説明

ハイプ加工魚礁

【課題】 全国的に普及しつつある間伐材を利用した木材魚礁は、2〜3年で木材が消失という問題点を抱えているが、木材の消失とともに魚礁機能が大幅に低下する問題について有効な対策を見出していない。
【解決手段】 形状および表面の材質を工夫したパイプ魚礁により、多くの魚類が集まって生息できる環境を確保し、多種類の魚が成育できる生態系を持つ好適な漁場を提供するものである。間伐材を利用した木材魚礁の木材が消失した後、構造上木材が補充可能な魚礁については、本件パイプ構造体を活用して補充することで、木材魚礁の永続的有効利用が可能となる。魚類の住み易い魚礁環境を構築することにより、漁業資源の保護・育成が飛躍的に向上し、沿岸漁業を魅力ある産業へ脱皮・変身させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、漁業資源を増大させることを目的とした魚礁であり、多種類の魚が好んで住み着く形状の魚礁を提供することで、捕食魚と被捕食魚とが融合した生態系を形成することが可能となって、一定の海域に定着する魚類等の生息数を格段に増加させるものである。
【背景技術】
【0002】
従来の魚礁は主にコンクリート製で、柱のように太さのある構造体を中心に製造されており、多段式等の形状を工夫した魚礁もあるが、コンクリート自体が空間の大半を占めるため、一定体積における表面積と利用可能空間は非常に少なく、そのため、比較的大型の魚や、アジ・サバ等の回遊魚には好適であったが、各種の稚魚や幼魚、小型魚にとって生息空間は非常に少ない実態にあった。
そのため、回遊魚等の彙集能力はあるものの産卵や生育など増殖能力の点からは極めて乏しく、結果として漁獲量が育成能力を超えて漁業資源の減少を招き、今日の漁業衰退の一因をなしていた。
【0003】
自然状態の海中では、大量の被捕食魚と少数の捕食魚の関係が生態系を支配しており、比較的高級魚が多い捕食魚を増やすには、被捕食魚にも配慮した魚礁が必要であることは明白であるにも拘わらず、実際の魚礁設置にあたっては事実上ほとんど考慮されていなかった。
【0004】
魚の生態に関する理解が十分でなく、内部が大きな一つの空間になったコンクリート魚礁を中心に設置が進められて来たことから、魚が好む魚体に応じた多様な空間を確保できていなかった。
【0005】
これまで大量に設置されてきた大型魚礁を中心とするコンクリート魚礁は、水深80〜90メートルの海域が中心で、魚礁が魚に対してどのように効果を発揮しているかを簡単に調査することが困難だったため、科学的な調査を行うことなく、単に投入付近海域での漁獲高の増減をもって効果を判定するという極めてあいまいな検証方法が現在も行われている。
【0006】
これまでのコンクリート魚礁により漁獲の増加を意図している魚種は、比較的単価の低いものであり、漁獲には大型の漁業装備が必要で、零細沿岸漁民には魚礁設置のメリットは極めて少なかった。
【0007】
魚礁の投入は全国的にかなり以前から多額の費用を用いて実施されているが、以上のような問題点が残されたままで、十分な効果を発揮することなく沿岸漁業の漁獲高は減少の一途を示している。
【0008】
近年、間伐材を利用した木材魚礁の設置が進められているが、海中の木材は2〜3年で消滅することとなり、魚礁としての機能を著しく低下させるにも拘わらず、再度木材を海中に補充する有効な方法が確立されていないため、効果を失った魚礁は何ら対応策が講じられることなく放置されている状況にある。
【0009】
魚は、体表面等に付着する病害虫等を除去するため、ホンソメワケベラなどのように他の魚の表面に付着した生物等を好んで食べる魚に頼るという方法の他、頻繁に砂浴びをしている状況が目撃される。
魚がコンクリートよりも木材によく集まることは経験的に理解されているが、木材の表皮が魚にとって適当な堅さと柔らかさを持っていることが、木材を好む大きな要因と推測される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在の海底の大部分は延々と続く砂地であり、岩盤や礫である場合も、魚が生息するのに好適な穴や隙間は極めて限られた数しか存在しない実態にある。
海底は魚が増加・繁殖するには極めて厳しい環境であるのに、現実にはこのことは一般的にとほんど認識されていない。
【0011】
漁獲高の向上を図るには、魚を集めて捕獲するだけでは返って漁業資源の減少を招く結果となることはこれまでの漁業実績から明らかであり、多様な魚が好んで住み着く好適な環境を大量に提供することが水産振興政策上不可欠である。
【0012】
間伐材を利用した木材魚礁の木材は2〜3年程度の比較的短期間で消滅するため、魚礁としての機能が大きく低下する問題に対し、本件魚礁用パイプを補充することにより、木材魚礁の長期活用対策とすることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
パイプ構造を魚礁に活用することで、単位体積あたりの表面積と区画された空間を効率よく大量に提供することが可能となり、稚魚や幼魚にとって安心して生息できる空間が得られ、生存率が向上して漁業資源の底上げにつながる。
【0014】
本件魚礁用パイプを利用したパイプ魚礁を設置することにより、一定体積における空間比率がコンクリート魚礁に比較して格段に大きくなり、小、幼魚を中心とする魚類がぞれぞれの魚体の大きさに合った空間を選択して生息することが可能となって、一定海域でより多くの魚が生育可能となって漁獲高向上が実現できる。
【0015】
間伐材を利用した木材魚礁の木材が消滅した後、再度浮力のある木材を水中に沈めて補充することは極めて困難であるが、本件魚礁用パイプは比重が1に極めて近いため、容易に沈めて木材の代替として補充することができ、木材魚礁を長期にわたり有効に活用することができる。
【0016】
パイプの直径を多様化したり、複数以上を束ねて設置することで、微小な稚魚から小型の成魚までの多様な魚体に対応することができ、また、パイプの側面に魚が出入りできる多数の小穴を設けて魚が住みやすい環境を確保することにより、稚魚の生存率を向上させて水産資源全体の拡大を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
小・幼魚にとっては、大型捕食魚から隠れ、逃れられる小空間は絶好の住家となるが、自然状態では非常に少ないこのような小空間を大量に提供する本件パイプ魚礁により、多種多様の生物や魚が大量に住み着く環境を確保できる。
【0018】
魚にとって、体表面に付着する微生物等を常時除去して病害虫から身体の健康を守る必要があるが、魚礁用パイプの表面が適当な堅さ、荒さを持っていることで、砂浴びだけでなくこれらの魚礁用パイプの横を通る際に体表面の清掃を行うことができ、居住快適性が向上すると見込まれる。
【0019】
微小魚類、幼魚等が好んで生息する空間を大量に提供することで、漁業資源の育成効果が見込まれる。
【0020】
魚礁を設置した海域付近の零細漁業者を中心に、地元で確実に魚礁の恩恵を受けることができる。
【0021】
魚礁設置海域が増加すれば、その付近では漁業資源の増加に弊害の多い底引き漁などの漁法が可能な海域の減少となるため、魚の環境改善と乱獲防止が同時に進み、漁獲高の増加に大きく貢献すると予想される。
【0022】
全国各地で取り組まれている間伐材を中心とした木材魚礁は、2〜3年で木材が消失した後、魚礁としての機能が大きく減退する問題があったが、本件魚礁用パイプを再充填することで、木材魚礁を永続的に活用できる方法が確保できる。
【0023】
大型船による遠洋漁業からの回帰、転向が進めば、エネルギー使用量の低減となり、二酸化炭素排出削減問題についても大きく貢献することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
パイプ構造体に適当な配置で穴を設け、パイプの中と外とを魚が自由に出入りできる構造とする。
【0025】
パイプ構造体の表面に、人工芝、シュロ縄、麻縄等を取り付け、または、吹き付けや塗装、機械的加工、化学処理等の方法で、細かい凹凸を設けることにより、魚がパイプの表面を利用して自身の体表面のクリーニングを容易に行うことができる環境を提供する。
【0026】
パイプ表面の加工により、表面積が格段に増加し、微小生物の着床、海藻類の繁茂を促すこととなって魚礁全体の生態系の維持に大きく寄与する。
【0027】
多様な直径の魚礁用パイプを平たく並べて固定し、これを数段から十数段の棚状の立体構造とすることで、稚魚、幼魚、小魚などを中心とする魚の魚体にあった空間を大量に提供し、一定海域における魚の生息数を飛躍的に増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】パイプ側面穴明けタイプ
【図2】表面巻き付け(人工芝、ロープ併用)タイプ
【図3】側面穴明き・表面巻き付け併用タイプ
【図4】パイプ組魚礁の構成例
【図5】パイプ差込方向側面図
【図6】金属板等による枠組み例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプに、円形や長円形等の穴を適当な間隔で設けた魚礁用パイプ。
【請求項2】
パイプの表面に、人工芝、シュロ縄、麻縄等を取り付け、または、吹き付けや塗装、機械的加工、化学処理等により、細かい凹凸を設けた魚礁用パイプ。
【請求項3】
パイプを並べ、両端を固定して平板状にし、これを上下方向に適当な間隔を空けて数段から十数段程度重ねて立体形状に固定したパイプ魚礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−185103(P2007−185103A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3187(P2006−3187)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(301023766)
【Fターム(参考)】