説明

ハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御システム及び方法

【課題】エンジンの始動中にP段またはN段からD段またはR段への静的変速が行われても、ショックの発生が防止できるハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御システム及び方法を提供する。
【解決手段】エンジンと、第1モータと、第2モータと、エンジンと第1モータとの間を連結する第1遊星ギアセットと、エンジンと第2モータとの間を連結する第2遊星ギアセットとを含むハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御システムで、始動時に第2遊星ギアセットのリングギアに対する目標速度追従のための第2モータの目標速度の入力を受け、第2モータの目標速度に該当するトルクを計算するとともに、計算されたトルクを第2モータに指令するPI制御部40と、エンジンの始動時に、第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクをフィードフォワードターム制御方式でPI制御部に入力するエンジン摩擦トルクフィードフォワード部30とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御システム及び方法に係り、より詳細には、ハイブリッド車両のエンジン始動中に発生する変速衝撃が防止できるハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハイブリッド車両は、エンジンだけでなくモータ駆動源を補助動力源に採用し、排気ガスの低減及び燃費向上を図ることができる未来型車両をいう。
このようなハイブリッド車両の動力伝達のためのパワートレインの一構成例を、図1を参照して説明する。
図1のハイブリッド車両用パワートレインは、エンジン10と、エンジンクランキング及びエンジンの速度を変速制御する第1モータMG1と、車軸にトルクを直接伝達するトラクションモータである第2モータMG2、そして一対の遊星ギアセット20、22とを含んで構成される。
【0003】
エンジン10の出力軸は、第1遊星ギアセット20のキャリアC1と連結されるとともに、第2クラッチCL2を介して第2遊星ギアセット22の第2サンギアS2と連結される。
第1モータMG1の出力軸は、第1遊星ギアセット20のサンギアS1と直結されており、第2モータMG2の出力軸は、第2遊星ギアセット22の第2サンギアS2に直結される。
そして、第1遊星ギアセット20のリングギアR1と第2遊星ギアセット22のキャリアC2が連結され、この第2遊星ギアセット22のキャリアC2は最終の出力軸と連結される。
【0004】
また、第1遊星ギアセット20のキャリアC1の出力側と第2遊星ギアセット22のリングギアR2は、第1クラッチCL1を介して連結される。
第1モータMG1と第1遊星ギアセット20のサンギアS1との間の連結軸には、第1ブレーキBK1が装着され、第1遊星ギアセット20のキャリアC1の出力側と第2遊星ギアセット22のリングギアR2を連結する軸には、第2ブレーキBK2が装着される。
このようなハイブリッド車両のパワートレイン構造において、第1モータMG1は、エンジンクランキングのためのトルクを発生させ、エンジンの速度を変速制御する役割をし、また、第2モータMG2は、車軸にトルクを直接伝達するトラクションモータの機能を有するとともに、走行状況に応じて第2遊星ギアセット22のリングギアR2が目標速度に追従するように、リングギアの速度制御の機能も行う。
【0005】
上記のようなハイブリッド車両のパワートレインシステムにおいて、中立ギア段(PまたはN)の維持時、油圧の制御によりクラッチ及びブレーキを含むあらゆる作動要素が作動解除される。
特に、中立ギア段(PまたはN)から走行ギア段(RまたはD)への切り換えを容易にするため、第2遊星ギアセット22のリングギアR2の速度を、第2ブレーキ(Brake2)と結合し易く0に維持されるように制御するか、または、第2遊星ギアセット22のリングギアR2の速度を、第1クラッチ(Clutch1)との結合が容易に行われるように、第1遊星ギアセット20のキャリアC1の速度と等しくなるように制御する。
従って、一般の走行状況(エンジンの始動後)では、第2遊星ギアセット22のリングギアR2の速度が目標速度を維持しているため、N段からD段へ、またはN段からR段への静的変速(Static shift)の時は、ショックが発生しないが、エンジンの始動中に静的変速が行われると、ショック現状が発生する問題がある。
【0006】
即ち、リングギアR2が目標速度に追従するよう、第2モータMG2の速度に対してPI制御部を用いたフィードバック制御を行うが、フィードバック制御時の応答度(Transient Response、出力が正常状態になるまでの応答)が落ち、リングギアR2は目標速度に維持されず、第2遊星ギアセットの作動要素の結合時にショック現状が発生する問題がある。
このように、エンジンの始動中にP段またはN段からD段またはR段への静的変速が行われると、始動中にエンジンの摩擦力に相当する反力が第2モータMG2の出力軸側に作用し、第2モータMG2の速度の低下が瞬間的に発生し、これにより中立ギア段(PまたはN)から走行ギア段(RまたはD)への切り替え時に作動する第2遊星ギアセット22のリングギアR2が瞬間的に目標速度を逸脱し、ショック現状が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−101782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような点を勘案してなされたものであって、エンジンの始動中にP段またはN段からD段またはR段への静的変速が行われても、ショックの発生が防止できるハイブリッド車両のエンジンの始動時の変速制御システム及び方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、エンジン10と、エンジンクランキング及びエンジンを変速制御する第1モータMG1と、車軸にトルクを直接伝達するトラクションモータである第2モータMG2と、エンジンと第1モータとの間を連結する第1遊星ギアセット20と、エンジンと第2モータとの間を連結する第2遊星ギアセット22とを含むハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御システムであって、エンジンの始動時に、上記第2遊星ギアセット22のリングギアR2に対する目標速度の追従のための第2モータMG2の目標速度の入力を受け、第2モータMG2の目標速度に該当するトルクを計算するとともに、計算されたトルクを第2モータMG2に指令するPI制御部と、エンジンの始動時に、第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクをフィードフォワードターム(Feedforward term)制御方式でPI制御部40に入力するエンジン摩擦トルクフィードフォワード部30と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、変速段P段またはN段でエンジンの始動中に、第2遊星ギアセット22のリングギアR2に対する目標速度の追従のための第2モータMG2の出力トルクをフィードバック制御して算出する段階と、エンジンの始動時に、エンジン10から第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクと、フィードバック制御により算出された出力トルクとを合わせた最終のトルクを第2モータMG2に指令する段階とを含むことを特徴とする。
【0011】
前記エンジン10から第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクは、フィードフォワードターム制御によるフィードフォワードタームに設定され、フィードバック制御により算出された出力トルクと合わせられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンジンの始動中にP段またはN段からD段またはR段へ変速されるとき、フィードフォワード制御を用いてエンジンの摩擦力に相当する反力だけのトルクを第2モータに印加し、第2モータの速度が低下することを防止するとともに、リングギアの速度変化を防止することにより、エンジンの始動時、中立状態からDまたはR段へ変速する時にショックが発生することを容易に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御システム及び方法が適用されるパワートレインの構成図である。
【図2】本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御システムを示す制御ブロック図である。
【図3】本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御方法を説明する速度線図である。
【図4】本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の望ましい実施例を添付した図面を参照して詳細に説明する。
本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御システム及び方法は、図1に示す通り、エンジン10と、エンジンクランキング及びエンジンの速度を変速制御する第1モータMG1と、車軸にトルクを直接伝達するトラクションモータである第2モータMG2と、そして一対の遊星ギアセット20、22とを含む。
特に、第1モータMG1は、エンジンクランキングのためのトルクを発生させ、エンジンの速度を変速制御する役割をし、第2モータMG2は、車軸にトルクを直接伝達するトラクションモータの機能を有するとともに、走行状況に応じて第2遊星ギアセット22のリングギアR2が目標速度に追従するように、リングギアの速度制御の機能も有する。
【0015】
本発明は、エンジンの始動中にP段またはN段からD段またはR段への変速が行われる場合、フィードフォワード制御を用いてエンジンの摩擦力に相当する反力だけのトルクを第2モータに追加で印加し、第2モータの速度が低下することを防止するとともに、リングギアの速度変化を防止することにより、エンジンの始動時、中立状態からDまたはR段へ変速する時にショックが発生することを防止できるようにしたことが主目的である。
従来は、エンジンの始動後、平常時の走行状況ではリングギアR2の速度が目標速度を維持するので、変速時(P段またはN段からD段またはR段へ)にショックが発生しないが、エンジンの始動時に変速が行われると、エンジンの摩擦力に相当する反力が第2モータMG2の出力軸側に作用することにより、第2モータMG2の速度が低下する現象が発生するとともに、これと連動してリングギアR2が瞬間的に目標速度を逸脱するようになり、第2遊星ギアセットの作動要素の結合時にショック現象が発生する問題がある。
【0016】
言い換えれば、中立ギア段(PまたはN)で第2遊星ギアセット22のリングギアR2の速度は、第2ブレーキ(Brake2)と結合し易く0に維持されるか、または、第1クラッチとの結合が容易に行われるように、第1遊星ギアセット20のキャリアC1の速度と等しく制御される。しかし、エンジン始動と同時にN段からD段へ、またはN段からR段への変速がなされると、エンジンの摩擦力に相当する反力がリングギアの速度を制御する第2モータMG2に作用するとともに、リングギアR2が瞬間的に目標速度を逸脱するようになり、リングギアR2が作動要素と結合するとき、キャリアC1と結合するためのクラッチ(Clutch1)が結合するか、または、第1ブレーキが結合する時、ショックが発生する。
【0017】
本発明は、上記ショック発生の問題を解決するため、エンジン始動時にリングギアR2の速度変化を防止することにより、中立状態からD段またはR段への変速時にショック現状が発生することを防止しようとしたものである。
このために、本発明のハイブリッド車両用エンジン始動時の変速制御システムは、図2に示すように、第2遊星ギアセット22のリングギアR2に対する目標速度追従のための第2モータMG2の目標速度の入力を受け、第2モータMG2の目標速度に該当するトルクを計算するとともに、計算されたトルクを第2モータMG2に指令するPI制御部40と、エンジンの始動時に、第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクをフィードフォワードターム制御方式でPI制御部40に入力するエンジン摩擦トルクフィードフォワード部30とで構成される。
【0018】
以下図2〜図4を参照して、このようなシステム構成を基盤とする本発明のハイブリッド車両用エンジン始動中の変速制御方法を説明する。
変速段P段またはN段でのエンジンの始動時に、第2遊星ギアセット22のリングギアR2に対する目標速度追従のための第2モータMG2の目標速度がPI制御部40へ入力されると、PI制御部40で第2モータMG2の目標速度に基づいて第2モータに対するトルクが計算され、計算されたトルクを第2モータMG2に指令し、そこで第2モータMG2の目標速度に追従するように、第2遊星ギアセット22のリングギアR2の速度が制御される状態になる。
【0019】
このとき、第2モータMG2に指令される最終のトルクは、PI制御部40でフィードバック制御して算出されたトルクの他に、エンジン10から第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクがさらに印加される。
即ち、第1モータMG1によるクランキングトルクによるエンジン始動時に、第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクを、エンジン摩擦トルクフィードフォワード部30でフィードフォワードターム制御方式によりPI制御部40に入力することにより、エンジン10から第2モータMG2へ伝達される反力に該当するトルクが、フィードフォワードターム制御によるフィードフォワードタームに設定され、結局、PI制御部40でフィードバック制御により算出された出力トルクと合わせられ、この合わせられた最終トルクが第2モータMG2に出力される。
【0020】
従って、エンジンの始動時、P段またはN段からD段またはR段へ変速が行われる時、エンジンの摩擦力に相当する反力が第2モータMG2の出力軸側に作用しても、その反力に該当するトルクが第2モータMG2に印加された状態であるため、第2モータMG2の速度低下が発生せず、また、第2遊星ギアセット22のリングギアR2も目標速度を逸脱しないようになるので、リングギアと作動要素間の結合時にショック現象の発生が防止される。
【符号の説明】
【0021】
10 エンジン
20 第1遊星ギアセット
22 第2遊星ギアセット
30 エンジン摩擦トルクフィードフォワード部
40 PI制御部
MG1 第1モータ
MG2 第2モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)と、エンジンクランキング及びエンジンを変速制御する第1モータ(MG1)と、車軸にトルクを直接伝達するトラクションモータである第2モータ(MG2)と、エンジンと第1モータとの間を連結する第1遊星ギアセット(20)と、エンジンと第2モータとの間を連結する第2遊星ギアセット(22)とを含むハイブリッド車両のエンジン始動中の変速制御システムであって、
エンジンの始動時に、上記第2遊星ギアセット(22)のリングギア(R2)に対する目標速度の追従のための第2モータ(MG2)の目標速度の入力を受け、第2モータ(MG2)の目標速度に該当するトルクを計算するとともに、計算されたトルクを第2モータ(MG2)に指令するPI制御部と、
エンジンの始動時に、第2モータ(MG2)へ伝達される反力に該当するトルクをフィードフォワードターム(Feedforward term)制御方式でPI制御部(40)に入力するエンジン摩擦トルクフィードフォワード部(30)と、
を含んで構成されることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御システム。
【請求項2】
変速段P段またはN段でエンジンの始動中に、第2遊星ギアセット(22)のリングギア(R2)に対する目標速度の追従のための第2モータ(MG2)の出力トルクをフィードバック制御して算出する段階と、
エンジンの始動時に、エンジン(10)から第2モータ(MG2)へ伝達される反力に該当するトルクと、フィードバック制御により算出された出力トルクとを合わせた最終のトルクを第2モータ(MG2)に指令する段階と
を含むことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御方法。
【請求項3】
前記エンジン(10)から第2モータ(MG2)へ伝達される反力に該当するトルクは、フィードフォワードターム制御によるフィードフォワードタームに設定され、フィードバック制御により算出された出力トルクと合わせられることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両のエンジン始動時の変速制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−116452(P2012−116452A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36173(P2011−36173)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】