説明

ハイブリッド型表面温度計、温度分布測定装置及び測定方法

【課題】 本発明は、熱電対のような接触式手法の利点と放射測温のような非接触式手法の利点とを組み合わせて相乗的効果を発揮すると同時に、両者の弱点を克服した新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係るハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属を測定対象に所定の圧力で押圧接触させ、薄膜金属の裏面からの放射輝度を光センサで計測することによって、測定対象の表面温度を測定することを特徴とするハイブリッド型表面温度計。更に、該測定対象に直近してサファイアなどのロッド状の光透過体を設置し、該ロッド状の光透過体を通して、該測定対象からの放射を透過させて光センサで検出することを特徴とするハイブリッド型表面温度計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電対のような接触式表面温度計測手法の利点と放射測温のような非接触式表面温度計測手法の利点とを組み合わせて相乗的な効果を発揮すると同時に、両者の弱点を克服した新しいハイブリッド型の表面温度計、温度分布測定装置及び測定方法に関する。特に熱伝導率の良い薄膜金属材料を測定対象に押圧接触させて熱平衡状態を現出させ、その薄膜金属材料の測定対象に接触されていない裏面を放射測温法で測温することにより、測定対象の真温度を計測することができるハイブリッド型表面温度計や温度分布測定装置及び測定方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
温度はさまざまな分野で最も基本的かつ重要な物理量の1つである。そのため、多彩な温度計測手法が存在し、現在もなお研究開発が進められている。測定対象を物体の表面温度計測に限定して概観すると、大別して熱電対のように測定対象に溶接等により熱的に接触させ、その熱起電力を測定することによって温度を計測する、いわゆる接触式の温度計測手法と、対象物の温度に対応して放射される電磁波を検出することによって温度を計測する放射測温法、いわゆる非接触式の温度計測手法がある。
【0003】
前者は、基本的に対象物に溶接することを要請されるために、溶接自体が困難な対象や走行する対象には適用しがたいこと、溶接するために対象物に損傷を与えること、環境や経年変化による熱電対そのものの劣化の問題などを内包している。一方、後者の放射測温法は、測定対象表面の放射率が変化する場合に決定的な測温誤差を惹起する。放射率が一定である測定対象物は現実的には極めてまれであり、放射測温法を適用するためには基本的に放射率を何らかの方法で補正する手立てが必要である。
【0004】
熱電対を使用し、この熱電対を直接に測定対象に溶接するのではなく、薄膜金属を介して測定対象に間接的に接触させて温度計測する方法が下記の非特許文献1に開示されている。すなわち熱電対を固定した薄膜の金属を測定対象に接触させて温度計測すると、測定精度が改善することが記載されている。だがシリコン半導体ウエハ等の表面温度測定に容易に使用することができないものであり、前述の熱電対を使用した温度計測の欠点を持つものであった。
【非特許文献1】D. Yakob著HeatTransfer, Vol.II, John Wiley & Sons (1965) P.151-P.152
【0005】
更に、低放射率測定用非接触温度計のアダプターとして、凸状断面形状で光軸を横断する部分を薄膜の合成樹脂の赤外線放射部材で、非接触温度計の先端部に着脱可能に取付けた構成の表面温度計が特許文献1に、測定対象の内部を測温する内部温度計が特許文献2に開示されている。これらは比較的に簡単な構成ではあるが、シリコン半導体ウエハ等の表面温度測定に容易に使用することができないものであった。
【特許文献1】特開平10−9958号公報
【特許文献2】特開平10−281878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱電対のような接触式手法の利点と放射測温のような非接触手法の利点とを組み合わせて相乗的効果を発揮すると同時に、両者の弱点を克服した新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。
【0007】
また、熱伝導率のよい薄膜金属材料を測定対象に接触させて熱平衡状態を現出させ、その薄膜金属材料の測定対象に接触されていない裏面を放射測温法により、真温度を計測する新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。さらに、薄膜金属材料の裏面を高放射率加工して放射率の変動に依存しない放射測温法により真温度を計測する新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。
【0008】
更に、測定対象に接触させる薄膜金属を用いる表面温度計部分と用いない放射計部分を組み合わせて、測定対象の温度のみならず、放射測温法の弱点である測定対象の放射率をも同時に計測することができる新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。
【0009】
更に、熱電対などを表面に溶接することが困難な半導体ウエハなどの温度計測に特に効果的である新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。
【0010】
更に、測定温度領域が、常温付近の低温から2000度Cを超える高温まで幅広い範囲に適用が可能である新しいハイブリッド型表面温度計を提供することを目的とする。また更に、1mm径以下の微小な面の1点測定等の局所的な点測定のみならず、光ファイバや光透過ロッドなどとの組み合わせにより、多点同時測定可能な、且つ付加価値の高い、多くの分野で使用することができる新しいハイブリッド型表面温度計、温度分布測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題および目的を解決するために、本発明の請求項1のハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属を測定対象に所望の圧力で押圧接触させ、測定対象に接触していない薄膜金属の裏面からの放射輝度を光センサで計測することによって、測定対象の表面温度を測定するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2及び3のハイブリッド型表面温度計では、測定対象に直近してサファイア、石英、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化バリウム(BaF2)などのロッド状の光透過体を設置し、このロッド状の光透過体を通して、薄膜金属の測定対象に接触していない裏面からの放射を透過させて光センサで検出するようにしたことを特徴とする。また、本発明の請求項4のハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属の測定対象に接触していない裏面を高放射率加工して、放射率の依存を少なくしたことを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の請求項5のハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属が測定対象に接触するときに生じる熱接触抵抗によって低下する該薄膜金属の温度を補償する補償手段を持ち、この補償手段によって該測定対象の表面温度を補償して測定するようにしたことを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の請求項6のハイブリッド型表面温度計による温度分布測定装置では、請求項1〜5に記載されている一つ又は複数個のハイブリッド型表面温度計を複数個所定の間隔で並べて、測定対象の温度分布を測定するようにしたことを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の請求項7の測定方法及びハイブリッド型表面温度計では、請求項1〜5に記載されている一つのハイブリッド型表面温度計で測定対象の表面温度を測定し、薄膜金属をもたない別途用意した第2の光センサによる放射計で、測定対象の同じ測定領域の放射輝度を計測することによって、該測定対象の表面温度と放射率を測定できるようにしたことを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の請求項8の測定方法及びハイブリッド型表面温度計では、請求項7の測定方法及びハイブリッド型表面温度計の放射計に、偏光子を取り付けたことによって、測定対象の温度と偏光放射率を測定できるようにしたことを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の請求項9の測定方法及びハイブリッド型表面温度計では、請求項7の測定方法及びハイブリッド型表面温度計の放射計の前に、分光器をつけることによって、測定対象の温度と分光放射率を測定できるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るハイブリッド型表面温度計及び測定方法では、熱電対のような接触式手法の利点と放射測温のような非接触手法の利点とを組み合わせて相乗的効果を発揮すると同時に、両者の弱点を克服した新しい表面温度計測が可能である。すなわち、熱伝導率のよい薄膜金属材料を測定対象に接触させて熱平衡状態を現出させ、その裏面を放射測温法により真温度を正確に計測することが可能であり、測定対象を損傷することなく、測定温度領域は薄膜金属材料を選択することにより、常温付近の低温から2000度Cを超える高温まで幅広い範囲にわたり真温度を正確に計測することが可能である。
【0019】
更に、本発明に係るハイブリッド型表面温度計及び測定方法では、測定対象に熱電対などを表面に溶接したり、測定対象に黒体テープや黒体塗料を付着したりする必要が無い為、不要な手間がかからず操作性がよいものである。またシリコン半導体ウエハのように、試料表面に熱電対を溶接することがきわめて困難な試料に対して、特に有効な温度計測技術となり得るものである。又、製造プロセス中での、いわゆるin-situ 測温法としても威力を発揮するものである。この為、半導体ウエハなどの温度計測に特に効果的である。
【0020】
更に、本発明に係るハイブリッド型表面温度計及び測定方法では、薄膜化した金属材料を使用するので、熱電対のように機能の劣化、すなわち起電力の変化を伴わず、熱電対素線の熱伝導損失などを伴わないため、測定対象との間に速やかな熱平衡状態を実現しやすく測定対象の真温度を正確に計測することが可能である。
【0021】
更に、請求項2及び3の本発明に係るハイブリッド型表面温度計では、サファイアロッド、石英ロッド、フッ化カルシウム(CaF2)ロッド、フッ化バリウム(BaF2)ロッド等のロッド状の光透過体を設け、この光透過体を通して薄膜金属からの放射輝度を透過させて光センサで検出するので、表面温度計を小型に構成でき、微小な表面の表面温度を測定することができる。
【0022】
更に、請求項4の本発明に係るハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属の測定対象に接触していない裏面を高放射率加工してある為、薄膜金属の放射率の変動による影響を少なく出来、測定対象の真温度を正確に計測することが可能である。
【0023】
更に、請求項5の本発明に係るハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属が測定対象に接触するときに生じる熱接触抵抗によって低下する該薄膜金属の温度を補償する補償手段を持ち、この補償手段によって表面温度を補償して測定する為、熱接触抵抗が生じる場合があっても、測定対象の真温度を正確に計測することが可能である。
【0024】
更に、請求項6の本発明に係る温度分布測定装置では、本発明のハイブリッド型表面温度計を複数個所定の間隔で並べて、微小な面の多点を同時に測定可能な為、微小測定対象の温度分布を正確に測定することが可能である。又、1mm径以下の微小な面の1点測定のみならず、光ファイバや光透過ロッドなどとの組み合わせにより、多点を同時測定可能な、付加価値の高い温度計測器として、多くの分野で使用されることが可能である。
【0025】
更に、請求項7から9の本発明に係る測定方法及びハイブリッド型表面温度計では、ハイブリッド型表面温度計と放射計を持ち、測定対象の同一測定領域の表面温度のみならず並びに放射率や偏光放射率及び分光放射率をほぼ同時に測定することが可能である。又更に例えばシリコン半導体ウエハ面に成長する酸化膜(SiO2)による放射率の激しい変動があっても、本測定方法及びハイブリッド表面温度計で温度と放射率の同時計測が可能であるから、温度と放射率のプロセス中での関連性を調べること等も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を説明する前に、以下に本発明に係るハイブリッド型表面温度計の基本原理につき原理図である図1とともに説明する。本発明に係るハイブリッド型表面温度計は、熱伝導率のよい薄膜金属材料を測定対象の表面に接触させて熱平衡状態を現出させ、その薄膜金属材料の測定対象に接触していない裏面からの放射輝度を光センサで計測して、測定対象の表面温度を計測するものである。図1中1はシリコン半導体ウエハ等の測定対象、2は薄膜金属、3は光センサとして作用する放射計である。薄膜金属2は通常5mm幅、10mm長、厚さ20〜50μm程度の大きさであり、この薄膜金属2を測定対象1に押圧接触させると、測定対象1と薄膜金属2は理想的には熱平衡状態となり、ほぼ同温度となる。したがって、この薄膜金属2の測定対象1との接触面2Aの反対側である裏面2Bを放射計3で輝度測定することによって、間接的に測定対象1の温度を求めることができる。本発明はこの技術を基本原理とする。この際、薄膜金属2の裏面2Bの放射率が安定して既知の状態であるか、または人工的に高放射率状態にしておくことが好ましく、かかる場合にはさらに正確な温度測定が可能となる。
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。
以下の実施例では、シリコン半導体ウエハの表面温度を測定する表面温度計として実施した実施例につき説明する。
【実施例1】
【0027】
図2は、本発明に係るハイブリッド型表面温度計の一実施例の基本構成図であり、シリコン半導体ウエハである測定対象11に接触させる薄膜金属12は断熱性にすぐれる石英パイプ13によって支持されている。この薄膜金属12に先端部が直近するようにサファイアロッド14をホルダ15に設け、このサファイアロッド14を通して薄膜金属12からの放射を透過させる。また図2に図示されるように、ホルダ15はサファイアロッド14の薄膜金属12が取り付けられていない方の端部を保持している。さらにサファイアロッド14の他端に接続された光ファイバ16を介して、光センサ17で薄膜金属12からの放射輝度が検出される。検出された放射輝度は信号処理部18で必要により補正処理される。後述する如く信号処理され、表面温度の表示信号が形成されて、表面温度が図示されていないディスプレイに表示され、また図示されていないプリンタで記録される。薄膜金属12と石英パイプ13とサファイアロッド14とこれらを保持するホルダ15でセンサ部19を構成している。更にこのホルダ15に駆動部20が接続され、センサ部19が駆動部20により図2中で上下方向に所定の距離(薄膜金属12が測定対象11に押圧接触された状態と、図2に図示されている測定対象11から離間された状態)だけ移動可能に設けられている。薄膜金属12はこのセンサ部19の先端に石英パイプ13により、サファイアロッド14の先端から所定の距離だけ離間されて支持されている。本実施例では石英パイプ13を使用して薄膜金属12を支持しているが、石英パイプの他にセラミック系の断熱材を用いて薄膜金属12を支持することもできる。
【0028】
測定対象11に接触させる薄膜金属12の厚さが20〜50μm程度であるとき、理想的な接触状況においては、測定対象11と薄膜金属12の温度差はほとんど生じない(0.1K以内)が、測定対象面と薄膜金属面の表面粗さの程度によっては、熱接触抵抗を生じる場合がある。この場合には、測定対象11の表面温度と薄膜金属12の温度には温度ギャップを生じる。この熱接触抵抗を小さくするためには、本発明者による実験の結果5x10Pa以上の圧力で薄膜金属12を測定対象11に押圧する必要があることが判明した。
【0029】
センサ先端部の薄膜金属12は、標準的には(好ましくは)5mm幅、10mm長、厚さ20〜50μm程度の薄膜化した金属材料で、金ないし白金、イリジウムなどの貴金属やアルミニウム、ステンレス、インコネル、チタン、タングステン、ハステロイなどの卑金属あるいは合金を用いることができる。材料の選択は、主として温度領域によって使い分ける。この薄膜化した金属板の利点は、熱電対のように機能の劣化、すなわち起電力の変化を伴わず、熱電対素線の熱伝導損失などを伴わないため、測定対象11との間に速やかな熱平衡状態を実現しやすいことである。
【0030】
更に、光センサ17は、薄膜金属12の裏面12B、すなわち測定対象11と接触する面12Aの反対側の面12Bからの放射輝度を検出する。金や白金のような貴金属の場合、物性値としての光学定数は極めて安定で既知であるから、その放射率もまた極めて安定かつ既知と見なせるので、これを利用し放射輝度を補正し、真温度を求めることができる。あるいはアルミニウム、ステンレス、インコネル、チタン、ハステロイのような金属では表面を微細加工により粗面にして実効的な放射率を高めたり、表面に擬似黒体塗料を塗布するなどして0.95程度の高放射率にすることによってほとんど真温度に近い測温を実現できる。また、金、白金の場合、金黒、白金黒などの化学処理により同様に高放射率状態にすることができ、放射率補正なしで真温度測定を実現できる。このように放射率の補正は必要により行えばよいといえる。
【0031】
更に、前述した如く薄膜金属12の薄膜金属材料を選択することによって、常温から2000K程度の高温までの測定温度領域で、測定対象11の真温度を計測することが可能である。すなわち、常温から600K程度まではアルミニウムのような高熱伝導率薄膜金属、600K程度から1300K程度までの中高温域では、ステンレス鋼板やインコネル、チタン、ハステロイなどの各種金属あるいは合金を選択使用できる。また、加熱による酸化を避ける必要のある場合には、白金や金などの貴金属を使用することができる。また、更に1300K程度から2000Kに至る高温域ではイリジウムなどの高温に耐える金属を利用することができる。また、これら薄膜金属12を支える断熱材は、石英や高温セラミック系断熱材を使用することができる。特殊環境として真空中での測温では、前記の材料に加えて、薄膜のタングステンが使用できる。
【0032】
表1は、平坦で鏡面的な表面のシリコン半導体ウエハを測定対象11として文献値を利用して熱接触抵抗を60×10−6[m/W・K](ここでWはワット、Kはケルビンを示す。)と想定し、薄膜金属12として厚さ20μm、熱伝導率を70W/mKとした薄膜合金ハステロイを使用し、放射輝度測定面の放射率を0.95としたときの、シミュレーションによるハイブリッド表面温度計の測定結果を示す。表1の左欄のシリコン半導体ウエハの表面温度を320Kから1100Kと仮定し、該ウエハ表面に接触したハステロイに熱伝達したとき、該ハステロイの裏面の表面温度、すなわち薄膜金属12の温度をシミュレーションしたときの値が中央の欄に記述されている。右欄は仮定したシリコン半導体ウエハ(測定対象11)の表面温度と薄膜金属12の温度の差を示している。(この差は、殆どが熱接触抵抗のために生じる誤差と判断できる。)表1からわかるように測定対象のシリコン半導体ウエハの表面温度が400K以下の比較的低温域では、ハイブリッド表面温度計による測温誤差は1K以下にとどまるが、温度が高くなるにしたがって、誤差は増加する。この温度誤差は、一定の条件下において必ず生じるものであるから、系統的な誤差と考えることが出来る。
【0033】
【表1】

【0034】
表2は、図2に図示されている本発明に係るハイブリッド型表面温度計の実施例を使用して、実際にシリコン半導体ウエハの表面温度を測定した実験結果を示す。表2中の左側のシリコン半導体ウエハの表面温度は、本発明に係るハイブリッド型表面温度計の動作確認のためにシリコン半導体ウエハの表面温度を別の方法で実測した表面温度を示す。ここでいう別の方法とは、シリコン半導体ウエハ表面に擬似黒体となる黒色塗料を塗布してウエハの放射率を0.95程度にして、別の(従来の)放射温度計でシリコン半導体ウエハの表面温度を測って、放射率0.95で補正した後の放射温度計出力を使用する方法であり、この出力をシリコン半導体ウエハの真の表面温度として表2の左側の欄に記載した。それに対して、表2の中央の欄に本発明に係るハイブリッド型表面温度計の図2に示す実施例で測定し信号処理部18で補正処理される以前の温度を記載した。表2の右欄は別の方法で実測したシリコン半導体ウエハの表面温度(左欄)と本発明に係るハイブリッド型表面温度計で実測した薄膜金属12の上記の補正以前の温度(中央欄)の差を示している。たとえば、左側の欄のシリコン半導体ウエハの表面温度が500Kのとき、中央の欄のハイブリッド型表面温度計の指示は、497.5±0.7Kとなっているが、これは497.5Kを中心にして±0.7Kだけばらついていることを示している。つまり、右欄の温度差にあるように系統的誤差が2.5Kで、偶然誤差が±0.7Kということになる。また同様にシリコン半導体ウエハの表面温度(左欄)が1200Kのとき、右欄の温度差が、10.1±0.9Kとなり、そのうち10.1Kが系統的誤差で、±0.9Kの部分が、本当のランダムな誤差を示しており、偶然的な誤差と呼ばれ、これが本来の意味での温度誤差になる。
【0035】
したがって、本発明のハイブリッド型表面温度計の実用的な使用法としては、まず薄膜金属の温度を光センサで測定し、その表示値より大体の系統的誤差を想定し信号処理部18で補正する。例えば、薄膜金属を1080Kと測定したら、系統的な誤差は略8Kだと想定して、1080Kに8Kを加えて、1088Kと信号処理部で補正してシリコン半導体ウエハの真の表面温度とする。その場合、±0.8K程度の偶然誤差を含んでいると考える。ここで、薄膜金属12の接触時にシリコン半導体ウエハである測定対象11にかかる圧力を0.02MPaとした。本発明者による実験の結果、5x10Pa以上で且つシリコン半導体ウエハ等の測定対象が損傷されない範囲での圧力が必要であることが判明した。また、系統的な温度誤差はシミュレーション結果と同様な結果を示している。更に、それぞれの温度域での偶然的な測定誤差は±1K以下に抑えられている。
【0036】
【表2】

【0037】
以上詳述した如くシミュレーションおよび実測結果から、ハイブリッド表面温度計の信号処理として、図2の信号処理部18で次の手順の信号処理が行われる。すなわち、ハイブリッド表面温度計先端部(薄膜金属12)の測定対象11に対する接触圧力が所定のもとで、光センサ17で放射輝度が検出された後、温度に変換したとき、その温度に対応する系統的な温度誤差を加えてやれば、測定対象11の正しい温度を求めることができる。上記系統的温度誤差は測定対象11の材料とその表面粗さがわかれば、前述した如くにそれぞれの温度域で決定することができる。このように信号処理によって、得られる最終的な測温誤差は1000Kを超える温度域で常に±1K以下にできる。
【実施例2】
【0038】
図3は、本発明に係るハイブリッド型表面温度計の他の実施例の基本構成図である。21はシリコン半導体ウエハ等の測定対象、22は断熱材ホルダ24により支持されている薄膜金属である。この薄膜金属22を支える断熱材ホルダ24としては石英パイプのほか、セラミック系の断熱材を使用することも出来る。本実施例では前述の図2の実施例1で使用されているサファイアロッド14や光ファイバ16を使用せずに、薄膜金属22からの放射輝度をレンズ23などの光学系を通して直接光センサ27に取り込み、その後図2の実施例1と同様に信号処理部28で前述実施例1と同様に信号処理される。24はレンズ23や薄膜金属22を保持する断熱材ホルダであり、図2の実施例1と同様に駆動部30により図3中で上下方向に所定の距離(図3に図示されている薄膜金属22が測定対象21に押圧接触された状態と、測定対象21から離間された状態の間)だけ移動可能に設けられている。その他の構成作用は図2の実施例1と同じである為、重複記載を省略する。
【実施例3】
【0039】
更に、本発明に係るハイブリッド型表面温度計は、測定対象の表面温度だけではなく、測定対象の放射率をほぼ同時に測定する手段としても応用することができる。図4は、本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第3の実施例の基本構成図であり、図2に図示するサファイアロッドと光ファイバの組み合わせによる第1実施例のハイブリッド表面温度計を利用した温度と放射率の同時測定装置の概念図である。図2の実施例1と同一構成には同一の符号を付し重複する説明を省略する。
【0040】
図4に図示される如く、薄膜金属12、石英パイプ13、サファイアロッド14、ホルダ15、光ファイバ16、光センサ17、信号処理部18、及び駆動部20からなる実施例1のハイブリッド型表面温度計部と、薄膜金属を持たない第2のサファイアロッド40、第2の光ファイバ41、第2の光センサ42、及び第2の信号処理部43からなる放射計部44が測定対象11の同じ領域を見るように設置する。前者、すなわちハイブリッド型表面温度計部45を駆動部20で前述した如く昇降して、間歇的に測定対象11に接触押圧させて、測定対象11の表面温度Tを前述した信号処理による補正をかけて、正確に測定する。その前後に後者、すなわちサファイアロッド40、光ファイバ41、光センサ42、及び信号処理部43からなる放射計部44で測定対象11の同じ領域からの放射輝度E=εLλ.b(T)を測定する。ここで、Lλ.b(T)は、温度Tの分光黒体放射輝度で、サファイアロッド40、光ファイバ41を介して光センサ42で検出した信号出力を表す。εは、光センサ42の検出波長に対応する測定対象11の分光放射率である。先にハイブリッド表面温度計で測定した温度Tにより、この放射計に対応する黒体放射輝度出力E=Lλ.b(T)が得られるから、測定対象の放射率εが2つの信号EとEの比をとることによって、次の数1の数式で求められる。
【0041】
【数1】

【0042】
図4の実施例3に於いては、放射輝度Eを検出する光センサの前に分光器を設置することによって、波長ごとの放射率、すなわち分光放射率を求めるように改良変形することもできる。さらに、サファイアロッド40の前面に偏光子を設置し、この放射計で該測定対象の表面法線方向からθ=30°以上角度をつけて測定するようにすれば、p-偏光放射率、またはs-偏光放射率を測定することもできる。このように広い波長帯での分光放射率や偏光放射率を測定できれば、単に温度測定だけでなく、測定対象の放射率に係わる表面情報、例えば酸化膜特性(厚さなど)もin-situで把握できる可能性があり、用途が拡大される。
【0043】
図5は、図4に図示されている本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第3実施例による波長l=0.9 mmにおける分光放射率と表面温度の同時測定結果を示すグラフである。測定対象としてステンレス鋼板(SUS430)を大気中で加熱し、温度上昇過程において、ハステロイを薄膜金属12として構成したハイブリッド型表面温度計で温度測定するとともに、前述の数1の数式にもとづいて間歇的に放射率を求めたものである。温度の上昇とともに放射率は増加していくが、その後減少に転じていることが観測できる。これは、温度上昇とともに薄膜金属12の表面の酸化膜生成とともに放射率が増大するが、酸化膜厚がある程度増加すると、測定対象11の表面と酸化膜表面との間で、放射の多重反射を生じ、干渉効果によって生じた放射率の反転現象を示している。本発明によるハイブリッド型表面温度計は前記のように放射率と温度を同時測定することができるため、このようなプロセス中の現象を把握する手段を提供することができる。前述した如く、in-situで放射率が温度と同時に測定できるため、放射率に関する測定対象の表面現象を把握する有力な新しい手段を提供できることとなる。本ハイブリッド型表面温度計は、かかる可能性があるので温度計測センサとしての役割を超えた新規なセンサとなりうるものである。
【実施例4】
【0044】
更に、本発明に係るハイブリッド型表面温度計は、複数個所定の間隔で配置することにより、測定対象の表面温度だけではなく、測定対象の温度分布も測定することができる。図6は、図2に図示されているハイブリッド型表面温度計の実施例のセンサ部19を12個所定の間隔で配置したセンサアレイを図示している。各センサ部19は図2の実施例と同様に薄膜金属12、石英パイプ13、サファイアロッド14、ホルダ15により構成されている。図2の光ファイバ16及び光センサ17等は簡略化のため図示されていないが図2の実施例と同様に設けられている。すなわちハイブリッド型表面温度計のセンサ先端部をアレイ状に多数並べて、測定対象(試料面)11の温度分布を測定する基本的な方式を示している。
【0045】
更に、本発明に係るハイブリッド型表面温度計、温度分布測定装置及び測定方法は、大気中で使用できるだけでなく、適当な構造の変更により、真空装置内での試料の測温、あるいは放射率の測定にも利用できる。本発明に係るハイブリッド型表面温度計、温度分布測定装置及び測定方法は、シリコン半導体ウエハのように、測定対象(試料表面)に熱電対を溶接することがきわめて困難な試料に対して、特に有効な温度計測技術となる。また、製造プロセス中での、いわゆるin-situ 測温法としても威力を発揮することができる。例えば、シリコン半導体ウエハ面に成長する酸化膜(SiO2)による放射率の激しい変動があっても、本発明に係るハイブリッド型表面温度計で温度と放射率の同時計測も可能であるから、温度と放射率のプロセス中での関連性を調べることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るハイブリッド型表面温度計の基本原理を示した図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第1実施例の基本構成図である。
【図3】本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第2実施例の基本構成図である。
【図4】表面温度と放射率を同時測定する本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第3実施例の基本構成図である。
【図5】本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第3実施例による放射率と表面温度の同時測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明に係るハイブリッド型表面温度計の第1実施例のセンサ部を使用した温度分布測定装置のセンサアレイの基本構成図であるである。
【符号の説明】
【0047】
1、11、21 測定対象
2、12、22 薄膜金属
3 放射計(光センサ)
13 石英パイプ
14、40 サファイアロッド
15、24 ホルダ
16、41 光ファイバ
17、27、42 光センサ
18、28、43 信号処理部
19 センサ部
20、30 駆動部
23 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜金属を測定対象に所望の圧力で接触させ、該薄膜金属の該測定対象に接触していない裏面からの放射輝度を光センサで計測することによって、該測定対象の表面温度を測定することを特徴とするハイブリッド型表面温度計。
【請求項2】
請求項1に記載されているハイブリッド型表面温度計において、該薄膜金属の裏面側に該測定対象に直近してロッド状の光透過体を設置し、該ロッド状の光透過体を通して、該薄膜金属からの放射輝度を透過させて光センサで検出することにより、該測定対象の表面温度を測定することを特徴とするハイブリッド型表面温度計。
【請求項3】
請求項2に記載されているハイブリッド型表面温度計において、該ロッド状の光透過体としてサファイアロッド、石英ロッド、フッ化カルシウム(CaF2)ロッド、フッ化バリウム(BaF2)ロッドの一つ若しくは複数個を使用したことを特徴とするハイブリッド型表面温度計。
【請求項4】
請求項3に記載されているハイブリッド型表面温度計において、該薄膜金属の該測定対象に接触していない裏面を高放射率加工して、放射率の相違による依存を少なくしたことを特徴とするハイブリッド型表面温度計。
【請求項5】
請求項1に記載されているハイブリッド型表面温度計において、更に該薄膜金属が測定対象に接触するときに生じる熱接触抵抗によって低下する該薄膜金属の温度を補償する補償手段を持ち、この補償手段によって該測定対象の表面温度を補償して測定することを特徴とするハイブリッド型表面温度計。
【請求項6】
請求項1から5に記載されている一つ又は複数のハイブリッド型表面温度計を複数個所定の間隔で並べて、該測定対象の温度分布を測定することを特徴とするハイブリッド型表面温度計による温度分布測定装置。
【請求項7】
請求項1から5に記載されている一つのハイブリッド型表面温度計と、薄膜金属をもたない第2の光センサによる放射率を測定する放射計とを持ち、該測定対象の同一測定領域の放射輝度をそれぞれ計測することによって、該測定対象の表面温度と放射率を測定することを特徴とする測定方法及びハイブリッド型表面温度計。
【請求項8】
請求項7に記載されている測定方法及びハイブリッド型表面温度計において、該放射計に偏光子を取り付けることによって、該測定対象の表面温度と偏光放射率を測定することを特徴とする測定方法及びハイブリッド型表面温度計。
【請求項9】
請求項7に記載されている測定方法及びハイブリッド型表面温度計において、該放射計の前に、分光器を取り付けることによって、該測定対象の表面温度と分光放射率を同時に測定することを特徴とする測定方法及びハイブリッド型表面温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−218591(P2007−218591A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36137(P2006−36137)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】