説明

ハイブリッド型誘導放出性媒体

【課題】本発明は、ハイブリッド型誘導放出性媒体と、そのような媒体の調製方法と、その用途を提供する。
【解決手段】本発明に係るハイブリッド型誘導放出性媒体は、架橋型の炭水化物ポリマーおよび/またはタンパク質ポリマーを含むゲルと、無機担体と、該無機担体に結合された少なくとも1つの活性成分より構成され、前記活性成分の放出は、ハイブリッド型誘導放出性媒体が外的刺激に接触することにより誘発される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド型誘導放出性媒体、そのような媒体の調製方法、およびその用途に関するものである。この種の媒体は、特に、放出されるべき時期および/または場所になるまで環境から活性成分が保護される必要がある用途において、該活性成分をパッケージングするために使用することができる。主要な用途の1つは、微生物汚染の存在下でのみ放出される必要のある抗微生物活性成分の分野に存在する。これは、たとえば、抗微生物パッケージの場合であることができる。これは、その一般的な目的として、微生物による腐敗を防止することによりパッケージ食品の貯蔵寿命を延長するものである必要がある。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO−A−95/17816号パンフレットには、必要がない時にも、活性成分が連続的に放出される放出性媒体が記載されている。英国特許出願公開GB−A−2198062号明細書には、機械的作用の影響下で、活性成分が放出される誘導放出性媒体が記載されている。しかしながら、機械的作用が放出に必要とされるので、そのような誘導放出性媒体の用途は、かなり限られている。
【0003】
国際公開WO−A−99/08553号パンフレットには、分解放出性媒体が開示されており、この場合、媒体は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンワックスなどの「可食性ポリマー」で作製されている。国際公開WO−A−95/33773号パンフレットには、特殊な形態の分解性媒体が記載されており、この場合、キチンまたはキトサンのカプセルが、活性成分を含有しているものとして提供される。これらの媒体は、加水分解を介してリゾチームにより分解される。英国特許出願公開GB−A−1576999号明細書には、「ワセリン石油ゼリー」中で高温(120℃)でコアギュレートされ、かつ有機スズ化合物またはCuOのいずれかを含有するバイオポリマーの用途が記載されている。これらの粒子は、悪臭のない塗料の添加剤として使用されている。この系の欠点は、たとえば、熱感受性および/または有機溶媒感受性の活性成分を使用できないこと、さらには、媒体を形成した後、形成された媒体に活性成分を充填できないことである。
【0004】
国際公開WO−A−2004/105485号パンフレットには、荷電した架橋型の炭水化物ポリマー、またはタンパク質ポリマーと活性成分とを含むことを基本とする誘導放出性媒体が記載されている。放出は、媒体が、pH変化や塩濃度変化などの外的刺激を受けることにより誘発される。しかしながら、本発明者らは、全く又はごくわずかしか電荷を有していない活性成分や、疎水性基を有する活性成分は、媒体内に十分に結合されないことを見いだした。さらに、特定の活性成分の充填レベルは、満足すべきものではないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO−A−95/17816号パンフレット
【特許文献2】英国特許出願公開GB−A−2198062号明細書
【特許文献3】国際公開WO−A−99/08553号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO−A−95/33773号パンフレット
【特許文献5】英国特許出願公開GB−A−1576999号明細書
【特許文献6】国際公開WO−A−2004/105485号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、活性成分を閉じ込め、かつ必要に応じて、すなわち指定された場所および/または時期で、外的な(物理的、化学的、もしくは酵素的な)誘因または刺激に基づいて、活性成分を放出することが可能で、少なくとも部分的に以上に述べた欠点を克服する放出性媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この本発明の目的は、有機成分および無機成分の両方より構成されるハイブリッド型誘導放出性媒体を提供することにより達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明は、第1の態様では、炭水化物ポリマー、タンパク質ポリマー、およびそれらの混合物よりなる群から選択される架橋型バイオポリマーを含むゲルと、無機担体と、該無機担体に結合された少なくとも1つの活性成分より構成され、活性成分の放出が、媒体が外的刺激に接触することにより誘発される、活性成分放出用のハイブリッド型誘導放出性媒体に係るものである。
【0009】
本発明は、他の態様では、活性成分の放出が、媒体が外的刺激に接触することにより誘発され、最初に、炭水化物ポリマー、タンパク質ポリマー、およびそれらの混合物よりなる群から選択される架橋型バイオポリマーを含むゲルを準備し、次に、該ゲル中に無機担体を導入することにより得ることができ、媒体が、該無機担体に結合された少なくとも1つの活性成分をさらに含む、活性成分放出用のハイブリッド型誘導放出性媒体に係るものである。
【0010】
本発明者らは、そのようなハイブリッド型誘導放出性媒体を用いれば、先行技術の放出性媒体よりも活性成分の充填量を多くし、かつ放出可能な活性成分の範囲を広くすることが可能になることを見いだした。より多い充填量は、特に、架橋型ゲルと無機担体とを準備する、以上に述べた順序の結果として、達成することが可能である。というのは、最初に、架橋型ゲルを準備し、次に、無機担体を導入することは、架橋型ゲルの細孔内に無機担体が取り込まれるという利点を有するからである。このようにコンパートメント化された担体は、凝集化(これは、一般に、無機粒子の傾向である)が防止され、より大きい比表面積が保持される。さらなる利点は、無機粒子の粒子サイズの均一性が、ポリマーマトリックスの架橋密度の均一性に対応することである。したがって、バイオポリマーマトリックスの細孔サイズの制御は、無機粒子のサイズ分布を制御するための良好なツールを提供するが。これは、一般的には、無機粒子の形成時に、容易に達成できるものではない。
【0011】
他の利点は、ハイブリッド型放出性媒体中の活性成分が、比較的高い塩濃度に供された時に放出されないので、外的条件に対するハイブリッド型放出性媒体の感受性が、国際公開WO−2004/105485号パンフレット中に記載の媒体と対比して、低減されることである。
【0012】
その他に、本発明に係るハイブリッド型放出性媒体中の電荷密度は、非常に高く、かつ電荷分布は、非常に広く、しかもハイブリッド型放出性媒体のゲルの極性は、逆転することが可能である。ハイブリッド型放出性媒体中の電荷密度が高いことの利点は、活性成分に対する受容体部位がより多く形成されることである。さらに、電荷のタイプ(正または負)は、無機担体により制御され、ポリマー骨格上に存在する電荷には依存しない。このことは、先行技術に記載されるよりも、柔軟性のある送達系を可能とする。
【0013】
本発明に係るハイブリッド型誘導放出性媒体は、炭水化物ポリマー、タンパク質ポリマー、およびそれらの混合物よりなる群から選択される架橋型バイオポリマーを含むゲルと、無機担体より構成される。
【0014】
架橋型の炭水化物ポリマーおよび/またはタンパク質ポリマーは、酵素のような、任意の外的刺激に対する基質として使用可能であるオリゴマーおよびポリマーの炭水化物またはタンパク質で作製することが可能である。そのように使用可能な炭水化物は、C原子、H原子、およびO原子だけで構成される炭水化物、たとえば、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、ラクトース、ならびにこれらの糖のオリゴマーおよびポリマー、セルロース、デキストリンたとえばマルトデキストリン、アガロース、アミロース、アミロペンチン、さらにはガムたとえばグアーガムである。使用可能なタンパク質としては、アルブミン、オバルブミン、カゼイン、ミオシン、アクチン、グロブリン、ヘミン、ヘモグロビン、ミオグロビン、および小分子ペプチドが挙げられる。好ましくは、DP2以上のオリゴマー炭水化物またはDP50以上のポリマー炭水化物が使用される。これらは、天然に存在するポリマー、たとえば、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、セルロース、およびガム、またはリン酸化もしくは酸化により形成可能なこれらの誘導体であることができる。他のポリマー(たとえば、カプロラクトン)を使用することも可能であり、それらは、パッケージング材料などとのより良好な相性のために添加することが可能である。タンパク質の場合、植物性もしくは動物性の材料の加水分解物から得られるタンパク質を使用することも可能である。炭水化物の好適な混合物(たとえば、コポリマー)またはタンパク質の好適な混合物を使用することも可能である。
【0015】
架橋型ポリマーの利点は、マトリックス中への架橋の導入を介して得られる媒体の固有の安定性にある。特異的には、架橋は、エーテル結合および/またはエステル結合であり、エステル結合の場合、リン酸エステルが好ましい。さらなる重要な利点は、架橋によりポリマーの三次元格子を準備して、その中に、無機担体および活性成分を閉じ込めることができることである。さらに、成分の選択、すなわちポリマーおよび架橋剤の選択は、媒体の三次元構造に影響を及ぼすので、所定のサイズおよび/または所定の電荷の分子に適した特定の媒体を製造することを可能にする。
【0016】
媒体を構成するポリマーマトリックスは、ポリサッカリドや(加水分解した)タンパク質などの容易に入手しうる水溶性ポリマーから構築することが可能であり、その際、注文で作られる媒体を作製するために、柔軟性のあるマトリックスを形成することが可能である。
【0017】
場合により、たとえば、カルボン酸および/または陽イオン基を介して、ポリマーマトリックスを正および/または負に荷電することが可能である。そのような電荷は、ポリマー自体により提供することが可能であるが、ポリマーの修飾の結果として、またはポリマーの架橋に使用される架橋剤により、導入することも可能である。
【0018】
マトリックスの形成は、ポリマーの共有結合架橋を介して、達成される。使用することが可能な典型的な架橋剤は、ジビニルスルホン、エピクロロヒドリン、ジ−エポキシドたとえばグリセロールジグリシジルエーテルもしくはブタンジオールジグリシジルエーテル、トリメタリン酸ナトリウム、およびアジピン酸、またはそれらの誘導体などである。架橋は、また、酵素作用により、たとえば、ラッカーゼ(これは、たとえば、ペクチンの架橋を誘発する)、ペルオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、プロテインジスルフィドイソメラーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、リシルオキシダーゼ、およびリポキシゲナーゼよりなる群に属する酵素を用いることにより、達成することが可能である。これらの架橋剤または架橋酵素の使用方法は、当技術分野で公知であり、および/または実験の部に数多く記載されている。
【0019】
ポリマーは、酸化、陽イオン性官能基もしくはカルボキシメチル基による置換、および/またはアセチル基などによるエステル化により修飾することが可能である。そのような修飾は、一般的には、架橋およびゲル形成の前に行われる。エーテル形成による架橋を行った場合にかぎり、架橋およびゲル形成の後で、ポリマーを修飾することが可能である。当業者であれば、本発明で特定されたポリマーを修飾して、記載された基を有するポリマーを準備することはよく分かることである。
【0020】
ポリマーは、有利には、かなり大きいサイズ、すなわち30kD以上である。このことは、架橋後すぐにゲルを形成することを可能とし、それにより、無機担体および活性成分を取り込むことができる格子を形成することが可能になる。
【0021】
無機担体は、好ましくは無機担体上の特定の結合部位を介して、媒体中に活性成分を結合するために使用される。これは、ポリマーマトリックスは必ずしも荷電されなければならないわけではないという利点および媒体への充填が増大されるという利点を有する。
【0022】
一つの実施形態では、そのような無機担体材料をそのまま挿入することにより、ゲル形成後に、無機担体をポリマーマトリックス中に導入することが可能である。好ましくは、無機担体は、粒子の形態である。架橋型ポリマーマトリックス中への導入を可能にするために、炭水化物ポリマーおよび/またはタンパク質ポリマーの架橋型マトリックスの典型的な細孔サイズを考慮して、ポリマーマトリックス中に容易に導入できるように、粒子のサイズを限定することが好ましい。透過型電子顕微鏡観察により測定した場合の好ましい平均粒子サイズは、2−200nm、好ましくは5−50nm、より好ましくは10−30nmである。粒子の形状は、さまざまであることができる。粒子は、たとえば、球状、針状、または小板状であることができる。アスペクト比(粒子の長さと厚さとの比)は、1−500ですることができる。
【0023】
好ましい実施形態では、無機担体を成分の形態でポリマーマトリックスゲル中に導入し、それに続いて、ポリマーマトリックス内で、無機担体のin situ合成を行う。これは、たとえば、混合後に、所望の無機粒子の沈殿を生じる2種の異なる塩を添加することにより、実施することが可能である。
【0024】
好ましい無機担体の例としては、Ag、Au、Fe、MgCl、AlCl、ZnCl、SiO、TiO、ZnO、MgO、スメクタイト、または層状複水酸化物の粒子が挙げられる。後者は、特に好ましく、好ましいin situ合成を特に可能にする。無機担体は、活性成分の他に、抗微生物性、UV遮断性、磁性、改良された吸収性、または食品添加剤および/もしくは医薬品添加剤に関連する性質などの有利な性質を備えることができることが、さらに有利である。
【0025】
無機担体は、正または負のいずれかに荷電することが可能である。そのような電荷は、活性成分の結合を支援することができる。しかしながら、無機担体は、中性であることも可能であり、活性成分は、吸着部位または金属−配位子部位などの特定の部位で結合することも可能である。結合は、さらに、水素結合を含むことができる。
【0026】
活性成分は、たとえば、抽出またはイオン交換により媒体中に導入することが可能である。活性成分を無機担体に事前に充填してから、それに続いて、複合体を媒体中に導入することも可能である。
【0027】
活性成分は、任意のサイズおよび重量であることができるが、媒体中への挿入を考えると、好ましくは50kD未満、より好ましくは30kD未満、最も好ましくは10kD未満の重量を有する。
【0028】
媒体中で利用可能な活性成分は、外的刺激により媒体の性質が変化しないかぎり、放出されない。このことは、活性成分が環境に流出したり、医薬担体および/または栄養医薬担体の場合、それを必要としない生体部分、さらには、それにより毒性を受ける生体部分に流出したりしない、という利点を有する。活性成分が放出されるように媒体を開放できるか、または活性成分と媒体との結合を低減できるかぎりにおいて、刺激は、任意の起源のものであることができる。したがって、活性成分は、たとえば、環境のpHの変化、塩濃度の変化、および/またはポリマーの加水分解により、放出することが可能である。また、水濃度の変化、温度の変化、ならびにポリマーの分解を誘発する酵素および/または細菌の存在は、活性成分を放出するのに好適な外的刺激である。
【0029】
一つの実施形態では、活性成分は、また、外的刺激により無機担体からも放出される。pHの変化、塩濃度の変化、および温度変化は、無機担体から活性成分を放出するのに特に好適な外的刺激である。
【0030】
無機粒子は、ポリマーの分解により溶解し、それにより、活性成分を放出することも可能である。たとえば、酸に可溶な無機粒子(たとえば、MgCl、AlCl、またはZnCl)が酸性環境中に放出される場合が、これに該当する。
【0031】
しかしながら、活性成分が無機担体から放出されることが、必要というわけではない。活性成分と無機担体との複合体は、そのままで活性でありうるので、活性成分と無機担体との複合体だけがポリマーから放出されることが必要とされる。たとえば、ポリマーの分解により、活性成分を含むシリケートを、酸性の環境中に放出することが可能であり、この場合、活性化合物は、十分に溶解されない状態で、その活性を発揮することが可能である。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明は、外的刺激が、ポリマーを分解することが可能である酵素である、媒体を包含する。以上に述べたポリマーを変換して、埋め込まれた活性成分を放出することが可能である多数の酵素、たとえば、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、グルカナーゼ、プルラナーゼ、アラビノダーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、またはペプチダーゼもしくはプロテアーゼは、公知である。
【0033】
活性成分は、たとえば、抗微生物物質、好ましくは殺菌性タンパク質、たとえばナイシンおよびペディオシン;金属または誘導金属、たとえば、金属酸化物、金属塩、金属錯体、または合金;抗生物質、たとえば、ペニシリン、エリスロマイシン、アンピシリン、イソニアジド、テトラサイクリン、スルホンアミド、およびクロラムフェニコール;植物性トキシン、たとえば、デフェンシン、レクチン、および抗菌類タンパク質;エタノール;H生成酵素、たとえば、オキシダーゼ;有機酸、たとえば、プロピオン酸および誘導プロピオネート、ソルビン酸および誘導ソルベート、安息香酸および誘導ベンゾエート、乳酸;ナトリウムジアセテート;亜硝酸ナトリウム;リゾチーム、およびスパイス由来の抗微生物物質であることができる。
【0034】
閉じ込められた抗微生物活性成分が人体に投与される実施形態では、好ましくは、経口経路を介して行われ、好ましくは、食品および薬剤の投与により「食品グレード」として認定された抗微生物物質が使用される。そのような抗微生物物質は、たとえば、ハーブおよび/またはスパイスから取得することが可能である。細菌または菌類の感染を防御するために、植物により産生される抗微生物物質(たとえば、デフェンシン)もまた、使用することが可能である。最後に、菌類により産生される抗微生物物質のカテゴリーについて言及しなければならないが、これは、食品中にすでに組み込まれている(たとえば、チーズの調製時に)。
【0035】
他の選択肢として、活性成分は、医薬活性化合物および/または栄養医薬活性化合物、着臭剤、風味化合物、調味化合物などの成分よりなる種々の群から選択することが可能である。医薬活性化合物および/または栄養医薬活性化合物は、好ましくは、医薬的効果および/または栄養医薬的効果が発揮されるべき細胞または器官のごく近傍に投与する必要があり、かつ全身投与した場合に望ましくない副作用、さらには毒性の副作用を生じるおそれがある化合物から選択される。一群のそのような化合物は、適用が局所的、たとえば口内(抗齲蝕)であることが必要とされる抗生物質化合物、たとえば、以上で論述した抗微生物剤である。他の群の活性成分は、抗癌薬物療法で使用するための細胞静止化合物である。この場合に、化合物の放出を誘発しうる外的刺激は、たとえばpHである。なぜならば、腫瘍中のpHは、生体の残りの部分よりも低いことが知られているからである(腫瘍中では、約6.8−7.0、血液中では7.2−7.3)。正常な生体pHでは、安定状態を維持するがより低いpHに遭遇した場合には活性成分(この場合は細胞静止化合物)の放出を開始する媒体を製造することは、十分に当業者による技術の範囲内にある。
【0036】
本発明に係る媒体を介する医薬活性成分および/または栄養医薬活性成分の送達の利点は、活性化合物が媒体により保持されて、体内で代謝および/または分解を受けないことである。
【0037】
特異的には、本発明の利点は、媒体の使用を介する栄養医薬活性成分の送達の結果として、酸不安定成分がインタクトな形態で胃を通過し、腸内細菌叢により放出される酵素の作用を介して、たとえば、大腸内に放出されることである。
【0038】
本発明によれば、2つ以上の活性成分を提供することも可能である。これは、異なる成分が装填された媒体を混合することにより、または媒体に充填すべく2つ以上の活性成分が溶解された充填溶液を提供することにより、達成することが可能である。
【0039】
さらなる態様において、本発明は、ハイブリッド型誘導放出性媒体の調製方法に係るものである。そのような調製方法は、
−ポリマーと架橋剤の混合物を提供すること、
−ポリマーを架橋することによりゲルを形成すること、
−無機担体を添加すること、
−少なくとも1つの活性成分を添加すること、
から構成される。
【0040】
ポリマーは、架橋剤を添加する前に、水および塩基の混合物中に溶解することができる。架橋剤を添加した後、典型的には1−24時間以内に、ゲルが形成される。その後、無機担体、またはその前駆体は、ゲルの溶液に添加することができる。前駆体としては、たとえば、Mg(NO・6HOおよびAl(NO・9HOなどの層状複水酸化物の前駆体が挙げられうる。好ましくは、pHは、7−10の範囲内、より好ましくは7−8の範囲内に保持される。次に、ゲルは、デカント、濾過、および乾燥により、単離することができる。
【0041】
媒体中の無機担体の量は、乾燥固形分重量を基準にして、少なくとも0.5wt%、好ましくは、少なくとも2wt.%、より好ましくは、少なくとも4wt.%である。媒体中の無機担体の上限は、乾燥重量固形分を基準にして99wt.%であり、好ましくは、80wt.%、より好ましくは、40wt.%である。
【0042】
無機担体を備えたゲルは、その後、使用される無機担体と適用される活性成分の性質とに依存して、適切な条件下で、活性成分をゲルの溶液と混合することにより、活性成分を装填することができる。
【0043】
最初に、ゲルおよびその溶液を準備し、次に、活性成分を添加し、その後、無機担体を添加することも可能である。用途に依存して、最も好適な順序を使用することができる。
【0044】
好ましい実施形態において、本発明に係るハイブリッド型誘導放出性媒体は、最初に、ポリマーおよび架橋剤を混合して、ポリマーを架橋することによりゲルを形成し、その後、無機担体をゲルの溶液に添加し、その後、活性成分を添加することにより、調製される。
【0045】
本発明に係るハイブリッド型誘導放出性媒体中に適用される活性成分の量は、活性成分の性質、特に活性成分の分子質量に非常に大きく依存する。活性成分の分子質量は、さまざまであり、たとえば、少なくとも10D、たとえば、少なくとも50D、少なくとも100D、または少なくとも200Dであることができる。分子質量の上限は、300kD、280kD、または240kDであることができる。さらに、ハイブリッド型誘導放出性媒体が使用される用途は、適用される活性成分の量に大きく影響を及ぼす。特定の用途では、ごく少量の活性成分が好ましいし、一方、他の用途では、より多くの量が有利である。典型的には、媒体中の活性成分の量は、全乾燥固形分重量1gあたり少なくとも1μg、たとえば、全乾燥固形分重量1gあたり少なくとも5μgまたは全乾燥固形分重量1gあたり少なくとも10μgである。媒体中の活性成分の量は、全乾燥固形分重量1gあたり最大10mg程度、たとえば、全乾燥固形分重量1gあたり8mg、好ましくは、全乾燥固形分重量1gあたり2mgである。
【発明の効果】
【0046】
本発明の利点は、活性物質が、微生物または特定の酵素混合物が存在し、かつ活性である位置でのみ放出されることである。このことは、たとえば、微生物や活性真核細胞の不在下では、外側への抗微生物物質の移行が起こらないこと、さらには、防除対象の微生物の存在下では、放出される抗微生物物質の量が最小限に抑えられることを意味する。
【0047】
さらなる例は、腸内における医薬の放出である。この場合、媒体は、腸内酵素または腸内細菌叢により分解されて、活性物質の放出が引き起こされる。この用途では、任意の治療活性成分を使用することが可能であり、本発明は、抗微生物剤に限定されるものではない。好ましくは、口内、食道内、または胃内で分解される危険性がある治療活性成分が使用される。したがって、本発明に係る媒体は、酸やプロテアーゼに不安定な医薬または栄養医薬が、活性形態で胃を通過するようにするために使用することが可能である。
【0048】
その他に、本発明に係る抗微生物活性成分を含む媒体は、また、抗座瘡ゲル中で非常に良好に使用することが可能である。この場合も、同様に、公知の抗座瘡剤と比較される利点は、微生物が存在する時期および位置でのみ抗微生物活性成分が放出されることである。このことは、抗微生物剤の皮膚への望ましくない暴露を防止する。
【0049】
抗座瘡剤での使用の他に、本発明に係る抗微生物活性成分を含む媒体は、また、他の化粧品でも使用することが可能である。なぜならば、皮膚上に適用される化粧品(たとえば、クリーム、ローション、パウダーなど)は、微生物の食料源であることが知られているからである。したがって、これらの適用された化粧品を食料源として利用する微生物の感染は、本発明により防止することが可能である。したがって、本発明を用いることにより、現在の化粧品で使用される抗微生物剤(たとえば、アルコールまたはアルコール誘導体)を化粧品組成物から取り除くことも可能である。これらの作用剤は、皮膚の刺激を引き起こすことが多いので、このことは、特に有利である。本発明に係る抗微生物活性成分を備えた媒体を使用すれば、この皮膚刺激は、ない。
【0050】
他の用途は、たとえば、創傷用品だけでなく、衛生用品も含めて、手当用品における本発明に係る抗微生物活性成分を含む媒体の使用である。創傷治癒では、微生物の防除は、前提条件であり、本発明に係る用品は、必要とされる位置でのみ抗微生物活性成分が放出され、かつ抗微生物剤への創傷組織の不必要な暴露が防止されるようにする一助となる。
【0051】
微生物により分解可能な、本発明に係る媒体中にパッケージングされた抗微生物剤の他の用途が可能である。そのような抗微生物物質、特に殺菌類物質は、殺菌類塗料または悪臭防止塗料で非常に良好に使用される。従来の殺菌類塗料または悪臭防止塗料と比較される利点は、本発明に係る塗料が、かなり長く活性状態を維持することである。なぜならば、放出原因が存在する時にのみ、抗微生物(殺菌類、悪臭防止)物質が放出されるからである。
【0052】
その他に、本発明に係る抗微生物物質を備えた媒体を含むコーティングは、損傷しやすい系で非常に良好に使用することができる。これに関連して、損傷しやすい系とは、微生物の感染を受けやすい系(材料、湿潤環境)、たとえば、切り花(カットされた茎)、植物の根、ロックウールの栄養培地、または他の材料などのことである。本発明に係るコーティングを用いてこのタイプの材料を被覆しても、材料の機能(たとえば、水または栄養素の取込み)は妨害されず、依然として微生物に対する十分な防御が提供される。
【0053】
さらに、本発明に係るコーティングは、また、食品に接触することが多く、かつこのようにして汚染源になりうる表面上で、非常に良好に使用することが可能である。この例は、肉、野菜などを切るための俎板、調理台または食品が調製もしくは放置される他の表面、工業的な食品の調製時および加工時のコンベヤーベルト、ならびに保護されずに食品が貯蔵される貯蔵手段(ラック、クレートなど)である。十分な抗微生物能を保証するために、一定期間の後、コーティングを再度適用する必要がある。この時期を決定するために、その上に、故意に微生物を適用し、コーティングが依然として抗微生物剤を備えた十分な媒体を含有して微生物の増殖を停止させるかを決定することにより、コーティングを簡単に試験することが可能である。
【0054】
本発明に係るコーティングは、また、微生物による攻撃を防御すべく種子を被覆するために、または換気フィルターを被覆するために使用することが可能である。種子は、多くの場合、発芽後の最初の数日で苗を発芽させるための栄養素を提供するコーティングを備える。しかしながら、これは、また、苗が微生物による感染を非常に受けやすい期間でもある。該微生物により分解可能であり、その分解により抗微生物活性成分を放出する本発明に係る媒体を含むコーティングは、そのような感染から苗を保護することができる。萌芽自体により産生される酵素であるアミラーゼにより分解可能な種子コーティングを適用することも可能である。このようにして、抗微生物物質(または任意の他の活性成分、たとえば、抑止剤)は、種子が発芽する時期に放出され、したがって、新しい萌芽は、保護される。
【0055】
換気フィルター上のコーティングは、膨大な量の微生物を捕集することが知られている。そのようなフィルターの内部または表面の環境条件は、そのような微生物のコロニーを生成するのに有利であり、その結果、フィルターはそれらで覆われ、そして、フィルターは機能不能になる。本発明に係る媒体(そのような媒体は、抗微生物活性成分を含む)を有するコーティングは、微生物コロニーの形成を防止または阻害しひいてはそのような換気フィルターの寿命を増大させることは明らかである。
【0056】
本発明に係る媒体は、また、可食性物質に添加するためにも使用することが可能である。好ましくは、媒体は、唾液の存在に起因して、口内に豊富に存在するアミラーゼにより分解可能である。そのような媒体は、歯科用途に有用な活性成分、たとえば、フッ化物組成物および/または抗齲蝕化合物を含有することができる。そのような化合物の例は、フッ化ナトリウムまたはフッ化物錯化剤である。
【0057】
本発明の他の好ましい実施形態では、そのような媒体は、食品中またはデンタルケア配合物中に通常存在するような風味化合物を含むことができる。食料で使用した場合、本発明に係る媒体の適用により、新しい味覚が提供されることができる。この場合、媒体が唾液中のアミラーゼに接触した時にのみ風味化合物が放出される。したがって、そのように媒体を使用すれば、口内での食料の味の変化を遅くすることが可能である。
【0058】
本発明の他の好ましい実施形態では、そのような媒体は、鉄または苦味を呈する薬剤もしくは栄養医薬などの活性成分を含むことができる。食料で使用した場合、本発明に係る媒体の適用により、望ましくない風味はマスキングされる。そのように媒体を使用すれば、口内では活性成分の放出は起こらないが、胃内の低pHにより、または胃内もしくは小腸内もしくは大腸内のアミラーゼ以外の酵素により、放出を誘発することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
pH7.86におけるMg−Al−CO層状複水酸化物(LDH)の合成
合成方法は、Appl.Catal.,A2005,287(2),183−190に、Cantrellらにより記載された合成方法が適用される。化学物質は、入手したままの状態で使用した。Mg(NO・6HO、Al(NO・9HO、(NHCO、およびNHOHは、Fluka、Acros、およびJ.T.Bakerから入手した。合成では、Mg対Alのモル比を2:1に仮定した。
【0060】
実施例1
65℃におけるMgAl LDH(MgAl(OH)(CO)0.5の合成
201.71gの脱塩水中の51.45gのMg(NO・6HOおよび37.56gのA1(NO・9HOの溶液を、200.37gの脱塩水中の38.7gの(NHCOと同時に、200mlの脱塩水に、65℃で、撹拌しながら、1時間で滴下して添加した。pHスタットを用いて、35% NHOH溶液により、pHを7.86で一定に保持した。添加後、撹拌しながら、溶液を65℃でさらに3時間保持した。それに続いて、溶液を濾過してpH7になるまで洗浄し、そして、118℃で18時間乾燥させた。
【0061】
実施例2
55℃におけるMgAl LDH(MgAl(OH)(CO)0.5の合成
500gの脱塩水中の128.28gのMg(NO・6HOおよび94gのA1(NO・9HOの150mlの溶液を、500gの脱塩水中の96.20gの(NHCOの150mlの溶液と同時に、75mlの脱塩水に、55℃で、撹拌しながら、1時間で滴下して添加した。pHスタットを用いて、35% NHOH溶液により、pHを7.86で一定に保持した。添加後、撹拌しながら、溶液を65℃でさらに3時間保持した。それに続いて、溶液を濾過してpH7になるまで洗浄し、そして、118℃で18時間乾燥させた。
【0062】
実施例3
ゲルの合成
1LのHO中に、14gのNaOHおよび200gのデンプン、グルコースユニットの30%は第一級ヒドロキシル基が酸化されている、を溶解させた。それに続いて、0.65gのNaBHを添加し、その後、混合物を5分間攪拌した。次に、50mlのグリセロールジグリシジルエーテル架橋剤(Sigma/Aldrichから入手した)を撹拌しながら添加した。30分間撹拌した後、わずかに粘性の溶液を、40℃で一晩置いた。これにより、大きいガスバブルを含有する堅固な(硬質脆性の)薄黄色ゲルを得た。ゲルを押圧して篩(1mm)に通し、そして、2LのHO中に4回懸濁させ、そして、5Lのエタノールで沈澱させた。その後、ゲルをエタノールで3回、アセトンで3回洗浄し、次に、空気に晒して乾燥させた。これにより、HO中の自由膨潤度が15.2g/gである248.3gの乾燥粉末を得た。
【0063】
実施例4
ゲルの合成
1LのHO中に、14gのNaOHおよび200gのPaselli SA2(Avebeから入手したデンプン製品)を溶解させた。それに続いて、0.5gのNaBHを添加し、その後、混合物を5分間攪拌した。次に、50mlのグリセロールジグリシジルエーテルを撹拌しながら添加した。30分間撹拌した後、ほとんど粘性のない溶液を、40℃で一晩置いた。これにより、大きいガスバブルを含有する堅固な(脆性の)褐色ゲルを得た。ゲルを押圧して篩(1mm)に通し、その後、黄色塊を2LのHO中に4回懸濁させ、そして、5Lのエタノールで沈澱させた。その後、ゲルをエタノールで3回、アセトンで3回洗浄し、次に、空気に晒して乾燥させた。これにより、HO中の自由膨潤度が7.74g/gである233.9gの乾燥粉末を得た。
【0064】
実施例5
MgAl LDHを有するゲルの合成
200mlのHO中の12gの実施例3の乾燥粉末のサスペンジョンを、65℃に昇温して保持した。撹拌しながら、200.02gのHO中の51.42gのMg(NO・6HOおよび37.55gのA1(NO・9HOの溶液ならびに200.16gのHO中の38.21gの(NHCOの溶液を、0.75時間かけて、ほぼ等しい速度で滴下して添加した。35%のアンモニアでpHを7.6〜8に保持するように試みた。粘性ゲルが得られた。3.4Lの量のHO中にゲルを懸濁させた。水中のゲルの体積は、徐々にわずかに減少した(30分後に3.1L、1時間後に2.5L、1時間半後に2.3L)。それに続いて、1LのHOをデカントにより除去した。次に、体積をHOで7Lに増大させた。15分後、2LのHOをデカントにより除去した。HOの補充と、それに続く撹拌および静止の後、15分後、3LのHOをデカントした。それに続いて、HOを補充して体積を7Lにし、30分後、3.5Lをデカントした。再度、HOを補充して体積を7Lにし、45分後、4Lをデカントした。次に、HOを補充して体積を5Lにし、そして、アセトンで7Lの全体積にした。15分後、デカントにより2Lを除去し、その後、アセトンを補充して体積を7Lにした。−20℃のアセトン/氷浴中に20分間入れた後、2Lをデカントし、その後、アセトンを補充して体積を7Lにした。1Lをデカントしてからアセトンを補充して7Lにする処理を2回行った後、サスペンジョンを一晩保持した。次に、5Lをデカントし、その後、アセトンを補充して体積を7Lにした。30分後、3.4Lをデカントした。次に、沈殿をガラスフィルター(細孔サイズ3)上に単離し、そして、アセトンで5回洗浄し、そして暖気中で乾燥させた。これにより、31.96gの粉末を取得し、これを、窒素下、110℃のストーブ内で、さらに乾燥させた。これにより、水中の自由膨潤度が5.50g/gである28.75gの粉末を得た。
【0065】
実施例6
MgAl LDHを有するゲルの合成
16gの実施例4の乾燥粉末を使用した以外は、実施例5のときと同様とした。65℃で3時間撹拌した後、反応混合物は、わずかに粘性であった。室温に冷却した後、HOを補充して反応混合物を5Lにした。1時間後、4.2LのHOをデカントにより除去した。HOを補充して体積を5Lにし、その後、4.2Lをデカントした。補充して5Lにした後、サスペンジョンを室温で一晩保持した。次に、4.2Lをデカントし、そして、HOを補充して体積を5Lにした。次に、4.2Lをデカントし、その後、アセトンを補充して体積を5Lにした。デカント後、沈殿をアセトンで4回洗浄し、そして、暖気中で乾燥させた。これにより、37.55gの粉末を得た。これを、110℃のストーブ内で、33.96gまでさらに乾燥させた。
【0066】
実施例7
インジゴカルミンによるMgAl LDHの交換
0.18gの実施例1のMgAl LDHを、25gのHOに、撹拌しながら添加した。次に、6mlの4M HClを、撹拌しながら滴下した。得られた透明溶液に、4mlの35% NHOHおよび4mlの1%インジゴカルミン溶液を、撹拌しながら、同時に滴下した。得られた白色ディスパージョンを、濾過して、洗浄し、その後、それを、凍結乾燥させた。
【0067】
実施例8
インジゴカルミンによるMgAl LDHを有するゲルの交換
1gの実施例5の粉末を、200gのHOに、撹拌しながら添加した。次に、6mlの4M HClを滴下した。得られた透明溶液に、2mlの35% NHOHおよび2mlの1%インジゴカルミン溶液を、撹拌しながら、同時に滴下した。得られた白色ディスパージョンを、濾過して、洗浄し、その後、それを、凍結乾燥させた。
【0068】
実施例9
インジゴカルミンによるMgAl LDHを有するゲルの交換
0.53gの実施例6の粉末を、100gのHOに、撹拌しながら添加した。次に、6mlの4M HClを滴下した。得られた透明溶液に、2mlの35% NHOHおよび1mlの1%インジゴカルミン溶液を、撹拌しながら、同時に滴下した。得られた白色ディスパージョンを、濾過して、洗浄し、その後、それを、凍結乾燥させた。
【0069】
実施例10
インジゴカルミンによるMgAl LDHの交換
0.53gの実施例1のMgAl LDHを、20gのHOに、撹拌しながら添加した。次に、撹拌しながら、6mlの4M HClおよび2mlの1%インジゴカルミン溶液を添加した。混合物を真空下に置き、次に、窒素雰囲気中で保持した。得られた透明溶液に、2mlの35% NHOHを、撹拌しながら滴下した。1時間撹拌した後、得られた白色ディスパージョンを、濾過し、そして、洗浄し、そして、60℃で乾燥させた。
【0070】
熱重量分析を用いて実施例を評価した。その結果を表1に示す。実施例5および6のTGA曲線は、実施例1および2の純粋なLDHでは欠如している300℃近傍(291.29℃および327.80℃)ならびに524℃での発熱ピークを明瞭に示す。これらのピークは、デンプンに由来する。デンプン/LDH比は、実施例5では、1:1(w/w)であり、実施例6では、1:1.7(w/w)である。
【0071】
【表1】

【0072】
参考例
粒子サイズおよびマトリックス中への吸収
12gの実施例3の乾燥粉末および5gの実施例1または2の無機粒子のサスペンジョンに、水の取込み量が最大になるまで、HOを添加した。TEMの結果から、粒子は、大きすぎてゲルマトリックスに浸透できないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
TEM(透過型電子顕微鏡観察)法を用いて、実施例5および6の材料の粒子サイズを推定した。得られた画像から、ゲルマトリックス中の無機粒子の粒子サイズは、30nm未満であると結論付けられた。実施例1および2から得られた無機粒子の粒子サイズは、200nmを大きく上回った。また、ゲルマトリックス中に分散された実施例5および6の無機粒子は、実施例1および2の粒子と比較した場合、より均一であると結論付けることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物ポリマー、タンパク質ポリマー、およびそれらの混合物よりなる群から選択される架橋型バイオポリマーを含むゲルと、無機担体と、該無機担体に結合された少なくとも1つの活性成分より構成され、該活性成分の放出が、媒体が外的刺激に接触することにより誘発される、活性成分放出用のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項2】
最初に、前記ゲルを準備し、次に、前記ゲル中に前記無機担体を導入することにより得られる、請求項1に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項3】
前記無機担体が、スメクタイト、層状複水酸化物、Ag、Au、Fe、MgCl、AlCl、ZnCl、SiO、TiO、ZnO、およびMgOよりなる群から選択される無機粒子である、請求項1または2に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項4】
前記無機担体が、前記ゲル中で、前記無機担体をin situで形成する成分の形態で、前記ゲル中に導入される、請求項2に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項5】
前記無機担体が、層状複水酸化物である、請求項4に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項6】
前記無機粒子の平均粒子サイズが、透過型電子顕微鏡観察により測定した場合、2−200nm、5−50nm、又は10−30nmである、前記請求項1から5のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項7】
前記無機粒子のアスペクト比が、1−500の範囲内である、前記請求項1から6のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項8】
前記ポリマーが、デンプン、セルロース、ペクチン、ゼラチン、ガム、ならびにそれらの誘導体および/または混合物よりなる群から選択されるバイオポリマーである、前記請求項1から7のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項9】
前記無機担体が、抗微生物性を有する、前記請求項1から8のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項10】
前記少なくとも1つの活性成分が、中性および/または疎水性である、前記請求項1から9のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項11】
前記外的刺激が、前記ポリマーを分解できる酵素である、請求項1から10のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項12】
前記少なくとも1つの活性成分の放出が、pH変化により生じる静電相互作用により誘発される、前記請求項1から11のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項13】
前記無機担体への前記少なくとも1つの活性成分の結合が、静電相互作用、水素結合、金属−配位子相互作用、および吸着よりなる群から選択される1つ以上を含む、前記請求項1から12のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項14】
前記少なくとも1つの活性成分が、抗座瘡剤、脱臭剤、殺菌類剤、悪臭防止成分、抗微生物化合物、細胞静止剤、風味剤、薬剤、園芸用栄養剤、難燃剤、食品添加剤、ペプチドよりなる群から選択されるものである、前期請求項1から13のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体。
【請求項15】
前記請求項のいずれかのハイブリッド型誘導放出性媒体を作製する方法であって、
−前記ポリマーおよび架橋剤との混合物を準備すること、
−前記ポリマーを架橋することによりゲルを形成すること、
−前記無機担体を添加すること、
−前記少なくとも1つの活性成分を添加すること、
より構成され、該ゲルが形成された後、前記無機担体が添加される、前記媒体の作製方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの活性成分が、抽出により前記ゲルに充填される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から14のいずれかのハイブリッド型誘導放出性媒体の用途であって、苦味を呈する医薬や栄養医薬の異風味を呈する化合物のマスキング用媒体。
【請求項18】
請求項1から14のいずれかのハイブリッド型誘導放出性媒体の用途であって、口内での食料の味の変化を供与するための媒体。
【請求項19】
請求項1から14のいずれかのハイブリッド型誘導放出性媒体の用途であって、フッ化物組成物および/または抗齲蝕化合物の歯保護化合物を口内で放出するための可食性組成物用媒体。
【請求項20】
請求項1から14のいずれか1項に記載のハイブリッド型誘導放出性媒体を含む、食料。

【公表番号】特表2010−538641(P2010−538641A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524801(P2010−524801)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050603
【国際公開番号】WO2009/035331
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(509232980)
【氏名又は名称原語表記】NEDERLANDSE ORGANISATIE VOOR TOEGEPAST−NATUURWETENSCHAPPELIJK ONDERZOEK TNO
【住所又は居所原語表記】Schoemakerstraat 97 NL−2628 VK Delft The Netherlands
【Fターム(参考)】