説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジン始動時のショックの発生等を抑制可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、ハイブリッド車両に搭載され、エンジンと、第1回転電機と、第2回転電機と、動力伝達機構と、制御手段と、を備える。動力伝達機構は、相互に差動回転可能な複数の回転要素を備える。制御手段は、第1走行モードから、第2走行モードへ走行モードを切り替える際、クラッチを、滑らせながら係合状態にする。そして、制御手段は、要求駆動力に応じてクラッチの滑り量を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、発電機として主に機能する第1回転電機と、駆動輪に連結された駆動軸に動力を供給する電動機として主に機能する第2回転電機と、内燃機関の出力トルクを第1回転電機側と駆動軸及び第2回転電機側とに分配する動力分配機構を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、動力源としてエンジンと第1及び第2回転電機とを備えるとともに、第2回転電機とエンジンとの結合状態をクラッチにより切り替え可能なハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両は、クラッチを解放することで、エンジンを切り離して第2回転電機によりEV(Electric Vehicle)走行を行う。
【0003】
また、特許文献2には、回転電機とエンジンとの間にクラッチを設け、クラッチの差回転数に応じてフィードバック制御を行い、そのゲインをアクセル開度に応じて変化させることで、クラッチの半係合状態(滑り状態)である時間を調整する技術が開示されている。また、特許文献3には、回転電機と車輪との間にクラッチを設け、クラッチの係合を許容する上限差回転数である許容差回転数を車速に応じて求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開2006−123642号公報
【特許文献3】特開2006−234141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第2回転電機とエンジンとの結合状態をクラッチにより切り替え可能なハイブリッド車両において、クラッチが解放状態にあるEV走行時からエンジンを始動させてクラッチを係合させる場合、要求駆動力によっては、クラッチの係合によりショックの発生等が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジン始動時のショックの発生等を抑制可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点では、エンジンと、第1回転電機と、第2回転電機と、前記第1回転電機に連結された第1回転要素と、前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、前記エンジンと連結する第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、前記クラッチを解放状態にし、前記エンジンを停止させて前記第2回転電機により走行を行う第1走行モードから、前記クラッチを係合状態にし、前記エンジンを駆動させて走行を行う第2走行モードへ走行モードを切り替える際、前記クラッチを、滑らせながら係合状態にする制御手段と、を備え、前記制御手段は、要求駆動力に応じて前記クラッチの滑り量を変更する。
【0008】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、ハイブリッド車両に搭載され、エンジンと、第1回転電機と、第2回転電機と、動力伝達機構と、制御手段と、を備える。動力伝達機構は、相互に差動回転可能な複数の回転要素を備える。具体的には、動力伝達機構は、第1回転電機に連結された第1回転要素と、第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、エンジンと連結する第3回転要素とを備える。ここで、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、第1走行モードから、第2走行モードへ走行モードを切り替える際、クラッチを、滑らせながら係合状態にする。ここで、第1走行モードは、クラッチが解放状態の場合の走行モードであり、エンジンを停止させたEV走行を指す。第2走行モードは、クラッチが係合状態にしてエンジンを駆動させた走行モードであり、例えば、エンジンから出力された動力を2つに分配し、一部を機械的な動力のまま駆動軸に出力すると共に、残余を電力に変換して駆動軸に出力するシリーズパラレル走行である。そして、制御手段は、要求駆動力に応じてクラッチの滑り量を変更する。「クラッチの滑り量」とは、クラッチが滑り状態の時にクラッチに生じる発熱量に相当する。
【0009】
一般に、要求駆動力によって、適切なクラッチの滑り量は異なる。例えば、クラッチの滑り状態において、要求駆動力が大きく、クラッチに大きなトルクが伝達される場合には、発熱によるクラッチの劣化の抑制及び高応答性の観点から、係合時でのクラッチの滑り量が少ないことが望ましい。一方、要求駆動力が小さい場合には、相対的にユーザはショックを感じやすくなることから、係合時でのクラッチの滑り量が大きいことが望ましい。以上を勘案し、ハイブリッド車両の制御装置は、要求駆動力に応じてクラッチの滑り量を変更する。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、応答性の向上やショックの低減等を実現することができる。
【0010】
上記ハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記制御手段は、要求駆動力に応じて前記クラッチを滑らせる時間幅を変更することで、前記クラッチの滑り量を調整する。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、好適にクラッチの滑り量を調整し、応答性の向上やショックの低減等を実現することができる。
【0011】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、前記クラッチの係合要素の回転数差が所定範囲に存在する場合、前記クラッチを、滑らせながら係合状態にし、前記制御手段は、要求駆動力に応じて前記所定範囲を設定する。一般に、要求駆動力が大きい場合は、高応答性が求められる一方、ユーザのショック感度は相対的に低くなる。従って、ハイブリッド車両の制御装置は、所定範囲を要求駆動力に応じて設定することで、ショックを抑制しつつ応答性を向上させることができる。
【0012】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、要求駆動力が所定値よりも大きい場合、当該要求駆動力が前記所定値以下の場合と比べて、前記所定範囲を大きくする。上述の所定値は、例えば高応答性の必要の有無の観点及びショック感度の観点等に基づき実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、WOT(Wide Open Throttle)時など要求駆動力が大きい場合に、ショックが許容される範囲で応答性を高めることができる。
【0013】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、前記クラッチの応答性に基づき、前記所定範囲を設定する。一般に、クラッチの応答性が悪い場合には、クラッチの係合時にショックが発生しやすくなる。従って、ハイブリッド車両の制御装置は、この態様により、クラッチ係合時のショックを低減することが可能となる。
【0014】
上記ハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、トランスミッション内の油の温度が所定値よりも小さい場合、当該温度が前記所定値以上の場合と比べて、前記所定範囲を小さくする。上述の所定値は、例えばクラッチの応答性低下に起因したショック発生の有無の観点に基づき、実験等により予め定められる。この態様により、ハイブリッド車両の制御装置は、低油温時にクラッチの制御性が低い場合であっても、クラッチ係合時のショックを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】アクセル開度とクラッチ滑り時間幅との関係を示すマップの一例である。
【図4】第1実施形態に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図5】ハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図6】上限許容差回転数とアクセル開度との関係を示すマップの一例である。
【図7】第2実施形態に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
[ハイブリッド車両の構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、油温センサ16及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0018】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「制御手段」として機能する。なお、本発明に係る制御手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば制御手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0019】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0020】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0021】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0022】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0023】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0024】
油温センサ16は、ハイブリッド駆動装置10内のトランスミッションの油温を検出することが可能に構成されたセンサである。油温センサ16は、その検出結果を一定又は不定の周期でECU100へ出力する。
【0025】
なお、図1に示すハイブリッド車両1の構成は一例であり、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。例えば、ECU100は、油温センサ16に代えて、例えば外気温又はエンジン水温等から油温を推定してもよい。
【0026】
[ハイブリッド駆動装置の構成]
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0027】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン20、動力分割機構30、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸40、クラッチCL、ブレーキBR、減速機構60、及びオイルポンプ70を備える。
【0028】
エンジン20は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する。エンジン20の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸40に連結されている。
【0029】
モータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた、本発明に係る「第1回転電機」の一例たる電動発電機である。
【0030】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい本発明に係る「第2回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備える。モータMG2は、モータMG1及びエンジン20と異なり、ハイブリッド車両1の駆動軸(以後、「駆動軸OUT」と呼ぶ。)に対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTm」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmは、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTg」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0031】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。
【0032】
動力分割機構30は、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる複合型遊星歯車機構である。動力分割機構30は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支する本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備える。
【0033】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。リングギヤR1は、クラッチCLを介して減速機構60に連結されている。クラッチCLは、例えば、油圧制御式又は電磁式のクラッチである。また、リングギヤR1の回転数は、クラッチCLが締結された場合、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。キャリアC1は、エンジン20のクランク軸に連結された入力軸40と連結されており、その回転数は、エンジン20の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。
【0034】
動力分割機構30は、上述した構成の下で、エンジン20から入力軸40に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構30は、エンジン20の動力を2系統に分割する。
【0035】
減速機構60は、モータMG2のロータと連結すると共に、クラッチCLを介してリングギヤR1と連結する。そして、減速機構60は、駆動軸OUTの回転を、減速機構60を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形でモータMG2に伝達する。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。また、減速機構60は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤと、デファレンシャルとを含む。そして、各車軸の回転数は、減速機構60により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。
【0036】
オイルポンプ70は、ハイブリッド駆動装置10の各部に潤滑油を供給する。オイルポンプ70は、入力軸40にて伝達された動力にて駆動される。
【0037】
尚、本発明に係る「動力伝達機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構30のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力伝達機構は、複数の遊星歯車機構が組み合わされた複合型遊星歯車機構であってもよい。
【0038】
[制御方法]
まず、ECU100が実行するクラッチCLの制御について説明する。
【0039】
ECU100は、EV走行を行う場合、クラッチCLを解放状態とし、エンジン20を停止させ、モータMG2により走行を行う。このように、ECU100は、EV走行時にクラッチCLを解放状態とすることで、EV走行時でのモータMG1及び動力分割機構30の各ギヤ並びにベアリングの引き摺りによる損失を抑制する。上述のEV走行は、本発明における「第1走行モード」の一例である。
【0040】
一方、ECU100は、クラッチCLを係合(締結)状態とし、エンジン20を駆動させることで、ハイブリッド車両1を、所謂シリーズパラレル式ハイブリッド車両として機能させる。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20からの動力を動力分割機構30により分割し、一方を機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力すると共に、残余をモータMG1、MG2により電力に変換して駆動軸OUTに出力する。以後、この走行状態を、「シリーズパラレル式走行」とも呼ぶ。シリーズパラレル式走行は、本発明における「第2走行モード」の一例である。
【0041】
そして、ECU100は、EV走行からシリーズパラレル式走行へ切り替える場合、クラッチCLを解放状態から係合状態へ遷移させてエンジン20を始動させる。このとき、ECU100は、クラッチCLを、係合状態と解放状態の中間状態(半係合状態)である滑り状態に所定時間幅(「クラッチ滑り時間幅TCL」とも呼ぶ。)だけ保つ。
【0042】
以下、この具体的な制御方法について、第1実施形態乃至第3実施形態で説明する。
【0043】
以後では、「クラッチ滑り量」とは、滑り状態でのクラッチCLに発生する熱量に相当し、具体的には、係合要素RCL、OCLの差回転数と、クラッチ滑り時間幅TCLと、係合要素RCL、OCLが押し合う力と、の積に相当する量である。後述するように、ECU100は、クラッチ滑り時間幅TCLを制御することで、クラッチ滑り量を調整する。
【0044】
<第1実施形態>
第1実施形態では、ECU100は、要求駆動力に応じてクラッチ滑り時間幅TCLを変更する。具体的には、ECU100は、アクセル開度Ta及び登坂状況などのハイブリッド車両1の負荷の状態(単に「車両状態」とも呼ぶ。)に基づき、クラッチ滑り時間幅TCLを変更する。
【0045】
より具体的には、ECU100は、要求駆動力が大きく、エンジン20の始動時(「エンジン始動時」とも呼ぶ。)にクラッチCLを介してエンジン20へ伝達されるトルク(単に「伝達トルク」とも呼ぶ。)が大きい場合、即ち係合要素RCL、OCLが押し合う力が大きい場合には、クラッチ滑り時間幅TCLを短くして、クラッチ滑り量が増大化するのを抑制する。これにより、ECU100は、クラッチCLの係合に要する時間を短縮して応答性を高めると共に、クラッチCLの摩擦材が許容発熱量を超えるのを抑制する。
【0046】
また、ECU100は、エンジン始動時での伝達トルクが小さい場合、即ちエンジン始動時の要求駆動力が小さい場合には、クラッチ滑り時間幅TCLを長くし、クラッチ滑り量を大きくする。このように、ECU100は、伝達トルクが小さく、クラッチCLの係合に起因したショックをユーザが感じやすい状況で、クラッチ滑り時間幅TCLを長くすることで、ショックを抑制する。
【0047】
クラッチ滑り時間幅TCLの設定方法について、図3を参照して具体的に説明する。図3は、アクセル開度Taとクラッチ滑り時間幅TCLとの関係を示すマップの一例である。
【0048】
図3に示すように、ECU100は、アクセル開度Taが大きいほど、クラッチ滑り時間幅TCLを短くする。これにより、ECU100は、高応答が必要な場合での応答性を向上させることができる。また、ECU100は、クラッチCLの摩擦材の発熱を抑制し、当該摩擦材の寿命を延ばすことができる。また、ECU100は、アクセル開度Taが小さいほど、クラッチ滑り時間幅TCLを長くする。これにより、ECU100は、アクセル開度Taが低開度の場合のクラッチCLの係合に起因したショックを低減させ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0049】
また、アクセル開度Taに加え、又は、これに代えて、ECU100は、走行道路の上りの傾斜角度(単に「傾斜角度Ang」とも呼ぶ。)に応じてクラッチ滑り時間幅TCLを決定する。具体的には、ECU100は、傾斜角度Angが大きく伝達トルクが大きくなると判断した場合には、傾斜角度Angが小さいと判断した場合と比較して、クラッチ滑り時間幅TCLを短く設定する。この場合、例えば、ECU100は、Gセンサや角速度センサなどの各種センサの検出信号に基づきハイブリッド車両1の傾きを検出することで当該傾斜角度Angを推定する。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照することで、傾斜角度Angに基づき、クラッチ滑り時間幅TCLを決定する。上述のマップは、傾斜角度Angとクラッチ滑り時間幅TCLとのマップ、または、傾斜角度Ang及びアクセル開度Taとクラッチ滑り時間幅TCLとのマップであり、例えば、実験等に基づき作成され、ECU100のメモリに予め記憶される。
【0050】
(処理フロー)
図4は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図4に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0051】
まず、ECU100は、エンジン20の始動要求があるか否か判定する(ステップS101)。即ち、ECU100は、走行モードを、クラッチCLが解放状態にあるEV走行から、クラッチCLを係合状態に移行させてシリーズパラレル式走行へ切り替えるべき走行状態であるか否か判定する。そして、ECU100は、エンジン20の始動要求があると判断した場合(ステップS101;Yes)、エンジン20の始動制御へ移行可能か否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、エンジン20の始動制御へ移行可能であると判断した場合(ステップS102;Yes)、ステップS103へ処理を進める。
【0052】
一方、ECU100は、エンジン20の始動要求がないと判断した場合(ステップS101;No)、又は、エンジン20の始動制御へ移行可能ではないと判断した場合(ステップS102;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0053】
次に、ECU100は、車両状態の特定を行う(ステップS103)。具体的には、ECU100は、アクセル開度センサ13の検出信号に基づきアクセル開度Taを特定する。また、ECU100は、例えばGセンサや角速度センサにより水平方向に対する車両の傾きを検出することにより、傾斜角度Angを特定する。そして、ECU100は、車両状態に基づき、クラッチ滑り時間幅TCLを決定する(ステップS104)。ECU100は、例えば所定のマップを参照することで、上述のアクセル開度Ta及び傾斜角度Angに基づき、クラッチ滑り時間幅TCLを特定する。
【0054】
そして、ECU100は、ステップS104で定めたクラッチ滑り時間幅TCLだけクラッチCLを滑り状態に保つ(ステップS105)。このとき、ECU100は、クラッチCLの係合要素RCL、OCLの回転を同期させる制御(「クラッチ回転同期制御」とも呼ぶ。)を行い、クラッチCLの係合要素RCL、OCLの差回転数の絶対値(以後、「差回転数Nd」とも呼ぶ。)が所定値以下になった場合に、クラッチCLを解放状態から滑り状態に移行させる。
【0055】
次に、ECU100は、クラッチCLを係合状態へ移行させる(ステップS106)。具体的には、ECU100は、クラッチCLを滑り状態から係合状態へ移行させる。そして、ECU100は、クラッチCLの係合後、エンジン20の始動制御を実施する(ステップS107)。
【0056】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に加え、ECU100は、要求駆動力が高い場合には、クラッチCLを解放状態から滑り状態へ移行させる差回転数Ndの上限値(「上限許容差回転数Ndth」とも呼ぶ。)を大きくする。これにより、ECU100は、クラッチCLの係合に要する時間を短縮し、応答性を向上させる。以後では、クラッチCLを解放状態から滑り状態へ移行させる差回転数Ndの範囲を、「許容差回転数領域TNd」とも呼ぶ。許容差回転数領域TNdは、本発明における「所定範囲」の一例である。
【0057】
ここで、許容差回転数領域TNdについて、共線図を用いて説明する。図5は、クラッチ回転同期制御時のハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。図5において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順に、サンギヤS1(一義的に、モータMG1)、キャリアC1(一義的に、エンジン20)、係合要素RCL(一義的に、リングギヤR1)、係合要素OCL(一義的に、駆動軸OUT)及びモータMG2を表す。また、図5では、モータMG1の力行トルク、モータMG2の力行トルク、及び走行抵抗により発生するトルクをそれぞれ矢印「Y1」、「Y2」、「Y3」により表示している。
【0058】
ここで、係合要素OCLの回転数を基準とした場合、矢印「Y4」が示す範囲に係合要素RCLの回転数が存在するとき、ECU100は、差回転数Ndが許容差回転数領域TNdにあると判定する。ここで、矢印Y4が示す範囲は、係合要素OCLの回転数に上限許容差回転数Ndthを加えた回転数を上限値とし、係合要素OCLの回転数に上限許容差回転数Ndthを減じた回転数を下限値とする範囲である。言い換えると、矢印Y4が示す範囲は、破線「L3」の動作状態に対応する係合要素RCLの回転数を下限値、破線「L4」の動作状態に対応する係合要素RCLの回転数を上限値とする範囲である。そして、ECU100は、許容差回転数領域TNdに相当する矢印Y4の幅を、要求駆動力に応じて変更する。
【0059】
次に、具体的な上限許容差回転数Ndthの設定方法について、図6を参照して説明する。図6は、アクセル開度Taと、上限許容差回転数Ndthとの関係を示すマップの一例である。上述のマップは、例えば許容されるショックの範囲を勘案し、実験等に基づき予め作成され、メモリに記憶される。
【0060】
図6に示すように、ECU100は、アクセル開度Taが大きいほど、即ち要求駆動力が大きいほど、上限許容差回転数Ndthを大きくする。即ち、ECU100は、要求駆動力が大きく、ショックが許容される状況では、上限許容差回転数Ndthを大きくして許容差回転数領域TNdを広げる。このようにすることで、ECU100は、ショックによるドライバビリティの低下を抑制しつつ、クラッチCLの係合に要する時間を短縮し、応答性を向上させることができる。
【0061】
ここで、第2実施形態の効果について補足説明する。第1実施形態では、ECU100は、応答性向上と、ショックによるドライバビリティ悪化の抑制とのバランスが保たれるように、クラッチ滑り時間幅TCLを設定した。一方、ECU100は、上述のクラッチ滑り時間幅TCLの調整を行う他、許容差回転数領域TNdを大きくすることによっても、クラッチCLの係合に要する時間を短縮し、応答性を向上させることが可能である。特に、WOT時など、要求駆動力が大きく、ショックが許容される状況では、ECU100は、許容差回転数領域TNdを大きくしても、ドライバビリティを悪化させることなく、クラッチCLの係合に要する時間を短縮することが可能である。
【0062】
以上を勘案し、ECU100は、要求駆動力が大きい場合には、上限許容差回転数Ndthを大きくして許容差回転数領域TNdを拡大する。これにより、ECU100は、クラッチCLの係合に要する時間を短縮し、応答性を向上させることができる。
【0063】
(処理フロー)
図7は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図7に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0064】
まず、ECU100は、エンジン20の始動要求があるか否か判定する(ステップS201)。そして、ECU100は、エンジン20の始動要求があると判断した場合(ステップS201;Yes)、エンジン20の始動制御へ移行可能か否か判定する(ステップS202)。そして、ECU100は、エンジン20の始動制御へ移行可能であると判断した場合(ステップS202;Yes)、ステップS203へ処理を進める。
【0065】
一方、ECU100は、エンジン20の始動要求がないと判断した場合(ステップS201;No)、又は、エンジン20の始動制御へ移行可能ではないと判断した場合(ステップS202;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0066】
次に、ECU100は、車両状態の特定を行う(ステップS203)。具体的には、ECU100は、各種センサの検出信号に基づきアクセル開度Taや傾斜角度Angを特定する。そして、ECU100は、クラッチ滑り時間幅TCLを決定すると共に、上限許容差回転数Ndthを決定する(ステップS204)。このとき、ECU100は、例えば、図6に示すマップを参照して、アクセル開度Taから上限許容差回転数Ndthを決定する。
【0067】
次に、ECU100は、差回転数Ndが上限許容差回転数Ndth以下となっているか否か判定する(ステップS205)。そして、ECU100は、差回転数Ndが上限許容差回転数Ndth以下であると判断した場合(ステップS205;Yes)、クラッチ滑り時間幅TCLだけクラッチCLを滑り状態に保つ(ステップS206)。一方、ECU100は、差回転数Ndが上限許容差回転数Ndthより大きいと判断した場合(ステップS205;No)、クラッチ回転同期制御を行い、引き続きステップS206で差回転数Ndが上限許容差回転数Ndth以下となっているか否か判定する。
【0068】
次に、ECU100は、ステップS207で、クラッチCLを係合状態に移行させる(ステップS207)。そして、ECU100は、クラッチCLの係合後、エンジン20の始動制御を実施する(ステップS208)。
【0069】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第1実施形態及び第2実施形態に加え、又はこれに代えて、ECU100は、油温が低温度かつアクセル開度Taが小さい場合、上限許容差回転数Ndthを小さくする。これにより、ECU100は、クラッチCLの係合時のショックを抑制し、ドライバビリティを向上させる。
【0070】
一般に、トランスミッション内の油が低油温状態では、油圧応答性、即ちクラッチCLの制御性が低下する。従って、この場合、クラッチCLの係合時にショックが発生し、ドライバビリティが悪化する可能性がある。
【0071】
以上を勘案し、第3実施形態では、ECU100は、低油温等のクラッチCLの応答性及び制御性のばらつき発生要因を考慮する。具体的には、ECU100は、応答性の悪くショックが発生しやすい低油温時かつユーザがショックを感じる感度が相対的に高くなるアクセル開度Taの低開度時では、上限許容差回転数Ndthを小さくし、許容差回転数領域TNdを低回転数側に縮小させる。例えば、ECU100は、各種センサに基づき検出又は推定した油温及びアクセル開度Taに基づき、所定のマップ等を参照し、上限許容差回転数Ndthを定める。上述のマップは、油温及びアクセル開度Taに対応する上限許容差回転数Ndthのマップであり、例えばクラッチCLの応答性及び制御性を勘案して実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。これにより、ECU100は、クラッチCLの係合時のショックを抑制し、ドライバビリティを向上させることができる。
【0072】
次に、第3実施形態の処理手順について説明する。第3実施形態では、ECU100は、第2実施形態の処理手順と同様、図7のフローチャートに基づき処理を行う。この場合、ECU100は、ステップS203で車両状態を特定する際、各種センサに基づき油温を推定又は検出する。そして、ステップS204では、ECU100は、油温及びアクセル開度Taに基づき、所定のマップ等を参照して、上限許容差回転数Ndthを定める。これにより、ECU100は、クラッチCLの応答性及び制御性のばらつき発生要因を考慮して、上限許容差回転数Ndthを適切に定め、ショックの発生を抑制することができる。
【0073】
[変形例]
第2実施形態の図6の説明では、ECU100は、アクセル開度Taが大きいほど、即ち要求駆動力が大きいほど、上限許容差回転数Ndthを大きくし、許容差回転数領域TNdを拡大した。しかし、本発明が適用可能な方法は、これに限定されない。
【0074】
これに代えて、ECU100は、要求駆動力又はこれに相当するアクセル開度Taが所定の閾値よりも大きい場合、その他の場合と比べて、上限許容差回転数Ndthを所定値又は所定率だけ大きくしてもよい。上述の閾値は、高応答性が求められるか否かを判断するための閾値であり、例えば実験等に基づき予め定められる。また、上述の所定値及び所定率は、アクセル開度Ta等に応じて定められる変数であってもよく、予め定められた定数であってもよい。これによっても、ECU100は、WOT時などの要求駆動力が大きい場合には、許容差回転数領域TNdを大きくし、クラッチCLの係合に要する時間を短縮し、応答性を向上させることができる。
【0075】
同様に、上述した第3実施形態の説明に代えて、ECU100は、油温が所定の閾値よりも小さい場合、その他の場合と比べて、上限許容差回転数Ndthを所定値又は所定率だけ小さくしてもよい。上述の閾値は、低油温により応答性、制御性が低下するか否かを判断するための閾値であり、例えば実験等に基づき予め定められる。これによっても、ECU100は、クラッチCLの係合時のショックを抑制し、ドライバビリティを向上させることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
20 エンジン
30 動力分割機構
40 入力軸
60 減速機構
100 ECU
MG1、MG2 モータジェネレータ
CL クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
第1回転電機と、
第2回転電機と、
前記第1回転電機に連結された第1回転要素と、前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、前記エンジンと連結する第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、
前記クラッチを解放状態にし、前記エンジンを停止させて前記第2回転電機により走行を行う第1走行モードから、前記クラッチを係合状態にし、前記エンジンを駆動させて走行を行う第2走行モードへ走行モードを切り替える際、前記クラッチを、滑らせながら係合状態にする制御手段と、を備え、
前記制御手段は、要求駆動力に応じて前記クラッチの滑り量を変更することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、要求駆動力に応じて前記クラッチを滑らせる時間幅を変更することで、前記クラッチの滑り量を調整することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記クラッチの係合要素の回転数差が所定範囲に存在する場合、前記クラッチを、滑らせながら係合状態にし、
前記制御手段は、要求駆動力に応じて前記所定範囲を設定する請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、要求駆動力が所定値よりも大きい場合、当該要求駆動力が前記所定値以下の場合と比べて、前記所定範囲を大きくする請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記クラッチの応答性に基づき、前記所定範囲を設定する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、トランスミッション内の油の温度が所定値よりも小さい場合、当該温度が前記所定値以上の場合と比べて、前記所定範囲を小さくする請求項5に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−126322(P2012−126322A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281238(P2010−281238)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】