説明

ハイブリッド自動車の制御装置、ハイブリッド自動車およびハイブリッド自動車の制御方法、並びにプログラム

【課題】電動機によりエンジンを始動させる際のトルクおよび燃料噴射量を現状に合わせて最適な値として無駄な燃料の消費を無くすこと。
【解決手段】エンジン10と電動機13とを有し、エンジン10もしくは電動機13により走行可能であり、またはエンジン10と電動機13とが協働して走行可能であり、電動機13によりエンジン10を始動させるハイブリッド自動車1のハイブリッドECU18において、エンジン10の始動に際し、エンジン10の冷却水温に応じて電動機13の始動トルクおよびエンジン10の燃料噴射量を可変的に設定する始動制御部を有し、始動制御部は、冷却水温が所定の温度以上であるときには、エンジン10が所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車の制御装置、ハイブリッド自動車およびハイブリッド自動車の制御方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車は、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能である。また、ハイブリッド自動車は、エンジンを始動させるためのスタータを別途備えることなく、走行に用いる電動機によりエンジンを始動させることができる(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-309982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ハイブリッド自動車のエンジンを電動機により始動させる際には、エンジンの始動が最も困難な状況を想定し、エンジンの始動トルクおよび燃料噴射量を設定している。たとえば、ハイブリッド自動車を、厳寒時に、長時間駐車した状態であってもエンジンが始動可能なトルクおよび燃料噴射量を設定している。
【0005】
一方、ハイブリッド自動車では、燃費を向上させるために、信号待ちなどの一時停止時には、エンジンを停止させるアイドルストップを行う場合がある。このようなアイドルストップからのエンジンの再始動では、エンジンは暖機されている状態であり、比較的小さな始動トルクおよび燃料噴射量で再始動可能である。従来は、このような状況下においても、上述したように、エンジンの始動が最も困難な状況を想定した始動トルクおよび燃料噴射量で、エンジンを始動させている。これによれば、エンジンの始動に過大なトルクを発生させ、無駄な燃料を消費させることになる。
【0006】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、電動機によりエンジンを始動させる際のトルクおよび燃料噴射量を最適な値として無駄な燃料の消費を無くすことができるハイブリッド自動車の制御装置、ハイブリッド自動車およびハイブリッド自動車の制御方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点は、ハイブリッド自動車の制御装置としての観点である。本発明のハイブリッド自動車の制御装置は、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機により走行可能であり、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能であり、電動機によりエンジンを始動させるハイブリッド自動車の制御装置において、エンジンの始動に際し、エンジンに係る温度情報に応じて電動機の始動トルクおよびエンジンの燃料噴射量を可変的に設定する制御手段を有し、制御手段は、温度情報が所定の温度以上を示すときには、エンジンが所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御するものである。
【0008】
さらに、制御手段は、アクセル開度が0%を超えているときには、エンジンの始動工程の開始と共に燃料噴射が開始できるように制御することができる。
【0009】
本発明のさらに他の観点は、本発明の制御装置を有することを特徴とするハイブリッド自動車である。
【0010】
本発明のさらに他の観点は、ハイブリッド自動車の制御方法としての観点である。本発明のハイブリッド自動車の制御方法は、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機により走行可能であり、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能であり、電動機によりエンジンを始動させるハイブリッド自動車の制御方法において、エンジンの始動に際し、エンジンに係る温度情報に応じて電動機の始動トルクおよびエンジンの燃料噴射量を可変的に設定する制御ステップを有し、制御ステップの処理は、温度情報が所定の温度以上を示すときには、エンジンが所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御するステップを有するものである。
【0011】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、コンピュータ装置に、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機により走行可能であり、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能であり、電動機によりエンジンを始動させるハイブリッド自動車の制御機能を実現させるプログラムにおいて、エンジンの始動に際し、エンジンに係る温度情報に応じて電動機の始動トルクおよびエンジンの燃料噴射量を可変的に設定する制御機能を実現させ、制御機能として、温度情報が所定の温度以上を示すときには、エンジンが所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御する機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動機によりエンジンを始動させる際のトルクおよび燃料噴射量を最適な値として無駄な燃料の消費を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態のハイブリッド自動車の構成の例を示すブロック図である。
【図2】図1のハイブリッドECUにおいて実現される機能の構成の例を示すブロック図である。
【図3】図2の始動制御部の処理を示すフローチャートである。
【図4】図2の始動時トルクマップおよび始動時燃料噴射量マップの例を示す図である。
【図5】従来の始動時トルクマップおよび始動時燃料噴射量マップの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態のハイブリッド自動車について、図1〜図5を参照しながら説明する。
【0015】
(概要について)
図1は、ハイブリッド自動車1の構成の例を示すブロック図である。ハイブリッド自動車1は、車両の一例である。ハイブリッド自動車1は、半自動トランスミッションの変速機を介したエンジン(内燃機関)10および/または電動機13によって駆動される。ハイブリッド自動車1は、冷却水温に応じて電動機13がエンジン10を始動させる際の始動トルクおよび燃料噴射量を設定することができる。ただし、アクセル開度が0%で無い場合には、従来どおりのエンジンの始動が最も困難な状況を想定した始動トルクおよび燃料噴射量となるように制御される。なお、半自動トランスミッションとは、マニュアルトランスミッションと同じ構成を有しながら自動化されたクラッチ12と協働して変速操作を自動的に行うことができるトランスミッションである。
【0016】
(ハイブリッド自動車1の構成について)
ハイブリッド自動車1は、エンジン10、エンジンECU(Electronic Control Unit)11、クラッチ12、電動機13、インバータ14、バッテリ15、トランスミッション16、電動機ECU17、ハイブリッドECU18(請求項でいう制御装置)、車輪19、水温センサ20、シフト部21、およびキースイッチ22を有して構成される。なお、トランスミッション16は、上述した半自動トランスミッションを有し、ドライブレンジ(以下では、D(Drive)レンジと記す)を有するシフト部21により操作される。シフト部21がDレンジにあるときには、半自動トランスミッションの変速操作が自動化される。
【0017】
エンジン10は、内燃機関の一例であり、エンジンECU11によって制御され、ガソリン、軽油、CNG(Compressed Natural Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)、または代替燃料等を内部で燃焼させて、軸を回転させる動力を発生させ、発生した動力を、電動機13を介してクラッチ12に伝達する。
【0018】
エンジンECU11は、ハイブリッドECU18からの指示に従うことにより、電動機ECU17と連携動作するコンピュータであり、燃料噴射量やバルブタイミングなど、エンジン10を制御する。また、エンジンECU11は、水温センサ20から出力されるエンジン10の冷却水温情報を取得してハイブリッドECU18に伝達する。たとえば、エンジンECU11は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/O(Input/Output)ポートなどを有する。
【0019】
クラッチ12は、ハイブリッドECU18からの変速指示信号に基づき電動機13の回転軸とトランスミッション16の入力軸とを接状態または断状態にするものである。なお、クラッチ12の機構自体は、運転者がクラッチペダルを操作して電動機13の回転軸とトランスミッション16の入力軸とを接状態または断状態に操作するものと同じものである。また、運転者が不図示のクラッチペダルを操作することにより、ハイブリッドECU18による制御の他に、電動機13の回転軸とトランスミッション16の入力軸とを接状態または断状態に操作できるようにしてもよい。
【0020】
電動機13は、いわゆる、モータジェネレータであり、インバータ14から供給された電力により、軸を回転させる動力を発生させて、その軸出力をクラッチ12を介してトランスミッション16に供給するか、またはトランスミッション16からクラッチ12を介して供給された軸を回転させる動力によって発電し、その電力をインバータ14に供給する。たとえば、ハイブリッド自動車1が加速しているとき、または定速で走行しているときにおいて、電動機13は、軸を回転させる動力を発生させて、その軸出力をクラッチ12を介してトランスミッション16に供給し、エンジン10と協働してハイブリッド自動車1を走行させる。また、たとえば、電動機13がエンジン10によって駆動されているとき、またはハイブリッド自動車1が減速しているとき、もしくは下り坂を走行しているときなどにおいて、電動機13は、発電機として動作し、この場合、トランスミッション16からクラッチ12を介して供給された軸を回転させる動力によって発電して、電力をインバータ14に供給し、バッテリ15が充電される。このとき、電動機13は、回生電力に応じた大きさの回生トルクを発生する。
【0021】
インバータ14は、電動機ECU17によって制御され、バッテリ15からの直流電圧を交流電圧に変換するか、または電動機13からの交流電圧を直流電圧に変換する。電動機13が動力を発生させる場合、インバータ14は、バッテリ15の直流電圧を交流電圧に変換して、電動機13に電力を供給する。電動機13が発電する場合、インバータ14は、電動機13からの交流電圧を直流電圧に変換する。すなわち、この場合、インバータ14は、バッテリ15に直流電圧を供給するための整流器および電圧調整装置としての役割を果たす。
【0022】
バッテリ15は、充放電可能な二次電池であり、電動機13が動力を発生させるとき、電動機13にインバータ14を介して電力を供給するか、または電動機13が発電しているとき、電動機13が発電する電力によって充電される。バッテリ15には、適切なSOCの範囲が決められており、SOCがその範囲を外れないように管理されている。
【0023】
トランスミッション16は、ハイブリッドECU18からの変速指示信号に従って、複数のギア比(変速比)のいずれかを選択する半自動トランスミッション(図示せず)を有し、変速比を切り換えて、変速されたエンジン10の動力および/または電動機13の動力を車輪19に伝達する。また、減速しているとき、もしくは下り坂を走行しているときなど、トランスミッション16は、車輪19からの動力をクラッチ12を介して電動機13に伝達する。また、トランスミッション16が変速する際には、クラッチ12がいったん断状態に制御される。このように、ハイブリッドECU18は、トランスミッション16とクラッチ12とを協働させてハイブリッド自動車1の自動変速を実施する。なお、半自動トランスミッションは、運転者がシフト部21を操作して手動で任意のギア段にギア位置を変更することもできる。
【0024】
電動機ECU17は、ハイブリッドECU18からの指示に従うことにより、エンジンECU11と連携動作するコンピュータであり、インバータ14を制御することによって電動機13を制御する。たとえば、電動機ECU17は、CPU、ASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。
【0025】
ハイブリッドECU18は、コンピュータの一例であり、ハイブリッド走行のために、アクセル開度情報、ブレーキ操作情報、車速情報、ギア位置情報、エンジン回転速度情報、SOC情報、および冷却水温情報を取得する。取得したこれらの情報に基づいて、ハイブリッドECU18は、変速指示信号を供給することでクラッチ12およびトランスミッション16を制御し、電動機ECU17に対して電動機13およびインバータ14の制御指示を与え、エンジンECU11に対してエンジン10の制御指示を与える。たとえば、ハイブリッドECU18は、CPU、ASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。
【0026】
なお、ハイブリッドECU18によって実行されるプログラムは、ハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリにあらかじめ記憶しておくことで、コンピュータであるハイブリッドECU18にあらかじめインストールしておくことができる。
【0027】
エンジンECU11、電動機ECU17、およびハイブリッドECU18は、CAN(Control Area Network)などの規格に準拠したバスなどにより相互に接続されている。
【0028】
車輪19は、路面に駆動力を伝達する駆動輪である。なお、図1において、1つの車輪19のみが図示されているが、実際には、ハイブリッド自動車1は、複数の車輪19を有する。
【0029】
水温センサ20は、エンジン10の冷却水温を検出してエンジンECU11に出力するセンサである。
【0030】
シフト部21は、既に説明したように、トランスミッション16の半自動トランスミッションに運転者からの指示を与えるものであり、シフト部21がDレンジにあるときには、半自動トランスミッションの変速操作が自動化される。
【0031】
キースイッチ22は、運転を開始するときにユーザにより、たとえばキーが差し込まれてON/OFFされるスイッチであり、これがON状態になることによってハイブリッド自動車1の各部は起動し、キースイッチ22がOFF状態になることによってハイブリッド自動車1の各部は停止する。
【0032】
図2は、プログラムを実行するハイブリッドECU18において実現される機能の構成の例を示すブロック図である。すなわち、ハイブリッドECU18がプログラムを実行すると、ハイブリッドECU18に、始動制御部30(請求項でいう制御手段)の機能が実現される。
【0033】
始動制御部30は、始動時トルクマップ31および始動時燃料噴射量マップ32を有し、冷却水温情報およびアクセル開度情報に基づいてエンジンECU11にエンジン制御指示を行い、電動機ECU17に電動機制御指示を行う機能である。
【0034】
始動時トルクマップ31および始動時燃料噴射量マップ32は、ハイブリッドECU18が有するメモリの一部の領域に予め記憶されている。始動時トルクマップ31および始動時燃料噴射量マップ32は、電動機13がエンジン10を始動させる際のトルクおよび燃料噴射量を、始動制御部30が決定する際にメモリから読み出されて使用される情報である。始動時トルクマップ31および始動時燃料噴射量マップ32は、ハイブリッド自動車1のメーカ側で、テスト走行またはシミュレーションなどによって作成されたものである。なお、始動時トルクマップ31および始動時燃料噴射量マップ32については詳しく後述する。
【0035】
(ハイブリッドECU18の動作について)
次に、図3のフローチャートを参照して、プログラムを実行するハイブリッドECU18において行われるエンジン制御および電動機制御の処理を説明する。なお、図3のステップS1〜S4の手続きによる処理は1周期分の処理であり、キースイッチ22がON状態である限り処理は繰り返し実行されるものとする。
【0036】
図3の「START」では、キースイッチ22がON状態であり、ハイブリッドECU18がプログラムを実行し、ハイブリッドECU18に始動制御部30の機能が実現されている状態である。このような状態であるときに、手続きはステップS1に進む。
【0037】
ステップS1において、始動制御部30は、冷却水温情報に基づいて冷却水温が所定値以上であるか否かを判定する。ステップS1において、冷却水温が所定値以上であると判定されると、手続きはステップS2に進む。一方、ステップS1において、冷却水温が所定値未満であると判定されると、手続きはステップS4に進む。なお、ここで所定値とは、たとえば70℃である。これによれば、現在のエンジン10の停止状態がアイドルストップによる一時停止か、あるいは長い時間駐車している状態かを判別することができる。すなわち現在のエンジン10の停止状態がアイドルストップによる一時停止であれば、一時停止する直前のエンジン10の冷却水温は、80℃以上まで上昇しているので、所定値の70℃を超えることは明らかである。一方、現在のエンジン10の停止状態が長い時間駐車している状態であれば、エンジン10の冷却水温は、たとえ真夏であっても所定値の70℃を超えることはない。その他にも所定値については、状況に応じて様々に設定することができる。夏でも気温が低い地域では、所定値をたとえば50℃以下としてもよい。
【0038】
ステップS2において、始動制御部30は、アクセル開度情報に基づいてアクセル開度は0%か否かを判定する。ステップS2において、アクセル開度が0%であると判定されると、手続きはステップS3に進む。一方、ステップS2において、アクセル開度が0%でない(すなわちアクセルペダルが踏まれている、あるいはチョーク状態)と判定されると、手続きはステップS4に進む。
【0039】
ステップS3において、始動制御部30は、高水温のマップを選択してエンジン10を始動して1周期分の処理を終了する(END)。
【0040】
ステップS4において、始動制御部30は、低水温のマップを選択してエンジン10を始動して1周期分の処理を終了する(END)。
【0041】
図4に、始動時トルクマップ31および始動時燃料噴射量マップ32の例を示す。図4の上段に示すように、始動時トルクマップ31は、横軸に、エンジン回転速度をとり、縦軸に、始動トルクをとる。図4の上段に示す始動時トルクマップ31によれば、水温が高い場合と水温が低い場合とを比較すると、水温が高い場合の始動トルクは、水温が低い場合の始動トルクよりも小さくなるが、水温が高い場合の始動トルクは、水温が低い場合の始動トルクよりも高いエンジン回転速度まで継続する。
【0042】
図4の下段に示すように、始動時燃料噴射量マップ32は、横軸に、エンジン回転速度をとり、縦軸に、燃料噴射量をとる。ここで、水温が低い場合の燃料噴射量の推移は、従来からのものと同じであり、エンジン10の始動工程が開始されるのと同時に、燃料噴射が可能になる。一方、水温が高い場合の燃料噴射量の推移は、エンジン10の回転速度がアイドル回転速度に近い回転速度まで上昇したときから少量の噴射を開始する。
【0043】
(効果について)
比較例として、従来の始動時トルクマップおよび始動時燃料噴射量マップを図5に示す。図5の上段に示すように、従来の始動時トルクマップによれば、水温が高い場合と水温が低い場合との区別が無く、水温が低い場合のみを想定した始動トルクになっている。
【0044】
図5の下段に示すように、従来の始動時燃料噴射量マップによれば、噴射量の相違はあるものの水温が高くても低くてもエンジン10の始動工程が開始されるのと同時に、燃料噴射が可能になる。
【0045】
これに対し、始動時トルクマップ31では、水温が低い場合は、従来の始動時トルクと同じであるが、水温が高い場合には、従来よりも小さい始動時トルクが設定されている。また、始動時燃料噴射量マップ32では、水温が低い場合は、従来の始動時燃料噴射量と同じであるが、水温が高い場合いは、エンジン10の回転速度がアイドル回転速度付近まで上昇してから少量の燃料噴射を行うようになっている。
【0046】
このようにして、始動制御部30の制御によれば、電動機13によりエンジン10を始動させる際のトルクおよび燃料噴射量を最適な値として無駄な燃料の消費を無くすことができる。
【0047】
また、エンジン10の始動時にアクセル開度が0%を超えているときには、運転者がアクセルペダルを踏んでいる状態、あるいはチョーク状態であり、アイドルストップからの再始動ではないと判断できるので、従来どおりの始動トルクおよび燃料噴射量とする。これによれば、アイドルストップからのエンジン10の再始動とそれ以外のエンジン10の始動とを区別した始動制御を行うことができるので、エンジン10の始動に失敗することを避けることができる。
【0048】
(その他の実施の形態)
上述の実施の形態では、ハイブリッド自動車1の停車状態がアイドルストップによる一時停止か長時間の駐車かを判定して始動時トルクおよび始動時燃料噴射量を制御したが、その他にも、冬期か夏期か、または昼間か夜間かなどを判定して始動時トルクおよび始動時燃料噴射量を制御してもよい。この場合には、水温の所定値は、気温の変化が検出可能であるように、たとえば20℃〜30℃程度とすることがよい。
【0049】
また、上述の実施の形態では、エンジン10に係る温度情報として、エンジン10の冷却水温の情報を検出する例を説明したが、これは冷却水温を検出するための水温センサ20に相当するものが従来から広く普及しているためである。よって、その他にも、エンジン10の筐体の温度、エンジン10が設置されているエンジンルーム内の気温、エンジン10のエンジンオイルの油温などが検出できるならば、これらの温度情報を冷却水温の情報に代えて用いてもよい。
【0050】
図3のフローチャートの説明において、「以上」は、「超える」とし、「未満」は、「以下」とするなど、判定の境界値については様々に変更してもよい。
【0051】
エンジン10は、内燃機関であると説明したが、外燃機関を含む熱機関であってもよい。
【0052】
また、ハイブリッドECU18によって実行されるプログラムは、ハイブリッドECU18にあらかじめインストールされると説明したが、プログラムが記録されている(プログラムを記憶している)リムーバブルメディアを図示せぬドライブなどに装着し、リムーバブルメディアから読み出したプログラムをハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリに記憶することにより、または、有線または無線の伝送媒体を介して送信されてきたプログラムを、図示せぬ通信部で受信し、ハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリに記憶することで、コンピュータであるハイブリッドECU18にインストールすることができる。
【0053】
また、各ECUは、これらを1つにまとめたECUにより実現してもよいし、あるいは、各ECUの機能をさらに細分化したECUを新たに設けてもよい。
【0054】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0055】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…ハイブリッド自動車、10…エンジン、11…エンジンECU、12…クラッチ、13…電動機、14…インバータ、15…バッテリ、16…トランスミッション、17…電動機ECU、18…ハイブリッドECU(制御装置)、19…車輪、20…水温センサ、30…始動制御部(制御手段)、31…始動時トルクマップ(制御手段の一部)、32…始動時燃料噴射量マップ(制御手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機とを有し、前記エンジンもしくは前記電動機により走行可能であり、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能であり、前記電動機により前記エンジンを始動させるハイブリッド自動車の制御装置において、
前記エンジンの始動に際し、前記エンジンに係る温度情報に応じて前記電動機の始動トルクおよび前記エンジンの燃料噴射量を可変的に設定する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記温度情報が所定の温度以上を示すときには、前記エンジンが所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御する、
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の制御装置であって、
前記制御手段は、アクセル開度が0%を超えているときには、前記エンジンの始動工程の開始と共に燃料噴射が開始できるように制御する、
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の制御装置を有することを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項4】
エンジンと電動機とを有し、前記エンジンもしくは前記電動機により走行可能であり、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能であり、前記電動機により前記エンジンを始動させるハイブリッド自動車の制御方法において、
前記エンジンの始動に際し、前記エンジンに係る温度情報に応じて前記電動機の始動トルクおよび前記エンジンの燃料噴射量を可変的に設定する制御ステップを有し、
前記制御ステップの処理は、前記温度情報が所定の温度以上を示すときには、前記エンジンが所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御するステップを有する、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項5】
コンピュータ装置に、
エンジンと電動機とを有し、前記エンジンもしくは前記電動機により走行可能であり、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能であり、前記電動機により前記エンジンを始動させるハイブリッド自動車の制御機能を実現させるプログラムにおいて、
前記エンジンの始動に際し、前記エンジンに係る温度情報に応じて前記電動機の始動トルクおよび前記エンジンの燃料噴射量を可変的に設定する制御機能を実現させ、
前記制御機能として、前記温度情報が所定の温度以上を示すときには、前記エンジンが所定の回転速度に達したときに燃料噴射を開始するように制御する機能を実現させる、
ことを特徴とするプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236568(P2012−236568A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108322(P2011−108322)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】