説明

ハイブリッド車両の駆動装置

【課題】クラッチ係合状態からのダウン変速時における変速ショックの抑制と燃費の向上とを両立させるハイブリッド車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】クラッチK0が係合された状態からの自動変速機16のダウン変速に先立って、そのクラッチK0のトルク容量を低減させると共に、電気式制動装置74及び前記電動機MGの少なくとも一方による制動力を変化させるものであることから、電気式制動装置74乃至電動機MGにより変速ショックを低減するための補償制御を実行するのに必要なトルクを、クラッチK0のトルク容量低下分だけ確保することができるため、電動機MGによる回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機との間の動力伝達経路にクラッチを備えたハイブリッド車両の駆動装置に関し、特に、クラッチ係合状態からのダウン変速時における変速ショックの抑制と燃費の向上とを両立させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
主駆動源であるエンジンと、駆動源として機能する電動機と、そのエンジンと動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両の駆動装置が知られている。斯かるハイブリッド車両の駆動装置において、前記自動変速機の変速時に前記電動機の回生による制動力等を制御することで、変速ショックの発生を抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された車両用動力伝達装置がそれである。この技術によれば、車輪の回転を制動する制動装置を備え、電動機が発電機として機能することにより回生トルクが発生しているときに自動変速機の変速が行われる場合には、その変速の開始前後においてその変速中に前記制動装置を一時的に作動させる制動補償制御を行うことで、前記自動変速機の変速時における変速ショックの発生を好適に抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−058558号公報
【特許文献2】特開2010−074886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハイブリッド車両の一態様として、エンジンと、電動機と、それらエンジンと電動機との間の動力伝達経路に設けられ係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチと、そのクラッチと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両が知られている。斯かるハイブリッド車両では、前記クラッチが係合された状態からの前記自動変速機のダウン変速時において、前記従来の技術により制動補償制御を行う場合、前記制動装置の制動量(絶対値)が比較的小さい場合等においては十分な制動補償制御を行うことができなかった。一方、前記電動機の回生トルクにより制動力を変化させる場合には燃費が悪化するおそれがあり、変速ショックの抑制と燃費の向上との両立が困難であった。このような課題は、ハイブリッド車両の性能向上を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、クラッチ係合状態からのダウン変速時における変速ショックの抑制と燃費の向上とを両立させるハイブリッド車両の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、エンジンと、電動機と、それらエンジンと電動機との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両の駆動装置であって、前記クラッチが係合された状態からの前記自動変速機のダウン変速に先立って、前記クラッチのトルク容量を低減させると共に、電気的な指令に応じて車輪に制動力を発生させる電気式制動装置及び前記電動機の少なくとも一方による制動力を変化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記クラッチが係合された状態からの前記自動変速機のダウン変速に先立って、前記クラッチのトルク容量を低減させると共に、電気的な指令に応じて車輪に制動力を発生させる電気式制動装置及び前記電動機の少なくとも一方による制動力を変化させるものであることから、前記電気式制動装置乃至電動機により変速ショックを低減するための補償制御を実行するのに必要なトルクを、前記クラッチのトルク容量低下分だけ確保することができるため、例えば前記電動機による回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。すなわち、クラッチ係合状態からのダウン変速時における変速ショックの抑制と燃費の向上とを両立させるハイブリッド車両の駆動装置を提供することができる。
【0008】
ここで、前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記自動変速機のダウン変速中のトルク相においては、少なくとも前記電気式制動装置による制動力を変化させ、前記ダウン変速中のイナーシャ相においては、少なくとも前記電動機による制動力を変化させるものである。このようにすれば、実用的な態様で前記電動機の回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0009】
前記第1発明乃至第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記自動変速機のダウン変速は、ブレーキペダルの踏込操作が行われた状態におけるコーストダウン変速であり、前記自動変速機のダウン変速時に前記電気式制動装置による制動力を変化させることによっては補償が不十分であると判断される場合に、前記ダウン変速に先立って、前記クラッチのトルク容量を低減させると共に、前記電気式制動装置及び前記電動機の少なくとも一方による制動力を前記クラッチのトルク容量低下分だけ増加させるものである。このようにすれば、前記電動機による回生量の確保が求められるコーストダウン変速に際して、前記電気式制動装置乃至電動機による補償制御を実行するためのトルクを実用的な態様で確保することができる。
【0010】
前記第1発明、第2発明、第1発明に従属する第3発明、及び第2発明に従属する第3発明の何れかに従属する本第4発明の要旨とするところは、前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力の変化に関して、車速が低いほど前記電動機の回生による制動力変化の割合を大きくするものである。このようにすれば、運転者の変速ショック感度が比較的高い低車速域において、前記電動機の回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0011】
前記第1発明、第2発明、第1発明に従属する第3発明、第2発明に従属する第3発明、第1発明に従属する第4発明、第2発明に従属する第4発明、及び第3発明に従属する第4発明の何れかに従属する本第5発明の要旨とするところは、前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力の変化に関して、要求減速度が小さいほど前記電動機の回生による制動力変化の割合を大きくするものである。このようにすれば、運転者の変速ショック感度が比較的高い低要求減速度領域において、前記電動機の回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0012】
前記第1発明、第2発明、第1発明に従属する第3発明、第2発明に従属する第3発明、第1発明に従属する第4発明、第2発明に従属する第4発明、第3発明に従属する第4発明、第1発明に従属する第5発明、第2発明に従属する第5発明、第3発明に従属する第5発明、及び第4発明に従属する第5発明の何れかに従属する本第6発明の要旨とするところは、前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力の変化に関して、前記自動変速機の変速比が大きいほど前記電動機の回生による制動力変化の割合を大きくするものである。このようにすれば、運転者の変速ショック感度が比較的高い低速段において、前記電動機の回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の駆動装置に備えられた自動変速機において複数のギヤ段を成立させる際の係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の駆動装置によるハイブリッド駆動を制御するために備えられた電気系統の要部を例示する図である。
【図4】図3の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図3の電子制御装置による補償制御における電動機の回生による制動力変化の割合の算出に用いられる、車速と回生による制動力変化の割合との関係の一例を示す図である。
【図6】図3の電子制御装置による補償制御における電動機の回生による制動力変化の割合の算出に用いられる、要求減速度と回生による制動力変化の割合との関係の一例を示す図である。
【図7】図3の電子制御装置による補償制御における電動機の回生による制動力変化の割合の算出に用いられる、自動変速機の変速段と回生による制動力変化の割合との関係の一例を示す図である。
【図8】図3の電子制御装置による本実施例のダウン変速時における補償制御について説明するタイムチャートである。
【図9】図3の電子制御装置による本実施例の変速時制動補償制御の要部を説明するフローチャートである。
【図10】本実施例との比較のために、従来技術によるダウン変速時の補償制御について説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、好適には、前記自動変速機のダウン変速に先立って、前記クラッチのトルク容量を低減させると共に、前記電気式制動装置による制動力をそのクラッチのトルク容量低下分だけ増加させるものである。この電気式制動装置は、好適には、各車輪に備えられたディスクブレーキやドラムブレーキ等の摩擦ブレーキであるホイールブレーキの係合状態を制御するための油圧を、フットブレーキペダルの踏込量に応じて電子制御装置から供給される油圧指令に基づいて調圧するものである。
【0015】
前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力を変化させる制御においては、前記電気式制動装置による制動力の低減が優先的に実行される。すなわち、前記ダウン変速中において低減すべき制動力全体に対する前記電気式制動装置の制動力変化の割合が可及的に大きくなるようにその割合を決定する。好適には、前記自動変速機のダウン変速中における補償タイミングは、前記電気式制動装置による制動力の低減を優先する。すなわち、好適には、前記ダウン変速中のトルク相においては、専ら前記電気式制動装置の制動力変化により補償制御を行う。好適には、前記ダウン変速中のイナーシャ相においては、前記電動機の回生トルクによる制動力及び前記電気式制動装置の制動力を共に変化させつつ、前記電気式制動装置による制動力の低減を優先的に実行する。
【0016】
前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力を変化させる制御において、好適には、シーケンシャル変速時すなわちシフト操作装置のシフトレバーが手動変速が可能なポジションとされている状態では、前記電動機の回生トルクによる制動力変化を優先する。すなわち、前記電動機の回生トルクによる制動力変化の割合が可及的に大きくなるようにその割合を決定する。
【0017】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の駆動装置10(以下、単に駆動装置10という)の構成を説明する骨子図である。この駆動装置10は、中心線(軸心)に対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心の下半分が省略されている。図1に示すように、本実施例の駆動装置10は、エンジン12と、電動機MGと、それらエンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路に設けられ係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチK0と、入力部材がそのクラッチK0に連結されたトルクコンバータ14と、そのトルクコンバータ14と駆動輪20との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機16と、その自動変速機16の出力軸に差動歯車装置(終減速機)18を介して接続された左右1対の駆動輪20とを、備えて構成されている。
【0019】
上記エンジン12は、上記駆動装置10の駆動力源(主動力源)であり、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。上記電動機MGは、駆動力を発生させるモータ(発動機)及び反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能を有するモータジェネレータである。斯かる構成から、本実施例の駆動装置10は、上記エンジン12及び電動機MGの少なくとも一方を走行用の駆動源として駆動される。すなわち、上記駆動装置10においては、専ら上記エンジン12を走行用の駆動源とするエンジン走行モード、専ら上記電動機MGを走行用の駆動源とするEV走行(モータ走行)モード、及び上記エンジン12及び電動機MGを走行用の駆動源とするハイブリッド走行モード等、複数の走行モードの何れかが選択的に成立させられる。
【0020】
前記クラッチK0は、例えば、油圧アクチュエータによって係合制御される多板式の油圧式摩擦係合装置であり、後述する油圧制御回路48から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至開放(完全開放)の間で制御されるようになっている。すなわち、上記油圧制御回路48から供給される油圧に応じてそのトルク容量が制御されるようになっている。前記クラッチK0が係合されることにより、前記エンジン12のクランク軸38と前記トルクコンバータ14のフロントカバー40との間の動力伝達経路における動力伝達が行われる(接続される)。前記クラッチK0が開放されることにより、前記エンジン12のクランク軸38とトルクコンバータ14のフロントカバー40との間の動力伝達経路における動力伝達が遮断される。前記クラッチK0がスリップ係合されることにより、前記エンジン12のクランク軸38とトルクコンバータ14のフロントカバー40との間の動力伝達経路においてそのクラッチK0のトルク容量(伝達トルク)に応じた動力伝達が行われる。
【0021】
前記トルクコンバータ14は、前記クラッチK0を介して前記エンジン12のクランク軸38に連結されたポンプ翼車14p、出力側部材に相当するタービン軸を介して前記自動変速機16に連結されたタービン翼車14t、及びそれらポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間に設けられたステータ翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。それらポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間には、その係合により上記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tを一体回転させるように構成されたロックアップクラッチ14lが設けられている。このクラッチ14lは、上記油圧制御回路48によりその係合状態が解放、スリップ係合(半係合)、乃至完全係合の間で制御されるように構成されている。上記ポンプ翼車14pは、例えばベーンポンプ等の機械式油圧ポンプ42に連結されており、そのポンプ翼車14pの回転に伴い斯かる油圧ポンプ42が駆動させられ、それにより上記油圧制御回路48等の元圧となる油圧が発生させられるように構成されている。
【0022】
前記自動変速機16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケースと表す)22内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置24を主体として構成されている第1変速部26と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置30を主体として構成されている第2変速部32とを、共通の軸心上に備え、入力軸34の回転を変速して出力軸36から出力する。この入力軸34は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では前記トルクコンバータ14のタービン軸である。出力軸36は出力回転部材に相当するものであり、例えば前記差動歯車装置18や左右1対の車軸等を順次介して前記左右の1対の駆動輪20を回転駆動する。
【0023】
上記第1遊星歯車装置24は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、及びリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は上記入力軸34に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能に上記ケース22に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、上記入力軸34に対して減速回転させられて、回転を上記第2変速部32へ伝達する。本実施例では、上記入力軸34の回転をそのままの速度で上記第2変速部32へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、上記入力軸34から上記第1遊星歯車装置24を経ることなく上記第2変速部32へ回転を伝達する直結経路PA1aと、上記入力軸34から上記第1遊星歯車装置24のキャリヤCA1を経て上記第2変速部32へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。上記入力軸34からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、及びリングギヤR1を経て上記第2変速部32へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で上記入力軸34の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
【0024】
前記第2遊星歯車装置28は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。前記第3遊星歯車装置30は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2及びP3、そのピニオンギヤP2及びP3を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2及びP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。前記第2遊星歯車装置28及び第3遊星歯車装置30では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、前記第2遊星歯車装置28のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、前記第2遊星歯車装置28のキャリヤCA2及び第3遊星歯車装置30のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、前記第2遊星歯車装置28のリングギヤR2及び第3遊星歯車装置30のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、前記第3遊星歯車装置30のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置28及び第3遊星歯車装置30は、キャリアCA2及びCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2及びR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置28のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置30の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0025】
上記第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介して前記ケース22に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である前記第1遊星歯車装置24のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して前記第1遊星歯車装置24のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。上記第2回転要素RM2(キャリヤCA2及びCA3)は、第2ブレーキB2を介して前記ケース22に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して前記入力軸34(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。上記第3回転要素RM3(リングギヤR2及びR3)は、前記出力軸36に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。上記第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。
【0026】
図2は、前記自動変速機16において複数のギヤ段(変速段)を成立させる際の係合装置(係合要素)の作動の組み合わせを説明する作動図表(係合作動表)である。この図2において、「○」は係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。このように、前記自動変速機16においては、上記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4(以下、特に区別しない場合には単にクラッチCと称する)、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合には単にブレーキBと称する)を選択的に係合させることにより、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が異なる複数の変速段(ギヤ段)例えば前進8段の多段変速が達成される。各変速段毎に異なる変速比は、前記第1遊星歯車装置24、第2遊星歯車装置28、及び第3遊星歯車装置30の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
【0027】
上記クラッチC及びブレーキBは、好適には、何れも多板式のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、図3に示す油圧制御回路48内に備えられた電磁制御弁の励磁・非励磁や電流制御により、上記クラッチC及びブレーキBそれぞれの係合状態が切り替えられると共に、解放時の過渡油圧等が制御されるように構成されている。この油圧制御回路48は、複数の電磁制御弁を備え、前記油圧ポンプ42から供給される油圧を元圧として前記駆動装置10における各部へ供給される油圧を調圧するものであり、後述する電子制御装置50等から供給される油圧指令に応じて、前記自動変速機16におけるクラッチC及びブレーキBのアクチュエータに供給される油圧、前記クラッチK0のアクチュエータに供給される油圧、及び前記ロックアップクラッチ14lのアクチュエータに供給される油圧等を調圧する。
【0028】
図3は、本実施例の駆動装置10によるハイブリッド駆動を制御するために備えられた電気系統の要部を例示する図である。この図3に示すように、前記駆動装置10は、ハイブリッド駆動制御用電子制御装置50、エンジン制御用電子制御装置52、及び電動機制御用電子制御装置54を備えている。これらの電子制御装置50、52、54は、何れもCPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェイス等から成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記エンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御、前記クラッチK0の係合制御、及び前記自動変速機16の変速制御をはじめとする各種制御を実行する。ここで、本実施例においては、上記電子制御装置52が主に前記エンジン12の駆動(出力トルク)制御を、上記電子制御装置54が主に前記電動機MGの駆動(出力トルク)制御を、上記電子制御装置50が上記電子制御装置52、54を介しての前記駆動装置10全体の駆動制御等を行う態様について説明するが、これら電子制御装置50、52、54は、必ずしも個別の制御装置として備えられたものでなくともよく、一体の制御装置として備えられたものであってもよい。上記電子制御装置50、52、54それぞれが更に個別の制御装置に分けて備えられたものであってもよい。
【0029】
図3に示すように、上記電子制御装置50には、前記駆動装置10の各部に設けられた各種センサやスイッチ等から各種信号が供給されるようになっている。すなわち、アクセル開度センサ60から運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル56の操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、車速センサ62から車速Vを表す信号、MG回転速度センサから前電動機MGの回転速度NMGを表す信号、出力軸回転速度センサから前記出力軸36の回転速度NOUTに対応する信号、ATF油温センサから前記自動変速機16等に供給される作動油の温度であるATF油温TATFに対応する信号、エンジン回転速度センサ64から前記エンジン12のクランク軸38の回転速度NEに対応する信号、バッテリSOCセンサ66から図示しないバッテリ(蓄電装置)の蓄電量であるバッテリSOCに対応する信号、或いはそのバッテリSOCに応じた入出力制限値すなわち入力制限値Win及び出力制限値Woutを表す信号、ブレーキセンサ68からブレーキ操作量すなわち車両制動のための運転席近傍に備えられたブレーキペダル58の踏込量QFBを表す信号等がそれぞれ上記電子制御装置50に供給されるようになっている。
【0030】
図3に示すように、前記電子制御装置50には、シフト操作装置70におけるシフトレバー72の操作位置を表す信号が供給されるようになっている。このシフト操作装置は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、又は「M」へ手動操作されるようになっている。この「P」ポジション(レンジ)は前記自動変速機16内の動力伝達経路を解放しすなわちその自動変速機16内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に前記出力軸36の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)である。「R」ポジションは前記自動変速機16の出力軸36の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)である。「N」ポジションは前記自動変速機16内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)である。「D」ポジションは前記自動変速機16の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)である。「M」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち変速可能な高速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
【0031】
「D」ポジションは前記自動変速機16の変速可能な例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第8速ギヤ段の範囲で自動変速制御が実行される制御様式である自動変速モードを選択するシフトポジションでもある。「M」ポジションは前記自動変速機16の各変速レンジの最高速側ギヤ段を超えない範囲で自動変速制御が実行されると共に上記シフトレバー72の手動操作により変更された変速レンジ(すなわち最高速側ギヤ段)に基づいて手動変速制御が実行される制御様式である手動変速モードを選択するシフトポジション(シーケンシャルシフトポジション)でもある。すなわち、「M」ポジションにおいては、上記シフトレバー72の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、上記シフトレバー72の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられており、「8」レンジ〜「L」レンジの何れかが上記シフトレバー72の「+」ポジション或いは「−」ポジションへの操作に応じて変更される。
【0032】
前記電子制御装置50からは、前記電子制御装置52、54へそれぞれ前記エンジン12の駆動制御及び前記電動機MGの駆動制御を行うための指令信号が出力されるようになっている。すなわち、前記電子制御装置52に対して、エンジントルク指令として、例えばエンジン出力制御装置44(図4を参照)を介して前記エンジン12の出力を制御するための信号である、そのエンジン12の吸気管に備えられた電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置による吸気管等への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、或いは点火装置によるエンジン12の点火時期を指令する点火信号等が出力される。前記電子制御装置54に対して、MGトルク指令として、インバータ46(図4を参照)を介して図示しないバッテリから前記電動機MGに対して供給される電気エネルギ等を制御するための指令信号が出力される。
【0033】
前記電子制御装置50からは、前記クラッチK0の係合状態を制御するために、前記油圧制御回路48に設けられた、そのクラッチK0の油圧アクチュエータに供給される油圧を調圧する電磁制御弁に対して、その電磁制御弁からの出力圧を制御するための油圧指令信号が出力される。前記ロックアップクラッチ14lの係合状態を制御するために、前記油圧制御回路48に設けられた、そのロックアップクラッチ14lの油圧アクチュエータに供給される油圧を調圧する電磁制御弁に対して、その電磁制御弁からの出力圧を制御するための油圧指令信号が出力される。前記自動変速機16の変速制御を行うために、前記油圧制御回路48に設けられた、前記クラッチC及びブレーキBそれぞれに対応する油圧アクチュエータに供給される油圧を調圧する電磁制御弁に対して、その電磁制御弁からの出力圧を制御するための油圧指令信号が出力される。
【0034】
図3に示すように、前記駆動装置10には、電気式制動装置74が備えられている。この電気式制動装置74は、各車輪76(駆動輪20を含む)に備えられた機械式ブレーキすなわちディスクブレーキやドラムブレーキ等の摩擦ブレーキであるホイールブレーキ78の係合状態を制御するための油圧を、前記油圧制御回路48に設けられた電磁制御弁により前記電子制御装置50から供給される油圧指令に基づいて調圧するものである。図3においては、1つの車輪76及びその車輪76に設けられたホイールブレーキ78のみを図示しているが、車両における複数(例えば前後左右4つ)の車輪76それぞれに設けられたホイールブレーキ78それぞれに対応して個別にその係合状態の制御が可能とされる。好適には、予め定められた関係から、前記ブレーキセンサ68により検出されるブレーキペダル58の踏込量QFBに応じて、各ホイールブレーキ78による制動力を制御する。更に好適には、前記ブレーキセンサ68により検出されるブレーキペダル58の踏込量QFBに応じて、各ホイールブレーキ68による制動力と前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力との最適な割合を算出し、その割合となるように各車輪76のホイールブレーキ78の係合状態及び前記電動機MGの駆動を制御する。すなわち、本実施例の駆動装置10は、好適には、電子制御ブレーキ(Electronic Control Brake:ECB)を備えている。
【0035】
図4は、前記電子制御装置50、52、54等に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。好適には、この図4に示すハイブリッド駆動制御部80、クラッチ係合制御部86、制動制御部88、摩擦ブレーキ係合制御部90、及び変速制御部92は、何れも前記電子制御装置50に機能的に備えられるものであるが、これらの制御機能は、前記電子制御装置50、52、54の何れに備えられたものであってもよく、更にはそれら前記電子制御装置50、52、54とは別の制御装置に備えられたものであってもよい。上記ハイブリッド駆動制御部80は、エンジン駆動制御部82及び電動機駆動制御部84を含んでおり、そのエンジン駆動制御部82が前記電子制御装置52に、電動機駆動制御部84が前記電子制御装置54に機能的に備えられるというように、それらの制御機能が前記電子制御装置50、52、54に分散的に備えられると共に各電子制御装置50、52、54相互間で情報の送受信を行うことで処理を実行するものであっても構わない。
【0036】
図4に示すハイブリッド駆動制御部80は、前記駆動装置10によるハイブリッド駆動制御を行う。具体的には、前記エンジン出力制御装置44を介して前記エンジン12の駆動を制御すると共に、前記インバータ46を介して前記電動機MGの駆動(力行)乃至発電(回生)を制御する。斯かる制御を行うために、エンジン駆動制御部82及び電動機駆動制御部84を含んでいる。以下、これらの制御機能について分説する。
【0037】
前記エンジン駆動制御部82は、基本的には、前記エンジン出力制御装置44を介して前記エンジン12の駆動を制御する。具体的には、前記エンジン12の出力が前記電子制御装置50により算出される目標エンジン出力(目標回転速度乃至目標出力トルク)となるように、前記エンジン12の吸気管に備えられた電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置による吸気管等への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、及び点火装置による前記エンジン12の点火時期を指令する点火信号等を、前記電子制御装置52を介して前記エンジン出力制御装置44へ供給する。
【0038】
前記電動機駆動制御部84は、基本的には、前記インバータ46を介して前記電動機MGの作動を制御する。具体的には、前記電動機MGの出力が前記電子制御装置50により算出される目標電動機出力(目標回転速度乃至目標出力トルク)となるように、図示しないバッテリと前記電動機MGとの間の電気エネルギの入出力を制御するための信号を、前記電子制御装置54を介して前記インバータ46へ供給する。
【0039】
前記ハイブリッド駆動制御部80は、前記エンジン駆動制御部82及び電動機駆動制御部84を介して前記駆動装置10によるハイブリッド駆動制御を行う。例えば、予め定められて記憶装置に記憶された図示しないマップから、アクセル開度センサ60により検出されるアクセル操作量ACC及び車速センサ62により検出される車速V等に基づいて、前記車輪14に伝達されるべき駆動力の目標値である要求駆動力Freqを算出し、算出されたその要求駆動力Freqに応じて、低燃費で排ガス量の少ない運転となるように前記エンジン12及び電動機MGの少なくとも1つから要求出力を発生させる。すなわち、前記エンジン12を停止させると共に前記電動機MGを駆動源とするモータ走行モード(EVモード)、専ら前記エンジン12を駆動源としてその動力を機械的に前記駆動輪20に伝えて走行するエンジン走行モード、及び前記エンジン12及び電動機MGを共に駆動源として走行するハイブリッド走行モード等を、車両の走行状態に応じて選択的に成立させる。
【0040】
前記ハイブリッド駆動制御部80は、好適には、前記バッテリSOCセンサ66により検出されるバッテリSOCに基づいて、前記エンジン12が停止させられる走行モードであるモータ走行モードと、そのエンジン12の駆動が行われる走行モードであるエンジン走行モード乃至ハイブリッド走行モードとの切替制御を行う。例えば、前記バッテリSOCセンサ66により検出されるバッテリSOCが予め定められた閾値Sboより大きい場合には、前記エンジン12が停止させられる走行モードであるモータ走行モードを成立させる一方、バッテリSOCが上記閾値Sbo以下である場合には、前記エンジン12の駆動が行われる走行モードであるエンジン走行モード乃至ハイブリッド走行モードを成立させる。好適には、前記アクセル開度センサ60により検出されるアクセル操作量ACC及び車速センサ62により検出される車速V等に基づいて斯かる走行モードの切替制御を行うものであってもよい。
【0041】
前記クラッチ係合制御部86は、前記クラッチK0の係合制御を行う。具体的には、前記油圧制御回路48から前記クラッチK0の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御することで、そのクラッチK0の係合状態を制御する。すなわち、斯かる制御により、前記クラッチK0を係合(完全係合)、スリップ係合(半係合)、乃至解放(完全解放)させる。例えば、前記ハイブリッド駆動制御部80により前記エンジン12が停止させられる走行モードであるモータ走行モード等が成立させられる場合には、前記油圧制御回路48を介して前記クラッチK0を解放させることで、前記エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路を遮断する。前記ハイブリッド駆動制御部80により前記エンジン12の駆動が行われる走行モードであるエンジン走行モード乃至ハイブリッド走行モード等が成立させられる場合には、前記油圧制御回路48を介して前記クラッチK0を係合させることで、前記エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路を接続する。
【0042】
前記制動制御部88は、前記ブレーキセンサ68により検出されるブレーキペダル58の踏込量QFBに基づいて、前記電気式制動装置74及び電動機MGによる前記駆動装置10における制動制御を行う。摩擦ブレーキ係合制御部90は、前記油圧制御回路48を介して前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78の係合状態を制御する。すなわち、各ホイールブレーキ78による制動力を制御する。前記制動制御部88は、好適には、予め定められた関係から、前記ブレーキセンサ68により検出されるブレーキペダル58の踏込量QFBに基づいて、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力と前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力との最適な割合を算出する。前記各ホイールブレーキ78それぞれの制動力及び前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力がその算出された割合となるように、前記摩擦ブレーキ係合制御部90により前記油圧制御回路48を介して前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78の係合状態を制御すると共に、前記電動機駆動制御部84により前記電動機MGの駆動(回生)を制御する。
【0043】
前記変速制御部92は、前記自動変速機16による変速を制御する。例えば、予め定められた関係(変速マップ)から車両の走行状態例えば前記アクセル開度センサ60により検出されるアクセル操作量ACC及び前記車速センサ62により検出される車速V等に基づいて前記自動変速機16において成立させられるべき変速段を判定し、判定された変速段が成立させられるように前記油圧制御回路48を介して前記自動変速機16における各クラッチC及びブレーキBの係合乃至解放を制御する。すなわち、各クラッチC乃至ブレーキBに対応して前記油圧制御回路48に備えられた電磁制御弁の出力圧を制御することにより、各クラッチC及びブレーキBにそれぞれ供給される油圧を制御することで斯かる変速制御を行う。
【0044】
前記制動制御部88は、前記自動変速機16のダウン変速時すなわち高速段(比較的変速比が小さい変速段)から低速段(比較的変速比が大きい変速段)への変速時に、変速ショックを低減させるために補償制御を実行する。具体的には、前記自動変速機16のダウン変速時に、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78によるによる制動力及び前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力の少なくとも一方を変化させる。好適には、前記自動変速機16のダウン変速時における減速感を抑制するために、前記電動機駆動制御部84及び摩擦ブレーキ係合制御部90を介して、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力及び前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力の少なくとも一方を減少させる制御を行う。
【0045】
前記制動制御部88は、前記クラッチK0が係合された状態からの前記自動変速機16のダウン変速に先立って(少なくともそのダウン変速のトルク相開始前に)、そのクラッチK0のトルク容量を低減させると共に、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力及び前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力の少なくとも一方を変化させる予備制御を実行する。好適には、前記自動変速機16によるコーストダウン変速すなわち前記ブレーキペダル58の踏込操作が行われた状態(ブレーキオン)におけるダウン変速に際して斯かる予備制御を実行する。好適には、前記クラッチK0が係合された状態からの前記自動変速機16のダウン変速に先立って、前記クラッチ係合制御部86を介して前記クラッチK0のトルク容量を低減させて好適には零とすると共に、前記電動機駆動制御部84及び摩擦ブレーキ係合制御部90を介して、前記電気式制動装置74及び前記電動機MGの少なくとも一方による制動力をそのクラッチK0のトルク容量低下分だけ増加させる予備制御を行う。更に好適には、前記クラッチ係合制御部86を介して前記クラッチK0のトルク容量を低減させると共に、前記摩擦ブレーキ係合制御部90を介して前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力をそのクラッチK0のトルク容量低下分だけ増加させる予備制御を行う。
【0046】
前記制動制御部88は、好適には、前記自動変速機16のダウン変速時に、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力を変化させることによっては補償制御が不十分であると判断される場合に前記予備制御を実行する。例えば、予め定められた関係から、前記自動変速機16において現時点で成立させられている変速段、ダウン変速後の変速段、及び前記車速センサ62により検出される車速V等に基づいて、前記自動変速機16のダウン変速時における補償制御において必要とされる補償量を算出する。この補償量とは、例えば前記補償制御において低減すべき制動力乃至その制動力低減分に対応する前記ホイールブレーキ78の油圧減少量等である。前記制動制御部88は、上述のようにして算出された補償量が前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78の制動力の変化により達成できるか否か(その補償量をホイールブレーキ78の制動力の変化によりまかなえるか否か)を判定する。斯かる判定が肯定される場合には、前記予備制御を非実行とする一方、判定が否定される場合には、前記予備制御を実行する。
【0047】
前記制動制御部88は、好適には、前記自動変速機16のダウン変速時における補償制御において、そのダウン変速に係るトルク相においては、少なくとも前記電気式制動装置74による制動力を変化させる補償制御を行い、そのダウン変速に係るイナーシャ相においては、少なくとも前記電動機MGによる制動力を変化させる補償制御を行う。すなわち、対象となるダウン変速に係るトルク相において、前記摩擦ブレーキ係合制御部90を介して少なくとも前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力を減少(低減)させる制御を行い、対象となるダウン変速に係るイナーシャ相において、前記電動機駆動制御部84を介して少なくとも前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力を減少(低減)させる制御を行う。
【0048】
前記制動制御部88は、好適には、前記自動変速機16のダウン変速時における補償制御において、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力及び前記電動機MGの回生ブレーキによる制動力を変化させると共に、車両の状態に基づいて前記電動機MGの回生による制動力変化の割合(電気式制動装置74による制動力変化の割合)を変更する。すなわち、前記補償制御において低減すべき制動力全体に対する前記電動機MGの回生による制動力変化の割合(受け持ち分)を変更する。好適には、前記補償制御において、低減すべき制動力全体に対する前記電気式制動装置74の制動力変化による補償を優先する。すなわち、前記電気式制動装置74の制動力変化による補償量が可及的に大きくなるようにその前記補償制御において低減すべき制動力全体に対する前記電気式制動装置74の制動力変化の割合(電動機MGの回生による制動力変化の割合)を決定する。
【0049】
前記制動制御部88は、好適には、予め定められた関係から車速Vに基づいて前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を算出する。斯かる制御は、好適には、対象となるダウン変速に係るイナーシャ相における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合の算出に適用される。図5は、前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合の算出に用いられる、車速Vと回生による制動力変化の割合との関係の一例を示す図である。前記制動制御部88は、好適には、この図5に示すような関係から前記車速センサ62により検出される車速Vに基づいて前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を算出する。図5に示すように、上記関係は、好適には、車速Vが低いほど前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合が大きくなるように予め定められたものである。すなわち、前記制動制御部88は、好適には、前記車速センサ62により検出される車速Vが低いほど前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を増加させる。
【0050】
前記制動制御部88は、好適には、予め定められた関係から要求減速度Breqに基づいて前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を算出する。斯かる制御は、好適には、対象となるダウン変速に係るイナーシャ相における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合の算出に適用される。図6は、前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合の算出に用いられる、要求減速度Breqと回生による制動力変化の割合との関係の一例を示す図である。前記制動制御部88は、好適には、前記ブレーキセンサ68により検出されるブレーキペダル56の踏込量QFBに基づいて車両に要求される減速度である要求減速度Breqを算出し、この図6に示すような関係からその算出された要求減速度Breqに基づいて前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を算出する。図6に示すように、上記関係は、好適には、要求減速度Breqが低いほど前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合が大きくなるように予め定められたものである。すなわち、前記制動制御部88は、好適には、上記のようにして算出される要求減速度Breqが低いほど前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を増加させる。
【0051】
前記制動制御部88は、好適には、予め定められた関係から前記自動変速機16の変速比γ(成立させられている変速段)に基づいて前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を算出する。斯かる制御は、好適には、対象となるダウン変速に係るイナーシャ相における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合の算出に適用される。図7は、前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合の算出に用いられる、前記自動変速機16の変速段と回生による制動力変化の割合との関係の一例を示す図である。前記制動制御部88は、好適には、この図7に示すような関係から前記自動変速機16の変速比γ(成立させられている変速段)に基づいて前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を算出する。図7に示すように、上記関係は、好適には、前記自動変速機16の変速比γが大きいほど(低速段になるほど)前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合が大きくなるように予め定められたものである。すなわち、前記制動制御部88は、好適には、前記自動変速機16の変速比γが大きいほど前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を増加させる。
【0052】
前記制動制御部88は、好適には、シーケンシャル変速時すなわち前記シフト操作装置70のシフトレバー72が「M」ポジションとされた状態では、前記補償制御において前記電動機MGの回生による制動力変化を優先する。すなわち、前記補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合が可及的に大きくなるようにその割合を決定する。手動変速が可能な前進走行ポジションが選択されたシーケンシャル変速時には、例えば前記シフトレバー72が「+」位置乃至「−」位置へ操作された場合における応答性が重視されるため、比較的応答性の高い前記電動機MGによる回生トルクでの補償を優先することが望ましい。特に、イナーシャ相における補償制御において、前記電動機MGによる回生トルクでの補償は、前記自動変速機16の入力回転速度(入力軸34の回転速度NIN)の上昇を促進するため、前記電動機MGによる回生トルクでの補償の必要性が高い。
【0053】
図10は、本実施例との比較のために、従来技術によるコーストダウン変速時の補償制御について説明するタイムチャートである。この図10に示す制御では、ダウン変速に先立つ予備制御を行わず、回生トルクの変化のみによって変速ショックを低減する補償制御を行う技術を例示しており、回生トルク及び車両前後Gに関して、斯かる補償制御を行った場合の変化を実線で、補償制御を行わない場合の変化を破線でそれぞれ示している。回生トルク(自動変速機入力軸トルク)に関しては、この破線で示す補償制御を行わない場合の変化が、走行制御指令トルクすなわち等パワー変速時の変化に相当する。油圧指令値に関して、コーストダウン変速に係る解放側係合要素の油圧変化を実線で、係合側係合要素の油圧変化を一点鎖線でそれぞれ示している。ブレーキ踏力は所定の踏込量QFB(>0)で一定に維持されている。
【0054】
図10に示す制御では、先ず、時点t1において、回生領域でのコーストダウン変速に係るトルク相が開始されている。この図10に示す例におけるコーストダウン変速は、解放側係合要素の解放及び係合側係合要素の係合により実現される所謂クラッチ・トゥ・クラッチ変速であり、斯かるクラッチ・トゥ・クラッチ変速においては比較的高い回生効率が見込まれる。電動機の回生トルクが比較的大きい状態においてクラッチ・トゥ・クラッチ変速が行われた場合、その変速に際して車両前後Gに比較的大きな落ち込みが発生し、減速感による変速ショックが懸念されることから、図10に示すように、トルク相及びイナーシャ相それぞれにおいて回生トルクを一時的に低減する補償制御が行われる。すなわち、コーストダウン変速に係るトルク相に対応する、時点t1においてトルク相が開始されてから時点t2においてイナーシャ相が開始されるまでの間、トルク相補償制御として太い矢印で示すように回生トルクが低減させられる。次に、コーストダウン変速に係るイナーシャ相に対応する、時点t2においてイナーシャ相が開始されてから時点t3においてイナーシャ相が終了するまでの間、イナーシャ相補償制御として太い矢印で示すように回生トルクが更に低減させられる。斯かる制御により、コーストダウン変速に際しての車両前後Gの落ち込みを低減している。すなわち、図10に示す制御では、トルク相補償制御及びイナーシャ相補償制御を何れも電動機による回生トルクの低減により実現している。
【0055】
上述した図10に示す制御では、コーストダウン変速開始前において、例えばバッテリ入力制限Winの許す範囲で最大限の回生トルクにより回生が行われると共に、不足分の補償量に関しては電気式制動装置における摩擦ブレーキを作動させて要求通りの減速度を出力している。しかし、回生領域でのコーストダウン変速に係る補償制御を電動機による回生トルクの変化のみにより実現する場合、回生効率が低下して燃費の悪化につながるという弊害がある。一方、電気式制動装置における摩擦ブレーキの制動力変化により前記補償制御を行うことを考えた場合、例えば変速開始前におけるその摩擦ブレーキの制動力(絶対値)が比較的小さい場合、前記補償制御において低減させるべき補償量をその制動力でまかなうことができず(摩擦ブレーキの制動力低減によっては十分な補償を行うことができず)、結果として電動機による回生トルクを低減させる必要が生じる。
【0056】
図8は、本実施例によるコーストダウン変速時の補償制御について説明するタイムチャートである。この図8に示す制御では、ダウン変速に先立つ予備制御を実行すると共に、回生トルクの変化及び摩擦ブレーキの制動力変化を併用する補償制御により変速ショックを低減する技術を例示しており、回生トルク、摩擦ブレーキトルク、及び車両前後Gに関して、斯かる補償制御を行った場合の変化を実線で、補償制御を行わない場合の変化を破線でそれぞれ示している。油圧指令値に関して、コーストダウン変速に係る解放側係合要素の油圧変化を実線で、係合側係合要素の油圧変化を一点鎖線でそれぞれ示している。ブレーキ踏力は所定の踏込量QFB(>0)で一定に維持されている。
【0057】
図8に示す制御では、前記エンジン12の連れ回り減速中におけるコーストダウン変速に先立ち、時点t1において、前記クラッチK0の解放が開始されている。このクラッチK0のトルク容量は零まで低下させられるものであってもよいし、所定値で保持されるものであってもよい(図8の制御では零まで低下させられている)。前記クラッチK0のトルク容量が所定値で保持される場合には、前記エンジン12の回転速度NEが零まで低下せず、変速終了後速やかにそのエンジン12の回転速度NEを上昇させることができる。このクラッチK0の解放が開始された後、前記電気式制動装置74による制動力がそのクラッチK0のトルク容量低下分に対応して増加させられると共に、前記エンジン12の回転速度NEが零まで低下させられている。
【0058】
次に、時点t2において、回生領域でのコーストダウン変速に係るトルク相が開始されている。この図8に示す例におけるコーストダウン変速は、解放側係合要素の解放及び係合側係合要素の係合により実現される所謂クラッチ・トゥ・クラッチ変速である。図8に示す制御では、コーストダウン変速に係るトルク相に対応する、時点t2においてトルク相が開始されてから時点t3においてイナーシャ相が開始されるまでの間、トルク相補償制御として太い矢印で示すように摩擦ブレーキすなわち前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78のブレーキトルクが低減させられている。このトルク相において、前記電動機MGの回生トルクによる制動力は変化させられていない。次に、コーストダウン変速に係るイナーシャ相に対応する、時点t3においてイナーシャ相が開始されてから時点t4においてイナーシャ相が終了するまでの間、イナーシャ相補償制御として太い矢印で示すように前記電動機MGの回生トルクが低減させられている。この回生トルクの低減と併行して、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78のブレーキトルクが更に低減させられている。このイナーシャ相補償制御における前記電動機MGの回生による制動力変化の割合(電気式制動装置74の制動力変化の割合)は、予め定められた関係から車速V、要求減速度Breq、自動変速機16の変速比γ等に応じて定められる。次に、時点t4において、イナーシャ相に合わせて前記電気式制動装置74の制動力が予備制御時の値まで増加させられる。次に、時点t5において、前記クラッチK0の係合が開始させられると共に、前記エンジン12の回転速度NEの上昇が開始させられる。このクラッチK0の係合制御と併行して、前記電気式制動装置74の制動力が予備制御開始前の値に復帰させられる。
【0059】
上述した図8に示す制御においては、前記エンジン12の連れ回り減速中におけるコーストダウン変速に先立ち、その変速に係るトルク相開始前に前記クラッチK0のトルク容量が低減され、好適には零とされる予備制御が行われることで、前記エンジン12のフリクション(摩擦)が低減される。この制御と併行して、摩擦ブレーキである前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78のブレーキトルクをそのエンジン12のフリクション低減分だけ増加させることで、車両前後Gの発生を抑制して加速度を一定に保っている。斯かる予備制御を行うことにより、コーストダウン変速前(例えば、変速が予測された時点)における前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78のブレーキトルクが比較的小さく、そのブレーキトルクによっては前記コーストダウン変速に係る補償制御における制動力低減分をまかなえないと判定される場合においても、トルク相開始前に前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78のブレーキトルクを十分に増加させることができ、その電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78のブレーキトルクを低減させる補償制御を行うことが可能となる。
【0060】
図8に示す制御においては、前記コーストダウン変速に係る補償制御において、前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78のブレーキトルクを低減させる補償制御を(電動機MGの回生トルクを低減させる補償制御に比して)優先的に実行している。前記補償制御においては、燃費向上のために前記電動機MGの回生トルクを低減させる補償は可及的に少なくすることが求められる。その補償制御において、前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78のブレーキトルクが不足する場合とは、すなわち要求減速度Breqが比較的小さい場合であり、運転者のブレーキ操作量が比較的小さく、変速ショックに対する感度が比較的高い場合に相当する。斯かる状態においては、制御性の高い前記電動機MGの回生トルクによる制動力変化で前記補償制御を行うことが好ましい。運転者のブレーキ操作量が比較的大きく、変速ショックに対する感度が比較的低い場合には、前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78による制動力変化で前記補償制御を行うことが好ましい。トルク相の開始は、係合側係合要素の油圧応答性に依存するものであり、その開始タイミングを精度よく検出することは困難である。従って、制御性が比較的低い前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78による制動力変化で前記補償制御を行っても問題は生じ難い。
【0061】
図9は、前記電子制御装置50による前記駆動装置10の変速時制動補償制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0062】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、予め定められた関係から車速V及びアクセル開度ACC等に基づいて前記自動変速機16のコーストダウン変速すなわち前記ブレーキペダル58の踏込操作が行われた状態におけるダウン変速が予測されたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、S1にて予測されたコーストダウン変速時の変速ショックを抑制する補償制御に関して、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78による制動力を変化させることによっては補償可能であるか否かが判断される。このS2の判断が肯定される場合には、S5以下の処理が実行されるが、S2の判断が否定される場合には、S3において、前記クラッチK0の解放制御が開始される。次に、S4において、摩擦ブレーキすなわち前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78のブレーキトルクを増加させる制御が行われる。
【0063】
次に、S5において、前記自動変速機16のコーストダウン変速が出力されたか否かが判断される。このS5の判断が否定されるうちは、S5の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S5の判断が肯定される場合には、S6において、例えば変速出力からの経過時間等に基づいて前記自動変速機16のコーストダウン変速に係るトルク相が開始されたか否かが判断される。このS6の判断が否定されるうちは、S6の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、トルク相補償制御として、前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78による制動力が低減させられる。次に、S8において、前記出力軸36の回転速度変化等に基づいて前記自動変速機16のコーストダウン変速に係るイナーシャ相が開始されたか否かが判断される。このS8の判断が否定されるうちは、S8の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S8の判断が肯定される場合には、S9以下の処理が実行される。
【0064】
S9においては、イナーシャ相補償制御として、前記電動機MGの回生トルクによる制動力が低減させられる。この制御に併せて、前記電気式制動装置74の各ホイールブレーキ78による制動力が低減させられるものであってもよく、各制動力の低減割合は、予め定められた関係から車速V、要求減速度Breq、自動変速機16の変速比γ等に応じて定められる。次に、S10において、前記出力軸36の回転速度変化等に基づいて前記自動変速機16のコーストダウン変速が完了したか否かが判断される。このS10の判断が否定されるうちは、S10の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S10の判断が肯定される場合には、S11において、前記クラッチK0の係合制御が開始される。次に、S12において、前記電気式制動装置74における各ホイールブレーキ78のブレーキトルクがS4の処理前の値に復帰させられた後、本ルーチンが終了させられる。
【0065】
以上の制御において、S9が前記電動機駆動制御部84の動作に、S3及びS11が前記クラッチ係合制御部86の動作に、S4、S7、及びS12が前記摩擦ブレーキ係合制御部90の動作に、S1、S5、及びS10が前記変速制御部92の動作にそれぞれ対応する。
【0066】
このように、本実施例によれば、前記クラッチK0が係合された状態からの前記自動変速機16のダウン変速に先立って、そのクラッチK0のトルク容量を低減させると共に、前記電気式制動装置74及び前記電動機MGの少なくとも一方による制動力を変化させる予備制御を実行するものであることから、前記電気式制動装置74乃至電動機MGにより変速ショックを低減するための補償制御を実行するのに必要なトルクを、前記クラッチK0のトルク容量低下分だけ確保することができるため、例えば前記電動機MGによる回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。すなわち、クラッチ係合状態からのダウン変速時における変速ショックの抑制と燃費の向上とを両立させるハイブリッド車両の駆動装置10を提供することができる。
【0067】
前記自動変速機16のダウン変速に係るトルク相においては、少なくとも前記電気式制動装置74による制動力を変化させる補償制御を行い、そのダウン変速に係るイナーシャ相においては、少なくとも前記電動機MGによる制動力を変化させる補償制御を行うものであるため、実用的な態様で前記電動機MGの回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0068】
前記自動変速機16のダウン変速は、ブレーキペダル58の踏込操作が行われた状態におけるコーストダウン変速であり、前記予備制御は、前記自動変速機16のダウン変速時に前記電気式制動装置74による制動力を変化させることによっては補償制御が不十分であると判断される場合に実行されるものであり、前記クラッチK0のトルク容量を低減させると共に、前記電気式制動装置74及び前記電動機MGの少なくとも一方による制動力をそのクラッチK0のトルク容量低下分だけ増加させるものであるため、前記電動機MGによる回生量の確保が求められるコーストダウン変速に際して、前記電気式制動装置74乃至電動機MGによる補償制御を実行するためのトルクを実用的な態様で確保することができる。
【0069】
前記補償制御は、車速Vが低いほど前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を大きくするものであるため、運転者の変速ショック感度が比較的高い低車速域において、前記電動機MGの回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0070】
前記補償制御は、要求減速度Breqが小さいほど前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を大きくするものであるため、運転者の変速ショック感度が比較的高い低要求減速度領域において、前記電動機MGの回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0071】
前記補償制御は、前記自動変速機16の変速比γが大きいほど前記電動機MGの回生による制動力変化の割合を大きくするものであるため、運転者の変速ショック感度が比較的高い低速段において、前記電動機MGの回生量の減少を抑制しつつ変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0072】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0073】
10:ハイブリッド車両の駆動装置、12:エンジン、16:自動変速機、20:駆動輪、58:ブレーキペダル、74:電気式制動装置、76:車輪、K0:クラッチ、MG:電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動機と、それらエンジンと電動機との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両の駆動装置であって、
前記クラッチが係合された状態からの前記自動変速機のダウン変速に先立って、前記クラッチのトルク容量を低減させると共に、電気的な指令に応じて車輪に制動力を発生させる電気式制動装置及び前記電動機の少なくとも一方による制動力を変化させることを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記自動変速機のダウン変速中のトルク相においては、少なくとも前記電気式制動装置による制動力を変化させ、前記ダウン変速中のイナーシャ相においては、少なくとも前記電動機による制動力を変化させるものである請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
前記自動変速機のダウン変速は、ブレーキペダルの踏込操作が行われた状態におけるコーストダウン変速であり、
前記自動変速機のダウン変速時に前記電気式制動装置による制動力を変化させることによっては補償が不十分であると判断される場合に、前記ダウン変速に先立って、前記クラッチのトルク容量を低減させると共に、前記電気式制動装置及び前記電動機の少なくとも一方による制動力を前記クラッチのトルク容量低下分だけ増加させるものである請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項4】
前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力の変化に関して、車速が低いほど前記電動機の回生による制動力変化の割合を大きくするものである請求項1から3の何れか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項5】
前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力の変化に関して、要求減速度が小さいほど前記電動機の回生による制動力変化の割合を大きくするものである請求項1から4の何れか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項6】
前記自動変速機のダウン変速中における前記電気式制動装置及び電動機による制動力の変化に関して、前記自動変速機の変速比が大きいほど前記電動機の回生による制動力変化の割合を大きくするものである請求項1から5の何れか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−67241(P2013−67241A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206192(P2011−206192)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】