説明

ハイヒール靴用インソール及びハイヒール靴

【課題】ハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減を図るハイヒール靴用インソール及び靴を提供する。
【解決手段】
本発明の1つのハイヒール靴用インソール100は、可撓性の基材90と、基材90のうち、基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部10と、基材90のうち第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられた第2隆起部20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイヒール靴用インソール及びハイヒール靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハイヒール靴を利用する女性の足に対するケアの重要性が注目されている。ハイヒール靴を履くことによって生じ得る代表的な問題の一つは、外反母趾の発症および増悪である。一般的に、外反母趾は、第一中足骨が内反、母趾が外反することであり、第1中足趾節関節の関節構成体へのストレスで痛みが生じるものである。誤った体の使い方が母趾に負担が生じさせるのが外反母趾の主たる原因であるが、女性の場合は日常的に先細りの靴を履くことにより外反母趾が生じることも多い。ハイヒールにおいては、前足部に荷重がかかる事から、その影響が顕在化しやすい。代表的なもう一つの問題は、ハイヒール靴を履き続けることによる一般的な健康被害が生じることである。単に足への負担が増えるのみならず、膝、腰、又は肩といった足以外の箇所の疲労等の影響が考えられるため、身体への負担を軽減させたハイヒール靴を提供することは喫緊の技術課題といえる。
【0003】
これまでも、ハイヒール靴を対象として、足等への負担軽減を図るために形状や素材が改変されたインソールやアーチ状支持部を備えた靴が開発されている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−312822号公報
【特許文献2】特開2004−166810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでのインソール等は、その凹凸の形成が実際の利用者の履き心地や負担軽減に確度高く沿ったものではなかったため、依然として利用者に違和感を残すとともに、負担の十分な解消を実現するものではなかった。また、例えば、既に足が扁平足の状態となっている女性にとっても、ハイヒール靴は継続的に使用したい重要なアイテムの一つである。足裏が扁平足の場合、本来人間が備えている地面からの衝撃吸収力が著しく低下するため、特に足や身体への負担が大きくなる。従って、そのような女性に対しても負担を少なくしたハイヒール靴用インソールやハイヒール靴の形状の開発が急務であるが、依然として十分な解決方法が見出されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の少なくとも1つの技術課題を解決することにより、利用者にとってハイヒール靴の履き心地を改善するとともに、身体への負担軽減を確度高く実現することに大きく貢献するものである。
【0007】
本願発明者らは、従来から採用されてきたハイヒール靴用のインソールやハイヒール靴の形状がなぜ利用者を十分に満足させないのかについて鋭意分析と研究を行った。その結果、意外にもこれまで採用されてきた横アーチの形成のための隆起ないし凸部の形成位置を、それとは異なる場所に移動させるとともに、ハイヒール靴特有の体重負荷を和らげるための足の前方部分のケアを適切に行うことが、上述の技術的課題を解決することに大きく寄与することを本願発明者らは見出した。より具体的には、横アーチを形成するために、第2中足骨と楔状骨の可動性の少なさを最大限に活用することが上述の技術的課題を解決することに大きく寄与することを本願発明者らは見出した。
【0008】
より具体的には、インソールやハイヒール靴の形状が、基本的に2つの隆起を備えていることが上述の技術的課題を解決に大きく寄与することが見出された。その1つは、第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるような、いわゆる横アーチを形成するための隆起である。ここで、本願発明者らは、第3中足骨や第4中足骨が頂きとなる隆起とは異なり、第2中足骨が頂きとなる隆起が形成されることにより、実際の歩行において適切な横アーチが維持され易いため、人間の足が本来備える足アーチのクッション機能のより適切な発揮を促し、身体の荷重による負担が顕著に軽減されることを見出した。特に、外反母趾や開張足の症状を持つ人が、元来使っていた第2中足骨頭に略対応する領域における体重の支持割合を増やすことにより、外反母趾や開張足に対する効果的な予防又は改善につながるものと考えられる。もう1つは、各足の第1乃至第5中足骨頭に対応する領域が、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときに前方にシフトないし滑ってしまう(以下、総称して「シフト」という。)現象を、抑制又は防止するための隆起である。この隆起が、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減に寄与することが見出された。さらに、その隆起が第2中足骨頭を支えるだけでも、前方へのシフトに対して使われていた力が足の縦アーチの形成に活用されるようになるため、結果として高い縦アーチも形成され得る。本発明はこのような知見に基づいて創出された。
【0009】
本発明の1つのハイヒール靴用インソールは、可撓性の基材と、その基材のうち、基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部と、その基材のうち第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられた第2隆起部とを備える。
【0010】
このハイヒール靴用インソールによれば、まず、第1隆起部の存在及びその可撓性により、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときに前方にシフトしてしまう現象を抑制又は防止することができる。その結果、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られる。また、第2隆起部の存在及びその可撓性により、実際の歩行において適切な横アーチが維持され易いため、身体の荷重による負担が顕著に軽減され得る。
【0011】
また、本発明の1つのハイヒール靴は、基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部と、第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられた第2隆起部とを備える。
【0012】
このハイヒール靴によっても、まず、第1隆起部の存在及びその可撓性により、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときに前方にシフトしてしまう現象を抑制又は防止することができる。その結果、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られる。また、第2隆起部の存在及びその可撓性により、実際の歩行において適切な横アーチが維持され易いため、身体の荷重による負担が顕著に軽減され得る。
【0013】
ところで、本出願において、「ハイヒール靴」の「ハイ」とは、そのヒールの高さを特に限定するものではないが、代表的には、ヒールの高さが30mm以上のものが該当する。また、本出願における「ハイヒール靴」とは、製品名や商品名として「ハイヒール」又は「ハイヒール靴」と表記されているものに限定されず、代表的には、いわゆる「ブーツ」、「パンプ(又はパンプス)」、「サンダル」、「ミュール(又はヒールミュール)」、及び「ローファー(又はヒールローファー)」と呼ばれる靴も含まれる。また、「中足指節関節」は「中足趾節関節」とも表記される場合があるが、本出願では、統一的に「中足指節関節」を採用する。加えて、本出願では「趾」という表記に代わりに「指」という表記を採用する。また、本出願において、「中足指節関節」とは、各中足骨頭と各基節骨底との間の関節を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1つのハイヒール靴用インソール(以下、簡略的に「インソール」ともいう。)によれば、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られる。
【0015】
また、本発明の1つのハイヒール靴よれば、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明の第1の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す、(a)平面図、(b)右側面図、(c)B−B端面図、(d)A−A端面図、(e)C−C端面図、(f)G−G端面図、(g)正面図、(h)D−D端面図、(i)E−E端面図、(j)F−F端面図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態におけるインソールの斜視図である。
【図2A】本発明の第1の実施形態におけるインソールと人間の足又は骨との、平面視における相対的な位置関係を示す模式図である。
【図2B】人間の足の骨の平面視における模式図(いわゆる「水平面」を示す図)である。
【図3A】図2AにおけるJ−J断面図(いわゆる「矢状面」を示す図)である。
【図3B】図2AにおけるK−K端面図である。
【図3C】図2AにおけるL−L端面図である。
【図3D】図2AにおけるM−M端面図である。
【図3E】図2AにおけるN−N端面図である。
【図4】人間の足の中足骨頭部における、本実施形態のインソールと人間の足との相対的な位置関係(いわゆる横アーチ)を示す正面断面図(いわゆる「前額面」を示す図)である。
【図5A】本発明の第2の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す平面図である。
【図5B】本発明の第2の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す斜視図である。
【図6A】図5AにおけるインソールのP−P端面図である。
【図6B】図5AにおけるインソールのQ−Q端面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態におけるインソールと人間の足又は骨との、平面視における相対的な位置関係を示す模式図である。
【図8】本発明の第3の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態におけるインソールと人間の足又は骨との、平面視における相対的な位置関係を示す模式図である。
【図10】図9におけるインソールのR−R端面図である。
【図11】本発明のその他の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す平面図である。
【図12A】本発明のその他の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す平面図である。
【図12B】本発明のその他の実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号を省略する。また、以下の各実施形態では、便宜上、右足用か左足用かのいずれか一方のみのインソール又は靴について説明される。従って、他方のインソール又は靴については、左右対称であるそれらの形態の特徴から、説明が省略され得る。
【0018】
<第1の実施形態>
図1Aは、本実施形態におけるインソール100(右足用)の全体的な形状を示す平面図、側面図及び端面図である。なお、図1A中の点線は、インソール100における突出領域96の説明の便宜上描かれている。また、図1Bは、本実施形態におけるインソール100の斜視図である。また、図2Aは、本実施形態のインソール100と人間の足900又は骨との、平面視における相対的な位置関係を示す模式図である。図2A中の点線は、インソール100を備えたハイヒール靴の靴底の輪郭を示している。また、図2Bは、人間の足の骨の平面視における模式図である。なお、本出願においても、医学的な表記方法と同様に、図2Bに示すように、親指から小指に掛けて1から5までの番号が与えられる。加えて、図3Aは、図2AにおけるJ−J断面図であり、図3Bないし図3Eは、それぞれ図2AにおけるK−K端面図ないしN−N端面図である。より具体的には、図3Aないし図3Eは、それぞれ、人間がハイヒール靴を履いた際の人間の足の第1指ないし第5指と本実施形態のインソール100との接触状態を示す模式的断面図又は模式的端面図である。なお、特に図3B乃至図3Eにおいては、図面を見易くするために、図2Aにおける各端面(K〜N)に対応する指の指骨及び中足骨のみを抽出して模式的に示している。また、図4は、人間の足の中足骨頭部における、本実施形態のインソール100と人間の足との相対的な位置関係を示す正面断面図である。
【0019】
本実施形態のインソール100は、ポリウレタンからなるゲル状弾性体によって一体に成形されている。従って、本実施形態のインソール100は全体的に適度な可撓性を備えている。図1A及び図2Aに代表的に示すように、本実施形態のインソール100は、機能面の観点から大きく3つの領域に分類される。なお、本実施形態のインソール100の表面側(平面側)は足裏に当接し、その裏面側(底面側)は靴底に当接する。また、本実施形態のインソール100の裏面上には、ハイヒール靴の靴底面上にインソール100を固定させるための公知の粘着材(本実施形態では、ポリウレタン系接着材)が設けられている。また、通常、ハイヒール靴内に設置されるまでは、その粘着性を失わせるための透明のフィルム(本実施形態では、ポリウレタン系フィルム)がインソール100の裏面を覆っている。
【0020】
その1つ目は、人間の足の基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部10が形成された領域である。2つ目は、人間の足の第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられた第2隆起部20が形成された領域である。3つ目は、第1中足骨頭及び母指球にほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部10及び第2隆起部20に対する第1指用窪み部32と、第5中足骨頭及び小指球にほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部10及び第2隆起部20に対する第5指用窪み部34である。そして、第1隆起部10、第2隆起部20、第1指用窪み部32、及び第5指用窪み部34が、いずれも基材90上に一体的に形成されている。
【0021】
さらに細部について見ると、本実施形態の第1隆起部10は、図1Aに示すように、第1指から第5指に至るまで先端92からの急峻な上りの傾斜によって形成されている。本実施形態のインソール100では、先端92の厚みが約0.5mm〜約0.65mmである。一方、第1隆起部10の厚みについては、図1A(d)に示すように、第2指に対応する領域を頂き12として、その厚み(図1A(d)のt)が約3.5mmであり、その他の領域の隆起14の厚みが約3.3mmないし約3.5mmである。
【0022】
ここで、上述の急峻な傾斜は、言い換えれば、第1隆起部10から各末節骨にほぼ対応する領域に向かって形成される下りの傾斜である。この傾斜の水平に対する俯角の傾斜角度は、約45°である。この第1隆起部10の存在により、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときに前方にシフトする現象が適切に抑制又は防止され得る。また、前述の第1隆起部10から各末節骨にほぼ対応する領域に向かって形成される下りの傾斜角度が30°以上60°以下であることは好ましい一態様である。というのも、一般的に、ハイヒール靴を常用する人の足は、鷲爪趾変形を引き起こす可能性がある。しかしながら、本実施形態のインソール100は、前述の下りの傾斜角度の範囲の第1隆起部10を有しているため、足の筋肉への悪い影響が緩和され、結果として鷲爪趾変形に対する予防効果が得られうる。また、筋肉への影響に加えて、各指の基節骨や中節骨、あるいは末節骨に対応する領域の、特に関節への負担が軽減され得る。
【0023】
具体的には、図3Aないし図3Eに示すように、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするとき、人間の重さが加わることによって第1隆起部10の後端94側の領域、より詳細には各中足骨頭のほぼ先端に対応する足に接する領域がより深く押し込まれる。その結果、より際立って、第1隆起部10が人間の足の基節骨底から中足指節関節に至るまでに形成されることになるため、上述の各効果が奏される。
【0024】
ところで、可撓性の基材90の存在により、第1隆起部の頂き12は、厳密に各指の基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に形成される必要はない。むしろ、第1隆起部10が、各指の基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域の幅を持たせることにより、より容易に個人差に対応させることができる。
【0025】
次に、本実施形態の第2隆起部20は、上述のとおり、第2中足骨頭にほぼ対応する領域が第2隆起部の頂き22となるように設けられている。そして、第2隆起部20は、後述する第1指用窪み部32、第5指用窪み部34、及び溝40を除いて、後端94に至るまでの緩やかな傾斜面、換言すれば、第2隆起部の頂き22以外の隆起24を有している。特に、本実施形態のインソール100は、第3中足骨や第4中足骨が頂きとなる隆起とは異なり、第2中足骨が頂きとなる隆起が形成されている。図4に示すように、この第2隆起部20の存在により実際の歩行において適切な横アーチが維持され易いため、人間本来が備える足のクッション機能が適切に発揮され、身体の荷重による負担が顕著に軽減され得る。また、この第2隆起部20は、いわゆる外反母趾に対する効果的な予防又は改善につながるものと考えられる。
【0026】
なお、本実施形態のインソール100では、第1隆起部10と第2隆起部20とが連続した隆起部を形成している。しかしながら、図3Bに示すように、人間の重さが加わると、インソール100の可撓性によって特に第2中足骨頭のほぼ先端に対応する足に接する領域が押し込まれるため、第2についても実質的に第1隆起部10の役割が果たされることになる。
【0027】
また、本実施形態の第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34は、それぞれ、第1中足骨頭の足底面の軟部組織である母指球及び第5中足骨頭の足底面の軟部組織である小指球にほぼ対応する領域に形成されている。本実施形態の第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34の厚みはいずれも1.5mmである。ところで、本実施形態では、例えば開張足の場合は、第2中足骨頭にほぼ対応する領域において体重が支持されるため、第2隆起部20を厚めに設定することにより、いわゆるクッション機能と前方へのシフトの防止機能を発揮させている。加えて、第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34が第1隆起部10及び第2隆起部20と比較して有意に厚みが薄く形成されているため、例えば外反母趾に苦しむ人にとっては、母指球における過剰な体重支持が防止され、その痛みが軽減され得る。なお、第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34の厚みは1mm以上あることが、前述の負担軽減の実効性を高める観点から好ましい。
【0028】
加えて、本実施形態では、第1指用窪み部32から第2隆起部20を経由して第5指用窪み部34に至るまで、図1Aに示すように平面視において曲線状に溝40が形成されている。より具体的には、溝40は、第1中足骨頭の後方(かかと側)から第5中足骨頭の後方(かかと側)に至るまでにほぼ対応する領域に設けられている。また、本実施形態におけるその深さは約0.5mmである。
【0029】
通常、ハイヒール靴内にインソール100を設置する作業は手探りで行われる場合が多い。そのため、ハイヒール靴の靴底面が傾斜し始める部分(いわゆる、「トゥブレイク」の位置)に溝40を合わせるようにインソール100を設置することにより、インソール100が靴底の曲面に沿って曲がり易くなる。すなわち、溝40は、その凹凸形状による触感的な作用により、ハイヒール靴内におけるインソール100設置時の位置合わせの容易化に貢献し得る。また、溝40の存在により、適切な位置にインソール100を設置することが可能となるため、上述の第1隆起部10及び第2隆起部20の効果が適切に奏される。
【0030】
なお、本実施形態のインソール100の場合は、溝40に加えて、比較的大きな凹状である第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34の存在も相俟って、ハイヒール靴内におけるインソール100設置時の位置合わせがさらに容易になる。
【0031】
また、本実施形態では、第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34内、第2隆起部20上に、星状(astroid)又はアスタリスク(asterisk)の形状を持つ凸部52a,52b,52cが形成されている。これらの凸部52a,52b,52cは、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときの足の滑り止め機能を発揮する。加えて、上述のとおり、ハイヒール靴内へのインソール100の設置作業が手探りで行われる場合が多いため、これらの凸部52a,52b,52cも、その外観的な装飾効果や注意喚起効果のみならず、その触感的な作用により、ハイヒール靴内におけるインソール100設置時の位置合わせの容易化に貢献し得る。
【0032】
なお、上述の凸部52a,52bのいずれか一方又は両方が、上述の溝40と略同じ位置に形成されることにより、ハイヒール靴内におけるインソール100の位置合わせの容易化に対してさらに積極的に貢献することになる。このような位置に凸部52a,52bのいずれか一方又は両方を配置することによって得られる効果は、第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34が形成されていない場合に特に有益である。また、上述の星状(astroid)又はアスタリスク(asterisk)の形状に代えて、公知の幾何学形状(例えば、矩形、正多角形、円形、又は楕円形)や各種のキャラクターを模った図形を適用することができる。
【0033】
ところで、本実施形態では、インソール100の材質がポリウレタンからなるゲル状の軟質弾性体であったが、本実施形態はこの材料に限定されない。例えば、公知の軟質のスチレン系エラストマーや、軟質の塩化ビニル系エラストマーに代表される軟質の高分子化合物も本実施形態のインソールに適用され得る。但し、人体の軟部組織の物性への適合性の観点から、ポリウレタンからなるゲル状弾性体を本実施形態のインソールの材料として採用することが好ましい。なお、上述の各材料は、以下の各実施形態においても適用され得る。
【0034】
また、本実施形態のインソール100は、基材90が、人間の足の各末節骨の先端から第2中足骨底に至るまでにほぼ対応する領域の長さを有している。このような小さい又は短いインソール100であっても、第1隆起部10、第2隆起部20、並びに第1指用窪み部32及び第5指用窪み部34のそれぞれの効果が奏されることにより、ハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られることは特筆に値する。この小ささ又は短さは、製造コストの低減、量産性の向上という効果も生み出す。
【0035】
<第2の実施形態>
本実施形態のインソール200の構造及び使用方法は、第1の実施形態のインソール100の第1指用窪み部32、第5指用窪み部34、及び凸部52a,52b,52cが形成されていない点を除き、第1の実施形態のインソール100の構造及び使用方法と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0036】
図5Aは、本実施形態におけるインソール200の全体的な形状を示す平面図であり、図5Bは、本実施形態におけるインソール200の全体的な形状を示す斜視図である。
また、図6Aは、図5Aにおけるインソール200のP−P端面図であり、図6Bは、図5Aにおけるインソール200のQ−Q端面図である。また、図7は、本実施形態のインソール200と人間の足900又は骨との、平面視における相対的な位置関係を示す模式図である。
【0037】
図5A乃至図7に示すように、本実施形態のインソール200は、第1の実施形態のインソール100における第1指用窪み部32、第5指用窪み部34、及び凸部52a,52b,52cが形成されていない。従って、インソール200を備えたハイヒール靴を履いているときに、第1中足骨体及び第5中足骨体が第2隆起部20に接することになる。
【0038】
このような場合であっても、第2隆起部20が、第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられているため、実際の歩行において適切な横アーチが維持され易くなる。その結果、人間本来が備える足のクッション機能が適切に発揮され、身体の荷重による負担が顕著に軽減される。また、本実施形態のインソール200も、第1の実施形態のインソール100と同様に第1隆起部10を備えているため、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときに足部全体がインソールの前方にシフトする現象を抑制又は防止することができる。その結果、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られる。
【0039】
加えて、本実施形態のインソール200は、第1の実施形態のインソール100と同様に溝40を備えている。従って、第1指用窪み部32、第5指用窪み部34、及び凸部52a,52b,52cが無くても、ハイヒール靴の靴底面が傾斜し始める部分に溝40を合わせるようにインソール200を設置することにより、上述の第1隆起部10及び第2隆起部20の効果が適切に奏される。すなわち、溝40は、その凹凸形状による触感的な作用により、ハイヒール靴内におけるインソール100設置時の位置合わせの容易化に貢献し得る。
【0040】
<第3の実施形態>
本実施形態のインソール300の構造及び使用方法は、第1の実施形態のインソール100に加えて、いわゆる「内側縦アーチ」を形成するための第3隆起部(内側隆起部)60と、いわゆる「外側縦アーチ」の形成するための第4隆起部(外側隆起部)70とが形成されている点を除き、第1の実施形態のインソール100のそれらと同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0041】
図8は、本実施形態におけるインソールの全体的な形状を示す平面図である。また、図9は、本実施形態のインソール300と人間の足900又は骨との、平面視における相対的な位置関係を示す模式図である。また、図10は、図9におけるインソール300のR−R端面図である。なお、図を見易くするために、図10においてはハイヒール靴の前方の形状を点線で示している。
【0042】
図8乃至図10に示すように、本実施形態のインソール300は、足のつま先から踵の近傍に至るまでの長さを有している。また、本実施形態のインソール300は、基材390上に、内側縦アーチ用の第3隆起部60と、外側縦アーチ用の第4隆起部70を備えているため、インソール300を備えたハイヒール靴を履いているときに、縦アーチ扁平足による足部不安定などによる痛みや疲労を予防又は改善できるとともに、ハイヒール靴内の足の前方へのシフトを防止できる。その結果、足部および下腿筋群への疲労軽減効果が得られる。なお、本実施形態の基材390は、第1の実施形態のインソール100の基材90の後端92が踵方向に延設されたものであり、第3隆起部60と第4隆起部70以外の特段の隆起や窪みを有しないものである。また、特に、本実施形態のインソール300においては、図10に示すように、第4隆起部70の高さ(図10におけるh)よりも第3隆起部60の高さ(図10におけるh)の方が5mm程度高い。そのため、内側及び外側の各縦アーチを適切に形成するという効果が積極的に奏され得る。なお、第3隆起部60の高さを第4隆起部70の高さに対して3mm以上5mm以下高くすることにより、前述の効果がより積極的に奏される。なお、扁平足ではない足の場合、図10における足の断面位置(R−R断面)においては、第3隆起部60と足とが接しない状態となる。
【0043】
一般に、ハイヒール靴を履いている場合、歩行や走ることによって足裏に過剰な負担が掛かることがあるため、足裏を傷めてしまうことも少なくない。しかしながら、本実施形態のインソール300を備えるハイヒール靴によれば、第1隆起部10、第2隆起部20に加えて、第3隆起部60及び第4隆起部70により、適切な縦アーチと横アーチが形成されるとともに、各足の第1乃至第5中足骨頭に対応する領域の前方への不要なシフトが抑制又は防止される。従って、歩行や走ることによって足裏に過剰な負担が掛かることがなく、足裏を傷めてしまうことも有意に少なくなる。
【0044】
<第4の実施形態>
本実施形態は、第1の実施形態のインソール100が備える第1隆起部10と第2隆起部20とを、靴底面自身が備えているハイヒール靴である。すなわち、インソールを用いずに、ハイヒール靴自身が第1隆起部10と第2隆起部20を有する靴底を備えることにより、上述の第1隆起部10と第2隆起部20の効果が奏され得る。
【0045】
本実施形態では、ハイヒール靴の製造段階において、第1隆起部10と第2隆起部20とが形成されているため、後発的にインソールを備え付ける作業を要しない点で有益である。その結果、第1隆起部10により、各足の第1乃至第5中足骨頭に対応する領域が、ハイヒール靴を履いて歩行する又は歩行しようとするときに前方にシフトしてしまう現象が抑制又は防止され得る。さらに、第2隆起部20により、第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるような、いわゆる横アーチが適切に形成され得る。
【0046】
上述の第1隆起部10と第2隆起部20を備えることにより、特にハイヒール靴を履いているときの足の痛みや疲れを含む身体への負担軽減が図られる。また、たとえその利用者の足裏が扁平足の場合であっても、本実施形態のハイヒール靴を履くことにより、足や身体への負担の軽減を実現することができる。
【0047】
なお、本実施形態のハイヒール靴においては、上述の構成に加えて、第3の実施形態のインソール300における内側縦アーチ用の第3隆起部60と外側縦アーチ用の第4隆起部70に相当する隆起部を設けることも他の採用し得る一態様である。これにより、適切な縦アーチと横アーチが形成される。
【0048】
また、本実施形態のハイヒール靴においては、第1の実施形態のインソール100と同様に、第1隆起部10から靴の先端にかけての急峻な下りの傾斜が形成されている。ここで、第1隆起部10から各末節骨にほぼ対応する領域に向かって形成される下りの傾斜角度が30°以上60°以下であれば、足の筋肉への悪い影響が緩和され、結果として鷲爪趾変形に対する予防効果が得られうる。また、既に述べたとおり、筋肉への悪い影響に加えて、各指の基節骨や中節骨、あるいは末節骨に対応する領域の、特に関節への負担が軽減され得る。
【0049】
<その他の実施形態>
ところで、上述の各実施形態のインソールや靴では、上述のとおり、第1隆起部10から靴の先端にかけての急峻な下りの傾斜が形成されているが、このような急峻な傾斜が形成されていない態様も採用し得る。但し、各指の基節骨や中節骨、あるいは末節骨に対応する領域の、特に関節への負担又はその周囲の筋肉への影響を軽減する観点から言えば、前述の傾斜が形成されることが好ましい。
【0050】
また、上述の各実施形態のインソールでは、本実施形態のインソール100では、第1隆起部10と第2隆起部20とが連続した隆起部を形成しているが、上述の各実施形態のインソールはこの態様に限定されない。例えば、第1隆起部10のかかと側(後ろ側)に凹部が形成され、その後ろ側に第2隆起部20が形成される態様も採用し得る一態様である。すなわち、第1隆起部10と第2隆起部20とが連続した隆起部を形成することは必ずしも要しない。但し、第2中側骨頭を積極的に支持することが横アーチの形成とクッション性を高める効果があるため、第1隆起部10と第2隆起部20とが連続した隆起部を形成されることが好ましい。
【0051】
加えて、上述の各実施形態のインソールでは、図1A及び図1Bに示すような、第1指用窪み部32から第2隆起部20を経由して第5指用窪み部34に至るまでの溝40が形成されている。しかし、溝40が、例えば2つ(二重に)形成されているインソールも、その曲がり易さから、特にヒールの高いハイヒール靴に対しては好適に採用し得る一態様である。別の観点で言えば、上述の各実施形態の溝50の深さは約0.5mmであったが、基材90の強度が保たれる限り、その深さをさらに深くすれば、インソールの曲がり易さが高まる。また、溝が途切れることなく形成されていなければならない訳ではない。不連続であっても、上述の各実施形態のインソールが靴底の曲面に沿って曲がり易くなれば、その機能は十分に発揮されている。
【0052】
また、図11に示すような、上述の溝40が形成されていないインソール400も、他の採用し得る一態様である。但し、上述のとおり、ハイヒール靴内におけるインソール設置時の位置合わせの容易性の観点、及び第1隆起部10及び第2隆起部20の効果が適切に発揮させる観点から言えば、溝40が少なくとも1つ形成されていることが好ましい。
【0053】
さらに、上述の各実施形態のインソールでは、図1Aに示す主に第1指が接する突出領域96が形成されているが、この突出領域96の面積や突出度合いは、設置されるハイヒール靴に合わせて適宜調整され得る。従って、例えば、図12A及び図12B(図1Aと同様、各図中の点線は説明の便宜上描かれている)に示すような、突出領域596及び第1指用窪み部532の面積の小さいインソール500も、第1隆起部10と第2隆起部20とが設けられているかぎり、他の採用し得る一態様である。なお、特に言及するまでもなく、図12A及び図12Bに示すインソール500は、左足用である。
【0054】
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のインソール及び靴は、靴や医療の業界おいて極めて有用である。
【符号の説明】
【0056】
10 第1隆起部
12 第1隆起部の頂き
14 隆起
20 第2隆起部
22 第2隆起部の頂き
24 第2隆起部の隆起
32,532 第1指用窪み部
34 第5指用窪み部
40 溝
52a,52b,52c 凸部
60 第3隆起部
70 第4隆起部
90 基材
92 先端
94 後端
96,596 突出領域
100,200,300,400,500 インソール
900 人間の足

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の基材と、
前記基材のうち、基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部と、
前記基材のうち第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられた第2隆起部と、を備える
ハイヒール靴用インソール。
【請求項2】
前記基材のうち母指球及び小指球にほぼ対応する領域に、前記第1隆起部及び前記第2隆起部に対する窪み部をさらに備える、
請求項1に記載のハイヒール靴用インソール。
【請求項3】
前記第1隆起部から、各末節骨にほぼ対応する領域に向かって形成される斜面の、水平に対する俯角の傾斜角度が30°以上60°以下である、
請求項1又は請求項2に記載のハイヒール靴用インソール。
【請求項4】
前記基材のうち第1中足骨頭の後方乃至第5中足骨頭の後方にほぼ対応する領域に設けられた溝をさらに備える、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のハイヒール靴用インソール。
【請求項5】
前記基材が、各末節骨の先端から第2中足骨底に至るまでにほぼ対応する領域の長さを有する、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のハイヒール靴用インソール。
【請求項6】
前記基材が、外側縦アーチにほぼ対応する領域に設けられた外側隆起部と、内側縦アーチにほぼ対応する領域に設けられた内側隆起部とをさらに備え、
前記外側隆起部よりも、前記内側隆起部の方が高い、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のハイヒール靴用インソール。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のインソールを備えた、
ハイヒール靴。
【請求項8】
基節骨底から中足指節関節に至るまでにほぼ対応する領域に設けられた第1隆起部と、
第2中足骨頭にほぼ対応する領域が頂きとなるように設けられた第2隆起部と、を備える、
ハイヒール靴。
【請求項9】
外側アーチ部にほぼ対応する領域に設けられた外側隆起部と、内側アーチ部にほぼ対応する領域に設けられた内側隆起部とをさらに備え、
前記外側隆起部よりも、前記内側隆起部の方が高い、
請求項8に記載のハイヒール靴。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【公開番号】特開2012−223321(P2012−223321A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92787(P2011−92787)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(392035341)共和ゴム株式会社 (15)
【Fターム(参考)】