説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジンと電動機とを備えるハイブリッド車両において、アクセルペダル戻し時に発生する歯打ち音を抑制できる制御装置を提供する。
【解決手段】アクセルペダル41の戻し時という過渡的な状況でガラ音抑制ラインLGRへの移行の必要性を判断して、ガラ音抑制ラインLGRへ移行するため、エンジン回転速度Neが低下して再度上昇させる必要もなくなり、エンジン14の応答性もよくなってガラ音抑制ラインLGRへの移行時間も短縮されるので、歯打ち音の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、歯打ち音の抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと電動機とを備え、モータ走行とエンジン走行とを実施可能なハイブリッド車両がよく知られている。例えば特許文献1に記載の車両がその一例である。特許文献1に記載の車両1は、エンジンと、そのエンジンからの動力を駆動輪へ出力し第1電動機により差動状態が制御される差動機構と、駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機とを有し、第2電動機によるモータ走行と、エンジンによるエンジン走行とを可能としている。特許文献1には、第2電動機のトルクが実質的に零になる場合は、エンジンの運転点を変更し第2電動機のトルクを零以外に設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−254434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1において、第2電動機のトルクが所定範囲内となると、エンジンの回転速度(エンジン回転速度)を変化させている。そのため、アクセルペダルの急戻し時にはエンジン回転速度の低下後、電動機のトルクが所定範囲内となり、エンジン回転速度を再度上昇させるため、エンジン回転速度の追従性が悪くなる。従って、エンジンの運転点が歯打ち音発生領域に入ってしまうことで、歯打ち音が発生する可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンと電動機とを備え、モータ走行とエンジン走行とが可能なハイブリッド車両において、アクセルペダル戻し時に発生する歯打ち音を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)駆動源としてエンジンおよび電動機を備え、専らその電動機を駆動源とするモータ走行とエンジンを駆動源とするエンジン走行とを実施可能であって、前記エンジンの運転点として、予め定められた通常動作ラインとその通常動作ラインよりも高回転側に設定されてエンジン駆動中に発生する歯打ち音を抑制するガラ音抑制ラインとを予め記憶し、そのエンジンの運転点を車両の走行状態に応じて前記通常動作ラインと前記ガラ音抑制ラインとに切り替えるハイブリッド車両の制御装置において、(b)アクセルペダル戻し状態に基づいてそのアクセルペダル戻し後の前記エンジンの運転点を前記ガラ音抑制ラインに移行する必要があると予測される場合には、前記エンジンを前記通常動作ラインに沿って運転させることなく、その通常動作ライン上から離れて前記ガラ音抑制ライン上に移行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、アクセルペダル戻し状態という過渡的な状況でガラ音抑制ラインへの移行の必要性を予測的に判断して、ガラ音抑制ライン上へ移行するため、エンジン回転速度が低下して再度上昇させることもなくすことができ、ガラ音抑制ライン上への移行時間も短縮されるので、歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0008】
また、好適には、前記アクセルペダル戻し状態に基づいて、所定時間経過後には前記ガラ音抑制ラインへの移行が必要であると予測される場合には、前記所定時間経過後において前記エンジンが前記ガラ音抑制ラインに基づいて運転された場合のエンジンの運転点を算出し、そのエンジンを前記ガラ音抑制ラインに基づいて算出された前記運転点に向かって直接移行させる。このようにすれば、ガラ音抑制ライン上へ速やかに移行されるので、ガラ音抑制ラインへの移行時間が短くなって歯打ち音の発生が抑制される。
【0009】
また、好適には、前記アクセルペダル戻し状態に基づいて、所定時間経過後には前記ガラ音抑制ラインへの移行が必要であると予測される場合には、前記エンジンの回転速度の低下率にガード値を設定する。このようにすれば、エンジンの回転速度の低下が抑制され、エンジンの回転速度が不要に変動することも抑制されるので、ガラ音抑制ライン上への移行時間が短くなって歯打ち音の発生が抑制される。
【0010】
また、好適には、前記所定時間は、エンジン水温、蓄電装置の充電容量、電動機温度に基づいて設定される。このようにすれば、エンジンの応答性に関係するエンジン水温、蓄電装置の充電容量、電動機温度に基づいて最適な所定時間を設定することができ、燃費性に優れる通常動作ライン上でエンジンを運転させる時間を少しでも長くして、燃費性の低下を抑制することができる。
【0011】
また、好適には、前記エンジンからの動力を第1電動機および出力回転部材へ分配する差動機構と、その出力回転部材に動力伝達可能に連結された第2電動機とを有し、前記第1電動機の運転状態が制御されることにより前記差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備える。このようにすれば、第1電動機の運転状態を制御することにより、エンジンの運転点を容易に変更することができる。
【0012】
また、好適には、前記アクセルペダル戻し状態に基づいて、前記ガラ音抑制ラインへの移行が間に合わないと判断される場合には、前記第2電動機のトルクの減少率を通常よりも緩やかにする。このようにすれば、歯打ち音は第2電動機のトルクが減少するに従って大きくなる傾向にあるので、第2電動機のトルクの減少率を通常よりも緩やかにすることで、歯打ち音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用される車両用駆動装置を説明するための骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置を制御するための制御装置として機能する電子制御装置に入力される信号及びその電子制御装置から出力される信号を例示した図であると共に、その電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
【図3】図1の車両用駆動装置において、アクセルペダルを踏み込んだ状態から素早く戻したときの挙動を示すタイムチャートである。
【図4】図1のエンジンの運転点が最適燃費ラインからガラ音抑制ラインに移行する状態を説明する図である。
【図5】図2の電子制御装置の制御作動の要部、すなわちアクセルペダルが踏み戻される過渡期に発生する歯打ち音を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施例である電子制御装置の制御作動の要部、すなわちアクセルペダルが踏み戻される過渡期に発生する歯打ち音を抑制する制御作動を説明するための他のフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施例である、アクセルペダルを踏み込んだ状態から素早く戻したときの挙動を示すタイムチャートである。
【図8】エンジンの運転点が最適燃費ラインからガラ音抑制ラインに移行する状態を説明する他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで、好適には、前記通常動作ラインとは、一般に運転性能と燃費性能とを両立するように予め実験的に設定されるエンジンの最適燃費ラインに対応する。また、ガラ音抑制ラインは、前記通常動作ラインよりも高回転速度側に設定されてエンジン駆動中の歯打ち音を抑えることができるエンジン運転ラインに対応している。
【0015】
また、好適には、歯打ち音とは、エンジンのトルク変動に起因する、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路を構成する各噛合歯車同士の衝突によって生じる音(ガラ音)に相当する。
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両6の一部である車両用駆動装置8を説明するための骨子図である。図1に示すように、車両用駆動装置8は、走行用の動力を出力するエンジン14と、そのエンジン14と駆動輪40(図2参照)との間に介装された車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」という)とを備えている。動力伝達装置10はエンジン14からの駆動力を駆動輪40に伝達するトランスアクスルである。そして、動力伝達装置10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスル(T/A)ケース12(以下、「ケース12」という)内において、エンジン14側から順番に、そのエンジン14の出力軸15(例えばクランク軸)に作動的に連結されてエンジン14からのトルク変動等による脈動を吸収するダンパー16、そのダンパー16を介してエンジン14によって回転駆動させられる入力軸18、第1電動機MG1、動力分配機構として機能する第1遊星歯車装置20、減速装置として機能する第2遊星歯車装置22、および、出力歯車24(駆動輪40)に動力伝達可能に連結された第2電動機MG2を備えている。
【0018】
この動力伝達装置10は、例えば前輪駆動すなわちFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型のハイブリッド車両6の前方に横置きされ、駆動輪40を駆動するために好適に用いられるものである。動力伝達装置10では、エンジン14の動力がカウンタギヤ対32(図2参照)の一方を構成する動力伝達装置10の出力回転部材としての出力歯車24からカウンタギヤ対32、ファイナルギヤ対34、差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸38等を順次介して一対の駆動輪40へ伝達される(図2参照)。図1に示されているように、車両用駆動装置8はトルクコンバータのような流体伝動装置を備えていない。
【0019】
入力軸18は、両端がボールベアリング26および28によって回転可能に支持されており、一端がダンパー16を介してエンジン14に連結されることでエンジン14により回転駆動させられる。また、他端には潤滑油供給装置としてのオイルポンプ30が連結されており入力軸18が回転駆動されることによりオイルポンプ30が回転駆動させられて、動力伝達装置10の各部例えば第1遊星歯車装置20、第2遊星歯車装置22、ボールベアリング26、および28等に潤滑油が供給される。
【0020】
第1遊星歯車装置20は、エンジン14と駆動輪40との間の動力伝達経路の一部を構成しており、エンジン14からの動力を駆動輪40へ出力する差動機構である。具体的に、第1遊星歯車装置20は、シングルピニオン型の遊星歯車装置であり、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、その第1ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、および、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1遊星歯車装置20のギヤ比ρ0は、第1サンギヤS1の歯数をZS1とし第1リングギヤR1の歯数をZR1とすれば、「ρ0=ZS1/ZR1」で算出される。
【0021】
そして、第1遊星歯車装置20は、入力軸18に伝達されたエンジン14の動力を第1電動機MG1および出力歯車24へ機械的に分配する機械的な動力分配機構であって、エンジン14の出力を第1電動機MG1および出力歯車24に分配する。つまり、この第1遊星歯車装置20においては、第1回転要素としての第1キャリヤCA1は入力軸18すなわちエンジン14に連結され、第2回転要素としての第1サンギヤS1は第1電動機MG1に連結され、第3回転要素としての第1リングギヤR1は出力歯車24すなわちその出力歯車24に作動的に連結された駆動輪40に連結されている。これより、第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1は、それぞれ相互に相対回転可能となることから、エンジン14の出力が第1電動機MG1および出力歯車24に分配されると共に、第1電動機MG1に分配されたエンジン14の出力で第1電動機MG1が発電され、その発電された電気エネルギが蓄電されたりその電気エネルギで第2電動機MG2が回転駆動されるので、動力伝達装置10は、例えば無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、第1遊星歯車装置20の差動状態が第1電動機MG1により制御されることにより、エンジン14の所定回転に拘わらず出力歯車24の回転が連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。また、第1遊星歯車装置20では、第1電動機MG1が無負荷状態とされて空転させられることで第1キャリヤCA1と第1リングギヤR1との間の動力伝達が遮断されるので、第1遊星歯車装置20は、エンジン14と駆動輪40との間の動力伝達を遮断可能な動力伝達遮断装置としても機能する。また、第1遊星歯車装置20、第1電動機MG1、および第2電動機MG2を含んで本発明の電気式差動部21が構成される。
【0022】
第2遊星歯車装置22は、シングルピニオン型の遊星歯車装置である。第2遊星歯車装置22は、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、その第2ピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、および、第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を回転要素として備えている。なお、第1遊星歯車装置20のリングギヤR1および第2遊星歯車装置22のリングギヤR2は一体化された複合歯車となっており、その外周部に出力歯車24が設けられている。
【0023】
この第2遊星歯車装置22においては、第2キャリヤCA2は非回転部材であるケース12に連結されることで回転が阻止され、第2サンギヤS2は第2電動機MG2に連結され、第2リングギヤR2は出力歯車24に連結されている。すなわち、第2電動機MG2は出力歯車24と第1遊星歯車装置20のリングギヤR1とに第2遊星歯車装置22を介して連結されている。これにより、例えば発進時などは第2電動機MG2が回転駆動することにより、第2サンギヤS2が回転させられ、第2遊星歯車装置22によって減速させられて出力歯車24に回転が伝達されるモータ走行が可能となる。
【0024】
本実施例の第1電動機MG1及び第2電動機MG2は何れも、発電機能をも有する所謂モータジェネレータである。第1電動機MG1及び第2電動機MG2はそれぞれインバータ58(図2参照)を介して蓄電装置59に電気的に接続されており、第1電動機MG1と第2電動機MG2と蓄電装置59とは相互に電力授受可能な構成となっている。差動用電動機として機能する第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備えている。また、走行用電動機として機能する第2電動機MG2はハイブリッド車両6の駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備えており、駆動輪40へ走行用の動力を出力する。上記蓄電装置59は、例えば、鉛蓄電池などのバッテリ(二次電池)又はキャパシタなどであって、第1電動機MG1及び第2電動機MG2に電力を供給し且つそれらの各電動機MG1,MG2から電力の供給を受けることが可能な電気エネルギ源である。
【0025】
上述のように構成された車両用駆動装置8では、電子制御装置80(図2参照)は、例えば、キーがキースロットに挿入された後、フットブレーキ45が操作された状態でパワースイッチが操作されることにより制御が起動されると、運転者の要求出力に対応するアクセルペダル41(図2参照)の操作量であるアクセル開度(アクセル操作量)Accに基づいてその運転者の要求出力を算出し、燃費が良く排ガス量の少ない運転となるようにエンジン14および/または第2電動機MG2から要求出力を発生させる。例えば、電子制御装置80は、エンジン14を停止し専ら第2電動機MG2を駆動源とするモータ走行モード、エンジン14の動力で第1電動機MG1により発電を行いながら第2電動機MG2を駆動源として走行する充電走行モード(シリーズHV走行モード)、エンジン14を駆動源としてエンジン14の動力を機械的に駆動輪40に伝えて走行するエンジン走行モード等を、走行状態に応じて切り換える。そのエンジン走行モードでは、エンジン14と共に第2電動機MG2も必要に応じて駆動状態とされて第2電動機MG2がアシストトルクを出力することがある。なお、例えば、燃費とは単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率が大きくなることである。
【0026】
また、電子制御装置80は、上記エンジン走行モードでは、エンジン14が例えば最適燃費ラインL_STD等の予め定められた動作曲線上で作動するように第1電動機MG1によってエンジン14の回転速度Ne(以下、エンジン回転速度Neという)を制御する。このとき、電子制御装置80は、エンジン回転速度Neの制御及び第1電動機MG1の発電量の制御に伴い、第1遊星歯車装置20の変速比γ0(=入力軸18の回転速度/出力歯車24の回転速度)をその変速可能な変化範囲内で無段階に制御する。すなわち、第1電動機MG1により第1遊星歯車装置20の差動状態を連続的に制御する。さらに、コースト走行時には車両6の有する慣性エネルギーで第2電動機MG2を回転駆動することにより電力として回生し、蓄電装置59にその電力を蓄える。なお、エンジン14は基本的には上記最適燃費ラインL_STD上で運転させられるが、歯打ち音が発生するとされる歯打ち音発生領域に入るとその最適燃費ラインL_STDとは異なる動作曲線であるガラ音抑制ラインLGR上で運転させられる。その最適燃費ラインL_STD(本発明の通常動作ラインに対応)は、エンジン14を動作させる基準となり通常使用される通常動作ラインであって、運転性能と燃費性能とを両立するように予め実験的に設定されたものである。なお、ガラ音抑制ラインLGRは、歯打ち音の発生を回避するためのエンジン14の動作ラインであって、最適燃費ラインL_STDに比べて高回転側であって、最適燃費ラインL_STDに比べて低トルク側に設定されている。
【0027】
また、後進走行は、例えば、第2電動機MG2を逆方向へ回転駆動することによって達成される。このとき、電子制御装置80は、第1電動機MG1は空転状態として、エンジン14の作動状態に関係なく出力歯車24が逆回転することを許容する。
【0028】
また、電子制御装置80は、前記モータ走行モードでは、エンジン14の運転を停止した状態で蓄電装置59からの電力により第2電動機MG2を駆動してその第2電動機MG2のみを車両6の駆動力源とする。このモータ走行モードでは、運転を停止しているエンジン14の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、例えば第1電動機MG1を無負荷状態とすることにより空転させて、第1遊星歯車装置20の差動作用によりエンジン回転速度Neを零乃至略零に維持する。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14の運転が単に停止させられるだけではなく、エンジン14の回転も停止させられる。
【0029】
図2は、本実施例の車両用駆動装置8を制御するための制御装置として機能する電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示した図であると共に、電子制御装置80に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン14、第1電動機MG1、第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御等の車両制御を実行するものである。
【0030】
電子制御装置80には、図2に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン14のシリンダブロックに設けられたエンジン水温センサ51からのエンジン水温TEMPwを表す信号、エンジン回転速度Neを表すエンジン回転速度センサ50からの信号、出力歯車24の回転速度Nout(以下、「出力回転速度Nout」という)に対応する車速Vを表す車速センサ52からの信号、常用ブレーキであるフットブレーキ45の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ46からのフットブレーキ操作Bonを表す信号、運転者の要求出力に対応するアクセルペダル41の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度センサ42からの信号、電子スロットル弁72のスロットル開度θthを表すスロットル弁開度センサ43からの信号、第1電動機回転速度センサ53からの第1電動機MG1の回転速度Nmg1(以下、「第1電動機回転速度Nmg1」という)を表す信号、第2電動機回転速度センサ54からの第2電動機MG2の回転速度Nmg2(以下、「第2電動機回転速度Nmg2」という)を表す信号、蓄電装置59の充電容量(充電残量)SOCを表す信号、シフトレバーの操作位置(操作ポジション)POPEを検出する為の位置センサであるレバー操作位置センサ48からの操作ポジションPOPEに応じたシフトレバー位置信号、電動機温度センサ55からの第1電動機MG1の電動機温度TEMPmを表す信号等が、それぞれ供給される。
【0031】
また、電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御のための制御信号例えばエンジン14の吸気管に備えられた電子スロットル弁72のスロットル開度θthを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置による吸気管或いはエンジン14の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置によるエンジン14の点火時期を指令する点火信号、各電動機MG1,MG2の作動を指令する指令信号等が、それぞれ出力される。
【0032】
本実施例では、基本的にはエンジン14の動作点が前記最適燃費ラインL_STD(図4参照)上に位置するようにエンジン14が駆動されるが、エンジン駆動中に歯打ち音が発生しやすくなる歯打ち音発生領域となると、前記最適燃費ラインL_STD上のエンジン動作点と比較してエンジン回転速度Neを高くすることでエンジン駆動中の歯打ち音を抑えるガラ音抑制ラインLGR(図4参照)上にエンジン14の運転点が切り替えられる。なお、ガラ音抑制ラインLGRは予め実験的に求められ、歯打ち音が発生しやすいエンジン14の運転点を回避するように設定されている。
【0033】
ところで、従来の最適燃費ラインL_STDからガラ音抑制ラインLGRへの切替は、第2電動機MG2の実トルクTmg2を逐次検出し、その実トルクTmg2が予め設定されている閾値α以下となるとガラ音抑制ラインLGRへ切り替えられていた。歯打ち音発生の判断を第2電動機MG2のトルクTmg2を用いて判断するのは、歯打ち音は、エンジン14のトルク変動の大きさと、第2電動機MG2のトルクTmg2とに影響されるためである。歯打ち音は、エンジン14のトルク変動が大きくなるに従って大きくなり、第2電動機MG2のトルクTmg2が大きくなるに従って小さくなる傾向にある。従って、エンジン14のトルク変動が比較的大きい領域であっても、第2電動機MG2のトルクTmg2が大きいと歯打ち音は小さくなるので、ガラ音抑制ラインLGRへの切替を、第2電動機MG2のトルクTmg2に基づいて判断することができる。前記閾値αは、予め実験的に求められて記憶されており、歯打ち音が運転者に伝達されない程度の最適な値に設定されている。
【0034】
ここで、例えばアクセルペダル41を踏み込んだ状態で素早く戻した場合、従来では第2電動機MG2のトルクTmg2の大きさに基づいて最適燃費ラインL_STDからガラ音抑制ラインLGRへの移行を判断しているため、ガラ音抑制ラインへの移行が第2電動機MG2のトルクTmg2の減少に対して遅れが生じるに従い、歯打ち音が発生する可能性がある。
【0035】
図3は、アクセルペダル41を踏み込んだ状態から素早く戻したときの挙動を示すタイムチャートである。t1時点において、アクセルペダル41が素早く踏み戻されると、t2時点において第2電動機MG2のトルクTmg2の低下制御が開始される。このとき、実線で示すエンジン回転速度Neの目標値Ne*に追従するように、破線で示すエンジン回転速度Ne(実エンジン回転速度Ne)が低下するが、エンジン14の応答性に関連して追従遅れが生じる。そして、t3時点において第2電動機MG2のトルクTmg2が閾値αとなると、最適燃費ラインL_STDからガラ音抑制ラインLGRへの移行が判断される。
【0036】
ここで、ガラ音抑制ラインLGRで設定されるエンジン動作点は、一般に最適燃費ラインL_STDよりもエンジン回転速度Neが高いので、目標値Ne*が再度上昇する。エンジン回転速度Neは、目標値Ne*に対して追従遅れが生じるため、t3’時点においてエンジン回転速度Neの上昇が開始される。t4時点では目標値Ne*がガラ音抑制ラインLGRの動作点となる。エンジン回転速度Neは、目標値Ne*に対して追従遅れが生じるため、t4’時点においてエンジン回転速度Neがガラ音抑制ラインLGRへ移行する。
【0037】
このように、エンジン回転速度Neの目標値Ne*と実際のエンジン回転速度Neとの間にはエンジン14の応答性に関連して追従遅れが生じ、その分だけガラ音抑制ラインLGRへの移行にも追従遅れが生じるため、歯打ち音が発生しやすくなる。特に、ガラ音抑制ラインLGRのエンジン回転速度Neは、最適燃費ラインL_STDのエンジン回転速度Neよりも高いため、図3に示すように、エンジン回転速度Neが一度低下した後、再度上昇することとなるので、さらに追従遅れが顕著となって歯打ち音が発生しやすくなる。これに対して、例えば第2電動機MG2のトルクTmg2の閾値αをさらに高い値に設定するなどすると、余裕を持ってガラ音抑制ラインLGRへ移行するので歯打ち音の発生は抑制されるが、エンジン14が最適燃費ラインL_STDから外れる時間が長くなるので燃費が悪化してしまう。本実施例では、後述する制御を行うことで、燃費悪化を抑制しつつ歯打ち音の発生を抑制する。
【0038】
図2に戻り、電子制御装置80は、エンジン制御部としてのエンジン制御手段90と、歯打ち音領域予測部としての歯打ち音領域予測手段92と、所定時間設定部としての所定時間設定手段94とを、備えている。
【0039】
エンジン制御手段90は、最適燃費ラインL_STD上(図4参照)においてアクセル開度Accや車速Vで算出される目標エンジン出力Pe*が得られる目標エンジン動作点を逐次決定し、その目標エンジン動作点が示すエンジン回転速度NeおよびエンジントルクTeをそれぞれ目標エンジン回転速度Ne*および目標エンジントルクTe*として逐次決定する。そして、エンジン制御手段90は、その目標エンジントルクTe*がエンジン14から出力されるようにスロットル開度θthを逐次調節すると共に、エンジン回転速度Neがその目標エンジン回転速度Ne*に一致するように第1電動機MG1により第1遊星歯車装置20の差動状態を逐次制御する。但し、エンジン制御手段90は、エンジン14の駆動状態が歯打ち音発生領域にある場合には、前記最適燃費ラインL_STDに替えてガラ音抑制ラインLGR(図4参照)から目標エンジン動作点を決定する。なお、図4は、予め設定されている公知であるエンジン14の運転点を決定するためのエンジン回転速度NeおよびエンジントルクTeからなる2次元マップであり、図4に示す走行性および燃費性に優れる最適燃費ラインL_STD、および歯打ち音を抑制するガラ音抑制ラインLGRは予め実験的に求められて電子制御装置80に記憶されている。
【0040】
歯打ち音領域予測手段92は、アクセルペダル41の踏み戻し状態に基づいて、予め設定されている所定時間ta経過後(アクセルペダル踏み戻し後)に、エンジン14の運動点が歯打ち音が発生する領域に入るか否かを逐次予測(判断)する。なお、歯打ち音領域予測手段92は、アクセルペダル41の踏み戻しが開始されると逐次実施される。歯打ち音領域予測手段92は、所定時間ta経過後における第2電動機MG2のトルクTmg2を、アクセル開度Accの変化率ΔAccや要求駆動力Fの変化率ΔFに基づいて予測し、その予測されたトルクTmg2の大きさから所定時間ta経過後に歯打ち音発生領域に入るか否かを判断する。
【0041】
歯打ち音領域予測手段92は、アクセル開度Accの変化率ΔAccから所定時間ta経過後の予測アクセル開度Acc*を逐次算出する。また、歯打ち音領域予測手段92は、その予測アクセル開度Acc*および車速Vから、予め設定されているアクセル開度Accと車速Vから成るマップや計算式に基づいて、所定時間ta経過後の予測要求駆動力F*を逐次算出する。或いは、要求駆動力Fの変化率ΔFに基づいて、所定時間ta経過後の予測要求駆動力F*を逐次算出する。歯打ち音領域予測手段92は、算出された予測要求駆動力F*に基づいて、所定時間ta経過後においてその予測要求駆動力F*を実現させるためのエンジン14の目標エンジン出力Pe*および第2電動機MG2の目標トルクTmg2*を逐次決定し、決定された目標トルクTmg2*が予め設定されている閾値α以下であるか否かを逐次判断する。歯打ち音領域予測手段92は、目標トルクTmg2*が閾値α以下である場合には、所定時間ta経過後に歯打ち音発生領域に入る、すなわちガラ音抑制ラインLGRへの移行が必要であるものと予測(判断)する。
【0042】
ここで、所定時間taは、所定時間設定手段94によって逐次設定される。所定時間決定手段94は、エンジン14のエンジン水温TEMPw、第1電動機MG1の電動機温度TEMPm、および蓄電装置59の充電残量(充電状態)SOCに基づいて、最適な所定時間taを設定する。所定時間決定手段94は、例えばこれらエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCで構成される、予め実験的に求められている所定時間taを求めるためのマップを記憶しており、実際に検出されたエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCに基づいて最適な所定時間taを決定する。
【0043】
所定時間taは、少しでも長い間エンジン14を最適燃費ラインL_STD上で運転させるのが好ましいため、短い値となるのが好ましいが、エンジン14の応答性が悪くなると、その所定時間ta経過後の予測値と実際の値との乖離が大きくなる。従って、エンジン14の応答性に関連するエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCに基づいて最適な値に設定される。例えばエンジン水温TEMPwが低温となるとエンジン14の応答性は低下する。これより、所定時間taは、エンジン水温TEMPwが低下するに従って大きくなる。また、第1電動機MG1は、エンジン回転速度Neを制御するが、第1電動機MG1の電動機温度TEMPmが低温または高温状態となると第1電動機MG1の作動制が低下し、結果として、エンジン14の応答性が低下する。これより、所定時間taは、電動機温度TEMPmが低温または高温状態となると、大きな値となるように設定されている。また、蓄電装置59の充電容量SOCが低下すると、第1電動機MG1および第2電動機MG2への供給電力が制限されるので、エンジン回転速度Neを制御する第1電動機MG1の作動性が低下する。これより、所定時間taは、充電容量SOCが低下するに従って、大きな値となるように設定されている。
【0044】
上記マップによる決定の他、エンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCをパラメータとする計算式によって決定するものであっても構わない。例えば、エンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOC毎に求められる係数(β1〜β3)マップを予め記憶しており、検出された実際のエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCを参照して各係数(β1〜β3)を決定し、予め設定されている基準となる基準所定時間ta*に前記係数(β1〜β3)を乗算することで、所定時間taを決定する。なお、各係数(β1〜β3)は、エンジン14の応答性が悪くなるにつれて大きくなる、すなわち所定時間taが大きくなるように設定されている。
【0045】
エンジン制御手段90は、歯打ち音領域予測手段92によって、エンジン14の運転点が所定時間ta後に歯打ち音発生領域に入る、すなわちガラ音抑制ラインLGRに移行する必要があるものと予測すると、エンジン14を最適燃費ラインL_STDに沿って運転させることなく、最適燃費ラインL_STD上から離れてガラ音抑制ラインLGRに移行させる。具体的には、エンジン制御手段90は、歯打ち音領域予測手段92によって算出された所定時間ta経過後の目標エンジン出力Pe*および、図4の破線で示すガラ音抑制ラインLGRに基づいて、ガラ音抑制ラインLGRで運転させた場合のエンジン14のエンジン回転速度Ne*およびエンジントルクTe*(運転点)を算出し、エンジン14の運転点を算出されたエンジン回転速度Ne*およびエンジントルクTe*(運転点)に向かって直接移行させる。具体的には、図3および図4の太矢印で示すように、エンジン14および第1電動機MG1を制御することによって、エンジン14の運転点をガラ音抑制ラインLGR上に位置する所定時間ta経過後のエンジン14の運転点Bに直接移行させる。このように制御されると、従来のようにエンジン回転速度Neが低下させた後再び上昇させることもないので、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなり、歯打ち音の発生が抑制されることとなる。
【0046】
また、エンジン制御手段90は、例えばガラ音抑制ラインLGRへ移行するに際して、エンジン14の応答性低下等からその移行が間に合わない、すなわち歯打ち音発生領域に入る可能性があると判断される場合には、第2電動機MG2のトルクTmg2の低下率(低下レート)を通常よりも緩やかにすることで歯打ち音の発生を抑制する。歯打ち音は第2電動機MG2のトルクTmg2が低下すると発生しやすくなるので、予め第2電動機MG2のトルクTmg2の低下率を通常よりも緩やかにすれば、トルクTmg2の低下が抑制されて歯打ち音の発生が抑制される。エンジン制御手段90は、例えば第2電動機MG2のトルクTmg2の低下率に上限値を設定するなどして、トルクTmg2の低下を緩やかにする。
【0047】
図5は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわち、アクセルペダル41が踏み戻される過渡期に発生する歯打ち音を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図5のフローチャートは、エンジン14が最適燃費ラインL_STD上で運転している状態で、アクセルペダル41が踏み戻された場合に実行される。
【0048】
先ず、所定時間決定手段94に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、エンジン14の応答性を考慮した最適な所定時間taが設定される。次いで、歯打ち音領域予測手段92に対応するSA2において、所定時間ta経過後において歯打ち音発生領域に入るか否かが予測される。SA2が否定される場合、本ルーチンは終了させられる。SA2が肯定される場合、エンジン制御手段90に対応するSA3において、エンジン14の動作点が直接ガラ音抑制ラインLGR上に移行される。従って、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなり、歯打ち音の発生が抑制される。
【0049】
上記フローチャートに基づく作動について図3、図4を用いて説明すると、図3に示すt1時点においてアクセルペダル41が素早く踏み戻されると、歯打ち音領域予測手段92が実行され、t2時点において第2電動機MG2のトルクTmg2の低下制御が開始される。また、t2時点において所定時間ta経過後において歯打ち音発生領域に入ることが予測されると、所定時間ta経過後(図3のt4時点に対応)のガラ音抑制ラインLGRに基づくエンジン14の運動点が算出され、太矢印で示すように、エンジン14の動作点がそのガラ音抑制ラインLGRに基づいて算出された動作点に直接移行される。この図3のタイムチャートに基づくと図4の太矢印で示すように、エンジン14の運転点が、運転点Aから運転点Bに直接移行される。これより、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなり、歯打ち音の発生が抑制される。
【0050】
上述のように、本実施例によれば、アクセルペダル41の戻し状態という過渡的な状況でガラ音抑制ラインLGRへの移行の必要性を予測的に判断して、ガラ音抑制ラインLGR上へ移行するため、エンジン回転速度Neが低下して再度上昇させることもなくすことができ、ガラ音抑制ラインLGR上への移行時間も短縮されるので、歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0051】
また、本実施例によれば、アクセルペダル41の戻し状態に基づいて、所定時間ta経過後にはガラ音抑制ラインLGRへの移行が必要であると予測される場合には、所定時間ta経過後においてエンジン14がガラ音抑制ラインLGRに基づいて運転された場合のエンジン14の運転点を算出し、エンジン14をガラ音抑制ラインLGRに基づいて算出される運転点に向かって直接移行させるため、ガラ音抑制ラインLGR上への移行時間が短くなって歯打ち音の発生が抑制される。
【0052】
また、本実施例によれば、所定時間taは、エンジン水温TEMPw、蓄電装置59の充電容量SOC、電動機温度TEMPmに基づいて設定される。このようにすれば、エンジン14の応答性に関係するエンジン水温TEMPw、蓄電装置59の充電容量SOC、電動機温度TEMPwに基づいて最適な所定時間taを設定することができ、燃費性に優れる最適燃費ラインL_STDでエンジン14を運転させる時間を少しでも長くして、燃費性の低下を抑制することができる。
【0053】
また、本実施例によれば、エンジン14からの動力を第1電動機MG1および出力歯車24へ分配する第1遊星歯車装置20と、その出力歯車24に動力伝達可能に連結された第2電動機MG2とを有し、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより第1遊星歯車装置20の差動状態が制御される電気式差動部21を備える。このようにすれば、第1電動機MG1の運転状態を制御することにより、エンジン14の運転点を容易に変更することができる。
【0054】
また、本実施例によれば、アクセルペダル41戻し状態に基づいて、ガラ音抑制ラインLGRへの移行が間に合わないと判断される場合には、第2電動機MG2のトルクTmg2の減少率を通常よりも緩やかにする。このようにすれば、歯打ち音は第2電動機MG2のトルクTmg2が減少するに従って大きくなる傾向にあるので、第2電動機MG2のトルクTmg2の減少率を通常よりも緩やかにすることで、歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0055】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0056】
本実施例を前述の実施例と比較すると、後述するように、エンジン制御手段の具体的な作動が異なっている。従って、本実施例では、図3の括弧で示すように、電子制御装置100、エンジン制御手段102と異なる符号を付している。なお、その他の構成や制御態様については前述の実施例と略変わらないのでその説明を省略する。
【0057】
本実施例のエンジン制御手段102は、歯打ち音領域予測手段92によって所定時間ta後に歯打ち音発生領域に入るものと判断すると、エンジン回転速度Neの低下率(低下レート)にガード値G(下限ガード値)を設定する。このガード値Gは予め実験的に求められており、エンジン回転速度Neの低下率ΔNeの上限値を規定するものである。このガード値Gが設定されると、エンジン回転速度Neの低下率ΔNeがそのガード値Gを越えることがないように制御される。これより、エンジン回転速度Neの低下が抑制されて従来のようにエンジン回転速度Neが上下に変動することも抑制することができ、エンジン14の運転点を最適燃費ラインL_STDからガラ音抑制ラインLGRに移行するに際して、その移行時間が短くなって歯打ち音の発生が抑制される。
【0058】
なお、上記ガード値Gは、予め実験的に求められ、エンジン回転速度Neの上下の変動が抑制される値に設定されている。例えばガード値Gは一定値に設定される。或いは、前述の所定時間taと同様に、例えばエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOC等で判断されるエンジン14の応答性に基づいて変化するものであっても構わない。具体的には、エンジン14の応答性が悪くなると、ガード値Gが小さくなる、すなわちエンジン回転速度Neの低下率ΔNeが小さくなるように設定される。これより、エンジン14の応答性の低下に比例して、エンジン回転速度Neが緩やかに低下することとなる。
【0059】
図6は、本発明の他の実施例である電子制御装置100の制御作動の要部、すなわちアクセルペダル41が踏み戻される過渡期に発生する歯打ち音を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図6のフローチャートは、エンジン14が最適燃費ラインL_STD上で運転している状態で、アクセルペダル41が踏み戻された場合に実行される。
【0060】
先ず、所定時間決定手段94に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、エンジン14の応答性を考慮した所定時間taが設定される。次いで、歯打ち音領域予測手段92に対応するSA2において、所定時間ta経過後において歯打ち音発生領域に入るか否かを予測する。SA2が否定される場合、本ルーチンは終了させられる。SA2が肯定される場合、エンジン制御手段102に対応するSA3’において、エンジン回転速度Neの低下率ΔNeにガード値Gが設定される。これにより、エンジン回転速度Neが従来に比べて緩やかに低下することとなり、エンジン回転速度Neの変化が抑制されるので、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなって歯打ち音の発生が抑制される。
【0061】
図7は、アクセルペダル41を踏み込んだ状態から素早く戻した際に、図6のフローチャートで示す作動制御を実行した場合の挙動を示すタイムチャートである。t1時点において、アクセルペダル41が素早く踏み戻されると、歯打ち音領域予測手段92が実行され、t2時点において第2電動機MG2のトルクTmg2の低下制御が開始される。そして、所定時間ta経過後において歯打ち音発生領域に入ることが予測されると、エンジン制御手段102によってガード値Gが設定され、太矢印で示すようにエンジン回転速度Neの低下率ΔNeがガード値Gを越えない範囲でエンジン回転速度Neが低下されることとなる。なお、本実施例においては、ガード値Gが設定される他は従来の制御と変わらない制御が実行される。従って、図7のt2時点〜t3時点において、ガード値Gを上限としてエンジン回転速度Neが低下している。そして、t3時点において、第2電動機MG2のトルクTmg2が閾値αとなると、エンジン14の運転点が、最適燃費ラインL_STDからガラ音抑制ラインLGRへの移行される(t3時点〜t4時点)。ここで、本実施例ではガード値Gが設定されることにより、従来のようにエンジン回転速度Neが低下して再度上昇することが殆どないので、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなって、歯打ち音の発生が抑制される。この図7のタイムチャートに基づくと、図8の太矢印で示すように、エンジン14の動作点が運動点Aから運動点Bに移行される。本実施例では、前述の実施例のように、エンジン14の運転点Aが最適燃費ラインL_STDからガラ音抑制ラインLGRの運転点Bに直接に移行しないものの、エンジン回転速度Neの変動が従来に比べて抑制されるので、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなる。
【0062】
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例と同様に、アクセルペダル41の戻し状態という過渡的な状況でガラ音抑制ラインLGRへの移行の必要性を予測して、ガラ音抑制ラインLGRへ移行するため、エンジン回転速度Neが低下して再度上昇させる必要もなくなり、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間も短縮されるので、歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0063】
また、本実施例によれば、アクセルペダル41の戻し状態において、所定時間ta経過後にはガラ音抑制ラインLGRへの移行が必要であるとされる場合には、エンジン回転速度Neの低下率ΔNeにガード値Gを設定する。このようにすれば、エンジン回転速度Neの低下が抑制され、エンジン回転速度Neが不要に変動することも抑制されるので、ガラ音抑制ラインLGRへの移行時間が短くなって歯打ち音の発生が抑制される。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0065】
例えば前述の実施例では、エンジン制御手段90、102がそれぞれ別の実施例として記載されているが、車両の走行状態に応じて適宜切り替えられるものであっても構わない。例えば燃費性に優れた側の制御に優先的に切り替えられるものであっても構わない。
【0066】
また、前述の実施例では、所定時間taはエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCで構成される、予め実験的に求められている所定時間taを求めるためのマップから、実際に検出された値を参照することにより求められるとしたが、所定時間taは予め実験的に求められた一定値に設定されていても構わない。
【0067】
また、前述の実施例では、アクセル開度Accの変化率ΔAccや要求駆動力Fの変化率ΔFに基づいて所定時間ta経過後に歯打ち音発生領域に入るか否かを判断していたが、それらに加えて、車両加速度g、蓄電装置59の充電容量SOC、および充電容量SOCの変化率等を考慮に入れて歯打ち音発生領域に入るか否かを判断するものであっても構わない。
【0068】
また、前述の実施例では、所定時間taが、エンジン14の応答性に関連するエンジン水温TEMPw、電動機温度TEMPm、充電残量SOCに基づいて変更されていたが、さらに、例えば現在のエンジン14の動作点と歯打ち音発生領域との距離や最適燃費ラインL_STDとガラ音抑制ラインLGRとの距離に応じて変更されるものであっても構わない。
【0069】
また、前述の実施例では、歯打ち音領域予測手段92は、アクセル開度Accの変化率ΔAccから、所定時間ta経過後の第2電動機MG2のトルクTmg2を予測し、そのトルクTmg2が予め設定されている閾値α以下か否かに基づいて歯打ち音領域に入るか否かを判断していたが、例えば予め実験的に求めたマップ等に基づいて、アクセル開度Accの変化率ΔAccや要求駆動力Fの変化率ΔFから直接判断するものであっても構わない。
【0070】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
6:ハイブリッド車両
14:エンジン
20:第1遊星歯車装置(差動機構)
24:出力歯車(出力回転部材)
41:アクセルペダル
80、100:電子制御装置(制御装置)
MG1:第1電動機(電動機)
MG2:第2電動機(電動機)
ta:所定時間
G:ガード値
L_STD:最適燃費ライン
LGR:ガラ音抑制ライン
TEMPw:エンジン水温
TEMPm:電動機温度
SOC:蓄電装置の充電容量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としてエンジンおよび電動機を備え、専ら該電動機を駆動源とするモータ走行と該エンジンを駆動源とするエンジン走行とを実施可能であって、前記エンジンの運転点として、予め定められた通常動作ラインと該通常動作ラインよりも高回転側に設定されてエンジン駆動中に発生する歯打ち音を抑制するガラ音抑制ラインとを予め記憶し、該エンジンの運転点を車両の走行状態に応じて前記通常動作ラインと前記ガラ音抑制ラインとに切り替えるハイブリッド車両の制御装置において、
アクセルペダル戻し状態に基づいて該アクセルペダル戻し後の前記エンジンの運転点を前記ガラ音抑制ラインに移行する必要があると予測される場合には、前記エンジンを前記通常動作ラインに沿って運転させることなく、該通常動作ラインから離れて前記ガラ音抑制ライン上に移行させることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記アクセルペダル戻し状態に基づいて、所定時間経過後には前記ガラ音抑制ラインへの移行が必要であると予測される場合には、前記所定時間経過後において前記エンジンが前記ガラ音抑制ラインに基づいて運転された場合の該エンジンの運転点を算出し、該エンジンを前記ガラ音抑制ラインに基づいて算出された前記運転点に向かって直接移行させることを特徴とする請求項1のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記アクセルペダル戻し状態に基づいて、所定時間経過後には前記ガラ音抑制ラインへの移行が必要であると予測される場合には、前記エンジンの回転速度の低下率にガード値を設定することを特徴とする請求項1のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記所定時間は、エンジン水温、蓄電装置の充電容量、電動機温度に基づいて設定されることを特徴とする請求項2または3のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記エンジンからの動力を第1電動機および出力回転部材へ分配する差動機構と、該出力回転部材に動力伝達可能に連結された第2電動機とを有し、前記第1電動機の運転状態が制御されることにより前記差動機構の差動状態が制御される電気式差動部を備えることを特徴とする請求項1のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−82237(P2013−82237A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221414(P2011−221414)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】