバッチBM2〜BM5、トナー粒子BMT2〜BMT5を得た。
【0071】
ハイパーブランチポリマーB1を22重量部、メチルエチルケトン160重量部を含む溶液を十分に溶解し、これにカーボンブラックを28重量部、ジルコニアビーズ300重量部を投入し、ペイントシェーカーが12時間振とうした。メッシュでジルコニアビーズを除去し、顔料マスターバッチBM6を得た。次いで、機械的撹拌機、窒素バブリング用導入管をとりつけた重合容器に、ポリメチルビニルエーテルを94重量部、エタノールを800重量部、スチレンを90重量部、n−ブチルアクリレートを20重量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6重量部からなる混合物を十分に溶解した。これを撹拌しつつ、顔料マスターバッチBM6を70重量部徐々に投入して重合反応系を形成した。重合反応系を20℃に保持しつつ、重合反応系内の溶存酸素量が0.1mg/リットルになるまで液中に窒素をバフリングした。これを75℃に加熱し、撹拌下12時間重合した。重合中も窒素のバブリングを継続した。反応終了後、撹拌しつつ20℃まで冷却し、デカンテーションしてトナー粒子分散液を回収した20℃〜22℃に保持しつつ、トナー粒子分散液をメタノールによる洗浄と固液分離を5回繰り返し、乾燥して黒色のトナー粒子BMT6を得た。
【0072】
[比較例1]
前述のポリエステル樹脂B6の100重量部に、着色剤として顔料TonerMagenta6B(クラリアント社製)を20重量部加えてヘンシェルミキサーで十分に混合した後、連続式2本ロール混練機(三井鉱山(株)製)で混練した。この混練物を粉砕機(ホソカワミクロン(株)製)で直径2mm程度に粗粉砕しマスターバッチBM7とした。得られたマスターバッチの30重量部に、前述のポリエステル樹脂C1を76重量部、CCAとしてBontronE−81(オリヱント化学工業(株)製)を1重量部、および離型剤としてカルナウバワックス(日本ワックス(株)製)を1重量部それぞれ添加し、ヘンシェルミキサーで十分に混合した後、二軸押出機(東芝機械(株)製)で溶融混練し、常温(25℃)に冷却後、粉砕・分級機(ホソカワミクロン(株)製)で粉砕・分級し、重量D50が14.8μmの母粒子を作製した。この母粒子の100重量部に対して、シリカRX200(日本アエロジル(株)製)を1.0重量部添加して、ヘンシェルミキサーで混合し、比較例1のトナーBMT7を得た。
【0073】
[比較例2]
比較例1において、ポリエステル樹脂B6を用いる代わりにポリエステル樹脂B7を用いて同様の操作により、顔料マスターバッチBM8、トナー粒子BMT8を得た。
【0074】
[比較例3]
ポリエステル樹脂B6を22重量部、メチルエチルケトン160重量部を含む溶液を十分に溶解し、これにカーボンブラックを28重量部、ジルコニアビーズ300重量部を投入し、ペイントシェーカーが12時間振とうした。メッシュでジルコニアビーズを除去し、顔料マスターバッチBM9を得た。次いで、機械的撹拌機、窒素バブリング用導入管をとりつけた重合容器に、ポリメチルビニルエーテルを94重量部、エタノールを800重量部、スチレンを90重量部、n−ブチルアクリレートを20重量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6重量部からなる混合物を十分に溶解した。これを撹拌しつつ、顔料マスターバッチBM9を70重量部徐々に投入して重合反応系を形成した。重合反応系を20℃に保持しつつ、重合反応系内の溶存酸素量が0.1mg/リットルになるまで液中に窒素をバフリングした。これを75℃に加熱し、撹拌下12時間重合した。重合中も窒素のバブリングを継続した。反応終了後、撹拌しつつ20℃まで冷却し、デカンテーションしてトナー粒子分散液を回収した20℃〜22℃に保持しつつ、トナー粒子分散液をメタノールによる洗浄と固液分離を5回繰り 返し、乾燥して黒色のトナー粒子BMT9を得た。
【0075】
(バインダー型キャリアの製造)
上記実施例ならびに比較例で得られたトナーを2成分系現像剤として評価に供するため、バインダー型キャリアを製造した。
ポリエステル系樹脂100質量部、磁性粒子(マグネタイト;EPT−1000:戸田工業社製)700質量部およびカーボンブラック(モーガルL;キャボット社製)2質量部をヘンシェルミキサーで十分混合し、二軸押出混練機でシリンダ部180℃、シリンダヘッド部170℃に設定し、溶融混練した。この混練物を冷却し、その後、ハンマーミルで粗粉砕し、ジェット粉砕機で微粉砕、分級して、体積平均粒径40μmのバインダー型キャリアを得た。
【0076】
[評価方法]
実施例中、顔料マスターバッチ特性、トナー特性は以下のように測定した。
【0077】
(顔料マスターバッチ特性評価方法)
顔料マスターバッチをテトラヒドロフラン(THF)に10%濃度で溶解し、プレパラート上に適量を滴下し、溶剤が蒸発しないようにカバーグラスで覆った状態で、透過型電子顕微鏡画像により観察、評価した。
◎:凝集体なし
○:凝集体少しあり(品質上問題なし)
△:凝集体あり(品質上問題あり)
×:凝集体多い
【0078】
(トナー特性評価方法)
体積平均粒径
体積平均粒径は、コールターカウンターLS13 320(ベックマン社製)を用いて測定した。
【0079】
耐熱性
トナー10gを50℃の高温下で24時間放置した後、トナーを目視観察して評価した。
○:凝集物は全く見られなかった
△:凝集物は10個未満存在した
×:凝集物は10個以上存在した
【0080】
以下の評価においては、トナーとキャリアとをトナー濃度が6質量%となるように混合して得られた現像剤を用いた。
【0081】
帯電環境安定性
低温低湿環境(10℃、15%)で24時間保管した現像剤の帯電量と、高温高湿環境(30℃、85%)で24時間保管した現像剤の帯電量とをブローオフ法により測定し、これらの測定値の差で帯電環境安定性を評価した。
○:差の絶対値が7μC/g以下である
×:差の絶対値が7μC/gを越える
【0082】
着色度
白色紙上に、それぞれ単色で画像濃度;1.0mg/cm、定着温度;160℃の条件で定着し、着色度をマクベス濃度計(RD−514)にて測定。数値が大きいほど着色度大。
【0083】
定着性
定着性は耐剥離性および耐オフセット性の評価結果から総合的に評価した。
○:全ての項目の結果が「◎」または「○」であった
△:「◎」または「○」のほかに「△」が含まれていた
×:少なくとも1つの「×」が含まれていた
【0084】
耐剥離性
定着温度を80〜130℃の範囲で2℃刻みで変化させながら、オイルレス定着器を備えたデジタル複写機(DIALTA Di350;ミノルタ社製)にて、1.5cm×1.5cmのベタ画像(付着量2.0mg/cm)をとり、それぞれの画像を真中から2つに折り曲げてその画像の耐剥離性を目視にて評価した。画像が若干剥離した時の定着温度と全く剥離しない下限の定着温度との間の温度を定着下限温度とした。
◎:定着下限温度が102℃未満であった
○:定着下限温度が102℃以上、106℃未満であった
△:定着下限温度が106℃以上、112℃未満であった
×:定着下限温度が112℃以上であった。
【0085】
耐オフセット性
デジタル複写機(DIALTA Di350;ミノルタ社製)の定着システム速度を1/2にして、定着温度を90℃〜150℃の範囲において5℃刻みで変化させながらハーフトーン画像をとり、オフセットの状態を目視で観察し、高温オフセットが発生する温度(オフセット温度)を評価した。
◎:オフセット温度が128℃以上であった
○:オフセット温度が120℃以上、128℃未満であった
△:オフセット温度が115℃以上、120℃未満であった
×:オフセット温度が115℃未満であった。
【0086】
耐ストレス性
耐ストレス性は、トナーの連続使用により、圧潰または摩滅したトナー粒子が有機光導電体の表面に薄層状に付着する現象の有無によって評価した。
【0087】
上記実施例1〜6、比較例1〜5のトナーの物性を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1から、本発明のハイパーブランチポリマー系顔料マスターバッチは極めて顔料分散性が良好であり、さらにそれを用いたトナーは特に着色性、耐熱性、定着性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の顔料マスターバッチは、樹脂としてハイパーブランチポリマーを用いることで、極めて顔料分散性に優れた顔料マスターバッチを提供することができる。また、ハイパーブランチポリマーは分子間相互作用が少ないことから粘度が低く、顔料濃度を高めることができる上、低シェア、短時間での混練りが可能となり、生産効率を格段に向上させることができる。さらには、環境依存性が少なく、樹脂強度、ハンドリング性に優れたハイパーブランチポリマーを用いているため、トナー用途としても極めて有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が1000〜60000であり、
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2〜15であり、
ガラス転移温度が30℃以上であり、
水酸基価が1〜510mgKOH/gであり、
コア部分にエステル結合を有し、さらにロジン類によって変性されていることを特徴とするハイパーブランチポリマー
【請求項2】
数平均分子量が1000〜60000であり、
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2〜15であり、
ガラス転移温度が30℃以上であり、
水酸基価が1〜510mgKOH/gであり、
コア部分にエステル結合を有し、さらにアビエチン酸および/または水素添加アビエチン酸によって変性されていることを特徴とするハイパーブランチポリマー
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイパーブランチポリマーの末端水酸基に酸無水物を付加反応させたハイパーブランチポリマー。
【請求項4】
請求項1または2に記載のハイパーブランチポリマーの末端官能基と共重合可能なスルホン酸金属塩基を持った化合物を共重合させたハイパーブランチポリマー。
【請求項5】
酸価が1〜70mgKOH/gである請求項1〜4のいずれかに記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項6】
少なくとも顔料と請求項1〜5のいずれかに記載のハイパーブランチポリマーを含む顔料マスターバッチ。
【請求項7】
請求項に記載の顔料マスターバッチを用いて製造したトナー。

【公開番号】特開2011−116997(P2011−116997A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42061(P2011−42061)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【分割の表示】特願2007−45366(P2007−45366)の分割
【原出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】