ハイブリッド車両の制御装置
【課題】登坂走行時に大きな駆動力が要求される状況であっても、電動車両状態からハイブリッド車両状態へ走行状態を適切に切り替えることができるハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関と駆動輪との間の伝達トルク容量を連続的に変更可能なクラッチ機構を備え、EV状態と前記内燃機関を稼動させるHV状態とを切替可能なハイブリッド車両の制御装置において、登坂路走行時に前記ハイブリッド車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態へ切り替える場合、前記第1電動機の出力と前記クラッチ機構の係合・解放動作とを協調制御することにより、前記駆動軸の回転数を維持しつつ前記クランク軸の回転数を上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる内燃機関始動手段(ステップS4,S5)を設けた。
【解決手段】内燃機関と駆動輪との間の伝達トルク容量を連続的に変更可能なクラッチ機構を備え、EV状態と前記内燃機関を稼動させるHV状態とを切替可能なハイブリッド車両の制御装置において、登坂路走行時に前記ハイブリッド車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態へ切り替える場合、前記第1電動機の出力と前記クラッチ機構の係合・解放動作とを協調制御することにより、前記駆動軸の回転数を維持しつつ前記クランク軸の回転数を上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる内燃機関始動手段(ステップS4,S5)を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、電動機のみを稼動させて駆動力を発生させる電動車両状態と、内燃機関を稼動させて車両を走行させるハイブリッド車両状態とを切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、複数の駆動力源としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関とモータ・ジェネレータなどの電動機とを搭載した車両であり、内燃機関と電動機とが持つそれぞれの特性を生かしつつ、燃費を向上し、かつ排気ガスの低減を図ることが可能である。例えば、ハイブリッド車両では、内燃機関を燃焼効率の良い運転点で運転し、かつ車両に要求される駆動トルクを電動機で付加することができる。さらに、減速時にエネルギ回生を行いその際に発生させた電力を走行のために使用することもできる。そのため、ハイブリッド車両は、走行に対する要求を満たしつつ、燃費を向上させることができる。そのようなハイブリッド車両に関する発明の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された発明は、電力のやりとりによって複数の回転軸間で伝達される動力の大きさを調整可能な動力調整装置と、電動機とが、エンジンの出力軸と駆動軸との間に直列に配置されたハイブリッド車両であって、動力調整装置と電動機との結合および切り離しを行う結合機構と、動力調整装置のいずれかの回転軸を保持することにより動力調整装置と電動機とが切り離された場合における動力調整装置での電力と動力との変換を可能とする保持機構とを備えた構成となっている。そして、この特許文献1には、エンジンのモータリングを行うべきか否かを検出し、モータリングを行うべき運転状態にあることが検出された場合には、結合機構による動力調整装置と電動機との切り離しを行う点が記載されている。
【0004】
なお、特許文献2には、車両を駆動するためのエンジンと、車輪とエンジンとの間の動力伝達経路を実質的に開放するためのクラッチと、車両を駆動するための車輪に連結されたモータとを有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチの係合によるエンジンの始動が不可能な領域では、そのクラッチを解放させるとともにスタータモータによりエンジンを始動させ、クラッチの係合によるエンジンの始動が可能な領域では、そのクラッチを係合させることによりエンジンを始動させるように構成された発明が記載されている。具体的には、この特許文献2には、エンジンは停止していてモータにより走行するモータ走行モード中にエンジンの始動要求があると、車速が押しがけ可能車速に達したか否かが判断され、車速が押しがけ可能車速以上であった場合は、クラッチを係合してエンジンを始動させ、すなわち、いわゆる押しがけによってエンジンを始動させ、車速が押しがけ可能車速未満であった場合には、クラッチを解放した状態でスタータモータでエンジンをクランキングすることにより始動させる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開2001−107763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載されている発明における結合機構の構成や、特許文献2に記載されている発明におけるクラッチの構成を応用して、ハイブリッド車両の走行状態の切り替えをスムーズに行うことが考えられる。すなわち、上記のような結合機構やクラッチを、例えばスリップ係合させることにより伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能な摩擦クラッチで構成し、その摩擦クラッチを滑らせながら係合させることによって内燃機関と駆動輪との間の伝達トルクを徐々に増大させることにより、駆動輪側からの動力によって内燃機関をスムーズにクランキングして始動させることができる。したがって、電動機のみを稼動させる電動車両状態で走行している際に、その間停止していた内燃機関の始動を速やかにかつ滑らかに行い、電動機と共に内燃機関も稼動させるハイブリッド車両状態へ走行状態を切り替えることができる。
【0007】
そのようなハイブリッド車両の走行状態の切り替えは、例えばハイブリッド車両が電動車両状態で走行している際に、登坂路に差し掛かった場合あるいは急加速する場合などに、より大きな駆動力が必要となることから、電動車両状態から内燃機関の出力により駆動力を発生させることができるハイブリッド車両状態へ切り替えが要求される場合がある。そのような場合に、内燃機関を始動させるために上記のようにクラッチを滑らせながら係合させて、すなわちクラッチをスリップ係合させて内燃機関をクランキングさせようとすると、クラッチを経由して駆動輪に伝達される駆動トルクが低下してしまう場合がある。
【0008】
例えば、登坂走行時に駆動力の増大要求に対応して走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替える場合に、上記のようにクラッチをスリップ係合させることにより駆動トルクが低下すると、登坂走行のための駆動力が不足してしまう可能性がある。また、運転者の加速要求に対応して電動車両状態からハイブリッド車両状態へ走行状態を切り替える場合に、上記のようにクラッチをスリップ係合させることにより駆動トルクが低下すると、運転者が意図する駆動力に対して実際に出力される駆動力が不足し、運転者に違和感やもたつき感を与えてしまう可能性がある。その結果、ハイブリッド車両のドライバビリティの低下を招いてしまう場合がある。
【0009】
このように、例えば登坂走行時や急加速時などに大きな駆動力が要求される場合であっても、登坂路での駆動力不足やドライバビリティの低下を招くことなく、電動車両状態とハイブリッド車両状態との間の走行状態の切り替えを適切に行ってハイブリッド車両を走行させるためには、未だ改良の余地があった。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、例えば登坂走行時や急加速時などに従前よりも大きな駆動力が要求される状況であっても、電動機だけを稼動させて走行する電動車両状態から内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態へ、走行状態を適切に切り替えることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関と、出力を制御することにより前記内燃機関のクランク軸の回転数を増減させることが可能な第1電動機と、係合・解放動作を制御することにより前記クランク軸と駆動輪に動力伝達可能に連結された駆動軸との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともにその接続・遮断の際の伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能なクラッチ機構と、前記駆動軸に直接動力を伝達することが可能な第2電動機とを備え、前記第2電動機のみを稼動させてもしくは前記第1電動機および前記第2電動機のみを稼動させて走行のための駆動力を発生させる電動車両状態と、前記内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態とを選択的に切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置において、登坂路走行時もしくは駆動力の増大要求時に前記ハイブリッド車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態へ切り替える場合、前記第1電動機の出力と前記クラッチ機構の係合・解放動作とを協調制御することにより、前記駆動軸の回転数を維持もしくは低下させないようにしつつ前記クランク軸の回転数を上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる内燃機関始動手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記内燃機関始動手段が、前記クランク軸の回転数を前記内燃機関の自律回転が可能な回転数の下限値として予め定めた始動可能回転数以上に上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0013】
そして、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記内燃機関と前記第1電動機とが、前記内燃機関の動力を前記第1電動機と前記駆動輪とに分割する動力分割機構を介して相互に動力伝達が可能なように連結されていて、前記クラッチ機構が、前記トルク伝達経路における前記動力分割機構と前記駆動軸との間に設けられていることを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ハイブリッド車両が登坂路を走行している際に、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替える場合、すなわち走行状態をハイブリッド車両状態へ切り替えるために内燃機関を始動させる場合は、駆動軸の回転数を維持させながらクランク軸の回転数が上昇するように、第1電動機の出力とクラッチ機構の係合・解放動作とが協調して制御される。そして、駆動軸の回転数が維持されつつクランク軸の回転数が上昇させられた状態で内燃機関が始動させられる。ハイブリッド車両の走行中にクラッチ機構を係合させると、内燃機関のフリクショントルクなどによって駆動軸のトルクが低下するが、第1電動機の出力とクラッチ機構の係合・解放動作とが協調制御されることにより、クランク軸の回転数を上昇させるとともに、駆動軸の回転数を維持しながらクラッチ機構を係合することができる。すなわち、駆動軸のトルクを低下させることなくクランク軸の回転数を上昇させて、クラッチ機構を係合させた状態にすることができる。そのため、登坂走行時や駆動力の増大要求時に大きな駆動力が要求される場合であっても、駆動軸のトルクの低下を回避して、登坂路での駆動力不足を招くことなく、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ適切に切り替えることができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、内燃機関が始動させられる場合には、内燃機関の出力軸の回転数が、内燃機関の自律回転が可能な始動可能回転数以上に上昇させられる。そしてその後、例えば内燃機関に点火すること、あるいは燃料を噴射することなどにより、内燃機関が始動させられる。そのため、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替えるために内燃機関を始動させる際に、この発明における内燃機関始動手段によって内燃機関を確実に始動させることができる。
【0016】
そして、請求項3の発明によれば、内燃機関が出力する動力を第1電動機と駆動輪とに分配する動力分割機構を備え、さらにその動力分割機構と駆動輪との間にクラッチ機構が設定されているハイブリッド車両を制御の対象とすることができる。そのため、上記のような構成のハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態に切り替える際に、ドライバビリティの低下や登坂走行のための駆動力不足を招くことなく、ハイブリッド車両の走行状態を適切に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明で制御の対象とするハイブリッド車両の構成および制御系統の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す構成のハイブリッド車両における電動車両状態での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図3】図1に示す構成のハイブリッド車両における電動車両状態での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図4】図1に示す構成のハイブリッド車両におけるハイブリッド車両状態(シリーズハイブリッド方式)での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図5】図1に示す構成のハイブリッド車両におけるハイブリッド車両状態(パラレルハイブリッド方式)での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図6】この発明の制御装置により実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図8】図6のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図9】図6のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図10】図6のフローチャートに示す走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、各回転要素におけるトルクを説明するための共線図である。
【図11】この発明の制御装置により実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、この発明を図を参照して具体的に説明する。図1は、この発明で制御の対象とするハイブリッド車両の構成および制御系統を模式的に示している。すなわち、この図1に示すハイブリッド車両Veは、駆動力源として内燃機関1と第1電動機2および第2電動機3の2基の電動機とを備えており、内燃機関1が出力する動力を第1電動機2と駆動輪4とに分割するように構成されている。
【0019】
内燃機関1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する動力発生装置であり、この図1に示す例では、スロットル開度や燃料噴射量などを電気的に制御することが可能な電子制御式のスロットルバルブあるいは電子制御式の燃料噴射装置等を備えていて、所定の負荷に対して回転数を電気的に制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できるガソリンエンジンが搭載されている。以下の説明では、この内燃機関1をエンジン(ENG)1と記す。
【0020】
第1電動機2および第2電動機3は、いずれも、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機であり、この図1に示す例では、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータが搭載されている。以下、この実施例の説明では、電動機2,3を、第1モータ・ジェネレータ(MG1)2、および、第2モータ・ジェネレータ(MG2)3と記す。
【0021】
エンジン1と駆動輪4との間のトルク伝達経路中に、エンジン1が出力する動力を第1モータ・ジェネレータ2と駆動輪4とに分割するための動力分割機構5が設けられている。この動力分割機構5は、主に差動作用のある遊星歯車装置により構成されていて、この図1に示す例では、サンギヤ5sとリングギヤ5rとの間に配置したピニオンギヤをキャリア5cによって自転および公転が可能なように保持したシングルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。そしてその動力分割機構5のキャリア5cにエンジン1のクランク軸1aが連結され、サンギヤ5sに第1モータ・ジェネレータ2の出力軸2aが連結され、そしてリングギヤ5rには、後述するクラッチ機構6および駆動軸7ならびにデファレンシャル8を介して、駆動輪4が動力伝達可能に連結されている。上記のように動力分割機構5の遊星歯車装置が差動作用を行うことにより、第1モータ・ジェネレータ2の回転数に応じてエンジン1のクランク軸1aの回転数が変化する。したがって、第1モータ・ジェネレータ2の出力を制御することにより、クランク軸1aの回転数を制御できるように構成されている。
【0022】
クラッチ機構6は、エンジン1と駆動輪4との間、すなわちクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続・遮断するための係合装置であって、動力分割機構5のリングギヤ5rと駆動軸7との間に設けられている。このクラッチ機構6としては、例えば係合状態および解放状態に加えて半係合もしくはスリップ係合状態を設定して制御することが可能な摩擦係合装置、あるいはシンクロメッシ機構などを利用した同期連結装置などを用いることができる。図1には、スリップ係合状態を制御することが可能な摩擦クラッチを設けた例を示している。したがって、このクラッチ機構6は、クランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともに、そのトルク伝達経路を接続・遮断する際に伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能な構成となっている。
【0023】
駆動軸7には、上記のようにクラッチ機構6を介してリングギヤ5rに連結されたドライブギヤ7aに噛み合うドリブンギヤ7bと、後述するデファレンシャル8のリングギヤ8aに噛み合うカウンタギヤ7cと、後述する第2モータ・ジェネレータ3の出力軸3aに設けられたドライブギヤ9に噛み合うドリブンギヤ7dとが、いずれも一体回転するように固定されている。
【0024】
デファレンシャル8は、上記のように、そのリングギヤ8aが駆動軸7に設けられたカウンタギヤ7cに噛み合っていて、そしてドライブシャフト10に駆動輪4が連結されている。したがって、エンジン1および第1モータ・ジェネレータ2は、それぞれ、動力分割機構5および駆動軸7およびデファレンシャル8ならびにドライブシャフト10を介して、駆動輪4と互いに動力伝達可能に連結されている。
【0025】
上記のように、第1モータ・ジェネレータ2が、駆動輪4との間に動力分割機構5およびクラッチ機構6ならびに駆動軸7を介在させて動力を伝達するように構成されているのに対して、第2モータ・ジェネレータ3は、駆動軸7を介して駆動輪4との間で直接動力を伝達することが可能なように構成されている。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3には、上記のように出力軸3aにその出力軸3aと一体に回転するドライブギヤ9が取り付けられていて、そのドライブギヤ9が駆動軸7のドリブンギヤ7dに噛み合っている。したがって、第2モータ・ジェネレータ3は、ドライブギヤ9および駆動軸7およびデファレンシャル8ならびにドライブシャフト10を介して、駆動輪4と互いに動力伝達可能に連結されている。なお、ドライブギヤ9とドリブンギヤ7dとのギヤ対は、第2モータ・ジェネレータ3に対する減速機構(リダクションギヤ)となっている。したがって、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを増幅して駆動輪4へ伝達することができ、大きな駆動力を発生させることができる。
【0026】
前述したように、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、いずれも電動機として機能するとともに発電機としても機能することが可能な周知の同期電動機として構成されている。そして、それら第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、それぞれ、インバータ(図示せず)を介してバッテリあるいはキャパシタなどの蓄電装置(図示せず)に連結されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3がモータとして機能する場合の回転数あるいは出力トルクや、それら第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3が発電機として機能する場合の発電量あるいは回生制動トルクを、インバータによって制御するように構成されている。
【0027】
さらに、上記の第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、インバータを介して、それら各モータ・ジェネレータ2,3の間で電力を相互に授受できるように構成されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3のいずれか一方により発電された電力を、他方のモータ・ジェネレータで消費できるようになっている。例えば、エンジン1の出力により第1モータ・ジェネレータ2が駆動されて発電機として機能した場合には、その第1モータ・ジェネレータ2で発電された電力を第2モータ・ジェネレータ3へ供給し、第2モータ・ジェネレータ3を電動機として機能させることができる。したがって、エンジン1が出力した動力の一部を、第1モータ・ジェネレータ2により電力に一旦変換した後、第2モータ・ジェネレータ3により再び動力に変換して、その動力を駆動輪4に伝達することができるように構成されている。
【0028】
そして、上記のエンジン1、および各モータ・ジェネレータ2,3の動作状態を制御するための電子制御装置(ECU)11が設けられている。この電子制御装置11には、例えば、車両Veの車速を検出する車速センサ12、車両Veの前後加速度を検出する加速度センサ13、エンジン1のクランク軸1aの回転速度を検出するエンジン回転数センサ14、第1モータ・ジェネレータ2の回転軸2aの回転速度および第2モータ・ジェネレータ3の回転軸3aの回転速度をそれぞれ検出するためのレゾルバ15、蓄電装置の充電状態を検出するチャージセンサ16、アクセルペダルやアクセルレバーなどによる運転者のアクセル操作を検出するアクセル開度センサ17、そして車両Veの進行方向の傾斜角度を検出する傾斜角センサ18などの各種センサ装置類からの検出信号が入力される。これに対して、電子制御装置11からは、エンジン1を制御する信号、各モータ・ジェネレータ2,3を制御する(すなわち各モータ・ジェネレータ2,3に接続されたインバータおよび蓄電装置を制御する)信号などが出力されるように構成されている。
【0029】
上記のように構成されたこの発明で制御の対象とする車両Veでは、前述したように、第1モータ・ジェネレータ2のみもしくは第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動させて、あるいは第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動させて(すなわちエンジン1を稼動させずに)車両Veを走行させるための駆動トルクを発生させる電動車両(EV)状態と、エンジン1を稼動させた状態で車両Veを走行させるハイブリッド車両(HV)状態とを選択的に切り替えて走行することが可能である。
【0030】
例えば、図2に示すように、第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動して駆動トルクを発生させることにより、EV状態で車両Veを走行させることができる。その状態でクラッチ機構6を係合することにより、図3に示すように、リングギヤ5rの回転数を正転方向(エンジン1の回転方向)に上昇させることができる。この状態ではエンジン1は起動していないので、エンジン1に連結されたキャリア5cが反力要素となり、サンギヤ5sに連結している第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、逆転方向(エンジン1の回転方向とは逆方向)に上昇する。このとき第1モータ・ジェネレータ2を回生制御して発電機として機能させことにより、第2モータ・ジェネレータ3の出力による車両Veの走行中に、第1モータ・ジェネレータ2で電力を発生させてバッテリを充電することができる。あるいは、上記のようにクラッチ機構6を係合させた状態で、第2モータ・ジェネレータ3と共に第1モータ・ジェネレータ2をモータとして稼動させることにより、第2モータ・ジェネレータ3および第1モータ・ジェネレータ2の2基のモータの出力によってより大きな駆動力を発生させて車両Veを走行させることができる。
【0031】
また、図4,図5に示すように、エンジン1を稼動させたHV状態で車両Veを走行させることができる。すなわち、図4に示すように、エンジン1を稼動させ、その出力によって第1モータ・ジェネレータ2を発電機として駆動して発生させた電力、もしくは第1モータ・ジェネレータ2で発生させ一旦バッテリに蓄電した電力を、第2モータ・ジェネレータ3に供給することができる。そしてその電力によって第2モータ・ジェネレータ3をモータとして稼動して駆動力を発生させることにより、いわゆるシリーズハイブリッド方式のHV状態で車両Veを走行させることができる。
【0032】
そして、図5に示すように、クラッチ機構6を係合させた状態で、エンジン1を稼動させるとともに、第1モータ・ジェネレータ2で反力トルクを発生させること、すなわち第1モータ・ジェネレータ2で逆転方向の出力トルクを発生させることにより、エンジン1の出力トルクをリングギヤ5rを介して駆動輪4へ伝達させ、第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1の出力によってより大きな駆動力を発生させて車両Veを走行させることができる。すなわち、いわゆるパラレルハイブリッド方式のHV状態で車両Veを走行させることができる。
【0033】
このように、この発明におけるハイブリッド車両Veは、EV状態とHV状態とに走行状態を切り替えて走行することができる。走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える際、特に、例えば加速走行時や登坂路走行時における駆動力の増大要求に基づいて、走行状態をEV状態からパラレルハイブリッド方式のHV状態へ切り替える場合には、停止しているエンジン1を始動させるとともに、解放されていたクラッチ機構6を係合させてクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続する必要がある。エンジン1がトルクを出力していない状態でクラッチ機構6を係合させると、前述したように、駆動輪4へ伝達される駆動トルクが低下し、その結果、走行のための駆動力が不足してしまう可能性がある。
【0034】
そこで、この発明に係るハイブリッド車両Veの制御装置では、例えば加速走行時や登坂走行時であっても、駆動力不足に陥ることなく、EV状態からHV状態へ適切に走行状態を切り替えることができるように、以下の制御を実行するように構成されている。その制御の一例を、図6のフローチャートに示してある。このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図6において、先ず、車両Veの走行状態に対する切り替え要求の有無について判断される(ステップS1)。すなわち、EV状態で走行している車両Veに対して、エンジン1を始動して走行状態をHV状態へ切り替える要求が有るか否かが判断される。
【0035】
EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求は、例えば、バッテリの充電量が予め設定した基準値以下に低下した場合、あるいはエンジン1の出力も必要とする大きな駆動力が要求された場合などに、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ると判断することができる。したがって、この切り替え要求の有無の判断は、例えば、チャージセンサ16やアクセル開度センサ17の検出値などに基づいて行うことができる。
【0036】
未だEV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が無いことにより、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ることにより、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2へ進み、登坂走行時に駆動力を増大した状態であるか否かが判断される。例えば、車両Veが予め定めた所定角度以上の登坂路を走行中であり、その登坂走行のために駆動力が増大された場合に、登坂走行時に駆動力を増大した状態であると判断することができる。したがって、この状態の判断は、傾斜角センサ18やアクセル開度センサ17の検出値などに基づいて行うことができる。なお、登坂路の傾斜角度の判定は、傾斜角センサ18の検出値以外に、例えば車速センサ12および加速度センサ13の検出値に基づいて行うこともできる。
【0037】
車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態ではないこと、例えば走行中の道路が登坂路ではないこと、あるいは駆動力の増大を要求される程の登坂路ではないことにより、このステップS2で否定的に判断された場合は、ステップS3へ進み、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持した状態で、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。これは、クラッチ機構6の伝達トルク容量を徐々に増大させてクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続することにより、エンジン1を始動させるためにそのクランク軸1aの回転数を上昇させる、すなわちエンジン1をクランキングさせる制御である。
【0038】
具体的には、図7に示すように、EV状態のときに解放されていたクラッチ機構6がスリップ係合させられる。そしてスリップ係合状態の係合度合いが徐々に高められることにより、クラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大させられる。すると、その伝達トルク容量の増大に伴ってリングギヤ5rの回転数が正転方向に上昇する。このとき、第1モータ・ジェネレータ2は、逆転方向のトルクを発生させてその回転数が「0」に維持されるように制御される。その結果、キャリア5cに連結されているエンジン1のクランク軸1aの回転数が正転方向に上昇する。したがって、クラッチ機構6のスリップ係合状態を徐々に完全係合状態に向けて制御すること、すなわちクラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大するように制御することにより、エンジン1をクランキングして、そのクランク軸1aの回転数を、エンジン1の自律回転が可能な回転数の下限値である始動可能回転数Nes以上に上昇させることができる。
【0039】
一方、車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態であることにより、ステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進み、第1モータ・ジェネレータ2の回転数が上昇させられて、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。これは、この発明における「内燃機関始動手段」による走行状態の切り替え制御であって、第1モータ・ジェネレータ2の出力とクラッチ機構6の係合・解放動作とを協調させて制御することにより、駆動軸7の回転数を維持しつつクランク軸1aの回転数を上昇させた状態で、エンジン1を始動させるための制御である。
【0040】
具体的には、図8に示すように、先ず、出力軸2aすなわちサンギヤ5sの回転数が正転方向に上昇するように第1モータ・ジェネレータ2が力行制御される。第1モータ・ジェネレータ2の回転数を正転方向に上昇させることにより、キャリア5cに連結されているクランク軸1aの回転数を正転方向に引き上げることができるが、エンジン1の出力を駆動軸7へ伝達させるためにクラッチ機構6を係合する際には、駆動軸7側のトルクが低下してしまう場合がある。そこで、この発明における「内燃機関始動手段」では、上記のような第1モータ・ジェネレータ2によりクランク軸1aの回転数を上昇させる制御と、クラッチ機構6を係合させる制御とが協調させられて実行される。
【0041】
すなわち、図9に示すように、第1モータ・ジェネレータ2の出力によりクランク軸1aの回転数が上昇させられるとともに、クラッチ機構6が徐々に係合させられてトルク伝達経路が接続される。すなわちクラッチ機構6がスリップ係合させられてクランク軸1aと駆動軸7との間の伝達トルクが徐々に増大させられる。このとき、キャリア5cの回転数すなわちクランク軸1aの回転数が、始動可能回転数Nesとなるようにもしくは始動可能回転数Nesを上回るように、また、リングギヤ5rの回転数すなわちクラッチ機構6のクランク軸1a側の係合部材6aの回転数が、駆動軸7の回転数すなわちクラッチ機構6の駆動軸7側の係合部材6bの回転数となるように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とが協調して制御される。言い換えると、駆動軸7の回転数が低下しないように維持されつつ、クランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇するように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とが協調制御される。さらに、第1モータ・ジェネレータ2によりクラッチ機構6のクランク軸1a側の係合部材6aの回転数をクラッチ機構6の駆動軸7側の係合部材6bよりも高くしつつ各係合部材6a,6bを滑らせることによって、駆動軸7の回転数を低下させずに係合できるとともに、エンジン1を始動する際のずり下がりを防止することができる。
【0042】
上記のように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とが協調制御されて、クラッチ機構6が係合させられることにより、クラッチ機構6が係合させられた際にリングギヤ5rおよび駆動軸7には正転方向のトルクが発生するので、クラッチ機構6を係合することによる駆動軸7のトルクの低下を防止することができる。すなわち、登坂走行時における駆動力不足を防止することができる。また、上記のように、第1モータ・ジェネレータ2によりクランク軸1aの回転数を調整しつつ、クラッチ機構6が係合させられることにより、そのクラッチ機構6の係合に要する時間の短縮を図ることができる。
【0043】
なお、前述の図7および図10に示すように、エンジン1を始動させるためにクランク軸1aの回転数を上昇させる場合に、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクをTm、第2モータ・ジェネレータ3のイナーシャトルクをIm、第2モータ・ジェネレータ3の回転変化率をdωm/dt、第2モータ・ジェネレータ3のフリクショントルクをTmf、第2モータ・ジェネレータ3とデファレンシャル8との間の減速機構のギヤ比をGrm、クラッチ機構6を係合させる際のスリップによるトルクの減少率をTfcとすると、第2モータ・ジェネレータ3の出力による駆動軸7の軸トルクTmpは、
Tmp = {Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc ・・・(1)
となる。また、エンジン1のイナーシャトルクをIe、エンジン1の回転変化率をdωe/dt、エンジン1のフリクショントルクをTefとすると、エンジン1のクランク軸1aが連結されたキャリア5cの軸トルクTeは、
Te = −{Ie・(dωe/dt)+Tef} ・・・・・・・・・・(2)
となる。そして、第1モータ・ジェネレータ2のイナーシャトルクをIg、第1モータ・ジェネレータ2の回転変化率をdωg/dt、第1モータ・ジェネレータ2のフリクショントルクをTgfとし、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させるサンギヤ5sの軸トルクをTgとすると、図7に示すような上記の各軸トルクTmp,Te,Tgの力のつり合いから、
Tg−{Ig・(dωg/dt)+Tgf}+Te+Tmp = 0 ・・・・・(3)
の関係式が得られる。
【0044】
したがって、図7に示すように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持させた状態でエンジン1をクランキングさせ、クランク軸1aの回転数を上昇させる場合に、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させる軸トルクTgは、上記の(1),(2),(3)式から、
Tg = −Tmp−Te+{Ig・(dωg/dt)+Tgf}
= −{Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc
+{Ie・(dωe/dt)+Tef}+ {Ig・(dωg/dt)+Tgf}
として求めることができる。
【0045】
そして、図10に示すように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を上昇させてエンジン1をクランキングさせ、クランク軸1aの回転数を上昇させる場合に、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させる軸トルクTgは、
Tg > −{Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc
+{Ie・(dωe/dt)+Tef}+ {Ig・(dωg/dt)+Tgf}
の関係式を満たす値として求めることができる。
【0046】
上記のように、EV状態からHV状態へ車両Veの走行状態を切り替える際に、上記のステップS3もしくはステップS4において、クランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nesに同期した状態になると、もしくはクランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇した状態になると、ステップS5へ進み、その状態でエンジン1が始動させられる。例えば、始動可能回転数Nesで、もしくは始動可能回転数Nes以上の回転数でクランキングされているエンジン1に点火することにより、あるいは燃料を噴射することにより、エンジン1が始動させられる。すなわち、エンジン1が自律回転が可能な運転状態になり、EV状態からHV状態への走行状態の切り替えが完了する。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0047】
図11のフローチャートに、この発明における「内燃機関始動手段」による他の制御例を示す。上記の図6のフローチャートで示した制御例が、登坂走行時に車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える際に、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とを協調制御してエンジン1をクランキングさせることにより、駆動軸7のトルク不足を防止するようにした制御であるのに対して、この図11のフローチャートに示す制御例は、登坂走行時に車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える際に、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持しつつクラッチ機構6の係合圧を増大してクラッチ機構6を係合させることにより、駆動軸7のトルク不足を防止するようにした制御である。
【0048】
すなわち、図11において、先ず、車両Veの走行状態に対する切り替え要求の有無について判断される(ステップS11)。未だEV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が無いことにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ることにより、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS12へ進み、登坂走行時に駆動力を増大した状態であるか否かが判断される。これらステップS11およびステップS12の制御内容は、前述の図6で示す制御例のステップS1およびステップS2の制御の内容と同じである。
【0049】
車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態であることにより、このステップS12で肯定的に判断された場合は、ステップS13へ進み、クラッチ機構6の係合圧が通常よりも増大させられてクラッチ機構6が係合されて、エンジン1がクランキングされる。すなわち、この図11に示す制御例では、前述の図7に示すような第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持しつつクラッチ機構6の係合動作を制御してエンジン1をクランキングさせる制御を前提としていて、クラッチ機構6を係合させる場合にその係合圧を増大させることによって、クラッチ機構6を速やかに係合させ、クラッチ機構6が係合動作する際の駆動軸7のトルクの低下が防止もしくは抑制される。したがって、登坂走行時における駆動力不足を防止することができる。また、クラッチ機構6の係合に要する時間の短縮を図ることができる。
【0050】
一方、車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態ではないことにより、ステップS12で否定的に判断された場合には、ステップS14へ進み、クラッチ機構6の係合圧が通常時のままの状態で係合されて、エンジン1がクランキングされる。車両Veが登坂路を走行していない場合にクラッチ機構6の係合圧を増大させてクラッチ機構6を係合させると、その係合の際に係合ショックが発生する可能性があるため、この場合には、クラッチ機構6の係合圧の増大は行わずに、クラッチ機構6の係合動作が通常通りに制御される。
【0051】
そして、上記のようにステップS13もしくはステップS14において、クラッチ機構6が係合されてクランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nesに同期した状態になると、もしくはクランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇した状態になると、ステップS15へ進み、その状態でエンジン1が始動させられる。すなわち、エンジン1が自律回転が可能な運転状態になり、EV状態からHV状態への走行状態の切り替えが完了する。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0052】
以上のように、この発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、ハイブリッド車両Veが登坂路を走行している際に、そのハイブリッド車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える場合、すなわち走行状態をHV状態へ切り替えるためにエンジン1を始動させる場合は、駆動軸7の回転数を維持させながらクランク軸1aの回転数が上昇するように、第1モータ・ジェネレータ2の出力とクラッチ機構6の係合動作とが協調して制御される。そして、駆動軸7の回転数が維持されつつクランク軸1aの回転数が、エンジン1の自律回転が可能な始動可能回転数Nes以上に上昇させられた状態でエンジン1が始動させられる。ハイブリッド車両Veの走行中にクラッチ機構6を係合させる場合、エンジン1のフリクショントルクなどによって駆動軸6のトルクが低下する場合がある。上記のように第1モータ・ジェネレータ2の出力とクラッチ機構6の係合・解放動作とが協調制御されることにより、クランク軸1aの回転数を上昇させるとともに、駆動軸7の回転数を維持しながらクラッチ機構6を係合することができる。すなわち、駆動軸7のトルクを低下させることなくクランク軸1aの回転数を始動可能回転数Nes以上まで上昇させて、クラッチ機構6を係合させた状態にすることができる。そのため、登坂走行時に大きな駆動力が要求される場合であっても、駆動軸7のトルクの低下を回避して、登坂路での駆動力不足を招くことなく、ハイブリッド車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ適切に切り替えることができる。
【0053】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS4,S5およびステップS13,S15を実行する機能的手段が、この発明における「内燃機関始動手段」に相当する。
【0054】
なお、上述した具体例では、この発明における駆動力制御の対象とするハイブリッド車両として、内燃機関としてエンジン1と、第1電動機として第1モータ・ジェネレータ2と、第2電動機として第2モータ・ジェネレータ3と、エンジン1の動力を駆動輪および第1モータ・ジェネレータ2に分配する動力分割機構5とを備えた、いわゆる動力分割式のハイブリッド車両の構成を例に挙げて説明したが、例えば動力分割機構5を備えていないハイブリッド車両であってもよい。要は、内燃機関と、第1電動機と、第2電動機と、それら第1電動機と第2電動機との間の動力伝達経路を接続・遮断するクラッチ機構とを備えた、いわゆる2モータタイプのハイブリッド車両を、この発明における制御の対象とすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…内燃機関(エンジン;ENG)、 1a…クランク軸、 2…第1電動機(第1モータ・ジェネレータ;MG1)、3…第2電動機(第2モータ・ジェネレータ;MG2)、 4…駆動輪、 5…動力分割機構、 6…クラッチ機構、 7…駆動軸、 11…電子制御装置(ECU)、 12…車速センサ、 13…加速度センサ、 14…エンジン回転数センサ、 15…レゾルバ、 16…チャージセンサ、 17…アクセル開度センサ、 18…傾斜角センサ、 Ve…ハイブリッド車両。
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、電動機のみを稼動させて駆動力を発生させる電動車両状態と、内燃機関を稼動させて車両を走行させるハイブリッド車両状態とを切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、複数の駆動力源としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関とモータ・ジェネレータなどの電動機とを搭載した車両であり、内燃機関と電動機とが持つそれぞれの特性を生かしつつ、燃費を向上し、かつ排気ガスの低減を図ることが可能である。例えば、ハイブリッド車両では、内燃機関を燃焼効率の良い運転点で運転し、かつ車両に要求される駆動トルクを電動機で付加することができる。さらに、減速時にエネルギ回生を行いその際に発生させた電力を走行のために使用することもできる。そのため、ハイブリッド車両は、走行に対する要求を満たしつつ、燃費を向上させることができる。そのようなハイブリッド車両に関する発明の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された発明は、電力のやりとりによって複数の回転軸間で伝達される動力の大きさを調整可能な動力調整装置と、電動機とが、エンジンの出力軸と駆動軸との間に直列に配置されたハイブリッド車両であって、動力調整装置と電動機との結合および切り離しを行う結合機構と、動力調整装置のいずれかの回転軸を保持することにより動力調整装置と電動機とが切り離された場合における動力調整装置での電力と動力との変換を可能とする保持機構とを備えた構成となっている。そして、この特許文献1には、エンジンのモータリングを行うべきか否かを検出し、モータリングを行うべき運転状態にあることが検出された場合には、結合機構による動力調整装置と電動機との切り離しを行う点が記載されている。
【0004】
なお、特許文献2には、車両を駆動するためのエンジンと、車輪とエンジンとの間の動力伝達経路を実質的に開放するためのクラッチと、車両を駆動するための車輪に連結されたモータとを有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチの係合によるエンジンの始動が不可能な領域では、そのクラッチを解放させるとともにスタータモータによりエンジンを始動させ、クラッチの係合によるエンジンの始動が可能な領域では、そのクラッチを係合させることによりエンジンを始動させるように構成された発明が記載されている。具体的には、この特許文献2には、エンジンは停止していてモータにより走行するモータ走行モード中にエンジンの始動要求があると、車速が押しがけ可能車速に達したか否かが判断され、車速が押しがけ可能車速以上であった場合は、クラッチを係合してエンジンを始動させ、すなわち、いわゆる押しがけによってエンジンを始動させ、車速が押しがけ可能車速未満であった場合には、クラッチを解放した状態でスタータモータでエンジンをクランキングすることにより始動させる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開2001−107763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載されている発明における結合機構の構成や、特許文献2に記載されている発明におけるクラッチの構成を応用して、ハイブリッド車両の走行状態の切り替えをスムーズに行うことが考えられる。すなわち、上記のような結合機構やクラッチを、例えばスリップ係合させることにより伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能な摩擦クラッチで構成し、その摩擦クラッチを滑らせながら係合させることによって内燃機関と駆動輪との間の伝達トルクを徐々に増大させることにより、駆動輪側からの動力によって内燃機関をスムーズにクランキングして始動させることができる。したがって、電動機のみを稼動させる電動車両状態で走行している際に、その間停止していた内燃機関の始動を速やかにかつ滑らかに行い、電動機と共に内燃機関も稼動させるハイブリッド車両状態へ走行状態を切り替えることができる。
【0007】
そのようなハイブリッド車両の走行状態の切り替えは、例えばハイブリッド車両が電動車両状態で走行している際に、登坂路に差し掛かった場合あるいは急加速する場合などに、より大きな駆動力が必要となることから、電動車両状態から内燃機関の出力により駆動力を発生させることができるハイブリッド車両状態へ切り替えが要求される場合がある。そのような場合に、内燃機関を始動させるために上記のようにクラッチを滑らせながら係合させて、すなわちクラッチをスリップ係合させて内燃機関をクランキングさせようとすると、クラッチを経由して駆動輪に伝達される駆動トルクが低下してしまう場合がある。
【0008】
例えば、登坂走行時に駆動力の増大要求に対応して走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替える場合に、上記のようにクラッチをスリップ係合させることにより駆動トルクが低下すると、登坂走行のための駆動力が不足してしまう可能性がある。また、運転者の加速要求に対応して電動車両状態からハイブリッド車両状態へ走行状態を切り替える場合に、上記のようにクラッチをスリップ係合させることにより駆動トルクが低下すると、運転者が意図する駆動力に対して実際に出力される駆動力が不足し、運転者に違和感やもたつき感を与えてしまう可能性がある。その結果、ハイブリッド車両のドライバビリティの低下を招いてしまう場合がある。
【0009】
このように、例えば登坂走行時や急加速時などに大きな駆動力が要求される場合であっても、登坂路での駆動力不足やドライバビリティの低下を招くことなく、電動車両状態とハイブリッド車両状態との間の走行状態の切り替えを適切に行ってハイブリッド車両を走行させるためには、未だ改良の余地があった。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、例えば登坂走行時や急加速時などに従前よりも大きな駆動力が要求される状況であっても、電動機だけを稼動させて走行する電動車両状態から内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態へ、走行状態を適切に切り替えることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関と、出力を制御することにより前記内燃機関のクランク軸の回転数を増減させることが可能な第1電動機と、係合・解放動作を制御することにより前記クランク軸と駆動輪に動力伝達可能に連結された駆動軸との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともにその接続・遮断の際の伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能なクラッチ機構と、前記駆動軸に直接動力を伝達することが可能な第2電動機とを備え、前記第2電動機のみを稼動させてもしくは前記第1電動機および前記第2電動機のみを稼動させて走行のための駆動力を発生させる電動車両状態と、前記内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態とを選択的に切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置において、登坂路走行時もしくは駆動力の増大要求時に前記ハイブリッド車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態へ切り替える場合、前記第1電動機の出力と前記クラッチ機構の係合・解放動作とを協調制御することにより、前記駆動軸の回転数を維持もしくは低下させないようにしつつ前記クランク軸の回転数を上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる内燃機関始動手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記内燃機関始動手段が、前記クランク軸の回転数を前記内燃機関の自律回転が可能な回転数の下限値として予め定めた始動可能回転数以上に上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0013】
そして、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記内燃機関と前記第1電動機とが、前記内燃機関の動力を前記第1電動機と前記駆動輪とに分割する動力分割機構を介して相互に動力伝達が可能なように連結されていて、前記クラッチ機構が、前記トルク伝達経路における前記動力分割機構と前記駆動軸との間に設けられていることを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ハイブリッド車両が登坂路を走行している際に、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替える場合、すなわち走行状態をハイブリッド車両状態へ切り替えるために内燃機関を始動させる場合は、駆動軸の回転数を維持させながらクランク軸の回転数が上昇するように、第1電動機の出力とクラッチ機構の係合・解放動作とが協調して制御される。そして、駆動軸の回転数が維持されつつクランク軸の回転数が上昇させられた状態で内燃機関が始動させられる。ハイブリッド車両の走行中にクラッチ機構を係合させると、内燃機関のフリクショントルクなどによって駆動軸のトルクが低下するが、第1電動機の出力とクラッチ機構の係合・解放動作とが協調制御されることにより、クランク軸の回転数を上昇させるとともに、駆動軸の回転数を維持しながらクラッチ機構を係合することができる。すなわち、駆動軸のトルクを低下させることなくクランク軸の回転数を上昇させて、クラッチ機構を係合させた状態にすることができる。そのため、登坂走行時や駆動力の増大要求時に大きな駆動力が要求される場合であっても、駆動軸のトルクの低下を回避して、登坂路での駆動力不足を招くことなく、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ適切に切り替えることができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、内燃機関が始動させられる場合には、内燃機関の出力軸の回転数が、内燃機関の自律回転が可能な始動可能回転数以上に上昇させられる。そしてその後、例えば内燃機関に点火すること、あるいは燃料を噴射することなどにより、内燃機関が始動させられる。そのため、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替えるために内燃機関を始動させる際に、この発明における内燃機関始動手段によって内燃機関を確実に始動させることができる。
【0016】
そして、請求項3の発明によれば、内燃機関が出力する動力を第1電動機と駆動輪とに分配する動力分割機構を備え、さらにその動力分割機構と駆動輪との間にクラッチ機構が設定されているハイブリッド車両を制御の対象とすることができる。そのため、上記のような構成のハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態に切り替える際に、ドライバビリティの低下や登坂走行のための駆動力不足を招くことなく、ハイブリッド車両の走行状態を適切に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明で制御の対象とするハイブリッド車両の構成および制御系統の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す構成のハイブリッド車両における電動車両状態での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図3】図1に示す構成のハイブリッド車両における電動車両状態での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図4】図1に示す構成のハイブリッド車両におけるハイブリッド車両状態(シリーズハイブリッド方式)での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図5】図1に示す構成のハイブリッド車両におけるハイブリッド車両状態(パラレルハイブリッド方式)での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図6】この発明の制御装置により実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図8】図6のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図9】図6のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図10】図6のフローチャートに示す走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、各回転要素におけるトルクを説明するための共線図である。
【図11】この発明の制御装置により実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、この発明を図を参照して具体的に説明する。図1は、この発明で制御の対象とするハイブリッド車両の構成および制御系統を模式的に示している。すなわち、この図1に示すハイブリッド車両Veは、駆動力源として内燃機関1と第1電動機2および第2電動機3の2基の電動機とを備えており、内燃機関1が出力する動力を第1電動機2と駆動輪4とに分割するように構成されている。
【0019】
内燃機関1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する動力発生装置であり、この図1に示す例では、スロットル開度や燃料噴射量などを電気的に制御することが可能な電子制御式のスロットルバルブあるいは電子制御式の燃料噴射装置等を備えていて、所定の負荷に対して回転数を電気的に制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できるガソリンエンジンが搭載されている。以下の説明では、この内燃機関1をエンジン(ENG)1と記す。
【0020】
第1電動機2および第2電動機3は、いずれも、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機であり、この図1に示す例では、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータが搭載されている。以下、この実施例の説明では、電動機2,3を、第1モータ・ジェネレータ(MG1)2、および、第2モータ・ジェネレータ(MG2)3と記す。
【0021】
エンジン1と駆動輪4との間のトルク伝達経路中に、エンジン1が出力する動力を第1モータ・ジェネレータ2と駆動輪4とに分割するための動力分割機構5が設けられている。この動力分割機構5は、主に差動作用のある遊星歯車装置により構成されていて、この図1に示す例では、サンギヤ5sとリングギヤ5rとの間に配置したピニオンギヤをキャリア5cによって自転および公転が可能なように保持したシングルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。そしてその動力分割機構5のキャリア5cにエンジン1のクランク軸1aが連結され、サンギヤ5sに第1モータ・ジェネレータ2の出力軸2aが連結され、そしてリングギヤ5rには、後述するクラッチ機構6および駆動軸7ならびにデファレンシャル8を介して、駆動輪4が動力伝達可能に連結されている。上記のように動力分割機構5の遊星歯車装置が差動作用を行うことにより、第1モータ・ジェネレータ2の回転数に応じてエンジン1のクランク軸1aの回転数が変化する。したがって、第1モータ・ジェネレータ2の出力を制御することにより、クランク軸1aの回転数を制御できるように構成されている。
【0022】
クラッチ機構6は、エンジン1と駆動輪4との間、すなわちクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続・遮断するための係合装置であって、動力分割機構5のリングギヤ5rと駆動軸7との間に設けられている。このクラッチ機構6としては、例えば係合状態および解放状態に加えて半係合もしくはスリップ係合状態を設定して制御することが可能な摩擦係合装置、あるいはシンクロメッシ機構などを利用した同期連結装置などを用いることができる。図1には、スリップ係合状態を制御することが可能な摩擦クラッチを設けた例を示している。したがって、このクラッチ機構6は、クランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともに、そのトルク伝達経路を接続・遮断する際に伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能な構成となっている。
【0023】
駆動軸7には、上記のようにクラッチ機構6を介してリングギヤ5rに連結されたドライブギヤ7aに噛み合うドリブンギヤ7bと、後述するデファレンシャル8のリングギヤ8aに噛み合うカウンタギヤ7cと、後述する第2モータ・ジェネレータ3の出力軸3aに設けられたドライブギヤ9に噛み合うドリブンギヤ7dとが、いずれも一体回転するように固定されている。
【0024】
デファレンシャル8は、上記のように、そのリングギヤ8aが駆動軸7に設けられたカウンタギヤ7cに噛み合っていて、そしてドライブシャフト10に駆動輪4が連結されている。したがって、エンジン1および第1モータ・ジェネレータ2は、それぞれ、動力分割機構5および駆動軸7およびデファレンシャル8ならびにドライブシャフト10を介して、駆動輪4と互いに動力伝達可能に連結されている。
【0025】
上記のように、第1モータ・ジェネレータ2が、駆動輪4との間に動力分割機構5およびクラッチ機構6ならびに駆動軸7を介在させて動力を伝達するように構成されているのに対して、第2モータ・ジェネレータ3は、駆動軸7を介して駆動輪4との間で直接動力を伝達することが可能なように構成されている。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3には、上記のように出力軸3aにその出力軸3aと一体に回転するドライブギヤ9が取り付けられていて、そのドライブギヤ9が駆動軸7のドリブンギヤ7dに噛み合っている。したがって、第2モータ・ジェネレータ3は、ドライブギヤ9および駆動軸7およびデファレンシャル8ならびにドライブシャフト10を介して、駆動輪4と互いに動力伝達可能に連結されている。なお、ドライブギヤ9とドリブンギヤ7dとのギヤ対は、第2モータ・ジェネレータ3に対する減速機構(リダクションギヤ)となっている。したがって、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを増幅して駆動輪4へ伝達することができ、大きな駆動力を発生させることができる。
【0026】
前述したように、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、いずれも電動機として機能するとともに発電機としても機能することが可能な周知の同期電動機として構成されている。そして、それら第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、それぞれ、インバータ(図示せず)を介してバッテリあるいはキャパシタなどの蓄電装置(図示せず)に連結されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3がモータとして機能する場合の回転数あるいは出力トルクや、それら第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3が発電機として機能する場合の発電量あるいは回生制動トルクを、インバータによって制御するように構成されている。
【0027】
さらに、上記の第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、インバータを介して、それら各モータ・ジェネレータ2,3の間で電力を相互に授受できるように構成されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3のいずれか一方により発電された電力を、他方のモータ・ジェネレータで消費できるようになっている。例えば、エンジン1の出力により第1モータ・ジェネレータ2が駆動されて発電機として機能した場合には、その第1モータ・ジェネレータ2で発電された電力を第2モータ・ジェネレータ3へ供給し、第2モータ・ジェネレータ3を電動機として機能させることができる。したがって、エンジン1が出力した動力の一部を、第1モータ・ジェネレータ2により電力に一旦変換した後、第2モータ・ジェネレータ3により再び動力に変換して、その動力を駆動輪4に伝達することができるように構成されている。
【0028】
そして、上記のエンジン1、および各モータ・ジェネレータ2,3の動作状態を制御するための電子制御装置(ECU)11が設けられている。この電子制御装置11には、例えば、車両Veの車速を検出する車速センサ12、車両Veの前後加速度を検出する加速度センサ13、エンジン1のクランク軸1aの回転速度を検出するエンジン回転数センサ14、第1モータ・ジェネレータ2の回転軸2aの回転速度および第2モータ・ジェネレータ3の回転軸3aの回転速度をそれぞれ検出するためのレゾルバ15、蓄電装置の充電状態を検出するチャージセンサ16、アクセルペダルやアクセルレバーなどによる運転者のアクセル操作を検出するアクセル開度センサ17、そして車両Veの進行方向の傾斜角度を検出する傾斜角センサ18などの各種センサ装置類からの検出信号が入力される。これに対して、電子制御装置11からは、エンジン1を制御する信号、各モータ・ジェネレータ2,3を制御する(すなわち各モータ・ジェネレータ2,3に接続されたインバータおよび蓄電装置を制御する)信号などが出力されるように構成されている。
【0029】
上記のように構成されたこの発明で制御の対象とする車両Veでは、前述したように、第1モータ・ジェネレータ2のみもしくは第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動させて、あるいは第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動させて(すなわちエンジン1を稼動させずに)車両Veを走行させるための駆動トルクを発生させる電動車両(EV)状態と、エンジン1を稼動させた状態で車両Veを走行させるハイブリッド車両(HV)状態とを選択的に切り替えて走行することが可能である。
【0030】
例えば、図2に示すように、第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動して駆動トルクを発生させることにより、EV状態で車両Veを走行させることができる。その状態でクラッチ機構6を係合することにより、図3に示すように、リングギヤ5rの回転数を正転方向(エンジン1の回転方向)に上昇させることができる。この状態ではエンジン1は起動していないので、エンジン1に連結されたキャリア5cが反力要素となり、サンギヤ5sに連結している第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、逆転方向(エンジン1の回転方向とは逆方向)に上昇する。このとき第1モータ・ジェネレータ2を回生制御して発電機として機能させことにより、第2モータ・ジェネレータ3の出力による車両Veの走行中に、第1モータ・ジェネレータ2で電力を発生させてバッテリを充電することができる。あるいは、上記のようにクラッチ機構6を係合させた状態で、第2モータ・ジェネレータ3と共に第1モータ・ジェネレータ2をモータとして稼動させることにより、第2モータ・ジェネレータ3および第1モータ・ジェネレータ2の2基のモータの出力によってより大きな駆動力を発生させて車両Veを走行させることができる。
【0031】
また、図4,図5に示すように、エンジン1を稼動させたHV状態で車両Veを走行させることができる。すなわち、図4に示すように、エンジン1を稼動させ、その出力によって第1モータ・ジェネレータ2を発電機として駆動して発生させた電力、もしくは第1モータ・ジェネレータ2で発生させ一旦バッテリに蓄電した電力を、第2モータ・ジェネレータ3に供給することができる。そしてその電力によって第2モータ・ジェネレータ3をモータとして稼動して駆動力を発生させることにより、いわゆるシリーズハイブリッド方式のHV状態で車両Veを走行させることができる。
【0032】
そして、図5に示すように、クラッチ機構6を係合させた状態で、エンジン1を稼動させるとともに、第1モータ・ジェネレータ2で反力トルクを発生させること、すなわち第1モータ・ジェネレータ2で逆転方向の出力トルクを発生させることにより、エンジン1の出力トルクをリングギヤ5rを介して駆動輪4へ伝達させ、第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1の出力によってより大きな駆動力を発生させて車両Veを走行させることができる。すなわち、いわゆるパラレルハイブリッド方式のHV状態で車両Veを走行させることができる。
【0033】
このように、この発明におけるハイブリッド車両Veは、EV状態とHV状態とに走行状態を切り替えて走行することができる。走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える際、特に、例えば加速走行時や登坂路走行時における駆動力の増大要求に基づいて、走行状態をEV状態からパラレルハイブリッド方式のHV状態へ切り替える場合には、停止しているエンジン1を始動させるとともに、解放されていたクラッチ機構6を係合させてクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続する必要がある。エンジン1がトルクを出力していない状態でクラッチ機構6を係合させると、前述したように、駆動輪4へ伝達される駆動トルクが低下し、その結果、走行のための駆動力が不足してしまう可能性がある。
【0034】
そこで、この発明に係るハイブリッド車両Veの制御装置では、例えば加速走行時や登坂走行時であっても、駆動力不足に陥ることなく、EV状態からHV状態へ適切に走行状態を切り替えることができるように、以下の制御を実行するように構成されている。その制御の一例を、図6のフローチャートに示してある。このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図6において、先ず、車両Veの走行状態に対する切り替え要求の有無について判断される(ステップS1)。すなわち、EV状態で走行している車両Veに対して、エンジン1を始動して走行状態をHV状態へ切り替える要求が有るか否かが判断される。
【0035】
EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求は、例えば、バッテリの充電量が予め設定した基準値以下に低下した場合、あるいはエンジン1の出力も必要とする大きな駆動力が要求された場合などに、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ると判断することができる。したがって、この切り替え要求の有無の判断は、例えば、チャージセンサ16やアクセル開度センサ17の検出値などに基づいて行うことができる。
【0036】
未だEV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が無いことにより、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ることにより、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2へ進み、登坂走行時に駆動力を増大した状態であるか否かが判断される。例えば、車両Veが予め定めた所定角度以上の登坂路を走行中であり、その登坂走行のために駆動力が増大された場合に、登坂走行時に駆動力を増大した状態であると判断することができる。したがって、この状態の判断は、傾斜角センサ18やアクセル開度センサ17の検出値などに基づいて行うことができる。なお、登坂路の傾斜角度の判定は、傾斜角センサ18の検出値以外に、例えば車速センサ12および加速度センサ13の検出値に基づいて行うこともできる。
【0037】
車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態ではないこと、例えば走行中の道路が登坂路ではないこと、あるいは駆動力の増大を要求される程の登坂路ではないことにより、このステップS2で否定的に判断された場合は、ステップS3へ進み、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持した状態で、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。これは、クラッチ機構6の伝達トルク容量を徐々に増大させてクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続することにより、エンジン1を始動させるためにそのクランク軸1aの回転数を上昇させる、すなわちエンジン1をクランキングさせる制御である。
【0038】
具体的には、図7に示すように、EV状態のときに解放されていたクラッチ機構6がスリップ係合させられる。そしてスリップ係合状態の係合度合いが徐々に高められることにより、クラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大させられる。すると、その伝達トルク容量の増大に伴ってリングギヤ5rの回転数が正転方向に上昇する。このとき、第1モータ・ジェネレータ2は、逆転方向のトルクを発生させてその回転数が「0」に維持されるように制御される。その結果、キャリア5cに連結されているエンジン1のクランク軸1aの回転数が正転方向に上昇する。したがって、クラッチ機構6のスリップ係合状態を徐々に完全係合状態に向けて制御すること、すなわちクラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大するように制御することにより、エンジン1をクランキングして、そのクランク軸1aの回転数を、エンジン1の自律回転が可能な回転数の下限値である始動可能回転数Nes以上に上昇させることができる。
【0039】
一方、車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態であることにより、ステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進み、第1モータ・ジェネレータ2の回転数が上昇させられて、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。これは、この発明における「内燃機関始動手段」による走行状態の切り替え制御であって、第1モータ・ジェネレータ2の出力とクラッチ機構6の係合・解放動作とを協調させて制御することにより、駆動軸7の回転数を維持しつつクランク軸1aの回転数を上昇させた状態で、エンジン1を始動させるための制御である。
【0040】
具体的には、図8に示すように、先ず、出力軸2aすなわちサンギヤ5sの回転数が正転方向に上昇するように第1モータ・ジェネレータ2が力行制御される。第1モータ・ジェネレータ2の回転数を正転方向に上昇させることにより、キャリア5cに連結されているクランク軸1aの回転数を正転方向に引き上げることができるが、エンジン1の出力を駆動軸7へ伝達させるためにクラッチ機構6を係合する際には、駆動軸7側のトルクが低下してしまう場合がある。そこで、この発明における「内燃機関始動手段」では、上記のような第1モータ・ジェネレータ2によりクランク軸1aの回転数を上昇させる制御と、クラッチ機構6を係合させる制御とが協調させられて実行される。
【0041】
すなわち、図9に示すように、第1モータ・ジェネレータ2の出力によりクランク軸1aの回転数が上昇させられるとともに、クラッチ機構6が徐々に係合させられてトルク伝達経路が接続される。すなわちクラッチ機構6がスリップ係合させられてクランク軸1aと駆動軸7との間の伝達トルクが徐々に増大させられる。このとき、キャリア5cの回転数すなわちクランク軸1aの回転数が、始動可能回転数Nesとなるようにもしくは始動可能回転数Nesを上回るように、また、リングギヤ5rの回転数すなわちクラッチ機構6のクランク軸1a側の係合部材6aの回転数が、駆動軸7の回転数すなわちクラッチ機構6の駆動軸7側の係合部材6bの回転数となるように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とが協調して制御される。言い換えると、駆動軸7の回転数が低下しないように維持されつつ、クランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇するように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とが協調制御される。さらに、第1モータ・ジェネレータ2によりクラッチ機構6のクランク軸1a側の係合部材6aの回転数をクラッチ機構6の駆動軸7側の係合部材6bよりも高くしつつ各係合部材6a,6bを滑らせることによって、駆動軸7の回転数を低下させずに係合できるとともに、エンジン1を始動する際のずり下がりを防止することができる。
【0042】
上記のように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とが協調制御されて、クラッチ機構6が係合させられることにより、クラッチ機構6が係合させられた際にリングギヤ5rおよび駆動軸7には正転方向のトルクが発生するので、クラッチ機構6を係合することによる駆動軸7のトルクの低下を防止することができる。すなわち、登坂走行時における駆動力不足を防止することができる。また、上記のように、第1モータ・ジェネレータ2によりクランク軸1aの回転数を調整しつつ、クラッチ機構6が係合させられることにより、そのクラッチ機構6の係合に要する時間の短縮を図ることができる。
【0043】
なお、前述の図7および図10に示すように、エンジン1を始動させるためにクランク軸1aの回転数を上昇させる場合に、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクをTm、第2モータ・ジェネレータ3のイナーシャトルクをIm、第2モータ・ジェネレータ3の回転変化率をdωm/dt、第2モータ・ジェネレータ3のフリクショントルクをTmf、第2モータ・ジェネレータ3とデファレンシャル8との間の減速機構のギヤ比をGrm、クラッチ機構6を係合させる際のスリップによるトルクの減少率をTfcとすると、第2モータ・ジェネレータ3の出力による駆動軸7の軸トルクTmpは、
Tmp = {Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc ・・・(1)
となる。また、エンジン1のイナーシャトルクをIe、エンジン1の回転変化率をdωe/dt、エンジン1のフリクショントルクをTefとすると、エンジン1のクランク軸1aが連結されたキャリア5cの軸トルクTeは、
Te = −{Ie・(dωe/dt)+Tef} ・・・・・・・・・・(2)
となる。そして、第1モータ・ジェネレータ2のイナーシャトルクをIg、第1モータ・ジェネレータ2の回転変化率をdωg/dt、第1モータ・ジェネレータ2のフリクショントルクをTgfとし、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させるサンギヤ5sの軸トルクをTgとすると、図7に示すような上記の各軸トルクTmp,Te,Tgの力のつり合いから、
Tg−{Ig・(dωg/dt)+Tgf}+Te+Tmp = 0 ・・・・・(3)
の関係式が得られる。
【0044】
したがって、図7に示すように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持させた状態でエンジン1をクランキングさせ、クランク軸1aの回転数を上昇させる場合に、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させる軸トルクTgは、上記の(1),(2),(3)式から、
Tg = −Tmp−Te+{Ig・(dωg/dt)+Tgf}
= −{Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc
+{Ie・(dωe/dt)+Tef}+ {Ig・(dωg/dt)+Tgf}
として求めることができる。
【0045】
そして、図10に示すように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を上昇させてエンジン1をクランキングさせ、クランク軸1aの回転数を上昇させる場合に、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させる軸トルクTgは、
Tg > −{Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc
+{Ie・(dωe/dt)+Tef}+ {Ig・(dωg/dt)+Tgf}
の関係式を満たす値として求めることができる。
【0046】
上記のように、EV状態からHV状態へ車両Veの走行状態を切り替える際に、上記のステップS3もしくはステップS4において、クランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nesに同期した状態になると、もしくはクランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇した状態になると、ステップS5へ進み、その状態でエンジン1が始動させられる。例えば、始動可能回転数Nesで、もしくは始動可能回転数Nes以上の回転数でクランキングされているエンジン1に点火することにより、あるいは燃料を噴射することにより、エンジン1が始動させられる。すなわち、エンジン1が自律回転が可能な運転状態になり、EV状態からHV状態への走行状態の切り替えが完了する。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0047】
図11のフローチャートに、この発明における「内燃機関始動手段」による他の制御例を示す。上記の図6のフローチャートで示した制御例が、登坂走行時に車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える際に、第1モータ・ジェネレータ2の回転数とクラッチ機構6の係合動作とを協調制御してエンジン1をクランキングさせることにより、駆動軸7のトルク不足を防止するようにした制御であるのに対して、この図11のフローチャートに示す制御例は、登坂走行時に車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える際に、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持しつつクラッチ機構6の係合圧を増大してクラッチ機構6を係合させることにより、駆動軸7のトルク不足を防止するようにした制御である。
【0048】
すなわち、図11において、先ず、車両Veの走行状態に対する切り替え要求の有無について判断される(ステップS11)。未だEV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が無いことにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ることにより、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS12へ進み、登坂走行時に駆動力を増大した状態であるか否かが判断される。これらステップS11およびステップS12の制御内容は、前述の図6で示す制御例のステップS1およびステップS2の制御の内容と同じである。
【0049】
車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態であることにより、このステップS12で肯定的に判断された場合は、ステップS13へ進み、クラッチ機構6の係合圧が通常よりも増大させられてクラッチ機構6が係合されて、エンジン1がクランキングされる。すなわち、この図11に示す制御例では、前述の図7に示すような第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持しつつクラッチ機構6の係合動作を制御してエンジン1をクランキングさせる制御を前提としていて、クラッチ機構6を係合させる場合にその係合圧を増大させることによって、クラッチ機構6を速やかに係合させ、クラッチ機構6が係合動作する際の駆動軸7のトルクの低下が防止もしくは抑制される。したがって、登坂走行時における駆動力不足を防止することができる。また、クラッチ機構6の係合に要する時間の短縮を図ることができる。
【0050】
一方、車両Veの状態が登坂走行時に駆動力を増大した状態ではないことにより、ステップS12で否定的に判断された場合には、ステップS14へ進み、クラッチ機構6の係合圧が通常時のままの状態で係合されて、エンジン1がクランキングされる。車両Veが登坂路を走行していない場合にクラッチ機構6の係合圧を増大させてクラッチ機構6を係合させると、その係合の際に係合ショックが発生する可能性があるため、この場合には、クラッチ機構6の係合圧の増大は行わずに、クラッチ機構6の係合動作が通常通りに制御される。
【0051】
そして、上記のようにステップS13もしくはステップS14において、クラッチ機構6が係合されてクランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nesに同期した状態になると、もしくはクランク軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇した状態になると、ステップS15へ進み、その状態でエンジン1が始動させられる。すなわち、エンジン1が自律回転が可能な運転状態になり、EV状態からHV状態への走行状態の切り替えが完了する。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0052】
以上のように、この発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、ハイブリッド車両Veが登坂路を走行している際に、そのハイブリッド車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える場合、すなわち走行状態をHV状態へ切り替えるためにエンジン1を始動させる場合は、駆動軸7の回転数を維持させながらクランク軸1aの回転数が上昇するように、第1モータ・ジェネレータ2の出力とクラッチ機構6の係合動作とが協調して制御される。そして、駆動軸7の回転数が維持されつつクランク軸1aの回転数が、エンジン1の自律回転が可能な始動可能回転数Nes以上に上昇させられた状態でエンジン1が始動させられる。ハイブリッド車両Veの走行中にクラッチ機構6を係合させる場合、エンジン1のフリクショントルクなどによって駆動軸6のトルクが低下する場合がある。上記のように第1モータ・ジェネレータ2の出力とクラッチ機構6の係合・解放動作とが協調制御されることにより、クランク軸1aの回転数を上昇させるとともに、駆動軸7の回転数を維持しながらクラッチ機構6を係合することができる。すなわち、駆動軸7のトルクを低下させることなくクランク軸1aの回転数を始動可能回転数Nes以上まで上昇させて、クラッチ機構6を係合させた状態にすることができる。そのため、登坂走行時に大きな駆動力が要求される場合であっても、駆動軸7のトルクの低下を回避して、登坂路での駆動力不足を招くことなく、ハイブリッド車両Veの走行状態をEV状態からHV状態へ適切に切り替えることができる。
【0053】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS4,S5およびステップS13,S15を実行する機能的手段が、この発明における「内燃機関始動手段」に相当する。
【0054】
なお、上述した具体例では、この発明における駆動力制御の対象とするハイブリッド車両として、内燃機関としてエンジン1と、第1電動機として第1モータ・ジェネレータ2と、第2電動機として第2モータ・ジェネレータ3と、エンジン1の動力を駆動輪および第1モータ・ジェネレータ2に分配する動力分割機構5とを備えた、いわゆる動力分割式のハイブリッド車両の構成を例に挙げて説明したが、例えば動力分割機構5を備えていないハイブリッド車両であってもよい。要は、内燃機関と、第1電動機と、第2電動機と、それら第1電動機と第2電動機との間の動力伝達経路を接続・遮断するクラッチ機構とを備えた、いわゆる2モータタイプのハイブリッド車両を、この発明における制御の対象とすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…内燃機関(エンジン;ENG)、 1a…クランク軸、 2…第1電動機(第1モータ・ジェネレータ;MG1)、3…第2電動機(第2モータ・ジェネレータ;MG2)、 4…駆動輪、 5…動力分割機構、 6…クラッチ機構、 7…駆動軸、 11…電子制御装置(ECU)、 12…車速センサ、 13…加速度センサ、 14…エンジン回転数センサ、 15…レゾルバ、 16…チャージセンサ、 17…アクセル開度センサ、 18…傾斜角センサ、 Ve…ハイブリッド車両。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、出力を制御することにより前記内燃機関のクランク軸の回転数を増減させることが可能な第1電動機と、係合・解放動作を制御することにより前記クランク軸と駆動輪に動力伝達可能に連結された駆動軸との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともにその接続・遮断の際の伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能なクラッチ機構と、前記駆動軸に直接動力を伝達することが可能な第2電動機とを備え、前記第2電動機のみを稼動させてもしくは前記第1電動機および前記第2電動機のみを稼動させて走行のための駆動力を発生させる電動車両状態と、前記内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態とを選択的に切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置において、
登坂路走行時もしくは駆動力の増大要求時に前記ハイブリッド車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態へ切り替える場合、前記第1電動機の出力と前記クラッチ機構の係合・解放動作とを協調制御することにより、前記駆動軸の回転数を維持もしくは低下させないようにしつつ前記クランク軸の回転数を上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる内燃機関始動手段を備えていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関始動手段は、前記クランク軸の回転数を前記内燃機関の自律回転が可能な回転数の下限値として予め定めた始動可能回転数以上に上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる手段を含むことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関と前記第1電動機とは、前記内燃機関の動力を前記第1電動機と前記駆動輪とに分割する動力分割機構を介して相互に動力伝達が可能なように連結されていて、
前記クラッチ機構は、前記トルク伝達経路における前記動力分割機構と前記駆動軸との間に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
内燃機関と、出力を制御することにより前記内燃機関のクランク軸の回転数を増減させることが可能な第1電動機と、係合・解放動作を制御することにより前記クランク軸と駆動輪に動力伝達可能に連結された駆動軸との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともにその接続・遮断の際の伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能なクラッチ機構と、前記駆動軸に直接動力を伝達することが可能な第2電動機とを備え、前記第2電動機のみを稼動させてもしくは前記第1電動機および前記第2電動機のみを稼動させて走行のための駆動力を発生させる電動車両状態と、前記内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態とを選択的に切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置において、
登坂路走行時もしくは駆動力の増大要求時に前記ハイブリッド車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態へ切り替える場合、前記第1電動機の出力と前記クラッチ機構の係合・解放動作とを協調制御することにより、前記駆動軸の回転数を維持もしくは低下させないようにしつつ前記クランク軸の回転数を上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる内燃機関始動手段を備えていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関始動手段は、前記クランク軸の回転数を前記内燃機関の自律回転が可能な回転数の下限値として予め定めた始動可能回転数以上に上昇させた状態で、前記内燃機関を始動させる手段を含むことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関と前記第1電動機とは、前記内燃機関の動力を前記第1電動機と前記駆動輪とに分割する動力分割機構を介して相互に動力伝達が可能なように連結されていて、
前記クラッチ機構は、前記トルク伝達経路における前記動力分割機構と前記駆動軸との間に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−254739(P2012−254739A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129451(P2011−129451)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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