説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】排気再循環処理が実行されているか否かにあわせたエンジン回転数の制御を行うことのできるハイブリッド車両の制御装置を提供することにあり、ひいてはエンジンの運転効率が低下することによってハイブリッドシステム全体としての運転効率が低下することを抑制する。
【解決手段】本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、最適燃費ラインに基づいて基準目標エンジン回転数NEtgを設定し、設定された基準目標エンジン回転数NEtgから変更値ΔNEtだけずらしたエンジン回転数を目標エンジン回転数NEtとして設定してエンジンを運転させる(S140)。このハイブリッド車両の制御装置は、排気再循環処理が実行されていないとき(S110:NO)には、排気再循環処理が実行されているとき(S110:YES)よりも目標エンジン回転数NEtを基準目標エンジン回転数NEtgからずらす量を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動源としてエンジンとモータとを備えるハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてエンジンとモータと備えるハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両においては、車速や加減速の要求の度合い、さらにはバッテリの充電状態などに応じてエンジンの運転状態とモータの運転状態とを互いに連関させて制御し、ハイブリッドシステム全体としての運転効率を向上させるようにしている。例えば特許文献1には、走行負荷の低い領域ではエンジン出力を走行負荷に相当する出力よりも高めに設定し、余剰の出力によってモータで発電するとともに発電された電力をバッテリに充電する一方、走行負荷が高い領域ではエンジン出力を走行負荷に相当する出力よりも低めに設定し、不足する出力をモータ出力で補うことが記載されている。
【0003】
こうした制御を実現させる手法の一つとしては、トルクと、そのトルクをエンジン単独で最も効率よく出力することのできるエンジン回転数との関係を示した最適燃費ラインに基づいて基準目標エンジン回転数を設定し、設定された基準目標エンジン回転数に基づいて最終的な目標エンジン回転数を設定する方法が考えられている。具体的には、最適燃費ラインに基づいて設定された基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらす量をそのときの車速や要求駆動力などに基づいて設定し、ハイブリッドシステム全体として良好な燃費を実現することのできる目標エンジン回転数を設定する。すなわち、この場合には、ハイブリッドシステム全体としての効率を向上させるために、目標エンジン回転数を、エンジン単独で最も効率よく運転することのできる基準目標エンジン回転数から敢えてずらした値に設定することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−48623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者は、吸気系に排気を再循環させる排気再循環機構を具備し、吸気系に排気を再循環させる排気再循環処理を実行するエンジンにおいては、排気再循環処理が実行されているか否かによってエンジンを効率的に運転させることのできる運転状態の範囲が異なるという知見を得た。具体的には、排気再循環処理を実行していないときには排気再循環処理を実行しているときよりもエンジンを効率的に運転させることのできる運転状態の範囲が狭くなる。したがって、仮に、排気再循環処理を実行していないときにも排気再循環処理を実行しているときと同程度に目標エンジン回転数を基準目標エンジン回転数からずらしてエンジンを運転させた場合には、エンジンの運転状態がエンジンを効率的に運転させることのできる範囲から大きく外れ、エンジンの運転効率が著しく低下してしまうおそれがある。このようにしてエンジンの運転効率が著しく低下してしまった場合には、エンジンの運転効率の低下度合がハイブリッドシステム全体としての運転効率の向上度合よりも大きなものとなり、ハイブリッドシステム全体としての運転効率がかえって低下してしまう。その結果、ハイブリッド車両の燃費が悪化してしまうおそれもある。
【0006】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は排気再循環処理が実行されているか否かにあわせたエンジン回転数の制御を行うことのできるハイブリッド車両の制御装置を提供することにあり、ひいてはエンジンの運転効率が低下することによってハイブリッドシステム全体としての運転効率が低下することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、駆動源として、モータと、吸気系に排気を再循環させる排気再循環機構を具備するエンジンとを備えるハイブリッドシステムを搭載し、前記エンジンの吸気系に排気を再循環させる排気再循環処理を実行するハイブリッド車両の制御装置であり、要求されたトルクをエンジン単独で最も効率よく出力することのできるエンジン回転数を示す最適燃費ラインに基づいて基準目標エンジン回転数を設定する基準目標回転数設定手段と、要求駆動力と車速とに基づいて前記基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらす量を設定する変更値設定手段とを備え、前記基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらして前記エンジンを運転させるハイブリッド車両の制御装置であって、前記変更値設定手段は、前記排気再循環処理が実行されていないときには前記排気再循環処理が実行されているときよりも前記基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらす量を小さくすることをその要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、排気再循環処理が実行されていないときには、排気再循環処理が実行されているときと比較して基準目標エンジン回転数からのエンジン回転数のずれ度合が小さくされるようになる。そのため、排気再循環処理が実行されていないときには、エンジン回転数が最適燃費ラインに基づいて設定された基準目標エンジン回転数により近くなるようにエンジンが制御される。したがって、エンジンの運転状態がエンジンを効率よく運転させることのできる運転状態の範囲から外れてしまうことを抑制することができ、エンジンの運転効率が著しく低下してしまうことを抑制することができる。一方、排気再循環処理が実行されているときには、排気再循環処理が実行されていないときと比較して基準目標エンジン回転数からのエンジン回転数のずれ度合が大きくされる。そのため、排気再循環処理が実行されており、エンジンを効率よく運転させることのできる運転状態の範囲が広いときには、ハイブリッドシステム全体としての効率の向上をより優先させたエンジン回転数の制御を実現することができるようになる。
【0009】
このように、上記請求項1に記載の発明によれば、排気再循環処理が実行されているか否かにあわせたエンジン回転数の制御を行うことができるようになり、ひいてはエンジンの運転効率が低下することによってハイブリッドシステム全体としての運転効率が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両に搭載されたハイブリッドシステムと同ハイブリッド車両を制御する制御装置との関係を示す概略図。
【図2】エンジン回転数及びトルクと最適燃費ラインとの関係を示すグラフ。
【図3】本発明の実施形態に係る目標回転数設定処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜3を参照して説明する。
図1に示すように本実施形態に係るハイブリッド車両に搭載されたハイブリッドシステム100は、エンジン110と2つのモータジェネレータ120,150とを動力分割機構130並びにリダクションギヤ140を介して連結することによって構成されている。
【0012】
エンジン110は、吸気系と排気系とを連結する排気再循環通路と、同通路の通路断面積を調整する調整弁とから構成される排気再循環機構111を具備している。こうした排気再循環機構111を具備するこのエンジン110にあっては、調整弁の開度が調整されることにより排気系から吸気系に再循環される排気の量が調整される。
【0013】
動力分割機構130は、エンジン110の駆動力を、モータジェネレータ120を駆動する発電用の駆動力と、駆動輪50L,50Rを駆動する駆動力とに分割する。なお、動力分割機構130は、図1に示すようにディファレンシャル160に連結されている。ディファレンシャル160には、動力分割機構130に加え、リダクションギヤ140を介してモータジェネレータ150が連結されている。ディファレンシャル160は、動力分割機構130を通じて入力されるエンジン110の駆動力と、リダクションギヤ140を通じて入力されるモータジェネレータ150の駆動力とをあわせて左右の駆動輪50L,50Rに伝達する。これにより、ハイブリッドシステム100の駆動力は、ディファレンシャル160を介して左右の駆動輪50L,50Rに分配される。
【0014】
モータジェネレータ120は、エンジン110の始動時にはエンジン110をクランキングするスタータモータとして機能する一方、エンジン110の運転中にはエンジン110の駆動力を利用して発電を行うジェネレータとして機能する。また、モータジェネレータ120はインバータ260を介してバッテリ210に接続されている。これにより、モータジェネレータ120によって発電された交流電流は、図1に矢印で示すように、インバータ260に伝達されるとともに同インバータ260によって直流電流に変換され、バッテリ210に充電される。また、エンジン110の始動時には、バッテリ210から供給される直流電流がインバータ260によって交流電流に変換されてモータジェネレータ120に供給される。
【0015】
モータジェネレータ150も、モータジェネレータ120と同じくインバータ260を介してバッテリ210に接続されている。そして、発進時や低速時、加速時にはバッテリ210から供給される直流電流がインバータ260によって交流電流に交換されてモータジェネレータ150に供給される。また、定常走行時や加速時には、モータジェネレータ120によって発電された交流電流がインバータ260を介してモータジェネレータ150に供給される。こうして供給された電流によってモータジェネレータ150が駆動されると、その駆動力はリダクションギヤ140に伝達される。そして、リダクションギヤ140に伝達された駆動力がディファレンシャル160を介して駆動輪50L,50Rに伝達される。
【0016】
また、減速時には、駆動輪50L,50Rから伝達される駆動力によりモータジェネレータ150が駆動される。このとき、モータジェネレータ150がジェネレータとして機能し、発電することで、駆動輪50L,50Rから同モータジェネレータ150に伝達された駆動力が運動エネルギーから電気エネルギーに変換される。こうして変換された電気エネルギーは、インバータ260によって交流電流から直流電流に変換されてバッテリ210に充電される。すなわち、減速時には、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリ210に蓄えることにより、エネルギーを回収するようにしている。
【0017】
ハイブリッドシステム100の制御は、制御装置300から出力される制御信号に基づいて実行される。制御装置300は、車両各部を制御するための各種演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムやデータが記憶された読み込み専用メモリ(ROM)、演算処理の結果などを一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)などを備えて構成されている。また、図1に示すように、制御装置300には、以下のようなセンサが接続されている。
【0018】
アクセルポジションセンサ301は運転者によるアクセルペダルの操作量を検出する。シフトポジションセンサ302はシフトレバーの操作位置を検出する。エアフロメータ303はエンジン110に導入される吸入空気量を検出する。回転速度センサ304はエンジン110の出力軸の回転速度に基づいてエンジン回転速度を検出する。車速センサ305は車速を検出する。また、調整弁センサ306は、上記排気再循環機構111における調整弁の開度に基づいて、排気再循環処理(以下、EGR処理と称する)が実行されているか否かを検出する。
【0019】
制御装置300は、上記各種センサ301〜306から入力される信号に基づいて、エンジン110の制御やモータジェネレータ120,150の通電制御などを行い、車両各部を統括的に制御する。例えば、排気再循環機構111における調整弁の開度を調整して排気系から吸気系に導入される排気の量を調整することにより、排気の一部を吸気系に再循環させるEGR処理を実行する。
【0020】
また、制御装置300は、車速や加減速の要求の度合、さらにはバッテリ210の充電状態などに応じてエンジン110の運転状態とモータジェネレータ120,150の運転状態とを互いに連関させて制御し、ハイブリッドシステム100全体としての運転効率を向上させる。
【0021】
具体的には、図2に示すように、実線で示される最適燃費ラインと、破線で示される等馬力ラインとの交点Aを求める。なお、最適燃費ラインはトルクTをエンジン110単独で最も効率よく出力することのできるエンジン回転数NEを示したものであり、等馬力ラインはアクセルペダルの操作量や車速に基づいて算出された馬力Ptを出力するために必要なトルクTとエンジン回転数NEとの関係を示したものである。
【0022】
そして、この交点Aから基準目標エンジン回転数NEtgを設定し、その上で、ハイブリッドシステム100全体としての効率を向上させるために、基準目標エンジン回転数NEtgから敢えてずらした値を目標エンジン回転数NEtとして設定する。
【0023】
例えば、バッテリ210の充電残量が少なく、要求駆動力が小さい場合には、図2に示されるように目標エンジン回転数NEtを基準目標エンジン回転数NEtgよりも増大させる。こうすることで、エンジン110の駆動力は要求駆動力よりも高めに設定されるようになる(図2における点B)。ハイブリッドシステム100は、この余剰の駆動力を利用してモータジェネレータ120で発電を行い、発電された電力をバッテリ210に充電する。このようにして充電残量を確保することにより、モータジェネレータ150によるアシストが必要になったときにモータジェネレータ150を駆動するための電力を確保することができ、ハイブリッドシステム100全体として良好な燃費を実現することができるようになる。
【0024】
このように、本実施形態においては、エンジン110単独で最も効率よく運転することのできる基準目標エンジン回転数NEtgから敢えてずらした値を目標エンジン回転数NEtとして設定し、ハイブリッドシステム100全体として良好な燃費を実現することのできる目標エンジン回転数NEtを設定するようにしている。
【0025】
ところで、上述したように、本願発明者が得た知見から、本実施形態のようにEGR処理を実行するエンジン110においては、EGR処理を実行していないときにはEGR処理を実行しているときよりもエンジン110を効率的に運転させることのできる運転状態の範囲が狭くなることが分かった。そのため、EGR処理を実行していないときにEGR処理を実行しているときと同程度に目標エンジン回転数NEtを基準目標エンジン回転数NEtgからずらしてエンジン110を運転させた場合には、エンジン110の運転状態がエンジン110を効率的に運転させることのできる範囲から大きく外れ、運転効率が著しく低下してしまうおそれがある。
【0026】
例えば、エンジン110を効率的に運転させることのできる運転状態の範囲を図2に示すと、EGR処理を実行しているときのその範囲は、一点鎖線に挟まれた領域Xになる。EGR処理を実行しているときに上述したように目標エンジン回転数NEtを基準目標エンジン回転数NEtgからずらして設定した場合、目標エンジン回転数NEtをもって制御されたエンジン110の運転状態は、点Bで示されるように一点鎖線に挟まれた領域X内にある。そのため、この場合にはエンジン110を効率的に運転させることができ、ハイブリッドシステム100全体としての燃費向上を図ることができる。
【0027】
これに対して、EGR処理を実行していないときには、エンジン110を効率的に運転させることのできる運転状態の範囲が、図2に示された領域Xよりも狭いものとなる。このとき、仮にEGR処理が実行されているときと同様に図2に点Bで示される状態まで目標エンジン回転数NEtを基準目標エンジン回転数NEtgからずらしてエンジン110を運転させた場合には、エンジン110の運転状態がエンジン110を効率的に運転させることのできる範囲から外れ、運転効率が著しく低下してしまうことになる。このようにしてエンジン110の運転効率が著しく低下してしまった場合には、エンジン110の運転効率の低下度合がハイブリッドシステム100全体としての運転効率の向上度合よりも大きなものとなり、ハイブリッドシステム100全体としての運転効率がかえって低下してしまう。その結果、ハイブリッド車両の燃費が悪化してしまうおそれもある。
【0028】
そこで、本実施形態においては、EGR処理が実行されているか否かにあわせたエンジン回転数NEの制御を行うようにしている。具体的には、目標エンジン回転数NEtを設定する処理である目標回転数設定処理において、EGR処理が実行されていないときにはEGR処理が実行されているときよりも基準目標エンジン回転数NEtgからエンジン回転数NEをずらす量を小さくするようにしている。以下、図3を参照して本実施形態に係る目標回転数設定処理の処理手順について説明する。なお、同図3に示した目標回転数設定処理は基準目標回転数設定手段及び変更値設定手段に相当するものであり、その一連の処理は制御装置300により周期的に実行される。
【0029】
図3に示すように、この処理ではまず、EGR処理が実行されているか否かが判断される(ステップS110)。EGR処理が実行されていると判断されると(ステップS110:YES)、アクセル操作量に基づいて算出される要求駆動力や車速、バッテリ210の充電残量などに基づいて値ΔNEtbが算出され、この値ΔNEtbが変更値ΔNEtとして設定される(ステップS120)。一方、EGR処理が実行されていないと判断されると(ステップS110:NO)、アクセル操作量に基づいて算出される要求駆動力や車速、バッテリ210の充電残量などに基づいて、ステップS120を通じて設定される値ΔNEtbよりも絶対値の小さな値ΔNEtsが算出される。そして、この値ΔNEtsが変更値ΔNEtとして設定される(ステップS130)。こうして変更値ΔNEtが設定されると、設定された変更値ΔNEtを基準目標エンジン回転数NEtgに加算することによって目標エンジン回転数NEtが設定される(ステップS140)。
【0030】
ここで、値ΔNEtb及び値ΔNEtsは、上記のように車速や要求駆動力、バッテリ210の充電残量などに基づいて設定されるものであり、正の値にも、負の値にもなり得る。
【0031】
例えば、上述したようにバッテリ210の充電残量が少なく、要求駆動力が低い場合には、値ΔNEtbや値ΔNEtsは正の値に設定される。こうした場合においては、値ΔNEtbや値ΔNEtsに基づいて正の値に設定された変更値ΔNEtが基準目標エンジン回転数NEtgに加算されることにより、目標エンジン回転数NEtが基準目標エンジン回転数NEtgよりも大きい値に設定されることとなる。そして、こうして目標エンジン回転数NEtが設定されることにより、エンジン110の駆動力が要求駆動力よりも高めに設定されることになり、余剰の駆動力によってモータジェネレータ120が駆動され、発電された電力がバッテリ210に充電されるようになる。
【0032】
一方、バッテリ210の充電残量が多く、要求駆動力が高いときには、値ΔNEtbや値ΔNEtsは負の値に設定される。こうした場合においては、値ΔNEtbや値ΔNEtsに基づいて負の値に設定された変更値ΔNEtが基準目標エンジン回転数NEtgに加算されることにより、目標エンジン回転数NEtが基準目標エンジン回転数NEtgよりも小さい値に設定されることとなる。そして、こうして目標エンジン回転数NEtが設定されることにより、エンジン110の駆動力が要求駆動力よりも低めに設定され、エンジン110の燃料消費量が抑制されるとともに、不足する出力がモータジェネレータ150の出力で補われるようになる。
【0033】
また、値ΔNEtbと値ΔNEtsは、車速や運転者によるアクセルペダルの操作量、バッテリ210の充電残量など、EGR処理の実行態様を除く状態が同一である状況下で算出される値ΔNEtbの絶対値と値ΔNEtsの絶対値とを比較した場合に、ΔNEtsの絶対値の方が必ず小さくなるという関係を有している。
【0034】
すなわち、値ΔNEtb及び値ΔNEtsがともに正の値に設定される状況下においては、値ΔNEtbよりも値ΔNEtsが小さく設定される一方、値ΔNEtb及び値ΔNEtsがともに負の値に設定される状況下においては、値ΔNEtbよりも値ΔNEtsが大きく設定されることとなる。本実施形態においては、値ΔNEtbと値ΔNEtsの間にこのような関係を持たせることにより、EGR処理が実行されているか否かにあわせたエンジン回転数NEの制御を行うようにしている。なお、値ΔNEtbと値ΔNEtsとの間にこうした関係を持たせるための具体的な方法としては、ステップS130において、値ΔNEtbを算出する方法と同一の方法で算出した値に「1.0」よりも小さな正の係数を乗じるようにし、こうして算出された積を値ΔNEtsにするといった方法を適用することができる。
【0035】
(作用)
上記のような目標回転数設定処理を実行すれば、EGR処理が実行されていないときには、EGR処理が実行されているときに算出される値ΔNEtbよりも絶対値の小さな値ΔNEtsが算出され、この値ΔNEtsに基づいて変更値ΔNEtが設定される。したがって、EGR処理が実行されているときと比較して基準目標エンジン回転数NEtgからのエンジン回転数NEのずれ度合が小さくされるようになる。
【0036】
一方で、EGR処理が実行されているときには、EGR処理が実行されていないときに算出される値ΔNEtsよりも絶対値の大きな値ΔNEtbが算出され、この値ΔNEtbに基づいて変更値ΔNEtが設定される。したがってEGR処理が実行されていないときと比較して基準目標エンジン回転数NEtgからのエンジン回転数NEのずれ度合が大きくされるようになる。
【0037】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)EGR処理が実行されていないときには、EGR処理が実行されているときと比較して基準目標エンジン回転数NEtgからのエンジン回転数NEのずれ度合が小さくされるようになる。そのため、EGR処理が実行されていないときには、エンジン回転数NEが最適燃費ラインに基づいて設定された基準目標エンジン回転数NEtgにより近くなるようにエンジン110が制御される。したがって、エンジン110の運転状態がエンジン110を効率よく運転させることのできる運転状態の範囲から外れてしまうことを抑制することができ、エンジン110の運転効率が著しく低下してしまうことを抑制することができる。
【0038】
一方、EGR処理が実行されているときには、EGR処理が実行されていないときと比較して基準目標エンジン回転数NEtgからのエンジン回転数NEのずれ度合が大きくされる。そのため、EGR処理が実行されており、エンジン110を効率よく運転させることのできる運転状態の範囲が広いときには、ハイブリッドシステム100全体としての効率の向上をより優先させたエンジン回転数NEの制御を実現することができるようになる。
【0039】
このように、本実施形態によれば、EGR処理が実行されているか否かにあわせたエンジン回転数NEの制御を行うことができるようになり、ひいてはエンジン110の運転効率が低下することによってハイブリッドシステム100全体としての運転効率が低下することを抑制することができる。
【0040】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、2つのモータジェネレータ120,150を備えるシリーズ・パラレル式のハイブリッドシステム100に本発明のハイブリッド車両の制御装置を適用した例を示した。これに対して、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、こうしたシリーズ・パラレル式のハイブリッドシステムに限らず、エンジンによる駆動を主とするものであって、発進時や加速時にモータジェネレータがエンジンによる駆動をアシストするパラレル式のハイブリッドシステムを搭載するハイブリッド車両にも適用することができる。要するに、駆動輪を駆動する駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両であれば、本発明に係る制御装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
50L,50R…駆動輪、100…ハイブリッドシステム、110…エンジン、111…排気再循環機構、120,150…モータジェネレータ、130…動力分割機構、140…リダクションギヤ、160…ディファレンシャル、210…バッテリ、260…インバータ、300…制御装置、301…アクセルポジションセンサ、302…シフトポジションセンサ、303…エアフロメータ、304…回転速度センサ、305…車速センサ、306…調整弁センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として、モータと、吸気系に排気を再循環させる排気再循環機構を具備するエンジンとを備えるハイブリッドシステムを搭載し、前記エンジンの吸気系に排気を再循環させる排気再循環処理を実行するハイブリッド車両の制御装置であり、
要求されたトルクをエンジン単独で最も効率よく出力することのできるエンジン回転数を示す最適燃費ラインに基づいて基準目標エンジン回転数を設定する基準目標回転数設定手段と、要求駆動力と車速とに基づいて前記基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらす量を設定する変更値設定手段とを備え、
前記基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらして前記エンジンを運転させるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記変更値設定手段は、前記排気再循環処理が実行されていないときには前記排気再循環処理が実行されているときよりも前記基準目標エンジン回転数からエンジン回転数をずらす量を小さくする
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−218520(P2012−218520A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84578(P2011−84578)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】