説明

ハイモビリティーグループタンパク吸着担体

【課題】 体液中のハイモビリティーグループタンパクに加えて炎症性サイトカインを併せて吸着除去し、血液浄化療法による肝炎の治療に使用できるハイモビリティーグループタンパク吸着担体及び血液循環カラムを提供すること。
【解決手段】本発明は、水不溶性担体の表面に、アミノ基を有する官能基が導入されている、肝炎治療用のハイモビリティーグループタンパク吸着担体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイモビリティーグループタンパク吸着担体に関する。
【背景技術】
【0002】
肝炎とは、肝臓に炎症が起こり発熱、黄疸、全身倦怠感などの症状を来たす疾患の総称であり、発症原因によって、ウイルス性肝炎(発症原因:A型、B型、C型、D型、E型及びG型肝炎ウイルスの感染)、アルコール性肝炎(発症原因:飲酒)、薬剤性肝炎(発症原因:服用した薬剤)、自己免疫性肝炎(発症原因:免疫機構の異常、特に自己抗体等の産生)の4つに分類されている。
【0003】
また肝炎は、発症の仕方や症状の経過から、1)突然的に発症し一過性の症状である急性肝炎、2)6ヶ月以上肝機能検査の異常が持続し、やがては肝硬変や肝細胞癌へと進行する恐れがある慢性肝炎、3)急性肝炎のうちの特殊な肝炎で、最初の症状が出てから8週間以内に肝性脳症を呈し、プロトロンビン時間が40%以下となる劇症肝炎(集中治療を施しても救命率が20%程度である重篤な肝炎)の3つに大きく分類されている。
【0004】
慢性肝炎の治療では、肝硬変へ移行するのを食止め慢性肝炎の段階で治癒することが目標となるため、肝炎ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス剤(インターフェロン、ラミブジン)及び肝臓の炎症を抑える肝庇護薬の投与が中心とされている。
【0005】
急性肝炎の治療では、安静に保つことが基本となり、食欲がないときにはブドウ糖中心の点滴を行って栄養を与えて経過を観察して症状が治まるのを待つことになるが、劇症肝炎の治療では、人工肝補助療法が中心となり、凝固因子を補って出血傾向を改善する血漿交換と肝臓の解毒作用を補う血液濾過透析等を併用する血液浄化療法がなされている。
【0006】
肝炎治療における血液浄化療法では、肝炎患者の血液からビリルビン、胆汁酸、クレアチニン、芳香族アミノ酸を除去することが主な目的とされ、血液濾過透析では効率的な除去が困難なビリルビンについては、ビリルビン吸着剤やビリルビン除去方法が考案され報告されている(特許文献1〜3)。
【0007】
一方、最近になって、急性肝炎や劇症肝炎等の患者や動物モデルの血液中では、ハイモビリティーグループタンパクの濃度が上昇していることが報告された(非特許文献1〜4)。ハイモビリティーグループタンパクとは、真核細胞内に存在する一群の非ヒストン性のDNA結合タンパク質のことであり、HMGB−1、HMGB−2、HMGB−3、HMG−1L10、HMG−4L、SP100−HMG、HMGB−14、HMGB−17及びHMG−I(Y)がハイモビリティーグループタンパクとして知られている。
【0008】
当初、ハイモビリティーグループタンパクは、細胞内でDNAに結合して転写の促進や細胞の増殖などに関与する因子であると考えられていたが、HMGB−1が神経突起を伸張させる因子であるアンフォテリンと同一の分子であり、単球やマクロファージを刺激してインターロイキン−1β又はインターロイキン−6に代表される炎症性サイトカインを誘導する性質を有していることが報告されたため、生体内において幅広い作用を有する可能性が示唆されている(非特許文献5、6及び7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−275351号公報
【特許文献2】特開平02−286173号公報
【特許文献3】特許第3259860号公報
【特許文献4】特開2007−29511号公報
【特許文献5】特開2005−296033号公報
【特許文献6】国際公開第01/074420号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zhangら、J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci.、2008年2月、第28巻、第1号、p.52−55
【非特許文献2】高野ら、日本消化器外科学会雑誌、2008年7月、第41巻、第7号、p.1230
【非特許文献3】Liuら、Zhonghua Gan Zang Bing Za Zhi.、2007年11月、第15巻、第11号、p.812−815
【非特許文献4】Takanoら、Shock.、2010年3月、p.23
【非特許文献5】Jacekら、Biochemistry、2001年、第40巻、第26号、p.7860−7867
【非特許文献6】Agnelloら、Cytokine.、2002年5月、第21巻、第21号、p.231−236
【非特許文献7】Taniguchiら、Arthritis Rheum.、2003年4月、第48巻、第4号、p.971−981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、既存の血液浄化療法による肝炎の治療効果は満足できるものではなく、特に劇症肝炎の患者に既存の血液浄化療法を施したとしても、患者が死亡してしまう例が少なくなかった。さらに、血漿交換による治療ではウイルス感染の危険性が伴うことから、より治療効果の高い、安全な治療方法の開発が切望されている。
【0012】
一方で、ハイモビリティーグループタンパクを吸着する材料等は報告されているものの(特許文献4〜6)、ハイモビリティーグループタンパクの吸着除去が肝炎の治療に有効であることを示唆している報告はなく、HMGB−1に加えて炎症性サイトカインを併せて吸着除去できる担体については開示も示唆もされていない。
【0013】
そこで本発明は、体液中のハイモビリティーグループタンパクに加えて炎症性サイトカインを併せて吸着除去し、血液浄化療法による肝炎の治療に使用できるハイモビリティーグループタンパク吸着担体及び血液循環カラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(7)に記載した肝炎治療用のハイモビリティーグループタンパク吸着担体及び血液循環カラムを提供する。
(1) 水不溶性担体の表面に、アミノ基を有する官能基が導入されている、肝炎治療用のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(2) 上記官能基は、アミド結合を有する、上記(1)記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(3) 上記官能基は、尿素結合及び/又はチオ尿素結合を有する、上記(1)又は(2)記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(4) 上記ハイモビリティーグループタンパクは、HMGB−1である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(5) インターロイキン−1β、インターロイキン−2、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、モノサイトケモタクティックプロテイン1及びマクロファージ炎症性タンパク質1βからなる群から選択される1以上のサイトカインが吸着除去される、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(6) 形状が、繊維、編地、フェルト、スポンジ、ビーズ又はネットである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(7) 上記肝炎は、急性肝炎又は劇症肝炎である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体が充填されている、肝炎治療用の血液循環カラム。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイモビリティーグループタンパク吸着担体によれば、体液中のハイモビリティーグループタンパク及びハイモビリティーグループタンパクによって誘導される炎症性サイトカイン等を高率的に吸着除去することができ、血液浄化療法による肝炎患者の治療に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ブタ肝炎モデルの生存曲線を示す図である。
【図2】ブタ肝炎モデルの血液サンプル中の、HMGB−1濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の肝炎治療用のハイモビリティーグループタンパク吸着担体は、水不溶性担体の表面に、アミノ基を有する官能基が導入されていることを特徴とする。
【0018】
「肝炎」とは、肝臓に炎症を呈している病態をいい、例えば、薬剤性肝炎、アルコール性肝炎、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎若しくはE型肝炎、又は、敗血症(グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症、真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)膵炎、炎症性腸炎(潰瘍性大腸炎、クローン病)、血液製剤の輸血、臓器移植、臓器移植後の再灌流障害、胆嚢炎、胆管炎若しくは新生児血液型不適合により発症する肝炎が挙げられるが、上記のハイモビリティーグループタンパク吸着担体は、上記の肝炎のうち急性肝炎又は劇症肝炎の治療に用いられることが好ましい。
【0019】
「ハイモビリティーグループタンパク」(以下、「HMGタンパク」)とは、体液中に存在する非ヒストン性のDNA結合タンパクであり、例えば、HMGB−1、HMGB−2、HMGB−3、HMG−1L10、HMG−4L、SP100−HMG、HMGB−14、HMGB−17又はHMG−I(Y)が挙げられるが、肝炎治療を目的とする場合には、体液中からHMGB−1が除去されることが好ましい。
【0020】
肝炎治療効果を高めるためには、HMGタンパクと併せて、HMGタンパクによって誘導されるタンパク及び炎症によって誘導されるタンパクが体液中から除去されることが好ましい。
【0021】
HMGタンパクによって誘導されるタンパク及び炎症によって誘導されるタンパクとしては、例えば、TNFα、インターロイキン(以下、「IL」)−1α、IL−1β、IL−1Ra、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、IL−10、IL−13、IL−18、IFN−γ、モノサイトケモタクティックプロテイン1(以下、「MCP−1」)、マクロファージ炎症性タンパク質(以下、「MIP」)−1α、MIP−1β、MIP−2、MIF又はPAFが挙げられるが、肝炎治療を目的とする場合には、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βが体液中から除去されることが好ましい。
【0022】
「体液」とは、血液、血漿、血清、腹水若しくはリンパ液又はこれらから得られた分画成分若しくは生体由来の液体成分をいう。
【0023】
「水不溶性担体」としては、例えば、ポリエチレン(以下、「PE」)若しくはポリプロピレン(以下、「PP」)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ(p−フェニレンエーテルスルホン)等のポリスルホン系重合体、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン(以下、「PS」)又はポリアクリロニトリル系ポリマーあるいはこれら高分子化合物の誘導体又はこれら高分子化合物をブレンド、アロイ化したものが挙げられるが、アミドメチル化法等による水不溶性担体の表面の修飾容易性の観点からはPSが好ましく、耐熱性又はフェルトの形状保持の観点からはPP又はPP−PE共重合体が好ましい。
【0024】
水不溶性担体の形状は、繊維、編地、フェルト、スポンジ、ビーズ又はネットであることが好ましい。
【0025】
上記の水不溶性担体の形状の内、編地、フェルト及びネットは、繊維を原料として、公知の方法により製造することができる。フェルトの製造方法としては、例えば、湿式法、カーディング法、エアレイ法、スパンボンド法又はメルトブロー法が挙げられる。また、編地及びネットの製造方法としては、例えば、平織り法又は筒網法が挙げられる。
【0026】
上記の繊維の構造としては、例えば、1種類のポリマーからなる単独糸又は芯鞘型、海島型若しくはサイドバイサイド型の複合繊維が挙げられるが、芯がPP、鞘がPS、海がPEテレフタレートの多芯海島型複合繊維や、島がPP、海がPSの海島型複合繊維が好ましい。また、繊維を含めた水不溶性担体に強度や耐熱性を付与するために、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドにより架橋構造を導入するか、他のポリマーで表面を皮膜することも好ましい。
【0027】
上記の水不溶性担体の形状がシート状のフェルト等である場合には、その厚さは、0.1〜100mmが好ましく、編地やネット等である場合には、その厚さは、0.01〜5mmが好ましい。これらの水不溶性担体を中心パイプに巻き付けてトレミキシン(登録商標;東レ株式会社)のようなラジアルフロータイプのモジュールに組み込むのであれば、巻き始め部分と巻き終わり部分の段差を抑制するために、フェルト等では10mm以下であることがより好ましく、編地やネット等では1mm以下であることがより好ましい。
【0028】
水不溶性担体の形状がフェルトである場合には、形態保持性を向上させるために、水不溶性担体と、他の素材からなるネットとの、2層以上の積層構造を採ることが好ましい。
【0029】
上記の積層構造としては、例えば、フェルトとネットとの2層構造又はフェルトの間にネットを挟み込んだ構造、すなわちフェルト−ネット−フェルトのサンドイッチ構造が挙げられるが、体液又は体液を含む溶液(以下、「体液等」)がこれらを通過するときの圧力損失に影響のない範囲であれば、さらなる多層構造であっても構わない。
【0030】
上記の積層構造を採るためのネットとしては、例えば、結節網、無結節網又はラッシェル網が挙げられる。また、網目の形状としては、例えば、長方形、菱形又は亀甲形が挙げられ、その大きさとしては、3mm角程度が好ましい。
【0031】
上記の積層構造を採るためのネットの素材としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系ポリマー、PE又はPPが挙げられるが、生体適合性や耐蒸気滅菌性を考慮するとPPが特に好ましく、放射線滅菌を行う場合にはポリエステルやPEが好ましい。
【0032】
上記の積層構造を採るためのネットは、強度を保持し、体液等がこれを通過するときの圧力損失を増加させないよう、モノフィラメントで形成されていることが好ましい。
【0033】
上記の積層構造を採るためのネットの厚みは、50〜1200μmが好ましい。
【0034】
上記のモノフィラメントの直径は、50〜1000μmが好ましい。
【0035】
水不溶性担体の形状がネットである場合にも、これを中心パイプに巻きつけて多層構造を採ることが可能である。
【0036】
「アミノ基」としては、例えば、アミノヘキサン、モノメチルアミノヘキサン、アミノオクタン、アミノドデカン、アミノジフェニルメタン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、3−アミノ−1−プロペン、アミノピリジン、アミノベンゼンスルホン酸、トリス(2−アミノエチル)アミン、ジメチルアミン又はジアミノエタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、ポリエチレンイミン、N−メチル−2,2’−ジアミノジエチルアミン、N−アセチルエチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシエタン)等のアミノ基を複数有する化合物(以下、「ポリアミン」)由来のアミノ基が挙げられるが、ポリアミン由来のアミノ基であることが好ましい。また、アミノ基は、1級又は2級のアミノ基が好ましい。
【0037】
アミノ基の窒素原子1個当たりの炭素原子数は、反応率に影響を及ぼす求核性や立体障害を考慮すると、18以下が好ましく、14以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。なお、アミノ基の窒素原子は、アルキル基で置換されていることが好ましい。
【0038】
上記の水不溶性担体へのアミノ基の導入量は、少なすぎると所望の吸着性能が得られない一方で、多すぎると水不溶性担体の物理的強度が悪くなり、かつ吸着性能も下がる傾向にあるので、水不溶性担体の乾燥重量1g当たり0.03μmol〜1mmolが好ましく、0.1μmol〜0.1mmolがより好ましい。また、アミノ基を導入する水不溶性担体がPSである場合には、PSを構成するモノマーであるスチレン1mol当たり0.1μmol〜1molが好ましく、1μmol〜500mmolがより好ましい。
【0039】
「アミノ基を有する官能基」を形成する具体的方法としては、例えば、反応性官能基としてクロルアセトアミドメチル基を有するPSに、テトラエチレンペンタミンやポリエチレンイミンを反応させる方法が挙げられる。反応に用いるポリエチレンイミンとしては、分子量が600以上である直鎖状又は分岐状のポリエチレンイミンが好ましいが、低毒性であり、かつ入手及び取り扱いが容易であることから、分岐状のポリエチレンイミンがより好ましい。
【0040】
上記の反応性官能基としては、クロルアセトアミドメチル基等のハロアセトアミドメチル基以外にも、例えば、ハロメチル基、ハロアセチル基若しくはハロゲン化アルキル基等の活性ハロゲン基、エポキサイド基、カルボキシル基、イソシアン酸基、チオイソシアン酸基又は酸無水物基が挙げられる。
【0041】
「アミノ基を有する官能基」は、さらにアミド結合を有することが好ましい。
【0042】
アミノ基を有する官能基にさらにアミド結合を形成する方法としては、例えば、上記の反応性官能基としてハロアセトアミドメチル基を選択することが挙げられる。
【0043】
「アミノ基を有する官能基」は、さらに、尿素結合及び/又はチオ尿素結合を有することが好ましい。
【0044】
アミノ基を有する官能基にさらに尿素結合又はチオ尿素結合を形成する方法としては、例えば、アミノ基を有する官能基と、イソシアネート、イソチオシアネート酸、酸塩化物又は酸無水物と、を反応させる方法が挙げられる。
【0045】
上記の反応に用いるイソシアネート、イソチオシアネート、酸、酸塩化物又は酸無水物の導入量は、反応対象であるアミノ基の1mol当たり5μmol〜300mmolが好ましく、20μmol〜100mmolがより好ましい。
【0046】
イソシアネート又はイソチオシアネートとしては、例えば、エチルイソシアネート、ステアリルイソシアネート、n−ブチルイソシアネート、iso−ブチルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、メチルイソチオシアネート、エチルイソチオシアネート、n−ブチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソチオシアネート若しくはシクロヘキシルジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート又は脂肪族イソチオシアネートあるいはフェニルイソシアネート、クロロフェニルイソシアネート、フルオロフェニルイソシアネート、ブロモフェニルイソシアネート、ニトロフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、メトキシフェニルイソシアネート、1−ナフチルイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3',5,5'−テトラエチル−4,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン、フェニルイソチオシアネート、クロロフェニルイソチオシアネート、フルオロフェニルイソチオシアネート、ニトロフェニルイソチオシアネート、トリルイソチオシアネート、メトキシフェニルイソチオシアネート若しくは1−ナフチルイソチオシアネート等の芳香族イソシアネート又は芳香族イソチオシアネートが挙げられるが、アミノ基の求核性を制御し、体液中の有用成分の吸着を抑制する観点から、芳香族イソシアネート又はイソチオシアネートが好ましい。
【0047】
アミノ基を有する官能基にさらに尿素結合を形成する具体的方法としては、例えば、反応性官能基としてクロルアセトアミドメチル基を有するPSに、テトラエチレンペンタミン及びクロロフェニルイソシアネートを反応させる方法が挙げられる。この方法における各試薬の導入量としては、PSを構成するモノマーであるスチレン1mol当たり、テトラエチレンペンタミン3μmol〜500mmol、クロロフェニルイソシアネート5μmol〜300mmolが好ましく、テトラエチレンペンタミン1μmol〜100mmol、クロロフェニルイソシアネート20μmol〜100mmolがより好ましい。
【0048】
本発明の肝炎治療用のHMGタンパク吸着担体は、体液等と一定時間接触させる処理によって、体液中の被吸着物であるHMGタンパク及びHMGタンパクによって誘導されるタンパク(以下、「HMGタンパク等」)を吸着することが可能である。
【0049】
本発明の肝炎治療用のHMGタンパク吸着担体を、体液等と一定時間接触させる処理前後のHMGタンパク等の吸着率は、以下の式1により算出される。

吸着率(%)=(C0−C)/C0×100 ・・・・・・式1
C0 : 処理前溶液中の被吸着物の濃度
C : 処理後溶液中の被吸着物の濃度

【0050】
本発明の肝炎治療用の血液循環カラムは、本発明のHMGタンパク吸着担体が充填されていることを特徴とする。
【0051】
本発明の血液循環カラムを用いた体液等の処理方法としては、例えば、本発明の血液循環カラムと患者とを血液回路で接続し、患者から取り出した体液を本発明の血液循環カラムに通過させ、これを患者に戻すという体外循環方法が好ましい。
【0052】
本発明の血液循環カラムは、他の体液処理方法や医療機器と併用しても構わない。他の体液処理方法や医療機器としては、例えば、血漿交換、腹膜透析、血漿分離器、ヘモフィルター、人工心肺又はECMOが挙げられる。
【0053】
本発明の血液循環カラムを用いた体液等の処理時間としては、血液中のHMGタンパクによるさらなる炎症誘発を抑制する観点から、持続的な処理が好ましく、4時間以上がより好ましく、24時間以上がさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明のHMGタンパク吸着担体及び血液循環カラムについて、実験例により具体的に説明する。
【0055】
(吸着担体Aの作製)
50重量比の海成分(46重量比のPSと4重量比のPPの混合物)と50重量比の島成分(PP)とからなる海島型複合繊維(厚さ:2.6デニール、島の数:16;米国特許第4661260号明細書)を筒網状にした編地50gを、50gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98重量%硫酸及び0.85gのパラホルムアルデヒドからなる混合溶液中に浸し、4℃で1時間反応させた。反応後の繊維を0℃の氷水5L中に浸して反応を停止させた後、水で洗浄し、さらに繊維に付着しているニトロベンゼンをメタノールで抽出除去した。この繊維を50℃で真空乾燥して、クロロアセトアミドメチル化架橋PS編地(以下、「AMPSt編地」)71gを得た。
【0056】
テトラエチレンペンタミン1.5gをジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」)500mLに溶解し、ここへ20gのAMPSt編地を撹拌しながら加え、25℃で6時間反応させた。反応後のAMPSt編地は、ガラスフィルター上で500mLのDMSOで洗浄した。洗浄後のAMPSt編地3.0gを、1.0gのパラクロロフェニルイソシアネートを溶解した150mLのDMSOの溶液中に加え、25℃で1時間反応させてから、ガラスフィルター上でそれぞれ60mLのDMSO及び蒸留水で洗浄し、さらにそれぞれ3Lの蒸留水及び生理食塩水で洗浄して、吸着担体である編地(以下、「吸着担体A」)を得た。吸着担体Aに導入された官能基の構造式を以下に示す。
【化1】

【0057】
(吸着担体Bの作製)
島の芯成分:ポリプロピレン、島の鞘成分:ポリスチレン95質量%、ポリプロピレン5質量%、海成分:エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3質量%含む共重合ポリエステル、複合比率(質量比率):芯:鞘:海=45:40:15で構成される繊維85質量%と直径20μmのポリプロピレン繊維15質量%からなるフェルトを作製した後、このフェルト2枚の間にシート状のポリプロピレン製ネット(厚さ:0.5mm、単糸径:0.3mm、開口部:2mm角)を挟み、ニードルパンチすることによって3層構造にした。
【0058】
次に、この3層構造フェルトを95℃、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液で処理して、海成分のエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3質量%含む共重合ポリエステルを溶解することによって、芯鞘繊維の直径が4.5μmで、嵩密度が0.025g/cmの3層構造フェルトを作製した。
【0059】
水酸化ナトリウム水溶液処理後の3層構造フェルト50gを、50gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98重量%硫酸及び0.85gのパラホルムアルデヒドからなる混合溶液中に浸し、4℃で1時間反応させた。反応後の繊維を0℃の氷水5L中に浸して反応を停止させた後、水で洗浄し、さらに繊維に付着しているニトロベンゼンをメタノールで抽出除去した。この繊維を50℃で真空乾燥して、クロロアセトアミドメチル化架橋PSフェルト(以下、「AMPStフェルト」)71gを得た。
【0060】
テトラエチレンペンタミン5.0gを500mLのDMSOに溶解し、ここへ20gのAMPStフェルトを撹拌しながら加え、25℃で6時間反応させた。反応後のAMPStフェルトは、ガラスフィルター上でそれぞれ60mLのDMSO及び蒸留水で洗浄し、さらにそれぞれ3Lの蒸留水及び生理食塩水で洗浄して、吸着担体であるフェルト(以下、「吸着担体B」)を得た。吸着担体Bに導入された官能基の構造式を以下に示す。
【化2】

【0061】
(吸着担体Cの作製)
ポリエチレンイミン(分子量1万;和光純薬)11.4g及びトリエチルアミン19gを、1000gのDMSOに溶解し、ここへ20gのAMPSt編地を撹拌しながら加え、30℃で6時間反応させた。反応後のAMPSt編地は、ガラスフィルター上でそれぞれ60mLのDMSO、メタノール及び蒸留水で洗浄して、吸着担体である編地(以下、「吸着担体C」)を得た。吸着担体Cに導入された官能基の構造式を以下に示す。
【化3】

【0062】
(吸着担体Dの作製)
セルロース繊維とN,N'−ジメチルホルムアルデヒド3酸化硫酸塩複合体とを70℃で20分混合し、さらに50℃で5時間混合してから、アルカリ溶液で中和し、最後に蒸留水で洗浄して、硫酸化エステル基が硫黄原子含量として0.5%の密度で導入されている繊維(以下、「吸着担体D」)を得た。
【0063】
(実施例1)
アダルト・ウシ血清に、ブタ由来のHMGB−1(初期濃度:100ng/mL)と、Bio−Plex Human Cytokine GroupI 17−Plex(BIO RAD社)に付属の標準品(IL−1β(初期濃度:1323pg/mL)、IL−2(初期濃度:708pg/mL)、IL−6(初期濃度:1096pg/mL)、IL−7(初期濃度:1566pg/mL)、IL−8(初期濃度:841pg/mL)、MCP−1(初期濃度:865pg/mL)及びMIP−1β(初期濃度:1134pg/mL))とを添加した溶液を、1mLを調製した。ここへ吸着担体A、吸着担体B又は吸着担体Cを30mg加え、ローテーターを用いて37℃で2時間処理をして、HMGB−1等について処理前後の吸着率をそれぞれ算出した。HMGB−1の濃度は、HMGB1 ELISA Kit2(株式会社シノテスト)を用いて測定した。また、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βの濃度は、Bio−Plex Human Cytokine GroupI 17−Plex(BIO RAD社)の測定Kit及びBio−PlexTM ワークステーション(BIO RAD社)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、吸着担体Dについても、HMGB−1等について処理前後の吸着率をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から、水不溶性担体の表面に導入された官能基がアミノ基を有する吸着担体B及びCと、アミノ基に加えて尿素結合を有する吸着担体Aとが、HMGタンパクの一つであるHMGB−1並びにHMGタンパクから誘導されるタンパク等であるIL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βのいずれについても顕著な除去率を示すことは明らかである。一方で、水不溶性担体の表面に導入された官能基が硫酸化エステル基のみであって、アミノ基、尿素結合及びチオ尿素結合のいずれも有さない吸着担体Dは、HMGB−1については一定の除去率を示すものの、他のIL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βについてはいずれも低い除去率しか示さなかった。
【0067】
(血液循環カラムAの作製)
吸着担体Aを中心パイプに巻き付け、165mLの容量のPP製のカラムケースにこれを充填した。このカラムの内部をエンドトキシンフリー水で2時間洗浄した後、生理食塩液をカラムに充填し、最後に25kGyのγ線滅菌をして、血液循環カラムAを作製した。
【0068】
(コントロールカラムの作製)
165mLの容量のPP製のカラムケースに生理食塩液のみを充填し、25kGyのγ線滅菌をして、コントロールカラムを作製した。
【0069】
(実施例2)
血液循環カラムA及びコントロールカラムは、その使用前に生理食塩液1.5Lを用いて洗浄した後、0.5Lの生理食塩液に抗凝固剤のメシル酸ナファモスタット70mgを添加した水溶液でプライミングをしておいた。
【0070】
雄性ブタ(体重20〜25kg、N=5)にD−ガラクトサミンを0.6g/kgの容量で静脈内投与して肝炎モデルを作製し、投与から20時間後に血液循環カラムA及びコントロールカラムを用いて、血液容量60〜80mL/minで全血灌流という条件で血液の体外循環処理を行った。なお、抗凝固剤としてヘパリン又はメシル酸ナファモスタットを血液に添加し、活性化凝固時間(ACT)を150〜200程度に維持するようにした。
【0071】
予め採取しておいた体外循環処理開始時の血液サンプル及び体外循環処理終了時の血液サンプルについて、HMGB−1、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βの濃度並びにALT、AST、LDH、ALP及びNHの値をそれぞれ測定した。また、HMGB−1については血液の体外循環処理開始から1時間おきに血液サンプルを採取し、その濃度測定した。ALT、AST、LDH及びALPはJSCC標準化対応法に、NHはOkuda−Fujii変法に準拠した手法により測定した。
【0072】
体外循環処理後の肝炎ブタは、体外循環後の治療効果を確認するために飼育ケージに戻し、生存状況を確認した。
【0073】
血液循環カラムAを用いて血液の体外循環処理を行った肝炎ブタ(以下、「ブタA」)、コントロールカラムを用いて血液の体外循環処理を行った肝炎ブタ(以下、「コントロールブタ」)、それぞれについて、体外循環処理開始時並びに体外循環処理終了時の血液サンプル中のIL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βの濃度から、各タンパクの濃度の変化率を算出した。具体的には、体外循環処理終了時の濃度を、体外循環処理開始時の濃度で除した値を、各タンパクの濃度の変化率とした。算出した各タンパクの濃度の変化率の平均値を、表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
ブタA及びコントロールブタのそれぞれの死亡時間に基づき作成した生存曲線を、図1に示す。
【0076】
表2及び図1の結果から、血液循環カラムAを用いて血液の体外循環処理を行い、血液中からHMGB−1並びにIL−1β、IL−2、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1及びMIP−1βをいずれも高率に除去することで、肝炎ブタの生存時間を延長可能であることが明らかとなった。すなわち、表2及び図1の結果から、HMGタンパク等を高率に除去可能である本発明のHMGタンパク吸着担体が、優れた肝炎治療効果を有することは明らかである。
【0077】
ブタA及びコントロールブタのそれぞれの血液サンプル中のHMGB−1濃度の変化率すなわちHMGB−1変化率の経時変化を、図2及び表3に示す。変化率は、IL−1β等と同様に、各サンプル中のHMGB−1濃度を、体外循環処理開始時のHMGB−1濃度で除した値とし、図2及び表3にはその平均値を示した。
【0078】
【表3】

【0079】
図2及び表3の結果から、コントロールブタと比較して、ブタAの血液中のHMGB−1の除去率が、有意に低下していることは明らかである。
【0080】
ブタA及びコントロールブタのそれぞれについて、体外循環処理開始時並びに体外循環処理終了時の血液サンプルのALT、AST、LDH、ALP及びNHの値から、各値の変化率を算出した。具体的には、体外循環処理終了時の値を、体外循環処理開始時の値で除した値を、各値の変化率とした。算出した各値の濃度の変化率の平均値を、表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
表4の結果から、HMGタンパク等を高率に除去可能である本発明のHMGタンパク吸着担体が、優れた肝炎治療効果を有することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、医療分野の肝炎治療用の血液循環カラムとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体の表面に、アミノ基を有する官能基が導入されている、肝炎治療用のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項2】
前記官能基は、アミド結合を有する、請求項1記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項3】
前記官能基は、尿素結合及び/又はチオ尿素結合を有する、請求項1又は2記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項4】
前記ハイモビリティーグループタンパクは、HMGB−1である、請求項1〜3のいずれか一項記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項5】
インターロイキン−1β、インターロイキン−2、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、モノサイトケモタクティックプロテイン1及びマクロファージ炎症性タンパク質1βからなる群から選択される1以上のサイトカインが吸着除去される、請求項1〜4のいずれか一項記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項6】
形状が、繊維、編地、フェルト、スポンジ、ビーズ又はネットである、請求項1〜5のいずれか一項記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項7】
前記肝炎は、急性肝炎又は劇症肝炎である、請求項1〜6のいずれか一項記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載のハイモビリティーグループタンパク吸着担体が充填されている、肝炎治療用の血液循環カラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−5827(P2012−5827A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118701(P2011−118701)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】