説明

ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置

【課題】システム効率を向上させることができるハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4のサンギヤSとの間に連結されたトルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出する滑り検出部12と、サンギヤSの回転数Nを第1モータジェネレータ3の回転数(MG1回転数)Nに一致させるためのエンジン2の目標回転数N′を算出するエンジン目標回転数算出部13と、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのシステム効率が、MG1回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのシステム効率より良好となるとの動作条件を満たす場合に、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ制御するエンジン制御部15と、動作条件を満たさない場合に、MG1回転数NをサンギヤSの回転数Nへ制御するMG1制御部16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリーズパラレル方式のハイブリッド車両の駆動装置において、エンジンの動力を発電機及び出力軸に分配する動力分割機構としてのプラネタリギヤにトルクリミッタを連結させ、過大なトルクがトルクリミッタに入力された場合に、トルクリミッタに滑りを発生させることで、過大なトルク伝達を防止することができる構成が知られている。例えば特許文献1には、このような構成においてトルクリミッタに滑りが発生した場合に、エンジン出力トルクを低下させることで、トルクリミッタの再係合時のショックを低減させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−042701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、トルクリミッタの滑り発生時には、エンジン出力トルクを低下させるためエンジン出力を制限する必要がある。このようなエンジン出力制限により、エンジン効率が低い動作点で運転される可能性があり、この結果、ハイブリッド車両用駆動装置のシステム効率が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、トルクリミッタを有するハイブリッド車両用駆動装置において、システム効率を向上させることができるハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンに連結されるキャリア、発電機に連結されるサンギヤ、及び出力軸に連結されるリングギヤを有するプラネタリギヤと、前記発電機と前記プラネタリギヤの前記サンギヤとの間に連結されたトルクリミッタと、を備えるハイブリッド車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出するのに応じて、前記サンギヤの回転数を前記発電機の回転数に一致させるための前記エンジンの目標回転数を算出し、前記エンジンの回転数を前記目標回転数へ変化させたときのシステム効率が、前記発電機の回転数を前記サンギヤの回転数へ変化させたときのシステム効率より良好となるとの動作条件を満たす場合に、前記エンジンの回転数が前記目標回転数となるよう前記エンジンを制御し、前記動作条件を満たさない場合に、前記発電機の回転数が前記サンギヤの回転数となるよう前記発電機を制御することを特徴とする。
【0007】
また、上記のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置において、前記動作条件とは、前記エンジンの前記目標回転数が共振回転数域から外れているとの動作条件であることが好ましい。
【0008】
同様に、上記のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置において、前記動作条件とは、前記エンジンの回転数を前記目標回転数へ変化させたときのエンジン効率が、前記発電機の回転数を前記サンギヤの回転数へ変化させたときのエンジン効率より良好となるとの動作条件であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置は、トルクリミッタの滑り発生に応じて、トルクリミッタに連結される第1モータジェネレータとサンギヤの回転数を一致させるための制御を行うときに、第1モータジェネレータと、サンギヤを連結駆動するエンジンとのうち、システム効率の良くなる方を選択して制御することが可能となるので、ハイブリッド車両用駆動装置のシステム効率を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態の制御装置によるトルクリミッタの滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態の制御装置により図2の滑り抑制処理が実施されたときのハイブリッド車両用駆動装置の第1モータジェネレータ及びプラネタリギヤの各ギヤの回転数の関係を示す共線図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、本実施形態の制御装置によるトルクリミッタの滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るハイブリッド車両用駆動装置の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。また、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0012】
[第1実施形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態の構成について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置10の概略構成を示す図である。
【0013】
本実施形態に係る制御装置10の制御対象であるハイブリッド車両用駆動装置1(以下「駆動装置」ともいう)は、シリーズパラレル方式のハイブリッド車両に搭載される駆動装置であり、図1に示すように、エンジン2と、第1モータジェネレータ(電動機)3(MG1とも表す)と、エンジン2の出力を第1モータジェネレータ3と出力軸側に分割して伝達する動力分割機構として機能するプラネタリギヤ4と、第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4との間で過度のトルク伝達を防止するためのトルクリミッタ5とを同軸上に配置する構成をとるものである。
【0014】
また、この駆動装置1は、第2モータジェネレータ(図示せず)を別軸上にさらに備え、この第2モータジェネレータの出力と、上記のプラネタリギヤ4により分割されたエンジン2の出力とが、車輪に連結された出力軸(図示せず)に伝達される構成をとる。
【0015】
なお、第1モータジェネレータ3及び第2モータジェネレータは、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能と、電力を発生させる発電機(ジェネレータ)としての機能とを選択的に作動させることができ、両者の機能はハイブリッド車両の運転状態によって適宜切り替えられるものであるが、主に第1モータジェネレータ3が発電機として機能し、第2モータジェネレータが電動機として機能する。
【0016】
プラネタリギヤ4は、サンギヤS、キャリアC、リングギヤRを備えるシングルピニオン式の遊星歯車機構であり、径方向内側に配置されるサンギヤSと、径方向外側にサンギヤSと同心円状に配置されるリングギヤRとの間にピニオンギヤPが噛合されて配置され、このピニオンギヤPをキャリアCが自転かつ公転自在に連結支持されて構成されている。この駆動装置1では、サンギヤSはトルクリミッタ5を介して第1モータジェネレータ3と連結されている。キャリアCは、エンジン出力軸2aと連結されており、エンジン出力軸2aを介してエンジン2と連結されている。リングギヤRは、カウンタギヤ6等を介して図示しない出力軸と連結されている。
【0017】
トルクリミッタ5は、プラネタリギヤ4と第1モータジェネレータ3との動力伝達経路上に連結され、プラネタリギヤ4と第1モータジェネレータ3との間に配設されている。トルクリミッタ5は、ハブ部材5aと、このハブ部材5aの径方向外側に配置されるドラム部材5bと、ハブ部材5a及びドラム部材5bとを連結する摩擦係合部5cとを備えて構成されている。ハブ部材5aは、プラネタリギヤ4のサンギヤSと連結されており、ドラム部材5bは、第1モータジェネレータ3のロータ軸3aと連結されている。そして、ハブ部材5aとドラム部材5bとが、摩擦係合部5cを介して動力伝達可能に連結されている。
【0018】
トルクリミッタ5の摩擦係合部5cは、ハブ部材5a及びドラム部材5bにそれぞれ複数枚を連結された摩擦板5dを交互に重ねて配置し、皿バネ5e等の押圧手段によって押圧することで、摩擦力によって動力伝達を行うと共に、摩擦係合部5cのトルク容量(限界トルク)を超える所定以上のトルクが伝達されたときに、摩擦板5dの摩擦力に抗ってハブ部材5aとドラム部材5bとを空転(相対回転)させることで、所定以上の過大なトルク伝達を防止するものである。
【0019】
このようなハイブリッド車両用駆動装置1を制御するための制御装置10は、図1に示すように、第1モータジェネレータ3の回転数を検出するための回転数センサ7と、エンジン2の回転数を検出するためのクランク角センサ8と、第2モータジェネレータの回転数を検出するための回転数センサ9と、エンジン2と、第1モータジェネレータ3とに接続されている。そして、回転数センサ7及びクランク角センサ8からの入力に基づきトルクリミッタ5の滑り発生を検出したときに、この滑りを抑制すべくエンジン2又は第1モータジェネレータ3のいずれか一方へ制御指令を出力するよう構成される。具体的には、制御装置10は、以下に説明するサンギヤ回転数算出部11、滑り検出部12、エンジン目標回転数算出部13、条件判定部14、エンジン制御部15、第1モータジェネレータ制御部16(MG1制御部とも表す)の各機能を実現するよう構成されている。
【0020】
サンギヤ回転数算出部11は、プラネタリギヤ4のサンギヤSの回転数Nを算出する。より詳細には、サンギヤ回転数算出部11は、クランク角センサ8から取得されたエンジン2の回転数N、出力軸の回転数(回転数センサ9から取得された第2モータジェネレータの回転数)、プラネタリギヤ4の各ギヤのギヤ比、プラネタリギヤ4の共線図などの情報に基づいて、サンギヤSの回転数Nを算出し、この回転数Nの情報を滑り検出部12に送信する。
【0021】
滑り検出部12は、トルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出する。具体的には、滑り検出部12は、サンギヤ回転数算出部11により算出されたサンギヤ回転数Nと、回転数センサ7から取得された第1モータジェネレータ3の回転数Nとを比較して、両者が非同一か否かを判別する。滑り検出部12は、サンギヤSの回転数N及び第1モータジェネレータ3の回転数Nが非同一であると判別した場合に、サンギヤSに連結されるハブ部材5aと、第1モータジェネレータ3に連結されるドラム部材5bとが同期しないで回転しており、ハブ部材5aとドラム部材5bとの間に滑りが発生しているものと判断し、トルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出する。滑り検出部12は、トルクリミッタ5の滑り発生を検出した場合には、滑り検出の旨の情報を第1モータジェネレータ制御部16に送信する。
【0022】
なお、回転数センサ7及びクランク角センサ8は、第1モータジェネレータ3の回転数Nとエンジン2の回転数Nを検出する要素の一例であって、他の要素を用いてもよい。
【0023】
エンジン目標回転数算出部13は、サンギヤSの回転数Nを第1モータジェネレータ3の回転数Nに一致させるためのエンジンの目標回転数N′を算出する。より詳細には、エンジン目標回転数算出部13は、滑り検出部12によるトルクリミッタ5の滑り発生の検出に応じて、サンギヤSの回転数Nと第1モータジェネレータ3の回転数Nとを一致させるためにエンジン2の回転数Nを制御する場合を仮定して、エンジンの目標回転数N′を求める。すなわち、目標回転数N′とは、エンジン2の回転数を目標回転数N′に変更させたときに、キャリアCを介してエンジン2と連結されているサンギヤSの回転数Nが、第1モータジェネレータ3の回転数Nと同一の回転数に遷移されうるエンジン回転数をいうものである。
【0024】
条件判定部14は、エンジン目標回転数算出部13により算出された目標回転数N′に基づき、この目標回転数N′が所定の動作条件を満たすか否かを判定する。この所定の動作条件とは、広義には、「エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときの駆動装置1のシステム効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのシステム効率より良好となること」として定めることができる。特に本実施形態では、条件判定部14は、「エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れていること」を、システム効率の優劣を判定するための具体的な動作条件として設定されている。
【0025】
つまり、条件判定部14は、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れていると判定した場合には、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときの駆動装置1のシステム効率は、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのシステム効率より向上し、動作条件を満たすものと判定することができる。一方、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域内であると判定した場合には、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときの駆動装置1のシステム効率は、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのシステム効率より低下し、動作条件を満たさないものと判定することができる。
【0026】
エンジン制御部15は、条件判定部14により上記の動作条件を満たすと判定された場合に、エンジン2の回転数Nが目標回転数N′となるようエンジン2を制御する。エンジン制御部15は、例えば、目標回転数N′を目標値として、エンジン2の回転数Nをフィードバック制御することで、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′と一致させることができる。
【0027】
第1モータジェネレータ制御部16は、条件判定部14により上記の動作条件を満たさないと判定された場合に、第1モータジェネレータ3の回転数NがサンギヤSの回転数Nとなるよう第1モータジェネレータ3を制御する。第1モータジェネレータ制御部16は、例えば、サンギヤSの回転数Nを目標値として、第1モータジェネレータ3の回転数Nをフィードバック制御することで、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nと一致させることができる。
【0028】
ここで、制御装置10は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有する電子制御ユニット(Electronic Control Unit:ECU)である。図1に示す制御装置10の各部の機能は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、CPUの制御のもとで車両内の各種装置を動作させるとともに、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。なお、制御装置10は、上記の各部の機能に限定されず、車両のECUとして用いるその他の各種機能を備えている。また、上記のECUとは、ハイブリッドシステム制御用のハイブリッドECU、エンジン制御用のエンジンECU、モータジェネレータ制御用のモータECUなどの複数のECUを備える構成であってもよい。
【0029】
次に、図2,3を参照して、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置10の動作について説明する。
【0030】
図2は、本実施形態の制御装置10によるトルクリミッタ5の滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。図2に示す処理は、制御装置10が、回転数センサ7及びクランク角センサ8などのセンサ類から供給される情報に基づいて、サンギヤ回転数算出部11、滑り検出部12、エンジン目標回転数算出部13、条件判定部14、エンジン制御部15、第1モータジェネレータ制御部16の各機能を実現することにより、実行することができる。また、図2に示す処理は、ハイブリッド車両用駆動装置1の定常走行時または加速走行時に所定間隔ごとに繰り返し実施することができる。
【0031】
まず、サンギヤ回転数算出部11により、クランク角センサ8から取得されたエンジン2の回転数N、出力軸の回転数(回転数センサ9から取得された第2モータジェネレータの回転数)、プラネタリギヤ4の各ギヤのギヤ比、プラネタリギヤ4の共線図などの情報に基づいて、サンギヤSの回転数Nが算出される(S101)。サンギヤ回転数算出部11は、算出したサンギヤSの回転数Nの情報を滑り検出部12に送信する。なお、サンギヤSに回転数センサなどを設け、サンギヤSの回転数Nを直接検出する構成としてもよい。
【0032】
次に、滑り検出部12により、サンギヤ回転数算出部11で算出されたサンギヤSの回転数Nと、回転数センサ7から取得された第1モータジェネレータ3の回転数Nとが比較され、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一か否かが判定される(S102)。第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一と判定された場合(S102のYES)、サンギヤSに連結されるトルクリミッタ5のハブ部材5aと、第1モータジェネレータ3に連結されるトルクリミッタ5のドラム部材5bとが同期せず回転しており、ハブ部材5aとドラム部材5bとの間に滑りが発生していると判断できる。そこで、この場合、滑り検出部12は、トルクリミッタ5に滑りが発生しているものと判断し、滑り発生を検出した旨の情報をエンジン目標回転数算出部13に送信して、ステップS103に移行する。
【0033】
一方、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが同一と判定された場合(S102のNO)、トルクリミッタ5のハブ部材5aとドラム部材5bが一体となって同期回転しており、トルクリミッタ5に滑りが発生していないものと判断し、この回の処理を終了する。
【0034】
次に、ステップS102において第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nとが非同一と判定された場合には、エンジン目標回転数算出部13により、サンギヤSの回転数Nを第1モータジェネレータ3の回転数Nに一致させるためのエンジン2の目標回転数N′が算出される(S103)。エンジン目標回転数算出部13は、算出したエンジン2の目標回転数N′の情報を条件判定部14に送信する。
【0035】
次に、条件判定部14により、まず、現在のエンジンの回転数N、第1モータジェネレータ3の回転数(MG1回転数)N、第2モータジェネレータの回転数(MG2回転数)Nが、全て正であるか否か、すなわち、エンジン2、第1モータジェネレータ3、第2モータジェネレータが全て正回転しているか否かが判定される(S104)。なお、MG2回転数Nは、第2モータジェネレータに設置された回転数センサ9により取得される。エンジンの回転数N、MG1回転数N、MG2回転数Nが、全て正であると判定された場合には、ステップS105に移行し、それ以外の場合には、ステップS107に移行する。
【0036】
ステップS104においてエンジンの回転数N、MG1回転数N、MG2回転数Nが、全て正であると判定された場合には、引き続き条件判定部14により、「エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れていること」との動作条件を満たすか否かが判定される(S105)。エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れており、動作条件を満たすと判定された場合には、ステップS106に移行する。一方、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域内であり、動作条件を満たさないと判定された場合には、ステップS107に移行する。
【0037】
そして、ステップS105において、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れており、動作条件を満たすと判定された場合には、エンジン2を回転数制御すればシステム効率が向上できるものとして、エンジン制御部15により、エンジン2の回転数Nが目標回転数N′となるようエンジン2が制御される(S106)。
【0038】
一方、ステップS105においてエンジン2の目標回転数N′が共振回転数域内であり、動作条件を満たさないと判定された場合、または、ステップS104において、エンジンの回転数N、MG1回転数N、MG2回転数Nの少なくとも一部が正でないと判定された場合には、第1モータジェネレータ制御部16により、第1モータジェネレータ3の回転数NがサンギヤSの回転数Nとなるよう第1モータジェネレータ3が制御される(S107)。
【0039】
図3は、本実施形態の制御装置10により図2の滑り抑制処理が実施されたときのハイブリッド車両用駆動装置1の第1モータジェネレータ3及びプラネタリギヤ4の各ギヤの回転数の関係を示す共線図である。図3に示す各共線図(a)〜(d)では、縦軸は、左から順に第1モータジェネレータ3、プラネタリギヤ4のサンギヤS、キャリアC、リングギヤRの回転数を示しており、横軸よりも上方が正回転、下方が負回転となる。サンギヤS、キャリアC、リングギヤRの回転数は、各共線図(a)〜(d)で、常に直線上に並ぶように連動しながら変化する。
【0040】
また、上述のように、第1モータジェネレータ3とサンギヤSとはトルクリミッタ5を介して連結されているので、トルクリミッタ5が係合している場合には、第1モータジェネレータ3とサンギヤSは一体となって同期回転する。この場合、第1モータジェネレータ3の回転数N及びサンギヤSの回転数Nは同一となり、共線図においては第1モータジェネレータ3とサンギヤSとを結ぶ直線は横軸と平行となる。また、キャリアCはエンジン2と一体となって同期回転するので、キャリアCの回転数はエンジン2の回転数Nと同一である。リングギヤRは出力軸と連動して回転するので、リングギヤRの回転数は出力軸のものと比例関係にある。
【0041】
各共線図(a)〜(d)では、それぞれ破線及び実線の2直線が描画されており、破線、実線の順で時系列の変化を表している。また、共線図(a)→(b)→(c)又は(d)の順でも時系列の変化を表している。さらに、共線図(a)の実線22及び共線図(b)の破線22、共線図(b)の実線23及び共線図(c),(d)の破線23はそれぞれ同時点の状態を表している。すなわち、図3では、共線図(a)の破線21→共線図(a)の実線22(共線図(b)の破線22)→共線図(b)の実線23(共線図(c),(d)の破線23)→共線図(c)の実線24a又は共線図(d)の実線24bの順で時系列の変化を表している。
【0042】
なお、図3に示す各共線図(a)〜(d)は、ハイブリッド車両の定常走行又は加速走行時における、第1モータジェネレータ3及びプラネタリギヤ4の各ギヤの回転数の関係の時系列変化を例示したものであり、リングギヤR、キャリアC、サンギヤS及び第1モータジェネレータ3の全てが正回転している。
【0043】
まず共線図(a)の破線21に示すように、ハイブリッド車両の走行時には、エンジン2及び第2モータジェネレータが駆動して、出力軸に動力が伝達される(すなわちリングギヤR及びキャリアCが正回転する)。また、サンギヤSも正回転し、このサンギヤSに連結される第1モータジェネレータ3はサンギヤSと一体となって正回転され、回生駆動されている。
【0044】
ここで、エンジン2の回転数が共振回転数域を通過することなどにより、エンジン2から過大なトルクが出力される場合がある。この場合、エンジン2からキャリアCを介してサンギヤSに過大なトルクが伝達され、トルクリミッタ5の摩擦係合部5cに滑りが発生して、トルクリミッタ5の係合が解除され、サンギヤSと第1モータジェネレータ3との間の連結が解除される。このとき、第1モータジェネレータ3の回生駆動のための負荷がサンギヤSから外れるので、共線図(a)の実線22(共線図(b)の破線22)に示すように、サンギヤSの回転数Nは正方向に増加する。一方、第1モータジェネレータ3の回転数Nは、トルクリミッタ5の滑り発生後には、エンジンから伝達される駆動力が無くなるため、共線図(b)の実線23(共線図(c),(d)の破線23)に示すように、成り行きで低減する。したがって、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nが相違することとなる。本実施形態の制御装置10の滑り検出部12は、このときにトルクリミッタ5の滑り発生を検出する。
【0045】
そして、特に本実施形態では、このようにトルクリミッタ5に滑りが発生して、第1モータジェネレータ3の回転数NとサンギヤSの回転数Nが相違したときに、再び両者を一致させるべくエンジン2又は第1モータジェネレータ3のいずれか一方を選択して制御する。この選択のために、本実施形態では、制御装置10のエンジン目標回転数算出部13により算出された目標回転数Ne′が、エンジン2の共振回転数域から外れているという動作条件を満たしているか否かを、条件判定部14が判定する。
【0046】
そして、条件判定部14により動作条件を満たしていると判定された場合には、共線図(c)の実線24aに示すように、エンジン制御部15が、エンジン2の回転数Nを目標回転数Ne′へ低減させる制御を行う。この結果、サンギヤSの回転数Nが低下し、第1モータジェネレータ3の回転数Nと略同一となる。
【0047】
一方、条件判定部14により動作条件を満たしていないと判定された場合には、エンジン回転数を変化させたとしても共振回転数域内のため再び過大トルクが発生し、トルクリミッタ5の滑りが再度発生する可能性が高い。このため、エンジン2を制御する代わりに、共線図(d)の実線24bに示すように、第1モータジェネレータ制御部16が、第1モータジェネレータの回転数Nを増加させる制御を行う。この結果、第1モータジェネレータ3の回転数Nが増加し、サンギヤSの回転数Nと略同一となる。
【0048】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置10の効果について説明する。
【0049】
本実施形態の制御装置10では、滑り検出部12が、第1モータジェネレータ3とプラネタリギヤ4との間に連結されたトルクリミッタ5に滑りが発生したことを検出し、エンジン目標回転数算出部13が、サンギヤSの回転数Nを第1モータジェネレータ3の回転数Nに一致させるためのエンジン2の目標回転数N′を算出する。そして、エンジンの回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのシステム効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのシステム効率より良好となるとの動作条件を満たす場合には、エンジン制御部15が、エンジン2の回転数Nが目標回転数N′となるようエンジン2を制御する。一方、動作条件を満たさない場合には、第1モータジェネレータ制御部16が、第1モータジェネレータ3の回転数NがサンギヤSの回転数Nとなるよう第1モータジェネレータ3を制御する。
【0050】
このような構成により、トルクリミッタ5の滑り発生に応じて、トルクリミッタ5に連結される第1モータジェネレータ3とサンギヤSの回転数を一致させるための制御を行うときに、第1モータジェネレータ3と、サンギヤSを連結駆動するエンジン2とのうち、システム効率の良くなる方を選択して制御することが可能となるので、ハイブリッド車両用駆動装置1のシステム効率を向上させることができる。また、特許文献1などに開示されているようなトルクリミッタの滑り発生時にエンジン出力制御のみを行う従来技術と比べて、トルクリミッタ5の滑り発生時に必ずしもエンジン2を制御する必要がなくなるので、エンジン出力制限の頻度を減少させることができ、ハイブリッド車両のドライバビリティを改善できる。
【0051】
また、本実施形態の制御装置10では、条件判定部14の動作条件として、具体的には、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れているとの動作条件が設定されている。つまり、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域から外れている場合には、エンジン制御が選択され、一方、エンジン2の目標回転数N′が共振回転数域に含まれる場合には、エンジン2の代わり第1モータジェネレータ3の制御が選択される。これにより、第1モータジェネレータ3とサンギヤSの回転数を一致させるための制御の実施後に、エンジン回転数が共振回転数域となるのを防止することが可能となり、エンジン2からの過度なトルクの再発を防止して、トルクリミッタ5の滑りの再発を好適に抑制できる。この結果、トルク損失を低減してシステム効率を向上できると共に、トルクリミッタ5の滑りを抑制して耐久性を向上させることができる。
【0052】
[第2実施形態]
次に、図4,5を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1の制御装置20の概略構成を示す図であり、図5は、本実施形態の制御装置20によるトルクリミッタ5の滑り発生時の滑り抑制処理を示すフローチャートである。
【0053】
本実施形態は、条件判定部24が、システム効率の優劣を判定するための具体的な動作条件として、「エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率より良好となること」を設定する点で、上述の第1実施形態と異なるものである。
【0054】
条件判定部24は、エンジン2のエンジン効率マップを参照して、回転数及び出力トルクに基づきエンジン効率を導出することができる。「第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率」とは、エンジン2の運転状態は第1モータジェネレータ3の制御による影響を受けないので、現在のエンジン2の回転数N及び出力トルクに基づきエンジン効率マップから導出されるエンジン効率ηである。一方、「エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率」とは、現在のエンジン2の出力トルクと、目標回転数N′とに基づき、エンジン効率マップから導出されるエンジン効率η′である。
【0055】
条件判定部24は、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率より向上すると判定した場合には、同様に駆動装置1のシステム効率も向上し、動作条件を満たすものと判定することができる。
【0056】
一方、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率より低下すると判定した場合には、システム効率も低下し、動作条件を満たさないものと判定することができる。
【0057】
この場合、上記実施形態で図2を参照して説明した、トルクリミッタ5の滑り発生時の滑り抑制処理は、図5に示すフローチャートに従って実施される。なお、図5に示すフローチャートのステップS101〜S104,S106,S107は、図2に示したフローチャートの各ステップと同様であるので説明を省略する。
【0058】
ステップS104においてエンジンの回転数N、MG1回転数N、MG2回転数Nが、全て正であると判定された場合には、条件判定部24により、「エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率より良好となること」との動作条件を満たすか否かが判定される(S205)。この動作条件を満たすと判定された場合には、ステップS106に移行する。一方、この動作条件を満たさないと判定された場合には、ステップS107に移行する。
【0059】
このように、本実施形態の制御装置20では、条件判定部24の動作条件として、具体的には、「エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率が、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率より良好となること」との動作条件が設定されている。この構成により、エンジン2の回転数Nを目標回転数N′へ変化させたときのエンジン効率(すなわちエンジン2が目標回転数N′のときのエンジン効率)が良い場合には、エンジン制御が選択され、一方、第1モータジェネレータ3の回転数NをサンギヤSの回転数Nへ変化させたときのエンジン効率(すなわち現在のエンジン2の回転数Nのときのエンジン効率)が良い場合には、エンジン2の代わり第1モータジェネレータ3の制御が選択される。
【0060】
これにより、第1モータジェネレータ3とサンギヤSの回転数を一致させるための制御を行うときに、エンジン効率が低下する方向にエンジン2を制御されるのを回避することが可能となり、エンジン効率を向上でき、この結果、ハイブリッド車両用駆動装置1のシステム効率を向上させることができる。また、システム効率が向上するため、ハイブリッド車両の燃費も向上できる。
【符号の説明】
【0061】
1 ハイブリッド車両用駆動装置
2 エンジン
3 第1モータジェネレータ(電動機)
4 プラネタリギヤ
C キャリア
P ピニオンギヤ
R リングギヤ
S サンギヤ
5 トルクリミッタ
10,20 制御装置
12 滑り検出部
13 エンジン目標回転数算出部
14,24 条件判定部
15 エンジン制御部
16 第1モータジェネレータ制御部
第1モータジェネレータの回転数(電動機の回転数)
サンギヤの回転数
エンジンの回転数
′ エンジンの目標回転数


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結されるキャリア、発電機に連結されるサンギヤ、及び出力軸に連結されるリングギヤを有するプラネタリギヤと、前記発電機と前記プラネタリギヤの前記サンギヤとの間に連結されたトルクリミッタと、を備えるハイブリッド車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、
前記トルクリミッタに滑りが発生したことを検出するのに応じて、
前記サンギヤの回転数を前記発電機の回転数に一致させるための前記エンジンの目標回転数を算出し、
前記エンジンの回転数を前記目標回転数へ変化させたときのシステム効率が、前記発電機の回転数を前記サンギヤの回転数へ変化させたときのシステム効率より良好となるとの動作条件を満たす場合に、前記エンジンの回転数が前記目標回転数となるよう前記エンジンを制御し、
前記動作条件を満たさない場合に、前記発電機の回転数が前記サンギヤの回転数となるよう前記発電機を制御する
ことを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記動作条件とは、
前記エンジンの前記目標回転数が共振回転数域から外れているとの動作条件であることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記動作条件とは、
前記エンジンの回転数を前記目標回転数へ変化させたときのエンジン効率が、前記発電機の回転数を前記サンギヤの回転数へ変化させたときのエンジン効率より良好となるとの動作条件であることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240535(P2012−240535A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111776(P2011−111776)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】