説明

ハイブリッド自動車

【課題】パワーの出力を優先させた走行モードが要求された場合に走行性能を十分に発揮する。
【解決手段】制振制御の実行条件が成立したときには(S110〜S130)、モータ回転角速度ωm2と駆動輪回転角速度ωbとの差に制御ゲインkvを乗じた値に基づいて制振トルクTvを設定し、設定した制振トルクTvとトルク指令Tm2*との和を実行トルクT2*として設定し、この実行トルクT2*がモータMG2から出力されるようモータMG2を駆動する制振制御を実行し(S140〜S170)、運転モードDMがパワーモードで且つアクセルオンのときには、その他の実行条件が成立している場合であっても、モータMG2のトルク指令Tm2*を実行トルクT2*に設定して(S180)、制振制御を実行しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と、走行用の電動機と、運転者のアクセル操作に対してパワーの出力が異なる複数の制御モードのうち設定されている制御モードに基づいて運転者のアクセル操作に対して車両に要求される要求トルクを設定すると共に該設定した車両要求トルクに基づいて前記電動機から出力すべき電動機要求トルクを設定する要求トルク設定手段と、前記設定された電動機要求トルクと車両の振動を抑制するための制振トルクとの和のトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する電動機制御手段と、を備えるハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンとモータとを備えるものにおいて、モータから出力すべきトルクと車両の振動を抑制するための制振トルクとの和のトルクが出力されるようモータを制御するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド自動車では、燃費を優先するECOモードを選択するためのECOスイッチが設けられ、ECOスイッチがオンされると、制振トルクに値0を設定して制振トルクが出力されないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のハイブリッド自動車では、燃費を優先した走行モードでの走行に対応することができるものの、燃費よりもパワーの出力を優先させた走行モードが選択された場合には、パワーの出力を優先した対応をすることも求められる。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、パワーの出力を優先させた走行モードが要求された場合に走行性能を十分に発揮することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
内燃機関と、走行用の電動機と、運転者のアクセル操作に対してパワーの出力が異なる複数の制御モードのうち設定されている制御モードに基づいて運転者のアクセル操作に対して車両に要求される要求トルクを設定すると共に該設定した車両要求トルクに基づいて前記電動機から出力すべき電動機要求トルクを設定する要求トルク設定手段と、前記設定された電動機要求トルクと車両の振動を抑制するための制振トルクとの和のトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する電動機制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記電動機制御手段は、前記制御モードのうちパワーの出力に対する応答性が高い方のモードが設定され且つアクセルオンされている場合には、前記制振トルクを出力せずに前記電動機から前記電動機要求トルクが出力されるよう該電動機を制御する手段である

ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド自動車では、運転者のアクセル操作に対してパワーの出力が異なる複数の制御モードのうち設定されている制御モードに基づいて運転者のアクセル操作に対して車両に要求される要求トルクを設定すると共に設定した車両要求トルクに基づいて電動機から出力すべき電動機要求トルクを設定し、設定した電動機要求トルクと車両の振動を抑制するための制振トルクとの和のトルクが電動機から出力されるよう電動機を制御する。これにより、車両の振動の発生を抑制することができる。一方、複数の制御モードのうちパワーの出力に対する応答性が高い方のモードが設定され且つアクセルオンされている場合には、制振トルクを出力せずに電動機から電動機要求トルクが出力されるよう電動機を制御する。これにより、パワーの出力を優先させた走行が要求されたときに、車両の走行性能を十分に発揮させることができる。
【0009】
こうした本発明のハイブリッド自動車において、前記複数の制御モードは、燃費を優先した燃費優先走行モードと、燃費よりもパワーの出力を優先させたパワー出力優先走行モードとを含むものとすることもできる。
【0010】
また、本発明のハイブリッド車において、動力を入出力可能な発電機と、前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸と車両の車軸に連結された駆動軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、を備えるものとすることできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータECU40により実行されるモータ制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図4】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図5】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図6】変形例のハイブリッド自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという。)70と、を備える。
【0014】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号、例えば、クランクシャフトの回転位置を検出するクランクポジションセンサからのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサからの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサからの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブや排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサからのカムポジション,スロットルバルブのポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサからのスロットルポジションSP,吸気管に取り付けられたエアフローメータからの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサからの吸気温Ta,排気系に取り付けられた空燃比センサからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサからの酸素信号O2などが入力ポートを介して入力されており、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁への駆動信号や、スロットルバルブのポジションを調節するスロットルモータへの駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイルへの制御信号、吸気バルブの開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフトに取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフトの回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0015】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチングするためのスイッチング制御信号が出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2を演算したり、モータMG2の回転角速度ωm2に基づいてモータMG2の回転軸に換算した駆動輪38a,38bの回転角速度としての駆動輪回転角速度ωbを演算したりしている。実施例では、駆動輪回転角速度ωbは、モータMG2から駆動輪38a,38bの間の特性に限定することにより得られる2慣性系の制御系設計モデルに対して制御サンプル時間で0次ホールドを用いて離散化したモデルを用いて演算するものとした。
【0016】
バッテリECU52は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0017】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、実施例のハイブリッド自動車20には、運転席の近傍に、運転モードとして動力性能すなわちアクセル操作に対するトルク出力の応答性を優先するパワーモードを選択するためのパワースイッチ89が設けられており、このパワースイッチ89からの信号も入力ポートを介してHVECU70に入力されている。なお、HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0018】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードとは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動力36に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0019】
エンジン運転モードでは、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accに基づいて制御用アクセル開度Acc*を設定し、設定した制御用アクセル開度Acc*と車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定する。ここで、制御用アクセル開度Acc*の設定は、パワースイッチ89がオフされて運転モードとしてノーマルモードが設定されているときには0%〜100%の範囲でアクセル開度Accに対して線形性を持つように制御用アクセル開度Acc*に設定し、パワースイッチ89がオンされて運転モードとしてパワーモードが設定されているときにはアクセル操作に対する出力トルクの応答性を向上させるためにノーマルモードに比して大きな値を制御用アクセル開度Acc*に設定することにより行なわれる。続いて、設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算すると共に計算した走行用パワーPdrvからバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行ない、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0020】
モータ運転モードでは、HVECU70は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0021】
実施例のハイブリッド自動車20は、モータ運転モードで運転している最中に、運転者のアクセルペダル83の踏み込みによりバッテリ50からの電力だけでは走行用パワーPdrvを賄うことができないときや、バッテリ50の蓄電割合SOCがエンジン運転モードに切り替えるために予め定められた閾値以下になったとき、その他、車両の状態がエンジン運転モードに切り替えるために予め定められた状態に至ったときに、エンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。エンジン22の始動は、モータMG1からトルクを出力してエンジン22をモータリングすると共にモータMG1からのトルクの出力により駆動軸36に作用するトルクをモータMG2からのトルクによりキャンセルし、エンジン22のエンジン回転速度Neが予め定められた制御開始回転数に至ったときに燃料噴射制御や点火制御などを開始することにより行なわれる。
【0022】
また、実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン運転モードで運転している最中に、バッテリ50の蓄電割合SOCが閾値以上で走行用パワーPdrvをバッテリ50からの放電で賄うことができるときや、運転者により図示しないモータ走行スイッチが押されたとき、その他、車両の状態がモータ運転モードに切り替えるために予め定められた状態に至ったときに、エンジン22の運転を停止してモータ運転モードに移行する。エンジン22の運転停止は、エンジン22をアイドリング制御しながら可変バルブタイミング機構による吸気バルブの開閉タイミングが最遅角(最も遅いタイミング)に変更されるようエンジン22を制御し、可変バルブタイミング機構の吸気バルブの開閉タイミングが最遅角になると、燃料噴射と点火を停止し、次にエンジン22を始動するときに始動性が良好となるクランク角位置で停止するようモータMG1により停止位置を調整することにより行なわれる。
【0023】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に走行中の車両の振動を抑制する際の動作について説明する。図2は、モータECU40により実行されるモータ制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0024】
モータ制御ルーチンが実行されると、モータECU40は、まず、アクセル開度Accや運転モードDM,モータMG2のトルク指令Tm2*,モータMG2の回転角速度であるモータ回転角速度ωm2や駆動輪回転角速度ωbなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、運転モードDMは、実施例では、前述したノーマルモードとパワーモードとが予め定められており、パワースイッチ89がオフされているときにはHVECU70から通信によりノーマルモードの設定値が入力され、パワースイッチ89がオンされるとHVECU70から通信によりパワーモードの設定値が入力される。
【0025】
次に、運転モードDMがパワーモードで且つアクセルオン即ちアクセル開度Accが閾値(例えば、30%など)以上か否か(ステップS110)、車両の振動を抑制するための制振制御を実行すべきその他の第1の実行条件が成立しているか(ステップS120)、制振制御のその他の第2の実行条件が成立しているか否か(ステップS130)をそれぞれ判定する。なお、第1の実行条件が成立しているか否かの判定は、例えば、車速Vが所定車速Vref未満であることや、エンジン22が始動している最中であること、エンジン22を停止している最中であることなどの条件のうちのいずれかが成立しているか否かを判定することにより行なわれる。また、第2の実行条件が成立しているか否かの判定は、例えば、シフトレバー81がドライブレンジやリバースレンジ,ブレーキレンジのいずれかであることや、モータMG2の過熱を抑制するためにモータMG2に課される負荷率制限値が閾値よりも緩和されていること、退避走行中でないことなどの条件のすべてが成立しているか否かを判定することにより行なわれる。
【0026】
ステップS110で運転モードDMがパワーモードでないと判定されたりパワーモードであってもアクセルオンでないと判定され且つステップS120で第1の実行条件のいずれかが成立していると判定され且つステップS130で第2の実行条件のいずれもが成立していると判定されると、次式(1)によりモータ回転角速度ωm2と駆動輪回転角速度ωbとの差に制御ゲインkvを乗じた値として仮の制振トルクTvtmpを設定し(ステップS140)、式(2)に示すように設定した仮制振トルクTvtmpの大きさ(正側および負側の大きさ)を制限トルクTlimにより制限することにより制振トルクTvを設定し(ステップS150)、設定した制振トルクTvとトルク指令Tm2*との和を実行トルクT2*として設定し(ステップS160)、この実行トルクT2*がモータMG2から出力されるようパルス幅変調制御(PWM制御)などによりインバータ42の図示しないスイッチング素子をスイッチングしてモータMG2を駆動して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。制限トルクTlimは、車両の振動を抑制することができる程度に且つモータMG2から出力する実行トルクT2*がバッテリ50の入出力制限Win,Woutを超えないように制振トルクTvの大きさを制限するために設定されたものであり、実験などにより定めることができる。
【0027】
Tvtmp=kv*・(ωm2−ωb) (1)
Tv=max(min(Tvtmp,Tlim),-Tlim) (2)
【0028】
一方、ステップS110で運転モードDMがパワーモードで且つアクセルオンと判定されたり、ステップS120で第1の実行条件のいずれもが成立していないと判定されたり、ステップS130で第2の実行条件のいずれかが成立していないと判定されると、入力したモータMG2のトルク指令Tm2*を実行トルクT2*に設定し(ステップS180)、設定した実行トルクT2*がモータMG2から出力されるようモータMG2を駆動して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。制振制御は、モータMG2からのモータトルクの出力によって駆動系に生じる捻れをキャンセルする方向のトルク(制振トルク)をモータトルクに付加することにより行なわれる。いま、モータMG2からのモータトルクにより加速走行している状態を考えると、この状態では駆動系に生じる捻れは周期的な変動する成分だけでなく定常的な成分が残存するため、捻れをキャンセルする方向に制振トルクを出力すると、動力性能が低下する。運転モードDMがパワーモードで且つアクセルオンのときにトルク指令Tm2*を実行トルクT2*に設定して制振制御を実行しないのは、制振制御を実行することによる動力性能の低下を防止し、パワーモードによる走行性能を十分に発揮させるためである。
【0029】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、制振制御の実行条件が成立したときには、モータ回転角速度ωm2と駆動輪回転角速度ωbとの差に制御ゲインkvを乗じた値に基づいて制振トルクTvを設定し、設定した制振トルクTvとトルク指令Tm2*との和を実行トルクT2*として設定し、この実行トルクT2*がモータMG2から出力されるようモータMG2を駆動する制振制御を実行し、運転モードDMがパワーモードで且つアクセルオンのときには、その他の制振制御の実行条件が成立している場合であっても、モータMG2のトルク指令Tm2*を実行トルクT2*に設定して制振制御を実行しないから、動力性能の低下を防止し、パワーモードによる走行性能を十分に発揮させることができる。
【0030】
実施例のハイブリッド自動車20では、運転モードとしてパワーモードとノーマルモードとを備えるものとしたが、エンジン22の燃費やエネルギ効率を優先するエコモードを備えるものとしてもよい。この場合、エコモードは、アクセル操作に対するトルク出力の応答性を低下させるためアクセル開度Accに対してノーマルモードよりも小さな値を制御用アクセル開度Acc*として設定するものとすればよい。
【0031】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図3の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力を駆動軸36が接続された車軸(駆動輪38a,38bが接続された車軸)とは異なる車軸(図3における車輪39a,39bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。この場合、モータMG2の回転角速度ωm2に基づいてモータMG2の回転軸に換算した駆動輪39a,39bの回転角速度としての駆動輪回転角速度ωbを演算し、上述の式(1)により仮制振トルクTvtmpを計算すればよい。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力するものとしたが、図4の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪38a,38bに動力を出力する駆動軸36に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸36に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0033】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図5の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に変速機330を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。あるいは、図6の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22からの動力を変速機430を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪38a,38bが接続された車軸とは異なる車軸(図6における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。即ち、エンジンと走行用の動力を出力する電動機とを備えるものであれば如何なるタイプのハイブリッド自動車としてもよいのである。
【0034】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車20の形態として説明したが、自動車以外の車両の形態としてもよいし、車両の制御方法の形態としてもよい。
【0035】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算しこの要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定するHVECU70が「要求トルク設定手段」に相当し、図2のモータ制御ルーチンを実行するモータECU40が「電動機制御手段」に相当する。
【0036】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0037】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ハイブリッド車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
20,120,220,320,420 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、39a,39b 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330,430 変速機、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、走行用の電動機と、運転者のアクセル操作に対してパワーの出力が異なる複数の制御モードのうち設定されている制御モードに基づいて運転者のアクセル操作に対して車両に要求される要求トルクを設定すると共に該設定した車両要求トルクに基づいて前記電動機から出力すべき電動機要求トルクを設定する要求トルク設定手段と、前記設定された電動機要求トルクと車両の振動を抑制するための制振トルクとの和のトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する電動機制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記電動機制御手段は、前記制御モードのうちパワーの出力に対する応答性が高い方のモードが設定され且つアクセルオンされている場合には、前記制振トルクを出力せずに前記電動機から前記電動機要求トルクが出力されるよう該電動機を制御する手段である
ことを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−232690(P2012−232690A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103417(P2011−103417)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】