説明

ハイブリドーマの製造方法およびその利用

本発明は、生体外でB細胞を免疫した免疫化細胞をミエローマ細胞と細胞融合して抗体産生ハイブリドーマを製造する従来よりも効率的かつ実用的な方法であって、詳細には、生体外でサイトカインおよび糖脂質を共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して抗体産生ハイブリドーマを製造する方法、ならびにその利用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、抗体産生ハイブリドーマを製造する方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
近年、内分泌撹乱物質(「環境ホルモン」とも称される)による環境汚染が問題とされてきており、環境中の内分泌撹乱物質やその分解物を測定・分析して、その結果を環境保全に早急に役立てる必要性がある。内分泌撹乱物質を測定・分析する方法としては、従来から種々の方法が知られており、現在では、ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(GC−MS)を用いた方法が主流となっている。しかしこの方法では、極微量しか存在しない内分泌撹乱物質を定量するのには必要な感度が得られないこと、また定量するためには溶媒による抽出などによる高倍率の濃縮が必要であること、さらに非常に高価な機器であり操作に習熟を要すること、1検体あたりの濃縮、抽出、検出に時間を要する(ダイオキシンなど物質によっては数週間)ことなどの問題がある。
これらの問題を解決し得る、従来とは全く異なる視点からの内分泌撹乱物質に対する迅速かつ高感度検出法として、モノクローナル抗体を利用する方法が考えられている。モノクローナル抗体は、抗原物質内に存在する幾つかのエピトープ(抗原決定基)の中で特定の1つのエピトープのみを特異的に認識する抗体であり、その非常に高い特異性により、構造の類似した物質の認識や微量成分の検出、あるいは目的抗原物質のワンステップ精製など多方面において幅広く利用されている。
モノクローナル抗体を作製する方法としては、目的とする抗原物質で予め免疫した脾細胞やリンパ節細胞などのB細胞(以下、免疫したB細胞を「免疫化細胞」ということがある。)と、不死であるB細胞由来の骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを細胞融合して抗体産生細胞(ハイブリドーマ)を作製する方法が、現在広く利用されている。この方法によれば、特定のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを半永久的に増殖させて、半永久的にモノクローナル抗体を製造することが可能となる。
上記免疫化細胞の作製のための免疫は、従来より、生体内免疫法によって行われていることが多い。しかし内分泌撹乱物質のように生体に毒性を有する物質を抗原物質とする場合には、生体外で免疫(たとえば、Bossら、Methods Enzymol.121,27−33(1986)を参照。)を行うことが望ましい。また生体外で免疫を行うと、抗原量が微量で済む(1μg〜10μgの少量の抗原量で免疫化が可能)、免疫時間が短くて済む(3日間〜5日間と非常に短い期間で免疫化が完了)などの利点もあり、より効率的で実用的なモノクローナル抗体の製造方法を確立する観点からは、生体外で免疫した免疫化細胞を細胞融合して、所望の抗体産生ハイブリドーマを作製することが望まれる。
【発明の開示】
しかし生体外で免疫したB細胞を細胞融合して得られたハイブリドーマの出現率は、10%〜30%程度と従来の生体内免疫で免疫した場合と比較して低く(生体内免疫によった場合のハイブリドーマ出現率:40%〜50%程度)、より効率的なハイブリドーマの製造方法の開発が求められている。また、上記生体外で免疫したB細胞を細胞融合して得られたハイブリドーマは、産生するモノクローナル抗体の多くが5量体で構造上不安定なIgMタイプであり、実用性に乏しいという問題もある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、生体外で免疫したB細胞を免疫抗原で選択後、ミエローマ細胞と細胞融合して抗体産生ハイブリドーマを製造する方法であって、従来よりも効率的かつ実用的な方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、生体外で脾細胞を免疫する際に、抗体のIgMタイプからIgGタイプへのクラススイッチを目的としてインターロイキン−4とリポ多糖を共存させることを試みた。その際、抗原物質としてはフタル酸−ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)の誘導体(ハプテン)を用いた。DEHPは、可塑剤として広く汎用されているが、欧州委員会(EU)が2000年6月、内分泌撹乱物質プライオリティリストに関する報告書(案)をまとめたとき、生物に対して少なくとも1つの内分泌撹乱作用の証拠が挙げられている物質の中でも優先してリスク評価に取り組む8物質に含まれており、その早急な対応が特に求められている内分泌撹乱物質である。
本発明者らは、上記の試みによって得られた免疫化細胞を電気パルス(PEF)法によってミエローマ細胞と細胞融合させて作製したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を調べたところ、IgGタイプへのクラススイッチを確認することができたが、それとは別に、かかる手法によって得られたハイブリドーマの出現率がほぼ50%に上昇するという、全く予想だにしていなかった事実を見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカイン、および糖脂質を生体外で共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して抗体産生ハイブリドーマを製造する方法。
(2)サイトカインの濃度が1ng/ml〜100ng/mlの範囲である、上記(1)に記載の方法。
(3)サイトカインの濃度が5ng/ml〜30ng/mlの範囲である、上記(1)に記載の方法。
(4)アメリカヤマゴボウレクチンおよび/またはプロテインA被覆黄色ブドウ球菌死菌の非存在下で細胞を免疫する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)サイトカインがインターロイキン−4であり、かつ糖脂質がリポ多糖である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)抗原物質が内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)電気パルス法によって細胞融合させることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)以下の(a)および(b)を用いて細胞融合させることを特徴とする上記(6)に記載の方法:
(a)免疫に使用した抗原と特異的結合対の一方とを含む複合体に連結した免疫化細胞、および
(b)当該特異的結合対の他方と連結したミエローマ細胞。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法で製造されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。
(10)IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカインと、糖脂質とを少なくとも含有する細胞融合用試薬。
(11)サイトカインがインターロイキン−4であり、かつ糖脂質がリポ多糖である上記(10)に記載の細胞融合用試薬。
(12)IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカイン、および糖脂質を生体外で共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して得られた抗体産生ハイブリドーマを用いる工程を含むことを特徴とする、モノクローナル抗体の製造方法。
(13)抗原物質が内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質である上記(12)に記載の製造方法。
(14)IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカイン、および糖脂質を生体外で共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して得られた抗体産生ハイブリドーマが産生したモノクローナル抗体を用いる工程を含むことを特徴とする、抗原物質のスクリーニング方法。
(15)抗原物質が内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質である上記(14)に記載のスクリーニング方法。
(16)以下の(a)および(b)を電気パルス法で細胞融合させることを特徴とするハイブリドーマの製造方法:
(a)免疫に使用した抗原と特異的結合対の一方とを含む複合体に連結した免疫化細胞、および
(b)当該特異的結合対の他方と連結したミエローマ細胞。
【図面の簡単な説明】
図1は、生体外免疫後、細胞融合前の実施例1の免疫化細胞の特異的蛍光標識を用いた可視化解析の結果を示す顕微鏡写真である。
図2は、生体外免疫後、細胞融合前の比較例1の免疫化細胞の特異的蛍光標識を用いた可視化解析の結果を示す顕微鏡写真である。
発明の詳細な説明
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗体産生ハイブリドーマの製造方法は、〔1〕サイトカインおよび糖脂質を共存させた状態で、生体外でB細胞を抗原物質に免疫する工程と、〔2〕上記免疫したB細胞(免疫化細胞)を免疫抗原で選択後、ミエローマ細胞と細胞融合させて、ハイブリドーマを作製する工程との、大きく分けて二つの工程を含有することを特徴とするものである。
なお本明細書において「B細胞を抗原物質で免疫する際にサイトカインおよび糖脂質を共存させる」とは、サイトカインおよび糖脂質がB細胞およびその他の免疫応答細胞に充分に会合し得るように免疫を行うことを指し、このように免疫が行われるならば、これらB細胞、抗原物質、サイトカイン、糖脂質を混合する順序や量は、特に制限されるものではない。
本発明の上記〔1〕の工程においては、抗原物質にて免疫する際に、B細胞をサイトカインと糖脂質の両方を共存させることが必要であり、いずれか一方のみ共存させただけでは後述する本発明の効果を奏することはできない。すなわち、生体外のB細胞の免疫の際にサイトカインのみを共存させた場合であると、B細胞の活性化が充分に行われないという不具合があるためであり、また糖脂質のみを共存させた場合であると、IgMからIgGへのクラススイッチが起こらないという不具合があるためである。また、抗原物質を免疫する際以外の時点でB細胞にサイトカインおよび糖脂質を共存させたとしても、これをミエローマ細胞と細胞融合しても、抗体産生ハイブリドーマの高出現率を達成できない。
本発明に用いられるサイトカインは、免疫系における情報伝達物質であるサイトカインとして公知のものであれば、特に制限なく使用することができ、たとえば、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−16(IL−16)、インターロイキン−17(IL−17)、インターロイキン−18(IL−18)などだけでなく、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子(CSF)、エリスロポエチン(EPO)なども包含する。中でも、IgMからIgGへのクラススイッチを惹起し得ることから、IL−4を用いるのが好ましい。上記インターロイキンは、マウス、ヒト、ラットのいずれの由来のものを用いてもよいが、マウスが免疫対象動物として好適であるため、マウス由来のものを使用するのが好ましい。かかるサイトカインは、市販のものを好適に用いることができる。
免疫の際に共存させるサイトカインの量に特に制限はないが、例えば、IL−4を用いる場合、細胞培養における最適濃度の観点から、最終濃度が0.1ng/ml〜100ng/mlとなるように添加するのが好ましく、最終濃度が5ng/ml〜30ng/mlとなるように添加するのがより好ましい。
別の局面では、免疫の際に共存させるサイトカインの量は、最終濃度が1ng/mlを超え、かつIgGタイプの抗体を産生するB細胞をより選択的に取得することを可能とする濃度となるように添加する場合、細胞培養における最適濃度の観点から最終濃度が1ng/ml〜100ng/mlとなるように添加するのがより好ましく、最終濃度が5ng/ml〜30ng/mlとなるように添加するのがさらに好ましい。
本発明においては、上記例示したサイトカインを2種以上用いた場合であっても、後述する本発明の効果を奏することができる。この場合、用いる2種以上のサイトカインの総量が、上述した範囲内となるように用いるのが好ましい。
本発明に用いられる糖脂質は、分子内に糖と脂質の両者(水溶性糖鎖と脂溶性基の両者)を含む物質群であれば、特に制限はなく使用することができる。たとえば、リポ多糖(大腸菌、腸炎菌、ネズミチフス菌、霊菌等由来)(例:シグマ総合カタログ2000−2001 日本語版、LIPOPOLYSACCHARIDESに記載の種々の抽出法で得られた種々の形態のリポ多糖や人工的に作製されたリポ多糖)が挙げられる。かかる糖脂質は、市販のものを特に制限なく使用することができる。
免疫の際に共存させる糖脂質の濃度に特に制限はないが、例えば、リポ多糖を用いる場合、最終濃度が5μg/ml〜50μg/mlとなるように添加するのが好ましく、最終濃度が10μg/ml〜20μg/mlとなるように添加するのがより好ましい。
本発明においては、上記例示した糖脂質を2種以上用いた場合であっても、後述する本発明の効果を奏することができる。この場合、用いる2種以上の糖脂質の総量が、上述した範囲内となるように用いるのが好ましい。
本発明において生体外での免疫に用いるB細胞は、たとえば、マウス、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ラット、モルモット、ニワトリなどの従来より生体内免疫に通常用いられているような動物から、常法に従って脾臓またはリンパ節を無菌的に摘出し、これを洗浄後、破砕し、脾細胞またはリンパ節細胞として得ることができる。B細胞およびその他の免疫応答細胞を多く含むことから、脾細胞をB細胞として使用するのが好ましい。B細胞は、抗生物質入りの適宜の懸濁用液(たとえば、脾細胞を用いる場合には、カナマイシン入りRPMI1640(Roswell Park Memorial Institute 1640)(日水製薬社製)など)に懸濁して生体外での免疫に供し得るように調製される。
また本発明で用いるミエローマ細胞(骨髄腫細胞)に特に制限はなく、たとえば、従来公知のNS−1、P3U1、Sp2/O、PAIなどが挙げられ、中でも融合効率が高いことから、PAIが好ましい。ミエローマ細胞は、当分野において通常行われている方法にしたがって予め継代培養されたものを用いればよい。
本発明の〔1〕の工程において、B細胞、抗原物質、サイトカインおよび糖脂質を混合させる順序は、特に制限はないが、目的の抗原物質に対するB細胞の感作をより効率的に行うためには、▲1▼B細胞、▲2▼抗原物質、▲3▼サイトカイン、▲4▼糖脂質の順に混合させるのが好ましい。
上記〔1〕の工程での生体外でのB細胞の免疫は、従来公知であるBossの方法(Boss:Methods Enzymol.121,27−33(1986))に基づいて好適に行うことができる。たとえば、脾細胞を用いる場合、具体的には、以下の(1)〜(3)の手順にて行う。
(1)上記のように調製した脾細胞入り懸濁液に、後述するようにして予め調製した抗原溶液を適量ずつ添加して放置する。
(2)放置後、40% FCS(fetal calf serum)を含む完全培地(60% RPMI1640+100μg/ml 硫酸カナマイシン+2mM L−グルタミン+50μM β−メルカプトエタノール+40% FCS)を添加する。本発明の特徴の一つであるサイトカインおよび糖脂質の添加は、たとえば、この40% FCSを含む完全培地の添加の後に行う。その後、5%炭酸ガスインキュベータ内で3日間〜5日間程度培養を行う。
(3)培養後、培養液を遠心分離して得た沈殿を抗生物質入りRPMI1640で懸濁、さらに遠心分離して洗浄後、沈殿を抗生物質入りRPMI1640に懸濁して、生体外で免疫化された免疫化細胞の懸濁液を得る。
なお上述の(1)の手順において、免疫の効率を向上し得る観点からは、アジュバントをさらに添加するのが好ましい。アジュバントとしては、従来公知のものを適宜選択して用いればよく、特に制限はない。アジュバントは、市販のものを用いればよく、たとえば、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(SIGMA社製)、フロインド完全アジュバント(ディフコ社製)、フロインド不完全アジュバント(ディフコ社製)、リビアジュバント(コリクサ社製)などが挙げられ、中でもN−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミンが生体外で効率的に免疫化を行うために好ましい。アジュバントの添加量は、特に制限はないが、免疫の効率向上の観点からは、抗原物質に対し5μg/ml〜50μg/mlの量を添加するのが好ましく、20μg/ml〜40μg/ml添加するのがより好ましい。
本発明の〔2〕の工程で用いる細胞融合法としては、従来公知のセンダイウイルスを使用する方法、ポリエチレングリコール(PEG)を融合促進剤として使用する方法、電気パルス(PEF:pulsed electric field)法、レーザー放射法(laser radiation)などを特に制限なく用いることができる。これらの中でPEGを使用する細胞融合法は、比較的簡単であるため一般に広く利用されている方法であるが、PEGが酸化して生成されるアルデヒド物質が強い細胞毒性を有し、ハイブリドーマの育成に悪影響を及ぼすことが判っている。またかかる融合法では、細胞融合を行う際に、免疫化細胞とミエローマ細胞間だけでなく、免疫化細胞同士および/またはミエローマ細胞同士の間でも非特異的な細胞融合が起こってしまい、目的のモノクローナル抗体を得るまでに多くの労力と時間を要するという欠点がある。したがって本発明では、上記細胞融合法の中でも、細胞毒性を有する物質を用いることなく、免疫化細胞とミエローマ細胞とを選択的に細胞融合させることができ、上記PEGを用いた細胞融合法と比較して10倍〜20倍高い効率にて目的とする抗原特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製できる、PEF法にて細胞融合を行うことが好ましい。
PEF法は、免疫化細胞に抗原物質を介してアビジンを結合させた第一の複合体と、ミエローマ細胞にビオチンを結合させた第二の複合体とで、ビオチンとアビジンとの間の強い親和力を利用し、ビオチン/アビジン架橋を用いて免疫化細胞−抗原物質−アビジン−ビオチン−ミエローマ細胞の複合体を作製し、これに高電圧矩形波パルスを負荷することで細胞融合させる方法である。このPEF法の最大の特徴は、免疫化細胞をその細胞上の抗原レセプターを介して予め抗原にて選択できるため、アビジンを結合した抗原物質を用いることで、免疫化細胞のみを選択的に第一の複合体の形成に供することができる点にある(Lo,M.M.Sら:Nature 310,792−794(1984)、冨田昌弘ら:Biochem.Biophy.Acta.1055,199−206(1990)、冨田昌弘ら:J.Immunol.Methods.251,31−43(2001)、Tsong,T.Yら:Methods Enzymol.220,238−246(1993)、冨田昌弘ら:タンパク質 核酸 酵素 45,600−606(2000))。
具体的には、従来公知の手順に従って、以下のように行えばよい。以下、後述するフタル酸−ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)の誘導体(ハプテン)を抗原物質として用い、脾細胞をB細胞として用いる場合について、例示する。他の抗原物質の場合は、以下の方法と同様の方法で行うことができる。
(1)適宜の溶媒(DMSOなど)中で、予め調製したカルボキシル基を含有するDEHPの誘導体(ハプテン)に、N−ヒドロキシサクシイミドおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライドを添加して、エステル化する。これにアビジンを添加して、該誘導体(ハプテン)とアビジンとを結合したコンジュゲートを作製する。
(2)上記コンジュゲートを免疫化細胞の懸濁液に混合し、攪拌後、遠心分離して得られた沈殿を適宜の抗生物質入りの懸濁用液(たとえば、上記のカナマイシン入りRPMI1640)で洗浄した後、上記懸濁用液に懸濁する。このようにして免疫化細胞に抗原物質を介してアビジンを結合させた第一の複合体が形成される。
(3)常法によって予め継代培養していたミエローマ細胞を洗浄し、適宜の懸濁用液(たとえば、PBS)に懸濁してミエローマ細胞入りの懸濁液を調製し、一方でNHS−ビオチン(N−ヒドロキシスクシイミド−ビオチン)を適宜の溶媒(たとえば、DMF)に懸濁してビオチン入りの懸濁液を調製する。これらを混合し、37℃、5%炭酸ガスインキュベータ内でローテーション後、遠心分離して得られた沈殿を上記懸濁用液(カナマイシン入りRPMI1640)で洗浄後、該懸濁用液に懸濁する。このようにしてミエローマ細胞にビオチンを結合させた第二の複合体が形成される。
(4)上記(2)で調製した第一の複合体入りの懸濁液と、上記(3)で調製した第二の複合体入りの懸濁液とを混合する。混合の割合は、免疫化細胞を含む脾細胞懸濁液とミエローマ細胞とが10:1〜1:2となる比率で行うのが好ましく、1:1となるように行うのがより好ましい。混合して得た液を遠心分離し、得られた沈殿を上記懸濁用液に懸濁する。さらに遠心分離し、適宜の時間放置した後、ローテーションする。ローテーション後、遠心分離して得られた沈殿を等張ショ糖バッファ(0.25M ショ糖+2mM リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム(pH7.2)+0.1mM 塩化マグネシウム+0.1mM 塩化カルシウム)に懸濁する。このようにして、ビオチンとアビジンとの強い親和力を利用した免疫化細胞−DEHP誘導体(ハプテン)−アビジン−ビオチン−ミエローマ細胞の複合体が形成される。
(5)上記(4)で得られた免疫化細胞−DEHP誘導体(ハプテン)−アビジン−ビオチン−ミエローマ細胞の複合体入りの懸濁液を、プラチナ製プレパラート型プレート上に1mlずつ加え、これに電気パルスを負荷する。該電気パルスの負荷は、たとえば、市販の細胞融合装置であるelectro square porator T820(BTX社製)、ECM830(BTX社製)、ECM2001(BTX社製)などを用いて、直流高電圧の矩形波パルスを負荷する。負荷の条件は、通常、2kV/cm(10μsec×4回)または3kV/cm(10μsec×4回)であり、細胞損傷を抑えることから、2kV/cm(10μsec×4回)が好ましい。これにより、架橋形成した免疫化細胞とミエローマ細胞が選択的に細胞融合されて、ハイブリドーマが作製される。
本発明の方法にて作製されたハイブリドーマは、スクリーニングに供すべく常法にしたがって培養される。
上記ハイブリドーマにたとえばRPMI完全培地(90% RPMI1640+10% FCS+100μg/ml 硫酸カナマイシン+2mM L−グルタミン+50μM β−メルカプトエタノール)を添加した後、培養する。培養は、通常、96ウェルマイクロプレートや48ウェルマイクロプレート上で行い、たとえば、従来公知のように、上清をHAT含有RPMI完全培地(100μM ヒポキサンチン+0.4μM アミノプテリン+16μM チミジン含有)で1.5週間〜2週間培地交換(たとえば0.1ml/wellずつ)した後、上清をHT含有RPMI完全培地(100μM ヒポキサンチン+16μM チミジン含有)で1.5週間〜2週間培地交換(たとえば0.1ml/wellずつ交換)し、その後はRPMI1640完全培地で培地交換することによって行えばよい。
所望のハイブリドーマのスクリーニングには、種々の方法が使用できるが、たとえばELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法によって行うことができる。上記ELISA法によって抗体活性が陽性であったハイブリドーマは、当分野で通常行われている手法、たとえば限界希釈法によって、クローニングを行えばよい。クローン化されたハイブリドーマ上清の抗体価を上記の方法で測定し、安定的に力価の高い抗体を産生するハイブリドーマを選択し、目的とするモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得することができる。
ハイブリドーマによるモノクローナル抗体の産生(製造)、精製は、自体公知の方法で行うことができる。抗体の産生、精製方法の具体例としては、たとえば、「エンザイムイムノアッセイ」第46〜71頁、第85頁〜110頁に記載され、塩析(NaSO、(NHSO)、イオン交換体(DEAE、QAE、CM/cellulose、Sephadex、Sepharose、Servacelなど)、疎水クロマトグラフィー(L−フェニルアラニル−Sepharoseなど)、ゲル濾過(Sephadex G−200、Bio−Gel p−300など)、電気泳動(アガロースゲルによるゾーン電気泳動、等電点電気泳動、等速電気泳動など)、超遠心(ショ糖密度勾配遠心法)、アフィニティークロマトグラフィー(固定化プロテインA(Protein−A Sepharose、Protein−A superoseなど))などの方法が挙げられる。
さらに、〔2〕の工程は、以下の(a)および(b)を電気パルス法により細胞融合させることを含む:(a)免疫に使用した抗原と特異的結合対の一方とを含む複合体に連結した免疫化細胞、および(b)当該特異的結合対の他方と連結したミエローマ細胞。「特異的結合対」とは、互いに特異的親和性を有する2つの化合物の特定の組合せをいい、例えば、アビジン−ビオチン、ストレプトアビジン−ビオチン、抗原(免疫に用いられたものとは異なるもの)−抗体、受容体−ホルモン、受容体−リガンド、受容体−アゴニスト、受容体−アンタゴニスト、酵素−基質、レクチン−炭水化物、核酸(RNAまたはDNA)ハイブリダイズ配列、Fc受容体またはマウスIgG−プロテインA、マウスIgG−プロテインGなどが挙げられる。特異的結合対は、直接あるいはリンカー等を介して間接的に、免疫化細胞およびミエローマ細胞に連結することができる。この工程によって、さらに効率的にハイブリドーマの出現率を上げることが可能となる。
本発明は、上述してきた〔1〕、〔2〕の工程を経て、ハイブリドーマを製造する方法である。
本発明の製造方法によれば、免疫に際し、B細胞にサイトカインおよび糖脂質を共存させることで、該サイトカインおよび糖脂質を共存させない以外は本発明と同様に行った場合(後述する比較例1、2)とは異なり、作製されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体は、単量体であり構造的に安定なIgGタイプの抗体がIgMタイプの抗体よりも格段に多い割合で産生される。
このように本発明者らは、生体外でB細胞を免疫し、さらにこの免疫されたB細胞を用いて細胞融合を行った場合であっても、IgGタイプのモノクローナル抗体を効率的に製造することができることを見出した。なお、上記モノクローナル抗体のクラスは、公知の方法であるサンドイッチELISA法(Tandem法)によって決定することができる。
さらに本発明の方法では、免疫の際にサイトカインおよび糖脂質を共存させることで、該サイトカインおよび糖脂質を共存させない以外は同様に本発明と行った場合(後述する比較例1、2)と比較して、細胞融合後、格段に高い割合(ハイブリドーマ陽性率)でハイブリドーマを出現させることができる。さらに、PEF法にて細胞融合を行うことで、40%〜85%のハイブリドーマ陽性率を得ることができる(かかるハイブリドーマ陽性率は、上記サイトカインおよび糖脂質を共存させない以外は同様に本発明と行った場合の2倍〜40倍である。)。
このような本発明は、従来よりも格段に効率的かつ実用的なハイブリドーマの製造方法を実現することができる。
本発明の方法において用いる抗原物質としては、従来公知の適宜の物質、あるいは今後新規に得られる物質を、特に制限なく使用することができる。中でも、近年その早急な対応が叫ばれている内分泌撹乱物質(環境ホルモン)を抗原物質として用いることで、該内分泌撹乱物質に対し特異的に吸着し得るモノクローナル抗体を従来よりも効率的かつ実用的に産生し得るハイブリドーマを製造することができる。ここで、「内分泌撹乱物質」とは、生体の恒常性、生殖、発生あるいは行動に関与する種々の生体内ホルモンの合成、貯蔵、分泌、体内輸送、結合、そしてそのホルモン作用そのもの、あるいはそのクリアランス等の諸過程を阻害する性質をもつ外来性の物質をいい、本明細書中においては、一般に内分泌撹乱物質として認識されている全ての物質を包含するものとする。かかる内分泌撹乱物質としては、たとえば、女性ホルモン類、男性ホルモン類、甲状腺ホルモン類、アルキルフェノールエトキシレート類、アルキルフェノール類、樹脂成分類、樹脂可塑剤類、クロロフェノール類、その他の物質が挙げられる。
上記女性ホルモン類としては、たとえば、エストロゲン、エストラジオール(E2)、エストロン(E1)、エストリオール(E3)などが挙げられる。男性ホルモン類としては、たとえば、アンドローゲン、テストステロン、デヒドロエビアンドロステロン、アンドロステンジオンなどが挙げられる。該甲状腺ホルモン類としては、たとえば、チロキシン(T3)、トリヨードチロニン(T4)などがそれぞれ挙げられ、また、これらの生体内代謝物である抱合体(たとえば、グルクロニド、硫酸抱合体など)もこれらに包含される。
上記アルキルフェノールエトキシレート類(APE)としては、たとえば、NPE(ノニルフェノールエトキシレート、たとえば、NP2EO(平均酸化エチレン鎖数:2)、NP5EO(平均酸化エチレン鎖数:5)、NP10EO(平均酸化エチレン鎖数:10)、NP10EC(平均酸化エチレン鎖数:10、末端OH→カルボン酸))、OPE(オクチルフェノールエトキシレート)などが挙げられる。
上記アルキルフェノール類(AP)としては、たとえば、DP(4−ドデシルフェノール)、EP(4−エチルフェノール)、HP(ヘプチルフェノール)、IPP(4−イソペンチルフェノール)、2−OP(2−オクチルフェノール)、4−NP(4−ノニルフェノール)、4−OP(4−オクチルフェノール)、4−sBP(4−sec−ブチルフェノール)、4−tBP(4−t−ブチルフェノール)、4−tPP(4−t−ペンチルフェノール)、4−tOP(4−t−オクチルフェノール)などが挙げられる。
上記樹脂成分類(PRC)としては、たとえば、BPA(ビスフェノールA)、4,4’−EBP(4,4’−エチリデンビスフェノール)、BHPM(ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン)、2,2’−BHPP(2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−プロパノール)、2,2’−BMHPP(2,2’−ビス(m−メチル−p−ヒドロキシフェニル)プロパン)、4,4’−BHPP(4,4’−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸)、4,4’−DDE(4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル)、4,4’−DOHDS(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン)、4,4’−DClDS(4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン)、BHEDBrPS(ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジブロモフェニル]スルフォン)、BHEPS(ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルフォン)、4,4’−DDE(4,4’−ジヒドロキシデフェニルエーテル)、p,p’−DBP(p,p’−ジヒドロキシベンゾフェノン)、HBP(4−ヒドロキシビフェノールなど)が挙げられる。
上記樹脂可塑剤類(PP)としては、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DBP(フタル酸ジブチル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DEHP(フタル酸−ジ−2−エチルヘキシル)、DEHA(アジピン酸ジエチルヘキシル)、DHP(フタル酸ジヘキシル)、DPP(フタル酸ジ−n−ペンチル)、DPrP(フタル酸ジプロピル)などが挙げられる。
上記クロロフェノール類(CP)としては、2−CP(2−クロロフェノール)、3−CP(3−クロロフェノール)、4−CP(4−クロロフェノール)、2,3−CP(2,3−ジクロロフェノール)、2,4−CP(2,4−ジクロロフェノール)、2,5−CP(2,5−ジクロロフェノール)、2,6−CP(2,6−ジクロロフェノール)、2,3,4−CP(2,3,4−トリクロロフェノール)、2,4,5−CP(2,4,5−トリクロロフェノール)、2,4,6−CP(2,4,6−トリクロロフェノール)、2,3,4,5−CP(2,3,4,5−テトラクロロフェノール)、2,3,4,6−CP(2,3,4,6−テトラクロロフェノール)、PCP(ペンタクロロフェノール)などが挙げられる。
その他の内分泌撹乱物質としては、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン(TCDD)を代表とするポリクロロジベンゾ−p−ジオキシン(PCDD)、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)を代表とするポリクロロジベンゾフラン(PCDF)、ポリクロロビフェニル(PCB)、ベンゾフェノン、ベンゾピラン、クロロベンゼン、ブロモナフトール、ニトロトルエン、トリブチル錫、各種農薬、重金属(例えば、Cd、Hg、Pbなど)、合成エストロゲン(セントクロマン、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセストール、2−ヒドロキシエストラジオール、タモキシフェン、ラロキシフェンなど)、食品、食品添加物(たとえば、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、エコール、エンテルラクトン、フィトエストロゲン、クメストロール、ホルモノネチン、ダイゼイン、ビオチニンA、ゲニステインなど)が挙げられる。
また、本発明の方法においては、タンパク質を抗原物質として用いても好適に実現することができる。上記タンパク質は、たとえばヒトインスリンなどのペプチドも包含するものとする。
なお本発明の製造方法において、たとえばDEHPなどの低分子量化合物で抗原性が比較的低い物質を抗原物質として用いる場合には、その抗原性を高める目的で、当該抗原物質とキャリアータンパク質とを結合させた複合体を用いるとよい。複合体は、たとえば、下記式
A−R
(式中、RはCOOH、NHまたはSHを、AはR基の離脱により抗原物質(好ましくは上記内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質)となる基を示す。)で表される物質を、自体公知の方法によりキャリアータンパク質に結合させることにより行うことができる。上記式で表される化合物も、自体公知の方法で、適宜の原料に、カルボキシル基、アミノ基、スルフヒドリル基を形成または導入することにより、化学的に合成できる。
たとえば、RがCOOHで、Aがポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとなる上記式で表される化合物は、ポリオキシアルキルフェニルエーテルと無水コハク酸を脱水縮合(ハーフエステル)することにより製造できる(キャンサー・バイオケミストリー・バイオフィジックス(Cancer Biochem.Biophys),7.175(1984))。RがNHで、Aがポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとなる上記式で表される化合物は、ポリオキシアルキルフェニルエーテルの水酸基を塩化チオニルにより塩素化した後(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J.Am.Chem.Soc.).60.2540(1938))、アンモニアで処理することにより製造できる(オーガニック・ファンクショナル・グループ・プレパレーションズ(Organic Functional Group Preparations)、第1巻、382頁)。RがSHで、Aがポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとなる上記式で表される化合物は、ポリオキシアルキルフェニルエーテルの水酸基を塩化チオニルにより塩素化した後(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J.Am.Chem.Soc.).60.2540(1938))、水硫化ナトリウムと反応させることにより製造できる(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J.Am.Chem.Soc.).72.1843(1950))。
上記キャリアータンパク質としては、当分野において従来より広く用いられている種々のキャリアータンパク質、たとえばKLH(keyhole limpet hemocyanin)、BSA(Bovine serum albumin)、OVA(ovalbumin)などが挙げられる。
本発明は、上述してきた抗体産生ハイブリドーマが製造するモノクローナル抗体、ならびに上記ハイブリドーマを用いる工程を含むモノクローナル抗体の製造方法も、提供する。本発明のモノクローナル抗体は、目的とする抗原物質(以下、目的物質ともいう)を定量的に測定する際の試薬として使用したり、種々の担体に固定化することにより上記目的とする抗原物質を濃縮するためのアフィニティーカラムの製造などに利用することができる。
本発明のモノクローナル抗体の固相化用担体としては、たとえば、マイクロプレート(例、96ウェルマイクロプレート、24ウェルマイクロプレート、192ウェルマイクロプレート、384ウェルマイクロプレートなど)、試験管(例、ガラス試験管、プラスチック試験管)、ガラス粒子、ポリスチレン粒子、修飾ポリスチレン粒子、ポリビニル粒子、ラテックス(例、ポリスチレン・ラテックス)、ニトロセルロース膜、臭化シアン活性化濾紙、DBM活性化濾紙、粒状固相(例、セファロース、セファデックス、アガロース、セルロース、セファクリルなど)、鉄含有ポリカーボネート膜、マグネット含有ビーズなどが挙げられる。本発明で得られたモノクローナル抗体を担体に担持させるには、自体公知の方法である、「エンザイムイムノアッセイ」第268〜296頁、「アフィニティークロマトグラフィーハンドブック」(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社(1998年12月20日発行))に記載の方法によって担持できる。
本発明はさらに、抗原物質をスクリーニングする方法も提供する。本発明のスクリーニング方法は、生体外でサイトカインおよび糖脂質を共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して得られた抗体産生ハイブリドーマが産生したモノクローナル抗体を用いる工程を含むことを特徴とする。また目的物質としては、従来公知の適宜の物質、あるいは今後新規に得られる物質を特に制限なく用いることができるが、上述した内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質が好適である。
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、上記工程(本発明のハイブリドーマの製造方法)にて製造されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を利用して、抗原物質(目的物質)をスクリーニングする。上記目的物質の測定法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Engvall,E.,Methods in Enzymol.,70,419−439(1980))、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の一般に抗原物質の検出に使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)が挙げられる。感度、簡便性等の観点からは、ELISA法が汎用される。
また、本発明のモノクローナル抗体は、免疫学的濃縮方法にも利用できる。具体的には、大量の検体を、免疫吸着体カラムを通過させたり、免疫吸着体粒子と混合したりすることにより、抗原抗体反応を利用して、上記目的物質を、免疫吸着体に捕捉させ、ついで、pHの変更(pH2.5〜3に下げる、pH11.5に上げるなど)、イオン強度の変更(1M NaC1など)、極性の変更(10%ジオキサン、50%エチレングリコール、3Mカオトロピック塩(SCN、CC1COO、I)など)、タンパク変性剤(8M尿素、6M塩酸グアニジンなど)の添加や、電気泳動による解離など公知の方法で溶出させることにより、免疫学的に夾雑物の少ない目的物質を、数千倍から数万倍もの高倍率に濃縮できる。これにより、上記目的物質が内分泌撹乱物質である場合にあっては、環境中に極く微量しか存在しない該内分泌撹乱物質、その分解物またはそれらの混合物を、溶媒抽出法や固層抽出法などの従来の濃縮方法と比較して、はるかに高倍率に濃縮することができ、しかも定量を妨害する夾雑物等の含量の少ない濃縮液を得ることができる。
また本発明は、サイトカインと、糖脂質とを少なくとも含有する試薬を提供する。サイトカイン、糖脂質の好適なものとしては、上述した通りであり、特に、サイトカインがインターロイキン−4であり、かつ糖脂質がリポ多糖であるのが好ましい。かかる試薬は、細胞融合用、特に生体外で免疫したB細胞とミエローマ細胞との細胞融合用として有用であり、適宜のB細胞、ミエローマ細胞と組み合わせて、本発明の抗体産生ハイブリドーマの製造方法、モノクローナル抗体の製造方法を好適に行うことができる。
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
〔1〕ミエローマ細胞の培養
(1)ミエローマ細胞の解凍
ミエローマ細胞は、BALB/cマウス由来のPAI(Stocker et al.,1982)を使用した。液体窒素中に保存してあるPAIを37℃ですばやく解凍させ、クリーンベンチ内に移し、次の無菌操作を行った。
まず、予め用意しておいたRPMI1640完全培地(90% RPMI1640(Roswell Park Memorial Institute 1640)(日水製薬社製)+10% FCS(fetal calf serum)(大日本製薬社製)+100μg/ml 硫酸カナマイシン(明治製菓社製)+2mM L−グルタミン(日水製薬社製)+50μM β−メルカプトエタノール)を10ml入れた遠心チューブに移し穏やかに混合した。
次に、室温、800rpm(130×g)で5分間遠心分離した後、上清を除去し、細胞沈殿をRPMI1640完全培地2.5mlで懸濁した。最後に、T−25培養フラスコに移し、37℃、5%炭酸ガスインキュベータ(三洋電機社製)内で培養した。翌日、さらに2.5mlのRPMI1640完全培地をフラスコに加えて2日〜3日ごとに継代を行った。
(2)ミエローマ細胞の継代
通常の継代は、T−25培養フラスコの底にはりついたミエローマ細胞を3回〜4回軽くたたいて剥がし、RPMI1640完全培地で5倍〜10倍に希釈して行った。細胞融合には大最のミエローマ細胞を必要とするため、細胞融合の1週間前からスケールアップを行った。
まず、ミエローマ細胞をセルカウントし、1×10cells/mlの濃度でT−75培養フラスコを用いて培養した。融合2日前には、1×10cells/mlの濃度に希釈したミエローマ細胞をT−150培養フラスコ3個にスケールアップして培養した。
〔2〕抗原物質の調製
フタル酸−ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)は、低分子量化合物の抗原物質であるため抗原性が低い。そこで、以下の方法でDEHP誘導体を作成した。
DEHP誘導体(ハプテン)の作成:
8−ブロモオクタン酸10gをテトラヒドロフラン(THF)300mlに溶解後、ジフェニルアミノメタン20mlを添加し、室温で一晩反応させた。翌日、さらにジフェニルアミノメタン20mlを添加し、さらに室温で一晩反応させた。減圧濃縮後、反応物をヘキサン−酢酸エチル(9:1)に溶解し、シリカゲルカラムで粗精製した。
この粗精製物20gと、フタル酸2.42g、1,8−ジアザビシクロウンデンセン(DBU)2.22gとをベンゼン60ml中で一晩中加熱還流した。翌日、DBU2.22gを添加後、さらに6時間加熱還流し、室温に冷却後、水、クロロホルムを加え、水洗した。クロロホルム層を脱水、濃縮後、ヘキサン−酢酸エチル(9:1)に溶解し、シリカゲルカラムにて粗精製した。
この粗精製物4.1gをTHF100mlに溶解し、10%Pd/C(50%含水品)0.4gを添加した。H吹き込み(0.3ml/分、5時間)後、10%Pd/C1.2gを追加した。さらにH吹き込み(0.5ml/分、2時間)後、触媒を除去し、減圧濃縮した。75%メタノールに溶解後、ODSカラムにて精製し、目的物質(DEHP誘導体)1.9gを得た。
抗原性を高める目的で、KLH(keyhole limpet hemocyanin)をキャリアータンパク質として用い、予めこれらを結合させたDEHP誘導体−キャリアータンパク質複合体であるDEHP誘導体−KLHを、抗原物質として用いた。
〔3〕マウス脾細胞の調製
(1)抗体価測定のための血清の取得
4週齢〜10週齢のBALB/cマウス(SPF仕様、メス)を使用した。マウスの腹腔内に0.1g/ml抱水クロラールを50μl注射し、しばらくして動きが鈍くなった後、さらに50μl注射した。マウスが完全に麻酔にかかったことを確認した後、注射針で解剖台に固定した。マウスの腹部を70%アルコールで消毒した後、解剖用ハサミで切り込みを入れ、切り目を心臓近くまで広げた。次に心臓近くの内皮をピンセットでつまみ、心臓がみえるまで解胸し、すばやく心臓から採血した。得られた採血液は、血餅化後、4℃、6700×gで5分間遠心分離し、血清を得た。得られた血清の抗体価を、後述するELISA法にて測定した。
(2)脾細胞の調製
心臓採血後のマウスを、70%エタノールが入った300mlのビーカー内に浸して無菌化した後、クリーンベンチ内に入れて脾細胞を摘出するべく解剖した。
まず、ピンセットで上記マウスの外皮を摘み上げ、左わき腹に解剖用ハサミで切れ目を入れ、脾臓が露出するように内皮を切った。次にピンセットを用いて脾臓を体外に引き出し、ハサミで脾臓の周りの脂肪を切り取ってマウスより摘出した。摘出した脾臓は、10mlの抗生物質(100μg/mlカナマイシン)入りRPMI1640を入れたシャーレで数回洗浄し、周りの脂肪をハサミで取り除いた。別のシャーレには、ステンレスメッシュを浸しておき、そこに脾臓を置いてラバーポリスマンで穏やかに砕いた。
次に、脾臓懸濁液を50ml遠心チューブに移した。さらに、ステンレスメッシュを10mlの抗生物質入りRPMI1640で洗浄し、懸濁液を50mlチューブに加えた。この操作を液量が40mlになるまで繰り返した。その後、懸濁液を2000rpm(800×g)で5分間遠心分離することにより脾細胞を調製した。
〔4〕マウス脾細胞の生体外での免疫
上記〔3〕(2)で得られた脾細胞の沈殿を5mlの抗生物質入りRPMI1640で懸濁し、T−25培養フラスコに2.5mlずつ分注した。そこに、1mg/mlのアジュバントペプチド(N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン)(SIGMA社製)を100μlずつ添加し、軽くフラスコを揺らして混ぜた。さらに、抗原溶液DEHP誘導体−KLH(1mg/ml)を20μlと5μlずつ添加し、15分間放置した。最後に、予め調製しておいた40% FCSを含む完全培地(60% RPMI1640+100μg/ml 硫酸カナマイシン+2mM L−グルタミン+50μM β−メルカプトエタノール+40% FCS)をそれぞれのフラスコに2.5mlずつ添加した。さらに、5μg/ml インターロイキン−4(I1020、SIGMA社製)を20μl(最終濃度:10ng/ml)、1mg/ml リポ多糖(L4391、SIGMA社製)を200μl(最終濃度:20μg/ml)添加し、軽く混和後、5%炭酸ガスインキュベータ内で4日間培養した。
5%炭酸ガスインキュベータ内で4日間静置後、免疫化されたマウスの脾細胞は、800×gで5分間遠心分離後、10mlの抗生物質入りRPMI1640で懸濁し、再び800×gで5分間遠心分離して洗浄した。遠心分離後、沈殿を2.5mlの抗生物質入りRPMI1640に懸濁し、生体外で免疫された脾細胞を含む懸濁液を調製した。
〔5〕PEF(Pulsed Electric Field)法による細胞融合と可視化解析
(1)免疫化細胞−抗原物質(DEHP誘導体)−アビジン複合体の作製
20μl(1mg/ml)のDEHP誘導体−Av(抗原物質−アビジンコンジュゲート)を2.5mlのカナマイシン入りRPMI1640に加え、そこに上述の方法にて生体外で免疫された脾細胞の懸濁液2.5mlを混合した。4℃で2時間ローテーション後、800×gで5分間遠心分離し、得られた沈殿を10mlのカナマイシン入りRPMI1640で洗浄した。最終的に5mlのカナマイシン入りRPMI1640で懸濁した。
(2)ビオチン−ミエローマ細胞複合体の作製
スケールアップ培養したミエローマ細胞を回収し、130×gで5分間遠心分離し、沈殿を40mlのPBS(phosphate−buffered saline)で懸濁した。これを再び130×g、5分間遠心分離した後、沈殿を5mlのPBSで懸濁した。一方、30μlのN−ヒドロキシサクシイミド−ビオチン(NHS−ビオチン)(1mg/30μl in DMF)を5mlのPBSに加えておき、両者を素早く混合し、37℃、5%炭酸ガスインキュベータ内で30分間ゆっくりとローテーションした。その後、130×gで5分間遠心分離し、細胞沈殿を50mlのカナマイシン入りRPMI1640で洗浄した。ビオチン化されたミエローマ細胞を5mlの抗生物質入りRPMI1640で懸濁した。
(3)免疫化細胞−抗原物質(DEHP誘導体)−アビジン−ビオチン−ミエローマ細胞複合体の作製と電気融合
上記〔5〕(1)、(2)で作製した各懸濁液を、脾細胞−抗原物質−アビジン複合体とミエローマ細胞−ビオチン複合体とが1:1の割合となるように混合した。これを1000rpm(200×g)で10分間遠心分離し、沈殿を1mlのカナマイシン入りRPMI1640で懸濁した。さらに、500rpm(50×g)で1分間〜2分間の遠心分離後、クリーンベンチ内で30分間放置した。その後、さらに30分間、5%炭酸ガスインキュベータ内でゆっくりとローテーションした。ローテーション後200×gにて10分間遠心分離し、2mlの等張ショ糖バッファ(0.25M ショ糖+2mM リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム(pH7.2)+0.1mM 塩化マグネシウム+0.1mM 塩化カルシウム)に懸濁した。これをプラチナ製プレパラート型プレート上に0.5ml〜1.0mlずつ加え、細胞融合装置(electro square porator T820、BTX社製)により、2kV/cm(10μsec×4回)と3kV/cm(10μsec×4回)の条件で電気融合を行った。
電気融合後、予め用意しておいた20mlのRPMI1640完全培地に融合細胞懸濁液を静かに加え、30分間静置し、96穴プレートに0.2ml/wellになるように分注した。その後、速やかに37℃、5%炭酸ガスインキュベータ内で培養した。次の日に、プレートの培養上清を0.1ml/wellずつ除去し、RPMI1640完全培地で50倍に希釈したHAT(100μM ヒポキサンチン+0.4μM アミノプテリン+16μM チミジン)(SIGMA社製)を0.1ml/wellずつ加えた。
(4)免疫化細胞の可視化解析(免疫化細胞−抗原物質−アビジン−ビオチン−フィコエリトリン複合体の作製)
PEF法において、最も重要なステップである免疫化細胞の選択について、特異的蛍光標識を用いて、次のような手順にて可視化解析を行った。
生体外にて免疫された脾細胞を2.5mlのRPMI1640に懸濁し、20μlのDEHP誘導体−アビジンコンジュゲートを含む2.5mlのRPMI1640と混合した後、4℃、2時間ローテーションした。その後、800×gで5分間遠心分離し、10mlのハンクス平衡塩で懸濁して再び800×gで5分間遠心分離して洗浄した。沈殿を0.5mlのハンクス平衡塩で懸濁し、20μlのビオチン−フィコエリトリン(ビオチン−PE)(バイオメダ社製)を加えた後、遮光条件にて1時間室温でローテーションした。ローテーション終了後、800×gで5分間遠心分離し、沈殿をハンクス平衡塩で10mlに懸濁して再び800×gで5分間遠心分離することにより洗浄した。最終的に0.5mlのハンクス平衡塩に懸濁して共焦点レーザ顕微鏡で観察した。
結果、特異的に蛍光を呈するいくつかの細胞を確認することができた。このことから、目的の免疫化細胞がDEHP誘導体により特異的に認識され、免疫化細胞−抗原物質−アビジン複合体を形成していると考えられた。すなわち、生体外免疫法が低分子機能性抗原物質である内分泌撹乱物質に対しても有効であることが実証された。
なお、抗原物質によって感作されていない脾細胞懸濁液を用いた場合、DEHP誘導体−アビジン、ビオチン−PEを加えても特異的に蛍光標識される細胞は全く認めることができなかった。
〔6〕モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングとクローン化
(1)ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法
倒立位相差顕微鏡で各wellを検鏡し、ハイブリドーマのコロニー形成の有無について調べた。コロニーが形成されているwellについては培養上清を取り、以下の手順にてELISA法を行い、目的の抗体産生ハイブリドーマの有無を調べた。
DEHP誘導体−OVA(DEHP誘導体−オボアルブミン)を抗原物質とし、これをPBS(pH7.2)で10μg/mlに希釈し、96穴プレートに50μl/wellずつ蒔き、4℃で一昼夜静置することにより、抗原物質をプレートに吸着させた。次に、プレートをPBSで2回洗浄後、PBSで希釈した3%ゼラチンを350μl/well加えて4℃で一昼夜静置し、ブロッキングを行った。さらに37℃で1時間静置させた後、PBST(phosphate−buffered saline in 0.05% TritonX−100)で3回洗浄し、培養上清である一次抗体を50μl/well加えて37℃、1時間インキュベートした。続いてPBSTで3回洗浄後、PBSTで10000倍に希釈した二次抗体(goat anti−mouse IgG(H+L)conjugated with HRP(horseradish peroxidase)(バイオソース社製))を50μl/well加え、37℃、1時間インキュベートした。最後に、PBSTで5回洗浄後、発色剤(0.1M sodium citrate buffer(pH5.2)+o−phenylene diamine(1mg/ml)+0.02% H)を100μl/well加えて37℃、15分間インキュベートして発色させ、1M 硫酸を50μl/well加えて反応を止めた。これをマイクロプレートリーダー(バイオラド社製)を用いOD490nmにて測定を行った。
(2)HAT選択およびHT選択
2週間、2〜3日毎に96穴プレートの培養上清をHAT含有RPMI完全培地(100μM ヒポキサンチン+0.4μM アミノプテリン+16μM チミジン)(SIGMA社製)で0.1ml/wellずつ交換した。2週間経過した後、HAT含有RPMI培地をHT含有RPMI完全培地(100μM ヒポキサンチン+16μM チミジン)(SIGMA社製)に替えて、同様に培地交換の作業を2週間行い、それ以後はRPMI1640完全培地により培地交換を行った。
(3)限界希釈法(Limiting dilution)
上記〔6〕(1)のELISA法にて陽性であった目的の抗体産生ハイブリドーマ(ELISA陽性ウェル)を、パスツールピペットを用いて注意深くウェルから剥がし、細胞数のカウントを行った。次に、9cells/well、3cells/well、1cell/well、0.5cells/wellにRPMI1640完全培地で希釈し、96穴プレートにそれぞれ0.2ml/wellになるように各々12wellずつに分注した。その後、37℃、5%炭酸ガスインキュベータ内で培養した。2週間継代を行い、培地交換する前に各wellを位相差顕微鏡で観察しハイブリドーマの形成を調べた。ハイブリドーマがwell中30%〜40%形成されている場合は培養上清をとり、ELISA法で抗体価を測定して目的の抗体産生ハイブリドーマの有無を決定した。
〔7〕モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの大量培養と保存
(1)ハイブリドーマの大量培養
限界希釈法を1回〜2回繰り返した後、ELISA法による抗体価が高い(ΔOD>0.5)ハイブリドーマを24穴プレートにスケールアップした。続いてT−25培養フラスコ、T−75培養フラスコの順にスケールアップした。その各々の段階において、培養上清をとり、800×gで5分間遠心分離した上清についてELISA法を行い、抗体価を調べた。
(2)ハイブリドーマの保存
上記〔7〕(1)でスケールアップしたハイブリドーマは、130×g、5分間遠心分離し1.5mlの100% FCSに懸濁した。次にfreezing buffer(80% RPMI1640(日水製薬株式会社製)+20% DMSO(SIGMA社製)+4mM L−グルタミン(日水製薬株式会社製))をFCS懸濁ハイブリドーマに等量(1.5ml)加え、混合した。これを−80℃のフリーザーで1週間〜2週間保存した。その後、ドライアイス中にて液体窒素保存容器内に移動した。
また、ハイブリドーマ培養上清は0.05% NaN存在下、4℃にて保存した。
〔8〕マウス腹水中でのモノクローナル抗体産生
上記〔7〕(1)で得られたハイブリドーマを130×g、5分間遠心分離し、沈殿を0.5mlのPBSに懸濁した。細胞数をカウントし、1×10cells/ml以上の細胞濃度とした。そのハイブリドーマを予め3日〜7日前に0.5mlのプリスタン(2,6,10,14−tetramethylpentadecane)を腹腔内に注射したマウス一匹に注射した。約2週間後、マウスの下腹部が膨らみ歩行困難になったとき、マウスの頚椎を脱臼して死亡させ、腹腔内にたまった腹水を回収した。さらに、PBSで腹腔内を洗浄し、洗液を回収した。得られた腹水は800×gで5分間遠心分離し、同じ遠心操作を2回繰り返した後、上清を0.05% NaN存在下4℃にて保存した。
〔9〕モノクローナル抗体の精製
上述の〔8〕で得られたマウス腹水からモノクローナル抗体をプロテインGカラムにより精製を行った。カラムの前処理として、5mlの超純水を1drop/secとなるようにカラム内にシリンジで注入し、保存用エタノールを洗い流した。次に、結合バッファーでカラム内を平衡化し、マウス腹水を等量の結合バッファーと混合した後、カラムにかけた。結合バッファーでカラム内を洗浄してカラム溶出液のOD280nmがほぼ0になった後、溶出バッファーでモノクローナル抗体を分取した。各フラクションのOD280nmを測定し、ELISA法で抗体価を測定した後、目的のモノクローナル抗体を含むフラクションを0.05% NaN存在下4℃で保存した。
【実施例2】
抗原物質としてヒトインスリン(I0259、SIGMA社製:全量25μg)を用い、B細胞選択コンジュゲートとしてビオチン−B−1−II(全量20μg:通常のペプチド合成機で合成)またはビオチン−B−3−II(全量20μg:通常のペプチド合成機で合成)を用い、かつストレプトアビジンを介してビオチン−ミエローマ細胞コンジュゲートとの複合体を細胞融合させた以外は、実施例1と同様にしてハイブリドーマを作製し、目的のモノクローナル抗体を得た。
なお、B細胞選択コンジュゲートに用いたB−1−IIおよびB−3−IIは、ヒトインスリンのB鎖のアミノ酸配列の一部に対応するものであって、具体的には、以下のアミノ酸配列のものである。

比較例1
生体外での脾細胞の免疫に際し、インターロイキン−4およびリポ多糖を共存させなかった以外は、実施例1と同様にしてハイブリドーマを作製し、目的のモノクローナル抗体を得た。
比較例2
生体外での脾細胞の免疫に際し、インターロイキン−4およびリポ多糖を共存させなかった以外は、実施例2と同様にしてハイブリドーマを作製し、目的のモノクローナル抗体を得た。
評価結果1
:ハイブリドーマ陽性率およびELISA陽性率
PEF法後、倒立位相差顕微鏡を用いて観察したハイブリドーマのコロニー形成の有無の結果より、ハイブリドーマの陽性率(=(ハイブリドーマ陽性ウェル数/全ウェル数)×100(%))を算出した。
また、陽性であったハイブリドーマのELISA(実施例1の〔6〕(1)の際のELISA)の陽性率(=(ELISA陽性ウェル数/ハイブリドーマ陽性ウェル数)×100(%))を算出した。
実施例1の結果を表1に、比較例1の結果を表2に、実施例2の結果を表3に、比較例2の結果を表4にそれぞれ示す。





上記結果より、生体外でB細胞の免疫を行う際にインターロイキン−4およびリポ多糖を共存させる工程を経た後にPEF法によって細胞融合された実施例1、2のハイブリドーマは、かかる工程を経ずに得られた比較例1、2のハイブリドーマと比較して、格段に高い割合にて出現することが判る。
評価結果2
:抗体クラスの比率
実施例1、2および比較例1、2においてそれぞれ作製され、クローン化されたハイブリドーマの各サンプル(ここで、ELISA法にて測定値が0.5以上であったウェルが1つのサンプルであるものとする)について、産生されるモノクローナル抗体のクラスをサンドイッチELISA法(Tandem法)によって決定した。サンドイッチELISA法は、以下の手順で行った。
抗マウスIgM抗体、抗マウスIgG抗体、抗マウスIgG2a抗体、抗マウスIgG2b抗体、抗マウスIgG抗体(いずれもコスモ・バイオ株式会社製)を0.1M NaHCO(pH9.8)で希釈し、10μg/mlとして、96穴プレートに50μl/wellずつ分注し、4℃で一昼夜静置することにより、抗原物質(抗マウス抗体)をプレートに吸着させた。次に、プレートをPBSで3回洗浄後、1%ゼラチンを350μl/well加えて37℃で1時間〜2時間インキュベートしてブロッキングを行った。PBSTで3回洗浄後、細胞培養上清を25μl/wellずつ加えて37℃、1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄後、PBSTで5000倍に希釈した二次抗体を50μl/wellずつ加えて37℃、1時間インキュベートした。最後に、PBSTで5回洗浄後、発色剤(上記〔6〕(1)と同じ)を50μl/wellずつ加えて37℃、15分間インキュベートして発色させ、1M HSOを50μl/well加えて反応を止めた。これを、マイクロプレートリーダーを用いOD490nmにて測定を行い、モノクローナル抗体のタイプを決定した。
実施例1および比較例1の結果を、表5に示す。


上記結果より、生体外でB細胞の免疫を行う際にインターロイキン−4およびリポ多糖を共存させる工程を経て得られた実施例1、2のモノクローナル抗体は、かかる工程を経ずに得られた比較例1、2のモノクローナル抗体と比較して、格段に高い割合にてIgGタイプのモノクローナル抗体が製造されることが判る。
評価結果3
:生体外免疫への影響
実施例1の〔5〕(4)での特異的蛍光標識を用いた脾細胞の可視化解析において、目的の免疫化細胞がDEHP誘導体−アビジンコンジュゲートにより特異的に認識された結果が得られたことは上述した。
図1は実施例1の可視化解析結果を示す顕微鏡写真であり、図2は比較例1の可視化解析結果を示す顕微鏡写真である(共に、共焦点レーザー顕微鏡により撮影(300倍拡大))。上記可視化解析においてはさらに、上記生体外での免疫の際にインターロイキン−4およびリポ多糖を共存させることで、インターロイキン−4およびリポ多糖を共存させない場合と比較して特異的に認識される脾細胞の数が顕著に増加することが判明した。
また上記可視化解析の際、共焦点レーザー顕微鏡での観察の前に、血球計数盤を用いて細胞数を調べたところ、4日間の生体外免疫の間に、脾細胞全体としてほぼ10倍(実施例1:4.7×10cells〜5.4×10cells、比較例1:0.58×10cells)の細胞数の増加も認められ、生体外免疫の際にインターロイキン−4およびリポ多糖を共存させることで、細胞が増殖することを示唆する結果も得られた。
【産業上の利用可能性】
以上の説明で明らかなように、本発明の製造方法で得られたハイブリドーマは、従来と比較して格段に高い割合(ハイブリドーマ陽性率)で出現する。さらに、本発明の製造方法で得られたハイブリドーマは、5量体であり構造的に不安定なIgMタイプよりも、単量体であり構造的に安定なIgGタイプのモノクローナル抗体を格段に多い割合で産生できる。このようなハイブリドーマの製造方法を利用することで、従来と比較して格段に有用な、モノクローナル抗体の製造方法、細胞融合用試薬、抗原物質のスクリーニング方法等を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:B−1−II
配列番号2:B−3−II
本出願は、日本で出願された特願2003−59667を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含されるものである。
【配列表】

【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカイン、および糖脂質を生体外で共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して抗体産生ハイブリドーマを製造する方法。
【請求項2】
サイトカインの濃度が1ng/ml〜100ng/mlの範囲である、請求の範囲1に記載の方法。
【請求項3】
サイトカインの濃度が5ng/ml〜30ng/mlの範囲である、請求の範囲1に記載の方法。
【請求項4】
アメリカヤマゴボウレクチンおよび/またはプロテインA被覆黄色ブドウ球菌死菌の非存在下で細胞を免疫する請求の範囲1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
サイトカインがインターロイキン−4であり、かつ糖脂質がリポ多糖である請求の範囲1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
抗原物質が内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質である請求の範囲1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
電気パルス法によって細胞融合させることを特徴とする請求の範囲1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
以下の(a)および(b)を用いて細胞融合させることを特徴とする請求の範囲6に記載の方法:
(a)免疫に使用した抗原と特異的結合対の一方とを含む複合体に連結した免疫化細胞、および
(b)当該特異的結合対の他方と連結したミエローマ細胞。
【請求項9】
請求の範囲1〜8のいずれかに記載の方法で製造されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。
【請求項10】
IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカインと、糖脂質とを少なくとも含有する細胞融合用試薬。
【請求項11】
サイトカインがインターロイキン−4であり、かつ糖脂質がリポ多糖である請求の範囲10に記載の細胞融合用試薬。
【請求項12】
IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカイン、および糖脂質を生体外で共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して得られた抗体産生ハイブリドーマを用いる工程を含むことを特徴とする、モノクローナル抗体の製造方法。
【請求項13】
抗原物質が内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質である請求の範囲12に記載の製造方法。
【請求項14】
IgGタイプの抗体を選択的に産生するのに充分な濃度のサイトカイン、および糖脂質を生体外で共存させて抗原物質で免疫したB細胞と、ミエローマ細胞とを細胞融合して得られた抗体産生ハイブリドーマが産生したモノクローナル抗体を用いる工程を含むことを特徴とする、抗原物質のスクリーニング方法。
【請求項15】
抗原物質が内分泌撹乱物質またはペプチドを含むタンパク質である請求の範囲14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
以下の(a)および(b)を電気パルス法で細胞融合させることを特徴とするハイブリドーマの製造方法:
(a)免疫に使用した抗原と特異的結合対の一方とを含む複合体に連結した免疫化細胞、および
(b)当該特異的結合対の他方と連結したミエローマ細胞。

【国際公開番号】WO2004/078964
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503156(P2005−503156)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002926
【国際出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(802000042)株式会社三重ティーエルオー (20)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】