説明

ハイブリッド車両の制御装置および制御方法

【課題】内燃機関の動力の変速段と電動機の動力の変速段との組み合わせである変速パターンを適切に選択することによって、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】エンジン動力が、第1変速機構11の複数の変速段、または第2変速機構31の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪DWに伝達される。また、車速VPおよび要求トルクTRQに対して、ハイブリッド車両Vの総合燃料消費率TSFCを、変速パターンごとに規定した総合燃料消費率マップが記憶されている。車速VPおよび要求トルクTRQに応じ、総合燃料消費率マップに基づいて、複数の変速パターンから、総合燃料消費率TSFCが最も小さな変速パターンを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として内燃機関および発電可能な電動機を有するハイブリッド車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車両の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このハイブリッド車両の走行モードには、動力源として、内燃機関のみを用いるENG走行モードと、バッテリに蓄えられた電力によって駆動される電動機のみを用いるEV走行モードと、内燃機関および電動機の両方を用いるHEV走行モードが含まれる。
【0003】
また、ハイブリッド車両は、1速段、3速段および5速段の変速段を有する第1変速機構と、2速段、4速段および6速段の変速段を有する第2変速機構を備えている。内燃機関の動力(以下「エンジン動力」という)は、第1または第2変速機構により1速段〜6速段のうちの1つの変速段で変速され、駆動輪に伝達されるとともに、電動機の動力(以下「モータ動力」という)は、第2変速機構により2速段、4速段および6速段のうちの1つで変速され、駆動輪に伝達される。
【0004】
この制御装置では、ハイブリッド車両の車速が所定値以下のときには、電動機およびバッテリによる回生を併用するENGモードが選択され、エンジン動力の変速段として2速段または1速段が選択されるとともに、モータ動力の変速段として、電動機の発電効率が最も高い2速段が選択される。選択されたエンジン動力の変速段が2速段の場合には、エンジン動力は、第2変速機構を介して、電動機に伝達される。一方、エンジン動力の変速段が1速段の場合には、エンジン動力は、第1変速機構および第2変速機構を介して、電動機に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−173196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、エンジン動力の変速段が1速段と2速段の場合では、内燃機関から電動機までの動力伝達経路が異なり、2速段の場合の方が、動力伝達経路が長く、動力伝達経路を構成する要素の数が多い。このため、通常は、2速段の方が、内燃機関から電動機への動力の伝達効率が低くなる。このように、エンジン動力の変速段とモータ動力の変速段の組み合わせ(変速パターン)に応じて、内燃機関から電動機までの動力の伝達効率は異なり、それに伴い、ハイブリッド車両全体としての燃料消費率も変化する。これに対し、従来の制御装置では、車速が所定値以下のときに、モータ動力の変速段として2速段が無条件に選択される。したがって、ハイブリッド車両全体としての燃料消費率が必ずしも最小にはならず、最良の燃費が得られないおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の動力の変速段と電動機の動力の変速段との組み合わせである変速パターンを適切に選択することによって、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(実施形態における(以下、本項において同じ)クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有するハイブリッド車両の制御装置1において、ハイブリッド車両Vの速度(車速VP)および駆動輪DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)に対して、ハイブリッド車両Vの総合燃料消費(総合燃料消費率TSFC)を、内燃機関3の動力の変速段と電動機4の動力の変速段との組み合わせである変速パターンごとに規定した総合燃料消費マップを記憶する記憶手段(ECU2、図3、図4)と、ハイブリッド車両Vの速度および要求駆動力に応じ、総合燃料消費マップに基づいて、複数の変速パターンから、総合燃料消費が最も小さな変速パターンを選択する変速パターン選択手段(ECU2、図5のステップ5)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このハイブリッド車両の制御装置によれば、内燃機関の機関出力軸と第1変速機構の第1入力軸が第1クラッチによって互いに係合するとともに、機関出力軸と第2変速機構の第2入力軸との係合が第2クラッチで解放されているときには、内燃機関の動力が、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、機関出力軸と第1入力軸との係合が第1クラッチで解放されるとともに、機関出力軸と第2入力軸が第2クラッチによって互いに係合しているときには、内燃機関の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、電動機の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。
【0010】
また、記憶手段には、総合燃料消費マップが記憶されている。この総合燃料消費マップは、ハイブリッド車両の速度および駆動輪に要求される要求駆動力に対して、ハイブリッド車両の総合燃料消費を、内燃機関の動力の変速段ごとに規定したものである。また、総合燃料消費は、ハイブリッド車両におけるエネルギ源としての燃料が、ハイブリッド車両の走行エネルギに最終的に変換されることを想定したときの、最終的な走行エネルギに対する燃料量の比を表す。したがって、総合燃料消費は、内燃機関の燃料消費だけでなく、充電走行を行う際の電動機および蓄電器などの効率をも反映したものであり、その値が小さいほど、ハイブリッド車両の燃費がより低いことを表す。
【0011】
本発明では、ハイブリッド車両の速度および要求駆動力に応じ、総合燃料消費マップに基づいて、複数の変速パターンから、総合燃料消費が最も小さな変速パターンを選択する。したがって、選択された変速パターンを用いてハイブリッド車両を運転することによって、動力伝達経路の相違や、充電走行やアシスト走行を行う際の電動機および蓄電器の効率などを反映させながら、最小の総合燃料消費を得ることができ、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置1において、総合燃料消費は、内燃機関3の動力の一部を用いた電動機4による回生によって蓄電器を充電するときの効率、および蓄電器に充電された電力を電動機4の動力に変換するときの予測効率を用いて算出されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、総合燃料消費は、電動機による回生によって蓄電器を充電するときの効率、および蓄電器に充電された電力を将来的に電動機の動力に変換するときの予測効率を用いて算出される。したがって、これらの効率を反映させながら、ハイブリッド車両の総合燃料消費を精度良く算出することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置1において、第1クラッチC1が解放され、かつ第2クラッチC2が接続されている状態において、第2入力軸32の動力が、第2変速機構31および第1変速機構11を介して、第1入力軸13に伝達されるように構成されており、変速パターン選択手段は、内燃機関3の動力の一部を用いた電動機4による回生によって蓄電器の充電が行われている状態において、要求駆動力が所定値TRQL以下のときには、複数の変速パターンから、内燃機関3の動力の変速段が第1変速機構11の変速段である変速パターンを選択することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第2変速機構により内燃機関の動力が変速されているときには、第2入力軸の動力が、第2変速機構および第1変速機構を介して第1入力軸に伝達される。すなわち、機関出力軸の動力は、第1変速機構および第2変速機構の両方を介して電動機に伝達される。一方、第1変速機構が機関出力軸から受け取った動力は、第2変速機構を介さずに、電動機に伝達される。したがって、電動機による回生を行う際に発生する動力の損失は、内燃機関の動力が第1変速機構の変速段で変速されている場合の方が、第2変速機構を経由しない分、より小さい。
【0016】
また、電動機による回生は、内燃機関の駆動力と要求駆動力との差を用いて行われる。このため、要求駆動力が小さいほど、回生に用いられる駆動力はより大きくなり、内燃機関から電動機までの動力伝達経路における動力損失もより大きくなる。
【0017】
本発明では、電動機による回生によって蓄電器の充電が行われている状態において、要求駆動力が所定値以下で、回生に用いられる駆動力が大きいときには、内燃機関の動力の変速段が第1変速機構の変速段である変速パターンを選択するので、動力損失を低減し、その影響を小さくすることができ、蓄電器の充電効率を向上させることができる。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置1において、電動機4および蓄電器の少なくとも一方の温度(バッテリ温度TB)が、電動機4および蓄電器の少なくとも一方に対して設定された所定温度以上のときに、電動機4の出力が制限されることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、電動機および蓄電器の少なくとも一方の温度が、電動機および蓄電器の少なくとも一方に対して設定された所定温度以上のとき、すなわち、当該少なくとも一方が比較的高温状態にあるときに、電動機の出力が制限される。したがって、当該少なくとも一方の温度上昇を抑えることができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項3または4に記載のハイブリッド車両の制御装置1において、蓄電器の充電状態SOCが所定の下限値SOCL以下のときに、電動機4による回生量を増大させるように電動機4の動作を制御することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、蓄電器の充電状態が所定の下限値以下のときに、電動機による回生量を増大させるように電動機の動作を制御するので、下限値を下回った蓄電器の充電状態を確実に回復させることができる。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置1において、ハイブリッド車両Vには、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報を表すデータを記憶するカーナビゲーションシステム66が設けられており、カーナビゲーションシステム66に記憶されたデータに基づき、ハイブリッド車両Vの走行状況を予測する予測手段(ECU2)をさらに備え、予測されたハイブリッド車両Vの走行状況にさらに応じて、変速段の選択を行うことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、ハイブリッド車両の走行状況が、ハイブリッド車両が走行している周辺の道路情報を表すデータに基づき、予測手段によって予測されるとともに、予測されたハイブリッド車両の走行状況に応じて、変速段の選択が行われる。これにより、ハイブリッド車両の走行状況に適した変速段を選択することができる。例えば、ハイブリッド車両が下り坂を走行すると予想されるときには、蓄電器の充電状態が増加することを見越して、より大きな内燃機関の動力が得られる変速段を選択したり、上り坂を走行すると予想されるときには、蓄電器の充電状態が低下することを見越して、より高い蓄電器の充電効率が得られる変速段を選択したりすることができる。
【0024】
前記目的を達成するために、請求項7に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(実施形態における(以下、本項において同じ)クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有するハイブリッド車両Vの制御方法において、ハイブリッド車両Vの速度(車速VP)および駆動輪DWに要求される要求駆動力(要求トルクTRQ)に対して、ハイブリッド車両Vの総合燃料消費(総合燃料消費率TSFC)を、内燃機関3の動力の変速段と電動機4の動力の変速段との組み合わせである変速パターンごとに規定した総合燃料消費マップを記憶し、ハイブリッド車両Vの速度および要求駆動力に応じ、総合燃料消費マップに基づいて、複数の変速パターンから、総合燃料消費が最も小さな変速パターンを選択し、総合燃料消費マップに記憶された総合燃料消費は、内燃機関3の動力の一部を用いた電動機4による回生によって蓄電器(バッテリ52)を充電するときの効率、および蓄電器に充電された電力を電動機4の動力に変換するときの効率を用いて算出されたものであり、第1クラッチC1が解放され、かつ第2クラッチC2が接続されている状態において、第2入力軸32の動力が、第2変速機構31および第1変速機構11を介して、第1入力軸13に伝達されるように構成されており、電動機4による回生によって蓄電器の充電が行われている状態において、内燃機関3の出力が所定値以下のときには、複数の変速パターンから、内燃機関3の動力の変速段が第1変速機構11の変速段である変速パターンを選択することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、前述した請求項1ないし3と同様の作用が得られる。すなわち、電動機および蓄電器などの効率や、要求駆動力に応じて、変速パターンを適切に選択し、総合燃料消費を最小にし、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができるなどの作用を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態による制御装置を適用したハイブリッド車両を概略的に示す図である。
【図2】本実施形態による制御装置のECUなどを示すブロック図である。
【図3】総合燃料消費率マップの一例である。
【図4】図3と異なる変速パターン用の総合燃料消費率マップの一例である。
【図5】変速パターンの選択処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、この実施形態により限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが、含まれる。図1に示すハイブリッド車両Vは、一対の駆動輪DW(一方のみ図示)および一対の従動輪(図示せず)などから成る四輪車両であり、動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3および発電可能な電動機(以下「モータ」という)4を備えている。エンジン3は、複数の気筒を有するガソリンエンジンであり、クランク軸3aを有している。エンジン3の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期などは、図2に示す制御装置1のECU2によって制御される。
【0028】
モータ4は、いわゆるモータジェネレータである、一般的な1ロータタイプのブラシレスDCモータであり、固定されたステータ4aと、回転自在のロータ4bを有している。このステータ4aは、回転磁界を発生させるためのものであり、鉄心や三相コイルで構成されている。また、ステータ4aは、ハイブリッド車両Vに固定されたケーシングCAに取り付けられるとともに、パワードライブユニット(以下「PDU」という)51を介して、充電および放電可能なバッテリ52に電気的に接続されている。このPDU51は、インバータなどの電気回路によって構成されており、ECU2に電気的に接続されている(図2参照)。上記のロータ4bは、磁石などで構成されており、ステータ4aに対向するように配置されている。
【0029】
以上の構成のモータ4では、ECU2によるPDU51の制御によって、バッテリ52からPDU51を介してステータ4aに電力が供給されると、回転磁界が発生し、それに伴い、この電力が動力に変換され、ロータ4bが回転する。この場合、ステータ4aに供給される電力が制御されることによって、ロータ4bの動力が制御される。
【0030】
また、ステータ4aへの電力供給を停止した状態で、動力の入力によりロータ4bが回転しているときに、ECU2によるPDU51の制御によって、回転磁界が発生し、それに伴い、ロータ4bに入力された動力が電力に変換され、発電が行われるとともに、発電した電力がバッテリ52に充電される。また、ステータ4aを適宜、制御することによって、ロータ4bに伝達される動力が制御される。以下、モータ4で発電するとともに、発電した電力をバッテリ52に充電することを適宜、「回生」という。
【0031】
さらに、ハイブリッド車両Vは、エンジン3およびモータ4の動力をハイブリッド車両Vの駆動輪DWに伝達するための駆動力伝達装置を備えており、この駆動力伝達装置は、第1変速機構11および第2変速機構31などから成るデュアルクラッチトランスミッションを有している。
【0032】
第1変速機構11は、入力された動力を、1速段、3速段、5速段および7速段の1つにより変速して駆動輪DWに伝達するものである。これらの1速段〜7速段の変速比は、その段数が大きいほど、より高速側に設定されている。具体的には、第1変速機構11は、エンジン3のクランク軸3aと同軸状に配置された第1クラッチC1、遊星歯車装置12、第1入力軸13、3速ギヤ14、5速ギヤ15、および7速ギヤ16を有している。
【0033】
第1クラッチC1は、乾式多板クラッチであり、クランク軸3aに一体に取り付けられたアウターC1aと、第1入力軸13の一端部に一体に取り付けられたインナーC1bなどで構成されている。第1クラッチC1は、ECU2によって制御され、締結状態では、クランク軸3aに第1入力軸13を係合させる一方、解放状態ではこの係合を解除し、両者13、3aの間を遮断する。
【0034】
遊星歯車装置12は、シングルプラネタリ式のものであり、サンギヤ12aと、このサンギヤ12aの外周に回転自在に設けられた、サンギヤ12aよりも歯数の多いリングギヤ12bと、両ギヤ12a、12bに噛み合う複数(例えば3つ)のプラネタリギヤ12c(2つのみ図示)と、プラネタリギヤ12cを回転自在に支持する回転自在のキャリア12dとを有している。
【0035】
サンギヤ12aは、第1入力軸13の他端部に一体に取り付けられている。第1入力軸13の他端部にはさらに、前述したモータ4のロータ4bが一体に取り付けられており、第1入力軸13は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。以上の構成により、第1入力軸13、サンギヤ12aおよびロータ4bは、互いに一体に回転する。
【0036】
また、リングギヤ12bには、ロック機構BRが設けられている。このロック機構BRは、電磁式のものであり、ECU2によりON/OFFされ、ON状態のときに、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、OFF状態のときに、リングギヤ12bの回転を許容する。なお、ロック機構BRとして、シンクロクラッチを用いてもよい。
【0037】
キャリア12dは、中空の回転軸17に一体に取り付けられている。回転軸17は、第1入力軸13の外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。
【0038】
3速ギヤ14は、回転軸17に一体に取り付けられており、回転軸17およびキャリア12dと一体に回転自在である。また、5速ギヤ15および7速ギヤ16は、第1入力軸13に回転自在に設けられている。さらに、これらの3速ギヤ14、7速ギヤ16、および5速ギヤ15は、遊星歯車装置12と第1クラッチC1の間に、この順で並んでいる。
【0039】
また、第1入力軸13には、第1シンクロクラッチS1および第2シンクロクラッチS2が設けられている。第1シンクロクラッチS1は、スリーブS1a、シフトフォークおよびアクチュエータ(いずれも図示せず)を有している。第1シンクロクラッチS1は、ECU2による制御により、スリーブS1aを第1入力軸13の軸線方向に移動させることによって、3速ギヤ14または7速ギヤ16を、第1入力軸13に選択的に係合させる。
【0040】
第2シンクロクラッチS2は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されており、ECU2による制御により、スリーブS2aを第1入力軸13の軸線方向に移動させることによって、5速ギヤ15を第1入力軸13に係合させる。
【0041】
また、3速ギヤ14、5速ギヤ15、および7速ギヤ16には、第1受動ギヤ18、第2受動ギヤ19および第3受動ギヤ20がそれぞれ噛み合っており、これらの第1〜第3受動ギヤ18〜20は、出力軸21に一体に取り付けられている。出力軸21は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第1入力軸13と平行に配置されている。また、出力軸21には、ギヤ21aが一体に取り付けられており、このギヤ21aは、差動装置を有するファイナルギヤFGのギヤに噛み合っている。出力軸21は、これらのギヤ21aやファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに連結されている。
【0042】
以上の構成の第1変速機構11では、遊星歯車装置12、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18によって1速段および3速段のギヤ段が構成され、5速ギヤ15および第2受動ギヤ19によって5速段のギヤ段が、7速ギヤ16および第3受動ギヤ20によって7速段のギヤ段が、それぞれ構成されている。また、第1入力軸13に入力された動力は、これらの1速段、3速段、5速段および7速段の1つによって変速され、出力軸21、ギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して駆動輪DWに伝達される。
【0043】
前述した第2変速機構31は、入力された動力を、2速段、4速段および6速段の1つにより変速して駆動輪DWに伝達するものである。これらの2速段〜6速段の変速比は、その段数が大きいほど、より高速側に設定されている。具体的には、第2変速機構31は、第2クラッチC2、第2入力軸32、第2入力中間軸33、2速ギヤ34、4速ギヤ35、および6速ギヤ36を有しており、第2クラッチC2および第2入力軸32は、クランク軸3aと同軸状に配置されている。
【0044】
第2クラッチC2は、第1クラッチC1と同様、乾式多板クラッチであり、クランク軸3aに一体に取り付けられたアウターC2aと、第2入力軸32の一端部に一体に取り付けられたインナーC2bで構成されている。第2クラッチC2は、ECU2によって制御され、締結状態では、クランク軸3aに第2入力軸32を係合させる一方、解放状態ではこの係合を解除し、両者32と3aとの間を遮断する。
【0045】
第2入力軸32は、中空状に形成され、第1入力軸13の外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。また、第2入力軸32の他端部には、ギヤ32aが一体に取り付けられている。
【0046】
第2入力中間軸33は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第2入力軸32および前述した出力軸21と平行に配置されている。第2入力中間軸33には、ギヤ33aが一体に取り付けられており、ギヤ33aには、アイドラギヤ37が噛み合っている。アイドラギヤ37は、第2入力軸32のギヤ32aに噛み合っている。なお、図1では、図示の便宜上、アイドラギヤ37は、ギヤ32aから離れた位置に描かれている。第2入力中間軸33は、これらのギヤ33a、アイドラギヤ37およびギヤ32aを介して、第2入力軸32に連結されている。
【0047】
2速ギヤ34、6速ギヤ36、および4速ギヤ35は、第2入力中間軸33に回転自在に設けられ、この順で並んでおり、前述した第1受動ギヤ18、第3受動ギヤ20および第2受動ギヤ19にそれぞれ噛み合っている。さらに、第2入力中間軸33には、第3シンクロクラッチS3および第4シンクロクラッチS4が設けられている。両シンクロクラッチS3およびS4は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されている。
【0048】
第3シンクロクラッチS3は、ECU2による制御により、そのスリーブS3aを第2入力中間軸33の軸線方向に移動させることによって、2速ギヤ34または6速ギヤ36を、第2入力中間軸33に選択的に係合させる。第4シンクロクラッチS4は、ECU2による制御により、そのスリーブS4aを第2入力中間軸33の軸線方向に移動させることによって、4速ギヤ35を第2入力中間軸33に係合させる。
【0049】
以上の構成の第2変速機構31では、2速ギヤ34および第1受動ギヤ18によって2速段のギヤ段が構成され、4速ギヤ35および第2受動ギヤ19によって4速段のギヤ段が、6速ギヤ36および第3受動ギヤ20によって6速段のギヤ段が、それぞれ構成されている。また、第2入力軸32に入力された動力は、ギヤ32a、アイドラギヤ37およびギヤ33aを介して第2入力中間軸33に伝達され、第2入力中間軸33に伝達された動力は、これらの2速段、4速段および6速段の1つによって変速され、出力軸21、ギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して駆動輪DWに伝達される。
【0050】
以上のように、第1および第2変速機構11、31では、変速された動力を駆動輪DWに伝達するための出力軸21が共用化されている。
【0051】
また、駆動力伝達装置には、リバース機構41が設けられており、リバース機構41は、リバース軸42、リバースギヤ43および第5シンクロクラッチS5を有している。リバース軸42は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第1入力軸13と並行に配置されている。リバース軸42には、ギヤ42aが一体に取り付けられており、ギヤ42aは、前述したアイドラギヤ37に噛み合っている。なお、図1では、図示の便宜上、ギヤ42aは、アイドラギヤ37から離れた位置に描かれている。
【0052】
リバースギヤ43は、リバース軸42に回転自在に設けられている。第5シンクロクラッチS5は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されており、ECU2による制御により、そのスリーブS5aをリバース軸42の軸線方向に移動させることによって、リバースギヤ43をリバース軸42に係合させる。
【0053】
さらに、図2に示すように、ECU2には、クランク角センサ61から、CRK信号が入力される。このCRK信号は、エンジン3のクランク軸3aの回転に伴い、所定のクランク角ごとに出力されるパルス信号である。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン回転数NEを算出する。また、ECU2には、電流電圧センサ62から、バッテリ52に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が、入力される。ECU2は、この検出信号に基づいて、バッテリ52の充電状態SOCを算出する。
【0054】
さらに、ECU2には、バッテリ温度センサ63から、バッテリ52の温度TBを表す検出信号が入力される。また、ECU2には、アクセル開度センサ64からハイブリッド車両Vのアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度APを表す検出信号が、車速センサ65から車速VPを表す検出信号が、入力される。また、ECU2には、カーナビゲーションシステム66に記憶された、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報を表すデータが適宜、入力される。
【0055】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ61〜65からの検出信号や、カーナビゲーションシステム66からのデータに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両Vの動作を制御する。なお、本実施形態では、ECU2は、記憶手段、変速パターン選択手段および予測手段に相当する。
【0056】
以上の構成のハイブリッド車両Vの運転モードには、ENG走行モード、EV走行モード、アシスト走行モード、充電走行モード、減速回生モードおよびENG始動モードが含まれる。各運転モードにおけるハイブリッド車両Vの動作は、ECU2によって制御される。以下、これらの運転モードについて順に説明する。
【0057】
[ENG走行モード]
ENG走行モードは、エンジン3のみを動力源として用いる運転モードである。ENG走行モードでは、エンジン3の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期を制御することによって、エンジン3の動力(以下「エンジン動力」という)が制御される。また、エンジン動力は、第1または第2変速機構11、31により変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0058】
まず、第1変速機構11により1速段、3速段、5速段および7速段の1つでエンジン動力を変速する場合の動作について、順に説明する。この場合、上記のいずれの変速段においても、第1クラッチC1を締結状態に制御することによって、第1入力軸13をクランク軸3aに係合させるとともに、第2クラッチC2を解放状態に制御することによって、クランク軸3aへの第2入力軸32の係合を解除する。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0059】
1速段の場合には、ロック機構BRをON状態に制御することによって、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2によって、第1入力軸13に対する3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16の係合を解除する。
【0060】
以上により、エンジン動力は、第1クラッチC1、第1入力軸13、サンギヤ12a、プラネタリギヤ12c、キャリア12d、回転軸17、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達され、さらにギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに伝達される。その際、上記のようにリングギヤ12bが回転不能に保持されているため、第1入力軸13に伝達されたエンジン動力は、サンギヤ12aとリングギヤ12bとの歯数比に応じた変速比で減速された後、キャリア12dに伝達され、さらに、3速ギヤ14と第1受動ギヤ18との歯数比に応じた変速比で減速された後、出力軸21に伝達される。その結果、エンジン動力は、上記の2つの変速比によって定まる1速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0061】
3速段の場合には、ロック機構BRをOFF状態に制御することによって、リングギヤ12bの回転を許容するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、3速ギヤ14のみを第1入力軸13に係合させる。
【0062】
以上により、エンジン動力は、第1入力軸13から3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。この場合、上記のように3速ギヤ14が第1入力軸13に係合しているため、サンギヤ12a、キャリア12dおよびリングギヤ12bは一体に空転する。このため、3速段の場合には、1速段の場合と異なり、エンジン動力は、遊星歯車装置12で減速されることなく、3速ギヤ14と第1受動ギヤ18との歯数比によって定まる3速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0063】
以下同様に、5速段の場合には、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、5速ギヤ15のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、エンジン動力は、第1入力軸13から5速ギヤ15および第2受動ギヤ19を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ15,19の歯数比によって定まる5速段の変速比で変速される。
【0064】
7速段の場合には、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、7速ギヤ16のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、エンジン動力は、第1入力軸13から7速ギヤ16および第3受動ギヤ20を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ16,20の歯数比によって定まる7速段の変速比で変速される。
【0065】
次に、エンジン動力を第2変速機構31により2速段、4速段および6速段の1つで変速する場合の動作について、順に説明する。この場合、これらのいずれの変速段においても、第1クラッチC1を解放状態に制御することによって、クランク軸3aへの第1入力軸13の係合を解除するとともに、第2クラッチC2を締結状態に制御することによって、第2入力軸32をクランク軸3aに係合させる。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0066】
2速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、2速ギヤ34のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2クラッチC2、第2入力軸32、ギヤ32a、アイドラギヤ37、ギヤ33a、第2入力中間軸33、2速ギヤ34および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達され、さらにギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに伝達される。その際、エンジン動力は、2速ギヤ34と第1受動ギヤ18との歯数比によって定まる2速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0067】
以下同様に、4速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、4速ギヤ35のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2入力中間軸33から4速ギヤ35および第2受動ギヤ19を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ35,19の歯数比によって定まる4速段の変速比で変速される。
【0068】
6速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、6速ギヤ36のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2入力中間軸33から6速ギヤ36および第3受動ギヤ20を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ36,20の歯数比に応じて定まる6速段の変速比で変速される。
【0069】
ENG走行モード中、エンジントルクは、BSFCボトムトルクになるように制御される。このBSFCボトムトルクは、エンジン動力の変速段と車速VPによって定まるエンジン回転数NEに対して、エンジン3の最小の燃料消費率が得られるトルクである。
【0070】
[EV走行モード]
EV走行モードは、モータ4のみを動力源として用いる運転モードである。EV走行モードでは、バッテリ51からモータ4に供給される電力を制御することによって、モータ4の動力(以下「モータ動力」という)が制御される。また、モータ動力が、第1変速機構11により1速段、3速段、5速段および7速段の1つで変速され、駆動輪DWに伝達される。この場合、これらのいずれの変速段においても、第1および第2クラッチC1、C2を解放状態に制御することによって、クランク軸3aに対する第1および第2入力軸13、32の係合を解除する。これにより、モータ4および駆動輪DWとエンジン3との間が遮断されるので、モータ動力がエンジン3に無駄に伝達されることがない。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0071】
1速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様、ロック機構BRをON状態に制御することによって、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、第1入力軸13に対する3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16の係合を解除する。
【0072】
以上により、モータ動力は、第1入力軸、サンギヤ12a、プラネタリギヤ12c、キャリア12d、回転軸17、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。その結果、モータ動力は、ENG走行モードの場合と同様、1速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0073】
3速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様、ロック機構BRをOFF状態に制御することによって、リングギヤ12bの回転を許容するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、3速ギヤ14のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、モータ動力は、第1入力軸13から、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。その結果、モータ動力は、ENG走行モードの場合と同様、3速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0074】
5速段または7速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様にして、ロック機構BR、第1および第2シンクロクラッチS1、S2を制御する。これにより、モータ動力は、5速段または7速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0075】
[アシスト走行モード]
アシスト走行モードは、エンジン3をモータ4でアシストする運転モードである。アシスト走行モードでは、基本的に、エンジン3の良好な燃費が得られるように、エンジン3のトルク(以下「エンジントルク」という)を制御する。また、運転者から駆動輪DWに要求されるトルク(以下「要求トルク」という)TRQに対するエンジントルクの不足分が、モータ4のトルク(以下「モータトルク」という)によって補われる。要求トルクTRQは、検出されたアクセル開度APに応じて算出される。
【0076】
アシスト走行モード中、エンジン動力を第1変速機構11によって変速しているとき(奇数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11で設定されている変速段の変速比と同じになる。一方、エンジン動力を第2変速機構31によって変速しているとき(偶数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11の1速段、3速段、5速段または7速段のいずれかの変速比を選択することが可能である。
【0077】
[充電走行モード]
充電走行モードは、エンジン動力の一部をモータ4で電力に変換し、発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ52に充電する運転モードである。充電走行モードでは、基本的に、エンジン3の良好な燃費が得られるように、エンジントルクを制御する。充電走行モードでは、要求トルクTRQと車速VPで定まる要求駆動力に対するエンジン動力の余剰分が、電力に変換され、バッテリ52に充電される。また、第1および第2変速機構11、31の変速段に応じて、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および第1〜第5シンクロクラッチS1〜S5が、エンジン走行モードやEV走行モードの場合と同様にして制御される。
【0078】
この場合、アシスト走行モードの場合と同様、エンジン動力を第1変速機構11によって変速しているとき(奇数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11の変速段の変速比と同じになる。また、エンジン動力を第2変速機構12によって変速しているとき(偶数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11の1速段、3速段、5速段または7速段のいずれかの変速比を選択することが可能である。
【0079】
なお、充電走行モード中、エンジン動力を第2変速機構31によって駆動輪DWに伝達する場合において、モータ4と駆動輪DWとの変速比をエンジン3と駆動輪DWとの変速比と同じ値に制御するときには、第1クラッチC1により第1入力軸13をクランク軸3aに係合させる。これにより、エンジン動力の一部が、第1クラッチC1および第1入力軸13を介してモータ4のロータ4bに伝達される。
【0080】
次に、エンジン動力およびモータ動力の変速段の選択、および運転モードの選択について説明する。
【0081】
まず、これらの選択に用いられる総合燃料消費率TSFCについて説明する。この総合燃料消費率TSFCは、ハイブリッド車両Vにおけるエネルギ源としての燃料が、ハイブリッド車両Vの走行エネルギに最終的に変換されることを想定したときの、最終的な走行エネルギに対する燃料量の比であり、したがって、その値が小さいほど、ハイブリッド車両Vの燃費がより良いことを示す。
【0082】
総合燃料消費率TSFCは、ENG走行モードのときには、エンジン3へのハイブリッド車両Vの走行用の供給燃料量、エンジン3の効率および第1および第2変速機構11、31の効率を用いて算出される。
【0083】
また、総合燃料消費率TSFCは、アシスト走行モードのときには、上記の3つのパラメータに加えて、アシスト走行用の電力をバッテリ52に充電するためにエンジン3に過去に供給された過去供給燃料量、バッテリ52の放電効率、モータ4の駆動効率および第1および第2変速機構11、31の効率を用いて算出される。
【0084】
さらに、総合燃料消費率TSFCは、充電走行モードのときには、上記の3つのパラメータに加えて、エンジン3へのモータ4による充電用の供給燃料量、エンジン3の効率、第1および第2変速機構11、31の効率、モータ4の発電効率、バッテリ52の充電効率、およびバッテリ52の電力を将来的にモータ4の動力に変換するときの効率である予測効率を用いて算出される。
【0085】
以上のように算出される総合燃料消費率TSFCは、エンジン3の燃料消費率だけでなく、第1および第2変速機構11、31の効率を反映し、アシスト走行モードまたは充電走行モードではさらに、モータ4の駆動効率および発電効率やバッテリ52の放電効率および充電効率などを反映する。
【0086】
図3および図4は、変速パターンおよび運転モードの選択に用いられる総合燃料消費量マップを示す。このような総合燃料消費量マップは、実際には、エンジン動力の変速段とモータ動力の変速段との組み合わせである変速パターンごとに設定され、ECU2に記憶されている。図3はそのうちのエンジン動力およびモータ動力の変速段がいずれも3速段の例であり、図4はエンジン動力が4速段、モータ動力の変速段が3速段の例である。
【0087】
これらの図に示すように、各総合燃料消費率マップは、車速VPおよび要求トルクTRQに対して、総合燃料消費率TSFCを規定しており、エンジン3、モータ4、第1および第2変速機構11、31やバッテリ52の効率などをあらかじめ実験によって求め、これらのパラメータを用いて前述した方法で算出した総合燃料消費率TSFCを、マップ化したものである。総合燃料消費率マップには、BSFCボトムトルクを結ぶBSFCボトムラインが示されており、その上側がアシスト走行モードの領域であり、下側が充電走行モードの領域である。
【0088】
図5は、上述した総合燃料消費率マップを用い、変速パターンおよび運転モードを選択する処理を示す。本処理は、ECU2により、所定時間ごとに実行される。
【0089】
本処理ではまず、ステップ1において、車速VPおよび要求トルクTRQに応じ、すべての総合燃料消費率マップを検索することによって、総合燃料消費率TSFC1〜TSFCnを算出する。次に、ステップ2において、算出した総合燃料消費率TSFC1〜TSFCnから、それらの最小値TSFCminをピックアップする。
【0090】
次に、ステップ3において、最小値TSFCminに基づいて、変速パターンを選択する。具体的には、最小値TSFCminを規定する総合燃料消費率マップを特定するとともに、その総合燃料消費率マップに対応する変速パターンを、変速パターンとして選択する。
【0091】
次に、ステップ4において、最小値TSFCminに基づいて、運転モードを選択し、本処理を終了する。具体的には、特定された総合燃料消費率マップにおいて、最小値TSFCminがほぼBSFCボトムライン上に位置するときには、運転モードとして、ENG走行モードを選択する。また、最小値TSFCminがBSFCボトムラインの上側に位置するときには、アシスト走行モードを選択し、下側に位置するときには、充電走行モードを選択する。
【0092】
また、充電走行モード中、要求トルクTRQが所定値以下のときには、エンジン動力およびモータ動力の変速段はいずれも、第1変速機構11による奇数段に設定される。
【0093】
また、アシスト走行モード中、検出されたバッテリ温度TBが所定温度以上になったときには、モータ4の出力を制限し、モータ4によるエンジン3のアシストを制限する。この場合、アシストを制限した分を補うように、エンジントルクを増大させる。また、EV走行モード中、バッテリ温度TBが所定温度以上になったときには、EV走行モードを禁止し、走行モードを、ENG走行モード、充電走行モードまたはアシスト走行モードに切り換える。また、アシスト走行モードに切り換えたときには、上記のようにモータ4の出力が制限される。
【0094】
また、ECU2は、検出されたバッテリ52の充電状態SOCが下限値SOCL以下のときには、充電状態SOCを回復させるために、充電走行モードにおいて、モータ4による回生量を増大させるようにモータ4の動作を制御する。この場合、回生量の増大分を補うように、エンジントルクを増大させる。
【0095】
さらに、ECU2は、前述したカーナビゲーションシステム66に記憶された、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報に基づいて、ハイブリッド車両Vの走行状況を予測する。そして、予測されたハイブリッド車両Vの走行状況に応じて、変速パターンの選択を行う。具体的には、ハイブリッド車両Vが下り坂を走行すると予想されたときには、エンジントルクが最も大きな変速パターンを選択し、上り坂を走行すると予想されたときには、充電量が最も大きな変速パターンを選択する。
【0096】
以上のように、本実施形態によれば、車速VPおよび要求トルクTRQに応じ、総合燃料消費率マップに基づいて、すべての変速パターンから、総合燃料消費率TSFCが最も小さな変速パターンを選択する。したがって、選択された変速パターンを用いてハイブリッド車両Vを運転することによって、最小の総合燃料消費率を得ることができ、ハイブリッド車両Vの燃費を向上させることができる。
【0097】
また、充電走行モードのときには、総合燃料消費率TSFCを、エンジン3へのモータ4による充電用の供給燃料量、エンジン3の効率、第1および第2変速機構11、31の効率、モータ4の発電効率、バッテリ52の充電効率、およびバッテリ52の電力を将来的にモータ4の動力に変換するときの予測効率を用いて算出する。したがって、これらの効率を反映させながら、ハイブリッド車両Vの総合燃料消費率TSFCを精度良く算出することができる。
【0098】
また、充電走行モード中、要求トルクTRQが所定値TRQL以下のときには、エンジン動力およびモータ動力の変速段はいずれも、第1変速機構11による奇数段に設定されるので、エンジン3からモータ4までの動力伝達経路における動力損失を低減し、その影響を小さくすることができ、バッテリ52の充電効率を向上させることができる。
【0099】
また、検出されたバッテリ温度TBが所定温度以上のときに、モータ4の出力を制限するので、バッテリ温度TBの上昇を抑えることができる。また、検出されたバッテリ52の充電状態SOCが下限値SOCL以下のときに、モータ4による回生量を増大させるようにモータ4の動作を制御するので、下限値を下回った蓄電器の充電状態を確実に回復させることができる。
【0100】
さらに、カーナビゲーションシステム66で予測されたハイブリッド車両Vの走行状況に応じて、変速パターンの選択を行うので、ハイブリッド車両Vが下り坂を走行すると予想されたときには、エンジントルクが最も大きな変速パターンを選択し、上り坂を走行すると予想されたときには、充電量が最も大きな変速パターンを選択することができる。
【0101】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1および第2変速機構11、31のそれぞれの複数の変速段を、奇数段および偶数段に設定しているが、これとは逆に、偶数段および奇数段に設定してもよい。さらに、実施形態では、第1および第2変速機構11、31として、変速された動力を駆動輪DWに伝達するための出力軸21が共用化されたタイプのものを用いているが、出力軸が別個に設けられたタイプのものを用いてもよい。この場合、第1〜第4シンクロクラッチS1〜S4を、第1入力軸13および第2入力中間軸33ではなく、出力軸に設けてもよい。さらに、実施形態では、クラッチC、第1および第2クラッチC1、C2は、乾式多板クラッチであるが、湿式多板クラッチや、電磁クラッチでもよい。
【0102】
また、実施形態では、総合燃料消費率マップは、すべての変速パターンと同じ数だけ設定されているが、それらを重ね合わせ、より少ない数のマップに統合してもよい。
【0103】
さらに、実施形態では、本発明における電動機として、ブラシレスDCモータであるモータ4を用いているが、発電可能な他の適当な電動機、例えばACモータを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における蓄電器は、バッテリ52であるが、充電および放電可能な他の適当な蓄電器、例えばキャパシタでもよい。さらに、実施形態では、本発明における内燃機関として、ガソリンエンジンであるエンジン3を用いているが、ディーゼルエンジンや、LPGエンジンを用いてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0104】
V ハイブリッド車両
1 制御装置
2 ECU(記憶手段、変速パターン選択手段、予測手段)
3 エンジン
3a クランク軸(機関出力軸)
4 モータ
DW 駆動輪
11 第1変速機構
13 第1入力軸
31 第2変速機構
32 第2入力軸
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
52 バッテリ(蓄電器)
66 カーナビゲーションシステム
TRQ 要求トルク(要求駆動力)
TSFC 総合燃料消費率(総合燃料消費)
TB バッテリ温度(蓄電器の温度)
SOC 充電状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記駆動輪に要求される要求駆動力に対して、前記ハイブリッド車両の総合燃料消費を、前記内燃機関の動力の変速段と前記電動機の動力の変速段との組み合わせである変速パターンごとに規定した総合燃料消費マップを記憶する記憶手段と、
前記ハイブリッド車両の速度および前記要求駆動力に応じ、前記総合燃料消費マップに基づいて、複数の変速パターンから、前記総合燃料消費が最も小さな変速パターンを選択する変速パターン選択手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記総合燃料消費は、前記内燃機関の動力の一部を用いた前記電動機による回生によって前記蓄電器を充電するときの効率、および前記蓄電器に充電された電力を前記電動機の動力に変換するときの予測効率を用いて算出されることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1クラッチが解放され、かつ前記第2クラッチが接続されている状態において、前記第2入力軸の動力が、前記第2変速機構および前記第1変速機構を介して、前記第1入力軸に伝達されるように構成されており、
前記変速パターン選択手段は、前記内燃機関の動力の一部を用いた前記電動機による回生によって前記蓄電器の充電が行われている状態において、前記要求駆動力が所定値以下のときには、前記複数の変速パターンから、前記内燃機関の動力の変速段が前記第1変速機構の変速段である変速パターンを選択することを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記電動機および前記蓄電器の少なくとも一方の温度が、前記電動機および前記蓄電器の前記少なくとも一方に対して設定された所定温度以上のときに、前記電動機の出力が制限されることを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記蓄電器の充電状態が所定の下限値以下のときに、前記電動機による回生量を増大させるように前記電動機の動作を制御することを特徴とする、請求項3または4に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記ハイブリッド車両には、当該ハイブリッド車両が走行している周辺の道路情報を表すデータを記憶するカーナビゲーションシステムが設けられており、
当該カーナビゲーションシステムに記憶されたデータに基づき、前記ハイブリッド車両の走行状況を予測する予測手段をさらに備え、
当該予測されたハイブリッド車両の走行状況に応じて、前記変速パターンの選択を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有するハイブリッド車両の制御方法において、
前記ハイブリッド車両の速度および前記駆動輪に要求される要求駆動力に対して、前記ハイブリッド車両の総合燃料消費を、前記内燃機関の動力の変速段と前記電動機の動力の変速段との組み合わせである変速パターンごとに規定した総合燃料消費マップを記憶し、
前記ハイブリッド車両の速度および前記要求駆動力に応じ、前記総合燃料消費マップに基づいて、複数の変速パターンから、前記ハイブリッド車両の総合燃料消費が最も小さな変速パターンを選択し、
前記総合燃料消費マップに記憶された総合燃料消費は、前記内燃機関の動力の一部を用いた前記電動機による回生によって前記蓄電器を充電するときの効率、および前記蓄電器に充電された電力を前記電動機の動力に変換するときの効率を用いて算出されたものであり、
前記第1クラッチが解放され、かつ前記第2クラッチが接続されている状態において、前記第2入力軸の動力が、前記第2変速機構および前記第1変速機構を介して、前記第1入力軸に伝達されるように構成されており、
前記電動機による回生によって前記蓄電器の充電が行われている状態において、前記内燃機関の出力が所定値以下のときには、複数の変速パターンから、前記内燃機関の動力が前記第1変速機構により変速される変速パターンを選択することを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−52803(P2013−52803A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193024(P2011−193024)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】