説明

ハイブリッド車の制御装置

【課題】エンジンとMG(モータジェネレータ)との間にクラッチを設けたハイブリッド車において、MGの要求トルクの低減と燃費向上を実現しながら、減速からの再加速時に車両をスムーズに加速させることができるようにする。
【解決手段】車両の走行中にブレーキが作動状態になったときに始動クラッチ18を解放すると共にエンジン11の燃焼を停止させる減速要求時制御を実行し、この減速要求時制御の実行中にブレーキの作動が解除されたときに始動クラッチ18を締結させてエンジン回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行して、車輪17の動力とMG12の動力の両方でエンジン回転速度を引き上げる。そして、エンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態になったときにエンジン11を再始動させて、再加速要求が発生した直後からエンジン11の動力とMG12の動力の両方で車両を加速させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力源としてエンジンとMG(モータジェネレータ)とを搭載したハイブリッド車の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、低燃費、低排気エミッションの社会的要請から車両の動力源としてエンジンとMGとを搭載したハイブリッド車が注目されている。このようなハイブリッド車においては、エンジンの動力を変速機を介して車輪の駆動軸に伝達する動力伝達経路のうちのエンジンと変速機との間にMGを配置すると共にエンジンとMGとの間にクラッチを設けるようにしたものがある。
【0003】
このような駆動システムにおいては、特許文献1(特開2002−144921号公報)に記載されているように、車両の走行中にブレーキが作動状態のときにエンジンを停止すると共にクラッチを解放し、ブレーキが作動状態から非作動状態に変化する際の変化速度が所定値よりも大きくなったときにクラッチを接続してエンジンを再始動させるようにしたものがある。
【0004】
また、特許文献2(特開2005−138743号公報)に記載されているように、エンジンクラッチ(エンジンとMGとの間に設けたクラッチ)の接続時に、エンジンクラッチの引き摺りトルクによる車両駆動力の減少を補償するモータトルク量(補償トルク)を算出して、最大モータトルクから補償トルクを引いたモータトルク量(車両駆動モータトルク)を算出し、実アクセル開度が所定開度(車両駆動モータトルク以下で目標駆動力を達成できなくなるときのアクセル開度)を越える前にエンジンクラッチの接続を開始して、エンジンクラッチの接続開始から接続終了まで目標駆動力を車両駆動モータトルク以下で実現できる駆動力に修正することで、エンジンクラッチの引き摺りによるトルクを補償できるだけの余裕をモータに与えるようにしたものがある。
【0005】
更に、特許文献3(特開2007−69817号公報)に記載されているように、第1クラッチ(エンジンとMGとの間に設けたクラッチ)を締結進行させてエンジンを始動させる際に、第2クラッチ(MGと変速機との間に設けたクラッチ)をスリップ締結させることで、エンジンの始動に伴う第1クラッチの伝達トルク変動が駆動車輪に伝達されることを防止するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−144921号公報
【特許文献2】特開2005−138743号公報
【特許文献3】特開2007−69817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の技術では、ブレーキが作動状態から非作動状態に変化する際にクラッチを接続してエンジンを再始動させるため、アクセルが踏み込まれる前(つまり加速要求が発生する前)にエンジンが再始動されてしまうことがあり、燃費の悪化を招く可能性がある。
【0008】
また、上記特許文献2の技術では、アクセルが踏み込まれて加速要求が発生してからエンジンクラッチを接続してエンジンを始動させるため、減速からの再加速時に車両をスムーズに加速させるには、MGのトルクで車両を加速させながらエンジンの回転速度を引き上げてエンジンを再始動する必要があり、この場合、車両を加速させるためのトルクに加えてエンジンの回転速度を引き上げるためのトルクをMGで出力する必要があるため、MGの要求トルク(MGに要求されるトルク)がかなり大きくなり、MGの小型化の要求を満たすことができない。
【0009】
更に、上記特許文献3の技術では、第1クラッチを締結進行させてエンジンを始動させる際に、第2クラッチをスリップ締結させるため、駆動車輪に伝達されるトルクを確保するには、第2クラッチのスリップによるトルク減少分をMGのトルク増加で補う必要があり、MGの要求トルクが益々増大するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、MGの要求トルクの低減と燃費向上を実現しながら、減速からの再加速時に車両をスムーズに加速させることができるハイブリッド車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両の動力源としてエンジンとモータジェネレータ(以下「MG」と表記する)とを搭載し、エンジンの動力を車輪の駆動軸に伝達する動力伝達経路にMGを配置すると共にエンジンとMGとの間にクラッチを設けたハイブリッド車の制御装置において、車両の走行中にドライバの減速要求があったときにクラッチを解放すると共にエンジンの燃焼を停止させる減速要求時制御を実行する制御手段を備え、この制御手段は、減速要求時制御の実行中にドライバの減速要求がなくなったときにクラッチを締結させてエンジンの回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行し、該エンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態になったときにエンジンを再始動させるようにしたものである。
【0012】
この構成では、車両の走行中にドライバの減速要求があったとき(例えばブレーキが作動状態のとき)にクラッチを解放すると共にエンジンの燃焼を停止させる減速要求時制御を実行することで、エンジンのフリクションの影響を受けずに、車輪の動力でMGを回転駆動して車両の運動エネルギをMGで電力に変換してバッテリに回収(充電)する減速回生を効率良く行うことができる。
【0013】
そして、減速要求時制御の実行中にドライバの減速要求がなくなったとき(例えばブレーキの作動が解除されたとき)にクラッチを締結させてエンジンの回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行することで、再加速要求が発生する前(アクセルが踏み込まれる前)に、車輪の動力とMGの動力の両方でエンジンを回転駆動してエンジンの回転速度を引き上げることができ、MGのトルクをあまり大きくしなくても、エンジンの回転速度を速やかに引き上げることができる。
【0014】
この後、エンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態(アクセルが踏み込まれた状態)になったときにエンジンを再始動させる。この場合、エンジン回転引上制御によって既にエンジン回転速度が引き上げられている(エンジンがMGにより連れ回りされている)ため、エンジンを再始動させる際には、エンジンの燃料噴射を再開することでエンジンを速やかに再始動させることができ、再加速要求が発生した直後からエンジンの動力とMGの動力の両方で車両を加速させることができる。
【0015】
これにより、車両を加速させるためのトルクとエンジンの回転速度を引き上げるためのトルクを同時にMGで出力するシステムに比べて、MGの要求トルクを低減することができるため、MGの小型化の要求を満たすことができると共に、再加速要求が発生した直後からエンジンの動力とMGの動力の両方で車両を加速させることができるため、減速からの再加速時に車両をスムーズに加速させることができる。しかも、再加速要求が発生してからエンジンを再始動させるため、再加速要求が発生する前にエンジンを再始動するシステムに比べて、燃費を向上させることができる。
【0016】
ところで、エンジン回転引上制御(クラッチを締結させてエンジンの回転速度を引き上げる制御)を実行すると、クラッチの摩擦材によるばらつき等によって伝達トルクが変化するため、その影響で車輪の駆動軸に伝達されるトルク(駆動軸のトルク)が変動して駆動軸の回転変動が発生すると、車両の前後加速度が変動してドライバビリティが悪化する可能性がある。
【0017】
この対策として、請求項2のように、エンジン回転引上制御を実行したときに駆動軸の回転変動を抑制するようにMGのトルクを制御する回転変動抑制制御を実行するようにすると良い。このようにすれば、エンジン回転引上制御を実行したときに、クラッチの伝達トルクが変化しても、回転変動抑制制御によって駆動軸のトルク(=クラッチの伝達トルク+MGのトルク)の変動を抑制して、駆動軸の回転変動を抑制することができ、これにより、車両の前後加速度の変動を抑制してドライバビリティを向上させることができる。しかも、ブレーキの作動が解除されたときに実行されるエンジン回転引上制御の実行中は、ブレーキによるトルク変動やエンジンのトルク変動がほとんど発生しないため、駆動軸の回転変動を抑制するようにMGのトルクを制御する回転変動抑制制御を容易に行うことができる。
【0018】
また、第2クラッチ(MGと変速機との間に設けたクラッチ)をスリップさせて駆動軸の回転変動を抑制するシステムでは、第2クラッチのスリップによるトルク減少分をMGのトルク増加で補う必要があり、MGの要求トルクが増大すると共に、第2クラッチの摩耗劣化や発熱が促進されるという欠点があるが、請求項2に係る発明では、回転変動抑制制御によって駆動軸の回転変動を抑制することができるため、MGと変速機との間にクラッチを設けた場合でも、そのクラッチをスリップさせる必要がなく、MGの要求トルクの増大を防止してMGの小型化を確実に達成することができると共に、クラッチの摩耗劣化や発熱の促進を抑制することができるという効果も有する。
【0019】
更に、請求項3のように、駆動軸又は該駆動軸と同期して回転する部分の回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、回転変動抑制制御の際に、回転速度検出手段で検出した実回転速度の変動量を算出し、該実回転速度の変動量に基づいてMGのトルクを補正するようにすると良い。駆動軸のトルク(=クラッチの伝達トルク+MGのトルク)に応じて駆動軸の回転速度が変化するため、駆動軸側(駆動軸又は該駆動軸と同期して回転する部分)の実回転速度の変動量は、駆動軸のトルクの変動量を精度良く反映したパラメータとなる。従って、駆動軸側(駆動軸又は該駆動軸と同期して回転する部分)の実回転速度の変動量に基づいてMGのトルクを補正すれば、駆動軸のトルクの変動を精度良く抑制して、駆動軸の回転変動を精度良く抑制することができる。
【0020】
この場合、請求項4のように、回転変動抑制制御の際に、MGが発生する減速力と車速に基づいて規範回転速度を算出し、該規範回転速度と実回転速度との差を実回転速度の変動量として算出するようにしても良い。このようにすれば、規範回転速度を基準にして実回転速度の変動量を算出することができる。
【0021】
或は、請求項5のように、回転変動抑制制御の際に、回転速度検出手段で検出した実回転速度に所定の周波数帯域を遮断又は通過させるフィルタ(例えばローパスフィルタ又はバンドストップフィルタ等)処理を施し、該フィルタ処理後の回転速度と実回転速度との差を実回転速度の変動量として算出するようにしても良い。このようにすれば、フィルタ処理後の回転速度を基準にして実回転速度の変動量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるハイブリッド車の駆動システム全体の概略構成を示す図である。
【図2】図2は回転変動抑制制御の概要を説明する図である。
【図3】図3は回転変動抑制制御の具体例を説明するブロック図である。
【図4】図4はメインルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は回転変動抑制制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図6はアシストトルク補正値算出ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は規範回転速度算出ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図8は本実施例の回転変動抑制制御の実行例を示すタイムチャートである。
【図9】図9は比較例の回転変動抑制制御の実行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてハイブリッド車の駆動システム全体の概略構成を説明する。
【0024】
車両の動力源として内燃機関であるエンジン11とモータジェネレータ(以下「MG」と表記する)12とが搭載されている。エンジン11の出力軸(クランク軸)の動力がMG12を介して変速機13に伝達され、この変速機13の出力軸が駆動軸14に連結され、この駆動軸14の動力がデファレンシャルギヤ機構15や車軸16等を介して車輪17に伝達される。変速機13は、複数段の変速段の中から変速段を段階的に切り換える有段変速機であっても良いし、無段階に変速するCVT(無段変速機)であっても良い。
【0025】
また、エンジン11の動力を駆動軸14に伝達する動力伝達経路のうちの、エンジン11とMG12との間には、動力伝達を断続、及びエンジン回転引き上げを行うための始動クラッチ18が設けられ、MG12と変速機13との間には、動力伝達を断続するための発進クラッチ19が設けられている。これらのクラッチ18,19は、油圧駆動式の油圧クラッチであっても良いし、電磁駆動式の電磁クラッチであっても良い。また、MG12を駆動するインバータ20がバッテリ21に接続され、MG12がインバータ20を介してバッテリ21と電力を授受するようになっている。
【0026】
アクセルセンサ22によってアクセル開度(アクセルペダルの操作量)が検出され、シフトスイッチ23によってシフトレバーの操作位置が検出される。また、ブレーキスイッチ24によってブレーキ操作が検出され、回転速度センサ25(回転速度検出手段)によって駆動軸14(又は変速機13の出力軸)の回転速度が検出される。この回転速度センサ25の出力信号に基づいて車速が検出される。更に、エンジン11には、エンジン11の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ30が取り付けられ、MG12には、MG12の回転速度を検出するMG回転速度センサ31が取り付けられている。
【0027】
ハイブリッドECU26は、ハイブリッド車全体を総合的に制御するコンピュータであり、上述した各種のセンサやスイッチの出力信号を読み込んで車両の運転状態を検出する。このハイブリッドECU26は、エンジン11の運転を制御するエンジンECU27と、インバータ20を制御してMG12の運転を制御するMG−ECU28と、変速機13及びクラッチ18,19の動作を制御するトランスミッションECU29との間で制御信号やデータ信号等を送受信し、各ECU27〜29によって車両の運転状態に応じてエンジン11とMG12と変速機13とクラッチ18,19を制御する。尚、始動クラッチ18や発進クラッチ19を制御するクラッチECUを設けるようにしても良い。
【0028】
本実施例では、例えば、車両の停止中にアクセルが踏み込まれて加速要求が発生したときに、始動クラッチ18を解放すると共に発進クラッチ19を締結させた状態で、エンジン11を停止状態に維持したままMG12の動力で車輪17を駆動して車両を走行させるEV走行を行う。
【0029】
その後、車速が所定値以上になったときに、始動クラッチ18を締結させてエンジン11の回転速度を引き上げた後、エンジン11の燃焼(燃料噴射及び点火)を開始してエンジン11を始動させて、エンジン11の動力とMG12の動力の両方で車輪17を駆動して車両を走行させるHV走行を行う。
【0030】
その後、車両の走行中にアクセルの踏み込みが解除されたときには、車輪17の動力でMG12を回転駆動して車両の運動エネルギをMG12で電力に変換してバッテリ21に回収(充電)する減速回生を行う。更に、車両の走行中にブレーキが踏み込まれてブレーキが作動状態になったとき(減速要求が発生したとき)に、始動クラッチ18を解放すると共にエンジン11の燃焼(燃料噴射及び点火)を停止させる減速要求時制御を実行することで、エンジン11のフリクションの影響を受けずに、減速回生を効率良く行う。
【0031】
この減速要求時制御の実行中にブレーキの作動が解除されてアクセルが踏み込まれた場合(加速要求が発生した場合)には、エンジン11を再始動して車両を再加速させる必要がある。しかし、ブレーキの作動が解除されたとき(又はブレーキが作動状態から非作動状態に変化するとき)に、始動クラッチ18を締結させてエンジン11を再始動させるシステムでは、アクセルが踏み込まれる前(つまり加速要求が発生する前)にエンジン11が再始動されてしまうことがあり、燃費の悪化を招く可能性がある。
【0032】
また、アクセルが踏み込まれて加速要求が発生してから始動クラッチ18を締結させてエンジン11を再始動させるシステムでは、減速からの再加速時に車両をスムーズに加速させるには、MG12のトルクで車両を加速させながらエンジン11の回転速度を引き上げてエンジン11を再始動する必要があり、この場合、車両を加速させるためのトルクに加えてエンジン11の回転速度を引き上げるためのトルクをMG12で出力する必要があるため、MG12の要求トルク(MG12に要求されるトルク)がかなり大きくなる。
【0033】
そこで、本実施例では、ハイブリッドECU26(又は他のECU)により後述する図4乃至図7の各ルーチンを実行することで、減速要求時制御の実行中にブレーキの作動が解除されたときに始動クラッチ18を締結させてエンジン11の回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行し、このエンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態になったときにエンジン11を再始動させる。
【0034】
つまり、減速要求時制御の実行中にブレーキの作動が解除されたときに始動クラッチ18を締結させてエンジン11の回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行することで、再加速要求が発生する前(アクセルが踏み込まれる前)に、車輪17の動力とMG12の動力の両方でエンジン11を回転駆動してエンジン11の回転速度を引き上げることができ、MG12のトルクをあまり大きくしなくても、エンジン11の回転速度を速やかに引き上げることができる。
【0035】
この後、エンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態(アクセルが踏み込まれた状態)になったときにエンジン11を再始動させる。この場合、エンジン回転引上制御によって既にエンジン11の回転速度が引き上げられている(エンジン11がMG12により連れ回りされている)ため、エンジン11を再始動させる際には、エンジン11の燃料噴射を再開することでエンジン11を速やかに再始動させることができ、再加速要求が発生した直後からエンジン11の動力とMG12の動力の両方で車両を加速させることができる。
【0036】
ところで、エンジン回転引上制御(始動クラッチ18を締結させてエンジン11の回転速度を引き上げる制御)を実行すると、始動クラッチ18の摩擦材によるばらつき等によって伝達トルクが変化するため、その影響で駆動軸14のトルク(駆動軸14に伝達されるトルク)が変動して駆動軸14の回転変動が発生すると、車両の前後加速度が変動してドライバビリティが悪化する可能性がある。
【0037】
この対策として、本実施例では、エンジン回転引上制御を実行したときに駆動軸14の回転変動を抑制するようにMG12のトルクを制御する回転変動抑制制御を実行する。これにより、エンジン回転引上制御を実行したときに、始動クラッチ18の伝達トルクが変化しても、回転変動抑制制御によって駆動軸14のトルク(=始動クラッチ18の伝達トルク+MG12のトルク)の変動を抑制して、駆動軸14の回転変動を抑制する。
【0038】
この場合、図2(a)に示すように、理想的には、始動クラッチ18の伝達トルクに応じてMG12のトルクを変化させれば、駆動軸14のトルク(=始動クラッチ18の伝達トルク+MG12のトルク)の変動を精度良く抑制して、駆動軸14の回転変動を抑制することができる。
【0039】
しかし、図2(b)に示すように、実際には、始動クラッチ18の伝達トルクを直接検出することは困難であるため、例えば、始動クラッチ18の制御指令値(例えば係合指令油圧)に応じてMG12のトルクを変化させることで、始動クラッチ18の伝達トルクに応じてMG12のトルクを変化させるように制御しても、始動クラッチ18の伝達トルクの制御精度が低い(制御誤差が大きい)と、駆動軸14のトルク(=始動クラッチ18の伝達トルク+MG12のトルク)の変動を精度良く抑制することができず、駆動軸14の回転変動が発生する可能性がある。
【0040】
そこで、本実施例では、回転変動抑制制御の際に、回転速度センサ25で検出した駆動軸14の実回転速度の変動量を算出し、この駆動軸14の実回転速度の変動量に基づいてMG12のトルクを補正する。駆動軸14のトルク(=始動クラッチ18の伝達トルク+MG12のトルク)に応じて駆動軸14の回転速度が変化するため、駆動軸14の実回転速度の変動量は、駆動軸14のトルクの変動量を精度良く反映したパラメータとなる。従って、駆動軸14の実回転速度の変動量に基づいてMG12のトルクを補正すれば、駆動軸14のトルクの変動を精度良く抑制して、駆動軸14の回転変動を精度良く抑制することができる。
【0041】
具体的には、図3に示すように、回転変動抑制制御の際には、アシストトルク算出部30のベースアシストトルク算出部31で、始動クラッチ18の制御指令値(例えば係合指令油圧)に基づいてベースアシストトルクをマップ又は数式等により算出すると共に、外乱推定器32(アシストトルク補正値算出部)で、アシストトルク補正値を後述する方法により算出し、ベースアシストトルクにアシストトルク補正値を加算してMG12のトルク指令値(要求トルク)を求め、このトルク指令値に基づいてMG12を制御する。尚、ドライバ要求トルク算出部33では、アクセル開度等に基づいてドライバ要求トルクをマップ又は数式等により算出する。
【0042】
外乱推定器32(アシストトルク補正値算出部)では、まず、回転速度センサ25で検出した駆動軸14の実回転速度を読み込むと共に、規範回転速度算出部34で、駆動軸14の規範回転速度を次のようにして算出する。まず、車速に基づいて走行抵抗をマップ又は数式等により算出すると共に、ドライバ要求トルクに基づいてMG12により発生する減速力(MG12の回生トルク)をマップ又は数式等により算出し、この走行抵抗とMG12により発生する減速力との和を車両重量で除算して規範減速度を求める。この規範減速度を積分して求めた規範車速に、デファレンシャルギヤ機構15の減速比等に基づいた変換係数を乗算して駆動軸14の規範回転速度を求める。尚、変速機13の入力軸側の規範回転速度を求める場合には、デファレンシャルギヤ機構15の減速比と変速機13の減速比等に基づいた変換係数を用いて規範回転速度を求める。
【0043】
このようにして駆動軸14の規範回転速度を算出した後、駆動軸14の規範回転速度と実回転速度との差(=規範回転速度−実回転速度)を実回転速度の変動量として算出することで、規範回転速度を基準にして実回転速度の変動量を算出し、この実回転速度の変動量の微分値を、安定化フィルタでフィルタ処理(例えば一次遅れ処理)した後、トルク値に物理値変換してアシストトルク補正値を求める。
【0044】
以上説明した、減速から再加速に移行する際の制御(エンジン回転引上制御や回転変動抑制制御等)は、ハイブリッドECU26(又は他のECU)によって図4乃至図7の各ルーチンに従って実行される。以下、各ルーチンの処理内容を説明する。
【0045】
[メインルーチン]
図4に示すメインルーチンは、ハイブリッドECU26の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、減速回生中であるか否かを、例えば、車速が所定値以上で且つアクセルの踏み込みが解除されている(アクセルオフ)であるか否か等によって判定し、減速回生中ではないと判定された場合には、ステップ102以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0046】
一方、上記ステップ101で、減速回生中であると判定された場合には、ステップ102に進み、運転者の減速要求が発生しているか否かを、ブレーキが作動状態(ブレーキオン)であるか否かによって判定し、減速要求が発生している(ブレーキが作動状態である)と判定された時点で、ステップ103に進み、始動クラッチ18を解放すると共にエンジン11の燃焼(燃料噴射及び点火)を停止させる減速要求時制御を実行することで、エンジン11のフリクションの影響を受けずに、減速回生を効率良く行う。
【0047】
この後、ステップ104に進み、減速要求が解除されたか否かを、ブレーキの作動が解除された(ブレーキオフ)か否かによって判定し、減速要求が解除されていないと判定された場合には、上記ステップ103に戻り、減速要求時制御を継続する。
【0048】
その後、上記ステップ104で、減速要求が解除された(ブレーキの作動が解除された)と判定された時点で、ステップ105に進み、始動クラッチ18を締結させてエンジン11の回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行する。この場合、例えば、図8に示すように、まず、始動クラッチ18の制御指令値(例えば係合指令油圧)を所定の中間値P1 (半係合状態に相当する値)まで増加させて、始動クラッチ18を半係合状態にすることで、エンジン11の回転速度を引き上げ、その後、MG12の回転速度とエンジン11の回転速度との差が所定値以下になった時点で、始動クラッチ18の制御指令値を所定の最終値P2 (完全係合状態に相当する値)まで増加させる。
【0049】
この後、ステップ106に進み、後述する図5の回転変動抑制制御ルーチンを実行することで、エンジン回転引上制御を実行したときに駆動軸14の回転変動を抑制するようにMG12のトルクを制御する回転変動抑制制御を実行する。
【0050】
この後、ステップ107に進み、エンジン回転引上制御が完了したか否かを、例えば、MG12の回転速度とエンジン11の回転速度との差が所定値以下であるか否か等によって判定し、エンジン回転引上制御が完了していないと判定された場合には、上記ステップ105に戻り、エンジン回転引上制御と回転変動抑制制御を継続する。
【0051】
その後、上記ステップ107で、エンジン回転引上制御が完了したと判定された時点で、ステップ108に進み、再加速要求が発生しているか否かを、アクセルが踏み込まれている(アクセルオン)か否かによって判定し、上記ステップ107でエンジン回転引上制御が完了したと判定され、且つ、上記ステップ108で再加速要求が発生していると判定された時点で、ステップ109に進み、エンジン11の燃料噴射及び点火を再開してエンジン11を再始動させる。
【0052】
[回転変動抑制制御ルーチン]
図5に示す回転変動抑制制御ルーチンは、前記図4のメインルーチンのステップ106で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、始動クラッチ18の制御指令値(例えば係合指令油圧)に基づいてベースアシストトルクをマップ又は数式等により算出した後、ステップ202に進み、後述する図6のアシストトルク補正値算出ルーチンを実行することで、アシストトルク補正値を算出する。
【0053】
この後、ステップ203に進み、ベースアシストトルクにアシストトルク補正値を加算してMG12のトルク指令値(要求トルク)を求め、このトルク指令値に基づいてMG12を制御することで、エンジン回転引上制御を実行したときに駆動軸14の回転変動を抑制するようにMG12のトルクを制御する回転変動抑制制御を実行する。
【0054】
[アシストトルク補正値算出ルーチン]
図6に示すアシストトルク補正値算出ルーチンは、前記図5の回転変動抑制制御ルーチンのステップ202で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、回転速度センサ25で検出した駆動軸14の実回転速度を読み込んだ後、ステップ302に進み、図7の規範回転速度算出ルーチンを実行して、駆動軸14の規範回転速度を次のようにして算出する。図7のルーチンでは、まず、ステップ401で、車速に基づいて走行抵抗をマップ又は数式等により算出した後、ステップ402に進み、ドライバ要求トルクに基づいてMG12により発生する減速力(MG12の回生トルク)をマップ又は数式等により算出する。この後、ステップ403に進み、走行抵抗とMG12により発生する減速力との和を車両重量で除算して規範減速度を求めた後、ステップ404に進み、規範減速度を積分して求めた規範車速に、デファレンシャルギヤ機構15の減速比等に基づいた変換係数を乗算して駆動軸14の規範回転速度を求める。
【0055】
このようにして駆動軸14の規範回転速度を算出した後、図6のステップ303に進み、駆動軸14の規範回転速度と実回転速度との差(=規範回転速度−実回転速度)を実回転速度の変動量として算出することで、規範回転速度を基準にして実回転速度の変動量を算出する。この後、ステップ304に進み、実回転速度の変動量の微分値を、安定化フィルタでフィルタ処理(例えば一次遅れ処理)した後、ステップ305に進み、フィルタ処理後の実回転速度の変動量の微分値を、トルク値に物理値変換してアシストトルク補正値を求める。
【0056】
以上説明した本実施例では、車両の走行中にブレーキが作動状態のときに始動クラッチ18を解放すると共にエンジン11の燃焼を停止させる減速要求時制御を実行し、この減速要求時制御の実行中にブレーキの作動が解除されたときに始動クラッチ18を締結させてエンジン11の回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行するようにしたので、再加速要求が発生する前(アクセルが踏み込まれる前)に、車輪17の動力とMG12の動力の両方でエンジン11を回転駆動してエンジン11の回転速度を引き上げることができ、MG12のトルクをあまり大きくしなくても、エンジン11の回転速度を速やかに引き上げることができる。そして、エンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態(アクセルが踏み込まれた状態)になったときにエンジン11を再始動させるようにしたので、エンジン11の燃料噴射を再開することでエンジン11を速やかに再始動させることができ、再加速要求が発生した直後からエンジン11の動力とMG12の動力の両方で車両を加速させることができる。
【0057】
これにより、車両を加速させるためのトルクとエンジン11の回転速度を引き上げるためのトルクを同時にMG12で出力するシステムに比べて、MG12の要求トルクを低減することができるため、MG12の小型化の要求を満たすことができると共に、再加速要求が発生した直後からエンジン11の動力とMG12の動力の両方で車両を加速させることができるため、減速からの再加速時に車両をスムーズに加速させることができる。しかも、再加速要求が発生してからエンジン11を再始動させるため、再加速要求が発生する前にエンジン11を再始動するシステムに比べて、燃費を向上させることができる。
【0058】
また、本実施例では、エンジン回転引上制御を実行したときに駆動軸14の回転変動を抑制するようにMG12のトルクを制御する回転変動抑制制御を実行するようにしたので、エンジン回転引上制御を実行したときに、始動クラッチ18の伝達トルクが変化しても、回転変動抑制制御によって駆動軸14のトルク(=始動クラッチ18の伝達トルク+MG12のトルク)の変動を抑制して、駆動軸14の回転変動を抑制することができ、これにより、車両の前後加速度の変動を抑制してドライバビリティを向上させることができる。しかも、ブレーキの作動が解除されたときに実行されるエンジン回転引上制御の実行中は、ブレーキによるトルク変動やエンジン11のトルク変動がほとんど発生しないため、駆動軸14の回転変動を抑制するようにMG12のトルクを制御する回転変動抑制制御を容易に行うことができる。
【0059】
また、発進クラッチ19をスリップさせて駆動軸14の回転変動を抑制するシステムでは、発進クラッチ19のスリップによるトルク減少分をMG12のトルク増加で補う必要があり、MG12の要求トルクが増大すると共に、発進クラッチ19の摩耗劣化や発熱が促進されるという欠点があるが、本実施例では、回転変動抑制制御によって駆動軸14の回転変動を抑制することができるため、発進クラッチ19をスリップさせる必要がなく、MG12の要求トルクの増大を防止してMG12の小型化を確実に達成することができると共に、発進クラッチ19の摩耗劣化や発熱の促進を抑制することができるという効果も有する。
【0060】
更に、本実施例では、図8に示すように、回転変動抑制制御の際に、回転速度センサ25で検出した駆動軸14の実回転速度の変動量を算出し、この駆動軸14の実回転速度の変動量に基づいてMG12のトルクを補正するようにしたので、駆動軸14の回転変動を精度良く抑制して、車両の前後加速度の変動を効果的に抑制することができる。
【0061】
これに対して、図9に示す比較例のように、回転変動抑制制御の際に、駆動軸14の実回転速度の変動量に基づいたMG12のトルク補正を実施しない場合には、駆動軸14の回転変動を精度良く抑制することができず、車両の前後加速度の変動が発生する可能性がある。
【0062】
尚、上記実施例では、駆動軸14の規範回転速度と実回転速度との差を実回転速度の変動量として算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、回転速度センサ25で検出した駆動軸14の実回転速度にローパスフィルタ処理(例えば駆動軸14の実回転速度の変動の周波数よりも低い周波数帯の信号を通すフィルタ処理)を施し、該ローパスフィルタ処理後の回転速度と実回転速度との差を実回転速度の変動量として算出するようにしても良い。
【0063】
また、上記実施例では、駆動軸14の実回転速度の変動量を算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、駆動軸14と同期して回転する部分(例えば、MG12の出力軸、変速機13の入力軸、変速機13の出力軸、車軸16等のうちのいずれか)の実回転速度の変動量を算出し、この実回転速度の変動量に基づいてMG12のトルクを補正するようにしても良い。
【符号の説明】
【0064】
11…エンジン(内燃機関)、12…MG、13…変速機、14…駆動軸、17…車輪、18…始動クラッチ、19…発進クラッチ、22…アクセルセンサ、24…ブレーキスイッチ、25…回転速度センサ(回転速度検出手段)、26…ハイブリッドECU(制御手段)、27…エンジンECU、28…MG−ECU、29…トランスミッションECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源としてエンジンとモータジェネレータ(以下「MG」と表記する)とを搭載し、前記エンジンの動力を車輪の駆動軸に伝達する動力伝達経路に前記MGを配置すると共に前記エンジンと前記MGとの間にクラッチを設けたハイブリッド車の制御装置において、
車両の走行中にドライバの減速要求があったときに前記クラッチを解放すると共に前記エンジンの燃焼を停止させる減速要求時制御を実行する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記減速要求時制御の実行中に前記ドライバの減速要求がなくなったときに前記クラッチを締結させて前記エンジンの回転速度を引き上げるエンジン回転引上制御を実行し、該エンジン回転引上制御が完了し且つ再加速要求が発生した状態になったときに前記エンジンを再始動させることを特徴とするハイブリッド車の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記エンジン回転引上制御を実行したときに前記駆動軸の回転変動を抑制するように前記MGのトルクを制御する回転変動抑制制御を実行することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項3】
前記駆動軸又は該駆動軸と同期して回転する部分の回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記回転変動抑制制御の際に、前記回転速度検出手段で検出した実回転速度の変動量を算出し、該実回転速度の変動量に基づいて前記MGのトルクを補正することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記回転変動抑制制御の際に、前記MGが発生する減速力と車速に基づいて規範回転速度を算出し、該規範回転速度と前記実回転速度との差を前記実回転速度の変動量として算出することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記回転変動抑制制御の際に、前記回転速度検出手段で検出した実回転速度に所定の周波数帯域を遮断又は通過させるフィルタ処理を施し、該フィルタ処理後の回転速度と前記実回転速度との差を前記実回転速度の変動量として算出することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−18399(P2013−18399A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154122(P2011−154122)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】