説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジンとモータを走行用動力源として有するハイブリッド車両において、簡素的な制御ロジックを用いて車両姿勢安定制御とスリップ率制御とを両立させる。
【解決手段】本発明に係るハイブリッド車両(1)の制御装置(14)は、車両姿勢を安定化する車両姿勢安定制御を実施する車両姿勢安定制御手段と、モータ(3)に駆動トルク又は回生トルクを付与してスリップ率制御を実施するスリップ率制御手段と、車両姿勢安定制御の実施時にモータの出力トルクを第1のモータトルクT1以下に制限し、車両姿勢安定制御の実施中に更にスリップ率制御を実施する場合、モータの出力トルクの制限を第2のモータトルクT2に変更するモータトルク制御手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及びモータの少なくとも一方から出力された動力を、変速機を介して駆動輪に伝達することにより走行を行うハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、及び、バッテリに蓄えられた電力で動作可能なモータ(電動機)の少なくとも一方を動力源として走行するハイブリッド車両が注目されている。ハイブリッド車両は、減速時にモータを回生駆動して発電し、得られた電力をバッテリに充電して蓄える。そして、当該充電した電力を用いて電動機を力行駆動することにより、内燃機関の燃料消費量を削減し、燃費性能の改善を図っている。
【0003】
ハイブリッド車両を含む一般的な走行車両において、例えば旋回時などにおける車両姿勢を安定化するために、車両姿勢安定制御が実施されることがある。車両姿勢安定制御は、いわゆる横滑り防止制御とも称されており、旋回時のアンダーステア状態やオーバーステア状態に基づいて、車両に作用するヨーモーメントを打ち消すことによって車両挙動の安定化を図るものである。
【0004】
近年のハイブリッド車両の普及に伴い、ハイブリッド車両においてもこの種の車両姿勢安定制御の導入が試みられている。しかしながら、ハイブリッド車両は動力源としてエンジンとモータを有しているため、車両姿勢安定制御を実施するためには、エンジンとモータとを協調制御する必要があり、従来の車両に比べて制御が複雑化しやすいことが課題となっている。つまり、ハイブリッド車両では刻々と変化する車両挙動に応じてこれらエンジンとモータのそれぞれの出力を協調させる必要があり、制御ロジックが大変複雑になってしまい、コスト増につながってしまう点が課題となっている。
【0005】
このような課題に対して、特許文献1では車両姿勢安定制御を実施する際に、制御性のよいモータの出力トルクをゼロに制限することによりエンジンからの出力のみを制御することによって、車両姿勢安定制御の簡素化を行っている。これにより、ハイブリッド車両においても、動力源としてエンジンのみを有する通常の車両に使用されていた制御ロジックを流用することが可能となり、車両姿勢安定制御の導入が容易となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−331540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走行中の車両挙動の安定化制御として、上述の車両姿勢安定制御の他に、加減速時に駆動輪がスリップ状態に陥った場合に、走行用動力源から所定トルクを出力することにより、駆動輪のロックを防止して車両挙動の回復を図るスリップ率制御がある。スリップ率制御をハイブリッド車両にて実施する場合、動力源であるエンジンとモータのうち、制御性に優れたモータの出力トルクを制御することによって行うことが好ましいとされている。
【0008】
しかしながら、車両姿勢安定制御とスリップ率制御は車両挙動をより安定化するために併用して用いられることがあるが、特許文献1のように車両姿勢安定制御の制御ロジックを簡素化するためにモータからの出力トルクをゼロに設定してしまうと、モータの出力トルク制御によって実施されるスリップ率制御が実施不能になるというジレンマが生じる。そのため、従来の制御ロジックをそのままハイブリッド車両に適用して車両姿勢安定制御とスリップ率制御とを両立させようとすると、複雑な制御ロジックの導入が不可避となってしまうという問題点がある。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、エンジンとモータを走行用動力源として有するハイブリッド車両において、簡素的な制御ロジックを用いて車両姿勢安定制御とスリップ率制御とを両立させることにより車両挙動を効果的に安定化できるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、エンジン及びモータ間にクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記モータの少なくとも一方で発生した動力を駆動輪に伝達して走行するハイブリッド車両の制御装置であって、車両姿勢が不安定な状態にあると判定されたときに、車両姿勢を安定化するための車両姿勢安定制御を実施する車両姿勢安定制御手段と、前記駆動輪のスリップ率が予め定められた所定値以上になった場合に、前記駆動輪のスリップ率が目標スリップ率となるように前記モータに駆動トルク又は回生トルクを付与して、前記駆動輪のスリップ状態を抑制するスリップ率制御を実施するスリップ率制御手段と、前記車両姿勢安定制御が実施された場合に前記モータの出力トルクを予め設定された第1のモータトルク以下に制限し、前記車両姿勢安定制御の実施中に更に前記スリップ率制御を実施する場合に、該スリップ率制御において前記モータに付与される駆動トルク又は回生トルクを出力可能なように、前記モータの出力トルクの制限を第2のモータトルクに変更するモータトルク制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、車両姿勢安定制御の作動時に制御性のよいモータの出力トルクを第1のモータトルク以下に制限することにより、ハイブリッド車両においてもエンジンを主体とした車両姿勢安定制御が可能となり、エンジンとモータの協調制御を簡素化して簡素な制御ロジックで車両姿勢安定制御を実施可能とすることができる。そして、車両姿勢安定制御の実施中に駆動輪のスリップ率が所定値以上になってスリップ率制御の実施が必要になった場合に限って、スリップ率制御で必要なモータトルクを出力可能になるように、第1のモータトルクによる制限を第2のモータトルクまで緩和することによって、車両姿勢安定制御時においてもスリップ率制御を簡素的な制御ロジックで実施できる。このように本発明では、簡素的な制御ロジックを用いて車両姿勢安定制御とスリップ率制御とを両立させることにより車両挙動を効果的に安定化できる。
【0012】
好ましくは、前記第1のモータトルクはゼロトルクであるとよい。これによれば、車両姿勢安定制御が実施された際にはモータからの出力トルクをゼロに制限することで、エンジンからの出力のみを制御することにより、車両姿勢安定制御をより簡素化することができる。これにより、ハイブリッド車両においても、動力源としてエンジンのみを有する通常の車両に用いられていた制御ロジックを流用することで、容易に車両姿勢安定制御を実施できる。
【0013】
また、前記第2のモータトルクは前記第1のモータトルクより大きく設定されているとよい。これによれば、車両姿勢安定制御の作動中は第1のモータトルクに制限しておくことによってモータからの出力トルクの影響を排除して車両姿勢安定制御の簡素化を図る一方で、スリップ率制御を実施する必要が生じた場合に当該スリップ率制御に必要な分だけの第2のモータトルクの出力を許容することで、車両姿勢安定制御の実施中においても適切にスリップ率制御を実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両姿勢安定制御の作動時に制御性のよいモータの出力トルクを第1のモータトルク以下に制限することにより、ハイブリッド車両においてもエンジンを主体とした車両姿勢安定制御が可能となり、エンジンとモータの協調制御を簡素化して簡素な制御ロジックで車両姿勢安定制御を実施可能とすることができる。そして、車両姿勢安定制御の実施中に駆動輪のスリップ率が所定値以上になってスリップ率制御の実施が必要になった場合に限って、スリップ率制御で必要なモータトルクを出力可能になるように、第1のモータトルクによる制限を第2のモータトルクまで緩和することによって、車両姿勢安定制御時においてもスリップ率制御を簡素的な制御ロジックで実施できる。このように本発明では、簡素的な制御ロジックを用いて車両姿勢安定制御とスリップ率制御とを両立させることにより車両挙動を効果的に安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例に係るハイブリッド車両の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本実施例に係るハイブリッド車両の変速時におけるデュアルクラッチトランスミッションの動作を示す模式図である。
【図3】本実施例に係るハイブリッド車両で実施されるモータトルク制御を示すフローチャート図である。
【図4】スリップ率制御における駆動輪のスリップ率とモータの出力トルクの推移を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0017】
図1は、本実施例に係るハイブリッド車両1の全体構成を概念的に示すブロック図である。ハイブリッド車両1は走行用動力源としてエンジン2及びモータ3を有するハイブリッド電気自動車である。エンジン2及びモータ3の動力は、デュアルクラッチトランスミッション4を介して、所定のギア比でプロペラシャフト5に伝達される。デュアルクラッチトランスミッション4は複数のクラッチを有しており、これらのクラッチの接続状態を切り替えることにより、動力源としてエンジン2、モータ3、或いはエンジン2とモータ3の双方から出力された動力をプロペラシャフト5側に伝達するように構成されている。プロペラシャフト5に伝達された動力は、差動装置6及び駆動軸7を介して駆動輪8が駆動されることにより、ハイブリッド車両1の走行が行われる。
【0018】
エンジン2は、ハイブリッド車両1の動力源の一つとして機能する内燃機関であり、ガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。ガソリンエンジンの場合には燃焼室に直接燃料を噴射する、いわゆる直噴式ガソリンエンジンであってもよい。
【0019】
モータ3は、所定の磁場を発生させるステータ(固定子)と、該ステータによって発生された磁場を横切るように回転するロータ(回転子)とを含んでなる電動機であり、デュアルクラッチトランスミッション4に組み込まれている。モータ3は、インバータ9を介してバッテリ10から供給される電力により力行駆動することにより、駆動トルクを発生させ、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する。またモータ3が回生駆動された場合には、回生エネルギーを発生させることによって発電を行うと共に、制動トルクを発生させて回生ブレーキとしても機能する。尚、モータ3で発電された電力は、インバータ9にて直流変換された後、バッテリ10に充電される。
【0020】
ここで更に図2を参照して、デュアルクラッチトランスミッション4の動作について具体的に説明する。図2は、本実施例に係るハイブリッド車両1の変速時におけるデュアルクラッチトランスミッション4の動作を示す模式図である。尚、図2(a)及び(b)ではそれぞれ、プロペラシャフト5への動力の伝達経路を太く示してある。
【0021】
デュアルクラッチトランスミッション4は、動力を駆動輪8側に伝達するための経路として、第1の動力伝達系4aと第2の動力伝達系4bを有している。図2(a)は第1の動力伝達系4aを介して動力がプロペラシャフト5に伝達される場合を図示している。第1の動力伝達系4aはエンジン2及びモータ3の動力を駆動輪8に伝達可能な動力伝達系であり、エンジン2及びモータ3間に設けられた第1のクラッチ11aと、偶数変速段(2速、4速、6速)を担当する変速ギア群12aとを備えてなる。
【0022】
一方、図2(b)は第2の動力伝達系4bを介して動力がプロペラシャフト5に伝達される場合を図示している。第2の動力伝達系4bはエンジン2の動力を駆動輪8に伝達可能な動力伝達系であり、エンジン2と駆動輪8側との接続状態を切り替えるための第2のクラッチ11bと、奇数変速段(1速、3速、5速)を担当する変速ギア群12bとを備えてなる。
【0023】
図2(a)に示すように、エンジン2及びモータ3の動力が第1の動力伝達系4aを介して駆動輪8側に伝達されている際には第1のクラッチ11aは接続状態にあり、且つ、第2のクラッチ11bは切断状態にある。このとき第2の動力伝達系4bの変速ギア群12bでは、次のタイミングで変速される変速段を予め選択(プレシフト)しておく。
【0024】
また、図2(b)に示すように、エンジン2の動力が第2の動力伝達系4bを介して駆動輪8側に伝達されている際には第2のクラッチ11bが接続状態にあり第1のクラッチ11aは切断状態にあるが、このとき第1の動力伝達系4aの変速ギア群12aでは、次のタイミングで変速される変速段を予め選択(プレシフト)しておく。これにより、デュアルクラッチトランスミッション4では変速動作に要する時間を短縮でき、トルク抜けなどのエネルギーロスを減少できる。このようにハイブリッド車両1は、第1のクラッチ11a及び第2のクラッチ11bの接続状態を交互に接続/切断に切り替えることにより、第1の動力伝達系4a又は第2の動力伝達系4bのいずれかを介して、適切なギアを選択しながら走行する。
【0025】
再び図1に戻って、バッテリ10は、モータ3を力行駆動するための電力を蓄積する二次電池セルからなる蓄電池である。バッテリ10には予め直流電力が充電されており、放電時に出力された直流電力がインバータ9によって交流変換され、モータ3の力行駆動のために消費される。一方、モータ3の回生駆動時には、モータ3で発電した交流電力をインバータ9によって直流変換し、バッテリ10に充電される。
【0026】
尚、バッテリ10の上限充電量及び下限充電量は、バッテリ10を構成する二次電池セルの種類・数などの諸条件により予め規定されている。バッテリの充電量は、上限充電量から下限充電量の範囲内に収まるように電子デバイスによって制御されており、過充電・過放電状態に陥ることを防止することによって、バッテリ10の長寿命化が図られている。
【0027】
また、ハイブリッド車両1には後述するECU14による各種制御を実施するために必要なパラメータを検出するためのセンサ類が設けられている。具体的には図1では図示を省略しているが、車輪速度センサ、ヨーレートセンサ、ステアリングセンサ、横加速度センサ、車速センサなどが設けられている。本実施例では特に、これらのセンサ類からの検出値に基づいて車両挙動が乱れているか否かを総合的に判断して車両姿勢安定制御やスリップ率制御によって車両挙動の安定化が図られている。
【0028】
ブレーキペダル15とアクセルペダル16は踏み込み具合を検出することによって、ドライバーの意思に応じてエンジン2やモータ3の動力、及び、モータ3や機械ブレーキの制動力を制御するために用いられる。
【0029】
ECU14は、ハイブリッド車両1に設けられた各種センサの検出値、ブレーキペダル15やアクセルペダル16などから取得したドライバーからの加減速要求に関する情報(踏み込み量)に基づいて、ハイブリッド車両1の動作全体を制御する電子制御ユニットである。具体的には、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される電子制御ユニットであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されている。例えば、ECU14は上記各種情報に基づいてエンジン2から出力すべきトルクを制御したり、インバータ9を制御することによってモータ3を力行又は回生駆動する。
【0030】
続いて図3を参照して、ハイブリッド車両1で実施されるモータトルク制御について説明する。図3は本実施例に係るハイブリッド車両1で実施されるモータトルク制御を示すフローチャート図である。尚、以下説明するように、モータトルク制御においてECU14は、本発明の「モータトルク制御手段」の一例として機能する。
【0031】
まずECU14は、車両の走行中に車両姿勢安定制御が実施されているか否かを判定する(ステップS101)。車両姿勢安定制御は、例えば旋回時のアンダーステア状態やオーバーステア状態に基づいて、車両に作用するヨーモーメントを打ち消すことによって車両挙動の安定化を図るものであり、ハイブリッド車両1に設けられた車輪速度センサ、ヨーレートセンサ、ステアリングセンサ、横加速度センサ、車速センサ等の各種センサ類から取得したパラメータに基づいて実施される。尚、車両姿勢安定制御の詳細な制御内容については、公知のためここでは詳細な説明は省略することとする。
【0032】
車両姿勢安定制御が作動中である場合(ステップS101:YES)、ECU14はモータ3の出力トルクを第1のモータトルクT1に制限する(ステップS102)。このように車両姿勢安定制御の作動時に制御性のよいモータの出力トルクを第1のモータトルクT1以下に制限することにより、ハイブリッド車両1においてもエンジン2を主体として車両姿勢安定制御を実施可能とすることができ、モータ3との協調制御を簡素化して車両姿勢安定制御の複雑化を回避することができる。
【0033】
本実施例では特に、第1のモータトルクT1はゼロトルクに設定されている。これによれば、車両姿勢安定制御が実施された際にはモータ3からの出力トルクをゼロに制限することで、エンジン2からの出力のみを制御することにより、車両姿勢安定制御をより簡素化できる。これにより、ハイブリッド車両1においても、動力源としてエンジン2のみを有する通常の車両に用いられていた制御ロジックを流用することができるので、容易に車両姿勢安定制御を実施できる。
【0034】
尚、車両姿勢安定制御が作動中でない場合(ステップS101:NO)、モータ3の出力トルクは走行状態に応じて通常通り制御される(ステップS105)。
【0035】
続いて、ECU14は車両姿勢安定制御の作動中にスリップ率制御が作動中であるか否かを判定する(ステップS103)。ここで、図4はスリップ率制御における駆動輪8のスリップ率とモータ3の出力トルクの推移を示すグラフ図である。図4(a)に示すスリップ率Sは、各駆動輪8に設置された車輪速度センサによって検出された車輪速度をECU14にて換算することによって求めた値を使用している。図4(b)に示すモータ出力トルク(第2のモータトルクT2)はECU14によって制御された出力値である。
【0036】
まず、ハイブリッド車両1はドライバーがアクセルペダル16を一定量で踏み込んでいる状態からアクセルペダル16を離して減速を開始した際に、時刻t0で路面が低μ路に差しかかることにより、スリップ率Sが上昇した状況を想定する。スリップ率Sが時刻t0からt1にかけて上昇し、時刻t1で所定閾値S1を超えることによりハイブリッド車両1がスリップ状態に陥ると、スリップ率制御が作動する。このとき、ハイブリッド車両1の駆動輪8がロック傾向を示すので、該ロック傾向を緩和するように、ECU14はモータ3を力行駆動に切替又は回生駆動を減少させる。これによりスリップ率Sが減少し、時刻t2にて所定閾値S1を下回ると、再びモータ3の駆動制御を通常の回生駆動に戻す。時刻t2以降においても、時刻t3〜t4、t5〜6においてスリップ率Sが所定閾値S1より大きくなることによりスリップ状態に陥っているので、上記と同様にモータ3の出力トルクをECU14によって制御することにより、車両挙動の回復が図られている。
【0037】
車両姿勢安定制御の作動中にスリップ率制御が作動中である場合(ステップS103:YES)、ステップS102にて第1のモータトルクT1に設定されたモータ3の出力トルクの制限値を、スリップ率制御を実施可能にするため、図4(b)に示す第2のモータトルクT2に変更する(ステップS104)。このようにスリップ率制御が作動中である場合に限って、スリップ率制御に必要な第2のモータトルクT2を出力可能なように、第1のモータトルクT1による制限を緩和することによって、車両姿勢安定制御の実施時においてもスリップ率制御を実施することができる。これにより、車両姿勢安定制御の簡素化を図りつつ、スリップ率制御と両立させて実施可能とすることができ、車両挙動を効果的に安定化できる。
【0038】
この第2のモータトルクT2は第1のモータトルクT1(本実施例ではゼロに設定)より大きく設定されている。これにより、車両姿勢安定制御の作動中は第1のモータトルクT1に制限しておくことによってモータ3からの出力トルクの影響を排除して車両姿勢安定制御の簡素化を図る一方で、スリップ率制御が作動中であった場合に当該スリップ率制御に必要な分だけの第2のモータトルクT2の出力を許容することで、車両姿勢安定制御の作動中においても適切にスリップ率制御を実施することができる。そのため、この第2のモータトルクT2は、駆動輪8のスリップ率を目標スリップ率に制御することによって駆動輪8をスリップ状態から回復させるために、モータ8から出力されるべき駆動トルク又は回生トルクとして設定されているとよい。
【0039】
尚、車両姿勢安定制御の作動中にスリップ率制御が作動中でない場合(ステップS103:NO)、ステップS102にて第1のモータトルクT1に設定されたモータ3の出力トルクの制限値にモータ3の出力トルクを制限して制御を終了する。
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、車両姿勢安定制御の作動時に制御性のよいモータ3の出力トルクを第1のモータトルクT1以下に制限することにより、ハイブリッド車両1においてもエンジン2を主体とした車両姿勢安定制御が可能となり、モータ3との協調制御を簡素化して車両姿勢安定制御の複雑化を回避することができる。そして、駆動輪8のスリップ率が所定値以上となることによりスリップ率制御を実施する必要が生じた場合に限って、スリップ率制御において必要なモータトルクを出力可能なように、第1のモータトルクT1による制限を第2のモータトルクT2まで緩和することによって、車両姿勢安定制御時においてもスリップ率制御を実施可能とすることができる。これにより、車両姿勢安定制御の簡素化を図りつつ、車両姿勢安定制御とスリップ率制御を両立させて実施可能とすることにより、車両挙動を効果的に安定化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、エンジン及びモータの少なくとも一方から出力された動力を変速機を介して駆動輪に伝達することにより走行を行うハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【符号の説明】
【0042】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 モータ
4 デュアルクラッチトランスミッション
4a 第1の動力伝達系
4b 第2の動力伝達系
5 プロペラシャフト
6 差動装置
7 駆動軸
8 駆動輪
9 インバータ
10 バッテリ
11a 第1のクラッチ
11b 第2のクラッチ
12a 偶数変速段
12b 奇数変速段
14 ECU(車両挙動安定制御手段、スリップ率検出手段、モータトルク制御手段)
15 ブレーキペダル
16 アクセルペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及びモータ間にクラッチが設けられ、前記エンジン及び前記モータの少なくとも一方で発生した動力を駆動輪に伝達して走行するハイブリッド車両の制御装置であって、
車両姿勢が不安定な状態にあると判定されたときに、車両姿勢を安定化するための車両姿勢安定制御を実施する車両姿勢安定制御手段と、
前記駆動輪のスリップ率が予め定められた所定値以上になった場合に、前記駆動輪のスリップ率が目標スリップ率となるように前記モータに駆動トルク又は回生トルクを付与して、前記駆動輪のスリップ状態を抑制するスリップ率制御を実施するスリップ率制御手段と、
前記車両姿勢安定制御が実施された場合に前記モータの出力トルクを予め設定された第1のモータトルク以下に制限し、前記車両姿勢安定制御の実施中に更に前記スリップ率制御を実施する場合に、該スリップ率制御において前記モータに付与される駆動トルク又は回生トルクを出力可能なように、前記モータの出力トルクの制限を第2のモータトルクに変更するモータトルク制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1のモータトルクはゼロトルクであることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記第2のモータトルクは前記第1のモータトルクより大きく設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−63722(P2013−63722A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204277(P2011−204277)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】