説明

ハイブリッド車両

【課題】エンジン始動用変速段と加速用変速段とを自由に選択して、ショックの小さいエンジン始動と、エンジン始動後の速やかな加速とを実現することが可能なハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】T/M5は、電気モータ4の駆動力を変速機構7,8の変速段13〜15,23〜25を介さずに駆動輪2a,2bへ伝達する構成とする。そして、T/MECU6は、車速vに応じて変速機構7,8の何れか一方に属する変速段のうちの1つをエンジン始動用変速段として選択し、変速機構7,8の何れか他方に属し且つエンジン始動用変速段として選択した変速段よりも変速比の大きい変速段のうちの1つを加速用変速段として選択し、前記一方の変速機構を構成するクラッチ16又は26を接続状態にすることによりエンジン3をクランキングして始動し、エンジン始動後に前記接続状態は解除し、前記他方の変速機構を構成するクラッチ26又は16を接続状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランスミッションを備えたハイブリッド車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に装備されるトランスミッション(T/M)の一種として、近年、デュアルクラッチ式のT/Mが知られている。
【0003】
デュアルクラッチ式のT/Mは、第1変速機構に具備された第1クラッチと、第2変速機構に具備された第2クラッチとを備えたものである。
第1変速機構は、第1インプットシャフトと、第1アウトプットシャフトと、複数の変速段と、前記第1インプットシャフトとエンジンの出力軸とを連結可能な前記第1クラッチとを備えており、前記複数の変速段のうちから選択される何れか1つの変速段によって、前記第1インプットシャフトと前記第1アウトプットシャフトとを連結可能なものである。
第2変速機構は、第2インプットシャフトと、第2アウトプットシャフトと、他の複数の変速段と、前記第2インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な前記第2クラッチとを備えており、前記他の複数の変速段のうちから選択される何れか1つの変速段によって、前記第2インプットシャフトと前記第2アウトプットシャフトとを連結可能なものである。
【0004】
そして、このようなデュアルクラッチ式のT/Mはハイブリッド車両にも装備される。ハイブリッド車両は、駆動輪を駆動するための走行駆動源としてエンジン(内燃機関)と電気モータとを搭載しており、電気モータのみが駆動輪を駆動して走行するEV走行と、電気モータとエンジンとが駆動輪を駆動して走行するHV走行と、エンジンのみが駆動輪を駆動して走行をするエンジン走行とが可能である。
【0005】
デュアルクラッチ式のT/Mを装備したハイブリッド車両の従来例としては、例えば下記の特許文献1に開示されたものがある。特許文献1のハイブリッド車両に装備されているデュアルクラッチ式のT/Mは、特許文献1の図1(ここでは図示省略)に示されているとおり、電気モータの出力軸が第2変速機構の第2入力軸(インプットシャフト)に結合されており、前記電気モータの駆動力が、第2変速機構における第2変速段又は第4変速段を介して駆動輪へ伝達される構成のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−76625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイブリッド車両では、EV走行時にエンジンの駆動力も加えたい場合、停止していたエンジンを始動させる必要がある。このようなエンジン始動の要求は、例えば運転者によるアクセルペダルの踏み込み量(即ち駆動輪に対する要求駆動力)が増大したときや、走行用の電気モータへ電力を供給する駆動用バッテリの残存容量(SOC)が低下したときなどに生じる。
【0008】
EV走行時にエンジンを始動させる方法としては、スターターを別途設ける方法と、クラッチを接続して走行用の電気モータでエンジンをクランキング(押しがけ)する方法とがある。しかし、スターターを設けるにはコストがかかる。このため、エンジンをクランキングする方が特にコストの点で望ましい。
【0009】
しかし、停止しているエンジンをクランキングするため、車速や変速段の選択状態によっては、クラッチを接続したときに大きなショックが発生するおそれがある。一方、変速比(ここでは、エンジン側入力軸(インプットシャフト)から駆動輪側出力軸(アウトプットシャフト)へ駆動力が伝達される際の前記エンジン側入力軸(インプットシャフト)に対する前記駆動輪側出力軸(アウトプットシャフト)の回転数の減速比)が小さい高変速段を選択した状態でクラッチを接続すればショックの発生を低減することができるが、この場合にはエンジン始動後の加速性が悪いという問題がある。即ち、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きい場合には、エンジン始動後に速やかに加速することが望まれるが、変速比の小さい高変速段が選択されたままでは、このような速やかな加速が得られない。
【0010】
このため、エンジン始動用の変速段と加速用の変速段とを自由に選択できて、ショックの小さいエンジン始動と、エンジン始動後の速やかな加速とを実現することができるようにすることが望まれる。
【0011】
しかし、特許文献1のT/Mは、電気モータの駆動力が、第2変速機構における第2変速段又は第4変速段を介して駆動輪へ伝達される構成のものであるため、エンジン始動用変速段や加速用変速段の選択が制限される。例えば、電気モータの駆動力が第2変速段を介して駆動輪に伝達されている場合、第4変速段をエンジン始動用の変速段として選択しようとすると、第2変速段の選択を解除してから第4変速段を選択するまでの間は、電気モータの駆動力が駆動輪に伝達されない状態(駆動力抜け状態)になってしまう。従って、この場合には第4変速段をエンジン始動用の変速段として選択することができない。同様に、電気モータの駆動力が第4変速段を介して駆動輪に伝達されている場合、第2変速段を加速用の変速段として選択しようとすると、第4変速段の選択を解除してから第2変速段を選択するまでの間は、電気モータの駆動力が駆動輪に伝達されない状態(駆動力抜け状態)になってしまう。従って、この場合には第2変速段をエンジン始動用の変速段として選択することができない。
【0012】
従って本発明は上記の事情に鑑み、EV走行時にエンジンをクランキングして始動する際、エンジン始動用変速段と加速用変速段とを自由に選択して、ショックの小さいエンジン始動と、エンジン始動後の速やかな加速とを実現することが可能なハイブリッド車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する第1発明のハイブリッド車両は、駆動輪を駆動するための走行駆動源となるエンジンと、
駆動輪を駆動するための走行駆動源となる電気モータと、
前記駆動輪と前記エンジンとをつなぎ、変速機構において選択される複数の変速段によって前記駆動輪と前記エンジンとの間の伝達駆動力を変速するトランスミッションと、
前記トランスミッションの前記変速機構を制御する制御手段と
を搭載しているハイブリッド車両において、
前記制御手段は、EV走行時にエンジン始動要求が生じたとき、車速に応じて、前記複数の変速段のうちからエンジン始動用変速段を選択することにより、前記駆動輪側から前記エンジン側への伝達駆動力で前記エンジンをクランキングして始動させること
を特徴とする。
【0014】
また、第2発明のハイブリッド車両は、第1発明のハイブリッド車両において、
ハイブリッド車の車速を検出する前記車速検出手段を備えており、
前記トランスミッションは、
第1インプットシャフトと、第1アウトプットシャフトと、前記第1インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な第1クラッチとを有し、前記第1インプットシャフトと前記第1アウトプットシャフトとを連結して前記伝達駆動力を変速する第1変速機構と、
第2インプットシャフトと、第2アウトプットシャフトと、前記第2インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な第2クラッチとを有し、前記第2インプットシャフトと前記第2アウトプットシャフトとを連結して前記伝達駆動力を変速する第2変速機構と、
前記第1アウトプットシャフトと、前記第2アウトプットシャフトと、前記電気モータの出力軸とを、前記駆動輪に連結するための連結機構とを備えたものであり、
前記制御手段は、
EV走行時にエンジン始動要求が生じたとき、
前記車速検出手段で検出する車速に応じて、前記第1変速機構又は前記第2変速機構の何れか一方の変速機構に属する変速段のうちから、1つの変速段をエンジン始動用変速段として選択し、
前記第1変速機構又は前記第2変速機構の何れか他方の変速機構に属する変速段であって且つ前記エンジン始動用変速段として選択した変速段よりも変速比の大きい変速段のうちから、1つの変速段を加速用変速段として選択し、
前記エンジン始動用変速段として選択した変速段が属する前記一方の変速機構を構成する前記第1クラッチ又は前記第2クラッチを接続状態にすることにより、前記エンジンをクランキングして始動し、
エンジン始動後に、前記一方の変速機構を構成する前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの前記接続状態は解除し、前記加速用変速段として選択した変速段が属する前記他方の変速機構を構成する前記第2クラッチ又は前記第1クラッチを接続状態にすること、
を特徴とする。
【0015】
また、第3発明のハイブリッド車両は、第2発明のハイブリッド車両において、
ハイブリッド車両に対する要求加速度を検出する要求加速度検出手段を備えており、
前記制御手段は、
前記第1変速機構及び前記第2変速機構の各変速段において前記車速に応じたエンジン回転数がアイドリング回転数になるごと区分けした範囲である車速レンジと、前記要求加速度と、前記エンジン始動用変速段と、前記加速用変速段との対応関係を表す選択表を記憶しており、
前記車速検出手段で検出する車速と、前記要求加速度検出手段で検出する要求加速度と、前記選択表とに基づいて、前記エンジン始動用変速段と前記加速用変速段とを選択すること、
を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明のハイブリッド車両によれば、前記複数の変速段の何れをエンジン始動用変速段として選択しても、電気モータの駆動力が駆動輪に伝達されない状態(駆動力抜け状態)になることはなく、自由に変速段を選択することができる。
そして、前記制御手段は、EV走行時にエンジン始動要求が生じたとき、車速に応じて、前記複数の変速段のうちからエンジン始動用変速段を選択することにより、前記駆動輪側から前記エンジン側への伝達駆動力で前記エンジンをクランキングして始動させることを特徴しているため、適切なエンジン始動用変速段を選択して、ショックの小さいエンジン始動を実現することができる。
【0017】
また、第2発明のハイブリッド車両によれば、前記トランスミッションは、第1インプットシャフトと、第1アウトプットシャフトと、前記第1インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な第1クラッチとを有し、前記第1インプットシャフトと前記第1アウトプットシャフトとを連結して前記伝達駆動力を変速する第1変速機構と、第2インプットシャフトと、第2アウトプットシャフトと、前記第2インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な第2クラッチとを有し、前記第2インプットシャフトと前記第2アウトプットシャフトとを連結して前記伝達駆動力を変速する第2変速機構と、前記第1アウトプットシャフトと、前記第2アウトプットシャフトと、前記電気モータの出力軸とを、前記駆動輪に連結するための連結機構とを備えたことを特徴としているため、電気モータの駆動力が、第1変速機構及び第2変速機構における変速段を介さずに駆動輪へ伝達される。このため、第1変速機構及び第2変速機構の変速段の何れをエンジン始動用変速段や加速用変速段として選択しても、電気モータの駆動力が駆動輪に伝達されない状態(駆動力抜け状態)になることはなく、自由に変速段を選択することができる。
そして、前記制御手段は、EV走行時にエンジン始動要求が生じたとき、前記車速検出手段で検出する車速に応じて、前記第1変速機構又は前記第2変速機構の何れか一方の変速機構に属する変速段のうちから、1つの変速段をエンジン始動用変速段として選択し、前記第1変速機構又は前記第2変速機構の何れか他方の変速機構に属する変速段であって且つ前記エンジン始動用変速段として選択した変速段よりも変速比の大きい変速段のうちから、1つの変速段を加速用変速段として選択し、前記エンジン始動用変速段として選択した変速段が属する前記一方の変速機構を構成する前記第1クラッチ又は前記第2クラッチを接続状態にすることにより、前記エンジンをクランキングして始動し、エンジン始動後に、前記一方の変速機構を構成する前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの前記接続状態は解除し、前記加速用変速段として選択した変速段が属する前記他方の変速機構を構成する前記第2クラッチ又は前記第1クラッチを接続状態にすることを特徴としているため、適切なエンジン始動用変速段と加速用変速段とを選択して、ショックの小さいエンジン始動と、エンジン始動後の速やかな加速とを実現することができる。
【0018】
また、第3発明のハイブリッド車両によれば、前記制御手段は、前記第1変速機構及び前記第2変速機構の各変速段において前記車速に応じたエンジン回転数がアイドリング回転数になるごと区分けした範囲である車速レンジと、前記要求加速度と、前記エンジン始動用変速段と、前記加速用変速段との対応関係を表す選択表を記憶しており、前記車速検出手段で検出する車速と、前記要求加速度検出手段で検出する要求加速度と、前記選択表とに基づいて、前記エンジン始動用変速段と前記加速用変速段とを選択することを特徴としているため、適切なエンジン始動用変速段と加速用変速段とを選択して、ショックを小さくし、且つ、エンジン回転数をアイドリング回転数付近に速やかに安定させて確実にエンジンを始動することができ、エンジン始動後の速やかな加速も実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車両のシステム構成図である。
【図2】T/MECUによるEV走行時のエンジン始動制御の流れを示すフローチャートである。
【図3】エンジン始動用変速段と車速・エンジン回転数の関係を示す図である。
【図4】エンジン始動用変速段及び加速用変速段の選択表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車両1は、駆動輪2a,2bを駆動するための走行駆動源としてエンジン(内燃機関)3と電気モータ4とを搭載しており、電気モータ4のみが駆動輪2a,2bを駆動して走行するEV走行と、電気モータ4とエンジン3とが駆動輪2a,2bを駆動して走行するHV走行と、エンジン3のみが駆動輪2a,2bを駆動して走行するエンジン走行とが可能である。なお、図示は省略するが、電気モータ4は、駆動用バッテリからインバータを介して供給される電力によって回転する。
【0022】
そして、ハイブリッド車両1には、デュアルクラッチ式のトランスミッション(T/M)5と、このT/M5の変速機構7,8を制御する制御手段としてのトランスミッション電子制御ユニット(T/MECU)6とが装備されている。なお、図示は省略するが、ハイブリッド車両1にはT/MECU6以外にも、電気モータ4を制御するモータECUや、エンジン3を制御するエンジンECUなども装備されている。
【0023】
まず、T/M5について説明する。図1に示すように、T/M5は、駆動輪2a,2bとエンジン3とをつなぎ、変速機構7,8において選択される複数の変速段13,14,15,23,24,25によって駆動輪2a,2bとエンジン3との間の伝達駆動力を変速するものである。しかも、T/M5は、電気モータ4の駆動力を、変速機構7,8における複数の変速段13,14,15,23,24,25を介さずに駆動輪2a,2bへ伝達する構成のものである。
【0024】
詳述すると、T/M5は、第1変速機構7と、第2変速機構8と、連結機構9とを備えている。
【0025】
第1変速機構7は、第1インプットシャフト(入力軸)11と、第1アウトプットシャフト(出力軸)12と、複数(図示例では3段)の変速段13,14,15と、第1インプットシャフト11とエンジン3の出力軸3aとを連結可能な第1クラッチ16とを備えており、複数の変速段12,13,14のうちから選択される何れか1つの変速段(12又は13又は14)によって、第1インプットシャフト11と第1アウトプットシャフト12とを連結可能なものである。
【0026】
第2変速機構8は、第2インプットシャフト21と、第2アウトプットシャフト22と、他の複数(図示例では3段)の変速段23,24,25と、第2インプットシャフト21とエンジン3の出力軸3aとを連結可能な第2クラッチ26とを備えており、他の複数の変速段23,24,25のうちから選択される何れか1つの変速段(22又は23又は24)によって、第2インプットシャフト21と第2アウトプットシャフト22とを連結可能なものである。
【0027】
なお、変速段13,14,15,23,24,25は前進用のものであるが、後進用の変速段を第1変速機構7又は第2変速機構8に設けてもよい。
【0028】
連結機構9は、第1変速機構7の第1アウトプットシャフト12と、第2変速機構8の第2アウトプットシャフト22と、電気モータ4の出力軸(ロータの回転軸)4aとを駆動輪2a,2bに連結するためのものである。
従って、T/M5は、電気モータ4の駆動力を、連結機構9を介して駆動輪2a,2bへ伝達する。即ち、前述のとおり、T/M5は、電気モータ4の駆動力を、変速機構7,8における複数の変速段13,14,15,23,24,25を介さずに駆動輪2a,2bへ伝達する構成になっている。
【0029】
第1変速機構7、第2変速機構8及び連結機構9などの構成について更に詳述する。
【0030】
第1インプットシャフト11と、第1アウトプットシャフト12と、第2インプットシャフト21と、第2アウトプットシャフト22は、互いに平行に延びている。第2インプットシャフト21は中空のシャフトであり、第1インプットシャフト11は第2インプットシャフト21内に挿通されている。
【0031】
エンジン3の出力軸3aは、第1クラッチ16及び第2クラッチ26が設けられたクラッチハウジング27に結合されている。従って、クラッチハウジング27はエンジン3の出力軸3aとともに回転する。
【0032】
第1クラッチ16は、第1インプットシャフト11の端部に結合された摩擦板(クラッチ板)16aと、摩擦板16aと対向して設けられ、アクチュエータ(図示せず)によって駆動される摩擦相手板16bと、摩擦板16aと対向してクラッチハウジング27に固定された固定板16cとを有している。
従って、第1クラッチ16は、摩擦相手板16bが、アクチュエータによって一方へ駆動されることにより、摩擦板16aを固定板16cに押し付けて接続状態となる。この接続状態では第1インプットシャフト11が、第1クラッチ16を介してエンジン11の出力軸11aに連結され、この出力軸11aとともに回転する。摩擦相手板16bが、アクチュエータによって他方へ駆動されると、固定板16cへの摩擦板16aの押し付けが解除される。即ち、第1クラッチ16の接続状態が解除される。
【0033】
第2クラッチ26は、第2インプットシャフト21の端部に結合された摩擦板(クラッチ板)26aと、摩擦板26aと対向して設けられ、アクチュエータ(図示せず)によって駆動される摩擦相手板26bと、摩擦板26aと対向してクラッチハウジング27に固定された固定板26cとを有している。
従って、第2クラッチ26は、摩擦相手板26bが、アクチュエータによって一方へ駆動されることにより、摩擦板26aを固定板26cに押し付けて接続状態となる。この接続状態では第2インプットシャフト21が、第2クラッチ26を介してエンジン11の出力軸11aと連結され、この出力軸11aとともに回転する。摩擦相手板26bが、アクチュエータによって他方へ駆動されると、固定板26cへの摩擦板26aの押し付けが解除される。即ち、第2クラッチ26の接続状態が解除される。
【0034】
T/M5は第1変速段23〜第6変速段15までの6段変速の構成となっており、これらのうちの奇数段である第1変速段13、第3変速段14及び第5変速段15が第1変速機構7に設けられ、偶数段である第2変速段23、第4変速段24及び第6変速段25が第2変速機構8に設けられている。低変速段から高変速段に向かって、つまり、第1変速段13、第2変速段23、第3変速段14、第4変速段24、第5変速段15、第6変速段25の順に、変速比(減速比)が小さくなっている(即ちエンジン側入力軸(インプットシャフト11,21)から駆動輪側出力軸(アウトプットシャフト12,22)へ駆動力が伝達される際の前記エンジン側入力軸(インプットシャフト11,21)に対する前記駆動輪側出力軸(アウトプットシャフト12,22)の回転数の減速比が小さくなっている)。
【0035】
第1変速段13は、第1インプットシャフト11に結合された第1速メインギア13aと、第1アウトプットシャフト12を中心に回転可能に設けられ、第1速メインギア13aと噛合している第1速カウンタギア13bとを有している。
第3変速段14は、第1インプットシャフト11に結合された第3速メインギア14aと、第1アウトプットシャフト12を中心に回転可能に設けられ、第3速メインギア14aと噛合している第3速カウンタギア14bとを有している。
第5変速段15は、第1インプットシャフト11に結合された第5速メインギア15aと、第1アウトプットシャフト12を中心に回転可能に設けられ、第5速メインギア15aと噛合している第5速カウンタギア15bとを有している。
また、第1変速段13にはギヤ選択制御子28が設けられ、第3変速段14及び第5変速段15にはギヤ選択制御子29が設けられている。
【0036】
従って、第1変速段13を選択する場合には、ギヤ選択制御子28が右へ移動して第1速カウンタギア13bの結合部13b−1と第1アウトプットシャフト12の結合部12aとを結合することにより、第1速カウンタギア13bを第1アウトプットシャフト12に結合させる。その結果、この選択された第1変速段13によって第1インプットシャフト11と第1アウトプットシャフト12が連結される。その後、ギヤ選択制御子28が左へ移動すれば、第1速カウンタギア13bの結合部13b−1と第1アウトプットシャフト12の結合部12aの結合(第1速カウンタギア13bと第1アウトプットシャフト12の結合)が解除される。即ち、第1変速段13の選択が解除される。
【0037】
第3変速段14を選択する場合には、ギヤ選択制御子29が左へ移動して第3速カウンタギア14bの結合部14b−1と第1アウトプットシャフト12の結合部12bとを結合することにより、第3速カウンタギア14bを第1アウトプットシャフト12に結合させる。その結果、この選択された第3変速段14によって第1インプットシャフト11と第1アウトプットシャフト12が連結される。その後、ギヤ選択制御子29が右(中央)へ移動すれば、第3速カウンタギア14bの結合部14b−1と第1アウトプットシャフト12の結合部12bの結合(第3速カウンタギア14bと第1アウトプットシャフト12の結合)が解除される。即ち、第3変速段14の選択が解除される。
【0038】
第5変速段15を選択する場合には、ギヤ選択制御子29が右へ移動して第5速カウンタギア15bの結合部15b−1と第1アウトプットシャフト12の結合部12bとを結合することにより、第5速カウンタギア15bを第1アウトプットシャフト12に結合させる。その結果、この選択された第5変速段15によって第1インプットシャフト11と第1アウトプットシャフト12が連結される。その後、ギヤ選択制御子29が左(中央)へ移動すれば、第5速カウンタギア15bの結合部15b−1と第1アウトプットシャフト12の結合部12bの結合(第5速カウンタギア15bと第1アウトプットシャフト12の結合)が解除される。即ち、第5変速段15の選択が解除される。
【0039】
第2変速段23は、第2インプットシャフト21に結合された第2速メインギア23aと、第2アウトプットシャフト22を中心に回転可能に設けられ、第2速メインギア23aと噛合している第2速カウンタギア23bとを有している。
第4変速段24は、第2インプットシャフト21に結合された第4速メインギア24aと、第2アウトプットシャフト22を中心に回転可能に設けられ、第4速メインギア24aと噛合している第4速カウンタギア24bとを有している。
第6変速段25は、第2インプットシャフト21に結合された第6速メインギア25aと、第2アウトプットシャフト22を中心に回転可能に設けられ、第6速メインギア25aと噛合している第6速カウンタギア25bとを有している。
また、第2変速段23にはギヤ選択制御子30が設けられ、第4変速段24及び第6変速段25にはギヤ選択制御子31が設けられている。
【0040】
従って、第2変速段23を選択する場合には、ギヤ選択制御子30が右へ移動して第2速カウンタギア23bの結合部23b−1と第2アウトプットシャフト22の結合部22aとを結合することにより、第2速カウンタギア23bを第2アウトプットシャフト22に結合させる。その結果、この選択された第2変速段23によって第2インプットシャフト21と第2アウトプットシャフト22が連結される。その後、ギヤ選択制御子30が左へ移動すれば、第2速カウンタギア23bの結合部23b−1と第2アウトプットシャフト22の結合部22aの結合(第2速カウンタギア23bと第2アウトプットシャフト22の結合)が解除される。即ち、第2変速段23の選択が解除される。
【0041】
第4変速段24を選択する場合には、ギヤ選択制御子31が左へ移動して第4速カウンタギア24bの結合部24b−1と第2アウトプットシャフト22の結合部22bとを結合することにより、第4速カウンタギア24bを第2アウトプットシャフト22に結合させる。その結果、この選択された第4変速段24によって第2インプットシャフト21と第2アウトプットシャフト22が連結される。その後、ギヤ選択制御子31が右(中央)へ移動すれば、第4速カウンタギア24bの結合部24b−1と第2アウトプットシャフト22の結合部22bの結合(第4速カウンタギア24bと第2アウトプットシャフト22の結合)が解除される。即ち、第4変速段24の選択が解除される。
【0042】
第6変速段25を選択する場合には、ギヤ選択制御子31が右へ移動して第6速カウンタギア25bの結合部25b−1と第2アウトプットシャフト22の結合部22bとを結合することにより、第6速カウンタギア25bを第2アウトプットシャフト22に結合させる。その結果、この選択された第6変速段15によって第2インプットシャフト21と第2アウトプットシャフト22が連結される。その後、ギヤ選択制御子31が左(中央)へ移動すれば、第6速カウンタギア25bの結合部25b−1と第2アウトプットシャフト22の結合部22bの結合(第6速カウンタギア25bと第2アウトプットシャフト22の結合)が解除される。即ち、第6変速段25の選択が解除される。
【0043】
連結機構9は、第1アウトプットシャフト12の端部に結合された第1出力ギヤ41と、第2アウトプットシャフト22の端部に結合された第2出力ギヤ42と、電気モータ4の出力軸4aの端部に結合された第3出力ギヤ43と、出力軸44と、出力軸44に結合された第4出力ギヤ45と、出力軸44に結合された第5出力ギヤ46とを有している。第4出力ギヤ45には第1出力ギヤ41と第2出力ギヤ42が噛合し、第5出力ギヤ46には第3出力ギヤ43が噛合している。なお、図示例では、第1出力ギヤ41と第2出力ギヤ42と第4出力ギヤ45と第6出力ギヤ46は同じ大きさ(歯数)のものであり、これらに比べて第3出力ギヤ43は小さい(歯数が少ない)ものである。従って、電気モータ4の出力軸4aの回転は、第3出力ギヤ43から第5出力ギヤ46への伝達時に減速する。
【0044】
そして、この連結機構9の出力軸44はディファレンシャルギヤ51を介して左右の駆動軸52a,52bに連結されており、これらの駆動軸52a,52bに駆動軸2a,2bがそれぞれ取り付けられている。
【0045】
従って、電気モータ4の駆動力(出力軸4aの回転力)は、第1変速機構7及び第2変速機構8の変速段13,14,15,23,24,25は介さず、連結機構9における第3出力ギヤ43、第5出力ギヤ46及び出力軸44と、ディファレンシャルギヤ51及び駆動軸52a,52bとを介して駆動輪2a,2bへ伝達される。
【0046】
一方、エンジン3の駆動力(出力軸3aの回転力)は、第1変速機構7及び第2変速機構8の変速段13,14,15,23,24,25を介して駆動輪2a,2bへ伝達される。詳述すると、エンジン3の駆動力(出力軸3aの回転力)は、第1クラッチ16におけるクラッチハウジング27、固定板16c及び摩擦板16aと、第1変速機構7における第1インプットシャフト11、変速段13,14,15の何れか1つ及び第1アウトプットシャフト12と、連結機構9における第3出力ギヤ43、第5出力ギヤ46及び出力軸44と、ディファレンシャルギヤ51及び駆動軸52a,52bとを介して駆動輪2a,2bへ伝達される、或いは、第2クラッチ26におけるクラッチハウジング27、固定板26c及び摩擦板26aと、第2変速機構8における第2インプットシャフト21、変速段23,24,25の何れか1つ及び第2アウトプットシャフト22と、連結機構9における第3出力ギヤ43、第5出力ギヤ46及び出力軸44と、ディファレンシャルギヤ51及び駆動軸52a,52bとを介して駆動輪2a,2bへ伝達される。
【0047】
次に、図1〜図4に基づき、T/MECU6について説明する。
【0048】
図1に示すように、T/MECU6では、ギヤ選択制御子28,29,30,31の動作を制御することによる、第1変速段13、第2変速段23、第3変速段14、第4変速段24、第5変速段15及び第6変速段25の制御(選択や選択解除の制御)を行う。また、T/MECU8では、前記アクチュエータの動作を制御することによる、第1クラッチ16及び第2クラッチ26の制御(接続や接続解除の制御)を行う。
【0049】
そして特に、EV走行時にエンジン3を始動する際には、この第1変速段13〜第6変速段25の制御や第1クラッチ16及び第2クラッチ26の制御を、エンジン始動要求rと、車速センサ61(車速検出手段)によって検出されるハイブリッド車両1の車速v(車速検出信号)と、アクセルペダルポジションセンサ62によって検出される運転者のアクセルペダル踏み込み量p(アクセルペダル踏み込み量検出信号)と、エンジン回転数センサ63によって検出されるエンジン回転数n(エンジン回転数検出信号)と、点火センサ64によって検出されるエンジン3の点火開始情報s(スパークプラグの火花放電開始情報)とに基づいて行う。
【0050】
このEV走行時のエンジン始動に関するT/MECU6の制御内容を、図1〜図4に基づいて詳述する。なお、図2のフローチャートにおける各ステップにはS1〜S12の符号を付した。
【0051】
図2に示すように、T/MECU6では、給電開始などにより制御が開始されると(ステップS1)、まず、ステップS2でエンジン始動の要否を判断する。即ち、EV走行時にエンジン始動要求rが生じたか否かを判断する。
エンジン始動要求rは、EV走行時に、例えば運転者によるアクセルペダルの踏み込み量p(即ち駆動輪2a,2bに対する要求駆動力)が増大して踏み込み量閾値以上になったときや、電気モータ4へ電力を供給する駆動用バッテリの残存容量(SOC)が低下して残存容量閾値以下になったときなどに生じる。SOC低下によるエンジン始動要求rに基づいてエンジン3を始動させると、SOCの低下を抑制することができ、また、図示は省略するが、エンジン3で発電機を駆動(電動モータ4を発電機として機能させてもよい)してその発電電力を駆動バッテリに充電することによりSOCを回復させることもできる。なお、図示例ではT/MECU6が他のECUからエンジン始動要求rを入力するものとしているが、これに限定するものではなく、T/MECU6においてアクセルペダル踏み込み量pなどからエンジン始動要求rを得るようにしてもよい。
【0052】
ステップS2において、エンジン始動要求rが生じていない(NO)と判断した場合には、ステップS2の処理を繰り返す一方、エンジン始動要求rが生じた(YES)と判断した場合には、次にステップS3へ進む。
【0053】
ステップS3では、車速及び要求加速度の情報を取得する。即ち、T/MECU6では、ハイブリッド車両1の車速情報を取得するために車速センサ61から車速vを入力し、ハイブリッド車両1に対する要求加速度情報を取得するためにアクセルペダルポジションセンサ62からアクセルペダル踏み込み量pを入力する。
【0054】
T/MECU6では、予め設定した第1踏み込み量閾値p1と第2踏み込み量閾値p2とを記憶している。第2踏み込み量閾値p2は第1の踏み込み量閾値p1よりも大きな値に設定されている。そして、T/MECU6では、アクセルペダル踏み込み量pが第1踏み込み量閾値p1よりも小さい(p<p1)場合に要求加速度が「小」であると判断し、アクセルペダル踏み込み量pが第1踏み込み量閾値p1以上で且つ第2踏み込み量閾値p2よりも小さい(p1≦p<p2)場合に要求加速度が「中」であると判断し、アクセルペダル踏み込み量pが第2踏み込み量閾値p2以上である(p≧p2)場合に要求加速度が「大」であると判断する。
【0055】
即ち、アクセルペダルポジションセンサ62と、このアクセルペダルポジションセンサ62で検出したアクセルペダル踏み込み量pに基づいてT/MECU6で実行する要求加速度の大きさの判断処理とが、要求加速度検出手段を構成している。なお、要求加速度検出手段としては、必ずしもこれに限定するものではなく、要求加速度の大きさを検出することができるものであればよい。
【0056】
ステップS3の処理を実行後は、ステップS4へ進む。ステップS4では、ステップS3で得た車速vの情報から、エンジン3の始動の可否を判断する。具体的には、車速vと、T/MECU6に記憶されている車速レンジa〜g(図3,図4参照)とに基づいて、エンジン始動の可否判断を行う。
【0057】
図3には、T/M5の各変速段13,14,15,23,24,26と、ハイブリッド車両1の車速と、エンジン3の回転数の関係を示している。図3に示されているエンジン回転数は、各変速段13,14,15,23,24,26において、駆動輪側からエンジン側への伝達駆動力により停止しているエンジン3をクランキングしたときに車速に応じて生じる、エンジン3の回転数であると見做すこともできる。
【0058】
図3には、車速レンジa〜gを設定するための車速V1〜V6を示す。
車速V1は、第1変速段13が選択されている状態でエンジン3をクランキングした場合に生じるエンジン3の回転数nが、エンジン3のアイドリング回転数Niに相当する回転数(以下、これを単にアイドリング回転数と称する)になる速度である。
車速V2は、第2変速段23が選択されている状態でエンジン3をクランキングした場合に生じるエンジン3の回転数nが、アイドリング回転数Niになる速度である。
車速V3は、第3変速段14が選択されている状態でエンジン3をクランキングした場合に生じるエンジン3の回転数nが、アイドリング回転数Niになる速度である。
車速V4は、第4変速段24が選択されている状態でエンジン3をクランキングした場合に生じるエンジン3の回転数nが、アイドリング回転数Niになる速度である。
車速V5は、第5変速段15が選択されている状態でエンジン3をクランキングした場合に生じるエンジン3の回転数nが、アイドリング回転数Niになる速度である。
車速V6は、第6変速段25が選択されている状態でエンジン3をクランキングした場合に生じるエンジン3の回転数nが、アイドリング回転数Niになる速度である。
【0059】
車速レンジaは、車速vが、0以上車速V1未満(0≦v<V1)の範囲であり、エンジン始動不可車速レンジとも称する。
一方、車速レンジb,c,d,e,f,gは、変速段選択車速レンジとも称する。
車速レンジbは、車速vが、車速V1以上で車速V2未満の範囲(V1≦v<V2)の範囲である。
車速レンジcは、車速vが、車速V2以上で車速V3未満の範囲(V2≦v<V3)の範囲である。
車速レンジdは、車速vが、車速V3以上で車速V4未満の範囲(V3≦v<V4)の範囲である。
車速レンジeは、車速vが、車速V4以上で車速V5未満の範囲(V4≦v<V5)の範囲である。
車速レンジfは、車速vが、車速V5以上で車速V6未満の範囲(V5≦v<V6)の範囲である。
車速レンジgは、車速vが、車速V6以上の範囲(v≧V6)の範囲である。
【0060】
即ち、エンジン始動不可車速レンジaは、第1変速機構7及び第2変速機構8における変速段13,14,15,23,24,26のうちの最も変速比の大きい第1変速段13においても車速vに応じたエンジン回転数nが、アイドリング回転数Ni未満となる範囲である。変速段選択車速レンジb,c,d,e,f,gは、第1変速機構7及び第2変速機構8の各変速段13,14,15,23,24,26において車速vに応じたエンジン回転数nが、アイドリング回転数Niになるごと区分けした範囲である。
【0061】
車速vが車速レンジaに該当する(含まれる)ときには、エンジン1の始動を不可とし、何れの変速段13,14,15,23,24,26も、エンジン始動用変速段及び加速用変速段として選択しない。
【0062】
一方、図3に各変速段13,14,15,23,24,26ごとに太い実線で示すように、車速vが車速レンジbに該当する(含まれる)ときには、第1変速段13をエンジン始動用変速段として選択し、車速vが車速レンジcに該当する(含まれる)ときには、第2変速段23をエンジン始動用変速段として選択し、車速vが車速レンジdに該当する(含まれる)ときには、第3変速段14をエンジン始動用変速段として選択し、車速vが車速レンジeに該当する(含まれる)ときには、第4変速段24をエンジン始動用変速段として選択し、車速vが車速レンジfに該当する(含まれる)ときには、第5変速段15をエンジン始動用変速段として選択し、車速vが車速レンジgに該当する(含まれる)ときには、第6変速段25をエンジン始動用変速段として選択する。
【0063】
このような車速レンジとエンジン始動用変速段に関するデータを示したものが図4の選択表であり、このデータ(選択表)はT/MECU6に記憶されている。
【0064】
なお、車速レンジaにおいてエンジン始動を不可とするのは、第1変速段13を選択したとしても、クランキングによって生じるエンジン3の回転数がアイドリング回転数Ni未満にしかならず、エンジン3をアイドリング回転数Ni付近に安定させることができないことから、エンジン3を始動することが困難なためである。一方、エンジン始動用変速段として選択する変速段を、各車速レンジb,c,d,e,f,gごとに、第1変速段13、第2変速段23、第3変速段14、第4変速段24、第5変速段15、第6変速段25と、順次、切り替えていくのは、エンジン3をクランキングしたときに発生するショックを小さくし、しかも、エンジン3をアイドリング回転数Ni付近に速やかに安定させて確実に始動することができるためである。
【0065】
また、図4の選択表には、車速レンジ及び要求加速度に応じた加速用変速段のデータも示されており、このデータ(選択表)もT/MECU6に記憶されている。即ち、T/MECU6は、車速レンジa,b,c,d,e,f,gと、前記要求加速度と、前記エンジン始動用変速段と、前記加速用変速段との対応関係を表す選択表(図4)を記憶している。
【0066】
図4に示すように、車速vが車速レンジaに該当する場合には、前述のとおり、何れの変速段も、加速用変速段として選択しない。
【0067】
車速vが車速レンジbに該当する場合には、ステップS3で取得した要求加速度の情報が「小」,「中」,「大」の何れであっても、エンジン始動用変速段として選択される第1変速段13を、加速用変速段としても選択する。
要求加速度が「小」であるときには、あまり大きな加速度を必要としないため、エンジン始動用変速段と同じのものを加速用変速段としても選択する。
なお、例えば駆動用バッテリの残存容量(SOC)が低下したときには、要求加速度が「小」のときでも、エンジン始動要求rがある。その場合には、エンジン始動用変速段と加速用変速段とを同じ変速段に設定可能であり、デュアルクラッチ式T/M5の第1クラッチ16と第2クラッチ26の切り換えは不要であるため、トランスミッションをデュアルクラッチ式のものに限定する必要はない。
要求加速度が「中」,「大」であるときには大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段よりも変速比の大きいものを加速用変速段として選択することが望ましいが、車速レンジbにおいては、エンジン始動用変速段として選択される第1変速段13の変速比が最も大きいため、要求加速度が「中」,「大」であっても第1変速段13を加速用変速段として選択する。
【0068】
車速vが車速レンジcに該当する場合には、要求加速度が「小」であれば、エンジン始動用変速段として選択される第2変速段23を、加速用変速段としても選択し、要求加速度が「中」であれば、第1変速段13を加速用変速段として選択する。また、要求加速度が「大」であるときにも、第1変速段13を加速用変速段として選択する。
要求加速度が「小」であるときには、あまり大きな加速度を必要としないため、エンジン始動用変速段(第2変速段23)と同じのものを加速用変速段としても選択する。
要求加速度が「中」であるときには、大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第2変速段23よりも変速比の大きな第1変速段13を、加速用変速段として選択する。第2変速段23は第2変速機構8に属する一方、第1変速段13は第2変速機構8に属さず、第1変速機構7に属している。このため、エンジン始動用変速段(第2変速段23)から加速用変速段(第1変速段13)へ切り換える際、駆動輪2a,2bに生じる駆動力の伝達量が一時的にゼロとなる所謂駆動力抜けが、生じないようにすることができる。
要求加速度が「大」であるときには、要求加速度が「中」のときよりも更に大きな加速度を必要とするため、エンジン始動用変速段として選択される第2変速段23よりも更に変速比の大きい変速段を加速用変速段として選択することが望ましいが、車速レンジcにおいては、要求加速度が「中」のときに加速用変速段として選択される第1変速段13の変速比が最も大きいため、要求加速度が「大」のときにも第1変速段13を加速用変速段として選択する。
【0069】
車速vが車速レンジdに該当する場合には、要求加速度が「小」であれば、エンジン始動用変速段として選択される第3変速段14を、加速用変速段としても選択し、要求加速度が「中」であれば、第2変速段23を加速用変速段として選択する。また、要求加速度が「大」であるときにも、第2変速段23を加速用変速段として選択する。
要求加速度が「小」であるときには、あまり大きな加速度を必要としないため、エンジン始動用変速段(第3変速段14)と同じのものを加速用変速段としても選択する。
要求加速度が「中」であるときには、大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第3変速段14よりも変速比の大きな第2変速段23を、加速用変速段として選択する。第3変速段14は第1変速機構7に属する一方、第2変速段23は第1変速機構7に属さず、第2変速機構8に属している。このため、エンジン始動用変速段(第3変速段14)から加速用変速段(第2変速段23)へ切り換える際、駆動力抜けが生じないようにすることができる。
要求加速度が「大」であるときには、要求加速度が「中」のときよりも更に大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第3変速段14よりも更に変速比の大きい変速段を加速用変速段として選択することが望ましい。しかし、車速レンジdにおいては、第1変速機構7に属する第3変速段14が、エンジン始動用変速段として選択されることから、エンジン始動用変速段から加速用変速段へ切り換える際の駆動力抜けを防止するには、第3変速段14が属さない第2変速機構8から、加速用変速段を選択する必要がある。そして、第2変速機構8では、第2変速段23の変速比が最も大きいため、要求加速度が「大」のときにも、第2変速段23を加速用変速段として選択する。
【0070】
車速vが車速レンジeに該当する場合には、要求加速度が「小」であれば、エンジン始動用変速段として選択される第4変速段24を、加速用変速段としても選択し、要求加速度が「中」であれば、第3変速段14を加速用変速段として選択し、要求加速度が「大」であれば、第1変速段23を加速用変速段として選択する。
要求加速度が「小」であるときには、あまり大きな加速度を必要としないため、エンジン始動用変速段(第4変速段24)と同じのものを加速用変速段としても選択する。
要求加速度が「中」であるときには、大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第4変速段24よりも変速比の大きな第3変速段14を、加速用変速段として選択する。要求加速度が「大」であるときには、更に大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第4変速段24よりも更に変速比の大きな第1変速段13を、加速用変速段として選択する。第4変速段24は第2変速機構8に属する一方、第3変速段14及び第1変速段13は何れも第2変速機構8に属さず、第1変速機構7に属している。このため、エンジン始動用変速段(第4変速段24)から加速用変速段(第3変速段14又は第1変速段13)へ切り換える際、駆動力抜けが生じないようにすることができる。
【0071】
車速vが車速レンジfに該当する場合には、要求加速度が「小」であれば、エンジン始動用変速段として選択される第5変速段15を、加速用変速段としても選択し、要求加速度が「中」であれば、第4変速段24を加速用変速段として選択し、要求加速度が「大」であれば、第2変速段23を加速用変速段として選択する。
要求加速度が「小」であるときには、あまり大きな加速度を必要としないため、エンジン始動用変速段(第5変速段15)と同じのものを加速用変速段としても選択する。
要求加速度が「中」であるときには、大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第5変速段15よりも変速比の大きな第4変速段24を、加速用変速段として選択する。要求加速度が「大」であるときには、更に大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第5変速段15よりも更に変速比の大きな第2変速段23を、加速用変速段として選択する。第5変速段15は第1変速機構7に属する一方、第4変速段24及び第2変速段23は何れも第1変速機構7に属さず、第2変速機構8に属している。このため、エンジン始動用変速段(第5変速段15)から加速用変速段(第4変速段24又は第2変速段23)へ切り換える際、駆動力抜けが生じないようにすることができる。
【0072】
車速vが車速レンジgに該当する場合には、要求加速度が「小」であれば、エンジン始動用変速段として選択される第6変速段25を、加速用変速段としても選択し、要求加速度が「中」であれば、第5変速段15を加速用変速段として選択し、要求加速度が「大」であれば、第3変速段14を加速用変速段として選択する。
要求加速度が「小」であるときには、あまり大きな加速度を必要としないため、エンジン始動用変速段(第6変速段25)と同じのものを加速用変速段としても選択する。
要求加速度が「中」であるときには、大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第6変速段25よりも変速比の大きな第5変速段15を、加速用変速段として選択する。要求加速度が「大」であるときには、更に大きな加速度を必要するため、エンジン始動用変速段として選択される第6変速段25よりも更に変速比の大きな第3変速段14を、加速用変速段として選択する。第6変速段25は第2変速機構8に属する一方、第5変速段15及び第3変速段14は何れも第2変速機構8に属さず、第1変速機構7に属している。このため、エンジン始動用変速段(第6変速段25)から加速用変速段(第5変速段15又は第3変速段14)へ切り換える際、駆動力抜けが生じないようにすることができる。
【0073】
従って、図2に基づいて説明すると、ステップS4では、ステップS3で取得した車速vが、エンジン始動不可車速レンジaに該当するか否かを判断することにより、エンジン始動の可否を判断する。
その結果、車速vがエンジン始動不可車速レンジaに該当してエンジン始動不可である判断した場合には、ステップS5でエンジン3の始動は不可であることを決定して(即ちエンジン始動用変速段及び加速用変速段の選択を行わないことを決定して)、今回の処理は終了する(ステップS12)。
一方、車速vがエンジン始動不可車速レンジaに該当せずにエンジン始動可であると判断した場合には、次にステップS6へ進む。
【0074】
ステップS6では、図4に示すエンジン始動用変速段及び加速用変速段の選択表に基づいて、エンジン始動用変速段と加速用変速段とを選択する。
【0075】
具体的には、まず、ステップS3で取得した車速vが、変速段選択車速レンジb,c,d,e,f,gのうちの何れの変速段選択車速レンジに該当するかを判断する。
【0076】
次に、車速vが該当すると判断した変速段選択車速レンジ(b又はc又はd又はe又はf又はg)に応じた変速段(13又は14又は15又は23又は24又は25)を、エンジン始動用変速段として選択する。
【0077】
即ち、図4の選択表のとおり、車速vが車速レンジbに該当していれば第1変速段13、車速vが車速レンジcに該当していれば第2変速段23、車速vが車速レンジdに該当していれば第3変速段14、車速vが車速レンジeに該当していれば第4変速段24、車速vが車速レンジfに該当していれば第5変速段15、車速vが車速レンジgに該当していれば第6変速段25を、エンジン始動用変速段として選択する。
【0078】
続いて、ステップS3で取得した要求加速度(「小」又は「中」又は「大」)と、車速vが該当すると判断した変速段選択車速レンジ(b又はc又はd又はe又はf又はg)とに応じた変速段(13又は14又は15又は23又は24又は25)を、加速用変速段として選択する。
【0079】
即ち、図4の選択表のとおり、車速vが車速レンジbに該当していれば要求加速度が「小」,「中」,「大」の何れであっても第1変速段13を、加速用変速段として選択する。また、車速vが車速レンジbに該当し要求加速度が「小」の場合には第2変速段23、車速vが車速レンジbに該当し要求加速度が「中」又は「大」の場合には第1変速段13、車速vが車速レンジdに該当し要求加速度が「小」の場合には第3変速段14、車速vが車速レンジdに該当し要求加速度が「中」又は「大」の場合には第2変速段23、車速vが車速レンジeに該当し要求加速度が「小」の場合には第4変速段24、車速vが車速レンジeに該当し要求加速度が「中」の場合には第3変速段14、車速vが車速レンジeに該当し要求加速度が「大」の場合には第1変速段13、車速vが車速レンジfに該当し要求加速度が「小」の場合には第5変速段15、車速vが車速レンジfに該当し要求加速度が「中」の場合には第4変速段24、車速vが車速レンジfに該当し要求加速度が「大」の場合には第2変速段23、車速vが車速レンジgに該当し要求加速度が「小」の場合には第6変速段25、車速vが車速レンジgに該当し要求加速度が「中」の場合には第5変速段15、車速vが車速レンジgに該当し要求加速度が「大」の場合には第3変速段14を、加速用変速段として選択する。
【0080】
ステップS6の処理を実行後は、ステップS7へ進む。ステップS7では、ステップS6で選択したエンジン始動用変速段(13又は14又は15又は23又は24又は25)側のクラッチ(16又は26)を接続する。即ち、第1,第2及び第3変速段13,14,15のうちの何れか1つがエンジン始動用変速段として選択された場合には、当該エンジン始動用変速段側のクラッチである第1クラッチ16を接続し、第2,第4及び第6変速段23,24,25のうちの何れか1つがエンジン始動用変速段として選択された場合には、当該エンジン始動用変速段側のクラッチである第2クラッチ26を接続する。
【0081】
その結果、ステップS6で選択したエンジン始動用変速段(13又は14又は15又は23又は24又は25)と、ステップS7で接続した第1クラッチ16又は第2クラッチ26を介して、エンジン3の出力軸3aと電気モータ4の出力軸4aとが連結される。
【0082】
例えば、ステップS6で第5変速段15をエンジン始動用変速段として選択し、ステップS7で第5変速段15側の第1クラッチ16を接続した場合には、エンジン3の出力軸3aが、第1クラッチ16、第1変速機構7(第1インプットシャフト11、第5変速段15、第1アウトプットシャフト12)、連結機構9(第1出力ギヤ41、第4出力ギヤ45、出力軸44、第5出力ギヤ46、第3出力ギヤ43)を介して、電気モータ4の出力軸4aに連結される。
【0083】
また、ステップS6で第6変速段25をエンジン始動用変速段として選択し、ステップS7で第6変速段25側の第2クラッチ26を接続した場合には、エンジン3の出力軸3aが、第2クラッチ26、第2変速機構8(第2インプットシャフト21、第6変速段25、第1アウトプットシャフト22)、連結機構9(第2出力ギヤ42、第4出力ギヤ45、出力軸44、第5出力ギヤ46、第3出力ギヤ43)を介して、電気モータ4の出力軸4aに連結される。
【0084】
このようにしてエンジン3の出力軸3aと電気モータ4の出力軸4aとが連結されると、停止していたエンジン3が電気モータ4の駆動力によってクランキングされる。従って、このときにエンジンECUの制御で点火装置(図示省略)がエンジン3の点火を開始(スパークプラグの火花放電を開始)すれば、エンジン3が始動する。なお、このクランキングの際、電気モータ3から駆動輪2a,2bへ伝達される駆動力の低下を補うため、モータECUの制御によって電気モータ3の駆動力を増加させるようにしてもよい。
【0085】
ステップS7の処理を実行後は、ステップS8へ進む。ステップS8では、点火開始及びエンジン回転数の情報を取得する。即ち、T/MECU6では、点火センサ64からエンジン3の点火開始情報sを入力し、エンジン回転数センサ63からエンジン回転数nを入力する。
【0086】
ステップS8の処理を実行後は、ステップS9へ進む。ステップS9では、エンジン3が始動したか否かを判断する。即ち、T/MECU6では、予めアイドリング回転数よりも高い値に設定したエンジン回転数閾値Noを記憶している。そして、T/MECU6では、点火センサ64から点火開始情報sを入力し、且つ、エンジン回転数センサ63から入力したエンジン回転数nがエンジン回転数閾値No以上(n≧No)になったことをエンジン始動判断条件とし、前記エンジン始動判断条件が満たされたか否かを判断する。その結果、前記エンジン始動判断条件が満たされていないため、エンジン3がまだ始動していない(NO)と判断した場合には、再度、ステップS8の処理を実行する。一方、前記エンジン始動判断条件が満たされたため、エンジン3が始動した(YES)したと判断した場合には、次にステップS10へ進む。
【0087】
エンジン3が点火されて始動すると、エンジン3の回転数がアイドリング回転数よりも上昇してエンジン回転数閾値No以上になるため、前記エンジン始動判断条件に基づいてエンジン3が始動したか否かを判断することができる。
なお、エンジン始動判断手段としては、前記エンジン始動判断条件に基づいてエンジン3が始動したことを判断する手法に限定するものではなく、その他の判断手法によるものであってもよい。例えば、予め設定した経過時間閾値をT/MECU6に記憶しておき、ステップS7におけるエンジン始動用変速段側のクラッチ接続処理を実行後の経過時間が、前記経過時間閾値以上になったときにエンジン3が始動したと判断するような手法であってもよい。
【0088】
ステップS10では、エンジン始動用変速段側のクラッチから加速用変速段側のクラッチへの切り替えの要否を判断する。即ち、ステップS6で選択したエンジン始動用変速段と加速用変速段とが、同じものであるか否かを判断する。
【0089】
その結果、ステップS6で選択したエンジン始動用変速段と加速用変速段が同じであれば、エンジン始動用変速段側のクラッチから加速用変速段側のクラッチへの切り替えは不要である(NO)と判断して、エンジン始動のために接続(ステップS7で接続)したクラッチの接続状態を維持し、今回の処理は終了する(ステップS12)。
【0090】
例えば、ステップS6では、車速vが車速レンジgに該当し要求加速度が「小」の場合、第6変速段25を、エンジン始動用変速段として選択し且つ加速用変速段としても選択する。この場合、ステップS7では、エンジン始動用変速段(第6変速段25)側の第2クラッチ26を接続する。そして、ステップS10では、エンジン始動用変速段(第6変速段25)と加速用変速段(第6変速段25)が同じであるため、エンジン始動用変速段側のクラッチから加速用変速段側のクラッチへの切り替えは不要である(NO)と判断して、ステップS7で接続した第2クラッチ26の接続状態を維持する。
【0091】
一方、エンジン始動用変速段と加速用変速段が異なれば、エンジン始動用変速段側のクラッチから加速用変速段側のクラッチへの切り替えが必要である(YES)と判断して、次にステップS11へ進む。
【0092】
例えば、ステップS6では、車速vが車速レンジgに該当し要求加速度が「中」の場合、第6変速段25をエンジン始動用変速段として選択する一方、第5変速段15を加速用変速段として選択する。この場合、ステップS7では、エンジン始動用変速段(第6変速段25)側の第2クラッチ26を接続する。そして、ステップS10では、エンジン始動用変速段(第6変速段25)と加速用変速段(第5変速段15)が異なるため、エンジン始動用変速段(第6変速段25)側の第2クラッチ26から加速用変速段(第5変速段15)側の第1クラッチ16への切り替えが必要である(YES)と判断する。
【0093】
そして最後に、ステップS11では、エンジン始動用変速段側のクラッチから加速用変速段側のクラッチへの切り替えを行い、今回の処理を終了する(ステップS12)。即ち、ステップS11では、エンジン始動用変速段側のクラッチの接続状態を解除して、加速用変速段側のクラッチを接続状態にする。
【0094】
例えば、ステップS6では、車速vが車速レンジgに該当し要求加速度が「中」の場合、第6変速段25をエンジン始動用変速段として選択する一方、第5変速段15を加速用変速段として選択する。この場合、ステップS7では、エンジン始動用変速段(第6変速段25)側の第2クラッチ26を接続する。そして、ステップS11では、エンジン始動用変速段(第6変速段25)側の第2クラッチ26から、加速用変速段(第5変速段15)側の第1クラッチ16への切り替えを行う。即ち、第2クラッチ26の接続状態を解除して、第1クラッチ16を接続状態にする。
【0095】
また、ステップS6では、車速vが車速レンジfに該当し要求加速度が「中」の場合、第5変速段15をエンジン始動用変速段として選択する一方、第4変速段24を加速用変速段として選択する。この場合、ステップS7では、エンジン始動用変速段(第5変速段15)側の第1クラッチ16が接続される。そして、ステップS11では、エンジン始動用変速段(第5変速段15)側の第1クラッチ16から、加速用変速段(第4変速段24)側の第2クラッチ26への切り替えを行う。即ち、第1クラッチ16の接続状態を解除して、第2クラッチ26を接続状態にする。
【0096】
以上のように、本実施の形態例のハイブリッド車両1によれば、T/M5は、第1インプットシャフト11と、第1アウトプットシャフト12と、第1インプットシャフト11とエンジン3の出力軸3aとを連結可能な第1クラッチ16とを有し、第1インプットシャフト11と第1アウトプットシャフト12とを連結して、駆動輪2a,2bとエンジン3との間の伝達駆動力を変速(即ち選択される複数の変速段13,14,15によって変速)する第1変速機構7と、第2インプットシャフト21と、第2アウトプットシャフト22と、第2インプットシャフト21とエンジン3の出力軸3aとを連結可能な第2クラッチ26とを有し、第2インプットシャフト21と第2アウトプットシャフト22とを連結して、駆動輪2a,2bとエンジン3との間の伝達駆動力を変速(即ち選択される複数の変速段23,24,25によって変速)する第2変速機構8と、第1アウトプットシャフト12と、第2アウトプットシャフト22と、電気モータ4の出力軸4aとを、駆動輪2a,2bに連結するための連結機構9とを備えたものであることを特徴としているため、電気モータ4の駆動力が、第1変速機構7及び第2変速機構8における変速段13,14,15,23,24,25を介さずに駆動輪2a,2bへ伝達される。このため、第1変速機構7及び第2変速機構8の変速段13,14,15,23,24,25の何れをエンジン始動用変速段や加速用変速段として選択しても、電気モータ4の駆動力が駆動輪2a,2bに伝達されない状態(駆動力抜け状態)になることはなく、自由に変速段13,14,15,23,24,25を選択することができる。
【0097】
そして、T/MECU6は、EV走行時にエンジン始動要求rが生じたとき、車速センサ61で検出した車速vに応じて、第1変速機構7又は第2変速機構8の何れか一方の変速機構に属する変速段のうちから(即ち第1変速機構7に属する変速段13,14,15のうちから、又は、第2変速機構8に属する変速段23,24,25のうちから)、1つの変速段(例えば第4変速段24)をエンジン始動用変速段として選択し、第1変速機構7又は第2変速機構8の何れか他方の変速機構に属する変速段であって且つ前記エンジン始動用変速段として選択した変速段(例えば第4変速段24)よりも変速比の大きい変速段(例えば第1変速段13,第3変速段14)のうちから、1つの変速段(例えば第1変速段13)を加速用変速段として選択し、前記エンジン始動用変速段として選択した変速段(例えば第4変速段24)が属する前記一方の変速機構を構成する第1クラッチ16又は第2クラッチ26(例えば第2変速機構8を構成する第2クラッチ26)を接続状態にすることにより、エンジン3をクランキングして始動し、エンジン始動後に、前記一方の変速機構を構成する第1クラッチ16又は第2クラッチ26(例えば第2変速機構8を構成する第2クラッチ26)の前記接続状態は解除し、前記加速用変速段として選択した変速段(例えば第1変速段13)が属する前記他方の変速機構を構成する第2クラッチ26又は第1クラッチ16(例えば第1変速機構8を構成する第1クラッチ16)を接続状態にすることを特徴としているため、適切なエンジン始動用変速段と加速用変速段とを選択して、ショックの小さいエンジン始動と、エンジン始動後の速やかな加速とを実現することができる。
【0098】
また、本実施の形態例のハイブリッド車両1によれば、T/MECU6は、第1変速機構7及び第2変速機構8の各変速段13,14,15,23,24,25において車速vに応じたエンジン回転数nがアイドリング回転数Niになるごと区分けした範囲である車速レンジb,c,d,e,f,gと、前記要求加速度と、前記エンジン始動用変速段と、前記加速用変速段との対応関係を表す選択表(図4)を記憶しており、車速センサ61で検出する車速vと、前記要求加速度検出手段で検出する要求加速度と、前記選択表とに基づいて、前記エンジン始動用変速段と前記加速用変速段とを選択することを特徴としているため、適切なエンジン始動用変速段と加速用変速段とを選択して、ショックを小さくし、且つ、エンジン回転数nをアイドリング回転数Ni付近に速やかに安定させて確実にエンジン3を始動することができ、エンジン始動後の速やかな加速も実現することができる。
【0099】
なお、車速センサ61(車速検出手段)によって検出するハイブリッド車両1の車速vは、ハイブリッド車両1の走行速度に限らず、駆動輪2a,2bの回転速度であってもよい。即ち、上記のようなT/MECU6の制御に用いる車速は、ハイブリッド車両1の走行速度であっても、駆動輪2a,2bの回転速度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明はハイブリッド車両に関するものであり、EV走行時にエンジンをクランキングして始動する場合に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0101】
1 ハイブリッド車両
2a,2b 駆動輪
3 エンジン
3a エンジンの出力軸
4 電気モータ
4a 電気モータの出力軸
5 T/M
6 T/MECU
7 第1変速機構
8 第2変速機構
9 連結機構
11 第1インプットシャフト
12 第1アウトプットシャフト
12a,12b 結合部
13 第1変速段
13a 第1速メインギア
13b 第1速カウンタギア
13b−1 結合部
14 第3変速段
14a 第3速メインギア
14b 第3速カウンタギア
14b−1 結合部
15 第5変速段
15a 第5速メインギア
15b 第5速カウンタギア
15b−1 結合部
16 第1クラッチ
16a 摩擦板
16b 摩擦相手板
16c 固定板
21 第2インプットシャフト
22 第2アウトプットシャフト
22a,22b 結合部
23 第2変速段
23a 第2速メインギア
23b 第2速カウンタギア
23b−1 結合部
24 第4変速段
24a 第4速メインギア
24b 第4速カウンタギア
24b−1 結合部
25 第6変速段
25a 第6速メインギア
25b 第6速カウンタギア
25b−1 結合部
26 第1クラッチ
26a 摩擦板
26b 摩擦相手板
26c 固定板
27 クラッチハウジング
28,29,30,31 ギヤ選択制御子
41 第1出力ギヤ
42 第2出力ギヤ
43 第3出力ギヤ
44 出力軸
45 第4出力ギヤ
46 第5出力ギヤ
51 ディファレンシャルギヤ
52a,52b 駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動するための走行駆動源となるエンジンと、
駆動輪を駆動するための走行駆動源となる電気モータと、
前記駆動輪と前記エンジンとをつなぎ、変速機構において選択される複数の変速段によって前記駆動輪と前記エンジンとの間の伝達駆動力を変速するトランスミッションと、
前記トランスミッションの前記変速機構を制御する制御手段と
を搭載しているハイブリッド車両において、
前記制御手段は、EV走行時にエンジン始動要求が生じたとき、車速に応じて、前記複数の変速段うちからエンジン始動用変速段を選択することにより、前記駆動輪側から前記エンジン側への伝達駆動力で前記エンジンをクランキングして始動させること
を特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
ハイブリッド車の車速を検出する車速検出手段を備えており、
前記トランスミッションは、
第1インプットシャフトと、第1アウトプットシャフトと、前記第1インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な第1クラッチとを有し、前記第1インプットシャフトと前記第1アウトプットシャフトとを連結して前記伝達駆動力を変速する第1変速機構と、
第2インプットシャフトと、第2アウトプットシャフトと、前記第2インプットシャフトと前記エンジンの出力軸とを連結可能な第2クラッチとを有し、前記第2インプットシャフトと前記第2アウトプットシャフトとを連結して前記伝達駆動力を変速する第2変速機構と、
前記第1アウトプットシャフトと、前記第2アウトプットシャフトと、前記電気モータの出力軸とを、前記駆動輪に連結するための連結機構とを備えたものであり、
前記制御手段は、
EV走行時にエンジン始動要求が生じたとき、
前記車速検出手段で検出する車速に応じて、前記第1変速機構又は前記第2変速機構の何れか一方の変速機構に属する変速段のうちから、1つの変速段をエンジン始動用変速段として選択し、
前記第1変速機構又は前記第2変速機構の何れか他方の変速機構に属する変速段であって且つ前記エンジン始動用変速段として選択した変速段よりも変速比の大きい変速段のうちから、1つの変速段を加速用変速段として選択し、
前記エンジン始動用変速段として選択した変速段が属する前記一方の変速機構を構成する前記第1クラッチ又は前記第2クラッチを接続状態にすることにより、前記エンジンをクランキングして始動し、
エンジン始動後に、前記一方の変速機構を構成する前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの前記接続状態は解除し、前記加速用変速段として選択した変速段が属する前記他方の変速機構を構成する前記第2クラッチ又は前記第1クラッチを接続状態にすること、
を特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両において、
ハイブリッド車両に対する要求加速度を検出する要求加速度検出手段を備えており、
前記制御手段は、
前記第1変速機構及び前記第2変速機構の各変速段において前記車速に応じたエンジン回転数がアイドリング回転数になるごと区分けした範囲である車速レンジと、前記要求加速度と、前記エンジン始動用変速段と、前記加速用変速段との対応関係を表す選択表を記憶しており、
前記車速検出手段で検出する車速と、前記要求加速度検出手段で検出する要求加速度と、前記選択表とに基づいて、前記エンジン始動用変速段と前記加速用変速段とを選択すること、
を特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−35528(P2013−35528A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175625(P2011−175625)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】