説明

ハイブリッド自動車の変速制御装置

【課題】トランスミッションに装備した動力取出軸と電動機とを接続したハイブリッド自動車の変速制御装置に関し、電動機を利用した走行中の変速時に、電動機の駆動タイミングを早め且つ動力伝達上の不具合を回避できるようにする。
【解決手段】変速要求が検出されると、主クラッチ4及び副クラッチ22を切断した上で、変速制御手段40dにより変速を行なうと共に、同期制御手段40fにより内燃機関回転速度を変速機入力軸の回転速度に同期させ且つ電動機回転速度を変速機従動軸の回転速度に同期させてから、主クラッチ及び副クラッチを同時に接続指令するように変速制御手段40dにより制御する。変速中には、内燃機関及び電動機の各出力トルクをゼロに制御し変速を完了し、主クラッチ4が接続されたら内燃機関の出力トルクを復帰させ、副クラッチ22が接続されたら電動機30の出力トルクを復帰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド自動車の変速制御装置に関し、特に変速機から取り出した動力を作業装置に伝達可能なPTO装置を備えたハイブリッド自動車の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に、内燃機関と走行用電動機とを搭載したハイブリッド車には、エンジンが発電機を駆動し、発電した電力によってモータ(電動機)を駆動するシリーズハイブリッド車、電動機で車輪を駆動すると同時にエンジンでも車輪を駆動することができるパラレルハイブリッド車、及びエンジンが発電機を駆動し、発電した電力によって電動機を駆動することができると共に電動機で車輪を駆動すると同時に、エンジンでも車輪を駆動することができるデュアルハイブリッド車等がある。
【0003】
このようなシリーズハイブリッド車やパラレルハイブリッド車は、車両の運転モードに従った駆動パターンが選択されて、エネルギの利用効率を向上させることができるが、車両が搭載すべき機構が複雑になり且つ専用の部品を用いる。そのため、車両が高価になると共に、専用の機器や部品を既存の車両に搭載することが非常に困難になり、環境問題に対する配慮からハイブリッド車に期待が集まっているにもかかわらず、ハイブリッド車の普及が促進されない。
【0004】
一方、車両のトランスミッションには動力取出軸(PTO軸,PTO;Power Take Off)が、クラッチ(PTOクラッチ)を介して配設されているものがある。このような車両において、この動力取出軸を利用して、既存の車両から発電電動機(電動発電機)等の電気的設備を付設することによって、簡単に改造されるハイブリッド車を提供する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
この技術では、トランスミッションのカウンタ軸に動力取出軸が動力伝達可能に接続されるものにおいて、この動力取出軸と並列に、動力取出軸とは別の動力伝達軸がカウンタ軸に動力伝達可能に接続され、この動力伝達軸に発電電動機が連結されている。これにより、内燃機関の動力或いは制動時に駆動輪から受ける動力を、トランスミッションから動力伝達軸を介して発電電動機に伝達し、発電電動機を発電機として駆動し、この発電電力を車両に搭載されたバッテリに蓄電することができる。逆に、発電電動機を電動機として作動させ、これによって生じる動力を、動力伝達軸を介してトランスミッションから駆動輪に伝達して、内燃機関の動力と協働して駆動輪を駆動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−289476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、トランスミッションに装備した動力取出軸と並列に動力伝達軸を接続し電動機と接続したハイブリッド車(PTO利用のハイブリッド車)において、電動機を利用して走行している際にトランスミッションの変速要求があった場合、電動機の駆動タイミングが遅くなってしまうことが考えられる。
つまり、PTO利用のハイブリッド車において、電動機を利用しての走行中に、変速要求があると、例えば、図7に示すように、ステップA10の判定後、まず、PTOクラッチを切断して動力取出軸との動力伝達を絶って(ステップA20)、その後、通常の変速制御、即ち、主クラッチの切断と、使用していた変速段ギヤ対の係合離脱(ギヤ抜き)と、変速先の変速段ギヤ対の回転を合わせる同期操作の後の係合(ギヤ入れ)と、主クラッチの係合と、を順次行なう(ステップA30)。そして、その後、電動機の回転速度合わせを行ないながらPTOクラッチを係合させて(ステップA40)、エンジン(内燃機関)と電動機とのトルク分担制御を行なう(ステップA50)ことになる。
【0008】
このように、通常の変速操作の前後に、PTOクラッチを切断操作と係合操作とが加わって、これらが完了した後に電動機を駆動して電動機のトルクを復帰させることになるので、電動機の駆動再開までの時間を長く要し、この間の電動機トルクが抜けている間は、車両の要求トルクをエンジンのみで賄うことになるため、エンジンの負担が大きくなって、燃費や排ガスの点で不利になる。
【0009】
ただし、エンジンと変速機との間のクラッチに、電動機を変速機に接続するためのPTOクラッチ等のクラッチが加わると、クラッチの接続制御と接続後のトルク制御とを適切に関連付けなくては、トルク抜け等の動力伝達上の不具合を招くので、変速制御に当たってはかかる不具合を招かないようにすることが要求される。
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたもので、トランスミッションに装備した動力取出軸と電動機とを接続したハイブリッド自動車において、電動機を利用して走行している際のトランスミッションの変速時に、電動機の駆動タイミングを早めることができ且つ動力伝達上の不具合を回避できるようにした、ハイブリッド自動車の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、ハイブリッド自動車の変速制御装置は、内燃機関と、上記内燃機関と並列に設けられ、該内燃機関の駆動力をアシスト可能な電動機と、をそなえたハイブリッド自動車の変速制御装置であって、上記内燃機関からの駆動力、又は上記内燃機関及び上記電動機からの駆動力を駆動輪に出力する変速機と、上記内燃機関の出力軸と上記変速機の入力軸との間に設けられ、該内燃機関と該変速機との駆動力伝達を断接可能な主クラッチと、上記変速機の従動軸と上記電動機の入力軸との間に設けられ、該電動機と該変速機との駆動力伝達を断接可能な副クラッチと、上記主クラッチ及び上記副クラッチを断接制御するクラッチ制御手段と、上記主クラッチ及び上記副クラッチが切断状態である時に、上記内燃機関の回転速度を上記変速機の入力軸の回転速度に同期させると共に、上記電動機の回転速度を上記変速機の従動軸の回転速度に同期させる制御をする同期制御手段と、上記車両の走行状態に基づいて上記変速機の変速要求を検出する変速要求検出手段と、上記変速要求検出手段により所望の変速段への変速要求が検出されると、上記クラッチ制御手段により上記主クラッチ及び上記副クラッチを切断した上で、上記変速制御手段により上記所望の変速段への変速を行なうと共に、上記同期制御手段により上記内燃機関の回転速度を上記変速機の入力軸の回転速度に同期させ且つ上記電動機の回転速度を上記変速機の従動軸の回転速度に同期させる同期制御を行ない、上記クラッチ制御手段により上記主クラッチ及び上記副クラッチをそれぞれ同期条件が成立したら接続する変速制御手段と、上記車両のアクセル開度に基づいて要求トルクを算出する要求トルク算出手段と、上記要求トルク算出手段により算出された要求トルクに基づいて上記内燃機関及び上記電動機の出力トルクを制御する出力トルク制御手段と、を備え、上記出力トルク制御手段は、変速中には、上記内燃機関及び上記電動機の各出力トルクをゼロに制御し、変速完了期に、上記主クラッチの接続が達成されたら、上記内燃機関の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させ、上記副クラッチの接続が達成されたら、上記電動機の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させることを特徴としている。
【0011】
上記副クラッチには、内燃機関の駆動力を上記変速機の上記従動軸から取り出すPTO装置と上記変速機との駆動力伝達を断接するPTOクラッチが用いられていることが好ましい。
上記主クラッチは、シンクロ機構を有する滑り係合可能なクラッチであり、上記副クラッチは、シンクロ機構を有しないドグクラッチであって、上記副クラッチの上記同期条件は上記電動機の回転速度と上記変速機の従動軸の回転速度との回転速度差を許容しないものであって、上記主クラッチの上記同期条件は上記内燃機関の回転速度と上記変速機の入力軸の回転速度との回転速度差を許容するものであることが好ましい。
【0012】
上記出力トルク制御手段では、上記内燃機関の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させる際、及び、上記電動機の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させる際に、目標トルクに向かって徐々に接近させるランプ制御を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド自動車の変速制御装置によれば、変速要求があると、クラッチ制御手段により主クラッチ及び副クラッチを切断した上で、所望の変速段への変速を行なうと共に、同期制御手段により内燃機関の回転速度を変速機の入力軸の回転速度に同期させ且つ電動機の回転速度を変速機の従動軸の回転速度に同期させる同期制御を行ない、主クラッチ及び副クラッチをそれぞれ同期条件が成立したら接続するので、変速操作時間を短縮することができる。
【0014】
したがって、電動機のトルクを用いて走行していた場合の変速では、副クラッチの速やかな接続によって、変速操作時に一旦抜いた電動機トルクの復帰を速やかに行なうことができ、変速時の内燃機関のトルク負担を軽減することができ、燃費や排ガスの点で有利になる。
また、減速中であれば、副クラッチの速やかな接続によって、電動機による回生制動に直ちに復帰させることができ、回生量増加による燃費向上に寄与する。
【0015】
さらに、電動機の入力軸をPTO装置に接続し、副クラッチには、PTO装置と上記変速機との駆動力伝達を断接可能なPTOクラッチを用いることにより、既存のPTO装置を利用すると共に電動機を追加することによりハイブリッド自動車を低コストで構成することができる。
また、主クラッチの接続が完了していなくても、副クラッチの接続が完了していれば、主クラッチの接続制御を続行しながら、電動機を要求トルクに応じた出力トルク状態に復帰制御するので、副クラッチの接続後に、副クラッチに接続されている電動機や動力伝達シャフト等の回転体が負荷となって、車両が失速するような事態を回避することができる。
【0016】
電動機や内燃機関を要求トルクに応じた出力トルク状態に復帰制御する際にランプ制御を用いることにより、トルク復帰を円滑に行なえる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動車の駆動系の全体構成を示す模式的平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動車の駆動系の要部構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動車の変速制御を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動車の変速制御を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動車の変速制御を説明するタイムチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係るハイブリッド自動車の変速制御を説明するタイムチャートである。
【図7】本発明の課題に係るハイブリッド自動車の変速制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
<本実施形態の駆動系の構成>
まず、本実施形態に共通するハイブリッド自動車の駆動系について説明する。
図1は本実施形態に係るハイブリッド自動車1の駆動系の全体構成を示す模式的平面図である。図1に示すように、ディーゼルエンジン(内燃機関、以下エンジンという)2の出力軸であるクランク軸にはクラッチ(主クラッチ)4の入力軸が連結されており、クラッチ4の出力軸には自動変速機(以下変速機という)6の入力軸が連結されている。また、変速機6の出力軸はプロペラシャフト8、差動装置10及び駆動軸12を介して左右の駆動輪14に接続されている。なお、主クラッチ4は図示しないがシンクロ機構を有し、クラッチの係合要素間に回転速度差があっても、この回転速度差が所定の許容値以内になった時点で係合操作することが可能となる。
【0019】
図2は、このようなPTO装置20と変速機6の概略構成図であり、図2に示すように変速機6はクラッチ4の出力側回転軸に連結された入力軸62と、カウンタ軸(従動軸)64と、プロペラシャフト8に連結された出力軸66とを備えている。
入力軸62とカウンタ軸64との間には、入力軸62からカウンタ軸64に回転を伝達する1対の入力ギヤ68が設けられ、カウンタ軸64と出力軸66との間には、変速段毎のギヤ比で常時噛み合う複数対の変速ギヤ70a,70b,70c,70dが配設されている。そして、変速ギヤ70a及び70bについては、出力軸66側の歯車が出力軸66に対してそれぞれ相対回転可能であると共に、カウンタ軸64側の歯車がカウンタ軸64に対してそれぞれ固定されている。
【0020】
一方、変速ギヤ70c及び70dについては、カウンタ軸64側の歯車がカウンタ軸64に対してそれぞれ相対回転可能であると共に、出力軸66側の歯車が出力軸66に対してそれぞれ固定されている。また、変速ギヤ70aは1速、変速ギヤ70bは2速、変速ギヤ70cは3速、変速ギヤ70dは4速にそれぞれ対応している。
出力軸66側には、出力軸66と変速ギヤ70a又は変速ギヤ70bとの間の回転速度を同期させて変速段の切り換えを行なうためのシンクロ機構72aが設けられており、カウンタ軸64側には、変速ギヤ70cと変速ギヤ70dとの間に、カウンタ軸64と変速ギヤ70c又は変速ギヤ70dとの間の回転速度を同期させて変速段の切り換えを行なうためのシンクロ機構72bが設けられている。
【0021】
なお、シンクロ機構72a及び72b自体は公知の構成であるので、ここでは詳細な説明を省略するが、変速機6には後述する車両ECU40からの制御信号に応じてこれらシンクロ機構72a或いは72bを作動させ、変速段の切り換えを行なう変速アクチュエータ74が設けられている。更に、変速機6には、変速機6がニュートラル状態にあることを含め、変速機6で現在どの変速段が使用されているかを検出して車両ECU40に出力する変速位置センサ76が設けられている。
【0022】
PTO装置20には、車両ECU40からの制御信号によって断接状態が制御される電磁式のPTOクラッチ22と、PTOクラッチ22の入力側に連結されたPTO入力軸24と、PTOクラッチ22の出力側に連結されて動力を接続対象装置に伝達するPTO出力軸26とを備えている。なお、PTOクラッチ22はシンクロ機構をそなえないドグクラッチであり、クラッチの係合要素間の回転速度差がなくなって、つまり、この回転速度差がゼロ[比較的小さな(0に極めて近い)所定の許容回転速度差以内になること]になった時点で始めて係合操作することが可能となる。
【0023】
変速機6のカウンタ軸64とPTO入力軸24との間には、常時噛合して変速機6の動力を取り出すためのPTOギヤ28が設けられ、カウンタ軸64側のPTOギヤ28の歯車はカウンタ軸64に固定され、PTO入力軸24側のPTOギヤ28の歯車はPTO入力軸24に固定されている。
また、PTO装置20には、PTOクラッチ22の出力側回転数であるPTO出力軸26の回転数を検出するPTO回転センサ78が設けられ、PTO回転センサ78の検出信号は車両ECU40に送られるようになっている。
【0024】
そして、本ハイブリッド自動車1の電動機(電動発電機)30は、このPTO装置20を利用して付設されている。つまり、PTO装置20のPTO出力軸26は、接続対象装置としての電動機30のモータ回転軸として構成され、変速機6の側から見れば電動機30の動力を変速機6に入力する入力軸となっている。したがって、PTOクラッチ22を接続することにより、力行時には、電動機30と変速機6とが入力され、電動機30から出力された動力が変速機6を介して駆動輪14に伝達され車両の駆動力とされる。また、制動時には、電動機30が発電機に切り替えられて、駆動輪14の制動エネルギによって電動機30を駆動して電力エネルギに回生することができる。
【0025】
また、クラッチ4が接続されているときには、エンジン2の出力軸が変速機6を介して駆動輪14と機械的に接続可能となり、クラッチ4が切断されているときには、エンジン2の出力軸と変速機6の入力軸との連結が解除される。なお、クラッチ4は内部に装着された図示しないクラッチアクチュエータによりクラッチストロークを制御することができるようになっている。
【0026】
したがって、クラッチ4が接続され且つPTOクラッチ22が接続されているときには、エンジン2の出力軸と電動機30の回転軸とが共に変速機6を介して駆動輪14と機械的に接続可能となる。また、クラッチ4が接続されているがPTOクラッチ22が切断されているときには、エンジン2の出力軸のみ変速機6を介して駆動輪14と機械的に接続可能となる。クラッチ4が切断されているがPTOクラッチ22が接続されているときには、電動機30の回転軸のみが変速機6を介して駆動輪14と機械的に接続可能となる。
【0027】
電動機30は、インバータ36,コンタクタ38を介して、バッテリ32に接続されており、バッテリ32に蓄えられた直流で高圧の電流が、インバータ36によって交流電流に変換されて供給されることにより作動する。これにより、PTOクラッチ22が接続されているときには、電動機30の駆動トルクが変速機6によって適切な速度に変速された後に駆動輪14に伝達される。
【0028】
また、電動機30は、電動発電機であり、バッテリ30の充電率(以下SOCという)が低下してバッテリ30を充電する必要があるときには、電動機30が発電機として作動する。このとき、電動機30の駆動は、エンジン2からの動力或いは制動時の駆動輪の動力により行なう。電動機30によって発電された電力は、インバータ36により交流電力から直流電力に変換され、バッテリ32に蓄電される。
【0029】
エンジン2からの動力を用いて電動機30により発電する場合には、クラッチ4及びPTOクラッチ22を接続する。これにより、エンジン2の駆動トルクの一部は、変速機6を経由して適切な速度に変速された後に駆動輪14に伝達され、エンジン2の駆動トルクの残部は、変速機6を経由して電動機30に伝達され、発電機として作動する電動機30を駆動する。
【0030】
制動時に駆動輪14の回転による運動エネルギにより発電する場合には、制動時には、PTOクラッチ22を接続しクラッチ4は切断することにより、駆動輪14の回転による運動エネルギを、変速機6を介して電動機30に伝達して交流電力に変換(発電)することにより回生制動トルクを発生する。これにより、駆動輪14の回転による運動エネルギが効率よく電気エネルギとして回収される。
【0031】
そして、本車両の駆動系の制御のために、車両の駆動系全体を制御するための車両ECU(制御手段)40に加えて、エンジン2を制御するためのエンジンECU42と、バッテリ32を制御するためのバッテリECU44と、インバータ36を制御するためのインバータECU46と、が設けられている。何れのECU40〜46、図示しない入出力装置,制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等),中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を備えて構成されている。
【0032】
さらに、変速位置センサ76及びPTO回転センサ78に加えて、車速センサ80や、アクセルペダル82の踏込量を検出するアクセル開度センサ84が設けられ、何れのセンサ76,78,80,84も車両ECU40に接続されている。また、電動機30の回転軸30aはPTO出力軸24とギヤ対28のギヤ比に応じた速度比で回転するので、PTO回転センサ78は電動機回転数センサ(電動機回転数検出手段)としても機能する。
【0033】
車両ECU40は、車速センサ80によって検出された車両の走行速度などの車両の運転状態、エンジン2の運転状態、電動機回転数センサ78によって検出された電動機30の回転数の各情報、並びに、バッテリECU44、インバータECU46からの情報等に応じて、クラッチ4の接続・切断制御及び変速機6の変速段切換制御を行なうと共に、これらの制御状態や車両の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン2や電動機30を適切に運転するための統合制御を行なう。
【0034】
エンジンECU42は、車両ECU40からの情報に基づきエンジン2の始動・停止のための制御を行なうほか、エンジン2のアイドル運転制御や排ガス浄化装置(図示せず)の再生制御など、エンジン2自体の運転に必要な各種制御を行なうと共に、車両ECU40によって設定されたエンジン2に必要とされるトルクをエンジン2が発生するよう、エンジン2の燃料の噴射量や噴射時期などを制御する。
【0035】
一方、インバータECU46は、電動機30やインバータ36の温度などの状態を監視して車両ECU40にその情報を送るほか、車両ECU40によって設定された電動機30が発生すべきトルクに基づきインバータ36を制御することにより、電動機30をモータ作動または発電機作動させて運転制御する。
また、バッテリECU44、バッテリ32の温度や、バッテリ32の電圧、インバータ36とバッテリ32との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ32のSOCを求め、求めたSOCを検出結果と共に車両ECU40に送る。
【0036】
そして車両ECU40は、これらエンジンECU42、インバータECU46及びバッテリECU44との間で相互に情報をやりとりしながら、エンジン2及び電動機30を適切に制御するようエンジンECU42及びインバータECU46に指示すると共に、クラッチ4,PTOクラッチ22及び変速機30を適宜制御する。
つまり、車両ECU40には、このような制御のために、アクセル開度センサ84や、車速センサ80及び電動機回転数センサ78の検出結果に基づき、車両の走行に必要な要求トルクを演算する要求トルク演算部(要求トルク演算手段)40aと、各ECU42,44,46からの情報に基づき、そのときの車両の運転状態やエンジン2及び電動機30の運転状態に応じて、この要求トルクをエンジン2及び電動機30に配分するトルクを設定しエンジンECU42やインバータECU46に指示するトルク配分部(トルク配分手段)40bと、上記車両の走行状態(運転状態)及び変速位置センサ76からの変速段情報に基づいて変速機6の変速要求を検出する変速要求検出部(変速要求検出手段)40cと、変速要求検出部40cの変速要求に応じて変速機6を制御する変速制御部(変速制御手段)40dと、主クラッチ4及びPTOクラッチ22の断接を制御するクラッチ制御部(クラッチ制御手段)40eと、主クラッチ4又はPTOクラッチ22を切断状態から接続状態に切り換える際に各クラッチ4,22の入出力側の回転速度合わせ(つまり、同期)を制御する同期制御部(同期制御手段)40fと、トルク配分部40bのトルク配分に応じてエンジン2及び電動機30の出力トルクを制御する出力トルク制御部(出力トルク制御手段)40gと、をそれぞれ機能要素としてそなえている。
【0037】
各実施形態にかかるハイブリッド自動車の変速制御装置は、変速機6と、主クラッチ4と、PTOクラッチ(副クラッチ)22と、クラッチ制御部40eと、同期制御部40fと、変速要求検出部40cと、変速制御手段40dと、出力トルク制御部40gと、を備えて構成される。
このような変速制御装置の要素を含む車両ECU40の各機能要素40a〜40fは相互に連携して動作する。
【0038】
本実施形態では、例えば、トルク配分部40bは、バッテリ32のSOCが十分(SOCが予め設定された範囲内)にあり、且つ、車両の要求トルクが電動機30のみの出力トルクで賄える場合には、電動機30のみにトルクを配分してエンジン2にはトルクを配分しないように設定する。この場合には、クラッチ制御部40eは、クラッチ4を切断すると共にPTOクラッチ22を接続し、トルク配分部40bは、インバータECU46に対して電動機30の出力トルクを要求トルクとするように指示する。この場合には、エンジンECU42はエンジン2をアイドル運転する一方、インバータECU46は、車両ECU40が指示したトルクに応じてインバータ36を制御し、バッテリ32の直流電力がインバータ36によって交流電力に変換されて電動機30に供給される。電動機30は交流電力が供給されることによってモータ作動して要求トルクを出力し、この要求トルクが変速機6を介して駆動輪14に伝達される。
【0039】
また、トルク配分部40bは、バッテリ32のSOCが十分にあるが、車両の要求トルクが電動機30のみの出力トルクで賄えない場合には、エンジン2及び電動機30の両方にトルクを配分するようにトルク配分を設定する。この場合には、クラッチ制御部40eは、クラッチ4及びPTOクラッチ22を共に接続し、トルク配分部40bは、エンジンECU42に対してエンジン2に配分された出力トルクを指示すると共に、インバータECU46に対して電動機30に配分された出力トルクを指示する。この場合、例えば、電動機30の出力トルクを最大にして、不足の出力トルク分をエンジン2に分担させるか、或いは、エンジン2を効率及び排気の上で良好な一定の出力状態とし、不足の出力トルク分を電動機30に分担させる。
【0040】
エンジンECU42は車両ECU40が指示したトルクをエンジン2が出力するようエンジン2を制御すると共に、インバータECU46は、車両ECU40が指示したトルクに応じてインバータ36を制御することにより、エンジン2の出力トルクと電動機30のトルクとの合計が要求トルクとなり、この要求トルクが変速機6を介して駆動輪14に伝達される。
【0041】
一方、トルク配分部40bは、バッテリ32のSOCが十分でない(SOCが予め設定された範囲未満)場合には、エンジン2のみにトルクを配分して電動機30にはトルクを配分しないように設定する。この場合は、車両ECU40がクラッチ4を接続状態とし、エンジンECU42に対してエンジン2の出力トルクを要求トルクとするよう指示すると共に、インバータECU46に対して電動機30の出力トルクを零とするように指示する。
【0042】
エンジンECU42は車両ECU40が指示した要求トルクをエンジン2が出力するようエンジン2を制御すると共に、インバータECU46は、電動機30がモータ及び発電機のいずれとしても動作しないようインバータ36を制御することにより、エンジン2から出力された要求トルクが変速機6を介して駆動輪14に伝達される。
一方、本変速制御装置に着目すると、変速要求検出部40cが、車両の走行状態(運転状態)及び変速位置センサ76からの変速段情報に基づいて変速機6の変速要求、つまり、使用する変速段に切替要求を検出すると、変速制御部40dは、トルク配分部40b,クラッチ制御部40e及び同期制御部40fと協働して、例えば図3,図4に示すように変速制御を行なう。
【0043】
つまり、図3に示すように、まず、車両の走行状態(運転状態)及び変速位置センサ76からの変速段情報に基づく変速要求検出部40cの検出情報から変速要求があるかを判定し(ステップB10)、変速要求があると、図4に示す変速制御を実施する(ステップB20)。
この変速制御では、図4に示すように、まず、トルク配分部40bはエンジン2及び電動機30への要求トルクをいずれも0に徐々に移行する(ステップS10、ランプ制御)。そして、ステップS20の判定により、エンジン2及び電動機30の要求トルクが予め設定された閾値未満になったら、クラッチ制御部40eが主クラッチ4及びPTOクラッチ22を切断制御する(ステップS30)。
【0044】
ステップS40の判定により、主クラッチ4及びPTOクラッチ22の切断がいずれも完了したら、変速制御部40dによって現在使用中の変速段ギヤの係合を解除する(ギヤ抜き)制御をし(ステップS50)、このギヤ抜きが完了したら、ステップS60の判定により、ステップS70に進んで、次に使用する切り換え目標の変速段ギヤを係合(ギヤ入れ)すると共に、同期制御部40fが、主クラッチ4の同期制御(エンジン回転合わせ制御)とPTOクラッチ22の同期制御(PTO回転合わせ制御)とを行なう。
【0045】
即ち、主クラッチ4の同期制御として、目標の変速段達成時の主クラッチ4の入出力軸の回転速度が合うようにエンジン2の回転速度(回転数)を調整し、PTOクラッチ22の同期として、目標の変速段達成時のPTOクラッチ22の入出力軸の回転速度が合うように電動機30の回転速度(回転数)を調整する。
変速位置センサ76からの変速段情報に基づいてギヤ入りの完了が判定されたら、ステップS80の判定により、ステップS90に進んで、クラッチ制御部40eによって主クラッチ4の接続制御とPTOクラッチ22の接続制御とを行なう。この接続制御は、同期制御部40fによる各クラッチ4,22のそれぞれの回転合わせ制御(同期制御)によって各目標状態まで回転合わせが達成されるのを待って、各目標状態まで回転合わせが達成されたら、接続動作を開始する。なお、各回転合わせ制御は、対応するクラッチ4,22の係合達成が判断されるまで続行して行なう。
【0046】
主クラッチ4は、係合要素同士にすべりが生じる半クラッチ状態の係合から開始することができるので、主クラッチ4の係合は接続指令に対して係合要素間に回転速度差があっても即座に開始できるが、主クラッチ4が完全係合するには、主クラッチ4の係合要素を徐々にストロークさせていくので係合開始から完全係合までに一定の時間がかかる。
ただし、主クラッチ4は、完全係合までいかなくても、係合要素のストローク量が予め設定されたレベルまで到達したら半クラッチ状態であってもトルク伝達が可能になるので、主クラッチ4の係合要素のストローク量が予め設定されたレベルまで到達したら、主クラッチ4の係合が達成されたものと判定することができる。
【0047】
一方、PTOクラッチ22はドグクラッチであり、接続動作を開始したら略瞬時に接続達成するが、接続を開始するには、係合要素間に回転速度差がゼロ[ここで言う、ゼロとは極めて厳密なゼロではなく、ドグクラッチの係合を開始しても係合要素間で機械的な衝突が生じ得ない程度の回転速度差は許容するもので、0に極めて近い閾値d(d≒0)以内になったら回転速度差がゼロであるものとする]となってはじめて係合を開始させることができる。PTOクラッチ22は完全係合した段階で初めてトルク伝達が可能になるので、PTOクラッチ22の係合要素が完全係合したら、PTOクラッチ22の係合が達成されたものと判定することができる。
【0048】
そして、ステップS90からステップS100に進んで、主クラッチ4の接続が達成されたか否か、即ち、上記のように、主クラッチ4の係合要素のストローク量が予め設定されたレベルまで到達したか否かを判定する。この判定は、主クラッチ4の係合要素のストローク量が予め設定されたレベルまで到達したら主クラッチ4の接続が達成されたものとする。
【0049】
ここでは、主クラッチ4の接続達成が判定されるまで待つ。主クラッチ4の接続達成が判定されたら、PTOクラッチ22の接続達成を判定する(ステップS110)。PTOクラッチ22の接続は、モータの回転数合わせによって係合要素間に回転速度差がゼロである(0に極めて近い閾値d(d≒0)以内である)と判断されてはじめて、動作開始するが、動作開始後は速やかに完全係合しPTOクラッチ22の接続達成が判定される。
【0050】
ここで、PTOクラッチ22の接続が達成されていれば、出力トルク制御部40gによってエンジン2及び電動機30を何れも要求トルクの状態に復帰制御する(ステップS120)。この復帰時にも、各トルクをゼロから要求トルクに向けて徐々に復帰させる。
一方、PTOクラッチ22の接続が達成されていなければ、クラッチ制御部40eによってPTOクラッチ22の接続制御を続行しながら、出力トルク制御部40gによってエンジン2を要求トルクの状態に復帰制御する(ステップS130)。この復帰時にも、トルクをゼロから要求トルクに向けて徐々に復帰させる。
【0051】
そして、その後、PTOクラッチ22の接続が達成されたら、ステップS140の判定を経て、出力トルク制御部40gによってエンジン2と共に電動機30を要求トルクの状態に復帰制御する(ステップS120)。
一方、主クラッチ4の接続完了が判定されない場合の処理として、ステップS150〜S170が設けられている。
【0052】
つまり、主クラッチ4の接続達成が判定されなければ、ステップS150に進んで、PTOクラッチ22の接続が達成されたか否かを判定する。つまり、PTOクラッチ22の接続は、モータの回転数合わせによって係合要素間に回転速度差が0又は0に極めて近い閾値d(d≒0)以内になってはじめて、動作開始し、動作開始後は速やかに完全係合するので、こうした経緯を経てPTOクラッチ22の接続は達成されたか否かが判定される。
【0053】
ここで、PTOクラッチ22の接続が達成されていれば、ステップS160に進んで、クラッチ制御部40eによって主クラッチ4の接続制御を続行しながら、出力トルク制御部40gによって電動機30を要求トルクの状態に復帰制御する。この復帰時にも、電動機トルクを0から要求トルクに向けて徐々に復帰させる。
その後は、ステップS170によって、主クラッチ4の接続達成が判定されるのを待って、主クラッチ4の接続達成が判定されれば、出力トルク制御部40gによってエンジン2及び電動機30を何れも要求トルクの状態に復帰制御する(ステップS120)。この復帰時にも、各トルクを0から要求トルクに向けて徐々に復帰させる。
【0054】
一方、ステップS150において、PTOクラッチ22の接続達成が判定されなければ、再び、ステップS100に戻って上記の処理を行なう。
これ以降は、図3に示すように、出力トルク制御部40gによってエンジン2と電動機30とを要求トルクに応じて通常制御する(ステップB30)。
本発明の一実施形態にかかるハイブリッド自動車の変速制御装置は、上述のように構成されているので、変速要求があると、クラッチ制御部40eにより主クラッチ4及びPTOクラッチ(副クラッチ)22を切断した上で、所望の変速段への変速を行なうと共に、同期制御部40fによりエンジン2の回転速度を変速機6の入力軸の回転速度に同期させ主クラッチ4の係合要素同士の回転速度を同期させ、且つ、電動機30の回転速度を変速機6の従動軸の回転速度に同期させPTOクラッチ22の係合要素同士の回転速度を同期させ、その後、主クラッチ4及びPTOクラッチ22を同時に接続するので、変速操作時間を短縮することができる。
【0055】
特に、主クラッチ4はシンクロ機構を有し、クラッチの係合要素間に回転速度差があっても係合操作することが可能であるのに対し、PTOクラッチ22はシンクロ機構をそなえないドグクラッチであり、クラッチの係合要素間の回転速度差がゼロに極めて近い僅かな閾値dになるまでは係合操作することができないので、通常は、図5に示すように、はじめに主クラッチ4の接続が判定され、その後、PTOクラッチ22の接続が判定される。
【0056】
例えば、図5に示すように、時点t1で変速要求(目標ギヤ段への変更)があると、エンジン2及び電動機(モータ)30の各トルクをゼロに向けて徐々に減少するようにランプ制御し、エンジン2及び電動機(モータ)30の各トルクがゼロに所定の状態に接近した時点t2で、主クラッチ4及びPTOクラッチ22に切断要求を実施する。ここでは、エンジン2及び電動機30の各トルクが同時にゼロに到達するようにランプ制御しており、各トルクが所定の状態に接近した時点とは、各トルクがゼロになるまでの残り時間(t)がある閾値以下となる時点としている。
【0057】
主クラッチ4及びPTOクラッチ22に切断要求を実施すると、シンプルなドグクラッチであるPTOクラッチ22は、時点t2から応答遅れ時間だけ後の時点t3で切断され、シンクロ機構を有する主クラッチ4は、時点t2から切断側に徐々にストロークし、時点t4で主クラッチ4のストロークがギヤ抜きするための閾値aよりも小さくなり、この時点t4で現変速段のギヤ抜きを指令し、時点t4から応答遅れ時間だけ後の時点t5で現変速段のギヤ抜きが実施される。
【0058】
これと並行してランプ制御されていたエンジン2及び電動機30の各トルクが、やがてゼロに到達する(時点t6)。図示する例では、電動機30のトルクはその後一旦急激なオーバシュートをしたあとで略ゼロに到達するが、これはモータ回転速度を目標モータ速度に迅速に同期させるためである。
エンジン2及び電動機30の回転速度は、変速要求時点t1で変速先のギヤ段の変速比に合った目標速度(目標エンジン速度,目標モータ速度)に変更されるが、各トルクを減少制御している間には、回転速度は緩やかに変化するだけであるが、ギヤ抜きの実施時点t5以降若しくはエンジン2及び電動機30の各トルクゼロに到達した時点t6以降は、各回転速度は、それまでよりも速く目標速度に接近する。図示する例では、電動機30の回転速度は微妙なオーバシュートを繰り返して目標速度に接近する。
【0059】
この例では、エンジン2の回転速度が目標速度に対して比較的大きな許容差d1内に達し、ギヤ入れが完了した時点t7で、主クラッチ4に接続要求を実施する。
PTOクラッチ22も接続可能の体制には入るが、電動機30の回転速度が目標速度に接近してPTOクラッチ22係合要素間の回転速度差が微小な閾値d内に収束するまではPTOクラッチ22は接続を開始しない。
【0060】
主クラッチ4のストロークがエンジントルク復帰するための閾値bよりも大きくなったら、この時点t8で、エンジントルクの復帰を開始する。このエンジントルクの復帰も徐々に行なう(ランプ制御)。この時点では、エンジントルクのみとなるので、エンジントルクのみで要求トルクを賄うように、エンジントルクの復帰目標は車両の要求トルクとする。
【0061】
電動機30の回転速度が目標速度に接近してPTOクラッチ22係合要素間の回転速度差が微小な閾値d内に収束した時点t9´で、PTOクラッチ22の接続を開始する。シンプルなドグクラッチであるPTOクラッチ22は、時点t9´からわずかな応答遅れ時間だけ後の時点t9で接続される。
なお、閾値bは閾値aよりも小さく(b<a)設定されている。つまり、閾値aはギヤ抜きを指示してから実際にギヤが抜けるまでに時間がかかることを考慮して半クラッチ状態でも接続側の値に設定され、閾値bはクラッチが半クラッチで接続された時点でトルクが多少は復帰していた方が変速ショックが少なく、トルク復帰も若干早くなるので、半クラッチ状態でも切断側の値に設定される。
【0062】
この時点t9で、モータトルクの復帰を開始する。このモータトルクの復帰も徐々に行なう(ランプ制御)。この時点t9からは、エンジントルクにモータトルクが加わるので、エンジントルクはモータトルクの復帰分だけ差し引いて復帰する。そして、エンジントルクとモータトルクとのトータルトルクが要求トルクに近づくようにエンジントルクとモータトルクと所要のトルク配分状態に制御する。この例では、時点t9以降の時点t10で、トータルトルクが目標トルクに達するので、時点t10以降は、モータトルクの所要の配分トルクへの増加に応じてエンジントルクは所要の配分トルクへ減少し、その後の時点t11でエンジントルク及びモータトルクが所要のトルク配分状態となる。
【0063】
このようにして、電動機30のトルクを用いて走行していた場合の変速では、PTOクラッチ22の速やかな接続によって、変速操作時に一旦抜いた電動機30のトルク復帰を速やかに行なうことができ、変速時のエンジン2のトルク負担を軽減することができ、燃費や排ガスの点で有利になる。
また、変速が減速中に行なわれる場合、PTOクラッチ22の速やかな接続によって、電動機30による回生制動を直ちに復帰させることができ、回生量増加による燃費向上に寄与する。
【0064】
また、PTO装置20を利用して、電動機30を変速機6に接続しているので、既存のPTO装置を有する車両に、電動機30等を追加することによりハイブリッド自動車を低コストに構成することができる。
さらに、変速開始前に、エンジン2及び電動機30の出力トルクを0に制御し、主クラッチ4及びPTOクラッチ22の接続操作を同時に開始した後で、エンジン2及び電動機30の出力トルクを要求トルクに復帰させることにより、各クラッチ4,22の回転合わせ(同期)を円滑に且つ速やかに行なえ、車両のトルク復帰をより速やかに行なうことができる。
【0065】
一方、主クラッチ4の接続が判定される前に、PTOクラッチ22の接続が判定される場合も発生しうるため、本実施形態では、図6に示すように、はじめにPTOクラッチ22の接続が判定され、その後、主クラッチ4の接続が判定される場合の制御を、例えば図6に示すように実施している。なお、図6において、時点t7までは第1実施形態で例示した図5の場合と同様であるので、時点t7以降を説明する。
【0066】
つまり、図6に示すように、エンジン2の回転速度が目標速度に対して比較的大きな許容差d1内に達した時点t7でギヤ入れが実施され、これと同時に時点t7で主クラッチ4の接続動作が開始される。
電動機30の回転数合わせによってPTOクラッチ22の係合要素間に回転速度差が0又は0に極めて近い閾値d以内になってはじめて、PTOクラッチ22は動作開始するため、この時点では、PTOクラッチ22には接続動作を開始しない。
【0067】
ただし、ここでは、主クラッチ4のストロークがエンジントルク復帰するための閾値bよりも大きくなる前の時点t8´で、PTOクラッチ22の係合要素間に回転速度差が0又は0に極めて近い閾値d以内に収束すると、PTOクラッチ22の接続が開始され、シンプルなドグクラッチであるPTOクラッチ22は、時点t8´から応答遅れ時間だけ後の時点t8で接続される。
【0068】
そして、この時点t8で、電動機トルクの復帰を開始する。この電動機トルクの復帰も徐々に行なう(ランプ制御)。この時点では、電動機トルクのみとなるので、電動機トルクのみで要求トルクを賄うように、電動機トルクの復帰目標は車両の要求トルクとする。
一方、その後の時点t9で、主クラッチ4のストロークがエンジントルク復帰するための閾値bよりも大きくなると、この時点t9で、エンジントルクの復帰を開始する。このエンジントルクの復帰も徐々に行なう(ランプ制御)。
【0069】
この例では、時点t9以降の時点t10で、トータルトルクが目標トルクに達するので、時点t10以降は、エンジントルクの所要の配分トルクへの増加に応じてモータトルクは所要の配分トルクへ減少し、その後の時点t11でエンジントルク及びモータトルクが所要のトルク配分状態となる。
このようにして、第1実施形態と同様に、下記の効果を得ることができる。
【0070】
電動機30のトルクを用いて走行していた場合の変速では、PTOクラッチ22の速やかな接続によって、変速操作時に一旦抜いた電動機30のトルク復帰を速やかに行なうことができ、変速時のエンジン2のトルク負担を軽減することができ、燃費や排ガスの点で有利になる。
また、変速が減速中に行なわれる場合、PTOクラッチ22の速やかな接続によって、電動機30による回生制動を直ちに復帰させることができ、回生量増加による燃費向上に寄与する。
【0071】
また、既存のPTO装置を利用すると共に電動機30等を追加することによりハイブリッド自動車を低コストに構成することができる。
さらに、変速開始前に、エンジン2及び電動機30の出力トルクをゼロに制御し、主クラッチ4及びPTOクラッチ22の接続操作を同時に開始した後で、エンジン2及び電動機30の出力トルクを要求トルクに復帰させることにより、各クラッチ4,22の回転合わせ(同期)を円滑に且つ速やかに行なえ、車両のトルク復帰をより速やかに行なうことができる。
【0072】
さらに、本実施形態特有の効果として、主クラッチ4の接続が完了していなくても、PTOクラッチ22の接続が完了していれば、クラッチ制御部40eによって主クラッチ4の接続制御を続行しながら、出力トルク制御部40gによって電動機30を要求トルクの状態に復帰制御するので、PTOクラッチ22の接続後に、PTO装置20に接続されている電動機30や動力伝達シャフト等の回転体が負荷となって、車両が失速するような事態を回避することができる。
【0073】
つまり、エンジントルクが駆動輪14に加えられていない状態で、PTOクラッチ22が接続されると、PTO装置20に接続されている電動機30や動力伝達シャフト等の回転体が回転の負荷となって駆動輪14の制動トルクとなってしまうが、PTOクラッチ22が接続されると速やかに電動機30のトルクが復帰するので、かかる回転体の負荷に対してこの電動機30のトルクが対抗して作用し、駆動輪14への制動トルクの付加を防止することができ、車両が失速を回避することができる。もちろん、変速にかかるトルク抜け期間の短縮にも寄与する。
【0074】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲でかかる実施形態を変形したり、更なる構成を付加したりして実施することができる。
例えば、上記の各実施形態では、PTO装置20を利用して電動機30を付設してハイブリッド自動車1を構成しているが、PTO装置20のPTOクラッチ22に相当するクラッチ(副クラッチ)を介して、変速機に電動機を接続可能に後付けしたものにも本発明を適用できる。
【0075】
また、主クラッチは、シンクロ機構を有する滑り係合可能なクラッチであればいずれのタイプのものでもよく、副クラッチは、シンプルなものでればドグクラッチに限らずいずれのタイプのものでもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 ハイブリッド自動車
2 ディーゼルエンジン(内燃機関)
4 クラッチ(主クラッチ)
6 自動変速機(変速機)
8 プロペラシャフト
10 差動装置
12 駆動軸
14 駆動輪
20 PTO装置
22 PTOクラッチ(副クラッチ)
24 PTO入力軸
26 PTO出力軸及びモータ回転軸(変速機への入力軸)
28 PTOギヤ
30 電動機(電動発電機)
32 バッテリ
34 DC/DCコンバータ
36 インバータ
38 コンタクタ
40 車両ECU
40a 要求トルク演算部(要求トルク演算手段)
40b トルク配分部(トルク配分手段)
40c 変速要求検出部(変速要求検出手段)
40d 変速制御部(変速制御手段)
40e クラッチ制御部(クラッチ制御手段)
40f 同期制御部(同期制御手段)
42 エンジンECU
44 バッテリECU
46 インバータECU
62 変速機6の入力軸
64 変速機6のカウンタ軸(従動軸)
66 変速機6の出力軸
70a,70b,70c,70d 変速ギヤ
72a,72b シンクロ機構
74 変速アクチュエータ
76 変速位置センサ
78 PTO回転センサ
80 車速センサ
82 アクセルペダル
84 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、上記内燃機関と並列に設けられ、該内燃機関の駆動力をアシスト可能な電動機と、をそなえたハイブリッド自動車の変速制御装置であって、
上記内燃機関からの駆動力、又は上記内燃機関及び上記電動機からの駆動力を駆動輪に出力する変速機と、
上記内燃機関の出力軸と上記変速機の入力軸との間に設けられ、該内燃機関と該変速機との駆動力伝達を断接可能な主クラッチと、
上記変速機の従動軸と上記電動機の入力軸との間に設けられ、該電動機と該変速機との駆動力伝達を断接可能な副クラッチと、
上記主クラッチ及び上記副クラッチを断接制御するクラッチ制御手段と、
上記主クラッチ及び上記副クラッチが切断状態である時に、上記内燃機関の回転速度を上記変速機の入力軸の回転速度に同期させると共に、上記電動機の回転速度を上記変速機の従動軸の回転速度に同期させる制御をする同期制御手段と、
上記車両の走行状態に基づいて上記変速機の変速要求を検出する変速要求検出手段と、
上記変速要求検出手段により所望の変速段への変速要求が検出されると、上記クラッチ制御手段により上記主クラッチ及び上記副クラッチを切断した上で、上記変速制御手段により上記所望の変速段への変速を行なうと共に、上記同期制御手段により上記内燃機関の回転速度を上記変速機の入力軸の回転速度に同期させ且つ上記電動機の回転速度を上記変速機の従動軸の回転速度に同期させせる同期制御を行ない、上記クラッチ制御手段により上記主クラッチ及び上記副クラッチをそれぞれ同期条件が成立したら接続する変速制御手段と、
上記車両のアクセル開度に基づいて要求トルクを算出する要求トルク算出手段と、
上記要求トルク算出手段により算出された要求トルクに基づいて上記内燃機関及び上記電動機の出力トルクを制御する出力トルク制御手段と、を備え、
上記出力トルク制御手段は、変速中には、上記内燃機関及び上記電動機の各出力トルクをゼロに制御し、変速完了期に、上記主クラッチの接続が達成されたら、上記内燃機関の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させ、上記副クラッチの接続が達成されたら、上記電動機の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させる
ことを特徴とする、ハイブリッド自動車の変速制御装置。
【請求項2】
上記副クラッチには、上記内燃機関の駆動力を上記変速機の上記従動軸から取り出すPTO装置と上記変速機との駆動力伝達を断接するPTOクラッチが用いられている
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド自動車の変速制御装置。
【請求項3】
上記主クラッチは、シンクロ機構を有する滑り係合可能なクラッチであり、
上記副クラッチは、シンクロ機構を有しないドグクラッチであって、
上記副クラッチの上記同期条件は上記電動機の回転速度と上記変速機の従動軸の回転速度との回転速度差を許容しないものであって、上記主クラッチの上記同期条件は上記内燃機関の回転速度と上記変速機の入力軸の回転速度との回転速度差を許容するものである
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のハイブリッド自動車の変速制御装置。
【請求項4】
上記出力トルク制御手段では、上記内燃機関の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させる際、及び、上記電動機の出力トルクを要求トルクに基づくトルクに復帰させる際に、目標トルクに向かって徐々に接近させるランプ制御を用いる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のハイブリッド自動車の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105023(P2011−105023A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258818(P2009−258818)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】