説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ハイブリッド車両の制御装置において、リアクトルの熱伝達用油脂の不足を適切に検出することである。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御システム10は、駆動源12と駆動回路20の動作を全体として制御する制御装置40と、制御装置40に接続される記憶部52を含んで構成される。駆動回路20に含まれるリアクトル部22は、筐体24とリアクトル26との間の接触面に熱伝達用油脂であるシリコングリース28が塗布される。制御装置40は、冷媒温度θ1を取得する冷媒温度取得部42と、リアクトル温度θ2を取得するリアクトル温度取得部44と、リアクトル部22の電流値Iを取得する電流値取得部46と、冷媒温度θ1、リアクトル温度θ2、電流値Iに基づき、シリコングリース28が不足状態か否かを判断してその結果を出力する状態出力部48を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に係り、特にリアクトルの熱伝達用油脂の不足状態に関する制御を行うハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を搭載する車両には、回転電機に接続される駆動回路も搭載される。その駆動回路には、電力変換を行うためのリアクトルが含まれる。リアクトルは、スイッチング素子によって磁気エネルギを蓄え、あるいは放出するので、動作に伴い発熱する。
【0003】
例えば、特許文献1には、箱状の筐体に収容されるリアクトルが、モールド樹脂で内包されたコイルと、粉末磁心で形成されるEコアとIコアとを含み、コイルを内包するモールド樹脂と筐体とが面接触するところに、シリコングリースに代表される熱伝導性の高い油脂材料を予め塗布することが開示されている。
【0004】
本発明の関連技術として、特許文献2には、メンテナンスが面倒で長期間の安定運転が要求される風車用軸受等の軸受の潤滑剤劣化検出装置として、軸受の中で比較的空間が大きいグリースポケットに、光学式の潤滑剤劣化センサが設けられることが開示されている。このグリースポケットには、その他に潤滑剤の温度を検出する温度センサ、潤滑剤に含まれる水分量を検出する水分センサ、潤滑剤に含まれる摩耗鉄分の量を検出する鉄粉センサも設けられる。
【0005】
また、特許文献3には、未使用のグリースの光透過率と、加速度劣化のグリースの光透過率を調べた結果、光センサに用いられる光の波長250nm〜2000nmでは、加速度劣化グリースの光透過率が未使用グリースの光透過率よりも小さな値となることが述べられている。そこで、この範囲の光波長を用いた光学式センサを用いてグリース劣化を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−165800号公報
【特許文献2】特開2008−134136号公報
【特許文献3】特開2010−197330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リアクトルと冷却器との間の接触面等に熱伝達用油脂として、例えばシリコングリースが用いられるが、リアクトルの材料の熱膨張係数と冷却器の材料の熱膨張係数の間に差があると、ポンピング現象が発生して、熱伝達用のシリコングリースが熱伝達接触面から抜けてしまうことが生じ得る。熱伝達接触面において熱伝達用のシリコングリースが不足すると、リアクトルの放熱性が低下する。これによってリアクトルの温度が高くなり、リアクトル、回転電機について負荷率制限が行われることが生じる。
【0008】
シリコングリースの不足を検出する方法としては、特許文献2,3に示されるように、光学的センサを用いることが考えられるが、構成が複雑になり、コストが高くなる。リアクトルの温度を検出する手段と用いられるサーミスタの検出温度を利用することが考えられるが、サーミスタは、リアクトルの動作条件等が一定であっても、その温度検出が飽和して安定するまでにかなりの時間を要する。したがって、サーミスタの検出温度に基づいてシリコングリースの不足を判断するには、工夫を要する。
【0009】
本発明の目的は、リアクトルの熱伝達用油脂の不足を適切に検出できるハイブリッド車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、回転電機とエンジンとを駆動源として搭載するハイブリッド車両の制御装置であって、回転電機に接続される駆動回路に含まれるリアクトル部の温度を取得するリアクトル温度取得部と、駆動源の冷媒温度を取得する冷媒温度取得部と、リアクトル部の温度と冷媒温度とに基づき、予め定めた所定判断基準を用いて、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを判断し、判断結果を出力する状態出力部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置において、ハイブリッド車両の運行パターンが予め定められた定型パターンの繰り返しの場合に、1回の運行パターンごとにリアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準として、冷媒温度に関連付けて、リアクトル部の温度についての閾値温度を記憶する記憶部を備え、状態出力部は、リアクトル部の温度が閾値温度を超える運行パターンの連続する回数が、予め定めた閾値連続回数を超えることを所定判断基準として、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態と判断することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置において、リアクトル部に流れる電流値を取得する電流値取得部と、ハイブリッド車両が予め定めた運行状態を予め定めた時間継続する場合を定常運行状態として、1回の定常運行状態ごとに、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準として、冷媒温度と、リアクトル部に流れる電流値とに関連付けて、リアクトル部の温度についての閾値温度を記憶する記憶部を備え、状態出力部は、リアクトル部の温度が閾値温度を超える定常運行状態の連続する回数が、予め定めた閾値連続回数を超えることを所定判断基準として、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態と判断することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置において、状態出力部は、ユーザに対し、警報表示を出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、ハイブリッド車両の制御装置は、リアクトル部の温度を取得し、駆動源の冷媒温度を取得し、取得したリアクトル部の温度と冷媒温度とに基づき、予め定めた所定判断基準を用いて、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを判断し、判断結果を出力する。リアクトル部の温度は、駆動源の運転状態によって異なるので、単にリアクトル部の温度だけで、熱伝達用油脂の不足でリアクトル部の放熱特性が低下しているか否かは判断できない。上記構成では、冷媒温度で駆動源の運転状態を把握し、冷媒温度とリアクトル温度とに基づいて、リアクトル部の放熱特性が低下しているか否かを判断するので、リアクトルの熱伝達用油脂の不足を適切に検出できる。
【0015】
また、ハイブリッド車両の制御装置において、車両の運行パターンが予め定められた定型パターンの繰り返しの場合に、1回の運行パターンごとにリアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準を予め記憶部に記憶する。定型パターンの繰り返しの例としては、毎日の通勤のためにハイブリッド車両を運行する場合があげられる。予備判断基準としては、冷媒温度に関連付けられたリアクトル部の温度についての閾値温度が用いられる。
【0016】
そして、予備判断基準を超える運行パターンの連続する回数が、予め定めた閾値連続回数を超えるときにリアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態と判断する。この場合でも、冷媒温度で駆動源の運転状態を把握し、冷媒温度とリアクトル温度とに基づいて、リアクトル部の放熱特性が低下しているか否かを判断するので、リアクトル部の熱伝達用油脂の不足を適切に検出できる。
【0017】
また、ハイブリッド車両の制御装置において、車両が予め定めた運行状態を予め定めた時間継続する場合を定常運行状態の場合に、1回の定常運行状態ごとに、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準を記憶部に記憶する。予備的判断基準としては、冷媒温度と、リアクトル部に流れる電流値とに関連付けられたリアクトル部の温度についての閾値温度が用いられる。
【0018】
そして、予備判断基準を超える定常運行状態の連続する回数が、予め定めた閾値連続回数を超えるときにリアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態と判断する。この場合でも、冷媒温度で駆動源の運転状態を把握し、電流値でリアクトル部の動作状態を把握し、冷媒温度と電流値とリアクトル温度とに基づいて、リアクトル部の放熱特性が低下しているか否かを判断するので、リアクトル部の熱伝達用油脂の不足を適切に検出できる。
【0019】
また、ハイブリッド車両の制御装置において、状態出力部は、ユーザに対し、警報表示を出力するので、リアクトル部の温度上昇で負荷率制限となることを事前に検知し、ユーザに例えば修理等を行うよう警告することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態の制御装置を含むハイブリッド車両の制御システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、リアクトル部の温度についての閾値温度と冷媒温度との関係を示す関係ファイルの例を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、リアクトル部の温度についての閾値温度と冷媒温度と電流値との関係を示す関係ファイルの例を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、リアクトル部の熱伝達用油脂の不足を判断する手順を示すフローチャートの例を示す図である。
【図5】リアクトル部の熱伝達用油脂の不足を判断する手順を示すフローチャートの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下で説明する温度、電流値等は、説明のための例示であり、リアクトル部およびハイブリッド車両の仕様に応じ、適宜変更が可能である。以下では、熱伝達用油脂としてシリコングリースを説明するが、その他の熱伝達用グリースであってもよい。シリコングリースは、リアクトルの底面と筐体底部との間に塗布されるものとして説明するが、リアクトル部の構成に応じて、塗布する箇所を変更することができる。
【0022】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、ハイブリッド車両の制御システム10の構成を示す図である。この制御システム10は、回転電機16とエンジン14とを駆動源12として搭載するハイブリッド車両の駆動を制御するシステムであるが、特に、回転電機16に接続される駆動回路20に含まれるリアクトル部22の熱伝達用油脂であるシリコングリース28が不足のときに、警報ランプ50を点灯させてユーザに知らせる機能を有する。ハイブリッド車両の制御システム10は、駆動源12と駆動回路20の動作を全体として制御する制御装置40と、制御装置40に接続される記憶部52を含んで構成される。
【0023】
エンジン14は、回転電機16とともにハイブリッド車両の駆動源12を構成する内燃機関である。エンジン14は、車両の車軸を駆動しタイヤを回転して走行を行わせる機能と共に、回転電機16を発電機として用いて発電を行わせ、駆動回路20に含まれる蓄電装置を充電する機能を有する。
【0024】
回転電機16は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、駆動回路20に含まれる蓄電装置から電力が供給されるときはモータとして機能し、制動時には発電機として機能する三相同期型回転電機である。また、上記のようにエンジン14によって駆動されるときは発電機として機能する。
【0025】
冷媒温度検出部18は、エンジン14の冷却に用いられる冷媒、あるいは回転電機16の冷却に用いられる冷媒の温度である冷媒温度θ1を検出する冷媒温度検出手段である。駆動源12の出力が大きいときは冷媒温度θ1が高く、駆動源12の出力が小さいときは冷媒温度θ1が低くなるので、冷媒温度θ1は、駆動源12の動作状態をあらわす状態量として用いることができる。検出された冷媒温度θ1は、適当な信号線を用いて制御装置40に伝送される。
【0026】
駆動回路20は、図示されていないが、蓄電装置、電圧変換器、インバータ等を含んで構成される。電圧変換器はリアクトル部22を有している。図1では、リアクトル部22が抜き出されて示されている。ハイブリッド車両に搭載されるときは、リアクトル部22を含む電圧変換器、インバータは、PCU(Power Control Unit)と呼ばれるボックスにまとめられる。
【0027】
リアクトル部22は、筐体24にリアクトル26が収納されたものである。リアクトル部22は、上記のPCUのボックス内に配置される。リアクトル26は、環状に形成したリアクトルコアにコイルを巻回したものである。リアクトル部22は、駆動回路20の電圧変換器に用いられ、図示されていないスイッチング素子のオン期間において蓄電装置側からリアクトル26に電磁エネルギが蓄積され、オフ期間においてリアクトル26の電磁エネルギがインバータ側に移される。この動作によってリアクトル26が発熱するので、筐体24を介して放熱が行われる。
【0028】
リアクトル部22に設けられるリアクトル温度検出部30は、リアクトル部22の温度であるリアクトル温度θ2を検出するリアクトル温度検出手段である。リアクトル温度検出部30としては、サーミスタを用いることができる。勿論、それ以外の温度センサを用いるものとしてもよい。なお、サーミスタによるリアクトル部22の温度検出は、リアクトル部22の動作点を反映する電流値Iが一定で、駆動源12の動作状態を反映する冷媒温度θ1が一定でも、検出値が飽和するにはかなりの時間経過を要する。一例では20分程度を要する。したがって、即時的にリアクトル部22の温度検出を行うわけには行かないことに留意する必要がある。
【0029】
ここで、リアクトル26において電磁エネルギの出し入れが多いときはリアクトル26の発熱が多く、リアクトル26において電磁エネルギの出し入れが少ないときはリアクトル26の発熱が少ない。リアクトル26の発熱が多いと、リアクトル温度θ2が高くなり、リアクトル26の発熱が少ないと、リアクトル温度θ2が低くなる。したがって、リアクトル温度θ2は、リアクトル26の発熱を示す状態量として用いることができる。
【0030】
しかしながら、リアクトル温度θ2は、リアクトル26の発熱の程度が同じでも、筐体24を介した放熱特性が低下すると、高い温度となる。したがって、リアクトル温度θ2は、リアクトル26の動作による発熱と、リアクトル部22の全体としての放熱特性を合わせた温度状態を示す状態量である。リアクトル温度θ2は、検出された冷媒温度θ1は、適当な信号線を用いて制御装置40に伝送される。
【0031】
リアクトル26の動作による発熱と、リアクトル部22の放熱特性とを分離するには、リアクトル26の動作による発熱の状態を別個に取得する必要がある。リアクトル26の動作による発熱が同じ条件の下で、リアクトル温度θ2が異なれば、その相違は、リアクトル部22の全体の放熱特性が異なることに起因すると考えることができる。例えば、次に述べるシリコングリース28が不足すると、シリコングリース28が十分にある場合に比べ、リアクトル26の発熱が同じでも、リアクトル温度θ2が高くなる。
【0032】
リアクトル部22に関連して設けられる電流値検出部32は、リアクトル26のコイルに流れる電流値Iを検出する電流値検出手段である。リアクトル26のコイルに流れる電流が多いと、リアクトル26の発熱が多くなる。リアクトル26のコイルに流れる電流が少ないと、リアクトル26の発熱が少なくなる。したがって、電流値Iは、リアクトル26の動作状態をあらわす状態量として用いることができる。検出された電流値Iは、適当な信号線を用いて制御装置40に伝送される。
【0033】
シリコングリース28は、リアクトル26と筐体24との間の熱伝達を効率よく行わせるために塗布される熱伝導率の高い油脂である。すなわち、筐体24の底面と、リアクトル26の底面部との間に、シリコングリース28が塗布される。
【0034】
ところで、リアクトル26の材料の熱膨張係数と、冷却器である筐体24の材料の熱膨張係数の間に差があると、ポンピング現象が発生して、熱伝達用のシリコングリース28がリアクトル26と筐体24の接触面から抜けてしまうことが生じ得る。熱伝達が行われる接触面から熱伝達用のシリコングリース28が不足すると、リアクトル部22の放熱性が低下する。これによってリアクトル部22の温度が高くなり、リアクトル部22、回転電機16について負荷率制限が行われることが生じる。好ましくは、そのようなことが生じる前に、シリコングリース抜けを検出し、必要に応じリアクトル部22を修理し、あるいは交換するようにしたい。これが本発明の解決すべき課題である。
【0035】
制御装置40は、駆動源12と駆動回路20の動作を全体として制御する機能を有する。特に、ここでは、リアクトル部22の熱伝達用油脂であるシリコングリース28が不足のときに、警報ランプ50を点灯させてユーザに知らせる制御を行なう機能を有する。かかる制御装置40としては、ハイブリッド車両の搭載に適したコンピュータを用いることができる。
【0036】
制御装置40は、冷媒温度検出部18から伝送される冷媒温度θ1を取得する冷媒温度取得部42と、リアクトル温度検出部30から伝送されるリアクトル温度θ2を取得するリアクトル温度取得部44と、電流値検出部32から伝送される電流値Iを取得する電流値取得部46と、冷媒温度θ1、リアクトル温度θ2、電流値Iに基づき、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態か否かを判断してその結果を出力する状態出力部48を含んで構成される。これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、対応するリアクトル状態判断プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0037】
制御装置40に接続される警報ランプ50は、状態出力部48においてシリコングリース28が不足状態であると判断した場合に、点灯信号が伝送されて、点灯するランプである。警報ランプ50は、ハイブリッド車両の運転席の前の表示グリル等にもうけるものとできる。警報ランプ50は、1つのランプでもよく、複数のランプで、「リアクトル異常」等の文字を合成する複合ランプであってもよい。ランプに代えて、ディスプレイでその旨を表示するものとしてもよい。状態出力部48の出力としては、ランプに代えて、音声出力するものとしてもよい。警報ランプ50の点灯によって、ユーザは、リアクトル異常を知り、その修理、または交換のために、保守工場、ディーラ等に赴くことができる。具体的には、PCUの交換、あるいは、PCUの内部のリアクトル部22を取り出して交換、あるいはリアクトル部22を分解してシリコングリース28の塗りなおし等を行うことができる。
【0038】
制御装置40に接続される記憶部52は、ハイブリッド車両の動作制御に必要なプログラム等を格納する機能を有する。例えば、リアクトル状態判断プログラムを格納する。プログラム以外に、ここでは、リアクトル状態を判断するための2つの関係ファイル54,56を記憶する。
【0039】
1つ目の関係ファイル54は、冷媒温度θ1に関連付けて、リアクトル温度θ2についての閾値温度θ01の関係を示すものである。ここで、閾値温度θ01は、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準として用いられるリアクトル温度θ2である。この関係ファイル54は、ハイブリッド車両の運行パターンが予め定められた定型パターンの繰り返しの場合のときに用いられる。
【0040】
図2は、関係ファイル54の例を示す図である。図2では、横軸に冷媒温度θ1、縦軸にリアクトル温度θ2をとり、冷媒温度θ1を与えたときに、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態と予備的に判断される閾値温度θ01が示されている。冷媒温度θ1が同じ条件の下で、リアクトル温度θ2がこの閾値温度θ01を超えるときに、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態と予備的に判断される。予備的とは、1回のみ閾値温度θ01を超えただけで判断すると、誤判断する可能性があるからである。
【0041】
図2の閾値温度θ01は、実際の定型パターンの運行において、複数のリアクトル温度θ2を採取し、その平均値を求め、求められた平均値に適当な余裕度を加えたものを用いることができる。例えば、毎日の通勤ごとに冷媒温度θ1とリアクトル温度θ2を採取し、これを整理して、同じ冷媒温度θ1ごとのリアクトル温度θ2の平均値を求める。これに数℃程度の余裕度を加えて、その冷媒温度θ1における閾値温度θ01とする。これを各冷媒温度θ1ごとに行って、図2の関係ファイル54を作ることができる。
【0042】
2つ目の関係ファイル56は、冷媒温度θ1と、電流値Iとに関連付けて、リアクトル温度θ2についての閾値温度θ02の関係を示すものである。ここで、閾値温度θ02は、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準として用いられるリアクトル温度θ2である。この関係ファイル56は、ハイブリッド車両が予め定めた運行状態を予め定めた時間継続する場合を定常運行状態の場合のときに用いられる。
【0043】
図3は、関係ファイル56の例を示す図である。図3では、横軸に冷媒温度θ1、縦軸にリアクトル温度θ2をとり、電流値Iをパラメータとしてある。図3では、電流値Iとして、3種類の電流値I1,I2,I3が示されている。ここで、冷媒温度θ1と電流値Iを与えたときに、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態と予備的に判断される閾値温度θ02が示されている。冷媒温度θ1が同じ条件、電流値Iが同じ条件の下で、リアクトル温度θ2がこの閾値温度θ02を超えるときに、リアクトル部22のシリコングリース28が不足状態と予備的に判断される。
【0044】
図3の閾値温度θ02も、図2の閾値温度θ01の設定と同様に、実際の定常運行時における電流値I、冷媒温度θ1、リアクトル温度θ2のデータを予め採取して決めることができる。
【0045】
図2、図3において、関係ファイル54,56はマップ形式として説明したが、マップ形式以外の表現形式を用いることができる。例えば、ルックアップテーブル、関係数式、冷媒温度θ1を入力すると閾値温度θ01が出力され、冷媒温度θ1と電流値Iを入力すると閾値温度θ02が出力されるROM形式等を用いることができる。
【0046】
図4と図5は、リアクトル状態判断の手順を示すフローチャートである。図4は、ハイブリッド車両を毎日の通勤に用いている場合のように、ハイブリッド車両の運行パターンが予め定められた定型パターンの繰り返しであるときのリアクトル状態判断の手順を示すフローチャートである。図5は、ハイブリッド車両が定常運行状態であるときを利用して、リアクトル状態判断を行う手順を示すフローチャートである。各手順は、リアクトル状態判断プログラムの各処理手順に対応する。
【0047】
図4では、最初に、ハイブリッド車両が通勤中であるか否かが判断される(S10)。通勤中というのは、ハイブリッド車両の運行パターンが予め定められた定型パターンの繰り返しであることの1つの例である。この手順は、ナビゲーションシステムのGPS情報等を用いて、ハイブリッド車両の走行経路が予め定められた定型ルートであるか否かを判断することで行われる。例えば、自宅が運行の始発点で、通勤先の会社、あるいは通勤のために用いる駅が運行の終着点であることが認識できるときに、S10の判断が肯定される。
【0048】
S10が肯定されると、運行の終着点において、冷媒温度θ1とリアクトル温度θ2が取得される(S12)。そして、冷媒温度θ1を検索キーとして、記憶部52の関係ファイル54を検索し、閾値温度θ01を読み出し、リアクトル温度θ2と比較する。リアクトル温度θ2が閾値温度θ01を超えている場合は、リアクトル部22においてシリコングリース28が不足していると予備的に判断されるので、そのことを一旦記憶部52に記憶する。S10,S12の手順は、毎日の通勤のたびごとに行われる。
【0049】
そして、記憶部52に、同様の予備的判断をしている履歴があるか調べ、履歴がある場合に、N1日連続してその予備的判断がなされているか判断する(S14)。N1日は、予め定めることができる。これは、誤判断を避けるためであるので、例えば、N1=3日等と定めることができる。S14で判断が肯定されると、警報ランプ50が点灯される(S16)。
【0050】
ここでは、冷媒温度θ1ごとにリアクトル温度θ2についての閾値温度θ01が設定されるので、リアクトル部22の動作による温度上昇の影響が除かれている。したがって、シリコングリース28が正常塗布状態のときと異なる温度にリアクトル部22があることを適切に判断できる。また、予め定まっている通勤ルートの運行の終着点でθ2を取得するので、毎回、ほぼ同じ運行時間の経過後のリアクトル温度θ2を用いることができ、サーミスタの検出飽和特性によるばらつきを排除できる。このようにして、適切に、シリコングリース28の抜けの有無を判断することができる。
【0051】
図5では、最初に、ハイブリッド車両が定常運行状態であるか否かが判断される(S20)。定常運行状態というのは、ハイブリッド車両が、予め定めた運行状態を予め定めた時間継続するときの状態である。具体的には、一定速度で一定時間継続して走行している状態である。S20の判断は、走行中のハイブリッド車両のアクセル開度と、車速とを用いて、アクセル開度と車速が共に、予め定められた時間変化がないか否かで行うことができる。
【0052】
S10の判断が肯定されると、次に、その定常運行状態における電流値I、冷媒温度θ1、リアクトル温度θ2が取得される(S22)。定常運行状態における値であるので、例えば、定常運行状態を定める一定時間をt分とすると、定常運行状態の開始時点からt分経過後に、S22の取得が行われる。一定時間t分を、リアクトル温度検出部30の検出飽和時間よりも長く取ることが好ましい。上記の例で、リアクトル温度検出部30にサーミスタを用いるとして、サーミスタの検出飽和時間が20分のときは、一定時間t分=20分とすることが好ましい。
【0053】
S22がS12と比較して、電流値Iが加えられているのは、定常運行状態において、アクセル開度、車速が異なる条件であることを、冷媒温度θ1のみで区別するのは不十分だからである。
【0054】
そして、冷媒温度θ1と電流値Iを検索キーとして、記憶部52の関係ファイル56を検索し、閾値温度θ02を読み出し、リアクトル温度θ2と比較する。リアクトル温度θ2が閾値温度θ02を超えている場合は、リアクトル部22においてシリコングリース28が不足していると予備的に判断されるので、そのことを一旦記憶部52に記憶する。S20,S22の手順は、定常運転状態のたびごとに行われる。
【0055】
そして、記憶部52に、同様の予備的判断をしている履歴があるか調べ、履歴がある場合に、N2回連続してその予備的判断がなされているか判断する(S24)。N2回は、予め定めることができる。これは、誤判断を避けるためであるので、例えば、N2=4回等と定めることができる。S24で判断が肯定されると、警報ランプ50が点灯される(S26)。
【0056】
このように、シリコングリース28の抜けを、リアクトル温度θ2の他に、冷媒温度θ1、電流値Iを用いることで、適切に判断し、ユーザに知らせることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、熱伝導用の油脂を用いるリアクトルを搭載する車両の制御に利用できる。
【符号の説明】
【0058】
10 ハイブリッド車両の制御システム、12 駆動源、14 エンジン、16 回転電機、18 冷媒温度検出部、20 駆動回路、22 リアクトル部、24 筐体、26 リアクトル、28 シリコングリース、30 リアクトル温度検出部、32 電流値検出部、40 制御装置、42 冷媒温度取得部、44 リアクトル温度取得部、46 電流値取得部、48 状態出力部、50 警報ランプ、52 記憶部、54,56 関係ファイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機とエンジンとを駆動源として搭載するハイブリッド車両の制御装置であって、
回転電機に接続される駆動回路に含まれるリアクトル部の温度を取得するリアクトル温度取得部と、
駆動源の冷媒温度を取得する冷媒温度取得部と、
リアクトル部の温度と冷媒温度とに基づき、予め定めた所定判断基準を用いて、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを判断し、判断結果を出力する状態出力部と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
ハイブリッド車両の運行パターンが予め定められた定型パターンの繰り返しの場合に、1回の運行パターンごとにリアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準として、冷媒温度に関連付けて、リアクトル部の温度についての閾値温度を記憶する記憶部を備え、
状態出力部は、
リアクトル部の温度が閾値温度を超える運行パターンの連続する回数が、予め定めた閾値連続回数を超えることを所定判断基準として、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態と判断することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
リアクトル部に流れる電流値を取得する電流値取得部と、
ハイブリッド車両が予め定めた運行状態を予め定めた時間継続する場合を定常運行状態として、1回の定常運行状態ごとに、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態か否かを予備的に判断するための予備判断基準として、冷媒温度と、リアクトル部に流れる電流値とに関連付けて、リアクトル部の温度についての閾値温度を記憶する記憶部を備え、
状態出力部は、
リアクトル部の温度が閾値温度を超える定常運行状態の連続する回数が、予め定めた閾値連続回数を超えることを所定判断基準として、リアクトル部の熱伝達用油脂が不足状態と判断することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
状態出力部は、
ユーザに対し、警報表示を出力することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228965(P2012−228965A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98635(P2011−98635)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】