説明

ハイブリッド電気自動車の走行制御装置

【課題】エンジン及び電動機を全体として効率的に運転でき、もって燃費向上を達成できるハイブリッド電気自動車の走行制御装置を提供する。
【解決手段】バッテリ18のSOCが十分であるときに変速機8の変速段を一段飛び越えて切り換えるスキップ制御モードを実行し、通常制御モードで第3速または第5速が選択されるべき領域で第4速または第6速を選択することにより、エンジン2の回転域を低回転側に移行させて燃料消費量を低減する。これにより生じるエンジントルクの不足分を電動機6のトルク増加で補償することにより、運転者の要求トルクを達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車の走行制御装置に係り、詳しくはエンジンと電動機とを併用した走行時において低燃料消費量の領域でエンジンを運転することにより燃費低減を達成するハイブリッド電気自動車の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと電動機とを車両に搭載し、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とをそれぞれ車両の駆動輪に伝達可能とした、いわゆるパラレル型ハイブリッド電気自動車が開発され実用化されている。この種のパラレル型ハイブリッド電気自動車の一つとして、変速機を介して電動機を駆動輪に連結すると共に、電動機に対してクラッチを介してエンジンを連結したものが提案されている。当該ハイブリッド電気自動車では、クラッチの切断時に電動機の駆動力を変速機を経て駆動輪に伝達して車両を走行させる一方、クラッチの接続時にはエンジンの駆動力またはエンジン及び電動機の駆動力を変速機を経て駆動輪に伝達して車両を走行させている。
【0003】
エンジン及び電動機の駆動力により車両を走行させるエンジン・電動機併用走行では、エンジン及び電動機の効率的な運転のためにそれぞれの駆動力配分を最適化する必要があり、これを実現するために種々の手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1には、変速機の変速段が最も伝達効率の良い所定段のとき、所定段以外のときよりもエンジンの駆動力をアシストするモータのアシスト最大値を大きく設定することにより、最も伝達効率の良い所定段から他の変速段への変速を抑制して変速機全体の伝達効率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―280049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたハイブリッド電気自動車は、運転者のアクセル操作に応じた要求トルクをエンジン側及び電動機側に配分する際の駆動力配分を最適化するものに過ぎない。このため、仮に最適な駆動力配分を見出してエンジン及び電動機のトルクを設定したとしても、全体としてのエンジン及び電動機の効率を向上するには限界があり、燃費改善などの面から従来より抜本的な対策が望まれていた。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エンジン及び電動機を全体として効率的に運転でき、もって燃費向上を達成することができるハイブリッド電気自動車の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、エンジン及び電動機のトルクを複数の変速段を有する変速機を介して駆動輪に伝達して走行するハイブリッド電気自動車の走行制御装置において、車速に応じて変速機の各変速段を順次連続的に切り換える通常変速手段と、車速に応じて記変速機の各変速段の内の特定変速段を飛び越えるように変速段を切り換えるスキップ変速を実行するスキップ変速手段と、電動機に電力を供給するバッテリの残存容量を検出する残存容量検出手段と、残存容量検出手段により検出されたバッテリの残存容量が予め設定された判定値未満のときには、通常制御モードを選択して通常変速手段により変速機を変速させ、バッテリの残存容量が判定値以上のときには、スキップ制御モードを選択してスキップ変速手段により変速機を変速させるモード切換手段と、運転者の要求トルクをエンジン側及び電動機側に配分し、トルク配分に基づきエンジン及び電動機のトルクを制御する一方、モード切換手段によりスキップ制御モードが選択され、且つスキップ変速手段によりスキップ変速が実行されているとき、エンジンの回転域の低回転側への移行に伴うエンジントルク不足を補償すべく電動機のトルクを増加側に補正するトルク制御手段とを備えたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、トルク制御手段が、車両の加速に伴ってエンジンに駆動側のトルクを発生させているとき、スキップ制御手段によるスキップ変速の結果、エンジンの効率低下が著しい領域までエンジントルクが低下する場合には、エンジントルクを増加させると共にトルク増加分だけ電動機のトルクを低下側に補正するものである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、スキップ変速手段が、各変速段の内の相互に異なる特定変速段を飛び越えるように設定された複数のスキップ変速を選択的に実行するものであり、モード切換手段が、スキップ制御モードを選択した時点の変速機の変速段に基づき、変速段を特定変速段とするスキップ変速を複数のスキップ変速から選択し、選択したスキップ変速をスキップ変速手段に実行させるものである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の走行制御装置によれば、バッテリの残存容量が判定値未満のときには、通常制御モードを選択して車速に応じて変速機の各変速段を順次連続的に切り換え、一方、バッテリの残存容量が判定値以上のときには、スキップ制御モードを選択して特定変速段を飛び越えるように各変速段を切り換えると共に、このときのエンジンの回転低下によるトルク不足を補償すべく、電動機のトルクを増加側に補正するようにした。
従って、スキップ制御モードによりスキップ変速が実行されているときには、通常制御モードの変速段に比較して高速ギヤ側の変速段が選択されることになり、エンジンの回転域が低回転側に移行することから燃料消費量を低減できる。例えば車両加速時には、エンジンの回転域が低回転側に移行することにより直接的に燃料消費量が減少し、車両減速時にはエンジン回転域の低回転側への移行によりエンジンブレーキが低下した分だけ電動機の回生トルクを増加できることから、発電された電力を電動機のモータ作動時に利用することで間接的にエンジンの燃料消費量が減少する。
そして、高速ギヤ側の変速段の選択により生じるエンジントルクの不足分が電動機のトルク増加で補償されるため、運転者の要求トルクを確実に達成でき、結果としてエンジン及び電動機を全体としてより効率よく運転して燃費向上を達成することができる。
【0009】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の走行制御装置によれば、請求項1に加えて、エンジンが駆動側のトルクを発生させる車両加速時において、スキップ変速の結果、エンジン効率低下が著しい領域までエンジントルクが低下する場合、エンジントルクを増加させると共に電動機のトルクを低下側に補正するようにした。このため、エンジンの燃料消費量と運転効率とを高い次元で両立でき、さらなる燃費向上を達成することができる。
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車の走行制御装置によれば、請求項1または2に加えて、スキップ制御モードを選択した時点の変速機の変速段に基づき、この変速段を特定変速段としたスキップ変速を複数のスキップ変速から選択してスキップ変速手段に実行させるようにした。よって、何れの変速段でスキップ制御モードが開始された場合でも、その変速段が特定変速段として飛び越えられて高速ギヤ側の変速段が選択されることにより直ちにエンジン回転域が低回転側に移行するため、結果として短時間の加速でも確実に燃費低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態のハイブリッド電気自動車の走行制御装置を示す全体構成図である。
【図2】通常変速マップ及びスキップ変速マップを示す図である。
【図3】ECUが実行するモード切換ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】通常制御モード及びスキップ制御モードによる車両加速時の変速状況を示すタイムチャートである。
【図5】通常制御モードとスキップ制御モードとで各変速段によるエンジン運転領域及び電動機のトルクアシスト状況を比較した特性図である。
【図6】図5に対応してエンジンの時間当たりの燃料消費量及び運転効率の特性を示した図である。
【図7】別例で使用する第1及び第2スキップ変速マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の走行制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のハイブリッド電気自動車1の走行制御装置を示す全体構成図である。
ハイブリッド電気自動車1はいわゆるパラレル型ハイブリッド車両であり、本実施形態ではトラックとして構成されている。なお、以下の説明では、ハイブリッド電気自動車1を車両と称する場合もある。
ディーゼルエンジン(以下、エンジンという)2の出力軸にはクラッチ4の入力軸が連結されており、クラッチ4の出力軸には例えば永久磁石式同期電動機のように発電も可能な電動機6の回転軸を介して自動変速機8の入力軸が連結されている。自動変速機8は一般的な手動変速機をベースとしてクラッチ4の断接操作及び変速段の切換操作を自動化したものであり、本実施形態では、前進6速後退1速の変速段を有し、発進段としては第2速が設定されている。当然ながら、変速機8の変速段はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
【0012】
また、変速機8の出力軸はプロペラシャフト10、差動装置12及び駆動軸14を介して左右の駆動輪16に接続されている。従って、クラッチ4の切断時には電動機6のみが変速機8を介して駆動輪16側と連結され、クラッチ4の接続時にはエンジン2及び電動機6が共に変速機8を介して駆動輪16側と連結される。
電動機6は、走行用バッテリ18に蓄えられた直流電力がインバータ20によって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動し、その駆動トルクが変速機8により適宜変速された後に駆動輪16に伝達されることにより車両1を走行させる。また、アクセルオフにより車両1が減速する惰行運転時には、電動機6が発電機として作動して交流電力を発電すると共に、回生トルクを発生させて駆動輪16に制動力を作用させながら車両1を減速させる。そして、発電された交流電力はインバータ20によって直流電力に変換された後にバッテリ18に充電され、これにより車両1の減速エネルギが電気エネルギとして回収されて、その後に電動機6による走行に有効利用される。
【0013】
一方、エンジン2の駆動力は、クラッチ4が接続されているときに電動機6の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適宜変速された後に駆動輪16に伝達される。従って、エンジン2の駆動力が駆動輪16に伝達されているとき、電動機6がモータとして作動しない場合には、エンジン2の駆動力のみが変速機8を介して駆動輪16に伝達され、電動機6がモータとして作動する場合には、エンジン2及び電動機6の駆動力が共に変速機8を介して駆動輪16に伝達されることになる。
【0014】
また、バッテリ18の残存容量(SOC:State Of Charge)が低下してバッテリ18の充電が必要になると、車両1の走行中であっても電動機6が発電機として作動すると共に、エンジン2の駆動力の一部を用いて電動機6を作動することにより発電が行われ、発電された交流電力をインバータ20によって直流電力に変換した後にバッテリ18に充電するようにしている。
車両ECU22は、車両1やエンジン2の運転状態、及びエンジンECU24、インバータECU26並びにバッテリECU28からの情報などに応じて、図示しないアクチュエータを駆動制御してクラッチ4の接続・切断制御及び変速機8の変速段切換制御を行うと共に、これらの制御状態や車両1の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン2や電動機6を適切に運転するための統合制御を行う。
【0015】
そして車両ECU22は、このような制御を行う際に、アクセルペダル30の操作量Accを検出するアクセルセンサ32や、車両1の速度Vを検出する車速センサ34、エンジン2の出力軸の回転速度Nを検出するエンジン回転速度センサ35、電動機6の回転速度Nを変速機8の入力回転速度として検出する電動機回転速度センサ36、及びブレーキペダル39の踏込操作を検出するブレーキセンサ40などの検出結果に基づき、車両1の走行に必要な要求トルクを演算し、この要求トルクをエンジン2が発生するトルク及び電動機6が発生するトルクに配分する。
また、これと並行して要求トルク、車両1の走行状態、エンジン2及び電動機6の運転状態、或いはバッテリ18のSOCなどに基づき走行モード(エンジン単独走行、電動機単独走行、エンジン・電動機併用走行)を選択し、選択した走行モードを実行すべくエンジンECU24及びインバータECU26に指令を出力すると共に、適宜変速機8の変速制御を実行する。
エンジンECU24は、車両ECU22によって設定された走行モード及びエンジントルクを達成するように、噴射量制御や噴射時期制御を実行してエンジン2を運転させる。
また、インバータECU26は、車両ECU22によって設定された走行モード及び電動機6のトルクを達成するように、インバータ20を駆動制御して電動機6をモータ作動または発電機作動させる。
【0016】
また、バッテリECU28は、バッテリ18の温度、バッテリ18の電圧、インバータ20とバッテリ18との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ18のSOCを求め、求めたSOCを検出結果と共に車両ECU22に出力する(残存容量検出手段)。
ところで、上記したようにエンジン・電動機併用走行では要求トルクをエンジン側及び電動機側に配分してエンジン2及び電動機6を運転しており、このときの駆動力配分を最適化する技術の一つとして特許文献1が提案されている。しかしながら、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、特許文献1の技術のように単に駆動力配分を最適化するだけでは、全体としてのエンジン2及び電動機6の効率を向上させて燃費改善などを達成するには限界があった。
ここで、本発明者は、エンジン・電動機併用走行においてはエンジン2の燃料消費特性を鑑みるとエンジン2を低回転域で運転させることが望ましく、これによるトルク不足分はバッテリ18のSOCが十分であれば電動機6のトルク増加により補償可能なこと、及び変速機8の各変速段を一段飛び越えて変速すれば、容易にエンジン2の運転領域を低回転側に切換可能であることに着目した。このような知見の下に、本実施形態では通常の制御モードに加えて、バッテリ18のSOCが十分であることを条件として変速段を1段飛び越えて変速すると共に、このときに生じるエンジントルクの不足分を電動機6のトルク増加により補償する制御(以下、当該制御を通常制御モードに対してスキップ制御モードと称する)を実行しており、以下、このスキップ制御モードについて詳述する。
【0017】
上記のようにスキップ制御モードでは通常制御モードとは変速機8の変速制御が相違することから、予め通常の変速マップとは別のスキップ制御モード用の変速マップが設定されている。そこで、まず、双方の制御モードの変速マップを比較しながら図2に従って説明する。
何れの変速マップも車速V及びアクセル操作量Accに応じて目標変速段を導き出すように設定され、予め車両ECU22に記憶されている。周知のように通常変速マップでは、変速機8が達成可能な第1速から第6速の全ての変速段の領域が設定されている。
これに対してスキップ変速マップでは、通常変速マップの第3速(特定変速段)の領域が第4速の領域として設定され、通常変速マップの第5速(特定変速段)の領域が第6速の領域として設定されている。このため、スキップ変速マップによれば第3速及び第5速を飛び越えて変速が行われ、結果として通常変速マップで第3速及び第5速がそれぞれ達成される領域において、スキップ変速マップでは第4速及び第6速がそれぞれ達成されることになる。
【0018】
なお、図に示した両変速マップはシフトアップ用のものであり、図示はしないが、このシフトアップ用の変速マップに対して所定のヒステリシスを形成するようにシフトダウン用の変速マップがそれぞれ別に設定されている。そして、本実施形態では、通常変速マップに基づき変速制御を実行するときの車両ECU22が通常変速手段として機能し、スキップ変速マップに基づき変速制御を実行するときの車両ECU22がスキップ変速手段として機能する。
車両ECU22は以上のように設定された変速マップを用いて、走行モードとしてエンジン・電動機併用走行を選択しているときに図3に示すモード切換ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず、ステップS2で現在通常制御モードであるか否かを判定する。通常制御モード中のときにはYes(肯定)の判定を下してステップS4に移行し、バッテリ18のSOCが予め設定された上限判定値SOCup(例えば、50%)以上であるか否かを判定する。判定がNo(否定)のときには一旦ルーチンを終了し、一方、判定がYesのときにはステップS6でスキップ制御モードを実行した後にルーチンを終了する(モード切換手段)。
【0019】
また、上記ステップS2の判定がNoのときにはステップS8に移行し、バッテリ18のSOCが予め設定された下限判定値SOCdw(例えば、40%)未満であるか否かを判定する。判定がNoのときにはそのままルーチンを終了し、判定がYesのときにはステップS10に移行して通常制御モードを実行した後にルーチンを終了する(モード切換手段)。
その結果、基本的にはバッテリ18が低SOCのときには通常制御モードが選択され、高SOCのときにはスキップ制御モードが選択されるが、上限判定値SOCupと下限判定値SOCdwとの間がヒステリシス領域として機能することにより、両制御モード間の頻繁な切換が防止されている。
次に、以上のルーチンに基づき実行されるスキップ制御モードの制御状況を通常制御モードの制御状況と比較しながら説明する。
【0020】
図4は通常制御モード及びスキップ制御モードによる車両加速時の変速状況を示すタイムチャート、図5は通常制御モードとスキップ制御モードとで各変速段によるエンジン運転領域及び電動機6のトルクアシスト状況を比較した特性図である。
通常制御モードでは図2に示す通常変速マップに基づき変速機8の変速が実行されており、発進段である第2速で車両1が発進した後、車速Vの増加に伴って各変速段のシフトアップラインを横切る度に、現在の変速段よりも1段高速ギヤ側の変速段への切換が順次行われる。結果として図4に破線で示すように、変速段は第2速から第3速、第4速、第5速、第6速の順に、何れの変速段も飛び越えることなく連続的に切り換えられる。
この変速機8の変速制御により、エンジン2は車両1を加速させる過程において変速段毎に図5に示す各領域で回転を上昇させながら運転されると共に、変速段に応じたトルクを達成するように制御される。例えば、第3速では1300〜2000rpmの回転域で運転され、それに応じて140〜120Nmのトルクを発生させる。また、第5速では1300〜1700rpmの回転域で運転され、それに応じて200〜100Nmのトルクを発生させる。
【0021】
以上のようなエンジン2側の制御に対してモータ作動中の電動機6は、上記車両ECU22による要求トルクに基づくトルク配分に従って、エンジン2側のトルクの不足分を補うようにトルク制御される。例えば図5では回転速度に関わらず50Nmのトルクを発生させており、これにより運転者の要求トルクが達成されている。
一方、スキップ制御モードではスキップ変速マップに基づき変速が実行される。上記のようにスキップ変速マップでは、通常変速マップの第3速の領域が第4速の領域として、第5速の領域が第6速の領域として設定されているため、変速段は、第2速から第4速、第6速の順に一段飛び越えて切り換えられる。即ち、通常制御モードで第3速が選択される領域では1段高速ギヤ側の第4速が選択され、同様に第5速が選択される領域では1段高速ギヤ側の第6速が選択される。
【0022】
この変速機8の変速制御により、エンジン2は車両1を加速させる過程において通常制御モードで第3速が選択される領域では高速ギヤ側の第4速が選択されることで、図5に示すように800〜1300rpmの回転域で運転されるようになる。また、通常制御モードで第5速が選択される領域では高速ギヤ側の第6速が選択されることで、800〜1250rpmの回転域で運転されるようになる。
図6は図5に対応してエンジン2の時間当たりの燃料消費量(g/h)及び運転効率(g/kw・h)の特性を示した特性図であり、この図から判るように、第3速に代わる第4速の選択、及び第5速に代わる第6速の選択によりエンジン2の回転域が低回転側に移行することは、エンジン2の燃料消費量が減少することを意味する。よってスキップ制御モードでのエンジン2の燃料消費量は、通常制御モードで第3速及び第5速が選択されるべき領域において格段に低減されることになる。
【0023】
一方、このように通常制御モードの第3速及び第5速に相当する領域で高速ギヤ側の第4速及び第6速を選択した場合、要求トルクを達成するために必要なエンジントルクは増加する。具体的には、図5に示すように、第4速では210〜175Nmのトルクが要求され、第6速では290〜140Nmのトルクが要求されることなるが、この要求に対応することなくエンジン制御は通常制御モードの場合と同一内容で実行される。結果として第4速では通常制御モードの第3速と同様の140〜120Nmのエンジントルクを発生させ、第6速では通常制御モードの第3速と同様の200〜100Nmのエンジントルクを発生させる。
運転者の要求トルクを達成するにはエンジントルクが不足することになるが、このときには車両ECU22により要求トルクに基づきエンジントルクの不足分を補償するようにモータとして作動中の電動機6の駆動トルクが増加側に設定される(トルク制御手段)。例えば図5では電動機6のトルクが50Nmから70Nmに増加されており、これにより運転者の要求トルクが達成される。
【0024】
なお、以上は車両加速時の制御状況であるが、車両減速時も同様であり、通常制御モードでは変速機8の変速段が第6速、第5速、第4速、第3速、第2速の順に切り換えられるのに対し、スキップ制御モードでは、第6速、第4速、第2速の順に一段飛び越えて切り換えられる。このため、通常制御モードで第5速が選択される領域では高速ギヤ側の第6速が選択され、通常制御モードで第3速が選択される領域では第4速が選択される。エンジン2の回転域が低回転側に移行してエンジンブレーキが低下することから、その低下分を補償して所期の制動力を達成すべく発電機として作動中の電動機6の回生トルクを増加させる。回生トルクの増加は電動機6の発電量の増加につながり、それに応じてバッテリ18が充電される。よって、充電した電力を電動機6のモータ作動時に利用することにより、結果としてエンジン2の燃料消費量を低減可能となる。
【0025】
以上のように本実施形態では、バッテリ18のSOCが十分であるときに変速機8の変速段を一段飛び越えて切り換えるスキップ制御モードを実行し、通常制御モードで第3速または第5速が選択されるべき領域で第4速または第6速を選択することにより、車両1の加速時及び減速時の何れでもエンジン2の回転域を低回転側に移行させて燃料消費量を低減している。また、これにより生じるエンジントルクの不足分を電動機6のトルク増加で補償することにより、運転者の要求トルクを確実に達成して走行フィーリングの悪化を未然に防止している。
即ち、単に駆動力配分を最適化するだけの特許文献1の技術とは相違し、バッテリ18のSOCに基づき電動機6側のトルクに余力があることを条件として、エンジン2側をより燃料消費量の少ない回転域で運転していることから、エンジン2及び電動機6を全体としてより効率よく運転でき、結果として上記のように燃費向上を達成することができる。
【0026】
加えて、ハード的な構成は従来のハイブリッド電気自動車1と相違ないため、車両ECU22の制御プログラムを変更するだけで実施でき、これにより容易に上記作用効果を実現することができる。
ところで、上記実施形態では図6に示すエンジン2の燃料消費特性を考慮した結果、スキップ制御モードの第4速及び第6速でエンジン2の回転域を低回転側に移行させ、エンジン制御については通常制御モードの場合と同一内容で実行した。結果として例えば第4速では、本来は図中に実線で示される210〜175Nmのトルク域での運転が要求されるのに対し、実際にはより低トルク側の破線で示すトルク域でエンジン2が運転され、そのトルク不足分が電動機6のトルクにより補償される。しかし、車両加速のためにエンジン2が駆動側のトルクを発生させているときには、このようなエンジントルク域の移行はエンジン2の運転効率の点では望ましくない場合がある。
【0027】
即ち、図6中に併記したエンジン2の運転効率特性で示すように、エンジン2の運転効率は最大トルク曲線近傍を最良領域として、当該領域より低トルク側に移行するほど低下する傾向となる。当然ながら、この特性はエンジン2の仕様による相違はあるものの、全体的にはエンジン仕様に関わらず上記のような特性になる。このため、エンジントルク域の高トルク側から低トルク側への移行に伴ってエンジン2の運転効率は低下し、運転効率の低下が著しい領域までエンジントルクが低下するときには、上記のようにエンジン回転域を低回転側に移行させたにも拘わらず、却ってエンジン2の燃料消費量が増大してしまう。
そこで、このような事態が発生すると予測される運転領域では、エンジントルクを若干増加させて運転効率の低下を抑制し、トルク増加分だけ電動機6のトルクを低下側に補正する対策を講じてもよい(トルク制御手段)。当該対策を実施することにより、主にエンジン回転域に応じて変動する燃料消費量と主にエンジントルク域に応じて変動する運転効率とを高い次元で両立でき、もってさらなる燃費向上を達成することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ハイブリッド電気自動車1をトラックとして構成したが、車両の種別はこれに限ることはなく、例えば乗用車に具体化してもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、一般的な手動変速機をベースとしてクラッチ4の断接操作及び変速段の切換操作を自動化した変速機8を用いたが、いわゆるデュアルクラッチ式変速機を用いてもよい。当該デュアルクラッチ式変速機は、例えば特開2009−035168号公報などに開示せれているため詳細は説明しないが、奇数段と偶数段とに分けた歯車機構をそれぞれクラッチを介して電動機6側と連結して構成され、一方の歯車機構のクラッチを接続して動力伝達しているとき、他方の歯車機構のクラッチを切断して次に予測されるギヤ段に予め切り換えておき、変速タイミングになると両クラッチの断接状態を逆転させて他方の歯車機構による動力伝達を開始するものである。このようなデュアルクラッチ式変速機においても、上記実施形態で述べた対策を行うことにより同様の作用効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、車両の走行モードを要求トルクやバッテリ18のSOCなどに応じてエンジン単独走行、電動機単独走行、エンジン・電動機併用走行の間で切り換えたが、これに限ることはなく、例えばエンジン・電動機併用走行のみを実行するハイブリッド電気自動車に適用してもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、前進6速の内の第3速及び第5速を飛び越えるようにスキップ変速マップの特性を設定したが、これに限ることはない。例えば第2速及び第4速を飛び越えるようにスキップ変速マップの特性を設定してもよいし、変速機8がより多数の変速段を有するときには、2段以上を飛び越えるようにスキップ変速マップを設定してもよい。
さらに、上記実施形態では、例えば第2速による車両加速中に図3のステップS6でバッテリ18のSOCに基づきスキップ制御モードが開始されたとしても、車速Vが上昇して第4速の領域(通常変速マップでは第3速の領域に相当)に進入するまでは、エンジン回転域を低回転側に移行させたことによる燃費低減効果が得られない。
そこで、例えば図7に示すように、実施形態と同様の第3速及び第5速(特定変速段)を飛び越える特性の第1スキップ変速マップに加えて、第2速及び第4速(特定変速段)を飛び越える特性の第2スキップ変速マップを予め設定しておき、スキップ制御モードが開始された時点の変速段が第3速または第5速のときには第1スキップ変速マップを適用し、開始時点の変速段が第2速または第3速のときには第2スキップ変速マップを適用するようにしてもよい。これにより、何れの変速段でスキップ制御モードが開始された場合でも、その変速段が飛び越えられて高速ギヤ側の変速段が選択されることにより直ちにエンジン回転域が低回転側に移行するため、結果として短時間の加速でも確実に燃費低減効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 エンジン
6 電動機
8 変速機
16 駆動輪
18 バッテリ
22 車両ECU(通常変速手段、スキップ変速手段、残存容量検出手段、
モード切換手段、トルク制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び電動機のトルクを複数の変速段を有する変速機を介して駆動輪に伝達して走行するハイブリッド電気自動車の走行制御装置において、
車速に応じて上記変速機の各変速段を順次連続的に切り換える通常変速手段と、
上記車速に応じて上記変速機の各変速段の内の特定変速段を飛び越えるように該変速段を切り換えるスキップ変速を実行するスキップ変速手段と、
上記電動機に電力を供給するバッテリの残存容量を検出する残存容量検出手段と、
上記残存容量検出手段により検出された上記バッテリの残存容量が予め設定された判定値未満のときには、通常制御モードを選択して上記通常変速手段により上記変速機を変速させ、上記バッテリの残存容量が上記判定値以上のときには、スキップ制御モードを選択して上記スキップ変速手段により上記変速機を変速させるモード切換手段と、
運転者の要求トルクを上記エンジン側及び電動機側に配分し、該トルク配分に基づき上記エンジン及び電動機のトルクを制御する一方、上記モード切換手段によりスキップ制御モードが選択され、且つ上記スキップ変速手段により上記スキップ変速が実行されているとき、上記エンジンの回転域の低回転側への移行に伴うエンジントルク不足を補償すべく上記電動機のトルクを増加側に補正するトルク制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の走行制御装置。
【請求項2】
上記トルク制御手段は、上記車両の加速に伴って上記エンジンに駆動側のトルクを発生させているとき、上記スキップ制御手段によるスキップ変速の結果、上記エンジンの効率低下が著しい領域まで上記エンジントルクが低下する場合には、該エンジントルクを増加させると共に該トルク増加分だけ上記電動機のトルクを低下側に補正することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の走行制御装置。
【請求項3】
上記スキップ変速手段は、上記各変速段の内の相互に異なる特定変速段を飛び越えるように設定された複数のスキップ変速を選択的に実行するものであり、
上記モード切換手段は、上記スキップ制御モードを選択した時点の上記変速機の変速段に基づき、該変速段を上記特定変速段とするスキップ変速を上記複数のスキップ変速から選択し、該選択したスキップ変速を上記スキップ変速手段に実行させることを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド電気自動車の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−126327(P2012−126327A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281439(P2010−281439)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】