ハイパーレンズ及びそれを用いた光学顕微鏡システム
【課題】ハイパーレンズを用いてサンプルの光学特性の波長依存性の情報を入射光の波長以下のサイズで得る。
【解決手段】複数の光源波長と各光源波長に合わせて設計・作製したハイパーレンズ1007をレーザ顕微鏡のレンズホルダ1001に配置する。被観察物体の色素1006をサンプルホルダ1005に並べ、光源部1003からの入射光1008を入射し、ハイパーレンズ1007を通過した光を顕微鏡307で受け、CCDカメラ309で観測する。光源波長毎に複数のサンプル像を取得し、複数のサンプル像を位置あわせ・強度合わせして重ね合わせる。
【解決手段】複数の光源波長と各光源波長に合わせて設計・作製したハイパーレンズ1007をレーザ顕微鏡のレンズホルダ1001に配置する。被観察物体の色素1006をサンプルホルダ1005に並べ、光源部1003からの入射光1008を入射し、ハイパーレンズ1007を通過した光を顕微鏡307で受け、CCDカメラ309で観測する。光源波長毎に複数のサンプル像を取得し、複数のサンプル像を位置あわせ・強度合わせして重ね合わせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパーレンズ及びそれを用いた光学顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズは光学顕微鏡など多くの分野で使用されている。光学顕微鏡は、対物レンズ、接眼レンズを備えるが、被観察物体は対物レンズで拡大されて実像となり、その実像が接眼レンズにより拡大される。光学レンズの分解能は光の回折限界により制限される。光の回折限界とは、光学レンズにより得られる最小の光学スポットの大きさによって決まる限界であり、回折限界をΔとすると、
Δ=λ/4NA …(1)
と書ける。ここでλは光の波長、NAは開口数である。回折限界は、例えば、光学顕微鏡においては得られる像の分解能の限界を決定し、回折限界を小さくすることにより高分解能の光学顕微鏡を得ることができる。
【0003】
回折限界が式(1)で規定される理由は以下の通りである。3次元の空間を考え、光がz方向に伝播し、偏光の方向がx方向であるとする。これは、光の偏光方向がxy平面上の任意の方向を向いている場合は、その方向を新たにx軸と考えればよいため、一般性を失わない。光の電場Eは以下の式で書かれる。
E∝exp(−ik0z) …(2)
ここで、expは指数関数、iは虚数、k0は波数であり、k0と波長λは、
k0=2π/λ …(3)
という関係で結ばれている。
【0004】
z方向の波数をkz,x方向の波数をkxとすると、k0,kz,kxの関係は、
k02=(ω/c)2=kx2+kz2 …(4)
である。ここでcは光速、ωは振動数である。もし、kxがω/cを超えると、kzが虚数となり、上記式(2)からわかるように、z方向に進む光の振幅が急激に減衰する。例えば顕微鏡においては、観察する物体のx方向のサイズXとkxの間には、
X∝1/kx …(5)
なる関係がある。このため、kx>ω/cの場合にz方向に進む光が急激に減衰するということは、kx>ω/cの情報、即ちX<λの情報は光がz方向に進むにつれて急激に失われることを意味する。以下、kx>k0を満たす、急激に減衰する光の成分を近接場成分と呼び、kx<k0の減衰せずに伝わる成分を伝播成分と呼ぶ。
【0005】
回折限界は波長に比例するため、用いる光の波長を小さくすることにより高分解能の光学顕微鏡を実現する試みが続けられている。更なる光源の短波長化は、主に以下の2つの理由から非常に困難である。一つは、小型な光源である半導体レーザの実現が困難であること、もう一つは紫外線を吸収するサンプルが多いため、サンプルからの信号が小さくなることである。そのため、別の手法を用いて上記回折限界を超えて光を伝播する方法がいくつか提案されている。以下、代表的な例として、固浸レンズ(SIL)、近接場光、ハイパーレンズについて述べる。
【0006】
固浸レンズ(SIL)とは、屈折率の高い材料を選び、収差を付加しないように形状を選びつつ被観察物体と非常に近い位置に配置した固体レンズである。半球状の形状が良く用いられる。半球の平坦な側に物体を置く。屈折率がnの物質中では、実質的な開口数がn倍になり、式(1)からわかるように回折限界が1/n倍に小さくなる。レンズと観察物体が非常に近いため、通常失われてしまう近接場成分がレンズにトンネルすることができる。レンズに入った光は通常のn倍で絞られる。通常のレンズは観察物体と離れているため、レンズに届く前に近接場成分は失われてしまう。SILの材料としては高屈折率ガラス(n=1.6〜2.0)、可視光から遠赤外ではサファイア(n=1.76)、ZrO2(n=2.16)、GaP(n=3.1〜3.4)などが用いられる。このため、NAは最大で3.4である。これらに関しては、Applied Physics Letter, Vol.57, 2615-2616 (1990)(非特許文献1)で詳しく議論されている。
【0007】
次に、近接場光を用いて上記回折限界を超える方法について説明する。近接場光を用いる方法は、大きく2つに分けられる。一つはアパーチャー型、もう一つはプラズモン型である。アパーチャー型には、例えばファイバープローブを用いるタイプ、カンチレバーを用いるタイプがある。プラズモン型の例として、Nanobeak、c-aperture、金属プローブが挙げられる。ここではプラズモン型、特にNanobeakについて説明する。
【0008】
最初に、プラズモンについて説明する。プラズモンは、共鳴現象により発生する。金属内の自由電子は、電子−格子相互作用や電子−電子相互作用によって、統計的にある一定の力を受けている。一般に、ある一定の力を受けている物体は、固有振動数を持つが、光を入射すると、光の電場振動により電子は振動する。光の周波数と電子の固有振動数が一致すると、電子は大きな振動エネルギーを持つ。これをプラズモン共鳴と呼ぶ。このプラズモンの振る舞いは、金属内部と金属表面で異なる。何故ならば、表面の電子は内部の電子と異なる力を受けるからである。この表面に励起されるプラズモンを表面プラズモンと呼ぶ。理論的に、表面プラズモンは縦波であることが示され、よって表面プラズモンは光を放射することなく、金属表面に局在した電磁場である近接場光を伴って金属表面を伝播する。この伝播する波の波数、振動数、伝播距離、近接場光の強度などは、上記の入射光の条件、金属・誘電体の誘電率、金属膜の厚さ、プラズモンが発生する金属パターンのサイズなどに強く依存する。
【0009】
プラズモンを利用して回折限界を超える方法の一つがNanobeakと呼ばれる、三角形に近い形をした金属プローブを用いる方法である。詳しくはJournal of Applied Physics, Vol.95, 3901-3906 (2004)(非特許文献2)で議論されている。このプローブに、三角形の頂点から底辺に引いた垂線に平行な方向の電場を有する偏光を入射すると、金属内の自由電子は振動するが、頂点付近での自由電子密度が大きくなるために、頂点付近において非常に局在した強い近接場光が発生する。この近接場光が回折限界以上の情報を持っている。
【0010】
次に、ハイパーレンズについて説明する。ハイパーレンズは、回折限界を超える分解能を可能とする光学レンズであるが、サンプルに光を入射することによりサンプル上に形成された、入射光の波長よりも小さいサイズの近接場光を、そのサイズを拡大しながら遠方まで伝播するレンズである。ハイパーレンズは球形をしており、その球面に沿って積層された金属と誘電体の多層薄膜によって形成される。
【0011】
通常、近接場光は遠方まで伝播せず、サンプル表面から離れるに従って指数関数的に減衰するが、ここでは金属と誘電体の多層膜から成るハイパーレンズにより、レンズ内に形成されるプラズモンを伝播することによって、近接場光の情報を遠方まで伝播させる。その際、レンズが球形であることにより、近接場光は球の中心から球面の法線方向へ伝播するため、サンプル上において空間周波数が高い近接場光は、レンズの球上で低い空間周波数に変換される。このため、遠方へ伝播した光の空間周波数は低くなるが、その強弱のプロファイルは、サンプル上の近接場強度分布を反映しているため、この伝播光の強度分布を得ることにより、サンプル上の近接場強度分布、即ち、回折限界を超えた分解能の像を得ることができる。
【0012】
理論的には、ハイパーレンズとは、上記kzとkxの関係が双曲線状であり、そのため分解能が原理的に無限大となるレンズである。以下、この原理を簡単に説明する。x方向の誘電率をεx、z方向の誘電率をεzとすると、kzとkxの関係は
(ω/c)2=kx2/εz+kz2/εx …(6)
である。ここで、εx,εz>0であれば、式(6)は楕円になり、kxが上限を持つ。これは上記の通り、回折限界を持つことを意味する。εx,εzの符号が逆であれば、式(6)は双曲線となり、kxは下限を持つが上限は持たない。このため回折限界が原理上無限大となる。
【0013】
εx,εzの符号を逆にする方法として、金属と誘電体の多層膜を形成する方法が提案されている。例えば、Optics Express, Vol.14, 8247-8256(非特許文献3)では、基板に設けられた半円柱状の溝に金属と誘電体からなる多層膜構造を形成する方法が提案されている。非特許文献3で議論されている構造は、基板に形成された半円柱状の溝の中に、銀と酸化アルミニウムを交互に積層した多層膜である。この構造は、近接場成分が減衰しないという利点だけではなく、溝の形状を半円柱状とすることにより、像が拡大されるという利点を持つ。この構造により、通常想定される解像度よりも3倍小さい解像度が実験的に確認されている。非特許文献3で議論されているハイパーレンズは、基板上に形成された金属/誘電体多層膜の被観察物体側の最内膜は円弧状である。このため、被観察物体としては最内膜の円弧の中に入る物体しか扱えなかった。それを解決するために、Optics Express, Vol.16, 21142-21148 (2008)(非特許文献4)では、ハイパーレンズの被観察物体側表面を平坦にしたプレーナーハイパーレンズが提案されており、シミュレーションにより解像度が2倍となることが示されている。
【0014】
ここで、ハイパーレンズから伝播した光を通常の光学顕微鏡で観察する際には、例えば通常の光学顕微鏡で用いられる油浸レンズなどを用いる必要がある。何故ならば、ハイパーレンズは、サンプル上の複素波数の情報を伝達するが、この伝播光は、ハイパーレンズの基板から空気中へ入射する際、その入射角度が大きいために、全反射するからである。基板との屈折率差が小さい油などの液体へ入射すれば、この全反射を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】S. M. Mansfield and G. S. Kino, “Solid immersion microscope”, Applied Physics Letter, Vol.57, pp.2615-2616 (1990).
【非特許文献2】T. Matsumoto, T. Shimano, H. Saga and H. Sukeda, “Highly efficient probe with a wedge-shaped metallic plate for high density near-field optical recording”, Journal of Applied Physics, Vol.95, pp.3901-3906 (1995).
【非特許文献3】Hyesog Lee, Zhaowei Liu, Yi Xiong, Cheng Sun and Xiang Zhang, “Development of optical hyperlens for imaging below the diffraction limit”, Optics Express, Vol.15, pp.15886-15891 (2007).
【非特許文献4】Weo Wang, Hui Xing, Liang Fang, Yao Liu, Junxian Ma, Lan Lin, Changtao Wang and Xiangang Luo, “Far-field imaging device: planar hyperlens with magnification using multi-layer metamaterial”, Optics Express, Vol.16, pp.21142-21148 (2008).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のように、光の回折限界を超えたレンズは様々提案されているが、それぞれが課題を抱えている。
【0017】
SILを使用する場合、分解能を高めるには高屈折率物質が必要となるが、現在知られている自然界における最大の屈折率は3程度であり、分解能を3倍以上に高めることは難しい。Nanobeakを用いる方法では、Nanobeak先端とサンプルとの間で発生した近接場光が伝播光に変換される際に強度が急激に弱くなり、レンズとして用いるには制限が大きい。
【0018】
ハイパーレンズでは理論上非常に高い分解能が得られ、更に近接場成分を伝播成分に変換ができるため汎用性が広がるが、金属と誘電体の多層膜構造により、その膜厚と材料の光学定数で決定される狭い波長領域でのみ、その効果を発現する。そのため、1枚のハイパーレンズでは被観察物体の持つ光学分散を知ることができない。また、伝播する近接場光の強度が弱く、近接場光が伝播光に変換される効率が悪い。また、ハイパーレンズを通して伝播した光を得るには、油浸レンズなどを用いる必要があるが、ここで用いる油などの液体の屈折率は、例えば1.3〜1.7程度である。高い空間周波数を有する近接場が伝播光に変換される場合、その伝播角はサンプル表面に近くなるので、この伝播光を光学顕微鏡で得るには、非常に大きな屈折率の液体などを、ハイパーレンズの基板と光学顕微鏡のレンズの間に満たす必要がある。しかし、そのような液体は存在しないことが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記のハイパーレンズに関する2つの問題を、ハイパーレンズの構造の改良と、複数のハイパーレンズを用いること、及びそれに適したシステムを採用することによって解決する。
【0020】
本発明による光学顕微鏡システムは、サンプルを保持するサンプルホルダと、それぞれ異なる波長のサンプル照射光を発生する複数の光源と、各光源の波長に適合して近接場成分を伝播成分に変換する複数のハイパーレンズと、複数の光源のうちの一つと複数のハイパーレンズのうちの一つとを対にして切り替える切り替え機構と、ハイパーレンズを透過した光が入射される顕微鏡と、顕微鏡による拡大像を撮像する撮像素子と、演算及び装置各部の制御を行う演算制御部とを備える。
【0021】
ハイパーレンズは、平坦な光入射面を有し、光軸を通る一つの断面で見たとき、光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造を有する。ハイパーレンズの立体形状は、半球状若しくは半円柱状である。ハイパーレンズは積層膜構造の外側に発光体層を備えていてもよい。また、光入射面に近接場成分増強用の金属パターンを有してもよい。
【0022】
演算制御部は、切り替え機構を制御して複数の光源の各々と当該光源と対をなすハイパーレンズを順次選択して、異なる波長による複数のサンプル像を取得し、取得した複数のサンプル像から1枚のサンプル像を合成することにより、サンプルの光学特性の波長依存性の情報を入射光の波長以下のサイズで得る。
【0023】
複数の光源は、典型的には、青色の光を発生する光源、緑色の光を発生する光源及び赤色の光を発生する光源である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、試料の波長特性を回折限界を超える分解能で得ることができる。また、ハイパーレンズと発光層を組み合わせることにより、光学システムを簡素化し、近接場光が伝播光に変換される効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で用いたハイパーレンズの概略図。
【図2】本発明のハイパーレンズを用いる際のサンプルと検出器の位置関係の説明図。
【図3】ハイパーレンズと顕微鏡の関係図。
【図4】フレネルの式によるハイパーレンズのx方向の波数とレンズを透過する光透過率の関係を示す図。
【図5】ハイパーレンズの空間周波数と信号強度の偏光依存性の説明図。
【図6】ハイパーレンズのサンプル面に金属パターンを設けた場合の説明図。
【図7】ハイパーレンズの作製プロセスの説明図。
【図8】波長の異なる光源を用いた場合の、それぞれの波長に合わせて設計したレンズの波数と透過率の関係の波長依存性を示す図。
【図9】光学特性の波長依存性が異なる部位を有するサンプルの説明図。
【図10】設計・作製したレンズを自動的に交換する顕微鏡システムの説明図。
【図11】複数光源と各光源に適合したハイパーレンズを用いて得られたサンプルの顕微鏡像。
【図12】顕微鏡像を合成する際の位置合わせ及び強度合わせの説明図。
【図13】合成顕微鏡像を示す図。
【図14】顕微鏡像を合成する際の位置合わせ及び強度合わせの説明図。
【図15】異なる偏光を用いて像を得るシステムの説明図。
【図16】異なる偏光を用いて得られた光学信号と、その演算の説明図。
【図17】合成顕微鏡像を示す図。
【図18】ランダムな幅を持つ観察サンプルとそれのスキャンシステムの説明図。
【図19】光学信号の説明図。
【図20】ハイパーレンズとサンプルの距離を静電容量で制御するシステムの説明図。
【図21】発光体を設けたハイパーレンズの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
まず、サンプルの光学分散を観察する方法について述べる。このために、本発明では構造の異なる複数のハイパーレンズを用いる。その複数のハイパーレンズの構造は、近接場光を伝播する波長領域が異なる構造とする。例えば、3つのハイパーレンズを作成し、それぞれが赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の波長の近接場光を伝播するものであり、それぞれのレンズで得られた像を重ねることにより、サンプルの有する光学特性の波長依存性を観察することができる。
【0027】
次に、本発明で用いるハイパーレンズの設計方法について述べる。本発明のハイパーレンズは、基板上に作製された溝やピットなどの構造内に製膜した金属と誘電体の2層以上の積層膜を有する。図1(a)は、本発明のハイパーレンズの一例の断面模式図である。図1(a)は光軸を通る一つの断面であり、光入射面104は平坦面になっている。本発明のハイパーレンズは、基板101上に製膜された金属102と誘電体103の2層以上の多層膜を備える。この断面で見たとき、多層膜は、光入射面104側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、その外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層構造を有する。製膜する順番は、金属102が先でも誘電体103が先でもかまわない。形状の断面が円形であると、近接場成分を効率的に伝播させることができる。また、図1(b)、図1(c)にハイパーレンズの2つの実施例の上面図を示す。図1(b)に示す上面図を有するハイパーレンズは、半球状の全体形状を有する。図1(c)に示す上面図を有するハイパーレンズは、半円柱状の全体形状を有する。
【0028】
次に、本発明のハイパーレンズと被観察物体(サンプル)との配置の関係を図2に示す。被観察物体201は本発明のハイパーレンズの2つの表面のうち、平坦な表面202に配置する。入射光203はレンズの平坦な表面202側から入射する。ハイパーレンズを透過した光204をハイパーレンズの平坦面の逆面205にある検出装置206で検出する。被観察物体201のレンズ側の最上面とハイパーレンズの平坦な表面202の間の距離は、入射光203の波長よりも短いことが望ましい。被観察物体201のレンズ側の表面とハイパーレンズの平坦な表面202の距離が波長以上となると、近接場成分がハイパーレンズに入る前に減衰するからである。
【0029】
次に、本発明のハイパーレンズを顕微鏡に組み込んだ例を図3に示す。図3(a)において、被観察物体301を、入射光303側に配置されたサンプルホルダ302上に配置する。被観察物体301の直上に、本発明のハイパーレンズ304を配置する。ハイパーレンズ304はレンズホルダ305により固定する。ハイパーレンズ304を透過した光306を顕微鏡307で受けて、顕微鏡307を通った光308を検出器309で観察する。図3(b)は、ハイパーレンズ304と顕微鏡307の間に油310を満たした例を示す。油310を満たすことにより、NAが上がり、分解能が向上する。図3(c)は、ハイパーレンズ304と顕微鏡307を近接させた例を示す。ハイパーレンズ304と顕微鏡307を近接することにより、ハイパーレンズ304を透過した光306の多くの成分を顕微鏡307で受けることができる。
【0030】
上記ハイパーレンズを設計する際、ハイパーレンズを通った後の電界の透過率のkx依存性は、フレネルの式を使って計算できる。入射する波長を一定にし、計算によりk<kxの領域でのkxで透過率がゼロでなければ、回折限界を超えた近接場成分が伝播することを意味する。ハイパーレンズに入射する光の波長によって、多層膜の金属と誘電体の材料、膜厚、多層膜の膜総数を変化させて計算を実行し、最も大きな近接場成分k>kxが伝播している構造を決定すればよい。
【0031】
フレネルの式を用いて計算した透過率の例を図4に示す。用いた入射波の波長は400nmで、ハイパーレンズの構成はAg(20nm)/Al2O3(20nm)、合計10層である。図4において、横軸は400nmに対応する波数k0でkxを規格化した値kx/k0、縦軸はレンズを通った後の電場の透過率である。図4からわかるように、回折限界400nmを超えた光(kx/k0>1の成分)、即ち近接場成分が伝播している。図4ではkx/k0=4(矢印の位置)で透過率が0%となっており、上記の構成では分解能が通常予想される回折限界の4倍となっていることがわかる。
【0032】
次に、金属の選択方法を述べる。ハイパーレンズ作製用の金属は、サンプルの観察に用いる光源の波長に依存する。この波長が可視光である場合には、Au,Ag,Cu,Al,Ptの少なくとも1つを用いることが望ましい。用いる金属の選択には、金属のプラズマ周波数、導電性を考慮する必要がある。導電性が小さいと金属中で光がすぐに減衰してしまい、近接場成分を観測することができない。また、プラズマ周波数を超えた光が入射すると、光の振動に電子が追随できなくなり、この結果、プラズマ周波数以上では誘電率が正となり、金属として振舞わず、上記膜に使用できない。例えばAgのプラズマ周波数は紫外域に存在するため、赤色、青色、緑色のレーザの全てに対して使うことができる。また、例えばAuのプラズマ周波数は緑色と青色の中間付近に存在し、青色の光に対しては使うことができない。
【0033】
ハイパーレンズ作製用の金属を決定した後に、レンズ作製に用いる誘電体の種類、金属と誘電体の膜厚、多層膜の総数を決めて、フレネルの式を用いてレンズの性能を見積もる。その際、レンズの材料として用いるのに適した誘電体の種類、金属と誘電体の膜厚比を、以下の手順により簡単に見積もることができる。金属の誘電率をεm、誘電体の誘電率をεp、金属の厚さをdm、誘電体の厚さをdpとすると、これらの関係は、次のようになる。
dm/dp=−Re(εm)/εp …(7)
【0034】
ここで、Re(εm)は金属の誘電率の実部である。例えば、上記ハイパーレンズに用いる誘電体と金属の膜厚がほぼ等しい場合は、用いる金属の誘電率の実部の絶対値とほぼ等しい誘電率を持つ誘電体を用いることが望ましい。これはインピーダンスマッチング条件を意味する。
【0035】
次に、被観察物体の光学特性の波長依存性を、入射光の波長以下のサイズで得るシステムについて述べる。各入射光の波長に対応した複数のハイパーレンズを用いて被観察物体を観察し、それで得た複数の像を重ねることで、被観察物体の光学特性の波長依存性の情報を、入射光の波長以下のサイズで得ることができる。各波長で得た複数の像を重ねる際には、被観察物体の観察に用いる全ての波長で観察可能である位置合わせマークが必要になる。更に、各波長で得た複数の像の強度を合わせる必要がある。何を位置合わせマークにするかはユーザーが選ぶことができるが、例えばサンプル上に位置合わせマークを付加し、そのマークを使って位置合わせができるシステムを使って位置合わせを行う。位置合わせマークはサンプル上にある傷でもよい。またサンプルホルダ上に位置合わせマークを付加しても良い。また、強度合わせに関しては、各波長で校正用サンプルを用いて校正する方法、それぞれの波長で得られた像の強度に適当な重みをかけて、それを手動で変化させて一番鮮明な像を得る方法が考えられる。校正用サンプルは、分散特性がよくわかっている材料を用いるのが望ましい。
【0036】
次に、被観察物体の光学特性の波長依存性のうち、入射する光の波長以下のサイズの情報を強調して得る方法を述べる。金属と誘電体の積層体からなるハイパーレンズでは、入射する光の偏光方向によって得られる光学特性が異なる。即ち、TM光を入射すると近接場成分は遠方まで伝播するが、TE光を入射すると近接場成分はすぐに減衰する。ここで、TM光は、例えば半円柱状のハイパーレンズの場合は、半円柱の軸に沿った方向に対して磁場が垂直な方向を向いた光であり、TE光は半円柱の軸に対して磁場が平行な方向を向いた光である。光の伝播方向はこのTE光とTM光で記述できる。TM光を被観察物体に入射して本発明のハイパーレンズを用いると、回折限界を超えた情報を得ることができるが、もともとのバックグラウンドの光が大きいため、回折限界を超えた情報が通常伝播してくる成分に埋もれてしまう。そこで、2つの偏光に対するハイパーレンズの特性を測定し、それらを差し引きすることで、近接場成分のみの効果を測定する。
【0037】
上記の工程を、図5を用いて以下に示す。始めに、ハイパーレンズの曲面と逆側の平坦な面に観察物体を置き、特定の波長のTM波を入射し、CCDカメラなどの撮像装置により強度を測定する。この強度をITMとする。次に、TE波を入射して強度を測定する。この強度をITEとする。TM波とTE波の入射位置をそろえるために位置合わせマークをサンプル上に作っておき、その位置合わせマークを使って位置合わせを行う。位置合わせ後に近接場成分以外の成分を差し引くが、ITMとITEでは得られる信号強度が異なる。そこで、ITMとITEをフーリエ変換し、そのフーリエ変換後の値をF(ITM)とF(ITE)とする。
【0038】
図5(a)に、F(ITM)とF(ITE)を示す。図5(a)の横軸を空間周波数、縦軸を透過電場の信号強度をフーリエ変換した成分とすると、TM偏光を入射すると回折限界以上の情報が伝播するため、F(ITM)は空間周波数が2π/λ以上でも信号強度がゼロにならない。一方、TE偏光を入射すると回折限界以上の情報は伝播しないため、F(ITE)は空間周波数が2π/λで信号強度がゼロになり、上記のF(ITE)がバックグラウンド光となる。伝播する近接場成分の信号強度をあげるため、F(ITM)とF(ITE)が線形であると仮定し、TE波成分に重みをかけてF(ITM)−αF(ITE)という量を考えて、F(ITM)−αF(ITE)の2π/λ<(空間周波数)部分の和が最小なるようにαを決定するシステムを構築する。実際にαを決定してF(ITM)−αF(ITE)を求めた例を図5(b)に示す。空間周波数が2π/λ以上の成分、即ち大きさがλよりも小さい成分の信号強度が大きくなり、近接場成分をよく測定できる。用いる偏光方向は、レンズの形状と、被観察物体の形状の両方による。レンズの形状が半円柱状ならば、TE偏光とTM偏光を用いればよい。レンズの形状が半球状ならば、サンプルの形状によって入射する偏光の方向を変化させる必要がある。
【0039】
次に、全体の信号に対する近接場成分の信号を増加させる方法を述べる。これは、ハイパーレンズの観察物体側の表面に、入射する光の波長以下のサイズの金属パターンを作製することによって実現できる。ハイパーレンズを作成する際に構成要素として金属を用いると、金属による光の散逸が起こる。このため、レンズから出た光の近接場成分は非常に弱くなり、回折限界を超えた情報が失われてしまう。上記で述べた、入射する光の波長以下の金属パターンや金属の構造物に光が入射すると、金属内の自由電子は振動するが、先端付近での自由電子密度が大きくなるために、先端付近において局在した強い近接場光が発生する、つまりプラズモンが集中する。上記金属パターンにより、プラズモンが集中し、近接場光を増強して金属により失われた分を補償し、高いS/N比を得ることができる。
【0040】
プラズモンを増強させる金属パターンのサイズ、形状は、入射する光の波長に依存する。このため、プラズモンを増強させる金属パターン構造はいくつか考えられるが、例えば三角形状が考えられる。また、配置する金属パターンの数も何種類か考えられるが、例えば2個が考えられる。また、金属パターンのハイパーレンズ側の頂点又は面と、ハイパーレンズの最内側金属半球の中心との距離は、ハイパーレンズに入射する波長以下であることが望ましい。この距離が入射光の波長以上となると、近接場成分が減衰してしまい、近接場増強素子として機能しなくなる。プラズモンの集中はハイパーレンズを構成する金属のうち、最内側金属のサイズを入射する波長より小さくすることによっても実現できる。基板上に作製した金属パターンの概念図を図6に示す。図6には、金属パターンの形状が三角形の場合を示している。ハイパーレンズ601の略平坦化された表面側に、三角形状の金属パターンを形成する。図6(a)は断面図、図6(b)はハイパーレンズが半球状の場合の上面図、図6(c)はハイパーレンズが溝状の場合の上面図である。図6では、ハイパーレンズの平坦な表面から順に金属層603、誘電体層604を交互に積層している。
【0041】
ハイパーレンズに、サイズが入射する光の波長以下の金属パターンを形成するには、作製するハイパーレンズの2つの表面のうち、被観察物体側の表面が略平坦である必要がある。以下、ハイパーレンズの作製法の概略を述べる。始めにリソグラフィーやナノインプリントを用いて基板へのパターン描画を行う。基板としてはガラス基板、Si基板、半導体基板、樹脂基板などが考えられる。次に、反応性イオンエッチングによって基板にパターンに従った半球状あるいは半円柱状の窪みを形成する。次に、形成した窪みに金属と誘電体を交互に製膜する。製膜方法にはスパッタリング法、蒸着法、化学蒸着法(CVD法)が考えられる。最後に、被観察物体側の平坦化を行う。平坦化の方法には、ミリング、反応性イオンエッチング、化学的機械的研磨が(CMP)が考えられる。CMPでは、プラスチック上の研磨も可能である。
【0042】
次に、近接場成分増強用の金属パターンを設けた本発明のハイパーレンズを使って被観察物体をスキャンする方法を述べる。スキャンすることによって比較的大きな被観察物体を観察できる。金属パターンを設けたハイパーレンズを使ったスキャンの方法には、被観察物体と金属パターンを物理的に接触させながらスキャンする方法と、被観察物体と金属パターンを物理的に接触させずにスキャンする方法がある。被観察物体と金属パターンを物理的に接触させながらスキャンする場合は、被観察物体を保持するサンプルホルダを機械的に制御しながらスキャンしていく。被観察物体と金属パターンを物理的に接触させずにスキャンする方法には、被観察物体が導電性を持つ場合は、被観察物体と金属パターンを物理的に接触させずに、その2つの間の静電容量を測定することにより、間隔を制御する方法がある。
【0043】
また、本発明のハイパーレンズの断面形状は半円形または半楕円形であることが望ましい。半円形にすることにより、レンズから出た近接場成分を伝播させる。また、半楕円形でも近接場成分を伝播できる。
【0044】
ハイパーレンズによって形成された伝播光を光学顕微鏡で得るために、油浸レンズを用いず、ハイパーレンズに発光体層を付加してもよい。ハイパーレンズの外球面の外側に、発光体層を設けると、発光体層が伝播光を吸収し、一般的には波長の異なる光を発する。この光は、ハイパーレンズで変換された伝播光の伝播方向によらず、全立体角方向へ伝播する。このことにより、この光はハイパーレンズの基板へ浅い角度で入射するため、全反射せずに空気中へ伝播する。
【0045】
この発光体として、例えば高分子や半導体量子ドットなどの蛍光体を用いることができる。発光体層は、ハイパーレンズの中心から、少なくとも光源波長よりも遠い場所に設置することが必要である。何故ならば、ハイパーレンズの中心から、光源波長以下の部分、即ち近接場領域においては、光のプロファイルの空間周波数が高い。このため、近接場領域に発光体層を設置すると、発光体層から発生した伝播光の中で、高い空間周波数を有する成分は減衰するため、光学顕微鏡で得られる分解能が小さくなってしまうからである。
【0046】
更に、発光体層を用いることにより、空間周波数が低いバックグラウンド光を除去することができる。光源波長をλ1、発光体層から発する蛍光の波長をλ2とすると、一般的には、λ1<λ2である。ハイパーレンズの基板から出射する光は、この2つの波長の光の混合である。ここで、油浸レンズを用いない場合、λ1の光のうち、高い空間周波数の成分は全反射により基板から出射しないため、基板から出射するのは低い空間周波数の成分のみである。一方、λ2の光は、低い空間周波数と高い空間周波数の両方を含む。ここで、光学顕微鏡に光学フィルタを設置し、波長λ1のみの光の像と、波長λ2のみの光の像を得る。像上のある一点のλ1,λ2の光の強度をそれぞれI(λ1),I(λ2)とすると、適切な値αを採用して、I(λ2)−αI(λ1)とすることにより、サンプル上で入射光の波長よりも高い空間周波数であった成分の光のみの像を得ることができる。通常、近接場光の強度は弱いため、高い空間周波数成分の信号は、低い空間周波数成分のバックグラウンド信号に埋もれ、像のS/Nが低くなるが、この演算により、高S/Nの高分解能な像を得ることができる。発光体層と近接場成分増強用金属パターンを併用してもよい。
【0047】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
[実施例1]
本発明の光学顕微鏡システムを用いて被観察物体の色情報を、入射光の波長以下のサイズで得る方法を説明する。図1(a)、図1(b)に形状を示した半球状のハイパーレンズを、赤色レーザ、青色レーザ、緑色レーザそれぞれの波長で性能が最大になるように設計を行った。赤色レーザの光源はHe−Neで波長633nm、緑色の光源はYAGレーザの2倍波で波長532nm、青色レーザの光源はHe−Cdレーザで波長405nmを用いた。スポット径は赤色レーザが2μm、緑色レーザが1μm、青色レーザが1μmである。
【0048】
基板への半球の作製、誘電体/金属膜の製膜、被観察物体側表面の略平坦化までの手順は以下の通りである。始めに、厚さが1mmの基板上に半球状の窪みを形成した。基板にはSiO2を用いた。半球パターンの形成は、スタンパを用いる方法で行った。図7に、その手順を示す。
【0049】
まず図7(a)に示すように、SiO2基板701上にCr層702、レジスト層703を順に塗布し、レーザ描画によりレジスト層703上に直径1μmの円形パターンを描画した。次に、図7(b)に示すように現像し、更に図7(c)に示すように、描画した部分のCr層702を反応性イオンエッチング(RIE)により取り除いた。そしてSiO2基板701に対してウェットエッチングを行い、図7(d)のように半球状の窪み704を形成した。半球状の窪み704の直径は2.0μmであった。半球状の窪み704の直径はSiO2基板701に描画する円形パターンの半径によって決まる。最後に、図7(e)に示すように、レジスト層703及びCr層702を除去した。上記により形成された半球の窪み704を原版として、原版にNi蒸着及びNiメッキを施して原版の半球を転写し、図7(f)に示すようにスタンパ706を形成した。スタンパ706を用いて、射出成型法により、ガラス基板707に塗布したUV樹脂708にスタンパ706の半球を転写し、図7(g)に示すように半球状の窪み709を形成した。
【0050】
次に基板への金属、誘電体の製膜をスパッタリング法で行った。プラズマ周波数を考慮して、ハイパーレンズに使用した金属は、青色レーザ用ハイパーレンズにはAg、緑色レーザ用ハイパーレンズにはAu、赤色レーザ用ハイパーレンズにはAuを用いた。青色レーザ用ハイパーレンズの膜構造はAg(20nm)/Al2O3(20nm)、合計10層で半径400nm、緑色レーザ用ハイパーレンズの膜構造はAu(20nm)/Al2O3(20nm)合計10層で半径400nm、赤色レーザ用ハイパーレンズの膜構造はAu(20nm)/Al2O3(20nm)合計10層で半径400nmとした。最後に、ハイパーレンズの被観察物体側表面を平坦化するために、樹脂の研磨も可能である機械的化学的研磨(CMP)を行った。
【0051】
準備した上記3つのハイパーレンズに、被観察物体側からレーザを入射した場合の、フレネルの式を用いた透過率の計算結果を図8に示す。横軸は波数のx成分であるkxを入射した光の波数k0で規格化した値kx/k0、縦軸は電場強度の透過率である。図8(a)が青色レーザ用ハイパーレンズの計算結果、図8(b)が緑色レーザ用ハイパーレンズの計算結果、図8(c)が赤色レーザ用ハイパーレンズの計算結果である。図中の矢印は、電場強度の透過率がゼロになる規格化波数である。上記計算により、青色レーザ用ハイパーレンズの分解能は回折限界の4倍に、緑色レーザ用ハイパーレンズの分解能は回折限界の4倍に、赤色用ハイパーレンズの分解能は回折限界の5倍になることがわかった。
【0052】
次に、上記3つのハイパーレンズを用いて、3種類の色素の観察を行った。使用した色素は、495nmに励起波長を持つフルオレセインイソチオシアネート、555nmに励起波長を持つローダミン、650nmに励起波長を持つAlexa Fluor 647である。図9に示すように、3種類の色素をサンプルホルダ901上に周期的に並べた。902がフルオレセインイソチオシアネート、903がローダミン、904がAlexa Fluor 647である。また、905が位置合わせマークである。色素の大きさは直径1μm、色素間の間隔は200nmとした。
【0053】
次に、観察について述べる。本発明のハイパーレンズをレーザ顕微鏡に組み込んだ。図10に、本発明のハイパーレンズを組み込んだ顕微鏡システムの概略図を示す。各色に対応した3枚のハイパーレンズは、1つの黒色プラスチック板(レンズホルダ)1001に配置し、機械的に移動できるように、横方向制御装置1002で制御した。3色のレーザは光源部1003に配置し、光は1つの出射口から同じ光軸上に出るようにした。3種類のレーザ光のうち使わないレーザ光は遮光板で遮光するようにした。遮光には、遮光板交換装置1013を用いた。実際には、黒色プラスチック板1001及び遮光板の制御は、演算制御部1004としてのパーソナルコンピュータ(PC)上で行い、使用したい波長を決めてPC上のボタンをクリックすれば、その波長に対応したハイパーレンズに自動的に切り替わり、遮光板も切り替わって光源部1003からその波長のレーザ光が出射するようにした。
【0054】
被観察物体として、サンプルホルダ1005に上記3種類の色素1006を並べ、その直上にハイパーレンズ1007を設置した。ハイパーレンズ1007は黒色プラスチック板1001に固定されている。入射光1008を入射し、ハイパーレンズ1007を通過した光1009を顕微鏡307で受けて、顕微鏡307を通過した光1011をCCDカメラ309で観測した。観測したデータは演算制御部1004に格納した。本実施例では、ハイパーレンズ1007と顕微鏡307の間をイマージョンオイル310で満たした。光学顕微鏡307とハイパーレンズ1007の間を、屈折率がガラスとほぼ等しいイマージョンオイル310で満たすことにより、全反射する成分を減らすことができる。
【0055】
測定は、レーザ光源とハイパーレンズを入れ替えながら行った。始めに青色レーザと青色レーザ用レンズを使って測定をした。演算制御部1004としてのPCの画面をクリックして青色レーザとレンズを選択し、測定を行った。それが終わると、緑色レーザ及び緑色レーザ用レンズを使って測定を行い、最後に赤色レーザ及び赤色レーザ用レンズを使って測定を行った。
【0056】
図11にそれぞれの波長で得られた像を示す。図11(a)が青色レーザの測定結果、図11(b)が緑色レーザの測定結果、図11(c)が赤色レーザの測定結果である。計算結果からの予想通り、どの波長でも分解能以下の構造が観測できた。図11(a)では、フルオレセインイソチオシアネート1102の励起波長が495nmであり、青色の波長405nmよりも大きいため、青色レーザ用ハイパーレンズで観測すると少々不鮮明な像が得られた。図11(b)で、ローダミン1104は励起波長が555nmにあるため、はっきりと像が見えるが、フルオレセインイソチオシアネート1102の励起波長が495nmであるため、フルオレセインイソチオシアネート1102の像もぼやけて見える。図11(c)では、Alexa Fluor 647のみ観測された。
【0057】
3種類の測定の後に、得られた3つの像を重ね合わせるために、位置合わせと強度合わせが必要になる。位置合わせマークとして、横2μm、縦5μmの直線を2本ずつ2組、サンプルホルダ901上に作製した。この位置合わせマーク905はレーザ描画により作製した。
【0058】
位置合わせ、強度合わせの手順を図12に示す。始めに用いる波長の数、波長の大きさを指定する。本実施例では赤色、緑色、青色であるので、3と入力した。次にそれぞれの波長でサンプルの測定を行った。それぞれの波長で得られた像のデータをCCDカメラで取り込み、演算制御部内のメモリに格納した。そして、得られた3つのデータをディスプレイ上に表示した。次に、ディスプレイ上でそれぞれの位置合わせマーク2点を、サンプル上の同じ点を示す点として、カーソルによって指定した。この2点により、2つの像上の座標(x,y)を共通化することができる。位置合わせの後に、得られた像の強度を合わせる係数αB,αG,αRを指定した。αBIB+αGIG+αRIRである。この係数は手動で設定して演算を行い、被観察物体の像が最も鮮明になるように設定した。値は、αB=0.2,αG=0.5,αR=0.4であった。
【0059】
結果を図13に示す。上記により、色素の色情報を含めた、光学分解能を超えた分解能を持つ像が得られた。
【0060】
スタンパを作製する際の基板に、半導体、Si基板、樹脂を用いても同様の結果が得られた。
【0061】
なお、測定系として、図3(a)、図3(c)のような配置も考えられる。図3(a)では、ハイパーレンズ304と顕微鏡307の間は空気である。このため、図3(b)の配置に比べて得られる像の鮮明さは低いが、近接場成分の情報を含む像が得られた。また、図3(c)では図3(b)とほぼ同じ結果が得られた。
【0062】
また、断面形状を楕円形状にしたハイパーレンズを用いて、同様の実験系、測定方法、被観察物体に対して測定を行ったところ、断面形状が円形のハイパーレンズを用いた場合に比べて解像度は低いが、ほぼ同等の結果が得られた。
【0063】
[実施例2]
本発明の光学顕微鏡システムを用いて被観察物体の色情報を、入射光の波長以下のサイズで得る他の実施例について説明する。実験系、測定法、用いたハイパーレンズ、用いた被観察物体は実施例1と同じであるが、3つの像の強度合わせの際に、校正用サンプルを用いた点が異なる。今回は校正用サンプルとして、分散特性が良くわかっているAl平板(縦横1μm、厚さ10nm)を用いた。校正用サンプルは、分散特性がよくわかっているものを用いるのが望ましい。
【0064】
強度合わせのフローチャートを図14に示す。手順は実施例1とほぼ同じであるが、波長の数を指定した後に校正用サンプルのAlの透過強度を青色レーザ、緑色レーザ、赤色レーザの各波長で測定して演算制御部のメモリに格納した。そして、位置合わせの後に、校正用サンプルにより得られた各色での透過強度と比較して、得られた3つの像の強度を合わせる係数αを指定した。青色レーザに対応する被観察物体像の強度をIB、緑色レーザに対応する被観察物体像の強度をIG、赤色レーザに対応する被観察物体像の強度をIRとし、Alの青色レーザでの透過強度とIBとの比をαB、Alの緑色レーザでの透過強度とIGとの比をαG、Alの赤色レーザでの透過強度とIBとの比をαRとすると、全体の像は、αBIB+αGIG+αRIRである。本実施例ではαB=0.17、αG=0.61,αR=0.35で、実施例1とほぼ同等であった。以上により、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。
【0065】
[実施例3]
次に、上面から見たとき図1(c)に示すように溝状となっている半円柱状のハイパーレンズを使った実施例を述べる。ハイパーレンズの作製に用いた材料は実施例1と同じである。溝状のレンズを作るために、レーザ描画で基板上に幅2μm、長さ1mmの矩形の溝を描いた。その後のハイパーレンズの作製手順は実施例1と同じである。本実施例のハイパーレンズの断面形状は図1(a)に示され、上面図は図1(c)に示されている。表面の最内側金属上に観察物体を置いた。基板101はガラス基板、金属102は青色レーザ用には銀、緑色レーザと赤色レーザ用には金を用いた。誘電体103はAl2O3とした。ハイパーレンズが半円柱形状の場合、入射光の偏光方向によって、ハイパーレンズの性能が変化する。即ち、半円柱の軸に対して電場が平行(TM偏光)の場合は近接場光成分を伝えるハイパーレンズとして働くが、半円柱の軸に対して電場が垂直(TE偏光)の場合は通常のハイパーレンズとして働き、近接場成分を伝えることができない。これを利用して、同じ観察物体をTM偏光で測定した時の透過光の強度からTE偏光で観察した場合の透過光の強度を差し引くと、近接場成分のみを観察できる。
【0066】
顕微鏡の構成例を図15に示す。顕微鏡の構成は、図10に示した実施例1の構成とほぼ同じであるが、偏光方向を選択するために、光源部1003のレーザ出射口のすぐ後に偏光子1514が設置され、レーザ顕微鏡307の観察口に検光子1515が設置されている。また、顕微鏡307による像をCCDカメラ309で撮像し、信号を得た。用いた観察物体1006は100nmピッチのライン・アンド・スペースで、全長が700nmである。
【0067】
始めに青色レーザ及び青色レーザ用ハイパーレンズを使って測定した。演算制御部1004上の画面をクリックして青色レーザ及び青色レーザ用ハイパーレンズを選択し、測定を行った。青色レーザを用いた測定結果を図16に示す。図16(a)に、TM波の場合の電場強度1601、TE波の場合の電場強度1602を示す。横軸はライン・アンド・スペースの端からの距離Δ、縦軸が検出した電場強度である。上述のように、TM波に比べて、TE波の全体の強度は小さい。そこで、この強度を合わせるシステムを用いて、電場強度を調節し、バックグラウンド成分を差し引いた。本実施例では、得られた信号強度をフーリエ変換して、F(ITM)−αF(ITE)の2π/λ<(空間周波数)部分の和が最小なるようにαを調整した。本実施例ではα=0.7であった。図16(b)に、TM波での電場強度からTE波での電場強度を差し引いた結果を示す。図16(b)から分かるように、明らかにS/Nが増大した。
【0068】
この後、レーザを緑色レーザ、赤色レーザに変えて測定を行った。図16(c)、図16(d)に緑色レーザと緑色レーザ用ハイパーレンズを用いた測定結果を、図16(e)、図16(f)に赤色レーザと赤色レーザ用ハイパーレンズを用いた測定結果を示す。緑色レーザの場合もS/Nの増大が見られた。赤色レーザの場合は、本発明のハイパーレンズを用いても分解能が100nmを超えないため、S/Nは増大しなかった。
【0069】
[実施例4]
より鮮明な像を得るために、サンプル面に金属パターンを設けたハイパーレンズを用いて近接場成分を増強させた測定例について説明する。本実施例の実験系は実施例1と同じであり、図10に示した顕微鏡システムを用いた。
【0070】
近接場増強パターンは正三角形状とし、数は2個とした。半球状のハイパーレンズを用い、ハイパーレンズの略平坦化された表面上に、図6(a)の断面図及び図6(b)の平面図に示すように、正三角形の金属パターン602を、三角形の先端が観察物体側に向くよう形成した。先端の尖った物体にTM波を入射するとプラズモンが増強されるため、レンズに入る前に近接場成分が増強され、レンズ中を通る過程で弱められる分を補償できる。三角形のパターンに用いる金属の材料、幅、長さは、用いる波長により決まる。今回は青色レーザ用ハイパーレンズの平坦面に、Auを用いて厚み55nm、一辺の長さが100nmの正三角形の金属パターンを形成した。緑色レーザ用ハイパーレンズの平坦面には、Auを用いて厚み75nm、一辺の長さが150nmの正三角形の金属パターンを形成した。赤色レーザ用ハイパーレンズの平坦面には、Auを用いて85nm、一辺の長さが200nmの正三角形の金属パターンを形成した。
【0071】
測定した観察物体は実施例1と同じである。実験手順も実施例1と同じであり、青色レーザ、緑色レーザ、赤色レーザを順に照射して測定し、その3つの像を重ね合わせた。結果を図17示す。実施例1に比べてより鮮明な像が得られた。
【0072】
[実施例5]
次に、平坦面に近接場成分増強用の金属パターンを有するハイパーレンズを用いて、金属パターンと被観察物体と接触させながら1次元スキャンした測定例について説明する。実験系、用いたハイパーレンズは実施例1とほぼ同じである。ただし、サンプルホルダ制御を圧電素子で行った。金属パターンは実施例4と同じものを用いた。被観察物体として、ポリカーバネード上に形成したライン・アンド・スペースを用いた。
【0073】
図18(a)に示すように、スペースの幅を左から200nm、150nm、100nm、150nmとしてランダムに振った。ライン・アンド・スペースの全体の幅は1μmで、ハイパーレンズの幅400nmよりも十分に大きく取った。
【0074】
実験系における、実施例1と違う点を図18(b)に示す。図18(b)に示すように、ハイパーレンズ1801上に作製した金属パターン1802と被観察物体1803を物理的に接触させて、被観察物体1803を置いているサンプルホルダ1804を光軸に対して垂直な方向に駆動することにより、1次元スキャンを実行した。サンプルホルダ1804の移動距離は、サンプルホルダの下に圧電素子1805を付加し、その圧電素子1805のXY軸方向の電圧を印加することにより制御した。圧電素子1805による移動の位置精度は5nm程度であった。
【0075】
レーザ及びハイパーレンズは実施例1同様に、青色、緑色、赤色の順に交換しながら観察を行った。始めに青色レーザを使って得られた信号強度を図19(a)に示す。検出器にはCCDを用いた。スキャン範囲は座標をライン・アンド・スペースの左端を0として、0〜1.5μmとした。図19(a)において、ピーク1901が幅200nmのスペースに、ピーク1902が幅150nmのスペースに、ピーク1903が幅100nmのスペースに対応する。緑色レーザ、赤色レーザを使って観察した結果を図19(b)、図19(c)に示す。緑色レーザでは、分解能が120nm程度であり、信号強度が小さくなっている。また、赤色レーザでは分解能が200nm程度であるため、200nmのスペースのみ観察可能であった。
以上より、レンズよりも十分大きい被観察物体も観察可能であることがわかった。
【0076】
[実施例6]
次に、平坦面に近接場成分増強用の金属パターンを有するハイパーレンズを用いて、被観察物体上で接触させずに1次元スキャンした測定例について説明する。実験系の構成、用いたハイパーレンズは実施例1、5とほぼ同じである。観察物体として、図18(a)に示す形状で、導電性をもったAuのライン・アンド・スペース2003を用いた。ライン・アンド・スペース2003は、実施例5と同様に、スペースの幅を左から200nm、150nm、100nm、150nmとしてランダムに振った。ライン・アンド・スペースの全体の幅は1μmで、ハイパーレンズの幅400nmよりも十分に大きく取った。
【0077】
図20(a)に、実験系における実施例5と違う点を示す。ハイパーレンズに形成した金属パターン1802とライン・アンド・スペース2003を電気的に接続し、その間の静電容量を計測して間隔を制御した。金属パターン1802と被観察物体2003はCu線2006を使って接続した。静電容量の測定にはキャパシタンスブリッジ2007を用いた。サンプルホルダ1804の移動は、サンプルホルダ1804の下に圧電素子1805を付加し、圧電素子1805のXY軸方向の電圧を印加することにより制御した。圧電素子1805による移動の位置精度は5nmである。
【0078】
静電容量は、金属パターンとライン・アンド・スペースの間の距離に反比例する。本実施例で用いているライン・アンド・スペースの静電容量を予め計算し、金属パターンとライン・アンド・スペースの最上部間の距離が10nmになる値を求めた。実際にスキャンする段階では、静電容量が上記計算で求めた値を超えないように、調整しながらスキャンした。例えば青色の場合は、近接場成分増強用の金属パターンの一辺が100nm、真空の誘電率が8.85×10-12(m-1F)であるので、近接場増強用金属パターンとスペース部分の静電容量は3.83(nF)となる。図20(b)に得られた静電容量のプロファイルを示す。スキャン範囲は座標をライン・アンド・スペースの左端を0として、0〜1.5μmとした。横軸が被観察物体の左からの距離、横軸が静電容量である。
【0079】
レーザ、ハイパーレンズは実施例1と同様に、青色、緑色、赤色の順に交換しながら観察を行った。その結果、得られた信号強度の揺らぎが実施例5の場合に比べて小さかった。これは、非接触でさらに静電容量により詳細にz方向の間隔を制御したためである。以上により、静電容量を用いると非接触で1次元スキャンを行いながら、ハイパーレンズのサイズよりも大きい観察物体を観察可能であることがわかった。
【0080】
[実施例7]
ハイパーレンズ上に発光体層を設けた実施例について説明する。作製したハイパーレンズを図21に示す。作製方法は上記の方法と同じであるが、基板上に作製する半球形のピットの半径を5μmとした。また、誘電体を製膜する前に、発光体層2101としてローダミン分子を2μm蒸着した。その後、Al2O3を2.5μmスパッタし、更にAg(20nm)/Al2O3(20nm)のセットを10セット積層した。このことにより、作製したハイパーレンズは緑色の波長帯の近接場光を伝播することができる。
【0081】
このレンズで、ピッチが100nmの回折格子を観察した。この回折格子の上に、図21のレンズを置き、レンズの裏面から出射される光を光学顕微鏡によって観察した。ここで、レンズの裏面と光学顕微鏡の対物レンズの間は空気とした。また、光学顕微鏡には、対物レンズと対眼レンズの間に波長フィルタを挿入できるようにした。光源として、YAGレーザを用いた。
【0082】
まず、600nm以下の波長の光をカットする波長フィルタを挿入して、顕微鏡像を得た。この像をCCDカメラで撮影し、像をコンピュータに格納した。この像を像1と名付ける。次に、600nm以上の波長の光をカットする波長フィルタで、上記と同じように像を得た。この像を像2と名付ける。
【0083】
像1は、発光体層2101のローダミンから発した蛍光による光学像であり、像2はYAGレーザの波長の光学像である。コンピュータには、この2つの像の強度プロファイルを差し引く機能を有するプログラムを組み込んだ。
【0084】
コンピュータ上で、像1、像2のそれぞれの2点を、サンプル上の同じ点を示す点として、カーソルによって指定した。この2点により、2つの像上の座標(x,y)を共通化することができる。次に、像の強度プロファイルを差し引く係数αを指定した。係数αは、像1、像2の上の座標(x,y)における強度をそれぞれI1(x,y),I2(x,y)とすると、I1(x,y)−αI2(x,y)の演算をするための係数である。ここでは、αの値を幾つか手動で設定し、回折格子の像が最も鮮明に得られる値を探した。その結果、αが0.2において、像が最も鮮明になった。この理由は、バックグラウンド光による像である像2を差し引くことにより、像1の中の高い空間周波数成分のみを像上に示したことに起因する。
【0085】
発光体層2101の材料として、CdSeを用いた実験も行った。用いたハイパーレンズの膜、光学顕微鏡、観察サンプル、波長フィルタ、YAGレーザは、上記と同じである。その結果、αを0.08とした際に、最も回折格子の像が鮮明に得られた。
【符号の説明】
【0086】
101:基板、102:金属、103:誘電体、201:被観察物体、203:入射光、206:検出器、301:被観察物体、302:サンプルホルダ、303:入射光、304:ハイパーレンズ、305:レンズホルダ、307:光学顕微鏡、309:検出器、310:油、601:ハイパーレンズ、602:金属パターン、603:金属層、604:誘電体層、901:サンプルホルダ、905:位置あわせマーク、1001:レンズホルダ、1002:横方向制御装置、1003:光源部、1004:演算制御部、1005:サンプルホルダ、1006:被観察物体、1007:ハイパーレンズ、1013:遮光板交換装置、1514:偏光子、1515:検光子、1801:ハイパーレンズ、1802:金属パターン、1803:被観察物体、1804:サンプルホルダ、1805:圧電素子、2007:キャパシタンスブリッジ、2101:発光体層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパーレンズ及びそれを用いた光学顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズは光学顕微鏡など多くの分野で使用されている。光学顕微鏡は、対物レンズ、接眼レンズを備えるが、被観察物体は対物レンズで拡大されて実像となり、その実像が接眼レンズにより拡大される。光学レンズの分解能は光の回折限界により制限される。光の回折限界とは、光学レンズにより得られる最小の光学スポットの大きさによって決まる限界であり、回折限界をΔとすると、
Δ=λ/4NA …(1)
と書ける。ここでλは光の波長、NAは開口数である。回折限界は、例えば、光学顕微鏡においては得られる像の分解能の限界を決定し、回折限界を小さくすることにより高分解能の光学顕微鏡を得ることができる。
【0003】
回折限界が式(1)で規定される理由は以下の通りである。3次元の空間を考え、光がz方向に伝播し、偏光の方向がx方向であるとする。これは、光の偏光方向がxy平面上の任意の方向を向いている場合は、その方向を新たにx軸と考えればよいため、一般性を失わない。光の電場Eは以下の式で書かれる。
E∝exp(−ik0z) …(2)
ここで、expは指数関数、iは虚数、k0は波数であり、k0と波長λは、
k0=2π/λ …(3)
という関係で結ばれている。
【0004】
z方向の波数をkz,x方向の波数をkxとすると、k0,kz,kxの関係は、
k02=(ω/c)2=kx2+kz2 …(4)
である。ここでcは光速、ωは振動数である。もし、kxがω/cを超えると、kzが虚数となり、上記式(2)からわかるように、z方向に進む光の振幅が急激に減衰する。例えば顕微鏡においては、観察する物体のx方向のサイズXとkxの間には、
X∝1/kx …(5)
なる関係がある。このため、kx>ω/cの場合にz方向に進む光が急激に減衰するということは、kx>ω/cの情報、即ちX<λの情報は光がz方向に進むにつれて急激に失われることを意味する。以下、kx>k0を満たす、急激に減衰する光の成分を近接場成分と呼び、kx<k0の減衰せずに伝わる成分を伝播成分と呼ぶ。
【0005】
回折限界は波長に比例するため、用いる光の波長を小さくすることにより高分解能の光学顕微鏡を実現する試みが続けられている。更なる光源の短波長化は、主に以下の2つの理由から非常に困難である。一つは、小型な光源である半導体レーザの実現が困難であること、もう一つは紫外線を吸収するサンプルが多いため、サンプルからの信号が小さくなることである。そのため、別の手法を用いて上記回折限界を超えて光を伝播する方法がいくつか提案されている。以下、代表的な例として、固浸レンズ(SIL)、近接場光、ハイパーレンズについて述べる。
【0006】
固浸レンズ(SIL)とは、屈折率の高い材料を選び、収差を付加しないように形状を選びつつ被観察物体と非常に近い位置に配置した固体レンズである。半球状の形状が良く用いられる。半球の平坦な側に物体を置く。屈折率がnの物質中では、実質的な開口数がn倍になり、式(1)からわかるように回折限界が1/n倍に小さくなる。レンズと観察物体が非常に近いため、通常失われてしまう近接場成分がレンズにトンネルすることができる。レンズに入った光は通常のn倍で絞られる。通常のレンズは観察物体と離れているため、レンズに届く前に近接場成分は失われてしまう。SILの材料としては高屈折率ガラス(n=1.6〜2.0)、可視光から遠赤外ではサファイア(n=1.76)、ZrO2(n=2.16)、GaP(n=3.1〜3.4)などが用いられる。このため、NAは最大で3.4である。これらに関しては、Applied Physics Letter, Vol.57, 2615-2616 (1990)(非特許文献1)で詳しく議論されている。
【0007】
次に、近接場光を用いて上記回折限界を超える方法について説明する。近接場光を用いる方法は、大きく2つに分けられる。一つはアパーチャー型、もう一つはプラズモン型である。アパーチャー型には、例えばファイバープローブを用いるタイプ、カンチレバーを用いるタイプがある。プラズモン型の例として、Nanobeak、c-aperture、金属プローブが挙げられる。ここではプラズモン型、特にNanobeakについて説明する。
【0008】
最初に、プラズモンについて説明する。プラズモンは、共鳴現象により発生する。金属内の自由電子は、電子−格子相互作用や電子−電子相互作用によって、統計的にある一定の力を受けている。一般に、ある一定の力を受けている物体は、固有振動数を持つが、光を入射すると、光の電場振動により電子は振動する。光の周波数と電子の固有振動数が一致すると、電子は大きな振動エネルギーを持つ。これをプラズモン共鳴と呼ぶ。このプラズモンの振る舞いは、金属内部と金属表面で異なる。何故ならば、表面の電子は内部の電子と異なる力を受けるからである。この表面に励起されるプラズモンを表面プラズモンと呼ぶ。理論的に、表面プラズモンは縦波であることが示され、よって表面プラズモンは光を放射することなく、金属表面に局在した電磁場である近接場光を伴って金属表面を伝播する。この伝播する波の波数、振動数、伝播距離、近接場光の強度などは、上記の入射光の条件、金属・誘電体の誘電率、金属膜の厚さ、プラズモンが発生する金属パターンのサイズなどに強く依存する。
【0009】
プラズモンを利用して回折限界を超える方法の一つがNanobeakと呼ばれる、三角形に近い形をした金属プローブを用いる方法である。詳しくはJournal of Applied Physics, Vol.95, 3901-3906 (2004)(非特許文献2)で議論されている。このプローブに、三角形の頂点から底辺に引いた垂線に平行な方向の電場を有する偏光を入射すると、金属内の自由電子は振動するが、頂点付近での自由電子密度が大きくなるために、頂点付近において非常に局在した強い近接場光が発生する。この近接場光が回折限界以上の情報を持っている。
【0010】
次に、ハイパーレンズについて説明する。ハイパーレンズは、回折限界を超える分解能を可能とする光学レンズであるが、サンプルに光を入射することによりサンプル上に形成された、入射光の波長よりも小さいサイズの近接場光を、そのサイズを拡大しながら遠方まで伝播するレンズである。ハイパーレンズは球形をしており、その球面に沿って積層された金属と誘電体の多層薄膜によって形成される。
【0011】
通常、近接場光は遠方まで伝播せず、サンプル表面から離れるに従って指数関数的に減衰するが、ここでは金属と誘電体の多層膜から成るハイパーレンズにより、レンズ内に形成されるプラズモンを伝播することによって、近接場光の情報を遠方まで伝播させる。その際、レンズが球形であることにより、近接場光は球の中心から球面の法線方向へ伝播するため、サンプル上において空間周波数が高い近接場光は、レンズの球上で低い空間周波数に変換される。このため、遠方へ伝播した光の空間周波数は低くなるが、その強弱のプロファイルは、サンプル上の近接場強度分布を反映しているため、この伝播光の強度分布を得ることにより、サンプル上の近接場強度分布、即ち、回折限界を超えた分解能の像を得ることができる。
【0012】
理論的には、ハイパーレンズとは、上記kzとkxの関係が双曲線状であり、そのため分解能が原理的に無限大となるレンズである。以下、この原理を簡単に説明する。x方向の誘電率をεx、z方向の誘電率をεzとすると、kzとkxの関係は
(ω/c)2=kx2/εz+kz2/εx …(6)
である。ここで、εx,εz>0であれば、式(6)は楕円になり、kxが上限を持つ。これは上記の通り、回折限界を持つことを意味する。εx,εzの符号が逆であれば、式(6)は双曲線となり、kxは下限を持つが上限は持たない。このため回折限界が原理上無限大となる。
【0013】
εx,εzの符号を逆にする方法として、金属と誘電体の多層膜を形成する方法が提案されている。例えば、Optics Express, Vol.14, 8247-8256(非特許文献3)では、基板に設けられた半円柱状の溝に金属と誘電体からなる多層膜構造を形成する方法が提案されている。非特許文献3で議論されている構造は、基板に形成された半円柱状の溝の中に、銀と酸化アルミニウムを交互に積層した多層膜である。この構造は、近接場成分が減衰しないという利点だけではなく、溝の形状を半円柱状とすることにより、像が拡大されるという利点を持つ。この構造により、通常想定される解像度よりも3倍小さい解像度が実験的に確認されている。非特許文献3で議論されているハイパーレンズは、基板上に形成された金属/誘電体多層膜の被観察物体側の最内膜は円弧状である。このため、被観察物体としては最内膜の円弧の中に入る物体しか扱えなかった。それを解決するために、Optics Express, Vol.16, 21142-21148 (2008)(非特許文献4)では、ハイパーレンズの被観察物体側表面を平坦にしたプレーナーハイパーレンズが提案されており、シミュレーションにより解像度が2倍となることが示されている。
【0014】
ここで、ハイパーレンズから伝播した光を通常の光学顕微鏡で観察する際には、例えば通常の光学顕微鏡で用いられる油浸レンズなどを用いる必要がある。何故ならば、ハイパーレンズは、サンプル上の複素波数の情報を伝達するが、この伝播光は、ハイパーレンズの基板から空気中へ入射する際、その入射角度が大きいために、全反射するからである。基板との屈折率差が小さい油などの液体へ入射すれば、この全反射を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】S. M. Mansfield and G. S. Kino, “Solid immersion microscope”, Applied Physics Letter, Vol.57, pp.2615-2616 (1990).
【非特許文献2】T. Matsumoto, T. Shimano, H. Saga and H. Sukeda, “Highly efficient probe with a wedge-shaped metallic plate for high density near-field optical recording”, Journal of Applied Physics, Vol.95, pp.3901-3906 (1995).
【非特許文献3】Hyesog Lee, Zhaowei Liu, Yi Xiong, Cheng Sun and Xiang Zhang, “Development of optical hyperlens for imaging below the diffraction limit”, Optics Express, Vol.15, pp.15886-15891 (2007).
【非特許文献4】Weo Wang, Hui Xing, Liang Fang, Yao Liu, Junxian Ma, Lan Lin, Changtao Wang and Xiangang Luo, “Far-field imaging device: planar hyperlens with magnification using multi-layer metamaterial”, Optics Express, Vol.16, pp.21142-21148 (2008).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のように、光の回折限界を超えたレンズは様々提案されているが、それぞれが課題を抱えている。
【0017】
SILを使用する場合、分解能を高めるには高屈折率物質が必要となるが、現在知られている自然界における最大の屈折率は3程度であり、分解能を3倍以上に高めることは難しい。Nanobeakを用いる方法では、Nanobeak先端とサンプルとの間で発生した近接場光が伝播光に変換される際に強度が急激に弱くなり、レンズとして用いるには制限が大きい。
【0018】
ハイパーレンズでは理論上非常に高い分解能が得られ、更に近接場成分を伝播成分に変換ができるため汎用性が広がるが、金属と誘電体の多層膜構造により、その膜厚と材料の光学定数で決定される狭い波長領域でのみ、その効果を発現する。そのため、1枚のハイパーレンズでは被観察物体の持つ光学分散を知ることができない。また、伝播する近接場光の強度が弱く、近接場光が伝播光に変換される効率が悪い。また、ハイパーレンズを通して伝播した光を得るには、油浸レンズなどを用いる必要があるが、ここで用いる油などの液体の屈折率は、例えば1.3〜1.7程度である。高い空間周波数を有する近接場が伝播光に変換される場合、その伝播角はサンプル表面に近くなるので、この伝播光を光学顕微鏡で得るには、非常に大きな屈折率の液体などを、ハイパーレンズの基板と光学顕微鏡のレンズの間に満たす必要がある。しかし、そのような液体は存在しないことが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記のハイパーレンズに関する2つの問題を、ハイパーレンズの構造の改良と、複数のハイパーレンズを用いること、及びそれに適したシステムを採用することによって解決する。
【0020】
本発明による光学顕微鏡システムは、サンプルを保持するサンプルホルダと、それぞれ異なる波長のサンプル照射光を発生する複数の光源と、各光源の波長に適合して近接場成分を伝播成分に変換する複数のハイパーレンズと、複数の光源のうちの一つと複数のハイパーレンズのうちの一つとを対にして切り替える切り替え機構と、ハイパーレンズを透過した光が入射される顕微鏡と、顕微鏡による拡大像を撮像する撮像素子と、演算及び装置各部の制御を行う演算制御部とを備える。
【0021】
ハイパーレンズは、平坦な光入射面を有し、光軸を通る一つの断面で見たとき、光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造を有する。ハイパーレンズの立体形状は、半球状若しくは半円柱状である。ハイパーレンズは積層膜構造の外側に発光体層を備えていてもよい。また、光入射面に近接場成分増強用の金属パターンを有してもよい。
【0022】
演算制御部は、切り替え機構を制御して複数の光源の各々と当該光源と対をなすハイパーレンズを順次選択して、異なる波長による複数のサンプル像を取得し、取得した複数のサンプル像から1枚のサンプル像を合成することにより、サンプルの光学特性の波長依存性の情報を入射光の波長以下のサイズで得る。
【0023】
複数の光源は、典型的には、青色の光を発生する光源、緑色の光を発生する光源及び赤色の光を発生する光源である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、試料の波長特性を回折限界を超える分解能で得ることができる。また、ハイパーレンズと発光層を組み合わせることにより、光学システムを簡素化し、近接場光が伝播光に変換される効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で用いたハイパーレンズの概略図。
【図2】本発明のハイパーレンズを用いる際のサンプルと検出器の位置関係の説明図。
【図3】ハイパーレンズと顕微鏡の関係図。
【図4】フレネルの式によるハイパーレンズのx方向の波数とレンズを透過する光透過率の関係を示す図。
【図5】ハイパーレンズの空間周波数と信号強度の偏光依存性の説明図。
【図6】ハイパーレンズのサンプル面に金属パターンを設けた場合の説明図。
【図7】ハイパーレンズの作製プロセスの説明図。
【図8】波長の異なる光源を用いた場合の、それぞれの波長に合わせて設計したレンズの波数と透過率の関係の波長依存性を示す図。
【図9】光学特性の波長依存性が異なる部位を有するサンプルの説明図。
【図10】設計・作製したレンズを自動的に交換する顕微鏡システムの説明図。
【図11】複数光源と各光源に適合したハイパーレンズを用いて得られたサンプルの顕微鏡像。
【図12】顕微鏡像を合成する際の位置合わせ及び強度合わせの説明図。
【図13】合成顕微鏡像を示す図。
【図14】顕微鏡像を合成する際の位置合わせ及び強度合わせの説明図。
【図15】異なる偏光を用いて像を得るシステムの説明図。
【図16】異なる偏光を用いて得られた光学信号と、その演算の説明図。
【図17】合成顕微鏡像を示す図。
【図18】ランダムな幅を持つ観察サンプルとそれのスキャンシステムの説明図。
【図19】光学信号の説明図。
【図20】ハイパーレンズとサンプルの距離を静電容量で制御するシステムの説明図。
【図21】発光体を設けたハイパーレンズの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
まず、サンプルの光学分散を観察する方法について述べる。このために、本発明では構造の異なる複数のハイパーレンズを用いる。その複数のハイパーレンズの構造は、近接場光を伝播する波長領域が異なる構造とする。例えば、3つのハイパーレンズを作成し、それぞれが赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の波長の近接場光を伝播するものであり、それぞれのレンズで得られた像を重ねることにより、サンプルの有する光学特性の波長依存性を観察することができる。
【0027】
次に、本発明で用いるハイパーレンズの設計方法について述べる。本発明のハイパーレンズは、基板上に作製された溝やピットなどの構造内に製膜した金属と誘電体の2層以上の積層膜を有する。図1(a)は、本発明のハイパーレンズの一例の断面模式図である。図1(a)は光軸を通る一つの断面であり、光入射面104は平坦面になっている。本発明のハイパーレンズは、基板101上に製膜された金属102と誘電体103の2層以上の多層膜を備える。この断面で見たとき、多層膜は、光入射面104側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、その外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層構造を有する。製膜する順番は、金属102が先でも誘電体103が先でもかまわない。形状の断面が円形であると、近接場成分を効率的に伝播させることができる。また、図1(b)、図1(c)にハイパーレンズの2つの実施例の上面図を示す。図1(b)に示す上面図を有するハイパーレンズは、半球状の全体形状を有する。図1(c)に示す上面図を有するハイパーレンズは、半円柱状の全体形状を有する。
【0028】
次に、本発明のハイパーレンズと被観察物体(サンプル)との配置の関係を図2に示す。被観察物体201は本発明のハイパーレンズの2つの表面のうち、平坦な表面202に配置する。入射光203はレンズの平坦な表面202側から入射する。ハイパーレンズを透過した光204をハイパーレンズの平坦面の逆面205にある検出装置206で検出する。被観察物体201のレンズ側の最上面とハイパーレンズの平坦な表面202の間の距離は、入射光203の波長よりも短いことが望ましい。被観察物体201のレンズ側の表面とハイパーレンズの平坦な表面202の距離が波長以上となると、近接場成分がハイパーレンズに入る前に減衰するからである。
【0029】
次に、本発明のハイパーレンズを顕微鏡に組み込んだ例を図3に示す。図3(a)において、被観察物体301を、入射光303側に配置されたサンプルホルダ302上に配置する。被観察物体301の直上に、本発明のハイパーレンズ304を配置する。ハイパーレンズ304はレンズホルダ305により固定する。ハイパーレンズ304を透過した光306を顕微鏡307で受けて、顕微鏡307を通った光308を検出器309で観察する。図3(b)は、ハイパーレンズ304と顕微鏡307の間に油310を満たした例を示す。油310を満たすことにより、NAが上がり、分解能が向上する。図3(c)は、ハイパーレンズ304と顕微鏡307を近接させた例を示す。ハイパーレンズ304と顕微鏡307を近接することにより、ハイパーレンズ304を透過した光306の多くの成分を顕微鏡307で受けることができる。
【0030】
上記ハイパーレンズを設計する際、ハイパーレンズを通った後の電界の透過率のkx依存性は、フレネルの式を使って計算できる。入射する波長を一定にし、計算によりk<kxの領域でのkxで透過率がゼロでなければ、回折限界を超えた近接場成分が伝播することを意味する。ハイパーレンズに入射する光の波長によって、多層膜の金属と誘電体の材料、膜厚、多層膜の膜総数を変化させて計算を実行し、最も大きな近接場成分k>kxが伝播している構造を決定すればよい。
【0031】
フレネルの式を用いて計算した透過率の例を図4に示す。用いた入射波の波長は400nmで、ハイパーレンズの構成はAg(20nm)/Al2O3(20nm)、合計10層である。図4において、横軸は400nmに対応する波数k0でkxを規格化した値kx/k0、縦軸はレンズを通った後の電場の透過率である。図4からわかるように、回折限界400nmを超えた光(kx/k0>1の成分)、即ち近接場成分が伝播している。図4ではkx/k0=4(矢印の位置)で透過率が0%となっており、上記の構成では分解能が通常予想される回折限界の4倍となっていることがわかる。
【0032】
次に、金属の選択方法を述べる。ハイパーレンズ作製用の金属は、サンプルの観察に用いる光源の波長に依存する。この波長が可視光である場合には、Au,Ag,Cu,Al,Ptの少なくとも1つを用いることが望ましい。用いる金属の選択には、金属のプラズマ周波数、導電性を考慮する必要がある。導電性が小さいと金属中で光がすぐに減衰してしまい、近接場成分を観測することができない。また、プラズマ周波数を超えた光が入射すると、光の振動に電子が追随できなくなり、この結果、プラズマ周波数以上では誘電率が正となり、金属として振舞わず、上記膜に使用できない。例えばAgのプラズマ周波数は紫外域に存在するため、赤色、青色、緑色のレーザの全てに対して使うことができる。また、例えばAuのプラズマ周波数は緑色と青色の中間付近に存在し、青色の光に対しては使うことができない。
【0033】
ハイパーレンズ作製用の金属を決定した後に、レンズ作製に用いる誘電体の種類、金属と誘電体の膜厚、多層膜の総数を決めて、フレネルの式を用いてレンズの性能を見積もる。その際、レンズの材料として用いるのに適した誘電体の種類、金属と誘電体の膜厚比を、以下の手順により簡単に見積もることができる。金属の誘電率をεm、誘電体の誘電率をεp、金属の厚さをdm、誘電体の厚さをdpとすると、これらの関係は、次のようになる。
dm/dp=−Re(εm)/εp …(7)
【0034】
ここで、Re(εm)は金属の誘電率の実部である。例えば、上記ハイパーレンズに用いる誘電体と金属の膜厚がほぼ等しい場合は、用いる金属の誘電率の実部の絶対値とほぼ等しい誘電率を持つ誘電体を用いることが望ましい。これはインピーダンスマッチング条件を意味する。
【0035】
次に、被観察物体の光学特性の波長依存性を、入射光の波長以下のサイズで得るシステムについて述べる。各入射光の波長に対応した複数のハイパーレンズを用いて被観察物体を観察し、それで得た複数の像を重ねることで、被観察物体の光学特性の波長依存性の情報を、入射光の波長以下のサイズで得ることができる。各波長で得た複数の像を重ねる際には、被観察物体の観察に用いる全ての波長で観察可能である位置合わせマークが必要になる。更に、各波長で得た複数の像の強度を合わせる必要がある。何を位置合わせマークにするかはユーザーが選ぶことができるが、例えばサンプル上に位置合わせマークを付加し、そのマークを使って位置合わせができるシステムを使って位置合わせを行う。位置合わせマークはサンプル上にある傷でもよい。またサンプルホルダ上に位置合わせマークを付加しても良い。また、強度合わせに関しては、各波長で校正用サンプルを用いて校正する方法、それぞれの波長で得られた像の強度に適当な重みをかけて、それを手動で変化させて一番鮮明な像を得る方法が考えられる。校正用サンプルは、分散特性がよくわかっている材料を用いるのが望ましい。
【0036】
次に、被観察物体の光学特性の波長依存性のうち、入射する光の波長以下のサイズの情報を強調して得る方法を述べる。金属と誘電体の積層体からなるハイパーレンズでは、入射する光の偏光方向によって得られる光学特性が異なる。即ち、TM光を入射すると近接場成分は遠方まで伝播するが、TE光を入射すると近接場成分はすぐに減衰する。ここで、TM光は、例えば半円柱状のハイパーレンズの場合は、半円柱の軸に沿った方向に対して磁場が垂直な方向を向いた光であり、TE光は半円柱の軸に対して磁場が平行な方向を向いた光である。光の伝播方向はこのTE光とTM光で記述できる。TM光を被観察物体に入射して本発明のハイパーレンズを用いると、回折限界を超えた情報を得ることができるが、もともとのバックグラウンドの光が大きいため、回折限界を超えた情報が通常伝播してくる成分に埋もれてしまう。そこで、2つの偏光に対するハイパーレンズの特性を測定し、それらを差し引きすることで、近接場成分のみの効果を測定する。
【0037】
上記の工程を、図5を用いて以下に示す。始めに、ハイパーレンズの曲面と逆側の平坦な面に観察物体を置き、特定の波長のTM波を入射し、CCDカメラなどの撮像装置により強度を測定する。この強度をITMとする。次に、TE波を入射して強度を測定する。この強度をITEとする。TM波とTE波の入射位置をそろえるために位置合わせマークをサンプル上に作っておき、その位置合わせマークを使って位置合わせを行う。位置合わせ後に近接場成分以外の成分を差し引くが、ITMとITEでは得られる信号強度が異なる。そこで、ITMとITEをフーリエ変換し、そのフーリエ変換後の値をF(ITM)とF(ITE)とする。
【0038】
図5(a)に、F(ITM)とF(ITE)を示す。図5(a)の横軸を空間周波数、縦軸を透過電場の信号強度をフーリエ変換した成分とすると、TM偏光を入射すると回折限界以上の情報が伝播するため、F(ITM)は空間周波数が2π/λ以上でも信号強度がゼロにならない。一方、TE偏光を入射すると回折限界以上の情報は伝播しないため、F(ITE)は空間周波数が2π/λで信号強度がゼロになり、上記のF(ITE)がバックグラウンド光となる。伝播する近接場成分の信号強度をあげるため、F(ITM)とF(ITE)が線形であると仮定し、TE波成分に重みをかけてF(ITM)−αF(ITE)という量を考えて、F(ITM)−αF(ITE)の2π/λ<(空間周波数)部分の和が最小なるようにαを決定するシステムを構築する。実際にαを決定してF(ITM)−αF(ITE)を求めた例を図5(b)に示す。空間周波数が2π/λ以上の成分、即ち大きさがλよりも小さい成分の信号強度が大きくなり、近接場成分をよく測定できる。用いる偏光方向は、レンズの形状と、被観察物体の形状の両方による。レンズの形状が半円柱状ならば、TE偏光とTM偏光を用いればよい。レンズの形状が半球状ならば、サンプルの形状によって入射する偏光の方向を変化させる必要がある。
【0039】
次に、全体の信号に対する近接場成分の信号を増加させる方法を述べる。これは、ハイパーレンズの観察物体側の表面に、入射する光の波長以下のサイズの金属パターンを作製することによって実現できる。ハイパーレンズを作成する際に構成要素として金属を用いると、金属による光の散逸が起こる。このため、レンズから出た光の近接場成分は非常に弱くなり、回折限界を超えた情報が失われてしまう。上記で述べた、入射する光の波長以下の金属パターンや金属の構造物に光が入射すると、金属内の自由電子は振動するが、先端付近での自由電子密度が大きくなるために、先端付近において局在した強い近接場光が発生する、つまりプラズモンが集中する。上記金属パターンにより、プラズモンが集中し、近接場光を増強して金属により失われた分を補償し、高いS/N比を得ることができる。
【0040】
プラズモンを増強させる金属パターンのサイズ、形状は、入射する光の波長に依存する。このため、プラズモンを増強させる金属パターン構造はいくつか考えられるが、例えば三角形状が考えられる。また、配置する金属パターンの数も何種類か考えられるが、例えば2個が考えられる。また、金属パターンのハイパーレンズ側の頂点又は面と、ハイパーレンズの最内側金属半球の中心との距離は、ハイパーレンズに入射する波長以下であることが望ましい。この距離が入射光の波長以上となると、近接場成分が減衰してしまい、近接場増強素子として機能しなくなる。プラズモンの集中はハイパーレンズを構成する金属のうち、最内側金属のサイズを入射する波長より小さくすることによっても実現できる。基板上に作製した金属パターンの概念図を図6に示す。図6には、金属パターンの形状が三角形の場合を示している。ハイパーレンズ601の略平坦化された表面側に、三角形状の金属パターンを形成する。図6(a)は断面図、図6(b)はハイパーレンズが半球状の場合の上面図、図6(c)はハイパーレンズが溝状の場合の上面図である。図6では、ハイパーレンズの平坦な表面から順に金属層603、誘電体層604を交互に積層している。
【0041】
ハイパーレンズに、サイズが入射する光の波長以下の金属パターンを形成するには、作製するハイパーレンズの2つの表面のうち、被観察物体側の表面が略平坦である必要がある。以下、ハイパーレンズの作製法の概略を述べる。始めにリソグラフィーやナノインプリントを用いて基板へのパターン描画を行う。基板としてはガラス基板、Si基板、半導体基板、樹脂基板などが考えられる。次に、反応性イオンエッチングによって基板にパターンに従った半球状あるいは半円柱状の窪みを形成する。次に、形成した窪みに金属と誘電体を交互に製膜する。製膜方法にはスパッタリング法、蒸着法、化学蒸着法(CVD法)が考えられる。最後に、被観察物体側の平坦化を行う。平坦化の方法には、ミリング、反応性イオンエッチング、化学的機械的研磨が(CMP)が考えられる。CMPでは、プラスチック上の研磨も可能である。
【0042】
次に、近接場成分増強用の金属パターンを設けた本発明のハイパーレンズを使って被観察物体をスキャンする方法を述べる。スキャンすることによって比較的大きな被観察物体を観察できる。金属パターンを設けたハイパーレンズを使ったスキャンの方法には、被観察物体と金属パターンを物理的に接触させながらスキャンする方法と、被観察物体と金属パターンを物理的に接触させずにスキャンする方法がある。被観察物体と金属パターンを物理的に接触させながらスキャンする場合は、被観察物体を保持するサンプルホルダを機械的に制御しながらスキャンしていく。被観察物体と金属パターンを物理的に接触させずにスキャンする方法には、被観察物体が導電性を持つ場合は、被観察物体と金属パターンを物理的に接触させずに、その2つの間の静電容量を測定することにより、間隔を制御する方法がある。
【0043】
また、本発明のハイパーレンズの断面形状は半円形または半楕円形であることが望ましい。半円形にすることにより、レンズから出た近接場成分を伝播させる。また、半楕円形でも近接場成分を伝播できる。
【0044】
ハイパーレンズによって形成された伝播光を光学顕微鏡で得るために、油浸レンズを用いず、ハイパーレンズに発光体層を付加してもよい。ハイパーレンズの外球面の外側に、発光体層を設けると、発光体層が伝播光を吸収し、一般的には波長の異なる光を発する。この光は、ハイパーレンズで変換された伝播光の伝播方向によらず、全立体角方向へ伝播する。このことにより、この光はハイパーレンズの基板へ浅い角度で入射するため、全反射せずに空気中へ伝播する。
【0045】
この発光体として、例えば高分子や半導体量子ドットなどの蛍光体を用いることができる。発光体層は、ハイパーレンズの中心から、少なくとも光源波長よりも遠い場所に設置することが必要である。何故ならば、ハイパーレンズの中心から、光源波長以下の部分、即ち近接場領域においては、光のプロファイルの空間周波数が高い。このため、近接場領域に発光体層を設置すると、発光体層から発生した伝播光の中で、高い空間周波数を有する成分は減衰するため、光学顕微鏡で得られる分解能が小さくなってしまうからである。
【0046】
更に、発光体層を用いることにより、空間周波数が低いバックグラウンド光を除去することができる。光源波長をλ1、発光体層から発する蛍光の波長をλ2とすると、一般的には、λ1<λ2である。ハイパーレンズの基板から出射する光は、この2つの波長の光の混合である。ここで、油浸レンズを用いない場合、λ1の光のうち、高い空間周波数の成分は全反射により基板から出射しないため、基板から出射するのは低い空間周波数の成分のみである。一方、λ2の光は、低い空間周波数と高い空間周波数の両方を含む。ここで、光学顕微鏡に光学フィルタを設置し、波長λ1のみの光の像と、波長λ2のみの光の像を得る。像上のある一点のλ1,λ2の光の強度をそれぞれI(λ1),I(λ2)とすると、適切な値αを採用して、I(λ2)−αI(λ1)とすることにより、サンプル上で入射光の波長よりも高い空間周波数であった成分の光のみの像を得ることができる。通常、近接場光の強度は弱いため、高い空間周波数成分の信号は、低い空間周波数成分のバックグラウンド信号に埋もれ、像のS/Nが低くなるが、この演算により、高S/Nの高分解能な像を得ることができる。発光体層と近接場成分増強用金属パターンを併用してもよい。
【0047】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
[実施例1]
本発明の光学顕微鏡システムを用いて被観察物体の色情報を、入射光の波長以下のサイズで得る方法を説明する。図1(a)、図1(b)に形状を示した半球状のハイパーレンズを、赤色レーザ、青色レーザ、緑色レーザそれぞれの波長で性能が最大になるように設計を行った。赤色レーザの光源はHe−Neで波長633nm、緑色の光源はYAGレーザの2倍波で波長532nm、青色レーザの光源はHe−Cdレーザで波長405nmを用いた。スポット径は赤色レーザが2μm、緑色レーザが1μm、青色レーザが1μmである。
【0048】
基板への半球の作製、誘電体/金属膜の製膜、被観察物体側表面の略平坦化までの手順は以下の通りである。始めに、厚さが1mmの基板上に半球状の窪みを形成した。基板にはSiO2を用いた。半球パターンの形成は、スタンパを用いる方法で行った。図7に、その手順を示す。
【0049】
まず図7(a)に示すように、SiO2基板701上にCr層702、レジスト層703を順に塗布し、レーザ描画によりレジスト層703上に直径1μmの円形パターンを描画した。次に、図7(b)に示すように現像し、更に図7(c)に示すように、描画した部分のCr層702を反応性イオンエッチング(RIE)により取り除いた。そしてSiO2基板701に対してウェットエッチングを行い、図7(d)のように半球状の窪み704を形成した。半球状の窪み704の直径は2.0μmであった。半球状の窪み704の直径はSiO2基板701に描画する円形パターンの半径によって決まる。最後に、図7(e)に示すように、レジスト層703及びCr層702を除去した。上記により形成された半球の窪み704を原版として、原版にNi蒸着及びNiメッキを施して原版の半球を転写し、図7(f)に示すようにスタンパ706を形成した。スタンパ706を用いて、射出成型法により、ガラス基板707に塗布したUV樹脂708にスタンパ706の半球を転写し、図7(g)に示すように半球状の窪み709を形成した。
【0050】
次に基板への金属、誘電体の製膜をスパッタリング法で行った。プラズマ周波数を考慮して、ハイパーレンズに使用した金属は、青色レーザ用ハイパーレンズにはAg、緑色レーザ用ハイパーレンズにはAu、赤色レーザ用ハイパーレンズにはAuを用いた。青色レーザ用ハイパーレンズの膜構造はAg(20nm)/Al2O3(20nm)、合計10層で半径400nm、緑色レーザ用ハイパーレンズの膜構造はAu(20nm)/Al2O3(20nm)合計10層で半径400nm、赤色レーザ用ハイパーレンズの膜構造はAu(20nm)/Al2O3(20nm)合計10層で半径400nmとした。最後に、ハイパーレンズの被観察物体側表面を平坦化するために、樹脂の研磨も可能である機械的化学的研磨(CMP)を行った。
【0051】
準備した上記3つのハイパーレンズに、被観察物体側からレーザを入射した場合の、フレネルの式を用いた透過率の計算結果を図8に示す。横軸は波数のx成分であるkxを入射した光の波数k0で規格化した値kx/k0、縦軸は電場強度の透過率である。図8(a)が青色レーザ用ハイパーレンズの計算結果、図8(b)が緑色レーザ用ハイパーレンズの計算結果、図8(c)が赤色レーザ用ハイパーレンズの計算結果である。図中の矢印は、電場強度の透過率がゼロになる規格化波数である。上記計算により、青色レーザ用ハイパーレンズの分解能は回折限界の4倍に、緑色レーザ用ハイパーレンズの分解能は回折限界の4倍に、赤色用ハイパーレンズの分解能は回折限界の5倍になることがわかった。
【0052】
次に、上記3つのハイパーレンズを用いて、3種類の色素の観察を行った。使用した色素は、495nmに励起波長を持つフルオレセインイソチオシアネート、555nmに励起波長を持つローダミン、650nmに励起波長を持つAlexa Fluor 647である。図9に示すように、3種類の色素をサンプルホルダ901上に周期的に並べた。902がフルオレセインイソチオシアネート、903がローダミン、904がAlexa Fluor 647である。また、905が位置合わせマークである。色素の大きさは直径1μm、色素間の間隔は200nmとした。
【0053】
次に、観察について述べる。本発明のハイパーレンズをレーザ顕微鏡に組み込んだ。図10に、本発明のハイパーレンズを組み込んだ顕微鏡システムの概略図を示す。各色に対応した3枚のハイパーレンズは、1つの黒色プラスチック板(レンズホルダ)1001に配置し、機械的に移動できるように、横方向制御装置1002で制御した。3色のレーザは光源部1003に配置し、光は1つの出射口から同じ光軸上に出るようにした。3種類のレーザ光のうち使わないレーザ光は遮光板で遮光するようにした。遮光には、遮光板交換装置1013を用いた。実際には、黒色プラスチック板1001及び遮光板の制御は、演算制御部1004としてのパーソナルコンピュータ(PC)上で行い、使用したい波長を決めてPC上のボタンをクリックすれば、その波長に対応したハイパーレンズに自動的に切り替わり、遮光板も切り替わって光源部1003からその波長のレーザ光が出射するようにした。
【0054】
被観察物体として、サンプルホルダ1005に上記3種類の色素1006を並べ、その直上にハイパーレンズ1007を設置した。ハイパーレンズ1007は黒色プラスチック板1001に固定されている。入射光1008を入射し、ハイパーレンズ1007を通過した光1009を顕微鏡307で受けて、顕微鏡307を通過した光1011をCCDカメラ309で観測した。観測したデータは演算制御部1004に格納した。本実施例では、ハイパーレンズ1007と顕微鏡307の間をイマージョンオイル310で満たした。光学顕微鏡307とハイパーレンズ1007の間を、屈折率がガラスとほぼ等しいイマージョンオイル310で満たすことにより、全反射する成分を減らすことができる。
【0055】
測定は、レーザ光源とハイパーレンズを入れ替えながら行った。始めに青色レーザと青色レーザ用レンズを使って測定をした。演算制御部1004としてのPCの画面をクリックして青色レーザとレンズを選択し、測定を行った。それが終わると、緑色レーザ及び緑色レーザ用レンズを使って測定を行い、最後に赤色レーザ及び赤色レーザ用レンズを使って測定を行った。
【0056】
図11にそれぞれの波長で得られた像を示す。図11(a)が青色レーザの測定結果、図11(b)が緑色レーザの測定結果、図11(c)が赤色レーザの測定結果である。計算結果からの予想通り、どの波長でも分解能以下の構造が観測できた。図11(a)では、フルオレセインイソチオシアネート1102の励起波長が495nmであり、青色の波長405nmよりも大きいため、青色レーザ用ハイパーレンズで観測すると少々不鮮明な像が得られた。図11(b)で、ローダミン1104は励起波長が555nmにあるため、はっきりと像が見えるが、フルオレセインイソチオシアネート1102の励起波長が495nmであるため、フルオレセインイソチオシアネート1102の像もぼやけて見える。図11(c)では、Alexa Fluor 647のみ観測された。
【0057】
3種類の測定の後に、得られた3つの像を重ね合わせるために、位置合わせと強度合わせが必要になる。位置合わせマークとして、横2μm、縦5μmの直線を2本ずつ2組、サンプルホルダ901上に作製した。この位置合わせマーク905はレーザ描画により作製した。
【0058】
位置合わせ、強度合わせの手順を図12に示す。始めに用いる波長の数、波長の大きさを指定する。本実施例では赤色、緑色、青色であるので、3と入力した。次にそれぞれの波長でサンプルの測定を行った。それぞれの波長で得られた像のデータをCCDカメラで取り込み、演算制御部内のメモリに格納した。そして、得られた3つのデータをディスプレイ上に表示した。次に、ディスプレイ上でそれぞれの位置合わせマーク2点を、サンプル上の同じ点を示す点として、カーソルによって指定した。この2点により、2つの像上の座標(x,y)を共通化することができる。位置合わせの後に、得られた像の強度を合わせる係数αB,αG,αRを指定した。αBIB+αGIG+αRIRである。この係数は手動で設定して演算を行い、被観察物体の像が最も鮮明になるように設定した。値は、αB=0.2,αG=0.5,αR=0.4であった。
【0059】
結果を図13に示す。上記により、色素の色情報を含めた、光学分解能を超えた分解能を持つ像が得られた。
【0060】
スタンパを作製する際の基板に、半導体、Si基板、樹脂を用いても同様の結果が得られた。
【0061】
なお、測定系として、図3(a)、図3(c)のような配置も考えられる。図3(a)では、ハイパーレンズ304と顕微鏡307の間は空気である。このため、図3(b)の配置に比べて得られる像の鮮明さは低いが、近接場成分の情報を含む像が得られた。また、図3(c)では図3(b)とほぼ同じ結果が得られた。
【0062】
また、断面形状を楕円形状にしたハイパーレンズを用いて、同様の実験系、測定方法、被観察物体に対して測定を行ったところ、断面形状が円形のハイパーレンズを用いた場合に比べて解像度は低いが、ほぼ同等の結果が得られた。
【0063】
[実施例2]
本発明の光学顕微鏡システムを用いて被観察物体の色情報を、入射光の波長以下のサイズで得る他の実施例について説明する。実験系、測定法、用いたハイパーレンズ、用いた被観察物体は実施例1と同じであるが、3つの像の強度合わせの際に、校正用サンプルを用いた点が異なる。今回は校正用サンプルとして、分散特性が良くわかっているAl平板(縦横1μm、厚さ10nm)を用いた。校正用サンプルは、分散特性がよくわかっているものを用いるのが望ましい。
【0064】
強度合わせのフローチャートを図14に示す。手順は実施例1とほぼ同じであるが、波長の数を指定した後に校正用サンプルのAlの透過強度を青色レーザ、緑色レーザ、赤色レーザの各波長で測定して演算制御部のメモリに格納した。そして、位置合わせの後に、校正用サンプルにより得られた各色での透過強度と比較して、得られた3つの像の強度を合わせる係数αを指定した。青色レーザに対応する被観察物体像の強度をIB、緑色レーザに対応する被観察物体像の強度をIG、赤色レーザに対応する被観察物体像の強度をIRとし、Alの青色レーザでの透過強度とIBとの比をαB、Alの緑色レーザでの透過強度とIGとの比をαG、Alの赤色レーザでの透過強度とIBとの比をαRとすると、全体の像は、αBIB+αGIG+αRIRである。本実施例ではαB=0.17、αG=0.61,αR=0.35で、実施例1とほぼ同等であった。以上により、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。
【0065】
[実施例3]
次に、上面から見たとき図1(c)に示すように溝状となっている半円柱状のハイパーレンズを使った実施例を述べる。ハイパーレンズの作製に用いた材料は実施例1と同じである。溝状のレンズを作るために、レーザ描画で基板上に幅2μm、長さ1mmの矩形の溝を描いた。その後のハイパーレンズの作製手順は実施例1と同じである。本実施例のハイパーレンズの断面形状は図1(a)に示され、上面図は図1(c)に示されている。表面の最内側金属上に観察物体を置いた。基板101はガラス基板、金属102は青色レーザ用には銀、緑色レーザと赤色レーザ用には金を用いた。誘電体103はAl2O3とした。ハイパーレンズが半円柱形状の場合、入射光の偏光方向によって、ハイパーレンズの性能が変化する。即ち、半円柱の軸に対して電場が平行(TM偏光)の場合は近接場光成分を伝えるハイパーレンズとして働くが、半円柱の軸に対して電場が垂直(TE偏光)の場合は通常のハイパーレンズとして働き、近接場成分を伝えることができない。これを利用して、同じ観察物体をTM偏光で測定した時の透過光の強度からTE偏光で観察した場合の透過光の強度を差し引くと、近接場成分のみを観察できる。
【0066】
顕微鏡の構成例を図15に示す。顕微鏡の構成は、図10に示した実施例1の構成とほぼ同じであるが、偏光方向を選択するために、光源部1003のレーザ出射口のすぐ後に偏光子1514が設置され、レーザ顕微鏡307の観察口に検光子1515が設置されている。また、顕微鏡307による像をCCDカメラ309で撮像し、信号を得た。用いた観察物体1006は100nmピッチのライン・アンド・スペースで、全長が700nmである。
【0067】
始めに青色レーザ及び青色レーザ用ハイパーレンズを使って測定した。演算制御部1004上の画面をクリックして青色レーザ及び青色レーザ用ハイパーレンズを選択し、測定を行った。青色レーザを用いた測定結果を図16に示す。図16(a)に、TM波の場合の電場強度1601、TE波の場合の電場強度1602を示す。横軸はライン・アンド・スペースの端からの距離Δ、縦軸が検出した電場強度である。上述のように、TM波に比べて、TE波の全体の強度は小さい。そこで、この強度を合わせるシステムを用いて、電場強度を調節し、バックグラウンド成分を差し引いた。本実施例では、得られた信号強度をフーリエ変換して、F(ITM)−αF(ITE)の2π/λ<(空間周波数)部分の和が最小なるようにαを調整した。本実施例ではα=0.7であった。図16(b)に、TM波での電場強度からTE波での電場強度を差し引いた結果を示す。図16(b)から分かるように、明らかにS/Nが増大した。
【0068】
この後、レーザを緑色レーザ、赤色レーザに変えて測定を行った。図16(c)、図16(d)に緑色レーザと緑色レーザ用ハイパーレンズを用いた測定結果を、図16(e)、図16(f)に赤色レーザと赤色レーザ用ハイパーレンズを用いた測定結果を示す。緑色レーザの場合もS/Nの増大が見られた。赤色レーザの場合は、本発明のハイパーレンズを用いても分解能が100nmを超えないため、S/Nは増大しなかった。
【0069】
[実施例4]
より鮮明な像を得るために、サンプル面に金属パターンを設けたハイパーレンズを用いて近接場成分を増強させた測定例について説明する。本実施例の実験系は実施例1と同じであり、図10に示した顕微鏡システムを用いた。
【0070】
近接場増強パターンは正三角形状とし、数は2個とした。半球状のハイパーレンズを用い、ハイパーレンズの略平坦化された表面上に、図6(a)の断面図及び図6(b)の平面図に示すように、正三角形の金属パターン602を、三角形の先端が観察物体側に向くよう形成した。先端の尖った物体にTM波を入射するとプラズモンが増強されるため、レンズに入る前に近接場成分が増強され、レンズ中を通る過程で弱められる分を補償できる。三角形のパターンに用いる金属の材料、幅、長さは、用いる波長により決まる。今回は青色レーザ用ハイパーレンズの平坦面に、Auを用いて厚み55nm、一辺の長さが100nmの正三角形の金属パターンを形成した。緑色レーザ用ハイパーレンズの平坦面には、Auを用いて厚み75nm、一辺の長さが150nmの正三角形の金属パターンを形成した。赤色レーザ用ハイパーレンズの平坦面には、Auを用いて85nm、一辺の長さが200nmの正三角形の金属パターンを形成した。
【0071】
測定した観察物体は実施例1と同じである。実験手順も実施例1と同じであり、青色レーザ、緑色レーザ、赤色レーザを順に照射して測定し、その3つの像を重ね合わせた。結果を図17示す。実施例1に比べてより鮮明な像が得られた。
【0072】
[実施例5]
次に、平坦面に近接場成分増強用の金属パターンを有するハイパーレンズを用いて、金属パターンと被観察物体と接触させながら1次元スキャンした測定例について説明する。実験系、用いたハイパーレンズは実施例1とほぼ同じである。ただし、サンプルホルダ制御を圧電素子で行った。金属パターンは実施例4と同じものを用いた。被観察物体として、ポリカーバネード上に形成したライン・アンド・スペースを用いた。
【0073】
図18(a)に示すように、スペースの幅を左から200nm、150nm、100nm、150nmとしてランダムに振った。ライン・アンド・スペースの全体の幅は1μmで、ハイパーレンズの幅400nmよりも十分に大きく取った。
【0074】
実験系における、実施例1と違う点を図18(b)に示す。図18(b)に示すように、ハイパーレンズ1801上に作製した金属パターン1802と被観察物体1803を物理的に接触させて、被観察物体1803を置いているサンプルホルダ1804を光軸に対して垂直な方向に駆動することにより、1次元スキャンを実行した。サンプルホルダ1804の移動距離は、サンプルホルダの下に圧電素子1805を付加し、その圧電素子1805のXY軸方向の電圧を印加することにより制御した。圧電素子1805による移動の位置精度は5nm程度であった。
【0075】
レーザ及びハイパーレンズは実施例1同様に、青色、緑色、赤色の順に交換しながら観察を行った。始めに青色レーザを使って得られた信号強度を図19(a)に示す。検出器にはCCDを用いた。スキャン範囲は座標をライン・アンド・スペースの左端を0として、0〜1.5μmとした。図19(a)において、ピーク1901が幅200nmのスペースに、ピーク1902が幅150nmのスペースに、ピーク1903が幅100nmのスペースに対応する。緑色レーザ、赤色レーザを使って観察した結果を図19(b)、図19(c)に示す。緑色レーザでは、分解能が120nm程度であり、信号強度が小さくなっている。また、赤色レーザでは分解能が200nm程度であるため、200nmのスペースのみ観察可能であった。
以上より、レンズよりも十分大きい被観察物体も観察可能であることがわかった。
【0076】
[実施例6]
次に、平坦面に近接場成分増強用の金属パターンを有するハイパーレンズを用いて、被観察物体上で接触させずに1次元スキャンした測定例について説明する。実験系の構成、用いたハイパーレンズは実施例1、5とほぼ同じである。観察物体として、図18(a)に示す形状で、導電性をもったAuのライン・アンド・スペース2003を用いた。ライン・アンド・スペース2003は、実施例5と同様に、スペースの幅を左から200nm、150nm、100nm、150nmとしてランダムに振った。ライン・アンド・スペースの全体の幅は1μmで、ハイパーレンズの幅400nmよりも十分に大きく取った。
【0077】
図20(a)に、実験系における実施例5と違う点を示す。ハイパーレンズに形成した金属パターン1802とライン・アンド・スペース2003を電気的に接続し、その間の静電容量を計測して間隔を制御した。金属パターン1802と被観察物体2003はCu線2006を使って接続した。静電容量の測定にはキャパシタンスブリッジ2007を用いた。サンプルホルダ1804の移動は、サンプルホルダ1804の下に圧電素子1805を付加し、圧電素子1805のXY軸方向の電圧を印加することにより制御した。圧電素子1805による移動の位置精度は5nmである。
【0078】
静電容量は、金属パターンとライン・アンド・スペースの間の距離に反比例する。本実施例で用いているライン・アンド・スペースの静電容量を予め計算し、金属パターンとライン・アンド・スペースの最上部間の距離が10nmになる値を求めた。実際にスキャンする段階では、静電容量が上記計算で求めた値を超えないように、調整しながらスキャンした。例えば青色の場合は、近接場成分増強用の金属パターンの一辺が100nm、真空の誘電率が8.85×10-12(m-1F)であるので、近接場増強用金属パターンとスペース部分の静電容量は3.83(nF)となる。図20(b)に得られた静電容量のプロファイルを示す。スキャン範囲は座標をライン・アンド・スペースの左端を0として、0〜1.5μmとした。横軸が被観察物体の左からの距離、横軸が静電容量である。
【0079】
レーザ、ハイパーレンズは実施例1と同様に、青色、緑色、赤色の順に交換しながら観察を行った。その結果、得られた信号強度の揺らぎが実施例5の場合に比べて小さかった。これは、非接触でさらに静電容量により詳細にz方向の間隔を制御したためである。以上により、静電容量を用いると非接触で1次元スキャンを行いながら、ハイパーレンズのサイズよりも大きい観察物体を観察可能であることがわかった。
【0080】
[実施例7]
ハイパーレンズ上に発光体層を設けた実施例について説明する。作製したハイパーレンズを図21に示す。作製方法は上記の方法と同じであるが、基板上に作製する半球形のピットの半径を5μmとした。また、誘電体を製膜する前に、発光体層2101としてローダミン分子を2μm蒸着した。その後、Al2O3を2.5μmスパッタし、更にAg(20nm)/Al2O3(20nm)のセットを10セット積層した。このことにより、作製したハイパーレンズは緑色の波長帯の近接場光を伝播することができる。
【0081】
このレンズで、ピッチが100nmの回折格子を観察した。この回折格子の上に、図21のレンズを置き、レンズの裏面から出射される光を光学顕微鏡によって観察した。ここで、レンズの裏面と光学顕微鏡の対物レンズの間は空気とした。また、光学顕微鏡には、対物レンズと対眼レンズの間に波長フィルタを挿入できるようにした。光源として、YAGレーザを用いた。
【0082】
まず、600nm以下の波長の光をカットする波長フィルタを挿入して、顕微鏡像を得た。この像をCCDカメラで撮影し、像をコンピュータに格納した。この像を像1と名付ける。次に、600nm以上の波長の光をカットする波長フィルタで、上記と同じように像を得た。この像を像2と名付ける。
【0083】
像1は、発光体層2101のローダミンから発した蛍光による光学像であり、像2はYAGレーザの波長の光学像である。コンピュータには、この2つの像の強度プロファイルを差し引く機能を有するプログラムを組み込んだ。
【0084】
コンピュータ上で、像1、像2のそれぞれの2点を、サンプル上の同じ点を示す点として、カーソルによって指定した。この2点により、2つの像上の座標(x,y)を共通化することができる。次に、像の強度プロファイルを差し引く係数αを指定した。係数αは、像1、像2の上の座標(x,y)における強度をそれぞれI1(x,y),I2(x,y)とすると、I1(x,y)−αI2(x,y)の演算をするための係数である。ここでは、αの値を幾つか手動で設定し、回折格子の像が最も鮮明に得られる値を探した。その結果、αが0.2において、像が最も鮮明になった。この理由は、バックグラウンド光による像である像2を差し引くことにより、像1の中の高い空間周波数成分のみを像上に示したことに起因する。
【0085】
発光体層2101の材料として、CdSeを用いた実験も行った。用いたハイパーレンズの膜、光学顕微鏡、観察サンプル、波長フィルタ、YAGレーザは、上記と同じである。その結果、αを0.08とした際に、最も回折格子の像が鮮明に得られた。
【符号の説明】
【0086】
101:基板、102:金属、103:誘電体、201:被観察物体、203:入射光、206:検出器、301:被観察物体、302:サンプルホルダ、303:入射光、304:ハイパーレンズ、305:レンズホルダ、307:光学顕微鏡、309:検出器、310:油、601:ハイパーレンズ、602:金属パターン、603:金属層、604:誘電体層、901:サンプルホルダ、905:位置あわせマーク、1001:レンズホルダ、1002:横方向制御装置、1003:光源部、1004:演算制御部、1005:サンプルホルダ、1006:被観察物体、1007:ハイパーレンズ、1013:遮光板交換装置、1514:偏光子、1515:検光子、1801:ハイパーレンズ、1802:金属パターン、1803:被観察物体、1804:サンプルホルダ、1805:圧電素子、2007:キャパシタンスブリッジ、2101:発光体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを保持するサンプルホルダと、
それぞれ異なる波長のサンプル照射光を発生する複数の光源と、
各光源の波長に適合して近接場成分を伝播成分に変換する複数のハイパーレンズと、
前記複数の光源のうちの一つと前記複数のハイパーレンズのうちの一つとを対にして切り替える切り替え機構と、
前記ハイパーレンズを透過した光が入射される顕微鏡と、
前記顕微鏡による拡大像を撮像する撮像素子と、
演算及び装置各部の制御を行う演算制御部とを備え、
前記ハイパーレンズは、平坦な光入射面を有し、光軸を通る一つの断面で見たとき、前記光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造を有し、
前記演算制御部は、前記切り替え機構を制御して前記複数の光源の各々と当該光源と対をなすハイパーレンズを順次選択して、異なる波長による複数のサンプル像を取得し、取得した複数のサンプル像から1枚のサンプル像を合成することにより、サンプルの光学特性の波長依存性の情報を入射光の波長以下のサイズで得ることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記複数の光源は青色の光を発生する光源、緑色の光を発生する光源及び赤色の光を発生する光源であることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項3】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズは立体形状が半球状若しくは半円柱状であることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズは前記積層膜構造の外側に発光体層を有することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項5】
請求項4に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記発光体は蛍光体であることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項6】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズは、前記光入射面に近接場成分増強用の金属パターンを有することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項7】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、各波長で得られたサンプル像上の少なくとも2点を指定することにより、全てのサンプル像に共通の座標を決定することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項8】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記複数のサンプル像の強度を調節する機構を有することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項9】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、各波長光を2種類の偏光に切り替えてサンプルに照射し、各偏光で得られた2つのサンプル像を演算して当該波長に対するサンプル像を取得することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項10】
請求項9に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記サンプルホルダを駆動する駆動部を備え、前記駆動部による光軸に垂直な方向への前記サンプルホルダの駆動に同期して光強度変化を検出することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項11】
請求項9に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズとサンプルとの間の静電容量を測定する測定部を有し、前記駆動中に前記測定部による測定値を用いて前記ハイパーレンズとサンプルの間の距離を一定に保つことを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項12】
平坦な光入射面と、
光軸を通る一つの断面で見たとき、前記光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造と、
前記積層膜構造の外側に形成された発光体層とを有し、
立体形状が半球状若しくは半円柱状であることを特徴とするハイパーレンズ。
【請求項13】
請求項12に記載のハイパーレンズにおいて、前記発光体は蛍光体であることを特徴とするハイパーレンズ。
【請求項14】
平坦な光入射面と、
光軸を通る一つの断面で見たとき、前記光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造と、
前記光入射面に形成された近接場成分増強用の金属パターンとを有し、
立体形状が半球状若しくは半円柱状であることを特徴とするハイパーレンズ。
【請求項1】
サンプルを保持するサンプルホルダと、
それぞれ異なる波長のサンプル照射光を発生する複数の光源と、
各光源の波長に適合して近接場成分を伝播成分に変換する複数のハイパーレンズと、
前記複数の光源のうちの一つと前記複数のハイパーレンズのうちの一つとを対にして切り替える切り替え機構と、
前記ハイパーレンズを透過した光が入射される顕微鏡と、
前記顕微鏡による拡大像を撮像する撮像素子と、
演算及び装置各部の制御を行う演算制御部とを備え、
前記ハイパーレンズは、平坦な光入射面を有し、光軸を通る一つの断面で見たとき、前記光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造を有し、
前記演算制御部は、前記切り替え機構を制御して前記複数の光源の各々と当該光源と対をなすハイパーレンズを順次選択して、異なる波長による複数のサンプル像を取得し、取得した複数のサンプル像から1枚のサンプル像を合成することにより、サンプルの光学特性の波長依存性の情報を入射光の波長以下のサイズで得ることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記複数の光源は青色の光を発生する光源、緑色の光を発生する光源及び赤色の光を発生する光源であることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項3】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズは立体形状が半球状若しくは半円柱状であることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズは前記積層膜構造の外側に発光体層を有することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項5】
請求項4に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記発光体は蛍光体であることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項6】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズは、前記光入射面に近接場成分増強用の金属パターンを有することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項7】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、各波長で得られたサンプル像上の少なくとも2点を指定することにより、全てのサンプル像に共通の座標を決定することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項8】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記複数のサンプル像の強度を調節する機構を有することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項9】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、各波長光を2種類の偏光に切り替えてサンプルに照射し、各偏光で得られた2つのサンプル像を演算して当該波長に対するサンプル像を取得することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項10】
請求項9に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記サンプルホルダを駆動する駆動部を備え、前記駆動部による光軸に垂直な方向への前記サンプルホルダの駆動に同期して光強度変化を検出することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項11】
請求項9に記載の光学顕微鏡システムにおいて、前記ハイパーレンズとサンプルとの間の静電容量を測定する測定部を有し、前記駆動中に前記測定部による測定値を用いて前記ハイパーレンズとサンプルの間の距離を一定に保つことを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項12】
平坦な光入射面と、
光軸を通る一つの断面で見たとき、前記光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造と、
前記積層膜構造の外側に形成された発光体層とを有し、
立体形状が半球状若しくは半円柱状であることを特徴とするハイパーレンズ。
【請求項13】
請求項12に記載のハイパーレンズにおいて、前記発光体は蛍光体であることを特徴とするハイパーレンズ。
【請求項14】
平坦な光入射面と、
光軸を通る一つの断面で見たとき、前記光入射面側に中心を有する半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層と、当該半円形あるいは略半円形の金属層あるいは誘電体層の外側に同心的に順次積層された金属層と誘電体層の交互層とからなる積層膜構造と、
前記光入射面に形成された近接場成分増強用の金属パターンとを有し、
立体形状が半球状若しくは半円柱状であることを特徴とするハイパーレンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−249739(P2010−249739A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101164(P2009−101164)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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