説明

ハイブリッド車両

【課題】ハイブリッド車両において、回生制動による発電制御中であっても、常に十分な制動力を得ることにある。
【解決手段】制御手段(38)は、回生制御手段(38B)による蓄電装置(6)への充電中にエンジン(3)ヘ供給する吸気量を増加させる吸気量増加制御を実行する一方、増力装置(27)の内部負圧が減少した場合にはエンジン(3)ヘ供給する吸気量を減少させる吸気量減少制御を実行する吸気量調整制御手段(38C)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両に係り、特にエンジンと電動モータとを動力源として備え、減速回生時における吸気量を調整するハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両には、車両走行用の駆動源として、エンジンとこのエンジンの駆動軸に連結された電動モータとを備えるとともに、この電動モータに電力を供給する蓄電装置を備え、車両の加速時に蓄電装置から電動モータに電力を供給する一方、車両の減速時及び制動時には電動モータによる回生制動を行って発電された電力を蓄電装置に充電するものが知られている。
また、このようなハイブリッド車両の一種には、エンジンの出力を電動モータにより駆動補助するパラレルハイブリッド車両がある。このパラレルハイブリッド車両は、加速時においては電動モータによってエンジンの出力を駆動補助し、減速時においては駆動系からの逆駆動力により電動モータを駆動して発電させることにより、蓄電装置を充電する回生動作が行われる。これは、エンジンの内部摩擦によるエンジンブレーキ作用に加えて、電動モータによる発電時の負荷を利用して減速力を確保しつつ、エネルギ効率を高めようとするものである。この回生動作の効率をより高めるためには、エンジンブレーキの作用をできるだけ少なくしてその分だけ発電負荷を増やした方がよいものである。
このような観点から、回生時には、エンジンへの燃料供給を停止するとともに、スロットル開度を大きくして吸気量を増加させ、ポンピングロスを軽減し、回生量を増加させる吸気量制御装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−135502号公報
【特許文献2】特開昭62−37271号公報
【0004】
特許文献1に係るハイブリッド車両の制御装置は、エンジンが減速状態かつ燃料供給停止状態である場合に、吸気弁(スロットルバルブ)の開度を調整して、エンジンブレーキの制動トルクを減少させることで、電動モータがより多くの電力を発電することができるものである。
特許文献2に係るブレーキブースタにおける負圧供給装置は、エンジンに接続された吸気管の負圧を利用して、運転者の操作力を増加させる増力装置を備えたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の特許文献1では、回生電力をより多く得るために、吸気弁(スロットルバルブ)を大きく開く場合がある。このとき、吸気管内の負圧は減少するため、ハイブリッド車両の制御を実行中に制動装置を操作した場合に、所望の制動力を得るために余分な力を必要とする問題が生じた。
また、減速時にスロットル開度を大きくすると、減速時には運転者がボンピンダブレーキを行ったときには、制動装置の負圧増力装置(マスターバック)ヘの負圧供給が十分に行われず、この負圧増力装置内の負圧が低下してブレーキが利きにくくなるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明は、回生制動による発電制御中であっても、常に十分な制動力を得ることができるハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、車両に搭載されたエンジンと、このエンジンの駆動軸に連結された電動モータと、この電動モータに電力を供給する蓄電装置とを設けたハイブリッド車両において、前記エンジンへ供給する吸気量を調整する吸気量調整装置を設け、運転者の操作力を増加させる増力装置を備えた制動装置を設け、前記車両が減速中に前記エンジンヘの燃料を停止する燃料供給制御手段と、この燃料供給制御手段による燃料停止中に前記電動モータによって発電された電力を前記蓄電装置に充電する回生制御手段と、この回生制御手段による前記蓄電装置への充電中に前記エンジンヘ供給する吸気量を増加させる吸気量増加制御を実行する一方、前記増力装置の内部負圧が減少した場合には前記エンジンヘ供給する吸気量を減少させる吸気量減少制御を実行する吸気量調整制御手段とを備えた制御手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明のハイブリッド車両は、回生制動による発電制御中であっても、常に十分な制動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はハイブリッド車両の構成図である。(実施例)
【図2】図2はハイブリッド車両の制動装置の構成図である。(実施例)
【図3】図3はハイブリッド車両の制御装置の構成図である。(実施例)
【図4】図4は吸気量制御のフローチャートである。(実施例)
【図5】図5はスロットル制御のフローチャートである。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、回生制動による発電制御中であっても、常に十分な制動力を得る目的を、充電を増加させるための吸気量増加制御に優先して吸気量減少制御を実行することにより実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図5は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1はハイブリッド車両(以下「車両」という)、2は車輪である。
車両1には、車両走行用の駆動源として、エンジン(4気筒用)3とこのエンジン3の駆動軸4に連結した電動モータ5とが搭載されるとともに、この電動モータ5に電力を供給する蓄電装置(蓄電池)6が搭載されている。
エンジン3には、吸気装置7と排気装置8とが設けられる。
吸気装置7は、エンジン3に付設した吸気マニホルド9を備える。この吸気マニホルド9は、エンジン3に連結した4本の吸気分岐管10と、この吸気分岐管10の上流部に接続したサージタンク11とからなる。このサージタンク11には、吸入空気を導く吸気管12が付設される。
排気装置8は、エンジン3に付設した排気マニホルド13を備える。この排気マニホルド13は、エンジン3に連結した4本の排気分岐管14と、この排気分岐管14の下流部に接続して集合する集合部15とからなる。この集合部15には、触媒16を備えた排気管17が連結される。
【0012】
車両1には、電動モータ5に連結した変速装置18が搭載されている。
車輪2には、ブレーキディスク19が備えられている。
吸気装置7は、エンジン3へ供給する吸気量を調整する吸気量調整装置20を備える。この吸気量調整装置20は、吸気装置7の吸気管12に配置された吸気弁(スロットルバルブ)21と、この吸気弁21を駆動するアクチュエータ22とで構成される。
車両1には、エンジン3へ燃料を供給する燃料供給装置23が搭載される。この燃料供給装置23は、吸気マニホルド9の各吸気分岐管10に対応して配置された4個の燃料噴射弁24を備える。
【0013】
図1、図2に示すように、車両1には、制動装置25が搭載される。この制動装置25は、運転者によって踏み込み操作されるブレーキペダル26と、運転者の操作力を増加させる増力装置27と、ブレーキディスク19に取り付けられたブレーキキャリパー28とを備える。
制動装置25は、増力装置27として、油圧式増力装置29と負圧式増力装置(マスターバック)30とを備え、内部負圧が負圧式増力装置30の内部負圧である。
油圧式増力装置29は、マスターシリンダ31と、このマスターシリンダ31へのブレーキフルードを貯留するオイル貯留タンク32と、マスターシリンダ31とオイル貯留タンク32とを連結する2本のオイル管33とを備える。マスターシリンダ31は、ブレーキキャリパー28に連絡している。
負圧式増力装置30は、ブレーキペダル26に連結し且つ油圧式増力装置29に接続している。
この負圧式増力装置30は、エンジン3に接続した吸気装置7に通気通路34を介して接続されている。この通気通路34は、吸気装置側接続端部35が吸気量調整装置20よりもエンジン3側のサージタンク11に接続されるとともに、負圧式増力装置30内の空気が吸気装置7側へ移動可能な一方向弁36を備えている。
【0014】
車両1には、制御装置37が搭載される。この制御装置37は、制御手段(ECU)38を備える。
図3に示すように、制御手段38には、入力側で、エンジン3の駆動軸4の回転を車速として検出する車速センサ39と、負圧式増力装置30の内部負圧を検出する負圧センサ40と、サージタンク11内の圧力である吸気管圧力を検出する吸気圧センサ41と、エンジン3の回転数を検出するエンジン回転数センサ42とが連絡している。
また、制御手段38には、出力側で、吸気量調整装置20と、燃料供給装置23と、電動モータ5を制御するモータ制御装置43と、変速装置18を制御する変速制御装置44とが連絡している。
【0015】
制御手段38は、車両1が減速中にエンジン3ヘの燃料を停止(燃料カット制御)する燃料供給制御手段38Aと、この燃料供給制御手段38Aによる燃料停止中に電動モータ5によって発電された電力を蓄電装置6に充電する回生制御手段38Bと、この回生制御手段38Bによる蓄電装置6への充電中にエンジン3ヘ供給する吸気量を増加させる吸気量増加制御を実行する一方、増力装置27の内部負圧が減少した場合にはエンジン3ヘ供給する吸気量を減少させる吸気量減少制御を実行する吸気量調整制御手段38Cと、電動モータ5を制御する電動モータ制御手段38Dと、車両1の加速・減速状態を判定する加減速判定手段38Eと、各種情報を記憶する記憶手段(メモリ)38Fとを備える。
燃料供給制御手段38Aは、エンジン回転数センサ42の出力値に基づいて燃料噴射弁24から噴射される燃料噴射量を決定する。吸気量調整制御手段38Cは、エンジン回転数センサ42と吸気圧センサ41とからの出力値に基づいて吸気弁21の開度(スロットル開度)を決定する。電動モータ制御手段38Dは、運転者のアクセルペダル26の踏み込み量に基づいて電動モータ5への出力値を決定する。加減速判定手段38Eは、車速センサ39の出力値に基づいて車両1が加速状態か減速状態かを判定する。
上記のような構成により、回生制御中であっても、充電を増加させるための吸気量増加制御に優先して吸気量減少制御を実行するため、増力装置27の内部負圧が減少することなく、常に十分な制動力を保持することができる。
【0016】
次に、この実施例に係る吸気量制御について、図4のフローテャートに基づいて説明する。
図4に示すように、制御手段38においてプログラムがスタートすると(ステップA01)、先ず、車両1の加減速判定制御を実行する(ステップA02)。
このステップA02では、車速センサ39に基づいて、所定時間中の駆動軸4の回転数(車速)を求め、その回転数を制御手段38の記憶手段38Fに記憶する。そして、過去の回転数よりも現在(最新)の回転数が低い場合に、減速状態と判定する。また、加速判定制御としては、エンジン回転数が所定値以上であって且つ運転者によるブレーキ操作が成された場合に、減速状態として判定することも可能である。つまり、車両1の発進直後以外に、ブレーキ操作されているならば、減速状態と判定する。
そして、車両1が減速中か否かを判断する(ステップA03)。
このステップA03がYESの場合には、燃料停止制御(燃料カット制御)を実行し(ステップA04)、また、回生制御を実行し(ステップA05)、そして、吸気量増加制御を実行する(ステップA06)。
その後、負圧センサ40の出力値が設定値以下か否かを判断する(ステップA07)。
このステップA07がYESの場合には、吸気量減少制御を実行する(ステップA08)。
このステップA08の処理後、前記ステップA03がNOの場合、又は前記ステップA07がNOの場合には、前記ステップA02に戻す。
【0017】
次いで、この実施例に係るスロットル制御について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
図5に示すように、制御手段38においてプログラムがスタートすると(ステップB01)、先ず、減速時燃料カット状態(例えば、燃料カット状態か、又はアクセル開度が閉状態等)か否かを判断する(ステップB02)。
このステップB02がYESの場合には、負圧式増力装置30内の負圧が閾値以上か否かを判断する(ステップB03)。
このステップB03がYESの場合には、回生量増加を目的としたスロットル制御を行う(ステップB04)。
一方、このステップB03がNOの場合には、通常のスロットル制御を行う(ステップB05)。これにより、負圧式増力装置30内の負圧を所定値以上に確保することが可能となる。
このステップB05の処理後、前記ステップB04の処理後、又は前記ステップB02がNOの場合には、プログラムをリターンする(ステップB06)。
なお、この図5のスロットル制御は、周期的に行われる。
この結果、減速回生時でポンピングロスの低減による回生量増加を目的としたスロットル制御において、負圧式増力装置30内の負圧が閾値よりも小さくなった場合に、回生量増加を目的としたスロットル制御から通常のスロットル制御に戻すことにより、制動装置25の負圧式増力装置30内の負圧を所定値以上に確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明に係る吸気量制御を、各種車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 車両
3 エンジン
4 駆動軸
5 電動モータ
6 蓄電装置
9 吸気マニホルド
11 サージタンク
20 吸気量調整装置
21 吸気弁
22 アクチュエータ
23 燃料供給装置
24 燃料噴射弁
25 制動装置
26 ブレーキペダル
27 増力装置
28 ブレーキキャリパー
29 油圧式増力装置
30 負圧式増力装置
31 マスターシリンダ
32 オイル貯留タンク
34 通気通路
35 吸気装置側接続端部
36 一方向弁
37 制御装置
38 制御手段
38A 燃料供給制御手段
38B 回生制御手段
38C 吸気量調整制御手段
38D 電動モータ制御手段
38E 加減速判定手段
38F 記憶手段(メモリ)
39 車速センサ
40 負圧センサ
41 吸気圧センサ
42 エンジン回転数センサ
43 モータ制御装置
44 変速制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンと、このエンジンの駆動軸に連結された電動モータと、この電動モータに電力を供給する蓄電装置とを設けたハイブリッド車両において、前記エンジンへ供給する吸気量を調整する吸気量調整装置を設け、運転者の操作力を増加させる増力装置を備えた制動装置を設け、前記車両が減速中に前記エンジンヘの燃料を停止する燃料供給制御手段と、この燃料供給制御手段による燃料停止中に前記電動モータによって発電された電力を前記蓄電装置に充電する回生制御手段と、この回生制御手段による前記蓄電装置への充電中に前記エンジンヘ供給する吸気量を増加させる吸気量増加制御を実行する一方、前記増力装置の内部負圧が減少した場合には前記エンジンヘ供給する吸気量を減少させる吸気量減少制御を実行する吸気量調整制御手段とを備えた制御手段を設けたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制動装置は、前記増力装置として、油圧式増力装置と負圧式増力装置とを備え、内部負圧が前記負圧式増力装置の内部負圧であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記負圧式増力装置は、前記エンジンに接続した吸気装置に通気通路を介して接続されたことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記通気通路は、吸気装置側接続端部が前記吸気量調整装置よりも前記エンジン側に接続されるとともに、前記負圧式増力装置内の空気が前記吸気装置側へ移動可能な一方向弁を備えていることを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記吸気量調整装置は、前記吸気装置に配置された吸気弁と、この吸気弁を駆動するアクチュエータとで構成されたことを特徴とする請求項1〜4に記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75540(P2013−75540A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214924(P2011−214924)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】