説明

ハイブリッド車両

【課題】運転者からの発進のためのトルク要求に対する応答性を高める。
【解決手段】内燃機関10と、電動機30と、内燃機関10が発生するトルクを摩擦により車輪80の側に伝達するクラッチ機構20とを備え、クラッチ機構20と車輪80との間におけるトルクの伝達経路に電動機30が配置されたハイブリッド車両HEVは、運転者からの要求トルクに応じて、内燃機関10に発生させるべきトルクの指令値である第1指令値CV1および電動機30に発生させるべきトルクの指令値である第2指令値CV2を決定する指令値決定部110と、停車状態からの発進時に、電動機30が発生するトルクを増加させるように第2指令値CV1を補正し、補正された第2指令値CCV1を生成する補正部120とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、該内燃機関が発生するトルクを車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、該クラッチ機構と該車輪との間におけるトルクの伝達経路に該電動機が配置されたハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−149840号公報
【特許文献2】特開2006−347408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車を内燃機関(エンジン)によって発進させる場合、図2に例示されるように、運転者からの要求トルクが立ち上がると、それに応じて内燃機関の回転数がアイドル回転数から上昇する。そして、内燃機関の回転数がクラッチの接続を開始することが可能な回転数に達すると、クラッチが徐々に接続状態にされ、クラッチの出力側の回転数が徐々に上昇し、これに応じて車輪に伝達されるトルクが徐々に上昇する。ここで、運転者からの要求トルクの立ち上がりに対して内燃機関の回転数がクラッチの接続を開始することが可能な回転数に達するまでに相応の時間が必要であり、その時間内は車輪に対してトルクが伝達されない。特許文献1には、上記のような応答性の改善に対する言及はない。
【0005】
特許文献2には、自動変速機を介してエンジンの出力を前輪へ伝達するとともに、該エンジンによって高電圧発電機を駆動して電力を発生し、該電力によって後輪駆動用のモータを動作させる自動車が開示されている。特許文献2に記載された自動車では、モータによって自動車を発進させ、モータによって走行しているときの車速の上昇に比例するようにエンジン回転数を上昇させ、エンジン回転数が摩擦クラッチの出力軸の回転数と一致する時点で該摩擦クラッチが接続される(段落0057)。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された自動車は、エンジンおよびモータによって同一の車輪を駆動するものではないし、特許文献2は、運転者からの発進のための要求トルクに対するエンジン回転数の上昇の遅れを考慮するものでもない。
【0007】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、運転者からの発進のためのトルク要求に対する応答性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面に係るハイブリッド車両は、車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、前記内燃機関が発生するトルクを摩擦により前記車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、前記クラッチ機構と前記車輪との間におけるトルクの伝達経路に前記電動機が配置されたハイブリッド車両として構成され、運転者からの要求トルクに応じて、前記内燃機関に発生させるべきトルクの指令値である第1指令値および前記電動機に発生させるべきトルクの指令値である第2指令値を決定する指令値決定部と、前記ハイブリッド車両を停車状態から発進させるときに、前記電動機が発生するトルクを増加させるように前記第2指令値を補正し、補正された第2指令値を生成する補正部と、前記内燃機関は前記第1指令値に従って制御され、前記電動機は前記補正された第2指令値に従って制御される。
【0009】
本発明の好適な実施形態によれば、前記指令値決定部は、前記要求トルクが前記内燃機関に発生させるべきトルクと前記電動機に発生させるべきトルクとに分配されるように前記第1指令値および前記第2指令値を決定しうる。ここで、前記指令値決定部は、前記内燃機関に発生させるべきトルクと前記電動機に発生させるべきトルクとの合計が前記要求トルクに一致するように前記第1指令値および前記第2指令値を決定しうる。
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、前記内燃機関の回転数が所定回転数まで上昇した後に前記電動機が停止されうる。この場合、二次電池に蓄積された電力の消費を抑えて、後に必要になったときに、その電力を利用することができる。
【0011】
本発明の好適な実施形態によれば、前記ハイブリッド車両は、前記内燃機関が発生するトルクおよび前記電動機が発生するトルクを前記車輪に伝達する変速機構を更に備え、前記ハイブリッド車両が停車状態であり前記内燃機関が停止状態であるときに、前記変速機構がニュートラルの状態で前記クラッチ機構が接続状態にされて前記電動機により前記内燃機関が始動され、次いで、前記クラッチ機構が切断状態にされ、次いで、前記電動機により前記変速機構を介して前記車輪にトルクが伝達されて前記ハイブリッド車両が走行を開始し、次いで、前記内燃機関が発生するトルクが安定した後に前記クラッチ機構が接続状態にされうる。このように発進前に内燃機関を始動すると、発進時の応答性が低下するものの、電動機のみでハイブリッド車両を走行させるモードを経由して加速するような緩やかな発進をする場合には、発進後に内燃機関を始動することによって不連続性が生じるよりは、発進前に内燃機関を始動する方が高い快適性を提供することができる。
【0012】
本発明の好適な実施形態によれば、前記ハイブリッド車両は、前記内燃機関が発生するトルクおよび前記電動機が発生するトルクを前記車輪に伝達する第1変速機と、前記内燃機関が発生するトルクを前記車輪に伝達する第2変速機とを更に備え、前記クラッチ機構は、前記内燃機関が発生するトルクを前記第1変速機に伝達する第1クラッチと、前記内燃機関が発生するトルクを前記第2変速機に伝達する第2クラッチとを含み、前記ハイブリッド車両が停車状態であり前記内燃機関が停止状態であるときに、前記第1変速機および第2変速機がニュートラルの状態で前記第1クラッチが接続状態にされて前記電動機により前記内燃機関が始動され、次いで、前記第1クラッチが切断状態にされ、次いで、前記電動機により前記変速機を介して前記車輪にトルクが伝達されて前記ハイブリッド車両が走行を開始し、次いで、前記電動機の回転数が所定値より小さい場合には前記第1クラッチが接続状態にされ、前記電動機の回転数が前記所定値より大きい場合には前記第2クラッチが接続状態にされる。このような制御によれば、電動機の回転数が所定値より大き場合には、加速時における次のギアへの切り替えを速やかに行うことができる。
【0013】
本発明の第2の側面に係るハイブリッド車両は、車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、前記内燃機関が発生するトルクを摩擦により前記車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、前記クラッチ機構と前記車輪との間におけるトルクの伝達経路に前記電動機が配置されたハイブリッド車両をして構成され、前記ハイブリッド車両が停車状態から発進するときの運転者からの要求トルクに対する前記内燃機関が発生する発生トルクの追随の遅れ量を示すデータを格納したメモリと、前記電動機に発生させるトルクの指令値を前記メモリに格納された前記データに基づいて補正することにより、補正された指令値を生成する補正部と、前記電動機は前記補正された指令値に従って制御される。
【0014】
本発明の好適な実施形態によれば、前記遅れ量は、前記要求トルクに対する前記発生トルクの時間的な遅れ量、または、前記要求トルクと前記発生トルクとの差分でありうる。
【0015】
本発明の第3の側面に係るハイブリッド車両は、車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、前記内燃機関が発生するトルクを摩擦により前記車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、前記クラッチ機構と前記車輪との間におけるトルクの伝達経路に前記電動機が配置されたハイブリッド車両に係り、前記ハイブリッド車両は、前記ハイブリッド車両が停車状態から発進するときの運転者からの要求トルクに対する前記内燃機関が発生する発生トルクの追随の遅れによる前記要求トルクに対する前記発生トルクの不足分を低減するように前記電動機が発生するトルクを増加させるための補正データを格納したメモリと、前記電動機に発生させるトルクの指令値を前記メモリから取得した前記補正データに基づいて補正し、補正された指令値を生成する補正部と、前記電動機は前記補正された指令値に従って制御される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転者からの発進のためのトルク要求に対する応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な実施形態のハイブリッド車両の主要構成を示す図である。
【図2】自動車を内燃機関によって発進させる場合における遅れを説明する図である。
【図3】発進時における制御部による内燃機関、クラッチ機構および電動機の制御を例示的に示す図である。
【図4】指令値決定部による第1指令値および第2指令値の決定方法を説明する図である。
【図5】指令値決定部による第1指令値および第2指令値の決定方法を説明する図である。
【図6】本発明の好適な実施形態のハイブリッド車両の主要構成を示す図である。
【図7】メモリに格納されるデータの一例を模式的に示す図である。
【図8】ハイブリッド車両の発進の例を説明するフローチャートである。
【図9】本発明を適用可能なダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)の構成例を示す図である。
【図10】ハイブリッド車両の発進の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の好適な実施形態のハイブリッド車両の主要構成を示す図である。本発明の好適な実施形態のハイブリッド車両HEVは、車輪80を駆動するトルクを発生する内燃機関(エンジン)10および電動機(モータジェネレータ)30と、内燃機関10が発生するトルクを摩擦により車輪80の側に伝達するクラッチ機構20とを備えている。電動機30は、クラッチ機構20と車輪80との間におけるトルクの伝達経路に配置されている。ハイブリッド車両HEVは、更に、クラッチ機構20と車輪80との間におけるトルクの伝達経路に変速機構40を備えうる。変速機構40の出力50は、ディファレンシャルギアボックス60および駆動軸70を介して車輪80に伝達されうる。
【0020】
ハイブリッド車両HEVはまた、ハイブリッド車両HEVを制御する制御部(ECU)100を備えている。制御部100は、例えば、指令値決定部110、補正部(あるいは、電動機制御部)120および内燃機関制御部130を含みうる。指令値決定部110は、アクセルペダル(不図示)を介して与えられる運転者からの要求トルクに応じて、内燃機関10に発生させるべきトルクの指令値である第1指令値CV1および電動機30に発生させるべきトルクの指令値である第2指令値CV2を決定する。補正部120は、ハイブリッド車両HEVを停車状態から発進させるときに、電動機30が発生するトルクを増加させるように第2指令値CV2を補正し、補正された第2指令値CCV2を生成する。内燃機関制御部130は、第1指令値CV1に従って内燃機関10を制御する。内燃機関10の制御は、例えば、内燃機関10に対する燃料供給や内燃機関10のプラグの点火タイミングを含みうる。
【0021】
ハイブリッド車両HEVは、インバータ140を備えていて、インバータ140は、補正された第2指令値CCV2に従って電動機30を制御する。より具体的には、インバータ140は、補正された第2指令値CCV2に対応するトルクが電動機30から出力されるように電動機30を駆動する。電動機30は、二次電池150からインバータ140を介して供給される電力によって車輪80を駆動するモータとして動作するほか、電動機30のロータの回転を電力に変換するジェネレータとして動作する。電動機30が発生した電力は、インバータ140によって取り出されて二次電池150に蓄えられる。
【0022】
図3は、発進時における制御部100による内燃機関10、クラッチ機構20および電動機30の制御を例示的に示す図である。指令値決定部110は、アクセルペダル(不図示)を介して与えられる運転者からの要求トルクに応じて、内燃機関10に発生させるべきトルクの指令値である第1指令値CV1および電動機30に発生させるべきトルクの指令値である第2指令値CV2を決定する。内燃機関制御部130は、第1指令値CV1に従って内燃機関10を制御する。運転者からの要求トルクが0から上昇すると、それに応じて第1指令値CV1も上昇し、それに従って内燃機関10の回転数がアイドル回転数から接続回転数(クラッチ機構20の接続を開始する回転数)まで上昇する。
【0023】
一方、第2指令値CV2は、電動機30が発生するトルクを増加させるように補正部120によって補正され、インバータ140は、補正部120から送られてくる補正された第2指令値CCV2に従って電動機30を制御する。これにより、電動機30は、指令値決定部110が生成する第2指令値CV2に対応するトルクよりも大きなトルクを発生することになる。よって、運転者からの要求トルクに対して速やかに追随して電動機30がトルクを発生し、そのトルクが車輪80に伝達されるので、要求トルクに対する応答性の良い発進が可能になる。ここで、電動機30はクラッチ機構20と車輪80との間におけるトルクの伝達経路に配置されているので、クラッチ機構20が切断状態である場合においても、電動機30が発生するトルクを車輪80に伝達することができる。
【0024】
また、上記のような制御によれば、クラッチ機構20の出力側の回転数を電動機30によって上昇させた状態でクラッチ機構20の接続が開始されるので、クラッチ機構20の接続の開始から接続の完了までの時間を短縮することができるとともに、クラッチ機構20の寿命を延ばすことができる。
【0025】
内燃機関10の回転数が所定回転数まで上昇した後は、電動機30は停止されうる。この場合、二次電池150に蓄えられた電力の消費を抑えて、後に必要になったときに、その電力を利用することができる。内燃機関10の回転数が所定回転数まで上昇した後に電動機30を停止させる制御は、例えば、内燃機関10の回転数が所定回転数まで上昇した後に補正部120による補正量をゼロにすることによって実現されうる。
【0026】
次に、図4および図5を参照しながら指令値決定部110による第1指令値CV1および第2指令値CV2の決定方法を説明する。図4は、内燃機関10および電動機30の動作を決定するためのマップを例示する図であり、図5は、図4における特定回転数SPにおいて指令値決定部110により内燃機関10および電動機30に分配されるトルクを例示する図である。図5における横軸APは、アクセルペダルの操作量であり、運転者からの要求トルクは、例えば、アクセルペダルの操作量を変数とする単調増加関数として与えられうる。図5に示す例では、運転者からの要求トルクは、アクセルペダルの操作量の一次関数で与えられている。負のトルクは、減速時および/または下り坂走行時に要求されるトルクである。内燃機関10に対する負のトルクの分配は、内燃機関10を負荷(エンジンブレーキ)として機能させることを意味する。電動機30に対する負のトルクの分配は、電動機30をジェネレータとして機能させることを意味する。指令値決定部110は、運転者からの要求トルクが内燃機関10に発生させるべきトルク(負の値を含みうる)と電動機30に発生させるべきトルク(負の値を含みうる)とに分配されるように第1指令値CV1および第2指令値CV2を決定する。典型的には、指令値決定部110は、内燃機関10に発生させるべきトルク(負の値を含みうる)と電動機30に発生させるべきトルク(負の値を含みうる)との合計が要求トルクに一致するように第1指令値CV1および第2指令値CV2を決定する、
内燃機関10および電動機30は、図4のマップに基づいて制御されうる。"RG"は、負のトルクが要求される領域であり、この領域では、内燃機関10による制動および/または電動機30による制動がなされうる。電動機30による制動時は、電動機30がジェネレータとして動作し、電動機30が発生した電力は、インバータ140によって取り出されて二次電池150に蓄えられうる。"EV"は、電動機30のみによる走行を行うEVモード領域である。ただし、二次電池150の充電状態(SOC:State of Charge)が十分でない場合には、EVモード領域がなくなる。
【0027】
"ENG"は、内燃機関10が発生するトルクによって走行するENGモード領域である。ENGモード領域では、走行状況および二次電池150の充電状態に応じて電動機30をジェネレータとして動作させて二次電池150が充電されうる。"ECOA"は、内燃機関10が発生するトルクを走行状況および二次電池150の充電状態に応じて電動機30が発生するトルクによって補って走行するECOAモード領域である。ECOAモード領域の下限は、BSFC(Brake Specific Fuel Consumption)でありうるが、二次電池150の充電状態によって変更されてもよい。ECOAモード領域の上限は、内燃機関10が発生可能な最大トルク(ENG−MAX)である。"WOTA"は、要求トルクに対する内燃機関10が発生可能な最大トルクの不足分を電動機30が発生するトルクによって補うWTOAモード領域である。WOTAモード領域の上限は、二次電池150の充電状態によって変動し、その下限は、内燃機関10が発生可能な最大トルク(ENG−MAX)である。
【0028】
補正部120が第2指令値CV2を補正する量(即ち、補正された第2指令値CCV2と第2指令値CV2との差分)は、任意に決定されうるが、例えば、要求トルクの立ち上がり時(アクセルペダルの踏み込みによる発進の指示)からクラッチ機構20の接続を開始するまでの期間は、第2指令値CV2の補正量は、要求トルクに相当する量とされうる。この場合、要求トルクに対する内燃機関10が車輪に伝達可能なトルクの不足分の全てが電動機30によって補われることになる。
【0029】
図6は、図1に示すハイブリッド車両HEVをより具体化した構成例を示す図である。図6に示す構成例では、制御部100は、ハイブリッド車両HEVが停車状態から発進するときの運転者からの要求トルクに対する内燃機関10が発生する発生トルクの追随の遅れ量を示すデータを格納したメモリ122を追加的に備えている。補正部120は、電動機30に発生させるトルクの指令値CV2をメモリ122から取得したデータに基づいて補正することにより、補正された指令値CCV2を生成する。図7は、メモリ122に格納されるデータの一例を模式的に示す図である。図7において、横軸は、運転者からの要求トルクであり、縦軸は、要求トルクが入力されてから当該要求トルクと同じトルクを内燃機関10が発生するために要する時間(即ち、要求トルクに対する遅れ時間)である。
【0030】
補正部120は、要求トルクRTが入力されたときに、メモリ122に格納されたデータに基づいて要求トルクRTに対応する遅れ時間LTを決定し、その遅れ時間LTに基づいて第2指令値CV2を補正する。第2指令値CV2の補正ルールとしては、種々のルールを採用しうる。例えば、遅れ時間LTの間は、第2指令値CV2に対して、要求トルクRTと同じトルクを電動機30に発生させるための値を加算する、という補正ルールを採用しうる。あるいは、遅れ時間LTの間は、第2指令値CV2に対して、要求トルクRTのK倍(Kは係数)と同じトルクを電動機30に発生させるための値を加算する、という補正ルールを採用しうる。
【0031】
図7に示す例では、遅れ量は、運転者からの要求トルクに対する内燃機関10が発生するトルクの時間的な遅れ量である。しかしながら、遅れ量は、要求トルクに対する内燃機関10が発生するトルクの追随の遅れ、即ち、運転者からの要求トルクと内燃機関10が発生するトルクとの差分であってもよい。
【0032】
メモリ122には、ハイブリッド車両HEVが停車状態から発進するときの運転者からの要求トルクに対する内燃機関10が発生する発生トルクの追随の遅れ(例えば、上記の遅れ時間に相当する)による当該要求トルクに対する当該発生トルクの不足分を低減するように電動機30が発生するトルクを増加させるための補正データが格納されてもよい。補正部120は、指令値決定部110から送られてくる第2指令値CV2をメモリ122から取得した補正データに基づいて補正し、補正された指令値CCV2を生成しうる。補正データは、例えば、要求トルクに対応する指令値に乗じる係数でありうるが、その他、任意のものでありうる。
【0033】
図8を参照しながらハイブリッド車両HEVが停車状態であり内燃機関が停止状態である状態からハイブリッド車両HEVを発進させる際にEVモード領域を経由してENGモード領域、ECOAモード領域またはWTOA領域に入る例を説明する。この手順は、制御部100によって制御される。変速機構40は、ニュートラルの状態であるものとする。ステップS12では、クラッチ機構20が接続状態にされて電動機30により内燃機関10が始動される。次いで、ステップS14では、クラッチ機構20が切断状態にされる。次いで、ステップS16では、電動機30により変速機構40を介して車輪80にトルクが伝達されてハイブリッド車両HEVが走行を開始する。次いで、ステップS18では、内燃機関10が発生するトルクが安定するまで待たれ、その後、ステップS20で、クラッチ機構20が接続状態にされる。このように発進前に内燃機関を始動することは、発進時の応答性が低下するものの、電動機30のみでハイブリッド車両を走行させるEVモードを経由して加速するような緩やかな発進をする場合には、発進後に内燃機関10を始動することによって不連続性が生じるよりは、発進前に内燃機関10を始動する方が高い快適性を提供することができる。
ENGモード領域
図9は、クラッチ機構20、電動機30および変速機構40の具体的な構成を例示する図である。ただし、本発明において、クラッチ機構20、電動機30および変速機構40は、図9に例示される構成に限定されるものではなく、種々の構成を有しうる。図9において、"1"、"2"、"3"、"4"、"5"、"6"、"7"、"R"は、第1速〜第7速、後退のための伝達経路を示している。
【0034】
電動機30は、例えば、3相ブラシレスDCモータでありうる。該3相ブラシレスDCモータは、外側に電気子を含むステータ31を有し、内側に永久磁石を含むロータ32を有する。変速機構40は、内燃機関10が発生するトルクおよび電動機30が発生するトルクを車輪80に伝達する第1変速機41と、内燃機関10が発生するトルクを車輪80に伝達する第2変速機42とを含みうる。クラッチ機構20は、内燃機関10が発生するトルクを第1変速機41に伝達する第1クラッチ21、内燃機関10が発生するトルクを第2変速機42に伝達する第2クラッチ22とを含む。このように2つのクラッチおよび2つの変速機を備える機構は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)と呼ばれる。
【0035】
第1クラッチ21および第2クラッチを含むクラッチ機構20の入力側は、内燃機関10の出力軸(クランク軸)に連結されている。内燃機関10の回転数は、該出力軸(クランク軸)の回転数を意味する。第1クラッチ21の出力側は、第1主軸45の一端に接続され、第2クラッチ22の出力側は、第2主軸46の一端に接続されている。第1主軸45の他端には、サンギア、プラネタリギア、リングギアおよびキャリアを有する遊星歯車機構35の該サンギアが連結されている。該サンギアには、電動機30のロータ32が連結されている。第1主軸45と同心で、第1主軸45に連結可能な第1速兼用第3速駆動ギア、第5速駆動ギア、第7速駆動ギア(即ち、奇数段駆動ギア)が配置され、第1速兼用第3速駆動ギアは、中空軸を介して遊星歯車機構35のキャリアに連結されている。
【0036】
第2主軸46の回転は、アイドルギアを介して中間軸47に伝達される。中間軸47と同心で、中間軸47に連結可能な第2速駆動ギア、第4速駆動ギア、第6速駆動ギア(即ち、偶数段駆動ギア)が配置されている。第1主軸45の回転および第2主軸46の回転は、選択的に、該当する駆動ギアを介してカウンタ軸(出力軸)48に伝達される。
【0037】
以下、図10を参照しながら上記のようなダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)を備えるハイブリッド車両HEVを発進させる際にEVモード領域を経由してENGモード領域、ENGモード領域、ECOAモード領域またはWTOA領域に入る例を説明する。この例においても、ハイブリッド車両HEVが停車状態であり内燃機関が停止状態である状態からハイブリッド車両HEVを発進させるものとする。この手順は、制御部100によって制御される。
【0038】
ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)として構成された変速機構40は、ニュートラルの状態であるものとする。ステップS52では、クラッチ機構20の第1クラッチ21が接続状態にされて電動機30により内燃機関10が始動される。次いで、ステップS54では、第1クラッチ21が切断状態にされる。次いで、ステップS56では、電動機30により変速機構40を介して車輪80にトルクが伝達されてハイブリッド車両HEVが走行を開始する。次いで、ステップS58では、電動機30の回転数が所定値より小さいか否かが判断され、電動機30の回転数が所定値より小さい場合は、ステップS60において、第1クラッチ21が接続状態にされて第1速のギアによって車輪80が駆動される。一方、電動機30の回転数が所定値より大き場合には、ステップS62において、第2クラッチ22が接続状態にされて第2速のギアによって車輪80が駆動される。このような制御によれば、電動機30の回転数が所定値より大き場合には、加速時における次のギアである第3速への切り替えを速やかに行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
10 内燃機関(エンジン)
20 クラッチ機構
21 第1クラッチ
22 第2クラッチ
30 クラッチ機構
31 ステータ
32 ロータ
40 変速機構
41 第1変速機
42 第2変速機
45 第1主軸
46 第2主軸
47 中間軸
48 中間軸
50 変速機構の出力
60 ディファレンシャルギアボックス
70 駆動軸
80 車輪
100 制御部
110 指令値決定部
120 補正部
122 メモリ
130 内燃機関制御部
140 インバータ
CV1 第1指令値
CV2 第2指令値
CCV2 補正された第2指令値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、前記内燃機関が発生するトルクを摩擦により前記車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、前記クラッチ機構と前記車輪との間におけるトルクの伝達経路に前記電動機が配置されたハイブリッド車両であって、
運転者からの要求トルクに応じて、前記内燃機関に発生させるべきトルクの指令値である第1指令値および前記電動機に発生させるべきトルクの指令値である第2指令値を決定する指令値決定部と、
前記ハイブリッド車両を停車状態から発進させるときに、前記電動機が発生するトルクを増加させるように前記第2指令値を補正し、補正された第2指令値を生成する補正部と、
前記内燃機関は前記第1指令値に従って制御され、前記電動機は前記補正された第2指令値に従って制御される、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記指令値決定部は、前記要求トルクが前記内燃機関に発生させるべきトルクと前記電動機に発生させるべきトルクとに分配されるように前記第1指令値および前記第2指令値を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記指令値決定部は、前記内燃機関に発生させるべきトルクと前記電動機に発生させるべきトルクとの合計が前記要求トルクに一致するように前記第1指令値および前記第2指令値を決定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記内燃機関の回転数が所定回転数まで上昇した後に前記電動機が停止されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記内燃機関が発生するトルクおよび前記電動機が発生するトルクを前記車輪に伝達する変速機構を更に備え、
前記ハイブリッド車両が停車状態であり前記内燃機関が停止状態であるときに、前記変速機構がニュートラルの状態で前記クラッチ機構が接続状態にされて前記電動機により前記内燃機関が始動され、次いで、前記クラッチ機構が切断状態にされ、次いで、前記電動機により前記変速機構を介して前記車輪にトルクが伝達されて前記ハイブリッド車両が走行を開始し、次いで、前記内燃機関が発生するトルクが安定した後に前記クラッチ機構が接続状態にされる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記内燃機関が発生するトルクおよび前記電動機が発生するトルクを前記車輪に伝達する第1変速機と、
前記内燃機関が発生するトルクを前記車輪に伝達する第2変速機とを更に備え、
前記クラッチ機構は、前記内燃機関が発生するトルクを前記第1変速機に伝達する第1クラッチと、前記内燃機関が発生するトルクを前記第2変速機に伝達する第2クラッチとを含み、
前記ハイブリッド車両が停車状態であり前記内燃機関が停止状態であるときに、前記第1変速機および第2変速機がニュートラルの状態で前記第1クラッチが接続状態にされて前記電動機により前記内燃機関が始動され、次いで、前記第1クラッチが切断状態にされ、次いで、前記電動機により前記変速機を介して前記車輪にトルクが伝達されて前記ハイブリッド車両が走行を開始し、次いで、前記電動機の回転数が所定値より小さい場合には前記第1クラッチが接続状態にされ、前記電動機の回転数が前記所定値より大きい場合には前記第2クラッチが接続状態にされる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、前記内燃機関が発生するトルクを摩擦により前記車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、前記クラッチ機構と前記車輪との間におけるトルクの伝達経路に前記電動機が配置されたハイブリッド車両であって、
前記ハイブリッド車両が停車状態から発進するときの運転者からの要求トルクに対する前記内燃機関が発生する発生トルクの追随の遅れ量を示すデータを格納したメモリと、
前記電動機に発生させるトルクの指令値を前記メモリに格納された前記データに基づいて補正することにより、補正された指令値を生成する補正部と、
前記電動機は前記補正された指令値に従って制御される、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項8】
前記遅れ量は、前記要求トルクに対する前記発生トルクの時間的な遅れ量である、
ことを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項9】
前記遅れ量は、前記要求トルクと前記発生トルクとの差分である、
ことを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項10】
車輪を駆動するトルクを発生する内燃機関および電動機と、前記内燃機関が発生するトルクを摩擦により前記車輪の側に伝達するクラッチ機構とを備え、前記クラッチ機構と前記車輪との間におけるトルクの伝達経路に前記電動機が配置されたハイブリッド車両であって、
前記ハイブリッド車両が停車状態から発進するときの運転者からの要求トルクに対する前記内燃機関が発生する発生トルクの追随の遅れによる前記要求トルクに対する前記発生トルクの不足分を低減するように前記電動機が発生するトルクを増加させるための補正データを格納したメモリと、
前記電動機に発生させるトルクの指令値を前記メモリから取得した前記補正データに基づいて補正し、補正された指令値を生成する補正部と、
前記電動機は前記補正された指令値に従って制御される、
ことを特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−101759(P2012−101759A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254117(P2010−254117)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】