説明

ハイブリッド溶接用シールドガスおよび該ガスを用いたハイブリッド溶接方法

【課題】レーザ溶接とアーク溶接とを併用して亜鉛めっき鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、溶接部にピットの発生が無く、溶接金属の溶け落ち、穴開きなどが防止できるハイブリッド溶接用のシールドガスを得る。
【解決手段】シールドガスとしてアルゴンガス、炭酸ガス、酸素ガスからなる混合ガスを用い、シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスの混合割合を、鋼板間のギャップがゼロである場合、
15≦A≦50、かつ5≦B≦9、かつ B≧21―0.8A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき鋼板のハイブリッド溶接方法に関し、特に重ね溶接時にビード表面に発生する表面欠陥(ピット)及び溶け落ちを低減するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき鋼板は、亜鉛を主とした防錆処理を施した鋼板であり、耐食性に優れているため自動車産業で自動車ボデーの部材として広く使用されており、抵抗溶接を用いた重ね溶接が接合方法として用いられている。
抵抗溶接は被溶接材の接合部に電流を流し、主にその抵抗発熱により接合部の温度を上げ、加圧することにより接合する溶接方法である。
しかしながら、抵抗溶接では接合部を加圧する必要があるため、片面溶接には適していない。
【0003】
一方、片面溶接が可能な溶接方法としてレーザ溶接がある。レーザ溶接では溶接速度の向上及び溶接変形の低減(低入熱)が可能であるが、亜鉛めっき鋼板は母材の融点(1535℃)に比べ鋼板表面の亜鉛の沸点が低い(906℃)ため、溶接時に鋼板重ね部のめっき層が蒸発して亜鉛蒸気が発生し、凝固過程で溶融金属から放出されず、ブローホールまたはピット(ビード表面に開口したブローホール)等の溶接欠陥として溶融金属に残留する。
【0004】
特に、亜鉛めっき鋼板同士が密着した状態で溶接した場合は、亜鉛蒸気の逃げ場がビード表面と裏面のみとなるため、溶融金属から噴出した亜鉛蒸気により溶融金属が吹き飛ばされ、ビード形状並びに継手強度が劣化する。
したがって、亜鉛めっき鋼板のレーザ溶接を安定して行うには、鋼板間に意図的な隙間を設ける必要があるが、一定の隙間を設けることは生産性やコスト面で実用的でない。さらに、隙間が開きすぎた場合には溶け落ちを生じ、鋼板同士がつながらなくなる恐れもある。
【0005】
これらの不具合を解決する方法として、例えば特開2002−160082号公報で開示されているように、アーク溶接とレーザ溶接を複合したハイブリッド溶接を適用することが知られている。
この従来のハイブリッド溶接法では、亜鉛めっき鋼板の重ね溶接において、鋼板の隙間がゼロでもブローホールの発生をできるだけ防止し、良好なビードが得られるというものである。この時に用いるシールドガスは、アルゴンガスガス等の不活性ガスを用いることが望ましく、アルゴンガスガス中に炭酸ガスを10〜100%範囲で混合させたガス及びアルゴンガスガス中に水素或いはヘリウムガスを2〜20%範囲で混合されたガスを用いることもできるとされている。
【0006】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用するハイブリッド溶接において、溶接時に溶融池を遮蔽するシールドガスとしては、主にアーク溶接用のシールドガスが用いられており、一般に炭酸ガス又は酸素ガスを含む不活性ガス(アルゴンガス、ヘリウム)が用いられることが多い。
亜鉛めっき鋼板の溶接品質をあげる溶接方法として、レーザ溶接では炭酸ガスを不活性ガスに15〜25%混合したシールドガス(特開平6−328279号公報)、または不活性ガスに炭酸ガスを容積比で80〜95%混合したシールドガスを用いる(特開2001−138085号公報)溶接方法が提案されている。
【0007】
また、ハイブリッド溶接を行った際に発生するブローホール等の内部欠陥を防ぐ溶接方法として、アーク溶接用シールドガスがアルゴンガスガス10%以上80%以下、残部ヘリウムガスである金属部材の溶接方法が提案されている(特開2003−164983号公報)。
【特許文献1】特開2002−160082号公報
【特許文献2】特開平6−328279号公報
【特許文献3】特開2001−138085号公報
【特許文献4】特開2003−164983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者が上記特開2002−160082号公報で開示されている溶接方法に開示された亜鉛めっき鋼板の重ね溶接にハイブリッド溶接を確認したところ、単にハイブリッド溶接を亜鉛めっき鋼板の重ね溶接に適用しただけでは、隙間ゼロの場合ではブローホールだけでなく、ビード表面にピットが発生し良好な溶接が行えず、上記公報に好ましいと記載されている組成のシールドガスを適用しても改善されなかった。
【0009】
また、上記特開2003−164983号公報に開示されたシールドガスは、溶接欠陥発生の低減策として、アルゴンガスと高価なヘリウムを混合したガス用いるためコスト高となる。また、炭酸ガスや酸素ガスといったアークを安定化又は亜鉛蒸気の排出を促進する元素を含有していないため、亜鉛めっき鋼板のハイブリッド溶接ではアークの溶滴移行が不安定となり溶接不良が発生する。
【0010】
さらに、本発明者が、レーザ溶接で溶接品質をあげる上記特開平6−328279号公報に開示されたシールドガスをハイブリッド溶接で試験した結果では、単に炭酸ガスを15〜25%混合しただけでは、ビード形状が安定せず、ピットを満足できる程度まで低減できなかった。
特開2001−138085号公報に開示された炭酸ガスの容積比を80〜95%とした場合におていも、ピットを満足できる程度まで低減することができず、スパッタの発生も著しいため好ましくない結果となった。
【0011】
よって、本発明における課題は、亜鉛めっき鋼板重ねハイブリッド溶接のシールドガスとして適正な混合比のアルゴンガスガスと炭酸ガス、酸素ガスガスの混合ガスを使用することにより、安価かつ簡便な方法によりビード表面のピット発生及び溶け落ち等の溶接不良を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、
鋼板間のギャップがゼロである場合、
前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスの混合割合を、
15≦A≦50、5≦B≦9、かつ B≧21―0.8A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたことを特徴とするハイブリッド溶接用シールドガスである。
【0013】
請求項2にかかる発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、
鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが1以下で、鋼板の厚さが同じである場合、
前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスとの混合割合を、
15≦A≦50、3≦B≦9、かつB≧0.1A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたことを特徴とするハイブリッド溶接用シールドガスである。
【0014】
請求項3にかかる発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、
鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが1以下で、鋼板の厚さが異なる場合、
前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスとの混合割合を、
10≦A≦50、3≦B≦9、かつB≧0.1A、かつB≧15−0.6A、
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたことを特徴とするハイブリッド溶接用シールドガスである。
【0015】
請求項4にかかる発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接するハイブリッド溶接において、
鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが0である場合、請求項1記載のシールドガスを用い、
G/Tが1以下で、鋼板の厚さが同じである場合、請求項2記載のシールドガスを用い、
G/Tが1以下で、鋼板の厚さが異なる場合、請求項3記載のシールドガスを用いることを特徴とするハイブリッド溶接方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明者は、シールドガス中の炭酸ガス、酸素ガス、アルゴンガスの割合を重ね合わせる鋼板の厚さ、鋼板間のギャップとの関係で上記のように定めることで、ハイブリッド溶接を用いた亜鉛めっき鋼板の重ね溶接において、レーザ溶接と同等の溶接速度である1.5m/min以上の溶接速度において、ギャップゼロにおいてもピットの発生を抑制することができることを見出した。
【0017】
また、溶接する亜鉛めっき鋼板間にギャップが存在する場合でも、上記組成範囲のシールドガスを用い、亜鉛めっき鋼板間のギャップ(G)を溶接トーチ側にある亜鉛めっき鋼板の板厚(T)以下、つまりG/Tが1.0以下に調整することにより、溶接トーチ側の溶接金属の溶け落ちや穴開きが防止できるという効果が得られることがわかった。
【0018】
これは、例えば亜鉛めっき鋼板を3枚以上重ねた継手においても同様であり、一番上の板厚以下にギャップを制御することにより、上板側の溶接金属の溶け落ちや穴開きが防止できる。
高速溶接を行う場合にはシールド性が低下する恐れがあるが、別途進行方向に対し前方にシールドガスノズルを設けることにより、同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明のハイブリッド溶接方法に用いられる溶接装置の一例の要部を示すもので、図中符号1はレーザヘッドを示す。
このレーザヘッド1は、その内部に集光レンズなどの光学レンズ系が収められている。このレーザヘッド1には、光ファイバ2により図示しないYAGレーザ発振装置などのレーザ光源から導光された波長1.064μmのレーザ光が入力され、レーザ光がここで集光されてビーム状になって、被溶接部材3の溶接部位に照射されるようになっている。
【0020】
また、符号4はアークトーチを示す。このアークトーチ4には、図示しないワイヤ供給装置から軟鋼用ソリッドタイプのワイヤ5が送給され、このワイヤ5の先端部がアークトーチ4の先端部材6から溶接部位に向けて突出し、溶接チップとして機能するようになっている。
さらに、先端部材6には、ワイヤ5の外周側からシールドガスが噴出する噴射口が形成されており、シールドガス供給源(図示略)からパイプ7を通り、アークトーチ4のシールドガス流入口8の供給されたシールドガスが上記先端部材6の噴射口から溶接部位にめがけて噴射されるようになっている。
【0021】
また、ワイヤ5は、ワイヤ供給装置を介して図示しない溶接電源に接続されており、これによってワイヤ5の先端部から溶接部位に向けてアークが飛ぶようになっている。さらに、図1中の矢印は、溶接進行方向を示している。
【0022】
さらに、図中符号9はアシストガスノズルを示す。このアシストガスノズル9は、溶接進行方向側に配置されて、パイプ10を経てアシストガス供給源(図示略)に接続されており、これによりアシストガスがその先端から被溶接部材3の溶接部位に向けて噴射されるようになっている。
【0023】
また、図1に示すように、アークトーチ4の中心軸、レーザ光の光軸およびアシストガスノズル9の中心軸は、いずれも鉛直線に対して傾斜しており、アークトーチ4の傾斜方向とレーザ光軸およびアシストガスノズル9の傾斜方向は、互いに相対するように配置されている。
【0024】
次に、このような溶接装置を用い、被溶接部材3として亜鉛めっき鋼板を重ね溶接形式でハイブリッド溶接する方法について説明する。
ここで溶接対象となる亜鉛めっき鋼板は、冷間圧延鋼板を母材とし、これの片面または両面に電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっきを施してなるもので、亜鉛目付量が10〜60g/mの範囲であるものである。亜鉛中のイオウ含量が0.02wt%以下であることが好ましい。
また、被溶接部材3のうち、少なくとも1枚が亜鉛めっき鋼板であればよく、それ以外の鋼板としては亜鉛めっき鋼板でもその他の鋼板、例えば冷間圧延鋼板などであってもよい。
【0025】
また、亜鉛めっき鋼板の厚さは、0.6〜2.3mmとされるがこの範囲に限定されるものではない。重ね形式としては、2枚以上の亜鉛めっき鋼板を鋼板間にギャップを設けなくあるいは設けて重ね合わせる形態とする。ギャップを設けて重ね合わせる形態では、そのギャップGmmを、溶接トーチ側に位置する亜鉛めっき鋼板の板厚Tmm以下となるように、すなわちG/Tが1以下となるようにすることが好ましい。
【0026】
レーザヘッド1から波長1.064μm、出力1〜20kWのレーザ光を出射し、レーザビームを被溶接部材3の溶接部位に照射する。なお、その他のレーザ光として、YAG(Yb)レーザ、波長1.03μm、炭酸ガスレーザ、波長10.6μm、半導体レーザ、波長0.8μm、0.95μmが使用できる。
【0027】
また、アークトーチ4のワイヤ5に直流電流を印加し、ワイヤ5の先端部からアークを溶接部位に向けて飛ばす。これと同時にアークトーチ4の先端部材6の噴射口から溶接部位にめがけてシールドガスを噴射する。ワイヤ5には、軟鋼用のソリッドタイプが用いられ、母材の溶け落ちを防止するため、径0.8〜1mmのワイヤが好ましい。
【0028】
このシールドガスは、その組成がアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスからなり、炭酸ガスと酸素ガスの混合割合を、炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、亜鉛めっき鋼板と鋼板との間のギャップGが0mmである場合、すなわち、少なくとも2枚の鋼板を密着させた場合には、
15≦A≦50、かつ5.0≦B≦9.0、かつB≧21−0.8A
の範囲に調整したものである。
この混合割合の範囲内であると、ピットの発生を抑えることができ溶接トーチ側の溶接金属の溶け落ちや穴開きが防止できる。
【0029】
本発明のシールドガスにおける炭酸ガスと酸素ガスとの混合比は、後述する実験例に示すように、実際に溶接作業を実施し、溶接作業性、溶接部での欠陥発生状況等を評価することで求められたものである。
また、このシールドガスの噴射流量は、通常10〜30リットル/分程度とされる。
【0030】
また、本発明の溶接方法では、溶接速度が200cm/分以上の高速とする場合には、アシストガスノズル9からアシストガスを溶接部位に向けて流すことが好ましい。このアシストガスとしては、シールドガスと同じ組成のガスが用いられ、その流量は10〜40リットル/分程度とされる。
【0031】
すなわち、溶接速度が高速となると、シールドガスによる溶融池のシールドが乱され、シールド性が低下する可能性が生じるが、このアシストガスを流すことにより、このシールド性の低下を防ぐことができ、高速溶接においても良好な溶接を行うことができる。
【0032】
また、本発明では、溶接時の亜鉛めっき鋼板間にギャップを配し、そのギャップGmmと溶接トーチ側に配される鋼板の厚さTmmとの比G/Tが1以下である場合には、シールドガスの組成を若干変えてハイブリッド溶接することができる。
すなわち、鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが1以下で、鋼板の厚さが同じである場合、前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスとの混合割合を、
15≦A≦50、3≦B≦9、かつB≧0.1A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたシールドガスを用いることで同様にピットの発生を抑制することができ、溶接トーチ側の溶接金属の溶け落ちや穴開きが防止できる。
【0033】
また、G/Tが1以下で、鋼板の厚さが異なる場合には、炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスとの混合割合を、
10≦A≦50、3≦B≦9、かつB≧0.1A、かつB≧15−0.6A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたハイブリッド溶接用シールドガスを用いることで、同様にピットの発生を抑制することができ、溶接トーチ側の溶接金属の溶け落ちや穴開きが防止できる。
【0034】
以下、具体例を示す。
シールドガスを用いたハイブリッド溶接を、図1に示した溶接装置を用いて実施した。
溶接は、鋼板を重ね合わせた重ね継ぎ手にて、次の条件で行った。シールドガスはアークトーチより供給した。被溶接材料には、厚さ0.7mm、0.8mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板(亜鉛目付量45g/m)、厚さ1.0mmの冷間圧延鋼板を用いた。シールドガスには、アルゴンガスと酸素ガスと炭酸ガスの3成分混合ガスを用い、これら3成分を種々の割合で混合し、多数の組成の異なるシールドガスとした。また、ギャップの無い場合、ギャップのある場合についても検討した。
【0035】
溶接部のピット発生数から、混合比の最適範囲を実験的に求めた。
以下の溶接条件でハイブリッド溶接し、溶接時に生じたピット発生数から、望ましい範囲と望ましくない範囲を求めた。
良否の基準は、ビード表面の溶接長100mm当たりのピット数が0となるガス組成を良とし、同じくピット数が1個以上となるガス組成を不良として、その領域を求めた。
【0036】
(実験例1 ギャップが無い場合で、亜鉛めっき鋼板の厚さが同じ場合)
溶接条件は、以下の通りである。
母材板厚:0.7mm(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)(上板、下板ともに) 溶接速度:1.5 m/min
溶接長:100mm
ギャップ:0mm
チップ母材間距離:15mm
溶接ワイヤ:φ0.9mm ソリッドワイヤ
レーザ出力:2.0kW
溶接電流:100A
電圧範囲:17.0〜23.0V
レーザ・アーク間距離:2.0mm
シールドガス流量:20L/min
【0037】
溶接を100mm行い、溶接長100mm当たりのピット数を調査した。その結果を表1に示し、この結果から良好な溶接が可能な酸素ガス、炭酸ガスの濃度領域を図2に示した。図2において、実線で囲まれた領域が好ましい濃度範囲を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(実験例2 ギャップがある場合で、亜鉛めっき鋼板の厚さが同じ場合)
ギャップGが0.7mm(G/T=1)及び1.0mm(G/Tが1を越える)場合について、ビード全長において溶接不良(スタート不良や上板の溶け落ち、穴開き)が発生する範囲(×で表記)と、発生しない範囲(好ましい範囲:○で表記)を調べた。
その結果を表2(ギャップ0.7mm)、表3(ギャップ1.0mm)に示す。表3の結果から、ギャップを1.0mmにすると、あらゆる範囲で良好な溶接することができなかった。
【0040】
母材板厚:0.7mm(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)(上板、下板ともに)
溶接速度:2.0 m/min
板間ギャップ:0.7、1.0 mm
溶接長:100mm
チップ母材間距離:15mm
溶接ワイヤ:φ0.9mm ソリッドワイヤ
レーザ出力:2.0kW
溶接電流:100A
電圧範囲:19.0〜22.0V
レーザ・アーク間距離:2.0mm
シールドガス流量:20 L/min
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表2に示したギャップ0.7mm(G/T=1)の場合に、良好な溶接が可能なシールドガスの組成比を図表とし、図3に示す。図3の領域内の組成のシールドガスを用いると良好な結果が得られることになる。
【0044】
(実験例3 ギャップがある場合で、鋼板の厚さが異なる場合)
板厚0.8mmの亜鉛めっき鋼板と板厚1.0mmの冷延鋼板(SPCC)を重ね合せ、亜鉛めっき鋼板を上板として、ギャップ0.8mm(上板の板厚相当)及び1.0mm(上板の板厚を超える)の重ね溶接を行った。溶接不良(スタート不良や上板の溶け落ち、穴開き)が発生する範囲(×で表記)と、発生しない範囲(好ましい範囲:○で表記)をビード全長にて調べた。
その結果を表4(ギャップ0.8mm)、表5(ギャップ1.0mm)に示す。表5の結果から、ギャップ1.0mmとすると全ての範囲で良好な溶接を行うことができなかった。
【0045】
母材板厚:0.8mm(合金化溶融亜鉛めっき鋼板) 上板
1.0mm(冷延鋼板(SPCC)) 下板
溶接速度:1.5m/min
板間ギャップ:0.8、1.0 mm
溶接長:100mm
チップ母材間距離:15mm
溶接ワイヤ:φ0.9mm ソリッドワイヤ
レーザ出力:2.0kW
溶接電流:100A
電圧範囲:20.0〜22.0V
レーザ・アーク間距離:2.0mm
シールドガス流量:20 L/min
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表4に示したギャップ0.8mm(G/T=1)の場合に、良好な溶接が可能なシールドガスの組成比を図表とし、図4に示す。図4の領域内の組成のシールドガスを用いると良好な結果が得られることになる。
【0049】
(比較実験例1)
ギャップなし及びギャップ形成時(50、100、300μm)の亜鉛めっき鋼板重ね溶接において、レーザ溶接のみとした場合のピット発生状況及びアンダフィル、上板の溶け落ち(下板と未接合)状況を溶接長100mm当たりにおいて調べた。
その結果を表6に示した。
【0050】
母材板厚:0.7mm(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)(上板、下板ともに)
溶接速度:1.5 m/min
溶接長:100mm
板間ギャップ:0、 50μm、 100μm、 300μm
レーザ出力:2.0kW
シールドガス:アルゴンガス
シールドガス流量:20 L/min
【0051】
【表6】

【0052】
表6において、アンダフィルとは、溶接ビードが下に凸となった状態である。
【0053】
ハイブリッド溶接において、亜鉛めっき鋼板重ね溶接の際のピットや溶接不良を低減するためには、レーザ出力を大きくし、貫通溶接することにより亜鉛蒸気の排出をビード表面又は裏面から積極的に行うことや、板間に隙間を設けること等が手段として考えられる。
【0054】
しかしながら、レーザ出力を大きくすることは設備コストを増大させるという不具合がある。また、比較実験例に示すように、板間にギャップを設けることによりピット発生を無くすことができるものの、ギャップの管理が難しく生産性やコスト面で実用的でない。
【0055】
以下に、本発明のシールドガス組成限定の理由について述べる。
酸素ガスガスは、鋼板重ね部のめっき層が蒸発して発生する亜鉛蒸気の除去に影響する。これは、シールドガス中に酸素ガスガスを添加することにより、溶融金属の表面張力が低下し亜鉛蒸気が溶融金属から適切に排出、又はシールドガス中の酸素ガスガスにより酸化し酸化物として溶融金属中に閉じ込められる効果が得られる。
【0056】
本発明では、ギャップゼロの場合にビード表面に発生するピットがゼロであり、かつギャップが発生した場合にスティッキングや上板の溶け落ち、穴開き等が無いという条件で種々の検討を行った結果、添加する酸素ガスガスの最低濃度を5.0体積%以上になるものと思われる。一方、酸素ガスを添加することにより溶融金属の表面張力が低下するため、必要以上の酸素ガスガスを添加するとスパッタが発生する。ハイブリッド溶接では、熱源としてレーザを使用しているため、照射エネルギの減少に繋がる保護ガラス等へのスパッタ付着は好ましくなく、上限濃度を10体積%以下になるものと思われる。
【0057】
炭酸ガスは、アークを緊縮し安定させるため一定量必要であるが、一方で酸素ガスと同様に添加しすぎるとスパッタの発生が著しくなり、アーク力が強くなることからギャップが発生した場合には穴開きを生じる。よって、濃度範囲を15体積%以上50体積%以下になるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のハイブリッド溶接に用いられる溶接装置の要部を示す概略構成図である。
【図2】本発明での実験例の結果を表した図表である。
【図3】本発明での実験例の結果を表した図表である。
【図4】本発明での実験例の結果を表した図表である。
【符号の説明】
【0059】
1・・レーザヘッド、3・・被溶接部材、4・・アークトーチ、5・・ワイヤ、6・・先端部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、
鋼板間のギャップがゼロである場合、
前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスの混合割合を、
15≦A≦50、5≦B≦9、かつ B≧21―0.8A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたことを特徴とするハイブリッド溶接用シールドガス。
【請求項2】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、
鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが1以下で、鋼板の厚さが同じである場合、
前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスとの混合割合を、
15≦A≦50、3≦B≦9、かつB≧0.1A
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたことを特徴とするハイブリッド溶接用シールドガス。
【請求項3】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接する際に使用するシールドガスにおいて、
鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが1以下で、鋼板の厚さが異なる場合、
前記シールドガス中の炭酸ガスの体積%をA、酸素ガスの体積%をBとしたとき、炭酸ガスと酸素ガスとの混合割合を、
10≦A≦50、3≦B≦9、かつB≧0.1A、かつB≧15−0.6A、
の範囲に調整し、残部をアルゴンガスとしたことを特徴とするハイブリッド溶接用シールドガス。
【請求項4】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用し、被溶接鋼板の少なくとも一方が亜鉛めっき鋼板である鋼板を重ね溶接するハイブリッド溶接において、
鋼板間のギャップをGとし、溶接トーチ側に位置する鋼板の厚さをTとし、G/Tが0である場合、請求項1記載のシールドガスを用い、
G/Tが1以下で、鋼板の厚さが同じである場合、請求項2記載のシールドガスを用い、
G/Tが1以下で、鋼板の厚さが異なる場合、請求項3記載のシールドガスを用いることを特徴とするハイブリッド溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−216274(P2007−216274A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41091(P2006−41091)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】