説明

ハニカムフィルタ

【課題】流体に含まれる固体成分の捕集性能をより高める。
【解決手段】ハニカムフィルタ20は、水銀圧入法による細孔分布から求めたハニカムフィルタの10μm以下の下流部と上流部との細孔容積の差である細孔容積差が、0.01cm3/g以上0.08cm3/g以下の範囲で、隔壁部及び捕集層が形成されている。
また、ハニカムフィルタにおいて、下流部では2μm以上9μm以下の第1細孔径範囲に第1細孔容積ピークを示し、10μm以上25μm以下の第2細孔径範囲に第1細孔容積ピークよりも大きい第2細孔容積ピークを示す。一方、上流部では10μm以上25μm以下の第2細孔径範囲にのみ第2細孔容積ピークを示す。更に、ハニカムフィルタの上流部及び下流部は、気孔率が35%以上70%以下の範囲であることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハニカムフィルタとしては、セル壁が細孔分布曲線において、細孔径の大きさが1.0〜150μmの範囲にあるものを第1の細孔群とし、細孔径の大きさが0.006〜1.0μm未満の範囲にあるものを第2の細孔群としたときに、第1の細孔群に細孔径分布のピークが1つ存在し、第2の細孔群には細孔径分布のピークが複数ある細孔構造を有するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このフィルタでは、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)の捕集除去と、有害ガスの浄化とを共に実現することができる、としている。また、ハニカムフィルタとしては、多孔質の隔壁母材と、隔壁母材の流入側に設けられた表層と、を有する隔壁を備え、表層のピーク細孔径、気孔率、表層の厚さ、表層の濾過面積あたりの質量、隔壁母材の平均細孔径などを好適にしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このフィルタでは、粒子状物質(PM)の捕集開始直後の急激な圧力損失の上昇が無く、PM堆積量と圧力損失との関係がヒステリシス特性を持たず、PMが堆積していない初期状態の圧力損失を低く抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2006/041174号公報
【特許文献2】WO2008/136232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたハニカムフィルタでは、細孔構造を特定して、いるが、十分ではなく、更なる捕集性能の向上が望まれていた。また、特許文献2に記載されたハニカムフィルタでは、圧力損失の上昇を抑えることができるものであるが、特に高流量においてスートが細孔内に入り込んだ際の圧損上昇をより抑制するなど、更なる改良が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、流体に含まれる固体成分の捕集性能をより高めることができるハニカムフィルタを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明のハニカムフィルタは、
流体の流路となる複数のセルを形成する複数の多孔質の隔壁部と、
前記隔壁部上に形成され前記流体に含まれる固体成分を捕集する捕集層と、を備え、
水銀圧入法により測定された前記セルの下流部の10μm以下の細孔容積が、水銀圧入法により測定された前記セルの上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.01cm3/g以上0.08cm3/g以下の範囲で大きいものである。
【0007】
このハニカムフィルタでは、流体に含まれる固体成分の捕集性能をより高めることができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、下流部の10μm以下の細孔容積が上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.01cm3/g以上では、捕集層の下流部への触媒担持量が十分あるため、堆積した固体成分(PM)を強制再生により燃焼除去させた耐久後のPM燃焼率の低下をより抑制することができる。また、下流部の10μm以下の細孔容積が上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.08cm3/g以下では、触媒が下流部の捕集層の細孔内に堆積し過ぎることがなく、捕集層の細孔の閉塞をより抑制し、PM堆積時の圧力損失をより低減することができる。このように捕集性能をより高めることができる。ここで、「上流部」とは、上流側端面から前記流路方向の全長の20%の部位をいうものとする。また、「中流部」とは、上流側端面から前記流路方向の全長の50%の部位をいうものとする。また、「下流部」とは、下流側端面から前記流路方向の全長の20%の部位をいうものとする。
【0008】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記下流部の水銀圧入法により測定されたLog微分細孔容積分布では、第1の細孔径範囲で第1の細孔容積ピークを示し、前記第1の細孔容積ピークの細孔径よりも大きい第2の細孔径を含む第2の細孔径範囲で前記第1の細孔容積ピークよりも大きい第2の細孔容積ピークを示し、前記上流部の水銀圧入法により測定されたLog微分細孔容積分布では、前記第2の細孔径範囲で前記第2の細孔容積ピークのみを示すものとしてもよい。一般的に、例えば、堆積したPMを強制再生により燃焼除去させる際、上流より燃焼時の発熱温度が下流側に伝播し下流後端が最も温度が高くなる。この下流後端の高温度により下流部にコートされた触媒が熱劣化を起こし、下流部でのPM燃焼効率が低下してしまう懸念がある。ここでは、ハニカムフィルタの下流部に二山分布を示す細孔特性を持つ捕集層を形成することで、上流部よりも捕集層内により多くの触媒をコートでき、燃焼耐久後もPM燃焼性能を維持することができる。
【0009】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記第1の細孔径範囲は、2μm以上9μm以下の範囲であり、前記第2の細孔径範囲は、10μm以上25μm以下の範囲であるものとしてもよい。第1の細孔径範囲が2μm以上であると、低パーミアビリティ(透過性)による圧損上昇を回避することができる。また、第1の細孔径範囲が9μm以下であれば、PMを十分に捕捉することができずに隔壁部(基材)の細孔にPMが堆積して生じる圧損上昇を回避することができる。また、第2の細孔径範囲が10μm以上であると触媒の隔壁内での細孔閉塞による急激な圧損上昇を回避することができる。また、第2の細孔径範囲が25μm以下であると捕集層で捕捉しきれなかったPMが隔壁部で捕捉することができ、捕集性能が向上する。
【0010】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記上流部及び前記下流部の水銀圧入法により測定された気孔率は、35%以上70%以下の範囲であるものとしてもよい。上流部及び下流部の気孔率が35%以上であると触媒コート後に隔壁部細孔のパーミアビリティが小さくなる事による圧損上昇を回避することができる。また上流部及び下流部の気孔率が70%以下であると、隔壁部や捕集層などの細孔容積が好適であり、捕集層に十分な触媒が担持されることにより、燃焼耐久後のPM燃焼性能が悪化してしまう問題を回避することができる。
【0011】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記捕集層は、気体を搬送媒体とし該捕集層の原料である無機材料を前記セルへ供給することにより形成されているものとしてもよい。こうすれば、気体による搬送を利用して、捕集層の厚さなど、捕集層の形成状態を比較的容易に制御することができる。
【0012】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記隔壁部は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。また、前記捕集層は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。このとき、前記捕集層は、前記隔壁部と同種の材料により形成されているものとすることが好ましい。
【0013】
本発明のハニカムフィルタは、前記隔壁部及び前記捕集層を有する2以上のハニカムセグメントが接合層によって接合されて形成されているものとしてもよい。こうすれば、接合層で接合することによりハニカムフィルタの機械的強度をより高めることができる。あるいは、本発明のハニカムフィルタは、一体成形されているものとしてもよい。こうすれば、構成を簡素化することにより、ハニカムフィルタを作製しやすい。
【0014】
本発明のハニカムフィルタは、触媒が担持されているものとしてもよい。こうすれば、捕集した固体成分の燃焼除去などをより効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ハニカムフィルタ20の構成の概略の一例を示す説明図。
【図2】捕集層24の細孔分布の測定位置の説明図。
【図3】Log微分細孔容積分布の説明図。
【図4】一体成形されたハニカムフィルタ40の構成の概略の一例を示す説明図。
【図5】実験例10のLog微分細孔容積分布の測定結果。
【図6】実験例29のLog微分細孔容積分布の測定結果。
【図7】実験例1〜7の圧力損失及び浄化性能と細孔容積との関係図。
【図8】実験例8〜14の圧力損失及び浄化性能と第1細孔容積ピークとの関係図。
【図9】実験例15〜22の圧力損失及び捕集性能と第2細孔容積ピークとの関係図。
【図10】実験例23〜33の圧力損失及び浄化性能と気孔率との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のハニカムフィルタの一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるハニカムフィルタ20の構成の概略の一例を示す説明図である。また、図2は、捕集層24の細孔分布の測定位置の説明図であり、図3は、Log微分細孔容積分布の説明図である。本実施形態のハニカムフィルタ20は、図1に示すように、隔壁部22を有する2以上のハニカムセグメント21が接合層27によって接合された形状を有し、その外周に外周保護部28が形成されている。なお、図1には、ハニカムフィルタ20の外形が円柱状に形成され、ハニカムセグメント21の外形が矩形柱状に形成され、セル23が矩形状に形成されているものを一例として示す。このハニカムフィルタ20は、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止部26により目封止され、流体としての排ガスの流路となる複数のセル23を形成する多孔質の隔壁部22と、隔壁部22上に形成され流体(排ガス)に含まれる固体成分(PM)を捕集する層である捕集層24と、を備えている。このハニカムフィルタ20では、隔壁部22は、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止されたセル23と一方の端部が目封止され且つ他方の端部が開口したセル23とが交互に配置されるよう形成されている。また、ハニカムフィルタ20では、入口側からセル23へ入った排ガスが捕集層24及び隔壁部22を介して出口側のセル23を通過して排出され、このとき、排ガスに含まれるPMが捕集層24上に捕集される。
【0017】
隔壁部22は、その厚さである隔壁厚さが150μm以上460μm以下で形成されていることが好ましく、200μm以上400μm以下であることがより好ましく、280μm以上350μm以下であることが更に好ましい。この隔壁部22は、多孔質であり、例えば、コージェライト、Si結合SiC、再結晶SiC、チタン酸アルミニウム、ムライト、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア、アルミナ及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。このうち、コージェライトやSi結合SiC、再結晶SiCなどが好ましい。隔壁部22は、その気孔率が30体積%以上85体積%以下であることが好ましく、35体積%以上65体積%以下であることがより好ましい。この隔壁部22は、その平均細孔径が10μm以上60μm以下の範囲であることが好ましい。この隔壁部22の気孔率や平均細孔径は、水銀圧入法で測定した結果をいうものとする。このような気孔率、平均細孔径、厚さで隔壁部22を形成すると、排ガスが通過しやすく、PMを捕集・除去しやすい。
【0018】
捕集層24は、排ガスに含まれるPMを捕集・除去する層であり、隔壁部22の平均細孔径よりも小さい平均粒径で構成された粒子群により隔壁部22上に形成されているものとしてもよい。この捕集層24を構成する原料粒子の平均粒径は、0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。平均粒径が0.5μm以上では、捕集層を構成する粒子の粒子間の空間のサイズを十分に確保可能であるため捕集層の透過性を維持でき急激な圧力損失の上昇を抑制することができる。平均粒径が15μm以下では、粒子同士の接触点が十分に存在するから粒子間の結合強度を十分に確保可能であり捕集層の剥離強度を確保することができる。この捕集層24は、排ガスの入口側セル及び出口側セルの隔壁部22に形成されているものとしてもよいが、図1に示すように、入口側セルの隔壁部22上に形成されており、出口側セルには形成されていないものとするのが好ましい。こうすれば、より圧力損失を低減して流体に含まれているPMをより効率よく除去することができる。また、ハニカムフィルタ20の作製が容易となる。この捕集層24は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。このとき、捕集層24は、隔壁部22と同種の材料により形成されているものとすることが好ましい。なお、原料粒子における平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として原料粒子を測定したメディアン径(D50)をいうものとする。また、捕集層24は、無機材料の粒子群から形成されており、隔壁部22の表面に均一な層として形成されていてもよいし、隔壁部22の表面に部分的な層として形成されていてもよい。
【0019】
このハニカムフィルタ20は、水銀圧入法により測定されたセルの下流部の10μm以下の細孔容積が、水銀圧入法により測定された前記セルの上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.01cm3/g以上0.08cm3/g以下の範囲で大きいものである。下流部の10μm以下の細孔容積が上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.01cm3/g以上では、捕集層の下流部への触媒担持量が十分あるため、堆積した固体成分(PM)を強制再生により燃焼除去させた耐久後のPM燃焼率の低下をより抑制することができる。また、下流部の10μm以下の細孔容積が上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.08cm3/g以下では、触媒が下流部の捕集層の細孔内に堆積し過ぎることがなく、捕集層の細孔の閉塞をより抑制し、PM堆積時の圧力損失をより低減することができる。このように捕集性能をより高めることができる。
【0020】
ここで、ハニカムフィルタ20の各領域について説明する。図2に示すように、この「上流部」とは、上流側端面から流路方向のハニカムフィルタ20の全長の20%の部位をいうものとする。また、「中流部」とは、上流側端面から前記流路方向のハニカムフィルタ20の全長の50%の部位をいうものとする。また、「下流部」とは、下流側端面から流路方向の全長の20%の部位をいうものとする。更に、上流部から上流側を「上流側領域」、下流部から下流側を「下流側領域」とも称する。上流部においては、上流側端面から流路方向のハニカムフィルタ20の全長の20%の部位で輪切りにする。また、下流部においては、下流側端面から流路方向のハニカムフィルタ20の全長の20%の部位で輪切りにする。また、中流部においては、上流側端面から流路方向のハニカムフィルタ20の全長の50%の部位で輪切りにする。その断面における中央部分より約1cm角程度の観察試料を1つ切り出し、測定用試料とするものとする。ここで、例えば、ハニカムセグメント21が接合されているものについては、中央のハニカムセグメントを用いて上記測定用試料を作製し、一体成形品(後述の図4参照)については、一体成形品の断面中央から、上記測定用試料を作製するものとした。
【0021】
ハニカムフィルタ20の水銀圧入法による測定条件は、JIS−R1655“ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法”に準じて行うものとする。
【0022】
ハニカムフィルタ20は、図3に示すように、下流部の水銀圧入法により測定されたLog微分細孔容積分布では、第1の細孔径範囲で第1の細孔容積ピークを示し、第1の細孔容積ピークの細孔径よりも大きい第2の細孔径を含む第2の細孔径範囲で第1の細孔容積ピークよりも大きい第2の細孔容積ピークを示すものとしてもよい。また、上流部の水銀圧入法により測定されたLog微分細孔容積分布では、第2の細孔径範囲で第2の細孔容積ピークのみを示すものとしてもよい。一般的に、例えば、堆積したPMを強制再生により燃焼除去させる際、上流より燃焼時の発熱温度が下流側に伝播し下流後端が最も温度が高くなる。この下流後端の高温度により下流部にコートされた触媒が熱劣化を起こし、下流部でのPM燃焼効率が低下してしまう懸念がある。ここでは、ハニカムフィルタ20の下流部に二山分布を示す細孔特性を持つ捕集層を形成することにより、ハニカムフィルタ20の上流部よりも捕集層内により多くの触媒をコートでき、燃焼耐久後もPM燃焼性能を維持することができる。
【0023】
このとき、ハニカムフィルタ20において、第1の細孔径範囲は2μm以上9μm以下の範囲であり、第2の細孔径範囲は10μm以上25μm以下の範囲であるものとしてもよい。第1の細孔径範囲が2μm以上であると、低パーミアビリティ(透過性)による圧損上昇を回避することができる。また、第1の細孔径範囲が9μm以下であれば、PMを十分に捕捉することができずに隔壁部(基材)の細孔にPMが堆積して生じる圧損上昇を回避することができる。また、第2の細孔径範囲が10μm以上であると触媒の隔壁内での細孔閉塞による急激な圧損上昇を回避することができる。また、第2の細孔径範囲が25μm以下であると捕集層で捕捉しきれなかったPMを隔壁部で捕捉することができ、捕集性能が向上する。
【0024】
ハニカムフィルタ20において、上流部及び下流部の水銀圧入法により測定された気孔率は、35%以上70%以下の範囲であるものとしてもよい。上流部及び下流部の気孔率が35%以上であると触媒コート後に隔壁部細孔のパーミアビリティが小さくなる事による圧損上昇を回避することができる。また、上流部及び下流部の気孔率が70パーセント%以下であると、隔壁部や捕集層などの細孔容積が好適であり、捕集層に十分な触媒が担持されることにより、燃焼耐久後のPM燃焼性能が悪化してしまう問題を回避することができる。
【0025】
捕集層24の形成方法は、流体を捕集層の原料の搬送媒体とし、捕集層の原料を含む気体を入口セルへ供給するものとしてもよい。こうすれば、捕集層を構成する粒子群がより粗に形成されるため、高い気孔率の捕集層を作製することができ、好ましい。搬送媒体としての流体は、例えば、空気や、窒素ガスなどの気体であることが好ましい。捕集層の原料は、例えば、無機繊維や無機粒子を用いてもよい。あるいは、無機繊維は上述したものを用いることができ、例えば平均粒径が0.5μm以上8μm以下、平均長さが100μm以上500μm以下であるものが好ましい。無機粒子としては、上述した無機材料の粒子を用いることができる。例えば、平均粒径が0.5μm以上15μm以下のSiC粒子やコージェライト粒子を用いることができる。この捕集層の原料は、隔壁部22の平均細孔径よりも小さい平均粒径を有することが好ましい。このとき、隔壁部22と捕集層24との無機材料を同じ材質とすることが好ましい。また、無機粒子を含む気体を流入させる際に、気体の出口側を吸引することが好ましい。また、捕集層24の形成において、無機繊維や無機粒子と共に結合材も供給してもよい。結合材としてはゾル材料、コロイド材料から選択でき特にコロイダルシリカを用いることが好ましい。無機粒子はシリカにより被覆されており且つ無機粒子同士、及び無機粒子と隔壁部の材料とがシリカにより結合されていることが好ましい。例えば、コージェライトやチタン酸アルミニウムなどの酸化物材料の場合には、無機粒子同士、及び無機粒子と隔壁部の材料とが焼結により結合されているのが好ましい。捕集層24は、隔壁部22上に原料の層を形成したあと、熱処理を行い結合することが好ましい。熱処理での温度としては、例えば650℃以上1350℃以下の温度とするのが好ましい。熱処理温度が650℃以上では十分な結合力を確保することができ、1350℃以下であると過度な粒子の酸化による細孔の閉塞を抑制することができる。なお、捕集層24の形成方法は、例えば、捕集層24の原料になる無機粒子を含むスラリーを用いてセル23の表面に形成するものとしてもよい。
【0026】
流体(空気)を捕集層の原料の搬送媒体として形成した捕集層24では、水銀圧入法により測定されたセルの上流部及び下流部の細孔容積や、細孔容積ピーク特性などは、捕集層原料の平均粒径や、粒度分布、捕集層原料の供給量(製膜量)、流体流量、造孔材の粒度分布、添加量などの条件を適宜設定することにより、制御することができる。更に、ハニカムセグメント21の上流領域や下流領域など、所定の領域の隔壁部22に、アルコールや水、樹脂などを含ませておくことで、流体の透過抵抗を高めることにより、供給した捕集層原料粒子や造孔材の堆積領域を制御することができる。例えば、捕集層原料粒子に添加する造孔材の添加量を3質量%〜45質量%としたり、造孔材のメディアン粒径D50を0.7μm〜8.0μmとしたり、造孔材の粒度分布としてのシャープネス指数Dsを0.4〜1.9としたり、流体の流量を780L/min〜820L/minとしたりすることにより、上流部や下流部での細孔容積、ピーク細孔径などの値を変更することができる。具体的には、例えば、下流領域以外の部分を樹脂でコーティングすることで流体が透過しない状態とした上で、下流部を含む下流領域のみに粒度の細かい粒子を製膜する。次にそのコーティングされた樹脂を焼き飛ばし、その後製膜した下流領域よりも上流側に位置する一定領域に製膜をすべく、製膜対象領域を除く領域を樹脂でコーティングし、下流領域よりも粒度の粗い粒子を用いて製膜する。同様の手順を繰り返し、徐々に製膜領域を上流側に移していきながらより粗い粒度の粒子を製膜させ、軸方向に対して粒度の異なる粒子を分布させる。なお、樹脂をコーティングする際の浸漬時間を調整することで毛細管現象により非コーティング領域との境界部分にもある程度の樹脂が分布するため、その境界部分に透過抵抗の変化に傾斜のある状態を形成でき、その部分には異なる2種の粒度分布を持つ粒子が製膜される事となり、細孔分布も段階的ではなく連続的に変化させることができる。ここで、シャープネス指数Dsは、所定の平均粒径(例えば4μm)の造孔材の粒径分布の鋭角さを示す指標であり、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置による造孔材のメディアン径D10,D50,D90を用い、Ds=D50/(D90−D10)により計算するものと定義した。造孔材の材質は、熱処理により焼失するものであればよい。例えばカーボンブラック、コークス、澱粉、白玉粉、天然樹脂、及び、合成樹脂からなる群から選択された少なくとも1種以上としてもよい。
【0027】
接合層27は、ハニカムセグメント21を接合する層であり、無機粒子、無機繊維及び結合材などを含むものとしてもよい。無機粒子は、上述した無機材料の粒子とすることができ、その平均粒径は0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。無機繊維は、例えば、アルミノシリケート、アルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア及びムライトから選択される1以上の材料を含んで形成されているものとすることができる。この無機繊維は、例えば平均粒径が0.5μm以上8μm以下、平均長さが100μm以上500μm以下であることが好ましい。結合材としてはコロイダルシリカや粘土などとすることができる。接合層27は、0.5mm以上2mm以下の範囲で形成されていることが好ましい。外周保護部28は、ハニカムフィルタ20の外周を保護する層であり、上述した無機粒子、無機繊維及び結合材などを含むものとしてもよい。
【0028】
ハニカムフィルタ20において、40℃〜800℃におけるセル23の通過孔方向の熱膨張係数は、6.0×10-6/℃以下であることが好ましく、1.0×10-6/℃以下であることがより好ましく、0.8×10-6/℃以下であることが更に好ましい。この熱膨張係数が6.0×10-6/℃以下であると、高温の排気に晒された際に発生する熱応力を許容範囲内に抑えることができる。
【0029】
このハニカムフィルタ20の外形は、特に限定されないが、円柱状、四角柱状、楕円柱状、六角柱状などの形状とすることができる。ハニカムセグメント21の外形は、特に限定されないが、接合しやすい平面を有していることが好ましく、断面が多角形の角柱状(四角柱状、六角柱状など)の形状とすることができる。セルは、その断面の形状として3角形、4角形、6角形、8角形などの多角形の形状や円形、楕円形などの流線形状、及びそれらの組み合わせとすることができる。例えば、セル23は排ガスの流通方向に垂直な断面が4角形に形成されているものとしてもよい。
【0030】
ハニカムフィルタ20において、セルピッチは、1.0mm以上2.5mm以下とするのが好ましい。PM堆積時の圧力損失は、濾過面積が大きいほど小さい値を示す。一方、初期の圧力損失は、セル直径が小さいほど大きい値を示す。したがって、初期圧力損失、PM堆積時の圧力損失、PMの捕集効率のトレードオフを考慮して、セルピッチ、セル密度や隔壁部22の厚さを設定するものとすればよい。
【0031】
ハニカムフィルタ20は、触媒が担持されているものとしてもよい。この触媒は、捕集されたPMの燃焼を促進する触媒、排ガスに含まれる未燃焼ガス(HCやCOなど)を酸化する触媒及びNOxを吸蔵/吸着/分解する触媒のうち少なくとも1種以上としてもよい。こうすれば、PMを効率よく除去することや未燃焼ガスを効率よく酸化することやNOxを効率よく分解することなどができる。この触媒としては、例えば、貴金属元素、遷移金属元素を1種以上含むものとするのがより好ましい。また、ハニカムフィルタ20では、他の触媒や浄化材が担持されていてもよい。例えば、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)やアルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)などを含むNOx吸蔵触媒、少なくとも1種の希土類金属、遷移金属、三元触媒、セリウム(Ce)及び/又はジルコニウム(Zr)の酸化物に代表される助触媒、HC(Hydro Carbon)吸着材等が挙げられる。具体的には、貴金属としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)や、金(Au)及び銀(Ag)などが挙げられる。触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Sc,Ti,V,Cr等が挙げられる。また、希土類金属としては、例えば、Sm,Gd,Nd,Y,La,Pr等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、例えば、Mg,Ca,Sr,Ba等が挙げられる。このうち、白金及びパラジウムがより好ましい。また、貴金属及び遷移金属、助触媒などは、比表面積の大きな担体に担持してもよい。担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトなどを用いることができる。PMの燃焼を促進する触媒を有するものとすれば、捕集層24上に捕集されたPMをより容易に除去することができるし、未燃焼ガスを酸化する触媒やNOxを分解する触媒を有するものとすれば、排ガスをより浄化することができる。
【0032】
以上説明した実施例のハニカムフィルタ20によれば、ハニカムフィルタ20の上流部及び下流部の細孔容積や、細孔分布などを好適な範囲とすることによって、堆積したPMを強制再生により燃焼除去させた耐久後のPM燃焼率の低下をより抑制したり、捕集層の細孔の閉塞をより抑制し、PM堆積時の圧力損失をより低減するなど、流体に含まれる固体成分の捕集性能をより高めることができる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、ハニカムセグメント21を接合層27により接合したハニカムフィルタ20としたが、図4に示すように、一体成形されたハニカムフィルタ40としてもよい。ハニカムフィルタ40において、隔壁部42、セル43、捕集層44、目封止部46などは、ハニカムフィルタ20の隔壁部22、セル23、捕集層24、目封止部26と同様の構成とすることができる。こうしても、排ガスに含まれているPMの捕集・除去性能ををより高めることができる。
【0035】
上述した実施形態では、ハニカムフィルタ20には触媒が含まれるものとしたが、流通する流体に含まれる除去対象物質を浄化処理可能なものであれば特にこれに限定されない。あるいは、ハニカムフィルタ20は、触媒を含まないものとしてもよい。また、排ガスに含まれるPMを捕集するハニカムフィルタ20として説明したが、流体に含まれる固体成分を捕集・除去するものであれば特にこれに限定されず、建設機器の動力エンジン用のハニカムフィルタとしてもよいし、工場や発電所用のハニカムフィルタとしてもよい。
【実施例】
【0036】
以下には、ハニカムフィルタを具体的に製造した例を実験例として説明する。ここでは、複数のハニカムセグメントを接合した構造のハニカムフィルタを作製した。
【0037】
[ハニカムフィルタの作製]
SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これにメチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤及び水を添加して混練し、可塑性の坏土を得る。所定の金型を用いてこの坏土を押出成形し、所望形状のハニカムセグメント成形体を成形した。ここでは、隔壁部の厚さが305μm、セルピッチが1.47mm、断面が35mm×35mm、長さが152mmの形状に成形した。次に、得られたハニカムセグメント成形体をマイクロ波により乾燥させ、更に熱風にて乾燥させた後、目封止をして、酸化雰囲気において550℃、3時間で仮焼きした後に、不活性雰囲気下にて1400℃、2時間の条件で本焼成を行った。目封止部の形成は、セグメント成形体の一方の端面のセル開口部に交互にマスクを施し、マスクした端面をSiC原料を含有する目封止スラリーに浸漬し、開口部と目封止部とが交互に配設されるように行った。また、他方の端面にも同様にマスクを施し、一方が開口し他方が目封止されたセルと一方が目封止され他方が開口したセルとが交互に配設されるように目封止部を形成した。得られたハニカムセグメント焼成体の排ガス流入側の開口端部より、隔壁の平均細孔径よりも小さい平均粒径を有するSiC粒子を含む空気を流入させ、且つハニカムセグメントの流出側より吸引しながら、排ガス流入側の隔壁の表層に堆積させた。このとき、後述する捕集層の細孔分布調整処理を行い、ハニカムフィルタの上流領域及び下流領域での細孔分布を調整した捕集層を隔壁部に形成した。次に、大気雰囲気下にて1300℃、2時間の条件の熱処理により、隔壁の表層に堆積させたSiC粒子同士、及び堆積させたSiC粒子と隔壁を構成するSiC及びSi粒子と結合させた。このように、隔壁部上に捕集層を形成したハニカムセグメントを作製した。このようにして得られたハニカムセグメントの側面に、アルミナシリケートファイバ、コロイダルシリカ、ポリビニルアルコール、SiC、および水を混練してなる接合用スラリーを塗布し、互いに組み付けて圧着した後、加熱乾燥して、全体形状が四角形状のハニカムセグメント接合体を得た。さらに、そのハニカムセグメント接合体を、円柱形状に研削加工した後、その周囲を、接合用スラリーと同等の材料からなる外周コート用スラリーで被覆し、乾燥により硬化させることにより所望の形状、セグメント形状、セル構造を有する円柱形状のハニカムフィルタを得た。ここでは、ハニカムフィルタは、断面の直径が144mm、長さが152mmの形状とし、隔壁部の厚を300μm、セルピッチを1.47mmとした。なお、隔壁部の気孔率及び細孔径は水銀ポロシメータ(Micromeritics社製Auto PoreIII型式9405)を用いて測定した。また、捕集層の原料粒子の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA−910)を用い、水を分散媒として測定したメディアン径(D50)である。
【0038】
[細孔分布調整処理]
捕集層の粒子群を形成するSiC粒子を空気及び造孔材と共にハニカムセグメントへ供給し、SiC粒子を隔壁部上に堆積させた。このとき、造孔材の粒度や粒度分布、添加量、供給空気流量、などの条件を適宜設定することにより、制御することができる。ここでは、造孔材として澱粉を用いた。更に、ハニカムセグメントの上流領域や下流領域など、所定の領域の隔壁部に、アルコールや水、樹脂などを含ませておくことで、空気の透過抵抗を高めることにより、供給した捕集層原料粒子や造孔材の堆積領域を制御することができる。例えば、捕集層原料粒子に添加する造孔材の添加量を3質量%〜45質量%としたり、造孔材のメディアン粒径D50を0.7μm〜8.0μmとしたり、造孔材の粒度分布としてのシャープネス指数Dsを0.4〜1.9としたり、流体の流量を780L/min〜820L/minとしたりすることにより、上流部や下流部での細孔容積、ピーク細孔径などの値を変更した。また、下流側領域の製膜時には、下流側領域以外の領域を樹脂埋めした。一方、下流側領域の製膜後は、樹脂を燃焼除去したのち、この下流側領域を樹脂埋めし、下流側領域以外を製膜した。このようにして、各領域の捕集層の気孔率や細孔径を制御した。
【0039】
[触媒担持]
まず、重量比でアルミナ:白金:セリア系材料=7:0.5:2.5とし、セリア系材料を重量比でCe:Zr:Pr:Y:Mn=60:20:10:5:5とした原料を混合し、溶媒を水とした触媒のスラリーを調製した。次に、ハニカムセグメントの出口端面(排ガスが流出する側)を所定の高さまで浸漬させ、入口端面(排ガスが流入する側)より、所定の吸引圧力と吸引流量に調整しながら所定時間にわたって吸引し、隔壁に触媒を担持し、120℃2時間で乾燥させた後、550℃1時間で焼付けを行った。ハニカムフィルタの単位体積当たりの触媒量は、45g/Lとなるようにした。
【0040】
(水銀圧入法による細孔分布測定)
作製したハニカムフィルタの細孔分布測定を水銀ポロシメータ(Micromeritics社製Auto PoreIII型式9405)を用いて測定した。まず、図2に示すように、測定用試料は、ハニカムフィルタの全長に対して上流側端面から20%の部位にてハニカムフィルタを輪切りにし、その断面における中央部分より約1cm角程度の測定用試料を3つ切り出した(上流部試料)。同様に、ハニカムフィルタの全長に対して上流側端面から50%の部位にてハニカムフィルタを輪切りにし、その断面における中央部分より約1cm角程度の測定用試料を1つ切り出した(中流部試料)。また、ハニカムフィルタの全長に対して下流側端面から20%の部位にてハニカムフィルタを輪切りにし、その断面における中央部分より約1cm角程度の測定用試料を3つ切り出した(下流部試料)。これらの試料を用い、水銀圧入法による測定をJIS−R1655に準じて行った。
【0041】
(実験例1〜7)
ハニカムフィルタの上流部及び中流部での第2細孔容積ピーク位置を14μm、気孔率を40%とし、下流部の第2細孔容積ピークを14μm、気孔率を40%とし、下流部の10μm以下の細孔容積から上流部の10μm以下の細孔容積を差し引いた細孔容積差(以下単に細孔容積差と称する)を0cm3/gとしたハニカムフィルタを実験例1とした。また、細孔容積差を0.01cm3/gとした以外は実験例1と同様に作製したハニカムフィルタを実験例2とした。また、細孔容積差を0.03cm3/gとした以外は実験例1と同様に作製したハニカムフィルタを実験例3とした。また、細孔容積差を0.05cm3/gとした以外は実験例1と同様に作製したハニカムフィルタを実験例4とした。また、細孔容積差を0.07cm3/gとした以外は実験例1と同様に作製したハニカムフィルタを実験例5とした。また、細孔容積差を0.08cm3/gとした以外は実験例1と同様に作製したハニカムフィルタを実験例6とした。また、細孔容積差を0.09cm3/gとした以外は実験例1と同様に作製したハニカムフィルタを実験例7とした。
【0042】
このように、実験例1〜7では、明確な第1細孔容積ピークは下流部になく、下流部と上流部との細孔容積差を調整した。この細孔分布調整処理について説明する。造孔材を分級し、特定の粒度分布を有する造孔材の添加量を調整する事により、10μm以下のみの細孔容積を制御した。メディアン粒径D10が1.5μm、D50が4μm、D90が6.5μmとなるように乾式にて造孔材を分級した。また、製膜流量を大きくして原料粒子同士の隙間より形成される細孔の影響を抑制するように制御し、細孔分布を二山とせずに10μm以下の細孔容積の影響のみ評価した。各水準に対して、下流領域以外の領域に樹脂をコーティングし、下流領域のみを製膜した。このとき、表1に示す造孔材量を添加することにより10μm以下の細孔容積を制御した。その後、樹脂を焼き飛ばしたうえで、製膜を行った下流部(下流領域)のみを樹脂コーティングし、残る上流部(上流領域)に対して、製膜量15g/L、流量820L/min、造孔材添加なしで製膜を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
(実験例8〜14)
ハニカムフィルタの上流部及び中流部での第2細孔容積ピーク位置を14μm、気孔率を40%とし、下流部での第1細孔容積ピーク位置を1μmとし、第2細孔容積ピーク位置を14μmとし、気孔率を40%とし、細孔容積差を0.04cm3/gとしたハニカムフィルタを実験例8とした。また、下流部での第1細孔容積ピーク位置を2μmとした以外は実験例8と同様に作製したハニカムフィルタを実験例9とした。また、下流部での第1細孔容積ピーク位置を3μmとした以外は実験例8と同様に作製したハニカムフィルタを実験例10とした。また、下流部での第1細孔容積ピーク位置を5μmとした以外は実験例8と同様に作製したハニカムフィルタを実験例11とした。また、下流部での第1細孔容積ピーク位置を7μmとした以外は実験例8と同様に作製したハニカムフィルタを実験例12とした。また、下流部での第1細孔容積ピーク位置を9μmとした以外は実験例8と同様に作製したハニカムフィルタを実験例13とした。また、下流部での第1細孔容積ピーク位置を10μmとした以外は実験例8と同様に作製したハニカムフィルタを実験例14とした。
【0045】
このように、実験例8〜14では、下流部での第1細孔容積ピーク位置を調整した。この細孔分布調整処理について説明する。第1細孔径のピーク細孔径は、製膜原料に添加する造孔材の粒子径により制御した。造孔材の粒度分布は、シャープネス指数Ds=D50/(D90−D10)の値が1.8になるように調整を行った。まず、下流領域以外の領域に樹脂をコーティングし、表2に示す条件にて、下流部を含む下流領域のみでの製膜を行った。その後、製膜を行った下流部(下流領域)のみを樹脂コーティングし、残る上流部(上流領域)に対して、製膜量15g/L、流量820L/min、造孔材添加なしで製膜を行った。
【0046】
【表2】

【0047】
(実験例15〜22)
ハニカムフィルタの上流部及び中流部での第2細孔容積ピーク位置を9μm、気孔率を40%とし、下流部での第1細孔容積ピーク位置を4μmとし、第2細孔容積ピーク位置を9μmとし、気孔率を40%とし、細孔容積差を0.04cm3/gとしたハニカムフィルタを実験例15とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を10μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例16とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を12μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例17とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を15μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例18とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を20μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例19とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を22μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例20とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を25μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例21とした。また、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を27μmとした以外は実験例15と同様に作製したハニカムフィルタを実験例22とした。
【0048】
このように、実験例15〜22では、上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を調整した。この細孔分布調整処理では、原料粒度分布と造孔材を調整することで隔壁部の細孔特性を制御した。製膜方法は、製膜量15g/L、流量780L/min、造孔材D50が3.8μm、造孔材の添加量を20質量%とした。
【0049】
(実験例23〜33)
ハニカムフィルタの上流部、中流部及び下流部での第2細孔容積ピーク位置を14μm、気孔率を33%とし、下流部での第1細孔容積ピーク位置を4μmとし、細孔容積差を0.04cm3/gとしたハニカムフィルタを実験例23とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を35%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例24とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を40%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例25とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を45%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例26とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を50%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例27とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を55%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例28とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を60%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例29とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を65%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例30とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を70%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例31とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を73%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例32とした。また、上流部、中流部及び下流部での気孔率を75%とした以外は実験例23と同様に作製したハニカムフィルタを実験例33とした。
【0050】
このように、実験例23〜33では、上流部、中流部及び下流部での気孔率を調整した。この細孔分布調整処理について説明する。造孔材の添加量と粒度のシャープネス指数Dsの値を調整することにより、捕集層の気孔率を制御した。具体的な製膜条件は、表3に示す通りである。まず、下流領域以外の領域に樹脂をコーティングし、表3に示す条件にて、下流部を含む下流領域のみでの製膜を行った。その後、製膜を行った下流部(下流領域)のみを樹脂コーティングし、残る上流部(上流領域)に対して、製膜量15g/L、流量820L/min、造孔材添加なしで製膜を行った。
【0051】
【表3】

【0052】
(圧力損失試験)
上記作製したハニカムフィルタを2.0Lディーゼルエンジンの直下位置に搭載し、エンジンを2500rpm、40Nmに一定に保ち、PM堆積過程の圧力損失を計測した。一定時間後にハニカムフィルタをエンジンより取り外し、重量を計測した。試験前の重量と比較することで、PM堆積量を算出し、4g/L堆積時の圧力損失を計測対象のハニカムフィルタの圧力損失値とした。
【0053】
(エージング後浄化性能)
電気炉にて大気雰囲気下で850℃、8時間一定でハニカムフィルタをエージングし、実車の耐久状態を模擬させた。その後、圧力損失試験と同様の手順でPMを8g/L堆積させたあと、2500rpm、40Nmで一定状態にてポストインジェクションによる強制再生を行い、ハニカムフィルタの入口ガス温度を650℃まで上昇させ、10分間保持した。試験後に重量を計測し、8g/Lに対する燃焼したPM量から再生効率を算出し、その値をエージング後の浄化性能とした。
【0054】
(捕集効率)
圧力損失試験の計測時にハニカムフィルタの前後にてスモーク値を計測し、ハニカムフィルタ入口のスモーク値に対するハニカムフィルタ通過によるスモーク捕捉率を計測対象の捕集効率とした。スモーク値計測器は、AVL製スモークメーターAVL415Sを用いた。
【0055】
(実験結果)
実験例1〜33についての測定結果等を表4に示した。図5は、実験例10のLog微分細孔容積分布の測定結果であり、図6は、実験例29のLog微分細孔容積分布の測定結果である。また、図7は、実験例1〜7の圧力損失及び浄化性能と細孔容積との関係図であり、図8は、実験例8〜14の圧力損失及び浄化性能と第1細孔容積ピークとの関係図であり、図9は、実験例15〜22の圧力損失及び捕集性能と第2細孔容積ピークとの関係図であり、図10は、実験例23〜33の圧力損失及び浄化性能と気孔率との関係図である。図5,6に示すように、ハニカムフィルタの下流部では、2μm以上9μm以下の第1細孔径範囲に第1細孔容積ピークを示し、10μm以上25μm以下の第2細孔径範囲に第1細孔容積ピークよりも大きい第2細孔容積ピークを示した。一方、ハニカムフィルタの上流部では、10μm以上25μm以下の第2細孔径範囲にのみ第2細孔容積ピークを示した。このように、ハニカムフィルタの下流部の細孔容積が大きいため、下流部により多く捕集層が形成されているものと推察された。
【0056】
【表4】

【0057】
表4、図7〜10に示すように、ハニカムフィルタの10μm以下の下流部と上流部との細孔容積の差である細孔容積差が0.01cm3/g未満では、エージング後浄化性能(加熱後のPM燃焼率)が低下した。これは、捕集層の下流部への触媒担持量が十分でないことが考えられた。一方、細孔容積差が0.08cm3/gを超えると、PM堆積時の圧力損失が高くなった。これは、触媒が下流域の捕集層の細孔内に多く堆積し過ぎて捕集層の細孔を閉塞させてしまうことが考えられた。また、第1細孔容積ピークの存在範囲が2μm未満では、圧力損失が高くなった。これは、隔壁部の透過性が低下するためであると推察された。更に、第1細孔容積ピークの存在範囲が9μmを超えると、圧力損失が高くなった。これは、PMを十分に捕捉することが出来ずに隔壁部の細孔にPMが堆積し、圧損が上昇したものと推察された。また、第2細孔容積ピークの存在範囲が10μm未満では、圧力損失が高くなった。これは、触媒の隔壁内での細孔閉塞により急激な圧損上昇が起きたものと推察された。更に、第2細孔容積ピークの存在範囲が25μmを超えると、捕集性能が低下した。これは、隔壁部の透過性が高くなりすぎたためであると推察された。
また、隔壁部の気孔率が35%以上では、圧力損失が低減した。これは、触媒コート後に隔壁部の細孔のパーミアビリティが小さくなる事によるものと推察された。
一方、隔壁部の気孔率が70%を超えると、エージング後浄化性能が低下した。これは、隔壁部の細孔容積が大きすぎるため、触媒のほとんどが隔壁部側に堆積してしまい、捕集層には十分な触媒が担持されなかったものと推察された。
【0058】
以上より、水銀圧入法による細孔分布から求めたハニカムフィルタの10μm以下の下流部と上流部との細孔容積の差である細孔容積差が、0.01cm3/g以上0.08cm3/g以下の範囲で、圧力損失やエージング後浄化性能など、排ガスに含まれるPMの捕集性能をより高めることができることが明らかとなった。また、ハニカムフィルタにおいて、下流部では2μm以上9μm以下の第1細孔径範囲に第1細孔容積ピークを示し10μm以上25μm以下の第2細孔径範囲に第1細孔容積ピークよりも大きい第2細孔容積ピークを示す一方、上流部では10μm以上25μm以下の第2細孔径範囲にのみ第2細孔容積ピークを示すものとするのが好ましいことがわかった。更に、隔壁部の気孔率が35%以上70%以下の範囲がより好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0059】
20,40 ハニカムフィルタ、21 ハニカムセグメント、22,42 隔壁部、23,43 セル、24,44 捕集層、26,46 目封止部、27 接合層、28 外周保護部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを形成する複数の多孔質の隔壁部と、
前記隔壁部上に形成され前記流体に含まれる固体成分を捕集する捕集層と、を備え、
水銀圧入法により測定された前記セルの下流部の10μm以下の細孔容積が、水銀圧入法により測定された前記セルの上流部の10μm以下の細孔容積に比して0.01cm3/g以上0.08cm3/g以下の範囲で大きい、ハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記下流部の水銀圧入法により測定されたLog微分細孔容積分布では、第1の細孔径範囲で第1の細孔容積ピークを示し、前記第1の細孔容積ピークの細孔径よりも大きい第2の細孔径を含む第2の細孔径範囲で前記第1の細孔容積ピークよりも大きい第2の細孔容積ピークを示し、
前記上流部の水銀圧入法により測定されたLog微分細孔容積分布では、前記第2の細孔径範囲で前記第2の細孔容積ピークのみを示す、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記第1の細孔径範囲は、2μm以上9μm以下の範囲であり、
前記第2の細孔径範囲は、10μm以上25μm以下の範囲である、請求項2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記上流部及び前記下流部の水銀圧入法により測定された気孔率は、35%以上70%以下の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記捕集層は、気体を搬送媒体とし該捕集層の原料である無機材料を前記セルへ供給することにより形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記隔壁部は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記ハニカムフィルタは、前記隔壁部及び前記捕集層を有する2以上のハニカムセグメントが接合層によって接合されて形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
触媒が担持されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−196656(P2012−196656A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64165(P2011−64165)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】