説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】LUクラッチおよびC1クラッチが接続状態に維持されるMGクリープカット中に、K0クラッチを接続して直噴エンジンを適切に始動できるようにする。
【解決手段】MGでクリープトルクを発生させるMGクリープモード時にブレーキ操作されると、LUクラッチ30およびC1クラッチ18を接続したままMGトルクを0とするMGクリープカットが行われるため、発進時の応答性を確保しつつバッテリー44の消耗が抑制される。MGクリープカット中にエンジン始動要求があると、LUクラッチ30を解放するとともにC1クラッチ18の係合トルクを低下させ、K0クラッチ34を係合させて、直噴エンジン12を着火始動する際にMGでアシストするため、直噴エンジン12を確実に且つ速やかに始動できる。また、着火始動で自力回転しようとするため、MGのアシストトルクが小さくて済み、バッテリー44の過放電による劣化が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着火始動が可能な直噴エンジンを有するハイブリッド車両に係り、特に、車両停止時にモータジェネレータによりクリープトルクを発生させたりエンジン始動要求に従って直噴エンジンを着火始動する際にモータジェネレータでアシストしたりする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 動力伝達経路に配設され、電動モータおよび発電機として用いることができるモータジェネレータと、(b) 何れかの気筒内に燃料を噴射するとともに点火して始動する着火始動が可能な直噴エンジンと、(c) その直噴エンジンを前記モータジェネレータに対して接続、遮断する摩擦係合式のエンジン断接装置と、を備えるハイブリッド車両が知られている。特許文献1に記載のハイブリッド車両はその一例で、エンジン断接装置を遮断して直噴エンジンを停止させた状態で電気駆動部(モータジェネレータに対応)のみを駆動力源として走行するモータ走行モードから、直噴エンジンを駆動力源として走行するエンジン走行モードへ切り換える際には、着火始動により直噴エンジンを始動し、エンジン回転速度が上昇して電気駆動部の回転速度と略同じになったら(同期したら)、エンジン断接装置を接続してモータトルクをエンジントルクにすり替えるようになっている。
【0003】
なお、直噴エンジンのフリクションが小さい場合など、上記着火始動だけでエンジンを自力で始動できる場合があるが、エンジン始動時にエンジン断接装置を接続してモータジェネレータにより直噴エンジンの回転をアシストするようにすれば、直噴エンジンを確実に且つ速やかに始動させることができる。その場合でも、着火始動で自力回転しようとするためアシストトルクが小さくて済み、モータジェネレータの最大トルクが低減されて小型化や低燃費化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−527411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、未だ公知ではないが、このような直噴エンジンを有するハイブリッド車両においても、(a) 前記モータジェネレータと駆動輪との間に、摩擦係合式のロックアップクラッチを有する流体式伝動装置が設けられているとともに、その流体式伝動装置と駆動輪との間には摩擦係合式の動力断接装置が設けられている一方、(b) 車両停止時に、前記エンジン断接装置を遮断して前記直噴エンジンを停止させるとともに、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置を共に接続した状態で、前記モータジェネレータの力行トルクに基づいて所定のクリープトルクを発生させるMGクリープモードが考えられる。また、(c) そのMGクリープモード時にブレーキ操作された場合に前記モータジェネレータの力行トルクを0とするMGクリープカットを行うことが考えられる。その場合に、発進時の応答性を考慮して前記ロックアップクラッチおよび動力断接装置を何れも接続状態に維持すると、バッテリーの蓄電残量SOCが低下するなどしてエンジン始動要求が為された時に、そのままエンジン断接装置を接続してモータジェネレータにより直噴エンジンをクランキングして始動することができない。着火始動のみで直噴エンジンを始動することも考えられるが、バッテリーを充電するためにはエンジン断接装置を接続する必要がある。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ロックアップクラッチおよび動力断接装置が何れも接続状態に維持されるMGクリープカット中にエンジン始動要求が為された場合に、エンジン断接装置を接続して直噴エンジンを適切に始動できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 動力伝達経路に配設され、電動モータおよび発電機として用いることができるモータジェネレータと、(b) 何れかの気筒内に燃料を噴射するとともに点火して始動する着火始動が可能な直噴エンジンと、(c) その直噴エンジンを前記モータジェネレータに対して接続、遮断する摩擦係合式のエンジン断接装置と、を備えるハイブリッド車両において、(d) 前記モータジェネレータと駆動輪との間には、摩擦係合式のロックアップクラッチを有する流体式伝動装置が設けられているとともに、その流体式伝動装置と駆動輪との間には摩擦係合式の動力断接装置が設けられており、(e) 車両停止時に、前記エンジン断接装置を遮断して前記直噴エンジンを停止させるとともに、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置を共に接続した状態で、前記モータジェネレータの力行トルクに基づいて所定のクリープトルクを発生させるMGクリープモードを有し、(f) そのMGクリープモード時にブレーキ操作された場合には、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置を何れも接続状態に維持したまま前記モータジェネレータの力行トルクを0とするMGクリープカットが行われ、(g) そのMGクリープカット中に前記直噴エンジンの始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置の少なくとも一方の係合トルクを低下させるとともに前記エンジン断接装置を係合させて、前記直噴エンジンを着火始動するとともに前記モータジェネレータによりその直噴エンジンの回転をアシストすることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明のハイブリッド車両の制御装置において、前記MGクリープカット中に前記直噴エンジンの始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置の係合トルクを何れも低下させるとともに、その動力断接装置の係合トルクは予め定められた目標クリープトルクに応じて定められることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このようなハイブリッド車両の制御装置においては、MGクリープモード時にブレーキ操作された場合に、ロックアップクラッチおよび動力断接装置を何れも接続状態に維持したままモータジェネレータの力行トルクを0とするMGクリープカットが行われるため、発進時の応答性を確保しつつバッテリーの消耗が抑制されて燃費が向上する。そして、そのMGクリープカット中にエンジン始動要求があった場合には、ロックアップクラッチおよび動力断接装置の少なくとも一方の係合トルクを低下させるとともにエンジン断接装置を係合させて、直噴エンジンを着火始動する際にモータジェネレータで回転をアシストするため、直噴エンジンを確実に且つ速やかに始動できる。また、着火始動で自力回転しようとするため、モータジェネレータによるアシストトルクが小さくて済み、そのモータジェネレータの小型化や低燃費化を図ることができるとともに、バッテリーの過放電による劣化が抑制される。
【0010】
第2発明では、MGクリープカット中にエンジン始動要求があった場合には、ロックアップクラッチおよび動力断接装置の係合トルクを何れも低下させるとともに、その動力断接装置の係合トルクは予め定められた目標クリープトルクに応じて定められるため、エンジン回転速度をバッテリー充電等に適した所定の回転速度まで上昇させることができるとともに、動力断接装置がスリップすることにより余分な駆動力が駆動輪へ伝達されることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の骨子図に、制御系統の要部を併せて示した概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両の直噴エンジンを説明する断面図である。
【図3】図1のハイブリッド車両が備えている2種類のクリープモードを説明する図である。
【図4】図1の電子制御装置がクリープ制御に関して備えている機能を説明する図で、MGクリープカット中に充電クリープモードへ移行するために直噴エンジンを着火始動するか否かを判定するフローチャートである。
【図5】図4のステップS4で着火始動制御実行フラグがONとされた場合に、直噴エンジンを着火始動して充電クリープモードへ切り換える際の作動を説明するフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートに従ってMGクリープカットから充電クリープモードへ切り換えられる際の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【図7】本発明の他の実施例を説明する図で、図6に対応するタイムチャートである。
【図8】本発明の更に別の実施例を説明する図で、図6に対応するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、動力伝達経路に設けられたモータジェネレータに対して直噴エンジンがエンジン断接装置により接続、遮断されるパラレル型、シリーズ型等のハイブリッド車両に適用される。直噴エンジンは、気筒内に燃料を直接噴射できるもので、4サイクルのガソリンエンジンが好適に用いられ、4気筒以上の多気筒エンジンを含む種々の気筒数の直噴エンジンを用いることができる。2サイクルのガソリンエンジンなど、膨張行程の気筒内に燃料を噴射して着火始動できる他の往復動内燃機関を用いることも可能である。エンジン断接装置は、直噴エンジンとモータジェネレータとの間の動力伝達を接続、遮断できるものであれば良く、例えば単板式、多板式等の油圧式摩擦係合クラッチが好適に用いられる。
【0013】
直噴エンジンの着火始動は、少なくとも何れかの気筒が膨張行程で、その膨張行程の気筒内に燃料を噴射して点火することにより始動するもので、着火始動だけで始動する場合もあるが、MGクリープカット中からのエンジン始動時には、エンジン断接装置を係合させてモータジェネレータにより直噴エンジンの回転をアシストする。MGクリープカット中は車両が完全に停止しており、動力伝達経路の各部材の回転も停止しているため、着火始動に先立ってエンジン断接装置を完全に係合させて直噴エンジンとモータジェネレータとを接続しておけば良い。
【0014】
MGクリープモードの他に、エンジン断接装置を接続した状態で直噴エンジンを作動させて所定のクリープトルクを発生させるとともに、モータジェネレータを発電機として用いてバッテリーを充電する充電クリープモードを用意し、MGクリープカット中に蓄電残量SOCが低下した場合等に充電クリープモードへ切り換えられるようにすることが望ましく、本発明はその時のエンジン始動制御に好適に適用される。充電クリープモード時の直噴エンジンの回転速度は、エンジンの効率特性やモータジェネレータの発電効率、バッテリーの充電効率等を考慮して適宜定められ、クリープトルクについては例えば動力断接装置の係合トルクで調整することが望ましい。
【0015】
MGクリープモードや上記充電クリープモードは、車両の停止時或いは所定車速以下の低車速時に実行され、所定の目標クリープトルクを発生するように制御される。目標クリープトルクは、平坦路で車両を発進させることができる程度の一定のトルクが定められても良いが、路面勾配や車両重量等をパラメータとして設定されるようにしても良い。
【0016】
ロックアップクラッチや動力断接装置としては、例えば油圧式の摩擦係合装置が好適に用いられるが、その場合には各部の回転が停止しているMGクリープモードでもそれ等を接続できるように電動式オイルポンプを設ける必要がある。電磁式等の摩擦係合装置を採用することも可能である。動力断接装置は、流体式伝動装置と駆動輪との間の動力伝達を接続、遮断できるものであれば良く、例えば単板式、多板式等の油圧式摩擦係合クラッチが好適に用いられる。ロックアップクラッチを有する流体式伝動装置は、トルクコンバータやフルードカップリングなどで、入力回転部材と出力回転部材とをロックアップクラッチによって直結することができる。
【0017】
MGクリープカットは、例えばMGクリープモード時に常用ブレーキ用のブレーキペダルが比較的強く踏み込み操作され、登坂路等でも車両がずり下がる恐れがない場合、すなわちブレーキ力(油圧など)が所定値以上の場合に行われるようにすることが望ましい。ブレーキ力に対応するブレーキ操作力等を用いてMGクリープカットを実施するようにしても良い。常用ブレーキだけでなく駐車ブレーキが操作された場合にMGクリープカットを行うようにしても良いし、ブレーキ力の大きさに拘らずブレーキ操作時には常にMGクリープカットが行われるようにしても良いなど、種々の態様が可能である。
【0018】
MGクリープカット中に直噴エンジンを始動する際には、ロックアップクラッチおよび動力断接装置の係合トルクを共に低下させても良いが、何れか一方の係合トルクを低下させるだけでも良い。係合トルクの低下は、係合トルクを略0にして完全に解放(遮断)しても良いが、所定の係合トルクで係合させてスリップさせるようにしても良く、車両停止時にモータジェネレータを回転させることができれば良い。
【0019】
直噴エンジンを着火始動するとともにモータジェネレータによりその直噴エンジンの回転をアシストする制御は、基本的にはエンジン停止中に膨張行程の気筒に対して燃料噴射および点火して着火始動を行い、その始動過程でモータジェネレータによる回転アシストを行うように構成されるが、着火始動と略同時にモータジェネレータによる回転アシストを実施するようにしても良い。バッテリーの負荷を軽減する上で、モータジェネレータによる回転アシストは必要最小限とすることが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の駆動系統の骨子図を含む概略構成図である。このハイブリッド車両10は、気筒内に燃料を直接噴射する直噴エンジン12と、電動モータおよび発電機として機能するモータジェネレータMGとを走行用の駆動力源として備えている。そして、それ等の直噴エンジン12およびモータジェネレータMGの出力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14からタービン軸16、C1クラッチ18を経て自動変速機20に伝達され、更に出力軸22、差動歯車装置24を介して左右の駆動輪26に伝達される。トルクコンバータ14は、ポンプ翼車とタービン翼車とを直結する摩擦係合式のロックアップクラッチ(LUクラッチ)30を備えている。
【0021】
上記直噴エンジン12は、本実施例では8気筒の4サイクルのガソリンエンジンが用いられており、図2に具体的に示すように、燃料噴射装置46により気筒(シリンダ)100内にガソリン(高圧微粒子)が直接噴射されるようになっている。この直噴エンジン12は、吸気通路102から吸気弁104を介して気筒100内に空気が流入するとともに、排気弁108を介して排気通路106から排気ガスが排出されるようになっており、所定のタイミングで点火装置47によって点火されることにより気筒100内の混合気が爆発燃焼してピストン110が下方へ押し下げられる。吸気通路102は、サージタンク103を介して吸入空気量調節装置である電子スロットル弁45に接続されており、その電子スロットル弁45の開度(スロットル弁開度)に応じて吸気通路102から気筒100内に流入する吸入空気量、すなわちエンジン出力が制御される。上記ピストン110は、気筒100内に軸方向の摺動可能に嵌合されているとともに、コネクチングロッド112を介してクランク軸114のクランクピン116に相対回転可能に連結されており、ピストン110の直線往復移動に伴ってクランク軸114が矢印Rで示すように回転駆動される。クランク軸114は、ジャーナル部118において軸受により回転可能に支持されるようになっており、ジャーナル部118とクランクピン116とを接続するクランクアーム120を一体に備えている。
【0022】
そして、このような直噴エンジン12は、クランク軸114の2回転(720°)で、吸入行程、圧縮行程、膨張(爆発)行程、排気行程の4行程が行われ、これが繰り返されることでクランク軸114が連続回転させられる。8つの気筒100のピストン110は、それぞれクランク角度が90°ずつずれるように構成されており、クランク軸114が90°回転する毎に8つの気筒100が順番に爆発燃焼させられて連続的に回転トルクが発生させられる。また、何れかの気筒100のピストン110が圧縮行程の後のTDC(上死点)に達する圧縮TDCからクランク軸114が所定角度回転し、吸気弁104および排気弁108が共に閉じている膨張行程の所定の角度範囲θ内で停止している時に、燃料噴射装置46によって気筒100内にガソリンを噴射するとともに点火装置47によって点火することにより、気筒100内の混合気を爆発燃焼させて始動する着火始動が可能である。直噴エンジン12の各部のフリクション(摩擦)が小さい場合には、着火始動のみで直噴エンジン12を始動できるが、フリクションが大きい場合でも、クランク軸114をクランキングして始動する際の始動アシストトルクを低減できるため、そのアシストトルクを発生する前記モータジェネレータMGの最大トルクが低減されて小型化や低燃費化を図ることができる。上記角度範囲θは、例えば圧縮TDCから30°〜60°程度の範囲内が適当で、着火始動により比較的大きな回転エネルギーが得られ、アシストトルクを低減できる。8気筒エンジンの場合、圧縮TDCから80°〜100°程度の時にも着火始動が可能であり、上記角度範囲θは直噴エンジン12の気筒数等に応じて適宜定められる。
【0023】
図1に戻って、上記直噴エンジン12とモータジェネレータMGとの間には、ダンパ38を介してそれ等を直結するK0クラッチ34が設けられている。このK0クラッチ34は、油圧シリンダによって摩擦係合させられる単板式或いは多板式の油圧式摩擦係合クラッチで、油圧制御装置28によって係合解放制御されるとともに、本実施例ではトルクコンバータ14の油室40内に油浴状態で配設されている。K0クラッチ34は油圧式摩擦係合装置で、直噴エンジン12を動力伝達経路に対して接続したり遮断したりするエンジン断接装置として機能する。モータジェネレータMGは、インバータ42を介してバッテリー44に接続されている。また、前記自動変速機20は、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)の係合解放状態によって変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式等の有段の自動変速機で、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって変速制御が行われる。C1クラッチ18は自動変速機20の入力クラッチとして機能するもので、動力伝達を接続、遮断する摩擦係合式の動力断接装置であり、同じく油圧制御装置28によって係合解放制御されるようになっている。油圧制御装置28は、上記K0クラッチ34やC1クラッチ18、前記ロックアップクラッチ30、自動変速機20のクラッチやブレーキ等を係合させるのに必要な油圧を発生する電動式オイルポンプ(EOP)32を備えている。
【0024】
このようなハイブリッド車両10は電子制御装置70によって制御される。電子制御装置70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどを有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。電子制御装置70には、アクセル操作量センサ48からアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号が供給される。また、エンジン回転速度センサ50、MG回転速度センサ52、タービン回転速度センサ54、車速センサ56、クランク角度センサ58、SOCセンサ60、およびブレーキ力センサ62から、それぞれ直噴エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、モータジェネレータMGの回転速度(MG回転速度)NMG、タービン軸16の回転速度(タービン回転速度)NT、出力軸22の回転速度(出力軸回転速度で車速Vに対応)NOUT、8つの気筒100毎のTDC(上死点)からの回転角度(クランク角度)Φ、バッテリー44の蓄電残量SOC、常用ブレーキ用のブレーキペダルの踏み込み操作力に応じて発生するブレーキ力Brに関する信号が供給される。この他、各種の制御に必要な種々の情報が供給されるようになっている。SOCセンサ60は、例えばバッテリー44の充電量および放電量を逐次積算して蓄電残量SOCを求めるように構成される。ブレーキ力センサ62は、例えばブレーキ油圧を検出する油圧センサなどである。上記アクセル操作量Accは、運転者の出力要求量に相当する。
【0025】
上記電子制御装置70は、機能的にハイブリッド制御手段72、変速制御手段74、エンジン停止制御手段76、およびクリープ制御手段80を備えている。ハイブリッド制御手段72は、直噴エンジン12およびモータジェネレータMGの作動を制御することにより、例えば直噴エンジン12のみを駆動力源として走行するエンジン走行モードや、モータジェネレータMGのみを駆動力源として走行するモータ走行モード、それ等の両方を用いて走行するエンジン+モータ走行モード等の予め定められた複数の走行モードを、アクセル操作量Accや車速V等の運転状態に応じて切り換えて走行する。変速制御手段74は、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等を制御して複数の油圧式摩擦係合装置の係合解放状態を切り換えることにより、自動変速機20の複数のギヤ段を、アクセル操作量Accや車速V等の運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップに従って切り換える。
【0026】
エンジン停止制御手段76は、エンジン+モータ走行モードからモータ走行モードへの切換時や、エンジン+モータ走行モード或いはエンジン走行モード中の惰性走行時、減速時、停車時等に直噴エンジン12を停止させる際の制御を行うもので、直噴エンジン12を再始動する際に着火始動が可能なようにクランク軸114の停止位置を調整する。例えば、K0クラッチ34を遮断して直噴エンジン12の回転を停止させる際に、停止直前或いは停止直後等にK0クラッチ34を一時的にスリップ係合させてクランク軸114を回転させることにより、何れかの気筒100のクランク角度Φが、着火始動が可能な前記角度範囲θ内に入るように調整する。これにより、その後のエンジン始動時に着火始動で始動することが可能となり、モータジェネレータMGによるアシストトルクが低減されて、モータジェネレータMGの小型化や低燃費化を図ることができる。
【0027】
クリープ制御手段80は、所定車速以下の低速走行時または車両停止時に所定の目標クリープトルクを発生させるもので、蓄電残量SOCが所定の下限値SOCminより大きい場合にはモータジェネレータMGを用いて目標クリープトルクを発生させるMGクリープモードを実行する。また、蓄電残量SOCが下限値SOCmin以下の時には、直噴エンジン12を作動させて目標クリープトルクを発生させつつモータジェネレータMGによりバッテリー44を充電する充電クリープモードを実行する。図3に示すように、MGクリープモードは、K0クラッチ34を遮断(解放)して直噴エンジン12を停止させた状態で、モータジェネレータMGを力行制御して電動モータとして用い、所定の目標クリープトルクを発生させるもので、ロックアップクラッチ14およびC1クラッチ18は共に接続状態に保持される。充電クリープモードは、K0クラッチ34を接続した状態で直噴エンジン12を作動させることにより、トルクコンバータ14およびC1クラッチ18を介して所定の目標クリープトルクを発生させる一方、モータジェネレータMGを回生制御(発電制御ともいう)して発電機として用い、発電した電気でバッテリー44を充電する。ロックアップクラッチ14は完全に解放(遮断)され、C1クラッチ18は目標クリープトルクに対応する係合トルクで係合させられる。上記下限値SOCminには所定のヒステリシスが設けられ、境界付近でのビジーシフトが防止される。
【0028】
目標クリープトルクは、例えば平坦路で車両を発進させることができるとともに例えば10km/時程度以下の低速走行が可能な一定のトルクが定められても良いが、路面勾配や車両重量等をパラメータとして設定されるようにしても良い。例えば登坂路では、車両のずり下がりトルクと略釣り合うかそれより小さいクリープトルク、すなわち上り勾配に拘らず車両のずり下がりを防止できるか僅かにずり下がる程度のクリープトルクを発生させるようにしても良い。MGクリープモードか充電クリープモードかに拘らず、本実施例では共通の目標クリープトルクが設定される。
【0029】
MGクリープモード時のモータジェネレータMGの回転速度(MG回転速度)NMGは、ロックアップクラッチ30およびC1クラッチ18が何れも接続されていることから、車速Vに対応する速度となり、車両停止時にはMG回転速度NMG=0となる。充電クリープモード時の直噴エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEは、直噴エンジン12の効率特性やモータジェネレータMGの発電効率、バッテリー44の充電効率等を考慮して、効率良くバッテリー44を充電できるように例えば600rpm〜1500rpm程度の範囲内で適宜定められる。充電クリープモードでは、C1クラッチ18が目標クリープトルクに対応する係合トルクで係合させられるため、そのC1クラッチ18のスリップでクリープトルクが制限され、エンジン回転速度NEについては主として充電効率に基づいて適宜設定することができる。エンジン回転速度NEは、例えば電子スロットル弁45や図示しないISC(アイドル回転速度コントロール)弁等の吸入空気量調節装置を用いて制御することができる。
【0030】
クリープ制御手段80はまた、上記MGクリープモード中にブレーキペダルが比較的強く踏み込み操作され、登坂路等でも車両がずり下がる恐れがない場合、具体的にはブレーキ力Brが予め定められた判定値を超えた場合には、モータジェネレータMGの力行トルクを0とするMGクリープカット手段82を備えている。これにより、モータジェネレータMGの無駄な作動が抑制されて燃費が向上する。MGクリープカット手段82は、MGクリープモードにおいてモータジェネレータMGの力行トルク=0とするだけで、ロックアップクラッチ30およびC1クラッチ18は次の発進に備えて完全な係合状態(接続状態)に維持される。
【0031】
一方、上記MGクリープカット手段82によるMGクリープカット中に、バッテリー44の蓄電残量SOCが下限値SOCmin以下まで低下した場合には、前記充電クリープモードへ切り換える。蓄電残量SOCの他、エアコン等の補機類の作動状態に応じて充電クリープモードへ切り換えることもできる。このMGクリープカットから充電クリープモードへの移行制御に関して、クリープ制御手段80は更に着火始動判断手段84、クラッチ制御手段86、エンジン着火始動手段88、および充電手段90を備えている。図4は、上記着火始動判断手段84による信号処理を具体的に説明するフローチャートで、図5は、上記クラッチ制御手段86、エンジン着火始動手段88、および充電手段90によるクリープモード切換制御を具体的に説明するフローチャートである。図5のステップR2およびR3はクラッチ制御手段86に相当し、ステップR4はエンジン着火始動手段88に相当し、ステップR5は充電手段90に相当する。
【0032】
図4のステップS1では、MGクリープカット中か否かを判断し、MGクリープカット中でなければそのまま終了するが、MGクリープカット中の場合はステップS2を実行する。ステップS2では、充電要求によるエンジン始動要求か否かを、例えばバッテリー44の蓄電残量SOCが下限値SOCmin以下まで低下したか否か、或いは補機類の作動状態等によって判断する。充電要求によるエンジン始動要求の場合はステップS3を実行し、直噴エンジン12の着火始動が可能か否かを判断する。具体的には、例えばエンジン水温が所定値以上で且つ何れかの気筒100のクランク角度Φが着火始動が可能な角度範囲θ内であるか否か等を判断する。そして、着火始動可能と判断した場合には、ステップS4で着火始動制御実行フラグをONにする。
【0033】
図5のステップR1では、着火始動制御実行フラグがONか否かを判断し、ONになったらステップR2以下のクリープモード切換制御を実行する。ステップR2では、ロックアップクラッチ30を完全に解放して動力伝達を遮断するとともに、C1クラッチ18の係合トルクを前記目標クリープトルクに対応するトルクまで低下させ、ステップR3では、K0クラッチ34を完全係合(接続)して直噴エンジン12とモータジェネレータMGとを直結する。図6は、図5のフローチャートに従ってクリープモード切換制御が行われた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例で、時間t1は、ステップR1の判断がYES(肯定)になってクリープモード切換制御が開始された時間である。このタイムチャートにおける「MGトルク」、「LUトルク」、「C1トルク」、および「K0トルク」のグラフは何れも指令値である。また、MGトルクはモータジェネレータMGのトルクで、LUトルクはロックアップクラッチ30の係合トルク、C1トルクはC1クラッチ18の係合トルク、K0トルクはK0クラッチ34の係合トルクである。LUトルク、C1トルク、K0トルクは何れも油圧に相当する。
【0034】
次のステップR4では、モータジェネレータMGにより直噴エンジン12の回転をアシストしながら、その直噴エンジン12を着火始動する。具体的には、膨張行程の気筒100に対する燃料噴射および点火によって着火始動を行うとともに、所定のタイミングでモータジェネレータMGを力行制御して直噴エンジン12の回転をアシストする。このアシストトルク(力行トルク)の大きさは、着火始動によって直噴エンジン12を確実に始動できる範囲で、できるだけ低いトルクに定められ、モータジェネレータMGにより直噴エンジン12をクランキングしながら燃料噴射および点火によって始動するクランキング始動に比べて、十分に小さなトルク(例えば半分程度以下)である。
【0035】
そして、エンジン回転速度NEが、充電クリープモード時の所定の目標回転速度の近傍に達したら(図6のタイムチャートの時間t2)、モータジェネレータMGを回生制御してエンジン回転速度NEのオーバーシュートを抑制する。エンジン回転速度NEの上昇に伴ってクリープトルクが大きくなるが、C1クラッチ18は目標クリープトルクに対応する係合トルクで係合させられているため、そのC1クラッチ18のスリップ(タービン回転速度NTの回転)によって目標クリープトルクを超えることが防止される。その後、エンジン回転速度NEが安定する所定のタイミング(図6のタイムチャートの時間t3)でステップR5を実行し、モータジェネレータMGの回生トルクを徐々に増大させてバッテリー44を所定の充電量で充電するとともに、直噴エンジン12については所定のエンジン回転速度NEを維持するように電子スロットル弁45等を制御する。これにより、MGクリープカットから充電クリープモードへの切換が終了する。
【0036】
ここで、本実施例のハイブリッド車両10においては、MGクリープモード時にブレーキ操作された場合に、ロックアップクラッチ30およびC1クラッチ18を何れも接続状態に維持したままモータジェネレータMGの力行トルクを0とするMGクリープカットが行われるため、発進時の応答性を確保しつつバッテリー44の消耗が抑制されて燃費が向上する。
【0037】
そして、上記MGクリープカット中にエンジン始動要求があった場合には、ロックアップクラッチ30を解放(遮断)するとともにC1クラッチ18の係合トルクを低下させる一方、K0クラッチ34を係合させて、直噴エンジン12を着火始動する際にモータジェネレータMGで回転をアシストするため、直噴エンジン12を確実に且つ速やかに始動できる。また、着火始動により自力回転しようとするため、モータジェネレータMGによるアシストトルクが小さくて済み、そのモータジェネレータMGの小型化や低燃費化を図ることができるとともに、バッテリー44の過放電による劣化が抑制される。
【0038】
また、MGクリープカット中にエンジン始動要求があった場合には、ロックアップクラッチ30およびC1クラッチ18の係合トルクを何れも低下させるとともに、そのC1クラッチ18の係合トルクは予め定められた目標クリープトルクに応じて定められるため、エンジン回転速度NEをバッテリー充電等に適した所定の回転速度まで上昇させることができるとともに、C1クラッチ18がスリップすることにより余分な駆動力が駆動輪へ伝達されることが防止される。
【0039】
なお、上記実施例では、ロックアップクラッチ30およびC1クラッチ18の係合トルクを何れも低下させるようになっていたが、図7のタイムチャートに示すようにロックアップクラッチ30を接続状態に維持したままC1クラッチ18の係合トルク(C1トルク)のみを低下させたり、図8のタイムチャートに示すようにC1クラッチ18を接続状態に維持したままロックアップクラッチ30の係合トルク(LUトルク)のみを低下させたりしても良い。C1クラッチ18を接続状態に維持する場合、例えばモータジェネレータMGの回生トルクを増大させてクリープトルクを適切に制御することが望ましい。図3に示す充電クリープモードについても、ロックアップクラッチ30およびC1クラッチ18を、図7、図8と同様に制御することができる。ロックアップクラッチ30は必ずしも完全に解放(遮断)する必要はなく、所定の係合トルクでスリップ係合させるようにしても良い。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:ハイブリッド車両 12:直噴エンジン 14:トルクコンバータ(流体式伝動装置) 18:C1クラッチ(動力断接装置) 30:ロックアップクラッチ 34:K0クラッチ(エンジン断接装置) 70:電子制御装置 80:クリープ制御手段 82:MGクリープカット手段 86:クラッチ制御手段 88:エンジン着火始動手段 MG:モータジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達経路に配設され、電動モータおよび発電機として用いることができるモータジェネレータと、
何れかの気筒内に燃料を噴射するとともに点火して始動する着火始動が可能な直噴エンジンと、
該直噴エンジンを前記モータジェネレータに対して接続、遮断する摩擦係合式のエンジン断接装置と、
を備えるハイブリッド車両において、
前記モータジェネレータと駆動輪との間には、摩擦係合式のロックアップクラッチを有する流体式伝動装置が設けられているとともに、該流体式伝動装置と該駆動輪との間には摩擦係合式の動力断接装置が設けられており、
車両停止時に、前記エンジン断接装置を遮断して前記直噴エンジンを停止させるとともに、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置を共に接続した状態で、前記モータジェネレータの力行トルクに基づいて所定のクリープトルクを発生させるMGクリープモードを有し、
該MGクリープモード時にブレーキ操作された場合には、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置を何れも接続状態に維持したまま前記モータジェネレータの力行トルクを0とするMGクリープカットが行われ、
該MGクリープカット中に前記直噴エンジンの始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置の少なくとも一方の係合トルクを低下させるとともに前記エンジン断接装置を係合させて、前記直噴エンジンを着火始動するとともに前記モータジェネレータにより該直噴エンジンの回転をアシストする
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記MGクリープカット中に前記直噴エンジンの始動要求があった場合には、前記ロックアップクラッチおよび前記動力断接装置の係合トルクを何れも低下させるとともに、該動力断接装置の係合トルクは予め定められた目標クリープトルクに応じて定められる
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91466(P2013−91466A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235941(P2011−235941)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】