説明

ハイブリッド車両用の排ガス浄化装置

【課題】内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができるハイブリッド車両用の排ガス浄化装置を提供すること。
【解決手段】排ガス浄化装置1は、エンジン(内燃機関)10及びモータを駆動源として備えるハイブリッド車両に用いられ、排ガス浄化用の触媒を担持してなると共に通電により加熱することができる電気加熱式の触媒担持体3をエンジン10の排気通路12に配設し、エンジン10の始動前に触媒担持体3を予め所定温度以上に加熱するよう構成されている。排気通路12における触媒担持体3よりも上流側には、排ガス中のHCを吸着するHC吸着材を備えてなるHC吸着体2が配設されている。HC吸着材は、ゼオライトを主成分とすると共に、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排ガスを浄化するためのハイブリッド車両用の排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気通路に排ガス浄化用の触媒を担持してなる電気加熱式の触媒担持体を配設したハイブリッド車両用の排ガス浄化装置が知られている。
例えば、特許文献1には、モータによる駆動から内燃機関による駆動に切り替える際、内燃機関の始動前に触媒担持体を予め加熱して触媒を活性状態にしておき、内燃機関始動直後の排ガス浄化効率を高めるハイブリッド車両用の排ガス浄化装置が開示されている。
【0003】
ところが、内燃機関の始動直後の排ガスには、有害成分であるHC(炭化水素)が大量に含まれている。そのため、このような高濃度のHCを含む排ガスが触媒担持体に流入すると、触媒担持体を予め加熱して触媒を活性状態にしておいたとしても、排ガス中のHCが十分に浄化されることなく触媒担持体を通過してしまう。すなわち、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを十分に浄化することができない。
【0004】
そこで、特許文献2〜5には、電気加熱式の触媒担持体の上流側にゼオライト等のHC吸着材を配設した排ガス浄化装置が開示されている。これらによれば、内燃機関の始動直後、排ガス中のHCを上流側のHC吸着材に一旦吸着させておき、その後、排ガスの温度上昇によってHC吸着材から脱離したHCを下流側の触媒担持体において浄化することができる。これらの排ガス浄化装置は、ハイブリッド車両に適用したものではないが、ハイブリッド車両にも同様に適用することができるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−338235号公報
【特許文献2】特開平5−31359号公報
【特許文献3】特開平9−94433号公報
【特許文献4】特開平11−81997号公報
【特許文献5】特開平11−81999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたハイブリッド車両用の排ガス浄化装置に、上記特許文献2〜5に開示された技術を適用したとしても、上述した問題を解消することはできない。
すなわち、上記特許文献2〜5に開示された技術は、内燃機関の始動直後、排ガス中のHCを上流側のHC吸着材に一旦吸着させるというものであるが、通常用いられるゼオライト等のHC吸着材は、吸着したHCの脱離量が最も多くなる温度(HC脱離ピーク温度)が100℃付近と非常に低い。
【0007】
そのため、排ガスの温度上昇に伴ってHC吸着材が100℃前後になったところで、吸着したHCが早々に脱離してしまい、低温で液化した状態、つまり反応性が低く、浄化され難い状態で触媒担持体に流入することになる。そうすると、触媒担持体を予め加熱して触媒を活性状態にしておいたとしても、排ガス中のHCが十分に浄化されることなく触媒担持体を通過してしまう。すなわち、上述した問題を解消することはできない。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができるハイブリッド車両用の排ガス浄化装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内燃機関及びモータを駆動源として備えるハイブリッド車両に用いられ、排ガス浄化用の触媒を担持してなると共に通電により加熱することができる電気加熱式の触媒担持体を上記内燃機関の排気通路に配設し、上記内燃機関の始動前に上記触媒担持体を予め所定温度以上に加熱するよう構成された排ガス浄化装置であって、
上記排気通路における上記触媒担持体よりも上流側には、排ガス中のHCを吸着するHC吸着材を備えてなるHC吸着体が配設されており、
上記HC吸着材は、ゼオライトを主成分とすると共に、HC脱離ピーク温度が180℃以上であることを特徴とするハイブリッド車両用の排ガス浄化装置にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
上記排ガス浄化装置は、ハイブリッド車両に用いられるものであり、上記内燃機関の始動前に上記触媒担持体を予め所定温度以上に加熱するよう構成されている。そして、上記触媒担持体の上流側には、上記HC吸着体が配設されており、該HC吸着体におけるHC吸着材は、ゼオライトを主成分とすると共に、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。これにより、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。
【0011】
具体的には、内燃機関の始動直後に排出される排ガスに多量に含まれるHCは、触媒担持体の上流側に配設されたHC吸着体のHC吸着材に一旦吸着される。ここで、ゼオライトを主成分とするHC吸着材は、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。すなわち、HC吸着材に吸着されたHCの脱離量が最も多くなる温度が180℃以上と従来のHC吸着材に比べて非常に高い。
【0012】
そのため、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを従来に比べてより長い時間、より高い温度となるまでHC吸着材に吸着しておくことができる。これにより、低温で液化した状態、つまり反応性が低く、浄化され難い状態のHCがHC吸着材から早々に脱離して触媒担持体に流入し、十分に浄化されることなく触媒担持体を通過してしまうといったことを抑制することができる。
【0013】
そして、排ガスの温度上昇に伴ってHC吸着材の温度がHC脱離ピーク温度(180℃以上の温度)前後になると、HC吸着材に吸着されたHCが気化した状態、つまり反応性が高い状態で脱離する。ここで、HC吸着体(HC吸着材)の下流側にある触媒担持体は、内燃機関の始動前から加熱されており、担持された触媒の活性を高めた状態にある。そのため、HC吸着材から脱離したHCをその下流側の触媒担持体において十分に浄化することができる。これにより、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。
【0014】
このように、本発明によれば、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができるハイブリッド車両用の排ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、排ガス浄化装置の構成を示す説明図。
【図2】実施例1における、(a)HC吸着体を示す説明図、(b)HC吸着体の径方向断面を示す説明図。
【図3】実施例1における、(a)電気加熱式の触媒担持体を示す説明図、(b)電気加熱式の触媒担持体の径方向断面を示す説明図。
【図4】実施例2における、昇温脱離試験の結果を示すグラフ。
【図5】実施例3における、各試料のHC浄化率を示すグラフ。
【図6】実施例4における、排ガス浄化装置の構成を示す説明図。
【図7】実施例4における、(a)追加触媒担持体を示す説明図、(b)追加触媒担持体の径方向断面を示す説明図。
【図8】実施例5における、(a)HC吸着体を示す説明図、(b)HC吸着体の径方向断面を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記排ガス浄化装置は、ハイブリッド車両に用いられるものであり、モータによる駆動から内燃機関による駆動に切り替える際、その内燃機関を始動する前に上記触媒担持体を予め所定温度以上に加熱しておくタイプのものである。
内燃機関を始動する前に、触媒担持体に担持された触媒を活性状態にしておくためには、触媒担持体を例えば触媒の活性が得られる300℃以上に加熱しておくことが好ましく、特に500℃以上に加熱しておくことが好ましい。
【0017】
また、上記触媒担持体の上流側に配置された上記HC吸着材は、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。
上記HC吸着材のHC脱離ピーク温度が180℃未満の場合には、低温で液化した状態、つまり反応性が低く、浄化され難い状態のHCがHC吸着材から脱離して触媒担持体に流入し、十分に浄化されることなく触媒担持体を通過してしまうおそれがある。
【0018】
また、上記HC吸着材のHC脱離ピーク温度とは、HC吸着材に吸着されたHCの脱離量が最も多くなる温度のことである。
また、上記HC吸着材のHC脱離ピーク温度は、例えば、昇温脱離ガス分析装置を用いた昇温脱離試験を行うことにより求めることができる。具体的には、対象となるHC吸着材にHCを吸着させ、そのHC吸着材を昇温させた場合のHCの脱離量の挙動をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)等で分析することにより求めることができる。
【0019】
また、上記HC吸着材は、Cs修飾型ゼオライトを主成分とすることが好ましい(請求項2)。
この場合には、HC吸着材のHC脱離ピーク温度を確実に180℃以上とすることができる。そのため、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。また、アルカリ金属を含むCs修飾型ゼオライトは、優れた吸水性を有しているため、下流側に配設された触媒担持体への被水を防止することができる。
なお、Cs修飾型ゼオライトとは、アルカリ金属であるCsでゼオライトの構成元素であるAlが置換、修飾されたゼオライトのことである。
【0020】
また、上記HC吸着材の主成分となるゼオライトは、一般的に、Si(珪素)、Al(アルミニウム)及びO(酸素)からなる三次元の四面体構造を基本単位として形成された結晶構造を有する。
上記ゼオライトとしては、例えば、中細孔(10員環)のMFI、FER、大細孔(12員環)のBEA、FAU、MOR等の構造を有するものを用いることができる。ここで、員環数とは、環構造中に含まれる酸素原子の数のことである。
【0021】
また、上記ゼオライトにおいて、中細孔(10員環)の構造のうち、FER構造は、MFI構造よりも細孔が小さく、C2クラスからC3クラスの低級HCの吸着性能が高いという特徴がある。一方、MFI構造は、C3クラスから芳香族分(ベンゼン環付でC7クラス)までの広い範囲でHCの吸着が可能であるという特徴がある。また、MFI構造は、Si/Al比を高く維持することができるため、耐熱性が高いという特徴がある。
【0022】
また、上記ゼオライトにおいて、大細孔(12員環)の構造のうち、BEA構造は、骨格細孔内の交差点に空間を有しており、FAU構造、MOR構造に比べて実際の排ガス中のHC成分の吸着性能が高いという特徴がある。また、BEA構造は、Si/Al比を高く維持することができるため、耐熱性が高いという特徴がある。
【0023】
また、上記ゼオライトとしては、上記の中細孔(10員環)、大細孔(12員環)等の構造を有するものを単独で又は組み合わせて用いることができる。特に広い範囲でHCを吸着するためには、中細孔(10員環)の構造を有するものと大細孔(12員環)の構造を有するものとを組み合わせて用いることが好ましい。特に、耐熱性の高いMFI構造とBEA構造との組み合わせが好ましい。
【0024】
また、上記HC吸着体の重量は、上記触媒担持体の重量以下であることが好ましい。また、上記HC吸着体の重量は、上記触媒担持体の重量の1/4以下であることがより好ましい。
この場合には、HC吸着体の熱容量によって内燃機関始動後の排ガスの熱が奪われ、予め加熱しておいた触媒担持体の温度が低下してしまうことを防止することができる。
【0025】
また、電気加熱式の上記触媒担持体としては、従来公知の構成を採用することができる。例えば、C、SiC、Si−SiC、MoSi2等のセラミックス抵抗体、耐熱ステンレス箔等の金属箔、粉末冶金により耐熱性金属を成形してなる多孔質金属等からなる通電可能な基材に触媒を担持したものを用いることができる。また、セラミックス絶縁体等からなる基材に触媒を担持し、その基材にセラミックス抵抗体や高抵抗金属線等の抵抗発熱体を組み込んだものを用いることもできる。また、触媒を担持する基材としては、ハニカム構造体等を用いることができる。
また、上記触媒としては、従来公知の触媒を用いることができる。例えば、Pt、Pd、Rh等からなる三元触媒等を用いることができる。
【0026】
また、上記HC吸着体としては、耐熱衝撃性のあるセラミックス、金属等からなる基材にHC吸着材を被覆したものを用いることができる。また、HC吸着材を被覆する基材としては、ハニカム構造体等を用いることができる。
また、上記HC吸着体としては、例えば、該HC吸着体自体をHC吸着材により構成したものを用いることができる。すなわち、HC吸着体自体がHC吸着材であってもよい。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるハイブリッド車両用の排ガス浄化装置について説明する。
本例の排ガス浄化装置1は、図1〜図3に示すごとく、エンジン(内燃機関)10及びモータ(図示略)を駆動源として備えるハイブリッド車両に用いられ、排ガス浄化用の触媒32を担持してなると共に通電により加熱することができる電気加熱式の触媒担持体3をエンジン10の排気通路12に配設し、エンジン10の始動前に触媒担持体3を予め所定温度以上に加熱するよう構成されている。
【0028】
排気通路12における触媒担持体3よりも上流側には、排ガス中のHCを吸着するHC吸着材22を備えてなるHC吸着体2が配設されている。
HC吸着材22は、ゼオライトを主成分とすると共に、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。
以下、これを詳説する。
【0029】
図1に示すごとく、排ガス浄化装置1は、エンジン10及びモータを駆動源として備えるハイブリッド車両に用いられるものである。
排ガス浄化装置1は、エンジン10における排気管11内の排気通路12に配設された電気加熱式の触媒担持体3と、その触媒担持体3の上流側に配設されたHC吸着体2とを有する。
【0030】
図3(a)、(b)に示すごとく、電気加熱式の触媒担持体3は、排ガス浄化用の触媒32を触媒基材31に担持して構成されている。
図3(a)に示すごとく、触媒基材31は、四角形格子状に設けられた隔壁311と、隔壁311に囲まれた四角形状の多数のセル312と、外周側面を覆う筒状の外周壁313とを有するハニカム構造体である。触媒基材31は、SiCを主成分とする多孔質のセラミックス抵抗体からなる。
【0031】
図3(a)に示すごとく、触媒基材31の外周壁313には、一対の電極39が設けられている。そして、触媒担持体3は、触媒基材31を介して一対の電極39間に通電することにより、触媒基材31を加熱することができるよう構成されている。
図3(b)に示すごとく、触媒32は、触媒基材31の隔壁311の表面に被覆されている。触媒32は、Pt、Rh等からなる三元触媒である。
【0032】
図2(a)、(b)に示すごとく、HC吸着体2は、排ガス中のHCを吸着するHC吸着材22をHC吸着基材21に担持して構成されている。
図2(a)に示すごとく、HC吸着基材21は、四角形格子状に設けられた隔壁211と、隔壁211に囲まれた四角形状の多数のセル212と、外周側面を覆う筒状の外周壁213とを有するハニカム構造体である。HC吸着基材21は、コーディエライトを主成分とする多孔質のセラミックスからなる。
【0033】
図2(b)に示すごとく、HC吸着材22は、HC吸着基材21の隔壁211の表面に被覆されている。HC吸着材22は、MFI構造を有するCs修飾型ゼオライトを主成分とする。また、HC吸着材22は、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。本例においてHC吸着材22として用いたCs修飾型ゼオライトは、HC脱離ピーク温度が205℃である。
【0034】
図1に示すごとく、排ガス浄化装置1は、モータによる駆動からエンジン10による駆動に切り替える際、エンジン10を始動する前に触媒担持体3を予め所定温度以上(300℃以上)に加熱するよう構成されている。本例では、エンジン10の始動時において触媒担持体3に担持された触媒32が活性状態となるように、エンジン10を始動する前に、触媒担持体3を通電によって500℃に加熱するよう構成されている。
【0035】
次に、本例の排ガス浄化装置1の製造方法について説明する。
排ガス浄化装置1を構築するに当たっては、まず、触媒担持体3(図3)とHC吸着体2(図2)とを作製する。次いで、排気通路12の上流側にHC吸着体2を配置し、下流側に電気加熱式の触媒担持体3を配置する。
これにより、本例の排ガス浄化装置1(図1)を構築する。
【0036】
また、触媒担持体3を作製するに当たっては、触媒32の成分である三元触媒構成物としてのγアルミナ、セリア・ジルコニア複合酸化物、ジニトロジアンミン硝酸Pt溶液、塩化ロジウム、バインダーとしてのアルミナゾルを溶媒に分散させ、触媒スラリーを作製する。次いで、触媒スラリー中にハニカム構造体である触媒基材31を浸漬し、引き上げ、エアーブローする。そして、触媒基材31に塗布した触媒スラリーを150℃で乾燥させ、550℃で加熱する。これにより、触媒32を触媒基材31に担持してなる触媒担持体3を得る。
【0037】
また、HC吸着体2を作製するに当たっては、HC吸着材22の成分であるCs修飾型ゼオライト、バインダーとしてのシリカゾルを溶媒に分散させ、HC吸着材スラリーを作製する。次いで、HC吸着材スラリー中にハニカム構造体であるHC吸着基材21を浸漬し、引き上げ、エアーブローする。そして、HC吸着基材21に塗布したHC吸着材スラリーを150℃で乾燥させ、550℃で加熱する。これにより、HC吸着材22をHC吸着基材21に担持してなるHC吸着体2を作製する。
【0038】
次に、本例の排ガス浄化装置1の作用効果について説明する。
排ガス浄化装置1は、ハイブリッド車両に用いられるものであり、エンジン10の始動前に触媒担持体3を予め所定温度以上(300℃以上、本例では500℃)に加熱するよう構成されている。そして、触媒担持体3の上流側には、HC吸着体2が配設されており、HC吸着体2におけるHC吸着材22は、ゼオライトを主成分とすると共に、HC脱離ピーク温度が180℃以上である。これにより、エンジン10の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。
【0039】
具体的には、ハイブリッド車両は、まず、モータによる走行を開始する。そして、排ガス浄化装置1では、電気加熱式の触媒担持体3を通電により加熱し、エンジン10の始動に備える。
次いで、触媒担持体3を500℃まで昇温した後、エンジン10を始動させ、エンジン10による走行とバッテリーへの充電を開始する。
【0040】
このとき、エンジン10の始動直後に排出される排ガスに多量に含まれるHCは、触媒担持体3の上流側に配設されたHC吸着体2のHC吸着材22に一旦吸着される。ここで、ゼオライトを主成分とするHC吸着材22は、HC吸着材22に吸着されたHCの脱離量が最も多くなる温度(HC脱離ピーク温度)が180℃以上(本例では205℃)と従来のHC吸着材に比べて非常に高い。
【0041】
そのため、エンジン10の始動直後に排出される排ガス中のHCを従来に比べてより長い時間、より高い温度となるまでHC吸着材22に吸着しておくことができる。これにより、低温で液化した状態、つまり反応性が低く、浄化され難い状態のHCがHC吸着材22から早々に脱離して触媒担持体3に流入し、十分に浄化されることなく触媒担持体3を通過してしまうといったことを抑制することができる。
【0042】
そして、排ガスの温度上昇に伴ってHC吸着材22の温度がHC脱離ピーク温度(本例では205℃)前後になると、HC吸着材22に吸着されたHCが気化した状態、つまり反応性が高い状態で脱離する。ここで、HC吸着体2(HC吸着材22)の下流側に配設された触媒担持体3は、エンジン10の始動前から加熱されており、担持された触媒の活性を高めた状態にある。そのため、HC吸着材22から脱離したHCをその下流側の触媒担持体3において十分に浄化することができる。これにより、エンジン10の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。
【0043】
また、本例では、HC吸着材22は、Cs修飾型ゼオライトを主成分とする。そのため、HC吸着材22のHC脱離ピーク温度を確実に180℃以上とすることができる。そのため、エンジン10の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。また、アルカリ金属を含むCs修飾型ゼオライトは、優れた吸水性を有しているため、下流側に配設された触媒担持体3への被水を防止することができる。
【0044】
このように、本例によれば、エンジン10の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができるハイブリッド車両用の排ガス浄化装置1を提供することができる。
【0045】
(実施例2)
本例は、図4に示すごとく、本発明の排ガス浄化装置に用いたHC吸着材のHC脱離ピーク温度を評価した例である。
【0046】
本例では、実施例1でHC吸着材として用いたゼオライト(試料Z1)を準備し、HC脱離ピーク温度を求めた。試料Z1のゼオライトは、MFI構造を有するCs修飾型ゼオライトである。
また、本例では、比較として従来HC吸着材として用いられていたゼオライト(試料Z2)を準備し、同様にHC脱離ピーク温度を求めた。試料Z2のゼオライトは、MFI構造を有するH−ZSM5型ハイシリカゼオライト(Si/Al2=1880)である。
【0047】
各試料(Z1、Z2)のHC脱離ピーク温度は、昇温脱離ガス分析装置(TPD−R:リガク社製)を用いた昇温脱離試験を行うことにより求めた。
具体的には、まず、昇温脱離ガス分析装置に試料をセットする。次いで、試料に対して500℃の空気で1時間、前処理を行った後、25℃まで冷却する。次いで、試料に対してトルエン1000ppm、H2O3%、N2の混合ガスを吸着させる。次いで、25℃の空気でパージ(吸着水分を除去)し、HCの脱離がなくなったことを確認した後、昇温速度10℃/分の条件で600℃まで昇温する。そして、温度に対するHCの脱離量の挙動をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)にて分析し、HCの脱離量が最も多くなった温度をHC脱離ピーク温度として求めた。
【0048】
次に、昇温脱離試験の結果を図4に示す。同図は、横軸が温度(℃)、縦軸が脱離指数(a.u.)である。
同図からわかるように、従来のゼオライトである試料Z2は、HC脱離ピーク温度が92℃であった。一方、実施例1で用いたゼオライト(Cs修飾型ゼオライト)である試料Z1は、HC脱離ピーク温度が試料Z2に比べて高く、205℃であった。
【0049】
この結果から、本発明の排ガス浄化装置に用いたHC吸着材であるゼオライト(Cs修飾型ゼオライト)は、従来のゼオライトに比べてHC脱離ピーク温度が非常に高いことがわかった。
【0050】
(実施例3)
本例は、図5に示すごとく、本発明の排ガス浄化装置の排ガス浄化性能を評価した例である。
【0051】
本例では、実施例1と同様の構成の排ガス浄化装置(実施例E1)を準備し、排ガス浄化性能を評価した。
実施例E1の排ガス浄化装置は、上流側にHC吸着体、下流側に電気加熱式の触媒担持体を配設したものであり(図1参照)、HC吸着材がCs修飾型ゼオライト(実施例2の試料Z1と同様)である。上流側のHC吸着体におけるHC吸着材の担持量は110g/Lであり、下流側の触媒担持体における触媒の担持量はPt:1.5g/L、Rh:0.3g/Lである。
【0052】
また、本例では、比較としての排ガス浄化装置(比較例C1、C2)を準備し、同様に排ガス浄化性能を評価した。
比較例C1の排ガス浄化装置は、電気加熱式の触媒担持体のみを配設したものである。触媒担持体における触媒の担持量はPt:1.5g/L、Rh:0.3g/Lである。
比較例C2の排ガス浄化装置は、上流側にHC吸着体、下流側に電気加熱式の触媒担持体を配設したものであり、HC吸着材が従来のゼオライト(実施例2の試料Z2と同様)である。上流側のHC吸着体におけるHC吸着材の担持量は110g/Lであり、下流側の触媒担持体における触媒の担持量はPt:1.5g/L、Rh:0.3g/Lである。
【0053】
各排ガス浄化装置(実施例E1、比較例C1、C2)の排ガス浄化性能は、排ガス中のHCの浄化率により評価した。
具体的には、まず、ガソリンエンジン(直列4気筒、排気量2.4L)に排ガス浄化装置をセットする。次いで、エンジン回転数1200rpmの条件でモータリング後、エンジンを始動させる。次いで、エンジン始動から60秒後までのHC濃度を自動車排ガス分析装置(MEXA−9100D:ホリバ社製)にて計測する。そして、計測した排ガス浄化装置の入口のHC濃度と出口のHC濃度の濃度差分を入口のHC濃度で割ることにより、HC浄化率を求めた。
【0054】
次に、排ガス浄化性能(HC浄化率)の結果を図5に示す。同図は、縦軸がHC浄化率(%)である。
同図からわかるように、比較例C1、C2の排ガス浄化装置は、HC浄化率がそれぞれ45%、68%であった。一方、実施例E1の排ガス浄化装置は、比較例C1、C2の排ガス浄化装置に比べてHC浄化率が高く、82%であった。
【0055】
この結果から、本発明の排ガス浄化装置は、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができることがわかった。
【0056】
(実施例4)
本例は、図6、図7に示すごとく、排ガス浄化装置1の構成を変更した例である。
本例の排ガス浄化装置1は、図6に示すごとく、電気加熱式の触媒担持体3の下流側に、さらに追加触媒担持体4を有する。すなわち、排気通路12には、上流側から順にHC吸着体2、電気加熱式の触媒担持体3、追加触媒担持体4が配設されている。
【0057】
図7(a)、(b)に示すごとく、追加触媒担持体4は、排ガス浄化用の触媒42を触媒基材41に担持して構成されている。
図7(a)に示すごとく、触媒基材41は、四角形格子状に設けられた隔壁411と、四角形状の多数のセル412と、筒状の外周壁413とを有するハニカム構造体である。触媒基材41は、コーディエライトを主成分とする多孔質のセラミックスからなる。
図7(b)に示すごとく、触媒42は、触媒基材41の隔壁411の表面に被覆されている。触媒42は、Pt、Rh等からなる三元触媒である。
その他は、実施例1と同様の構成である。
【0058】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例の排ガス浄化装置1は、電気加熱式の触媒担持体3の下流側に、さらに追加触媒担持体4を有する。そのため、例えば、エンジン10の排気量が大きく、排ガス処理量が増えた場合であっても、排ガス中のHCを効率よく十分に浄化することができる。
【0059】
また、追加触媒担持体4には、その配置上、触媒担持体3を通過した排ガスが流入することになる。ここで、触媒担持体3は、エンジン10の始動前に予め加熱されている。そのため、追加触媒担持体4には、エンジン10の始動直後から、触媒担持体3を通過して暖められた排ガスが流入することになる。これにより、エンジン10の始動直後から、追加触媒担持体4に担持された触媒42の活性を高めることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0060】
(実施例5)
本例は、図8に示すごとく、HC吸着体2の構成を変更した例である。
本例のHC吸着体2は、図8(a)、(b)に示すごとく、HC吸着基材21の隔壁211の表面に被覆されたHC吸着材22上に、さらに追加HC吸着材23が形成されている。すなわち、HC吸着基材21の隔壁211の表面には、HC吸着材22及び追加HC吸着材23が順に積層されている。
【0061】
追加HC吸着材23は、BEA構造を有するベータゼオライト(H−BEA)を主成分とする。ベータゼオライト(H−BEA)は、HC吸着材22であるCs修飾型ゼオライトに比べてHC脱離ピーク温度が低く、95℃である。また、ベータゼオライト(H−BEA)は、HC吸着材22であるCs修飾型ゼオライトに比べてHC吸着量が5倍以上である。
その他は、実施例1と同様の構成である。
【0062】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例の場合には、HC脱離ピーク温度の高いHC吸着材22によって、内燃機関の始動直後に排出される排ガス中のHCをより長い時間、より高い温度となるまで吸着しておくことができる。そして、HC吸着量の多い追加HC吸着材23によって、HCをより多く吸着しておくことができる。これにより、HC吸着体2におけるHCの高温保持と吸着量の確保との両立が可能となる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【符号の説明】
【0063】
1 排ガス浄化装置
10 エンジン(内燃機関)
12 排気通路
2 HC吸着体
22 HC吸着材
3 触媒担持体
32 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及びモータを駆動源として備えるハイブリッド車両に用いられ、排ガス浄化用の触媒を担持してなると共に通電により加熱することができる電気加熱式の触媒担持体を上記内燃機関の排気通路に配設し、上記内燃機関の始動前に上記触媒担持体を予め所定温度以上に加熱するよう構成された排ガス浄化装置であって、
上記排気通路における上記触媒担持体よりも上流側には、排ガス中のHCを吸着するHC吸着材を備えてなるHC吸着体が配設されており、
上記HC吸着材は、ゼオライトを主成分とすると共に、HC脱離ピーク温度が180℃以上であることを特徴とするハイブリッド車両用の排ガス浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排ガス浄化装置において、上記HC吸着材は、Cs修飾型ゼオライトを主成分とすることを特徴とするハイブリッド車両用の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172522(P2012−172522A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32148(P2011−32148)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】