説明

ハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置、及びエンジン停止制御装置

【課題】モータを用いてエンジンのクランク角度を適切に推定することができるハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置、及び始動性に優れたエンジン自動停止始動制御を行うことのできるエンジン停止制御装置を提供すること。
【解決手段】モータECUは、エンジン自動停止フラグがONになったt1時点を0°としてエンジン回転数に応じた相対クランク角度を算出し始め、これを推定クランランク角度に設定し、モータトルクが判定閾値より大となっているピーク値が検出されたt2時点で、相対クランク角度からピーク値クランク角度にオフセットして、当該ピーク値クランク角度を推定クランク角度とする。そして、当該推定クランク角度が所定の停止クランク角度に達したときに、モータの回転を0としてエンジンの回転を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジンとモータとを備えるハイブリッド電気自動車において、エンジンのクランク角度を推定するクランク角度推定装置、及び当該クランク角度推定装置を用いてエンジンの始動に適したクランク角度にてピストンを停止させるエンジン停止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駐停車や信号待ちの間にエンジンを自動的に停止させ、発進時に自動的に再始動させることで、燃費や排ガス性能を向上させるいわゆるアイドルストップ・オートスタート(自動停止再始動)制御が行われている。
このような自動停止再始動制御においては、エンジンを自動的に停止させた後でも、迅速な発進を行うことができるようにエンジンの再始動を行う必要がある。
【0003】
エンジンの始動性は、ピストンの停止位置によって変化するものである。クランキングに適した位置にピストンが停止していれば、エンジンは速やかな始動を行うことが可能である。
そこで、エンジンの自動停止時において、オルタネータの目標発電電流を調整する等して、ピストンを再始動に適した適正位置に停止させる技術が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−17919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該特許文献1に係る技術では、エンジンに、クランク軸の回転角を検出する2つのクランク角度センサが設けられている。当該エンジンは、一方のクランク角度センサから出力される検出信号に基づいて、エンジンの回転数が検出されるとともに、両クランク角度センサから出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸の回転方向及び回転角度が検出される構成をなしている。
しかし、クランク角度センサを2つ設けることは、部品点数の増加及びコストの増加を招き好ましくない。
【0006】
また、近年燃費低減及び排ガス性能の向上を図るものとして、駆動源にエンジンとモータを備えるハイブリッド電気自動車が開発されている。ハイブリッド電気自動車では、エンジン及びモータのそれぞれに専用のECU(電子制御ユニット)を備えている場合が多い。ここで、モータのECUがエンジンに設けられたクランク角度センサからの情報を得ることなく、クランク角度を推定できればモータ制御を簡略することができたり、クランク角度センサの数を減らすことができ、好ましい。
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、モータを用いてエンジンのクランク角度を適切に推定することができるハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置、及び当該クランク角度推定装置により推定されたクランク角度に基づきピストンをエンジンの始動に適した位置に停止させ、始動性に優れたエンジン自動停止始動制御を行うことのできるエンジン停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置では、駆動源としてエンジン及びモータを選択可能なハイブリッド電気自動車の制御装置であって、所定のエンジン自動停止条件を満たした際に前記エンジンへの燃料供給を停止するエンジン自動停止制御手段と、エンジン自動停止制御手段による前記エンジンへの燃料供給を停止後、前記エンジンと前記モータとを同期回転させるようモータトルクを生じさせる同期回転制御手段と、前記モータのモータトルクを監視して当該モータトルクのピーク値を検出するピーク値検出手段と、燃料供給がない状態で前記エンジンを回転させた場合におけるエンジントルクのピーク値に対応したピーク値クランク角度が予め記憶されており、前記ピーク値検出手段により前記モータトルクのピーク値を検出した際に、前記ピーク値クランク角度を推定クランク角度に設定するクランク角度推定制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
請求項2のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置では、請求項1において、前記エンジン自動停止制御手段による前記エンジンへの燃料供給を停止した時点を0°とした相対クランク角度を算出する相対クランク角度算出手段を備え、前記クランク角度推定制御手段は、前記ピーク値検出手段により前記モータトルクのピーク値が検出されるまでは、前記相対クランク角度を推定クランク角度とし、当該ピーク値が検出された際には、当該相対クランク角度から前記ピーク値クランク角度へと推定クランク角度を変更することを特徴としている。
【0010】
請求項3のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置では、請求項1または2において、さらに、前記エンジン及び前記モータとの間に設けられ、当該エンジンから当該モータを介して駆動輪へと伝達される当該エンジンの駆動力の接続及び遮断を行うクラッチ手段を備え、前記同期回転制御手段は、前記エンジン自動停止制御手段による前記エンジンへの燃料供給を停止後、前記クラッチ手段が接続された上で、前記エンジンと前記モータとを同期回転させるようモータトルクを生じさせることを特徴としている。
【0011】
請求項4のハイブリッド電気自動車のエンジン停止制御装置では、請求項1から3のいずれかに記載のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置により推定される推定クランク角度に基づき、前記エンジンの始動に適した所定の停止クランク角度で前記エンジンの回転を停止させるよう前記モータトルクを制御するモータトルク制御手段を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記手段を用いる本発明の請求項1のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置によれば、ハイブリッド電気自動車において、所定のエンジン自動停止条件を満たした際にエンジンへの燃料供給を停止した状態で、当該エンジンに対し所定の回転数となるようにモータを同期回転させる。このようにモータを所定の回転数に同期回転させるのに必要なモータトルクはエンジントルクに対応することとなる。なお、このときエンジンには燃料が供給されていないため、エンジントルクはエンジンのフリクショントルクのみとなる。
【0013】
さらに、このエンジントルクと対応したモータトルクを監視して、当該モータトルクのピーク値を検出することで、エンジントルクのピーク値を検出することができる。そして、当該エンジントルクにおいて予めピーク値に対応した実クランク角度であるピーク値クランク角度を記憶しておき、モータトルクのピーク値を検出した際には、当該ピーク値クランク角度を推定クランク角度として設定する。これにより、特にクランク角度センサを用いることなく、エンジンのクランク角度を適切に推定することができる。
【0014】
請求項2のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置によれば、エンジンの燃料供給を停止してからピーク値クランク角度に設定するまでの間は、エンジンへの燃料供給停止時点を0°とした相対クランク角度を推定クランク角度として設定する。
これにより、ピーク値クランク角度が判明するまでの間も、クランク角度の進行度合いを把握することができる。
【0015】
請求項3のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置によれば、エンジンとモータとの間にクラッチ手段が設けられたハイブリッド電気自動車においては、エンジンを自動停止するための燃料供給停止後、クラッチ手段を接続した上で所定の回転数となるようにモータとエンジンの回転を同期させることで、モータトルクによりエンジントルクの監視を行うことができる。
【0016】
請求項4のハイブリッド電気自動車のエンジン停止制御装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載のクランク角度推定装置により推定されるクランク角度に基づき、エンジンの始動に適した所定のクランク角度でエンジンを停止させるようモータトルクを制御する。これにより、クランク角度センサを用いることなく、始動に適したピストン位置でエンジンの回転を停止させることができ、始動性に優れたエンジン自動停止始動制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るクランク角度推定装置及びエンジン停止制御装置を備えたハイブリッド電気自動車の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるモータECUが実行するクランク角度推定制御ルーチン及びエンジン回転停止制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】クランク角度推定制御実行時の各運転状態を示したタイムチャートである。
【図4】図3のA期間を拡大したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るクランク角度推定装置及びエンジン停止制御装置を備えたハイブリッド電気自動車の概略構成図であり、同図に基づき説明する。
図1に示す車両1は、駆動源としてエンジン2及びモータ4を備えるハイブリッド電気自動車である。
【0019】
エンジン2は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の一般的に自動車に用いられる原動機であり、特にその種類を問わないが、本実施形態におけるエンジン2は6気筒のディーゼルエンジンとする。
エンジン2とモータ4との間にはクラッチ6(クラッチ手段)が設けられており、当該クラッチ6の入力軸にはエンジン2の出力軸が、当該クラッチ6の出力軸にはモータ4の回転軸がそれぞれ連結されている。
【0020】
モータ4は発電も可能な例えば永久磁石式同期電動機であり、モータ4の回転軸は変速機8の入力軸と連結されている。そして、変速機8の出力軸からプロペラシャフト10、差動装置12、及び駆動軸14を介して左右の駆動輪16へと駆動力が伝達されるよう構成されている。
また、モータ4は、車両1に搭載されたバッテリ18とインバータ20を介して接続されており、当該バッテリ18からの電力供給を受けてトルクを発生させる。バッテリ18は例えばリチウムイオン、ニッケル水素等の二次電池であり、インバータ20がバッテリ18からの直流電力を交流電力に変換してモータ4に電力を供給する。一方、車両減速時等には、モータ4が発電機(ジェネレータ)として機能し、回生駆動可能である。つまり、駆動輪16から逆に伝達される駆動力によりモータ4が交流電力を発電するとともに、このときモータ4が発生する回生トルクにより駆動輪16に減速抵抗が付与される。そして、この交流電力は、インバータ20によって直流電力に変換された後、バッテリ18に充電されることで、駆動輪16の回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。
【0021】
当該構成の車両1は、クラッチ6が切断状態にあるときには、モータ4の回転軸のみが変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続されることになる。つまり、モータ4により発生するトルク(以下、モータトルクという)のみが車両1の駆動トルクとして駆動輪16に伝達される。
一方、クラッチ6が接続状態にあるときには、エンジン2の出力軸がモータ4の回転軸を介して変速機8、駆動輪16等と機械的に接続されることとなる。つまり、このときモータトルクを0として、エンジン2のみを作動した場合にはエンジン2により発生するトルク(以下、エンジントルクという)のみが車両1の駆動トルクとなる。また、モータ4も作動させればモータトルクとエンジントルクとの和が車両1の駆動トルクとなる。
【0022】
車両1は、このように動力としてエンジン2及びモータ4のいずれか一方又は両方を選択可能である。そして、車両1には、エンジン2の制御を行うエンジンECU30、モータ4の制御を行うモータECU32、変速機8の制御を行う変速機ECU34、さらにこれら各種装置を総合的に制御するための統合ECU36等の各種ECUを備えている。
【0023】
エンジンECU30は、例えばエンジン2の燃料供給量や燃料供給時期等を調整してエンジン2の駆動制御を行う。
モータECU32は、例えばモータ4への電力供給又は発電電力を調整することでモータ4の駆動制御等を行う。また、当該モータECU32は、バッテリのSOC(State Of Charge)の監視等を行う。さらに本実施形態では、モータECU32がクラッチ6の接続及び切断の切り換え制御を行うものとする。
【0024】
変速機ECU34は、例えば変速機8における変速段の選択等を行う。
統合ECU36は、例えば車両1の運転状態に応じて、エンジン2及びモータ4のトルク配分の決定等を行う。また当該統合ECU36は、所定のエンジン自動停止条件を満たした際には、エンジンECU30を介してエンジン2への燃料供給を停止する。さらに当該統合ECU36は、エンジン2の自動停止後に所定のエンジン自動始動条件を満たした際には、エンジンECU30を介してエンジン2をクランキングして燃料供給を再開させることで当該エンジン2を始動させる。このように統合ECU36は、いわゆるエンジン自動停止再始動制御を行うものである(エンジン自動停止制御手段)。
【0025】
ここで、所定のエンジン自動停止条件とは、例えば、車速が略0であり、ブレーキペダルが踏み込まれており、且つアクセルペダルの踏み込まれていない状態である。所定のエンジン始動条件は、上記エンジン自動停止条件が満たされなくなった状態、即ちブレーキペダルの踏み込みが解除、またはアクセルペダルが踏み込まれた場合である。
【0026】
当該統合ECU36によるエンジン自動停止再始動制御における、エンジン自動停止時に、モータECU32はエンジン2のクランク角度推定制御を行い、推定したクランク角度に基づきエンジン2の始動に適した所定の停止クランク角度でエンジン2の回転を停止させるエンジン回転停止制御を行う。モータECU32は、図示しないが、クランク角度推定制御を行うための同期回転制御部、相対クランク角度算出部、ピーク値検出部、クランク角度推定制御部を備えており、さらにエンジン回転停止制御を行うためのモータトルク制御部を備えている。
【0027】
以下、モータECU32が行うクランク角度推定制御及びエンジン停止制御について、制御の流れとともにモータECU32の各部の機能を説明する。
図2を参照すると、モータECU32が実行するクランク角度推定制御ルーチン及びエンジン回転停止制御ルーチンを示すフローチャートが示されており、以下同フローチャートに沿って説明する。
【0028】
まず、ステップS1として、モータECU32は統合ECU36からエンジン停止条件が成立したか否かの情報を取得する。つまり、エンジン停止条件が成立した場合は、エンジン2への燃料供給が停止することから、モータECU32は当該ステップS1においてエンジン2への燃料供給の有無を検出している。当該判別結果が偽(No)である場合、即ちエンジン自動停止条件が成立していない場合は、当該ルーチンをリターンする。一方、当該判別結果が真(Yes)である場合、即ちエンジン自動停止条件が成立し、エンジン2への燃料供給が停止している場合は、ステップS2に進む。
【0029】
ステップS2では、モータECU32の同期回転制御部が、クラッチ6を接続させるようクラッチ6を制御するとともに、エンジン2が所定の回転数となるようにモータ4の回転数を同期させる。そして、エンジン2の回転数が0回転へ向かって徐々に低下していくようにモータ4の回転数を制御する。
次のステップS3では、モータECU32の相対クランク角度算出部が、エンジン2への燃料供給を停止した時点からの相対クランク角度を算出する。当該相対クランク角度とは、エンジン自動停止条件が成立しエンジン2への燃料供給を停止した時点を0°とし、そこからエンジン回転数に応じて算出されたクランク角度である。そして、モータECU32のクランク角度推定制御手段は、当該相対クランク角度を推定クランク角度に設定する。
【0030】
続くステップS4では、モータECU32のピーク値検出部が、モータ4が発生させているモータトルクを監視し、当該モータトルクのピーク値を検出する。つまり、モータ4はエンジン2が所定の回転数となるように回転させていることから、モータトルクはエンジントルクに対応したものとなっており、モータトルクのピーク値はエンジントルクのピーク値でもある。詳しくは、このときのモータトルクは、燃料供給がなくモータ4によって回転させられている状態の、いわゆる無負荷時におけるエンジンのフリクショントルクと一致する。このエンジントルクは、気筒内圧力に基づきクランク軸が受けるガス圧トルクと、慣性力に基づきクランク軸が受ける慣性トルクとを、全気筒分合成したトルクとなる。
【0031】
そして、モータトルクのピーク値の検出は、予め無負荷状態のエンジン2を用いた試験・実験等からエンジントルクのピーク値と判定可能な判定閾値を算出し、当該判定閾値をモータトルクに適用することで行う。つまり、モータECU32のピーク値検出部は、監視しているモータトルクが判定閾値を超えた場合にピーク値であると判定する。
【0032】
続くステップS5では、モータECU32のクランク角度推定制御部が、検出されたピーク値に対応したピーク値クランク角度を算出する。当該ピーク値クランク角度は、予め無負荷状態のエンジン2を用いた試験・実験等から当該エンジン2においてピーク値を示すときの実クランク角度の関係を図示しない記憶部に記憶しておき、当該記憶部から算出する。
【0033】
ステップS6では、モータECU32のクランク角度推定制御部が、相対クランク角度からピーク値クランク角度にオフセットして推定クランク角度に設定する。当該オフセット後は、当該ピーク値クランク角度からエンジン回転数に応じたクランク角度を推定クランク角度とする。
【0034】
このステップS6までの制御が、クランク角度推定制御に相当する。
そして、ステップS7では、モータECU32のモータトルク制御部が、エンジン回転数が所定回転数より低く、且つ推定クランク角度が停止クランク角度に達したか否かを判別する。当該所定回転数は、モータ4を用いて速やかにエンジン2の回転を停止可能なエンジン回転数に設定される。また、停止クランク角度は、エンジン自動停止後にピストンの位置が再始動に適した位置となるクランク角度に設定される。当該停止クランク角度は、エンジン2を用いて予め試験・実験等から始動に適したピストン位置に対応するクランク角度を導出しておき、これを図示しない記憶部に記憶しておく。なお、当該ステップS7では、推定クランク角度が停止クランク角度に完全に一致した場合だけでなく、停止クランク角度が所定の範囲を持っていても構わない。
【0035】
当該判別結果が偽(No)である場合は、当該ステップS7を繰り返す。当該判別結果が真(Yes)である場合、即ちエンジン回転数が所定回転数より低く、推定クランク角度が停止クランク角度に達した場合は、次のステップS8に進む。
ステップS8では、モータECU32のモータトルク制御部が、例えばエンジン2を停止させる方向のトルク、即ち回生トルクを発生させるようモータ4を制御することで、モータ4の回転を0とする。つまり、モータ4の回転を0とすることで、当該モータ4とクラッチ6を介して接続されているエンジン2の回転を停止させる。
【0036】
このステップS7、8がエンジン回転停止制御に相当し、ステップS8実行後に当該制御ルーチンを終了する。
ここで、モータECU32が実行するクランク角度推定制御についてより詳しく説明する。
図3を参照するとクランク角度推定制御実行時の各運転状態を示したタイムチャートが示されている。
【0037】
同図に示すように、エンジン自動停止条件が成立することでエンジン自動停止フラグがONとなる。当該エンジン自動停止フラグがONになると、統合ECU36がエンジンECU30を介してエンジン2への燃料供給を停止し、エンジン回転数が低下していく。また、エンジン2への燃料供給が停止されると、モータECU32はクラッチ6を接続するとともにモータ4の回転をエンジン2が所定の回転数となるよう同期させる。これにより、エンジントルクと対応したモータトルクが監視可能となる。図3に示すように、当該モータトルクの波長はエンジン回転数が低くなるにつれて長くなっている。
【0038】
さらに図4を参照すると、図3のA期間を拡大した図が示されている。
同図に示すように、モータECU32は、エンジン自動停止フラグがONになったt1時点を0°としてエンジン回転数に応じた相対クランク角度を算出し始め、これを推定クランランク角度に設定する。
このようにピーク値クランク角度が判明するまでの間も、相対クランク角度を推定クランク角度に設定しておくことで、クランク角度の進行度合いを把握することができる。
【0039】
そして、モータECU32は、モータトルクが判定閾値より大となっているピーク値が検出されたt2時点で、相対クランク角度からピーク値クランク角度にオフセットして、当該ピーク値クランク角度を推定クランク角度とする。当該図3、4ではピーク値クランク角度を10°として示しており、t2時点では相対クランク角度がピーク値クランク角度を上回っているので、減少側にオフセットしている。
【0040】
t2時点以降は、ピーク値クランク角度を基準とし、当該ピーク値クランク角度からエンジン回転数に応じて推定クランク角度が算出される。なお、図4では、t1時点からt3時点の期間が、エンジン2のクランク軸2回転分の期間に相当する。
このように、本実施形態におけるハイブリッド電気自動車は、エンジン自動停止時に、モータECU32の制御により、モータ4をエンジン2が所定の回転数となるよう同期回転させた上で、モータトルクのピーク値を検出することで、エンジン2の実クランク角度に相当するピーク値クランク角度を推定クランク角度に設定することができる。これにより、特にクランク角度センサを用いることなく、モータECU32はエンジン2のクランク角度を適切に推定することができる。
【0041】
そして、モータECU32は、この推定したクランク角度に基づき、エンジン2の始動に適した所定のクランク角度でエンジン2を停止させるようモータトルクを制御する。これにより、モータECU32は、クランク角度センサを用いることなく、始動に適したピストン位置でエンジン2の回転を停止させることができ、始動性に優れたエンジン自動停止始動制御を行うことができる。
【0042】
以上で本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
上記実施形態では、車両1はエンジン2とモータ4との間にクラッチ6が設けられた構成のハイブリッド電気自動車であるが、当該構成のものに限られるものではない。例えば、エンジンとモータとの間にクラッチ手段がなく、エンジン回転とモータ回転が常時同期するような構成のハイブリッド電気自動車に対して本発明を適用しても構わない。
【0043】
また、上記実施形態では、図3、4のタイムチャートにおいて、ピーク値クランク角度を10°としているが、ピーク値クランク角度はこれに限られるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1 車両
2 エンジン
4 モータ
6 クラッチ(クラッチ手段)
30 エンジンECU
32 モータECU(同期回転制御手段、ピーク値検出手段、クランク角度推定制御手段、相対クランク角度算出手段、モータトルク制御手段)
34 変速機ECU
36 統合ECU(エンジン自動停止制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としてエンジン及びモータを選択可能なハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
所定のエンジン自動停止条件を満たした際に前記エンジンへの燃料供給を停止するエンジン自動停止制御手段と、
エンジン自動停止制御手段による前記エンジンへの燃料供給を停止後、前記エンジンと前記モータとを同期回転させるようモータトルクを生じさせる同期回転制御手段と、
前記モータのモータトルクを監視して当該モータトルクのピーク値を検出するピーク値検出手段と、
燃料供給がない状態で前記エンジンを回転させた場合におけるエンジントルクのピーク値に対応したピーク値クランク角度が予め記憶されており、前記ピーク値検出手段により前記モータトルクのピーク値を検出した際に、前記ピーク値クランク角度を推定クランク角度に設定するクランク角度推定制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置。
【請求項2】
前記エンジン自動停止制御手段による前記エンジンへの燃料供給を停止した時点を0°とした相対クランク角度を算出する相対クランク角度算出手段を備え、
前記クランク角度推定制御手段は、前記ピーク値検出手段により前記モータトルクのピーク値が検出されるまでは、前記相対クランク角度を推定クランク角度とし、当該ピーク値が検出された際には、当該相対クランク角度から前記ピーク値クランク角度へと推定クランク角度を変更することを特徴とするハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置。
【請求項3】
さらに、前記エンジン及び前記モータとの間に設けられ、当該エンジンから当該モータを介して駆動輪へと伝達される当該エンジンの駆動力の接続及び遮断を行うクラッチ手段を備え、
前記同期回転制御手段は、前記エンジン自動停止制御手段による前記エンジンへの燃料供給を停止後、前記クラッチ手段が接続された上で、前記エンジンと前記モータとを同期回転させるようモータトルクを生じさせることを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のハイブリッド電気自動車におけるエンジンのクランク角度推定装置により推定される推定クランク角度に基づき、前記エンジンの始動に適した所定の停止クランク角度で前記エンジンの回転を停止させるよう前記モータトルクを制御するモータトルク制御手段を備えることを特徴とするハイブリッド電気自動車のエンジン停止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112176(P2013−112176A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260443(P2011−260443)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】