説明

ハイブリッド車両

【課題】電気モータが係合されている変速機構のプレシフト制御を走行状況に応じて最適に行うことができるようにする。
【解決手段】モータが係合していない第2変速機構のギヤ段で走行中にモータが係合している第1変速機構のギヤ段を選択(プレシフト)する場合、選択可能な2つのギヤ段のうち、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが大きいときは低速側のギヤ段を選択し、それ以外のときは高速側のギヤ段を選択する。走行ギヤ段を第1変速機構から第2変速機構にアップシフトするときに、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示の場合、エンジン用クラッチの係合状態の変更に対応して第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に予め選択(プレシフト)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機として内燃機関エンジンと電気モータとを備えたハイブリッド車両に関し、特に、2つの変速機構を交互に切り替えて変速制御を行うデュアルクラッチ式変速機を具備するものにおいて、現在の走行ギヤ段として使用していない方の変速機構における事前のギヤ段選択制御(プレシフト)を適切に行うことができるようにしたハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の変速機には、近年、変速時における機械的動力の伝達の途切れをなくすために、奇数段の変速段で構成される第1の変速機構の入力軸(以下、第1入力軸という)と内燃機関の出力軸(以下、機関出力軸又はエンジン出力軸という)とを係合可能な第1のクラッチと、偶数段の変速段で構成される第2の変速機構の入力軸(以下、第2入力軸という)と機関出力軸とを係合可能な第2のクラッチとを備え、これら2つのクラッチを交互につなぎ替えることで変速を行う、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が知られている。デュアルクラッチ式変速機は、例えば、奇数段から偶数段に変速する際には、奇数段で走行しているうちに偶数段のギヤ段のうち選択されたギヤ段をシンクロ機構を介して予め噛み合わせておき(これを「プレシフト」という)、走行ギヤ段を偶数段に変更するときに、奇数段に機械的動力を伝達する第1のクラッチを解放状態にすると共に、偶数段に機械的動力を伝達する第2のクラッチを係合状態にすることで、変速時における動力伝達の途切れを抑制している。
【0003】
また、下記の特許文献1には、上述のように2つの変速機構を備え、一方の変速機構の入力軸に係合する電気モータを更に具えたハイブリッド車両が示されている。この特許文献1においては、電気モータが係合された変速機構(以下これを第1変速機構という)ではない方の変速機構(以下これを第2変速機構という)を使用して走行しているときに、第1変速機構を所定のギヤ段にプレシフトし、該プレシフトされた第1変速機構の所定のギヤ段を介してエンジントルクを電気モータに伝達することにより該電気モータを回生運転することが示されている。この場合、回生運転の制御は、エンジンブレーキ作動状態であることと、プレシフトする第1変速機構の所定のギヤ段として最適効率のギヤ段又はその1つ下のギヤ段を選択する、という条件の下でなされていた。また、下記の特許文献2には、プレシフトをモータの逆トルクで行うことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−166611号公報
【特許文献2】特開2010−036781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気モータが係合されている第1変速機構でエンジン走行(例えば1速走行)しているときにエンジン走行段を一段上にギアシフトする場合、エンジン走行段を第2変速機構に切り替えて上位ギヤ段にギアシフトする。この場合、第1変速機構を介して電気モータの駆動力を該エンジン走行の補助として使用するアシスト走行を行うならば、従来は、第1変速機構のプレシフトは直前の走行ギヤ段(例えば1速ギヤ段)を維持するようになっていた。そのため、更にシフトアップが要求される場合、アシスト走行用の第1変速機構のプレシフトを更に上位のギヤ段(例えば3速ギヤ段)に切り替える必要が生じる。そのような第1変速機構のプレシフトギヤ段の変更は、プレシフトギヤ段切り替えのためにアシスト走行が一時的に中断されるため、アシスト抜けが生じ、駆動力が一時的に不足するという問題(第1の課題)を生じる。
【0006】
また、電気モータが係合されていない第2変速機構でエンジン走行(例えば4速)しつつ第1変速機構を介して電気モータを回生運転(充電)する場合、従来は、第1変速機構において現在走行ギヤ段の下のギヤ段(例えば3速)を使用して回生運転を行うことがある。その場合、走行状態に応じて、第1変速機構のプレシフトギヤ段を上位のギヤ段(例えば5速)に変更する必要が生じることがある。そのような第1変速機構のプレシフトギヤ段の変更は、プレシフトギヤ段切り替えのために回生運転が一時的に中断される(回生抜け)という問題を生じ、かつ、該プレシフトギヤ段の変更中の回生抜けによる駆動力変化を考慮して、ゆっくりとモータトルクとエンジントルクの掛け替えが実施されるため、その間、BSFC(Brake Specific Fuel Consumption: 正味燃料消費率)の最適なトレースを行うことができないという問題(第2の課題)を生じる。
【0007】
また、電気モータが係合されていない第2変速機構でエンジン走行(例えば4速)しつつ第1変速機構を介して電気モータでアシスト走行する場合、従来は、第1変速機構において現在走行ギヤ段の上のギヤ段(例えば5速)を使用してアシスト走行を行うことがある。その場合、運転者によるアクセル踏み込みによって要求トルクが上がったとき、走行ギヤ段を下位のギヤ段(例えば3速)にキックダウンする必要が生じ、第1変速機構のプレシフトを下位のギヤ段(例えば3速)に切り替えることになる。しかし、そうすると、第1変速機構のプレシフトギヤ段の切り替えのためにアシスト走行が中断されるため、エンジンクラッチの切り替えと相まって大幅な駆動力抜けが生じ、運転者の加速要求に迅速に応えることができないという問題(第3の課題)を生じる。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、電気モータが係合されている変速機構のプレシフト制御を走行状況に応じて最適に行うことができるようにすることを主課題とし、該主課題を達成することのできるハイブリッド車両を提供しようとするものである。また、上記第1乃至第3の課題のいずれかの解決を図ることのできるハイブリッド車両を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前提となるハイブリッド車両は、内燃機関エンジンと、電気モータと、前記モータに電力を供給する蓄電池と、第1同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第1入力軸を出力軸に結合する第1変速機構と、第2同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第2入力軸を前記出力軸に結合する第2変速機構と、前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、前記第1変速機構及び第2変速機構におけるギヤ段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段とを備える。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、前記制御手段は、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段を選択する場合、選択可能な2つのギヤ段のうち、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが大きいときは低速側のギヤ段を選択し、それ以外のときは高速側のギヤ段を選択するよう前記第1同期装置を制御することを特徴とする。
【0011】
現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが大きいときは、第1同期装置によって選択するプレシフトギヤ段として低速側のギヤ段を選択することで、前記主課題を達成すると共に第3の課題を解決することができる。すなわち、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルク(つまりBSFCの最適値)より運転者の要求トルクが大きいときに、低速側のギヤ段を介してアシスト走行を行うことで、エンジン回転数を上げることなく(つまり最小燃費を維持し)、要求トルクに応ずることができる。従って、燃費の最適化と運転フィーリングの確保が実現でき、前記主課題を達成することができる。その一方で、アシスト走行に際して、第1変速機構のプレシフトギヤ段として現在の走行ギヤ段の低速側のギヤ段を選択するので、キックダウンの必要性が生じたとき、プレシフトギヤ段の切り替えを行う必要がなくなり、従来のような大幅な駆動力抜けを生じることなく、運転者の加速要求に迅速に応えることができる。従って、前記第3の課題を解決することができる。
【0012】
一方、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが小さいときは、第1同期装置によって選択するプレシフトギヤ段として高速側のギヤ段を選択することで、前記主課題を達成すると共に第2の課題を解決することができる。すなわち、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが小さいときに、高速側のギヤ段を介して回生制動を行うことで、エンジン回転数を下げることなく(つまり最小燃費を維持し)、余剰の駆動力を回生制動に利用して、要求トルクに応ずることができる。従って、燃費の最適化と運転フィーリングの確保が実現でき、前記主課題を達成することができる。その一方で、回生運転に際して、第1変速機構のプレシフトギヤ段として現在の走行ギヤ段の高速側のギヤ段を選択するので、回生運転の最中にプレシフトギヤ段を低速側から高速側に切り替えることがなくなり、回生運転が一時的に中断されること(回生抜け)が起こらなくなる。これにより、前記第2の課題を解決することができる。
【0013】
本発明の第2の観点によれば、前記制御手段は、走行ギヤ段を前記第1変速機構から前記第2変速機構にアップシフトするときに、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示の場合、前記第1及び第2クラッチの係合状態の変更に対応して前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に予め選択するよう該第1同期装置を制御することを特徴とする。
【0014】
モータアシスト走行しつつ第1変速機構でエンジン走行(例えば1速走行)しているときにエンジン走行段を一段上にギアシフトする場合、エンジン走行段を第2変速機構に切り替えて上位ギヤ段(例えば2速)にギアシフトする。このとき、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示(例えばアクセルペダル踏み込み量がほぼフル状態の加速指示)の場合、第1及び第2クラッチの係合状態の変更(つまりエンジン走行用ギヤ段の切り替え)に対応して、第1同期装置によって選択されるプレシフトギヤ段として高速側のギヤ段(例えば3速)を予め選択する。運転者の要求トルクが所定以上の加速指示であることは、更なるシフトアップが要求されることを予測させるものである。つまり、エンジン走行段を第2変速機構に切り替えた後に、更に第1変速機構に切り替えて上位ギヤ段(例えば3速)にギアシフトすることを要求される可能性が高い。その場合、第1変速機構は既に上位ギヤ段(例えば3速)にプレシフトされているので、モータアシストを維持しつつエンジン走行ギアを変更することができ、アシスト抜けによる駆動力の一時的不足が生じないものとなる。従って、前記第1の課題を解決することができる。また、モータ効率とドライバビリティを確保することができるので、前記主課題を達成することもできる。
【0015】
本発明の第3の観点によれば、前記制御手段は、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択して前記モータを回生運転する場合、現在の走行ギヤ段よりも高速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御することを特徴とする。
【0016】
これによれば、回生運転に際して、第1同期装置によって選択する第1変速機構のプレシフトギヤ段として現在の走行ギヤ段の高速側のギヤ段を選択するので、回生運転の最中にプレシフトギヤ段を低速側から高速側に切り替えることがなくなり、回生運転が一時的に中断されること(回生抜け)が起こらなくなる。これにより、前記第2の課題を解決することができる。
【0017】
本発明の第4の観点によれば、前記制御手段は、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択して前記モータでアシスト走行する場合、現在の走行ギヤ段よりも低速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御することを特徴とする。
【0018】
これによれば、アシスト走行に際して、第1同期装置によって選択する第1変速機構のプレシフトギヤ段として現在の走行ギヤ段の低速側のギヤ段を選択するので、キックダウンの必要性が生じたとき、プレシフトギヤ段の切り替えを行う必要がなくなり、従来のような大幅な駆動力抜けを生じることなく、運転者の加速要求に迅速に応えることができる。従って、前記第3の課題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態におけるハイブリッド車両の概略的な接続構成図。
【図2】図1に示す変速機のスケルトン図。
【図3】図2に示す変速機の各シャフトの係合関係を示す概念図。
【図4】エンジン走行ギヤ段のアップシフト制御用の変速マップ例及びそれに対応する第1変速機構のプレシフトマップ例(第1実施例)を示すグラフ。
【図5】モータアシスト走行しながらエンジン走行ギヤ段を第1変速機構(奇数ギヤ段)から第2変速機構(偶数ギヤ段)にアップシフトするときの本発明(第2実施例)に従う第1変速機構のプレシフト制御の手法を示すタイミングチャート。
【図6】モータが係合されていない第2変速機構でエンジン走行しつつ第1変速機構を介してモータを回生運転するときの本発明(第3実施例)に従う第1変速機構のプレシフト制御の手法を示すタイミングチャート。
【図7】モータが係合されていない第2変速機構でエンジン走行しつつ第1変速機構を介してモータアシスト走行するときの本発明(第4実施例)に従う第1変速機構のプレシフト制御の手法を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明しよう。
【0021】
本発明に係るハイブリッド車両に具備される制御装置(制御手段)は、例えば、車両全体を制御するために車両に搭載された電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10により実現される。以下の実施形態では、電子制御ユニット10は、エンジンを制御するとともに、変速機やバッテリ、電動機(モータ)を制御するものとして説明する。
【0022】
まず、本実施形態における車両の構成を説明する。図1は、本発明の一実施形態における車両の概略的な接続構成図である。本実施形態の車両1は、いわゆるハイブリッド車両であり、図1に示すように、エンジン2と、モータ3と、モータ3を制御するためのモータ制御手段20と、バッテリ30と、変速機4と、ディファレンシャル機構5と、左右のドライブシャフト6R、6Lと、左右の駆動輪7R、7Lとを備える。エンジン2とモータジェネレータ3の回転駆動力は、変速機4、ディファレンシャル機構5およびドライブシャフト6R、6Lを介して左右の駆動輪7R、7Lに伝達される。
【0023】
また、この車両1は、エンジン2、モータ3、変速機4、ディファレンシャル機構5、モータ制御手段20およびバッテリ30をそれぞれ制御するための電子制御ユニット(ECU)10を備える。電子制御ユニット10は、1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えば、エンジン2を制御するためのエンジンECU、モータ3やモータ制御手段20を制御するためのモータジェネレータECU、バッテリ30を制御するためのバッテリECU、変速機4を制御するためのATECUなど複数のECUから構成されてもよい。
【0024】
電子制御ユニット10は、各種の運転条件に応じて、モータ3のみを動力源とするモータ単独走行(EV走行)をするように制御したり、エンジン2のみを動力源とするエンジン単独走行をするように制御したり、エンジン2とモータ3の両方を動力源として併用する協働走行をするように制御する。また、電子制御ユニット10は、アクセルペダル開度検出器40で検出されるアクセルペダル開度及びその他の公知の各種の運転パラメータに従って変速制御を行い、また、その他の各種の運転に必要な制御を行う。
【0025】
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両1を走行させるための駆動力を発生する内燃機関エンジンである。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみのEV走行の際には、バッテリ30の電気エネルギーを利用して車両1を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両1の減速時にはモータ3の回生により電力を発電する発電機としても機能する。このモータ3の回生時には、バッテリ30は、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
【0026】
なお、本実施形態では、エンジン2、モータ3等は公知の構成を備えていればよく、本発明の特徴部分ではないため、それらの詳細な説明を省略するものとする。
【0027】
次に、本実施形態の変速機4の構成を説明する。図2は、図1に示す変速機4のスケルトン図である。図3は、図2に示す変速機4の各シャフトの係合関係を示す概念図である。図1に示す変速機4は、前進7速、後進1速の平行軸式トランスミッションであり、乾式のツインクラッチ式変速機(DCT:デュアルクラッチトランスミッション)である。
【0028】
変速機4には、エンジン2の機関出力軸をなすクランクシャフト(図示せず)およびモータ3に接続される内側メインシャフトIMS(第1入力軸)と、この内側メインシャフトIMSの外筒をなす外側メインシャフトOMS(第2入力軸)と、内側メインシャフトIMSにそれぞれ平行なセカンダリシャフトSS(第2入力軸)、アイドルシャフトIDS、リバースシャフトRVSと、これらのシャフトに平行で出力軸をなすカウンタシャフトCSとが設けられる。
【0029】
これらのシャフトのうち、外側メインシャフトOMSがアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに常時係合し、カウンタシャフトCSがさらに図2では図示しないディファレンシャル機構5に常時係合するように配置される。
【0030】
また、変速機4は、奇数段用の第1クラッチC1と、偶数段用の第2クラッチC2とを備える。第1および第2クラッチC1、C2は乾式のクラッチである。第1クラッチC1は内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に結合される。第2クラッチC2は、外側メインシャフトOMS(第2入力軸の一部)に結合され、外側メインシャフトOMS上に固定されたギヤ48からアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSS(第2入力軸の一部)に連結される。
【0031】
内側メインシャフトIMS(第1入力軸)のモータ3よりの所定箇所にはプラネタリギヤ機構70のサンギヤ71が固定配置される。また、内側メインシャフトIMS(第1入力軸)の外周には、図2において左側から順に、1速駆動ギヤとなるプラネタリギヤ機構70のキャリヤ73と、3速駆動ギヤ43と、7速駆動ギヤ47と、5速駆動ギヤ45が配置される。3速駆動ギヤ43、7速駆動ギヤ47、5速駆動ギヤ45はそれぞれ内側メインシャフトIMSに対して相対的に回転可能であり、ギヤ43はプラネタリギヤ機構70のキャリヤ73に連結している。更に、内側メインシャフトIMS上には、3速駆動ギヤ43と7速駆動ギヤ47との間に3−7速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)81が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、5速駆動ギヤ45に対応して5速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)82が軸方向にスライド可能に設けられる。所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段が内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に連結される。メインシャフトIMS(第1入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、奇数段の変速段を実現するための第1変速機構が構成される。第1変速機構の各駆動ギヤは、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。第1変速機構に備えられたシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)81,82を第1同期装置と呼ぶ。
【0032】
セカンダリシャフトSS(第2入力軸)の外周には、図2において左側から順に、2速駆動ギヤ42、6速駆動ギヤ46と、4速駆動ギヤ44とが相対的に回転可能に配置される。更に、セカンダリシャフトSS上には、2速駆動ギヤ42と6速駆動ギヤ46との間に2−6速シンクロメッシュ機構83が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、4速駆動ギヤ44に対応して4速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)84が軸方向にスライド可能に設けられる。この場合も、所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段がセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結される。セカンダリシャフトSS(第2入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、偶数段の変速段を実現するための第2変速機構が構成される。第2変速機構の各駆動ギヤも、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。なお、セカンダリシャフトSSに固定されたギヤ49はアイドルシャフトIDSに結合しており、該アイドルシャフトIDSから外側メインシャフトOMSを介して第2クラッチC2に結合される。第2変速機構に備えられたシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)83,84を第2同期装置と呼ぶ。
【0033】
なお、第1変速機構において、任意の或る変速段を選択するとは、当該変速段に対応するギヤのシンクロが入れられて該ギヤが内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に連結されることを意味する。また、この第1変速機構において、エンジン走行用の変速段(又は駆動ギヤ段)を実現するとは、該変速段(又は駆動ギヤ段)を上記のように選択した(シンクロを入れた)上で、対応する第1クラッチC1を係合させて内側メインシャフトIMS(第1入力軸)をエンジン出力軸に連結することを意味する。
【0034】
同様に、第2変速機構において、任意の或る変速段を選択するとは、当該変速段に対応するギヤのシンクロが入れられて該ギヤがセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結されることを意味する。また、この第2変速機構において、エンジン走行用の変速段(又は駆動ギヤ段)を実現するとは、該変速段(又は駆動ギヤ段)を上記のように選択した(シンクロを入れた)上で、対応する第2クラッチC2を係合させてセカンダリシャフトSS(第2入力軸)をエンジン出力軸に連結することを意味する。
【0035】
リバースシャフトRVSの外周にはリバース駆動ギヤ46が相対的に回転可能に配置される。また、リバースシャフトRVS上には、リバース駆動ギヤ46に対応してリバースシンクロメッシュ機構85が軸方向にスライド可能に設けられ、また、アイドルシャフトIDSに係合するギヤ50が固定されている。リバース走行する場合は、シンクロメッシュ機構85のシンクロを入れて、第2クラッチC2を係合することにより、第2クラッチC2の回転が外側メインシャフトOMS及びアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSに伝達され、リバース駆動ギヤ46が回転される。リバース駆動ギヤ46は内側メインシャフトIMS上のギヤ56に噛み合っており、リバース駆動ギヤ46が回転するとき内側メインシャフトIMSは前進時とは逆方向に回転する。内側メインシャフトIMSの逆方向の回転はプラネタリギヤ機構70に連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達される。
【0036】
カウンタシャフトCS上には、図2において左側から順に、2−3速従動ギヤ51と、6−7速従動ギヤ52と、4−5速従動ギヤ53と、パーキング用ギヤ54と、ファイナル駆動ギヤ55とが固定的に配置される。ファイナル駆動ギヤ55は、ディファレンシャル機構5のディファレンシャルリングギヤ(図示せず)と噛み合うようになっており、これにより、カウンタシャフトCSの出力軸の回転がディファレンシャル機構5の入力軸(つまり車両推進軸)に伝達される。
【0037】
また、プラネタリギヤ機構70のリングギヤ75とプラネタリギヤ72に係合するように、ワンウェイクラッチ41が設けられる。
【0038】
2−6速シンクロメッシュ機構83のシンクロスリープを左方向にスライドすると、2速駆動ギヤ42がセカンダリシャフトSSに結合され、右方向にスライドすると、6速駆動ギヤ46がセカンダリシャフトSSに結合される。また、4速シンクロメッシュ機構84のシンクロスリープを右方向にスライドすると、4速駆動ギヤ44がセカンダリシャフトSSに結合される。このように偶数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第2クラッチC2を係合することにより、変速機4は偶数の変速段(2速、4速、又は6速)に設定される。
【0039】
3−7速シンクロメッシュ機構81のシンクロスリープを左方向にスライドすると、3速駆動ギヤ43が内側メインシャフトIMSに結合されて3速の変速段が選択され、右方向にスライドすると、7速駆動ギヤ47が内側メインシャフトIMSに結合されて7速の変速段が選択される。また、5速シンクロメッシュ機構82のシンクロスリープを右方向にスライドすると、5速駆動ギヤ45が内側メインシャフトIMSに結合されて5速の変速段が選択される。シンクロメッシュ機構81、82がどのギヤ43、47、45も選択していない状態では、プラネタリギヤ機構70の回転がこれに連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達され、1速の変速段が選択されることになる。このように奇数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第1クラッチC1を係合することにより、変速機4は奇数の変速段(1速、3速、5速、又は7速)に設定される。
【0040】
変速機4で実現すべき変速段の決定及び該変速段を実現するための制御(第1変速機構及び第2変速機構における変速段の選択すなわちシンクロの切り替え制御(プレシフト制御)と、第1クラッチ及び第2クラッチの係合及び係合解除の制御等)は、一般的には公知の手法に従い、運転状況に応じて、電子制御ユニット10によって実行される。更に、以下述べるような本発明に特有の第1変速機構のプレシフト制御も電子制御ユニット10によって実行される。
【0041】
次に、電子制御ユニット10によって実行される第1変速機構のプレシフト制御の第1実施例について図4を参照して説明する。
【0042】
図4は、エンジン走行ギヤ段のアップシフト制御用の変速マップ例及びそれに対応する第1変速機構のプレシフトマップ例を示すグラフであり、横軸が車速、縦軸が運転者の要求トルク(足トルク)を示す。なお、図示の都合上、6速、7速用のマップの図示を省略する。このマップは電子制御ユニット10内に記憶されており、車速センサ(図示せず)から得られる車速情報と運転者の要求トルク(例えばアクセルペダル開度検出情報)との組み合わせによってマップが検索される。点線が変速マップであり、「1−2UP線」と付記された点線は1速から2速にシフトアップを定義する変速マップ、「2−3UP線」と付記された点線は2速から3速にシフトアップを定義する変速マップ、「3−4UP線」と付記された点線は3速から4速にシフトアップを定義する変速マップ、「4−5UP線」と付記された点線は4速から5速にシフトアップを定義する変速マップ、である。このエンジン走行ギヤ段の変速マップそれ自体は公知のものを用いてよく、アップシフト制御の仕方も公知の手法を用いてよい。例えば、エンジン走行ギヤ段として1速走行中に、車速又は要求トルク(足トルク)が「1−2UP線」を図中左から右に跨ぐように変化したとき、その上段の2速に変速制御される。また、エンジン走行ギヤ段として2速走行中に、車速又は要求トルク(足トルク)が「2−3UP線」を図中左から右に跨ぐように変化したとき、その上段の3速に変速制御される。
【0043】
図4において、一点鎖線は、車速の変化に伴う目標トルク(運転者の要求トルク)の変化カーブの一例を示している。図4の下側において「走行ギヤ段」と題したステップ状の図は、一点鎖線で示す目標トルクの変化に応じて上記点線で示す変速マップに従い順次シフトアップされたエンジン走行ギヤ段を例示している。
【0044】
図4において、実線は各ギヤ段毎のBSFC線を示し、「1st Eng BSFC」と付記された実線は1速用のBSFC線、「2nd Eng BSFC」と付記された実線は2速用のBSFC線、「3rd Eng BSFC」と付記された実線は3速用のBSFC線、「4th Eng BSFC」と付記された実線は4速用のBSFC線、「5th Eng BSFC」と付記された実線は5速用のBSFC線、である。このBSFC線は、各ギヤ段毎のエンジンの最小燃費トルクを示す。例えば、エンジン走行ギヤ段として1速走行中に、要求トルクが1速用のBSFC線「1st Eng BSFC」上の現在車速に対応するポイントのトルクよりも大きければ、要求トルクが最小燃費トルクを上回っており、小さければ、要求トルクが最小燃費トルクを下回っていることを意味する。
【0045】
本実施例においては、各ギヤ段毎のBSFC線を基準にして、エンジン走行中の電気モータ3のアシスト運転又は回生運転を制御する。すなわち、運転者の要求トルクが現在のエンジン走行ギヤ段に対応するBSFC線上の現在車速に対応するポイントのトルクよりも大きければアシスト運転し、エンジン2は最小燃費トルク近辺で動かし、不足するトルクをモータ3のアシスト運転により補う。他方、運転者の要求トルクが現在のエンジン走行ギヤ段に対応するBSFC線上の現在車速に対応するポイントのトルクよりも小さければ回生運転し、エンジン2は最小燃費トルク近辺で動かし、余ったトルクをモータ3の回生(バッテリ充電)に使用する。これにより、絶えず、エンジン2を最小燃費トルク近辺で動かし、電気モータ3をアシスト運転又は回生運転に効率的に使い分けることができる。
【0046】
図4において、一点鎖線で示す目標トルクの変化カーブと上記実線で示すBSFC線の交点の付近に示されたA及びCで示す領域はアシスト運転又は回生運転の領域を示す。Aで示す領域がアシスト運転の領域、Cで示す領域が回生運転の領域である。例えば、1速走行中に、目標トルクが「1st Eng BSFC」のBSFC線よりも上であればアシスト運転し、目標トルクが「1st Eng BSFC」のBSFC線よりも下であれば回生運転する。
【0047】
また、本実施例においては、各ギヤ段毎のBSFC線を基準にして、エンジン走行中の第1変速機構(奇数ギヤ段)のプレシフト制御を行う。すなわち、現在のエンジン走行ギヤ段が第2変速機構すなわち偶数ギヤ段の場合、第1変速機構でプレシフトとして選択可能なギヤ段は走行ギヤ段の1つ上又は1つ下の奇数ギヤ段であるところ、本実施例では、運転者の要求トルクが現在のエンジン走行ギヤ段(第2変速機構すなわち偶数ギヤ段)に対応するBSFC線上の現在車速に対応するポイントのトルク(最小燃費トルク)よりも大きければプレシフトとして低速側のギヤ段を選択し、それ以外(最小燃費トルク又はそれよりも小)のときはプレシフトとして高速側のギヤ段を選択する。運転者の要求トルクがBSFC線で定義される最小燃費トルクよりも大きければ、キックダウン変速制御される可能性があるため、それに備えて、第1変速機構において現在の偶数走行ギヤ段の低速側の奇数ギヤ段をプレシフトしておくことにより、スムーズなキックダウン変速を行うことができる。また、上記アシスト運転と組み合わせることにより、低速側の奇数ギヤ段を使用してモータ3による効率的なアシストを行うことができる。一方、それ以外(最小燃費トルク又はそれよりも小)のときはキックダウンの可能性がないので、プレシフトとして高速側のギヤ段を選択しておくことにより、スムーズなアップシフト変速を行うことができる。また、上記回生運転と組み合わせることにより、高速側の奇数ギヤ段を使用して無理のない効率的な回生運転を行うことができる。
【0048】
図4の下側において「奇数ギヤ段プレシフト」と題したステップ状の図は、一点鎖線で示す目標トルクの変化に応じて上記実線で示すBSFC線に従いプレシフト制御される様子を例示している。例えば、走行ギヤ段が2速(2nd)のとき、目標トルクが「2nd Eng BSFC」のBSFC線上の現在車速に対応するポイントのトルク(最小燃費トルク)よりも大きければプレシフトとして低速側のギヤ段(1速:1st)を選択し、それ以外(最小燃費トルク又はそれよりも小)のときはプレシフトとして高速側のギヤ段(3速:3rd)を選択する。また、走行ギヤ段が4速(4th)のとき、目標トルクが「4th Eng BSFC」のBSFC線上の現在車速に対応するポイントのトルク(最小燃費トルク)よりも大きければプレシフトとして低速側のギヤ段(3速:3rd)を選択し、それ以外(最小燃費トルク又はそれよりも小)のときはプレシフトとして高速側のギヤ段(5速:5th)を選択する。
【0049】
図4を参照して上述した第1実施例に従う本発明の制御手順は、コンピュータプログラムとして電子制御ユニット10内に組み込まれ、該電子制御ユニット10に含まれるコンピュータ若しくはCPUによって該コンピュータプログラムが実行されるようになっていてよい。例えば、そのようなコンピュータプログラムは、前記第2変速機構のギヤ段(偶数段)で走行中に前記第1同期装置(シンクロ機構81,82)によって前記第1変速機構のギヤ段を選択する場合、選択可能な2つのギヤ段(奇数段)のうち、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが大きいときは低速側のギヤ段を選択し、それ以外のときは高速側のギヤ段を選択するよう前記第1同期装置を制御する手順を、コンピュータに実行させるように構成される。
【0050】
次に、電子制御ユニット10によって実行される第1変速機構のプレシフト制御の第2実施例について図5を参照して説明する。この第2実施例は、前記第1の課題を解決し得るものである。
【0051】
図5は、モータ3でアシスト走行しながら、エンジン走行ギヤ段を第1変速機構(奇数ギヤ段)から第2変速機構(偶数ギヤ段)にアップシフトするときの本発明(第2実施例)に従う第1変速機構のプレシフト制御の手法を示すタイミングチャートである。
【0052】
図5の例においては、区間Xにおいて、例えばエンジン走行ギヤ段を1速から2速にアップシフトするために、第1変速機構用の第1クラッチC1の係合を解除し第2変速機構用の第2クラッチC2を係合し、また、第2変速機構用の第2同期装置によって2速ギヤ段を選択する。Neはエンジン回転数の変化を示し、Tengはエンジン2のトルク変化例、Tmotはモータ3ののトルク変化例、Tq_Oddは第1クラッチC1のトルク変化例、Tq_Evenは第2クラッチC2のトルク変化例を示す。走行ギヤ段の切換制御は従来技術とほぼ同様であってよいが、参考のために、簡単に説明する。すなわち、区間Xの始まりにおいて、目標ギヤ段として2速が指定されると、第1クラッチC1から第2クラッチC2への切換制御によって、第1クラッチC1のトルクTq_Oddが徐々に低下し、第2クラッチC2のトルクが徐々に増加する。そして、区間Xの終わりでエンジン走行ギヤ段が2速に完全に切り換わる。
【0053】
この第2実施例においては、モータアシスト走行時に、エンジン走行ギヤ段を第1変速機構(例えば1速)から第2変速機構(例えば2速)にアップシフトするときに、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示の場合(例えばアクセルペダル踏み込み量がほぼフル状態の加速指示である場合)、第1及び第2クラッチの係合状態の変更に対応して(区間Xにおけるクラッチ切り替えのイナーシャ相において)、第1同期装置(81,82)によって第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に予め選択するよう該第1同期装置(81,82)を制御する。例えば、図5の例の場合、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示であるという条件が満たされているならば、第1クラッチC1から第2クラッチC2への切換がほぼ終わったときにモータ3のトルクTmotを一時的に0とし、その間に、第1変速機構の第1同期装置(81,82)で選択するギヤ段を1速から3速に切り替える。すなわち、プレシフトギヤ段の変更のためにシンクロ機構をつなぎ替えるとき、モータ3を回転数制御してトルク抜きを行い、シンクロのスムーズな切り替えが行えるようにする。なお、その際、エンジン回転数Neが緩やかに下降する間、従来はエンジントルクTengを一時的に落としてクラッチ切り換え時のショックを和らげるようにしていたが、この第2実施例では、そのときモータトルクTmotを一時的に0とするので、エンジントルクTengを一時的に落とす必要がない。つまり、この第2実施例では、モータトルクTmotを一時的に0としても、クラッチ切り換えのためにエンジントルクTengを一時的に落すようにする必要がないので、総体としてトルク抜けが生じない。
【0054】
運転者の要求トルクが所定以上の加速指示であることは、更なるシフトアップが要求されることを予測させるものである。つまり、エンジン走行段を第2変速機構に切り替えた後に、更に再び第1変速機構に切り替えて上位ギヤ段(例えば3速)にギアシフトすることを要求される可能性が高い。この第2実施例によれば、そのような更なるアップシフト要求があった場合、第1変速機構は既に上位ギヤ段(例えば3速)にプレシフトされているので、モータ3の一時的トルク抜きを行う必要がなく、モータアシストを維持しつつエンジン走行ギアを上位ギヤ段(例えば3速)に変更することができ、アシスト抜けによる駆動力の一時的不足が生じないものとなる。これに対し、従来技術にあっては、例えば、区間Xの後の区間Yでアップシフトの準備のために第1変速機構を上位ギヤ段(例えば3速)にプレシフトするようになっており、その際にモータアシストが一時中断されることで駆動力の一時的不足が生じるという不都合があった。この第2実施例によれば、そのような不都合を解決することができる。なお、図5において、点線は従来の制御例を参考のために示すものである。
【0055】
なお、この第2実施例において、運転者の要求トルクが前記所定以上の加速指示でない場合は、区間Xにおいて第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に予め選択する必要がない。その場合は、エンジン回転数対モータ効率が最適となるように、第1同期装置によって第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に選択する又は現在のギヤ段を維持するよう該第1同期装置を制御するようにすればよい。
【0056】
図5を参照して上述した第2実施例に従う本発明の制御手順も、コンピュータプログラムとして電子制御ユニット10内に組み込まれ、該電子制御ユニット10に含まれるコンピュータ若しくはCPUによって該コンピュータプログラムが実行されるようになっていてよい。例えば、そのようなコンピュータプログラムは、走行ギヤ段を前記第1変速機構から前記第2変速機構にアップシフトするときに、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示の場合、前記第1及び第2クラッチの係合状態の変更に対応して前記第1同期装置(シンクロ機構81,82)によって前記第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に予め選択するよう該第1同期装置を制御する手順を、コンピュータに実行させるように構成される。
【0057】
次に、電子制御ユニット10によって実行される第1変速機構のプレシフト制御の第3実施例について図6を参照して説明する。この第3実施例は、前記第2の課題を解決し得るものである。
【0058】
図6は、電気モータ3が係合されていない第2変速機構(例えば4速)でエンジン走行しつつ第1変速機構を介して電気モータ3を回生運転(充電)するときの本発明(第3実施例)に従う第1変速機構のプレシフト制御の手法を示すタイミングチャートである。この第3実施例においては、第2変速機構のギヤ段で走行中に第1同期装置によって第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択してモータ3を回生運転する場合、現在の走行ギヤ段よりも高速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御する。例えば、第2変速機構(例えば4速)でエンジン走行しているときは、第1変速機構のギヤ段として5速ギヤ段にプレシフトする。このように、回生運転時は、第1変速機構を常に高速側のギヤ段にプレシフトすることにより、プレシフトギヤ段切り替えのために回生運転が一時的に中断される(回生抜け)という問題が生じないものとなる。これに対して、従来は回生運転中に走行ギヤ段の低速側のギヤ段に第1変速機構をプレシフトすることがあったために、例えば図6の区間Zの前まで第1変速機構を3速にプレシフトしていたが、走行状態の変化によって区間Zにおいて第1変速機構のプレシフトを5速に変更するということが起こり得た。その場合、プレシフトの掛け替えのために区間Zにおいてモータ3のトルクTmotを一時的に0にする必要が有り、その部分で回生運転が一時的に中断される(回生抜け)という問題(第2の課題)があった。しかも、該プレシフトギヤ段の変更中の回生抜けによる駆動力変化を考慮して、ゆっくりとモータトルクとエンジントルクの掛け替えが実施されるため、その間、BSFCの最適なトレースを行うことができないという問題(第2の課題)もあった。この第3実施例ではそれらの問題を解決することができる。なお、図6において、点線は従来の制御例を参考のために示すものである。
【0059】
図6を参照して上述した第3実施例に従う本発明の制御手順も、コンピュータプログラムとして電子制御ユニット10内に組み込まれ、該電子制御ユニット10に含まれるコンピュータ若しくはCPUによって該コンピュータプログラムが実行されるようになっていてよい。例えば、そのようなコンピュータプログラムは、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置(シンクロ機構81,82)によって前記第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択して前記モータを回生運転する場合、現在の走行ギヤ段よりも高速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御する手順を、コンピュータに実行させるように構成される。
【0060】
次に、電子制御ユニット10によって実行される第1変速機構のプレシフト制御の第4実施例について図7を参照して説明する。この第4実施例は、前記第3の課題を解決し得るものである。
【0061】
図7は、電気モータ3が係合されていない第2変速機構(例えば4速)でエンジン走行しつつ第1変速機構を介して電気モータ3によるアシスト走行するときの本発明(第4実施例)に従う第1変速機構のプレシフト制御の手法を示すタイミングチャートである。この第4実施例においては、第2変速機構のギヤ段で走行中に第1同期装置によって該第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択してモータ3でアシスト走行する場合、現在の走行ギヤ段よりも低速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御する。例えば、4速でエンジン走行しているときにモータアシスト運転に移行したら、速やかに、第1変速機構を3速にプレシフトする。図7においては、この第4実施例を前記第3実施例と併用する例が示されている。すなわち、4速でエンジン走行しているときに回生運転しているならば第1変速機構を5速にプレシフトし、モータアシスト運転に移行したら第1変速機構のプレシフトを3速に切り替えることが示されている。
【0062】
図7において、区間Wは、運転者の要求トルクが4速における所定のアシスト限界を越えた場合を示しており、この場合、エンジン走行ギヤ段を低速側(例えば3速)にギヤダウンする。この第4実施例によれば、モータアシスト走行に移行した際に第1変速機構のプレシフトは既に3速に切り替えられているので、区間Wでは、第1変速機構のプレシフトを変更することなく、エンジン用クラッチを第2クラッチC2から第1クラッチC1に切り替えることを行うだけでよい。従って、アシスト走行中のエンジン走行ギヤ段の奇数段へのギヤダウンに際して、モータアシスト抜けが生じないものとなり、駆動力抜けを生じることなく、運転者の加速要求に迅速に応えることができる。これに対して、従来はアシスト走行中にエンジン走行ギヤ段の高速側のギヤ段(例えば5速)に第1変速機構をプレシフトすることがあったために、運転者によるアクセル踏み込みによって要求トルクが上がることにより走行ギヤ段を下位のギヤ段(例えば3速)にキックダウンする必要が生じたとき、例えば区間Wの始まりにおいて第1変速機構のプレシフトを下位のギヤ段(例えば3速)にプレシフトし、それからエンジン用クラッチを切り替えることになる。しかし、そうすると、第1変速機構のプレシフトギヤ段の切り替えのためにアシスト走行が中断されるため、エンジンクラッチの切り替えと相まって大幅な駆動力抜けが生じ、運転者の加速要求に迅速に応えることができないという問題(第3の課題)を生じる。この第4実施例ではその問題を解決することができる。なお、図7において、点線は従来の制御例を参考のために示すものである。
【0063】
図7を参照して上述した第4実施例に従う本発明の制御手順も、コンピュータプログラムとして電子制御ユニット10内に組み込まれ、該電子制御ユニット10に含まれるコンピュータ若しくはCPUによって該コンピュータプログラムが実行されるようになっていてよい。例えば、そのようなコンピュータプログラムは、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置(シンクロ機構81,82)によって前記第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択して前記モータでアシスト走行する場合、現在の走行ギヤ段よりも低速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御する手順を、コンピュータに実行させるように構成される。
【0064】
更に、本発明の第5実施例は、第1変速機構のギヤ段で走行中に第2同期装置によって第2変速機構のギヤ段を選択(プレシフト)する場合、現在の走行ギヤ段よりも高速側のギヤ段を選択(プレシフト)するよう第2同期装置を制御することを特徴とする。これは、高速側のギヤ段にプレシフトする方が引きずり損失が少ないからである。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 エンジン
3 モータ
4 変速機
5 ディファレンシャル機構
10 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関エンジンと、
電気モータと、
前記モータに電力を供給する蓄電池と、
第1同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第1入力軸を出力軸に結合する第1変速機構と、
第2同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第2入力軸を前記出力軸に結合する第2変速機構と、
前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
前記第1変速機構及び第2変速機構におけるギヤ段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段と
を備えるハイブリッド車両であって、
前記制御手段は、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段を選択する場合、選択可能な2つのギヤ段のうち、現在の走行ギヤ段に対応するエンジンの最小燃費トルクより運転者の要求トルクが大きいときは低速側のギヤ段を選択し、それ以外のときは高速側のギヤ段を選択するよう前記第1同期装置を制御することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
内燃機関エンジンと、
電気モータと、
前記モータに電力を供給する蓄電池と、
第1同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第1入力軸を出力軸に結合する第1変速機構と、
第2同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第2入力軸を前記出力軸に結合する第2変速機構と、
前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
前記第1変速機構及び第2変速機構におけるギヤ段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段と
を備えるハイブリッド車両であって、
前記制御手段は、走行ギヤ段を前記第1変速機構から前記第2変速機構にアップシフトするときに、運転者の要求トルクが所定以上の加速指示の場合、前記第1及び第2クラッチの係合状態の変更に対応して前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に予め選択するよう該第1同期装置を制御することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
前記所定以上の加速指示とは、アクセルペダル踏み込み量がほぼフル状態の加速指示である請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記運転者の要求トルクが前記所定以上の加速指示でない場合、エンジン回転数対モータ効率が最適となるように、前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段を高速側のギヤ段に選択する又は現在のギヤ段を維持するよう前記第1同期装置を制御することを特徴とする請求項2又は3に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1変速機構のギヤ段で走行中に前記第2同期装置によって前記第2変速機構のギヤ段を選択する場合、現在の走行ギヤ段よりも高速側のギヤ段を選択するよう前記第2同期装置を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
内燃機関エンジンと、
電気モータと、
前記モータに電力を供給する蓄電池と、
第1同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第1入力軸を出力軸に結合する第1変速機構と、
第2同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第2入力軸を前記出力軸に結合する第2変速機構と、
前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
前記第1変速機構及び第2変速機構におけるギヤ段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段と
を備えるハイブリッド車両であって、
前記制御手段は、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択して前記モータを回生運転する場合、現在の走行ギヤ段よりも高速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項7】
内燃機関エンジンと、
電気モータと、
前記モータに電力を供給する蓄電池と、
第1同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第1入力軸を出力軸に結合する第1変速機構と、
第2同期装置によって複数のギヤ段のうちいずれか1つを選択可能であり、前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、選択されたギヤ段を介して該第2入力軸を前記出力軸に結合する第2変速機構と、
前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
前記第1変速機構及び第2変速機構におけるギヤ段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段と
を備えるハイブリッド車両であって、
前記制御手段は、前記第2変速機構のギヤ段で走行中に前記第1同期装置によって前記第1変速機構のギヤ段のいずれかを選択して前記モータでアシスト走行する場合、現在の走行ギヤ段よりも低速側のギヤ段を選択するよう該第1同期装置を制御することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項8】
前記第1及び第2同期装置は、シンクロクラッチを使用しており、該第1又は第2同期装置によって選択するギヤ段を変更する際に前記モータの回転数制御を行うことによりトルク抜きを行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のハイブリッド車両。
【請求項9】
前記第1及び第2クラッチとして乾式クラッチを使用することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166574(P2012−166574A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26453(P2011−26453)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】